※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

539 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/12/13(土) 16:33:12 ID:ARqPzft2
第2話『依存対象』

 人は平等ではない。
 親がいる子供、親を失った子供では
 その後の子供の人生は大きく変わっていく。
 例え、それが最初から両親の愛情を受けずに育った子供なら尚更だ。

 人生に勝ち負けはないと思うが、私にとって人生とは惨めな自分を思い出せる過酷な日々だった。
 私、桜井彩は孤児である。
 両親は私が生まれてから、すぐに交通事故で亡くしたと聞く。
特に両親は駆け落ちするように付き合ったおかげでどの親戚も私を引き取ることを嫌がり、

赤子の私を孤児院に預けた。親がいない子供が行く先はまさに地獄であった。
物心を覚えた私は孤児院の職員に厳しく躾けられ、ただの世話というよりは機械的な作業であったと思う。
それは他の孤児院の子供たちも一緒で、彼らは自分らの給料以上のことは動かない。
厳しく躾けられるのは自分達の仕事を減らすためにある。
言うことを聞かなければ、子供に暴力を振るい、逆らう人間は食事を抜きにする。

職員の気分次第では暗くて狭い部屋、懲罰室に何日も閉じ込めたりする。
彼らは子供たちにとっては悪魔だった。
 孤児であった私の安らぐ場所はどこにもない。通っていた学校などは最も私の嫌いな場所の一つである。
無邪気な子供は何も知らない。何も知らないからこそ、自分の言葉に責任も持たず、刺々しい事を言ってくる。
両親のいないというだけでバカにされ、のけものにされる。

何か欠点さえあれば、それを口実に強者は弱者を叩く。叩く側は勝利の美酒に酔い、負け犬はひたすら泣き続けるしかなかった。
 特に一番嫌だったのは、運動会と参観日などと言った行事であった。
私には誰も声援を送ってくれる人なんかいないし、他の子供たちが親と仲の良い光景を見せつけられると
自分が不幸のどん底にいることを感じさせる。
 誰にも優しくされることもなく、私は一人寂しく生きていた。

 抜け出したかった、孤児院は経営者の無謀な経営方針のおかげであっさりと潰れ、
真っ先になんとかしなくてはいけない孤児の子供たちを見捨てて、自分達はさっさと逃げた。
債権者から追求を避けるために。
 孤児院がなくなったおかげで私は強制的に孤児院を追い出される形になった。

とはいえ、その頃は高校生だったので、誰も引き取る孤児院や人がいなかったから、一人の生活を余儀なくされた。
通っていた高校を中退して、一人で生きるためにアルバイトで生計を立てた。
更にその仕事先でも、高校中退で孤児院出身の私の世間体は悪く、誰からも相手にされなかった。
 そのような人生を歩んでいたせいだろうか、私は自然と人という生物は信用しなくなった。

温もりさえ求めなければ、何かに期待しなければ裏切られることはない。
私は私の心を防衛するために孤独でいる。愛情を求めずに、ずっと一人で生きていこう。

 そう、決心したはずなのに。

 私は、彼と出会ってしまった。
 周防 忍さんに。



540 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/12/13(土) 16:35:26 ID:ARqPzft2
うにゃーーーーーー!!
 私は引っ越してきたばかりの家で奇声を発していた。
 だって、だって、信じられる? 今日は凄いことがあったんだよ。
 いつも、一人だった私に優しくしてくれた人がいたの。
 悪徳引越しセンターどもが私の荷物を捨てるように投げた柄の悪い男のせいで一人途方に暮れていたのに。
困っている私に周防忍さんが声をかけてくれたの。
『手伝います』
 って。

 最初は信用できる人じゃあないと思っていたけど、そうじゃなかった。
あの重たそうな荷物を周防忍さんはほとんど一人で運んでくれた。私のためにだよ。
 私のために忍さんは引越しの手伝いをしてくれた。それだけで充分に嬉しかった。
 きゃは。
 わたし、忍さんなんて。名前で呼び捨てしているし。
 うんうん。
 落ち着け、私。

 忍さんと私は今日初めて出会ったんだから、名前で呼ぶなんて……。
 心の中だけなんだからね。
 本人の前で忍さんなんて言った日には、私は多分恥ずかしいあまりに体が溶ける。
ううん、体の8割の水分が流れきってしまうはずだよ。
 それにしても、私は忍さんに冷たい態度を取ったから、嫌われているかもしれない。
初対面であんな突き放すようなことを言っていたら、普通は好感度だって下がるよね? 某内閣支持率も急落に下がる。
 ど、どうしよう。

 とはいえ、忍さんに助けてもらったから、ちゃんとお礼をしよう。心を込めて謝罪すれば、私の想いに気付いてくれるかな?
 今日、生まれた淡いな想い。
 人を好きになる。
 いつも孤独であり、人間不信に陥った私が異性を好きになるなんて夢にも思ってなかったけど。
その想いだけで私の胸が自然と温かくなる。床の上をゴロゴロと反転して、
うにゃ、うにゃ、うにゃ、と奇声を発しながら私は久しぶりに心地良い時間を過ごした。
 だから、就寝する頃になってある事に気付かなかった。

「どうやって、寝ましょうか」
 荷物生理してないダンボールだけが積み重ねた部屋を見て、私は呆然と立ち尽くしていた。
今日の出来事を何度も思い返して、妄想の渦に流れ込んでいた罰が当ったのでしょうか。
お布団はこのダンボールの中に埋もれている。
探し出すのは困難であり、引越し作業で体力を使い果たしているから無理に等しい。
 私は途方に暮れていた。
 疲労のおかげで正常の判断を失っていたと言ってもいい。

「今夜は忍さんと一緒に寝たいな」
 と、一人で呟く。
 そう呟いてから、私の行動は早かった。
『女の子は行動力なのよ!!』
 どこかの誰かが残した言葉だ。
 その言葉の意味を知る時がやってこようとは。

 恋する女の子は受身だけじゃあダメなの。攻めて、攻めて、攻めて、攻めまくらないと
恋愛という乙女の命がけの戦いに勝利することはできないんです。
 そう決意すると家を抜け出し、
 忍さんの家のインターホンを鳴らした。
 私は精一杯の勇気を振り絞って言った。

「泊めてくれませんか?」




541 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/12/13(土) 16:37:28 ID:ARqPzft2
今日、出会ったばかりの女性にいきなり、『泊めてくれませんか?』と言われた時、
正常な男性はどういった反応を返せばいいんだろうか。常識的に考えても、恋人ではない男女が
一夜を過ごすのは倫理的に許されるわけがない。もし、間違いを犯せば彩さんを悲しませることになる。
「ダメでしょうか?」
 彩さんが消費者金融のCMのごとく潤んだ瞳で俺を見つめている。そんな瞳で見つめられたら断ることができない。
「わかった。泊めましょう。今日だけですよ」
「はい。ありがとうございます」
 と、俺は軽い気持ちで彩さんを部屋に入れた。

 人生で初めて女性を自分の家に招いたことにある一種の感動と緊張感が俺の中で生まれていた。
彩さんは相当な美人な分類に入り、本来の俺ならお近づきすることもできない人だ。
その人を俺のちらかっている部屋に泊まるというだけで何か興奮する。
 テレビとタンスなど日常品やベットを置けば、部屋一杯になる狭い部屋だ。
クッションの敷いた場所に彩さんを座らせて、俺はお客様を歓迎するためにキッチンにお茶の葉を探していた。
ちらりと彼女の姿を覗くと。
 彩さんは嬉しそうに俺の部屋を眺めていた。
「あの何か飲みます。お茶しかありませんけど」
「ああ。いいですよ。そんなに気を遣わなくても」
「そうですか」
「あの周防さん?」
「うん?」
「今晩は同じ布団で一緒に寝ていいですか?」
「なんですと!!」
 突然の彩さんの衝撃発言のおかげで俺は猫を被るのを忘れて叫んでいた。
年頃の女性が一緒に寝るのは間違いなく危険な発言だ。俺の中の狼が覚醒しそうだ。
「そんなのは絶対に駄目ですよ」
「うにゃ……駄目なの?」
「ううっ。確かに一人分の布団しか家にはないけど。彩さんはベットに寝てもらって、俺が床で寝るつもりだったけど」



542 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/12/13(土) 16:38:33 ID:ARqPzft2
「そんなの駄目ですよ。私のせいで周防さんが床に寝るなんて。そんなのダメなんですから」
「でもな」
「でももヘチマもありません。一緒に寝た方がきっと温かいですよ」
 確かに彩さんと一緒に寝れば、今日の夢心地は良く、明日は爽やかな朝を迎えることが出来るかもしれない。
天使のような微笑を浮かべている彼女の期待を裏切ることもしたくはないし。ここは誘惑に負けてしまおう。
「わかったよ。一緒に寝ましょう:
「うにゃーーーー!! ありがとう」
 彩さんは嬉しさのあまりに俺に抱きついていた。背中には彼女の手がぎっちしと包むように抱き込んでいた。
予想すらもしなかった行動に俺は自分の顔から首まで真っ赤になってしまうのがわかる。
異性の接触は思っていた以上に全体的に柔らかくて気持ちいい。
更に自分の心のどこかで安心できる癒しみたいなを感じていた。
 彩さん効果だな。
「あの抱きつくのは彼氏さんにしてあげたらいいのでは?」
「彼氏?」
「彩さんは彼氏いるんでしょう?」
「そ、そ、そ、そ、そんなのいませんよ。ううん、いないよ。私、今まで男の子と付き合った経験なんて全然ないですから!!」
「そうなの」
「そうなんですよ」
 そうか、彩さん彼氏いないのか。良かった。って、俺ごときが彼女なんかに相手にしてもらえるはずないのに。
なにが良かっただ。
「あの、周防さんは……その、彼女とかいるんでしょうか?」
「え、えっと、生まれてから今まで女性と交際経験なんてありません。ぐすん」
「そうなんですか!!」
 と、俺が彼女がいなかったことに凄い喜びを彩さんは感じていた。更に抱きついている手に強い力が込められる。
「大丈夫ですよ。周防さんなら素直で優しい彼女ができますよ」
「そうかな」
「私が保障しちゃいますよ」
 彩さんみたいな女の子から彼女ができると断言されるってことは俺に気があるというのはほぼ絶対的にありえないわけで。
少し悲しい気持ちになってきた。
「ではもう寝ましょうね」


543 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA [sage] :2008/12/13(土) 16:40:06 ID:ARqPzft2
 就寝。
 シングルベットで二人で寝るのは狭くて窮屈だった。
俺と彩さんの肩が触れ合い、腕と腕の感触が男と女とでは温度差が微妙に違う。
女性の温もりは誰かを包み込むような優しさに満ちており、俺の心にやすらぎを感じさせる。
どうして、今日会ったばかりの人と一緒に寝ているのだろうかとか、些細な疑問などどうでもよくなる。
 だけど、隣で彩さんが寝ていると思うと寝付けることができなかった。
 仰向けになって天井ばかりを見る時間が増える。
「周防さん、起きてますか?」
「はい、起きてます」
 と、俺は彩さんの顔を見ようとせずに曖昧な返事で返していた。
「引越しの手伝いをしてくれて本当にありがとうございます。感謝してもしきれません」
「その事は彩さんが困っていたし、助けなきゃと思っていたわけであって」
「誰にでもできませんよ。困っている人を助けることなんて。周防さんは私を見捨てることだってできた。
けど、それをしなかったのは周防さんが優しい人だからだよ」
「優しいねぇ」
「うんうん」
 自分は本当に優しい人なのだろうか。俺は今日出会ったばかりの彩さんを助けようと思ったのは
困っている彼女を助けられないことを後で後悔したくなかったからだ。
「それだけじゃないです。寝る場所がなかった私をこうやって泊めてくれたし。それに……一緒に寝てくれました」
「シングルベットは狭いけどな」
「うふふっ。周防さんが傍に居てくれるから、とても温かいですよ」
 彩さんが優しく微笑する。確かに二人の距離は密着する程に近づいている。
昨日は互いに知らぬ人であり、今日は出会ったばかりなのに。本気で摩訶不思議な体験をしているな。
「夏だったら、こんな風に寝たら暑苦しいだけだが」
「そんなことはありませんよ」
「そうか」
「周防さん?」
「うん?」
「ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
「ああ。俺からもよろしくな」
「で、周防さんにまたご面倒をかけることになるんですが」
「何かあったの」
「興奮したら、ちょっと鼻血が」

 えっ?  鼻血って。