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420 :上書き6話後編 Bルート ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/20(火) 19:39:45 ID:d5rR2kul  俺は加奈と一瞬目を合わせ、そして…やはり本当の事を言おうと決心した。  このまま嘘に嘘を重ねてもいつかは必ず崩れさる、それならいっそ今言ってしまうべきだ。  それに何より、加奈に嘘をこれ以上つくのは苦しい。  加奈が真っ直ぐ俺を想ってくれているのに、その想いを裏切るなんて俺には出来ない。  まぁ当然未だに俺の首筋に蒼白く残っているキスマークの事は口が裂けても言えないが…。  胸に手を当て、一旦咳払いをした後、俺は静かに加奈を見つめる。  半分目の色を失いかけている少女を白昼夢から目覚めさせる為、俺ははっきりと耳に届くよう精一杯の努力をして声を張り上げる。 「加奈!最初にこれから言う事に嘘はない事を約束する!最後まで全部聞いてくれッ!」  相変わらず俺の顔を下から覗き込むだけの加奈、表情に一切の変化はないが、それこそが了承のサインだと解釈して俺は続ける。 「時間に沿って話すと、まず加奈が女子トイレから出て行ったよな?あの後俺は”女子トイレ内で”一人になったんだよ…この意味分かるか?」 「…あっ!」  数秒後に加奈は驚ろいた表情で手を口に当てる、”あの時”以来久しぶりに生気の通ったような反応に胸を撫で下ろす。  そわそわしている加奈をよそに、一つ一つ俺自身も記憶を辿りながら淡々と言うべき事を整理していく。 「女子トイレで一人になった俺は一か八かで出て行ったんだが、ここで見事に島村…保健室で俺と一緒にいた奴と鉢合わせになっちまったんだ。変なとこだけは妙にツイてて運命を呪ったね」  半分冗談な風に言って場の雰囲気を緩和しようとしたが加奈は笑わない、見事なまでのスベりっぷりに腰を抜かしそうになりながらも何とか冷静さを保つ。  今は一瞬の気の緩みも命取りだ…一つ間違えれば全てが狂ってしまう、そんな気がした。 「そんな感じで島村に”女子トイレから出てきた変態”ってレッテルを貼られてしまった俺は、口止条件として今島村の半永久奴隷になっちまったって訳だ」  これで良しッ!  自分に二重はなまるを付けてやりたい位の出来だ、と思う。  とりあえずどこにもおかしなところはなかったはずだ。  作文を褒められた小学生のような気分に浸りながら、加奈の反応を待つ。  俺はやるべき事はした、後は”人事を尽くして天命を待つ”って奴だ。  頭の中で甘い未来像への願望を抱きながら加奈を見ると…加奈は当てた手を口に当てたまま小刻みに震えていた。  まさか…と一瞬思ったが加奈は狂いかけてはいなかった、その証拠に加奈の目は人間らしく黒々と濡れて光っていた。 「加奈…泣いてるのか?」  何故泣いているのか、俺には全く見当がつかなかった。  その後の加奈の返答を聞いて、自分がどれだけ鈍いか思い知らされた。 「…それじゃあ…全部、全部あたしの…誠人くんがこんな事になったのは全部あたしの責任…!」  後悔した…俺は加奈のこんなすぐにでも壊れてしまいそうな顔を見る為に一部始終を話した訳ではない。  本当の事とはいえ、もっと言い方というものがあったはずだ。  加奈を悲しませるなんて、俺は一番してはいけない事をしてしまった。  本気で頭を抱えて思い切り叫びたくなる中、加奈が踵を返し走ろうとする。  突然の出来事に戸惑いながらも、俺は片腕で加奈の肩を掴み動きを制止させる。  小さな体が一生懸命前へ進もうとする姿はそれはそれで可愛いななんて不埒な事を考えながら加奈に問う。 「どこに行く気だよ?」 「離して誠人くん!」  いつになく強きな加奈、理性の片鱗が見えるのでとりあえず正気なようだ。 「あたし、今から島村さんの家に行く!全部あたしが悪いんだって伝えるッ!」 「なっ!?」  寸分の迷いもないその視線に一瞬圧倒されそうになるが、気を持ち直し加奈の体を反転させる。  今日保健室でも同じ事をした…しかしあの時とは目的が違う。  俺の言葉を聞かせる為に正面から向かい合う。 「やめてくれ加奈」 「何で!?このままじゃ誠人くんがあたしのせいで…!島村さんを説得して、誠人くんの誤解を解いて解放したいから…ッ!」 「加奈ッ!」 421 :上書き6話後編 Bルート ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/20(火) 19:40:23 ID:d5rR2kul  ビクリと体を震わせながらキョトンとする加奈。  今日一番の大声に、発した俺も驚いた。 近くの民家に響く程の声に少々自粛しつつ、訴えるように加奈に言い掛ける。 「そんな事したら島村に加奈が俺にした事がバレてしまう、他人に”あの事”を知られてしまったら学校にいられるなんて保証は何処にもなくなっちまう!」  加奈が学校に来れなくなる、加奈の青春を俺が奪う。  そんな事許される訳がない。  それは阻止しなければならない。 「でも…でもぉ…!」  加奈の頬に伝い落ちる純潔の涙、それを左手で下から丁寧になぞり上げる。  止めどなく溢れる涙が加奈の目尻で輝いている。  加奈はやはり加奈だ、俺の事を一番に想ってくれているのだろう…奇妙な確信がある。  自分をここまで愛してくれる子は滅多にいないだろう。  そんな少女の人生の一ページに汚い落書きなど絶対にさせない、その一心で続ける。 「俺は大丈夫だよ…自力で何とかしてみせる。だから加奈、”俺からのお願い”だ、学校をやめなければならなくない事に繋がるような事はしないでくれ…!」  これが俺の今言える全て…そして、加奈に伝えるべき全て。 「そんな、ズルいよ!そんな言い方されたら断れないじゃん…!」  泣きながら加奈は俺の胸に飛込んでくる。  俺の胸元が加奈の溢れんばかりの想いの結晶によって美しく濡れていく。  この涙は俺が出させた涙…でも、加奈の人生にこれ以上皹が入らなくて良かった。  加奈、ごめんな…。  俺は本当にズルいよ、自分の為に加奈に選択肢のない状況を与えて…。  でも、これで良い…これで加奈が幸せになれるなら、俺はいくらでも憎まれ役を買ってやる。  その決心を体言化するように、俺は加奈が泣き止むまでその小柄な体を抱き締め続けた。  加奈の髪に顔を埋めながら加奈の匂いを体中で感じ取り、このまま時間を止めてしまいたかった…。  陽が没し、俺たちを舞台上の主人公のように月光のスポットライトが照らした。 「誠人くん…」 「どうした加奈?」  何分抱き合ったか分からない…加奈が泣き止むまで、死ぬまで待つ覚悟のあった俺にとっては一瞬のようにも思えた。  泣き止んだ加奈がまだ濡れている黒い眼差しを俺に浴びせてくる。 「今からあたしん家来て!」  俺の左手を小さな両手で掴み、懇願する加奈。  犬か何かの小動物が主人に甘えるような目…求愛行動のようにも見えた。 「…わかったよ…」 「ありがとう!」  加奈の顔に光が射し込む。  何でそんな事を言い出したのかは分からないが、俺と加奈の家は近い、別に時間帯を気にする必要はない。  それに加奈を泣かせたんだ、出来る限りに最大の努力をしてその償いをしたい。 「早く行こ!」  急かして俺の手を引く加奈に少しでも負担をかけないように、俺も加奈のスピードに合わせ歩いていった。 422 :上書き6話後編 Bルート ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/20(火) 19:41:19 ID:d5rR2kul 「ただいまぁ!」 「お邪魔します」  俺の声は加奈の声によってかき消された。  慣れた感じで屈んで靴を揃えている加奈の姿を見て懐かしい気分になった。  加奈の家に入るのは久しぶりだ。  中学生までは結構来ていたが、高校生になって携帯を買ってもらってからはメールでの会話がほとんどだった。  朝半開きのドアから覗く落ち着いた茶色を基調とした玄関を見る位だった。  俺が靴を脱ごうとすると、近くから忙しい足音が聞こえてくる。  玄関を真っ直ぐ行き突き当たりの壁から中肉中背の女性が現れた。  地味なエプロンをつけているが、愛嬌のある顔が明るい印象を持たせるこの人は加奈の母親の君代さんだ。  この人とは朝加奈の寝坊を共に呆れながら時々語り合ったりしているので遠慮がちな気持ちにはならない。  世代を越えた友達という感じだ。 「加奈お帰り!あれ、誠人くんもどうしたんだい?」  笑顔が似合う、口元が笑い釣り上がる感じが加奈に似ている、さすが親子だ。 「ちょっと加奈の部屋に寄ってくんです、すぐ済みますんで」  「まぁまぁ」とわざとじゃなく大袈裟に口元に手を当てる、癖まで親譲りか。 「久しぶりなんだからゆっくりしていって。序でに晩飯も食べていくかい?」 「いやいや気を使わないで下さい。すぐ帰りますんで」  ”すぐ”なのかは分からないが、この場を取り繕う為に言う。  若干残念そうに見上げる君代さんを尻目に、俺は加奈の誘導で加奈の部屋へと行った。  部屋まで行く途中は懐かしい居心地の良さに浸っていたが、加奈の部屋に行くと一気にそれを忘れてしまった。 「上がって」  手招きされるままに部屋へ入ると、そこは加奈の匂いに満ちていた。  加奈の匂いが俺の鼻から体全体へと染み込み、馴染んでいく。  部屋の前でその余韻に浸っていると加奈が不思議そうにこちらを見てくるので慌てて足を踏み入れた。  中には可愛いらしいぬいぐるみが幾つもあり、可愛らしい装飾が施されていた。  俺の部屋より明らかに小物が多いはずなのに、床にはゴミ一つとてない。  漫画本で雪崩が頻繁に発生する俺の部屋とは大違い…というより比べる事も失礼だな。  帰ったら一度自分の部屋を整理しようと軽い決心をしつつ部屋の様相を目に焼き付ける。  加奈がいつもここで生活してるのかと考えると微笑ましくなる。  きっとパジャマ姿で机に突っ伏してるんだろうな、なんて色々想像の世界を膨らませる。  そんな中、加奈が自分のベッドを指差す、水色の涼し気な感じのベッドを。 「誠人くん、座って」  無言で頷き、加奈の隣に座ろうとするが、加奈は立ったままだ。  変に思いつつ一人で寂しくベッドに座る。 「加奈は座らないの?」 「あたしはここに…」 そう言うと加奈はどこからともなく座布団を持ってきて、俺の前に置いてチョコンと座る。  女の子らしい部屋には不釣り合いな、渋い感じの座布団だ。  気を取られたがそれを振り払い、笑顔を向ける加奈に本題をかける。 「それで、何で俺を呼んだんだ?」  俺は本題を切り出しただけだ、なのに加奈が急に頬を紅く染めた。  頭から湯気でもたつんじゃないかと思う位、病的なまでに紅い。 「そ、それは…」  手を擦り合わせ挙動不振な加奈、露骨にモジモジした様子に思わず近くでその顔を見たくなってしまう。  しかし、近付いてきたのは顔ではなく、加奈の人差し指だった。  小刻みに震えている、何をそんなに緊張してるのかと思った。 「……て」 「え?」  ボソッと呟くように何かを言った加奈。  相変わらず顔は真っ赤だ。  何を言われたのか分からず、もう一度聞こうとした時、それより前に加奈が消え入りそうな小さな声で言った。 「…舐めて…」 「舐めて?」  頭に疑問符がたつ俺。  しかし、執拗にこちらに人差し指を突き付けてくる加奈を見て、”あの時”と同じ状況だと瞬時に理解した。  決定的に違うのはその位置が逆転している事、さりげない加奈の優しさに感動しつつ、加奈に確認を取る。 「指…をか?」 423 :上書き6話後編 Bルート ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/20(火) 19:42:07 ID:d5rR2kul  返事の代わりに更に顔を赤らめた加奈。  無言でうつ向く様は、本当に可愛かった。 「い…いいのか?」  正直したいと思った。  好きな子の指、舐めたいと思うのはおかしい感情じゃない…はず。  うつ向いていた加奈が顔を上げる。  突然視線が合いドキッとするが、お互いに離す事はしない、いや出来ない。 「いいの………大丈夫。誠人くんの口…記憶…あたしが”上書き”してあげるから…」  ”上書き”…この言葉を聞くといつも恐怖を感じる。  幼い頃から刷り込まれた狂気の宴…でも、今俺は満面の笑顔を向ける加奈を前に、その言葉に最高の心地良さを感じた。  目でお互いの意思を確認し合い、一拍置いてから俺は生唾を飲み込んだ。 「じゃ、じゃあ…いくぞ?」  頷く加奈を確認し、ようやく震えの収まった人差し指を、丁寧に口にくわえた。 「ひゃっ!」 「あっ!ごめん!」  突然の加奈の悲鳴にすぐに口を離し顔を引っ込める。  しかし罪悪感を俺が感じる間もなく、加奈が無理矢理指を俺の口に入れてきた。 「ごめん…今のは…驚いただけだから…続けて」  …こんな色っぽい顔の加奈を俺は見た事がない。  息荒げな加奈を見て、正直かなり興奮してる。  彼女にこんな表情されたら男としては反応せずにはいられない。 「誠人くん、息荒い…顔が犯罪者だよ…」  そう言って笑う加奈が愛しい。  子供のままな加奈が可愛い。  俺だけの加奈でいて欲しい。  その証として、俺は口に含んだ加奈の指を優しく舌でなぞった。 「ま…こと…くんぁ…」  口を押さえ細めた目で俺を見つめてくる…こんな幸せがあったなんて。  俺が一回動かす度に漏れる声が俺の聴覚を支配する。  目を閉じると頭には淫らな妄想がリアルに映し出されている。  犯罪者というのもあながち嘘じゃないなと思った。 「加奈…」  指を舐めながら彼女の名前を口ずさむ、このまま押し倒したい…本気でそう思った。  自制心が加奈の声を聞く度崩れかける。  衝動に駆られるままいこうとするのを必死に抑える。 「もう…いいかな」  不意に加奈が指を引き抜く。  その指は名残惜しそうに濡れていた…というのは俺の勝手な思い込みで、実際名残惜しかったのは俺の方だろう。 「これで”上書き”し終えたね」  加奈の声が弾ける、俺はというと頭の片隅に僅かながら期待していた”その次”への未練を捨てきれずにいた。  本当に男はどうしようもない生き物だな…自己嫌悪に陥る。  でも、加奈の笑顔が俺にとっては何よりの宝だ。  加奈が笑ってくれているのが一番だ。  息を吐き、ベッドから立ち上がろうとする。 「加奈ありがとな。そんじゃ俺はこれで…」 「あっ、待って。やり残した事がまだっ!」 「ん、何?」  俺が加奈に近付こうとした瞬間、俺の体―正確には首の辺り―が掴まれグイと引き寄せられ、瞬く間に加奈と唇が触れ合う。  そして驚く暇もなく一瞬で離れる。  本当に一瞬…しかし確かに触れ合った。 「これは、あたしからの謝罪とお礼!」  ”謝罪とお礼”とは粋な事をしてくれる…一杯食わされたよ。  はにかむ少女を見つめながら、俺は何とか抱き締めたい衝動を堪えた。  加奈…本当に好きだよ…。 424 :上書き6話後編 Bルート ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/20(火) 19:42:54 ID:d5rR2kul ―――――――――――――――――――― 「はぁ…はぁ…誠人くんの匂い…」  ベッドに顔を埋めながら、さっきまで誠人くんとしてた事を思い出して、息が荒くなる。  まさか誠人くんに指を舐めさせる事になるなんて…おまけにキスまで…。  別に初めてではないけど、”本気で”あたしからしたのは初めてだ。  今思うと大胆な事の連続だったと思う。  本当は…あの雰囲気なら”その先”もあると思っていたけど…。  さすがにそこまではあたしも誠人くんもお互いに勇気がなかった。  でもあたしと誠人くんの関係はそこらのセックスで繋がっているような汚い連中のそれとは訳が違う。  お互いの気持ちが通じ合った時にこそすべきだ。  いつかその時がきたら、誠人くんから…そんな甘美な妄想に浸る。  それにしても、あの島村という女は何て外道なんだろう…?  誠人くんの弱味を握って、自分の奴隷にしようとするなんて。  どうせ誠人くんとセックスしたいだけの女に決まっている…!  正直殺してやりたかったが、今回の件に関してはあたしにも過失があった、それは認める。  それに免じて今回だけは許そうと思う。  しかし、二度とこんな間違いが起きないように、今からしなくては…。  今すぐしなければ島村のような女がまた誠人くんを誘惑するかもしれない…。  勿論誠人くんがあたしを裏切る訳ない事は今日確信したが、押しの弱い誠人くんが強引にというケースは十分考えられる。  それで傷でも付けて汚そうものなら…!  大丈夫…大丈夫だよ誠人くん?  誠人くんはあたしが絶対に守ってみせる。  その為には何をしなければならないのか、気付かせてくれたあの島村に感謝はしない。  さぁ、今すぐ取り掛からなくては、時間は待ってくれない。  あたしは笑いながらベッドから起き上がり、”すべき事”を始めた…。 ――――――――――――――――――――  加奈の誤解も解けて、一件落着だ。  昼休みから急に運気が低下していると思っていたが、それは加奈とのキスの為の伏線だったのかな、なんて都合の良い解釈をする。 「島村に付けられた”これ”も見られずに済んだしな」  首筋に触れながら鏡で確かめる。  軽く色褪せてきている、明日には消えているだろう。  それで明日からは元通りの日常に戻る。  俺は浮かれ気分で帰宅した。  明日何が起こるかなんて、俺はこの時想像だに出来なかった…。

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