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584 :上書き ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/10(土) 19:41:39 ID:EZ/bc10q 「ねぇ、何で夏なのに上着なんか着てるの?」 「別にいいだろ…」 帰り道、沢崎誠人は隣で寄り添っている城井加奈の顔色を伺いながら答えた。 目が合うと誠人は慌てて視線を逸らす。 「暑くないの?」 「あぁ、暑くない。これ着てるくらいが丁度いいんだよ」 嘘だった。真夏の炎天下に黒の学ランは最悪の組み合わせだ。 常に流れ落ちる汗をハンカチで拭いながらも、平生を装って加奈のロングの黒髪を撫でる。 くすぐったそうに笑う加奈を誠人は本当に愛しいと思った。 若干大きめの制服から覗くか細く弱々しい手足を美しいと思った。 少し動く度に漂う髪の匂いが心地良いと思った。 この笑顔がいつまでも続く事を心から望んだ。 ほどなくして、二人は自宅に到着する。 二人の家はそれぞれ向かい側に位置している。 「それじゃあね、誠人くん!また明日!」 名残惜しそうに何度も何度も力強く手を振る加奈を、誠人は精一杯の笑顔で見送った。 加奈が家に入ったのを確認して、誠人は安堵の息を漏らした。 念の為彼女の家の玄関に誰もいない事を確認し、誠人もようやく自分の家へと帰宅する。 誠人はドアに鍵をかけ、すぐさま制服の上着を脱いだ。 「ふぅ…今日も暑かったなぁ…」 リビングの辺りから僅かに流れ込んでくるクーラーの冷気に至福を感じる。 その冷気が、誠人の右腕にあるほんの少しのかすり傷をひんやりと冷やした。 かすり傷を見つめながら呟く。 「何とかバレずに済んだな………」 585 :上書き ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/10(土) 19:42:52 ID:EZ/bc10q 誠人と加奈はいわゆる幼馴染同士だ。 家が近い事から互いの母親の仲が非常に良く、その影響で二人はいつも一緒に遊んでいた。 同い年で、幼稚園から中学、そして高校も同じとこを受け見事に二人とも受かっており、 産まれてから二人は片時も離れた事がない関係になっている。 当然仲も良く、”喧嘩”など一度もした事がなかった。 更に、二人は付き合っていた。 小学二年の頃、加奈の強いアプローチに誠人が承諾したのだ。 小さい頃の告白だが、二人は今尚お互いに愛し合っている。 付き合いといっても友達とする事は変わらない、特別な事はない。 でも、お互いそういう付き合いに満足していた。 しかし、誠人は”一つだけ”この付き合いに不安を感じている節がある。 それは…加奈の屈折した独占欲だ。 遡る事数年、二人が小学二年の時――――― 「誠人くん、一緒に帰ろ!」 「あぁ、ちょっと待ってて」 慌ててランドセルに教科書を乱暴にしまう誠人くん。 「お待たせ、そんじゃ行こ!」 自然に手を握って先を進んでくれる誠人くんの優しさが嬉しかった。 あの時…告白した時、本当に緊張したけど、誠人くん”いいよ”って言ってくれた。 誠人くんにとってあたしが幼馴染から恋人に変わった事が凄く嬉しかった。 あたしだけの誠人くんになった、あたしの心は満たされた。 彼氏になった後もいつも通り振舞ってくれる誠人くんが愛しい…。 だって、飾らない誠人くんが一番好きだから! でもある日………。 「誠人くん!?どうしたのその怪我!」 「…け、喧嘩で負けただけだよ…」 顔や足に擦り傷をつくってよろよろ歩く誠人くんにあたしは本当に驚いてしまった。 誠人くんの綺麗な体にこんなに傷が沢山………許せなかった。 喧嘩相手は勿論だけど、誠人くんの体に他の人間の”跡”が残っているという事実を認めたくなかった。 「と、とにかく早く保健室に…」 「いいよ、大した怪我じゃないし、唾付けときゃ治るよ」 確かに怪我はいつか治る………でも、治るまでの間、 あたしは誠人くんが他の人間に汚された証を見続けながらいなきゃいけないの? ソンナノタエラレナイ 本能的にあたしは誠人くんの傷を爪で引っ掻いた。 「痛っ!何するんだよ加奈!」 抵抗する誠人くんの腕を払いのけ、ほっぱについた掠り傷に向かって何度も爪を立てる。 「やめてくれ!痛いよ…!やめて!やめて!!!」 「大丈夫…大丈夫………もう少しだから…」 誠人くんが泣いている…ごめんね。 痛いんだよね?苦しいんだよね? でも、もうちょっとだから我慢して…。 他の人間に傷つけられるくらいなら、あたしが傷つける…。 もう少しでその傷を、あたしが付けた事にするから………”上書き”してあげるからね。 「ああああああああああ!!!!!」 ――――― 586 :上書き ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/10(土) 19:44:55 ID:EZ/bc10q あの日以来、加奈は俺が怪我する度にその傷を引っ掻いてくる…。 初めてやられたほっぺの傷は、加奈のおかげで跡が残ってしまったほどだ。 でも、加奈の事を嫌いにはなれない。 加奈の事は本当に好きだ。 俺が怪我した時の加奈は怖い。 物凄い力で襲い掛かってきて、その力に俺は抗えない。 それでも、完全に傷が加奈がつけたものだけになった後、申し訳なさそうに謝る姿を可愛いと思ってしまう。 恋愛は惚れた方が負けというが、その言葉をしみじみと実感する。 彼女と付き合い続けていたい…だから、俺は怪我をするわけにはいかない…仮に怪我をしてしまったら、 何としてでもそれを隠し通さなければならない。 その為に、季節に拘らず俺は常に長袖長ズボン状態だ。 そうでなければ安心できない…。 「こんなんで…俺、付き合っていけんのかな………」

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