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39 :同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 [sage] :2007/02/26(月) 17:37:19 ID:OmIerb7I 眠り過ぎたせいか、頭に靄がかかっているようだった。 学校… 行きたくない… 午前7時。時計を見て最初に思ったのは、それだった。 行きたくない、というより、会いたくない。 昨日の視線を思い出しただけで、身体が震え頭がぐらぐらする。 今日は学校を休もう。 単なる逃げでしかないのは解っていたが、そう思うと少しは気が楽になった。 兄さんを起して、まだ具合が悪いって言おう。そう思った矢先、ノックの音が響いた。 「夏月、起きてる?」 朝が弱い兄さんがこの時間に起きているという事に驚いて、直に返事が出来なかった。 「…兄さん?」 「入るよ?」 わたしの小さな声に起きている事を確認した兄さんが、そっと部屋に入ってきた。 「どうしたの、兄さん? こんな朝早くに…」 「夏月の具合が悪いのに、ぐーぐー寝てられる訳ないだろ?  それより、具合はどう?」 朝が弱い兄さんがわたしを心配してわたしの為だけに、無理して早起きしてくれた。 ぎゅうと胸が締め付けられるような喜びに、緩む頬を見られない様に俯いて小さく返事をする。 「ん… まだちょっと……」 兄さんに嘘を吐かなければならない事に、罪悪感で一杯になりながらも、 それでも今日は学校には行きたくなかった。 おでこに手を当ててきた兄さんは、熱はないみたいだね、と優しく言うと、 俯くわたしの頭を軽く撫で、横になるように促がす。 「昨日の今日だし、今日は学校休もっか」 にこりと微笑む兄さんに緩く頷く。 「ごめんね、兄さん」 迷惑かけて、ごめんなさい。心配かけて、ごめんなさい。嘘吐いて、ごめんなさい。 「夏月はそんな事、気にしなくていいから。朝ご飯作ってくるから、寝てな」 「あ、大丈夫、自分で出来るから。兄さんは自分の用意して? 学校遅れちゃう」 そこまで迷惑かけられないよ。 「だから、気にしなくていいって。どうせ金曜だし、僕も学校休むから」 「え?」 兄さんが学校を休む? わたしのために? 「夏月は何も心配しなくていいから、お兄ちゃんの言う事ちゃんと聞く事。解った?」 「…うん」 わざと怒ったような顔をしていた兄さんは、わたしが頷くとにっこりと笑って、 ご飯作ってくるからと部屋を後にした。 冷え切っていたわたしの心が、兄さんの笑顔に気遣いに幸せで温かくなった。 40 :同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 [sage] :2007/02/26(月) 17:38:03 ID:OmIerb7I 学校を休んで兄さんと二人きりで家にいられるという事が、わたしを落ち着かせ、 昨晩あれだけ寝たというのに、午前中はずっと微睡んでいた。 どこもかしこも兄さんとわたしの気配しかしないこの家は、わたしにとって最後の砦だ。 ここに居れば大丈夫。何も怖い事なんて、ない。 余り物で作った雑炊で簡単にお昼を済ませると、枕元に座った兄さんに甘えて、 膝枕をねだった。兄さんは嫌な顔一つせず、あんまり寝心地いいとは思えないけど、 と言うと優しく笑って膝を貸してくれた。 兄さんの膝に甘え微睡みながら、ふと思い出す。 「ねぇ、兄さん。兄さんは憶えてる?」 「何を?」 どこまでも優しくわたしの髪を撫でる兄さんの手に、うっとりと目を閉じる。 「わたしが兄さんを、兄さんと呼ぶ事になった出来事を」 双子であるわたし達にも、勿論兄と妹という概念はある。 しかし歳が違う兄妹とは違い、双子にはその感覚は希薄であった。 兄さんとわたしも当初は兄妹という感覚は希薄で、名前で呼び合っていた程だ。 それは兄さんとわたしが5歳の頃だった。 初めて母方の本家の集まりに、一家で参加した時の事だった。 そこにいた同い年くらいの女の子に、わたしは目を奪われた。 艶やかな長い黒髪は流れる様に真っ直ぐで、長い睫毛に色彩られた大きな瞳は 宝石の様に黒く輝き、小さな唇は薔薇色にすっきりとした頬は桜色に染まっていた。 誰もが見蕩れてしまうような、神様が創ったようなお人形のような女の子。 わたしは、ただただ見蕩れてしまった。 するとその女の子は軽やかに、まるで羽根でも生えているかのようにふんわりと、 12・3歳くらいの少年の元に駆けていった。 「お兄ちゃま!」 その女の子が少年に呼びかけた事で、二人が兄妹だという事が解った。 その後、二人がどんな会話をしていたのか記憶にない。 しかし二人がとても仲睦まじく、兄の少年が妹であるあの女の子をとても大事そうに していた事が、強烈に記憶に残った。 本家の集まりから家に帰る車の中、わたしは父さんと母さんにお兄ちゃんが欲しいと 泣いて駄々を捏ねた。 わたしはあの女の子に、憧れていたんだと思う。 あの女の子が羨ましくて、あの女の子になりたくて駄々を捏ねた。 泣きくれるわたしに、父さんと母さんはお手上げだったらしい。 家に着く頃にはわたしも大分泣き止んでいて、夜も遅い事から兄さんとわたしは 早く寝なさいと子供部屋に押し込められた。 しゃくりあげながらも寝ようとしたわたしを、兄さんの小さな掌が止め、 促がされるまま二人して兄さんのベッドに座った。 41 :同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 [sage] :2007/02/26(月) 17:38:51 ID:OmIerb7I 「夏月は、お兄ちゃんが欲しいの?」 「うん。夏月、お兄ちゃんが欲しいの…」 兄さんに聞かれ、わたしはまた悲しくなった。 父さんも母さんも、お兄ちゃんはあげられないと言っていたのを思い出したからだ。 「ぼくじゃ、ダメ?」 「え?」 「ぼく、夏月のお兄ちゃんなんだよ?」 その時のわたしは、兄さんが言った事がよく解らなかった。 「ぼくと夏月は双子だけど、ぼくの方が先に生まれたから、  ぼくは夏月のお兄ちゃんで、夏月はぼくの妹なんだよ」 「陽太が夏月のお兄ちゃん?」 「そうだよ。だから新しくお兄ちゃんなんて、いらないよ」 「陽太のこと、お兄ちゃんて呼んでいいの?」 「うん! 夏月のお兄ちゃんは、ぼくだけだよ?  ぼくの妹も夏月だけだからね」 「うん! 夏月のお兄ちゃんは、お兄ちゃんだけだね!」 こうしてわたしは、兄さんを兄さんと呼ぶようになり、それ以来わたしの中で、 兄さんはもっともっと特別で唯一の存在になった。 「憶えてるよ」 わたしが記憶をなぞり終わると、兄さんもまた思い出していたのか、その分遅れた 返事が優しく降ってきた。 「夏月があんまり泣くから、困ってさ… それで、悔しくなった」 「え? 悔しい?」 意外な兄さんの言葉に、閉じていた目を開いて兄さんを見上げる。 「夏月には僕っていうお兄ちゃんがいるのに、欲しい欲しいって泣いてるから、  夏月が欲しがってる居もしないお兄ちゃんに、嫉妬した」 「…わたしの兄さんは、兄さんだけよ」 兄さんの言葉に呆然としてしまったけれど、咄嗟に口から出た言葉は、 偽らざるわたしの本音だ。 「僕の妹も夏月だけだよ」 あの時の再現のような、言葉遊び。 悪戯っぽく笑う兄さんのその言葉は、揶揄いが含まれているとしても、 わたしを甘く、どこまでも陶酔させる。 「兄さんがいてくれれば、それだけでいい…  兄さん以外、いらない…」 火照る身体の熱を逃がすように、吐いた息と共にそっと呟く。 42 :同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 [sage] :2007/02/26(月) 17:39:40 ID:OmIerb7I 「珍しいね、夏月がこんなに甘えるなんて」 「ダメ? 兄さんはこういうの嫌?」 兄さんが嫌だったら、もうしない。甘えない。 「ダメじゃない、夏月だったらいいよ。だからそんな顔するなって」 そんな顔ってどんな顔だろう? と思いながらも、起き上がってしまったわたしを、 横になるように促がす兄さんに従って、膝枕に戻った。 「普段こんな風に甘えてくれないから驚いたけど、こういうのもいいね」 「ホント?」 「ホントにホント。夏月はさ、小さい頃からあんまり我侭とか言わないじゃないか。  まあ、父さんも母さんも忙しいからって事もあるんだろうけどさ。  いつも頑張ってるし、僕にだったら、もっと我侭言ってもいいんだよ?」 「兄さん… ありがとう…」 どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう…! 兄さんが好き、兄さんが好き、兄さんが好き! 誰よりも、兄さんが好き! ピンポ―――ン…… 「あれ? 誰か来たみたいだ。夏月、ちょっと待ってて」 「うん」 来客を告げるチャイムの音に、名残惜しく兄さんの膝の上からどくと、 兄さんは慰める様に、わたしの頭にぽんと手を置きひと撫ですると玄関に向かった。 東尉君かな? あ、でもそれにしては時間が早いか… 勧誘か何かかな? 平日のこんな時間に居た事が、あまりないから解らないなあ… あれ? 兄さん、誰かと話してる? 二人分の足音が、この部屋に向かって来ている。 やっぱり、東尉君だったんだ。今日は学校早く終ったのかなあ? がちゃりとドアが開いて、わたしの愛おしい兄さんが入って来る。 そして… 「夏月、お友達がお見舞いに来てくれたよ。  どうぞ、伊藤さん」 どうして? どうして? ここは安全じゃなかったの? どうして? どうして? 「夏月、具合どお? 心配したんだよぉ」 怖いよ、怖いよ、怖いよ! 昨日の視線よりも、今目の前で笑ってる、好乃の笑顔が、怖い、よ… -続-

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