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982 名前:盗賊さん[sage] 投稿日:2013/04/16(火) 21:33:32 ID:dZS5TOu6 [2/12]
ただの小鳥ですら、不気味に感じる薄暗い森の中、
僕こと、アシルは全力で森を疾走していた。
「ぜえ…ぜえ……」
口から漏れる呼吸も鉄の味にかわり、足は地面を踏みしめるたびに激痛を伴う。
それでも僕は足を止められなかった。
「ま…まだ…ハァ…追っかけてきてるのかな…フゥ…?」
僕は走りながら後ろを見ようとし、木が倒れる轟音を聞いてやめた。
間違いなく追いかけられているからだ。グレートエイプに。
「と……げふっ…盗賊さんっ!……盗賊さん……ハァ…どこぉおっ!」
涙目になりながら、僕の唯一のPTメンバーである盗賊さんを、かすれた声で叫ぶ。
そもそもこの事態になったのは、唯一のPTメンバーのせいなのだが、
この事態を解決できるのも唯一のPTメンバーだけなのだ。
「盗賊さっ…へぶっ!」
ちょっと出っ張っていた木の根に、僕は間抜けにも足を引っ掛けてしまった。
そのまま地面にうつ伏せに倒れてしまった僕は、起き上がろうとして振り向き、硬直した。
……グレートエイプさんがばっちり待機していたのだ。
「GUAAAAAAAAAAAA!!!」
「ひっ…うひっ……!」
グレートエイプの雄叫びを間近で聞き、僕は情けない呻き声を上げる。
後ずさろうにも体が言うことを聞かず、そもそもグレートエイプの腕が既に僕に迫っていた。
僕の顔と同じくらいある拳が近づいていくのを見て、僕は思わず走馬灯を走らせた。
――神様仏様!僕の人生は7割増しで英雄として語り継いでください……っ!
大したことのない人生を思い出し、僕が最期に思う言葉も情けないものである。
僕は目をつぶり、人生最期の衝撃に備えた。
「GYAU!」
……何時まで経っても来ない衝撃の代わりに、僕が聞いたのはグレートエイプの短い叫びだった。
恐る恐る目を開くと、そこに居たのは恐ろしいグレートエイプではなく、
爆発痕と、何本かのナイフが刺さった腕を掴んでうずくまっているグレートエイプだった。
「弱虫、晩御飯の獲物はそれかな?」
凛と響く声のほうを向くと、血のように赤黒い髪をバンダナで纏めた少女が立っていた。
目は薄暗い森の中でも輝く金色で、不敵な笑みを浮かべている。
「と…盗賊さん……」
目から涙が溢れる。盗賊さんが神々しい。
983 名前:盗賊さん[sage] 投稿日:2013/04/16(火) 21:34:12 ID:dZS5TOu6 [3/12]
「GYYYYYYAAAAAAAAA!」
グレートエイプが雄叫びを上げて盗賊さんに突っ込む。
だが盗賊さんは不敵な笑みを崩さず、まるで流れるように敵の攻撃を回避した。
グレートエイプはそれを見て、まるで暴風のように腕を振り回す。
しかし盗賊さんにはやはり当たらず、風を切る音だけが周りに響いた。
「……そろそろかな?」
盗賊さんが攻撃を回避しながらそう独りごちると、大きく後ろにバックステップをした。
無論グレートエイプも一気に間合いを詰めて、その可愛らしい顔にストレートを叩きこもうとする。
「盗賊さんっ!あぶなっ……!」
僕も思わず叫んでかけ出したが、間に合わない!
今にもグレートエイプは溜めた右腕を盗賊さんに向けて……!
「……へ?」
……打ち込まなかった。
右腕を振りかざしたまま、盗賊さんの横を転がった。
何が起きたか、僕には一瞬わからなかった。
グレートエイプも硬直したまま、目に困惑の色を浮かべている。
「……弱虫?アンタまさか、毒塗ったの分からなかったの?」
盗賊さんは呆れた表情を見せる。
…ああ、そうですか毒ですか。
「さて悪いが、これも運命ってやつだよ。じゃあね」
そう行って、盗賊さんはあっさりとグレートエイプの首を刎ねた。
首を刎ねられた体はピクリともせず、切られた断面から血を勢い良く吹き出しただけだった。
ヘナヘナと僕は体を崩す。戦いは終わったのだ。
「……ところで弱虫くん、アタシはウサギが食べたいって言ってたよね?」
――僕の戦いはこれからだ!ラスボスが居たよ!
「い…いやあ……ウサギがね……その………」
強張った顔で僕は弁解をしようとするが、盗賊さんはニヤニヤしながらこう言った。
「じっくり……話し合おっか?」
――僕への精神的、肉体的嫌がらせは訓練という名で、食事ができるまで続いた。
984 名前:盗賊さん[sage] 投稿日:2013/04/16(火) 21:35:21 ID:dZS5TOu6 [4/12]
「―いやあ、エイプの肉もなかなかのモンだねぇ!」
盗賊さんは満足気な顔で食器と足を投げ出した。
僕より一回り小さい体は、三回りも大きいグレートエイプの肉を6割収めることに成功した。
結局、この日の晩御飯は先程仕留めたグレートエイプになったのだ。
しかしこのグレートエイプ、筋っぽいし肉が臭かった。
盗賊さんが満足するような肉にするのに、僕は色々な香辛料やら調味料やらを用いた。
知らないのは盗賊さんだけだ。盗賊さんもたまには調理すべきだと思う。
「はは、満足してもらえて嬉しいですよ。」
口ではこういうものの、使ってしまった香辛料が山を抜けるまで持つか心配である。
「しっかし、アンタも一緒に旅をして一年立つんだから、いい加減あんなザコくらい倒しなよ。」
盗賊さんは呆れたように言う。
しかし、グレートエイプはザコではない。
あいつを倒すために討伐隊が組まれ、少なからず死傷者を出すほどのものだ。
あんな化け物を倒せるのはベテラン以上の冒険者くらいである。
そう、つまり僕は今、ベテラン以上の腕を持つ盗賊と旅をしているのだ。
「は…はは…肝に銘じておきます。」
またも愛想笑いである。
そもそもこういう戦いをそれなりに経験しているのに、僕は未だに成長してないのだ。
僕の能力を示す冒険者のカードも、全く上昇していない。
筋が悪いのか、既に限界値まで成長してるのかわからないが泣きそうである。
思わず胸に下げたカードを握る。
――僕だって、成長すればどんなにか………
少しの間、沈黙が流れる。
盗賊さんは、ハッとした顔をして、そのあとすぐに狼狽えるような表情を浮かべた。
どうやら僕の地雷を踏んだことを察したようだ。
「ま、まあアンタは出来てるほうよ!料理はうまいし!雑用もこなすし!」
またも盗賊さんは僕の地雷を、狙いすましたかのように踏み抜いた。
僕の職業は一応剣士です。
調理師とか、執事とかマネージャーとかそういうのじゃないんですよ。
「そのうち剣の腕も上がるさ!なんてったってアタシの相棒だからねっ!」
盗賊さんは、そう明るく笑って言った。
逆に返すようだが、僕はそのベテランの冒険者と1年一緒にいるのだ。
それでも僕の腕は上がらない。
カードは「Lv2」を指し示したまま、張り付いたように動かない。
ギガンテスのいる塔を登っても、
ゾンビ溢れる墓地を探っても、
ドラゴンのいる洞窟へ財宝を見つけに向かっても、
僕の、僕の冒険者のカードはピクリとも動かないのだ。
盗賊さんは悪くない。
でも、いつまでも埋まらない力の差が僕を卑小にするのだ。
「そうですね、いつか僕も盗賊さんのようなベテランの冒険者になりたいです。」
笑顔の仮面をつけ、盗賊さんを心配させないように明るく振る舞う。
――家事や雑用以外に、僕は演技能力も上がっているのかもしれない。転職したら次は役者にでもなるか…
しかし、そんな自惚れはすぐに消えた。
盗賊さんが、僕の襟首を掴んだのだ。
「……は、はい?」
震えて上ずった声を絞るように出す。
冷や汗が流れる。僕の心の声でも聞こえたのだろうか?
「ねえ弱虫、アタシは、名前で呼べって言ったよね?」
…違ったようだ。
だが、このやり取りも僕はあまりやりたくない。
「…カティさん」
つぶやくように、盗賊さんの名前を言う。
だが、盗賊さんは弾けるような笑顔を見せた。
「そう、それでいい。アタシをちゃんと名前で呼べるじゃない。」
盗賊さんは上機嫌である。
それでも、それでも僕は、盗賊さんを『盗賊さん』と呼ぶのを、譲れない。
「…カティさん、僕は盗賊さん……と貴方を呼びたいんです。」
盗賊さんがムっとした顔になる。
それでも僕は言葉を続ける。
「カティさん、僕は『盗賊さん』という呼び方に敬意を込めてます。
…ですからお願いです。『盗賊さん』と呼ばせてください。」
985 名前:盗賊さん[sage] 投稿日:2013/04/16(火) 21:35:59 ID:dZS5TOu6 [5/12]
――僕はこの人と旅をするにあたって、途中から決めたことがある。
それは、一定の距離をとることだ。
僕と盗賊さんの力の差は歴然。
いつ見捨てられてもおかしくないのだ。
つまり、僕が捨てられた時に心を砕かれないようにしなければならない。
それがダンジョン攻略中なら、尚更である。
例え1人では生きて買えるのが難しい場所でも、心が平常通りなら何かしら対策を打てる。
そう、これは僕が生きていくために必要なことなのだ。
その為にも、僕は盗賊さんに心まで依存してはいけない。
「……ならまだ暫くはその呼び名で許してあげるよ。」
盗賊さんは不満そうに納得してくれた。
……いつか、僕はこの人と対等になることができるのだろうか?
料理の後片付けも終え、焚き火の周りでキャンプを張っていると、
盗賊さんが語りかけてきた。
「ねぇ、今日もアレ、飲む?」
盗賊さんが火を見ながら、ポツリと行ってくる。
アレとは、盗賊さんが自分に淹れてくれる栄養ドリンクのようなものだ。
アレを飲むと、心地よく眠ることができる。
「あ、ああそうだね。盗賊さんお願いできるかな?」
「よし!今日も上等なヤツを作ってあげるよ!」
僕が了承の返事を返すと、盗賊さんは嬉々として自分の鞄をあさり、
コップに様々な粉末をいれていく。
前に材料は何なのか聞いてみたが、はぐらかされてしまった。
きっと、聞いたら吐くような粉末なんだろうな………
「…できた。お湯で溶かしてあるから火傷に気をつけてよ?」
盗賊さんから、黒土色の飲み物が渡される。
いつ見ても体に悪そうだが、これも修行の内なんだろうな。
「頂きます……まずい………」
素直な感想が口から出る。
この不味さは絶対に体に悪い。
「ふふっ……アンタの体の為よ。ちゃんと飲むの。」
盗賊さんは僕の苦々しい顔を見て、微笑んでいる。
PTメンバーとの仲が良くなるのはいいが、正直なんとかならないのだろうか。
とっても不味い飲み物も半分が胃の中に収まった頃、
僕は盗賊さんに今回のルートについて尋ねた。
「盗賊さん、どうして危険なルートを選んだんですか?
今なら、街道を進んだほうが安全で早いはずなのに………」
盗賊さんは背中をビクっと震わせた後、さもどうでもいいかのように答えた。
「決まってんじゃん。アンタの為よ、アンタの為。」
僕が口を挟もうとすると、さらに遮るように盗賊さんは続ける。
「アンタが強くなるためには、こういう危険なルートを通ることこそ大事なの。
分かるアシル?アンタは今は弱いけど、いつか強くなる。
その覚醒を早めるためにも、危険なルートを通ることがアンタのためになるの。」
ぐうの音も出ない。
だが、今回はそんなことをしてる場合じゃないのだ。
「盗賊さん、僕らは次の街で開かれる討伐隊に参加するために向かっているはずですよ。
ここで時間を取られてしまうのは本末転倒です。
今からでも遅くない……街道に出て、まっすぐに次の街へいきま」
「うるさいっ!!!!」
盗賊さんの怒鳴り声で、今度は僕がビクっとなった。
盗賊さんはそんな僕を見て、目が若干泳いでいる。
「あ、ああゴメンね。怒鳴るつもりは無かったんだけど…
ただ、次の討伐隊に間に合うように向かっているから安心して。
アシル、アタシを信じて。
アタシはいつも、アンタの味方だから…ね?」
これだ、これがあるから僕は盗賊さんから距離をとらなければならない。
まるで呪文を唱えるように、早口で僕を諭す。
いつからだろう、盗賊さんが僕にこうやって話すのは。
なぜか盗賊さんは、僕に怒ったり、傷つけたりするような言葉を言うと、
まるで弁解するように諭す。
僕はめったに怒らないが、怒れば土下座する勢いで謝り出す。
そのせいで、僕は怒るに怒れないし、盗賊さんの変遷もわからない。
どうして盗賊さんの態度が変わってしまったんだろうか。
何を考えてるのか……全くわからない。
……僕は盗賊さんを信じてもいいのだろうか。
考えても、どうしようもない。もう……寝るか。
「いえ、盗賊さんを信じます。今日は先に火の番をおねがいしますね。」
グっと飲み物の残りを飲み、寝袋にくるまる。
途端に眠気が襲ってくる。
ほんとに……これは眠く………なるな………
986 名前:盗賊さん[sage] 投稿日:2013/04/16(火) 21:36:52 ID:dZS5TOu6 [6/12]
パチパチと、焚き火が音を立てている。
アタシの愛しい人は、あの飲み物を飲んでぐっすりと寝ている。
恐らく深夜に起きて、火の番を交代するつもりだろうが、それは恐らくできない。
明日の朝になるまでアイツは昏睡状態のままだろう。
アタシがそう調合したのだから、間違いはない。
コイツと旅をして1年…アタシは変わった。
前のアタシはとあるPTのシーカーとして、色々なダンジョンを巡っていた。
充実していたと思う。今となってはどうでもいいことになったが。
だがそんなどうでもいいことでも、悪い記憶はこびりつく。
――捨てられたのだ。そのPTに。
それも、ダンジョンの中でだ。
原因は、アタシがミスって石化トラップを発動させてしまったからだ。
その石化トラップはアタシと、隣の……忍者だっただろうか……を襲った。
忍者は完全に石化し、ダンジョンのオブジェと化した。
アタシは避けたが、右上半身が石化してしまった。
そんなアタシを救えるのは、もはや残り少ないMPを持つプリーストのみ。
戻るにはシーカーのアタシが邪魔。
治すにはリスクが大きすぎる。
………ならば、そのPTが選ぶ選択肢はひとつしかない。
アタシは眠らされ、その場に放置された。
起きた時には誰もいない。
オブジェとなった元メンバーの、悲痛な顔が近くにあるだけ。
絶望した。わかっていたのに、絶望を止められなかった。
それでも生きたかった。泥をすすってでも、まだ生きていたかった。
アタシは気配を消し、必死に逃げ、近くの街の教会に駆け込んだ。
数カ月後、アタシの石化は治った。
その代わり、アタシは信じる心を失った。
―火が、小さくなっていた。
アタシは薪を投げ込む。すると火はまた大きくなり、アタシの愛しい人を映す。
少し、幸せそうな顔で寝ている。
その顔を見る度にアタシまで幸せな気持ちになる。
「幸せそうにして……なんの夢見てんのよ。」
ふと独り言を漏らす。
あの時から、コイツの顔は変わってない。
多少は精悍になったかな?という程度だ。
そう、あの時…
アタシがPTを信じられなくなり、酒場で飲んだくれていた時、
アイツはアタシに話しかけてきた。
アタシは凄んで、アイツを遠ざけようとしてたのに…だ。
今でも覚えている。
アイツの言葉を。
「―どうしてもアナタが必要なんです!なんでも聞きます!雑用だってなんだってしますっ!!
…だから!僕の初めてのメンバーになってもらえませんかっ!?」
――あんなに、必死に口説かれたのは初めてで、あんなに心に刺さったのも初めてだった。
だからアタシはアイツと旅をすることにした。
そして旅をするごとに、アタシはアイツに惹かれて行った。
アタシがワガママを言っても、アイツは許してくれた。
アタシが無茶なことしても、アイツは心配してくれた。
アタシが苦しい時、アイツは側にいてくれた。
アタシが、アタシがどんなときも、アイツは裏切らなかった。
……体が火照る。あのモンスターを倒した高揚感がまだあるみたいだ。
アタシの女の部分はすでに濡れていた。
アイツを寝かせたのも、このせいである。
アイツをアタシで一杯にしないと、アタシをアイツで一杯にしないと収まらない。
アタシは、知らず知らずのうちにアイツを見て、息を荒くしていた。
―夜はこれから……まだ、朝は来ない。
火が煌々と輝いている。
アタシは薪をさらに投げ入れると、ゆっくりとアイツの元へ近づいていった。
―――
――
―
987 名前:盗賊さん[sage] 投稿日:2013/04/16(火) 21:37:23 ID:dZS5TOu6 [7/12]
アタシの一方的な交尾が終わり、アイツから交尾の後を消した後、
明るくなってきた空の下でくすぶっている焚き火を見ていた。
アイツをアタシで埋め尽くした。
アタシをアイツが埋め尽くした。
それでも足りない。
何かが足りない。
理由は、わかっている。
――アイツは、まだ故郷の女を忘れていない。
アタシを頑なに名前で呼ばないのは、そういうことだ。
アイツは言っていた。故郷に「カティ」という幼馴染がいるということを。
名が知られる冒険家になった暁には、故郷に帰りたいということを。
故郷に帰ったら……幼馴染と結婚したいということを。
馬鹿らしい。
非常に馬鹿らしい。
何も無い故郷に帰るなんて、アイツに相応しくない。
アイツはずっと、アタシと世界を回るべきなんだ。
それにアイツは………実は剣士としての才能があふれている。
恐らく、まともな方法で鍛えれば直ぐにでも、名のある剣士の1人として数えられるだろう。
だがそんなことはさせない。
アイツが故郷に帰る気がなくなるまで、アタシは絶対に何もさせる気はない。
もちろん討伐隊に参加させないつもりだし、
参加できてしまったとして、アイツには何も活躍なんてさせない。
アイツが、アイツが諦めるまで……アタシしか見なくなるまでは。
アシルはアタシのモノだ。
アタシがアシルのモノであるように。
アシルが、愛しいアシルがアタシだけを見てくれるなら、アタシはなんだってするだろう。
デーモンを殺せといえば殺しに行くだろう。
金を稼げと言われれば、悪行にだって身を染める。体も売ってしまって構わない。
死ねと言われれば死ぬし、人殺しをしろと言われれば村ごと焼き払ってしまうかもしれない。
だから、
だから、
だから……
―アタシの元へ……愛してるって……言ってほしい……
――ガサガサと、アイツの体が動き出す。
そろそろアイツは目覚めるだろう。
「ゴメン、火の番をするつもりがこんなに寝てしまって……」などと言いながら。
アタシはまた、皮肉を返すのだろう。
アイツの、唯一のPTメンバーとして。
―アイツはまだ、アタシをPTメンバーとしてしか欲していない。
ならば、アタシはアイツの為にPTメンバーとして傍らにいよう。
それが今のアタシの、精一杯の愛情表現になるのだから。
だから今だけ、今だけは………
愛情の込めた微笑みで
愛しい貴方を見つめていたい――