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768 :ワイヤード 幕間  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2009/01/05(月) 13:28:50 ID:TDyDTYz3
幕間『少女の祈り』

神様――。

月夜。
光がステンドグラスを超えて差し込み、少女を照らしていた。天使のごとき輝き。
翼のないその姿が、むしろ神秘だった。
闇の中の教会で唯一輝ける少女は、独り神に祈りをささげていた。
「神様」
目を閉じる。
少女はその瞼の裏に、世界でたった一人、愛し、全てをささげるべき存在を想い浮かべる。
そして、それは神ではない。ただの、一人の少年の姿だった。
「神様、どうか……」
少女は、神など信じてはいなかった。信じているのは、ひとつだけ。
未来。
少女と、少年の、二人の未来。たったひとつ、それだけがあれば、それは彼女の幸せだった。
「どうか、ちーちゃんと私の生きる、未来を……!」
ただひたすらに、純粋で、しかし利己的な願い。
信じてなどいない神にまですがる。
それは、彼女がプライドよりも大切なもののために生きているという証拠だった。
それほどまでに、少女はあの少年を愛していた。
「神様……」
教会の奥にひっそりと佇む、神を模した像は、ただ、少女を見つめるだけだった。
――この世界に、神なんていない。
少女には、そんなことは既に分かっていた。
神なんていない。人は、狂おしいまでに平等だ。
だから、強いものが勝ち、弱いものが負ける。平等だからこそ、違いがある。
だから、少女は力を願った。



769 :ワイヤード 幕間  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2009/01/05(月) 13:30:28 ID:TDyDTYz3

かたん。
突然後ろから聞こえたその音に、少女は振り向く。
教会の扉が開いていた。差し込む光に、浮かび上がる影。
人影。
「待ってたよ、アリエス」
少女は、確信をもって人影に声をかけた。
アリエスと呼ばれた少女も、落ち着いた声で返答する。――まるで、こうなるのがはじめからわかっていたかのように。
「逃げないとは、たいした自信だな」
「けじめをつけるためだよ。一人でも逃がしたら、ちーちゃんに迷惑がかかっちゃうから」
「お前は……!」
アリエスが激昂する。
「お前は、悪魔だ。神に祈る資格など、ない!」
「……そう」
少女は神にひざまずいていた姿勢から、立ち上がり、アリエスと向かい合う。
「自らの目的のために、何人を義性にした! 何人を殺してきた! お前の殺した者には、帰りを待つ家族がいて、恋人がいて、友がいて……ともに、笑い、泣き、怒り……。全て同じ、人間だ!
 それを、お前は簡単に……! そして、遂には、お前はおまえ自身の両親までも……!」
「なら、逆に聞かせてもらうよ」
「……何だ」
「あなたたち統合教団は、私にどういう仕打ちをした? 度重なる、過酷な能力テスト。人体実験。兵器開発。薬物投与。攻撃力の調査のために、大型動物と素手で戦わされたこともあったよ。
 そして、死刑囚を連れてこられて、人体への攻撃を試すとか言って、私にその人を殺させたのも、あなたたち統合教団」
「……っ」
「もともと人間扱いされなかった私に、私の両親は何をしてくれた? もともと統合教団に私を売ったのもお父さんとお母さんだよ。そして、そのためにちーちゃんと私を引き離したのもあの二人。あの二人だって……あいつらだって! 私を人間扱いしてくれなかった!」
「それでもっ」
「それでも、何だっていうの!? 私を助けてくれたのは、心の中にあったちーちゃんとの記憶だけなんたよ……? あの人と結ばれる未来だけが。その夢だけが、私を守ってくれたんだよ? そんな、小さいけど幸せな未来への願いさえ、統合教団は許さなかった」
「だから、全て破壊したというのか!」
「そうだよ! それのどこが間違ってるって言うの? アリエス、あなたに私が裁ける? ちーちゃんが好きだっていうだけで、それだけで良かった私を、ここまで変えてしまったのは、あなたたちなんだよ……?」
「違う……。お前は、お前のエゴを押し通しているだけだ! お前一人の願いのために、多くの――お前と同じ、小さな願いを持った人間を、何人も殺したんだ。それは、許されるものではない」



770 :ワイヤード 幕間  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2009/01/05(月) 13:31:03 ID:TDyDTYz3
「……なら、その力は誰が私に与えたものなの?」
少女は、手にもった剣を握り締めた。
「それは、お前が元から持っていた力だろう。だから我々統合教団は、お前を保護し……」
「違う! 私は、ちーちゃんと一緒にいたいだけなの! 本当は、こんなちから、いらない!」
「血塗られたお前が言うことか……!」
暗闇で隠されていたが、徐々に光で浮き上がる少女の姿。
アリエスには、しっかりと見えていた。少女の、血塗られた身体。
少女のものではない。返り血。少女が虐殺した、統合教団の構成員達のものだ。
そして、それだけではない。少女は、奇怪な鎧を身に着けていた。
やけに近未来的な――今は血塗られて赤いが――白い鎧である。手には、長剣が握られている。
「その剣は、確かに我々が与えたものだ。だが、お前の剣を振るうのはお前自身だ。お前の心だ」
「……そう、そうなんだ。アリエス、あなたは、分かってくれないんだね……」
「別の形で出会っていれば、お前とは友でいられただろう。だが、私は全てを奪われた。だから、もう戻れない。戦うことでしか、私たちは分かり合えない」
アリエスは、マントに隠していた武器を取り出した。
「『ヴァイスクロイツ』。エクスターミネート」
十字架のような形をした武器。『ヴァイスクロイツ』。中心にある宝石がアリエスの闘気に反応するように光る。
「本当に、やるんだ。さっき、私の力は見たでしょう? この『ネクサス』がある限り、私は無敵だよ。そして……」
少女は、剣を構え、突進した。真っ直ぐ、アリエスに向かって。
「この剣を振るわせるのは、あなた!」
「だとしても!」
全くゆがみのない攻撃。ひたすら真っ直ぐに、迷いなく、最速で剣を振り下ろす少女。その一撃を、アリエスは『ヴァイスクロイツ』で正面から受け止める。
互いの強大なエネルギーの衝突に爆音が轟き、教会全体が強く揺れる。ステンドグラスが吹き飛ぶほどの衝撃。
「『ネクサス』! ブーストアップ!」
"ブースト・アップ"。少女が身に付けている鎧のベルト部分から、機械音声が発せられる。
同時に、少女の持つ剣が強い光に包まれる。
「っ!?」
アリエスはとっさに少女とのつばぜり合いを中断して、ヴァイスクロイツを引き、少女の左隣に飛び込み、床を転がって距離をとった。
次の瞬間、少女の剣から発せられた強い光が剣から一気に溢れ出し、少女の前方の物体全てを切り裂いていた。
教会にあった椅子、カーペットはもちろん、教会の壁、地面でさえも、少女の前方のものは、全て。
「……」
アリエスは驚愕する。これほどの威力の攻撃は、かつて見たことがなかった。
少女が、本気だということだ。アリエスが見たことのない領域の力を行使するまでに。



771 :ワイヤード 幕間  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2009/01/05(月) 13:31:33 ID:TDyDTYz3
「どう? これが、あなたたち統合教団が恐れ、制御しようとした『ワイヤード』の力。『WE粒子』のもたらす、世界を変える力」
「……この力は、人が手に入れていいものではない」
「あはっ! 同意見だよ、私もね。でも、末端のアリエスは知らなかったかもしれないけど、本当にこれを手に入れたがっていたのは、統合教団……つまり、人なんだよ」
「そんな、ばかな……」
「いいよ、今なら許すよ、アリエスのこと。だって、知らなかったんだもんね。アリエスは、ワイヤードに家族を殺された恨みを晴らすために、統合教団に協力してたんでしょう?」
「……」
確かに、その言葉は正しい。
アリエスは、ワイヤードという存在に教われ、全てを失った。自身も、一生消えない傷を負った。
そして、ワイヤードたちと闘っている組織、統合教団に拾われ、その中でずっと戦ってきた。
知らなかった。
アリエスは、統合教団の行動は、全てワイヤードの殲滅のために行われていると、信じていた。
「統合教団は、人類のためにワイヤードを滅ぼすなんていう、正義の組織じゃなかったんだよ。教団の目的は、『WE粒子』の軍事転用。それをもって世界を統一する。つまり、本当のエゴの塊は、統合教団のほうなんだよ。私じゃない。あんなやつら、殺されてとうぜんでしょ?」
「そんな……そんなことが……」
「アリエス、今なら、私の仲間になれるよ。一緒に行こう、アリエス」
「……それでも」
「?」
「それでも、私は、神を信じている」
「……あきれた。どうしてそんなに頑固なの?」
「統合教団の神ではない。お前の神でもない。私の神は、ここにいる」
アリエスは、勢いよく立ち上がり、自らの胸を強く叩く。
まるで、心臓の――命の存在を確かめるように。魂を確かめるように。
「この魂が、叫んでいる。お前は歪んでいると! 私は、私の信じる全てを――神への祈りを、全て……!」
ヴァイスクロイツを強く握り締めるアリエス。
その腕には、瞳には、もはや何の迷いもない。
「……分かった。私がちーちゃんを想うのと同じ。アリエスも、本当に大切なものがあるんだね」
「その通りだ。もはや、どちらが善、どちらが悪なのか。そんな問題は超越した。私とお前の、運命は。……全て、神の導くままに。そして、私自身の意思で、ここで断ち切る。この祈りを、全て、この一撃に懸ける……!」
「いいね。一撃、たった一撃の勝負……」
少女も、剣を握り締める。ベルトが"エクステンション・ドライブ"とコールしたと同時に、少女の剣が強い光に包まれる。
「もう、言葉はいらない! いくよ、アリエス!!」
「西又イロリ……いや、ワイヤード! 私が、お前の運命を断つ!!!」
二人が同時に駆け出す。
「いっけええええええええええええええ!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」



772 :ワイヤード 幕間  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2009/01/05(月) 13:32:04 ID:TDyDTYz3
ある朝、京都近郊の、町外れの教会が、全焼、倒壊状態で見つかった。
近隣住民に寄れば、その前の晩、なにか大きなゆれと、音と、そして、天まで届く光が教会から発声していたらしい。
調査隊の活動虚しく、焼け跡からは死骸もなにも見つかっておらず、おそらく被害者はゼロと思われる。
警察は原因究明に乗り出したが、結局全てが不明であり、調査はすぐに打ち切られた。

西又イロリが東京に現れる、数週間前の出来事である。