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491 : ◆UDPETPayJA [sage] :2008/12/09(火) 18:16:18 ID:P3hsFZwf
 飛鳥くんに拒絶されて、何がなんだかわからなくなった私はただ、子供のように泣きじゃくっていた。
 視界がぼやけ、床が生き物のようにぐにゃりと歪む。立つことすらままならない。怖くて寒気がとまらない。今の私はそんな状態だった。

「…だから言っただろう。もうよせって。」
 男の人の声がした。この声はたしか…斎木くんだったかな?
「私…もうだめだよ。飛鳥くんに拒まれてまで生きていたくなんかない。」
 実際その通りだった。もしこの場にカッターナイフがあれば手首を縦に切り裂き、縄があれば迷わず首をくくれる。…もう絶望しきっていた。
 でも、斎木くんはこう言った。
「結意ちゃんは悪くないよ。飛鳥ちゃんはきっと騙されてるんだ。」
「…だまされてる?」
「そう、騙されてる。きっと妹ちゃんにでもそそのかされたんだろ。でなきゃ突然あんなこと言ったりしないさ。」

 斎木くんの言葉は魔法のようだった。今の私はそれを疑う術も、余裕もない。むしろ、私にとってその言葉は救いだった。
「…そっか、そうだったんだ。まったく…しょうがないなぁ飛鳥くんってば。それなら早く言ってくれれば良かったのに。でももう大丈夫だよ。」

 そう、もう大丈夫。どうすれば飛鳥くんを解放してあげられるか気付いたから。
 そんな悪い娘、死んじゃえばいいんだよね。わかってるよ、言ったでしょ?

「私、飛鳥くんの為ならなんだってできるんだよ?」


492 :天使のような悪魔たち 第8話 ◆UDPETPayJA [sage] :2008/12/09(火) 18:17:06 ID:P3hsFZwf
* * * * *

 結意ちゃんのほうはこれでよし、と。次は飛鳥ちゃんのほうだ。一応確認しとかなきゃいけないな。
 おそらく…亜朱架さんがやったんだろう。あの人はそういう人だ。結意ちゃんもそうだけど亜朱架さんの愛情も、狂気じみたものがある。
 わざわざ研究所を逃げ出してまでここに戻ってきたのは、たぶん結意ちゃんのせいだ。まったく…女のカン、ってのはつくづく厄介なものだよ。
「結意ちゃん。」俺はもう一度声をかける。「俺、これから飛鳥ちゃんのとこに行くけど、良かったらその弁当渡してきてあげるよ。」
「いいの?」
「ああ、たぶん結意ちゃんが行くと迷惑になっちゃうよ。帰ったらきっと妹ちゃんにお仕置きされちゃうんじゃないかなぁ?だから俺が行ってきてやるよ。」
 これはもちろん嘘だ。妹ちゃんが飛鳥ちゃんに通常はあってはならない好意の抱き方をしていることは知っているが、実際にはまだそこまでは達してないはず。
 亜朱架さんがいるから、まもなくそうなるかもしれないけどな。
「じゃあ、お願いするね。」結意ちゃんは弁当箱を預けてきた。俺はそれを受け取り、飛鳥ちゃんのもとへ向かった。

 飛鳥ちゃんはやはり屋上に来ていた。この学校内で教師の目に付かない、サボりに適した場所といえばおのずと限られてくる。
 今でちょうど三時限目のチャイムだ。どうせ渡すなら空腹がピークに達する昼時がいいだろう。
 場所さえ確認できていれば、すこし寄り道しても問題あるまい。俺は屋上を離れ、人気のない旧校舎に足を向けた。

 周りに人がいないことをよく確認し、俺は携帯を取り出した。電話帳から呼び出した番号は、飛鳥ちゃんの自宅だ。

「…もしもし、神坂ですが。」
 やはり。この幼い少女のような…それでいてどこか知性が感じられる声。間違いない、亜朱架さんだ。
「お久しぶりですね、亜朱架さん。斎木です。」
「…あら、隼くん。どうしたの、今は授業中じゃあ?」ある意味当たり前の質問だ。
「亜朱架さんも人が悪いな。サボってるのわかってるくせに。」
「そうね。で、サボってまで電話してきて…なんの用件かしら?」
「では単刀直入に…飛鳥ちゃんの記憶をいじりましたね?」さて…亜朱架さんはどう答えるだろうか?

「ええ。飛鳥には悪いけど、あの結意っていう娘のことをちょっと忘れてもらったわ。」
「何のためにです?」
「あなたもわかっているんじゃなくて?妹のためよ。」電話口でひとつため息をついて、亜朱架さんはさらにこう続けた。
「妹の幸せが私の幸せなの。あの娘が飛鳥を愛していたことはずっと昔に知っていたわ。でもあの娘は飛鳥と2人でいられる幸せを壊したくないから言えずにいた。
 飛鳥はあの娘のことを普通に妹としてだけ愛していたし、もし知ればあの娘を拒絶するのは目に見えているしね。だから隠していよう、と決めていたみたい。
 でも、あの結意って娘のせいでぶち壊しになったのよ。あの小娘のせいで明日香は傷つけられた。だから、2人からその"傷"を消し去ってやったの。」
 おおむね予測どおりの回答だ。亜朱架さんの気持ちはあのときから全く変わって…いや、より強固になったようだ。
「そうですか…でも、今回ばかりは俺も折れることはできませんよ。」
「…今でもあのことを忘れられないの?」
「当然でしょう。忘れられるわけがありませんよ、だからこそ同じことの繰り返しだけはしたくないんです。それでは。」

 電源ボタンを押し、会話を強制終了する。今の俺の心境は最悪だ。
 亜朱架さんは絶対に結意ちゃんを敵としてみなしているはず。俺にとっても今の亜朱架さんは敵だ。
 だけどもう絶対に繰り返さない。でなきゃあ俺はまた失うことになる。俺が唯一愛した、あの人のように。それだけはさせない。



494 :天使のような悪魔たち 第8話 ◆UDPETPayJA [sage] :2008/12/09(火) 18:17:54 ID:P3hsFZwf
* * * * *

 ツー、ツー、と空しい電子音を鳴らす受話器を置き、もういちど今の会話を考察してみる。
 まさか隼くんが結意さんについていたなんて……たしかに結意さんはどこか彼女に似ているけど、所詮代わりでしかない。
 そんなもの求めたところで何の意味もない。彼もいいかげんそれに気づくべきなんだわ。
 でも、私の…私たちの邪魔をするというなら無視するわけにはいかない。最悪、2人とも死んでもらわなきゃいけないわ。

 そこまで思案したところで電子レンジのピー、ピーという音が鳴り響く。いけない、まだ昼食の準備をしているところだった。
 明日香はテスト期間で今週は帰りが早く、そろそろ戻ってくるはず。さっさと作ってしまいましょう。
 まったく…つくづく彼って私の邪魔でしかないわね。

* * * * *

「…ああそういえば、今日は不思議な奴に会ったよ。」

 ここは図書室。俺こと佐橋歩は数ある椅子の一つに腰掛け、目前の少女と会話をしていた。話題は、俺が朝がた見張りをしていたときにここを訪れた男についてだ。

「不思議な?それって男?それとも…」
「男だ、心配するな。」

 その少女…光は怪訝な表情で性別を尋ねてきた。まったく…こいつは俺が女子と軽く一言二言交わしただけですぐ嫉妬するんだ。
 だからまず最初にこれを訊かれるのはもはや毎度恒例と化した。もし女子と話したなんてことになったら、なだめるのが大変なんだ。

「そ、ならいいや。それで、その子は何がどう不思議だったんだい?」と、光が言ってきた。それに対し俺は、
「…視えたんだよ。」とだけ応えた。光にはそれだけで通じるはずだ。誰よりも俺のことを知っている女だからな。

 俺は"あの件"以来、自分だけでなく他人の未来も視えるようになった。ただ、それはかなり限定…いや、唯一の最悪な未来だけ。それは、すなわち『死』だ。
 朝の彼で7人目になるが、今までの6人は死んでいる。みんな俺の知り合いだ。
 たとえば、突然行方不明になった級友の男がいた。そいつの未来は、姿をくらませる前日、学校での別れ際に視えた。
 そいつは一週間後に死体で発見された。傍には女の死体がひとつ、寄り添うように在ったそうだ。
 他にも、視えた直後に事故にあった奴や……自殺した奴までいた。
 この間は、クラスメートの女が後ろから別の女に首を掻っ切られるのが視えた。…そしてどうやらその通りになったようだ。
 だから俺は以前より人を避けるようになった。授業をさぼれるだけさぼり、その間は図書室にこもりっきりだ。
 ノートは光のを写せばすむし…幸い、俺の見た目は不良そのもの。誰も何も言わない。そうやって、なるべく人と関わらないように。
 こんな未来、視たいわけがない。止められない、変えられないのに…それでも、今日また視てしまった。
 
 奴は…神坂 飛鳥といったか。あいつもまた、死ぬ運命にあるようだ。できれば外れてほしいが、恐らく叶わないだろう。
 何故なら…俺の予知は"今まで一度も外れたことがない"んだ。ほんと、無駄な能力だよな。


495 :天使のような悪魔たち 第8話 ◆UDPETPayJA [sage] :2008/12/09(火) 18:18:46 ID:P3hsFZwf
* * * * *

 俺はあのあと屋上に来ていた。さすがにこの季節はだいぶ肌寒いが、今更教室に戻る気もしなかった。
 そのまま惰性でここに居続け、気付けば四限目の終わりを告げるチャイムが鳴っていた。と同時に俺の腹も鳴る。
「あー…弁当ねえんだったー…、どうしよ。」
 明日香のつくった弁当は先ほど結意が持っていた。今から奪い返しに行くのもなんだかあほらしいな。…仕方ない。隼に何か買ってきてもらおう。
 俺はメールを打つべく、ポケットを探る。が…携帯はなかった。それもそのはず、携帯は先日壊れたんだった。ちくしょう、なんてこった。
 心のなかで悪態をつき、ため息をひとつ。そこでひとつの疑問符が浮かんだ。…そういや、なんで壊れたんだっけ?

「よお飛鳥ちゃん!やっぱここにいたか。」
 聞き慣れた声がする。…隼か。
「ああ。腹減った、なんかないか?」期待はしてないが、訊いてみる。
「奇遇だなあ…実はこんなの持ってるんだ。」
 隼は後ろ手に持っていた物体を差し出してきた。それは、先ほど結意が持っていた弁当箱のひとつ…怪しい方だ。
「なんでお前がそれを持ってるんだ?」俺は当然尋ねる。こいつがこれを持つ理由なんて思い当たらないからな。すると隼は、
「それは俺が訊きたいねえ?結意ちゃん、泣いてたぜ。何したんだ飛鳥ちゃん?」と返した。やつにしては珍しく真面目な表情だ。
 何をしたか…分かりきったことをききやがって。
「簡単な話だ。ああいうのははっきり言ってやった方がいいんだよ。だからそうした、それだけだ。」と、簡潔に答えてやった。
 だが何故だ?今の俺自身の言葉はどこか自分を正当化してる気がしてならない。…いや、俺は当然のことを言ったまでだ。悩むことは無い。
 その言葉を聞いた隼は、なにやら黙りこくってしまった。……数秒おいて再び唇が開かれる。

「飛鳥ちゃん…結意ちゃんとデキたんじゃなかったのか?」

 ―――――はぁ?結意に続いて隼まで…今日は厄日か?俺と結意が…ないない。あんな変態願い下げだ。もし本当にそうだったら何されるんだか…ああ考えたくない。
 俺はその思いを隼に伝えた。

「………そっか、そりゃそうだよな。もし俺が好かれたとしても悪い気はしないけど…結意ちゃんは残念としか言いようがないしな!」

 わかってくれたか。なら隼、もう結意の名前を出さないでくれ。
 あの結意のすがるような姿を思い出すと無性にイライラするんだ。
 くそっ…あんなやつ、どうなろうが知ったこっちゃねえはずなのに。

「ところで、これどうする。腹が減ったんじゃあ?」
「あほなことを訊くな。そんな何入ってるかわからんもの食えるか。どうしてもっていうんならお前が食え。」
「…いや、やめとくよ。」そういって隼はブレザーのポケットからパンを数個取り出した。…なんだ、最初からわかってたんじゃないか。
 俺は財布から小銭を出して隼に渡し、パンをふたつほどいただいた。



496 :天使のような悪魔たち 第8話 ◆UDPETPayJA [sage] :2008/12/09(火) 18:19:31 ID:P3hsFZwf


 それから2人で他愛のないいつも通りのくだらない話をし続け…気づけば放課後のチャイムが鳴った。
 空はオレンジいろに染まり、校門からはぞろぞろと生徒たちがあぶれていく。
「…俺たちも帰るか。」隼が切り出した。俺はああ、と返事をして2人で教室に向かった。

 ドアをスライドさせ、教室に入る。誰もいない…と思ったら誰かがひとりいた。
 あれは…うちのクラスの生徒会委員、穂坂 吉良の姿だ。
 目が合った。穂坂は俺たちのほうへ向かって歩いてくる。
「またサボったんですか?だめですよ、ちゃんと授業に出なきゃ。はい、これ。」
 穂坂が差し出したのは今日の授業のノートだ。ちなみに穂坂は俺たちがサボるたびにノートを見せてくれる。
 とても字が綺麗なので見てて飽きることはないんだが…毎回毎回、どうしてノートを貸してくれるんだろうか。
 以前その理由を聞いてみたら、「うちのクラスから落第点をだすわけにはいきませんから。」と言われた覚えがある。
 事実、俺が赤点ぎりぎりの点数を取ったときにはめちゃめちゃ怒られて、強制的に残らされて勉強させられたのは記憶に新しい。
「神坂くんがこんな点数を取ったのは私の責任です!」とかいきなり涙目で言い出したんだ。
 ここで断ったら周りの奴らから白い目で見られるだろう。なら、残るしかないじゃないかっ!というわけだ。
 そういや穂坂は結意を嫌ってたみたいだが…まあ所詮ストーカー。生徒会委員からしたらきっと汚名でしかないんだろう。そういった意味では落第点も、か?
「ありがとう、参考にさせてもらうよ。」と、とりあえずノートを受け取る。
 ちゃんと写さなきゃ、次の日チェックされるからな、こいつに。生徒会委員って、ほんと大変だよなぁ。
「あ、そうだこれ、神坂君にあげます。」すると穂坂は鞄から包みをとり出した。なんだそれは、と訊いてみる。
「私の手作りクッキーです。あ、斎木君のはこっちです。」穂坂は鞄から再度包みを出す。俺のと比較すると、若干地味な包みだが…きっとたまたまだろう。
 ちょうど小腹がすいたころだ。さっそくクッキ-をいただくことにした。
 サクッ、と小気味いい音を立てつつ咀嚼する。…旨いなコレ。ただ甘いだけじゃなく、なにか不思議な味がする。なんだろう…とにかくウマい。
「うまいよ穂坂。ありがとう。」「ありがとうな、穂坂さん!」俺たちは2人そろって礼を言う。穂坂は照れながら「いえいえ、どういたしまして。」と答える。

 さて…ノートも写さなきゃだし、隼と一緒にマックでも行くとしよう。
「じゃ、ノート借りてくな。」
「ちゃんと写してくるんですよ?明日は数学提出ですからね。」
「ああ、さんきゅ。」


497 :天使のような悪魔たち 第8話 ◆UDPETPayJA [sage] :2008/12/09(火) 18:20:23 ID:P3hsFZwf
* * * * *

 お兄ちゃん、今日も帰りが遅い。また例のストーカーに追われてるのかなぁ?
 あの雌猫め…私とお兄ちゃんの邪魔ばっかりして、ほんと許せないよ。
 でも一番許せないのは、お兄ちゃん。 呼び方もお兄ちゃんの前では「兄貴」に変えて、私はもうこの気持ちがバレないように必死なのに…
 お兄ちゃんは変わらず私に優しくしてくれる。もう何度打ち明けようと思ったことか。でもお兄ちゃんはきっと私を選んではくれない。
 わかってる。お兄ちゃんの「スキ」はあくまで兄としての「スキ」。私とは違う。
 だからせめて、このくらいはいいよね…?お兄ちゃん。

 私はお兄ちゃんのベッドに顔をうずめ、深呼吸をする。
 すーはーすーはー…ああやっぱりお兄ちゃんの匂いすごくいい………。嗅いでるだけでもうぐっしょりだよぉ…。
 もう…止められない。あとは頭をベッドでうずめながら一心不乱にあそこを弄くるだけ。
 あはぁ!お兄ちゃん、きてぇ!もっと明日香の恥ずかしいとこ見てぇ!いく、いっちゃうよおぉぉ!ふぁぁぁぁん!

 …自己嫌悪。またやっちゃった。
 シーツはまるでおねしょしたみたいに私のおつゆでびしょびしょ。こんなの兄貴に見られたら…嫌われちゃうよ。
 そこで扉が開かれ、誰かが―――まさか、お兄ちゃん!?いや、見ないで!!
 でも、現れたのは私そっくりのシルエット。…お姉ちゃんだった。

「あーちゃんはホントに飛鳥のことが好きなのねぇ?」
 そう言ったお姉ちゃんの表情は、けっして侮蔑や嘲笑などではなく…まるでお母さんみたいにほほえましい笑顔だった。

「うん…自分でもどうかしてるのはわかってる。でも、兄貴じゃなきゃだめなの!…好きなの。」
 私はお姉ちゃんに、今まで心の奥にしまっていた思いを吐き出した。なんでだろう…わからないけど、お姉ちゃんになら打ち明けても大丈夫、そんな気がしたから。

「…そう。わかったわ、お姉ちゃんがいいこと教えてあげる。」
「…え?」
「見ててなさい。」
 そう言うとお姉ちゃんは兄貴のベッドの下から雑誌を数冊とりだした。それは私が一番嫌いな、下衆で卑猥な類だ。
 兄貴ったら…こんなもので処理してたんだ。そう思うと無性に目前の雑誌の表紙を飾る雌豚が腹立たしくて、切り刻んで…いや、殺してやりたくなった。
 これが「いいこと」だっていうの?お姉ちゃん。わかんないよ。
 そのとき、視界のなかでなにかが瞬き…雑誌は失せていた。これは…お姉ちゃん何をしたの?

「さあ、やってごらんなさい。」
「え?い、いまの?」
「簡単よ。これに向かって"消えろ"って強く念じればいいのよ。さあ…」

* * * * *

 ノートを写し終え、隼と別れた俺は独り家路についていた。時刻は夜8時。空はとっくに紫いろだ。星も見えている。
 ロマンチストならこんな夜空を見て詩を詠んだり出来そうだが…あいにく俺にはそんな才能も属性もない。
 もういちど後ろを見やり、人がいないのを確認して俺は一安心した。今度こそ本当に解放されたようだ。やっぱりはっきり言ってやってよかったんだな。
 俺は鼻歌をうたいながら、歩を速めた。今日はいろいろなこともあったが、これからはやっと平凡な日々が帰ってくるんだ。
 そう思うと足取りも軽くなる。こんなにも明日が待ち遠しいのは某神の集団のニューシングルの発売前日以来だ。
 
 しばらく歩き、家が近づいてくると後ろに人の気配を感じた。…まさか、結意か?俺は確認も兼ね、気配のするほうへと振り向いてみた。
 が、それよりも早く、後続者から声が発せられた。それは、よく聞き慣れた声色だった。