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812 :異喰物語 ◆cgdFR4AMpg [sage] :2007/09/14(金) 22:00:39 ID:mngBUKM5  平坂暦にとっての“覚醒進化”とは、つまるところ一種の“悟り”のようなものであると思う。  既存にして起源である世俗より解脱し、そこからも更に上、次なる段階への躍進であると、暦はそう定義する。  そう自覚してより以後、暦は世界が“未だ嘗て無いもの”に満ちていることを知り、同時にそれらを知る事の出来ぬ“世間”を煩わしく思うようになった。  中身の無い亡骸に縋る両親も、それを聞きつけ打算を張り巡らせる親族も、その他諸々一切の全てを何にも値せぬゴミと判断し見下し軽蔑し、  ――――それらへの決別を決意した。  その頃である。彼女が同類と思わしき青年と出会ったのは。  彼は見た目こそ老衰し、衰弱し、死に体であったが、観念的に物事を把握する彼女にとって見た目は何ら問題では無く、だからこそ彼の本質を見抜いた。  そして惚れた。  それはもう問答無用、空前絶後の完全無欠なまでに一目で陶酔した。  一目惚れである。そしてこれが、暦の初恋でもあった。 「うふ、うふふふ……」  彼が欲しい、と暦は思った。  だが己の身では彼を捉えることは出来ない。  かといって彼の“終わり”を待つことも出来ない。それに続きが存在するのは、己だけに赦された特殊性であると理解していたからだ。  食べてしまいたいほどに愛おしい彼。彼のことを思うだけで秘奥が疼き、淫らな空想に耽ってしまう。  見下してしまうのはただ照れ隠しだ。どうしようもないもどかしさが、彼を想って口を吐いてしまう発露。本当は今すぐにでもその腕の中に抱かれたいのに。  だが未だ。  彼が目覚めるまでは―――― 「こんな若さ故の迷妄。――――あなた方に理解できるかしら?」 813 :異喰物語 ◆cgdFR4AMpg [sage] :2007/09/14(金) 22:02:13 ID:mngBUKM5 『――――、―――― ――――』  “それ”は暦の呟きに答えるように、不明確そのものの雑音を漏らす。  老い、枯れ、死に至った在りし日の残滓。  還るべき場所に還る筈のそれは、しかし暦の朧手によってしっかと捉えられていた。 『――――、―――― ――――』 「あぁ、あぁもう煩いわ。耳障りよあなた。やっぱり老人には度の過ぎた話かしらね」  見ようによってはヒトの形に見えなくも無い“それ”の、おそらくは首にあたる部分を暦はぎりぎりと締め上げる。  “それ”に問うたのも、ある種気紛れのようなものだったが、やはりというかまともな答えなど返ってはこなかった。  例えばその手を離したとしても、或いは優しく撫で擦ったとしても。  “それ”は同じ雑音を繰り返すに違いない。 他と同じく、茶器の底に残るような澱でしかない“それ”。  暦はそれが堪らなく嫌いだった。  “終わり”を迎えたものの後に残る“それ”。  “魂”とでも言うべき不確かを、暦は締め上げ縊る。  “終わり”は彼女の独壇場だ。終わったものを糧とする、彼女だけに赦された“覚醒進化”。 己の場合にとっての“それ”を、暦は“魂喰らい”と名付け称した。  ――――黄泉比良坂に息衝く痩せ犬、平坂暦。 『――――、―――― ――――』 「そう、残念ね。だけどここで終わり。だってあなたは“餌”だから」  先程死した老人の“魂”の一端を喰らってみれば、「一目孫に会いたい」と語っていた。  だが、そんなことは関係無い。 「迷ってないでさっさと逝くべきだったのにね。だけどもう遅い。それじゃあ――――」  いただきます、と。  言うや否や、早々に口に運ぶ。  しゃりしゃり、じゅるり、さっくりと。  凡そ物質的な食感ではない食べ応えに、暦は一応の至福を見せたが、それもすぐに消えた。  数分と経たずに食べ終えるも、ますますその表情は険しくなっていく。  理由は簡単。単に不味いからだ。  例えるならば小骨の多い焼き魚を冷めてから食べるような、旨味を出し切った鶏がらを齧るような、そういう感触。 「やっぱり老い耄れは駄目ね、美味しい要素が一つも残ってないんだもの。未練たらたらな部分は良さげだったけど、それだけじゃあねぇ……」  空しさに虚空を仰ぎ、彼の下へと思いを馳せる。  彼と添い遂げる時には、うんと上等なものを用意しよう。そう密かに決めて。 「メインディッシュはこれから。早く目覚めてね、キョウ……」

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