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142 :黒の領域 ◆mxSuEoo52c [sage] :2007/03/02(金) 23:01:14 ID:96pJgTHX
今日は英津子さんが休日だったので僕と彼女はお互いの顔を睨めっこするように一日中飽きずに見ていた。
それしかやることがないのだ。骨折した足の具合はまだ悪くて、外に出掛けることは不可能。
監禁している状態で僕を外出すると問題なく他人に大声で助けを求めるであろう。
それに対して英津子さんは会社に行く事と買物する以外は僕の隣で手を握っていた。
僕の温もりを感じるだけで安心するらしい。微笑ましい英津子さんの照れている顔にいい加減に飽きる。
毎日毎日同じ事の繰り返しだ。そこに退屈を覚えても、新たな新鮮な出来事に遭遇するわけでもないし、
電波女と慰めしかやる事がないのはいろいろと欲求不満になってくるわけだ。
ここで初めて僕はこの監禁されている場所から抜け出して、自分の家に帰りたいという気持ちが胸から溢れだしそうになった。
さっさと僕の居場所に戻って、僕の世界へと回帰する。仲間達とまだまだ遊びたかったし、
引き裂かれる寸前の家族を救うことも諦めていなかった。
そろそろ、20過ぎの独身女性の心の隙間を埋めるボランティア活動は終了させてもらおうか。
機会はある。
英津子さんは今日は休日なので必ず買物に行く。その瞬間を狙って、ドアを叩き開けて周囲に助けを呼ぶ。
その辺を歩いている通行人でもいい。助けを呼べば……僕は帰れるんだ。
昼頃を過ぎると英津子さんは冷蔵庫の中を険しい顔をして覗いていた。
普段は仕事で忙しい彼女は休日にいろいろと買い溜めをしておいて、休日になるまで食材や材料を切らさないように気を遣っていた。
また、休日になると食料を補充するために買物に出掛ける。
これが僕と英津子さんが同居している時に気付いた彼女の生活パターンである。
もちろん、自宅に僕がいるから鍵を閉めるなんてことはしなかった。
「京介君。お姉ちゃんねぇ、ちょっと近所のスーパーまで買物をしてくるから。よい子で待ってくださいね」
「はい。わかりました」
僕はいつものように笑顔で返事を返すと外に出掛ける英津子さんを注意深く観察する。
バックを持って、英津子さんが玄関に行ってドアを開けて出掛けるところを確認すると。
時計で5分ぐらい待ってから、作戦を実行に移す。
寂しさと孤独を紛らわす生活に慣れていた英津子さんは油断していた。
一緒にご飯を食べて、一緒に居る時間が長かったから
英津子さんは僕が立派に調教されて大人しく従う愛玩動物になっていると……。
現実はそう甘くない。帰る場所がある人間は揺るがない。
擬似的に僕の寂しさと孤独が英津子さんによって癒されたとしても、
捨て去ることができない物がある以上は優先順位に従って、人は行動する。
だから、僕は動かせば激痛がする足を引き摺ってまで玄関のドアの方向へゆっくりと動いた。
左足を軸にして、大根によって折られた右足を少しづつ動かす。
1cm単位でも動かせば、感じたこともない痛みに苦渋の表情を浮かべるが。僕は我慢した。
希望の扉まで後もう少し。ノブに手が届くと僕は最後の力を振り絞って。
ドアを開けた。
143 :黒の領域 ◆mxSuEoo52c [sage] :2007/03/02(金) 23:03:36 ID:96pJgTHX
ドアを開けた瞬間、僕に待っていた光景は久しぶりに見るはずの外の光景。
のはずだった。
開けた先には英津子さんがいつものように優しく微笑んでいる表情を浮かべて待ち伏せるように立っていた。
「京介君……、一体何をやっているのかな? かな?」
「あっっ……、いやぁぁ……」
僕の顔色がどんどんと青くなっていくのがわかる。英津子さんは外見は笑顔を崩さずにいるが、
目は全然笑っていなかった。女の子が怒っているのは、暴力や汚い罵声など
頼らずにただひたすら冷笑するだけで男を怯えさせることができるのだ。
「お姉ちゃん。言ったよね? 京介君はよい子で待ってくださいね? どうして、私との約束を守れなかったの。
そんな悪い子にはちゃんとしたおしおきが必要だよ」
「い、いやぁ……。や、やめて」
英津子さんは僕を突き放すように押すと尻餅を着く。その間にドアを閉めて英津子さんは僕の方に近寄ってきた。
「京介君はもう私の物なんだよ。勝手に外に出掛けたらどうなるかわからないわけじゃあないでしょ。
私と京介君だけの生活が終わちゃうんだよ。私は絶対にそんなの嫌っ!! もう、一人は嫌なんだよ」
骨折している足の激痛に襲われて蹲っている僕を見下すように冷たい視線で英津子さんは睨んでいた。
視線を合わせるのが恐くて、僕は思わず外した。
「京介君。今度はどこの体を痛め付けて欲しいの? 左足? 右腕と左腕。
どちらが不自由だったら今度はもう私たちの楽園から逃げ出そうとしないはずだよね?」
「もう、やめてぇぇ……。謝るから。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
だから、もうこれ以上は痛い目に遭わせないでください。お願いしますっっ!!」
「そんなに懇願しなくても……。まだまだ、大根はこんな時のためにたくさん買ってきたから大丈夫だよ」
「だ、だ、だ、だ、いこんいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!」
冷静な判断できずにあまりの恐怖に僕は精神の限界に耐え切れずに癇癪を起こす。
あちこち身体を激しく動かし、首を左右に揺らす。口から溢れだす唾液は垂れ流していた。
「もう、こんなことはしないよね?」
「う、う、うん」
僕は必至に首を下に振って頷いた。英津子さんの迫力に圧されて、僕の体は硬直していた。
喉の奥深くから懇願するようにようやく声を搾り出して言うと、英津子さんは満足な表情を浮かべた。
「でもね……。ちゃんとおしおきするよ」
「えっ……?」
唖然とした僕の隙を突いて、英津子さんは僕の唇を奪った。
それはキスと呼ばれる行為だったかもしれない。
「んっ……ちゅうちゅ……あっ。京介くぅぅん」
僕の唾液と英津子さんの唾液の交換し、僕の口から侵入してくる英津子さんの暖かい舌が僕の舌と絡み合う。
初めての体験に脳に鋭い電撃が落ちたような感覚に陥る。
英津子さんとの行為に没頭していると骨折した足の痛みもどこかへと飛んで行く。
「え、英津子さんっ……」
「お、お、お姉ちゃんの舌は気持ち良かった?」
唇から離れると僕と英津子さんの間に唾液の糸がいやらしく繋がっていた。
その光景に年頃の男性である僕は興奮を覚える。それは、快楽の表情を浮かべている英津子さんも動揺であった。
「き、気持ちよかった」
「京介君が私の初めてだよ。ファーストキスを貰ったのは……」
「僕も初めてだったよ」
「だったら、ちゃんと責任取ってくださいね。京介君」
「ええっ……!?」
「つ、次はお姉ちゃんのセカンドキスを奪って欲しいな」
僕の返事を待たずに英津子さんはまた僕の唇を奪う。貪るように僕の唾液を飲み込む彼女を拒むことは僕の頭の中にない。
もう、僕はこの監禁生活という現実をしっかりと受け止めてしまったから。