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749 :似せ者  ◆Tfj.6osZJM [sage] :2009/01/03(土) 05:00:55 ID:clWZ+s3E
第一話 ~始まり~


 偽者は本物を越す事は出来ない。
 偽者が本物を越す時、それは偽者と本物が入れ替わる時。
 似せ者は本物になる事は出来ない。
 似せ者は本物を越そうが越さまいが似ているだけのオリジナル。



入学式から丁度一ヶ月が経った。
俺は苦労の末に仁衣高校に入学した。
県内トップクラスの学力を保持、様々なスポーツで好成績を収めるという文武両道の校風、そしてさらに日本トップレベルの仁衣大学へエスカレーター方式で行かれるとなれば、当然、皆行きたがるというものだ。
女子の場合はさらに制服が可愛いことも人気に拍車をかけているらしい。
倍率は10倍以上。去年は二年前に仁衣高校に入学した姉さんとの猛特訓の日々だった。
「はい、次はこの問題を解く!出来なかったら罰ゲームよ」
次から次へと来る問題。そして悪魔のような罰ゲーム。二度と思い出したくない…。
しかしそんな地獄のような日々を乗り越えて手に入れた生活はまさに夢のようだった。
何から何まで楽しくて充実している。一ヶ月があっという間であった。
入学してすぐに陸上部に入部した俺は走ることで青春を満喫していた。たった今も練習に励んでいる。
「んじゃ始めっか!」
俺は気合を入れるように呟いた。
一週間前から、朝の授業前に一年部員同士で集まっての自主朝連をしているのだ。
早起きが苦手な俺だが大好きな陸上の為となると話が違う。目覚ましやら携帯のアラームやらを何重にも設定し、体を叩き起こしていた。
みんなで一緒に朝練と言っても、やることは様々だ。体操だけ全員一緒にやり、後は個人個人で好きなようにやっている。
投擲や跳躍などのフィールド種目専門の人間とトラック種目専門の人間が一緒に練習したって仕方がない。
そもそも、同じトラック種目専門だって、短距離専門の人間と長距離専門の人間じゃ、鍛え方はまるで違う。
俺はというと…、とにかく、がんがんと長い距離を走っていた。それこそ、ブレーキのない車のように。
きっかけはなんだっけ?オリンピックのマラソンに感動した時だろうか。それとも駅伝のゴボウ抜きというものに強く憧れた時であろうか。案外、幼い頃に読んだ『走れメロス』に影響されてなどといった、くだらない理由だったかもしれない。
とにかく俺は走ることが大好きだった。
とりあえず俺はいつも通りジョグを始める。もう5月だが、まだまだ風は冷たい。しかし、それは、身を凍えさせるような冷たさではなく、朝の肌を適度に刺激する心地の良い冷たさだった。
うん、今日もいい朝だ。


「じゃ最後に全員参加で400mダッシュ。ビリの奴は今日の昼休みに好きな女子に告白」
いきなりそんなふざけた事を言い出したのは俺の悪友の杉下だ。
「俺はパス」
「無理」
人間のインパルスの限界スピードを越しているのではないかと疑うほど、瞬時に俺の意思は却下された。
「あのですね、俺はジョグやらインターバルやらをやりまくった後で、歩くのもキツイので…」
「だから?」
今度は最後まで言葉を発することすら、許されなかった。
周りの奴らはニヤニヤと俺を見ている。この状況が面白くてたまらない様子だ。
そういえば、今日はやたら、俺以外の奴らの練習が軽かった気がする。
「嵌められたな…」
元々、400mとなると長距離専門の俺は分が悪い。さらにこの状況となると…
「おいおい、諦めるのか?俺の知っている赤坂映太という男はどんな逆境にも勇敢に立ち向かう強い人間なのだが、はたして違ったのかな?」
「俺の知っている杉下隆志のイメージ通りの発言、ありがたく受け取っておくよ」
「さぁ、スタートラインにつくがよい」
見ると、既に俺以外はスタートの体勢であった。こういう時、うちの部員は妙に団結するから困る。
「詰みだな」
俺は自らの運命を悟った。
どうやら俺は今日、藤堂優奈に告白する運命のようだ。さてどうしようものか…。



750 :似せ者  ◆Tfj.6osZJM [sage] :2009/01/03(土) 05:04:41 ID:clWZ+s3E
藤堂優奈。隣のクラスの女子。
残念なことに、彼女に関する確かな情報はあまり持っていない。趣味も好みも不明。
とりあえず、外見は良い。というか、めちゃくちゃ可愛い。人気のアイドルも彼女を前にしたら裸足で逃げ出すのではないであろうか?
思わず撫でたい衝動に駆られる茶味がかかった黒髪。
完璧以上に完璧な整った顔立ち。
繊細な指や足。
唯一、胸はあまりないが、全体的に細いそのスタイルは彼女のか弱いイメージとマッチしていて、それすらも計算されているのではと思わされる。
杉下曰く、「仁衣高校三大美女」と呼ばれるうちの一人であるらしい。
余談だが、その「仁衣高校三大美女」には姉さんも入っているらしい。本人は知っているのだろうか?今度聞いてみよう。
そして彼女は独特の雰囲気を持っている。実際、俺は外見よりそちらに惹かれたのかもしれない。
上手く説明は出来ないが、何というか、彼女は自分の人生を客観的に生きていた。おそらく彼女は、人が喜びそうなことをしたら喜び、悲しみそうなことをしたら悲しむであろう。しかも演じているような不自然さとは無縁に。
彼女の主観は客観であるというのが言い得ているであろうか。人間らしい人間。それが藤堂優奈であった。



751 :似せ者  ◆Tfj.6osZJM [sage] :2009/01/03(土) 05:08:10 ID:clWZ+s3E
昼休み前の四時間目。俺は数学の授業を華麗に聞き流しながら、必死に告白のセリフを考えていた。
「もう俺は君無しでは生きていけない。俺と付き合ってくれ!」
「どうしようもなく君が欲しい。高校生活を俺と共に歩いてくれないか?」
…。駄目だ。俺にはこういったセンスはないらしい。
俺は、二時間目終了後に、藤堂優奈の机に手紙を入れてきていた。
「話したい事があります。昼休みの空いている時間、屋上に来てください」
と。
しかし、呼び出して、どういう風に告白するか。それをまったく考えていなかった。
「まぁ適当に挨拶した後、ストレートに、好きです!付き合ってください!でいいだろう」
どうせ撃退だろうし…。
彼女にまだ彼氏が居ないことは確かである。なので、可能性が0というわけではない。
しかし彼女はかなり頻繁に男子の告白を受けているが、それを全て断っているらしい。
理由は不明。杉下によると、撃沈者の数は、まだ入学から一ヶ月しか経っていないというのに、十人を軽く越しているとか。
そんな事を考えていると逆に緊張感は薄れてきた。
藤堂優奈のことは本気で好きである。おそらく杉下達の罰ゲームがなくても、いつかは告白していた。
もし自分の彼女に出来たら、とてつもなく嬉しい。そして、振られたら、もちろん悲しいであろう。
しかし例え振られても、俺には現在の充分に充実した生活があった。
「失う物は何もない」
自らに言い聞かすように小声で呟いた。
丁度、俺の覚悟をしたのを見計らったかのように授業終了のチャイムが鳴った。
「さて行くか!」
俺は授業終了の号令と同時に教室を出た。


仁衣高校は屋上が開放されている。ただ風が強いのと季節によっては寒いのとで、昼休みにここで弁当を食べる習慣の生徒は居ない。(もっとも、たまには居るのだが)
なので、教室とは違った話場として使われていた。しっかりとベンチもあったりする。
告白にはよく使われているらしい。
普段は人がいないのに加え、例え自分のような人間が複数居ようと、仁衣高校の屋上はなかなか広いため、あまり気にならないためであった。
今日は俺しか居ないようだ。もっとも、まだ昼休み開始すぐなので、これから人が増える可能性はあるが。



752 :似せ者  ◆Tfj.6osZJM [sage] :2009/01/03(土) 05:11:18 ID:clWZ+s3E
ガチャリ…
入り口のドアが開く音がした。まさかもう来たのであろうか?
ドアが完全に開くとそこには可憐な少女が居た。藤堂優奈だ。
俺は一度小さく深呼吸をし、藤堂優奈に話しかけた。
「こんにちは。来てくれてありがとう。俺は1-Cの赤坂映太。よろしく」
「え…」
いきなり、驚いたような顔をされた。少し馴れ馴れしかっただろうか?さっそくミスをしてしまったか?
俺はとても焦った。
色々と考えてあったはずの頭が真っ白になる。
「好きです、付き合ってください!」
気づくと俺は既に告白のセリフ言ってしまっていた。
藤堂優奈が屋上に来てから三十秒も経っていないうちの告白。挨拶だけして、前置きも無しに叫んでいた。
相手からすれば俺は今初めて知った人間なのに。
しかも顔は下げたまま。まともに藤堂優奈の顔を一度も見ていない。
やってしまった…。駄目な告白の典型例だろう、きっと。
とりあえず、俺はおそらく真っ赤になっているであろう顔を上げ、返事を待った。
「兄さん…」
「は?」
様々な返事を想定はしていた。断りの返事はもちろん、希望を込めてのOKの返事も。
が、こんな返事は予測していなかった。俺の口から間抜けに疑問符がこぼれる。
「兄さんーー!」
藤堂優奈はもう一度そういうと、勢いよく俺の胸に飛び込み、そして抱きついてきた。
兄さん?藤堂優奈に抱きつかれた?好きな女の子にいきなりの行動に俺の頭はパニックに陥っていた。
顔を見ると、目に涙が溜まっている。
「兄さん!兄さん!寂しかったよぅー」
何が何だか分からない。
俺はしばらく抱きつかれたまま、その場で立ちすくんでいた。