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273 :野獣とアングレカム ◆OxLd.ko4ak [sage] :2008/07/27(日) 12:56:10 ID:hb9w2MiZ 第5話 彼 岸 【高校生時代/昂四郎自宅】 ―――深夜2時、携帯のバイブ音で深い眠りから覚めた。 メールの着信とは違うリズムでバイブ音が鳴っている。着信?誰だ、こんな時間に。 寝ぼけていたせいもあってか手をゆっくりと手を伸ばし、充電器に差し込んだ携帯携帯を手に取り誰か確認もせずに着信を取る。 『あ・・・はい。もしもし・・?』 「・・・もしもし?」 『はい・・えっと、誰たっけ・・?』 「・・・夜遅くにごめんなさい。月咲です。」 『・・・・つ・・・月咲・・・・っ!?どうして・・・』 一気に眠気が飛んで、段々意識がハッキリとしてきた。いつもはメールしか送らない月咲からの電話に俺はつい、起き上がりゆっくりとベットに座る。 電話の声が少し違って聞こえてしまって、はたから見るとかなり不手際な電話の対応だった。 「・・・・眠ってましたか?」 『あ・・いや、さっき寝たばかりだし、気にしなくて良いよ・・・」 「そうでしたか・・すいません・・」 『おう、気にするなよ・・・』 「・・・・・・・」 『・・・・・・・』 暫く、沈黙が流れた。電話の沈黙は顔が見えないだけに気まずい。それに昨日の学校の帰り道の事が頭に残っていて更に気まずさが募った。 月咲は黙ってしまったままで、何で電話をしてきたのか分らなく、対応に困ってしまった。 深夜のせいもあって静寂がさらに増す、この沈黙を破る為に俺がゆっくりと口を開く 『月咲、何か急用だった・・・?』 「・・・いいえ・・・その、昨日の事謝りたくて・・どうもせずにいられなくて・・電話しました。メールの事や・・・私感情的になってしまって・・・」 『あ・・・いや、別に終わった事だしそんな謝る事でもないだろう・・・』 「はい・・それと昂四郎君の声が聞きたかったんです」 『ああ、そうなんだ・・・』 「昂四郎君・・・また、今までみたいに笑ってくれますか?」 『え・・・・?』 「・・・今までにみたいに私に向けて笑ってくれますか?」 『あ、ああ。・・・うん。』 「・・・・良かった」 月咲を吐息を混ぜながら電話で呟いた。俺は月咲に笑っていなかったんだろうか。 最近色々な事が起きて余裕が無かったのかもしれない。 そういう面で無意識の内に月咲を傷つけていたのかもしれない。 「・・・それじゃあ、また明日学校で。」 『あ、ああ。お休み電話ありがとう・・』 「昂四郎君、お休みなさい」 ――――電話が切れる。時計を見ると15分くらいの会話だったか。体感的にはもっと長く感じた。眠い、最近は月咲の事で眠れない事が多い。 睡眠不足で眠い。 俺はそんな気持ちで再び眠りにつく。 満員電車に揺られ眠い目をこすりながら歩く、学校へと続く上り坂でセミの鳴き声が五月蝿い程、耳に響く。 前よりもセミの数が増えたんじゃないのかな。 席に座ると大沢の事件が少しずつ皆の中から風化されかけていて、いつもの桜花学園に戻りつつあった。 それが正しいのか正しくないのか、そんな事を考えてしまうとまた眠れなくなる。無意識の内に考えないようにしていた。 そんな時、「オッス」と言いながら教室に入り他の生徒からの挨拶も早々にエイジが席に座る事もなく俺に詰め寄る。 274 :野獣とアングレカム ◆OxLd.ko4ak [sage] :2008/07/27(日) 12:58:37 ID:hb9w2MiZ 「オッス、昂四郎、少し話があんだけど付き合えよ」 『何だよ・・朝から。後でいいか、俺ちょっと眠いから寝る―――』 「・・・いいから、ちょっと来いって!」 エイジが俺の腕を引っ張りながら無理矢理席を立たせ渋々、移動する、 学生食堂に向かうと自販機の一角まで連れてこられエイジが、眠気覚ましの為か紙パックの珈琲を俺に投げ渡す。 『なんだよ話って・・・ぐだらない事だったら昼飯奢ってもらうからな?』 「・・・お前さ、月咲と付き合ってんの?」 『いや、付き合ってはねーけど・・・』 「月咲の事好きなのか?」 『な、なんだよいきなり・・・』 「いいから、答えろって」 『・・・気にはなってる・・』 「・・・・ちっ・・・昂四郎、悪い事言わないからあいつは、辞めとけ。他に女なんて沢山いるだろ、ほら、うちの高校には599人の女子生徒がいる、月咲以外のな」 エイジが舌打ちをしながら、頭を掻きつつ紙パックのオレンジジュースのストローを口にしながら言い切り俺に視線を向ける。 俺はエイジの言葉が全く理解出来なかった。再び聞き返す。 『・・・どういう意味だよ・・・それ』 「意味なんかねーよ。とにかく、辞めとけって言ってんだ。」 『・・・だから意味わかんねぇぞ・・・』 「・・ちょっと大沢の事で色々と調べた、大沢が校舎から落ちた時、あいつ月咲と一緒に図書室に入って行ったのを見たって」 『・・・おいおい、冗談だろ、お前俺の事を茶化すのもいい加減に――――』 「悪いけど、今回は冗談なんかじゃないぜ。お前を茶化す気なんかこれっぽっちもねーよ!月咲が大沢を突き飛ばした可能性がある。」 『・・・・・嘘だろ・・』 「昂四郎、あいつ絶対おかしいぜ?何を考えてるかわかんねーよ、だから―――」 『・・け、けれど、月咲が突き落としたって確実な証拠があるわけじゃないだろう!?信じられねぇ・・』 「はぁ・・・お前が月咲に惚れてんの知ってるけどな?俺は絶対に反対だぜ?とにかく、警告したからな!?もう月咲には近づくなよ!・・・・嫌な予感がすんだよ!」 ため息を混じらせ、俺に指を指しながら、強く言い放ったエイジは、飲みきった紙パックの殻を片手で潰しゴミ箱に投げつけ、不機嫌そうにその場を後にした。 エイジから貰った紙パックの珈琲の表面は水の雫が現れていて、手の温もりから既に少しぬるくなっていた。 エイジの言っている事は少しずつ理解は出来ていた。月咲が普通の女子とは、違う事ぐらい俺にだって解っている。 ―――自分の気持ちを表現するのが下手。 聞こえはいいが、それを月咲に当てはめるのは無理な部分が多かった。 教室に戻りエイジに視線を向ける、エイジもさっきの言葉を言った手前あまり俺と視線を合わそうとしない。 エイジはエイジなりに俺の事を心配してくれているんだろう。 けれど、当時の俺にとって、それは混乱の種を巻かれている様なものだった。 ―――放課後、俺の気持ちは沈んでいた。月咲に対する自分への気持ちと疑問。エイジの助言に対する困惑。大沢の事件の真相。周りの環境が俺を苦しめている様だった。 俺はどうすればいいのか、考えても考えても答えは浮かばない。 とにかく家に帰って寝たい。この睡眠不足を解消すればまた、いつもの元気な俺になれる。 夏休みにもなれば学校にも部活以外では行かないし少し気持ちが切り替わる筈だ。 ―――そんな確証の無い希望を託しながら、校門へと向かった。 ふと、中央校舎を見ると見慣れない声に視線を向けた。 275 :野獣とアングレカム ◆OxLd.ko4ak [sage] :2008/07/27(日) 13:01:27 ID:hb9w2MiZ 「あ!昂四郎君だ~!」 「昂四郎~!」 「えっ!どこどこ!ああ~!いた~っ!懐かしい~」 どこからか、女子生徒の声が聞こえ再び視線を向ける。俺に言っているのは間違い無かった。 桜花学園の制服じゃない、あれは・・周辺にある葵海大学付属高等学校の制服だった。 何人か見覚えがある顔・・・あれはチアガール部の生徒か。 ―――葵海大学付属高等学校。桜花学園の付近に位置する付属高校だ。 毎年、『葵桜祭』と呼ばれる桜花学園ラグビー部と葵海大学付属高等学校ラグビー部のラグビーの対抗試合が行われる。 創立以来の行事なのだけれど、実はこの試合、ラグビー部を主役としてはいない。 真の主役と言われているのはチアガール部だ。 ラグビー部の試合を応援するチアガール部の実演の美しさと素晴らしさから、毎年多くの両校生徒や観覧者で埋まる。チアガールの専門雑誌に取り上げられる程だ。 つまり、ラグビー部は彼女達の引き立て役にもなる。 特別なルールがあって、桜花学園のチアガール部は、葵海大学付属の応援を。 葵海大学付属のチアガール部は桜花学園を応援するという、なんとも特殊なルールの下で行われる。 その為、試合が近くなると葵海大学付属のチアガール部が、桜花学園のラグビー部の応援をする為桜花学園に足を運び練習をするのだ。 1年の時にレギュラーだった俺は、葵海大学付属の1年と会話をする機会が多かった、その中で1人気が合う女子がいた。 『ああ・・・もうそんな時期なんだな』 「そうですよ~今年も新入生増えたし、チア部はかなり凄いんですよ!期待してて下さいね!」 「昂四郎君久しぶり~♪あ、美園もいるんだよ!」 『おお・・・美園来てるのか・・・?』 「今、顧問の先生と一緒に挨拶に行った~美園はキャプテン代理だからね」 『へぇ・・・偉くなったんだなあいつ』 「誰が偉くなったの?昂ちゃ~ん?」 『・・・そ、その呼び方止めろ美園・・・』 チアガール部のメンバーと話をしていると後ろから、笑い声を混じらせながら、噂の彼女が笑みを浮かべ腰に両手を添えながら俺に向かって冗談交じりに問う。 ―――沢村美園。葵海大学付属高等学校に通う、チアガール部の生徒だ。 1年の時に彼女もレギュラーで同じ1年でレギュラー同士だった俺達は、どこか共通点を感じ試合の準備など行動を共にする事が多かった。 「久しぶりねぇ~♪あっ!昂ちゃんさ~暫く見ない内にまた大きくなった!?ってか・・・太ったでしょ?お腹何か出てきた気がする~」 『・・・・ば、バカ!んなわけねぇだろっ!・・・・お前こそちょっと老けたんじゃねぇの?』 「な、何言ってんの!?私のどこが老けたってんのよ!!」 『そうやってガミガミ言ってるとシワが増えるぞ、シワが!』 「し、失礼ねっ!昂ちゃん視力落ちたんじゃないのっ!私みたいな美白、なかなかいないんだからねっ!?」 ―――心のどこかでこの言い合いを懐かしむ自分と愉しんでいる自分がいた、久しぶりに心の底から楽しかった。 美園の言い方には棘が無い。酷い悪口を言うわけでもなく人を笑わせる言い方をする。それに美園の目は澄んでいた。俺を、俺を安心させてくれる澄んだ瞳だった。美園も俺と似た感覚だったら嬉しいよな。 そんな事を想いながら笑った、2人は思いっきり笑った。 276 :野獣とアングレカム ◆OxLd.ko4ak [sage] :2008/07/27(日) 13:06:41 ID:hb9w2MiZ 「ま~たはじまっちゃった・・・美園、先に行ってますね~♪」 「え、置いて行っていいの?」 「いいのいいの♪昂四郎君とああいう風に言い合いするのが美園にとって、桜花に来る楽しみの1つなんだから、ほら皆行くよ~!」 「はぁ~い」 チアガール部の女子生徒達が、美園に声をかけながら練習場へと向かって行った。 それを確認しながらお互いは、懐かしい言い合いに笑みを溢し、近くのベンチへと座る。 『相変わらずだな・・おい、他の子行っちゃったけど、行かなくていいのか?』 「ああ~いいのいいの♪さっき桜花の先生に挨拶して私の今日の役目は、終わった様なもんだし。・・・・・ふぅ~でも久しぶりだなぁ、桜花に来るの。もう1年になるんだね~懐かしいなぁ」 『そっか・・・・もう1年なんだな、早いな・・・』 「・・・・昂ちゃん、何か元気ないね?何かあった?」 『うあ・・・・俺、元気ねぇかな?』 「何か、疲れてるって感じかな~・・・何かあったの?友達と喧嘩したとか」 『そんなんじゃねぇよ・・・別に何にもねーから・・・それより、今年の葵桜祭はどういう――――』 気付くと俺の言葉を遮って、美園が俺の胸板に手を添えたかと思うと、次の瞬間、俺の唇に美園の唇が落ちた。 何秒くらいだろうか、柔らかい美園の唇が俺の唇を優しく包み込む様に角度を変えながら2、3度動く。 俺も最初は、驚きのあまり両手を浮かすが、ゆっくりと美園を軽く抱きしめ唇を受け止める。 何故だかとても落ち着く、1年くらい前まではそんな事を想った事なんて一度も無かったのに、気付いていないだけだったのか。 それとも、今の環境が殺伐としているからか。とにかくこの僅かな空間を感じていたい。それだけだった。 「・・ひゃ~・・久しぶりのキスだ・・・。離すタイミング掴めなかった、ハハハ。 ・・・昂ちゃん、私さ?口で人に何か言うの苦手なんだよね・・・何に悩んでるかわかんないけどさ、体が大きいんだから何でもぶつかってみなよ。ラグビーやってんでしょ? ほら、そんな顔しない!また熊とか野獣とか言われちゃうよ!私がキスするなんて滅多にないんだからねっ!」 『美園・・・』 慣れない口付けで、恥ずかしそうに笑いながら美園なりの激励を言いながら、俺の肩を笑いながら叩いた。 最近は、月咲の事で悩んだり苦しい事が多かったが美園の言葉に小さな事と感じながら、俺は美園と久しぶりに色々な会話をし、チアガール部のところまで送って行く。 【桜花学園南校舎】 「ん~?んおぉ!あれ、美園じゃん!ああ、そうか葵桜祭なんだなぁ。と、それに・・昂四郎?な、なんだよぉ!! そうだ、そうだよ!・・・昂四郎、お前には美園がいるんじゃん。なんだ、俺がわざわざ、心配する必要なかったなー!んじゃあ、俺もちょっかいに――――っ・・・!?」 南校舎の2階から昂四郎と美園が笑いながら歩く姿を見て、エイジは安堵の表情を浮かべながら、2人のところへ向かおうとする。 その時、少し離れた隣の校舎から同じく2人を見つめる人影にエイジが気付く。 ―――月咲。窓ガラスに手をつけて、酷く落ち込んでいる様子だった。 「月咲・・・!やっぱりあいつ昂四郎に付きまとってんのか・・何だあいつ、な、泣いてんのか?・・・・気味悪いぜ・・・・」 窓ガラスに手を置き顔を下に向けている月咲に視線を向けながら月咲の頬が水の様なもので滴っているのを確認する。 エイジはその光景に、月咲の異常さと不気味さを確信へと変わっていくのを確かめゆっくりと校舎を後にした。 277 :野獣とアングレカム ◆OxLd.ko4ak [sage] :2008/07/27(日) 13:09:56 ID:hb9w2MiZ 「・・うっ・・ひっく・・・ッ・昂四郎君・・何でそんな顔で笑うんですか・・・? 私以外の人と、何でキスなんて・・・するんですか・・・・?私、貴方のそんな笑顔・・見た事なんか無い・・・私にはキスしてくれないのに・・・・私じゃ駄目なんですか? ・・・・・昂四郎君待って・・・私を置いていかないで・・ッ・・昂四郎君。待って下さい・・・・待って・・・・待って下さい・・・・・ッ・・・・何でですか・・昂四郎・・・・君・・・ひっ・・く・・・皆、私から昂四郎君を奪おうと・・・してるんですね・・ ・・・酷い・・許せない・・・・許せない・・・・許せない・・・・許せないッ・・・・・・許せないッ・・昂四郎君はッ!私の、私だけのものなんですよ・・・!」 ―――大粒の涙を流し月咲は誰に言うまでもなく、呟き続けていた。 頬から落ちた涙は、廊下の床に何滴も落ちシミになっている、楽しそうに笑う昂四郎を見ながら、「何故、自分にはあんな顔をしてくれないのか」「何故、自分の気持ちに気付いている筈なのにそれに応えないのか」 その答えが頭の中でループし、更に月咲の考えは下へ下へと堕ちていく。 「あ、これこれ、君。もうとっくに下校時間は過ぎて―――っ・・・!」 「・・・・・・」 施錠の確認をしていた用務員が窓に佇む月咲に声をかけると、今までにない形相で用務員に睨む。 焦点の定まらない、月咲の視線に用務員は、思わず言葉を忘れ固まってしまった。 月咲はそのままフラフラと歩き出し、その姿はもう昂四郎が普段見る、月咲ではなかった。目は涙が止まる事はなくひたすら何かを呟き続けている。 廊下を通りかかる生徒は、月咲の不気味さに絶句していた。 校門を出ると辺りは、既に夕焼け空になっていた。グランド寄りの道を歩くと女子生徒の高い声が聞こえる。 焦点の定まらないまま視線を向けると、昂四郎が、大きな樹木の側にもたれながらチアガール部の練習風景を眺めている。 「昂四郎君・・・・っ!!昂四郎君・・・・・」 フェンスに手をかけ弱弱しく昂四郎の名前を呼ぶ月咲、しかし昂四郎の視線の先には、チアガール部の衣装に着替えていた、美園しか見えていなかった。 美園は笑いながら昂四郎に手を振り、昂四郎もそれに答える。普通に見ればどこにでもある普通の光景。 ―――しかしながら、月咲にとっては普通の光景ではなかった。 「そうですよ・・・・昂四郎君は・・・私のモノだもの・・・証明だって出来る。きっと昂四郎君も・・・! いいえ、そうだ・・・昂四郎君は騙されているんですよ・・・絶対に・・・私が助けなくちゃ・・・助けないと・・・・ふふふふ・・・・ふふふふ・・・・」 ―――待っていて下さいね、昂四郎君―――               第5話 完 つづく

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