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797 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA [sage] :2009/01/06(火) 23:30:40 ID:nM93YJCi
第3話『絶対監視領域』

 そんなわけでいつもの朝がやってきた。季節は暑苦しい夏が終わり、
ゆっくりと秋に移行しているせいか、朝方は少し冷える。こんな季節に布団を被らずに寝ると
風邪の一つや二つぐらいひいてもおかしくはない。
 隣で寝ているであろう彩さんは起床しているのか、すでにいなかった。

台所の方から美味しそうな匂いがしてきた。独り暮らしの俺以外に誰も住んでいないこの家に料理を作れる人間は
彼女しかいないだろう。自慢ではないが、独り暮らしをしているくせに俺は料理の方はさほど上手ではない。
自炊すると言っても、コンビニから買ってきた弁当の中身を開けたり、インスタント食品にポットのお湯を注ぐことしかできない。
だって、男の子だもん。

「あっ。起きたんですね。周防さん」
 フリルの付いたピンク色のエプロンを身に纏った彩さんが天使の微笑みを浮かべて、こっちにやってきた。
片手には長年使っていなかったフライパンを持っており、テーブルの上に置かれた皿に目玉焼きなどと言ったおかずを盛り付けていた。
「これは桜井さんが作ったの」
「泊めてもらったお礼ですよ。これぐらいのことをさせてください」
「俺はロクに料理ができないから、人が作った朝食を食べるなんて久しぶりだな」
「周防さんは普段料理とか作らないんですか?」
「うんうん。全然、ダメなんだよ。せっかく、調理器具を買い揃えてもあんまり使う機会もないし、
料理のレシピを見てもさっぱりとわからん。みじん斬りなんてどうやって斬るのってレベルだし」

「神話級の不器用ですよ。料理に絶望したと言って、大根を持ちながら銀行強盗に走り出してもおかしくないレベルです」」
「うん?」
「な、な、な、なんでもないですからね。さあ、冷めない内に食べましょう」
 
 久しぶりに一人ではない朝食を彩さんと過ごす時間は快適であった。
作ってくれた料理も旨いを通り越して、美味の領域に達していた。
心から涙を流せるような美味しい料理を作れるのは日本でも彼女しかいない。と大袈裟に言えるぐらいに素晴らしかった。

「えへへ。私の料理をたくさん食べてくれて嬉しいですよ」
「本当に美味しかったよ。ごちそうさまでした」
 食べ終えた食器を台所に運んで、軽く汚れを水で落とす。
朝はのんびりしている時間が作れないため、そんなもんは適当でいい。
彩さんは小さな口でゆっくりと朝食を食べているのだが、今日はちょっと起床時間が遅かったせいか、
すぐにバイトへ行く時間を迎えていた。

「あの桜井さん。俺はバイトに行かなきゃいかないんで。
これ俺のアパートの鍵を渡しておくからさ、部屋を閉めたらポストの方に入れておいてください」
「は、はい、わかりました」
「それじゃあ、バイトがあるんで先に失礼させて頂きます」
「周防さん。お仕事頑張ってくださいね!!」
「ガッテンだ」
 意味不明の掛け声を発すると俺はさっさと自分の家を後にした。


798 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA [sage] :2009/01/06(火) 23:32:55 ID:nM93YJCi
 一人残された私は未だに自分の作った朝食と対決していた。
忍さんのために作った朝食は一人で食べる時よりも何倍も何倍も美味しかった。
昨日、私の我侭で泊めてくれた恩返しのために朝食を作ったけど。
これからも何かと理由を作って、忍さんに私が作った料理をたくさんたくさん食べて欲しいな。

 ふと、私は忍さんの部屋に一人でいることに気付いた。
 そう、一人なのだ。

 えへへ。
 忍さんは将来のお嫁さんのことを信用しすぎているようですね。
 恋する女の子にこんな危険な自宅の鍵を渡すなんて。私に犯してくれと言っているようなもんですよ。
 うにゃ。
 自宅の鍵さえあれば、鍵屋で簡単に合鍵の10個や20個も作れるし。
いつでも、忍さんの家に不法侵入しまくりですよ。忍さんの趣味とか好みとか
たくさん情報をたっぷりと仕入れて、忍さん好みの女の子になれます。
 ううん。

 私がこういう行動を取ると予想して渡してくれたのかな? 
だったら、私だって全身全霊で忍さんを口説き落とします。夜這い、誘惑、悩殺、なんでもやりますからね。

 さてと、忍さんがアルバイトに行っている間になんでもやれます!!
 合鍵を作って貰っている間に盗聴器と盗撮カメラを買って来て設置しましょう。
リアルタイムで忍さんを監視するんです。私以外の女の子と接点があるのか調べなくちゃならないし、
それに24時間ずっと忍さんを見続けたいですから。
 この際だから、将来のために貯蓄していたお金を銀行から引き出して買おう。
生活はちょっと苦しくなるかもしれないけど、愛する人を手に入れるためなら。

 私はなんでもやる。
 なんだってやります。
 だって、私が初めて好きになった人だもん。
 昨日の出来事だけで私は人生で初めて人として、一人の女の子として優しく接してもらえた。
その思い出だけで永遠に生き抜くことができる。
 忍さん。

 あなたのほんの些細な優しさだけで私は救われました。
 それと、人を初めて好きになりました。
 一緒に泊めてもらったことで、それを何よりも確信しましたよ。
 あなたの体温はとても温かくて、私はとても安心できました。それにちょっとだけ興奮して鼻血とか出したけど。

忍さんは私が鼻血を流しても、嫌な顔を一つもせずにティッシュで拭いてくれましたよね。
 他の人なら私を汚いと罵り、面白そうに暴力を振るんですよ。私が気を失うまで。
 孤児院、学園、私が辿って来た人生がそうだった。

 だから、周防さんの優しさが本当に有難かった。彼の気持ちに偽りや下心がなかった。
彼自身も気付いてない優しさに心を惹かれていく。

 私が乙女座だった事をこれほど嬉しく思った事はないです!!
 
 桜井彩はここに宣言致します!!
 忍さんを絶対に自分の彼氏にすると。
 これは私の最優先事項であり、修羅を凌駕する苦難の道。
 この手が真っ赤に汚れようが、ちょっとした犯罪行為すらもためらいません。
 乙女の意地です。
 懲役刑なんてクソ喰らえです。
 
 私は拳を硬く握り締めてそう決意すると自分の計画のために走り出した。
 忍さんの部屋に盗聴器と盗撮カメラを仕掛けるために。


800 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA [sage] :2009/01/06(火) 23:36:07 ID:nM93YJCi
今日もそれなりに働いたと自負しているが、バイト先の店長に5回も叱られた。理由は簡単だ。
バイト先の女の子(店長のお気に入りの子)と仲良く話しているところを見られたからである。
バイトごとき奴隷が俺の女になる(予定)に気安く話しかけるなと軽く脅されたが、俺的にはどうでもいいことだった。
その女の子と仲良くなるつもりもないし、給料さえ払ってもらえば、それなりに労働力を提供する。人間関係なんて知ったことか。
 ともあれ、仕事の疲れを癒すために家路を目指していた。

バイト先から家までは徒歩で通勤しているので、およその時間で15分ぐらい。すでに陽が沈むのに早い季節だ。
 女性の変質者に襲われやすい季節になってきた。ヤンデレ症候群の影響で女性が病んでいる割合が大きくなった。
病んでいる女性に狙われると、非力な男性は何も抵抗できずにひたすら襲われるだけである。
彼女たちの戦闘能力は軽く警察官や特殊部隊をも凌ぐ。

 俺の友人もヤンデレに襲われて、そのまま監禁されてそれ以降は音信不通になっている。
 全く、恐ろしいことだ。
 病んでしまった女の子と生涯を共にするなんて。
 破滅的な結末しか思い浮かべない。
 ともあれ、俺も用心しておこう。いつ、俺のことが密かに好きでたまらない女の子の心が病んで、

知らない内に監禁されるってことが起きるかもしれないからな。
 監禁されるなんてとんでもないな。
 と、何か考えながら歩いているとアパートの外壁が見えてきた。

あの刑務所に匹敵する程の外壁の高さは一体なんのためにあるのかと首を傾げたくなる。
アパートの敷地の入り口から見知った人物が出てきた。


801 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA [sage] :2009/01/06(火) 23:37:05 ID:nM93YJCi
「おや、周防のクソガキじゃないか」
「ババア」
 このアパートの所有者である老女。通称、ババアと俺が呼んでいる。
「バイトの帰りか?」
「そうだよ」
「若いもんが定職に就いてねぇのは情けないとしか言いようがない。もう、樹海で練炭自殺してきたらどうじゃ」
「いやぁ、さすがにそこまで人生に絶望してませんので」
「フン。くだらないね。お酒の肴すらもなりゃしない」
 人様の人生をなんだと思っているんだ。
「そういえば、昨日お前の隣に引っ越してきた奴がいたな。もう、会ったのか?」
「ええ。会いましたよ。引越ししている最中だったから、少しだけ手伝ったんだけど」
「ほう、好感度を上げるために必死すぎるわぃ。隣に若い女の子が住んでいるからと言って、狼に変貌して襲うなよ。
ワシに全ての管理責任がかかってくるから」

「そんなどこぞの変態と一緒にしないでくれ」
「周防のクソガキならやりかねん」
 すでに会った初日で一緒に一夜を過ごしてましたと言えば、目の前の妖怪ババアに斧で惨殺されそうだ。
性に飢えた狼だって相手を選ぶ。昨日、出会ったばかりの女の子を襲う卑劣な真似なんて
一般的な倫理観さえあれば、絶対にやるはずがない。

「で、ババアさ。なんで、あのアパートは無意味に外壁が高いんだ? あれじゃあ、外からも内からも侵入することができないじゃん」
「あれはな」 
 ババアが過去を懐かしそうに思い出すような遠い目をして言った。
「ワシのひいひいお婆ちゃんが建てた家だ。当時は愛しい人を閉じ込めて監禁するために設計された家らしくて、
その名残が今にも残っているんだろうな。敷地も家もワシは特にいじってないから当時とそう変わらない」

「監禁されるって……おいおい」
「過去にあのアパートを貸した住人で男と女が住み着いた時に限って、監禁事件が起きたことがある。
というか、アパートを借りた住人全てに監禁事件が起きたな」
「えっ?」
「このアパートで監禁するには快適な環境じゃ。外部の接触を遮断する高く覆われた外壁に、
周囲に悲鳴を漏らすことができない完璧な防音施設。出入り口は一つしかないので、監禁された男はそう簡単に逃げられぬ。
これこそが我が家代々に伝わる監禁システムなのじゃ」
「そんな監禁システムなんて作るな。燃やせ」
「ほう、びびっているな。だが、安心せい。周防のクソガキを監禁するような女性がこの世にいないからのぅ。ほぉほぉほぉほぉ」

 と、ババアは変な笑い声と共にスキップしてさっさと過ぎ去った。
 
 もう、家に帰って。寝よう。


802 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA [sage] :2009/01/06(火) 23:37:52 ID:nM93YJCi
■監視領域
『現在の時間は20時頃です。忍さんが帰宅してきました!!』
 と、私は電気代の節約のために電気を消して、部屋を暗くしていた。唯一の光は忍さんを監視用モニターだけであった。
『忍さん。帰ってきたばかりなのに、着替えるなんて。私のことを誘っているんですか? きゃは』
 当然、この映像は全て録画している。後でこの場面を何度も見直して見直してやろうと思います。
 昼頃に設置した盗聴器と監視カメラは全部で64個。
これを付けた奴は見つかるの覚悟で付けたに違いない程に付けまくった。
おかげで忍さんをあらゆる角度から見れるし、死角なんてあの部屋には存在しません。
でも、お風呂とかトイレとかは最低限のプライベートに関しては何にもしてません。
だって、覗く楽しみがなくなるじゃないですか。
『今晩の夕食は……コンビニ弁当ですか』
 近くにあるコンビニからお弁当を買ったんですね。そういえば、ロクに料理が出来ないって言ってましたね。
 うふふふ。
 難攻不落の要塞の弱点を見つけちゃいました。