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242 :恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/02/17(土) 01:40:00 ID:eYxLDwO8
「ちょっと祐人、食べづらいって言ってるじゃない。引っ張らないでってば」
「仕方ないだろ。左手のお前より右手の俺の方が食べづらいんだから思いやってくれ」
「……祐人くん適応力あるのね」
結局あの後何事もなかったかのように夕食の運びとなった。
だがもちろん手枷足枷の類を真弓が外してくれる訳も無く。
「だから食べさせてあげるって言ったのに」
「とりあえず食えてるからいいだろう」
「食べさせてあげたかったのに」
「……姫野、俺は食べさせてもらうのはあまり好きじゃないんだが」
「もう。祐人の意地っ張り。真弓って呼んでって言ったじゃない」
「わ、わかったわかったから真弓、手引っ張るのやめてくれ。食ってるんだから危ない」
祐人はとりあえず2人に合わせるという選択肢をとることにしていた。恐らく
2人の世界観から大きくはみ出なければ危害を加えられることは無いだろう。真弓が
これからどう出るのかは全くの未知数だったが殺されることは無いと思えた。
その読みは正しかったが、ある一点で彼は読み違いをしていた。必ず誰かが自分を
ここから連れ出しにくるだろうという祐人の希望。それだけが大きな思い違いだった。
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243 :恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/02/17(土) 01:41:05 ID:eYxLDwO8
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「なあ……真弓。これって風呂とかトイレはどうするつもりなんだ?」
夕食後。祐人が当然の疑問を口にした。
「……祐人、まさかトイレ一緒に入りたいの?祐人にそういう趣味が」
「あるわけ無いだろう」
「あるなら入ってもいいよ?……すごい恥ずかしいけど祐人がそうしたいなら」
「真弓。人の話をちゃんと聞いてくれ」
頬を染めて恥ずかしがりながら見上げてくる真弓は正直可愛いかった。
彼女が動くたびに鎖がシャラシャラと音を立てる。
「本気なのに。とりあえず長い手錠あるからトイレの時だけそっちに付け替えかな」
「長いのあるなら普段からそっちにしないか」
「せっかく一緒に生活出来るようになったからしばらくは腕より遠く離れたく無いの」
「いやでも不便じゃないか?」
「お願い祐人。しばらくの間でいいからこのままいよう」
可愛い。首を少し傾げて祐人にもたれかかるようにして甘えてくる真弓は
本当に可愛い。何となく流されてこれが普通のような気がしてきてしまう。
合わせようと思い立ったせいなのか自分の思考が少し鈍くなったように祐人は感じた。
「風呂もそっちの手錠なのか?」
「…………」
姫野真弓は少しうつむいて耳まで真っ赤になった。
そして一緒に入ろう、と消え入りそうな声で呟いた。
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「絶対開けないでよ!!」
聖祐人と姫野真弓は一緒に風呂に入っていた。そう言ってしまうと少し語弊があるが。
彼らは同じ浴室内にいることはいたが、シャワーカーテンに仕切られて今祐人に
見えているのは己に繋がれた真弓の左手だけだった。カーテンの向こうでは今は
真弓が体を洗っており祐人は湯船に浸かっている。
244 :恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/02/17(土) 01:42:18 ID:eYxLDwO8
「あまり時間がかかるとのぼせるんだが」
「女の子には色々あるの。時間かかるんだよ」
「それにしても手錠全部ついてる俺よりかかるのはおかしく無いか」
「そんなにかかって無いよ」
真弓は一緒に入ると言い出したものの恥ずかしくて脱衣場では祐人に後ろを
向くことを命じ、浴室ではシャワーカーテンで仕切るという何とも意味の無い事態に
なっていた。それでも彼女には一緒に入ることに意味があるらしい。
「むしろ左手は洗わなくていいのか」
「左手は最後にまとめてやるの」
「変な習慣だな」
「違うよ!!体洗ってる時に祐人の手があったらドキドキして大変だもん。
祐人にいたずらされるかもしれないし」
「するわけ無いだろう」
シャワーカーテンに区切られているおかげで祐人のいる場所は少し暗い。祐人は
真弓の左手をぼんやり見ながら答えた。彼女から受ける印象からすると意外なほど
白い手だった。最も姉の亜弓の病的な白さにはほど遠いが。そして、細かった。
力をこめて握れば折れるのでは無いかと思う。指もやはり細い。整った爪先には
マニキュアなどは一切塗っていないようだ。
手首に手錠が擦れてできたような赤い跡があった。
夢の中にいるような妙な浮遊感を感じた。
白く細く儚い手が目の前でたまに揺れながら――まるで誘っているかのように。
そしてその手は間違いなく自分に繋がれている。
「左手もらうよ。……祐人?まさか寝ちゃった?」
「あ、いや大丈夫だ」
祐人の思考能力は限り無く低下していた。
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245 :恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] :2007/02/17(土) 01:43:37 ID:eYxLDwO8
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「祐人……祐人。寝ちゃったの?」
真っ暗な部屋で真弓と祐人は並んで一つのベッドに横たわっていた。
「寝ちゃったか。やっぱり最初だから薬効きすぎたのかな」
真弓は祐人の髪を撫でながら話しかける。
「仕方ないね。でも私祐人が家に来てくれて本当に嬉しい。本当に夢みたいだよ」
微笑んだその顔は穏やかで、その首についた首輪と凄まじいギャップを持っていた。
「祐人。私ね、祐人が大好き。祐人もそうなんだよね。だって祐人は私のためだけに
いるんだから。祐人がちゃんと私だけのためにいられるように私頑張ったんだよ」
真っ暗な部屋の中真弓の声だけが響く。
「祐人。私の祐人。祐人は私のものだし私は祐人のものだよ。
ずっとずっと一緒にいようね」
手錠で繋がれた祐人の手を取って真弓は自分の胸に当てた。大きくは無いが
小さくも無い。標準的なサイズの、だが形の良い胸を祐人の手で包み込む。
「大好きだよ。私を全部あげるから。祐人の全部は私のものね」
暗い中で真弓は幸せを噛み締めた。
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