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438 :ぽけもん 黒  長老の頭が一番フラッシュ ◆wzYAo8XQT. [sage] :2008/12/06(土) 23:01:37 ID:9YLzBs9Y
 食事を終えた僕たちは、部屋に荷物を取りに戻るとそのまま桔梗町に向けて出発した。
 三十番道路はお使いのときに一度通ったということもあり、実に順調な行軍だった。ただ、そこまで早く進めているわけでもない。完全に僕が足を引っ張っていて、全体の速度を落としている。ただの人間である僕には、二人の速さにはとても合わせる事が出来ない。
 それと、以前のようにトレーナーを避けるのが難しくなってきたというのもある。今までは向こうも戦いに消極的だったっていうのもあるけど、全国の旅となれば当然、各地区にいるジムリーダーと戦っていかなくてはならなくなる。
トレーナーとパートナーを相手にした戦闘はジムでの戦いに向けた絶好の予行演習になる。それに、ここまでの旅で野生のポケモンとの戦闘に慣れて、自信がついてきたというのもあるんだろう。
すれ違うトレーナーは皆バトルに積極的だ。相手に見つかったら、問答無用でバトルを申し込まれてしまう。
 ……まあ香草さんの相手にもならなかったんだけどね。ポポに空から降りてきてもらう必要も無く、僕が一切手出しを行う必要が無いくらい、瞬時に相手を戦闘不能まで持っていってしまう。
今まで野生のポケモンとしか戦ってなかったから香草さんの強さは半信半疑だったんだけど、香草さん自身が言うとおり彼女はまさに無敵という言葉がふさわしいような強さだった。
バトルに負けた相手は勝った相手に所持金の半分を差し出さなくてはならないと決まっているので経済的にはおいしいんだけど、なんだか罪悪感が積もる。
 それでも日没までに三十番道路の終わりのほうまで進むことが出来た。ポケギアのGPSによる判断だから、実際に残りの道がきつい上り坂だったりすると、全然終わりのほうと言えないんだけどさ。
 香草さんとポポはまだ進めると言ったが、ポポは相変わらず夜目が利かないため、やはりここで止まることにした。
 若葉町から吉野町までの行軍で前よりも大部進むペースが速くなっているから、すべての食事を木の実に頼らず乗り切れるということに気がついた。でも、やはり食料を節約するに越したことはないので、以前のように朝食だけは木の実で賄うことにした。
 いつものように香草さんとポポに挟まれ、夜を明かすと、また桔梗市へ向けて進む。その途中で、生垣に突き当たった。
両脇や周りは太い木が群生していて、下手に入ると危なそうだけど、ここだけ木の向こうは獣道のようになっていて迷わないようになっているから、この生垣を何とかできればかなりのショートカットが出来そうだ。
「こういう場所で居合い切りを使うのかな」
「居合い切りって?」
 足を止めて考えていた僕に、香草さんが問いかけてくる。
「剣の達人とかさ、これくらいの藪とか細い木とかスパーンって斬っちゃえるんだって。シルフカンパニーが秘伝マシンを開発したらしくて、ポケモンは簡単に覚えられるみたいだよ。もちろん、覚えられないポケモンもいるらしいけどさ」
 でも僕は居合い切りの秘伝マシンなんて持っていない。というか技マシンの一つも持っていない。僕の小遣いで買えるような安価なもので、特に必要のある技マシンがなかったというものある。
「あら、そんなものいらないわよ。見てなさい」
 香草さんはそう言うと、両袖からそれぞれ数本ずつ蔦を伸ばし、それを束ねた。そのまま両腕を胸の前に交差し、強く左右に薙いだ。
 一閃。――いや、二つの束だから二閃なのかな、まあそんなことはどうでもいい――彼女は一瞬の内に幅数メートル、奥行き数メートルの生垣を一掃した。
 ……こういうのって、ありなのかなあ。
 僕はただただ、彼女の破壊力の高さと非常識な発想に呆れるしかない。
「どうしたの、間抜けな顔して。早く通らないとまずいわよ、コレ」
 香草さんに言われてみてみれば、薙ぎ倒された木々の切り口からはすでに木の芽が生え始めており、全体が急速に再生しつつあった。
そもそも、居合い切りで切れるような木というものは一部の人間の通行だけを許す自然の扉なのだから、こうでもならないと使われたりしないだろう。しかしそれが分かっていても、映像として目の当たりにすると驚かされてしまう。
 僕は先を行く香草さんの後に続いて、慌ててその道を抜けた。ポポはそもそも空を飛んでいるから地上の木々など問題なく飛び越せる。


439 :ぽけもん 黒  長老の頭が一番フラッシュ ◆wzYAo8XQT. [sage] :2008/12/06(土) 23:02:35 ID:9YLzBs9Y
 でも、このお陰で大きくショートカットに成功したのは事実だ。タウンマップによると、この道を通っていくと「暗闇の洞穴」を素通りしてしまうのだけど、
そこは真っ暗で、秘伝マシンの「フラッシュ」を使用されたポケモンがいないと何も見えないほどの暗さだということだし、そもそも最短ルートからは外れているからもともと立ち寄らないつもりだったので問題は無い。
 僕らはそのまま三十一番道路を走破し、日没前に桔梗市へとたどり着いた。出来るだけ二人のペースに合わせていたから、疲労で足が折れそうだ。
 この町を回るのは明日にすることにして、すぐさまポケモンセンターに行って手続きを終えると、その日はそれ以上のことはしなかった。ちなみに、ポケモンセンターの内装は全国すべて共通のようだ。
というのも、このポケモンセンターの内装が吉野町のものとまったく変わらなかったからだ。
初めてでも迷う心配が無いので便利というか安心というか、そういう意味で言えばそのとおりなんだけど、まったく違う場所なのにまったく同じ施設を建てる、というのも無駄な気がしなくもない。
 外と変わらず、僕らは一つのベッドに三人で固まって寝ている。正直言って狭い。でも二人がこうじゃなきゃ嫌だというから、しょうがなく妥協している。

 翌日は早朝から市内を巡ってみることにした。ここ桔梗市はさすが古都と言われるだけあって、町並みも建物も中々に趣がある。ポポは町並みにはあまり興味が無いみたいだったけど、香草さんは目を輝かせていた。
尋ねたら「ロマンチックで素敵」ということだ。確かにいい街なんだけど、いつまでもブラブラしているわけにもいかない。そもそも、市内探索だって半ば日が高くなって香草さんが本調子になるまでの時間潰しみたいなものだし。

 この街には、「マダツボミの塔」と呼ばれる、古い塔がある。風もないのに大黒柱がゆっくりとだけどユラユラと揺れるとても不思議な塔で、この街の一番の名所になっている。一説によると、巨大なマダツボミが塔の柱になったから揺れているのだとか。
 この塔はもともと修行のために建てられたということで、現在も多くの僧が修行に励んでいる。
 僕がこの塔に来た目的は観光でも――観光という意味も少しはある――修行でもなく――そもそも僕らは僧侶じゃないしね――、この塔の最上階まで行くと秘伝マシンの一つ『フラッシュ』がもらえることになっているからだ。
 秘伝マシンは戦闘に役立つものは少ないが、先に進むには無くてはならないものが多いため、是非とも手に入れたい。
 というわけで、僕たちはマダツボミの塔へと乗り込んだ。
 入り口から真正面にその例の大黒柱はあった。確かに、ゆっくりと揺れている。その大黒柱を囲うように座禅を組んだ修行侶が数人座っていて、なにやら物々しい雰囲気を醸し出している。
 その修行僧さんの集団と目を合わせないようにしつつ、どんどん階段を上っていく。すると途中で修行僧さんに声をかけられ数回戦闘になった。
 修行さん僧のパートナーのポケモンはみな揃ってマダツボミばかりだ。相性の問題を考え、全戦ポポで戦ったが、香草さんは自分でも楽勝なのに、と道中不満げだった。
 そしてあっという間に最上階。そもそも五階建ての塔だから、上るのにそんなに時間はかからなかった。
 その階の一番奥に、「長老」と呼ばれる老僧がいた。彼の後ろには箱が山積みにされている。アレがフラッシュの秘伝マシンなのだろう。
「よくここまで着ましたな。では、あなたが秘伝マシンにふさわしい人間か、テストをさせて頂きます」
 長老さんは威厳のある、渋い声でそう言うと一歩後ろに下がる。すると脇に控えていたマダツボミが前に出た。精悍な顔つきをした、たくましい男だ。
「彼と戦って、三十秒以上気絶せずに耐えることができたら合格です。三十秒以内に気絶した場合は不合格ですよ」
 その長老の言葉に合わせるように、マダツボミは大胸筋をピクピクと震わせた。
 これは油断できないかもしれないな。


441 :ぽけもん 黒  長老の頭が一番フラッシュ ◆wzYAo8XQT. [sage] :2008/12/06(土) 23:03:29 ID:9YLzBs9Y

 油断する間も無かった。
 念のため、戦闘を行っておらず体力が温存できている香草さんに戦ってもらったのだが――ポポは当然ごねたけど、いつものように宥めた――、秒殺、いや、瞬殺であった。
足元に放たれた蔦の一閃を避けた敵に突き刺さる容赦のないボディーブロー、そしてそれによって生じた一瞬の隙をついて蔦で上空へ放りなげる香草さん。
相手は一切の防御も反撃も取る間もなく、空中という飛行能力を持つ生物以外には回避不可能な領域で、蔦による情け容赦の無い無数の突きを加えられた。彼が地上と再会した頃には、もうすでに彼の意識は無かった。
 落下してきたマダツボミによって巻き上げられた粉塵が引いてくると、そこから赤く輝く鋭い双眸が浮かび上がる。
 長老さんは完全に引いている。えらいもん見ちまった……みたいな顔をしている。
「三十秒もたなかったみたいだけど、どうなの?」
 香草さんの、研ぎ澄まされた刃物のような言葉を向けられて、長老はビクリとその身を震わせる。
「ご、合格です、おめでとう。これが約束の秘伝マシンだから……」
 しかしさすがは年の功、と言ったところか。香草さんの睨みを意にも介さず……というのはさすがに無理なようだが、それでも自分に割り当てられた使命を果たそうとしている。僕だったら怖くて声もかけられないだろう。
「ど、どうも」
 香草さんにこのまま荷物を受け取らせるのはなにやら危険な気がしたので、僕は自分から進み出て長老からダンボールの小包を受け取った。
「どうゴールド! 見た!?」
 香草さんは先ほどの気迫はどこへやら、嬉々として僕に尋ねてくる。
「う、うん、すごかったよ」
 一部速過ぎて見えなかったけどね……。
「当然でしょ! 私、ゴールドを相手にするときはいっつも手加減してるんだからね!」
 彼女は誇らしげに胸を張ってそう言った。
 確かに、蔦の速度といい、容赦の無さといい、僕に向けられるそれの比ではなかった。一応、乱暴ではあるものの、彼女なりにパートナーである僕を気遣っていたのだろう。
 つい先日のことが思い出されてゾクリとする。あの状況で彼女にも僕にもなんの怪我もなく逃げ切れるなんてとんだ思い上がりだった。僕の持っている、出来れば使いたくは無い道具すら総動員しても、
彼女の初手に対応できない限り一切の活路はない。そういう意味では、あそこでおとなしく香草さんが引き下がってくれて本当によかった。きっとあの状況だと、香草さんがその気になれば僕は今頃五体満足ではなかっただろう。
尤も、ポケモンセンターの中でそんな大きな騒ぎを起こした時点で彼女の負けなのだが。
「坊や、少しばかりお話よろしいかな?」
 帰ろうと振り向いたとき、後ろから長老さんにそう声をかけられた。穏やかな口調だ。もうすっかり冷静さを取り戻しているようだ。
 再び振り向いた僕は、彼の様子から「二人きりで話したい」ということを感じ取った。
「香草さん、ポポ、先に降りててくれるかな。もう修行僧さんは皆倒したし、一本道だから大丈夫だよね?」
 僕は二人にそう声をかける。
「どうして?」
 香草さんは怪訝そうだ。
「長老さんと、二人きりで話したいんだ」
「話だけなら、私がいたっていいじゃない」 
「ホホホ、お嬢ちゃん、男には女性に聞かれたくない話というものがあるのですよ。君がこの少年を好きなのは分かるがの」
 長老さんは冗談交じりにそう言った。
「べ、別にそんなんじゃないわよ! ただパートナーとして気になっただけよ! いくわよ! ポポ」
 香草さんは慌てて、ポポを引きずって階段を降りて行った。
 たとえ事実でも、そこまで強く否定しなくても……。
 若干へこんでいた僕に、長老さんは急にまじめな顔になって話を切り出す。
「さて、本題ですが……あの嬢や、只人ではないでしょう。あんな恐ろしい目は、そうそう見るものではありませんからの」
「目?」
 想像だにしていなかった言葉に、僕は思わず鸚鵡返しに聞き返す。
「そうです。あの目に宿った影。あれはいずれ彼女自身を傷つけ、そして、君にも被害を及ぼすでしょう。あの影は、いつか無実の人を殺す」


442 :ぽけもん 黒  長老の頭が一番フラッシュ ◆wzYAo8XQT. [sage] :2008/12/06(土) 23:04:10 ID:9YLzBs9Y
 殺す、という物騒な単語に僕は驚いた。
 長老さんが何を言わんとしているか、いまいち飲み込めない。目とか影とか被害を及ぼすとか……香草さんは確かに乱暴なところはあるけど……。
「彼女は決して悪い人間ではありません。彼女の強さでそう思ったのなら、それは見当違いです。彼女の強さとか、決意には理由があるんです」
「ゴールドさん、と言いましたかの? 今はまだ正気を保っていても、誰があの嬢やが変わらない保障できるのです? その力が、その目的以外に振るわれぬ保障など、誰も出来はしないのですよ」
 何なんだ一体。香草さんを侮辱したいのか? 一方的に自分のパートナーが倒された腹いせか?
 僕はだんだんいらいらしてきて、つい語気が荒くなる。
「長老さん、あなた、さっきから何が言いたいんですか! そんなに彼女を悪者にしたいんですか!」
「私は見てのとおり、老いさらばえておりますが、まだ耄碌してはおりませぬ。私は今まで無数の人を見てきた。
老いてこそ身につく能力というものもあります。ゴールドさん、あなたは彼女をしっかりと見守ってあげなくてはなりません。彼女を止めれるのは、一番近くにいるあなたに他ならないですからの」
 長老さんは、僕に無礼な態度をとられたというのに、あくまで冷静だった。なにやら達観しているような、淀みの無さを感じる。
 僕は無言で彼を睨む。しかし彼はそれをまったく意に介していないように続けた。
「ただ、あの嬢やの傍にいてあげるだけでいいのです。ゴールドさん、この老いぼれの言葉、努々忘れてはなりませんぞ」
「……ご高説どうも。では、僕はもう行きますので」
「待ちなさい。最後に一つだけ、これを持って行きなさい」
 長老はそう言うと、懐から鈍色の、人差し指をふた周りくらい大きくしたような筒を取り出し、僕に差し出した。
「……なんですか、これは」
 僕はそれを一瞥すると、それを受け取りもせず、長老を睨む。
「これが何か、は時が来ればおのずと分かりましょう。これを肌身離さず持っていなされ。きっと、ゴールドさんの助けになるでしょう」
 そう言う彼の表情は真剣そのものだった。
 あれだけのことを言われておいて、彼から何かを受け取るのは癪な気もするけど、彼が懐から取り出したということはおそらく持ち主に害を及ぼすものの類ではないだろう。もらっておいても損はないはずだ。
 僕は無言でそれを受け取り、胸ポケットに収めた。
 あなたの旅の息災を祈っております。その長老の祝福を背に、僕は階段を降りた。

 外の明るさに、目を細める。
「早かったわね」
 僕がものをちゃんと見えるようになるより前に、香草さんに声をかけられた。穏やかな笑顔をしている。これが、人を殺す者の顔であるはずがない。
「うん、大した話じゃなかったんだ」
「……で、結局どういう話だったの? あ、別に女の子には言えないような話が何か気になるとか、別にそういうんじゃないわよ!」
 今も慌てて頬を染めて否定している香草さんが、悪い人間なわけが無いじゃないか。
「別に、旅の無事を祈る、みたいなくだらない話さ」
 僕は半ば笑い飛ばしながら言う。
 そう、くだらない話だ。
「そう、ならいいけど」
「……」
「どうしたの?」
「いや、疑わないのかな、って」
 以前の香草さんなら、そんなの嘘でしょ! 馬鹿にしてんの!? くらいは言ってきただろうに。
「だって、もう私に嘘はつかないって約束したでしょ?」
 香草さんはキョトンとして僕に尋ね返した。
「……そんな約束したっけ?」
 そういえば、この間、もう私に嘘はつかないで、みたいなことを言われた記憶はあるけど、あれはあの場限りの話だと思ってた。
「したわよ」
 煮え切らない口調の僕の迷いをぶった切るように、香草さんははっきりと言い切った。
「……したかもね」
「もし嘘ついたりしたら……酷いんだからね」
 そう言って彼女は意地悪げに口の端を吊り上げる。もし彼女が蛇で僕が蛙なら、今頃恐怖で悲鳴すら上げられなくなっているだろう。
「はい、よおく覚えておきます。絶対に嘘をついたりはしません」
「よろしい」
 僕の大仰な返事を受けて、彼女はにへーっと笑った。
「ゴールドと香草サンばっか楽しそうにしててずるいですー! ポポ寂しいですー!」
 と、いきなり今までまったく話に加わっていなかったポポに飛び掛られた。
「ご、ごめんね」
 僕はポポの頭を撫でながら謝る。しかし、今度は香草さんから鋭い視線を感じる。
 う……こっちを立てればあっちが立たずだ。香草さんは一体何が気に入らないんだろう。
 僕はただ、苦悩させられるばかりである。