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681 :天使のような悪魔たち 第6話 ◆UDPETPayJA [sage] :2008/11/09(日) 19:32:39 ID:ZLAFCsLQ 午後8時、結意と別れた俺は夕食の買い物をするために最寄りのスーパーを訪れていた。入り口付近から順当に歩き、目当ての品々をかごに入れてゆく。 さすがに時間が遅かったから、残っていた品揃えも微妙だが…。今日のメニューは…そうだな、明日香の好きなオムライスにでもしようか。 明日香は…まだふさぎこんでるだろうか?俺とて、明日香のことが嫌いなわけじゃない。むしろ、愛している。だが結局、あくまで家族としてのそれでしかない。 俺は…どうすればよかったんだろう。あのまま明日香の気持ちに応えればよかったか?それとも、もっと冷たく突き放せばよかったのか? 馬鹿な俺にだってわかる。このまま中途半端にずるずると引っ張ることがもっとも残酷であることぐらいは。 だから…いずれはっきりさせなければいけない。もう、答えは決まっているんだから。 ♪♪♪♪~♪♪~♪♪♪~ 焼き芋の機械に備えつけられたスピーカーから鳴る軽快な音楽によって俺の思考は現実に引き戻された。 そのまま、とりあえず会計を済ませることにした。今は早く家に帰ろう。その上ではっきりと言わなければならない。 俺は…家を出る。 夜の闇を薄暗い電灯が照らしている、人気の少ない道をひとり歩く。一歩踏みしめるたびに決意を反芻する。 今度こそ逃げちゃだめだ。明日香がどんなに悲しもうと、はっきり言う。それがきっとお互いのためだから。 明日香だってこれから先いくらでも出会いがあるだろう。俺よりもいいやつなんかごまんといる。 だから…きっといつか傷は癒えるはずだ。自分勝手な願望ではあるが、今の俺にはそうなってくれることを祈るしかできない。 そんなことを考えているうちに、とうとう家の前に着いた。一度深呼吸をし、ドアノブに手をかける。 「ただいま、明日香。」と、決まりの挨拶をする。が…当然返事はない。俺は靴を脱ぎ、中へと上がった。ふいに、あることに気付いた。 682 :天使のような悪魔たち 第6話 ◆UDPETPayJA [sage] :2008/11/09(日) 19:33:27 ID:ZLAFCsLQ ―――明日香の靴がない。外出しているのか…こんな遅くに、一体どこへ? いろいろと思案してみる。まず昨日のこと…あんなことがあったからにはやはり家には居づらかったのだろうか? そこで、俺の思考はひとつの可能性にたどり着いた。…家出か? とにかく、明日香が心配だ。俺は再び靴をはき、外に出ようとした。 「待ちなさい、飛鳥。」 誰かに呼び止められた。俺は声がした方へ向き直る。そこにいたのは…明日香そっくりの少女だった。 もし髪がストレートではなくツインテールであれば、明日香にしか見えないだろう。けど、俺はこの少女を知っていた。 「亜朱架姉ちゃん…?なんでここに?」 俺が疑問に思ったのは当然だ。なぜなら姉ちゃんは父さんたちと一緒に海外へ行っていたはずだから。 「帰ってきたのよ…久しぶりね、飛鳥。」 亜朱架姉ちゃんは、神坂家の長女だ。今年でたしか20になる…が、どうみても幼女だ。最後に会ったのが四年前だけど、その時から全く変わってない。ただ、やはり言動は大人びいているが…。 「明日香を探すんでしょ?私わかるわよ、居場所。」 「どこにいるんだ!?姉ちゃん!」 「あんたの彼女のとこよ、間違いないわ。」 …おかしい。なんでついさっき再会したばっかなのに結意のことを知ってるんだ?それに、明日香の居場所も…だめだ、今はそれどころじゃない。 俺はすぐさま結意の家に向けて走り出した。 683 :天使のような悪魔たち 第6話 ◆UDPETPayJA [sage] :2008/11/09(日) 19:34:31 ID:ZLAFCsLQ それから数分後、目的の場所へたどり着いた。ドアを引く。…鍵がかかっていた。俺は乱暴に呼び鈴を数回押し、怒鳴った。 「開けろ結意!俺だ、飛鳥だ!」 だが、いっこうに開かれる気配がない。 「どきなさい、飛鳥。」 あとを追ってきた姉ちゃんが俺を押し退け、ドアに正対する。すると、目を閉じて手をドアにかざした。 直後、閃光がまたたいた。いや、正確には光と言うより…闇。さしずめ黒い光、か?それからドアは、音もなく開いた。 「姉ちゃん…今のは?」 「鍵を破壊したのよ。緊急事態だし…。」 「そうじゃねえよ!今の光はなんなんだ!?」 「…後で話すわ。それより……」 そう言って姉ちゃんは部屋の中を指さす。俺は黙ってうなずき、部屋へと上がり込んだ。なにか声がする。…どうやら、明日香は本当に来ていたようだ。 「この泥棒猫!あんたなんかがいるから兄貴は…兄貴は私を見てくれないのよ!」 「あなたは飛鳥くんの妹なのよ?私がいなくても、飛鳥くんはあなたには振り向かないわ。」 「うるさい!あんたなんか…死んじゃえ!」 684 :天使のような悪魔たち 第6話 ◆UDPETPayJA [sage] :2008/11/09(日) 19:36:19 ID:ZLAFCsLQ 明日香は激昂し、手にもったナイフを結意に差し向けた。俺はすかさず止めに入る。 「やめろ明日香!こんなことしてなんになる!」 「どいてよお兄ちゃん!そいつ殺してやるわ!」 結意に向けてナイフごと突貫せんとばかりの明日香。とりあえず、後ろから羽交い締めにした。 「離して!あの泥棒猫殺さなきゃいけないの!」 こんな小さな体のどこにそんな力があったのか、今にも振りほどかれそうだった。 ―――――そのとき、再び黒い光がまたたいた。その一瞬で、ナイフは失せていた。明日香も、気を失っていた。 「…間に合ったわね。」 肩で息をしながら姉ちゃんが近づいてきた。どうやらあの光を放つのは体力を消耗するみたいだ。そのまま明日香の額に手をかざし、三たび黒い光を放つ。 「飛鳥くん…この子は?」 いきなりの明日香に瓜二つな幼女(?)の登場に結意は戸惑っていたようだ。 「俺の姉ちゃんだよ。亜朱架ってんだ。」 「…また"あすか"?」 「ああ…親父たちもなんたってこんな紛らわしい名前つけたんだろな?」と、少しでも場をなごませようとおどけて見せる。 「飛鳥、もう行きましょう。あ…結意さんでしたっけ。鍵、壊しちゃったから。明日すぐ業者をうちから手配するから今夜はチェーンロックで代用してね。 …ごめんなさいね?」 姉ちゃんは丁寧に謝り、軽くお辞儀をした。俺は、明日香を担いで結意の家を後にした。 685 :天使のような悪魔たち 第6話 ◆UDPETPayJA [sage] :2008/11/09(日) 19:37:40 ID:ZLAFCsLQ 「なあ…さっき明日香になにをしたんだ?」俺は姉ちゃんへそう問いかけた。至極当然な質問だ。 「記憶を奪ったわ。正確には、明日香があんたに拒絶された日の記憶をね。」と、姉ちゃんは答えた。 「じゃあ、あの光はなんなんだ?鍵を壊したり、ナイフを消し去ったり…普通じゃないだろ、あれは!」 すると姉ちゃんは一考したあと、語りだした。 「私…人間じゃないのよね。」 「…はぁ?だって姉ちゃんは…」 「普通に見れば人間と変わりないわ。でも、厳密には違うの。あんた、生物の授業で習わなかった。2n=46って。」 「それなら習った。人間の染色体の数だよな。」 「そうよ。でも私は…49本あるの。」 「…多くねえか?なんでそんなにあるんだよ。」 普通に考えて意味が分からなかった。人間の染色体が49本なんて、聞いたことない。 「たぶん…いえ、絶対お父さんのせい。あんた、お父さんがなんの研究してか知ってる?」 「いや…興味なかったからな。」 「…私の遺伝子の研究よ。普通なら、こういうのは染色体異常の類として扱われるんだけど…ダウン症とかがそのいい例ね。でも私はなんの欠陥も今現在は見当たらないわ。そのかわり……」 はぁ、とため息をつき、姉ちゃんは続けた。 「年とらないのよ、私。それに、さっきの光。見たでしょ?あれは…そうね、"消去の光"ってとこかしら。」 「消去の光?なんだそりゃ。」 「任意のものを消し去れるのよ。さっきのナイフみたいに……。記憶だって、この光で奪えるわ。………こんなのって、人間じゃないでしょ?」 少し哀しそうな表情で微笑みながら姉ちゃんはそう言った。 686 :天使のような悪魔たち 第6話 ◆UDPETPayJA [sage] :2008/11/09(日) 19:38:59 ID:ZLAFCsLQ 「お父さんたちの研究テーマは…そうね、"新人類"とでもいったところかしら。今も、日本のとある極秘の施設で研究してるはずよ。海外なんてのはたんなるカモフラージュ。それとね……」 そこで切り、俺…いや、俺たちへと向き直る姉ちゃん。 「あんたたちもそうなのよ。49本。」 「……俺たちも?でも…」 「なんの変化も見られない、でしょ?それもそうよ。それこそが私だけが研究材料として適任だった理由なんだから。でもね…一つ問題があるのよ。」 「…? 言ってみろよ。」 「………飛鳥、もう結意さんとはセックスした?」 ―――――な、なんてことを訊いてくるんだ姉ちゃん!あまりに突然だったため、どう答えたらいいかわっかんなくなってしまった! まあ…それだけで見抜かれたみたいだけど。 「…やっぱり。」 ほら、"やっぱり"! 「飛鳥……言っとくけどあんた、結意さんとのあいだに子供つくれないわよ。」 ……今度は、姉ちゃんの言ってることの意味がわからなくて沈黙してしまった。子供ができない?俺と結意の? 687 :天使のような悪魔たち 第6話 ◆UDPETPayJA [sage] :2008/11/09(日) 19:40:00 ID:ZLAFCsLQ 「まだ授業で教わってないのね…ほんと、ゆとり教育ってダメね。いい?たとえば、犬とネコが交尾したとしても子供はできない。これはわかるでしょう?」 「ああ。」 「それと同じ。"種"が違うの。わかりやすくいうと…おたがいの染色体の本数が一致しないと子供はできないの。つまり、ヒトと猿が交配しても子供はできない。 だから……私たちは普通の人間とのあいだには子供はつくれない。わかった?」 「……なんとか。」実際頭のなかごっちゃだけど…言いたいことはわかった。 「一応、方法はあるわ。」再び姉ちゃん。「それはいったい?」とりあえず尋ねてみる。 「近親相姦なら子孫を残せるわ。あんたと明日香がくっつけばいいのよ。」 「…………!?あ、明日香と!?」 「そ、明日香とよ。私、べつに子供ほしくないし…でも明日香はその気満々みたいだし。はやいとこくっついちゃいなさい。うん、それがいいわ。」 なんかとんでもないことを言ってる気がするが………いや、言ってる! 「でも、俺たち兄妹だぞ!そんなこと―――――」 「あんた、明日香が嫌いなの?私はどうしてもあんたと明日香がくっついてもらわなくちゃ困るのよ!」 …なんで困るんだ?とは言い返せなかった。姉ちゃんの鬼気迫る表情に怖気ついてしまったからだ。 「どうしてもっていうなら…しかたないわね。」俺に手をかざす姉ちゃん。 瞬間、黒い光がまたたいた。対象は…どうやら俺みたいだ。 688 :天使のような悪魔たち 第6話 ◆UDPETPayJA [sage] :2008/11/09(日) 19:41:06 ID:ZLAFCsLQ * * * * * 「…あれ、姉ちゃん。俺何してたんだ?」 「なんか、ぼーっと考え事してたわよ。しゃきっとしなさいしゃきっと!」 なんだ…?このもやもやした感覚。まるで、 「ねえ奥さん、こないだのアレお買い得だったわよねぇ!」「アレって?」「だから、アレよアレ!えっと…なんていったかしら?」みたいな感じだ。 まあ、いいか。明日になればまた結意特製の怪しさマックスの弁当箱が下駄箱に入っていることだろう。そして繰り返される日々、か。 そう思うと足取りが重く感じられたが…まあめげずにがんばろう、俺! 「飛鳥…ごめんなさいね?」突然謝りだした姉さん。 「何がだ?」と思わず聞き返す。理由がわからなかった。何を謝ってるんだ? 「ううん…なんでもないわ。ただいま、飛鳥(明日香)!」

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