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314 :一週間 水曜日 ◆oEsZ2QR/bg [sage] :2007/07/18(水) 23:29:42 ID:Fwcj9Xcj  久しぶりに帰る我が家は、先輩の姿なくがらりとしていた。  いつも僕より早く帰り、夕食の用意をして待ってくれていた先輩。  会社では氷のように冷たく鋭い表情もここへ来れば、夏の暑い日に大きく空を見上げて笑う向日葵のように明るく穏やかになる。  ネコのように喉を鳴らして、べったりとくっついて。お互いを暖めながら過ごす毎日だった。  でも、そんな先輩は今日は居ない。  そうだ。僕と先輩は昨日から期間を設けて逢わないことにしたのだ。長さにして、今日から日曜までの4日間。僕たち二人は一緒の家で過ごさないし、一緒にご飯も食べないし、一緒のベッドでも寝ない。  会社で顔を合わせても必要最低限の接触はしない。  こんな約束を、僕は先輩に取り付けたのだ。  先輩を別に疎ましく思っていたわけじゃなかった。 「でもなぁ、やっぱり一番は体が持たないって……」  昨日の会話が思い出される。 「みぃーくんはあたしが嫌いになったのね? そうなのね」  いやね。先輩。だから違うんですよ。嫌いになったとかじゃないんです。だからそんな世界全てに否定されたとか悲劇のヒロインみたいな膝を抱えてこっちをおびえるように見ないでください。逆に怖いです。 「じゃあ、どうしてそういうことを言うのかしら?」  えっとなぁ。 「先輩。いつもいつも僕と一緒に居て飽きませんか?」  僕は言葉を考えながら、先輩に出来る限り簡潔に答える。  先輩はふるふると首を振った。 「そんなことない。私、全然飽きないよ。みぃーくんの顔を見るだけで一日が終わってもいいくらいだもの」  幼児言葉がなんか、被虐感を醸し出していて辛い。普段はあんなにシャキッとキャリアウーマンしてるのに何でうちでパジャマを着た途端、女の子になっちゃうんだろう。 「自分のデスクのパソコンのスクリーンセーバーもみぃーくんにしてるよ。みぃーくん、本当はデスクトップにしたかったけど会社の人にバレたくないって言うからスクリーンセーバーで……」  ああ、先輩。会社のパソコンを自分好みにカスタマイズしまくるのはやめてください。あとそれ先輩が昼休みに席を外したら思いっきりそのパソコンに僕の顔が流れますね。どうりで全員にバレてるハズだ。 「ねぇ。それとも私に飽きちゃった……?」 「それはないです。自信を持って言いますよ」  先輩に飽きたなんてこれっぽっちも思ってない。 「じゃあ、どうして? 私、みぃーくんと一時でも離れたくないのに……、どうしてそういうこと言うの? 3日間も逢えないしおしゃべりも出来ないなんて酷すぎるわ。酷すぎるなんてもんじゃない。即死モノよ。即座に死ぬって意味よ」 「いやいや、先輩。たった3日間ですよ」 「3日もっ」 「『もっ』じゃないですよ」 「夜が3回来るまでもダメなのよ」 「先輩、3日でダメって。僕が出張とかの時はどうするんですか?」 「そのときは私の手腕で、大義名分を作ってその出張に着いて行けるようにする」  そんな時にだけ、キャリアウーマンの目にならないでください。 「えーっと、うーん」  僕は頭を抑える。いや、本当の理由はあるのだ。一番の理由。  むしろ、これがいま一番深刻だからこそ、僕はこの中休み期間を提案したんだ。 「なぁ。本当のことを言ってちょうだい。いままで私はみぃーくんにどんなこともしてあげたし、どんな恥ずかしいことでもやってあげたよ? いままでずっと一緒だったのに……。どうして、そんなこと言うの!」  ……恥ずかしいこと……。そうです。それが理由です。 「じゃあ、言いますよ。本当のこと」 「うんうん」 「ショック受けないでくださいよ」 315 :一週間 水曜日 ◆oEsZ2QR/bg [sage] :2007/07/18(水) 23:30:34 ID:Fwcj9Xcj 「……ごくり」  先輩は真剣な目つきで膝を抱えながら僕のほうを見つめている。 「エッチ……」 「へ?」 「先輩、エッチが……激しすぎるんです」  僕のほうが恥ずかしくなってきたじゃないか。でも、ちゃんと言った。 「エッチ?」  しかし、対する先輩の反応は薄い。もろ頭から?マークをだしてこちらへ顔を突き出している。 「エッチですよ! エッチ!」 「ええー?」 「先輩。昨日の夜僕と何回やりましたか?」 「13回」  全部僕が出しました。 「先輩。多いと思いません?」 「多いの!?」  ……二桁いってる時点で気付いてください。あと、ちゃんと同僚とセックスの話もして情報交換してください。 「じゃあ3回ぐらい減らす?」  危機感なさげに言わないでください。 「多いんですってば!!」  僕は思わず声を荒げる。 「それにくわえて」 「咥えて?」 「『加えて』です。反応しないでください。それに加えて、朝で2回、朝食中にたまに1回、入浴中に6回……えーっと、入浴中はさすがに僕も悪いですけど、とりあえず人間が一日に出来る回数を軽く超えてるんですよ」  ……先輩はなんだかだんだん青ざめている。 「……みぃーくんはあたしとのエッチが嫌いになっちゃったのね」 「……話をちゃんと理解してくださいよ。量の問題をしてるんですから……」  というか、先輩はどれぐらいの性知識を持ってるのかと不安になる。そういえば初めての相手は僕だって言ってたなぁ。嘘だと思ってたけど、この分だと本当かもしれない。 「だぁかぁらぁね。控えようって話なんですよ! こんだけ多いと、僕も病気になっちゃいますし、仕事にも支障が出てるんです! 最近部長に怒られてばっかりなんですから」 「あの部長か……」 「怒らないでください。僕が会議のプレゼン中に居眠りしたのが原因なんですから!」  だから鞄から取り出したその真っ黒いノートに部長の名前を書き足そうとしないでください。何リストなんですか。それは。  話を戻す。 「だからね、3日。3日だけ。一時的に関係を無くしましょう!」 「……わかった」  よかった、納得してくれたみたいだ。 「じゃあ。最後に1回だけ……」  やーめーいっ! 絶対その10倍搾り取るつもりな目つきで僕にのしかかって来ないでくださぁぁい!  そんなこんなで今日。僕は久しぶりの一人の夜をすごすことになる。 「着信、着信……」  電話の留守電を調べてみる。着信件数、22件。うわぁ、全て先輩からだ。よく見ると、僕の帰社予定時間から5分おきにかけているみたいだった。  あのヒトは本当に……。もう。 「でも、そこまで想われてるって幸せなんだろうなぁ……」  僕は一人にやにやと口元を緩めて、大きく鳴り出した電話の受話器をとった。 「ただいま、先輩」  僕と先輩の禁欲期間の一日目は何事もなかったかのように過ぎていった。 (続く)

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