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457 :上書き6話後編 Cルート「永遠の世界」 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/21(水) 23:36:56 ID:YHaHzkpB Cルート「永遠の世界」  俺は加奈と一瞬目を合わせ、そして…嘘をつき通そうと決心した。  きっと加奈はまだ疑心暗鬼なんだ、だからこんな事を訊いてきたんだ。  さっき感じた加奈に全てを見透かされている感覚を記憶の彼方へと封じ込め、俺はひたすら自分に言い聞かせる。  ”今なら”まだ間に合う、確信を持たれていない今なら大丈夫だ。  押しを強くすれば加奈なら信じてくれる、祈りのようにそう確信しながら、俺は嘘の発覚を恐れ加奈と目を合わせず言った。 「だから、島村に腕の治療をしてもらってたんだよ」  瞬間加奈が狐に抓まれたような表情をした後うつ向いた。  一瞬しか見えなかったがその顔に”疑念”は見受けられなかった。  どうやら俺の言葉を疑ってはいないようだ。  その事にホッと息を吐きつつ、加奈の反応を待つ。  俺の発言から怖い程の沈黙が数秒続く。  時折その沈黙を妨害するように何かうめき声のようなものが聞こえるのが場違いなようで恐ろしい。 「へぇ…」  沈黙を切り裂いた加奈の微かな声、俺にはそれがハープのように心地良く響いた。  加奈は分かってくれたはずだ。  危機的状況の回避に戦地から生き残った兵士の気持ちを初めて理解した。  そう、俺もそんな兵士のようにやっと戦いから解放され、待ち遠しく逸る気持ちを抑えながら帰還するのだ。  今日は色々な事があった、肉体的にも精神的にもかなり疲弊してしまった。  早く疲れを癒しにいこう…しかし……… 「それじゃ加奈ぐっ!?」  前を向き歩き出そうとした瞬間、首に激痛がはしった。  喉元に物凄い違和感を感じ、呼吸もままならなく息苦しい。  体から力が抜けていく感覚が理解出来る。  薄れるかける意識の中で、必死に周りを見渡す、そして分かった…。 「誠人くんが嘘をつく理由が分からないなぁ、あはっ」 「か…っか…!」  簡単な事だった…加奈が俺の首を掴んでいただけだ。  そうだ、この近辺には俺と加奈しかいない、外部から痛みを感じるとすればそれは加奈が与えてきているものに決まっている。  そして同時に理解した、加奈の言葉を聞いて。  疑念がないというのは”俺を信じた”からではなく、”俺を全く信じていない”からだという事が。  そんな風に状況を分析する、本当にヤバい時は冷静になり頭が冴えると聞いたが本当のようだ。  加奈が俺を見つめてくる、その顔は笑顔…今まで見た事もない程いやらしく笑っている。  目を細め、口元が極端に上がっている。  ”張り付いた”感じが一切ないのが俺に加奈が本気でこんな表情をしているという事実を認識させ、戦慄がはしる。 「あっ、分かった!あたし分かっちゃったよ!あはははは!!!”そういう事”だったんだっ!」  加奈の狂気の笑い声が大空を貫く。  そんな加奈の像が常時与えられ続ける苦痛によって徐々にボヤける…。  いつの間にか首元のキスマークが加奈の握力によって蒼く”上書き”されている事に俺も加奈も気付かないまま、俺の視界は狭まっていった………。 458 :上書き6話後編 Cルート「永遠の世界」 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/21(水) 23:37:40 ID:YHaHzkpB ――――――――――――――――――――  誠人くんを背負いあたしは”ある場所”へ向かう。  僅かに覗く夕陽があたしの背中を後押しする。  歩く度に足にかかる重みに温かみを感じる。  誠人くんとここまで密着している事を自覚すると胸が高鳴る。  普通なら男女逆だが、誠人くんの胸板が背中に当たっている事にドキドキし、それに反し安心といった感情も溢れる。  時折耳元にかかってくる暖かく甘い吐息があたしの心を擽る。  ”あたしだけ”の愛しい人…。 「はぁ…良い匂い…」 揺れる髪から流れる誠人くんの匂いを肌で感じ取り思わず身震いする。  本当に誠人くんが好き…。  こんなに好きなのに…こんなに好きなのに…どうして愛には必ず障害があるのだろう?  誠人くんが本当の事を言ってくれなかった時はショックだった。  でも誠人くんが悪意を持ってあたしに嘘をつくなんて有り得ない。  じゃあ何で誠人くんは嘘をついたのか…?  答えは簡単、”無理強い”されているからだ。  多分あの島村とかいう女に、半ば強引に付き合えと言われたのだろう、誠人くんは格好良いからね。  一瞬あの女に殺意が沸沸と湧いたが、すぐに冷めた、いや哀れに思った。  そうでもしないと誠人くんと付き合えないあの女の魅力のなさに対して。  どうせあの女は誠人くんが無理をしている事にも気付かず勝手に誠人くんを彼氏だと脳内変換している虚しい女に過ぎない。  そんな女の為にわざわざ時間を割くのは無意味だ。  せいぜいストーカーにはなるなよと頭の中の思考にピリオドを打ち、ひたすら目的地を目指す。 「もう少しだよ…もう少しだから…」  優しく囁く。  もう少しで………。 ―――――――――――――――――――― 459 :上書き6話後編 Cルート「永遠の世界」 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/21(水) 23:38:47 ID:YHaHzkpB 「…ん………ここは?」  起き上がろうとした瞬間、首元に痛みがはしった。  しかしその痛みはすぐ更なる驚愕によって遮られる。 「…本当にどこなんだ?」  小言のように呟いた…そうするしか出来なかった。  目を何度も瞬きするが俺の目の前に広がる光景、そして現実は変わらない。  一面真っ暗、そうとしか言いようがない。  灯りも何もない、完全な暗黒の世界。  そしてもう一つ分かった事があった、さっき俺が出した声がひどく目立っていたという事に。  ここがどこなのかは分からないが、少なくとも普通の場所じゃないだろう。  俺の声がかなり反響している。  声が反響するという事は今いるところは部屋の中なのだなと、真っ暗だとわかった瞬間に気付くべき事を確認する。  どうやら寝起きで頭が中々回転してくれないらしい。  とりあえず今すべき事はまず自分の置かれている状況の整理…ってそれはさっきからやっていたなと笑いそうになった。  体は普通に動くので、手を口元の横に当て全く期待をしていない問いかけをする。 「誰かいないかーッ!?」 「誠人くん?」 「うわぁっ!」  情けない声が思わず漏れてしまう。  正直こんな暗い場所に自分の他に人なんているはずがないと決めつけていたから、生身の声には驚いた。  気を落ち着かせ、ようやく発せられた声に聞き覚えがある事を悟る。 「加奈…加奈か!?」 「ごめんね誠人くん、あたしもちょっと寝ちゃって」  やはり、何年も聴いてきた愛しい声、聞き間違えなんてある訳がない。 「ビックリした?今から電気つけるから」  物音が聞こえる、言動から推測するに加奈が立ち上がった音のようだ。  加奈の足音が静寂の空間に木霊する中、突然電気がつく。  いきなり明るくなってしまい目を伏せる。  目が慣れたのを見計らって細目で見ると、そこには俺が想像だにしていなかった情景が広がっていた。  驚く事に、加奈の部屋にそっくりだったのだ。  もし色々な小物の間から覗く残酷な鉄の色がなければ、ここは完璧に加奈の部屋だ。  そこで初めて気付いた、俺はベッドの上にいたという事を。  何が何だか分からない、ここは加奈の部屋に似ているが決して加奈の部屋じゃない。  その証拠に可愛らしい概要の全体像にあまりにもそぐわない鉄製のドアがある。  それじゃやはりここはどこなんだ…最初に抱いた疑問に逆戻りしてしまう。  そんな思念を渦巻かさせていた俺をよそに部屋のスイッチを押しその場で背を向けている加奈に気付き、その存在に僅ながらの安心感を感じる。 「加奈、ここはどこだ?」 「あたしと誠人くんだけの”世界”だよ!」  子供のようなセリフを吐く加奈。  何年も前に卒業したはずのその地位に懐かしみを覚える。 「世界?」 「そう、世界!」 460 :上書き6話後編 Cルート「永遠の世界」 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/21(水) 23:39:25 ID:YHaHzkpB  弾けた声を発する、それと同時に劇団の人間のようにわざとらしく両手を開いた。 「あたしたちは”元の世界”じゃ結ばれない、愛の障害が邪魔するもの。あの女がいい例よ!」 「あの女って…」 「島村さんだっけ?」  その名前に今更罪悪感を感じる。  そうか、俺は加奈に嘘をついてしまったのか…。  そしてそれは加奈にバレている…俺は全てを覚悟した。 「あの女が誠人くんを誘惑するから、誠人くんなし崩し的に付き合っちゃったんだよね?」 「”付き合っちゃった”!?」  何の事だ?  付き合ったって…島村とか?  確かに島村の指を舐めたりしたが、別に付き合ってなんて…とここまで考えてきてやっとわかった。  俺はとことん客観視する目の力が欠けているなと自分に呆れた。  普通指を舐めるなんて恋人同士でしかやらない事だ。  それを加奈は見て、でも自分が俺の彼女だから何で俺があんな事をしていたのかと考えた挙句…島村が俺を無理矢理付き合わせているという最もらしいが間違っている結論に達したのか。  さっきまで働かなかった分どんどん頭の回が早くなる。  加奈が勘違いしている…この誤解は早く解かなければと思った。 「加奈違う!島村とは」 「もう無理しなくていいんだよ」  俺の言葉を加奈が遮る。  確信に満ち溢れた声だった。 「誠人くんのそういうところも好き、優しいもんね…」  笑顔から一変、暗い表情でうつ向く加奈。  俺はそんな表情の変化にいつの間にか慣れてきている事には気付かない。 「でもその優しさは罪」 「罪?」 「そう、罪」  さっきと全く同じ感じで答えられる。  そっけなく聞こえるが寂しさは感じない。 「どんどん女を引き寄せちゃうもの…”元の世界”の女は巧妙だから、純粋な誠人くんは騙されちゃう…。これからもそれが終わる事はない…だから」  そこで言葉を切り、俺に歩み寄ってくる加奈。  思わず身構える俺の両手を丁寧にほどくと、力一杯抱きついてきた。  突然の出来事に何も出来なくなる。 「あたしが作ったの!誰の邪魔もない”世界”を!もうあたしたち以外に誰もいない」  仮染めの日常の中で非日常を宣言する加奈。  こんな空間の中で笑顔で平然としていられる加奈は最早完全に狂っているのだろう。  そして……… 「これで幸せになれるよ!誠人くん嬉しい?」 「あぁ…嬉しいよ…」  見上げる加奈を前に、何も言えない…この”世界”に居心地の良さを感じている俺も完全に狂っているのだろう。  擽ったそうに笑う加奈の頭を撫でながら、俺は後戻り出来ない事を悟った…。  でも良いんだ、これで幸せになれるのならこれでいい…。  一時の幸せに浸っているに過ぎないという事に気付く事もなく、俺は加奈を抱き返した。 461 :上書き6話後編 Cルート「永遠の世界」 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/21(水) 23:42:40 ID:YHaHzkpB  あれから一体幾つもの時が流れたのだろうか…? 「誠人くん……あっ、はぁっ!」  目の前で俺の腰に跨っている加奈を見ながら、そんな事を思った…。  あの日、俺と加奈は”初めて”を体験した。  その時の事は良く覚えていないが、体だけでなく心もしっかり繋がっていた事だけは分かる。  温かい一時だった。  こんな日々が続く事を心から喜んだ。  …しかし、あの日から加奈は変わってしまった。  執拗に俺の体を求めてくるようになったのだ。  言い方が悪いが、自慰行為を覚えた猿のようにひたすら俺との繋がりを求めてくるようになったのだ。  加奈は俺としている時、本当に満足そうな表情で微笑む。  その笑顔が俺と一つになれた事からの喜びの証だという事は分かる。  でも、俺はそんな加奈を好きにはなれない。  加奈が嫌いになったんじゃない、淫猥な表情で俺をいつものように見つめる加奈が許せないのだ。  子供のままの加奈でいて欲しい…願えば願う程加奈はどんどん大人になっていく。  俺の理想とはかけ離れていく…。  それでも加奈からは離れられない。  部屋からという意味ではなく、加奈という蜘蛛の糸に絡みつけられた俺自身の問題だ。  どんなに加奈が大人になっていっても、片隅にはまた昔のように純粋に笑ってくれると信じているのだ。  何度逃げようと思っても、加奈を見るとそんな気が失せてしまうのだ。  加奈を見て逃げたくなり、加奈を見て逃げたくなくなる。  あまりにも非情なエンドレスに身を投じてしまった俺は、今日も加奈と繋がる…。  後悔と悦楽が渦巻く、”俺たちの世界”で。 Cルート「永遠の世界」 BAD END

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