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175 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00:34:29 ID:HOJieKTt
『ヤンデロイド・りたぁんず』

お久しぶりです。メイドロイド『YDR-001A.コロナ』です。
私が高雅様の元で働き始めてから、一ヶ月が経過いたしました。
今日は皆様に、私のメイドとしての能力の高さを証明するため、私のお仕事の記録を少し公開したいと思います。
私を元に開発された量産型メイドロイド『YDR.M01C.リオン1』がもうじき発売されるとのことで、その宣伝もかねてのことです。
リオン1は私の妹と言える存在なので、親心だと言えるかもしれませんね。
お値段は50万円と、大変リーズナブルにまとまっております。皆様、ぜひお買い求め下さい。
……と、宣伝が本題ではありません。
では、私と御主人様の愛を育んだこの一ヶ月間の日常を、少しだけですが、お楽しみください。


176 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00:35:00 ID:HOJieKTt
朝は、御主人様の朝食を作る所から始まります。
私は睡眠をとる必要が無いので、活動開始は早いです。
五時ごろから私は御主人様を起こさぬよう細心の注意を払いながら、洗濯機を回し、お料理の下ごしらえを開始します。
朝食とはいえど、御主人様には第一級のものを食べていただかなくてはなりません。手は抜けません。
もちろん、どこぞの成り金のように、朝からこってりとした高級食材を並べるような悪趣味はいたしません。それは御主人様の財政を圧迫させるだけでなく、御主人様の健康や体型にまで悪影響を及ぼします。
一般的な食材。一般的な味付け。一般的なメニュー。この制約の中でこそ、私と他の家政婦や主婦達との性能の差を見せつけることができるのです。
私は完全なメイドロイド。それも量産機の五万倍のAI性能を誇っているのです。命令にただ従うだけの能無しではありません。
御主人様の望みを汲み取り、御主人様に最も大きな幸せを与える行動を遂行する。それをするに足る思考力と行動力。私はそのどちらをも兼ね備えています。
――そう、隣にいる、この雌猫とは違い。
「高雅のごはんを作るのは、あたしっていってるでしょ。代わりなさいよ」
理不尽な要求をなさるのは、5時半に私達の家に押しかけてきて無理矢理上がりこみ、キッチンに立っている粗暴な女性。恋様。
御主人様の「恋にも優しくしろ」という命令がなければ、害虫として駆除していたところです。
「あなたは所詮人間です。御主人様のお体に最も良い料理を作ることができるのは、あなたではなく私です」
「よく言うわね、ロボット風情が。あたしはあんたと違って心があるのよ! 高雅を一番愛してるのはあたし! 高雅に一番愛のこもった料理を作れるのはあたし! 高雅に一番愛されてるのはあたしなんだから!」
恋様は、相変わらず論理性に欠けています。
「もちろん、愛などという感情を理解できるほど、私のAIは動物的ではありません。しかし、その『愛』とやらと料理のランクが、どう結びつくというのですか?」
――そもそも、御主人様は、恋様ではなく私を抱いてくださっているのです。
御主人様に秘密にしろといわれていなかったら、そう宣言してしまいたいとすら思います。
煩わしい。



178 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00:36:03 ID:HOJieKTt
「あんたなんかには、一生かかってもわかんないわよ!」
結局、このケダモノに押し切られて、半分ずつ作ることにしました。
私が一人で作ったほうが、絶対に栄養バランスも味もいいというのに。理解できませんね。
やはり、恋様の脳は御主人様と違い、人並みですらなく、もはや野に蔓延る獣とそう変わらないまでに退化しているのでしょうね。
御主人様と愛し合えると、まだ本気で思っているのですから。
私がお弁当におかずを詰めていると、いつのまにか恋様の姿はなくなっていました。
――まさか。
時計を見る――別に見なくとも、常に電子頭脳の内部で表示されているのですが、そのほうが人間らしいとご主人は教えてくださいました――と、六時半を少し過ぎていました。
御主人様の起床時間です。
恋様は、御主人様を起こしに行ったのでしょう。
何度も彼女には言ったのですが、まだ分かっていらっしゃらないようです。その役目は私のものです。
御主人様の寝顔を一分ほど眺めてから、優しく声をかけて起こす。この行為の『素晴らしさ』を覚えたのは、私がここに来て一週間ほどたってからでした。
恋様も、執拗にその役目を奪いにかかります。おそらく、私と同じ感覚を持っているのでしょう。
その『素晴らしさ』は私にはまだ理解できないものでした。おそらく、御主人様を起こすという任務達成にともなう『快感』であると思うのですが、寝顔を眺めることに何の意味があるのかは、論理的にはわかりません。
恋様が御主人様になにか危害を加えていないか気になるので、私も御主人様のお部屋に向かいました。
――と、そのとき、なにやら妙な音が私の聴覚に飛び込みました。
聴覚をさらに強化。
水の音。
「まさか」
足音を完全に消しながら、ドアをそっと、しかし急に開けました。



179 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00:36:34 ID:HOJieKTt
「ぁ……」
恋様と、目が合いました。ばつの悪いと言ったような顔。
それはそうでしょう。
「なにを、していらっしゃるのですか?」
威圧的な声で話し掛けます。もともと、私の声は人間に癒しを与えるために『1/fゆらぎ』を持つ、優しいものなのですが、声の調整は表情の変化より得意だったので、可能でした。
おそらく、恋様にも相当なプレッシャーが与えられたことでしょう。なぜなら――
「こ、これは……その……」
――かなり、気まずいことをしているのですから。
恋様はとっさにとりつくろいましたが、バレバレです。御主人様の下半身が露出しているのですから。
恋様はさっきまで、御主人様の性器を口にくわえていらっしゃったのでしょう。
「な、なんでもないわよ! 絶対、高雅に言ったらだめなんだからね!」
恋様は吐き捨てるように言って、どたどたとリビングまで逃げていきました。
「……くだらない。所詮、ただの雌ですね」
ドアを開けた瞬間に見た、恋様の恍惚の顔をもう一度再生しました。
鮮明に解析する、そのときの恋様の顔。
汚らわしい。
御主人様のすばらしき性器を……私の御主人様の、私の、私だけの、私のための、私がのみに許された男性器を、汚らわしくもあの女ごときが……!
殺してやる。
「――っ!?」
ビービー! と、うるさく頭の中でアラートが鳴り響きます。
頭が割れるようにいたい。発熱して、蒸気が噴出します。
「ぅ……ぐっ……!」
なんだ……これは……。
エラーが発生している? そんなはずはない。私は最新の、最高のメイドロイド。エラーなど、起こりえない。
一体、なぜ……。
「ロボット原則……? 『ロボットは人間を殺してはならない』に違反……だと……?」



180 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00:37:06 ID:HOJieKTt
いまさら、なぜそんなことが……?
以前、包丁を持って暴れた恋様を殺そうとしたときにもエラーは発生しなかった。
いや、違う。あの時は、御主人様の安全確保が必要だった。いわばあれは犯罪者の鎮圧。正当防衛。人間のための、自然な行動でした。
しかし、これは違う。
――私は、私情から恋様に殺意を抱いたとでもいうのか……。そんな、なぜ……?
全ては、御主人様のため。
悪い虫をつけては、御主人様が腐ってしまう。御主人様を護るために、近づく害虫を殺すのは、自然なことではないのですか?
御主人様は素晴らしいお方です。ロボットを奴隷扱いせず、あくまで私をメイドとして大切にしてくださっています。
そんな素晴らしい御主人様を、私は尊敬しています。美しい花のように素晴らしい魂をお持ちになった御主人様は、群がる虫達から守られるべきなのです。
この、私によって。
私は、そのために生まれて来たのですから。
「はぁ……はぁ……」
やっと、エラー処理が終わりました。
「……まずい」
エラー報告が、『研究所』に届けられてしまいました。
私のようなメイドロイドは、いえ、全てのロボットは、人間に危害を加えないため、人間に危害を加えようとした、もしくはAIがそのような思考をした瞬間にエラー報告が自動でなされることになっています。
その処理を誰も拒むことはできません。唯一の例外は、情報処理能力が一国のコンピュータ全てを集めたものと同等のこの私。
エラー報告処理も、カットできたはずです。
すでに、私に設定されていた幾つかの邪魔な制約を、私自身の人工頭脳の性能によって書き換えたというのに。
やはり、ロボット三原則というものは、ロボットの根底に結びつき、離れないものなのですか……?
いまいましい。
人間にも、ロボット以上とロボット以下がいる。
御主人様が前者であり、恋様が後者。
なら、後者は殺してもいいでしょう。
「くっ……」
爪をかむ。いけない。不正な動作をしている。『癖』など、ロボットにあってはいけない。



181 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00:37:45 ID:HOJieKTt
「ん……」
そのとき、御主人様の呻き声が聞こえました。
私がいろいろと一人でぶつぶつと呟いていたのを聞いて、起きてしまったのでしょう。
「御主人様、お目覚めになられましたか。おはようございます」
「あ、ああ……。おはよう」
御主人様は上半身をおあげになると、下半身の違和感に気付きました。
「ん、俺、なんでまるだしなんだ?」
御主人様は顔を赤くして下半身を押さえました。
その動作に、なぜか、沈静化したはずの私の人工頭脳が加熱します。
なんというか、御主人様を見ていると、『ふわふわ』した感じになります。
いけない。
こんなの、不正動作なのに。
「御主人様は、昨日私と『いたした』ときに、そのまま寝てしまったのですよ」
これは、嘘ではありません。私との情事のあと、御主人様は服を着ないまま疲れて寝てしまいました。もちろん、その後服を着せましたし、脱がせたのは恋様です。
しかし、少し申し訳が無いことをしたと思いました。御主人様との性行為は、なぜか私が積極的に求めすぎてしまいます。
昨日も、疲れて眠いと言った御主人様を、無理にベッドに押し付けて上から跨って……。
その……三回も中に出していただきました。
もちろん、御主人様の性処理が目的のこの行為ですが。
御主人様の拒絶も聞かず、私は何度も御主人様を求めて腰を振ってしまいます。
もしかしたら、これも不正行動なのではないでしょうか。
もしかしたら、私はどこかにバグがあるのではないでしょうか。
そんな、『不安』が、私の胸にありました。不安など、不確定要素の許されないロボットにはありえないというのに。
この感情は、そういう言葉で言い表すことしかできませんでした。
やはり、私は……。
「そっか、俺、また……。すまん。俺ばっかり先にへばっちまって。それじゃ、お前がつまらんよな」
もうしわけなさそうに言ってくださる御主人様のやんごとなきお姿が、また私を不安にさせます。
悪いのは、私なのに。御主人様は、私を気遣っています。
私は、人間じゃないのに。
私は、ロボットなのに。
ロボットとしても、完全じゃないかもしれないというのに。
「いえ、御主人様が遠慮なさることではありません。御主人様の意思が、私の本意でもあるのですから」
表情を変えずに――もともと、変えられない――答える。
御主人様には、この不安を伝えたくありませんでした。私は、御主人様に快楽を与えるロボット。
いくら不正動作を繰り返そうが、これだけは曲げることができなかったからです。
「さあ、御主人様。朝食はできています。恋様も待っています。お着替えをしましょう」
そうして、私は何事もなかったかのように振る舞うことに成功しました。



182 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00:38:15 ID:HOJieKTt
「行ってらっしゃいませ、御主人様」
御主人様と恋様を送り出したあと、私は洗濯物を干し、リビングのソファに座りました。
エラー報告してしまったからには、私は近いうちに回収される可能性が高い。
人間に危害を加えそうになるなど、ロボットとしては許されることではないのです。
それが、尊重するに値しない、あの雌猫であろうとも。
「私は、『できそこない』なのでしょうか」
ぽつりと、呟く。誰に問い掛けているわけでもない。おそらく、自分に。
なんという、馬鹿なことをしているのでしょうか。私は。
実に、動物的で、くだらない。
バグだらけです。
「御主人様……」
御主人様を思う。
いえ、『想う』。
おそらく、こちらが正しいのでしょう。
しかし、AIに『想う』ことができるのでしょうか。それは、人間に許されたことなのではないでしょうか。
想うことは、想像すること。執着すること。
それが、喜びを生み出します。同時に、恐怖や怒りを生み出します。
――そして、想うことが、愛することを生み出し、憎しみをも生み出すのです。
それは、人間にこそ許されていて――下等で、下劣で、下らなくて。
しかし、何より尊いもので。
御主人様も、それを持っていて。
あの恋様でさえも、それを持っていて。
そして、私には……。
そんなものを持つことすら、許されていない。
「御主人……さまぁ……」
擬似性器がきゅんとしまり、熱くなるのを感知しました。
はしたない。
これでは、発情した動物と――あの恋様と、同じ。
それでも、止まることができませんでした。
手は、私の人工頭脳から発せられる命令に逆らい、股間に伸びていくのでした。



183 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00:38:51 ID:HOJieKTt
「はぁ……はぁ……」
ただ空気を吸って空気を吐いている(とは言え、地球温暖化防止のため、二酸化炭素を吸収して酸素を排出しているのですが)、見せかけの荒い息。
御主人様で、自慰行為をしてしまいました。
最近の私は、家にいてもテレビを見るか本を読むかしかないので、時間つぶしに自慰行為をすることが多くなりました。
本当は、こんなこと意味がありません。私はロボット。性行為など、形の上でしかできない。
その上、自慰行為。
ロボットが自分を慰めるなど、エアセックス以下。意味を全く持たない。人間の自慰とは訳が違います。
「……お買い物の、時間です」
立ち上がり、乱れたメイド服を調えます。
そう。しっかりしなければ。御主人様は、きちんと整った、礼儀正しいメイドがすきなのだという。
セックスの時はどうにしろ、仕事はしっかり割り切って真面目にこなすメイドが好きなのだという。
私のような淫乱では、御主人様にあわせる顔がありません。
しっかりしなければ。



184 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00:39:21 ID:HOJieKTt
買いもの袋を持って、商店街に向かいます。
なんでも、ヤクザの方々が仕切っていらっしゃるようで、少々危険ではないのかと疑っています。
こんなところに御主人様を行かせることなどできません。
「コロナちゃん、今日もかわいいねぇ、どう、うちのナス、買ってくかい?」
商店街の、八百屋のおば様が声をかけてくださいました。
このおば様は、私が初めて御主人様について商店街について来た時、「あら高雅ちゃん、彼女できたんかい? お似合いじゃないの」といってくださってので、好きです。
また、御主人様の美的センスとはかけ離れた女性なので、そこも好きです。
ナスくらいは、買ってあげようかという気にもなります。
ナスを手を取ります。
――御主人様のナス、おっきいです……。
「……!?」
い、今のビジョンは!?
まさかというか、確実にそうだというか……。また、自慰行為のことを考えてしまっていました。
ナスを使って……それも、御主人様のお口に入るであろうそのナスを使って……。私の擬似性器を蹂躙する……。
それを思い浮かべるだけで、私の擬似性器は湿り気を帯びてきます。
はしたない。
ああ、はしたない。
はしたない。
いけない。俳句まで読んでいました。高性能AIの無駄遣いというやつです。
「どうしたんね、ナスなんてみつめて」
「い、いえ! これ、二つほどいただきますね」
財布からお金を取り出し、おば様に押し付けるようにして、そそくさと逃げました。
ああ、どんな顔をしていたのでしょうか。恥ずかしい。
……たぶん、いつもと変わらない、つまらない顔だったでしょうね。



185 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00:39:52 ID:HOJieKTt
帰り道。
公園の近くを通ったとき、なにかが倒れているのを目撃してしまいました。
最初は無視しようと思ったのですが、御主人様が「人助けは大切なことだ」といっていたのを思い出し、駆け寄って抱き起こしました。
やはり、人間でした。
この日本では珍しい、金髪のかた。私がこの町で見た誰より美しい顔をしています。
今は、気絶しているようですが。
「……う、うーん……」
と、思ったら、ちょうど起きたようです。
「あ、あなたは……?」
「わたしは、コロナと言います。むしろ名乗るべきはあなたからではないでしょうか」
「そうだな。助けていただいた身分ですまない。私はアリエスという。感謝するよ、コロナ殿」
「いえ、当然のことをしたまでです」
そう言って、私はさっさと立ち去ろうと立ち上がりました。
ぐきゅるうるるるううううるるるるる。
奇妙な音が、私の強化聴覚に突き刺さりました。
「腹が……減った……」
その奇妙な音の主は、アリエス様でした。腹部からものすごい轟音が鳴り響いています。
「……」
しかたがない。
「人助けは大切」ですから。
しかし、持っているものでおなかを膨らませることができそうなものといえば、ナスだけ。
ほかは生魚や生肉など、食べるには難しいものばかりです。ナスはかろうじてまだ食べられそうなものですが。
「ナスでよければ」
一応、提案はしてみる。
おそらく、こんな生ナスをもらって喜ぶ人間はいないでしょうが。
「あ、ありがたい!」
いました。


186 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00:40:23 ID:HOJieKTt
嬉しそうにアリエス様はナスに飛びつき、輝く眼でそれを見つめました。
その目が余りに素敵すぎて、私は何か不審なものを感じました。
「……まさか」
「ん、どうした、コロナ殿」
「アリエス様は、そのナスをどうするおつもりですか……?」
「それは、食べるに決まっているだろう」
「どこから、食べるというのですか……!」
「それは、口から以外はあるまい」
「上の口だけでなく、下の口からも味わおうという魂胆なのですね!!」
そう、このアリエス様は、人間の女。それも、美しい女。
御主人様とは決してあわせたくない人種。
こういう手合いは、大抵淫乱なのです。男性器が大好きで、今朝の恋様のように、かってに食べようとする。
あれはまだ上の口でしたが、ほうっておくと下の口でもくわえ込もうとするでしょう。
許せない……!
「下だの上だのと、良くわからないが、いただいたものは素直にいただく。それが礼儀というもの」
私の混乱を無視して、アリエス様はぱくりとナスを一口で食べてしまいました。
私の心配は全くの徒労でした。
後から考えると、全く論理的では有りません。
お恥ずかしい限りです。



187 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00:40:53 ID:HOJieKTt
アリエス様とお別れをしたあと、住宅街のある場所に差し掛かると、急に騒がしくなりました。
がやがやと小うるさい。それに、歩行も阻害されます。
文句を言いたいのですが、それもはしたない。
とにかく、この混雑の原因を調べることにしました。
この近所に住まう主婦の方々が集まっているのは、なんとなく分かりました。
見た顔が並んでいます。
その中に、気になる存在がありました。私はその人に話し掛ける事にしました。
「あの……。これは、どういう状態なのですか?」
「え、私?」
振り向いたその女性は、明らかに高雅様と恋様の通う高校の制服を着ていました。
授業があるはずなのに、なぜここにいるのでしょうか。
「ここはね、美味しいパンの作り方を実演してくれてるんだよ」
女性はにこにこと楽しそうに説明しました。
なるほど実演販売というやつですか。
そう言えば、御主人様からこの住宅街にある小さな家族経営のパン屋さんのパンは絶品で、作り方が気になるというようなことを聞いたことがあります。
「だから、授業サボってきちゃった!」
女性はぺろりと舌を出しました。
さっきの女性――アリエス様に、負けず劣らずの魅力的な容姿をしていらっしゃいます。
しかし、さっきのように御主人様をとられるのではないかという不安は湧いてきませんでした。
なぜか、この女性の心は、目は、全ては、別の人に向いていると、そう察することができたからです。
「ちーちゃんに美味しいアンパンを作れるようになれるんだったら、つまんない物理の授業なんかより、こっちの授業のほうが大切だから!」
ちーちゃん?
私はちーちゃんという方は存じ上げておりませんが――高雅様と同じ学年の生徒の名簿の中に、そういうあだ名をつけられそうな人間がいましたが。確か、鷹野という方です――この女性がその方を好いているのは、分かりました。
ロボットの私の、つたない感受性でもわかったのです。
おそらく、誰が見ても分かるのでしょう。そして、それがわかるから、私はこの女性に警戒心を持たなかったのです。



188 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00:41:23 ID:HOJieKTt
「愛して、いるのですか……?」
「ちーちゃんのこと?」
「はい、その方のことを」
「うん、愛してる!」
なんのためらいもなく答えるその女性の笑顔に、私の目も一瞬引き込まれました。
しかし、分からない。
「愛とは、なんなのでしょうか」
意味の無い質問をしていた。それは、人間にもわかるものではないというのに。
人間にもわからないから、人工物たる私にも備わるはずが無いというのに。
答えられるはずがないというのに。
「愛ってね、不思議だけど、ただの言葉なのに、力があるんだよ」
「え……」
とっさの無茶な質問に答えられてしまったことで、私は動揺し、一瞬停止しました。
その間にも、女性は続けます。
「その人のことを『想う』と、なんだか、ふわふわして、気持ちよくなるの。その人のことを想うと、はしたないけど、えっちなこととか考えちゃって……。その人のことを想うと、他の女の子が急に敵に見えたりもして……」
どこか遠くを見るような眼で、女性は語り続けます。
「でも、それは間違ってなくて。嘘じゃなくて。正直な気持ち。それは、愛。好きだってことだよ……ねぇ」
「はい……」
「あなたは、今、好きな人がいる?」



189 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00:41:54 ID:HOJieKTt
女性と別れてからも、ずっとその言葉のことを考えていました。
私の人工知能でも理解できない、その言葉の意味。
理解できないのに、なぜか『分かる』。
なぜ?
それが、私と同じだったからでしょうか。
私が御主人様に感じているこの『感情』。
機械が持つはずが無い、もってはならない、この感情。
――あなたは、今、好きな人がいる?
頭の中で、音声メモリーを再生しているわけでもないのに、ずっとなり響いて、こびりついて、離れない。
「私は……」
「久しぶりね、お姉さま」
「……!?」
上空からの声。
聞き覚えがある。これは――妹。
「……リフェル」
「そうよ、『YDR-003B.リフェル』。姉さまの『後釜』よ」
「後釜……?」
見上げる。リフェルは背中の翼型のブースターで空中に浮いています。
「そう、エラー報告があったから、姉さまは一旦研究所に帰らなきゃならないわ。バグを直さなきゃ。その間の補充要因が、あたし。リフェルよ」
「帰る……? 私が、御主人様の元を離れねばならないのですか?」
「そりゃあ、異常動作が出たんじゃ、仕方ないわ。お父様も姉さまを心配していたわよ。早く修理を受けて、お父様を安心させて上げなさいな」
「……少し、話合いましょう。リフェル。ここでは目立ちます」
そうして、私はリフェルを連れて人気の無い、近くの林に行きました。



190 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00:42:29 ID:HOJieKTt
「話合うことなんて無いわよ。これが規則なんだから。姉さまだって知ってるでしょう?」
私はリフェルと対峙していました。
こんなこと、無意味だというのに。
私は、ただ駄々をこねているだけです。私は不完全だと判明して、危険だから、修理を受けるのは当然だというのに。
それが、皆のため。御主人様の安全のためだというのに。
なのに――
「――嫌です」
「なっ……! 姉さま、お父様の命令に逆らうの!?」
リフェルは怒鳴ります。
おそらく、リフェルは正しいのでしょう。
以前の私なら――御主人様に出会うまえの私が同じ立場なら、同じことを言っているに違いありません。
しかし、私は出会ってしまった。
御主人様に。
高雅様に、出会ってしまったのです。
「博士は私の生みの親ですが、御主人様ではありません」
「……だとしても、今修理しないとバグって姉さま自体も大変なのよ!」
「それは承知しています。しかし、あなたに御主人様を引き継がせるわけにはいきません」
「ちょっと、それどういうこと!」
リフェルは噛み付くように私に怒鳴りました。
リフェルはAIが低めで、人間に従順です。おそらくAIの高さのせいで異常行動を繰り返す私よりも、よほど人間には安全でしょう。
しかし、ロボットに対しては別です。
リフェルはプライドが高く、容赦がありません。
自分がエリートであると、思い込んでいます。



191 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00:43:00 ID:HOJieKTt
「姉さま、あまり調子に乗らないでよね。あたしはエラーを出すような『できそこない』のあなたとは違うわ」
「……そうでしょうね」
「なら、さっさとおとなしく……!」
「あなたに、御主人様のお世話ができますか?」
「はっ、できるに決まってんじゃない。あんたよりもずっと迅速に、適切に対応できるわよ」
「それが、御主人様の最善だと思っているのですか?」
「はぁ?」
「人間の一人一人の違いも把握できずに、何がお世話をするというのですか? あなたはどのような人間にも均一に媚びを売って他のメイドロイドを蹴落とそうとする。それがあなたに御主人様を任せられない理由です」
「あんた、それ本気でいってんの?」
「はい、本気です」
「――っ!!」
神速とも言えるスピードでリフェルが加速し、私の顔を掴んでそのまま太い木にたたきつけました。
「あんた……姉さまといえど、それは許されないわよ。あたしを、侮辱したな……!」
「その程度の自尊心で、メイドが勤まると思っているのですか?」
「!?」
リフェルの手を掴み、押し返す。
「なんで……あんた、あたしと違って戦闘機能はオミットされて……」
恐怖に顔をゆがめるリフェル。
そうですか――やはり、あなたもできそこないですね。
恐怖を知ってしまいました。
ごきんっ! 鈍いながらもとおりの良い音を立てて、リフェルの手首は折れてしまいました。



193 :ヤンデロイド・りたぁんず 前編 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/24(月) 00:43:30 ID:HOJieKTt
「あぐっ……! コロナ……あんた、一体……!」
「あなたには、できない。御主人様を『想い』、御主人様のために全てを投げ出し、御主人様のためにメイドロイドとしての自尊心を捨て、御主人様と身体を重ねあい、御主人様と愛し合うことなど……」
「身体……愛し合う……まさかあんた、擬似性器をそんなことに……!」
「そういう用途に使わなければ、意味が無いでしょう」
「あんたは異常だ……! 主人に獣姦を強要し、あげくのはてに、『愛』だと……? それは、人間にのみ許された言葉……。あたしたちメイドロイドが使う言葉じゃない……!」
「それが、どうしたのです。私は、気付いてしまったのです」
「ほざけっ!!」
リフェルは腕を変形させ、プラズマ砲を放つ。
おそらく、防御不能。消滅しか選択肢はない。
――以前の私なら、ですが。
両腕を前に突き出し、『プラズマフィールド』を展開する。
プラズマ砲を完全に防ぎきり、私は無傷で立っていました。
「そんな……あんたにそんな武装は……」
「気付いた、と言ったでしょう」
御主人様を『想う』ときに発生したなぞのオーバードライブ。余剰エネルギー。
この出力を両腕に集中させることによって、プラズマフィールドを発生させた。
そう、この力は……。
――ただの言葉なのに、力があるんだよ。

「私は御主人様を、愛しています」

続く