「終わらないお茶会 第五話」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

終わらないお茶会 第五話」(2011/05/20 (金) 14:58:08) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

47 :名無しさん@ピンキー [sage] :2006/06/01(木) 02:02:09 ID:zXEahP8G  狂気倶楽部の数少ない原則の一つに、外での関わりを持たないというものがある。  外で話すな仲良くなるな、ということではない。  他の人間に、狂気倶楽部という存在を知られるな、ということである。  一対一でこっそりと密談するのならばいい。けれども、横の繋がりを、外に知られてはならない。  そういった、排他的な面が狂気倶楽部にはあった。  それは、狂気倶楽部の面子が――事件を起こしやすいという一面を持つからだ。  自殺なり他殺なり。  何かの事件を起こしやすく、起こしたときに、個人ではなく狂気倶楽部を責められないように。  あくまでも喫茶店グリムとその地下図書室を除いては、彼ら、彼女らは他人同士だった。  本名も住所も分からない、二つ名と異常性だけのつながり。  だから――  里村・春香の葬式には、狂気倶楽部の面々は来なかった。  そのときはまだ幹也は狂気倶楽部の一員ではなかったけれど、そのことだけは断言できる。 「学校代表者」を除けば、春香の葬式には、幹也しか来なかったからだ。  誰もいない葬式。  両親と、義理でくる人以外には、誰もいない葬式だった。  誰もかもがおざなりに泣いていた。  幹也は泣かなかった。  泣かずに、ただ、  ――ああ、彼女は本当にこの世に未練などなかったんだな、と思った。  そうして、生前ただ一人の友人となった幹也は、葬式から帰るその足で喫茶店「グリム」へと向かったのである。   48 :名無しさん@ピンキー [sage] :2006/06/01(木) 02:20:56 ID:zXEahP8G  そして今、『五月生まれの三月ウサギ』という二つ名を得て、幹也は地下図書室で暇を潰している。  膝の上には白いワンピース姿のヤマネ。  情欲と肉欲と食人と他傷を混ぜ合わせたような行為を経て、ぐったりと力を失って幹也にもたれかかっている。  その目に光はなく虚ろだが、幸せそうに笑ってもいた。  幹也はその細い両手首を掴み、普段は隠されている手首の傷を、抉るように撫でていた。  普段傷を隠してるプレゼント用のリボンは、今は何かの冗談のようにヤマネの首に巻かれている。  まるで、絞めた跡を隠すかのように。 「雨に――唄えば――」  手首の傷を撫でながら、子守唄のように幹也はワン・フレーズを繰り返す。  手首の傷。  春香は死に損ねた結果としての傷だった。  ヤマネは、「お兄ちゃんに会えなくて寂しいときにつけるのっ!」と言った。  幹也には自殺をする人間の気持ちも自傷をする人間の気持ちも分からない。  そういうこともあるか、と思うだけだ。  暇を潰すために、傷口を唄いながら撫で続ける。 「前から、前から、前から思っていたのだけど。君、映画に何か思いいれでもあるの?」 「映画?」  幹也の問いかけに、反対側の椅子に座るマッド・ハンターは「雨に唄えば」と言った。  幹也はああ、と頷き、 「そっちじゃないよ」  ん? と首を傾げるマッド・ハンター。  幹也は掴んだヤマネの手首をぷらぷらと揺らしながら答える。 「『時計仕掛けのオレンジ』の方」 「なんともなんともなんとも――悪趣味なまでに良い趣味だね君は」 「そうかもしれないね。でも、あれは退屈しのぎとしては楽しそうだよ」  映画の中。暇な遊びとして、唄いながら暴行を加えるシーンを幹也は思い出す。  そして、今こうしてヤマネにしているのも、同じようなのかもしれないな、と思い、自嘲げな笑みを浮かべる。  愛情を受け止める手段として、首を絞め、身体を弄ぶ。  それが、暴行と殺害に代わったところで、意味は変わらないだろうと思うのだ。  首を絞められても喜ぶヤマネは。  たとえ殺されても、喜ぶだろう。  その瞬間、相手を独占できるのだから。 49 :名無しさん@ピンキー [sage] :2006/06/01(木) 02:35:30 ID:zXEahP8G 「うあー? うぃ、お兄ちゃん……?」  マグロのように虚ろだったヤマネの瞳に、ようやく意志の色が戻ってきた。  全身を幹也に預けたまま、顔だけを上げて幹也を見る。  丸い瞳と目が合う。  ふと目を突きたくなった。きっと、時計仕掛けのオレンジの話をしていたからだろう。  目を突く代わりに、その栗色の髪をなでてやった。 「ひゃはっ! お兄ちゃんっ、くすぐったいよっ!」  ヤマネは嬉しそうにそう言って、身体をねじり、首を伸ばした。  幹也の首を、顎を、頬を嬉しそうに舐める。 「……何してるの?」 「スキンシップっ!」  幹也の問いに嬉しそうに答え、ヤマネは舌を這わせる。  マーキングをする犬と対して変わりはなかった。  その二人を見て、マッド・ハンターが「やれやれ」とでも言いたげにため息をついた。 「まったくまったくまったくね。君たちは獣のようだ獣だケダモノのようだ」  呆れてはいるが、楽しそうでもあった。  傍から見れば異常であるはずのスキンシップを、楽しそうに見つめている。  歪んだ少女の愛情は続き、愛情を持たない少年は、暇を持て余しながらも、愛情に対して行為で返す。  それを、残る少女が笑いながら見つめている。  これが、ここしばらくの幹也の日常だった。  ヤマネとマッド・ハンターとの三人で過ごす狂気倶楽部での日々。  退屈だけれど、暇つぶしにはなる日々。  異常だけれど、それが平常となる日々。  歪んだままに穏やかな日々だった。  ――それが崩壊したのは、狂気倶楽部の外に、その狂気が持ち込まれたのが切っ掛けだった。 (続)

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: