「第3話『偽りの予備校生』」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

第3話『偽りの予備校生』」(2008/08/06 (水) 12:29:25) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

467 :幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/08/04(月) 23:04:02 ID:7rT0vu1R 第3話『偽りの予備校生』  同じ予備校生の藤寺さんは男の子の部屋に興味があるのか、いろいろと意味ありげな視線で観察していた。 秘蔵のヤンデレコレクションはすでにドリルで穴を開けた場所に隠した。 更にバレないように3重の仕掛けを施しているのでそう簡単に見破れない。 千里眼とか特殊技能さえ身に付けていなければ、ほとんど大丈夫のはず。  ともあれ、人生で初めて女の子を自分の家に来てくれたことで俺は舞い上がっていた。 普段は飲まないお茶を即席で用意したり、新品のコップに取り出したりと色んなことに気を遣った。 背後で幽霊が『いつもの光一さんじゃない!!』とウサギさんのぬいぐるみに八つ当たりしていたが、 そんな些細な事はこの際はどうでもいい。 幽霊の姿がどこかに消え去ろうとも、俺は気にしないさ。 ところが俺は……  女の子が男の子の部屋に来るという意味を俺は全然理解していなかった 「男の子の部屋って、何か寂しいよね」  と、俺が入れたお茶を軽く飲み干してから藤寺さんはぼそりと呟いた。  確かに俺の部屋はヤンデレコレクション以外の物は特に置いてない。  狭いアパートに引っ越す際に必要な家具と日常品ぐらいしか持ってこなかったのだ。  そのせいか、部屋の風景は地味で殺風景になっていた。特に気にもしなかったが、女の子から見れば寂しく見えるんだろうか。 「まあ、女の子のようにぬいぐるみやキモ可愛い系を部屋に飾るわけにはいかないし」 「そうかな。私のお気に入りの猫のぬいぐるみとか松山君がよければあげるよ」 「悪いからいいよ」  男の友達に俺が少女趣味だと思われたら、末代までからかわれるし。 「じゃあ、私が松山君のために女運がなくなりそうな藁人形とかプレゼントします。  飾っていると異性から全然モテなくなるの。いいと思いません?」 「微妙だな」  異性から全然モテたことがない俺にとっては不必要なアイテム。  いや、更に全然モテなくなるので女運が某IT会社のように暴落する可能性すらあるのでやっぱりいらない。  藤寺さんは残念そうな表情を浮かべていた。しばらく落ち込んでから、両手の拳に握り締めて彼女は目を瞑って叫んだ。 「ま、光一さんは、そ、そ、その、彼女とかいるのかな?」 「はい?」  唐突な出来事に俺は目を丸くしていた。  女の子が男の子に彼女とかいると聞くのは大抵は女の子の親友に頼まれて、  想い人に付き合っている異性がいるのか調査するためによく使う手だが。  顔を紅潮させて、俺と視線を合わさないように藤寺さんは顔を下に向けた。 468 :幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/08/04(月) 23:06:29 ID:7rT0vu1R  何かがおかしい。  当初の目的は俺の家で勉強会することがじゃなかったのか。  そもそも、藤寺さんって俺に気があるような素振りとか見せていたのか?   目の前にいる彼女の様子を伺うが特に変な様子は見当たらない。  考えろ。松山光一。  仮に藤寺さんが俺に好意を持っていた場合はどうなる?   藤寺さんは予備校生の中でも1、2を争うほどの容姿の持ち主。そんな彼女が俺を好きと言うならば、俺は喜んで付き合おう。  負け続けた人生の暗闇の中の光明の一筋が見えてきた。 「お、俺はこの世に生まれてから今まで彼女なんていないんだけど」 「そうなんだ」  小声で良かったと安堵の息を藤寺さんは漏らした。 「じゃあ、今はお付き合いしている人はいないんですよね。光一さんはどんな女の子がタイプなんですか?」 「好きな女の子? うーん」  今まで好きになった女の子は顔はいいけど、実は性格はとんでもない我侭で傍若無人のような振る舞いをする人ばっかりだったような気がする。  慎重に品定めをするようになってからは特に好きな異性は現れていないのだが。 「光一さんは、年上で性格は少し和やかで相手を想いやることができる優しい女性がお似合いと思います。  その人は間違いなく心拍停止している人ですが、種族を超えた愛は奇跡だって起こせると私は思っていますけど」  心拍停止? 年上?   物凄く嫌な予感は現実になりそうだ。今まで藤寺さんと話をしていて、違和感というものを感じていた。  それが何かわかった時、俺は今まで静かだった幽霊の名前を叫んだ。 「由姫さん。あんた、何やっているの?」 「光一さん。未来のお嫁さんの名前を間違わないでください。  私は藤寺……藤寺……藤寺エリスですよ」 「うわっ。名前違うし!!」  ずっとおかしいと思っていた。予備校の時は常に授業中を昼寝している藤寺さんと会話する機会は少ないとは言え、  藤寺さんが俺の事を光一さんなんて呼ぶはずがない。  更に自分の名前を間違っている時点で目の前にいる藤寺さんはアホ幽霊と確定。  俺は嘆息まじりでにっこりと微笑している由姫さんに睨みつけた。 「これは一体どういうことなんだよ」 「光一さんが私達の愛の巣にどこの馬の骨かわからない女を迎え入れるから悪いんですよ!!」 「その愛の巣の家賃を払っている俺が招待した友人なんだが」 「同居人の私の許可なく私以外の女の子を家に入れる事は私が許しません!!   というわけでその藤寺という泥棒猫の体を乗っ取りました♪」  いや、乗っ取ったって……。 「そんな何処かの幽霊モノの漫画やライトノベルのように普通の人間の体が幽霊に乗っ取られるわけが……」 「ふっふっふ。幽霊歴の長い私は甘く見てはいけませんね。  このアパート内の敷地に入った若い女の子限定なら余裕で体を乗っ取ることができます。  五感を共有でき、その人の頭の記憶や女心まで手に取るようにわかるんですよ」 「何でもありじゃん」  SF映画に出てくる寄生虫みたいな奴だな。 「私も久しぶりの生身の女の子の体を借りると、何だかいい気分です。藤寺という女が光一さんに好意を抱いていることもわかったりと」 「はい? 藤寺さんが俺に好意を抱いている?」 「別に体を借りなくても、あの女が年頃の男の子の部屋に来る時点で気付くでしょ?」 「ううん。わかるはずないじゃん」 469 :幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/08/04(月) 23:08:15 ID:7rT0vu1R 「戦いにおいて、大切なのは戦術よりも戦略なのですよ」 「はい?」 「自分の想いに気付いてもらえない女の子が相手をストーカーのように毎日観察して。  自分が嫌われずにどうやって大好きな彼にアプローチを仕掛けるのか。  恐らく、この泥棒猫は適当な理由を付けて、光一さんと私の愛の巣にやってきた。  ここでフラグの一つや二つぐらい立てておけば、後は女の子の誘惑で光一さんを落とすことができると考えていたようですね。  何気なく忘れ物をして、またここにやってくるように仕組んでいたようだけど」  と、幽霊は藤寺さんの体を借りて、俺の腕を胸元に強引に押し付けた。 「光一さんは私だけのモノです。他の女なんかに渡しません」  そして、由姫さんが俺の首に手を回してから、俺の唇を奪う。  一瞬の出来事に俺は何が起きたのか理解する前にキスの行為は終わっていた。  俺と由姫さんの唇にはたっぷりと唾液の糸を引いていた。  残念ながら俺には幽霊とキスした感覚はなく、あくまでも体を借りているであろう藤寺さんとキスをした錯覚に襲われる。  いや、これは錯覚ではなくて。 「藤寺さんとキスしたら意味ないじゃん」 「はうわ!! しまった。生身の体じゃないと光一さんに触れらないから忘れていたけど。 この世界で最も穢れている汚物に光一さんの唇を奪ってしまったよ!!!!」 「由姫さん? とりあえず、幽体離脱してくれないかな。1億年と2千年辺りまで」 「ええっ、いつまで」  幽霊なら余裕で存在しているだろうな。 「藤寺さんをさっさと解放してやってくれ。  俺は藤寺さんと一緒に親交を深めることが今日一番の楽しみだったのに!!」 「がーんー!! 光一さんって、私の事がお嫌いですか?」 「嫌い以前に、すでに死んでいるんだから結ばれないじゃん」 「そんなことありませんよ。ほらっ、私が転生して赤ん坊に生まれ変わりますので、  最低でも16年ぐらい待ってくださったら、結婚できると思いますよ」 「16年も待てないし」 「大丈夫ですよ。転生した10才の幼女に手を出した幼馴染の小児医の方もいますし。恋に歳の差は関係ありません」 「却下!! そんな、性犯罪者に落ちぶれたくないわっ!!」 「だったら、もう、私のところに来て下さい」 「わたしのところって?」 470 :名無しさん@ピンキー [sage] :2008/08/04(月) 23:08:32 ID:z+fZmqvo 紫煙 471 :幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/08/04(月) 23:10:36 ID:7rT0vu1R 「さっさと未練のない人生を断ち切って、幽霊になってください!!」 「なれるか!! まだまだ、ヤンデレゲーをプレイするという未練がたっぷりあるわ」 「大丈夫です。今流行している硫化水素自殺でたっぷりともがいて、苦しんでから死んでくださいね。  そして、私と未来永劫の幽霊ライフを楽しみましょう」 「藤寺さんの体と口で自殺を強要するな!!」 「むぅ。我侭さんですね。そんな人はめっですよ!!」  藤寺さんの身体を借りた幽霊が俺の額にデコピンした。  由姫さんが体を動かしているとは言え、透き通った声と喜怒哀楽に変わる表情は藤寺さんの物だから、  滅多に見れない彼女の仕草に見惚れていた。さすがは予備校で可愛い女子の1、2を争う容姿の持ち主である。  彼女は吐息だけで全ての男性を自分の虜にすることができるかもしれないと思っているが、  中身は年増幽霊だと思い出すと自然と胸の高鳴りは収まった。 「何か失礼なことを考えてませんか?」 「気のせいでしょう」 「そうですか。では、そろそろ、身体のレンタル使用期間が終了する頃なので私は延滞料金を払う前に退散しますね」 「待て、レンタル使用期間ってのは何だ?」 「今の時代は何でもレンタルできる時代なんですよ。伝説の聖剣、伝説の槍、伝説の魔王、伝説の楯、  伝説のプロ野球選手もレンタル料を払えば誰にでも借りられる世の中ですよ。  幽霊が人間の体をレンタルできるのは当たり前じゃないですか」  死人ごときが生身の人間の体を借りるのは100年早いと思うのだが。  由姫さんの言動にいちいち腹を立っては俺の胃袋は自分の胃液で溶けてしまうだろう。  だから、俺は何となく炊飯器の蓋を開けた。幽霊を封印するために。 「これが何かわかるか?」 「さて、ただの炊飯器のように思えるけど」 「いいか。これでお前を封印しよう。わが師匠が命懸けで得た秘術。年増幽霊を炊飯器に封印してやろう」 「そ、そ、そ、そ、れ、れ、れ、れ、れ、は? 「魔封…………」 「一体、何ですか?」 「いや、幽霊を封印するための秘術って……」 「松山くんって、頭がおかしい人だったんだね」 「何をほざく……アホ幽霊」 「ん? 幽霊? 松山くん。一体、どうしたの?」  何だか幽霊がレンタルしている藤寺さんの様子が明らかにおかしかった。  俺を精神異常者のような人だと言わんばかりな目でこっちを見ている。  もしかして、正常な藤寺さんに戻ってしまったのか。  炊飯器を開けながら、何だか幽霊を封印してそうなポーズを決めている人間を目撃したならば。  あえて、言おう。さっさと通報しろ。そんな人間。 「ついに三浪が決定した事で色々と壊れた。壊れたのよね?」 「まだ、あんたと同じで一浪目だ!! 不吉なことを言わんでください」  三浪が決定したら、あまりの衝撃に危ない国の境界線を破って、新たな油田の発掘して独り占めするために  地面をひたすら掘り続ける自信はある。自爆テロなんて恐がる暇なんかねぇよ。 「でも、今の松山君の異常な行動の説明が……」 「持病なんです。むしろ、年増幽霊の呪いと言っても過言じゃない」 「年増幽霊の呪い? そんなもんで誤魔化されると思っているんですか?   きっと、松山くんは値上がりして品切れになっているバター不足のせいで  ケーキ屋を廃業しそうな店長さん並に精神が病んでいるんだよ」 「男のヤンデレはキモいだけです」 「ううん、大丈夫。私が癒してあげる」 「あんた、そんなキャラじゃないだろ!!」  と、俺は力なく叫んだ。 472 :幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/08/04(月) 23:11:35 ID:7rT0vu1R その後、藤寺さんに俺はまともな正常者であることを2時間ぐらい論争していたら、 陽が落ちてきたのであっさりとお流れになってしまった。当然、勉強会なんてやっているはずもなく、 藤寺さんを駅まで送り、家に戻ってくると倒れた。  そして、由姫さんが言っていた事を思い出す驚愕な事実だけが残された。 「幽霊が忘れ物をしてフラグを立てるようなことを言っていたけど……さすがにこれは」  藤寺さんがフラグを立てるために忘れた物は。  鋸だった。 「鮮血な予感がするぜ」
467 :幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/08/04(月) 23:04:02 ID:7rT0vu1R 第3話『偽りの予備校生』  同じ予備校生の藤寺さんは男の子の部屋に興味があるのか、いろいろと意味ありげな視線で観察していた。 秘蔵のヤンデレコレクションはすでにドリルで穴を開けた場所に隠した。 更にバレないように3重の仕掛けを施しているのでそう簡単に見破れない。 千里眼とか特殊技能さえ身に付けていなければ、ほとんど大丈夫のはず。  ともあれ、人生で初めて女の子を自分の家に来てくれたことで俺は舞い上がっていた。 普段は飲まないお茶を即席で用意したり、新品のコップに取り出したりと色んなことに気を遣った。 背後で幽霊が『いつもの光一さんじゃない!!』とウサギさんのぬいぐるみに八つ当たりしていたが、 そんな些細な事はこの際はどうでもいい。 幽霊の姿がどこかに消え去ろうとも、俺は気にしないさ。 ところが俺は……  女の子が男の子の部屋に来るという意味を俺は全然理解していなかった 「男の子の部屋って、何か寂しいよね」  と、俺が入れたお茶を軽く飲み干してから藤寺さんはぼそりと呟いた。  確かに俺の部屋はヤンデレコレクション以外の物は特に置いてない。  狭いアパートに引っ越す際に必要な家具と日常品ぐらいしか持ってこなかったのだ。  そのせいか、部屋の風景は地味で殺風景になっていた。特に気にもしなかったが、女の子から見れば寂しく見えるんだろうか。 「まあ、女の子のようにぬいぐるみやキモ可愛い系を部屋に飾るわけにはいかないし」 「そうかな。私のお気に入りの猫のぬいぐるみとか松山君がよければあげるよ」 「悪いからいいよ」  男の友達に俺が少女趣味だと思われたら、末代までからかわれるし。 「じゃあ、私が松山君のために女運がなくなりそうな藁人形とかプレゼントします。  飾っていると異性から全然モテなくなるの。いいと思いません?」 「微妙だな」  異性から全然モテたことがない俺にとっては不必要なアイテム。  いや、更に全然モテなくなるので女運が某IT会社のように暴落する可能性すらあるのでやっぱりいらない。  藤寺さんは残念そうな表情を浮かべていた。しばらく落ち込んでから、両手の拳に握り締めて彼女は目を瞑って叫んだ。 「ま、光一さんは、そ、そ、その、彼女とかいるのかな?」 「はい?」  唐突な出来事に俺は目を丸くしていた。  女の子が男の子に彼女とかいると聞くのは大抵は女の子の親友に頼まれて、  想い人に付き合っている異性がいるのか調査するためによく使う手だが。  顔を紅潮させて、俺と視線を合わさないように藤寺さんは顔を下に向けた。 468 :幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/08/04(月) 23:06:29 ID:7rT0vu1R  何かがおかしい。  当初の目的は俺の家で勉強会することがじゃなかったのか。  そもそも、藤寺さんって俺に気があるような素振りとか見せていたのか?   目の前にいる彼女の様子を伺うが特に変な様子は見当たらない。  考えろ。松山光一。  仮に藤寺さんが俺に好意を持っていた場合はどうなる?   藤寺さんは予備校生の中でも1、2を争うほどの容姿の持ち主。そんな彼女が俺を好きと言うならば、俺は喜んで付き合おう。  負け続けた人生の暗闇の中の光明の一筋が見えてきた。 「お、俺はこの世に生まれてから今まで彼女なんていないんだけど」 「そうなんだ」  小声で良かったと安堵の息を藤寺さんは漏らした。 「じゃあ、今はお付き合いしている人はいないんですよね。光一さんはどんな女の子がタイプなんですか?」 「好きな女の子? うーん」  今まで好きになった女の子は顔はいいけど、実は性格はとんでもない我侭で傍若無人のような振る舞いをする人ばっかりだったような気がする。  慎重に品定めをするようになってからは特に好きな異性は現れていないのだが。 「光一さんは、年上で性格は少し和やかで相手を想いやることができる優しい女性がお似合いと思います。  その人は間違いなく心拍停止している人ですが、種族を超えた愛は奇跡だって起こせると私は思っていますけど」  心拍停止? 年上?   物凄く嫌な予感は現実になりそうだ。今まで藤寺さんと話をしていて、違和感というものを感じていた。  それが何かわかった時、俺は今まで静かだった幽霊の名前を叫んだ。 「由姫さん。あんた、何やっているの?」 「光一さん。未来のお嫁さんの名前を間違わないでください。  私は藤寺……藤寺……藤寺エリスですよ」 「うわっ。名前違うし!!」  ずっとおかしいと思っていた。予備校の時は常に授業中を昼寝している藤寺さんと会話する機会は少ないとは言え、  藤寺さんが俺の事を光一さんなんて呼ぶはずがない。  更に自分の名前を間違っている時点で目の前にいる藤寺さんはアホ幽霊と確定。  俺は嘆息まじりでにっこりと微笑している由姫さんに睨みつけた。 「これは一体どういうことなんだよ」 「光一さんが私達の愛の巣にどこの馬の骨かわからない女を迎え入れるから悪いんですよ!!」 「その愛の巣の家賃を払っている俺が招待した友人なんだが」 「同居人の私の許可なく私以外の女の子を家に入れる事は私が許しません!!   というわけでその藤寺という泥棒猫の体を乗っ取りました♪」  いや、乗っ取ったって……。 「そんな何処かの幽霊モノの漫画やライトノベルのように普通の人間の体が幽霊に乗っ取られるわけが……」 「ふっふっふ。幽霊歴の長い私は甘く見てはいけませんね。  このアパート内の敷地に入った若い女の子限定なら余裕で体を乗っ取ることができます。  五感を共有でき、その人の頭の記憶や女心まで手に取るようにわかるんですよ」 「何でもありじゃん」  SF映画に出てくる寄生虫みたいな奴だな。 「私も久しぶりの生身の女の子の体を借りると、何だかいい気分です。藤寺という女が光一さんに好意を抱いていることもわかったりと」 「はい? 藤寺さんが俺に好意を抱いている?」 「別に体を借りなくても、あの女が年頃の男の子の部屋に来る時点で気付くでしょ?」 「ううん。わかるはずないじゃん」 469 :幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/08/04(月) 23:08:15 ID:7rT0vu1R 「戦いにおいて、大切なのは戦術よりも戦略なのですよ」 「はい?」 「自分の想いに気付いてもらえない女の子が相手をストーカーのように毎日観察して。  自分が嫌われずにどうやって大好きな彼にアプローチを仕掛けるのか。  恐らく、この泥棒猫は適当な理由を付けて、光一さんと私の愛の巣にやってきた。  ここでフラグの一つや二つぐらい立てておけば、後は女の子の誘惑で光一さんを落とすことができると考えていたようですね。  何気なく忘れ物をして、またここにやってくるように仕組んでいたようだけど」  と、幽霊は藤寺さんの体を借りて、俺の腕を胸元に強引に押し付けた。 「光一さんは私だけのモノです。他の女なんかに渡しません」  そして、由姫さんが俺の首に手を回してから、俺の唇を奪う。  一瞬の出来事に俺は何が起きたのか理解する前にキスの行為は終わっていた。  俺と由姫さんの唇にはたっぷりと唾液の糸を引いていた。  残念ながら俺には幽霊とキスした感覚はなく、あくまでも体を借りているであろう藤寺さんとキスをした錯覚に襲われる。  いや、これは錯覚ではなくて。 「藤寺さんとキスしたら意味ないじゃん」 「はうわ!! しまった。生身の体じゃないと光一さんに触れらないから忘れていたけど。 この世界で最も穢れている汚物に光一さんの唇を奪ってしまったよ!!!!」 「由姫さん? とりあえず、幽体離脱してくれないかな。1億年と2千年辺りまで」 「ええっ、いつまで」  幽霊なら余裕で存在しているだろうな。 「藤寺さんをさっさと解放してやってくれ。  俺は藤寺さんと一緒に親交を深めることが今日一番の楽しみだったのに!!」 「がーんー!! 光一さんって、私の事がお嫌いですか?」 「嫌い以前に、すでに死んでいるんだから結ばれないじゃん」 「そんなことありませんよ。ほらっ、私が転生して赤ん坊に生まれ変わりますので、  最低でも16年ぐらい待ってくださったら、結婚できると思いますよ」 「16年も待てないし」 「大丈夫ですよ。転生した10才の幼女に手を出した幼馴染の小児医の方もいますし。恋に歳の差は関係ありません」 「却下!! そんな、性犯罪者に落ちぶれたくないわっ!!」 「だったら、もう、私のところに来て下さい」 「わたしのところって?」 471 :幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/08/04(月) 23:10:36 ID:7rT0vu1R 「さっさと未練のない人生を断ち切って、幽霊になってください!!」 「なれるか!! まだまだ、ヤンデレゲーをプレイするという未練がたっぷりあるわ」 「大丈夫です。今流行している硫化水素自殺でたっぷりともがいて、苦しんでから死んでくださいね。  そして、私と未来永劫の幽霊ライフを楽しみましょう」 「藤寺さんの体と口で自殺を強要するな!!」 「むぅ。我侭さんですね。そんな人はめっですよ!!」  藤寺さんの身体を借りた幽霊が俺の額にデコピンした。  由姫さんが体を動かしているとは言え、透き通った声と喜怒哀楽に変わる表情は藤寺さんの物だから、  滅多に見れない彼女の仕草に見惚れていた。さすがは予備校で可愛い女子の1、2を争う容姿の持ち主である。  彼女は吐息だけで全ての男性を自分の虜にすることができるかもしれないと思っているが、  中身は年増幽霊だと思い出すと自然と胸の高鳴りは収まった。 「何か失礼なことを考えてませんか?」 「気のせいでしょう」 「そうですか。では、そろそろ、身体のレンタル使用期間が終了する頃なので私は延滞料金を払う前に退散しますね」 「待て、レンタル使用期間ってのは何だ?」 「今の時代は何でもレンタルできる時代なんですよ。伝説の聖剣、伝説の槍、伝説の魔王、伝説の楯、  伝説のプロ野球選手もレンタル料を払えば誰にでも借りられる世の中ですよ。  幽霊が人間の体をレンタルできるのは当たり前じゃないですか」  死人ごときが生身の人間の体を借りるのは100年早いと思うのだが。  由姫さんの言動にいちいち腹を立っては俺の胃袋は自分の胃液で溶けてしまうだろう。  だから、俺は何となく炊飯器の蓋を開けた。幽霊を封印するために。 「これが何かわかるか?」 「さて、ただの炊飯器のように思えるけど」 「いいか。これでお前を封印しよう。わが師匠が命懸けで得た秘術。年増幽霊を炊飯器に封印してやろう」 「そ、そ、そ、そ、れ、れ、れ、れ、れ、は? 「魔封…………」 「一体、何ですか?」 「いや、幽霊を封印するための秘術って……」 「松山くんって、頭がおかしい人だったんだね」 「何をほざく……アホ幽霊」 「ん? 幽霊? 松山くん。一体、どうしたの?」  何だか幽霊がレンタルしている藤寺さんの様子が明らかにおかしかった。  俺を精神異常者のような人だと言わんばかりな目でこっちを見ている。  もしかして、正常な藤寺さんに戻ってしまったのか。  炊飯器を開けながら、何だか幽霊を封印してそうなポーズを決めている人間を目撃したならば。  あえて、言おう。さっさと通報しろ。そんな人間。 「ついに三浪が決定した事で色々と壊れた。壊れたのよね?」 「まだ、あんたと同じで一浪目だ!! 不吉なことを言わんでください」  三浪が決定したら、あまりの衝撃に危ない国の境界線を破って、新たな油田の発掘して独り占めするために  地面をひたすら掘り続ける自信はある。自爆テロなんて恐がる暇なんかねぇよ。 「でも、今の松山君の異常な行動の説明が……」 「持病なんです。むしろ、年増幽霊の呪いと言っても過言じゃない」 「年増幽霊の呪い? そんなもんで誤魔化されると思っているんですか?   きっと、松山くんは値上がりして品切れになっているバター不足のせいで  ケーキ屋を廃業しそうな店長さん並に精神が病んでいるんだよ」 「男のヤンデレはキモいだけです」 「ううん、大丈夫。私が癒してあげる」 「あんた、そんなキャラじゃないだろ!!」  と、俺は力なく叫んだ。 472 :幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/08/04(月) 23:11:35 ID:7rT0vu1R その後、藤寺さんに俺はまともな正常者であることを2時間ぐらい論争していたら、 陽が落ちてきたのであっさりとお流れになってしまった。当然、勉強会なんてやっているはずもなく、 藤寺さんを駅まで送り、家に戻ってくると倒れた。  そして、由姫さんが言っていた事を思い出す驚愕な事実だけが残された。 「幽霊が忘れ物をしてフラグを立てるようなことを言っていたけど……さすがにこれは」  藤寺さんがフラグを立てるために忘れた物は。  鋸だった。 「鮮血な予感がするぜ」

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: