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813 :幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/08/21(木) 22:33:25 ID:frfOcExm 第4話『動機』  ■幽霊視点  私が死んでから、何年の月日が流れたでしょうか?   幽霊になると本当に自分の流れる時間の間隔が曖昧です。  普段は誰もいないアパートの一室にて独りで過ごす日々が続いたせいか、孤独がたまらなく恐くなっていました。 この幽霊物件と呼ばれた部屋を借りようとする人間は私の存在を知ると数日以内に居なくなる。 最近では噂が蔓延なく行き届いているのか、借りようとする人間はいなくなっていたはずでした。 すぐに独りぼっちになるけど、一番堪えたのは私の存在を拒絶して痛々しい一言を私にぶつける。  私だって生前は恋する女の子なんですよ。  化け物とか、幽霊とか、人殺しとか言われて喜ぶ人間なんてこの世にいるはずがない。 その言葉を聞くだけで普通に傷つきます。1週間以上はずっと落ち込んで泣いたままなんです。  成仏できない間はそんな酷い毎日が続くと私は思い込んでいた。だけど、世の中には幽霊以上に生粋な方がいることを私は知りました。    松山光一さん。  現在の私が住み着いている部屋に住んでいる男の子。  その人は私が幽霊だと知っていても、部屋を抜け出すこともなく、 私の存在に怯えて拒絶せずに何となく家賃が安くなるというだけで私を受け入れてくれた人。  それだけで私の寂しさと悲しみは癒された。癒されたんです。  たった、小さな、いや、本当に小さなきっかけで人の心というのものは癒されると実感しました。  光一さんの共同生活は……私がずっと夢見ていた彼氏彼女の生活を送っています。  光一さんと一緒にいるだけで胸の鼓動が止まりません。  これが恋なのでしょうか?  生前の私は本当につまらない人間でした。   受かった大学が自分のレベルよりも難易度が高かったために留年と退学の二つの選択肢に挟まれて勉学に忙しい日々。  大学で出来た友人は男漁りのために大学にやってきたんでしょうか?   毎日、毎日、毎日、どこぞの男の人と合コンに行ったり、デートしたり、  真面目に日々を生きている私が馬鹿馬鹿しく思えるぐらいに遊んでやがりましたよ。ちくしょうが。   814 :幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/08/21(木) 22:34:29 ID:frfOcExm  そんな男ばっかり追いかけていた友人の幸せな顔を見た時はちょっとばかりの殺意と恋に対する憧れな想いを抱きました。  女を磨くためにゃ、それなりのお金がいる。新しいお洋服に、TVで怪しい通販番組に電話をして怪しいダイエット商品と  ヤベぇ薬など購入したり、と女の子はとてもお金がかかるんです。  自然と両親から送られてくる仕送りばかりでは生活できずに山に芝刈りに行く事を誰が責められようか?   ええっ。  山の豊富な食材を仕入れないと私の生活はやっていけませんでしたね。  そこらに生えている怪しいキノコや雑草や木の実など自然の食材はタダなので食費節約に本当に丁度良かった。  ただ、それが私の死亡フラグになろうとは夢にも思いませんでした。  その晩に山から取ってきた食材をどうやって美味しく料理を食べるのかと神の一手を打つぐらいに長考して、導き出した答えは。  とりあえず、何でも焼いておこう。炭で。  部屋を閉め切っていることも気付かずに炭で食材を焼いて、何か灰色の煙が部屋を充満するが空腹の胃袋が暴れているので  そんな細かいことは気にしません。キノコを焼くと美味しいそうな匂いがしたので私は無我夢中で食い散らしていると体に異常が。  口から笑いが全く止まらなくなったのです。その場で笑っている間に炭を焼いた煙が部屋中に行き渡り  私は笑いながら、一酸化炭素を中毒になるまで吸って。  死亡。  死因  一酸化炭素中毒死。    当時は女子大学生が一酸化炭素中毒自殺したと小さな新聞社が取り上げていましたが、 それだけで宮野由姫という人間の死はそれ以降は触れられることはありませんでした。    まだ、恋の一つもしていないのにこんな死に方をすれば、死んでも死にきれますか!!  その未練が残っている限りは私は幽霊として存在し続けることでしょうね。  だから、光一さん。  あの女と関わるのはもうやめてください。  わたし、私だけを見て。お願いですから。 815 :幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/08/21(木) 22:36:28 ID:frfOcExm ■光一視点  昼頃になると何だか睡魔が襲ってきそうだが、幽霊が背後霊のようにべったりと甘えている事以外は何事もない平凡な休日であった。 ある程度の家事を済ませて、ヤンデレゲーをやっていると俺の携帯にメールの着信音が鳴っていた。  メールの相手はなんと、藤寺さんだった。  この間、俺の家へ遊びにやっていた時は後ろで可愛らしく睨んでいる幽霊が体を乗っ取るという珍騒動のおかげで 大した時間も取れずに帰っていた。というか、俺が痛い人という誤解を解くことが大半だったような気もしなくはないが。  メールの内容は単純にこう書いてあった。  松山くん  あの、この前に遊びに行った時に私忘れ物とかしなかったかな?  ちょっと、人の頚動脈ぐらい簡単に切り裂きそうな、毎日毎日研いでいる  鋸なんだけど。  もし、松山くんの家に忘れているんだったら  今、公園にいるので持って来てくれないかな? その後に、一緒にどこかへ食べに行こうよ。  ということで今から30分以内に来て下さい    絶対に来てね。私、ずっとずっと待っているから  それじゃあ。  あんな危ないモノを持って、公園まで行くのかよ。  と、メールを読んだ俺の感想だった。 「ふーん。光一さんは健気な幽霊を置いて、可愛いあの子とお昼を食べに行くんですか」  背後霊が嫌味たっぷりに言ってくる。まるで小姑のような細かいことをネチネチといびってやると思い切りに顔が出ていた。 「由姫さんはお留守番。水と食料は備蓄しているので勝手に食べてくれ」 「いや、私幽霊なんだから別にそんなもの食べなくても生きれるし」  由姫さん。あんた、死んでるでしょ。 「それに光一さん、あの女は危険です。常識的に考えてくださいよ。 どうして、鋸なんかを人様の家に忘れてくるなんてありえないですよ」 「常識外の存在がそれを言うか?」 「女心を理解できない光一さんよりも説得力がありますよ。恐らく、 今回は光一さんを遊びに誘うために忘れて行った鋸を口実に使ったようですね、むむっ、許せん」 「鋸はちゃんと隠して持っていかないと銃刀法違反で逮捕されるし」 「行くんですか?」 「行くよ」  藤寺さんがそこまで気を遣って誘ってくるなら男として行かなきゃならない。家で由姫さんと一緒にいるよりはマシだね。 「むむむっ。私と一緒に居てくれるって約束したじゃないですか!!」 「約束してないでしょ」 「休日は家族と暮らすのが一番いいんです。芸能人が貧乏人には一生食べられないだろみたいな美味しいそうな高級料理の紹介している テレビ番組を一緒に見たり、貧困層には一生行けないような観光地特集とか見て、今日は過ごしましょうよ」 「何かそれヤダ」  幽霊と一緒にテレビ番組を見る内容がそんなモノしか流れてない放送を視聴するだけで心が病んでいきそうで恐い。 というか、番組内容にちょっと殺意が沸きそう♪ 「それだったら、藤寺さんと一緒に昼を食べて来るよ」 「ぬっ? ワタシヲステルンデスカ?」 「捨てるとかそういうんじゃない。ただ、付き合うなら生身の女の子がいいと思うんだ」 「生身!? 生身ですか。やはり、幽霊のような不老不死よりも若くてピチピチした人の方がいいんですね!! うっっっっっ!!!!!!」 「若さの問題じゃねぇだろ」  と、幽霊は泣き崩れて会話にもならんかった。幸い、俺は幽霊に同情して優しい言葉をかけるような人間ではなくて、 号泣している由姫さんは完全にスルーして、藤寺さんが忘れた鋸を適当な包装紙に包んで、さっさと我が家を後にした。   816 :幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/08/21(木) 22:37:33 ID:frfOcExm ■幽霊視点  殺してやる!! 殺してやる!! 殺してやる!! 殺してやる!! 殺してやる!!  殺してやる!! 殺してやる!! 殺してやる!! 殺してやる!! 殺してやる!!  殺してやる!! 殺してやる!! 殺してやる!! 殺してやる!! 殺してやる!!  光一さんを!! この手で八つ裂きにしてあげます。何が生身の女の子ですか?  私のような幽霊は光一さんの心をGETするような魅力がないと言うつもりでしょうか?  許せなかった。  私よりも、あの女を選んだ光一さんが。  幽霊という存在はこの世に未練があるという他に存在する方法があると聞く。  それは『憎悪』  人を呪い殺すことができる憎悪という感情こそがこの世に干渉する程の力を持つことができる。 すでに人の心を捨て去った私は充分に光一さんを殺すための力がある。  所詮、死者と生者。結ばれるはずもない二人が恋仲の関係になるなんてありえないんです。 だったら、どうすればいいか?  私は今まで考えることを拒否したことに辿り着く。  光一さんが生きているなら、死者になってもらえばいい。 私が生き返るなんて奇跡が起きるはずもない。光一さんに幽霊になってもらって、二人は永遠に愛し合って生きていく。  それが一番の理想ですね。  他の女の人に渡してたまりますか。  これは私の幽霊として意地です。  痛みも感じさせずに殺してあげますから    楽しみに待っていてください。光一さん。  天国と地獄を充分に味わって、一緒に逝きましょう。無限の監禁の始まりです。  それが私達にとって、何よりの幸福ですから。  さてと、荷造りして新天地を目指しましょうか。  よいしょ。よいしょ。

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