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682 :『Hand in hand』 ◆m6alMbiakc [sage] :2008/12/27(土) 02:57:36 ID:y0ytdvCE
狂っている。そうとしか形容のしがたい状況に追い込まれてしまった愚か者、それが俺、大沢 宗佑(おおさわ そうすけ)だ。
「あはははっ」後ろから聞こえてくる、乾いた笑い声が聞こえてくる。しかしながら、その笑い声は俺にとっては恐怖以外の何物でもない。
「くそっ!」今さっきの笑い声にびびり、足がもつれる。
衝撃。
見事なこけ方をかました体には、擦り傷が多く付いているが、そんなもの気にしてもいられない。なぜなら、後ろから追って来ている笑い声の主に捕まるほうが、億倍危険だからだ。
「そーちゃんみっけ!」しまった。そうとしか言いようのない。コケた際にずいぶんと距離をつめられたらしく視認できるほど近付かれていた。
いそいで逃走を開始する。後から再び声がする「そーちゃんどうして逃げるの?」
お前が危険なやつだからだ。声に出さずに即答する。
そもそも、なぜ追いかけられているのか、それすらはっきりとしていない。
何をどこで間違えたのか、それを思い出してみることにする。

§                    §

俺と、相良 風深(さがら ふうか)とは家が隣というそれだけのことだった。
昔から、仲良しだった俺たちは、小学校、中学、そして高校の登下校はほぼ毎日一緒だった。
小学校の頃から、俺は風深の世話役のようなものだった。
まあ、頼られることは正直、悪い気はしなかった。
そんな感じで、高校生活も2年目を迎えた、ある日のことだった。
「好きです」
突然、言われた言葉。断じて、頭に花畑が十個くらい咲き乱れているような幼馴染から言われた言葉ではない。
目の前にいて、聞きなれない言葉を言ったのは、一谷 日出(いちたに ひので)さんだ。
学校の中でも五本の指に入るとさえ言われる、美人から告白されたのだ。実感が湧くわけがない。
「ええっと・・・。こちらもよろしくお願いします。」
とりあえず、実感の湧かないまま了承する。
返事を聞いて、一谷さんの顔に一輪の白い花が咲いたかのように、綺麗に笑った。
「ありがとう・・・。」
か細い声だが一谷さんが返してくれる。
どうにも実感が湧かないが、心臓が高鳴り、痛いくらいなので夢ではないのだろう。
俺はそのままのご機嫌な気持で今日という日をすごした。

§                    §

「よう、ソースケ!!聞いたぞ。お前、一谷さんと付き合うことになったらしいじゃないか!」我が悪友の、裕司が次の日の朝いつも通りの調子で、話しかけてくる。
いったいこいつの情報は、どこから仕入れてくるのか疑問に思うくらい情報が早い。
「お前は、一体どこからそんな話を聞いてきた?学校中に監視カメラでも仕掛けているのか?」あきれ気味に問う。
「まさか!」裕司はとんでもないといった風に返し、続ける。
「そんなものを使うくらいなら盗聴器のほうが・・」「もういい、黙ってろ。」
なんとも変態じみた裕司の声を耳からシャットアウトし、我が麗しの一谷さんに目を向ける。
「おやおや。」ニヤニヤ笑いの裕司が話しかけてくる。
うるさい、馬鹿、黙っていろ。人の考えている途中に口を挟むな。
さすがに声に出すのは躊躇われた。とりあえず、鬱陶しいので振り払う。
「で?風深ちゃんはどうすんの?お前とは夫婦のようなもんじゃねえか?ん?」
しつこく纏わり付いてくる裕司に半分あきれ気味で返してやる。
「だから、俺と風深はそんなんじゃないって。」
「おやおや、毎日一緒なのに夫婦じゃあないと?」
「そうだ。」
うんざりしつつも、返答する。
「ま、せいぜい後からナイフで『グサッ』なんてことねえようにな。」
「はいはい。」適当に返事をして、気持ちの悪い笑い方をしている裕司を、頭の中から排除する。
それにしても、風深にこのことを放すとどういう反応を示すか楽しみだ。
「ねえ。」おっと、どうやらちょうどいいタイミングで、風深が来たようだ。
「なあ風深、俺な・・。」「一谷さんと付き合ってるってほんと?」
こいつ何で知ってるんだ?まさか、裕司の言うように盗聴器を仕掛けているのかもしれない。そう思うと、けっこう怖いな。
少し躊躇いながらも、返答する。「ああ。俺も信じられないがな。」「ねえ、なんで。」
「ん?」何でって聞かれても、何を?「なんで。何で私の気持ちに気づいてくれないの?」
「はあ?」おいおい、俺とおまえは、ただの昔からの友達だろ。何を言ってるんだ、本当に。
その旨を伝えると、何故か風深は涙目になって教室から出て行った。いったいなんなんだ。



683 :『Hand in hand』 ◆m6alMbiakc [sage] :2008/12/27(土) 02:58:59 ID:y0ytdvCE
・・・・放課後

そのまま風深は教室には、帰ってこなかった。
まあこういう日もあるさ。今日は一谷さんと一緒に帰ろう。

ここは、学校前の坂。俺の左手には一谷さんの右手が握られている。
やわらかく透き通りそうな肌から伝わってくる体温。やばい、なんかドキドキしてきた・・・。
「あ、あの・・・。一谷さん?」どもりながらだが、何とか口を開く。
「えーと・・、一谷さんの家ってどの辺りにあるの?」一谷さんとの親睦を深めようと話しかける。
「そーちゃん。」後から突然話しかけられる。
振り向いた先には、目に光のない幼馴染が立っていた。
「ねえ、そーちゃん。なんで?なんでなの?」
おまえは何が言いたいのかがわからない。「風深、何を言っているんだ?」
風深はにこりと笑い、「そーちゃん。大丈夫。私がそーちゃんをつけ込む泥棒猫には制裁を加えてあげるから。」とつぶやき、包丁を懐から取り出す。
なんだか、危険な感じがする。逃げなければと本能が告げる。
「一谷さん、逃げるよ。」「う・・・うん。」手を握り締めて走り出す。
「そーちゃん。そんな汚らしい女の手なんか握っちゃダメなの!!」
後から狂ったかのような声が聞こえてくる。
包丁を振り回す風深から、逃げようと必死に走る。だが、異様に早い風深の動きは俺たちを捕捉する。
「一谷さん!!!」ふとした瞬間に手から一谷さんの手が離れる。
「あはは!!」遅かった。完全に捉えられてしまった、一谷さんは、銀色に光る刃に切り裂かれて、鮮血を飛び散らせる。
「あは、あははははは!そーちゃん、ねえ、嬉しいでしょ?ねえ?」動かなくなった一谷さんを、蹴り飛ばしながら、ゆっくりと近づいてくる。そう、時間と呼吸の止まりそうなくらいの恐怖が、ゆっくりと。
「くそっ!」
毒付いて、そのまま全力で走る。
近づいてくる風深を押し飛ばし一谷さんに駆け寄る。
しかし、目からは光が消え失せ、鼓動を知らせる脈は絶えていた。
「そーちゃん、何でそんな女なんか庇うの?」「うるさい!!」俺は、怒りを声に乗せて、風深へと振り返る。
そこに立っているのは、もはや親しい幼馴染でも、正気を保った人間でもなかった。
包丁を持った右腕からは、一谷さんの血が垂れ落ち、こちらをまっすぐと見る目からは、後悔の念など浮かんではいなかった。
「そーちゃんはいつもそう。誰かのために怒る。泣く。悲しむ。
私がつらい時だって、同じように悲しみ、励ましてくれた。
でも、そんな女なんかと一緒にいたら、そーちゃんが汚れちゃう。そーちゃんも汚れたくないよね?」
風深が一気にまくし立てる。
「おまえ・・・、狂ってやがる・・・。」俺は心の底からの本音を、言葉に出す。
直後、風深の動き、呼吸、何もかもが止まった気がした。
事実、止まっていた。
「あは・・・・、あはは・・・・、そーちゃんがそんなこと言うはずが無い。
そっか・・・、そーちゃんはもうあの女に汚されちゃってるんだね?そうだよね?
そうじゃなきゃ、私にそんな言葉、言うはずないもんね?ねえ?」
だめだ。もはや聞く耳も持っていない。
「ねえ?そーちゃん?汚れてるのはそーちゃんも嫌だよね?だから、私が責任持って元に戻してあげるから。」近づいてくる。当然、俺は一歩ずつ後ずさる。
「なんで?何で逃げるの?ねえ?なんで・・・。」風深がさらに距離をつめようと走ってくる。
やばいと本能が告げている。俺は、背を向けて走る。
「あはは!」
後ろから、笑い声。
そして、冒頭へと話がつながる。


684 :『Hand in hand』 ◆m6alMbiakc [sage] :2008/12/27(土) 02:59:53 ID:y0ytdvCE
回想終了。結果、俺はどこで間違えたのかが理解できない。
とりあえず、この地獄の鬼ごっこから逃れることに専念しようと、決心する。
後ろを振り返るが風深が追ってきている様子は無い。
「少し休もう。」疲れているのか、思わず独り言を口から漏らす。
前に向き直ると、そこには風深が立っている。
「な・・・。」「そうだね、鬼ごっこはやめて、休もうか。」
俺はとっさに逃げようとする。
だが、背中を向けた直後に鋭い痛みを感じて、体が倒れていく。
意識が薄れる中、かすかに残る視界には、影を含んだ幼馴染の笑みだった。

§                    §

「ん・・・?」まぶたが開き、微弱な光が差し込む。
薄暗い部屋だった。おまけに、窓ひとつ無い。
とりあえず、ドアを開こうといすから立ち上がろうとする。
だが、出来なかった。できるわけが無い。椅子に縄で括り付けられ、おまけに後ろ手に手錠という、状態だったからだ。
がちゃり、ドアが開く。こんな馬鹿馬鹿しいことをした愚かな奴を目にしようと、開いたドアを凝視する。
居たのは、最も可能性がある、だが、同時に最も居て欲しくなかった奴が立っていた。
そう、風深だ。
「そーちゃん。」風深がさらに続けようとする。だが、その言葉を遮り、言葉を出す。
「何でこんなことをした。さっさとここから出せ。」怒りを抑えた声で、問いかける。
「だめ。そーちゃんは、私とこれから住むの。
でも、そーちゃん、恥ずかしがり屋だからすぐ逃げちゃうでしょ?
だから、こうしたの。そーちゃんも実は嬉しいでしょ?」
なにを言ってるんだこいつは。まったく理解が出来ない。
「冗談ならこの位にしとけ。でないと、警察沙汰になってロクなことに・・・。」「そーちゃん。」
今まで聴いたことのないような、冷たい声で中断させられる。
不意に、ふわりと抱きすくめられる。
「私は、そーちゃんのことが好き。大好き。
だから、私以外のことを考えないで。私のことだけを見て。ね?」
肯定しか許されていない質問だった。

何も言えない俺を、ただ風深は抱きしめていた。
ずっと、ずっと。