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528 :恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/02/09(金) 22:12:49 ID:1xdnCuh9 「真綾ー帰るぞー」  聖祐人と北島真綾は毎日一緒に帰宅している。2人は同じ中学から進学してきており 入学式からずっと公認カップルだった。そのためクラスの友人もそれなりに出来ては いたが今のところ放課後はずっと一緒だった。  けれどもこの日は違った。 「あ、あのね祐人、この人真弓っていうんだけど、相談があるんだって」 「はじめまして。姫野真弓です」  真綾の隣に真弓がいた。 「な……真綾お前こいつと知り合いだったのか!?」 「あれ?祐人、真弓のこと知ってるの?」 「知っ」 「そんなこと無いわ。しゃべったのは初めてだよね、聖くん」 「……」  知っている、と返そうとすると有無を言わさぬ笑顔で真弓が素早く遮った。  やけに確信に満ちた物言いで。呼び方さえ常と違う。 「祐人?」 「聖くんの勘違いじゃないかしら。私は本当に初めて」  この状態を至極当然のようにふるまう2人とは対象的に祐人は混乱していた。  なぜ真弓がこんなところにいる?真綾とこいつはクラスどころか教室のある階が違う はずだ。なぜこいつは初対面のフリをする?それとも昨日までのあれは俺の白昼夢で 本当に初対面なのか?  冷静に考えれば真弓が嘘をついている、ということぐらいわかりそうなものだった。 だがあまりに真弓の登場が全く予想外だったこと、彼女が堂々としていたこと、そして 祐人にとって一番近しい真綾と突然友人になっていることなどが彼の判断力を奪っていた。 529 :恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/02/09(金) 22:14:34 ID:1xdnCuh9 「あ……ああいや……」 「んもう祐人、寝ぼけてんの?」 「面白い人ね聖くんって」  真綾と真弓は楽しそうに笑っている。まるで昔からの友人だったかのように。何故だ? 何故真弓がここにいる?真弓は訳のわからない暴走女で真綾の友人では無かったはずだ。 まだ委員会も部活動も無い。クラスだって違う。2人の設定は無いはずだ。なのに…… 「でね…でね、祐人、あのね、作戦会議が必要なの。だから、今日は3人で姫野さんの家で作戦会議!」  祐人はもう事態に流されるままだった。 ■■■■■■ ■■■■■■ 「ぁー真弓顔赤くなってるぅ」 「違うよっ真綾が変なこと言うからでしょっ!!」 「ぇー私は水城くんってキス上手そうだよねって言っただけだよ?  もぅ……それだけで真弓は何を想像しちゃったの?ねぇ何を?」 「何も想像してないー!」  聖祐人の目の前で姫野真弓と北島真綾が普通の友人同士のように会話をしていた。 真弓が水城のことを好きだと言い、それを真綾がからかっている。普通の光景だ。 ごく普通の。真弓が祐人をさも自分の恋人になることが決まっているかのような言動を 取り続けた少女であり、真綾が祐人の彼女で昨日までは真弓のことを知らなかった はずである点を除けば。 「ねぇ祐人、ちゃんと考えてよ。水城くんにどうやって近づけばいいかなぁ?」 「あ……ああ」 「ごめんね聖くん。無理やりたのんで」  祐人は上の空だった。いつもの昼休みの姫野は本当に俺の夢だったのか……? 「ひゃぁっ」  突然真綾が変な声をあげてはねあがった。 530 :恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/02/09(金) 22:15:50 ID:1xdnCuh9 「ごめんね電話みたい……なんか親からみたいだから出てもいい?」 「いいよ。じゃあ私紅茶淹れなおしてくるね」  どうやら真綾はブレザーの内ポケットにいれた携帯のバイブに驚いたらしい。カップを トレーに載せた真弓が部屋を出ると祐人はなんだかほっとした。気付かないうちに 緊張していたようだ。  電話を切った真綾は浮かない顔をした。 「なんかね、急用で帰らなきゃいけないみたいなんだけど……」 「そっか。じゃあ送ってくよ」 「でも、でも真弓どうしよう……せっかく勇気出して相談してくれたのに……」 「別に明日以降でもいいだろう?水城がいきなりいなくなる訳でもないし」 「でも……なんか悪くない?」  一刻も早く帰りたい祐人と真弓を気にする真綾がもめていると真弓が戻ってきた。 「あ、真綾電話もういいの?」 「うん。あのね、それがね、本当にごめんなんだけどなんか帰らなきゃいけない  みたいなの。急用らしくて」 「そっかーじゃあしょうがなわぁっ!!!」 「うわっ!!!」 「きゃっ!」  三者三様の悲鳴が上がった。真綾はあげなくても良かったのだが。  つまり真弓が足元でつまづいた結果、祐人は紅茶を思いっきり頭の上から浴びていた。 「本当にごめん!!」 ■■■■■■ 531 :恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/02/09(金) 22:17:48 ID:1xdnCuh9 ■■■■■■  結局真綾は1人で帰っていた。祐人を女の子の部屋に置いて帰るのはどことなく嫌 ではあったが思いっきりずぶ濡れだったので仕方ない。それに真弓なら大丈夫だろう。  今朝、2時間目あたりに携帯を無くした。それを見つけてくれたのが真弓だった。 「あの……北島さんのですよね?この携帯」  何故か泣きそうな顔で真弓は真綾に話しかけてきた。 「あ、拾ってくれたの?ありがとう!!!」 「北島さんって……聖くんと仲良いですよね?」 「うんそうだよ?」 「聖くんって、み、水城くんと仲良いですよね?」 「ぇぇと、眼鏡の人だよね?」 「はい……あの、お願いします相談にのって下さい!!」  そこまで言うと真弓は泣き出した。  水城のことを好きで好きでどうしたらいいかわからないと真綾に泣きついた。  そう、水城くんのことを想って泣く子と祐人に間違いがある訳は無い。そう思って 真綾は祐人を置いてきたのだ。 「早く帰ろ」  そう呟いて真綾は足を早めた。 ■■■■■■ 532 :恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/02/09(金) 22:18:40 ID:1xdnCuh9 ■■■■■■ 「本当にごめんね」  祐人は真弓の姉のものだという大きめのパーカーを着ていた。ワイシャツは とりあえずシミになりたくないので脱いで洗い今は乾燥機に入っていた。 「別にいいよ、失敗は誰にでもあるさ」  水城の話をしようか、それとも何故初対面のふりをしたのか問い詰めようかと 考えながら出されたココアに手をつけた。少し濃かったがちょうど飲みやすい温度だ。  そして、祐人がココアを飲むのを見た真弓が一際深く笑った。 「本当にごめんね、『祐人』」 「……!」 「本当はこんな手使いたく無かったんだけど。  祐人が素直になってくれないのがいけないんだからね?」  ひまわりのように笑いながら真弓は続ける。 「水城くんのこと好きだとか言うの、もちろん嘘だよ?知らないふりしてごめんね。  でも祐人も辛かったろうけど私だって本当に辛かったんだよ?祐人が最初っから 来てくれればこんな嘘吐いて辛い思いしなくても………」  祐人に聞こえたのはここまでだった。  ココアに混ぜられた薬が彼の意識を奪い去っていった。 ■■■■■■ ■■■■■■

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