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242 名前:野獣とアングレカム ◆OxLd.ko4ak [sage] 投稿日:2008/07/26(土) 15:22:15 ID:dMMwxQ9z 第4話 純 粋 【大学生時代/昂四郎マンション】 『そうだ・・・大沢が落ちたんだっけな・・・』 「別に・・昂四郎は悪くねーよ。忘れてたのは、そのなんだ・・・まぁ~後で言うわ。」 体が少しずつだけれど、軽くなってきた俺はベットに座りながら自分の足の親指に特に、意味もなく視線を向け、ソファーに座るエイジの話を聞いていた。 そうだ、大沢明美が校舎から転落した事件。 当時、新聞やテレビで特集されるほど大変な騒ぎだったと思う。自殺未遂か、はたまた事故か、学校側の安全面の配慮はどうなっているんだとか、テレビの評論家達が偉そうに批判していたのを思い出す。 それよりもエイジが言った俺が月咲に起こった事、その言葉がいまだに顔面を殴られたかの様な衝撃を覚えて深夜の眠さに重なって気持ちは沈みがちだった。 月咲が、俺に・・・。そんな事ありえるのかよ。完璧に記憶から消えている。とにかく、エイジの話を引き続き聞いた。 「・・・今、大沢は北海道の大学に行ってて元気にやってるけどな。まぁ、それはいい。昂四郎。お前は高校2年の夏休みから冬までの事覚えてるか?」 『正直、部分部分を覚えたり覚えてなかったりだ・・・俺は、そうラグビーしてたっけ。そんくらいしか・・・けれどさ、そんな鮮明に覚えてる奴なんて滅多にいねぇぞ?俺みたいなの、普通だと思うんだけれどな・・・』 「・・まあな。簡単に言えば、今「小学校に通っていた時の事を毎日、鮮明に何が起きたか覚えてるか?」ってのを聞かれてる様なもんだし。けどな、昂四郎?お前は覚えていなくちゃいけねーんだよ。あの後起きた、月咲との事を。」 『月咲との・・・事・・・?』 エイジはそう言うと、煙草を歯で噛みライターで火をつけ、白紫煙を吐き出しながら、そう告げた。 その後起こった事をゆっくりと落ち着いた口調で話をしてくれた。 あれから起きた事。 ―――そうだ、転落事件以降、俺達の周りに色々な事が起きたんだ。 【高校生時代/桜花学園】 大沢が校舎から転落してから3週間が経とうとしていた。校門の前には、いまだにチラホラとテレビ局のリポーターやマスコミが取材をしている。 学校に行くたびに取材を受けていい迷惑だった。 緊急保護者会が開かれ、職員室は対応で大忙しの様子で授業が自習になる事も珍しく無かった。 転落をした大沢を見た何人かの生徒が、精神的なショックで学校を休むという報告もあり、桜花学園は今までにない混乱に包まれていた。 幸いにも大沢の症状は、命に別状はなく落ちた場所が花壇であった為に土がクッションになり難を逃れたそうだ。 事件から一週間、まだ落ち着き取り戻さない学園では、急遽放課後、クラス毎でHRを開始し話し合いが始められた。 「学級委員の大沢が校舎から転落した件は、皆も知っていると思う。今、色々な情報が錯綜していて、先生達も正直、把握出来ていない部分が多くある。 大沢が転落したのは、西校舎の花壇だ。恐らく音楽室か上の図書室から転落したんじゃないかと、警察の方からのお話だ。 皆は大沢が最近元気が無かったとか、何か悩みを抱えていた様子だったっていうのはないか? 何でもいいから教えて欲しい。ご両親の方も心配なさっている、一刻も早くみんなが学業やスポーツに打ち込める様に先生達も努力する、力を貸してくれ。」 担任教師の話が終わると、大沢が欠けたまま、学級委員が1人、教壇に立つと意見を求めた。 教室が生徒達の声でざわつく。 ふざけているざわつきではなく、何かを相談しているざわつきだった。 隣の席のエイジが、怪訝そうに俺に話す。 「昂四郎、お前どう思う?」 『どうって・・・何が?』 「大沢の事だよ、お前はどう思ってるかなって。」 『おう・・・・俺は事故じゃないかなって漠然だけど思ってる、本人に聞くのが一番早いんだけれど・・・今はそれは難しいし、自殺とかそっち方面じゃないだろ、あいつもうすぐ剣道の大会だったし。けど正直わからねぇな。』 「そうだよな。・・・・うし、昂四郎!俺さちょっと大沢の事調べてみるわ。あいつが、何で落ちたのかさ」 『エイジ、そういうのは警察に任せとけよ。俺達じゃ足手まといになるだけだぞ?』 「大丈夫だって、危ない場所に行くわけじゃあるまいし。それに何か気になるんだよね。心配しすぎだ熊さんは。」 『・・たくっ、俺は知らねぇかんな?』 243 名前:野獣とアングレカム ◆OxLd.ko4ak [sage] 投稿日:2008/07/26(土) 15:26:34 ID:dMMwxQ9z エイジと会話をしている中、俺も色々と考えていた。 大沢があの時俺に言おうとした事は何なのか、電車で何を見ていたのか、それが今回の転落の事と何か関係でもあるのか。そんな事を考えていると懐に仕舞っている携帯がバイブの振動を鳴らしていた。 ―――月咲だ、最近は前にもまして頻繁にメールが来る。こっちが返信すればする程、月咲もそれに答える様に返事を出す。 最近は、メールを返せない事も多くなってきた。話題は月咲が振ってくれるが、部活から帰ってきてメールがきても返せない事が多い。 流石に疲れてしまうからだ。俺の携帯には見開封のメールさえある程だった。 最近は画像も多く添付されている、月咲の写真が殆どだ、今帰り道です。とか、今からお風呂です。明日一緒に帰りましょう。とか正直返信には困るけど、女の子ってこんなものなのか? そんな事を考えている内に、HRは終わった。暫くは部活動や文化部の活動は一週間程、自粛になってしまった。 部活を終えた生徒達にしつこくマスコミなどが取材をし、苦情が学校側に殺到したのが理由らしい。 「・・・昂四郎君!」 部活が中止になった為に俺も帰宅しようと校門を抜けた時、誰かに声をかけられる。 月咲だった、校門のところで後ろに手を組みながら微笑んでいた。 最近は月咲とよく帰る。昨日、初めて俺から手を繋いだ。 何かお互い仲が良くなっていく感じになってきたし、まぁほんの数秒間だけれど、月咲も嫌な顔はしていなかった。 不思議に思うのは何で、俺の下校時間が解ったんだろう。部活ならある程度の下校時間が解るけれど、誰かから聞いてるんだろうか。 月咲は俺以外の人にはあまり話さない筈だ。 「・・・一緒に帰りませんか?」 『お、おう。いいぜ』 特に断る理由も無かったし、直ぐに了解し帰る。駅までの続く道、ゆっくり歩いてだいたい10分かそれくらいか。 近道の公園の並木道を通りながら月咲は俺の腕に両手を握り軽くもたれ、何を言うわけでもなく微笑みを浮かべていた。 俺も、月咲に特別な想いが芽生え始めていた、俺の腕によりかかるのも最初は緊張していたが、慣れなのか、「月咲はこういう奴なんだ」という、先入観で俺の中では決めつけていた。 付き合うのも告白するだけの感じだった。俺もそれでもいいかなっという気持ちで溢れていたし、きっと月咲も同じ気持ちなんだろう。 俺は暑い日差しに目を伏せながらそんな事を考えていた。 ―――暫く歩いていると月咲が俺に言う。 「大変な騒ぎですね・・・」 『・・・ああ、流石に大怪我だったしな。とにかく、大沢が無事で良かったよ』 「あの時私、嬉しかったんです・・・」 『・・・え?』 「だって・・・昂四郎君が私を抱きしめてくれたんですもの」 突然の月咲の言葉に俺は、少し困惑した。大沢の事は、知り合いではないかもしれないけど、まるで「大沢の事はどうでもいい」と言われた気がした。俺は不愉快になった。 『・・・月咲。その言い方はちょっと酷いと思うぞ?大沢と知り合いじゃないかもしれないけど、大沢だって今は怪我で大変なんだ。もうちょっとさ―――』 軽く注意するつもりで言ったつもりだった。もうちょっと言い方ってもんがある。月咲は俺を見上げながら聞いていると突然哀しそうな目をして俺に言う。 「昂四郎君・・・何でムキになるんですか・・・?」 『え、別にムキになってるわけじゃ・・』 「なってます・・・昂四郎君、何で最近、私のメールの返事くれないんですか?前は、返信しても直ぐに送ってくれたのに!!」 『いや、それとこれとは・・・』 「・・・昨日のお弁当のオカズちょっと残ってました。何で食べてくれないんですか?せっかく作ったのに・・・・・・」 『そ、その、別に残すつもりじゃなくて食べきれなくてさ、・・・・ごめん。』 「大沢さんの事ばっかりじゃないですか・・・なんで友達のあに人の話ばっかりなんですか!?」 俺の言葉を遮って月咲が俺に言葉を交える。 段々と口調が荒くなる月咲に俺は固まってつい謝ってしまった。すると、突然月咲が抱きつき俺の胸板に顔を埋める。 俺は突然の事に動けない。 244 名前:野獣とアングレカム ◆OxLd.ko4ak [sage] 投稿日:2008/07/26(土) 15:31:04 ID:dMMwxQ9z 「昂四郎君、私の事だけ見ていて下さい。私だけ感じていて下さい。大沢さんの事なんて心配しないで、私だけ心配してください!!昂四郎君は、私を見ていればいいんです!昂四郎君・・・!昂四郎君・・・・!」 『・・・つ、月咲・・・どうしたんだよ、何か・・あったのか?』 「あ・・・ご、ごめんなさい、あの私、不安で・・・どうしたんだろう、いきなり。本当にごめんなさい・・・でも昂四郎君は・・・私の・・・」 月咲の予想外の行動に驚くばかりだった。 いつもは大人しく控えめな月咲が突然、口調を変え道の真ん中で俺に詰め寄り、見上げ涙を浮かべながら俺に想いをぶつけ、俺が動揺しているのを見ると素に戻ったかの様に自分の涙を手で拭い謝罪をする。 まるで今まで我慢していた感情を一気に出された様な感じだった。 俺に好意を持ってくれているのは、解るが月咲のあまりの異常さに不信感が募る。 『・・・おう、月咲悪い。ちょっと今日寄るところがあるから先、・・・行くわ。』 「・・・・・・・」 『本当ごめんな、んじゃあ、・・・またな』 『・・・・・・はい・・・』 悲しそうな表情で黙って俺を見上げる月咲にたまらなくなり俺は、寄るところも無いのに嘘を言って公園の並木道を早々と駆け出し、俺は月咲と別れた。嘘なんてつきたくはなかった。 けれど、月咲が怖かった、あの目、あの顔。 月咲との仲がもっと悪化するんじゃないかと心配になった俺は、そのまま家へと帰った。 「昂四郎君・・・・どうしてなんですか・・・昂四郎君・・・私以外の人に優しくしないで下さい・・・」 並木道に残って俺が見えなくなるまで視線を向けた月咲が、そう呟き公園のセミの音がうるさく泣いていた。 【桜花学園/図書室】 「怖ッ!・・・こんなところから普通落ちるか~?俺は絶対、無理。無理。何かてがかりないか、時春、何か見つけた」 「だ~か~らぁ、何もねーよぉ。証拠とかあっても素人の俺達じゃ無理ぃ。キヨちゃんも予備校で帰るしぃ、俺もバンドの練習あんだけどぉ~」 図書室の棚を眺めながら、時春がけだるそうにエイジに大きな声で言った。 ―――滝本時春。高校時代からの友人。バンドを結成していて歌は上手い。 どうやら、下校の時にエイジに無理矢理誘われていたらしい。時春は、面倒くさそうに辺りを見渡して欠伸をしていた。 その頃、エイジと時春は図書館から大沢が落ちたという、花壇を窓から眺めていた。 音楽室は鍵がかかっており、入れはしなかったが運よく図書室の鍵は開いていた。 もう学園には、殆どの生徒が帰宅していたけれど、エイジはそれを狙って誰もいない図書室を見て回ったが特に変わった形式はなかった。 「はぁ~やっぱ警察とかじゃないと証拠探すのとか無理か。昂四郎の言ってた通りになるとは情けないぜ。・・・・帰るか」 「もう俺はぁ~帰るぜぇ~エイジまたなぁ~」 「お、おいおい!時春!俺、一人にすんなよ~・・・」 時春が痺れを切らして図書室の扉を開けて時春は帰って行った。 時春が帰った事に溜息を吐きながら、椅子に座り静かな図書室を見渡す。 ―――その時、誰かが図書室の扉を再び開く。 目に写ったのは、女子生徒だった。 雰囲気から見て図書委員の様だった、大量の本を台車に乗せ中へ運ぶと、エイジを不思議そうに見つめている。 245 名前:野獣とアングレカム ◆OxLd.ko4ak [sage] 投稿日:2008/07/26(土) 15:34:52 ID:dMMwxQ9z 「なんだよ驚かせるなって!あん、一年か。お~い、さっさと帰えらねーと先生に怒られんぞ~」 「あの、ごめんなさい。でも、あなたも早く帰らないと!」 「お、俺はいいんだよ!ったく、俺は今大切な仕事の最中なんだよ! 「大切な仕事?」 「おう、転落した女子の事。事故にしてはおかしいだろ?だから証拠探しだよ証拠探し、誰にも言うなよ~?」 「・・・・・・・」 「あん・・?な、何黙ってんだよ・・?おかしいかよ」 「あの、私・・事件の時、大沢さんが図書室に入るところ、見たんです。」 「はぁ!?マジで!!?お、おい詳しく聞かせろって!」 「は、はい。お昼ちょっと前に私、準備室の鍵を閉めを確かめに見に行ったんです。誰かと一緒に図書館に」 「おい!誰か、って誰だよ!誰と一緒に入ったんだよ!」 「よく見えなかったんですけど、あの、えっと、確か金髪の女の子と一緒に・・・」 「金髪の女の子・・・月咲・・?お、お前!!なんでそれ先生とかに言わなかったんだよ!!」 「で、でも大沢さん一度図書室から出て行ったし私、あんまり関係ないかなって・・その・・・」 「図書室から一回出て行った?・・・・どういう事だ、図書室から落ちたんじゃねーのか、何で月咲と・・ああああ!!わけわかんねぇ~!!!」 ―――意外な場所でエイジが重要な証拠を掴んでいた時、俺は電車に揺られながら見開封の大量のメールを削除していた。 あの時の月咲の黒い目。表現できない嫉妬で一杯になった視線で俺を見つめた痺れる様な感覚。 月咲の事はどこかで気にはなっているし好いているのも嘘ではない。 けれど、とにかく月咲が怖い。 今までの行動が段々と違和感に感じる様になってきた、そんな感覚にとにかく逃げたい一身だった。                         第4話 完 つづく
242 名前:野獣とアングレカム ◆OxLd.ko4ak [sage] 投稿日:2008/07/26(土) 15:22:15 ID:dMMwxQ9z 第4話 純 粋 【大学生時代/昂四郎マンション】 『そうだ・・・大沢が落ちたんだっけな・・・』 「別に・・昂四郎は悪くねーよ。忘れてたのは、そのなんだ・・・まぁ~後で言うわ。」 体が少しずつだけれど、軽くなってきた俺はベットに座りながら自分の足の親指に特に、意味もなく視線を向け、ソファーに座るエイジの話を聞いていた。 そうだ、大沢明美が校舎から転落した事件。 当時、新聞やテレビで特集されるほど大変な騒ぎだったと思う。自殺未遂か、はたまた事故か、学校側の安全面の配慮はどうなっているんだとか、テレビの評論家達が偉そうに批判していたのを思い出す。 それよりもエイジが言った俺が月咲に起こった事、その言葉がいまだに顔面を殴られたかの様な衝撃を覚えて深夜の眠さに重なって気持ちは沈みがちだった。 月咲が、俺に・・・。そんな事ありえるのかよ。完璧に記憶から消えている。とにかく、エイジの話を引き続き聞いた。 「・・・今、大沢は北海道の大学に行ってて元気にやってるけどな。まぁ、それはいい。昂四郎。お前は高校2年の夏休みから冬までの事覚えてるか?」 『正直、部分部分を覚えたり覚えてなかったりだ・・・俺は、そうラグビーしてたっけ。そんくらいしか・・・けれどさ、そんな鮮明に覚えてる奴なんて滅多にいねぇぞ?俺みたいなの、普通だと思うんだけれどな・・・』 「・・まあな。簡単に言えば、今「小学校に通っていた時の事を毎日、鮮明に何が起きたか覚えてるか?」ってのを聞かれてる様なもんだし。けどな、昂四郎?お前は覚えていなくちゃいけねーんだよ。あの後起きた、月咲との事を。」 『月咲との・・・事・・・?』 エイジはそう言うと、煙草を歯で噛みライターで火をつけ、白紫煙を吐き出しながら、そう告げた。 その後起こった事をゆっくりと落ち着いた口調で話をしてくれた。 あれから起きた事。 ―――そうだ、転落事件以降、俺達の周りに色々な事が起きたんだ。 【高校生時代/桜花学園】 大沢が校舎から転落してから3週間が経とうとしていた。校門の前には、いまだにチラホラとテレビ局のリポーターやマスコミが取材をしている。 学校に行くたびに取材を受けていい迷惑だった。 緊急保護者会が開かれ、職員室は対応で大忙しの様子で授業が自習になる事も珍しく無かった。 転落をした大沢を見た何人かの生徒が、精神的なショックで学校を休むという報告もあり、桜花学園は今までにない混乱に包まれていた。 幸いにも大沢の症状は、命に別状はなく落ちた場所が花壇であった為に土がクッションになり難を逃れたそうだ。 事件から一週間、まだ落ち着き取り戻さない学園では、急遽放課後、クラス毎でHRを開始し話し合いが始められた。 「学級委員の大沢が校舎から転落した件は、皆も知っていると思う。今、色々な情報が錯綜していて、先生達も正直、把握出来ていない部分が多くある。 大沢が転落したのは、西校舎の花壇だ。恐らく音楽室か上の図書室から転落したんじゃないかと、警察の方からのお話だ。 皆は大沢が最近元気が無かったとか、何か悩みを抱えていた様子だったっていうのはないか? 何でもいいから教えて欲しい。ご両親の方も心配なさっている、一刻も早くみんなが学業やスポーツに打ち込める様に先生達も努力する、力を貸してくれ。」 担任教師の話が終わると、大沢が欠けたまま、学級委員が1人、教壇に立つと意見を求めた。 教室が生徒達の声でざわつく。 ふざけているざわつきではなく、何かを相談しているざわつきだった。 隣の席のエイジが、怪訝そうに俺に話す。 「昂四郎、お前どう思う?」 『どうって・・・何が?』 「大沢の事だよ、お前はどう思ってるかなって。」 『おう・・・・俺は事故じゃないかなって漠然だけど思ってる、本人に聞くのが一番早いんだけれど・・・今はそれは難しいし、自殺とかそっち方面じゃないだろ、あいつもうすぐ剣道の大会だったし。けど正直わからねぇな。』 「そうだよな。・・・・うし、昂四郎!俺さちょっと大沢の事調べてみるわ。あいつが、何で落ちたのかさ」 『エイジ、そういうのは警察に任せとけよ。俺達じゃ足手まといになるだけだぞ?』 「大丈夫だって、危ない場所に行くわけじゃあるまいし。それに何か気になるんだよね。心配しすぎだ熊さんは。」 『・・たくっ、俺は知らねぇかんな?』 243 名前:野獣とアングレカム ◆OxLd.ko4ak [sage] 投稿日:2008/07/26(土) 15:26:34 ID:dMMwxQ9z エイジと会話をしている中、俺も色々と考えていた。 大沢があの時俺に言おうとした事は何なのか、電車で何を見ていたのか、それが今回の転落の事と何か関係でもあるのか。そんな事を考えていると懐に仕舞っている携帯がバイブの振動を鳴らしていた。 ―――月咲だ、最近は前にもまして頻繁にメールが来る。こっちが返信すればする程、月咲もそれに答える様に返事を出す。 最近は、メールを返せない事も多くなってきた。話題は月咲が振ってくれるが、部活から帰ってきてメールがきても返せない事が多い。 流石に疲れてしまうからだ。俺の携帯には見開封のメールさえある程だった。 最近は画像も多く添付されている、月咲の写真が殆どだ、今帰り道です。とか、今からお風呂です。明日一緒に帰りましょう。とか正直返信には困るけど、女の子ってこんなものなのか? そんな事を考えている内に、HRは終わった。暫くは部活動や文化部の活動は一週間程、自粛になってしまった。 部活を終えた生徒達にしつこくマスコミなどが取材をし、苦情が学校側に殺到したのが理由らしい。 「・・・昂四郎君!」 部活が中止になった為に俺も帰宅しようと校門を抜けた時、誰かに声をかけられる。 月咲だった、校門のところで後ろに手を組みながら微笑んでいた。 最近は月咲とよく帰る。昨日、初めて俺から手を繋いだ。 何かお互い仲が良くなっていく感じになってきたし、まぁほんの数秒間だけれど、月咲も嫌な顔はしていなかった。 不思議に思うのは何で、俺の下校時間が解ったんだろう。部活ならある程度の下校時間が解るけれど、誰かから聞いてるんだろうか。 月咲は俺以外の人にはあまり話さない筈だ。 「・・・一緒に帰りませんか?」 『お、おう。いいぜ』 特に断る理由も無かったし、直ぐに了解し帰る。駅までの続く道、ゆっくり歩いてだいたい10分かそれくらいか。 近道の公園の並木道を通りながら月咲は俺の腕に両手を握り軽くもたれ、何を言うわけでもなく微笑みを浮かべていた。 俺も、月咲に特別な想いが芽生え始めていた、俺の腕によりかかるのも最初は緊張していたが、慣れなのか、「月咲はこういう奴なんだ」という、先入観で俺の中では決めつけていた。 付き合うのも告白するだけの感じだった。俺もそれでもいいかなっという気持ちで溢れていたし、きっと月咲も同じ気持ちなんだろう。 俺は暑い日差しに目を伏せながらそんな事を考えていた。 ―――暫く歩いていると月咲が俺に言う。 「大変な騒ぎですね・・・」 『・・・ああ、流石に大怪我だったしな。とにかく、大沢が無事で良かったよ』 「あの時私、嬉しかったんです・・・」 『・・・え?』 「だって・・・昂四郎君が私を抱きしめてくれたんですもの」 突然の月咲の言葉に俺は、少し困惑した。大沢の事は、知り合いではないかもしれないけど、まるで「大沢の事はどうでもいい」と言われた気がした。俺は不愉快になった。 『・・・月咲。その言い方はちょっと酷いと思うぞ?大沢と知り合いじゃないかもしれないけど、大沢だって今は怪我で大変なんだ。もうちょっとさ―――』 軽く注意するつもりで言ったつもりだった。もうちょっと言い方ってもんがある。月咲は俺を見上げながら聞いていると突然哀しそうな目をして俺に言う。 「昂四郎君・・・何でムキになるんですか・・・?」 『え、別にムキになってるわけじゃ・・』 「なってます・・・昂四郎君、何で最近、私のメールの返事くれないんですか?前は、返信しても直ぐに送ってくれたのに!!」 『いや、それとこれとは・・・』 「・・・昨日のお弁当のオカズちょっと残ってました。何で食べてくれないんですか?せっかく作ったのに・・・・・・」 『そ、その、別に残すつもりじゃなくて食べきれなくてさ、・・・・ごめん。』 「大沢さんの事ばっかりじゃないですか・・・なんで友達のあに人の話ばっかりなんですか!?」 俺の言葉を遮って月咲が俺に言葉を交える。 段々と口調が荒くなる月咲に俺は固まってつい謝ってしまった。すると、突然月咲が抱きつき俺の胸板に顔を埋める。 俺は突然の事に動けない。 244 名前:野獣とアングレカム ◆OxLd.ko4ak [sage] 投稿日:2008/07/26(土) 15:31:04 ID:dMMwxQ9z 「昂四郎君、私の事だけ見ていて下さい。私だけ感じていて下さい。大沢さんの事なんて心配しないで、私だけ心配してください!!昂四郎君は、私を見ていればいいんです!昂四郎君・・・!昂四郎君・・・・!」 『・・・つ、月咲・・・どうしたんだよ、何か・・あったのか?』 「あ・・・ご、ごめんなさい、あの私、不安で・・・どうしたんだろう、いきなり。本当にごめんなさい・・・でも昂四郎君は・・・私の・・・」 月咲の予想外の行動に驚くばかりだった。 いつもは大人しく控えめな月咲が突然、口調を変え道の真ん中で俺に詰め寄り、見上げ涙を浮かべながら俺に想いをぶつけ、俺が動揺しているのを見ると素に戻ったかの様に自分の涙を手で拭い謝罪をする。 まるで今まで我慢していた感情を一気に出された様な感じだった。 俺に好意を持ってくれているのは、解るが月咲のあまりの異常さに不信感が募る。 『・・・おう、月咲悪い。ちょっと今日寄るところがあるから先、・・・行くわ。』 「・・・・・・・」 『本当ごめんな、んじゃあ、・・・またな』 『・・・・・・はい・・・』 悲しそうな表情で黙って俺を見上げる月咲にたまらなくなり俺は、寄るところも無いのに嘘を言って公園の並木道を早々と駆け出し、俺は月咲と別れた。嘘なんてつきたくはなかった。 けれど、月咲が怖かった、あの目、あの顔。 月咲との仲がもっと悪化するんじゃないかと心配になった俺は、そのまま家へと帰った。 「昂四郎君・・・・どうしてなんですか・・・昂四郎君・・・私以外の人に優しくしないで下さい・・・」 並木道に残って俺が見えなくなるまで視線を向けた月咲が、そう呟き公園のセミの音がうるさく泣いていた。 【桜花学園/図書室】 「怖ッ!・・・こんなところから普通落ちるか~?俺は絶対、無理。無理。何かてがかりないか、時春、何か見つけた」 「だ~か~らぁ、何もねーよぉ。証拠とかあっても素人の俺達じゃ無理ぃ。キヨちゃんも予備校で帰るしぃ、俺もバンドの練習あんだけどぉ~」 図書室の棚を眺めながら、時春がけだるそうにエイジに大きな声で言った。 ―――滝本時春。高校時代からの友人。バンドを結成していて歌は上手い。 どうやら、下校の時にエイジに無理矢理誘われていたらしい。時春は、面倒くさそうに辺りを見渡して欠伸をしていた。 その頃、エイジと時春は図書館から大沢が落ちたという、花壇を窓から眺めていた。 音楽室は鍵がかかっており、入れはしなかったが運よく図書室の鍵は開いていた。 もう学園には、殆どの生徒が帰宅していたけれど、エイジはそれを狙って誰もいない図書室を見て回ったが特に変わった形式はなかった。 「はぁ~やっぱ警察とかじゃないと証拠探すのとか無理か。昂四郎の言ってた通りになるとは情けないぜ。・・・・帰るか」 「もう俺はぁ~帰るぜぇ~エイジまたなぁ~」 「お、おいおい!時春!俺、一人にすんなよ~・・・」 時春が痺れを切らして図書室の扉を開けて時春は帰って行った。 時春が帰った事に溜息を吐きながら、椅子に座り静かな図書室を見渡す。 ―――その時、誰かが図書室の扉を再び開く。 目に写ったのは、女子生徒だった。 雰囲気から見て図書委員の様だった、大量の本を台車に乗せ中へ運ぶと、エイジを不思議そうに見つめている。 245 名前:野獣とアングレカム ◆OxLd.ko4ak [sage] 投稿日:2008/07/26(土) 15:34:52 ID:dMMwxQ9z 「なんだよ驚かせるなって!あん、一年か。お~い、さっさと帰えらねーと先生に怒られんぞ~」 「あの、ごめんなさい。でも、あなたも早く帰らないと!」 「お、俺はいいんだよ!ったく、俺は今大切な仕事の最中なんだよ! 「大切な仕事?」 「おう、転落した女子の事。事故にしてはおかしいだろ?だから証拠探しだよ証拠探し、誰にも言うなよ~?」 「・・・・・・・」 「あん・・?な、何黙ってんだよ・・?おかしいかよ」 「あの、私・・事件の時、大沢さんが図書室に入るところ、見たんです。」 「はぁ!?マジで!!?お、おい詳しく聞かせろって!」 「は、はい。お昼ちょっと前に私、準備室の鍵を閉めを確かめに見に行ったんです。誰かと一緒に図書館に」 「おい!誰か、って誰だよ!誰と一緒に入ったんだよ!」 「よく見えなかったんですけど、あの、えっと、確か金髪の女の子と一緒に・・・」 「金髪の女の子・・・月咲・・?お、お前!!なんでそれ先生とかに言わなかったんだよ!!」 「で、でも大沢さん一度図書室から出て行ったし私、あんまり関係ないかなって・・その・・・」 「図書室から一回出て行った?・・・・どういう事だ、図書室から落ちたんじゃねーのか、何で月咲と・・ああああ!!わけわかんねぇ~!!!」 ―――意外な場所でエイジが重要な証拠を掴んでいた時、俺は電車に揺られながら見開封の大量のメールを削除していた。 あの時の月咲の黒い目。表現できない嫉妬で一杯になった視線で俺を見つめた痺れる様な感覚。 月咲の事はどこかで気にはなっているし好いているのも嘘ではない。 けれど、とにかく月咲が怖い。 今までの行動が段々と違和感に感じる様になってきた、そんな感覚にとにかく逃げたい一身だった。                         第4話 完 つづく

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