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477 :オン・ステージ [sage] :2008/09/26(金) 02:54:33 ID:woy1eNh9 彼女が初めて彼の姿を見たのは、学校に入学してすぐだった。 新入生歓迎、とか名づけられたれた部活紹介。 全国的な強豪だとかいう演劇部はごく簡単な劇を披露した。 その主役を務めていたのが彼だった。 そして、彼女は彼に夢中になった。 演劇に関しては何も知らない。しかし彼の演技が素晴らしいというのは一目でで分かる。 一挙手一投足が、観客の五感すべてを魅了する。世の中にこんな人間がいるのかと思った。 後に、彼は若くして天才と称される人物であることを知った。 彼と同じ舞台に立ちたい。共に演技をしてみたい。 本気でそう思った。 まもなく演劇部に入部した。劇の経験は小学校の学芸会程度。 無論、親や友達からは猛反対を食らった。 しかし、入った後の彼女の努力は凄まじかった。自分の心身全てを賭け、必死に演劇に打ち込んだ。 すべては、彼と同じ舞台に立つために。 元々その素養があったのかは分からない。彼女は、1年後には彼と並んで称されるほどの役者に成長していた。 ほどなく、彼から交際を申し込まれる。返事はもちろんOK。 天才カップルなどと呼ばれ、校内中から祝福を受けた。 しかし。 何度、甘い愛の言葉を囁かれても。 何度、抱きしめあっても。 何度、濃厚なキスをしても。 何度、愛撫を受け体を重ねあっても。 彼女の心は満たされなかった。 唯一充足感を覚えるのは、彼と同じ舞台に立つ時のみ。 そんな毎日の中で、あることに気づく。 ―自分は、彼が好きなんじゃない。舞台に立っている彼が好きなんだ。 思えば、彼を初めて見た時も彼は演技をしていた。ここまで来た理由も、彼と同じ舞台に立ちたいから、だった。 舞台に立つ彼は、彼女のあこがれ。 彼と舞台に立つたび、不思議な高揚感が身を包み、どんな複雑な演技もいとも簡単にこなすことができた。 事実、2人の共演は物凄い反響を呼び、もはやその名は徐々に全国にまで知れ渡るようになった。 時は流れ、やがて彼にとっては高校最後の公演を残すのみとなったある日。 彼は大事な話があると彼女に告げた。それはこの公演をもって役者を引退すること。 高校を卒業したら、大学に入って普通の青春を謳歌してみたい。それが彼の願いだった。 彼女は目の前が真っ暗になるのを感じた。 彼と共演することだけが、彼女の生きる全てだった。それを失くしたら、どう生きて行けばいいのだろう? 不安と焦燥感にかられた。しかし、今は公演に集中しなくてはならない。 台本をパラパラとめくる。 その手が、ふと、最後のあたりで止まった。 途方もない考えが、頭をかすめた。 忘れようとしても、その考えはしつこく頭の中に残り続ける。 ―自分の全てを失うというのなら、いっそこの手で。 ―――――この手で・・・ 478 :オン・ステージ [sage] :2008/09/26(金) 02:55:21 ID:woy1eNh9 最終公演の当日。 天才と呼ばれた役者の突然の引退宣言。当然、観客は雲霞のごとく押し寄せた。 演目は中世、上流社会を舞台にした恋愛もの。 この日の彼の演技は、普段より遥かに研ぎ澄まされ、人々を圧倒し。 彼女の演技は、いつにない激しさと妖艶さで、人々を魅了した。 やがて、演劇はクライマックスを迎える。 嫉妬に狂った女が、主人公に迫る。 懐の短剣で、主人公を刺し殺す。 倒れる主人公。 やがて女は去っていき、幕が閉められ、観客は万雷の拍手を送る。はずだった。 「・・・っ・ぐお・・・おま・・・え・・・」 「ごめんなさい、でもね、私は舞台の上のあなたがすべてなの」 「それを失うというのなら・・・私は自分で終わらせるの・・・」 前列の観客が、異変に気付く 倒れた彼が、痙攣した後、ぴくりとも動かなくなる 胸元から、血糊ではない、真っ赤な液体が溢れ出し・・・舞台を赤く染めてゆく 『おい、事故だ!』 『剣が本物にすり替わってたんだ!』 『幕を降ろせ!早く救急車を呼べ!』 『きゃああああああっ!!!』 騒ぎが波のように広がってゆく。 「ふふっ」 不意に笑い声が響いた 全観衆の目が舞台に向く 彼女は笑っていた。返り血を、その全身に浴びて 「ふふっ、くっ・・・あはははははははははははははははははは!!!!!」 凍りついた空気の中 ステージに幻を追い続けた少女の笑い声が、いつまでも響き続けた

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