「和菓子と洋菓子 第十三話」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

和菓子と洋菓子 第十三話」(2019/01/15 (火) 10:20:03) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

106 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/08/13(月) 02:03:31 ID:cdP6PCyt 「……というわけで、魔法使いは自分の家にいる、髪長姫と王子様が逢引していることを快く思っていなかった事が最大の原因でした。髪長姫は…」 妹の理沙が延々と、しかし当の本人は飽きることなく、寧ろその時間一刻一刻を楽しみとしながら、僕をその膝の上にのせながら、本を読み聞かせている。 最初は妹の行為に対していささかばかりの抵抗をしていたが、すぐに妹の気性からその抵抗の無意味さを悟り、彼女の話す物語を聞いていることにした。しかし、時計の長針が一回り半する頃になると、病人であるが故に睡魔が襲ってくるようになった。 いつもなら、理沙はそんな僕から眼鏡をはずし、そのまま眠りにつかせてくれるのであったが、今日はそうではなく目を醒ましていることを強要してくる。 北方さんから貰ったしおりを一片の仮借なく破り捨てたり、無理なことを強要したり、言動においてもやや常軌を逸していたりと、理由なく強引な手段を取らないはずの理沙であったにも関わらず、今日はその性格を異にしているようだ。 ただ、その理由に全く心当たりがないわけでもなかった。 近頃の僕は理沙を軽んじすぎていたのだ。北方さんと話をする機会が増えた分だけ、妹である理沙と過ごす時間が減少したのだ。だから、理沙は寂しく思ったに違いない。 寂しいなどという品格のない形容では名状しがたい感情が苦しめていたのだろう。 それゆえ、このような行動を取っているのだと取れば、納得がいくというものだ。 だから、罪滅ぼしになるとは重いもしないが、敢えて僕は北方さんのくれたしおりを破り捨てた際も決して怒らず、 突発的に湧き上がった恐怖心から軽薄な抵抗はわずかばかりしたが、それもすぐにやめ、こうして理沙の話す物語に眠らないように必死になって耳を傾けている。 107 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/08/13(月) 02:04:42 ID:cdP6PCyt それから十数分間の間、理沙は話を読み進めていたが、何を思ったのか、真紅の本を棚に置いた。 「お兄ちゃん。」 そう、今までになく甘えるような声で僕を呼び、覆いかぶさるようにして上からその焦点を僕の瞳にあわせてきた。 僕は理沙を下から仰ぐようにして目と目が合った状況で、僕は先程感じた謂れのない妙な恐怖心を再び感じた。 冷や汗が背筋を伝うのと、電流のように恐怖心が体中に伝播していったこととで思わず、僕は肩をすくめてしまった。 「あはは、お兄ちゃん、どうしたの?そんな怖がっちゃ駄目だよ~。」 理沙は僕の恐怖を少しでも和らげようとしている為か、優しげな微笑を口元に浮かべてから、ゆっくりと安心するように静かな声でそう言った。 しかし、そうした行為の間も理沙の目は僕の目から離さずにいた。 そして、何よりも特筆すべきことは、彼女の目は笑っていなかったことだ。 そう、顔は笑っていても目は笑っていないのだ。 そのギャップから生じる不協和音が僕に一層の恐怖感を与え、後ずさる場所もここがベットの上であることからないため、殻に篭るようにさらに強張った身体を収斂させる。 そして空調の稼動する音、秒針の規律正しく時を刻む音、医療機器からわずかにもれ聞こえる音、それらのいつもは気を払わないわずかな音一つ一つが僕の心を揺さぶり、針のように突き刺した。 自分の妹に対して何故、これほどまでに恐れる必要があるのかわからなかった。 自分が病人で、彼女に逆らえない状態であることに加えて、今日は理沙が強引な行動を取っているからだろうか? それもあるかもしれないが、それ以上に何か危険が自分に迫っている事を本能的に感受していたような気がする。 だから、相手が妹といえども強い恐怖心を抱いたのだろう。 そして、その予想は当たっていたと言わざるを得なかった。 108 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/08/13(月) 02:06:27 ID:cdP6PCyt 「どうして、怖がるの?お兄ちゃん?」 「……。」 無言の答えを返す僕に対して、毛ほどの慈悲も与えることなく続けて言った。 「お兄ちゃんが怖がっている理由、私は知っているよ。私ね、お兄ちゃんのことならなーんでも、知っているんだから、当たり前だよね。」 次の瞬間、取り繕われていたわずかばかりの微笑みすら消えてしまっていた。 「お兄ちゃんはあの忌まわしい雌猫に汚されたことだって!」 激昂した理沙の目には既に狂気が宿っていた。その怒気迫る表情に恐れをなすあまり、彼女が言っている汚された、という語句に注意が行き届かなかった。 「ごめんね、お兄ちゃん。思い出したくもない事を話して。でもね、私はお兄ちゃんが私を怖がっている理由、北方さん、いや雌猫にあると思うの!」 そうではない、僕自身も彼女の事を愛しているのだ、と弁明しようとしたが、崖を加速しながら進む岩のように語気をより強めながら話している理沙の発言に対して、 割って入ることが火に油を注ぐことになるのはわかっていたので、できなかった。 「雌猫はお兄ちゃんの心をコントロールしているの!だから、お兄ちゃんはお兄ちゃんの為を思って行動しているのに、私が悪だと思うの!」 僕のためかどうかは、彼女にとっては正直なところ、北方さんに僕が奪われるよりはまともだと考えた結果、軽視したのだろうか。 「理沙、僕は理沙を悪だと決め付けてなどいない。それから、北方さんを悪く言うのはやめなさい。」 理沙が北方さんを対して並々ならぬ嫌悪を抱いているのは既に解っていた。そして、自分に少なからず、その責任があることも。 そこまで知っておきながら、兄としての立場を理解していながら、怪我をしても何もしなかった自分は愚かなのかもしれない。 しかし、ここまで大切な北方さんを誤解、否、悪意にとっているならば、とにかくその誤解を解きたいという気持ちが先走った。 これ以上、無意味な対立を原因としてこの前のようなことが起こるのは耐え難いのだ。 109 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/08/13(月) 02:08:06 ID:cdP6PCyt 理沙をたしなめようとしたその時、理沙は身軽に僕に覆いかぶさり僕の発言を妨げるように、唇を塞がれた。 唇を重ねているだけでなく、理沙は舌を僕の口に潜り込ませ、あまつさえ僕の舌に絡めてきた。 次第に頭がぼんやりとしてき出して、真っ白なもやがかかったようになっていった。 今、強引に身体を重ねてきている相手が自分の実の妹であることは、当然把握できていた。 しかし、それに対して抵抗することができなかった。明晰な意識状態にあり、十人並みな倫理観があるならば、そうしていただろうか? しかし、今の僕には前者が欠けていたのだろう。 理沙は病弱な体とは思えないほどの力で覆いかぶさって、僕を動けないようにすると、あらかじめ用意していたのか、 几帳面に整えられている制服のポケットから短めの縄を数本か取り出した。 「お兄ちゃん、少し痛いかもしれないけど我慢しててね。」 そう言う声はいつも僕に昼食を作ってくれたり、僕の制服のボタンを付け直してくれたりした、優しい妹そのものであったことに、 背筋の凍りつくような恐ろしさを感じた。 110 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/08/13(月) 02:10:16 ID:cdP6PCyt 気がつくと、もう既に背中には噴き出した気持ちの悪い汗がつたっている。 そんな中、僕の体の上に乗っている妹は手を動かしている。 「や、やめなさい!」 そんな発言など問題ないかのように、手際よく両手と両足をそれぞれ縛ると、一旦僕から離れて、 通学用鞄から長めの縄を取り出して、ベットと僕の体を縛り合わせた。 その作業の間、僕は抵抗し続けたが、両手両足の自由を奪われている以上、そんなものは蟷螂の斧でしかなかった。 「さて、と。準備はできたね。」 妹はこれ以上、が無い程の満面の笑みを浮かべている。これほどまでに妹が喜んでいる姿をいまだかつて僕は見たことが無かった。 そう、僕が理沙を映画や買い物に連れて行ったときも、理沙がよく私服につけているブローチをあげたときも、 こんなにうれしそうな顔をしていなかった。 それがただただ悲しい。 「お兄ちゃん、これから何をするかわかっているよね?」 あはは、と笑いながら僕に尋ねた。 「………。」 「今から、あの雌猫の毒を抜いてあげるんだよ、お兄ちゃん?それにね、お兄ちゃん、私ね、お互いの事をもっとよく知るべきだと思うんだよ。」 拘束された僕の眼前でおもむろに、制服を脱ぎ始めた。 悠々たる態度で一糸纏わぬ、生まれたばかりの姿になった。 そして、理沙は手早く脱衣した制服をたたんだ。 理沙は抵抗しようが無い僕から夜着の下衣に手を掛け、下着ごと脱がして僕のソレをあらわにする。 111 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/08/13(月) 02:11:34 ID:cdP6PCyt 「本当にやめなさい。こんなことして、何の意味があるんだ!実の妹じゃないか!」 「大丈夫だよ、何もお兄ちゃんは怖がる必要は無いんだからね。すぐに楽になるよ。」 「僕の話を聞きなさい!」 そういう僕を尻目に夜着の上衣のボタンを一つ一つ丹念にはずしていき、それらをたたんで棚に置いた。 そうしてから、彼女は再び動けない僕の体を覆い、唇を重ね合わせた。 「んちゅ………ぴちゃ……」 理沙はそのごく小さな舌の動きを止めずに先程以上に執拗に、ねじ込むようにして絶えず僕の口内を舐め回し、舌に絡めてきた。 「はぁ……くぅぅ……り、理沙……」 そうしながらも、空いている手は僕のソレへとのばされており、どこで覚えたのか解らないほどの技術で強烈な刺激を与えた。 「ちゅ……んっんー……」 それが如何に罪深いことであるか解っていたが、理沙がとめどなく与え続ける二つの刺激にただただ壊れてしまった人形のように、 身体を震えさせることだけしかできなかった。 当然、こみ上げてくる快感を押しとどめることはできず、抵抗するどころか、あまつさえもっとそうして欲しいとすら思ってしまう。 112 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/08/13(月) 02:13:19 ID:cdP6PCyt 抵抗がとまったことに満足したのか、僕にかける理沙の力が幾分か減り、一層気持ちよく感じられてくるのだった。 軽い電流が流れ続けて頭が灼かれるような、そんな感覚が僕を狂わせていく。 抵抗せずこのままなされるがままでいるのも悪くない、寧ろ今のこのひと時を楽しんでもいいんじゃないかとすら、感じた。 先程抱いていた背徳感なぞ陽炎のようなもの。 夕方だというにも熱い外気によって生み出された陽炎のようなものに違いないのだ。 そう思い出した頃から、理沙は僕のソレへと伸ばされている手の動きをより早く、過激なものにしていた。 その心地よさに僕は麻薬か覚醒剤でも投与されたかのように痙攣した。 気づけば、理沙も心なしか震えている。 拘束の補助として使われていた片手が理沙のソレへと伸びているのに気がついた。 距離というべき距離が無くなって、僕の目を見つめていた理沙には、僕の心境の変化を見通していたのかもしれない。 「お兄ちゃん、ダメだよ~正直にならなくちゃ。お兄ちゃんは私の事をじらしているんだよね、だってそのほうが私だって楽しめるからだよね、あはは。」 うれしそうな声がはかなく霧と消え去ってしまいそうな意識の中で聞こえ、それは天啓か何かのように聞こえた。 そうだ。お兄ちゃん、と慕ってくれる妹と愛し合うのが何がいけないのか? 113 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/08/13(月) 02:15:29 ID:cdP6PCyt 「あ、あ、あ、あああ……」 理沙が切ないあえぎ声をあげている。 そして、緩やかだった僕のソレに添えられていた手の動きも既にかなりの速度になり、当然のように絡みつく舌と舌。 「んん……ちゅぅぅぅ……ちゅぷぅぅ……」 そう、それはもはやキスと呼べるようなものではなく、唇と唇が重なり乱れあうだけの貪りあいに相違なかった。 僕の中で何か熱いものが体中を速い速度で駆け巡り、ソレにだんだんと集まっていき、臨界点へと達しようと少しずつ限界を告げる。 「お兄ちゃん……お兄ちゃん……はぁぁぁ……」 「ううっ……あああっ……理沙、僕は…」 「お兄ちゃん……はあぁぁ………私も…もうちょっとで……はぁはぁ……お兄ちゃん…気持ちよくなって!」 すぐ目の前に見えた限界を前に、ここぞとばかりに理沙の手が早くなった。 「理沙、理沙、もう………駄目…だ……!」 「お兄ちゃん!…わ、私も……!」 そういうと再び、離されていた唇をそれまでに無く強く重ね合わせる。 「理沙、理沙ぁぁぁ!」 「あああっ! あああああっ……!」 その瞬間に、僕の周辺の世界がすべて真っ白になり、それはディスクが新しくフォーマットされていくような感じだった。 ただ、下半身から熱い塊が放出されていく感覚だけがあり、 それがややぐったりとした理沙のきめ細かな肌にかかるのをどこか現実味の無い世界の事のように眺めていた。 114 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/08/13(月) 02:17:48 ID:cdP6PCyt それから、長いことぐったりとしていた理沙は、自分の体と僕の体をティッシュで綺麗にしてから、落ち着いた表情で僕を見つめてきた。 ブロンドの髪に相対する黒曜石のような透き通った瞳に僕は吸い寄せられそうになっていた。 「お兄ちゃん、もう、我慢しなくてもいいんだよ。私だって、お兄ちゃんと無理やりしたくないし、 私もお兄ちゃんを……もっと…もっと……感じたい、から。……その…もっと……して。」 拘束し四肢の自由を奪う、という異常な選択をしていながら、いまさらのように恥らいつつそう言っていたが、 そういいながらも先程まで手の動きの心地よさと絶頂が反芻されて思考を停止させる。 何も考えたくない。 ただ快楽を貪りたい。そう感じた。 それから、理沙は僕の両の腕と胴体そして両足を拘束する縄をベットの近くにある鞄から取り出したナイフで順々に切り落とし、 拘束から僕を解き放った。 115 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/08/13(月) 02:19:32 ID:cdP6PCyt 「ねぇ、お兄ちゃん……来て。」 頬を赤らめていつもする照れ隠しのような色合いを見せている。 すぐに理沙のすぐ傍まで来なかったことが、少しじれったかったのか、伸ばしてきた手が僕の腕を掴み、胸に抱き寄せる。 顔のすぐ傍まで小柄な妹にはやや不似合いの双丘が迫り、すぐに暖かい温もりを感じる。 「お兄ちゃん、ギュッと私を抱きしめて。」 そういいながら僕をより強く抱擁する。 理沙の体の暖かさが僕を眠りへと誘う。 優しい温もりと心地よさが先程まで荒ぶっていた僕の心を落ち着かせる。 ずっと、ずっと、こうしていたい、そう思う。このぬくもりはどんな凍てついた心さえも温め、 苦しみをも和らげてくれそうな気がする。 「お兄ちゃん、気持ちいい?今度は……お兄ちゃん…」 116 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/08/13(月) 02:21:41 ID:cdP6PCyt しかし、この理沙の温もりを強く感じていながら、今頃になって、このどんな苦しみをもやわらげてくれる温もりが、 傍にいるべき人の温もりが理沙のものであるはずがない、とふと本能的な何かが僕にそう告げている。 そう思ってか、無意識のうちに理沙の体から離れる。 すると、急に理沙への身を溶かさんばかりの幻想が泡沫のように消えていく。 なぜか、胸騒ぎがするのだ。 彼女の父の約束によって、北方さんが僕のいるこの病室に一度もこなくなってからの事について―。 当然、彼女の事だからいつもの能面で過ごしているとは思う。 しかし、これは僕のうぬぼれかもしれないが、きっと心の中では寂しさを感じているに違いない。 むしろ、うぬぼれであって欲しい。 約束を理沙が一方的に破っている事も、釈然としなかった。 落ち着いて考えてみれば、理沙が言うような北方さんが理沙に対して攻撃したことはほぼ無いといっていい。 あるとすれば、あの自衛の為にスタンガンを向けた程度の事であっただろうか。 僕だって、スタンガンを押し当てられそうになったとしたら、北方さんと同じ行動を取っていたのかもしれない。 「……どうしたの?」 それに対して、理沙は北方さんの自転車の細工をしたり、屋上に呼び出して北方さんを襲っている。 そう考えると、どちらが正しいことを言いそうなものかすぐにわかるものだろう。 117 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/08/13(月) 02:22:59 ID:cdP6PCyt 北方さん………。 自分の暗い過去を背負いながらも健気に、一人で生きてくることを強いられていた彼女。 そんな彼女が僕が悲しみの淵に立たされているときに、優しく抱擁してくれた。 傍にいる事さえできれば、他には何も望まない、と言った彼女―。 本当は触れたら脆くも壊れてしまう、ガラス細工と変わらないような儚い存在なのに、 僕だけしか守ってあげられる人がいないのに、ただ一人で歩んでいこう、強くあろうとする彼女―。 そして、いままでの思い出一つ一つが紡ぎ出されていく。 僕も彼女の事を愛しているのだ。それはおそらく、今も変わらない。 最も守るべき彼女をないがしろにするわけにはいかない。 僕が守らなくてはならないのはあくまでも北方さんなのだ。 彼女を守らなくてはならない僕が、彼女が望むように一番、傍にいてあげなければならない僕は、 彼女を裏切るような真似は絶対にできない。 どうして、さっき、僕はこんな単純な事に気づかなかったのかと思う。 それで、僕が気づいたときには妹と過ちを犯す一歩寸前まで来てしまっていたのだ。 さっきの自分の考えこそが陽炎であったのだ。その陽炎はもう跡形も無く消えてしまった。 だから、今からでも遅くない―。 118 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/08/13(月) 02:25:25 ID:cdP6PCyt 「お兄ちゃん、どうしたの?大丈夫?」 急に黙りこくってしまった僕を本当に心配するように理沙が尋ねる。 今ならば、まだ、やり直せる。いや、やり直さなければならないのだ。 このまま、理沙と体を重ね、交わることで何かが終わってしまう、そしてそれからは破滅が始まるのだ、とそう何かが強く警鐘を鳴らしている。 「…お兄ちゃん……お兄ちゃん、私のこと、嫌い?」 理沙が僕の名を呼び続け、自然な微笑みを浮かべながら僕にそう尋ねる。 それでも、僕はやはり理沙に拒絶の意を示さなければならない。 「理沙の事は好きだ。しかし、僕は北方さんを愛している。その上に理沙、僕はお前の兄だ。だからこれ以上は……できない。」 そう、理沙の黒曜石の瞳から目を放さずに自らの決断をかみ締めるように言った。 その深刻そうな表情に理沙は狼狽の色を隠せない。 「……、ど、どうして。私はお兄ちゃんのことが好きなんだよ!」 狼狽していることがその震えた口調になって現れる。 「理沙、お前が嫌いだと言っていないよ。でも、僕は気づいたんだよ、自分のすべきことに。」 「やはり僕は北方さんを裏切ることはできない。」 119 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/08/13(月) 02:26:56 ID:cdP6PCyt 続けざまに発せられた僕の発言は、肩を体全体を震わせながら、泣くことをぎりぎりのところで止めていた堤防を破った。 「どうして!あんな、あんな雌猫なんか!お兄ちゃんは操られているんだよ!どうして、どうして、お兄ちゃんは私の言うことを聞いてくれないの……お兄ちゃんは私だけのもの…なのに……。」 「………。」 それは、病弱な妹が今まで見せたことが無いほどの取り乱した姿だった。 興奮したためか、理沙はぜいぜい、という荒い息を肩でしていた。 おそらく、喘息の発作が出たのであろう。 ここで生半可な優しさを見せることは逆効果だとは思いつつも、 自分の身勝手とも言える行動のせいでこうして発作が出てしまっているのだと考えると、 発作のときにいつもそうしていたように、手を力いっぱい握ってやりたいという気持ちがして、手を伸ばしかけた。 が、妹はその手に手を伸ばそうとはせずに、喘息の発作で苦しそうな表情のまま、制服を静かにそして手早く着ている。 「………。」 うつむき加減の妹が苦しげな表情に混ざって悲しそうな表情をしているのがわかって、また罪悪を感じたが、自分が罪を犯していたことの罪悪を考えて、何とか我慢しようとした。 やがて、服を着た理沙は恐ろしいほど物音一つ立てないほど静かに、ナイフでちぎれた縄の残骸を拾い、広げられたいくつかの道具と荷物を鞄にしまって帰る仕度をした。 それを僕は無言で見送っているだけだった。 それに対して、妹の理沙も何も言わずにただ背を向けて、この部屋を出て行ってしまった。 120 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/08/13(月) 02:28:04 ID:cdP6PCyt 年のわりに白髪が多く、ごま塩頭のようになっている男が、泊まり先のホテルの一室で、手の中のCMで宣伝されている機種の携帯電話を耳に当て続けている。 しかし、その男は一度も電話の相手と話していないのだ。 着ているスーツの趣味のよさと身のこなしからそれなりの身分の人間であることを匂わせるその男はこの数日間、同じ相手に電話をかけ続けていた。 しかし、その相手は出ないのだ。その相手の母親が電話に出ることがあっても、相手に取り次ぐことは一度としてなかった。実際にその相手の家に向かっても、取次ぎはしない。 なぜかは解らない。 しかし、いずれにせよ言える事は彼は焦っていた、ということだ。 この賭け、そして彼自身に残されている時間がもうわずかしか無いのだから―。 彼は自分と同じ悲劇を他の誰かが味わうことを望んでいなかったから―。 121 :和菓子と洋菓子 [sage] :2007/08/13(月) 02:28:54 ID:cdP6PCyt 彼は当事者同士を会わせないようにして、各個分断することにしたのもそのためだ。 しかし、各個分断して秘密裏に解決しようとした本命の相手に何度電話をかけても相手は出ようとしない。 電話が八十ほど鳴った頃、彼は諦めて携帯の通話を切った。 そして、再び今度の商談についての書類が置かれている机の上へと視線をやった。 そこには、無機質な数字と文字の羅列された商談についての書類が広がっていたが、 机の端に診断書と大病院の院長へ宛てられた推薦状が入った紙袋がさりげなく、商談の書類に隠れるように存在していた。 自分と同じ思いをさせたくない、そういう気持ちと度重なる厳しい仕事がその病院へ向かう機会を一回、また一回と潰していった。 もう、治らない、そういう諦念が彼に少なからずあったことも原因であった。 それだけに、彼は娘とその愛する人、そしてその妹、三人のうち誰一人として、悲劇に見舞われないようにしたいと逸り、 気ばかりが急いてしまうのだった。

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: