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780 :同族元素(1) ◆6PgigpU576 [sage] :2007/02/13(火) 03:37:40 ID:TFH/jbmS 「お待たせしたかしら? 射蔵(いぞう)」 「いや、俺も来たばっかりだ」 射蔵と呼ばれた男は立ち上がると、自分の向かいの席を引く。 女はにこりと微笑むと射蔵のエスコートで席に付き、射蔵が元の席に付くのを待って話し掛けた。 「何を注文したの?」 「エスプレッソ。湖杜(こと)はどうする?」 「同じものでいいわ」 「解った」 射蔵は手を上げてウェイトレスを呼び湖杜の分を注文すると、煙草に火を付けた。 そのまま射蔵は黙って煙草を吸い、湖杜もまたその様子を黙って見つめていた。 「お待たせ致しました」 暫く後、頬を染めたウェイトレスがエスプレッソを運んできて、ゆっくりと馬鹿丁寧に 二人の前に注文の品を置くと、名残惜しげに去っていくまで二人は無言のままだった。 人目を惹く射蔵の外見とその連れの湖杜がこれまた人目を惹き、更に厭味すら感じさせない 射蔵のエスコートぶりや湖杜のエスコート慣れに、このカフェの注目を一手に集めていた。 しかし当の二人はいつもの事と、まるで気にはしておらず、どこ吹く風という風情だ。 互いに一口飲んだ所で、漸く射蔵が口を開いた。 「どうだ? 見つかったか?」 「見つかっていたら、真っ先に報告しているわ。射蔵こそ見つかったのかしら?」 美しい柳眉を僅かに顰めて冷たく言い放った湖杜に、軽く肩を竦めてみせ射蔵は鼻で笑う。 「お互い様だったな」 何を言っているのかは聞こえないが、儚げに微笑み合う艶やかな黒髪の美形の二人に、 カフェの客や店員はうっとりと溜息を零す。 射蔵は均整のとれた体型に、長目の前髪から覗く鋭い切れ長な目が印象的な美形で、 湖杜もモデルの様なすらりとした、しかし出ている所は出ている体型に、 やや切れ長の目はけぶる睫毛に色彩られ、日本人形の様な流れる黒髪は腰まで伸びた美形だった。 そんな二人が注目をされない訳がない。 しかし人目の多いこのカフェを選んだのには理由があった。席から席が意外に離れており、 そして店内に流れるクラシックが丁度よく、話し声を他の席へと聞き取れない様にしている為、 密談にはもってこいの穴場なのだ。 だから二人が会うのは、このカフェと決まっていた。 781 :同族元素(2) ◆6PgigpU576 [sage] :2007/02/13(火) 03:38:17 ID:TFH/jbmS 「そういえば… 鹿子(かのこ)に意中の君が出来たらしいわ」 「…本気なのか?」 危うく飲んでいたエスプレッソを吹き出しそうになりながら、辛うじて耐えた射蔵は眉を蹙めた。 優雅に一口飲んだ湖杜は、伏せていた目を射蔵に向けると悪戯っぽく笑う。 「今回は本物、運命の相手だそうよ。業平(なりひら)に頼んで、今はストーキング中。  阿津(あつ)に聞いたから間違いないわ」 「そうか… そういえば阿津の相手は観念したのか?」 「微妙、といった所かしら? まだ監禁して一ヶ月だし、阿津ったら甘いから、  調教はもう少しかかるんじゃないかしらね」 「まあ、よかったな。阿津は20代後半だし、鹿子は大学生だしな。  いつまでも独りじゃ辛いだろ」 「そうね…」 射蔵の言葉に緩く微笑むと、ティースプーンでくるくるとエスプレッソをかき混ぜながら、 湖杜は深い深い溜息を付いた。 「私はいつになったら、巡り逢えるのかしら…」 「大丈夫だ。俺達はまだ鹿子達より若いんだぞ。直に逢えるさ」 テーブルの上に頼りなく置かれた湖杜の手をそっと握ると、射蔵は励ますように笑い掛ける。 「でも、こんなに探しているのに逢えないなんて…」 射蔵の大きな手を細く華奢な手で弄びながら、湖杜はつい弱音を吐いてしまう。 「しょうがないさ。フラグの立ち易い幼馴染はみんな血縁だし、俺達一族は血縁には滅多に萌えないからな。  それに外で相手を見つけるのは難しいよな」 こくりと頷く湖杜の目は生気が無く、かなり煮詰まっているのが射蔵に見て取れた。 「でもね、射蔵。私も早く誰かを見つけたい、そして愛し愛されたいわ。  束縛して束縛されて、どろどろになるまでセックスしたいの」 「解る、俺には、俺だから解る」 ぎゅっと痛いほど強く湖杜の手を握った射蔵は、真っ直ぐ湖杜を見つめて言い聞かせる。 「俺だって同じだ。だけど焦って相手を見誤ったら最悪だぞ?」 「うん…… そうね、その通りだわ」 少し生気が戻った湖杜は、射蔵の言葉に頷き大きく息を吐いた。 「湖杜に運命の相手が見つかったら、ちゃんと手伝ってやるから。  拉致だろうと邪魔者の抹殺だろうと何でも協力は惜しまないからな」 「うん、ありがとう。射蔵も相手が見つかったら、ちゃんと報告してね。  私も協力するわ、監禁の手助けだって何だって、ね」 ふふふといつもの様に微笑み合っていると、湖杜は少し寂しそうに言った。 「…射蔵を好きになれれば良かった」 射蔵もまた淡い笑みを浮かべて頷く。 「そうだな… 俺達、恋愛観そっくりなのにな」 「でも、ダメなんだものね」 「そうだな。お互い恋愛感情で見れないからな」 共に最後の一口を飲み干すと、綺麗で壊れた笑みを浮かべて囁くとカフェを後にした。 「未だ見ぬ愛しい人を探しに」 -了-

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