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194 :慎 ◆UPiD9oBh4o [sage] :2007/08/18(土) 22:59:59 ID:N9Pvw1hJ                            「Versprechung」                               序曲  さて皆さんの記憶にはまだ新しいと思うがとある市で市長候補が銃撃され、殺されてしまうというショッキングな事件が起こった。 市民は、犯人の野蛮なテロリズムを憎み、糾弾し、そして現職でもあった市長候補の死を悲しんだ。  悪いことにこの市においては、このような事件は初めてのことではなく、以前にも同じような事件が起こったことがあったため、市民のショックはさらに大きなものとなった。  何故ここの市だけにこんなことが?  繰り返された悲しみの歴史に、人々は翻弄された。  さてはて、すぐに犯人が取り押さえられたこの大事件の裏で一つのたわいもない出来事が起こっていた。  そうそのときはほとんどの人からたわいもないことだと思われていた。  少なくとも、なんらかの特異性、その他異常なことは散見できず、注目すべきことがないが故、人々の関心を引くことはその時はなかった。  しかし、その、一つの出来事は、水面に落ちた水滴のように、徐々に波紋を広げていき、最後には世間の人々の関心をすべて持っていくことになった。  その事件は、事件自体の特異性、また動機の異常性において、昨今の中では、もっとも理解しがたい事件のひとつとして記憶されることになる。  動機も、また目的達成のために起こした事件も、行動も…犯人のすべてが人々にとっては理解しがたいものだった。否理解したくないものでもあった。しかも、その不可解な動機の根底にあったのはは人々が普段何気なくしている…そう、なんんともない、ありふれたものだった。 このようなありふれたことでこの特異なる事件が起きるとはだれも、思ってはいなかったし、想像もついていなかった。それゆえか、事件の全容が明るみに出たときに人々が受けた衝撃は、ここ10年で個人が起こした事件の中では、最上級なものであった。 さてここまで長い前置きを置いたが、この事件における物語は、事件が起こる数ヶ月まえより始まる。しかし、より正確に言うならば、真に始まったのは、20数年前といえる。  そう、この事件はそのときに仕掛けられたタイマーが、息を潜め、ただひたすら時を刻み、そして時を経て発動したに過ぎない。 この事件は偶然に起きたのではなく必然に起きたものだったといえる。 否、偶然に起きる事件のほうが少ないのだろう。タイマーは常にどこにでも設置され、そして時間が設定され、誰に求められなかったそのうちのいくつかが発動するだけ…このような必然的に起きる事件のほうが多いのだろう。 さて前置きはこの変にしてこれから、この事件の顛末について述べていくことにしよう。 195 :慎 ◆UPiD9oBh4o [sage] :2007/08/18(土) 23:01:46 ID:N9Pvw1hJ 宮田秀樹は、冷たい感覚とともに目を覚ました。  冷気に当てられた感覚。  頭が痛い。腹辺りにも痛みを感じる。  自分は今までなにをしていただろうか?  たしか、アパートの近くの外の自販機に飲み物を買いにいこうとして、アパートを出て、そして…アパートをでたところでタクシーが止まって道がふさがった。  誰か降りるのかなと思ったら、誰も降りてこない。不思議に思ってたら… そこで記憶が途絶える。腹のほうに激しい痛みを覚えた記憶はある。しかしそれ以上は何も…まったく思い出せなかった。  そもそも今自分がいるこの場所はいったいどこなのか…?  とりあえず彼は、自分がおかれている今の状況を冷静なってに考えてみることにした。 しかし状況を把握すればするほど、彼は何がなんだかわからなくなってしまい、冷静さを失われそうになった。  まずここは…光が電灯ぐらいしかなく、外から入る自然光の類はなかった。  換気扇は何個か見受けられるが、窓がこの部屋には一つもない。  そして…今の自分の状態はというと、手を縛られている状態でベットの上に横たわっていた。 俗に言う監禁という状態である。いや、なんともわかりやすく状況把握もしやすい…ということはない。 しかし彼は監禁とわかるとすぐに頭をまわせるようになった。  想定外の事態ではなく…可能性としては低いと見ていたが想定内の範囲だったので、 軽い驚きを覚えた程度ですぐに切り替えることが出来たのだ。  彼は、自分には監禁される理由がそれなりにはあると思っていた。  彼は地元にあるそれなりに大きい会社の社長の息子であり、それでいて成績も優秀で、高校卒業後は現役で地元の大学の医学部に入った。 かといってがり勉というわけでもなく、何でもこなす、秀才といえる存在だった。 現在は、医学博士号を獲るために大学病院に勤務しながら、日夜勉強に、仕事に励んでいる。 まぁ俗に言うお坊ちゃまで、今まで自分の生活には無い一つ不自由を感じたことは無かった。 両親も同じ市に住んでいるが、勉強に集中するためと、もういい年であることを理由に、大学入学の頃から一人暮らしをはじめていた。  現在26歳。親の会社のほうは不況を乗り越えさぁこれからというところ。さてはて自分を誘拐したのはライバル企業か?それとも、まったく関係のない人物の単なる金目当てか?  いずれにしてもどうにかこの状況を打破出来ないかな…とまったく当てのないことを考えていると、部屋のドアの外から、階段を誰かが降りてくるような音がした。  階段の音だとすると、この部屋がある階より上の階が少なくともあるようだ。 「誰だ!?」  秀樹の叫び声による問いに答えはなかった。  音の主は無言で階段を降りきってきて、部屋の扉を開けて姿を現した。  どんな輩だと思って身構えていた秀樹は音の主の姿を見て絶句した。 「…お前…なんで…ここに…」 196 :慎 ◆UPiD9oBh4o [sage] :2007/08/18(土) 23:03:20 ID:N9Pvw1hJ 彼はドアを開けた人物を見て大きく混乱した。 なぜその人物がここにいるのか、そして、自分の前に姿を現したのか… 彼には皆目見当がつかなかった。 そもそも、この人物がこのような誘拐、監禁のようなまねをするとは彼は夢にも思ってもなかった。 理由が思い当たらない… 秀樹の頭は混乱してパンク状態になっていた。情報が頭の中をまったくいきわたらない。 「ふふふふふふ、目、覚めたぁ?」 能天気に問いかける、階段を降りてきた者。 「ちょ、放してくれよ。何のいたずらだ、まったく」 幾分か冷静さを取り戻した秀樹はおどけるように言った。 実際何かの冗談だと思っていたからだ。だが、相手からの返事は 「あら、放すわけなんかないじゃない、まだ寝てるの?起きてるなら寝言は無しよ」 だった。彼の望み、要求はさらっと拒絶された。だが秀樹もあきらめない。ここであきらめてはどうしようもない。 彼はとにかくやってみようと、このような状況におかれながらも、少しやる気になっていた 「なぁもういいじゃないか。放してくれよ。もう少しお前のお遊びに付き合ってあげてもいいが、 ほら、俺もさぁ仕事とかあってさ…明日もあるし、な?」  彼はとりあえず穏やかに話してみることにした。まだ相手はふざけているんだ、と信じていたからだ。 おふざけで監禁する人間がどこにいるかともっと冷静に考えれば思いつくはずだが、 彼の思考はすでにこの状況からの脱出にしか向けられていなかったため、そのことにはまったく気付かなかった。 しかしというかやはりというか答えは無情にも 「あら、お遊びじゃなくってよ。何を勘違いなさって?まだ寝たりないの~困ったわね」 というものだった。 どうやらふざけているわけではないらしい。当たり前だが。 さて彼にとっては困ったことになったようだ。 相手は本気で、というと表現がおかしいかもしれないが、自分を監禁しているようだ。 少なくともお遊びではない。今更ではあるが。 そして放すつもりも無い。これも当たり前。 彼女と交わした交わした会話はまだ2回。だがその口調からは強い意志が感じられた。 というか感じられないとおかしい気もしなくもないが。 さてさてこれはどうしたことか。 監禁されるなんて―よもやこの人物に―彼にとってはまったく予想外―それこそ地球がいきなり爆発するぐらい―のことだった。 まったく理由が思いあたらない。何故俺はこいつに監禁されにゃならんのか。さらに頭を回してみる。だが思い当たる節はやはりない。 彼はこれはもう彼女に理由直接尋ねるしかないか、と心の中でため息を吐きながらつぶやいた。たずねてどうするかは、正直疑問ではあるが。 果たして彼女は素直に言ってくれるのやら…彼に確証は無かったがもうそれしか彼には方法が思いつかなかったので、 とりあえずだめもとで聞いてみることにした。 197 :慎 ◆UPiD9oBh4o [sage] :2007/08/18(土) 23:04:56 ID:N9Pvw1hJ 「どうして…俺を…こんなことに?まったくこんなことされる理由が思い当たらないんだが」 彼はどんな理由であれ、今回のものは解決できないものではないだろうと思っていた。 そんなわけあるはずないのだが、常識的に考えれば。しかし、彼はいまだ思考がおかしかった。明らかに混乱している。行動がめちゃくちゃだ。 彼女から具体的な理由が聞ければ対処もできる。今は原因も何もわからない状態。 まずは原因だけでも探りを入れなければ何もできない…と彼は考えてた。 自分の頭はこの緊急事態にも、このように非常に冷静に回っている…と自画自賛。 さぁどんな答えが出てくるか…彼はいろいろな答えに合わせた自分のこれからの行動、言動パターンを瞬時にシュミレートした。 ところが彼に返ってきた答えは彼の期待に反し至極簡単なものだった。 だがこの答えにより彼はさらに混乱することになる。 「理由…そうね…約束を遂行してもらうためかしら」 相手の返答はこの一言だけだった。 「約束だと…っ」 彼はいよいよどうしようもなくなってきていた。 約束…監禁されるなんて約束は当然のごとくした覚えはない。 ほかにこういうことをされかねない約束を交わした覚えもない。 さてはて、理由を聞いたはいいがやはり約束云々以前に、この監禁に関しては彼にはやはりわからないことが多すぎた。 情報の明らかな不足。まずここはどこなのか。 彼女はなぜここにいて、そしてなぜ自分を監禁したのか。 これから彼女は自分をどうするつもりなのか? そして、自分が彼女とした約束とは…? まったくわからない。 彼は深い霧の中を歩いてるかのような感じを受けていた。 前も後ろも、左も、右も…何も見えてこない。 そんなとき、暗闇に差した一筋の光を見つけたかのごとく、ふと彼は突然思い当たった。 一つだけ、理由ではないかと思い当たるものがあった。そこで、彼女に思い当たったことをぶつけてみて探ることにした。 「ほう…ところでよ、俺をこれからどうする気だ?家にでも知らせて金でも取る気か?ん?」 自分の実家と何らかの金銭契約を彼女、もしくは彼女の親あたりが結んでいたのではないか。 しかし何らかの理由でその契約が履行されず、じゃあ強引にでも契約を果たしてもらうために…といった所だろうと彼は予想したのだ。少し発想の飛躍のしすぎな感もあるが、彼にはこれしか思いつかなかった。 さてはて、彼の中のストーリーではそのことを知られたく無いがため、つまり金銭が目的であることを知られないためにに約束という言葉を使ったんだろう、ということになっていた。 なんてくだらない理由だと一瞬思いもした。 だが彼女も職業が職業柄、こういったことも秘密裏にすることも可能なのかもしれないとも思っていたし何より彼の両親は面子を重んじる人物だ。少しぐらいの金なら警察に知らせず、さらっと払ってしまうだろう。 ならば非常に理想的な方法じゃないか…よくわかってるなこいつ…まぁそれも当然っちゃ当然か…と結局は一人で納得してしまった。 198 :慎 ◆UPiD9oBh4o [sage] :2007/08/18(土) 23:07:49 ID:N9Pvw1hJ 納得したところで彼は勝手ながら自分が思いついたここまでのストーリーをまとめてみることにした。 だがその矢先、残念ながらそのストーリーはあっけなく崩れ去ることとなるもだが。彼女が 「あら、家には知らせないわよ」 と言った瞬間に。 彼は大いに疑問に思った。なんだって?何故?何故実家には知らせない? 彼は驚きというものを通り越えて呆れ果てた。 じゃあいったい何が目的なんだ。こうなってくると彼にはその約束とやらには思い当たりがまったくなくなってしまった。もともとないのだから、想像がはずれと確定した時点でお手上げだ。 「そうそう、警察にも知らせないわ…そうねぇ…捜索願扱いということで、まぁ普通の行方不明者として扱ってもらうことになると思うわ、私の予想では」 「ちょっと待て!じゃあ俺はいつ解放されるんだ!お前の気が済むまでか!え!?」 「そうね…交渉の状況しだいだわ」 「ちょっとまて。じゃあその交渉する相手は誰なんだよ!?どこにも連絡しないんだろ!?」 「あらまだわかってないの?」 「あぁ、まったくわからんね。」 「もちろん、あなたに決まってるじゃない。やっぱりまだ寝たりないの?」 交渉相手が自分だと聞かされ、彼はますます打つ手がなくなった。よくよく考えれば、むしろラッキーなはずなのだが、彼は交渉というものを特にやったことはなかったし、どうすればいいかわからなくなったという点では、打つ手がなくなったといえよう。 さてはてこれで彼のさっきの疑問の中に交渉内容はなんなのか?という疑問が追加されることとなった。 もしやその約束とやらと関係が?という確証に近い疑問は持っていた。 とは言っても肝心の約束の内容がわからない。わからないことには交渉のしようがない。 「さてお前と何の交渉をするんだ?そのお前が言う約束とやらに俺は思い当たる節がないのだが。」 彼は彼女に尋ねてみた。あくまで強気で。交渉というものがどんなものかはわからない。 でも足元を見られるとか言う状況だけにはなりたくないという思いがあった…どういう状況かはわかってはいなかったが。 「あら忘れちゃったの?そうねぇ…私が自分で言うのもいいけど、あなた自身でゆっくりでもいいから思い出してもらうほうが私はいいわ。 そう、あなたの自分の力でね」 「思い出せる自信はまったくもってないんだが?」 「安心して。思い出すまでここにいてもらうことになるから。言ったでしょう?私はゆっくり思い出してもらっても構わないから。 思い出してもらうまで私は待つわ。ここでね」 199 :名無しさん@ピンキー [sage] :2007/08/18(土) 23:08:22 ID:20wzF9he 短編投下 ここへの投下は初めてなんで、ヤンデレとは違うかも。その場合は教えてください。 あと、血とかいっぱいです。 200 :慎 ◆UPiD9oBh4o [sage] :2007/08/18(土) 23:09:50 ID:N9Pvw1hJ 要するに帰してくれないと。こうなるとどうしようもない。本格的に詰み。ようやく彼は自分のおかれている立場というものを理解した。 遅きに失した感はかなり否めない。もはや手遅れである。  ここまでくると彼はしばらくはここにいないといけないであろうことを覚悟せざるをえなかったた。 だが、それもいつまでもは続かないだろうとこの期に及んで楽観もしていた。  何日かすれば、こんな馬鹿げたことに彼女自身が冷めてくれるだろうとも思っていた。 どうやら理由も深刻なものではないようだし。 「食事は持ってきてあげるから。まぁ殺しはしないわ、安心して。ここでまずはゆっくり思い出してもらうわ。約束のこと」  そういい残して、彼女は彼がいる部屋から立ち去った。 餓死の心配はないようだ。特に相手は自分に危害を加えるつもりはないこともわかった。  そこまでわかったからこそ彼は楽観的になれた。まったく無意味なことだが。警 察もさすがに騒いでくれることだろうとも考えていた。人一人急に理由もなく消えたのだから騒がなければおかしいだろうと。 親も恋人もさすがに不審に思うだろうし。そう彼はあくまで楽観的だった。 楽観的だったというよりは、考えることが出来なかったともいえなくはないが。  彼は多くの事実を忘れていた。いや、知らされることのない事実もある。 彼が拉致、監禁された日に、より大きな、この市すべてを揺るがす大事件が起きていたことを。 警察は当然そちらの事件のほうに全力を傾けていたし、 また、彼の親も、恋人も、友人も疑いもせず彼がふらっとどこかに出かけたのだろうとしか思ってなかったこと。 より正確に言うとそう思わされることになる。 このような状況が重なったこともあり結局彼が失踪したとわかるまで時間がそれなりにかかった。 また、このことが事件とわかったときでも、このことのために動ける刑事はたったの2人しかいなかった。 この通り、彼の希望はことごとく潰されていたのであった。 だが彼は当然ながらこのことにはまったく気付かず、救援はすぐ来ると思っていた。 すでに彼女の大きな策略の中に入ってることも知らず… さて様々な宗教で、地獄というものの存在が言われている。罪人が落ちる場所、罪を償う場所。当然ながら、どんな場所かは、現世の人間には想像するのみで、実際のところはわかるはずもない。 そこで日本人は地獄の存在の一つを現世の温泉というものに見出した。 しかし、彼のこの先に待ち受けてるものこそまさに地獄といえるものではないだろうか? 事件の詳細が報道された後、人々は、地獄とは何かを知ることとなる。 201 :慎 ◆UPiD9oBh4o [sage] :2007/08/18(土) 23:10:46 ID:N9Pvw1hJ                    序曲後の幕開けまでの幕間 「…とこんな感じなんでけど」 「で、結局ヤンデレってなんなんだよ。さっぱりわからない」 奈津子の話を聞き終えた後、俺は今一度たずねてみることにした。効いてみてもさっぱりわからない。 奈津子曰く、ヤンデレというジャンルに属する女性の話らしい。しかしヤンデレというのがいまいち俺にはわからなかった。 そう、この話を聞くきっかけになったのも、奈津子がヤンデレについて講義を突然始めて俺がわけわからんといったからだ。 だがこういった話をされてもやはりわからないものはわからない。むしろややこしくなった感もある。 「だから、相手のことを病むほど好きになることだって。簡単じゃん!何でわからないの?」 「抽象的過ぎる。具体化してくれ」 「じゃぁツンデレなんて何よ。ツンツンデレデレなんて、抽象的過ぎるにも程があると思わない?」 「ありゃステレオタイプができてるからな。そういった意味では具体化されてる。」 とりあえず、適当に答える。まぁ抽象的だというのには反対はしない。勘違いされてるとか言うが、それも仕方がないような気がする。 そもそも、キャラとしては昔からいたキャラなのだから今更騒ぐのもどうかとも思うが。 「ふん、ステレオタイプができてるからって、そもそもの言葉の意味が具体化されてるわけではないよね?」 あぁ言えばこういう奴だ。たく… 「具体例。」 「へ?」 「具体例挙げてみー?」 俺はとりあえず例を聞いてみることにした。そうすれば少しはイメージがつかめるだろうと思ったから。 「相手のことが好きすぎて監禁しちゃったり、嫉妬して鋸で主人公の彼女殺したり、わけがわからなくなって空鍋炊いたり、次々と人殺したり。」 「ずいぶん物騒だなぁ…」 「まぁね。病んでるから、判断力とか常識とか飛んでるのよ、きっと。」 まて…そう言われるとまさか絵里の一件もヤンデレ…ははは、まさかな。 俺はあのことはあんまり思い出さないようにしている。思い出して寝れなくなる日もあったしな。そう、今のも一瞬の思い過ごし。戯言だ。 俺はすぐに奈津子の話のほうに意識を戻した。今の考えを消し去るために。 だが、そんな折、ふと俺は思い当たることがあった。そこで奈津子に聞いてみた。 「俺の男の先輩なんだが、片思いが過ぎて、飛び降りかけたりしてたらしいんだが この場合どうなるんだろうか。ヤンデレってやつに当てはまるのか?」 「男のヤンデレは私からすればNG。以上」 202 :慎 ◆UPiD9oBh4o [sage] :2007/08/18(土) 23:11:38 ID:N9Pvw1hJ 奈津子の返事は速かった。そりゃもう、俺が言い終わる前に言うような勢いだった。 「さいですか…」 じゃあ男のヤンデレなんか思いついても話しちゃ駄目なのか…厳しい。 「犯罪じゃん。だって」 自信満々に答える奈津子。 「ストーカーって言うのよ、そういうのは。ヤンデレとは違うわ。」 まったくどんな自信だ…たくっ。どこがどう違うのかわからないという突っ込みはOKなのだろうか? まぁここはあえてスルーしてやることにしよう。 「わかったよ。てか、お前やたら男に厳しくないか?そこまではっきりとNGって言わなくたっていいじゃないのか?」 「う~んなんか男のだとやっぱりストーカーチックになってしまうのよね…私はうまく話が思いつかないわ。」 考えてみれば一理ある。女の子が病んだほうが話もすいすい行くだろうしな。 何よりいわゆる一つの萌え要素、てのになるんだろうし、不都合が何も無い。 これが男が絡んでくると…世間的に見れば一気に重大犯罪だ。十代の子に対する犯罪も十だ…やめよう。 われながらあほすぎる発想だ。女でも重大犯罪に変わりは無いのだがその辺は不問にしといたほうがいいのだろうか 「でね、続きがあるんだけど…え~と…やぁようこそ奈津子ハウスへ」 「おい、突然なんだ!?」 「この序曲はサービスだからまずは聞いて落ち着いてほしい」 「もう聞いたぞ?ていうかサービスだったのか?」 「そうね、またなんだわ…ごめんなさい。仏の顔もって言うしね、許してもらおうとは思ってないわ」 「はなからそんなこと思ってないだろ」 「でも、この話を聞いたとき、慎ちゃんはきっと言葉では言い表せない「病んでるなぁ」みたいなものを感じてくれたと思うんだ」 「さぁどうだかな」 奈津子はむすっとした顔になった。だがそんな顔されても奈津子が何を言ってるのか俺にはさっぱりわからんのだから、どうしようもないのだが。 「んん、もう…殺伐とした世の中でそういったものを忘れてほしくない、そう思ってこの話を考えたのよ」 ていうか殺伐とした世の中に、さらに殺伐としたものもってこられても…たくっこんなネタまで考えて…やれやれ。 続きを大人しく聞けとな?はぁ… 「で、続きは?そこまで言うからにはもうできてるんだろ」 「うん!じゃあ続きを行くね。第1幕始まり始まり~」 さて、物語の幕が開くようだ。どうなることやらさっぱりわからない。その分楽しみではあるが。 少しはやる気持ちを抑えるように、俺は手元にあったペットボトルのお茶を一口飲むと、俺はまた奈津子の話へと意識を持っていった。
194 :慎 ◆UPiD9oBh4o [sage] :2007/08/18(土) 22:59:59 ID:N9Pvw1hJ                            「Versprechung」                               序曲  さて皆さんの記憶にはまだ新しいと思うがとある市で市長候補が銃撃され、殺されてしまうというショッキングな事件が起こった。 市民は、犯人の野蛮なテロリズムを憎み、糾弾し、そして現職でもあった市長候補の死を悲しんだ。  悪いことにこの市においては、このような事件は初めてのことではなく、以前にも同じような事件が起こったことがあったため、市民のショックはさらに大きなものとなった。  何故ここの市だけにこんなことが?  繰り返された悲しみの歴史に、人々は翻弄された。  さてはて、すぐに犯人が取り押さえられたこの大事件の裏で一つのたわいもない出来事が起こっていた。  そうそのときはほとんどの人からたわいもないことだと思われていた。  少なくとも、なんらかの特異性、その他異常なことは散見できず、注目すべきことがないが故、人々の関心を引くことはその時はなかった。  しかし、その、一つの出来事は、水面に落ちた水滴のように、徐々に波紋を広げていき、最後には世間の人々の関心をすべて持っていくことになった。  その事件は、事件自体の特異性、また動機の異常性において、昨今の中では、もっとも理解しがたい事件のひとつとして記憶されることになる。  動機も、また目的達成のために起こした事件も、行動も…犯人のすべてが人々にとっては理解しがたいものだった。否理解したくないものでもあった。しかも、その不可解な動機の根底にあったのはは人々が普段何気なくしている…そう、なんんともない、ありふれたものだった。 このようなありふれたことでこの特異なる事件が起きるとはだれも、思ってはいなかったし、想像もついていなかった。それゆえか、事件の全容が明るみに出たときに人々が受けた衝撃は、ここ10年で個人が起こした事件の中では、最上級なものであった。 さてここまで長い前置きを置いたが、この事件における物語は、事件が起こる数ヶ月まえより始まる。しかし、より正確に言うならば、真に始まったのは、20数年前といえる。  そう、この事件はそのときに仕掛けられたタイマーが、息を潜め、ただひたすら時を刻み、そして時を経て発動したに過ぎない。 この事件は偶然に起きたのではなく必然に起きたものだったといえる。 否、偶然に起きる事件のほうが少ないのだろう。タイマーは常にどこにでも設置され、そして時間が設定され、誰に求められなかったそのうちのいくつかが発動するだけ…このような必然的に起きる事件のほうが多いのだろう。 さて前置きはこの変にしてこれから、この事件の顛末について述べていくことにしよう。 195 :慎 ◆UPiD9oBh4o [sage] :2007/08/18(土) 23:01:46 ID:N9Pvw1hJ 宮田秀樹は、冷たい感覚とともに目を覚ました。  冷気に当てられた感覚。  頭が痛い。腹辺りにも痛みを感じる。  自分は今までなにをしていただろうか?  たしか、アパートの近くの外の自販機に飲み物を買いにいこうとして、アパートを出て、そして…アパートをでたところでタクシーが止まって道がふさがった。  誰か降りるのかなと思ったら、誰も降りてこない。不思議に思ってたら… そこで記憶が途絶える。腹のほうに激しい痛みを覚えた記憶はある。しかしそれ以上は何も…まったく思い出せなかった。  そもそも今自分がいるこの場所はいったいどこなのか…?  とりあえず彼は、自分がおかれている今の状況を冷静なってに考えてみることにした。 しかし状況を把握すればするほど、彼は何がなんだかわからなくなってしまい、冷静さを失われそうになった。  まずここは…光が電灯ぐらいしかなく、外から入る自然光の類はなかった。  換気扇は何個か見受けられるが、窓がこの部屋には一つもない。  そして…今の自分の状態はというと、手を縛られている状態でベットの上に横たわっていた。 俗に言う監禁という状態である。いや、なんともわかりやすく状況把握もしやすい…ということはない。 しかし彼は監禁とわかるとすぐに頭をまわせるようになった。  想定外の事態ではなく…可能性としては低いと見ていたが想定内の範囲だったので、 軽い驚きを覚えた程度ですぐに切り替えることが出来たのだ。  彼は、自分には監禁される理由がそれなりにはあると思っていた。  彼は地元にあるそれなりに大きい会社の社長の息子であり、それでいて成績も優秀で、高校卒業後は現役で地元の大学の医学部に入った。 かといってがり勉というわけでもなく、何でもこなす、秀才といえる存在だった。 現在は、医学博士号を獲るために大学病院に勤務しながら、日夜勉強に、仕事に励んでいる。 まぁ俗に言うお坊ちゃまで、今まで自分の生活には無い一つ不自由を感じたことは無かった。 両親も同じ市に住んでいるが、勉強に集中するためと、もういい年であることを理由に、大学入学の頃から一人暮らしをはじめていた。  現在26歳。親の会社のほうは不況を乗り越えさぁこれからというところ。さてはて自分を誘拐したのはライバル企業か?それとも、まったく関係のない人物の単なる金目当てか?  いずれにしてもどうにかこの状況を打破出来ないかな…とまったく当てのないことを考えていると、部屋のドアの外から、階段を誰かが降りてくるような音がした。  階段の音だとすると、この部屋がある階より上の階が少なくともあるようだ。 「誰だ!?」  秀樹の叫び声による問いに答えはなかった。  音の主は無言で階段を降りきってきて、部屋の扉を開けて姿を現した。  どんな輩だと思って身構えていた秀樹は音の主の姿を見て絶句した。 「…お前…なんで…ここに…」 196 :慎 ◆UPiD9oBh4o [sage] :2007/08/18(土) 23:03:20 ID:N9Pvw1hJ 彼はドアを開けた人物を見て大きく混乱した。 なぜその人物がここにいるのか、そして、自分の前に姿を現したのか… 彼には皆目見当がつかなかった。 そもそも、この人物がこのような誘拐、監禁のようなまねをするとは彼は夢にも思ってもなかった。 理由が思い当たらない… 秀樹の頭は混乱してパンク状態になっていた。情報が頭の中をまったくいきわたらない。 「ふふふふふふ、目、覚めたぁ?」 能天気に問いかける、階段を降りてきた者。 「ちょ、放してくれよ。何のいたずらだ、まったく」 幾分か冷静さを取り戻した秀樹はおどけるように言った。 実際何かの冗談だと思っていたからだ。だが、相手からの返事は 「あら、放すわけなんかないじゃない、まだ寝てるの?起きてるなら寝言は無しよ」 だった。彼の望み、要求はさらっと拒絶された。だが秀樹もあきらめない。ここであきらめてはどうしようもない。 彼はとにかくやってみようと、このような状況におかれながらも、少しやる気になっていた 「なぁもういいじゃないか。放してくれよ。もう少しお前のお遊びに付き合ってあげてもいいが、 ほら、俺もさぁ仕事とかあってさ…明日もあるし、な?」  彼はとりあえず穏やかに話してみることにした。まだ相手はふざけているんだ、と信じていたからだ。 おふざけで監禁する人間がどこにいるかともっと冷静に考えれば思いつくはずだが、 彼の思考はすでにこの状況からの脱出にしか向けられていなかったため、そのことにはまったく気付かなかった。 しかしというかやはりというか答えは無情にも 「あら、お遊びじゃなくってよ。何を勘違いなさって?まだ寝たりないの~困ったわね」 というものだった。 どうやらふざけているわけではないらしい。当たり前だが。 さて彼にとっては困ったことになったようだ。 相手は本気で、というと表現がおかしいかもしれないが、自分を監禁しているようだ。 少なくともお遊びではない。今更ではあるが。 そして放すつもりも無い。これも当たり前。 彼女と交わした交わした会話はまだ2回。だがその口調からは強い意志が感じられた。 というか感じられないとおかしい気もしなくもないが。 さてさてこれはどうしたことか。 監禁されるなんて―よもやこの人物に―彼にとってはまったく予想外―それこそ地球がいきなり爆発するぐらい―のことだった。 まったく理由が思いあたらない。何故俺はこいつに監禁されにゃならんのか。さらに頭を回してみる。だが思い当たる節はやはりない。 彼はこれはもう彼女に理由直接尋ねるしかないか、と心の中でため息を吐きながらつぶやいた。たずねてどうするかは、正直疑問ではあるが。 果たして彼女は素直に言ってくれるのやら…彼に確証は無かったがもうそれしか彼には方法が思いつかなかったので、 とりあえずだめもとで聞いてみることにした。 197 :慎 ◆UPiD9oBh4o [sage] :2007/08/18(土) 23:04:56 ID:N9Pvw1hJ 「どうして…俺を…こんなことに?まったくこんなことされる理由が思い当たらないんだが」 彼はどんな理由であれ、今回のものは解決できないものではないだろうと思っていた。 そんなわけあるはずないのだが、常識的に考えれば。しかし、彼はいまだ思考がおかしかった。明らかに混乱している。行動がめちゃくちゃだ。 彼女から具体的な理由が聞ければ対処もできる。今は原因も何もわからない状態。 まずは原因だけでも探りを入れなければ何もできない…と彼は考えてた。 自分の頭はこの緊急事態にも、このように非常に冷静に回っている…と自画自賛。 さぁどんな答えが出てくるか…彼はいろいろな答えに合わせた自分のこれからの行動、言動パターンを瞬時にシュミレートした。 ところが彼に返ってきた答えは彼の期待に反し至極簡単なものだった。 だがこの答えにより彼はさらに混乱することになる。 「理由…そうね…約束を遂行してもらうためかしら」 相手の返答はこの一言だけだった。 「約束だと…っ」 彼はいよいよどうしようもなくなってきていた。 約束…監禁されるなんて約束は当然のごとくした覚えはない。 ほかにこういうことをされかねない約束を交わした覚えもない。 さてはて、理由を聞いたはいいがやはり約束云々以前に、この監禁に関しては彼にはやはりわからないことが多すぎた。 情報の明らかな不足。まずここはどこなのか。 彼女はなぜここにいて、そしてなぜ自分を監禁したのか。 これから彼女は自分をどうするつもりなのか? そして、自分が彼女とした約束とは…? まったくわからない。 彼は深い霧の中を歩いてるかのような感じを受けていた。 前も後ろも、左も、右も…何も見えてこない。 そんなとき、暗闇に差した一筋の光を見つけたかのごとく、ふと彼は突然思い当たった。 一つだけ、理由ではないかと思い当たるものがあった。そこで、彼女に思い当たったことをぶつけてみて探ることにした。 「ほう…ところでよ、俺をこれからどうする気だ?家にでも知らせて金でも取る気か?ん?」 自分の実家と何らかの金銭契約を彼女、もしくは彼女の親あたりが結んでいたのではないか。 しかし何らかの理由でその契約が履行されず、じゃあ強引にでも契約を果たしてもらうために…といった所だろうと彼は予想したのだ。少し発想の飛躍のしすぎな感もあるが、彼にはこれしか思いつかなかった。 さてはて、彼の中のストーリーではそのことを知られたく無いがため、つまり金銭が目的であることを知られないためにに約束という言葉を使ったんだろう、ということになっていた。 なんてくだらない理由だと一瞬思いもした。 だが彼女も職業が職業柄、こういったことも秘密裏にすることも可能なのかもしれないとも思っていたし何より彼の両親は面子を重んじる人物だ。少しぐらいの金なら警察に知らせず、さらっと払ってしまうだろう。 ならば非常に理想的な方法じゃないか…よくわかってるなこいつ…まぁそれも当然っちゃ当然か…と結局は一人で納得してしまった。 198 :慎 ◆UPiD9oBh4o [sage] :2007/08/18(土) 23:07:49 ID:N9Pvw1hJ 納得したところで彼は勝手ながら自分が思いついたここまでのストーリーをまとめてみることにした。 だがその矢先、残念ながらそのストーリーはあっけなく崩れ去ることとなるもだが。彼女が 「あら、家には知らせないわよ」 と言った瞬間に。 彼は大いに疑問に思った。なんだって?何故?何故実家には知らせない? 彼は驚きというものを通り越えて呆れ果てた。 じゃあいったい何が目的なんだ。こうなってくると彼にはその約束とやらには思い当たりがまったくなくなってしまった。もともとないのだから、想像がはずれと確定した時点でお手上げだ。 「そうそう、警察にも知らせないわ…そうねぇ…捜索願扱いということで、まぁ普通の行方不明者として扱ってもらうことになると思うわ、私の予想では」 「ちょっと待て!じゃあ俺はいつ解放されるんだ!お前の気が済むまでか!え!?」 「そうね…交渉の状況しだいだわ」 「ちょっとまて。じゃあその交渉する相手は誰なんだよ!?どこにも連絡しないんだろ!?」 「あらまだわかってないの?」 「あぁ、まったくわからんね。」 「もちろん、あなたに決まってるじゃない。やっぱりまだ寝たりないの?」 交渉相手が自分だと聞かされ、彼はますます打つ手がなくなった。よくよく考えれば、むしろラッキーなはずなのだが、彼は交渉というものを特にやったことはなかったし、どうすればいいかわからなくなったという点では、打つ手がなくなったといえよう。 さてはてこれで彼のさっきの疑問の中に交渉内容はなんなのか?という疑問が追加されることとなった。 もしやその約束とやらと関係が?という確証に近い疑問は持っていた。 とは言っても肝心の約束の内容がわからない。わからないことには交渉のしようがない。 「さてお前と何の交渉をするんだ?そのお前が言う約束とやらに俺は思い当たる節がないのだが。」 彼は彼女に尋ねてみた。あくまで強気で。交渉というものがどんなものかはわからない。 でも足元を見られるとか言う状況だけにはなりたくないという思いがあった…どういう状況かはわかってはいなかったが。 「あら忘れちゃったの?そうねぇ…私が自分で言うのもいいけど、あなた自身でゆっくりでもいいから思い出してもらうほうが私はいいわ。 そう、あなたの自分の力でね」 「思い出せる自信はまったくもってないんだが?」 「安心して。思い出すまでここにいてもらうことになるから。言ったでしょう?私はゆっくり思い出してもらっても構わないから。 思い出してもらうまで私は待つわ。ここでね」 200 :慎 ◆UPiD9oBh4o [sage] :2007/08/18(土) 23:09:50 ID:N9Pvw1hJ 要するに帰してくれないと。こうなるとどうしようもない。本格的に詰み。ようやく彼は自分のおかれている立場というものを理解した。 遅きに失した感はかなり否めない。もはや手遅れである。  ここまでくると彼はしばらくはここにいないといけないであろうことを覚悟せざるをえなかったた。 だが、それもいつまでもは続かないだろうとこの期に及んで楽観もしていた。  何日かすれば、こんな馬鹿げたことに彼女自身が冷めてくれるだろうとも思っていた。 どうやら理由も深刻なものではないようだし。 「食事は持ってきてあげるから。まぁ殺しはしないわ、安心して。ここでまずはゆっくり思い出してもらうわ。約束のこと」  そういい残して、彼女は彼がいる部屋から立ち去った。 餓死の心配はないようだ。特に相手は自分に危害を加えるつもりはないこともわかった。  そこまでわかったからこそ彼は楽観的になれた。まったく無意味なことだが。警 察もさすがに騒いでくれることだろうとも考えていた。人一人急に理由もなく消えたのだから騒がなければおかしいだろうと。 親も恋人もさすがに不審に思うだろうし。そう彼はあくまで楽観的だった。 楽観的だったというよりは、考えることが出来なかったともいえなくはないが。  彼は多くの事実を忘れていた。いや、知らされることのない事実もある。 彼が拉致、監禁された日に、より大きな、この市すべてを揺るがす大事件が起きていたことを。 警察は当然そちらの事件のほうに全力を傾けていたし、 また、彼の親も、恋人も、友人も疑いもせず彼がふらっとどこかに出かけたのだろうとしか思ってなかったこと。 より正確に言うとそう思わされることになる。 このような状況が重なったこともあり結局彼が失踪したとわかるまで時間がそれなりにかかった。 また、このことが事件とわかったときでも、このことのために動ける刑事はたったの2人しかいなかった。 この通り、彼の希望はことごとく潰されていたのであった。 だが彼は当然ながらこのことにはまったく気付かず、救援はすぐ来ると思っていた。 すでに彼女の大きな策略の中に入ってることも知らず… さて様々な宗教で、地獄というものの存在が言われている。罪人が落ちる場所、罪を償う場所。当然ながら、どんな場所かは、現世の人間には想像するのみで、実際のところはわかるはずもない。 そこで日本人は地獄の存在の一つを現世の温泉というものに見出した。 しかし、彼のこの先に待ち受けてるものこそまさに地獄といえるものではないだろうか? 事件の詳細が報道された後、人々は、地獄とは何かを知ることとなる。 201 :慎 ◆UPiD9oBh4o [sage] :2007/08/18(土) 23:10:46 ID:N9Pvw1hJ                    序曲後の幕開けまでの幕間 「…とこんな感じなんでけど」 「で、結局ヤンデレってなんなんだよ。さっぱりわからない」 奈津子の話を聞き終えた後、俺は今一度たずねてみることにした。効いてみてもさっぱりわからない。 奈津子曰く、ヤンデレというジャンルに属する女性の話らしい。しかしヤンデレというのがいまいち俺にはわからなかった。 そう、この話を聞くきっかけになったのも、奈津子がヤンデレについて講義を突然始めて俺がわけわからんといったからだ。 だがこういった話をされてもやはりわからないものはわからない。むしろややこしくなった感もある。 「だから、相手のことを病むほど好きになることだって。簡単じゃん!何でわからないの?」 「抽象的過ぎる。具体化してくれ」 「じゃぁツンデレなんて何よ。ツンツンデレデレなんて、抽象的過ぎるにも程があると思わない?」 「ありゃステレオタイプができてるからな。そういった意味では具体化されてる。」 とりあえず、適当に答える。まぁ抽象的だというのには反対はしない。勘違いされてるとか言うが、それも仕方がないような気がする。 そもそも、キャラとしては昔からいたキャラなのだから今更騒ぐのもどうかとも思うが。 「ふん、ステレオタイプができてるからって、そもそもの言葉の意味が具体化されてるわけではないよね?」 あぁ言えばこういう奴だ。たく… 「具体例。」 「へ?」 「具体例挙げてみー?」 俺はとりあえず例を聞いてみることにした。そうすれば少しはイメージがつかめるだろうと思ったから。 「相手のことが好きすぎて監禁しちゃったり、嫉妬して鋸で主人公の彼女殺したり、わけがわからなくなって空鍋炊いたり、次々と人殺したり。」 「ずいぶん物騒だなぁ…」 「まぁね。病んでるから、判断力とか常識とか飛んでるのよ、きっと。」 まて…そう言われるとまさか絵里の一件もヤンデレ…ははは、まさかな。 俺はあのことはあんまり思い出さないようにしている。思い出して寝れなくなる日もあったしな。そう、今のも一瞬の思い過ごし。戯言だ。 俺はすぐに奈津子の話のほうに意識を戻した。今の考えを消し去るために。 だが、そんな折、ふと俺は思い当たることがあった。そこで奈津子に聞いてみた。 「俺の男の先輩なんだが、片思いが過ぎて、飛び降りかけたりしてたらしいんだが この場合どうなるんだろうか。ヤンデレってやつに当てはまるのか?」 「男のヤンデレは私からすればNG。以上」 202 :慎 ◆UPiD9oBh4o [sage] :2007/08/18(土) 23:11:38 ID:N9Pvw1hJ 奈津子の返事は速かった。そりゃもう、俺が言い終わる前に言うような勢いだった。 「さいですか…」 じゃあ男のヤンデレなんか思いついても話しちゃ駄目なのか…厳しい。 「犯罪じゃん。だって」 自信満々に答える奈津子。 「ストーカーって言うのよ、そういうのは。ヤンデレとは違うわ。」 まったくどんな自信だ…たくっ。どこがどう違うのかわからないという突っ込みはOKなのだろうか? まぁここはあえてスルーしてやることにしよう。 「わかったよ。てか、お前やたら男に厳しくないか?そこまではっきりとNGって言わなくたっていいじゃないのか?」 「う~んなんか男のだとやっぱりストーカーチックになってしまうのよね…私はうまく話が思いつかないわ。」 考えてみれば一理ある。女の子が病んだほうが話もすいすい行くだろうしな。 何よりいわゆる一つの萌え要素、てのになるんだろうし、不都合が何も無い。 これが男が絡んでくると…世間的に見れば一気に重大犯罪だ。十代の子に対する犯罪も十だ…やめよう。 われながらあほすぎる発想だ。女でも重大犯罪に変わりは無いのだがその辺は不問にしといたほうがいいのだろうか 「でね、続きがあるんだけど…え~と…やぁようこそ奈津子ハウスへ」 「おい、突然なんだ!?」 「この序曲はサービスだからまずは聞いて落ち着いてほしい」 「もう聞いたぞ?ていうかサービスだったのか?」 「そうね、またなんだわ…ごめんなさい。仏の顔もって言うしね、許してもらおうとは思ってないわ」 「はなからそんなこと思ってないだろ」 「でも、この話を聞いたとき、慎ちゃんはきっと言葉では言い表せない「病んでるなぁ」みたいなものを感じてくれたと思うんだ」 「さぁどうだかな」 奈津子はむすっとした顔になった。だがそんな顔されても奈津子が何を言ってるのか俺にはさっぱりわからんのだから、どうしようもないのだが。 「んん、もう…殺伐とした世の中でそういったものを忘れてほしくない、そう思ってこの話を考えたのよ」 ていうか殺伐とした世の中に、さらに殺伐としたものもってこられても…たくっこんなネタまで考えて…やれやれ。 続きを大人しく聞けとな?はぁ… 「で、続きは?そこまで言うからにはもうできてるんだろ」 「うん!じゃあ続きを行くね。第1幕始まり始まり~」 さて、物語の幕が開くようだ。どうなることやらさっぱりわからない。その分楽しみではあるが。 少しはやる気持ちを抑えるように、俺は手元にあったペットボトルのお茶を一口飲むと、俺はまた奈津子の話へと意識を持っていった。

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