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773 :ワイヤード 第十四話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2009/01/05(月) 13:32:38 ID:TDyDTYz3
第十四話『存在に心奪われる時』

「(どこだ……どこから撃ってきている……)」
第二射。
千歳は即座に反応して手のひらで矢を受ける。
千歳の手のひらを貫くかと思われた矢は、逆にひしゃげて地面に落ちた。
そして、千歳は分析を終了した。
今の一撃で。矢の方向や速度、角度によって、狙撃者のいる位置を特定したのだ。
「(ありえないことだが、3000メートルほど離れた地点から撃っている。そして、恐らく高くて、俺が見える場所……)」
――学校、だ。
「っ!?」
思考している間に、三発目が迫っていた。
「蒼天院清水拳、流転投槍!」
両手を円状に回転させて、その中心で作った空気の壁により、触れずに受け止める。
矢にこもったエネルギーを保ちながら腕をさらに回転し、矢を方向転換する。
「受け取りな、こいつは警告だ!」
両腕を押し出すと、空中で静止し、方向転換した矢が、まさに飛んできた方向をめがけて校則で飛んでいった。
清水拳による反射。
「……とどくか?」



774 :ワイヤード 第十四話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2009/01/05(月) 13:33:08 ID:TDyDTYz3
「くっ……ボクが二発も外した……!?」
メアは動揺する。彼女の腕を持ってすれば、暗殺など一撃で十分なのだ。本来なら、もうとっくに終わっている。
焦りながら、第三射を放つ。
「あいつ、受け止めて……!」
そして、こちらに向かってくる。
「ちっ!」
高速で迫ってきた矢を寸前で掴み取り、メアは防御した。
「まさか倍化して反射するなんて……。鷹野千歳、思ったよりやるな」
こうなれば、暗殺は無理だろう。メアはさっさと見切りをつけ、ずらかろうとする。
「まさか、本当にこのまま逃げられるとでも思っているんですか?」
「!?」
突如背中に投げかけられた声に、メアは飛びのいて距離をとった。
「何者だ!」
「何者って、あなたのほうこそ何者なんですか? そうでしょう、だってあなた、高校生には見えませんよ」
「……」
メアの背後に立っていたのは、この高校の女子生徒のようだった。
黒のショートヘアに眼鏡の、一見地味な風貌だ。
だが、メアには一瞬でわかった。
こいつは――野獣だ。
「まあ、相手に素性を聞く時は自分からっていいますしね。私は井上深紅。この高校の風紀委員です。以後、お見知りおきを」
「……なぜ、ここにいる」
「なぜって、確かに今日は休日ですが、生徒会活動やらなんやらも大変なんですよ。委員長っていうのは。それに、その質問はあなたに対して為されるべきでは? あなた、他人の学校の屋上で、人を狙撃してましたよね?」
「くっ……」
メアは動揺する。
目の前にいるこのミクという女は、一体何者なのか。
表面上はなんて事のない、丁寧語を喋る優等生然とした少女だ。だが、どう見ても、それ以上の何かが秘められている。
「いえ、そんな目で見ないで下さい。別に怒ってるわけじゃないんです。狙撃はかまいませんよ。たまにはしたくなりますよね、狙撃」
こいつは何を言っているんだ。ミクの異常性に、メアはついていくことができない。
「ただ、狙撃している対象に問題があるんですよ」
ミクは笑い始める。無気味に、ひたすら不気味に。
くすくす。
くすくす。
くすくす。



775 :ワイヤード 第十四話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2009/01/05(月) 13:33:55 ID:TDyDTYz3
「(こ、こいつは……!)」
メアは、ここでやっと確信を得る。
「(こいつも、ワイヤードだ!)」
そうと分かれば行動は早かった。
メアはアルバレストをミクに向ける。
「お前、ワイヤードだな……」
「さあ、何を言っているのやら、わかりませんね」
「随分余裕だな。ボクがここで引き金を引けば、お前は死ぬ」
「くすくす。本当に、やんちゃなんですね。『ボク』ですか。可愛い女の子が……」
「何がおかしい」
「いえ、失礼。だってあなた『タチ』ですもんね。そして、可愛い子猫ちゃんを欲しがってます。『百歌』ちゃんという、可愛い子猫ちゃんをね。だから、男の子を演じている」
「……!! お前、一体……!」
「知ってますか? 情報というのは、時に銃よりも強い武器になるんですよ? メア・N・アーデルハイドさん」
「お前……」
「そして、私は今、怒っているんです。あなたの愛がどこへ向かおうと勝手ですが、その怒りの矛先を千歳君に向けた事実に」
「……!」
井上ミクは、どう見ても弱い。ひょろりと細いし、身長もあまり高くない。メアより若干上な程度だ。
どう見ても、勝てる相手。
なのに……。
「(なぜ、ボクの脚が動かない……!?)」
ミクはくすくすと笑いながら、少しずつ近づいてくる。
――そんな姿に、メアはどうしようもない恐怖を抱いていた。
「千歳君を……。私の千歳君を……。あなたに、彼の何がわかるって言うんですか? あなたに、彼を裁く権利はあるんですか?」
「(動け……動け……!)」
已然、メアは硬直している。
ミクの指がメアの首に触れる。
「あなたも、戦闘では強いみたいですが、もうすこし身の程を知ったほうが良いんじゃないですか? 世の中には、触れてはいけない尊いものがあるんですよ?
 千歳君を殺そうだなんて、イスラム圏でマホメットを馬鹿にするようなものです。この世界全てから、あなたが殺されることになるんですよ?」
すべすべの、優しい指がメアを撫でる。
「(殺される……)」
「私の『幸せ家族計画』にも支障をきたしちゃうじゃないですか。千歳君無しには、何もかも台無しなんですよ。……だから」
「ぐっ……!」
ミクがメアの首を締め上げ、その身体を軽々と持ち上げた。



776 :ワイヤード 第十四話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2009/01/05(月) 13:34:26 ID:TDyDTYz3
「(こいつ……なんという力だ……!)」
「暴力沙汰は苦手なんですけどね。それでも、私にはものの価値判断というものができますから。ねぇ、メアさん。この世界のなかの、大切なものって、分かりますか?」
「(な……なにを……言っている……)」
「人間も、何もかも。この世界に平等なんてないんですよ。どんなものにも優先順位があります。それはまず第一に、『自己』が尊重されるべきであり。しかし、その前提に成り立つ、最も上位の存在があります……。それが、千歳君なんですよ」
「(こいつ……)」
「あなたと、あなたの大切にしている世界は、あなた自身が思うほど特別じゃないんですよ。本当に特別なものが世界にあるとしたら、私の観測した、私と千歳君の生きる世界です。これは本当に簡単な理屈なんですけど、なぜ誰もそれに気付こうとしないんでしょうね?」
くすくす。
「(狂人だ……!)」
「さて、そろそろ良いでしょう」
ミクはメアを掴んだまま、屋上の端に移動する。
「お別れです」
そして、足場のない場所にメアを持っていき、その手を放した。
「……ちぃ!」
メアは空中でくるりと身軽に回転し、見事に着地。
五階建てのこの学校校舎の屋上からの落下を、全く苦にしなかったのだ。
「あいつ……なんなんだ……」
焦燥。
ここはとにかく一旦退くしかなかった。



777 :ワイヤード 第十四話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2009/01/05(月) 13:35:36 ID:TDyDTYz3
「やはり、この程度では傷ひとつつきませんか」
ミクは、退散していくメアの姿を、屋上から悠々と見下ろしていた。
「あんな化け物とまともに戦ったら、私なんか肉片も残らないでしょうね」
そう言いつつも、ポケットから小さなビンを取り出し、ぷらぷらと目の前で振った。
「この『硬直香』の効果範囲の狭さも、改善の余地ありですね」
ビンの中には鮮やかな赤色の粉末が入っており、小さく火がついている。ビンの口からは、甘い匂いが漏れ出している。
これは硬直香とミクが呼んでいる特殊ガスであり、その効果はその名のとおり、かいだものの筋肉を硬直させる。
匂いは強くなく、効果も即効性があるため、非常に高性能だが、欠点は、その効果範囲の狭さだった。最低でも5メートル以内に近づかなければ、全く意味がない。
「自慰行為をするというのは、主義に反するのですが、まあいいでしょう」
実の所、これは自身の体臭がもつ幻惑作用を取り出して物質化したものである。それに必要だった愛液は、もちろん自家発電した。
ミクはそれまで自慰行為をしたことがなかったが、千歳に対して行った数々の性的暴行を思い出すと、非常に簡単に濡れることができた。
「ふふっ、千歳君に試す時は、もう少しちゃんとしたものを作らないといけませんからね。副作用なんてあったら大変です」
そこまで言うと、ミクは満足げにビンをしまった。
「さて、メアさん。この警告を真摯に受け取ってくれれば幸いなんですけどね」

「さて、狙撃手があの警告を真摯に受け取ってくれると幸いなんだがな」
狙撃がやみ、千歳は家についていた。
「ん、どうしたのお兄ちゃん?」
「いや、なんでもない」
百歌は相変わらず何も知らず、無邪気だ。だが、それがいい。一番いい。
千歳は、百歌をわけのわからない命の取りあいなどに関わらせる気は全くなかった。
目的もなにもわからない狙撃手だが、野放しにしておくと百歌まで危険に晒すことになるかもしれない。
「(次はない。次に俺や百歌を狙ってきたら、容赦なく消す……。そのための、俺の清水拳だ)」



778 :ワイヤード 第十四話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2009/01/05(月) 13:36:37 ID:TDyDTYz3
数日後。
狙撃手も現れず、その日も平和に千歳とナギ(と、家の方向が違うのにいつの間にか合流しているイロリ)は、元気に登校していた。
「いや、北斗はやはりトキだろう。家族を想うあの生き様は見習わなければな」
ナギが熱くトキの人生を語る。
「まてまて。サウザ―を忘れるな。やはり拳法家としては、ケンシロウももちろんだが、ああいうサウザ―のストイックな所にも憧れるだよ」
千歳も負けじと熱く語る。
そして。
「二人とも、あまーい!!!」
「な、なんだよ、いきなり大声出して」
イロリは、千歳に槍訊き返されたとたん、まるでダムが決壊したかの如く言葉を垂れ流し始めた。
「確かにトキの家族愛やケンシロウの隣人愛はすごいとは思うけど、最高はシンだよ! 北斗はもともとシンとケンシロウの闘いの物語だったんだし、それにやっぱり愛に生き、愛に死ぬあのシンの生き様には現代人が見習わなければならない部分がいっぱいあるよ!
 言うなれば、『さふいふものに、わたしはなりたい』だよ!」
「そ……そうか……?」
「そうだよ! それに、ちーちゃん。サウザ―なんて駄目駄目! あんな『愛などいらぬ!』なんていう人、全然わかってない!」
「いや、それは違うぞ、イロリ」
ナギが口をはさむ。
「サウザ―が愛を失ったのは、やつ自身の持つ愛が、誰より深かったからだ。愛を持つ苦しみを知ったが故に、悪によってそれを塗りつぶしてしまおうと思ったんだ。
 愛と憎しみの重さとは、常に均一なんだよ。愛を守るためにせよ、壊すためにせよ、それに対応した憎しみが存在する」
「……た、確かに」
「サウザ―の場合は、生まれた憎しみが愛そのものに向き、シンはユリアへの執念ゆえにケンシロウを傷つけたという、そういう方向の違いが二者にはあったが。
 ともかく、他の北斗の拳の登場人物も、どんな形であれ、愛と憎しみを持っている。ユダですらそうだし、ケンだって悪を憎む心は愛から生まれている。奴らは皆、同じ人間だからな」
「な……なるほど。勉強になるよ」
千歳にはそこまでわからなかったが、イロリはなんとか納得できたみたいだった。
「やっぱり、ナギちゃんは凄いね!」
「まあ、それほどでもないがな。それに、お前がシンを尊敬する気持ちも、分からんでもない。結局、歪んだ愛をもった人間が多いのにたいし、シンの愛は方向性はどうあれ真っ直ぐだった。正しい形をとっていなかったとしても、あそこまで一途なやつも、そうそういないな」
そうこうして無駄話をしているうちに、校門までたどり着く。
見ると、なにやらいつも通りの風景ではない。
生徒たちはざわざわと野次馬のように外に出てきていて、その中心には大きくスペースが開いている。
黒服の男達が何人か断っていて、野次馬達を押しのけているのだ。
さらに、開いたそのスペースの中心に、誰かが立っていた。
「なんだ、こりゃあ」
千歳が小さく呟く。とにかく学校に入らなければ。と、踏み込む。ナギとイロリも追従する。
真っ直ぐ歩いていくと、見るからに怪しい誰かさんにぶち当たることになる。迂回していくか、と、千歳は方向転換――
――しようとした矢先、怪しい人物が走り出した。
その手には、槍が握られている。



779 :ワイヤード 第十四話  ◆.DrVLAlxBI [sage] :2009/01/05(月) 13:37:08 ID:TDyDTYz3
「なんだ……!」
超スピードで接近し、不審者は槍による打突を繰り出す。
反射的にそれを清水拳で受け止めようとする。
「――っ!?」
が、清水拳の生み出す闘気の障壁を、その槍は貫いた。とっさに身体をひねり、ギリギリで回避。
「(こいつ、まさか『狙撃手』……!)」
体勢をくずしたのを逆に利用して、地面に手をつき、脚を突き出して脚払いを仕掛ける。
不審者はそれを身軽に跳んで避け、距離をとって着地した。
その間に千歳は立ち上がり、不審者と対峙する。
不審者の風貌は本当に不審だった。鬼のような面に陣羽織。そして手には槍。どこかのアニメキャラと、気のせいか似ていた。
「てめー。何者だ」
答えてくれるとは思わないが、一応そう訊いてみる。
「……わたくしは」
「!?」
意外なことに、その不審者は返答した。しかも、その声は女。
女が、清水拳をたやすく貫くほどの貫通性を生み出したというのか?
そして、その不審な女が続けた言葉は、さらなる驚愕に値するものだった。

「わたくしはミス・キシドー! あなた様の存在に心奪われたものです!!」