「すりこみ第六話」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

すりこみ第六話」(2008/08/23 (土) 14:11:50) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

290 :すりこみ [sage] :2007/06/10(日) 08:46:49 ID:eTE5kQkN 私は何の為に生きているのだろう… ふと、自分自身のことであるのに他人事のように思えるときがある。 生きる目的…人は何の為に生きて、そして何を成して死ぬのだろうか… 私はその目的を遂げる為には手段を選ばなかった。ううん…それしか選べなかった… でも手段を選ばなかった結果…大切な目的が遠くに感じるようになったら… やはり、その手段は間違っていたのだろうか? だけど、あの時選んだ選択肢の他に私に選べる道があった? 人生にもしも…はないってことを知ってる。だから私は自分の選択に後悔なんて無い。 後悔なんて微塵も無いはず… でも、じゃぁどうして私はそんなことを考えてしまうんだろう… 「生中お代わりお願いね~♪」 空になったジョッキを振り回し、姿の見えない店員に向かって叫ぶと「はぁい、よろこんで♪」と、元気な返事が返ってくる。 そんな私の様子を呆れ顔で見つめているのは高校時代からの悪友、遠山景子だ。 「それで…君はまた…なんで地雷を踏むかな?」 「…地雷じゃないよぉ~…ん…敢えて言えば…運命?」 「あれを地雷と呼ばずしてなんと呼ぶのだ?君の脳細胞は学習能力がないのか?それとも懲りるという言葉が辞書から消えうせているのか?」 「前の…そりゃぁ失敗だったけどさぁ…でも、今度のは…ちょっと違うんだよぉ?」 同じような会話を前にもした覚えがある。それはさっき?それとも前回? 景子の主張は要約するとこうだった。 「君は男運が決定的に悪いんだ。」 確かに、前の夫との離婚の際には景子には世話になった。 いや、正確には景子のお陰で離婚できた…そのことはすごく感謝している。 前の夫は結婚当初は本当に優しい彼だった…でも、優しかった笑顔はたった半年で霧散し、 彼は仕事がうまく行かないのはお前のせいだ、 夏海が泣くのはお前のしつけがなっていないからだって… 何かことあるごとに私をなじり、殴り…そして犯した…。 その当時の私は自分自身の至らなさが彼を怒らせたんだ…もっと頑張らなきゃ …そんな風に自分自身を責めていた。だって、そう考えないと …あの優しかった彼が変わってしまった理由が思い浮かばなかった…そう思うことで救いを求めていたのかもしれない。  そんな私の様子を見かねて景子が力になってくれなかったのなら…今頃私はどうなっていたのだろうと今でも思う。 この街に住むことも、前の夫と別れることも…そしてあの人に出会うこともきっとなかった・・・ そう思うと景子にはどれだけ感謝しても、したりなかった。 「って景子・・・なにをやってるの?」 「いや?君が私をほったらかしにしてまた自分の世界に入っているものだからな。 どうせその新しい男のことでも考えていたんだろ?そんなわけで、退屈しのぎに君がどれくらい気づかないのか実験していたところだ。」 気がつけば景子は大きなカメラを片手に私の頭にネコミミのカチューシャを被せ、ぱちりぱちりと写真を撮っていた。 ……我ながら…ど~してここまでされてて気がつかないかにゃぁ… ぱちりという音とまぶしい光 「まぁ、また何かあったら相談するように…いいな?まぁ、落ち着いたら一度様子を見に家の方に遊びにいくからその時はよろしく」 しゅたっ!と右手で南無~のポーズを取る景子の姿はまるでお母さんみたいだった。 291 :すりこみ [sage] :2007/06/10(日) 08:48:08 ID:eTE5kQkN 「えっ!晶子さん…結婚するの!?」 「そ~なんですよ♪だからフグタさん…お祝いくっださいね♪」 「いや、だから僕は福田(フクタ)だって…」 賑やかな店内にフグタさんの声が響き渡る。フグタさんはよく店に来てくれる常連さんで週に五日ぐらいのペースで通ってこられる。 今日もいつものように一人、開店時間から店に足を運んでくださった。 「晶子さん、今度美味しいものでも食べに行きませんか?」 「う~ん…ごめんなさい。また今度誘ってくださいね?」 「うん、じゃぁまた…今度誘うよ。」 そんな挨拶代わりのやり取りも今日で何回目だっけ?と指折り数えて…いち…にぃ…さん……たくさん? フグタさんは何でも大きな会社の偉い人…らしいんだけど、全然偉ぶってないし、他のお客さんを連れてくるわけでもないし… 一度もスーツ姿を見たことはないし…とてもそんな風には見えないところはフグタさんの謎で面白いところだと思う。 「そっかぁ……それで…相手はどんな人なんですか?きっと…いい人なんでしょうね。それじゃぁ…晶子さん…お店辞めちゃうんですか・・・」 「いえ、まだ再来月まではお店に居ますよ?だからぁ…遠慮しないでお祝いくださいね♪」 いつのもようにまんだむのポーズで考え込むフグタさんは、ぼぉっと壁に掛かっている絵… なんとか言う有名な画家の作品らしいけど私はあんまり好きじゃない…絵を見つめていた。 「あの…絵と高価なものはいらないですよ?」 「あ…そうなんですか……じゃぁ…晶子さんは…なにが欲しいですか?」 「ん…欲しいものですかぁ…」 幸せな毎日…不安の無い毎日…穏やかな日々…でも、プレゼントでもらえるようなものじゃないよね?…う~ん…う~ん…う~ん…」 「遠慮せずに言ってください。私でできることでしたら・・・」 「…欲しいもの…ですかぁ………今は思い浮かばないですね♪」 「…そうですか…それでは、私のほうでも何かいいものがないか考えておきますね。」 フグタさんはそういってグラスの中のウイスキーを飲み干した。 結果から言えば私はフグタさん…いえ福田さんに退店の時に大きな花束を貰った。 「晶子さん。お幸せに…」 祝福の言葉と、初めて貰うような真っ赤なバラの花束に感極まって瞳に涙が溜まる。 「はい、フグタさんも…お元気で」 できる限りの笑顔で微笑み、タクシーに乗り込み、もう一度フグタさんに手を振る。運転手さんに行き先を告げると、 フグタさんとの距離が少しずつ広がっていく。ネオンの光の中にその姿が見えなくなるとまた涙が溢れた。 「幸せに…か…」 今までの人生をふと振り返りながら、ふと花束に目を移すと小さなメッセージカードが添えられていることに気がつく。 「へぇ…」 ちょっと意外だった。あのフグタさんがこんな可愛いメッセージカードを私の為に選んでくれている姿を想像すると、 くすりと笑みが零れると同時に涙が溢れてきた。 「なにが書いてあるんだろう…」 私は可愛い封を丁寧に剥がした。 292 :すりこみ [sage] :2007/06/10(日) 08:49:18 ID:eTE5kQkN 「じゃぁ、次はこれを着てくれるかい?」 彼はいやらしい笑みを浮かべながら私にその衣装を手渡した。 体操服にブルマー…部屋の中を見渡すと無数の制服…制服…制服… 私は俯きながらそれを受け取り…躊躇いながらも…ゆっくりと着替え始めた。 結婚後、私と夏海は冬彦さんの家に引っ越しすることになった。 それというのも、冬彦さんは郊外に大きな古いお屋敷…小さな蔵もあるような大きな家を持っており、そこに春樹君と二人で暮らしていると言っていたからだった。 「いやぁ…家が広いのはいいんだけどね?広すぎちゃって困ってたんだよ。ほら、掃除も行き届かないしね。」 タクシーにお金を払い、荷物を下ろすと大きな屋敷が目に入った。 「……おっきぃね…」 「うん…これ広いとかって…レベルじゃないよね…」 その夏見の言葉どおりに冬彦さんの家…いえ、私たちの家はとても大きかった。 しかし、その中身はといえば 「……きちゃないね…」 「うん…でも、これは…汚いって…レベルじゃないよね…」 家に一歩足を踏み入れると、黒いゴミ袋が無造作に積み上げられ、机の上にはインスタント食品の容器や菓子パンの袋、ジュースの缶やパック、 開けっぱなしのお菓子の袋…台所には洗いものが山のように積み上げられ、洗濯物はあちこちに散乱していた。 冬彦さんは器用に飛び石を歩くように物の置いてない床を選んで奥へと進んでいく。 「いやぁ、あっはっは。なにせ男所帯だからさぁ…」 そんな風に笑っていたが、時折その隙間を縫うように足元を黒い物体がかさかさと我が物顔で這い回っているんですけど… とんとんとん… ゆっくりと視界に入ってくる小さな足。 木製の階段をゆっくりと下りてくる影があった。 「おぅ、春樹か。ちょうどいいや、ほら、ちゃんと挨拶しろ。今日からお前のお母さんになる晶子さん …は、前に会っていたっけ?まぁ、いいや。あとお前の妹になる夏海ちゃんだ。」 「おかあ…さん?…いもうと…?」 春樹くんは突然のことに呆然とした様子だった。あれ?…なんで驚いているんだろ… そんな風に考えていると 「あれ?言ってなかったけ?父さんな…再婚したんだ。で…今日から一緒に住むことになったんだ。」 「…あの…冬彦さん?もしかして…春樹君に言ってなかったんですか?」 「ああ、うっかり…」 「うっかりじゃないですよ!ほら、春樹君だって驚いているじゃないですか!」 驚く春樹君の前にしゃがみ、目線を合わせて頭を撫でる。 「お…香亜…さん?」 「うん……でも、春樹君が私をお母さんって呼ぶのが嫌だったら…晶子さんでもいいからね? でも…夏海とは仲良くしてあげてね?」 背中に隠れてもじもじしている夏海の手を引き、春樹君と引き合わせる。 「ほら…夏海?ご挨拶は?」 「……小西夏海です…」 「……藤岡春樹です…」 「夏海?今日からあなたも藤岡…なのよ?」 「……藤岡?」 「そう、あなたの名前は今日から藤岡夏海。私も…藤岡晶子になったのよ♪」 「藤岡…夏海…」 「とりあえず…よろしく」 「…あ…あの…」 そういって春樹君は手を差し出した。夏海は胸の前で手を組み戸惑っているようだった。 …しょうがないわねぇ…私は二人の手をとって握手をさせた。 「ほらっ、あ・く・しゅ♪二人とも仲良くしてね?」 顔を真っ赤にして俯く二人。でも、私は二人の小さな声が聞こえていた。 「…ぅん」「…ぅん」 二人の微笑ましい初々しさに思わず笑みがこぼれる。 …でも、まずはこの家をなんとかしなくちゃねぇ……かさかさと動き回るそれを横目みながらそう思った。 293 :すりこみ [sage] :2007/06/10(日) 08:50:28 ID:eTE5kQkN 翌日から大掃除に明け暮れる毎日が始まった。 ゴミを片付けゴミ袋にまとめ、家の中からゴミを一掃していく。殺虫剤を振りまき、炊事場を磨き、洗濯機を回し、たまった洗い物を片付ける。 …これって…終わるのかしら?ゴキブリほいほい満員御礼の状態に思わずそんな独り言が漏れる。一匹見つけたら三十匹…って言うけど……ふぅ…とため息をつきながら丸めた新聞紙で闊歩するそれを叩き潰す。 「でも、最初の頃に比べると…少しはマシに…なったのかなぁ?」 頬に手を当て思わずため息が漏れる。あんな環境で育った春樹君は少しだけ…世間とずれているところがあった。ゴミを捨てるという習慣と… 「この虫を見てもなんとも思わないところよねぇ…」 冬彦さんはなんとも思わなかったのかしら…そんなことを思いながら、ふと微笑む。夏海は相変わらず泣き虫だったけど、春樹君は素直で面倒見のいいお兄ちゃんになってくれていたのだ。しかも、春樹君は私が教えたことを 「いいか?ゴミはちゃんとゴミ箱に捨てなきゃいけないんだぞ?」 「?うん、わかりましたぁ♪」 夏海にちゃんと教えて…まぁ、内容はともかく、面倒を見てくれることが嬉しかった。 二人の仲のよさは私にとって微笑ましく、またこの家での生活を明るくしてくれていた。 冬彦さんは仕事の関係で忙しいらしく、家に帰ってくることは少なかった。でも、家に居る時には積極的に子供たち …夏海とも遊んでくれるいい夫…だった様に思う。なにより、前の夫と違い私に暴力を振るうことはない。 景子が心配した悪癖…冬彦さんの女癖の悪さ…も結婚前の約束を守って治まっているように感じていた。 その代わりに私は彼の要求に全て応える。それが結婚前に彼と交わした約束だった。 「きっと君に似合うと思うんだ…」 そういって彼は私の手を引き、この小さな蔵に誘った。 薄暗い蔵の中には外面とは裏腹に、まるでテレビ局のような撮影機材と無数の制服と大量のビデオテープが所狭しと並べられていた。 ここだけ家とは違いきちんと整理整頓が行き届いた空間だった。 私は異様な匂いを感じ…すん…と鼻をならした。鼻腔に浸入してくる奇妙な匂い…男と女の汗の匂い… ここで一体過去になにがあったのか…考えるまでもない。ここは冬彦さんの城だった。 ここに冬彦さんは連れ込み…ここで… 部屋の中央にはマットレスが無造作に置かれ、その上には白いシーツ。それを取り囲むようなライトとビデオカメラ… 冬彦さんは嬉しそうに鼻歌を歌いながら部屋の隅で衣類を物色していた。 「ど・れ・に・し・よ・ぉ・か・なぁ…ふふふ」 それが私と冬彦さんの夫婦生活の始まりだった。 結婚し始めた頃はそれこそ毎晩、子供たちが寝静まると蔵の中に誘われていた。 …そういうものなのかな…そういうものなんだ… 私は冬彦さんの趣味…嗜好を受け入れていた。 人に言えない部分。 人に明かせない…明かしにくい部分を冬彦さんは正直に打ち明けてくれたんだ。 受け入れよう。彼の望むことを受け入れよう… 恥ずかしさはもちろんあった。 でも、冬彦さんが誉めてくれるたびに私は満たされていた。 294 :すりこみ [sage] :2007/06/10(日) 08:51:53 ID:eTE5kQkN 「…え?…なんで……なの…」 ゴミ捨て場で背中から包丁を生やして横たわっている冬彦さん。 そして、その傍らで荒い息を吐いている春樹君…そして蔵の中から聞こえる夏海の泣き声… 何?何?何…なにが…どうして… 心臓がばくばくと高鳴る。 何が…どうなって… 春樹君が…冬彦さんを…刺した…ころ…した…? 冬彦さんが…し…んだ…?しんだ?…嘘…嘘…嘘…嘘… 救急車!?…でも、なんて言えばいいの…春樹君が冬彦さんを刺したって… それに、死んで…死んで…死んで…春樹君が…捕まる… 警察…!?でも、なんで…どうして…どうして…どうして… …落ち着いて…落ち着いて…落ち着いて…落ち着いて…落ち着いて… でも、なんで…どうして…なんで…どうして… どうすれば…私はどうしたらいいの? 私にはわからなかった。 冬彦さんが死んでいることも受け入れられなかった。 目の前に横たわる冬彦さんを目の前にしてもそんな事実は受け入れられなかった。 春樹君が刺したなんて事実も受け入れられなかった。殺してない…殺してない… 春樹君がそんなことをするわけが無い…あんないい子がそんなことをするわけ無い… 夏海が蔵の中で泣いているわけが無い…そんなはずはない…だって…だって… …夢…悪い夢…醒めて欲しいと願った・・・誰かに嘘だといって欲しかった。 こんなのは嘘だって…こんなのは嘘だって…こんなのは嘘だって… 295 :すりこみ [sage] :2007/06/10(日) 08:52:53 ID:eTE5kQkN 「晶子さん…大丈夫ですか…?」 気がつけば目の前にはフグタさんが心配そうな顔をしている。 春樹君の姿も夏海の声も聞こえない。 …あれ?…なんでフグタさんがこんなところに居るんだろう…… あ…そうか…私がフグタさんに電話したんだ… 「あのぉ…フグタさん?お久しぶりです」 「あ…晶子さん!お…お久しぶりです。ですが、こんな夜更けに一体どうされたんですか?」 「あのぉ…私…人を殺しちゃったんです。」 「な…なにを…言っているんですか…あの…大丈夫ですか!」 「はぁい。大丈夫です。私がぁ…冬彦さんを…刺して…殺しちゃったんですよ?」 「と…とりあえず落ち着いてください。今どこです?直ぐに行きますから!」 「今ですか?今はぁ…家にいますよ?」 「そこから動かないでください!直ぐにいきますから!」 …なんかそんなことを電話した気がする…… 手を見れば真っ赤な血の付着した包丁がしっかりと握られていた。 …あれ?・・・…あ、そっかぁ…私が冬彦さんを刺したんだ…何度も何度も… 「とりあえず…この包丁は処分しますので…こっちに渡していただけますか?」 いつの間にか目の前に居たフグタさんが包丁の刃先をつまみ、落ち着いた様子で私に話しかけていた。 …フグタさん…どうしてこんなに落ち着いているんだろ… 「はい、ゴミはゴミ捨て場に捨てておいてくださいね?」 「…ゴミ…ゴミですか?」 「はい、だってここ…ゴミ捨て場ですし…」 フグタさんは携帯電話をポケットから取り出して…何かを喋っていた。ぱちんと携帯電話を閉じポケットにしまうと。 「わかりました。それならゴミはきちんと回収業者が回収に来るそうなので…安心してください。」 「よかったぁ…ちゃんと引き取って貰えるんですか?」 「はい…ちゃんと責任もって処分させますので…ご安心ください。」 フグタさんの顔が頼もしかった…なんでだろう…何故だかほっとする。 「晶子さん…冬彦さんは…申し訳ないのですが女と失踪した…そういうことになりますので…」 …失踪…女と?…失踪……なんだ…死んだわけじゃなかったんだ…よかった…本当によかった …生きてさえ居ればきっとまた会える。 あの人はきっと私のところに帰ってくる…あの人はきっと…帰ってくる…いつかきっと… 「そうですか…本当にしょうがない人ですね。もぅ♪」 微笑みながら、ふと服を見ると随分と汚れている… 「あらあら…どうしましょう…この服は…クリーニングに出さないと駄目かしら…」 「いえ…あの…晶子さん。それももう…処分した方がよろしいかと…」 「あ、そうですね。じゃぁ…お願いできますか?」 汚れた服を脱ぎ始めると、フグタさんがなんだか慌てた様子で背中を向けた。 …どうしたんだろ…ふっと、力が抜ける。どうしよ…お風呂に入って…今日はもう寝よう… なんだか今日は…とっても…疲れた… 背中越しにフグタさんもタイミングよく 「晶子さんは…もう、今夜はお休みください。あとは私が責任をもってきちんとしておきますので」 その声に安心した。…よかった…フグタさんが居てくれて… 「はい、それではおやすみなさい。フグタさん♪」 軽く会釈し、家に戻る。熱いシャワーを浴びると疲れも一緒に洗い落とされていくようだった。 「冬彦さん…浮気しちゃったのかぁ…また景子にお説教されちゃうのかなぁ…」 そんなことを私は考えた。 それはとっても悲しいことのはずなのに… なのに…何故だか私は安心していた。 大丈夫…いつか冬彦さんはきっと帰ってきてくれると…

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: