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389 :Un reencounter [sage] :2008/12/02(火) 04:33:27 ID:6Ib4SJyl
――今日は卒業式。中学校生活最後の日。私は今日この中学校を卒業する。
その式も終わり、卒業生達は最後の思い出を作ろうとそれぞれ世話になった担任、仲の良かった友達や後輩,想いを寄せていた人の元へ足を運ばせている。
きっとあたしもその内の一人に入るのだろう。いろんな男子達から今更ながらの告白を受けたけど全て断り、今は人気のない校舎裏に向かっている。

しかし、彼女が二人きりで直接話したいことは一体何だろう?
てっきり正義と三人で何かするのかと思っていた。
彼女はここを卒業して彼らと違う高校に通うことになる。寂しいことだけど彼女の両親は厳しいらしく、言うことには逆らえないそうだ。
しかし、彼女が推薦で合格が決定したと聞いた時、あたしは少しだけ嬉しかった。
今まではこのぬるま湯のような優しい関係が崩れるのが怖くて、互いに正義へ過剰なアプローチをかけることが出来ずにいた。
でも彼女が違う高校へ進学してくれれば、何の後腐れもなくあたしと正義は堂々と付き合うことが出来る。あたし達はこのまま地元の同じ学校に進学するから。
誰も傷つくことなく、彼女とは親友のままで正義を手に入れることが出来る。
そんな打算的な考えが浮かんだ自分がすごく嫌だった。
「ゴメンゴメン。なんかたくさん男子に絡まれてさ。今更告白してきてももう遅いってのにね?」
あたしの親友である『鈴音』が壁に寄り掛かり、ぼうっと立ちすくんでいた。
なんだか元気がない。今日は卒業式だから感傷に浸っているのだろうか?
「ふふっ、そうですねー」
いつもよりも声が硬く、春の野原で咲く健気な花のような笑みは見られない。
どうやら緊張しているようだ。
「んで話って何?正義と一緒に写真を撮ってこいって親がうるさいから早く行かないといけないのよ。全く小学生じゃあるまいし、困ったもんよね」
本当はこうでもしないと素直に正義と写真なんか撮れないのだけど、彼女の前だからいかにも迷惑そうに言っておく。
「あ、あのね。私、佳奈ちゃんにお願いがあるんですけど……」
彼女の声が震える。
「――私、よっくんのことがずっと好きだったんです!だ、だからよっくんに告白するのを手伝って欲しいの……」
その瞬間、あたしの中で一気に感情が爆発した。それはとても黒くドロドロとした醜い感情。
ああ、とうとう言っちゃったんだ。しかも、万が一告白に成功しても離れ離れになるっていうのに余計なことしてくれて。
あたしはずっと二人に気を使って言わなかったのに。鈴音だけずるいよ。あたしの方が正義のことを想っているんだから。
鈴音への憎悪や嫉妬であたしの心があっという間に覆われる。
そして次に感じたものは深い悲しみ。
こんな事を思ってしまう自分が嫌だった。できればずっと彼女とは親友でいたかった。
でももう元には戻れないことをあたしは悟っていた。
あたしと鈴音は親友ではなくなり、新たに構築された関係図に彼女はこう記される。
――彼女は“敵”だと。
「――あ、あのさ」
だからあたしはいつもの様に嘘をつく。
「私と正義、実は付き合ってるの。だからゴメン……」
でもこの嘘は正義とそこまで親しくない人にしか使った事がない。
多分正義と極めて親しい鈴音に通用する確率は低いだろう。
だって正義本人がきっぱりと否定してしまえばそれまでだから。
彼は嘘をつかないことをあたし達はよく知っている。



390 :Un reencounter [sage] :2008/12/02(火) 04:34:16 ID:6Ib4SJyl
「え……?」
だがこの稚拙な嘘は思いのほか通じてしまった。
目を大きく見開き、カタカタと小刻みに震える彼女の姿は嘘をついた自分からしてもとても信じられなかった。
頭のいい彼女のことだ。すぐに嘘と見抜かれるかと思ったのに。
それだけあたしの事を親友として信頼していたのだろうか。そう思うととても胸が痛む。
しかし、これを機と見たあたしは彼女の動揺に乗じてすらすらと嘘を並べていく。
このまま一気に畳み掛けてしまえ。そう思ってしまう自分に恐怖しながらも嘘をつくのは止められなかった。
その嘘を素直に信じてしまった鈴音の顔は徐々に青くなっていく。足元もおぼつかない。
「そ、そうですか……ご、ごめんね。変なこと言っちゃって……………………よっくんと幸せにね!」
声は聞き取れないほどに震え、目からは涙が溢れそうになりながらも、彼女はあたしに祝福の言葉と精一杯の笑顔を贈った。
次の瞬間、鈴音は一言も喋らずにこの場から走り去る。
あたしは慌てて何か声を掛けようと手を伸ばした。
でも彼女に何と言って声を掛ければいいのかわからなかった。
「今のは全部嘘でしたー!ゴメンねー♪」なんて今更言えるわけがない。
そもそもあたしは鈴音に何か声を掛ける資格さえない最低な女だ。
あたしが彼女に出来ることは何もない。ただ黙ってこの咎を背負うことしか出来ない。
それに三人全員仲のいい友達のまま綺麗に別れることも出来たはずなのに、彼女は敢えてそれを壊すことを選択した。
その結果、あたしが賭けに勝ち、鈴音は負けた。
例えそれがイカサマを使った勝負だったとしても知らなければそれはイカサマじゃない。
あたしは親友という関係を鈴音に無理矢理壊されて、親友か正義のどっちを取るか、天秤に掛けさせられた。
その結果、正義を取っただけじゃない。あたしだけに非があるわけじゃない。鈴音だって悪い。
そう開き直れたら、自分の利益のためだけに生きることが出来たらどんなに楽だろうか。
「ごめんね鈴音……ごめんね…………」
懺悔のように繰り返し呟いている内に、いつの間にか頬に温かい雫が伝っていた。
その勢いは止まることなく、あたしを探しに来た正義と両親に見つけられても尚、あたしは涙を流し続けていた。
みんなはあたしが卒業式で感極まって泣いてしまったものだと勘違いして、いろいろと励ましの言葉を掛けて慰めてくれた。
違う!!そうじゃない!!
あたしは親友を裏切って、傷つけた挙句、その過ちを今更後悔して勝手に泣いているだけのどうしようもない女なの。
みんなに慰められるどころか、罵倒されて当然の卑劣な人間なの。
でも何があったかなんて話せるはずもなく、ただ黙って泣き喚くことしか出来なかった。
甘い慰めの言葉を掛けられるたびに心を鋭く抉られる。みんなの優しさがただ痛かった。

――あの日、あたしは何を選べば全てを失うことなく、仲良し三人組のままで笑い合っていられたのかな?
答えは一年以上経った今でも出ないまま、あたしは正義の一番傍で立ち止まっている。



391 :Un reencounter [sage] :2008/12/02(火) 04:35:26 ID:6Ib4SJyl
「ふぅ……」
窓の外から見える澄んだ晴れ空とは対照的に、なんとなく憂鬱な気分のあたしは周りに気付かれない程度にそっと溜息をつく。
相変わらず代わり栄えのしない日常をあたしは送ってる。
いつも通り正義に起こされ、正義と一緒に登校し、正義と一緒に授業を受ける。
これだけでも十分幸せなはずなのだが、人間という動物は一度満たされるとそれと同じ量の幸福では満足できなくなる。
つまり、あたしは人間だから満足できない。以上、証明終了。
そう割り切ることが出来たらどんなに楽だろうか。少なくともこの現状にやきもきすることはなかったに違いない。
あたしはいつだって正義のことを見てきて、正義のことを一番に考えて行動してきたっていうのに。
どうして正義はあたしだけを見てくれないのだろうか?
「……太田よ。この前話したと思うが俺が金欠でヤンデレッドのフィギュアを買い損ねたのは知ってるな?」
「まあ、あそこまで落ち込んでいた君を慰めたのは僕だしね。嫌でも覚えてるよ」
今だってそう。
正義が同じクラスの友人の太田君に、どんよりと落ち込んだ表情で話しかけている。
多分例によって特撮物についての話だろう。正義が彼と話す内容なんてそれ以外にない。
はっきり言ってあたしは太田君のことをあまり良く思っていない。
何故なら彼は正義にとって共通の趣味を持つ親友という重要度の高いポジションに位置しているからだ。
あたしには正義だけ、正義にはあたしだけでいいのに。正義の関心が少しでもあたし以外に向けられるのは耐えられない。
なのに彼はあたしと正義の時間を奪う。せっかく彼の恥ずかしい趣味をやめさせようとしているのに、それを助長するような真似さえする。
どうしてあたし達の間に割り込んでくるの?恥ずかしいと思わないの?
あんた邪魔……邪魔なのよ……
「それで?まさか僕のを譲れとか言い出すんじゃないだろうね?いくら君でもそれはダメだよ。オタクが全員観賞用、保存用、布教用に三体買うと思ったら大間違いだ」
「わかってるよ。俺はそんな見苦しい真似はしない。今でもあれが売っている店を知らないか聞きに来たんだ」
正義は真剣な顔をで太田君に何かを頼んでいる。
ああ、もうよく聞こえないじゃない。もっと大きな声で話しなさいよ。
「んー……ちょっと待って」
彼はノートを一枚破るとさらさらと何かを書き始めた。
一体何だろう?
「ほら。多分まだここなら売ってると思うよ」
「おお、恩に着るぞ太田!やはり持つべきものは友達だな!」
太田君から手渡された紙切れを大事そうに掲げて、まるで宝物を見つけた子供のように無邪気にはしゃぐ正義。
「はいはい。いつも君はそればっかだな」
そんな正義の姿を見て肩を竦めて呆れたポーズを取る太田君。でもその口元は微かに緩んでいる。
「細かいことは気にするな。わが親友よ!」
「こら、離せ。暑苦しい」
調子に乗った正義は太田君の肩に手を回し、豪快に笑い続ける。
太田君も嫌がっているような態度は取っているけど、本当はそうでもないのだろう。
でなければあんなに仲良く二人で笑い合うことなんて到底できやしないからだ。
そう。二人はいかにも僕達はお互いをよく理解している親友ですって顔で爽やかに笑い続ける。

……むかつく。
あたしと一緒にいるときはそんな顔しないくせに。
雑誌に書かれているデートスポットについて話しても、おしゃれな服を着ているのを見せても、レストランで美味しい料理を食べても、あたしにはそんな嬉しそうな笑顔を見せてくれないくせに。



392 :Un reencounter [sage] :2008/12/02(火) 04:35:57 ID:6Ib4SJyl
どうして?もしかして男の太田君の方がいいの?あたしじゃダメなの?
ダメ!!そんなの絶対ダメ!!誰が何と言おうともあたしは絶対に認めないんだから!!!
ホモなんてただの気持ち悪いだけの犯罪者予備軍だよ。太田君じゃ子供も作れないんだよ?
早く正義を止めなきゃ。そんな考え方はおかしいって説かなきゃ。
彼をそんな間違った方向に進ませちゃダメだ。あたしが正しく導いてあげなきゃいけないんだ。
そのためだったら、その……え、Hなことも教えてあげなきゃいけないよね?!
せ、正義を正気に戻すためだったらし、しょうがないわ。
し、したくてこんな恥ずかしいことしてるわけじゃないんだからねっ!!
ま、まずは優しくキスするのが基本中の基本よね?この前読んだ雑誌にもまずは雰囲気作りが大事だって書いてあったし……
じ、じゃあ、目ぇ閉じて、正義……んむっ……れろっ、ちゅ……んん?!んむむむむ……
っぷはぁ!はぁはぁ……し、舌まで入れるなんて聞いてないわよ正義ぃ……
それにしてもファーストキスがこんなに激しくていいのかしら……体が蕩けちゃいそう……
次はあたしの服を優しく脱がせて頂戴。乱暴にやったら殴るわよ。
んっ……どこさわってのよバカ……くすぐったいわよ……
どう?これが女の体よ。結構スタイルには自信があるんだけど……
きゃっ?!ち、ちょっと、いきなりおっぱい揉むなんて……
んっ、べ、別に気持ちよくなんか……ひいっ!!乳首舐めちゃだめぇ!!
え?じゃあどこを触って欲しい?ば、バカッ!!そんなの言えるわけないでしょ!!この変態!!
ひゃうっ?!ど、どこ触って……きゃひぃ!!そ、そこらめなのぉ……
えっ!?ち、違うっ!!佳奈美変態じゃないもん!パンツぐちょぐちょになんかなってないよぉ……
あうっ!!だ、ダメって言ってるのにぃ……あひゃ!!そこぉ!!そこ気持ちい……え?な、何でやめちゃうの……?
ダメって言ったじゃん?そ、それはその……言葉の綾で……本気で嫌がったわけじゃないのに……
え?!続きをして欲しかったらちゃんと素直になれ?で、でもそんな恥ずかしいこと言えるわけ……
ああっ!!ごめんなさい!!やめちゃダメッ!!言うからっ!!何でもするからやめちゃダメェ……
ごめんなさい。佳奈美は嘘つきました。あたしは本当は正義に触って欲しくておパンツびちょびちょに濡らして喜んじゃう変態です。
ち、ちゃんと言ったよ……だ、だから早くお、おまんこいじってぇ……ひぃぃ!!そこ、そこ気持ちいいよぉ!!
だめえっ!!そこいじられるとおかしくなっちゃう!!あ、ああ……あああああああああああああっ!!!
はぁはぁはぁ……い、イッちゃったぁ……あたし正義にイカされちゃったんだ……
え?まだ女の良さがよくわかんない?そ、それって……わ、わかったわ。ちゃんと最後までするわよ……
見て、正義……ここが女の子の大事なところよ正義……ここに正義のおっきなおちんちんを入れるの……
あ、あのさ……あたし初めてなんだからちゃんと責任取ってよね?あたし正義とだからこんな恥ずかしいことまで……
んっ、んむむ……ちゅっ、じゅる……れろ、ぴちゃ……っはぁ……うん、あたし幸せよ。
だってずっと正義とこうなることを夢見てたんだから……ぐすっ……
ううん、嬉しくて涙が出ただけだから気にしないで。さっ、続けましょ?
うん、そう……そこにそのまま優しく……っ、痛ぁ……ううん、平気だからやめないで……そのまま動かして……
っはぁ、なんか気持ちよくなってきたかも……んっ、んっ、あぅっ!そこ気持ちいいよぉ正義……
ハァ、もっと奥まで突いてぇ!!ギュッてして!!あたしを離さないで!!
ダメッ!何かキちゃう!何かキちゃうよぉ、正義ぃ!!ハァハァ……一緒に、一緒にイこう?
あっ、あっ、あっ、イクッ!!イ、イクゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!
はぁぁぁぁぁぁぁぁ……熱いのいっぱい出てる……あたし正義に種付けされちゃったんだ……
あは、あそこから白いのが出てきてる……もう、こんなにたくさん出したら赤ちゃんできちゃうでしょ!
でもちゃんと責任は取ってくれるんだよね?愛してるわ、あ・な・た♪



393 :Un reencounter [sage] :2008/12/02(火) 04:37:00 ID:6Ib4SJyl
「……おーい、大丈夫かー?」
ふと気付くと正義が怪訝な顔をしながら目の前で手を振っていた。
「キャアッ!!ななななななな何よっ?!」
思わず奇声を上げて後ろに飛び退いてしまった。
ううう、恥ずかしいよぉ……
「いや、顔を真っ赤にしてボーっと涎を垂らしているから一体どうかしたのかと思って。風邪か?」
「べべべべべ別に何でもないわよ!!いいからさっさと席に着いて。先生が来るでしょ!」
いつの間にか卑猥な妄想に完全に意識を飛ばしていたせいで全く気付かなかったようだ。
慌てて否定をしながら口元を拭い、火照った顔を冷ますためにぱしぱしと頬を叩く。
彼には気付かれていないようだが、乳首は固くしこり、下着の下が熱く潤っているのがわかる。
学校という公の場所ではこんなに熱く体が火照っているのに慰めることもできないのが辛い。
まぁ、目の前にいる張本人がやってくれれば話が早いんだけど。
「いや、だってなぁ。どう見てもあれはヤバイ顔してた……いぎっ!?」
とにかくこの話は終わりにしたいのに正義は首を傾げ続けるので思い切り足を踏みつけてやった。
あまりこの話を長くされるとボロが出そうで怖い。というか、何気に失礼なこと言ってないこの男?
「い・い・か・ら!席に着きましょうか、正義君。そろそろ授業が始まるよ~?」
「ハ、ハヒッ……」
痛みで引きつった顔のまま素直に席に着く正義。何だか可愛い。
もう、学校でこんなHな妄想に浸っちゃうのも、照れてつい可愛い暴力を振るっちゃうのも、正義がいつまで経ってもあたしに告白してくれないせいなんだからね!
そうよ、あたしが素直じゃないのではない。彼が自分の気持ちに素直にならないだけなのだ。
だって物心ついたときからずっと傍にいて、今でもずっと何をするのも二人一緒でお互いが好きじゃないなんてどう考えてもおかしいじゃない。
実際あたしは正義のことが好きだからこの法則は正しいと証明している。正義もあたしを愛してくれている。
なのに正義は奥手とかそういうレベルじゃないくらいにあたしに手を出さない。
まるであたしのことを友達としか見ていないかのようにだ。
ああ、もう。恋愛沙汰には疎いくせにやきもきさせるのだけは上手いんだから。
確かに正義はあと一年経たないと結婚はできないけど、あたしは既に結婚できる年齢だから今すぐにでも結婚を前提としたお付き合いはできるのよ。
もしかしたらキリよくあたしにプロポーズしようとしているのかもしれないけど。
ぶっちゃけそんなのはどうでもいいから早くこの曖昧な関係を崩したい。ロマンチックな展開だったら告白した後でいくらでもできるでしょ。
早くあたしを奪ってよ……



394 :Un reencounter [sage] :2008/12/02(火) 04:38:14 ID:6Ib4SJyl
「はぁ……」
授業が始まってもこの憂鬱な気分は一向に晴れず、机の上で組んだ腕に頭を乗せながら溜息をついた。
ちらりと先生にばれない程度に正義の横顔を見る。
真剣な目で黒板を見つめ、書かれている内容をノートに写すその姿を見ているだけで心が熱くなる。
やっぱり彼はかっこいい。あの真剣な目で愛を囁かれたら、あたしはきっと何も言えなくなる。
ああ、早くさっきの妄想通りにならないかなぁ……そろそろあたしの我慢も限界。
あんまり遅いとあたしの方から正義を襲っちゃうよ?
ぼやぼやしてる内に彼を他の女に寝取られるくらいなら彼を強姦した方がまだマシだ。
無理やりにでも行為に持ち込めば責任感の強い正義のことだからきちんと責任は取ってくれるはず。
女が強姦されることはあっても男が強姦されることはない。正義の言うことなど誰も耳を貸さないだろう。
それにもし子供が出来てしまっても、あたし達の仲にはとても寛容的な両親のことだからきっと出産することを認めてくれる。
正義が社会的にきちんと責任を取ることを前提にしてだけど。
まぁ、どうせ遅かれ早かれ、あたし達は結婚して子供を作ることは決まってるんだから大した問題じゃないよね。
あたしの手によって正義の周りに張り巡らされた社会的責任という網は確実にその範囲を狭めていく。
そして逃げ場がなくなり、雁字搦めに捕らえられた正義は大人しくあたしを受け入れる他になくなる。
こうしてあたし達は幸せになりました。めでたしめでたし。
「フン、馬鹿馬鹿しい……」
そう呟き、顔を腕に埋めてこの狂った考えを頭から飛ばす。
無理矢理正義を束縛して結婚させて彼は喜ぶだろうか。いいや、そんなはずがない。
いつも何かに縛られることなく自分の信じる道を突き進むのが赤坂正義という人間なのだ。
確かに先ほどの妄想通りにすれば確実に正義はあたしの物になる。
だが重圧に押し潰された結果、あたしの思うがままになってしまった彼は最早彼ではない。
ただの操り人形だ。
何事にも真剣に取り組み、曲がったことが大嫌いで困った人を放って置けない熱血漢。
でもどこか抜けていて危なっかしい行動を取りがちな優しいヒーローの正義があたしは好きなのだ。
もちろん付き合うことになったら、あたしだけのヒーローになってもらう予定だけど。
あたしはありのままの彼を愛し、愛されたい。
だからあたしはそんな真似はできればしたくない。正義の気持ちを裏切りたくないから。
今まであたしは数え切れないほどあたし達の障害になりそうな災厄の芽は一つ残らず摘み取ってきた。
それでも正義本人に直接手を出さなかったのは、彼“が”あたし“を”愛しているという証拠を見せて欲しかったから。
揺らぐことのない無限の愛をあたしだけに注いでくれると誓うところを彼本人の口から聞かないと不安なの。
あたし達がお互いを想い合う理想の関係になるにはその誓約が必要不可欠なのだ。
だから辛いけどあたしは待つ。正義が心の底からあたしを愛すると誓ってくれるその日まで。
ふと思いつき、開かれたノートの空白に相合傘を書きこんでみる。もちろん傘の下には『赤坂 正義』と『黒田 佳奈美』の名前を入れて。
それを見ると何だか心の奥がほっこりと温かくなって、自分でも気付かないうちに自然と柔らかい笑みがこぼれていた。

だから……信じていいよね、正義?
いつかあなたの方からあたしに愛を囁いてくれる日がきっと来るって。



395 :Un reencounter [sage] :2008/12/02(火) 04:39:33 ID:6Ib4SJyl
……何だかまた正義の様子がおかしい。
太田君から例の紙を渡されてからずっとボーっとしていて、放課後が近づくに連れてそわそわとし始めた。
「どうかしたの?」とあたしが聞くと、嘘をつくのが下手なくせに言葉を濁してなんとか話を逸らそうとする。
あまりしつこく問い詰めると彼を不快にしてしまいそうなので追及するのを諦めたが明らかにおかしい。
そして、いざ放課後になると『登下校はいつも一緒』という暗黙の了解が私達の間にはあるのに、彼はそれを一方的に破ったのだ。
そればかりか、あたしの制止を振り切って、あたし一人を残してさっさとどこかへ行ってしまった。
ついさっきまで満たされていた心は、正義がいなくなると同時に空虚な器と化していく。
何で?どうしてあたしを独りぼっちにさせるの?
佳奈美のこと嫌いになっちゃった?あたしが何か正義を怒らせるようなことしちゃったの?
それならいくらでも謝るから、何でもするからお願い……今すぐあたしの元に戻ってきて。
その逞しい腕の中にあたしを包ませて。体の芯から蕩けそうになるほどの甘い言葉を耳元で囁いて。
そうじゃなきゃあたし、あたし……壊れちゃうよ……
気持ち悪い。吐き気がする。頭がぼうっとする。
ガクガクと足は震え、両腕はいなくなってしまった正義の代わりを果たすかのように勝手にこの身を抱きしめる。
寒い……心が寒いよ正義。
今すぐ抱きしめてくれなきゃあたし凍え死んじゃうよ。早くあたしの心を優しく温めて。
でもあたしを抱きしめる彼はここに、私の隣にいない。
何で?あたしを置いてどこかへ行ってしまったから。
何で?わからない。
どうして?どうして最愛の女性にして未来の妻、果ては一生涯を共にする伴侶であるあたしを置いていくの?
酷い。酷過ぎるよ。
あたしはこんなにも正義のことを想っているのにそんなことをするなんて。正義だってあたしのことを想っているはずなのにどうして……

もしかして誰かに悪いことを吹き込まれたの……?
そうだよ。そうに決まってる。
だってそうじゃなきゃ説明がつかない。正義がこの世で最も愛している女性のあたしに対してそんな酷いことをするなんてあり得ないからだ。
誰よりも深く結ばれているあたし達二人の仲を引き裂こうだなんて一体どこのどいつだ。
正義に余計なことを吹き込んだ罪は重い。その報いはしっかりと受けてもらおうか。
彼を誑かす悪い奴等は一刻も早く始末しなければ……
「――あ」
その時、あたしの中である考えが閃光のように走り抜けた。
ああ、何でこんな簡単な事に気付かなかったのかしら。愚鈍だった今までの自分が恨めしい。
「くふっ、くふふふふ……」
自然と口からは笑い声がこぼれる。足の震えも治まり、あれほど寒く感じていた孤独感もすっかり失せていた。
代わりに胸の内からふつふつと湧きあがってくるのは奇妙な高揚感。
そう、きっとこれは“悦び”だ。
ただし、それはどこまでも堕ちていく深い闇のような暗い“悦び”。
「そうよ……邪魔する奴等がいなくなれば、その分だけあたし達の幸せに早く近づくよね?」
あたしと正義が結ばれるのを邪魔する奴を排除する。妨害するモノがなくなれば必然的にあたし達の幸せな未来へとまた一歩確実に近づく。
何だ、簡単な事じゃない。邪魔する害悪がいたらそれを排除すればいい。
そして立ち塞がる障害全てを倒した後には、あたし達二人が幸せになる未来への道のみが切り開かれている。
やっぱり正義からの告白を待つだなんて甘っちょろいことを言ってる場合なんかじゃないのかも。
正義本人がそれを望んでいなくても結果的には彼のためになるんだから多少強引に事を運んでもいいよね?
そうすればきっとあたし達幸せになれるよね?
やがて訪れる幸せに思いを馳せながら私はそっと正義の後を追った……



396 :Un reencounter [sage] :2008/12/02(火) 04:40:47 ID:6Ib4SJyl
正義を追っていくうちにあたしはずいぶんと遠くへ来てしまった。
わざわざこんな遠くまで来るなんてやっぱり怪しい。絶対に自分が何をしていたかわからないようにしているとしか思えない。
よっぽどそれはあたしに見られるとまずい用事らしい。そんなにあたしに見られたくないモノって一体何?
……まさかオンナ?
嘘っ!!嘘嘘嘘!!嘘よそんなの!!絶対に認めない!!
正義はあたしのもの!!他の誰にも渡したりはしない!!
一体どこのどいつだ。正義をたぶらかした薄汚い雌犬は。
誰に断ってそんな真似を……許さない。
殺す。殺してやる。絶対にこの手で殺してやる。
二度と正義の姿が目に入らぬようにその目を潰し、二度と正義の声が聞こえないように耳を鼓膜を破り、二度と正義の匂いを嗅げないように鼻を削ぎ落とし、
二度と正義を味わえぬように舌を引き千切り、二度と正義に触れられぬように四肢を切断して、それから早く死なせてと懇願するくらいの苦しみをゆっくりと与えながら殺してやる。
一刻も早く正義を見つけてその売女を始末しなければ。綺麗な正義が汚される前に速く始末しなきゃ……

「ついにこの時がキターーーーーーーーッ!!」
「正義ッ?!」
突然近くから正義の叫びが聞こえた。
待っててね、今すぐそこに行くから!そして薄汚い体を摺り寄せる雌犬を処分してあげる。
建物の影から飛び出し、通りに出ると遂に正義の姿を視界に捉えた。
だがあたしの視界に映りこんだものは歓喜に震える正義と、
「……おもちゃ屋?」
何故か彼はおもちゃ屋の目の前で大声を上げて喜びに身悶えしていた。
えっと……これってどういうこと?
さっきまでの勢いを急に失い、その反動で呆然と立ちつくすあたし。
するとあたしの脳裏にある記憶が浮かび上がってきた。

正義が同じ特撮オタクの太田君に何かを頼んでいる。
大田君は呆れながらも彼の頼みを聞きいれたらしい。
『んー……ちょっと待ってな』
彼はノートを一枚破るとさらさらと何かを書き始めた。
『ほら。多分まだここなら売ってると思うよ』
『おお、恩に着るぞ大田!やはり持つべきものは友達だな!』
その紙を受け取ると子供のようにはしゃいで喜ぶ正義。



397 :Un reencounter [sage] :2008/12/02(火) 04:42:30 ID:6Ib4SJyl
「もしかして……あの紙はこのおもちゃ屋のことだったの?」
一体これはどういうこと?ま、まさかあたしの一方的な勘違い?!
そういえばこの前正義と進路のことで喧嘩して仲直りした際に、ケーキとかアイスとか奢らせて彼の財布の中身を散財させた時にも、
「ああ、俺の『修羅場戦隊ヤンデレンジャー ヤンデレッド Ver.(1/8スケールPVC塗装済み完成品)限定スペシャル版』を買うお金が消えていく……しくしく……」
と、涙ながらにぶつぶつとうわ言を呟いていたような気が。
まぁ、あれは完全に正義に非があると本人も分かっていたし、あたしも文句を言わせるつもりはなかったのできっちり支払わせたけど。
おかしいな。これ以上正義の部屋に戦隊物のコレクションが増えないよう、あの時にかなりの額を使わせたはずなのに。
大方お母さんにお金でも借りたのだろう。昔からお母さんは正義に甘すぎて困る。
彼自身に収入がないから可哀想とでも思っているのかもしれないが、優しくするのと甘やかすのは全く違う。
正義が『いつまでもそんな物を』と謂れのない非難を浴びないようにと、あたしは心を鬼にして人の趣味の領域にまで口出しをしているのだ。
決して彼がフィギュアや何やらに夢中なのが気に入らないって訳じゃないんだからね!
きっと彼は普段からうるさく口出しをするあたしの監視の目から逃れようと、強引にあたしの制止を振り切ってこんな遠くまで来たのだろう。
まぁ、無駄な努力だったけどね。だってあたしはここまで付いてきてしまったのだから。

さて、どうしてあげようかしら?今のあたしは少しばかり気が立っているわよ。
これは決して理不尽な八つ当たりなんかじゃないわ。勝手にあたしが妄想の末に勘違いしただけとは意地でも認めないんだから。
そもそも明日はあたしとの大事なデートだっていうのに、こんなところで使っていいお金なんて一銭たりともあるわけないでしょ。
たとえどんなにお金を持っていたとしてもそれは愛する彼女のあたしのために使われるべきだ。
あたしは喜び、あたしの喜ぶ顔を見れる正義も喜ぶ。まさに一石二鳥だと思わない?
それをあんな子供が遊ぶような訳の分からないフィギュア、しかも女の子の奴に貴重な資金を出すだなんて……腸が煮えくり返りそう。
正義は所詮ただのおもちゃである人形に心奪われて、本当に彼のことを想っているあたしのことなど見向きもしない。
そんなの絶対に許せない。認められない。
本当なら今すぐ正義に怒鳴りつけて一発や二発鉄拳制裁をくわえてやっても、この苛立ちを抑えることはできないくらいだ。
しかし、あたしも鬼じゃない。今日の所は大目に見て、見逃してあげることにしよう。
喜びの絶頂に達している正義を一気に絶望の淵に叩き落とすのもそれはそれで体がゾクゾクしそうだけど、あまりに束縛し過ぎて正義に嫌われたら元も子もない。
彼に拒絶される。それを考えるだけでまるで体温がなくなったかのようにあたしは身体の芯から凍り付いてしまう。
それだけは何よりも忌避すべきことだ。適度にガス抜きもさせないとここまで築き上げてきた信頼や努力が一気に崩れてしまいかねない。
だから正義に嫌われない程度に彼の行動を制限し、同時にやりすぎないように彼の趣味はある程度までは許容している。
ここは何も見なかったことにして、正義がフィギュアを無事に買えたと安心しているところで、このことをちらつかせる。
きっと彼は驚愕、動揺、焦燥、様々な感情が入り混じった顔をあたしに向けてくれることだろう。
「あはぁ……」
それを想像するだけであたしの中の何かがざわめき出す。吐息は熱く乱れ、子宮がずくんと疼く。
正義を好きなように扱い、あたしの思うがままにコントロールする。彼はあたしの手の中で踊り続ける可愛いお人形さん。
ありのままの彼を愛したいという欲求と、あたしだけを見つめてくれる正義に作り変えたいという相反した欲求が心の奥底で交じり合い、渦を巻く。
最早彼に対して矛盾した醜い情欲を抱いてしまうほどにあたしは彼を愛している。
ああ、もうダメ。我慢できない。
心が、身体が狂おしいほどに彼を求めている。早く家に帰ってたっぷりと自分を慰めなきゃ。
今日の所は特別に見逃してあげるけど、明日のデートでこの借りはきっちり返してもらうからね!たっぷり振り回してやるんだから覚悟しなさいよ!
少し名残惜しいけど彼の喜んだ表情をしっかりと網膜に焼き付けてからこの場を立ち去る。
早くあたしを見る時、あたしと話す時、あたしとキスをする時、あたしを抱いている時にそんな素敵な笑顔を見せてくれるようになって欲しいなぁ。
彼への溢れる愛情と一抹の寂しさを感じながらあたしは帰路についた。



398 :Un reencounter [sage] :2008/12/02(火) 04:45:32 ID:6Ib4SJyl
『……ーン』

……ん、今何時だ?
寝ぼけ眼を擦りながら目覚まし時計を手探りで探す。
カーテンの隙間から日の光が差し込んでいるので結構な時間が経っているのではないだろうか。
やべぇ。もしや俺寝坊したか?
昨日俺はヤンデレッドのフィギュアを買い忘れたショックのあまり、帰宅した後飯を食う気力もなくベッドに倒れこみ、そのまま眠ってしまった。
そう、目覚ましをかけることもなく。
おいおい、これはまずいぞ。急いで支度をしなくては。
いまだ覚醒しきっていない重い体を布団という楽園から何とか引きずり出す。
だが壁に張られているヤンデレンジャーのカレンダーが視界に入るとふと違和感に気付いた。
もしかして今日は土曜日じゃないか?
そう、今の学生諸君はゆとり教育によって週休二日の恩恵に与っているのだ。
世間では学力低下が叫ばれているようだが遊び盛りの学生達にとってはまさに天国である。
そうと決まれば話は早い。たまにはぐうたらと不貞寝をするのもいいだろう。
俺がもう一度布団の中に潜り込もうとすると、
『ピンポーン。ピンポーン』
チャイムの音が二度この家に響き渡った。
そういえばさっきから一定の間隔で鳴り続けているな。この音で目が覚めたのだからずいぶんと前から鳴っているらしい。
しかし、うるさいな。ったく誰だよ土曜の朝っぱらから。
のそりともう一度起き上がり、寝巻き姿のまま玄関に向かう。
『ピンポーン。ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン』
その間にもチャイムの音は激しく鳴り響く。つーか鳴らし過ぎだろ。
朝起きたばかりの耳にはかなりうるさい。
一体どこのどいつだ?こんな非常識なチャイムの鳴らし方をする奴は。
寝起きの期限の悪さも相まって俺の不機嫌度は既にMAXだ。
このドアの向こうにいる不届き者に一言文句を言ってやらねば気がすまん。
苛立ちでいきり立った俺は鍵を開けてドアを勢いよく開き、
「すいません。うるさいんですけど……」
と、この無礼な訪問者に怒鳴りつけようとしたのだが、
「正義!!あんた今何時だと思ってんの?!もう約束の時間過ぎてるわよ!!」
何故か鬼の形相で怒り狂う佳奈美が目の前に立っており、その凄まじい怒鳴り声に何も言うことができなかった。
おお、体中が痺れる。鼓膜が破れたらどうしてくれるんだ。
「え、えっと……俺何か約束してたっけ?」
約束と言われても思い当たる節がないのでとりあえず聞き返すが、その口調に先ほどまでの勢いはない。
燃え盛る地獄の炎を背後に浮かび上がらせている悪鬼羅刹を前にしてはこんな情けない喋り方にもなる。
決して俺はチキンなわけじゃない。
「『何か約束してたっけ?』ですってぇ……?」
どうやら俺は佳奈美の逆鱗に触れてしまったようだ。
彼女はプルプルと怒りに体を震わせ、その拳はこれでもかというほど固く握り締められている。
その表情は俯いていてよく見えないが多分見えなくて正解だと思う。他の人が今の佳奈美の顔を見たら卒倒してしまうかもしれない。
「あんた今日はあたしとデー……買い物に行くって約束してたでしょ!!」
額に青筋を走らせながら佳奈美が大声で叫ぶ。なんとなく決壊寸前の堤防が頭に浮かんだ。
「……あ」
「『……あ』じゃないっ!!!!あたしがどれだけこの日を楽しみにしてたと……な、何でもないっ!!」
あまりにも普通に俺が忘れていたと知った瞬間、とうとう佳奈美の怒りが爆発した。
怒りのあまり、言葉が支離滅裂になっているようだ。それに所々何か気になるところもあるし。
だがその言葉で完全に思い出した。
今日は佳奈美のご機嫌取りのために街に繰り出して、高い飯を奢ったり、長い服選びに付きあわされ、重たい荷物を一人で持たされるという苦行を行う日だった。
俺は敬虔な修行僧というわけじゃないのに何故こんな酷い目に遭うのか。しかも、報酬を出すどころか、自腹を切らせるなんて。
お前は鬼か、佳奈美!……ああ、そうだ。今目の前にいるのは可憐な少女の皮を被った鬼だった。
こんなくだらないことを思い返している内にも佳奈美の機嫌は悪くなる一方だ。彼女の体から滲み出る怒りのオーラで周りの空間が歪んで見える。
これ以上彼女の機嫌を損なうと俺の身が危ない。ここは素直に謝るしかないな。



399 :Un reencounter [sage] :2008/12/02(火) 04:47:09 ID:6Ib4SJyl
「わ、悪い。すっかり忘れてた。すぐ支度するから少し待っててくれ!」
このままこの場にいると危険な気がするので準備をすると言って逃げ出す。
これは戦略的撤退であって、決してビビった訳じゃないぞ。
しかし、約束を忘れて寝過ごしていたといっても佳奈美に起こされたのは少し悔しい。
……ん?そういえば何か佳奈美に言わなきゃいけないことがあったような……
まぁ、いいか。後で思い出すだろうし、今はさっさと着替えて支度するのが何よりも優先される事項だ。
「……三分で用意できなかったらぶっ飛ばす」
恐ろしく冷たいドスの効いた声が背後から聞こえた。思わず背筋が寒くなる。
こ、恐ぇ~。多分マジだ……
わずか十余年で生涯の幕を閉じるなんて冗談もいいところだ。ピンクさんというまだ見ぬ恋人に出会うまで俺は死ねないんだよ。
まだまだ命が惜しい俺は素直に佳奈美の言うことに従わざるを得なかった。

それから何とか無事に支度を終えた俺はいまだ怒りが収まらぬ佳奈美を宥めながら家を出た。
目的地に向かう間、ずっと佳奈美は俺に文句を言いまくっていた。
佳奈美がここに行こうと普段からうるさかった評判のレストランに入っても彼女の機嫌は未だ直らない。
飯でも食えば少しは機嫌も良くなるか……?
「えっと、これとこれとこれとこれとこれと、あ、これもお願いします」
ウェイトレスを呼ぶと早速馬鹿みたいに大量の注文をする佳奈美。
普段は可愛い女の子らしく見せようとしているのか、皆の前では少ししか食べない。
しかし、その実態はかなりの健啖家で俺よりも食うくらいだ。
さっき注文した料理もきっと気持ちがいいほど綺麗に完食してくれることだろう。
これで金を出すのが俺でなかったら何も文句はないのだが。
彼女の大食いといえば高校に入学して間もない頃のことを思い出す。
クラスで一緒に飯を食っている時に俺は彼女の弁当の中身が余りに少ないことに気付いた。
中学の時は一人男子に混ざって給食のお代わりをするような女子だったのにこれはどういうことか。
驚いた俺は思わず彼女にその訳を尋ねた。
「おい、こんな少しで足りるのか?いつもはもっと食べ……ぐおおおっ?!」
その先の言葉が俺の口から出てくることは遂になかった。
「あれっ?急にどうしたのかな~、正義クン?」
佳奈美がニコニコと可愛く笑いながら机の下ではタバコの火を消すようにぐりぐりと俺の脚を踏み潰していたからだ。
「お、お前……だってこの3倍は軽く……あがっがっががが!!」
多分クラスの皆がいる前で聞いたのが悪かっただろう。先ほどの3倍増しの威力で踏みつけられた。
うん、酷い目に遭ったけど今となってはいい思い出……のわけあるかボケ。
とりあえず公衆の面前で彼女の大食いをバラそうとすると大変なことになるというのは学習した。高い勉強代だったがな。
ちくしょー、可愛い子ぶりやがってこの女。お前に彼氏ができたらこっそりバラしてやろうか。
料理を作れないのに大食いな彼女、あるいは嫁って旦那としたらかなりヤバイと思うぞ?
「かしこまりました。そちらのお客様は?」
「……コーヒーで」
対する俺はコーヒー一杯。この後の出費を予想すると飯なんか恐ろしくて頼めやしない。
空きっ腹に苦い汁を一杯だけというのはあまり体によくなさそうだが、背に腹は変えられないのだ。
その後も、料理が来るまで佳奈美はいかに俺が女性に対して失礼な行動を取ったかをくどくどと説き続けた。
来た後も飯を恐ろしい勢いで平らげつつ、嫌味を言うのは忘れないという実に器用な真似を見せてくれる。
飯を食いながら喋るなって親に教わらなかったのかと思いながらも俺は苦いブラックコーヒーを啜るしかない。
今回はどう見ても俺に非があるからだ。
約束事を破った俺が悪いのは百も承知。それは認める。
だがな、十何年前のことまで話に持ち出してくるのはちょっと大人気ないんじゃないですかね、佳奈美さん?
どこまで遡ってんだよ!それはもう時効だろ?!
かと言って一度口答えすれば今度こそアウトなので何も言えない。
徳川家康も耐え忍ぶことによって天下を取ったって言うし、ここは我慢だ正義。



400 :Un reencounter [sage] :2008/12/02(火) 04:48:00 ID:6Ib4SJyl
「すいませ~ん、この『ウルトラスーパーデラックスパフェ』下さい」
佳奈美が追加注文を頼んだ料理の欄を見るとそこには驚くべき数字が並んでいた。
おいおい。こんなの何個も食べられたら、いくら橙子さんからもらった金があってもやばいぞ。下手したら予算オーバーだ。
この後佳奈美は服も買いに行こうと言い出す可能性が非常に高いのでここは一つ注意しなければ。
「あの、佳奈美さん……それ一つでコーヒー何杯飲めると思っているんですか?それにどうせこの後洋服を買いに……」
「何か文句でもあるわけ?」
「いえ、ありません」
チキンと言うなかれ。あの目は人を殺せる目だった。
結局手持ちの三分の一以上をいきなり失ってしまうことになり、佳奈美が夢中で料理を胃に詰め込む作業を見る羽目になったのであった。

よかった……正義はいつもどおりの正義だ。
ねちねちと嫌味を飛ばしながらご飯を食べていても、彼を細かく観察するのは忘れない。
あたしは彼に気付かれないようにほっと胸を撫で下ろす。
そうだよね。正義があたしのことを放っておいて他の女と浮気なんてするわけないじゃない。
一体あたしは何を思い悩んでいたのだろうか。
彼があたしを裏切ることなどあるはずもなく、これから先もないというのに。
そう考えると随分と気分が楽になり、焦燥に駆られていた心にも余裕が生まれる。
もう正義のこと許してあげてもいいかな?
いや、まだまだ彼には反省してもらわなくてはいけない。未来の妻であるあたしを心配させた罪は重い。
それに彼がこうやってあたしの機嫌を取ろうと必死になっている姿を見ると何だかゾクゾクする。
この後、服を買いに行くからその時にあたしをたくさん褒めてくれたら考えてあげよう。
うふふ、正義と二人っきりで服を選ぶの。
『ねぇ、これどう?』
『ああ、すごく似合っているぞ。やっぱり俺の佳奈美は可愛いな』
『ちょ、やめてよ。こんなところで……』
『仕方ないだろ。本当の事なんだから』
『もう……バカ』
えへ、えへへへ……幸せかも。
そうと決まったら早速行かなきゃ。
「正義、次の所に行くわよ!分かったらさっさとコーヒー飲んでお金を払ってきなさい!」
「はいはい。とほほ……」
半分泣きそうになりながら力なくカウンターへ向かう正義。
フン、自業自得でしょ。あたしとのデートの約束を忘れて、家で寝過ごすだなんて万死に値するわ。
健気な未来の奥さんの気持ちを無碍にするとこうなるって覚えておきなさい。
「ほら、男ならいつまでもうじうじしてないでしゃっきり歩く!ヒーローがそんな顔で歩いていたら情けないわよ?」
店を出てからもぼんやりしているので、ばしんと正義の背中を叩いて発破をかける。
「お、おう。そうだな。ヒーローには落ち込んでいる暇はないもんな」
正義も何とか気を取り直したみたいで、ちゃんと顔を上げて歩き始めた。
隣り合って歩くあたし達。その距離は友達と言うには近すぎる距離で。
肩や手を少しずらせば触れ合ってしまうほど。
知らない人から見たらきっと恋人同士って思われるんだろうなぁ。
「何ニヤニヤ笑ってるんだよ?そんなに楽しみか?」
知らず知らずの内に笑みがこぼれていたらしい。正義に指摘された。
「そうね……楽しみにしてるわよ、正義?」
あたしはその問いにとびっきりの笑顔で返す。
正義はお金を払わされるという意味で受け取ったのか、溜息を吐いてがっくりとうなだれる。
その様子がおかしくてあたしはさらに笑いを堪え切れず、噴出してしまう。
どこまでも穏やかで優しい空間があたし達二人を包み込んでいた。



401 :Un reencounter [sage] :2008/12/02(火) 04:48:58 ID:6Ib4SJyl
「ふぅ……今日は一体何時間待たされるのかね?」
佳奈美が愛読しているファッション誌に掲載されていた有名店の中で一人立ち尽くす俺。
佳奈美は俺にここで待っててと言い残すと、さっさと目当ての服を探しに行ってしまった。
しかし、いかんせん手持ち無沙汰だな。ここは女物の服しかないので適当に服を見て暇を潰すことも出来ない。
以前その事を佳奈美に言ったら
「だったらあたしに似合うと思う服でも探してなさい。あんたのセンスをこの佳奈美様が見定めてやるわ!」
と言われたのだが、俺にそんなファッションのセンスはない。
大体俺が自分の服を買う時も何故か付いて来て、これはダメ,あれもダメと俺が選んだ服を片っ端から切り捨てて,自分が選んだ服を無理矢理買わせているじゃないか。
そんな佳奈美曰くファッションセンス0の俺が選んだ服を佳奈美に突き出したらなんかしらけた顔で見られそうだ。
それが怖くて、結局言われてから一回も実行していない。
しかし、それはそれで不機嫌になるのだから女ってのは難しい。
ああ、とにかく暇だ。ここはとりあえず先週のヤンデレンジャーの脳内ダイジェストでも……

「だーれだ♪」
「おわっ?!」
「うふふー、問題です。私は誰でしょう~?」
突然視界を奪われ、同時に澄んだ張りのある無邪気な声が俺の耳に入ってきた。
この声、どこかで聞いたことがあるような……って昨日会ったばかりだろ。
俺は溜息をつくと瞼を抑える柔らかい手を優しく剥がし、呆れた口調でこのいたずらっ子の方へ向き直る。
「ったく。やっぱりお前じゃないか――」

――認めよう。
あの時、あたしは有頂天になっていた。
彼の全てはあたしが支配し、これからもそれは続いていくと思っていた。
このままいけばいつかは正義と結ばれ、何事もなく幸せな人生を謳歌する。
そんな順風満帆な未来があたし達に訪れる事を確信していた。

天災は忘れた頃にやって来ると言う。なら人災はいつ来るのだろう?

雑誌に載っていた服を見つけたあたしはそれを持って急いで正義の元へと戻る。
これを着たあたしを見て、正義はなんて言ってくれるかな?
『似合ってるぞ』?『可愛いな』?『綺麗だ』?
えへ、楽しみ……
あれ?誰かと話しているみたい。
相手は服棚が邪魔でよく見えないが、きっと店員さんと話でもしているのだろう。
以前違う店でも正義と来た時も、同じように正義が店員さんに
「うわー、彼女さん可愛い~!よかったわね、君!こんな子を捕まえられて!」
と言われて、苦笑いしていたからだ。
残念ながら事実とは違うのでとりあえずやんわりと否定しておいた。もう少しでそうなりますけど。
あの時と違うのは正義が楽しそうに話しているところ。
その事にあたしは少し違和感を覚える。
こんな女物の服しか売ってないお店で正義が満足するような話題を振れる店員がいるのか?
まぁ、直接その店員に話を聞けば済む話だよね。もし店員さんが美人だからとかだったら思いっきり足を踏みつけてやろう。
そう思ってあたしは正義の元へ駆け寄る。



402 :Un reencounter [sage] :2008/12/02(火) 04:50:43 ID:6Ib4SJyl
でもいつだって神様は残酷だ。かつてこれ程ほどまでに偶然を呪ったことがあるだろうか。
――だって再び出会ってしまったのだから。

「ねぇ、これどう思う?正…よ……し………」
そこから先の言葉をあたしは口から出すことが出来なかった。
何故なら――
「お、戻ってきたか。俺は昨日会ったばかりだけどお前は久し振りだよな?」
のんきに笑顔で彼女を歓迎し、あまつさえあたしと彼女を引き合わせる正義。
今はその眩しい笑みが本気で憎い。
彼の隣には可憐に咲く花のような笑みを浮かべてあたしを見つめる少女の姿があった。
一年前よりも彼女はさらに美しく、女らしく成長していた。
しかし、相変わらずねっとりと熱の篭った視線で正義を見つめる所は、憎たらしいことに少しも変わっていなかった。

「お久し振りです、佳奈ちゃん。元気にしていましたか?」
――そこには一年前あたしが欺き、陥れ、切り捨てたはずの忌々しい過去の亡霊がニコニコと微笑みながら立っていた。