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210 :いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] :2007/07/10(火) 22:24:55 ID:l55ZmRKf ・21話  ――そうして。  僕は独り、夜の校舎の前に立っている。  空に浮かぶ月はようやく真上にたどり着こうとしていた。真っ暗な夜の中、そこにだけ ぽっかりと穴が空いたかのように輝いていた。近くに街灯はない。懐中電灯なんて持って きていない。月明かりだけが頼りだった。  それでも。  闇の中、静まり返った校舎は、月明かりを浴びて――くっきりと浮かび上がっていた。  蜃気楼のように。  現実味もなく。  現実感の失われた景色。  日常から、遠く乖離した光景。  ソコにあるのは、昼間に通う学校とは、まるで別物だった。  ――異界。  彼女たちの言う、ソレにこそ相応しいのだろう。 「…………」  異界となった学校を、独り、見上げる。  当然の如く、周りには誰もいない。僕独りだ。独りきりだ。  神無士乃は傍にはいない。  神無士乃は何処にもいない。  如月更紗は傍にはいない。  如月更紗は、向こうにいる。  向こう側で――僕を待っている。 「……行くか」  僕は独りごち、校舎を乗り越えようとして……止めた。夜中の学校に正面から忍び込んで もし警報が鳴りでもしたら全ては台無しだ。  他の誰にも、邪魔されたくなかった。  幸い制服を着たままなので、闇の中に溶けるようにしてそう目立ちはしないだろう。と、思う。多分。 それでも補導でもされたら事なので、こっそりと、見つからないように気をつけながら校門沿いに裏手 へと周る。 「…………」  歩きながら――ふと、笑いそうになる。  補導。  見つからないように。  そんなことを、そんな当たり前のことを、当たり前のように考えてる自分に。  ――しっかりしろよ里村冬継。そんな『日常』が、一体何処にある?  心の中で誰かが囁く。  頭の中で自分が囁く。  そんなものはありはしないと。  幼馴染は狂っていて。  幼馴染が殺されて。  実の姉は狂っていて。  実の姉は殺されて。  クラスメイトは狂っていて。  クラスメイトが殺して。  狂気倶楽部。  マッド・ハンター。  アリス。  三月ウサギ。  魔術短剣。  ハンプティ・ダンプティ。  そんなもののどこに――日常がある。  狂気しか、ないじゃないか。  誰も彼もが、狂っている。 211 :いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] :2007/07/10(火) 22:34:11 ID:l55ZmRKf 「……は、」  乾いた笑いが出た。笑わずにはいられなかった。  ――誰も彼もが狂っているのならば。  それは、彼ら/彼女らにとっては、日常に他ならないからだ。  基準点が違うだけの普通さ。アブノーマルなノーマル。  そこに――僕は今、自分から、脚を踏み入れようとしている。 「…………」  校舎の後ろに出る。グラウンドの端の方は一部がバックネットが低くなっていて、そこ からならば乗り越えて入ることができた。裏門でも正門でもない第三の道。這入るならば、 ここからが一番いいだろう。  フェンスに手足をかけて、昇る。一歩上へと進むたびに、がしゃり、がしゃりとフェン スは嫌な音を立てた。 「…………」  その音を聞きながら――僕は思う。  今、自ら、脚を踏み込もうとしている。踏み入れようとしている。踏み出そうとしている。  向こう側へ。  でも、  ――何のために?  自問する。  自らに、問う。  ――誰のために?  誰のために夜の校舎へと向かっているのか。誰のために夜の校舎へと向かっているのか。  姉さんの死の真相を知るために?  神無士乃の死に仇討つために?  それとも。  それとも、僕は。  如月更紗を―― 「……考えるな」  自分に言い聞かせる。今は考えるときじゃない。余計なことを考えれば、動くことができなくなる。 考えるよりも前に、動け。  全ては。  事の真相を、真実を知ってからでも――きっと、遅くはない。 「…………」  フェンスを乗り越える。僅かな距離を下へと降り、最後はいっきに飛び降りる。グラウンドの土の上に 着地して、制服の裾を払った。  手に持った鞄が、やけに重く感じる。  中に入っているものは――いつでも、取り出すことができる。 212 :いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] :2007/07/10(火) 22:49:09 ID:l55ZmRKf  グラウンドを横断して校舎へと近づく。間近で見上げるは、昼よりも一段と威圧感を放って見えた。 こうしているだけでわけもなく気圧されそうになってしまう。夜の校舎に明かりはない。どの教室も、 完全に寝入るように暗く静まっていた。この時間にもなれば、誰一人として学校内には残っていないの だろう。  本来なら。  暗くて、分からないけれど――このどこかに。  彼女が、待っている。 「…………」  そこで、気付いた。 「……どこにいるんだよ……?」  おいおい、ちょっと待て。ここまでシリアスできてそれが分からないとか洒落になってないぞ…… というか洒落以外の何でもないじゃないか……まさか学校中を探せとか言うんじゃないだろうな。  いや。  思い出せ。  確か、あの時。  神無士乃を殺した彼女は、確か言っていたはずだ。なんだったか――その前後のインパクトが強すぎて詳しく 思い出せないけれど、確かに、言っていたはずだ。  ――姉さんが死んだ場所に、『彼』を呼んだ。  そう、言っていたはずだ。  姉さんが死んだ場所。冬継春香が死んだ場所。 「……図書室、か……?」  直接に死んだ場所というのならば、それこそ『落下地点』なのだろうけれど……まさかそんな見通しのいい 場所を待ち合わせ場所に指定するとも思えない。そんな場所に間抜けにも突っ立っていれば、何かの際に外か ら見られかねないし――第一そもそも、ここからも人影は見当たらない。  図書室、だろう。  そこに、あいつが待っている。  五月生まれの三月ウサギ。  姉さんを殺したかもしれない、相手。 『彼女』がそこにいるのかは――分からない。 「…………」  校舎を前にして、僕は考え込む。真実を知りたいのならば、全てに決着をつけたいのならば、迷わずに 図書室にいくべきだ。そこから全てが始まったというのなら、そこで全てが終わるはずだ。  でも。  僕は、知ることよりも――姉さんよりも。  あいつのことを大切だと――一瞬でも、思わなかったのだろうか。  疑惑がある。確信にまでは満たない、かすかな疑惑が。夕焼けの道で、夜の道で、 あの地下室で感じた、微かな違和感。違和感とすら気付かない、今になって、冷静になって ようやく気付くような――些細な齟齬。  如月更紗の家にいって、その齟齬に、僕は気付いた。  もしかしたら、と。  ありえない、馬鹿げている、仮定にすらならない――狂った話だ。狂った道理だ。  けど。  狂ったものがまかりとおるこの世界でなら。  それは、あり得ないことじゃ――ないのかもしれない。  どちらにせよ。  決めなくては、ならない。  図書室へいくのか。それとも、僕は。  僕は。  僕は。  僕は―――――――――――――――――――― A-1 図書室へと行く。 A-2 屋上へと行く。 218 :名無しさん@ピンキー [sage] :2007/07/10(火) 23:22:20 ID:qIpG6hZe A-3 帰る

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