「ヤンデレは誰だ第一話」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

ヤンデレは誰だ第一話」(2008/08/24 (日) 13:12:00) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

4 :ヤンデレは誰だ [sage] :2007/09/17(月) 03:40:13 ID:Sf6DhUew 「9/16 日曜日」 こんなに愛しているのに、どうして。 こんなに近くにいるのに、どうして。 こんなに想っているのに、どうして。 どうして。 あなたは気付いてくれないのだろう。 いつでもあなたのことを考えているのに。 そう。毎晩あなたの写真とお話して、気がついたら朝が来てしまうくらいに。 好き。世界で一番好き。 こんなに好きなんだから、わたしの気持ちが叶わないはずないのに。 どうして。 5 :ヤンデレは誰だ [sage] :2007/09/17(月) 03:40:48 ID:Sf6DhUew ピピピ ピピピ ピピピ ピピピ 「ん…」  …朝だ。  いつもの規則的な電子音で目が覚める。  毎朝のことだが、早朝の寝ぼけた頭にこの大きな音は辛い。  布団から腕を出してゆっくりとその音源に手を伸ばすが、どうやらわずかに届かない。  そうして俺の手が空を掴んでいると、ふいにアラーム音が止まった。 「んー…?」  なんだか分からないが小うるさい音が止んだようだ。  ここはひとつ、もう少しの間惰眠を貪ろう。そう思ったときだった。 「こらっ!」 「んあっ!?」  突然の怒鳴り声に驚き、微妙に情けない声を出しながら起き上がる。  すると、そこにいたのは由香里だった。 「お兄ちゃん。起きて」 「んー…」  目をこすりながら、否定とも肯定ともとれない声を出す。まだ頭が働かないのだ。 「んー、じゃないでしょ。ほら早く」  そう言う由香里の片手には、目覚まし時計があった。  なるほど、アラームを止めたのは由香里か。 「…分かったよ」  ようやく目が覚めてきたので、俺はベッドから這い上がった。  大きなあくびをしながら首や肩を回すと、ボキボキっと鈍い音が鳴った。 「うわ…、ちょっとおじさんくさいよ」 「うるさい」  由香里の冷ややかな指摘を無視し、俺は重い足取りで部屋を出た。 「行ってくるよ」  男の支度なんて、本当に手早いものだ。  15分程度の間に身支度を整えて朝食も済ませた俺は、それだけ母に告げて家を出た。 「ちょっと、待ってよー」  そう言われ振り向くと、由香里が少し慌てた様子で追いかけてきた。 「人に起こしてもらっといて、なんで先に行っちゃうかなぁ」 「なんで、って言われてもなぁ」  俺は少し困って頬をかく。 「ていうかさ、なんで俺より早く起きてるのに俺より支度が遅いの?」  素朴な疑問だ。由香里の支度はいつも長く、正直いちいち待っていられない。  すると、由香里は少し怒ったような顔をして言った。 「女の子は支度に時間がかかるものなの!」 「そんなもんかね」 「そんなもんなの」  それだけ言うと、由香里は俺の隣に並んで歩きだした。  俺はふと、そんな妹の横顔を覗く。  由香里の顔立ちは俺と違って、完全に母親譲りだ。  もともと浅黒い俺とは違う白い肌が、いつの間にか覚えた化粧でほんのりと染められている。  茶色がかった髪は、地毛だろうか。思えば妹の髪など気にしたことがないので、ちょっと判別がつかない。  とにかく、そんな妹の髪はツインテールにまとめられて歩く度に揺れている。  確かに、こいつもいつの間にか年頃の女の子になっていた。  そりゃ身支度に時間がかかるはずだ。  そんなことを考えていると、いつの間にか由香里もこちらを見ていた。 「どうしたの?」 「ん? ちょっとね」 「なに?」  由香里は訝しげに首を傾ける。 「まあ…。お前も大きくなったな、と思って」 「なにそれ」  由香里は不思議そうな顔で、もう一度首を傾けた。 6 :ヤンデレは誰だ [sage] :2007/09/17(月) 03:41:51 ID:Sf6DhUew  俺と由香里が通う高校は、自宅から歩いて10分程度の距離にある。  今朝も由香里と他愛のない話をしている間に、学校へ辿り着いていた。 「おはよう。笹田くん」  ちょうど校門を抜けたところで、聞き慣れた声に呼ばれた。 「ああ、委員長。おはよう」  挨拶を返すと、委員長は長い髪を左手で耳にかけながら微笑んだ。最近知ったのだが、どうもこれは彼女の癖らしい。  他の女子ならちょっと気取った感じに見えるだろうが、委員長がやると清楚な感じに見えるから不思議だ。 「今日も妹さんと一緒なのね」  委員長は笑みを崩さずに言った。 「ああ」  俺がそう言うと、隣で由香里が頭を下げた。 「おはようございます。先輩」 「おはよう」  委員長も律儀に頭を下げて挨拶を返した。 「…じゃあ、わたし行くね」  そう言うと、由香里は一年生用の玄関へ向かって行った。 「可愛い妹さんね」  委員長が由香里の後姿を見つめながら、つぶやくように言った。 「そうかな」 「笹田くんはそう思わない?」 「よく分からないよ。兄妹だからね」  由香里を見送った俺は、今度は委員長と並んで歩き出す。  横で歩く彼女を見て、俺はあることに気付いた。 「委員長さ、最近ずっとメガネじゃない? コンタクトやめたの?」  俺がそう言うと、委員長は一瞬顔を赤くした。 「え、ええ」 「どうしたの? なんか心境の変化とか?」 「う、ううん。何でもないの。ちょっと、何となくっていうか…」  委員長はなぜかしどろもどろになる。あまり聞かれたくない話なのだろうか。  そんな間に、俺たちの教室の前まで来ていた。  すると、クラスメイトの一人が俺を見つけた。 「おーい、笹田。お前が聞きたいって言ってたCD持ってきたぞー」 「お、マジで?」  急いで友人のところへ行こうとして、委員長の存在に気付く。 「俺、行くね」と言おうとしたが、それより先に委員長が口を開いた。 「どうぞ。気にしないで」  委員長がいつもの笑顔でそう言ったので、俺は軽く頷いてからCDの、もとい友人のもとへ駆け出した。 「…笹田くんが、似合うって言ってくれたんだけどな」  委員長が小さな声で何かを言った気がしたが、よく聞き取れなかった。 7 :ヤンデレは誰だ [sage] :2007/09/17(月) 03:43:42 ID:Sf6DhUew  昼休み、俺は机に突っ伏して仮眠を取っていた。  こうして午後の授業のために体力を温存しておくのは、学生にとって重要な一日のプロセスなのだ。  しばらくの間そうしていると、あろうことか俺の安眠を妨害する不届き者が現われた。  誰かが俺の肩を叩いているのだ。 「………」  無論、シカトだ。  俺の大事な時間をそうそう他人に奪われてやるわけにはいかない。  しかし、どうしたことか。この不逞の輩は、俺の肩を叩き続ける。  トントン、トントン、と小刻みに俺の肩でリズムをとる。いい加減に鬱陶しくなった俺は、勢いよく起き上がった。 「なんだよ!」  そう言った瞬間、何か硬いものの角で頭を叩かれた。 「痛っ!!」 「全く。授業中だけじゃ寝足りないのか、お前は」  確実にコブが出来たであろう頭頂部を押さえながら見上げると、そこには担任の若槻先生がいた。  手に持っているの数学講師用の三角定規だ。…あれで殴られたのか、俺。 「いてて…。な、なんですか先生」 「今日の昼休みは、何か予定がなかったか?」 「予定…?」  そう言われて思い巡らすが、何も浮かんでこない。そんな俺を見て若槻先生は大きなため息をついた。 「…完全に忘れてるな。まったく、今日の昼休みは部活のミーティングだろう」 「…あ!」  思い出した。今日は美術部のミーティングがあったのだ。  美術部では選考会が近づくと必ずミーティングを開くことになっている。半分幽霊部員の俺でも、これは参加しなくてはまずい。 「まだ始まったばかりだろう。今からでも行ってこい。きっと芳野が怒ってるぞ」  腕時計を見ながら先生が言った。若槻先生は美術部の顧問でもあるのだ。 「は、はい! 行ってきます」  慌てて教室を出て行く。廊下は走るな、なんていってる場合じゃない。 「はぁ。だよなぁ、絶対芳野先輩怒ってるだろうなぁ…」  美術室へと向かって走りながら呟く。  我らが美術部の部長である芳野先輩は、俺にとっては頭の上がらない相手だ。  俺にとっては、というのは間違いか。おそらく彼女の周囲のほとんどの人間にとってはそうかもしれない。  先輩は容姿端麗、学業優秀、運動センスはおろか芸術センスも抜群、とまさに完全無欠のスーパーマン、いやスーパーウーマンだ。  おまけにちょっとした完璧主義者であり、自分に厳しいが人にも厳しい。  俺も一年の入部以来、何度芳野先輩に説教されたか分からないくらいだ。  とにかく急げなければ。俺は光のような速さで駆け行き、ものの1分程で美術室まで到着した。 「でも…。入るの怖いなぁ」  中へ入るのを躊躇う俺。しかしずっとこうしている訳にもいかず、俺は意を決した。 「…はぁ。素直に謝ろう」  ひとつため息をつくと、美術室の扉を開けた。 「すいません。遅れました」  そう言って中へ入ると、会議中の部員たちの目線が俺に集まった。…勿論先輩の目線も。  ミーティングの進行をしていた女子生徒がちらっと芳野先輩の方を見ると、先輩は顔色を変えずに「続けて」とだけ言った。  俺を無視したまま進行され始める会議。俺は非常に気まずい空気の中、昼休みの終わりを待った。  しばらく経って、先輩の締めの言葉でミーティングは終了した。  ぞろぞろと部屋を後にする部員たち。俺もさりげなくその列に加わる。 「笹田。あんたはまだよ」 「ですよね」  逃亡はあっけなく未遂に終わった。 8 :ヤンデレは誰だ [sage] :2007/09/17(月) 03:44:58 ID:Sf6DhUew  二人だけとなった部室で、先輩が口を開く。 「まったく。幽霊部員のあんたでも、会議くらい顔を出すものと思ってたけどね」 「いや、でも一応顔は出して…」 「コンパじゃないんだから、途中から少しやってきて『顔を出しました』なんて通用しないわよ」  まるでグサっという擬音が聞こえてきそうなほどの物言いに、思わずたじろぐ。 「す、すいません」 「だいたいもうちょっと部活出なさいよ。何のために部活入ってるの?」 「すいません」 「そんなダラダラ過ごしてたらね、高校生活なんてすぐに終わっちゃうわよ」 「すいません」 「すいませんすいませんってあんた本当に分かってんの!? ちょっとそこに座りなさい」  しまった、話してるうちに先輩を興奮させてしまった。一番悪いパターンだ。 「いや、でも先輩。もうすぐ授業…」 「なに?」 「なんでもないです…」  次の授業は遅刻だろうな…。  そう思いながら俺は、先輩に聞こえないように小さくため息をついた。 「以上だ」  午後4時半。若槻先生がホームルームの終わりを告げると、教室はすぐに騒がしくなった。  大急ぎで部活へ出る者、浮かない顔で補習に向かう者、特に予定もないので友人とだべりだす者。  生徒も先生もまだ残っていて、いろんな声が教室中を行き巡る。いつもの放課後の光景だ。 「さて、どうしようかな」  特に放課後の予定を決めていない俺は、一人呟く。  すると、近くの席の委員長が近寄ってきた。 「笹田くん」  委員長は俺のそばに来て軽く微笑む。 「笹田くん、今日は何か予定あるの?」 「ん、特にないけど」  俺がそう言うと、彼女は長い横髪を耳にかけてまた笑った。 「じゃあ、ちょとわたしに付き合ってくれない?」 「えっと、どうかしたの?」 「それがね、今日は図書館の当番なんだけど、もう一人の当番の子がお休みで…」  委員長は少し目を伏せた。  そういえば、委員長は図書館の司書係だった。  何度か仕事中の姿を見たことがあるが、本当に彼女のイメージにぴったりだった。  決して「地味だから」ではなくて、委員長の持つ、なんとなく知性的な雰囲気がそう思わせたのだと思う。 9 :ヤンデレは誰だ [sage] :2007/09/17(月) 03:45:37 ID:Sf6DhUew 「ちょっとわたし一人じゃ作業が大変で、よかったら手伝ってもらえないかなって」  委員長が申し訳なさそうに言った。  まあ、たまにはそうやって静かに放課後を過ごすのも良いかもしれない。人助けにもなるし。  そう考えた俺は「いいよ」と言おうとした。  しかしその声は、教室のドアを開ける音ともに突然入ってきた威勢のいい声にかき消された。 「笹田、いる?」  そう言いながら、ずかずかと下級生の教室に入ってきたのはもちろん芳野先輩だ。  先輩は教室の中から俺を見つけると、いつものキツめの口調で言った。 「今日は部活出るんでしょうね? 選考会も近いんだし、当然出るのよね?」  ずいっと俺に顔を近づけてくる先輩。至近距離で睨んでくるその目は、きっと「YES」の答えしか許さない。 「ああ、えっと…」  なんてタイミングが悪いことだ。俺は困ってしまい、横目で委員長を見る。  するとやはり、委員長も困ったような表情で下を向いている。  そんな様子に何か感じたのだろうか、先輩がじろじろと俺たちを見た。 「…もしかして、何か予定でもあったの?」 「あ、いや…」  口ごもる俺。  どうしたものか、実に困ってしまったこの状況。  しかしこの直後、さらに困ってしまうことが訪れた。 「お兄ちゃん。ちょっと帰り買い物付き合ってよ。荷物一人じゃ持ちきれなくて…」  そう言いながら、由香里が元気よく登場した。  まさしく、二度あることは三度あったのだ。  由香里は、俺のそばに立っている二人の上級生に気づく。 「あ、えっと。…他の予定あった?」  由香里はばつが悪そうにそう尋ねた。 「いや、その…」  本当に、どうしたものか。  自分でも情けないと思うのだが、俺が何も言えないでいると、委員長が控えめな声で口を開いた。 「わ、わたしはいいよ。元々自分の仕事だし…」  委員長は少し早口で続ける。 「やっぱり人に頼ってちゃダメだよね。…ごめんね、笹田くんの予定も考えないで勝手なこと頼んじゃって」  そう言うと、最後に「また明日ね」とだけ残して委員長は歩いていった。  なにか悪いことをしてしまったような気がして、俺は「うん」などと気弱な返事しか出来なかった。  すると、その様子を見ていた芳野先輩が口を開いた。 「…まあ今日は好きにしなさい。でも、せめて次の選考会にはちゃんと作品出しなさいよ」  釘を刺すようにそう言うと、先輩も教室を後にしていく。 「………」 「………」  残された俺と由香里。 「あー。買い物だっけ? 今から行く?」 「…んー、今日はもういいや。予定があったならそっち優先しなよ」  そんなことを言い残すと、由香里もそさくさと帰ってしまった。  一人残される俺。 「………」 「………」 「………」 「…帰ろ」  なんだかよく分からない状況に気疲れしてしまった俺は、一人帰宅することにした。 10 :ヤンデレは誰だ [sage] :2007/09/17(月) 03:46:58 ID:Sf6DhUew 「9/17 月曜日」 あの人とわたしの距離は、近いようで遠い。 もう少し勇気をだせば、もっと一緒にいられるかもしれない。 でも、それが出来ずにいつも遠くから見ている。 今日の放課後は、結局誰と一緒に過ごしたのだろう。 あの人の近くには、いつも他の女の子がいる。 わたしのほうが、好きなのに。 絶対わたしのほうが、あの人のことを好きなのに。 どうして。

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: