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581 :ideal ◆zvQNG0FZvQ [sage] :2006/12/03(日) 21:59:00 ID:mF3XkySr 兄さん……兄さん………… なんて素敵な響きだろう……言葉として口に出さずとも、 頭の中で繰り返すだけで心が、身体が、暖かくなる。 他の誰もが発することの出来ない、私にだけ許された言葉。私の人生そのもの。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 私の側にはもの心ついた時には兄さんが居た。 私の記憶があるのは、私が二、三歳くらいの時からだ。 兄さんは私のことをいつも気にかけていてくれた。 私を愛してくれた。私は兄さんの愛に包まれて育ったのだ。 兄さんを愛さないはずがない。 582 :ideal ◆zvQNG0FZvQ [sage] :2006/12/03(日) 22:00:28 ID:mF3XkySr 私は小さい頃から学校が嫌いだった。 兄さんが学校に行っている間、私は何をして過ごしていたのか覚えていない。 ただ淋しかった。そして私から兄さんを引き離す学校を恨んでいた。 日が傾き始めてからが私の時間だった。私と、兄さんの時間。 兄さんが居て、私が居る。ただそれだけのことだったが、 私はそれが嬉しくてしかたがなかった。 だから、兄さんから、私も学校に行くことになる、ということを聞いて、喜ばない訳がなかった。 これからは一日中兄さんと一緒だ。 嫌いだった学校を一気に好きになる程に私は有頂天になった。 583 :ideal ◆zvQNG0FZvQ [sage] :2006/12/03(日) 22:02:30 ID:mF3XkySr 幸せの真っ只中にいた私だが、それはいとも簡単に破られた。 期待を粉々に打ち砕かれ学校に裏切られた私は、この時一つの教訓を得た。 兄さん以外には、信ずべき存在など有り得ない。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 今日は色んなことがあったなぁ。 兄さんの手を繋ぎながら今日のことを思い出す。 まず学校を楽しみにして、でも学校は思ったようなとこじゃなくて、 やっぱり私の味方は兄さんだけだなぁ…って確認した。 じっと兄さんを見つめる。 うん、やっぱりカッコイイ! 584 :ideal ◆zvQNG0FZvQ [sage] :2006/12/03(日) 22:04:01 ID:mF3XkySr 「…どうかした?」 私が見つめているのに気が付いたのか、 兄さんはテレビから私のほうに顔を向けてきた。 「ううん、なんでもない。」 そう言って兄さんの腕に抱き着く。 あはっ、兄さんの匂いがするよ… 次の日、 私は今、1時間目の授業が終わるのを待っている。 早く兄さんに会いに行きたいのだ。居場所は昨日聞いた。 十分くらいしか一緒に居られないけど、それでも早く会いたい。 身体がうずうずする。 時計を見る。授業の終わりまであと少し。 チャイムが鳴る。 私は矢のように飛び出した。 兄さん、いま、会いに行きます。 585 :ideal ◆zvQNG0FZvQ [sage] :2006/12/03(日) 22:05:55 ID:mF3XkySr 廊下を駆け抜け、目指す場所まで一直線。 見えた、兄さんだ。 「えへへ、兄さん、来ちゃった。」 兄さんは少し驚いた顔をして、少しして笑った。 「へぇ、よく場所がわかったね。」 当然だよ、兄さん。だって私は兄さんの妹なんだから。 兄さんは近づいて来て私の頭を撫でてくれる。 あは、あははっ、あはははは! 気持ちいいなぁ…兄さん、すごく、気持ちいい…。 兄さんに撫でられているとこからとけちゃいそうで、 触られてるだけなのにすごく甘い。よくわかんないけど、なんだか甘い。 兄さん、もっと、もっともっと撫でてくれる? 586 :ideal ◆zvQNG0FZvQ [sage] :2006/12/03(日) 22:07:32 ID:mF3XkySr その後も、授業が終わる度に兄さんに会いに行った。 短い間だけど、昼の間、全く会えなかった時より最高に楽しかった。 その日の帰り道、兄さんと並んで歩いていると、兄さんが喋り出す。 「美奈、もう教室には来ちゃいけないよ。」 …なんで?疑問はそのまま口から出てくる。 「なんで!?教室に行かないと一緒に居られないよ?」 すると兄さんは答える。 「そうじゃないよ、美奈。美奈、学校っていうのはね、………」 ……ねぇ兄さん、何を、言ってる、のかな? 私、全然わかんないよ。兄さんの側に居るより大切なこと、あるわけないよ。 587 :ideal ◆zvQNG0FZvQ [sage] :2006/12/03(日) 22:10:09 ID:mF3XkySr 「わかんない、わかんないよ。 だって…兄妹なんだよ?一緒に居ないなんておかしいよ。そうでしょ?」 ……そう、おかしいよ…兄さん、なんでこんなこと言うの? 「美奈、学校に兄妹を持ち込んじゃ駄目だ。兄妹でいるのはそれ以外の場所。」 兄さんの言葉を聞きたくない… 「なんでなんで?そんなの、変だよ!!それに」 「美奈!!」 ッ!!!!!!! ……心臓が跳ね上がった…………息が吸えない………胸が……ドキドキして…… ……頭がガンガンする…………気持ち…悪い… ……身体の中のものを……全部……吐き出して……しまいそう…

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