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478 :再見2話 ◆ZUUeTAYj76 [sage] :2008/05/20(火) 20:35:15 ID:6DqGP7lX 弟が盲腸で入院した。 入院した病院が隣町の隣町にある大きな病院で、車で30分は掛かる。 そのせいでお見舞いに行くのが酷く面倒だったのを覚えている。 でもそれもすぐに面倒だとは感じなくなった。 なぜなら彼女に会えたからだ。 ある日弟の見舞いに行った時、受付でばったり出くわしたのだ。 その時は神の奇跡に感謝した、兎に角うれしかった。 彼女も僕に会いたかった、と聞いた時は死んでもいいと思えるほどに。 あの洪水のとき、彼女は祖母の家を訪ねていて被災したらしい。 そして今はその祖母が入院しており、その見舞いに訪れたと言った。 その後はお互いの見舞いもそこそこに病院のロビーや屋上でいろんな話をした。 初めて会った時とは違い、明るく健やかな彼女とすぐに打ち解けることが出来た。 しかし、弟もいつまでも入院している訳にも行かず、退院の日はすぐにやってきた。 今なら携帯電話の番号を交換できるけれど、当時中学1年の僕はそんなもの持たせてもらえない。 彼女とは自由に連絡できなくなる、おまけに学校も家も全然違うトコロだ、会える回数は激減なんてもんじゃない。 共働きの両親の代わりに弟を迎えに行った日の、彼女の目を今でも忘れられない。 「捨てないで」と言っているような、寂しげな瞳。 そういえばあの雨の日、両親を見つけて別れようとした時もあの目だったっけ。 そんな悲しい目で見つめられ、僕はさよならを言うこともできず病院を後にした。 退院した調度一週間後、弟は通り魔に襲われ再び入院した。 479 :再見2話 ◆ZUUeTAYj76 [sage] :2008/05/20(火) 20:40:50 ID:6DqGP7lX 昼過ぎ学校へ連絡が入り、僕は急いで病院へ向かった。 当時まだ土曜日は半日授業があり、中学生の僕は午後の部活の準備をしていた時だった。 小学生の弟は午前までの授業が終わりそのまま帰宅。 その途中ですれ違い様に腹をナイフのようなもので刺されたのだ。 息を切らし病院入るとはすでに両親がいて、待合室には重苦しい空気が満ちていた。 しばらくして手術は無事終了。意外に早く終わった。 通り魔が腹部をナイフで刺した時、奇跡的に内臓を傷つけずに刺さったため大事には至らなかったらしい。 その後弟が病室に移された時、日は地平線ぎりぎりまで下がって世界を真っ赤に染めていた。 母は病院に残り入院の手続き、父は僕を家へ送ること。 夕日に赤く照らされた1階の玄関、父は「車を取ってくるからまってなさい」と先に出て行った 父の出て行った玄関、そこに誰か立っていた。逆光で顔がよく分からない。 一歩一歩近づくにつれ、少しずつ見えてきて、僕は足を止めた。 彼女がそこの居た。 彼女との距離は3メートル、きつい西日を背に影で隠れた顔。 その顔が僕には笑っているように、微笑んでいるように見えた。 まるで願いが叶ったような、欲しかったものが手に入ったような笑顔。 少し、ほんの少し、背筋がぞくりとした。 影でよく分からないけど、きっと彼女の目は僕の目を見つめていたんだと思う。 近づくことも離れることもせず、僕をまっすぐに見つめていた。 彼女は動かない、僕は動けない。先に動いたのは僕のほうだった。 玄関の向こう、父が車の運転席から手を振っている、行かなければ。 早足で彼女とすれ違い、て玄関をくぐり外を出ようとしたその時。 すれ違い様、彼女は振り返ることもせず、一言だけ、僕にだけ聞こえる小さな声で言った。 「……また、会えたね」 続く
478 :再見2話 ◆ZUUeTAYj76 [sage] :2008/05/20(火) 20:35:15 ID:6DqGP7lX 弟が盲腸で入院した。 入院した病院が隣町の隣町にある大きな病院で、車で30分は掛かる。 そのせいでお見舞いに行くのが酷く面倒だったのを覚えている。 でもそれもすぐに面倒だとは感じなくなった。 なぜなら彼女に会えたからだ。 ある日弟の見舞いに行った時、受付でばったり出くわしたのだ。 その時は神の奇跡に感謝した、兎に角うれしかった。 彼女も僕に会いたかった、と聞いた時は死んでもいいと思えるほどに。 あの洪水のとき、彼女は祖母の家を訪ねていて被災したらしい。 そして今はその祖母が入院しており、その見舞いに訪れたと言った。 その後はお互いの見舞いもそこそこに病院のロビーや屋上でいろんな話をした。 初めて会った時とは違い、明るく健やかな彼女とすぐに打ち解けることが出来た。 しかし、弟もいつまでも入院している訳にも行かず、退院の日はすぐにやってきた。 今なら携帯電話の番号を交換できるけれど、当時中学1年の僕はそんなもの持たせてもらえない。 彼女とは自由に連絡できなくなる、おまけに学校も家も全然違うトコロだ、会える回数は激減なんてもんじゃない。 共働きの両親の代わりに弟を迎えに行った日の、彼女の目を今でも忘れられない。 「捨てないで」と言っているような、寂しげな瞳。 そういえばあの雨の日、両親を見つけて別れようとした時もあの目だったっけ。 そんな悲しい目で見つめられ、僕はさよならを言うこともできず病院を後にした。 退院した調度一週間後、弟は通り魔に襲われ再び入院した。 479 :再見2話 ◆ZUUeTAYj76 [sage] :2008/05/20(火) 20:40:50 ID:6DqGP7lX 昼過ぎ学校へ連絡が入り、僕は急いで病院へ向かった。 当時まだ土曜日は半日授業があり、中学生の僕は午後の部活の準備をしていた時だった。 小学生の弟は午前までの授業が終わりそのまま帰宅。 その途中ですれ違い様に腹をナイフのようなもので刺されたのだ。 息を切らし病院入るとはすでに両親がいて、待合室には重苦しい空気が満ちていた。 しばらくして手術は無事終了。意外に早く終わった。 通り魔が腹部をナイフで刺した時、奇跡的に内臓を傷つけずに刺さったため大事には至らなかったらしい。 その後弟が病室に移された時、日は地平線ぎりぎりまで下がって世界を真っ赤に染めていた。 母は病院に残り入院の手続き、父は僕を家へ送ること。 夕日に赤く照らされた1階の玄関、父は「車を取ってくるからまってなさい」と先に出て行った 父の出て行った玄関、そこに誰か立っていた。逆光で顔がよく分からない。 一歩一歩近づくにつれ、少しずつ見えてきて、僕は足を止めた。 彼女がそこの居た。 彼女との距離は3メートル、きつい西日を背に影で隠れた顔。 その顔が僕には笑っているように、微笑んでいるように見えた。 まるで願いが叶ったような、欲しかったものが手に入ったような笑顔。 少し、ほんの少し、背筋がぞくりとした。 影でよく分からないけど、きっと彼女の目は僕の目を見つめていたんだと思う。 近づくことも離れることもせず、僕をまっすぐに見つめていた。 彼女は動かない、僕は動けない。先に動いたのは僕のほうだった。 玄関の向こう、父が車の運転席から手を振っている、行かなければ。 早足で彼女とすれ違い、て玄関をくぐり外を出ようとしたその時。 すれ違い様、彼女は振り返ることもせず、一言だけ、僕にだけ聞こえる小さな声で言った。 「……また、会えたね」

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