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1 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/20(火) 13:28:10 ID:0xGFv+j9
ここは、ヤンデレの小説を書いて投稿するためのスレッドです。

○小説以外にも、ヤンデレ系のネタなら大歓迎。(プロット投下、ニュースネタなど)
○ぶつ切りでの作品投下もアリ。

■ヤンデレとは?
・主人公が好きだが(デレ)、愛するあまりに心を病んでしまった(ヤン)状態、またその状態のヒロインの事をさします。
→(別名:黒化、黒姫化など)
・ヒロインは、ライバルがいてもいなくても主人公を思っていくうちに少しずつだが確実に病んでいく。
・トラウマ・精神の不安定さから覚醒することもある。

■関連サイト
ヤンデレの小説を書こう!SS保管庫
http://yandere.web.fc2.com/
■前スレ
ヤンデレの小説を書こう!Part4
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1172332198/

■お約束
・sage進行でお願いします。
・荒らしはスルーしましょう。
削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。

■投稿のお約束
・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
・作品はできるだけ完結させるようにしてください。


2 名前:2get[sage] 投稿日:2007/03/20(火) 13:31:15 ID:HOChU6A9
>>1
乙。

3 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/20(火) 13:42:35 ID:Tx1KgVJI
>>1
お憑かれ

4 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/20(火) 14:01:22 ID:XjUBHhrl
>>1
乙彼。

5 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/20(火) 15:30:25 ID:UkbVlw2v
>>1
乙華麗。

6 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/21(水) 02:36:36 ID:OBj5RVO0
>>1大津カレー

7 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/21(水) 08:37:09 ID:MrQwIGlG
>>1乙

そういや、地獄堂霊界通信っていう子供向けホラー本の中に、
男への執心から怨霊となった女の話が合ったけど、最後にいい言葉があったのを思い出す。

なんか、男にはここまで自分を思い続けて女が狂ったなら、それを受け止めてやる必要がある。
みたいな感じだったなぁ。よく覚えてないけど。

8 名前:慎@携帯 ◆lPjs68q5PU [sage] 投稿日:2007/03/21(水) 09:37:58 ID:GKH1kr/a
>>1乙♪
>>7
ある男が夜道を一人歩いていた。すると突然一人の女が男にぶつかってきた。その手には包丁。
女は男を狂おしい程に愛していた。が、それ故不安でもあった。いつか他の女に男を取られるのではないかと。
「これでもう他の女に取られることは…」女がぽつりと言う。それを聞いた男は「とうとう来たか」と思った。
男はよくわかっていた。女が自分のことを狂おしい程に愛していたことを。そんな彼女のことだ、いつかこんな行動に出るとは思っていた。
むしろ俺が望んでいた結果かもしれないな、とも思った。いつも周りからすれば甲斐性なしにみられるようなこの俺を奇特なことに一途に愛してくれた女のことをようやく受けとめられるチャンス…そう考えたからだ。
男は痛みに歪む顔を笑顔にかえて、「ごめんな、不安な気持ちにさせて…お前のこと受けとめきれない駄目な男で…でもようやくお前のこと受けとめられるよ…ごめんな、こんな最後の最後で…」と言い残して…そして崩れた。

こうですか、わかりません><

9 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/21(水) 11:11:32 ID:rKpbPAHa
じゃあ、俺も本の話を。

稲川淳二の怪談で「緑の館」っていうのがあった。

屋敷の跡取り息子にはきれいな嫁がいた。

嫁が病に倒れる。死ぬ間際に言った言葉は、
「私が死んでも他の女房をもらっちゃだめだよ。そしたら、あんたもその女も殺してやる。
あんたの女房は、私だけなんだから」

夫はその言葉に誓いを立てる。そして、女房が死ぬ。

しかし一年後、さみしくなった夫は再婚する。

婚礼の儀が行われた夜に、死んだ女房の霊がでる。
新しい女房の首がねじ切られて(以下略)。

夫は殺されまいと必死に対策を練るが、脇が甘くて足をねじ切られ(以下略)。


ホラー本はヤンデレヒロインが多いぞ。
というより、ヤンデレがホラー系ヒロインなのかも。

10 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/21(水) 11:31:14 ID:TJoiUQVn
前スレは容量から作品投下出来ないだろうから雑談は前スレで

11 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/21(水) 13:17:07 ID:MrQwIGlG
>>8
微妙にちげぇwww

ようするに、単純に相手の恋心を受け入れろってんだとおもうよ。
最後の怨霊倒した後の説教シーンだけどね。

12 名前:赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/03/22(木) 00:03:40 ID:hJFrsf6U
お久しぶりです。投下します

13 名前:赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/03/22(木) 00:04:36 ID:hJFrsf6U
えへへへへ。
そんな低い笑い声が上の階から聞こえている。
ここは二十八歳元引きこもりの榛原よづりの高級住宅だ。広いリビングに広い台所。俺の実家よりでかいんじゃないかと思う。こんなところにあいつは独りで住んでるのか?
榛原よづりを助け起こした後、俺が学校へ行く準備を命ずるとよづりは素直に頷いて、自室のある二階へと鼻歌を歌いながら上がっていった。
さっきまであんなに落ち込んでいたくせに、もう上機嫌になっている。猫か、こいつは。
今、上でヤツはあの縁起の悪い黒い服からちゃんと学校指定のブレザーにでも着替えているのだろう。しかし、二十八歳の学生ブレザーか……。なんか想像つかん。
そんなことを考えつつ、俺は散乱した一階で、連絡してそのまま姿を消していた委員長を探していた。
よづりを宥めるので一瞬だけ忘れていたが、元々ここに来た目的は委員長を助けるためだったんだ。
いま委員長はどこに居るのだろう。携帯電話で委員長の番号を押してみると、台所からサトミタダシのあの音楽が聞こえた。うわぁ、委員長の着メロだよ。
委員長いわく、お父さんの好きな演歌歌手の曲が気に入ったので使っていると言い張っていたが……。残念ながら俺はこの曲の元ネタを知っていた。
興味なさげにそう言い張る委員長を見て、俺は委員長でもゲームするんだなぁとちょっと親近感湧いた。そんなエピソード。
「台所に隠れるスペース無いだろ……」
あったとして、冷蔵庫の中か? 無理だ無理。開いてたし、中見てるし。台所を覗くと、着メロのほかにブーンブーンとバイブが響くときの独特の音が一緒に流れている。
テーブルの下を除くと、あった。委員長の携帯電話。
携帯電話だけあっても意味無いんだよ。どうやらドサクサの最中に落としたようだ。俺は自分の携帯の緑ボタンを押して、止める。委員長のピンクの携帯電話が音をとめた。
俺はそれを拾い上げる。この携帯電話の持ち主はいまどこにいるんだろう。
玄関に委員長のものらしき靴はあった。中に居るのは間違いない……いや、委員長が裸足で逃げた可能性もあるな。
くそぉ。
台所、和室、風呂場、すべて見て回る。……隠れるところ、逃げ込むところ……。俺だったらよづりが刃物持って襲ってきたとしたらどこに隠れるだろうか。
一階にはいないのかな? じゃあ二階か? しかし、二階にはよづりがいるし。まぁでも一応見てみるか。廊下を歩いて、二階への階段を昇ろうとした戻ったところで、
「ん?」
廊下の奥にあるドア。小さな摺りガラスの窓がついていて、太陽光の明かりが漏れていた。トイレか。
俺はちょっと気になって近づいてみる。よく見ると、トイレのドアノブの先にある小窓が赤くなっていた。誰か居る。家の者ではないはずだ。ではトイレに隠れているのは……。
こんこん。
軽くノックしてみる。返事は無い。
しかし、人の気配はある。もう一度、静かにノックをする。何故か、子供の頃親戚の家でやったファミコンソフトのグーニーズを思い出した。
ドアに顔を寄せる、もしかしたら怯えていて返事ができないのかもしれない。俺は小声で委員長を呼んでみた。
「いいんちょうー?」
「………森本君?」
ようやく、聞こえた委員長の声はとてもか細い。怯えて怯えて、ついにどうしようもなくなったような。そんな感情の最後に出したような声だ。
「生きてる?」
「……なんとか」
俺の小さいボケにも大して突っ込んでくれない。よづりはいったい何をしたんだ?
「そこに、榛原さんはいない?」
ようやく俺という仲間に話しかけられたせいか、委員長は徐々に声の調子をとりもどしていく。しかし、口調によづりを怯えるような感情が残っている。
俺が「いないよ」と言うと、ドアの向こうで大きな大きな安堵の息を吐く音が聞こえた。はぁぁぁぁという空気が震える音。
そして、トイレのドアノブの赤いロック表示がガチャリとまわり、青へと変わる。そして、ゆっくりとドアが開いていき……。
「……本当に森本君?」
ちいさなドアの隙間から、委員長の目が覗く。その瞳が俺を捉えた。俺はどんな表情で迎えればいいのか分からず、とりあえず普通にやぁと朝挨拶するように右手を上げてみた。
委員長の目が大きく丸くなった。ドアの外に居るのが本当に俺だとわかると、委員長は急いでトイレのドアを開いた。そして大きく飛び出すと、、
「森本くぅん!!」
……俺の胸へ飛び込んできた。
へっ!? 委員長の柔らかくてほそい体の感触がぼふりと俺の胸元に抱かれるように当たる。そのまま俺は押し倒されそうになるが、足の力で何とかその体を胸で留めた。
「ど、どうしたんだよ、委員長」


14 名前:真夜中のよづり4 ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/03/22(木) 00:05:40 ID:hJFrsf6U
俺が声をかけると、途端委員長の体は脱力したようにへにゃりと床に引っ張られる。
「わっと!」
崩れそうになった体を俺は両腕で支えた。委員長のわきの下に腕を挟みいれて、きちんと立たせる。
「だ、大丈夫か? 委員長」
「……よ、よかったぁ……こ、こわくて、こわくて……森本君の顔見たら、安心しちゃって………」
そう言う委員長の顔は、普段のキリリとした強情な表情とはまったく違う。ハリウッド映画の化け物に襲われたヒロインのような、とても弱弱しくて危なげで不安定な、怖がる女の子の顔だった。
その表情に俺は少しだけ、胸がきゅんとなる。なんつーか、委員長でもこんな顔するんだ……という新鮮さ。うわぁ、めちゃくちゃベタだな。俺。
「安心しろ。もう大丈夫だ」
「……う、うん。……大丈夫、大丈夫だよね、ねえ、ねぇ………え、え、えぐ、えぐっ」
俺の言葉に安堵したのか緩んだ顔の委員長はどんどん言葉尻が弱まっていくと。嗚咽を混じらせて、
「ええ、えぐっ、えぐっ、えぐぅ」
静かに、泣いた。
……俺の胸で。涙をぽろぽろ流して。安堵の涙。ぽつりぽつりと、俺の制服を濡らす。
よっぽどよづりに追われたのが怖かったのだろうか。それだけじゃないな。真面目一本で芯が頭の先から尻尾まで通っている委員長にとって、よづりのようなまったく芯が通っておらず、行動も思考も混濁した意味不明な相手と対峙したのは初めてだったのかもしれない。
相手の意識が読めないという恐怖。それがよづりが暴れだした時の身体的な恐怖とあいまって、委員長にかつて無いほどの恐怖を襲わせたのかもしれない。
よづりがどんな風に暴れたのかはこの家の惨状を見るしかないし全て俺の想像だよ? しかし、そんな想像を俺にさせてしまうほど委員長の姿はか弱かった。
そのままえぐえぐと泣く委員長を俺は宥めるように彼女の髪の毛を軽く撫でた。細くて綺麗な髪質。俺が手のひらをスライドさせるごとに委員長のおさげが揺れる。
しかし逆に、心の奥では俺はこんな女の子にいままで指図されていたのか……と妙な感情も浮かんでくる。
まてまて、なんで俺はそこまで冷静なんだよ! ちょっと前の俺は女の子に抱きつかれたら確実に真っ赤になって慌ててただろ! 酔っ払った鈴森さんに抱きつかれた時なんて動けなくなって鈴森さんのリバースを避けきれず顔面からうけちゃったぐらいだぞ!?
泣いている委員長を宥めるように彼女の髪の毛を撫でつつ、俺の頭の中では二つの意味で苦い思い出が再生されていた。
と、そのとき。
「かずくぅぅぅぅぅん♪♪」
二階にあるはずの家の主の部屋(多分)の引き戸が、ガラリガラリと勢いよく開かれる音と共に、全ての幸福を詰め込んだような甲高い声が家中に響いた。
「かずくんかずきゅぅぅぅん♪♪」
猫なで声とも違う、媚びて媚びて媚びに媚びて媚びすぎるほどの甘ったるい響き。その声がドスドスドスという階段を勢いよく下りる音と共に抱き合う俺らの耳に届いた。
「……っ!」
無言で委員長は肩をこわばらす。
それを見て、俺はこの状況のマズさに気付いた。
「やべぇ!」
トイレの前で、抱き合う二人。せっかく機嫌を治したよづりにこの姿を見られたなら、こんどは家の大黒柱(あるのか知らんが)を粉々にするほど暴走して、高級住宅を一瞬にして築80年のボロ家にしてしまう程暴れるかもしれない。
「かずきゅんかずきゅぅぅん♪♪ きゅんきゅん~♪♪」
二十八歳がきゅんきゅん言うんじゃねぇ! さっき俺言ったけど。
サキュバスのような甘い甘い悪魔の声が近づいてくる。階段を下りて、俺に向かってくる!
よづりに応対していて、俺は判断能力が確実に上がっていた。
「わりぃ、委員長! ちょっとまた隠れててくれ!」
「きゃあ!」
抱きかかえていた委員長をむりやり引き剥がすと、開いていたトイレのドアを開け、委員長を元のトイレの中へ押し込んだ。姿をもう一度隠させる。
「も、森本くん、いったい……」
「委員長! 少し静かにしてて!」
洋式トイレだったトイレの便器に委員長は腰を落として座った格好。突然のことに口を開こうとする委員長を俺は全てを言わせず、俺はトイレのドアを勢いよく閉めた。
かなり、でかい声で会話をしてたが、よづりに聞こえてなかっただろうか。多分、あの女の性格からして大丈夫だとは思うが。
「かずきゅぅぅぅん♪♪」
「いてぇ!」


15 名前:真夜中のよづり4 ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/03/22(木) 00:06:36 ID:hJFrsf6U
背後からの衝撃! 甘い声と共に俺の背中によづりが飛び込んできたのだ。
背中にふよんと、柔らかくあたる女の人特有の感触が伝わる。大きなクッションに俺は一瞬だけ意識がいやらしいほうに揺らいだ。その次の瞬間、なんと俺の首元にしっかりとよづりの腕がまきついていたのだった。
今日は委員長に飛びつかれて、よづりに飛びつかれて、よく飛びつかれる日だな。オイ。そんなことを考えつつも、がっちりと閉められた首元。ちょいと力を入れればチョークスリーパーである。確実に死ねるな。
ぐいっと、俺の横からよづりの横顔が現れた。
「かずきゅんかずきゅんっ♪♪」
よづりは嬉しそうな声で俺の頬にキスの雨を降らせていた。ちゅっちゅっちゅっとついばむような感触がくすぐったくてこっぱずかしい。俺の頬が紅潮していくのがすぐにわかる。
愛情表現のようだがこれはいくらなんでもクラスメイトの域を超えているだろ! 俺が引き剥がそうとするが、かまわずによづりはキスを続けた。
小さな吸音が耳元で響いている。うわぁ、キスは憧れのものなのに、コイツのだと妙に変なことを考えちまう。
よづりはようやく気が済んだのか最後に、
「ん~~っっ。ちゅっ」
大きく頬を吸い込んだキスをすると、腕をはずして。俺から離れた。
俺は跡になってないかと心配で頬を指でなぞる。上書きされる心配は無いが、誰かに見られたら恥ずかしさで腹上死もいいとこだ。幸いにも吸った力は大して強くなかったようで、触った限りでは跡はない。
口紅だったら後で委員長にでも化粧落としを借りなければ……。
「えへへ、えへへへへ」
よづりと向き合うと、よづりは相変わらず何も考えていない純粋すぎるほどの満面の笑みで俺を見つめていた。
「ねぇねぇ。見て見て。あたしの制服姿! 着たの一年振りなんだよ! ねぇねぇ! ねぇ!」
「お、おう」
うるせぇよ! 構われたがりか! あ、構われたがりだった。
よづりはブレザーの制服を引っ張るように俺に見せつける。
うちの学校の制服は男女と共通の青色のブレザーで胸元にはプラスチックの名札がついている。男子は無地の黒ズボン。女子はひだのついたスカート。シャツの胸元には男子はネクタイ。女子はリボンがつき、ネクタイとリボンの色は学年ごとに違っている。
一年生は黄、二年生が赤、三年生が紺である。なんで、学年が上がるごとに地味になっていくかは永遠の謎だ。
よづりは俺と同学年なので、赤色のリボンをつけていた。結び目は多少捻じ曲がっているが、一年ぶりに着たのだから慣れていないのも当然か。
「えへへ、似合う?」
首をかしげて訊いてくるよづりに、俺はこくこくと頷くしかなかった。つーか、この会話の流れじゃ頷くしかないって。
ただ思う。よづりの制服姿は正直委員長と比べると確実に浮いている。
そりゃそうだ。二十八歳という年齢で大人の体つきのよづりには、なんというか……主婦が無理してきてみちゃいましたという感覚がしてならない。
いや、それすらも無いな。主婦にはありえない長い長い黒髪がよづりの浮いた状態をさらに際立てている。リングの貞子みたいな髪の毛だからな、普通の状態でも怖さが際立ってんのに……。
「えへへへ。かずくんに似合うって言われた。うれしいうれしい」
「ああ」
「じゃあ明日も制服で学校に行くことにするね!」
当たり前だ。
「えへへ。さぁ。かずくん。早く学校に行こう?」
こいつは、陽と陰の差が激しすぎる。さっきまで死ぬんじゃないかと思うほど落ち込んで泣きじゃくってたクセに、今は天真爛漫という言葉が似合うほど陽気だ。天真爛漫すぎて言動が幼児化している。
だいいちあんだけ煽っていた酒は? まさかもうアルコールを分解したのか!? 日本酒だぞオイ!? 未成年だから甘酒しか飲んだこと無いけどさ。
よづりは俺の手を掴んで引っ張った。まるで遊園地に行くのが楽しみで仕方が無い幼稚園児のようだった。
「あ、ちょっと待てくれないか。よづり」
「ん、なぁに? かずくん」
学生鞄を持って玄関へ引っ張り靴も履かずに外へ出ようとするよづりを引き留める。よづりはこちらを向いてむぅ?と首をかしげた。なんだか仕草が猫みたいだ。黒猫だな、確実に。
「トイレ貸してくれないか?」
「おトイレ?」
このまま出るわけには行かない。トイレに委員長が隠れたままだ。

16 名前:真夜中のよづり4 ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/03/22(木) 00:08:06 ID:hJFrsf6U
「うん。トイレどこだ?」
「そこ。一緒についてってあげようか? かずくん」
「いや、いい。玄関で待っててくれ」
「うん。すぐ来てね」
珍しく、よづりは素直に頷いた。俺は靴下で玄関に出ているよづりに靴を履かせるように促すと、彼女はいそいそと靴べらを使って革靴を履き始めた。きついのか、うんうん言っている。
その間に、俺はトイレの前まで走って来た。玄関からトイレのドアは見えないため、よづりに気付かれずコンタクトは取れるはずだ。よかった、ヤツが本当についてこなくて。
「いいんちょぉー……」
突然、押し込めたことを怒ってないかな……。ドアごしになるべく小声で呼んでみる。
「……なに?」
怒っているのかどうか微妙な間で返事が返ってきた。トーンは低いが、はっきりとした声だ。くそ、表情が見えないし俺が鈍感なせいで委員長の感情が想像できない。
「とりあえず、いいか。お前が出てくるとまたややこしくなるかもしれないから……。俺らが出てってからしばらくしてそこから逃げろ」
「この家の鍵はどうするわけ?」
「開けっ放しでいいだろ」
「泥棒が入るわよ」
「もう、泥棒が入ったみたいにグチャクチャになってんだから、逆にはいらねぇよ」
「まあ……そうよね」
「じゃあ、いまからよづりを学校に連れて行くから。お前も後から来いよ!」
「ねぇ、あたしと榛原さんが教室で鉢合わせたら……もしかして危ない?」
委員長の語尾が弱弱しくなっていく。彼女はある意味俺の知らないよづり(暴走モードな)を知っている。委員長はよづりに対して怯えているのだ。
しかし、俺はあまり大事にはならないと確信していた。
「大丈夫。俺がなんとかするよ」
「なんとかって……」
「もし、よづりが暴れてお前に危害を与えようとしたら、全力で守ってやる」
「森本君……」
そろそろ、戻らないとマズイかな。
なぜなら、玄関から聞こえるよづりの鼻歌がだんだん不機嫌なメロディーと変化してきているのだ。ヤツには忍耐が無いらしい。
「そろそろ行って来る。あとでな」
「……うん」
俺は委員長のうなずく声を聞くと、慌てて玄関へ戻った。玄関では制服姿でカバンを持ったよづりが俺のほうを見て、くんくん鼻を鳴らしながら待ち構えていた。まるで散歩を待っている犬のようだだ。
さっきは猫で、今は犬。ワンニャンだ。ワンニャン。
「かずくん! いこいこいこう!」
よづりは俺の手をもう一度掴んで、しっかりと指を絡めた。いわゆる恋人つなぎだ。
そのまま俺を引っ張ると、玄関を飛び出した。幸せそうに笑って俺の手を引くよづりの顔。満面の笑み。天真爛漫。

そうだ。あまりにも天真爛漫……すぎる。

「かずくんと一緒のクラスなんだよねぇ。えへへ、昼休みは一緒にお弁当食べようね。放課後は一緒に帰ろうね。ずうぅっと一緒だもんねぇ。えへへへへ、えへへ、えへ、えへへへへ」
俺はよづりが元々どんなヤツだったのかは知らない。もともとの性格も知らない。もしかしたら、引きこもる前は普通のOLでバリバリと働いていたキャリアウーマンだったのかもしれない。
だが、わかる。この天真爛漫さが確実に後天的なものだ。後からできた天真爛漫。
さらに、この天真爛漫の根源は、俺への執着。いや、依存といったほうが正解か。俺への依存心が彼女をそこまで天真爛漫にさせている。
じゃなきゃあ、迎えに委員長が来ただけであんなに暴れていたのに、俺が着たとたんに大人しくなって俺に懐くのは異常だろ?

じゃあ、……解決すべき問題はここなのかもしれない。
彼女の依存心を捨て去ることが、よづりを更正させる一番の近道だろうな。

ただ、今は彼女を家から出して学校に行かせることが大事だ。今は、今だけは、俺に依存させてあげよう。そして少しづつ、離していけばいい。

「さぁ、かずくん。行こ行こ!」




この時の俺は、まだ物事を楽観していた。まだ甘く考えていた。
まだ、覚悟を決めていなかったのだ。

覚悟したと思い込んで、頭が働かせ彼女を助けようとするヒーローになった自分に一人で勝手に酔いしれていた。
それが彼女を、よづりを傷つける結果になるとわかっていたはずなのに。
(続く)

17 名前:赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/03/22(木) 00:08:42 ID:hJFrsf6U
お久しぶりです。赤いパパです。
忘れている方いらっしゃいますでしょうか。真夜中のよづり第四話です。
今回はインターバルを挟んだ形で短めです。更新ペースは本当に遅いですが、なんとか続けていただきます。
文章のクセなのか、いつもわかりづらいところで楽屋ネタや版権ネタを使ってしまいます。誰か気付く人はいるのか

18 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/22(木) 00:58:13 ID:/1dsAWpo
よづりキテルーーーーーーー!!!
相変わらずよづりの異常な不気味さがリアルに伝わってきて怖いぜ!
あと委員長は普通に萌えキャラなのもグッドですよ。

最後の形が分かっているだけにこの後の展開が凄い気になります。マイペースでも最後まで書き終えてください!応援してます!

19 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/22(木) 01:30:40 ID:2dhwRX7h
よづりだーーー!!不気味可愛いよー!しかも制服キタ━(゚д゚)━!!
心配だったんだよ…委員長無事で良かった!
赤いパパ氏のペースでがんがって下さい!続き待ってます

20 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/22(木) 02:59:14 ID:AXBzyLTr
夜釣りキター超GJ!!
ヤンが楽しみだ

21 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/22(木) 07:57:05 ID:U6sCMXja
赤いパパさんGJです!!よづりのキャラが気に入ってるだけに凄い楽しみ。

>>18
しかし冒頭の心中も、まだ何かしらありそうな気がする。
二人して死ぬはずなのに、「俺たちは死のうとしていた」ではなく、
「榛原よづりは死のうとしていた」って片方のみだし。

22 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/22(木) 11:51:05 ID:5ArBZU46
よづりのダークな感じは天然だったのか?
じゃあ、ここからまた黒くなるのか?ワクテカするねぇ

23 名前: ◆dkVeUrgrhA [sage] 投稿日:2007/03/22(木) 21:12:51 ID:yOjs1jOF
パパ様・・・GJでした!おばはんはいらないので委員長をください!生きててよかった・・・w

とりあえずおにいたん2最終話です。

警告:以下の言葉に嫌悪感がある方はあぼーん願います。
・近親相姦
・修羅場
・フタナリ
・ロリペド
・獣姦

24 名前:新店長でG.O. ◆dkVeUrgrhA [sage] 投稿日:2007/03/22(木) 21:13:56 ID:yOjs1jOF
”おねえたんはつかれてるのでつよ”
”つかれてるのかなぁ・・・”
”つとれつ(ストレス)でつか?”
”うん・・・うまいこといかないの・・・”
”どうちて、でつか?おみちぇ、はやらないのでつか?”
”ねぇ、かぁるちゃん、きいて・・・”
”あい”
”えみるね・・・おにいちゃんがすきなの・・・”
”ゆういちおにいたん、でつか?”
”そうなの・・・むかしから、ずっと、ずっと・・・”
”どうちてでつか?『こくはく』ちて、ないのでつか?”
”じつのきょうだいだもん、けっこん、できないもん・・・それだけならいいんだけど・・・”
”まだあるのでつか?”
”おにいちゃん、がっこうのせんぱいとくっついたの・・・”
”てんぱい・・・みたとおねえたんでつか?”
”そう・・・そいつ、えみるのたいせつなもの・・・まえも、うしろも、はじめてをぜんぶもっていった・・・”
”それだけであきたらず、おにいちゃんまでもっていったの・・・くやしいの・・・”
”おかちいでつね”
”え?”
”かぁるは、ゆういちおにいたんと、みたとおねえたんが、きょうだいとききまちたが?”
”そうなの?そうよね。おにいちゃんとえみるが、きょうだいなわけないよね”
”こんなにすきあってるふたりが、きょうだいなわけないよね”
”おねえたんは、あくむをみてるのでつよ”
”どうしよう・・・どうしたらこのゆめ、さめるとおもう?”
”ゆめは、ちゃめるでつ。もうつぐ、ちゃめまつよ?”
”ほんと?”
”ほんとでつ。ゆういちおにいたんが、えみるおねえたんのへやにいるとき”
”いるとき?”
”あい。けどとれだけぢゃだめでつ”
”え?”
”いるときに、おみちぇの『ちーえむ』がながれるとき、ゆめはちゃめるでつ”
”おにいちゃんがいるとき、しーえむがながれたら・・・うん!えみる、そのときまでまつね”
”あい。ゆめからちゃめたら、ちゃんと、きていぢぢつ、つくるでつよ”
”きてい、じじつ?”
”でないと、みたとおねえたんに、また、とられまつよ?”
”そうだね。あのおんなに、みせつけてやらないとね”
”あい!きていぢぢつにひつようなものは、おねえたんのかばんにいれておきまつでつ”
”そこまでしてくれるの?!ありがとう、かぁるちゃん!!”
”ではおねえたん、もうねてくだたい。おねえたんはおつかれなのでつから”
”うん”
”かぁるが、5かい、てをならちたら、ぐっつり、ねむれるのでつよ”
”うん”
”(ぽん)いっかぁい、(ぽん)にかぁい、(ぽん)ちゃんかい、(ぽん)よんかい、(ぽん)ごかい!”
”・・・・・・”
”おやつみなたい、おねえたん・・・”


25 名前:新店長でG.O. ◆dkVeUrgrhA [sage] 投稿日:2007/03/22(木) 21:14:38 ID:yOjs1jOF
「おにいちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「えみる、なにする、おい、やめろ!」

画面の向こうでは耕治、あずさ、美衣奈が驚きの表情をする。とき子だけは動じずニコニコ。
「え、なに?笑留さん、なにしてるの?」
「うそだろ?!笑留さん、店長組み伏せちゃった!」
「え、笑留さん、かばんから手錠出しました!」
「手錠って、まさか・・・あ~!店長手錠でベッドに縛られちゃった!」
「か・・・薫ちゃん・・・まさか?!」
「あい!」
薫がエッヘンのポーズを取る。
「ちゃいみんぢゅつ、でつ♪」
「催眠術~?!」
驚きの声を上げる3人。
「まづね、えみるおねえたんは、ゆういちてんちょうたんがつきだったんでつ」
「そうだったんだ・・・」
納得する耕治。一方あずさはこういう。
「けどあの二人は兄妹だよね。で、あきらめた。店長は、美里マネージャーと結婚した」
「とこでつ。どうも、えみるおねえたんの『どーてー』と『ちょぢょ』は、みたとおねえたんがうばったみたいでつ」
「げ・・・美里さんもそういう趣味だったんだ・・・」
「そういえば、『お姉ちゃんがえみるをこんなエッチな子にしたんでしょうが』って、いってましたね・・・」
記憶をたどるように、耕治の意見に美衣奈が相槌を打つ。
「だからおねえたんに、『ぢつはいまのちぇかいはゆめで、ほんとはおにいたんとはぢつのきょうだいではない』ってふきこんだんでつ」
「ちょ、ちょ、ちょ?あのふたりは、間違いなく兄妹なのよ?信じるわけじゃない?」
あずさが当たり前の疑問を薫にぶつける。
「あまいでつ。えみるおねえたんは、とんなちぇかい(そんな世界)がほちいのでつ。だから、ちんぢるとおもいまつ」
「・・・!」
「『あんぢ』でつ。ゆういちおにいたんがいるときに、おみちぇのちーえむがながれると、ゆめからちゃめる(覚める)といったんでつ」
「で、笑留さんは『夢から覚めて』、欲望のままに突っ走ってる・・・と」
耕治が納得するように言う。
「とうでつ。だめおちで、『きていぢぢつ(既成事実)』つくっておかないとだめだよ、ともいってまつ」
「き、既成事実・・・」
あまりに周到な準備に崩折れる3人。
「では、ゆういちてんちょうたんの、ぎゃくれいぷのつづきをみるでつ」

理由は分からない。自然と鞄に手が伸びた。中には手錠が二つ。誰が入れたかわからない。
・・・けどありがたく使わせてもらう。
笑留は雄一に馬乗りになり、力任せに雄一の手首に手錠をかけ、さらにベッドの角の柱につないだ。これで雄一は大の字になる。
「えみるさん?あのー、落ち着いてもらいませんか?」
「どおして~?おにいちゃん・・・あ、そうか、恋人同士だから雄一って読んでいいよね」
「お、おい!」
「恋人同士なんだから、エッチなことしてもいいよね?」
笑留は鞄から今度はナイフ-それもコンバットナイフとよばれる厚みの刃を持つ小刀-を取り出し、乱暴に雄一のベルトを引きちぎる。
「え、え、笑留!」
「えっへっへっ、ぎゃく・れいぷ・ぷれぇぇい!!」
「落ち着け!笑留!それヤバイって!!」
「えへへ・・・笑留ね、おにいちゃんとの子供が5人ぐらい欲しいんだぁ~」
笑留は乱暴に・・・しかし雄一に怪我をさせないよう器用にズボンを切り裂いていく。そしてトランクスにも。
数分で雄一の下半身は丸裸になる。
「あわわわわわ・・・」
「はぁはぁ・・・お兄ちゃんの、お、おちんちん・・・」
熊が敵を威嚇するようなポーズをとったあと、笑留は雄一の一物をほおばった。
「いやだ・・・お兄ちゃんの・・・汗と・・・おしっこと・・・せーえきと・・・あの・・・」
一度口を離すと笑留は怒った表情をする。
「美里の、あの女の臭いがするぅ!!」
怒りを爆発させると雄一を咥える。
「美里の!臭いも!愛液も!全部舐め取ってやる!全部!笑留の臭いにするんだからぁ!」



26 名前:新店長でG.O. ◆dkVeUrgrhA [sage] 投稿日:2007/03/22(木) 21:15:39 ID:yOjs1jOF
そうして笑留はフェラチオを開始する。
ごぼ、ぐちゃ、ぐちゃ、べろ・・・
「えみる、ちょっと、乱暴、痛い・・・」
雄一の意見など聞かない。笑留は欲望のままに雄一の一物を口で犯す。
なんだかんだ言っても、数分後には雄一の一物は直立してしまう。
ぷはっ。
息継ぎなのか笑留は再び口を離す。雄一のそれは天をつくようにそり立っていた。
「やだ・・・どんなに舐めとっても、あの女の、臭いがするのぉぉぉぉぉ!!」
怒りと泣きが入り混じった表情をして笑留が叫ぶ。
「もういい!笑留の下の口で舐め取ってやる!」
笑留はパンティだけ脱ぐと、強引に雄一の腰に自らの腰を下ろした。
じゅる。
既に洪水状態だった笑留の陰部は雄一の一物を抵抗なく受け入れる。
「う、う、うそだろ?!え、笑留!!」
「えへへへへ・・・ついに、ついにお兄ちゃんと繋がっちゃった・・・」
そして笑留は自分で腰を動かし始めた。

「ではちあげ(仕上げ)といきまつか」
画面の向こうでは薫が自分の携帯を取り出し、どこかに電話をしだした。
「薫ちゃん、誰に電話するのかしら?」
「さ、さぁ?」

樹元美里は家路を急いでいた。会議は1時間前に終わったが彼女は会議の整理と後片付けをしていたのだ。
「ああ~もう、帰るのが遅くなっちゃった・・・え?」
コートのポケットの中、携帯が振動をしている。誰かからの電話だ。
「だれだろ・・・雄一かな?」
美里は携帯を取り出し発信者を確認する。
「あれ?薫ちゃんだ・・・なんだろ?」

ぴっ。
「もしもし、薫ちゃん?」
「み、みたとおねえたん!たいへんなのでつ!!」
「ど、どうしたの?落ち着いて教えてくれる?」
「あのね、いまね、えみるおねえたんと、ゆういちてんちょうたんと、おでんわちてたでつ」
「うん、それで?」
「それがね、おねえたんと、てんちょうたんが、けんかちだちたの」
「えぇっ!」
「みたとおねえたんちか、たよりになるちといないの。はやくかえってあげてくだたい!」
「わ、わかったわ!」
ぴっ

「これでいいでつ」
もはや言葉はなかった。とき子を除く3人はもはやただ呆然と画面を見るしかなかった。

「おにいちゃんの、おにいちゃんのがいぃのぉ・・・」
その後も笑留は腰を振り続けていた。股間の自らの一物をしごきつつ、体の中にある雄一の一物をむさぼる。
「おい、笑留!やばいって、もうでる・・・」
「えみる、子供は9人ぐらい欲しいなぁ~それでね、子供たちだけで野球チームつくるの」
「たのむ、正気になってくれぇ!て、で、で、でるぅぅぅぅ!!」
ごぼぉっ!
雄一にはそう聞こえたような気がした。
「えへへへへ・・・おにいちゃんの、なかだし・・・」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ・・・」
笑留の股間から、白い粘液が零れ落ちた。笑留はそれを指ですくい上げると、悩ましげな笑顔でそれを舐めてみせる。
「えへへへへ・・・おにいちゃんの、本気汁、にがくて、おいしい・・・」
雄一は言葉を継がない。頭を抱えれるならそうしただろう。今雄一は、笑留から顔を背いてうめくだけであった。
「今日はね、お兄ちゃんが、失神するまで、笑留の中を味あわせてあげるの・・・」
そして笑留は2回目の『事』に及ぼうとしたとき。
どごぉぉぉん! 乱暴にドアが開く音がした。笑留はドアのほうを向かず、ただ淡々と、こう言う。
「何の用かしら・・・この、泥棒猫!」

27 名前:新店長でG.O. ◆dkVeUrgrhA [sage] 投稿日:2007/03/22(木) 21:17:03 ID:yOjs1jOF
「えみるちゃん・・・ゆういち・・・あんたたち!なにしてんの?!」
「恋人の営みに決まってるじゃない?泥棒猫の、美里さん?」
「あ、あ、アンタのほうが泥棒猫じゃないの!おまけに、実の兄弟で!!」
「なにいってんのよ!!アンタの方が、お兄ちゃんの妹じゃない!!」

画面の向こう。
「ちょ、ちょっと?!なんで美里さんのほうが妹になるわけ?」
「えみるおねえたんのせかいでは、みたとおねえたんが、ゆういちてんちょうたんの、いもうとみたいでつね」
「現実と夢が、まぜこぜになってますね・・・」

「あんた・・・とりあえず、雄一からどきなさい!」
「い・や!」
美里はどこから取り出したのか、銘刀義流餓座旨(実際はただの鉈)を両手で構え、笑留に近づく。
笑留も笑留で、ナイフを片手に持ちその刃を美里へ突き出す。
「そっか・・・泥棒猫は殺さなきゃ何回でも盗むもんね・・・待っててお兄ちゃん、ちょっとこの泥棒猫始末してくるから」
「雄一、ごめんね。アンタの妹、病みすぎてもう殺さなきゃ救えないわ」

「き゛ぇや゛ぁぁぁぁぁ!」
がぎぃぃぃぃ!!
笑留は雄一から離れるや否や、上段からナイフを振り下ろした。すかさず鉈で受ける美里。
両方の刃先から火花が出るのが、画面からでも確認できた。

「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ・・・殺し合い、はじめちゃいましたよ・・・」
さすがの事態に、青くなる美衣奈。隣のあずさも、さすがに顔色が青い。
「ど、どうしよう耕治ぃ!!」
「って、どうすんだよ?!」
おろおろする3人を尻目に、薫は涼しい顔で答える。
「ほっといたらいいでつ。ゆっくり、『りあるしゅらば』をけんぶつするでつ」
「かおるちゃん」
いままで、ずっとにこにこしながら事態を眺めていたとき子が、いきなり真剣な顔で薫のほうを見た。
「なんでつか、まま?」
「止めなさい」
「え?」
「あの二人を、止めなさいと、いったの」
「なんででつか?とめるひつようは、ないでつ!」
「かおる?あの二人が、いつ、貴方の命が欲しいといいましたか?」
「うぅ・・・」
「何か悪いことをしたのですか?少なくとも、薫ちゃんや、私よりはしてないはずですよ?」
「うぅ・・・」
「かおるちゃん?」
薫はしばらく押し黙っていたが、やがて口を開く。
「おにいたん・・・けいちゃつを、よんでくだたい。えみるおねえたんは、ひとりにしてしばらくおちつかせれば、もとにもどるでつ・・・」
画面の向こうでは、笑留と美里が、文字通りの『剣戟』を繰り返していた・・・。

28 名前:新店長でG.O. ◆dkVeUrgrhA [sage] 投稿日:2007/03/22(木) 21:17:40 ID:yOjs1jOF
~えぴろーぐ~

がちぃっ!
「この泥棒猫!いい加減死になさいよぉ!」
「そっちこそ!この性欲魔人!ポリバケツ!ブラックホール!」
「いったなぁぁぁぁぁ!」

「あ~はっはっはっはっ」
「いや~本物の修羅場って、迫力あるわぁ~!」
「あ、あの・・・えみるおねえたん・・・?」
数日後、禾森家。今度は美里まで交えての乱交パーティーになっていた。
現在の状況。
テレビの前に笑留と美里。薫は笑留の股間に刺さっている。
美里の股間にはピオンがいて、一心不乱にピオンの股間を舐めている。
二人の後ろではとき子が耕治の上に馬乗りになって耕治の股間を味わっている。
ちなみに耕治自身は既に白目向いて失神。
あずさと美衣奈は裸のまま美里たちの後ろでテレビを観賞中。
そのテレビ画面にはつい先日の修羅場というか殺し合いの動画が流れていた。
「これ・・・えみるおねえたんたちなんでつけど・・・?」
「だからおもしろいんじゃないの、ねー?」
「ねー!そんな口答えする子は、こうだ!」
笑留は股間の薫を突き上げる動作をする。縦に豪快に揺れる薫。
「えみるおねえたん・・・きもちいいけど、いたいでつ・・・」
「なにいってんの?あたしたちなんか、死に掛かったんだもん、ねー、おねえちゃん!」
「ねー!」
そういって笑う美里と笑留。しばらくして、美里はとある疑問を口にした。
「ねぇ、薫ちゃん?あれって催眠術なのよね?すごいなぁ。本当に人を思うように動かせるんだ」
「とんなわけないでつ」
股間の快感に耐えつつ、薫が美里に説明する。
「えみるおねえたんは、ゆういちてんちょうたんと、えっちちたいとおもってまちた。ちゃいみんぢゅつは、そのちぇなかを、おちただけでつ」
「背中を押しただけ・・・それってさ・・・もしかして素面でも襲ってた可能性があるって事?」
これは笑留の言葉。
「ちかいみらい、ありえたとおもいまつ」
「あは、あはははは・・・」
力なく笑う笑留。今も思う。あれは、本当に、催眠術のせいだったんだろうか?自分の欲望が、外に出ただけだったのではないかと。
「とういえば、みたとおねえたん?てんちょうたんは、どうちたのでつか?」
「ん~、これ、聞いてみる?」
さっきから、美里はピオンに股間を舐めさせながら、イヤホンで何かを聞いていた。
美里からイヤホンを借り、聞く薫。



29 名前:新店長でG.O. ◆dkVeUrgrhA [sage] 投稿日:2007/03/22(木) 21:18:13 ID:yOjs1jOF
「いやだ、店長、今日奥さんはどうするんですか?」
「今日は友達のところに泊まって帰らないってさ。だからさ、これから二人で・・・」

「ゆ・・・ゆういちてんちょうたん・・・」
なんと雄一の体に盗聴器を忍び込ませていた。がっくりとなる薫。イヤホンを薫から取り上げ続きを聞く笑留。
「・・・あれ、ちょ、ちょっと!このお兄ちゃんの相手って・・・」
「さすがに笑留ちゃんは気がついたか~」
にやりと笑う美里。
「そう。あの宿六の相手は2号店店員。あたしの可愛い子猫ちゃん♪」
うれしそうに言う。笑留はイヤホンを外すと、元の機械とテレビのスピーカー端子をつないだ。テレビから店長たちの声が聞こえる。

「じゃあ店長、あたし、いい店知ってるんですけど一緒に、どうですか?」
「いいねぇ、一緒に行こう」
「けどお願いがあるんです。そこにつくまで、店長さん、目隠しをしてもらえますか?」
「ああ、いいとも。どこにつくか、楽しみだなぁ~」

ぶぅっ!美里意外全員噴き出す(失神中の耕治除く)。
「あの、おねぇちゃん、ま、まさか・・・」
「とき子さん?あと二人、お客さんがココに来ますがかまいませんか?」
「あらあらまぁまぁ。どうぞおこしくださいな」
「んふふっ」
美里は忠実に自分の仕事をしているピオンの頭をなでた。
「ピオンはえらいわね~。まっててね。もうすぐ、ごほうびに、あなたのだぁ~いすきな、アナル処女をあげますからね♪」

おちまい。

30 名前:新店長でG.O. ◆dkVeUrgrhA [sage] 投稿日:2007/03/22(木) 21:20:37 ID:yOjs1jOF
終わった・・・
『催眠術で突然病化』をコンセプトに作ってたらこんなに長くなるとは思わんかった。
次はもっと「病み」をテーマに精進します。
とりあえず次回はおにいたん1のバッドエンド版、
そのあとプロットだけなら3つぐらいあるのでおいおい。

31 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/23(金) 10:36:10 ID:U6qYWsDk
ロリエロ投下GJ!
やっとのヤンデレ展開がギャグとして片付けられてしまったのがスレ的にはちと惜しいかも。
バッドエンドものに期待。

32 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/23(金) 12:21:35 ID:4xl6OPvM
会話が多いのはあまり好きじゃない
延々続くと、どうでもいい気分になってきます

33 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/23(金) 21:19:04 ID:pFVTPDBh
>>32
それならあなたは読まなければいいんじゃないですか?
あなたの好みなど知ったことではありません。

34 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/23(金) 21:29:46 ID:Am0zAZSp
あー……ちょっと言っていいかな。
>>33のようなSSへ向けた意見に対してレスをすると荒れるんだわ。
実際、お隣さんはそういうところがあった。

だから、感想レスに向けたレスは控えないか?正直、荒らしも煽りも御免だから。

あと>>32。
もうちょっとオブラートに包んでくれ。

35 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/23(金) 21:38:54 ID:U6qYWsDk
感想レスに対して反論レスするとスレが荒れる
反論レスという歯止めが無くなると感想レスが言いたい放題になる

なんというジレンマ……

36 名前:51 ◆dD8jXK7lpE [sage] 投稿日:2007/03/23(金) 21:42:33 ID:1qNt958Q
まあ、なんというか。
書き手は全ての感想を真摯に受け止める覚悟があるから投下してるのであって、
あまり「そんな感想はおかしい!」というような話はしない方が嬉しいと思う。

37 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/23(金) 21:44:04 ID:Am0zAZSp
自分で感想レスに対してレスをするなと言っておきながら、それを自ら実行してしまうとは……

なんというバカな俺……orz
スマヌみんな。

38 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/23(金) 23:15:33 ID:d7UT3CFJ
>>35
>>37
前スレでトライデント氏のトリップ割れについて下さって有難う御座います。

ヤンデレスレの皆さんも新スレになったので、
既存の作家さんを語る書き込みには注意して下さい。

39 名前: ◆dkVeUrgrhA [sage] 投稿日:2007/03/23(金) 23:38:04 ID:79PH3+n7
>>32
俺的にははっきり言ってくれた方がうれしい。ありがとう、参考にするよ。

>>36、51様
代弁ありがとう。俺も同意見だ。

みんなー、まったりしようぜm(_ _)m

40 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/23(金) 23:39:11 ID:QW15ZpWj
正直、あんまり読む気がしない

41 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/24(土) 00:54:01 ID:Z6aG/rXQ
>>40
そんなら書けば?

42 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/24(土) 01:11:27 ID:8BlPKAiA
>>41
お前マジで頭いいな!

43 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/24(土) 02:25:50 ID:OORyAG+T
熟女ヤンデレはありますか?
無いなら脳内で。

44 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/03/24(土) 02:36:06 ID:UPNMoHZL
wktk

45 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/24(土) 06:32:12 ID:K7eLtHnR
>>43
そのほとばしるリビドーをプロットにして前スレに投下してみないか?
もしかしたら職人さんが書いてくれるかもしれないぞ。前例もあることだし。

46 名前: ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/03/24(土) 14:27:44 ID:UIL5bFFq
上書き第10話後編、投下します。
選択肢1・すぐに携帯電話を確認する、のB-1ルートからです。

>保管庫管理人様
いつも更新お疲れ様です。
申し訳ありませんが、前回第10話として投下した分を「第10話前編」に修正してください。
ご迷惑をおかけしてすみません。

47 名前: ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/03/24(土) 14:28:35 ID:UIL5bFFq
俺は一目散に床に静かに横たわっている携帯電話の下へと駆け寄っていった。

そもそも加奈が”急に”こんな事言い出すのは明らかにおかしい。
何か『きっかけ』がなければ俺と目を合わさないなんて事はありえない。
そう考えるならその『きっかけ』として最も怪しいのは、机の上にあったはずなのに、
不自然にも今は床の上で沈黙を守っている携帯電話だ。
加奈はその携帯電話の中の”何か”を見てこんな事言い出しているんだ。
ならば今すべき事は真っ先にその中身を確認する事だ。
俺と加奈の関係の脆さを思い知った今、僅かな溝ですら作ってはならないのだ。
加奈が知っていて俺が知らない、そういった状況から勘違いが生まれ崩れていくのだ。
二度とそんな事は御免だ。

その一心で素早く携帯電話を掴み取り、俺はその中身を確認した。
その『中身』の内容を読んだ瞬間………
「………は、はは…」
いつも俺の行動の邪魔をしていた理性の壁が崩壊して、
心の奥底からかつて味わった事がない程”気持ちいいもの”が流れ込んできた。
それが俺の思考回路を急速に早め、やがてある”一つの結論”に至らしめた。
その『答え』を理解した途端、心が痺れた。
「はっ、はははははははははは!!! あーっ! ははは!!!」
そして笑いが腹の底から込み上げてきた。
抑えようと思っても抑えられない程愉快な気分になってくる。
何時間も考えていた問題の答えを解き明かしそれが正解だった時のような、
全身全霊で喜ぶべきそんな状況。
ふと加奈に目をやると、その表情は既に満面の笑顔だった。
二度と離れまいという意識が読み取れる程目線を俺と合わせてくる。
その確固たる意思に安心感を覚えながら、俺は携帯電話を放り加奈の下へ歩み寄る。
近付いてみると、笑顔を向けながら加奈は小さく小刻みに震えていた。
その嬉しくて震えている肩に俺はそっと手を添える。
「…加奈…、俺今凄く嬉しい。やっと”解った”んだからな…。加奈は嬉しい?」
肩に添えていた手を口元に移し、ピンク色の柔らかい唇を優しくなぞってやる。
その仕草に擽ったそうに笑いながら、加奈は俺の背中に手を回してきた。
「うん! とっっっても嬉しい!」
大袈裟に告げながら俺に体を預けてくる、そんな動作一つ一つが心地良い。
そして何より、加奈と心が一つになったという事実が俺に満足感の快楽を与えた。
今までは存在がいるだけで、その幸せを大きく見せる事で満足するようにしてきた。
だが、そんな仮初の幸せなんて欲してない。
欲しいのは加奈との真の心からの繋がり、その為に”何をすべきなのか”分かった。
こんなに簡単な事だったんだ。
何年も付き合っていたのに何故気付けなかったのか不思議に思う。
しかし、過去は消えない、そんな物はどうでもいいのだ。
重要なのは未来、未来の道末は自分たちが決定権を持っている。
だから、その決定権を駆使させて貰う、幸せな未来の為に。
そして………
「それじゃ、行くか…?」
「うん!」
”加奈の幸せの為に”。

48 名前:上書き ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/03/24(土) 14:30:23 ID:UIL5bFFq
きっとあの携帯電話の中身を見なければ、俺はまだ闇雲に手探りし続けていただろう。
言葉で伝えなければ理解し合えないような、”薄っぺらい”関係のままだっただろう。
だから、『答え』に気付かせてくれた『奴』には心から感謝している。
本当に心から…そう、何度”殺しても”足りない位に感謝している。
「ははは…」
そんな事を考えているとまた笑いが込み上げてきた。
慌てて下唇を噛み、漏れ出さないようにしっかりと堪えようとする。
まだここでは駄目だ。 
しっかり”あの場所”までは我慢しなくてはならない。
”あの場所”へと行って”すべき事”を遂行したら、その時は思い切り笑ってやる。
それこそ、今の闇夜の空を切り裂き、明るい朝を強制的に呼び出す位にな。
「誠人くん、興奮し過ぎだよ」
「男ってのは、夜に満月を見ると狼になるもんなんだよ」
「その血が騒いでいるって事かな?」
「分かってんじゃねぇか」
靴を履きながら冗談を言ってくる加奈の黒髪を優しく撫でてやる。
相変わらずどこにも淀みのない、一本一本が生きているような美しい長髪だ。
髪に対して性的魅力を覚えながら、俺は玄関の扉を開けた。
その扉は物凄く軽く、俺たちの事を後押ししてくれているようにさえ思えた。
開いた扉の先に広がっていたのは、ただひたすら深遠な闇。
そして、その中にたったひとつぽつんと佇んでいる本能を燻る魔性の存在。
「今夜は満月か………」
見上げた空に光るどこにも隙のない円形の満月に向かって、俺は決意を新たにした。
その決意の対象の事を思い浮かべて、『奴』が送ってきたメールの内容を思い浮かべ、
俺は心の中で厭らしい笑みを浮かべた。

――――――――――――――――――――          

隣を歩く誠人くんはとても頼もしく見える。
いつも頼もしかったけど、今日はいつも以上に凛々しい。
きっと”あのメール”のおかげなんだろうな。
”あのメール”を見て、あたしたちやっと分かり合えるようになった。
そういった意味では”あのメール”の送り主さんに感謝しなきゃならないんだろうな。
うん、感謝するよ。
今回だけは、わざわざあたしたちの仲を取り持つような事をしてくれた事に感謝する。
でもね…やっぱりあのメールの内容は許せないな。
誠人くんの事を小馬鹿にした口ぶり、そして何よりあたしたちの仲を崩そうとしている
意思が滲み出ている内容…。
それに関してはどんなに譲歩しても許し切れない…。
だから、その”お礼とお仕置き”にすぐに向かってあげるよ…。
首を長くして待ってよ…すぐに楽にしてあげるから…。
あたしは決意を胸に秘めながら、誠人くんの隣に寄り添いながら闇夜の道を突き進んだ…。

――――――――――――――――――――          

49 名前:上書き ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/03/24(土) 14:31:19 ID:UIL5bFFq
俺たちは『奴』の家の前へと辿り着いた。
真新しく見えるインターホンを弱く押し、その場で数秒佇む。
そして、インターホン越しに聞き慣れた声が耳に響いた。
『誠人くん?』
他の家族に出られたら厄介だと思ったが、本人が出てくれた事に安心する。
どうやら家の中から俺の姿は見えているようだ。
加奈に隠れるように言って正解だったと自分を褒めながら、慎重に言葉を選ぶ。
「あぁ。伝えたい事があるから出てきてくれ」
『分かった!』
その言葉と共に室内の音声が途絶える。
しかし、屋外にいる俺にも分かる位うるさく階段を駆け下りる音が聞こえる。
そんなに俺に会いたいのかと呆れながら、今日俺の事を好きだと言ったのは本当
だったんだなと心の中で確かめた。
どうでもいい事だけど。
やがて足音が止まるので、扉の前から一歩下がる。
案の定扉はこちら側に向かって勢い良く開いた。
あのままあの場にいたら無様に扉にぶつかっていたなと、今日の俺はやけに冴えている
という確証を広げる。
そしてその扉の中から何も知らない様子の『奴』が出てきた。
「誠人くん!?」
「よう…『島村』………」
俺はその一言の後………

『シュッ』

一瞬の刹那…俺の顔を見て喜んでいる島村の喉下を、隠し持っていた
ペーパーナイフで瞬間的に切りつけてやった。
喉下を狙ったのは、叫ばれては困るのと、即死して欲しかったからだ。
切り付けた瞬間、ナイフを持った右手に温かい島村の”命の証”が降り掛かる。
「…ガッはァ………ッ!」
望み通り、叫ぶ事も出来ずに島村はその場に崩れ落ちた。
その表情は、何故こんな事されているのか全く理解出来ないという困惑と、
止め処なく溢れる血液に自らの命が刻々と削り取られている事への恐怖で歪んでいる。
一瞬で島村の家の玄関は自身の血で赤い海と化し、そこに島村は順応している。
「今の島村………綺麗だぜ…なぁ、加奈?」
俺はその惨めな死に様に、敬意を表したくなった。
真の絆を築いていく為に一体何をすればいいのか、それを教えてくれた一人の人間に。
加奈の方を振り向くと、加奈も島村の苦痛に悶える表情を見つめながら、
恍惚の表情を浮かべていた。
「うん………本当に、ひたすら生にしがみつこうとして、悪意の欠片もない…。
誠人くんに何かしようともしていない…こんな純粋な顔出来るなんて…。
ちょっと嫉妬しちゃう位、それ位綺麗だよ?
最期に誠人くんに『綺麗』って言っても貰えて良かったね…フフフ…」
どこにも屈折したところのないその笑顔から、加奈の言っている事が本心だと分かる。
やはり加奈と俺の考えている事は同じ…最期の最後まで俺と加奈の関係の強さを再確認
させてくれた事に感謝しつつ、虚ろな目でこちらを見上げる島村と視線を合わせる。
「島村…お前の『メール』の質問に答えてやるよ…」
既にもがく気力はなく、意識絶え絶えの状態にも拘らず島村は
必死に俺の言葉を聞こうとしている。
そこまでして聞く程の事じゃないだろと思いながらもその真っ直ぐな瞳に敬意を表す。
「”加奈だから”だよ」
その答えを言った後島村の顔を見ると、既にその瞳に光彩は失われていた。
指一本とて動かせていないその姿が告げる…”島村由紀は死んだ”。








50 名前:上書き ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/03/24(土) 14:32:42 ID:UIL5bFFq
「やったね、誠人くん!」
「あぁ、これで俺たち、やっと『一歩』を踏み出せるんだな…」
加奈が俺に笑顔を向けてくれている…この儚い幸せを手に入れる為に、
俺たちはどうしてあんなに不器用な事をしていたのだろうかと今になって思う。

俺と加奈が幸せになる為に必要な事…その『答え』は簡単だった。
俺は常日頃、”加奈の幸せの為に”行動してきた。
そして、加奈は”俺の幸せの為に”行動してきた。
つまり、俺の幸せと加奈の幸せは『同意義』だったんだ。
俺がしたいと思う事は同時に加奈がしたい事に直結している。
そして、加奈がしたいと思う事も俺がしたい事に直結している。
深く考える必要はない、俺がしたい事をすれば良かっただけの話なんだ。
相手の幸せだなんて難しい事を考えるより、自分がしたい事をする事こそが
互いの幸せへの第一歩に繋がるんだ。
それに気付かせてくれたのは島村が俺に送ってきた『メール』だ。
露骨に加奈を侮辱したその内容を見て、俺は胸に黒いものが湧き上がるのを感じた。
それは、殺意を抱きながらも理性が覆い被さって行動を制止させようとしたが故に
生じた、抵抗力の産物だ。
本当ならそこで思い止まるのが普通だったのだろう。
それが世間的には正しいし、そうしなければいけないルールなのだ。
しかし、そのメールを見た後の加奈の様子を見て、俺の中で理性が崩壊した。
そう、加奈もあのメールを見て、また別の理由で殺意を抱いていたのだ。
目的は『一緒』………ならば躊躇する必要なんか欠片もない。
互いの幸せの為に、迷う事なく殺意のままに従えば良かったんだ…。
そうする事で、俺と加奈の幸せが叶うんだ、こんな簡単な事はない。

「それと誠人くん、一ついいかなぁ?」
甘ったるい口調で加奈が俺を見上げながら訊ねてくる。
「何だ?」
「これからは、あたし以外に『綺麗』なんて言うのは嫌だなぁ…」
「何だ、そんな事か」
思わず笑ってしまった。
そんな俺の態度が御気に召さないようで、加奈は頬を膨らましている。
露骨に怒っている加奈の下へと歩み寄り、そっとその小さな体を抱き締める。
「俺が好きなのは城井加奈一人だ…。加奈が好きなのは?」
「誠人くん…あたしが好きなのは、沢崎誠人くん、あなた一人ですっ!」
「良く言えました」
俺の背中に手を回す加奈を抱き締める力を一旦抜く。
今まで相手の為とか、『上書き』とか、陳腐な事を言い合って恋人ごっこを
し続けていたけど、もうそんな事に惑わされる事はない。
心が一つになった今、もう俺たちは言動や行動で伝え合わなければならないような
関係ではなくなったんだ。
加奈と見つめ合いながら、俺は”『一歩』を踏み出す為の”口付けを交わした。


51 名前:上書き ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/03/24(土) 14:33:17 ID:UIL5bFFq

――――――――――――――――――――          

誠人の部屋の中で、開かれたまま沈黙を守っている携帯電話。
既に光は失っている、しかしその薄黒い闇の中に確かに『跡』は刻まれている。
二人の男女を狂気に奔らせた、簡潔な文章が。

『From 島村由紀
Sub  (無題)

誠人くん、あなたは何で”あんな”子が好きなんですか?』

――――――――――――――――――――          




B-1ルート「未来を築く為に」 HAPPY END

52 名前: ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/03/24(土) 14:37:08 ID:UIL5bFFq
投下終了です。
予定として次の時は選択肢2を投下します。

以下チラシの裏
個人的に消化不良なラストでした。
以前Cルート(加奈と誠人の肉欲エンド)を投下した際、「誠人が狂えたらハッピーエンドだった」
という声を受けて思いついた話ですが、読み返すと喉に魚の小骨が引っかかったような気分…。
本ルートでは納得のいくようなのを書きたいです。

53 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/24(土) 14:46:07 ID:cgpfVPqQ
>>52
リアルタイムキタワァ.*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!☆GJ!
個人的には素晴らしいハッピーエンドですとも!
二人に幸あれ。・゚・(ノ∀`)・゚・。

てかこんな俺はもう駄目かも分からんねorz



54 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/24(土) 16:41:44 ID:hQM6V2+S
>>52
なんかものっそ凄まじいエンディングですなぁ・・・。
携帯の文面を見ただけで豹変するなんて、
他のエンディングを見ても既に誠人が狂ってる事がわかりますわ。
男まで狂ってヤンデレ化するだけでどれだけ他の作品と一線を駕すかわかりますた。

55 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/24(土) 22:03:32 ID:tWUhvSic
>>52
まさにこのスレならではのHAPPYEND GJ!
でも島村さんあっけなさすぎw
個人的には応援してたんだけどなあ…w

56 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/25(日) 02:09:24 ID:CyM5zxwp
チラシ

男まで狂う場合、絶望や混乱のどん底にまで落ちて狂うのならわかるけど、
男までヤンデレ化するとバランスが悪いっていうか収集がつかねって。

チラシ終わり

57 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/25(日) 13:03:00 ID:5p2qUqRE
こういった狂った幸せって大好きだ!GJ!

58 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/25(日) 13:04:07 ID:Tm3KXieg
だからラストに持って行ったんじゃね?

59 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/25(日) 15:33:43 ID:/7rDjX3q
>>52
GJ!!
共狂いENDもいいモノだ。
本ルートにも超期待してます。

>>56
作者の人も、そのへん分かってるから選択肢つけたんでしょ?
作者のしたい事も少しは理解した方がいいよ。

60 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/25(日) 16:33:07 ID:CyM5zxwp
>>59
別に糾弾するつもりはないさ。単なる意見として。

61 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/25(日) 23:04:59 ID:yx74Ws21
自分は書き手(ここに投下したことはなく読んで楽しむだけ)だが、
色んな意見を貰えるほうが為になるし嬉しいもんだよ。
前からこのスレはGJだらけで、書き手さん達は物足りなくないのかな~
と、思っていたので言ってみた。ではでは。

62 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/26(月) 00:36:11 ID:G9NV0cef
場合によりけり。控え室見れば分かるが、書き手といっても一概には言えない。
スルーでも堪えないって猛者から、ちょっとしたことで愚痴るもやしっ子までいる。

それに最大の問題は、批評ってのどうしても批評厨を呼び寄せやすいこと。
感想レスに対するレスを禁止に出来れば、荒れの元にはならなくなるだろうが……

63 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/26(月) 02:14:33 ID:q8tIE4m4
こんな空気でも俺は「居ない君」を待ち続ける。

64 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/26(月) 03:45:25 ID:AOwcUCL3
人によるよなー。叩かれて伸びるひともいれば褒められて伸びるひともいる。
まぁようするに荒れるような感想の書き方だけはやめようや。
自分と合わないから嫌いとかそういうはやめてさ。

65 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/26(月) 09:40:38 ID:xxl3fyhy
収拾がついてるのにつかないとか言うとただのケチ付けに見えるけど

66 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/26(月) 11:50:43 ID:00gKYNv/
そこは何がどうつかないか、で受け取り方が変わる。
まあ、ちゃんと話は終わらせられてるけど。


とりあえず、議論するより次の話を待とうぜ。

67 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/26(月) 13:12:08 ID:Q8K9PY1H
ところで「ヤンデレスレは」「エロエロよー」の元ネタってなに?

68 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/26(月) 13:42:23 ID:G9NV0cef
このスレのパート2か3あたりのやり取りだった気が。

69 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/26(月) 14:00:23 ID:3a3GhM50
少数かもしれないが鬼葬譚の続編を待ってる漏れがいる

70 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/26(月) 17:45:13 ID:3bsNz/5j
流れぶった切って感想。

>>52
GJ!!
こういうエンドを待っていた。
ヤンデレハッピーエンドはこうでなくては。

71 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/26(月) 20:17:38 ID:00gKYNv/
ところで、恋に不慣れで不器用な女がついつい暴走したりするヤンデレってのもあるかね?
そして男は恋に慣れてないだけだからと女を突き放し、さらに暴走させる。



うん、正直ヤンデレとは違うのかもしれないし、コメディタッチになっちゃうけどね。

72 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/26(月) 20:21:48 ID:mBdGnf2Z
「男くん! 私、きみが好きなの!」
「あ、そうなんだ。俺は卵はしろみのほうが好きだけどな」

みたいなもん?

73 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/26(月) 20:46:37 ID:5GPQpqOE
軽いヤンデレでも良いじゃない。
You、書いちゃいなよ。

74 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/26(月) 21:20:35 ID:K9g9qz2n
ヤンデレは相手を殺すよりも相手を拉致監禁して相手に尽くす方が萌えるのは俺だけか・・
男性が監禁の場合は物凄く萌えないが・・女性なら和やかな雰囲気になるww

75 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/26(月) 22:44:05 ID:/S3uAAfn
>>74
×物凄く萌えない
○単なる犯罪

76 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/26(月) 23:43:14 ID:YSDBgQqB
男が女を監禁するだけならハードル低いからな。すぐに豚箱行きとはいえ

77 名前:ラック ◆duFEwmuQ16 [sage] 投稿日:2007/03/27(火) 00:00:49 ID:RI+ri3es
身に覚えが無いのに規制が……今回はヤンデレ要素少ないです。
次回から本格的にしていきたいと思っています。

78 名前:ラック ◆duFEwmuQ16 [sage] 投稿日:2007/03/27(火) 00:02:22 ID:9shiYSb+
かつて悪魔が私にこういった「神もその地獄を持っている。それは人間に対する彼の愛である」と。
そして、私は悪魔がこういうのも聞いたことがある。「神は死んだ。人間に対する同情ゆえに神は死んだ」と。
──ニーチェ『ツァラトストラはかく語りき』
ヒッコリー製のアンティークな本棚に並べられた書籍に朧は眼を通した。本の表紙に触れる。表紙も古いものから新しいものまで実に様々だ。
オスカー・ワイルド、ジャン・ジュネ、サルトル、ボードレール、バルザック、アポリネール、ニーチェ、ヘーゲル、マンディアルグ
ユイスマンス、バロウズ、ケルアック、稲垣足穂、三島由紀夫、川端康成、その他にも文学、哲学系の作品が揃えられていた。
昨日はオスカー・ワイルドの『サロメ』を読んだ。今日は何を読むべきか。本を眼で追いながら思案する。
朧の視線が止まった。本を取り出し、タイトルと作者名を眺める。ホコリが指を汚した。ふっと息を吐いてホコリを飛ばす。
(カポーティの『冷血』か。面白そうだな)
机に置かれた手錠を朧は自分で掛けなおした。鍵の部分が簡易な作りの手錠は、ヘアピンの一本でもあればいつでもはずせた。
朧は雪香の居ない時だけ、こうして手錠をはずして羽を伸ばした。短い時間ではあったが、手首の感覚を戻すには充分だ。
本を持つと朧は書斎を出て、雪香の寝室に戻る。本を読み始めたのは単に暇だったからだ。雪香との奇妙な生活が始まって二ヶ月が過ぎた。
最初の二週間は部屋から出られないようにベッドにくくりつけられた。足にも錠をかけられて身動き取れぬ有様だった。
食事に混ぜられた筋弛緩剤と睡眠薬。睡眠薬の効果は失せていたが筋弛緩剤のほうはそうはいかなかった。
頭の中ははっきりしていたが、身体の自由がほとんど利かないのだ。この少女は何故、自分にこんな仕打ちをするのか朧は考えた。
雪香に恨みを買ういわれはなかった。
澱のようなものが腹の底に沈み、怒りが沸々と煮えた。自由を奪われた獣の怒りだ。
そして、こんな罠にひっかっかった間抜けな己自身に対する怒りでもあった。憤怒が脳髄を灼いた。
筋弛緩剤の効果が薄れるとともに、怒りが燎原の火の如く燃え広がった。両腕をめちゃくちゃに動かす。手錠が肉に食い込み、皮膚が裂けた。
血飛沫が舞った。傷口から溢れる鮮血が手首を汚した。かまわずにベッドで暴れ続けた。痛みなどどうでもよかった。
『はずせっ、はずせっ!』
叫んだ。無言で不安そうに気弱な眼でこちらを見やる雪香の姿──ぶっ殺してやりたかった。
顔面がザグロになるまで拳を叩き込んでやりたかった。血みどろになるまでぶちのめしてやりたかった。
『そんなに暴れないで。手、怪我しちゃったよ……』
『ふざけるな。さっさと手錠をはずせッ!』
傷ついた朧の右の手首に雪香が労わるように手を伸ばす。雪香の頬に朧の唾が飛んだ。雪香は黙って掌で唾をぬぐうと部屋をでていった。
室内に独り取り残された朧は冷静さを取り戻そうと瞼を閉じた。闇が視界を覆う。脳内で渦を巻く冥い殺意を腹に押し込んだ。
朧は隙を窺うことにした。問題はどうすれば逃げ出して雪香を殺せるかだ。朧は思索した。こういう手合いにはどう対処すればいいのか。
朧は雪香に対し、徹底的に無視を決め込んだ。飲食物を一切取らず、何をされようが一言も喋らなかった。
朧の態度に雪香は柳眉を逆立て、罵詈雑言を浴びせた。ヒステリックに朧の脇腹に爪を立てて胸を痣が出来るまで叩いた。
『なんで雪香を無視するのッ、お願いだから何か言ってよ……ッッ』

79 名前:ラック ◆duFEwmuQ16 [sage] 投稿日:2007/03/27(火) 00:04:04 ID:RI+ri3es
朧の頬に平手打ちを浴びせながら雪香が大声を喚いた。鼓膜が振動で震えた。切れた唇から血が滲む。
雪香に殴られ、罵られても朧は石の如く口をつぐみ、無反応を通した。完全なる拒絶を示し、眼をそらそうとさえしなかった。
その態度が雪香の苛立ちを募らせ、雪香はさらに手酷く朧を打擲するという悪循環だった。
十日間が過ぎたあたりで雪香は狂ったように泣き喚いた。髪を掻き乱し、喉が張り裂けんばかりに叫び声をあげる。
『お願いだよっ……お願いだから何か食べてよ……っっ』
躍起になって朧に食事を摂らせようと自分の口にミルクを含ませ、雪香は朧に口移しで何度も飲ませようとした。
それでも、朧はミルクを飲まずに吐き出す。雪香の口に含んだミルクを飲むくらいなら、朧は餓死したほうがマシだった。
それよりもあと何日持つか。せいぜいが一週間以内。それ以上経てばまず動けなくなるだろう。
頬骨がこけ、肋骨が浮き出た肉体。眼窩は窪み、初雪のように白かった朧の肌は栄養失調で灰色にくすんでいた。
ただ、黒い瞳だけがいつまでも変わらなかった。朧は掠れた声帯から搾り出すように呟いた。
『死んじまえ。このキチガイ女……』
雪香に向かって罵りの言葉を吐き捨てる。
それっきり朧はまた口を閉ざして、天井の一点を瞬きもせずに見続けた。飢えの苦しみはすでにない。
人間の身体はうまく出来ているのだ。三日間食事を摂らなければ、脳内麻薬が分泌されて飢餓の苦痛を取り除く。
持久戦だった。衰弱して死ぬのが先か、ベッドから開放されるのが先か。二週間目の朝、雪香はついに根を上げて朧の拘束を解いた。
──俺が衰弱してると見て油断してるのか。それでも首を絞めるくらいの力は残ってるぞ
体力の擦り減った身体は動かすたびに悲鳴を上げた。筋肉はその柔軟性を失い、硬くなった関節がギシギシと軋む。
空中を飛んでいるような感覚だった。身体に力が入らない。そのくせ、やけに意識だけは明瞭だった。
網膜の奥に映った雪香の首筋。青白い静脈を皮膚の内部に張り付かせている。スローモーションな動きで頤に手をかけた。
親指と人差し指に力を込める。雪香は抵抗も、振りほどこうともしなかった。朧はじわじわと力を強めた。
指先に伝わる柔らかい肉を掴む生々しい感触──何の感慨も涌かなかった。復讐の達成感が感じられないのだ。
『なんで抵抗しないんだ』
朧は不思議でしょうがなかった。恐怖を感じるわけでも、憎悪を現すわけでもない雪香の反応に朧は眼を細める。
雪香の相貌を見た。どこか夢見心地だ。雪香は死を厭わなかった。この少女は朧から与えられる死を歓喜を持って迎え入れようとしたのだ。
胸裏深くに沈んだ記憶が、小波を打つ水面のようにゆらりと揺らめく。
瞳に灯った慈愛の輝き──無意識に朧は手を離した。雪香のその聖母の如き明眸を見た瞬間、怒りも憎悪も消えうせていた。
思えば哀れな少女だ。
『どうして止めちゃったの……雪香を殺したい殺してもかまわなかったのに?』
キョトンとした表情を浮かべて雪香が朧に尋ねた。雪香の頬を撫で付けながら朧は言った。
『あんた変わってるな……』
雪香が笑みを浮かべて答えた。
『朧だって変わってるよ』
朧の拳が飛んだ。病み上がりにしてはキレのある良いフックだ。雪香の顎に命中した。脳が震盪し、雪香はあやうく意識を失いかけた。
『とりあえずそれで許してやる』

朧は出て行かなかった。雪香に興味をそそられたのもあった。それにこの家に住んでいれば明日の寝床と食事にもありつけるからだ。

80 名前:ラック ◆duFEwmuQ16 [sage] 投稿日:2007/03/27(火) 00:05:56 ID:RI+ri3es
室内の空調が一定に保たれているので裸でも寒くはない。わりと居心地は良い。気が向いたときに出て行けばいいだけの話だ。
雪香は朧に決して服を着せようとしない。服を着せないのは雪香の趣味だ。
雪香も家の中では同様に、一緒に裸になって過ごす。裸なのは、どこでもセックスが出来るからだ。
少し気疲れを覚え、朧はベッドに寝転がった。身体の芯がだるいのだ。運動不足が原因だろうか。
うつ伏せになったままページをめくっていく。三十分ほど本を読み勧めていくと軽い空腹感を覚えた。
冷蔵庫を漁ろうと朧が身を起こしかけると、タイミング良く雪香が買い物から帰ってくる。朧は本を傍らに置くと部屋を出た。
「ただいまァ」
明るいほがらかな笑みを浮かべて雪香は買い物袋をキッチンに持って行き、冷蔵庫を開けて食材をしまった。
穏やかな光を称えた雪香の双眸──それは幸福に満たされたものだけが持つ瞳だった。実際、紛れも無く雪香は幸せに包まれていた。
朧と暮らし始めて、雪香は眼に見えて日々明るくなっていった。
ダイニングキッチンの窓から差し込む薄暮の輝きが、雪香の顔貌に優しく降り注いだ。
太陽の光が染めたかの如き艶やかなセミロングの栗色の髪、くっきりとした薄い二重瞼、黒く清らかな長い睫、
丹花のように可憐な唇、綺麗に象られた鼻梁。明眸皓歯だ。朧と出会う前も美しくはあった。だが今のような華やかさがなかった。
それは明るさだ。あの病的な美はすっかりナリを潜め、雪香は健康的な笑みを振りまくようになった。
雪香が少女本来の笑みを取り戻した理由──それは朧に対する恋であり愛だった。
ダイニングの脇から朧は雪香を盗み見た。今の雪香には華やかさがある。それでも朧は思い出すのだ。
あの時嗅いだ色香を。腐臭を。絶望的な孤独の中に感じた雪香の腐敗じみた色香。あの匂いはどこへいったのだろうか。
何故、雪香は狂っていたのか。当初、朧は雪香の孤独の苦しみが理解できずにいた。いくら思案を巡らしてもわからないのだ。
孤独が理解できないのではない。孤独である事に何故苦痛を感じるのかだ。朧も孤独だった。
しかし、孤独である事を寂しいと思った事も無ければ、苦痛を感じた事もなかった。朧は孤独を愛していたのだ。
孤独とはいいかえれば自由。しかし、雪香と暮らすようになってその苦しみがわかりかけてきた。
孤独は二種類存在するのだ。他人から強制された孤独か、自分で選んだ孤独か。
朧は自分で孤独を選んだが、雪香のそれは他人から強制されたものだった。強制された孤独はつらく悲しい。
強制された孤独は人の心を腐らせる。雪香にとって生き地獄とは恐ろしく静かな場所なのだろう。
エプロンをつけると雪香は食事の準備にとりかかった。鍋に水を汲んでお湯をわかし、大さじ二杯ほどの塩を混ぜる。
お湯が沸騰すると次はスパゲッティのパスタを茹でながら、少量のオリーブオイルをひいたボウルと作り置きのミートソースを横に置いた。
丁度いい茹で具合になったパスタをトングで掴み、ボウルに移した。その上からミートソースをかけて絡ませてから皿に盛り付ける。
肉汁たっぷりの湯気をくねらせるパスタからは食欲をそそる匂いがした。ソースをすくって舐める。隠し味に加えたトマトの酸味が爽やかな味わいだ。
テーブルに皿を乗せて雪香が朧を呼びにいこうとしたが、朧はすでに階段を下りてキッチンの前に来ていた。
イスには座らず、朧が立ったままでパスタを飢えた野良犬のようにかぶりつく。さながら地獄の餓鬼だ。
フォークを突き刺すと一気に口に運び、一心不乱に咀嚼する。ミートソースが唇を茶色く濡らした。肉汁が顎の周りを汚す。
そんな朧を雪香はテーブルに肘をつけてニコニコと笑いながら見つめ続けた。雪香は何も言わない。
朧が何をしようが、無言で微笑を浮かべるだけだ。
中々の早食いだった。朧が三人前のパスタを完食するに要した時間は実に四十八秒だ。雪香がエプロンと服を脱いだ。
鍵を取り出して朧の片方の手錠をはずし、自分の手首にかける。
「ねえ、キスしていい?」
悪戯っぽく微笑みながらキスをせがんだ。唇を重ね合わせ、雪香が舌先を朧の口腔内に入れる。
狂おしい感触に雪香は恍惚の表情を張りつかせた。

81 名前:ラック ◆duFEwmuQ16 [sage] 投稿日:2007/03/27(火) 00:07:54 ID:RI+ri3es
粘った唾液がミートソースと絡みつく。雪香は朧の唾液を呑んだ。唾液が喉を通って滑り落ちる。
ふたりの指先が互いのアヌス周囲の麝香分泌線を探る。
雪香にとって最高のコミュニケーションとはセックスだ。言葉は何の意味もない。言葉はうそをつくからだ。
だから雪香は言葉を信用しない。
ディザイア──この肉の交わりこそが全ての真実であり、なにものにも勝る。嗅覚、体温、視覚、感触、快楽だけは嘘をつかない。
百の愛の言葉を送られるよりも、一度のセックスのほうが魅力的だ。雪香は手錠をかけた掌を強く握った。
ドクッ、ドクッと心臓が胸板を激しく乱打した。
めまぐるしい甘美さが内部を駆け巡った。身体が熱く火照る。朧の唇を一層、激しく求めた。求め狂った。
熱い舌が絡みつく。
雪香は舌で朧の存在を実感した。母の面影を追っていた雪香は当初、朧を母の代わりと愛していたが、今はひとりの人間として心から愛していた。
いや、それも正確ではない。人はやはり過去の呪縛からは逃れられない。朧と肌を合わせると、心のどこかで母の温もりが喚起する時がある。
雪香は元々レズビアンだ。朧に出会う前は男に興味を持つ事が無かった。出会った時も最初は異性として認識していたとはいい難い。
雪香がレズビアンに走ったのは未だに母親離れできないせいだった。朧の言葉を思い出す。
『俺はお前の母親の代用品じゃない』
その一言が雪香に何かを目覚めさせたのだ。朧に対する茫洋とした性の認識が定まった。唇を離した。欲情に濡れ輝く雪香の瞳。
「今日はこっちでしようか……」
しなやかなタッチで朧のペニスに触れた。柔らかい肉茎を指弄して雪香は楽しむ。徐々にペニスが硬度を増していった。
「雪香がしたいことをすればいいよ。俺はどっちでもかまわない」
高鳴る胸、女の肉裂が熱く疼いた。ふたりは床に身体を横たえ、もう一度キスを交わす。ペニスを握ると雪香は膣口に導いた。
最初は鈴口で自分のクリトリスを弄り、温かい蜜液で秘所をトロトロに濡らしてから挿入する。
「ああ……ッ」
半ばほど没したペニスを締めながら、雪香は自ら腰を動かした。朧の薄い胸板に噛み付く。痛みに朧は僅かに表情を曇らせた。
「美味しい……」
「痛いからあんまり強く噛むなよ」
「……ごめん」
謝りながら朧の薄桃色の乳首の幹を甘く愛咬する。形の良い乳房が小刻みに揺れた。雪香の息遣いが荒くなり、美しいラインの眉根が歪んだ。
「んんん……ッ、ああ……あああッ」
膣壁がペニスを擦るほどに、朧は亀頭の先端に熱い血流を感じた。汗が額に浮かぶ。こめかみから頤を伝わって汗がこぼれた。
「はあぁぁ……もっと、もっと奥に欲しい……ッ」
雪香は呻くように呟くと腰をさらに密着させてペニスを割れ目の奥へと呑みこむ。膣内は激しくうねり、せり上がった恥骨が当たる。
「もう、もう駄目……あああッ」
おびただしい愛液を股間をまみれさせながら、雪香は激しく腰を荒打ちさせた。背筋に凄まじい喜悦が走った瞬間、ふたりは達していた。
*  *  *  *  *  *
ベッドで安らかな寝息を立てる雪香の頬を朧は軽く舐めた。隠し持っていたを後ろ髪から抜く。手錠の鍵穴にヘアピンを差し入れた。
小さなレバーの部分をヘアピンで回す。はずれた手錠から手首を引き抜いた。雪香が起き出さないように静かにベッドから降りる。
クローゼットからトレンチコート、書斎から本を一冊失敬する。久しぶりに外の世界を見たかった。玄関を開けて外へと出る。
庭に視線を向けた。ドーベルマンは吠えもせず、ただ朧を見つめた。何かに誘われるかのようにふらふらと朧は道玄坂方面に足を運んだ。
気が向けば帰ってくるし、気が向かなければ帰らない。糸が切れた風船のように風の向くまま気の向くまま、自分の本能に従って朧は行動する。
東に風が吹けば東に飛び、西に風が吹いたら西にいく。流れ流れてこの世を漂い、好き勝手出来ればどこで野垂れ死にしようが一向に構わない。
須臾の時間、この刹那の時だけを生きる。昨日も無ければ明日もない。
明日を信じたところで何が起こるかわからない。昨日を振り返ったところで、過去が変わるわけでもないのだ。
明日という予測のつかないモノを信じてストレスを抱え、己を殺して生きるよりは今日を好きに生きて明日死んだほうがいい。

82 名前:ラック ◆duFEwmuQ16 [sage] 投稿日:2007/03/27(火) 00:10:03 ID:RI+ri3es
気に入らない奴はぶちのめし、欲しいものがあれば盗んででも手に入れる。朧は自分に対して嘘はつかない。
その考えは到底、社会に受け入れられるものではない。反社会的とさえ言える。だから朧はつねに独りだった。
集団の中にいれば何かと煩わしいからだ。
下は裸のままトレンチコートを一枚羽織って、暁闇に包まれた住宅街を横切る。当たり前だが人通りは途絶えていた。
夜空を見上げた。星一つ見えなかった。
「ああ……はらへった」

「親分さん、色突き終わりましたよ」
彫菊に声をかけられた初老の男が布団から身を起こした。歳を食ってはいるが、男は壮健そのものの身体つきをしていた。
実際の年齢より十五歳は若く見える。太鼓腹だが、相撲取りのように脂肪の下には厚い筋肉が隠されているのが彫菊にもわかった。
男の眉は太く一本に繋がっており、一重瞼の金壺眼に顔面の中央にどしっと座った低い団子鼻という異様だが精力溢れる面貌だった。
鯉に金太郎の彫り物を背中に背負うこの男は、関東では有名な金看板を掲げてた一家の総長だ。
本来ならば、たかが七年そこらの駆け出し彫師に毛の生えたような彫菊に声をかける人物ではない。
彫菊の師匠筋に当たる人物と総長との付き合いが深く、ある席で師匠に紹介されたのが縁を持ったそもそものはじまりだった。
「十八年ぶりの色突きはきついよ。やっぱり私も歳だねえ。だけど若い娘さんにやってもらうとなんか若返った気分になるよ。
特にあなたみたいな綺麗な娘さんにしてもらうとね」
「いえ、とんでもありません」
大島紬の袴を着ると叩いた。若衆らしき黒服の青年が襖を開けて部屋に入ってくる。
「総長、彫菊さん、お疲れ様です」
三つ指を突いてふたりに向かい深々とお辞儀をする青年に総長は温和な微笑を投げかけた。屈託の無い笑みだった。
「ご苦労さんだね。ちょっと忙しいと事悪いんだけど、彫菊さんを家まで送ってやってほしいんだよ」
「はい、わかりました。ではどうぞこちらへ」
青年が車庫まで案内するとベンツのドアを開けて、彫菊を車内に促した。
*  *  *  *  *  *
スツールに腰を下ろして彫菊はウイスキーの水割りを頼んだ。肩の荷が下りた気分だ。流石にあれほどの大物と会うと緊張する。
マスターが運んできた水割りを三口で飲み干すと彫菊は水割りのお代わりを頼んだ。あの少年──朧の事が気にかかる。
不思議な少年だった。美しい顔と肌の持ち主だった。金と食事を与えるから背中に刺青を彫らせてほしいと頼んだら自分についてきた。
すでに半金を支払ってはいたが、残りの金を受け取りに来ない。今頃どこで何をしているのか気がかりだ。
堅気ではないだろう。かといってヤクザでもない。今まで見てきた人間のどのタイプにも当てはまらないのだ。
しいていえば小学生の時に飼っていた黒猫に似ていた。濡れ羽色の毛並みをした細身の綺麗な雄猫だった。彫菊はこの猫が好きだった。
美しかったからだ。半年ほどしてから家から居なくなってしまい、泣きながら日が暮れるまで探したのを覚えている。
彫菊が彫師の世界に身を投じたきっかけ──それは飼っていた黒猫に右腕を引っかかれた事が引き金だった。
鋭い爪が肉を引き裂く灼けるようなあの痛み。腕に残った傷の跡。傷とは、痛みとは何なのだろうか。
幼いながらに彫菊は痛みについて頭を絞って思い集んだ。英国の詩人フランシス・トムソンはこんな詩を残している。
『全ては呻きではじまり、呻きで終わる。人生は他人の痛みで始まり、自分の痛みで終わるのだから』
では傷跡とは何なのか。傷跡──それは痛みの痕跡だ。傷跡はしばしば他人に苦痛を喚起させる。しかし美しくは無い。
美しい傷跡など彫菊は見た事が無かった。仮に美しい傷跡があったとしよう。だが、大部分の傷跡は醜い。
出来る事なら美しい傷を身体に残してみたかった。そしてたどり着いたのが刺青だった。


83 名前:ラック ◆duFEwmuQ16 [sage] 投稿日:2007/03/27(火) 00:12:52 ID:RI+ri3es
投稿完了。
器とは一度ヒビが入れば二度とは……二度とは……

84 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/27(火) 03:36:37 ID:fdtPuEyf
俺的熟女ヤンデレはこんな感じ

ある若いカップルが結婚式を行う。
カップルはお互い愛しあっていた。
ところがハネムーンで新婦の目の前で、新郎が不慮の事故で亡くなる。
かくして新婦は若くして未亡人に
(この時のショックで新婦は自分を責め、しばらく人間不信になる)

数年後、未亡人の隣に越してきた若い男が挨拶に来る。
若い男は、数年前に亡くなった夫に瓜二つだった。
これは運命だと、数年間溜めに溜めた自責の念を、若い男を籠絡する事に注ぐ。
青二才の男の体を、熟れた女の肢体が貪り喰らい尽くす。

85 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/27(火) 04:43:32 ID:9Zsedw4q
>>83
続編ktkr!
文体に独特の雰囲気があってイイ!
てかここからさらにヤンデレ分強くなるのかwktk

>>84
そーいえば昔中年のおばさんが主人公に惚れてしまって
ライバルに勝つために周囲の人間から「美しい体のパーツ」を集めて
それで作った新しい体に人格を移して絶世の美女になる……
というエロゲがあったな。今思えば立派なヤンデレだった

86 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/27(火) 06:08:57 ID:ve4KSm9d
>>85
アリスのDr.stopだな。言われてみればあの婦長はヤンデレだ。逆光源氏やってたし。

87 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/27(火) 17:47:16 ID:eoMttp5n
タワシコロッケはヤンデレ的ですか?

88 名前:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/03/27(火) 20:01:24 ID:ZX4xyh8k
第七話を投下します。

89 名前:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/03/27(火) 20:03:32 ID:ZX4xyh8k
第七話~にらみ合いと、秘められた伝言~

従妹が通っている大学の先輩が、以前に一度だけ会ったことのある女性だった。
今日俺が大学に来ているのは華に無理やり連れてこられたからなのだが、
そこで菊川かなこさんに会うとは予測も予想もしていなかった。
しかも、かなこさんと華は先輩・後輩の仲らしい。
こんな偶然が起こる確率はどれほどのものだろう。
数値化することはできるのだろうか。
できるのならば、導き出すための数式を誰かにご教授願いたい。

俺は、完全な予測を立てるのは不可能だ、と考えている。
天気予報の降水確率などは信じられないものの代表格だし、
いくら綿密にNASAが計算したところでシャトル打ち上げの成功を保証することなどできない。
正しい数値を入力すればコンピュータはそれに合わせて答えを出してくれる。
そうすればスペースシャトルの打ち上げは100%の確率で成功するだろう。
だが、ここで疑問がわいてくる。

その正しい数値をどうやって割り出せばいいのか?
その数値とやらは本当に正確なのか?
そしてコンピュータの計算式に不備は無いのか?
なにより、それらが正しいということを証明するものなど存在するのか?
それらはすべてが曖昧なものでしかない。
正しいものなど、科学においては存在しえない。
「科学が正しいということを証明する科学は存在しない。
なぜならば『証明する科学』が正しいと『証明する科学』が存在しないからだ」
というやつである。

物事の予測を計算式でまかなおうというのが無理なのだ。
どこかで妥協をするしかない。
降水確率が0%でも折りたたみ傘を持ち歩いたり、
シャトル自体に不備が無いよう点検・整備をしっかりと行うのが望ましい。
そして俺はその通りに、人生を妥協して生きていこう……と考えていたが、
人間関係において妥協しようとしなかったのはなぜだろう。
……若気の至り、ということにしておくか。

俺の性格は予測することには向いていない。
深く考えずにその時、その場の状況に合わせて動くほうが上手くいく。
考え始めると思考のベクトルが予測外の方向へと突き進み、行動もおかしくなる。
そのせいではないのだろうが……現在、俺は全く予測のつかなかった状況に置かれている。

自ら企業を退職したフリーターであるどこにでもいるような24歳の俺が、
普段ならコンビニの事務所でのんびりと昼食をとっている正午に、
従妹に連れてこられた俺とは全く縁の無い大学の中庭で、
男装の変人と不必要な会話をしている間に従妹の魔の手から逃げ遅れ、
従妹で幼馴染である現大園華と、その言動が全くの予測外である変人の十本松あすかと、
顔見知りであること自体があり得ない良家のお嬢様である菊川かなこさんと昼食を食べることになった。

こんな事態に俺が陥ることを予測していた者がいるとしたら、神か仏かお天道様だ。
三人いるんなら誰か一人ぐらい教えてくれてもいいのではないか、と思う。

90 名前:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/03/27(火) 20:04:15 ID:ZX4xyh8k
大学の中庭は日当たりがよく、食事したり、昼寝をするには最適の環境だ。
おあつらえむきに数人で食事ができるようなテーブルまで設置されている。
さすがにハンモックを用意するほどに酔狂ではないようだが、
木製のテーブルだけでも充分気が利いていると言える。

華から渡された弁当箱を、膝の上からテーブルの上に移動させる。
弁当箱を持ち上げたときに思ったことは「これは中身が詰まっているな」だった。
普通ならばそれは喜ぶべきことなのだろうが、いささか多すぎるような気もする。 

俺から少し間を空けて左に座っている華の表情は緊張していた。
ときおり、ちらちらと俺の手元を見ている。
自分の顔が見られていることに気づくと、ごまかすようにそっぽを向いた。
空色のリボンが華の流れるような長い髪をまとめているのが見える。
「遠慮せずに食べていいですよ。おなか、すいているでしょう?」
「ああ」
別に遠慮しているわけではない。
いったいどんなものが入っているのかと不安で、蓋を開ける気にならないのだ。
しかし、躊躇ったところで結局はこの弁当の中身を腹に収めるまでの時間を延ばすことにしかならない。
「おや、食べないのかな? それとも食べたくないのかな?
それはよくないね。まだ若いのに、健康体なのに、そのうえ男なのに。
もしかして君は見た目より年をとっていたり、不治の病に冒されていたり、女だったりするのかい?」
テーブルを挟んで向かい側に座っている十本松が、無駄に長い台詞を吐き出した。
「……あえて返答するが、お前が言ったことのいずれも正解ではない」
俺は女ではないし、この弁当はもちろん食べる。
しかし食べたくない、というのは少しだけ当たっている。
いくら俺が食べたくないと思っても、食べなければならないのだが。
「わたくしたちに気を使わずに、お先に召し上がってもよろしいのですよ」
左斜め前には、どこまでも礼儀正しい佇まいをしたかなこさんが座っている。
彼女の席には藍色の布に包まれた四角形のものが置かれている。
「かなこさんもお弁当なんですね」
「はい」
「自分で作ったんですか?」
「こう見えても、料理を作ることが趣味でございまして。
将来、殿方となった男性には毎日毎食手料理を食べていただきたいですから」
俺の顔を見ながら、かなこさんが微笑んだ。
そんなことを言いながら微笑まれたら、好意を向けられていると勘違いしてしまいそうだな。

「よっし……」
俺の胸の前に置かれている弁当を食べる覚悟は、たった今決まった。
こういうのは躊躇うより、さっさと行動して、さっさと終わらせてしまうほうがいい。
蓋の上に手を置く。そして、一瞬の躊躇のあとで、その手を持ち上げる。
あらわになった弁当箱の中身を見た俺は、あっけにとられた。
きつねの色をしたご飯の中に、細長く切られたごぼう、きざまれている人参、
小さな四角形になったこんにゃく、鶏肉が入っている。
ところどころに、いんげんがアクセントのようになって点在している。
「これは……五目ご飯か」
「私が一番得意な料理なんです。
何を作ればいいか迷ったからそれにしたんですけど、おにいさんはそれ、嫌いですか?」
「特に嫌いってわけじゃない。
……が、一つ聞きたい。何故それがぎっしりと弁当箱につめこまれているんだ」
手元にある弁当箱のサイズは、横に30センチ、縦に20センチ、高さは6センチほど。
かなり大き目の弁当箱であるが、中身の全てを五目ご飯が埋め尽くしている。
これを俺一人で食べろというのだろうか。
「可愛い従妹である、華君が作った料理だ。
もちろん米の一粒すら残さず、具のひとかけらも残さず食べるのだろう?」
「……ああ、もちろんだ」
途中で倒れたりしなければな。

91 名前:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/03/27(火) 20:06:02 ID:ZX4xyh8k

両手を胸の前にあわせ、割り箸を親指とひとさし指の間に挟む。
手が軽く震えているせいで、箸がぶれて見える。
「い、いただきます」
左手で少し重い弁当箱を支えて、五目ご飯に箸をさしこむ。
箸を使ってちょうどいい大きさに分けようとするが、かたくて、なかなか細かくなってくれない。
華のやつ、かなり力を込めて押し込んだな。
いったいどれだけの量を炊いてこの中につめこんだんだ。
「この、こいつ。さっさと……よし、これなら食べられる」
苦戦しつつも、一口に収まる大きさの五目ご飯の塊を分けて、箸の先端でつまみ口に運ぶ。
おそるおそる、舌でその味を確かめる。
「……ん……ぅむ、うん……」
「どうですか、味の方は?」
華が緊張のおももちで、感想を求めてきた。口の中のものを飲み込んでから答える。
「まともな味……じゃなくて、ちゃんと味がついてるな」
「お、美味しいです、か?」
……言ったほうがいいんだろうな。恥ずかしいけど。
「うん。自信を持つだけあって上手に作れてるな。
美味いぞこれ。本当に上達してるんだな」
そう。まったく予想外の美味さだった。
ご飯にはもちろん味がついているし、鶏肉の歯ごたえも感じられる。
初めて作った人間であれば、ここまではうまく作ることはできないはずだ。
「これなら全部食べられるよ。ありがとな、華」
弁当箱を持つ左手に重さを感じさせない程度の量にしてほしかったが、あえて言わないでおこう。

褒められたことがよほど驚きだったのか、しばらくの間目を大きく開けていたが、
次は口をぱくぱくと小さく動かし始めた。
「へ、ぁ……ぁぅ……ぁりがと、ございます。おにい……さんん……」
そう言うと、また俺に顔を背けた。華の耳が、きもち紅くなっている。
……そういえば、昨日、華は俺のこと好きだって言ったよな。
いかん。思い出すと、なんだか華が可愛く見えてきた。
まだ二月なのに、体がほてっている。
おまけに、胸の奥がなんだかむずがゆい。なんだか、これって……
「うぅーむ。まるで思春期の中学生のような光景だね。
憧れの先輩にお弁当を作る健気で、無垢で、穢れの無い女子生徒と、
野獣のごとき食欲と、恥ずかしい台詞を人前で言える心臓を持った男子生徒。
そのままお弁当と一緒に華君を食べたりしないでくれよ。
食べるんなら私もぜひ混ぜてくれ。混ぜ込んでくれ。そう、わかめごはんのように!」
「俺の思考を読むな、この変人!」
「ほう。君は、私と華君と君の三人で混ぜ込まれたかったのかい?」
「断じて違う!」
「せっかくの誘いだが、断らせてもらうよ。私にはかなこという名前の婚約者が……」
俺の言葉を無視して、十本松がかなこさんの肩に手を乗せた。


92 名前:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/03/27(火) 20:07:04 ID:ZX4xyh8k

しかしすぐさま、自分から手を退けた。
「おやおや、これはこれは……」
そう呟きながら、今まで十本松は一度も見せなかった苦い色を顔に張り付かせて笑った。
その理由は、かなこさんの雰囲気が先刻とまるで異なっていた、ということ。
目を細めて、頬を少し緩ませて薄く笑っているが、何かが違う。

「ふふふ……ようございましたね。雄志さま。
華さんに美味しいお弁当を作っていただいて。
仲のよろしいお二人を見ていると、こう……えも言われぬ気分になりますわ」
どんな気分なのかは明確に口にしなかったが、なんとなくわかる。
「華さんにここまで仲のよろしい男性がいらっしゃること、とても嬉しく思います」
彼女は、面白いなどとは、嬉しいなどとは思っていない。
声を聞いていれば、分かる。
初めて会った日と同じだ。
料亭で食事したときに豹変した彼女の声と、今の台詞。そのトーンとアクセントのつけ方がまるで同じなのだ。
低いトーンと、強いアクセント。
聞く人間に訴えかけるような、強く、はっきりとした、忘れさせまいという意思。
それを言霊にして、俺に――俺だけに、ぶつけてくる。

「聞いてくださいまし。
華さんは大学では男性とまったくと言っていいほど会話をされないのです。
わたくしはそれをいつも気にかけておりましたが、すでに仲のよい男性がいらっしゃったのですね。
ふふふ……それが、まさか雄志さまだとは米粒ほどにも思いませんでした」
かなこさんは弁当箱から一粒の白米を箸でつまみ、美しい顔の前にそれを構えた。
その箸の先端と、米粒が俺に向けられる。
「どうかされましたか? ふふふ……」
目を反らせない。
彼女の目の輝きから目が離せない。
かなこさんは俺の目を見つめているから、当然彼女の目には俺が映りこんでいる。
その目を見つめていると、まるで俺自身が瞳の中に閉じ込められたのではないかと錯覚してしまう。
「お口を、開けてくださいませ」
言われるがまま、反射的に上下の唇を離す。

ひゅっ

彼女が着ている服の袖が、空気を切るような軽い音を立てた。
かなこさんが身を乗り出し、右腕を突き出して、俺の口の中に箸の先端を入れたのだ。
もちろん、箸は口内のどこにも当たっていない。口内の空間でどこにも触れずに停止している。
冷や汗が流れる。息ができない。
もし動いたら、そのまま右腕を動かされて、箸の先端を喉の奥に突き刺されそうな気がしたから。
「ふふ……」
かなこさんが静かな声を漏らした。
声を漏らしただけで、笑ってはいなかった。
目は大きく開き、まばたき一つしない。
俺の目と、脳を貫いて、後頭部に穴を開けてしまいそうな――恐ろしい瞳だった。


93 名前:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/03/27(火) 20:08:27 ID:ZX4xyh8k

「かなこさん。そこまでです」
唐突に、華の声が割り込んだ。いや……華が出したのか、今の声は?
「おにいさんに変なことをするのは、やめてください。
いくらかなこさんが相手だとしても、それ以上何かするというのなら、怒りますよ」

――刀。

その声を聞いて思い浮かべたのは、緩やかな曲線を描き、
見ているだけで喉元を捉えられているような錯覚と緊迫感を与える、美しい刃物の姿だった。
かなこさんと同じく、華の声までもが異質なものへと変貌していた。

肉体と思考を捕らえて動けなくしてしまう、かなこさんの声。
遠く離れていても、それすら無視して射抜かれてしまいそうな、華の声。

そして、俺はその声の持ち主たちが手を伸ばせば届きそうな距離にいる。
完全に、動きを封じられた。
たった今かなこさんに箸を突きつけられているというのもあるが、もうひとつ。
「おにいさんに危害を加えるというのならば、私は……」
今の華を刺激したら、まずいことになる。
『下手に動いたら彼女のなにかが爆発する』、と直感が告げている。
それが何なのかはわからない。だから『なにか』という曖昧な、抽象的な表現しか出来ない。
だが、華から噴出している気配から察するに、暴力的なモノであることは間違いない。
その矛先は、確実にかなこさんへと向けられるだろう。
それだけは防がなければならない。
そしてそんな事態に陥るのを防げるのは俺しかいない。
顎に手を当てて苦笑いを浮かべている十本松など当てにならない。

『かなこさんの悪ふざけを止める』。
それが今の俺に考えられる最良の事態打開策だ。
まず、かなこさんの手を退ける。
次に、華を冷静にさせる。
単純だが、この手順でいくことに決めた。
(よし……!)
空いている右手を動かして、かなこさんの腕を握った。
――つもりだったが、俺の手はただ握り拳を作っただけだった。
気がついたら、目の前にいたはずのかなこさんは元の位置に戻っていた。

彼女は手元にある弁当箱を布でくるんでいた。
藍色の布でしっかりと結び目を作り終わった後で、鈴の鳴るような声を出した。
「ふふふ。華さんは本当に可愛いですわね」
いつもの穏やかな微笑みで呆けている俺と、険しい顔のままの華を見つめている。
「冗談ですわ。あまりにお二人が仲良くされているものですから、つい」
かなこさんは穏やかな口調でそう言ったが、華の表情は依然険しいままだった。
「……冗談が通じない場合もあるということをかなこさんは理解した方がいいですね。
すみませんけど、私はこれで失礼します!」
華はテーブルの上に広げていた弁当箱を手早くしまうと席を立った。
「ちょっと、待て!」
「おにいさん。弁当箱は私の部屋の前に置いててください。……それじゃ」
静止する俺の声を聞かず、華はその場から立ち去った。

その時の華は、額に軽くしわを寄せて、奥歯を強くかみ締めて、怒りを押さえ込んでいるように見えた。


94 名前:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/03/27(火) 20:10:14 ID:ZX4xyh8k

立ち去っていく華の背中を見送っていると、いままで黙っていた十本松がようやく声を出した。
「雄志君。君も大変だな。同情はしないが、苦情は出そう。
なぜ君だけがそんなにモテているのか。これこそ、恋愛格差だと私は思うよ。
毎年の賃金闘争でも取り上げるべき案件だね」
「…………」
「黙ってろ。つっこむ気分じゃない」と言ってやりたいが、生憎そんなことを言う気分ですらなかった。
華はというと、近くにある建物のドアを勢い良く開け放ち、中へと入っていくところだった。

「……」
かなこさんも立ち去る華の背中をじっと、物憂げな瞳で見つめていた。
もちろんこうなった原因は彼女にあるわけだが、その目を見ていると責めることがためらわれた。
「申し訳ありませんでした。
また、雄志さまを不快な気分にさせてしまって……」
なぜか、彼女が俺に向かって頭を下げた。俺に謝ってもらっても困る。
「俺じゃなくて、華に謝ってやってください。
あいつは結構意固地だから、こうなるとなかなか口をきかないんです。
だから、かなこさんの方から声をかけてくれませんか?」
「……わかりました。雄志さまがそうおっしゃるのでしたら、そのようにいたします」
かなこさんはトートバッグの中に弁当箱を入れると、ゆっくりと立ち上がった。
「それでは、わたくしはこれで失礼いたします。ごきげんよう。雄志さま」
両手を腰の前で合わせて、俺に頭頂部を見せるように礼をすると、
かなこさんは華の通ったドアの方へと向かっていった。

華とかなこさんが居なくなり、中庭のテーブルの前に残っているのは二人だけになった。
「ここ、途端に色気がなくなったな」
と、俺から十本松に話を振ってみる。
「まったくもってその通りだ。
雄志君、何故君が色気を持ち合わせていないのかと不思議でならないよ」
「俺が持ってても仕方ないだろ、それ。……むしろ女のお前が持っていて然るべきだな」
「何を言っているんだ。私が男を惑わす色香をぷんぷんと匂わせていたら君に襲われてしまうじゃないか。
そうなったらかなこと海の見える教会で愛を誓うことすらできないだろう? 私は浮気はしない性質でね」
こいつは本気でかなこさんと結婚するつもりでいるのだろうか。
その口から飛び出す無駄な喋りのように、悪い冗談だとしか思えない。
十本松だって顔立ちは悪くないんだから、黙ってさえいれば男が寄ってくるだろうに。

そもそも、なんでこいつは男装なんてしているんだ。
性癖か?お遊びか?罰ゲームか?
それとも悪い病気にでもかかっているんだろうか。
「なんだい、さっきからテーブル越しに私の顔を見たり肩を見たり胸を見たり。
立ち上がってくれ、なんて言わないでくれよ。君に全身を視姦されるのは御免だからね」
「全力で否定させてもらう。
何でお前が男装なんてしているのか、って疑問に思ってな。観察してただけだよ」
一番気になる疑問をぶつけてみる。
また訳のわからない、意味を成さない返事が返ってくるかと思ったが、
俺の目をじっと見つめたまま、顎に右手を添えた格好で沈黙していた。


95 名前:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/03/27(火) 20:12:51 ID:ZX4xyh8k

「メッセージだよ」
声の調子はそのままに、十本松が簡潔な返事をした。
「メッセージ?」
おうむ返しに聞き返す。
「伝言だよ。かなこへ向けた、ね」
ジャケットの襟を正し、ネクタイを軽く左右に動かしながら言葉を続けた。
「伝言の内容は……私はある人物に成り代わっているんだぞ、というところかな。
つまり、『十本松あすかは誰かに成り代わっていることを、かなこへ暗に伝えている』。ということさ」
テーブルに両肘をつき、組んだ両手の上に顎を乗せてから、十本松の台詞は終わった。
それで充分だと言わんばかりににやけた笑いを浮かべているが、俺にはさっぱり理解できなかった。
「……お前が、かなこさんの昔の恋人の振りをしているとでも言うのか?」

俺の言葉を聞いて肯定なり否定なりの言葉を返してくるかと思いきや、
右拳を唇に当てて、細い肩を揺らし始めた。
「ふ、ふふふふふふふふ。……ははははは、あっはははははは!
ははは……違う。まったく違う。
携帯電話とPHSは違う、というぐらいに違う答えだよ」
首を右に振り、左に振り、もう一度右に振ってから俺の顔と向き合った。
「じゃあ、いったいなんだって言うんだ」
「人に聞く前に、自分で考えてみたらどうだい?
……と言っても、ヒントなしではわかるはずも無いね」
右手をジャケットの内側に入れて、四角形をしたもの――1冊の本を取り出して、
テーブルの上に置いた。

大きさは文庫本程度。青い背表紙はところどころ破けていて、
タイトルのようなものは記されていないという、本かどうかも疑わしいものだった。

それをテーブルの上でスライドさせるように動かして、俺の前までたどりついたら、
這うような緩慢とした動きで右手を戻す。
テーブルに左肘をついて左手に顎を乗せたまま、こう言った。
「その本を君にあげるよ。とても面白い本だから、熟読してみるといい。
心が熟れて、膿んで、腐ってしまうほどに読みふけるがいいさ。フハハハハハハ!」
わざとらしい笑い声をあげた後、十本松は立ち上がった。
そして、細い指を全てまっすぐに伸ばして肘を90度に曲げ、腕を振りながら走り去った。

奴まで走り去った後その場に残っているのは、俺と、華の作った弁当と、十本松からもらった本だけだった。

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少し短めですが、投下終了です。

96 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/03/27(火) 20:13:51 ID:Sz/kwEqI
間が開いて申し訳ありません
投下します


97 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/03/27(火) 20:15:12 ID:Sz/kwEqI


――生首が其処にある。

瞳、瞳、瞳が見ている。ただの球体になりはてた眼球がまっすぐに見てくる。いや、神無士乃の眼球
は僕を見ていない。ただ、こっちを向いているだけだ。その瞳にもう意思はない。意志を造るのは脳味
噌で、けれど脳味噌へと血を送るための器官は首から切り離されて遠くへ遠くへ遠くへと去って行先を
うしなった首の血管からはだらだらとだらだらだらと零れ落ちる雫の色は赤で神無士乃の体は人間型か
ら球体へと変わってしまった骨の白い断面が神経を縺れながら地面に垂れて床に赤い赤い赤い赤い赤い
血が血が血が地面へと零れて――
神無士乃の生首。
生首が、そこにある。
生首が、僕を見ている。
僕を、僕を、神無士乃の生首が見ている――
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
口から漏れる悲鳴が自分のものだとは気付かなかった。気付けるはずもない。声はもう声
でもなんでもなくてただの音の塊として喉が震えるだけで震える喉は痛くてその痛みに狂い
そうになって既に狂っていることを思い出して僕は僕は狂気からひっくりかえって正気へと
戻ったせいでクルってしまう。
くるくると狂う。
くるくると回る。生首が回る。
神無士乃の生首が。
生首。
それは、首だ。
首だけだ。
体から切り離されて、首だけだ。
体。
体はどこだ?
神無士乃の体はどこにある?
離れてしまったなら、くっつけないと。くっつけないと、離れてしまう。
永遠に。
命が、遠くへ。
遠くへ、逃げてしまう。
逃げる。
逃げ水。
逃げ水のような、血の池が。
神無士乃の――血液が。

「声が、声が、声がよく響くものだね里村くん」

あああ、という音を貫くようにして声。僕の声でも生首の声でも、生首を前にして
茫然としている神無佐奈さんの声でもない。
聞き覚えのある声。
聞き忘れることのない声。
如月更紗の――声。
「こんな、こんな、こんな夜中に騒いでいては――鬼が出てしまうよ、蛇が出てしまうよ」
すたんと。
声と共に着地してきたのは、男性のようなタキシード姿に身を包む少女。肩甲骨のあたりまで伸ばされた黒い髪。
白いはずのシャツには返り血がついているせいで、赤い水玉模様に見えた。
その手に持っている長い長い長い、30センチものさしをかみ合わせたような大鋏も血に濡れている。
赤い血だ。
神無士乃の――赤い血だ。
大鋏は、血で濡れている。

あの鋏が、神無士乃の命を刈り取ったのだ。

それ以外に、考えられるはずもなかった。


98 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/03/27(火) 20:16:08 ID:Sz/kwEqI

「大丈夫かい、大丈夫かい――里村くん。そんな姿をして」
言いながらも如月更紗は近づいてこない。上へと昇る梯子に背をかけ、足を斜めに交差させ
て寄りかかっている。右手には何も持っていない。白手袋には何も持っていない。ただし左手
の手袋の色は赤く染まっている。
左手に持つ鋏と同じように。
大鋏は、赤く血に染まっている。
「如月――更、紗」
「その通り、その通りだとも里村くん。如月更紗さ。そして――」
――マッド・ハンターだ。
くるぅりと。
左手に持った鋏を如月更紗は――いや、マッド・ハンターは回転させた。鋏先についた血が
跳び、黄い地面に水滴の跡をつける。暗すぎて、それが赤なのか黒なのか判然としない。
赤黒い。
赤くて、黒い。
マッド・ハンターの姿のように。黒いタキシード姿が、なぜだか、赤いタキシード姿に見え
てしまう。
血に――染まっている。
血に、染まりきっている。

「士乃、士乃ちゃん……? 士乃ちゃん……、士乃、ちゃん……」

神無佐奈さんが、動いた。
へたりこんだまま、立ち上がることすらできずに――けれど、自分の娘の名前を呟きながら
這いずり始める。ずり、ずり、と、冷たく痛いだろう床とすらいえない地面の上を、神無佐奈
さんは這う。服が汚れるのも肌がすれるのも気にしていない。僕の姿も、侵入者であるマッド
・ハンターの姿もみえていないだろう。
一心不乱に。
乱心不和に。
自分の娘のもとへと。
自分の娘だったものへと。
這っていく。
「士乃ちゃん……?」
それが、そうであると認識できないのかもしれない。
問いかけるように言いながら――神無佐奈さんは、神無士乃の生首の元へと、這って行く。
その先に待つのは。
「ふぅん――」
生首と、這う神無佐奈さんを、見下ろすマッド・ハンターがいた。


99 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/03/27(火) 20:17:10 ID:Sz/kwEqI

「――ふぅん」
呟いて。
こつん、と、マッド・ハンターは脚を動かした。組んでいた足が前へと伸び――地面に転が
っていた神無士乃の生首を爪先でつつく。あと一歩――あと一這で神無佐奈さんの手が届くと
いうところから、首は無常にも転がり離れていく。
ころころ。
コロコロ。
ころころと。
僕の前へと――神無士乃の生首が、転がってきた。
「…………神無、士乃」
――はぁい、先輩、なんですか?
そんな返答を、聞いたような気がした。
けれど勿論それは幻聴で、生首だけになった神無士乃は何も言わない。何も見ない。何も考
えない。うつろな瞳だけが的を射るように僕を定めている。
眼球。
眼球が見ている。
首だけになった神無士乃が、僕を見ている――

――しゃきん、と。

鋏を鳴らす音が聞こえた。
顔を上げて見れば、マッド・ハンターがこれみよがしに鋏を開き、閉じたところだった。
準備運動のように。
準備をするかのように。
「あ――――」
足元にいる神無佐奈さんはそれを見ていない。彼女が見ているのは、自分の娘だけだ。首だ
けになってしまった神無士乃を、神無佐奈さんは見つめている。手は届かない。僕のところま
で転がってきた首へは手が届かない。
何も届かない。
何も。
「士乃――――」
それでも。
彼女は母親だから。
娘の下へと、再び這いずろうとして。
その背中に。

「首、ニつ――」

マッド・ハンターの、鋏が、


100 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/03/27(火) 20:18:44 ID:Sz/kwEqI

「――――――やめろ!!」
気付けば。
気付けば、僕は叫んでいた。
姉と異常な愛情を築き、姉を殺された相手を殺そうとし、自分を殺しにきたような相手に守
られることを誓わされ、自分を監禁するような相手を幼馴染として、その幼馴染を『どうでも
いい』と思い、姉さん以外はどうでもいいと思っていた――僕が。

制止の声を、あげていた。

「――――」
まったくもって驚くべきことに、マッド・ハンターの手が止まった。振り下ろされかけてい
た鋏は、慣性の法則も反作用も完全に無視して空中で固定されていた。そこにどれだけの力が
必要だったのか僕は知らない。分かることは、僕が止めなければ――その力は、全て神無佐奈
さんの体に突き刺されていたということだけだ。
そうすれば、死ぬ。
当然のように、死ぬ。
神無士乃と、同じように。
姉さんと――同じように。
「何――何やってんだ、お前!」
気付けば、ではない。
僕は、僕の意志でマッド・ハンターへ――いや、違う、狂気倶楽部の人間に対してなんて僕
は怒らない。
認めたくない。
認めたくないが――認めないといけないだろう。
僕は。

如月更紗という人間に対して、怒鳴っていた。

怒って、いたのだ。
「何あっさりぽっくり殺してんだよ! 一休さんかお前は!」
「無休さんとは働き者だね」
「いい感じなボケが聞きたいんじゃねえ! 何殺ってんだ! お前は――」
お前は。
その先何と言うべきか、言葉に詰まる。
如月更紗は、僕の何だというのだろう?
護衛か。
ただのクラスメイトか。
姉の仇か。
それとも――
その答えは、まだ出ていない。
それでも。
わずかな時間の触れ合いだったにしても、如月更紗のことが嫌いではなかったからこそ――
こんなことを許せるはずもなかった。

「――お前は、僕の身の安全を保証するんじゃなかったのか?」

口から出た言葉は――最初のあの日に、如月更紗から言われた言葉だった。


101 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/03/27(火) 20:19:48 ID:Sz/kwEqI

その言葉をどういう意味にとったのだろうか。如月更紗はもっともらしく頷いて、
「なるほど、なるほど、なるほどね。けどね、けれどね――君がどうして怒っているのか私に
は分からないよ」
「分からない、だって……?」
「そうさ、そうだよ。だって」
如月更紗は。
血に濡れる鋏を携えたままに、あっさりと言ってのけた。

「――君の敵を殺しただけさ」

「…………」
「それで、それなのに――どうして責めるんだい? 人殺しなんて、どこにだってあることだ
ろう」
あっさりと。
当然のように。
何気なく。
如月更紗は、言う。
その言葉に澱みはない。嘘や偽りどころか、反省や後悔どころか、歓喜や達成感すら感じさ
せない声。真実それが『当たり前』だと思っている声。如月更紗にとっては、殺し殺されるこ
とすら当然なのだと物語っている。
たとえばここが戦場なら――如月更紗が屈強な軍人ならば――それも受け入れられたのかも
しれない。
けれど、違う。
僕の目の前に立つ少女たちは、少女でしかなくて――ただのクラスメイトと、幼馴染のはず
だ。なのに一方は首が切り離され、一方は切り離した鋏をしゃきんしゃきんと鳴らしている。
おかしい。
狂っている。
狂気だ。
狂気――倶楽部。
狂気倶楽部の――マッド・ハンター。 
思う。
僕の姉さんも、彼女たちと、同じだったのだろうかと。
彼女たちと同じだったからこそ――当然のように殺されて死んだのかと。
僕はその思考を振り払い、真下まで転がってきた神無士乃の生首へと眼を向ける。
生きてなどいない。
ただのモノが、そこにある。
「その子は……僕の幼馴染だった」
「幼馴染だ、幼馴染さ、幼馴染なだけで君は興味なんてありはしなかった」
「生きて――たんだ」
「今は死んでる、今は死んでいる、完膚なきまでに死んでいる」
問答。
わけのわからない、やりとり。僕は何が言いたいのかも、如月更紗から何を聞きだしたいの
かもわからないままに言葉を続ける。
「死んだんだぞ!?」
「そうだね、そうだよ」
「お前が――殺したのか?」
わかりきった質問をする僕に。


「そうだね、そうだよ。私が殺したんだ――『彼』が君のお姉さんにしたように」

わかりきった答を、如月更紗は返した。



102 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/03/27(火) 20:20:37 ID:Sz/kwEqI

「…………」
お姉さん。
僕の、姉さん。
里村春香――三月ウサギ。
殺されてしまった、僕の姉さん。
一年前に、姉さんが死んだように。
今――神無士乃も、死んでしまった。
殺されて、しまった。

「遂に、終ぞ、終に――復讐の花は一つ? 二つ?」

くすくすと笑いながら、如月更紗はしゃきんと鋏を鳴らした。鳴らすだけで、それ以上は振
ろうとしない。不様に這いずる神無佐奈さんを突き刺そうともしない。彼女の興味は、もう何
処にも向いていない。
きっと、僕にしか向いていない。
「なあ、如月更紗」
「なんだい、里村くん」
僕は。
ずっと、疑問に思っていたことを――
「本当に――」
この状況で、問いかけた。


「本当に――姉さんを殺したのは、三月ウサギなんだろうな」


考えていた。
如月更紗は言った。姉さんを殺したのは、五月生まれの三月ウサギなのだと。アリスが狙っ
ていると。チェシャが見張っていると。そんなことを滔々と語ってのけた。僕を守るという彼
女は、僕を守るために様々なことを教えてくれた。
それは構わない。
問題は教えてくれた人間が如月更紗一人であって――それの成否を確めてくれる人間が、誰
一人としていないということだ。実際に起こったことといえば白ドレスの少女に襲われただけ
で――それ以外は、全て如月更紗の話しの中でしか進んでいない。彼女が嘘をついている可能
性が、ないわけではないのだ。
そうでなくとも、きっと。
如月更紗は、『本当』を話していない。
全てを――いまだ、語っていない。 
エピローグには遠すぎるとばかりに。
ただの疑問でしかなかったそれは、今の如月更紗の姿を見て――神無士乃をためらいもなく
殺してのけた姿を見て、僕の中では疑惑へと変わっていった。わずかなながらにうちとけてい
た心が、再び敵対すべくとがっていくのがわかる。
如月更紗――マッドハンター。
信頼する理由など、どこにもないのに。
口約束だけで、僕はこいつに、ついていっている。
そう。
僕は、疑問に思ってしまったのだ。
疑ってしまったのだ。
姉さんと旧知の仲だという如月更紗に対して。


マッド・ハンターが、姉さんを殺したのではないかという――疑いを。


それは――全ての前提をひっくり返す疑問だったけれど。
如月更紗は『さぁね』とでも言いたげな微笑みを返すだけだった。
何も、はっきりとしたことは、言わなかった。
微笑みの意味は、分からない。分かろうとも、思わなかった。


103 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/03/27(火) 20:21:11 ID:Sz/kwEqI

「今夜」
微笑みをやめないままに、如月更紗は言う。
「君のお姉さんが死んだ、君のお姉さんが死なされた、君のお姉さんが死なれた場所に――

『彼』を呼んだ。『彼』は遠くへいくそうだから――これが、最後の機会というわけだね」
「…………」
彼。
五月生まれの、三月ウサギ。
姉さんを殺したと、如月更紗が言った男。
その男と――ついに、合えるのか。僕を助けにきたのだけでなく、それを言うために、如月
更紗は此処へきたというのか。一体、僕がこの地下で閉じこめられている間に、上で何があっ
たというのだろう。
分からない。
でも。
今夜――全てが、分かる。

「其処で物語を終えよう。おしまい、おしまい、おしまい――」

お終い、お終い、お終い――そう繰り返しながら、かつん、かつんと、如月更紗は踵を返し
た。血にぬれた手を拭いもせずに、梯子を昇っていく。如月更紗の姿が上に消える。
後に残ったのは。
神無士乃の生首を抱きしめる、神無佐奈さんと。
つながれたままの僕と。

反対側の壁に立つ――姉さんの姿。

姉さんは、微笑んでいる。
僕を見て、うっすらと微笑んでいる。
――ああ、わかってるよ姉さん。
微笑む姉さんに、僕はつながれたまま――微笑み返す。
そして、思う。
そして――誓う。


――全部、お終いにしてやる。



104 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/03/27(火) 20:22:35 ID:Sz/kwEqI


†   †   †


放心した神無佐奈さんに鍵を外してもらい、僕は外へと出る。外は良い天気で、良い朝だっ
た。東の果てからは太陽が昇ってきている。なるほど、曜日感覚も時間感覚もすっかり忘れて
いたが、今は朝だったらしい。
朝日がこれほどまでに清々しいものだとは思わなかった。
清々しい朝の中、僕は閉じ込められていた倉庫を――神無士乃の父親の物なのかもしれない
――出た。監禁場所は神無士乃の家ではなかったらしい。ただそれでも、それほどまでに遠く
離れていないのが幸いした。歩いて帰れる距離だ。
僕は爽やかな朝の中を、ぼろぼろの体を引きずって家まで帰る。長い時間監禁されていたせ
いで、痛まないところなどなかったけれど、不思議と気にならなかった。
家に帰って、トイレで胃の中のものを残らず吐いて、僕は真っ直ぐに自分の部屋へと戻る。
夜はまだ遠い。
それでも準備だけはしておくべきだろう。ぼくは自分の机の引き出し、その一番上を開けた。
そこに入っているのは、鈍く銀色に光るナイフだ。刃の長さは二十センチほどで、 如月更
紗の持つ鋏よりも短いが、使い勝手なら彼女のソレよりも良いだろう。
魔術単剣だ、と姉さんは誇らしげに言っていた。
魔術が何なのか、僕は知らない。
僕にとっては、これは姉さんの遺品であり。

――人殺しの武器だ。


「お前がその気なら――僕も、そうなるまでだ」

お前。
それが、姉さんを殺した『五月』へと向けられたものなのか――それとも神無士乃を殺した
如月更紗に向けられたものなのか分からぬままに、僕は独り呟いた。



そして夜が来る。



<続く>



105 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/03/27(火) 20:24:04 ID:Sz/kwEqI
以上で終了です。
しばらくは間をあけることなく投下できそうです

106 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/27(火) 20:38:16 ID:9Zsedw4q
キタ━━(゚∀゚)━━!!
華とお嬢様の嫉妬が可愛いことのはぐるまも
久々の更紗が素晴らしい&クライマックスにwktkのいない君も
待ってましたァ!

107 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/27(火) 21:22:23 ID:aHzv2HJI
>>88
キター!待ってました!GJですよGJ!


108 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/27(火) 22:48:24 ID:mCIagdKT
連続投下キタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η *・゜(n‘∀)゚・*( n‘) :*・゜ (  ) *・゜(‘n ) ゚・* (∀‘n) ゚・*η(‘∀‘n) ゚・*:.。. .。.:*・゜゚・* !!!!!

>>95GJ! しかしヒロイン3人いるのに十本松が一番気になってしまっている俺ガイルw 

>>105GJ! 冬継君にしか興味のない更紗が凄くいいです(*´д`*)ハァハァ
ここまでの病みを見せてくれるとはw 冬継君と更紗に幸あれ!

109 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/28(水) 00:06:05 ID:xeI4X/k0
二人ともGJ!
もう感無量。

110 名前:慎 ◆lPjs68q5PU [sage] 投稿日:2007/03/28(水) 00:17:52 ID:bpuO8QO6
|
|`ヽ  こそっ
|リソ|ノ    誰かいる・・・でも投下するなら今のうち・・・
|゚ノ
|
|

2ルート「絵里のうちに行く」第一話です。では。

111 名前:慎太郎の受難2ルート第一話 ◆lPjs68q5PU [sage] 投稿日:2007/03/28(水) 00:20:46 ID:bpuO8QO6
・・・俺は今までのことを考えた。
今まで自分は素直に生きたことがあったか?自分の思うままに行動してきたか?
いつも周りばかり見て、自分の身にはなにも起きないようただのらりくらりとすごしただけじゃないのか?
考えてみろ。
今までの俺は心の中で思うだけ、または冗談みたいに言うだけで、自分の言いたいことなんて、素直に言ったためしがないじゃないか。
そう考えれば今日は自分を変えるチャンス。今日こそは絵里に自分の気持ちを伝えなきゃいけないんだ。
絵里のところへ行こう。奈津子には断りをきちんと入れよう。
俺はそう心に決めた。決めたはずだった。
なのに、心の中はもやもやしたままだった。自分がやりたいことをやるって決めたはずなのに、何か後ろめたい。
重たく感じる罪悪感、そして決定を再考するよう求める心の声。
俺の決意とは裏腹の、俺の心。
奈津子に断ることが後ろめたいのか?何故?
相手が傷つくところを見たくない?もうそんなことは言ってられない。
何かを手に入れるためには何かを犠牲にしなくちゃだめなんだ。
奈津子にはちゃんと断りを入れる。中途半端であるよりは。そのほうが絶対いいはずだ。
こんな自問自答を練習中ずっと繰り返した。でも心は一向に晴れない。もしや俺は奈津子のことが好きなのか?
馬鹿馬鹿しい。おれはずっと絵里のことが好きだったんだ。そんなことはない。じゃあこの心のもやもやは何だ?
結局練習中には答えはわからなかった。奈津子にきちんと断りを入れれば、わかるだろうとも思った。
否、分からなくとも心のもやもやは晴れるだろうとも思った。
ただ練習中ずっとこんな調子だったためか、周りから見るとかなり集中力が落ちていたらしい。
音は間違う、楽譜は一段飛ばしで読む。周りからは練習中痛い視線がばしばし俺のほうに飛んできていた。あぁ普段はこんなでもないのに・・・
練習が終わった後、俺はこれはかなりの人数から大目玉食らうとな思い、一人で昼飯を食うことにした。
普段どおり部活の男どもと一緒に食ったら、今日のことはネタにされること間違いない。
今日という日ぐらい静かに食わせてもらいたいものだ。
奈津子へのいいわ・・・ではなく、いかに傷つけずに断るかの言葉も考えなきゃいけないしな。
ところで、うちの学校の校舎はアルファベットで言うところのHの形をしている。右奥にあるのが音楽室で、部活の活動場所。4階にある。
そして今俺がいるのが同じ4階の左奥の特別教室。自分たちのパート練習の場所だ。
いつも、誰もいない、一人でいたいときに俺が来る場所。普通の教室に比べ広くそしてがらんとしている部屋。今日はここで―
がらっ
「・・・慎ちゃん、答え、聞きにきたわ」
奈津子、襲来。

112 名前:慎太郎の受難2ルート第一話 ◆lPjs68q5PU [sage] 投稿日:2007/03/28(水) 00:22:36 ID:bpuO8QO6
さてどうしたものか、こんなにも早く来るとは。俺は困惑した。まったく何も考えていない。
とりあえず一言。
「うっす、まず飯食うか?」
「・・・・・・・・・・・・・うん」
奈津子は俺の前に座り、コンビニで買ってきったパンを食べ始めた。
机ひとつ越しに、対面して座っている。奈津子からは普段の姿からは想像できない、なんとも言えないオーラが出ていた。
そのオーラに当てられた俺は緊張して、手が汗だらけになった。
長い沈黙。その沈黙をやぶるように奈津子が尋ねてきた。
「・・・今日練習中ずっと今日どうするか考えてたでしょう?」
「・・・何で?」
「だって、あんなにミスする慎ちゃん始めてみたもん。ばればれだよ。」
・・・言葉が出てこない。そのまままたしばらく沈黙が続いた。
また言葉を出したのは奈津子のほうだった。
「絵里さんのところに行くんでしょう?」
「へっ・・・いや、その・・・」
「答えはイエスかノーかだけにして」
「そうだ・・・けどどうして絵里のところとわかったんだ?俺はそんなこと一言も言ってないが」
そう俺にとっての最大の疑念。そういえば絵里もあのとき奈津子からのメールだと当てていた。
偶然にしてはできすぎている。今日もいきなりだ。この二人にはもともと面識はないはずだ。
ということはそもそもなんで名前を知っているのか?ということにもなる。
俺の頭の中は疑念でいっぱいになった。
「ほ、ほら、あれよ女の勘って言うやつ。でさ、絵里さんってあの日曜にあった人?」
・・・もうひとつの疑惑。何故奈津子は記憶を取り戻したのか?
あのことを知っているのは、当事者4人だけのはず。そして、俺は何も言ってない。
今の発言からすると、やはり絵里との面識もなさそうだ。
恵か?しかし、恵こそ奈津子の記憶が戻ることを快く思ってなかったはずである。
つまり、誰かが教えたという可能性はかなり低いと見てもいいはずだ。
鈴木?そもそもあいつは奈津子としゃべらん。
となると忘れていたふりをしていたということなのか・俺は思い切って聞いてみることにした。
「まぁそうなんだが。それよりおまえさぁ、月曜日そんなこと何も言わなかったよな?突然言うから俺びっくりしてるんだが。」
「あーあのときはあれよ、言わないほうが・・・その空気読むってやつ?だから言わなかったのよそれより・・・」
「何だ」
「絵里さん、どんな人?慎ちゃんとどんな関係なの?」
・・・重苦しい空気が流れる。奈津子の目には普段と違い強い意思が宿っていた。
言いなさい、聞くまで返さないんだから―そう言うように、じっとこちらを見据えている。
説明に迷ったが、いわなきゃどうしようもないと思い、事実をまず言おうと思った。
それなら無用な問題は避けられるはずだ。


113 名前:慎太郎の受難2ルート第一話 ◆lPjs68q5PU [sage] 投稿日:2007/03/28(水) 00:23:34 ID:bpuO8QO6
「あいつとは幼馴染だ。幼稚園も小学校も中学校も一緒でな、高校もここを志望してたんだが、落ちてしまってな。
んでこの前は買い物に付き合えって言われて付き合っただけさ」
嘘は何一つ言ってない。
「じゃあ何であんな夜遅くまでいたのかなぁ?買い物だけだったら、夕方には帰れるじゃない?」
ごもっともで。しかしここで負けるわけにはいかない。
「いやな、あいつが行きたいっていうパスタ屋があってなそこに行ってたんだわ」
「お昼ごはんにはできなかったの?」
それも正論。しかしまだ負けるわけにはいかない。
「あいつが3時からって言うからさぁ・・・昼には遅いだろ?だから夕飯にしたってわけ」
「ふーん・・・」
奈津子はあまり合点がいかない、といった表情をしている。これじゃまるで不倫した疑いをかけられた夫が妻に詰問されてるのと一緒だ。
ペースを握られてしまっている。流れを変えなければ。
「でさ・・・」
おれはペースを戻そうともう一度疑問を口に出そうとした。しかし奈津子がそれをさえぎるようにさらに質問してくる。
おそらく今日最も聞きたかった質問を。
「今日はなんで絵里さんのところへ?」
一瞬俺の思考は停止した。なんと答えよう。正直に言ったほうが無難なのか。
「早く」
奈津子が答えの催促をしてくる。もう何も考えれなかった俺は話すことに決めた。別段いってもまずいことはないだろう。
「家庭教師をしに」
しかしこれがまずかった。
「じゃぁなんで私の家にこれないのかなぁ?終わった後来れば良いでしょう?」
3度目のごもっとも。
「それとも泊まってて~なんて言われたのかしら?」
ずばり、である。今日の奈津子は冴えている。何の言い逃れもできないのか?
「いや、その・・・」
「さっきいったこと忘れた?答えはイエスかノーだけよ?答えられない?寝言は寝て言うものよ。早く答えて」
顔は笑ってる。にこやかに微笑んでる。しかし口調は笑ってない。目もよく見ると笑ってない。
しかし怒ってるという感じではない。何も感じ取れない、そういう表現のほうが正しい表情のようだ。
いろんな感情がごちゃ混ぜになっているようだ。こんな奈津子は始めて見る。
いつもにこやかにぼけてくれる奈津子。そんな奈津子を俺は・・・
頭が真っ白になる。そして知らずのうちに声が動いていた。
「・・・そうだ。」
空気がピンと張り詰めた。俺は奈津子にいまから何をされるか、恐怖でいっぱいになった。
しかし次の奈津子の言葉は、予想外、否言葉は予想内だったが予想外のことが起こった。

114 名前:慎太郎の受難2ルート第一話 ◆lPjs68q5PU [sage] 投稿日:2007/03/28(水) 00:24:45 ID:bpuO8QO6
「・・・ぐすっ」
奈津子が―泣き始めた。
「・・・・・どうして」
「ん?」
「どうして!私じゃだめなの?絵里さんじゃなきゃだめなの?私はずっと慎ちゃんのこと見てるんだよ?
いつも一緒に入れるんだよ?学校でも、部活でも・・・なのに、なのに、どうして!どうして絵里さんなの!」
そういって泣きじゃくり始めた奈津子。そしてずっとずっとどうしてどうしてと言いつづける。
「だって高校は行ってからずっと私が傍にいたのよ・・・なのになのに・・・っ」
俺ははっきり言うとどうすればいいかわからなかった。こんな経験初めてだし、こんなときに経験するとは思わなかった。
でも、ベストじゃなくとも、ベターであるはずの答えを俺は知っている。いやたぶんこれだとしかいえんのだが・・・
つまりそれは・・・謝ることだ。
「すまん」
奈津子は顔を上げ目を見開いてこちらを見る。
「すまん奈津子、お前を泣かせるようなことをして。」
「慎ちゃん・・・・」
「すまん。許してくれ・・・」
机に両手をつき頭を何べんも下げる。
「・・・・・・・・・・・・」
奈津子は無言のままだ。
「すまん奈津子、何でもするからこのとおりだ!」
それでもなお謝り続ける俺。はたから見れば痴話げんかの結末だ。もしくはとうとう不倫がばれた夫が妻に謝ってるところか。
そんなあほな思考をしてると奈津子がようやく口を開いた。
「謝らないでよ・・・」
「へっ?!」
「だから謝らないで。これは私のわがままなんだから」
「でも・・・」
「でももなんでもないよ。終わり。この話は終わり」
「いいのか?奈津子はそれで」
「いいの。わがまま言ってごめんね。」
・・・・いいのかこれで・・・なにかすっきりしない。奈津子は許してくれたようだ。表面上は。
しかし俺はすっきりしなかった。なぜなのか・・・その理由はわからなかった。
「でもさ、慎ちゃん言ったね」
「何を」
「なんでもするって」

115 名前:慎太郎の受難2ルート第一話 ◆lPjs68q5PU [sage] 投稿日:2007/03/28(水) 00:25:31 ID:bpuO8QO6
・・・しまった。
「いやあれはなぁ・・・その何だ勢いで言ったというか」
「待ったはなしよ!」
いや奈津子さん?こわいですよ?
「そうねぇ・・・じゃぁ絵里さんとこ行くまであたしとおしゃべりして。」
・・・・・・・へ?
「おい奈津子そんなことで良いのか?」
「いいわよ。それとも拒否するつもり?」
「いえそんなことは・・・」
「じゃぁこうしようか。これから慎ちゃんは私に対しては『サー!イエスサー!』っとしか言っちゃいけないとか」
・・・・拒否権なしですか。
「大体どこでそんな言葉覚えてきた?」
「映画で見たの~」
たくっ昨日の絵里といい変なものばっかり見ているな・・・そういえば昨日の絵里の言葉の元ネタになったアニメってなんだったんだろう?
まぁあいつの性格のことだ、何かのラブコメかなんかでの痴話げんかでのワンシーンだろう。
俺は昨日のことは忘却のかなたへと飛ばすことを決めた。
「よしったまにはこんな日も良いさ。とことんしゃべってやる」
俺はせめてもの償いとして奈津子に付き合うことにした。
それから時間にして4時間。学校のこと、部活のこと、友達のこと・・・俺たちは多くのことをしゃべった。
奈津子と会話するのは今日が初めてじゃない。でも今日ほど楽しかったことはない。
何故だろう?まぁ理由なんてどうでも良いのかな。とにかく今の時間はとても楽しい。それで良いじゃないか。
時間はあっという間に過ぎた。もう下校時刻だ。
「おい奈津子、帰る時間だぞ」
「うん、そうだね」
すうと2人とも立ち上がる。
「ねぇ慎ちゃん」
奈津子がぽつりと言う。
「何だ?」
「今日楽しかったな。ずっとこんな風な時間が過ぎればいいのにって思った」
「・・・・・・・・・・・」
「でも、だめだよね。慎ちゃんは絵里さんのところに行っちゃうんだもんね」
「・・・・・・・・・・・奈津子」
「・・・あたしはね駅前にいるわ」
「へ?」
「ずっと待ってるから。慎ちゃん来るのずっと待ってるから」
「奈津子・・・」
「じゃ、また明日ね慎ちゃん。早く行かないと絵里さんに怒られちゃうぞ~」
奈津子はいたずらっぽく笑ってそう言った。その表情は今日奈津子が見せた表情の中で最も魅力的で、
そしておれの心の中のもやもやをさらに大きくするものだった。


116 名前:慎 ◆lPjs68q5PU [sage] 投稿日:2007/03/28(水) 00:30:41 ID:bpuO8QO6
というわけで今回はここまで。次回絵里家にて。奈津子はある意味病んでるんだろうけど、まだ開花しきってないということです。
こちらは普通のHAPPI-ENDにする予定。ちなみに絵里ルートではなく奈津子ルートだったりします。
伏線何点かはってっみました。こっそり分からないように。別ルートで回収したりする予定。
久々の投稿、アンド執筆はなかなか大変なものになりました・・・・今回も短めですね。
ではでは。あと、上2人、ことのはぐるまといない君、お疲れです。
どちらも久々の投稿だったのでwktkして待っていたので楽しく読めました。
ではでは。


117 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/28(水) 00:50:15 ID:1CGz88/w
なにこの投下ラッシュはwww
どれもこれもGJ!続きwktk

118 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/28(水) 01:04:51 ID:efmWe5cc
イヤッホウ! 投下ラッシュ万歳!
どいつもこいつも続きが楽しみだぜ。

119 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/28(水) 01:35:26 ID:Ej+/izBp
お久しぶりです!GJ!
しかし昨日今日は名作が次々復活して、一体何の祭りの前兆ですか!?

しかし、>>116が意味深ですな・・・。あくまでこのルートが奈津子エンドなのか、
それとも”穏健に終わる”奈津子エンドなのか。是非とも続きが見たいですな。

120 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/28(水) 02:49:19 ID:v/UztMhi
スピードグラファーの変態歯科医を女に変換したら、良いヤンデレになりそう。

女歯科医は、何ヶ月に歯科検診に来る主人公の口の中が堪らない程好き。
主人公の乳歯を宝物として、いつも持ち歩いている。
自慰の際、乳歯を舐めるだけでは飽きたらず、秘所に擦りつけたり挿入したりする。
ちなみに得意プレイはDキスと顔面騎乗。


121 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/28(水) 08:00:19 ID:ze8whDje
投下ラッシュがキテタ━!作者様方GJ!!
>>95かなこさんと華の開戦?にwktkしたが十本松の強烈なキャラにやられたw
>>105更紗分補給完了! しかもこれはかなりの病みっぷり(*゚∀゚)=3ハァハァ
しばらくは連続投下あるのでしょうか?wktk
>>116待ってました! 奈津子が普通に可愛い
でも色々裏設定ありそうで今後の展開が楽しみ

122 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/28(水) 08:30:02 ID:YN10pMZ0
今さら聞くのもなんだけど、「いない君といる誰か」の主人公である
「冬継」はなんて読めばいいんだ?ふゆつぐ?とうけい?
保管庫のお話を読んでもわからんかった。誰か教えてくださいな。

123 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/28(水) 09:54:28 ID:h5syMFS9
「ふゆつぐ」としか読まないだろ、常識的に考えて……。

と一瞬思ったけれど、最近の名付け事情からすれば
「とうけい」と読んでもおかしくはない……のか?

124 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/28(水) 10:58:29 ID:60h3xTI4
実は「うつ」と読むかも知れないぞ

125 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/28(水) 12:51:42 ID:c/L+3D8o
ふゆつぎ に一票

126 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/28(水) 13:08:51 ID:fE7ER88d
ああもう、どれから読んだらいいのか迷っちまうぜ! なんという贅沢なんだっ!

>>120
変態女医っていうと俺は二番町眉子が思い浮かぶな。
患者の脚が綺麗だからってちょん切ってホルマリン漬けにして持ち帰っちゃったり、
その患者をリハビリ中に弄んだり、ナースに食指を伸ばしたり……

127 名前:上書き ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/03/28(水) 20:05:09 ID:EUQSeXtA
>>56
ご意見ありがとうございます。
収集がついていないように感じられたのは、このルートが結果だけを意識して作られた話だからだと思います。
もう一つの理由として、誠人が狂うのが突発的過ぎたというのがありますかね。
勿論他にも理由はあるかと思いますが、本ルート以外の話は基本的に結果だけを意識して書いていますので、
それがご不満とあらば申し訳ありませんでした。
今後は更に精進していこうと思う次第です。

後人によるとは思いますが、私は基本的にどんな意見でも貰えれば嬉しいと思っていますので。
厳しい意見も実にしていきたいので、「ここ変だよな」等思われたら指摘して下さると嬉しいです。

では、「そのまま行かせる」のB-2ルートを投下します。

128 名前:上書き ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/03/28(水) 20:06:18 ID:EUQSeXtA
「加奈の、好きにしてくれ…」
俺には止める事が出来なかった。
別に止める理由もなかったし、加奈自身が”ちょっと”と言っているんだから本当に
些細な事なんだ。
そんな事をわざわざ気に留める必要もない、ある筈がない。
なのに………
「ありがとう…」
俺と全く視線を合わそうともせず俺の傍を離れていこうとする加奈に、言い表せない
ような奇妙な『不安』を感じているのは何でなんだ…?
俺は加奈の幼馴染だ…加奈の彼氏だ…”加奈が一番信頼してくれている”人間なんだ。
その俺が、加奈を信頼しないでどうするんだよ…っ!
沢崎誠人よ、お前はさっき加奈と誓い合ったばっかじゃなかったのか…?
独り善がりせず、意思疎通を通して相手との『信頼』を何よりも大切にする事を…。
だったら、加奈に対して多少なりも疑念を抱くというのは失礼な行為だ。
それに、『信頼』は”お互いが”信じ合って初めて成立する至極の関係だ。
”一人でも”欠けたらそれはただの一方通行の感情にしか為り得ない…。
そして加奈のこの念を押すような感じを含む言葉は、俺を信頼しているが故のものだ。
そう、加奈の言葉には”許可への欲”ではなく、『念押し』の感じが強く滲んでいた。
それは加奈が俺を信頼していなければ自然に出来る筈がない芸当…。
加奈が俺を信頼している以上、”俺が”加奈を信頼すれば『信頼関係』は成立する。
だから、俺は『信頼関係』の確かさを加奈自身に求めた。
「…加奈、”気を付けてな”…?」
既に俺の前を通り過ぎ、部屋の扉の前に立っているであろうと思われる加奈は無言だ。
本当は今の俺を取り巻いている不安の根源を知りたくて加奈の表情を伺いたかったが、
その行為すらも加奈を信頼していない証拠になりそうで怖かった。
だから俺は振り向けなかった。
「心配してくれてありがとう、誠人くん。大丈夫だから…」
そう言い残すと、加奈は小さな音を立てながら部屋を出て行った…気がする。
加奈のこの言葉に甘えて、自分で納得して、加奈の表情も確認せずに送ってしまった。
…送って”しまった”?
俺は一体”何を”危惧しているんだ…?
さっき加奈を信頼するって決心したんじゃなかったのか…?
だったらおとなしく待っていれば良いんだ。
それが俺と加奈の『信頼』を築く為の一因となるんだから、それでいいじゃないか。
「ちょっと神経質になり過ぎだろ…馬鹿馬鹿しい…」
自分に悪態をつく事で仮初の安心を得ながら、俺は敷布団の中へと飛び込んだ。
そこからは話をするまで加奈が隠れていたからか、加奈の匂いが沁み込んでいた。
その匂いが懐かし味を帯びていたのは、いつも一緒にいて慣れていたからだろう。
それと同じように、俺たちは『幸せ』にも慣れていて気付けなかった事が多かった。
これからはそんな事も噛み締めていきたいと思いながら、俺はその布団の中でしばし
加奈の匂いに包まれながら夢心地に浸かる事にした。
「…加奈、早く帰って来いよ…」

129 名前:上書き ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/03/28(水) 20:07:01 ID:EUQSeXtA

――――――――――――――――――――          

あたしは思う…好きな人と幸せになる為にはそれ相応の努力をしなければならないと。
その『努力』の形は様々だ。
まだ想いが通じ合っていなければ、好きな人を自分に振り向かせるところから始める。
直球勝負をするも善し、時間を掛けて徐々に落としていくも善し、方法は多種多様。
そうやって試行錯誤の末、好きな人と付き合う権利を手に入れた後は、その『権利』を
手放さないように一生懸命『努力』しなければならない。
付き合ってみて初めて見つけた好きな人の美点を指摘して上げる、逆に付き合っていて
まだ好きな人が気付いていない自身の美点を見せてあげる…その他諸々。
その段階で勿論お互いに相手の欠点に気付く事もあるだろう。
それがきっかけで相手に失望し、別れてしまうケースは数え切れない程だ。
人は付き合うまではその相手に自分の『理想』を”重ねている”ものだから、それが
崩れ去った時のショックは確かに大きいものだと思う。
しかし、それはお互いに相手を『理解』してあげられなかった末の結末…自業自得だ。
ではもし、『努力』を重ね相手の全てを『理解』している上で付き合ったとしたら…?
お互いに相手の欠点も全て受け入れられる、そんな『存在』に出会えたとしたら…?
二人は結ばれるべき…結ばれなければならない…結ばれる『運命』にある筈だ。
だって、積み重ねてきた『努力』の末に今の幸せを手に入れたのだから。
高め合った結果の『収束地』で二人だけの幸せな世界を堪能しているのだから。
「二人だけの、幸せな世界………かぁ…」
口に出すと、恥ずかしいながらも震えるような快感の奔る言葉。
じゃあ…その『世界』を何者かによって崩されかけたとしたら、どうすればいい?
勿論みすみす崩れ去る様を傍観している訳にはいかない。
行動を起こさなければ、『結果』は自らの下に訪れはしない。
その結果が良いものか悪いものかは定かではないが、少なくとも『結果』が欲しいなら
行動しなければならない…。
行動という名の『努力』をまたしなければならない。
そう、付き合うという事は、結局は”『努力』の連続”で成り立っているのだ。
もし、一瞬でも気を抜けばどんなに長い年月積み上げてきた『関係』も砂浜の砂上の
ように脆く、簡単に崩れ去ってしまう。
だから、あたしは愛しの人…誠人くんとの幸せの為に、終わりのない『努力』を重ねる。
「絶対に、”守ってみせる”から…」
見ていて、見守っていて、誠人くん。
あたしは頑張るから…。
「”どんな”『手段』を使ってでも…」
今宵は満月、あたしは右手に構えた”誠人くんの家から”持ってきた包丁に誓う。
「誠人くんと共に、あたしは幸せを掴んでみせるからね…」
夜道を歩きながら、満月の眩い光が、希望の象徴である包丁を明るく包み込んだ。

――――――――――――――――――――          


130 名前:上書き ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/03/28(水) 20:08:01 ID:EUQSeXtA
「遅い」
思わず呟いてしまう。
既に加奈が出て行ってから一時間以上経つ…もうすぐで日付も変わってしまう。
「遅い」
何度目か分からない言葉をまた呟く。
呟く事で意識を悪い方向から遠ざけようとしている意図が自分でも読み取れる。
意図的な行動だから当然と言えば当然だ。
でも、”『意図的』だと”自覚するのは正直言って物凄く怖い。
意図的に意識を遠ざけようとしているという事は、自分が悪い想像をしている事の証明
だからである。
さっき俺は確かに吹っ切った筈だ…加奈を信頼するって決心した筈だ…。
なのに、俺はまだ加奈を信じ切れていないのか…?
自問自答が頭を渦巻く中………
『ガチャッ』
そんな音が下の階から響き、俺の思考を中断させた。
この音はもう十何年間、飽きても飽きても聞き続けたもの…聞き間違える訳がない。
俺の家の扉の開く音…『終わり』の音であり、『始まり』の音でもある。
その無味乾燥な音は、今だけは俺の心に喜悦感を充満させる引き金へとなった。
その音が鳴ったという事実が俺に告げるもう一つの事実…”加奈が帰って来た”。
それだけで十分だった。
加奈の言動に一抹の不安を覚えていて、それに翻弄されていた俺にとっては、加奈が
何事もなく戻って来た事だけが嬉しかった。
もう沈黙が支配する部屋の中で、「遅い」と不安を払拭する為に呟く必要もない。
これからはこの部屋で加奈と共に愛を囁き続けてやるのだ、そんな期待を膨らませる。
階段を一歩一歩着実に踏みしめている音が近付く毎に、その期待に現実感という装飾が
施されていく。
加奈との甘い関係は『終わり』、新しい日々の『始まり』…それは目の前の筈だった。
そして、俺が凝視している先にある部屋の扉、それが静かに開いていく…。
「加奈ッ! お帰り!」
俺の大声が部屋にうるさく響き渡った。
しかし、何故か返答は返ってこない。
加奈の奴、からかっているのか…そう思っていた刹那………俺は”それ”を見た。
普段何気なく見かけている…いや、見かけていると表現するのもおかしい。
だって、”それ”はあくまで”全体の中の『一部』”に過ぎず、意識すべきものでは
ないのだ。
俺が”それ”が何なのかを認識してから数秒後、扉を隔てて声が聞こえてきた。
「”ただいま”」
『ボトッ』
その声と共に、”それ”は俺の傍に乱暴に投げ込まれた。
「は?」
その珍妙な声は、俺が”それ”を確認した際に出してしまったものだ。
俺が、細い細い、本当に細い、『腕』を見ての素直な感想だった。
そして………
「どうも」
同時に扉から出てきたのは、今の今まで全く意識の外にいた存在…島村由紀だった。

131 名前:上書き ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/03/28(水) 20:09:05 ID:EUQSeXtA
「機嫌はどうですか?」
自分が放った物をまるで気にしていないように、島村はニヤリと笑った。
瞳は大きな眼鏡と長い前髪で隠れているが、口元だけが厭らしく弧を描いている。
この部屋にいるのは自分と俺だけだと言わんばかりの、”当たり前な”佇まい。
しかし、そこまで『常識』を演出したいなら、こいつは何故右手に…真っ赤に染まった
右手に、右手同様赤く彩られた長い鋸なんか持っているんだ?
それに何より、右手だけじゃなく、こいつの全身も真っ赤に染まっている。
今放り投げた”誰かの腕”と手に持っている”赤い鋸”、この二つから連想してしまう
情景なんて『一つ』しかないじゃないか。
そう思いながらも、俺は無意識の内に現実逃避していた。
頭の中では必死に別の可能性を模索していた。
”島村は俺を驚かせたいだけだ”、そう頭の中で何度も自分に言い聞かせていた。
「どうしたんですか、誠人くん? 顔怖いですよ…あっ」
島村は何かに気付いたように、自分の右手に持つ鋸を直視した。
「ごめんなさいね。別に誠人くんを脅かす気はなかったんですよ」
…ん?
前半はいい、「ごめんなさい」っての謝罪の言葉だ。
そこに示されている意図は、俺を脅かしてしまった事に対しての事だと解釈出来る。
しかし、後半に島村は何と言った…「”脅かす気”はなかった」だと?
その発言は前半の言葉の意味も全否定してしまう…。
それに、脅かす気がなかったなら、お前は何でそんな格好をしているんだ…?
それ以外に、どんな目的で以ってそんな格好をしているというんだ?
「ちょっと、『作業』する為にどうしても必要だったんで」
そう言うと、島村は一旦扉の後ろに回り、一つの袋を取り出した。
その黒い袋は、男である俺から見てもあり得ないと思う程の大きさである。
かなり重そうにそれを部屋の中へと入れた島村は、その中身を物色し始める。
そして、その中から素早く”何か”を取り出し、玩具箱を漁る子供のような手の仕草で
それを先程同様俺の前へと放り投げた。

―――足
―――腕
―――足

「あっ…あっ………」
それらが音を立てながら俺の前に道端の石ころのように転がっている。
声が段々抑えられなくなり…そして………
「これで最後っとっ!」

―――頭

そう、頭だ。
人の頭、鮮やかな黒を誇る長髪を宿した頭、女の子の頭、俺が何度も見続けてきた頭。

加奈の頭。

「胴体は重いんで省略しておきましたが、ご勘弁願いますね」
島村が何か言っている気がしたが、正確には聞き取れない。
俺の注目の全ては、眼前に静かに控えている加奈の頭…加奈の瞳に吸い込まれていて。
その虚ろな瞳が、色彩を全て失っても尚愛しく思える瞳が残酷に俺に訴えかけるように
見つめてくる、その現実を受け入れた瞬間…
「――――――――――ッ」
声を抑え切れそうになくなったと思ったが、強制的にその声は塞がれた。
「今は夜中、ご近所迷惑になるつもりですか?」
島村の赤い鋸が、加奈の血が染み付いているであろう鋸が、俺の首に添えられたから。

132 名前:上書き ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/03/28(水) 20:10:07 ID:EUQSeXtA
躊躇する事なく、島村は俺の首に鋸の切っ先を当てている。
金属の感情を宿さない冷たさと、感情を宿していたであろう加奈の鮮血の温かさが、
混ざり合って「ぬめり」とした気持ち悪い感覚を俺の皮膚に奔らせた。
「誠人くん、あの娘は…加奈さんは、駄目ですよ?」
楽しそうに俺の首に時折触れさせながら鋸を動かしている島村。
そう、本当に楽しそうだ、失ってしまった時間を逆行するかのように子供じみた笑みを
浮かべている。
「驚きましたよ…。こんな夜遅くに突然インターホンが鳴るんですから。誰かと思って
家内で確認してみたら…加奈さんがいるじゃないですか。しかも画面越しにでも分かる
位殺気がギンギンしているんですよ? 念の為に護身道具を持ちながら扉を開けたら、
瞬間加奈さん包丁を刺してこようとするんですよ、こんな感じにね」
島村が小さく奇声を発しながら持っている鋸を一旦引き、それを両手を器用に使って
くるりと回し、自分の腹の方へと持っていき、刺すような動作を繰り返している。
一通り俺に見せ終わると、再び鋸を俺の首先に構えてくる。
「もし加奈さんが瞬きもせずにインターホン越しに私を睨みつけていなかったら、きっと
私油断していて刺されていたでしょうね。本当に警戒していて正解でしたよ。向かって
くる加奈さんの胸に向かって、私は持っていたペーパーナイフをね…をね…グサッと、
刺してやりましたよ…フフフ…はっ、あーっはっはっはっハハハハハハハハハハ!!!」
今度は腹を抱えて盛大に笑い出した。
さっき近所迷惑云々言っていた奴とは思えない程、遠慮なしに俺の部屋で笑っていた。
島村の笑い声が俺の部屋に響く。
島村が静かにしたければ静かにし、笑いたければ笑う…この部屋の主導権は、完全に
島村のものだ。
やがて一頻り気の済むまで笑い終え、狂気の体言化の時間に幕が下ろされる。
「ご、ごめんなさいね…。あまりにも哀れだったもので。だってそうですよね?わざわざ
自ら殺されにくるなんて、馬鹿としか言い様がありません。”誠人くんの彼女”という
素晴らしい地位を獲得しておきながら、嫉妬に狂って私を殺そうとして誠人くん自身を
汚そうとするなんて、言っては悪いですが、”死んで当然の”屑だったんですよっ!!!」
島村は言いながら転がっていた加奈の首を力強く蹴飛ばした。
遠くの方へと飛ばされていく加奈の残骸…俺はそれをただ見てる事しか出来なかった。
「結局この女は、自分が”そういう事”をしたら誠人くんがどう思われるかすら考える事
の出来ない無能な屑、誠人くんには相応しくありません」
飛ばされた頭の方向に一瞬視線を向ける島村。
長い前髪がその動作で揺れて隠していた島村の瞳を俺に焼き付けさせた。
加奈の頭を見る島村の目は、頭だけになった加奈が向けてきた目と殆ど同じに思えた。
そこで加奈のバラバラの体を再び思い出し、吐き気を催した。
「ですが、私は違います。誠人くんの為を思って行動出来ます…。あっ、誤解のないよう
言っておきますが、私が加奈さんを殺したのは正当防衛という奴です。かなり憎かった
んでバラバラにしてしまったのは、誠人くんから加奈さんを消す為止むを得なかった
行いとお受け止め願いますね」
島村は今確かに言った…”私が加奈を殺した”と。
”加奈を殺された”、つまり”加奈は死んだ”…その事実を再確認し俺は涙を流した。
声はもう出ない、出そうとも思わない。
今はただ、”ある事”を考えていたかったから。
しかし、その思考はすぐに止まった。
ふと目をやった、俺の傍らに置いてあった何故か開いている携帯電話の中身が全てを
物語った。

『From 島村由紀
Sub  (無題)

誠人くん、あなたは何で”あんな”子が好きなんですか?』


133 名前:上書き ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/03/28(水) 20:11:05 ID:EUQSeXtA

今まで俺はずっと考えていた。
島村が「加奈が自分を殺しに来た」と言った時かたずっと考えていた。
”何故加奈が島村を殺そうとしてしまったのか”…と。
俺は加奈を愛する事を誓った、加奈も俺を愛すると誓ってくれた筈だったのに。
なのに、何でこんな事になってしまったのか?
その『答え』は、俺の携帯に映し出されているメールを見てはっきりした。
つまり、加奈はこのメールを見て、島村が俺と加奈の関係を壊そうとしていると思って
しまったんだろう。
思い返せば、様子のおかしかった加奈の傍らには不自然にも俺の携帯電話があった。
あの時、俺は何でその中身を確認しようとしなかった?
あの時、俺は何で加奈を止める事が出来なかったのか?
あの時、俺は何で加奈を素直に行かせてしまったのか?
今となってはもう分からない…過去は消える事のない足跡だ。
それをどんなに『上書き』しようとしたってそんなのは無駄な行いだ。
俺は、加奈の犯そうとした罪が『過去』のものになる前に、『上書き』出来ない状況に
陥る前に、先回りして対処しなければならなかったんだ。
その為には、”離れてはいけなかった”んだ。
俺は加奈と話をした時、確かに自分の口で言った筈だ。

―――「俺たちはまだまだ未熟なんだ。お互いを分かり切った気でいても、まだまだ
言葉で意思を伝え合わなきゃやっていけない関係なんだ、離れちゃいけない
んだと思う。」

離れても分かり合えるようなそんな強い関係じゃない。
言葉一つで簡単に崩れ去ってしまうような、そんな脆い関係。
だから片時も離れず、お互いを確かめ合いながら生きていく事を誓ったんじゃないか。
なのに俺は、こんな事を言っておきながら、まだ俺は自惚れていた。
その証拠に、加奈が自分を信じていると信じて疑わなかったじゃないか。
本当なら、あの時失礼を覚悟して加奈の行動を制止すべきだったのに、また俺の意思を
汲み取ってくれていると勘違いして、加奈を見殺しにしてしまったじゃないか。

”加奈を殺したのは俺だ”。

「誠人くん、泣かないで下さい。すぐにあの娘の事なんか忘れますから…」
島村が首に鋸の切っ先を添えたまま、俺の眼前へと自らの顔を近付けて来る。
そして、次の瞬間、俺は唇を奪われた。
ほんの触れるだけのキス…それはあの日”謝罪とお礼”と称してしてくれた加奈からの
”初めての”キスと似ていて…あの時の笑顔を思い出させるには十分な行為だった。
すぐに唇を離した島村、離れ際に見えた島村の目は黒々としていて、しかし決して色を
失っている訳ではなかった。
とても純粋にその瞳は色鮮やかに輝いていて…本当にそれは加奈そっくりで…。
こんな事する資格なんてないのに、俺は流れる涙を止める事が出来なかった。

「すぐ加奈さんの事は『上書き』してあげます…。そして、『島村由紀』という名を誠人
くんの脳の奥底深くまで刻み込ませて上げます…。大丈夫ですよ、私となら絶対上手く
いきます。私と新たな関係を築いていきましょう?」




B-2ルート「外れない首輪」 BAD END

134 名前:上書き ◆kNPkZ2h.ro [sage] 投稿日:2007/03/28(水) 20:14:48 ID:EUQSeXtA
投下終了です。
これも結果だけが書きたかった話です。
何で加奈が島村の家を知っているのか等色々ツッコミ所はあると思いますが、それらは脳内補完するか指摘して下さい。
ちなみに加奈が島村の家を知っていたのは、第7話の後に島村の事を調べていたという事にしておいて下さい。
我ながら後付け設定で、申し訳ありません…orz
次の時は本ルートを投下しますので。

135 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/28(水) 20:42:30 ID:Ej+/izBp
GJ!
凄い話でした・・・。2つのルートであっけなく死んだから、
ただの噛ませ犬かと思いきやとんでもない伏兵でした。

136 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/28(水) 20:50:44 ID:ze8whDje
>>134GJ!
最後に大逆転とは……ヤンデレ同士の対決だとやはりより病んだ方が勝つのか!?
でもさりげなく島村さんを応援していた俺は嬉しかったり
こんなシチュエーションでせまられる誠人ウラヤマシス

137 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/28(水) 20:53:13 ID:+E2Z04/4
GJッス
だけど誠人には八つ当たりでも何でもいいから島村を殺して欲しかった俺がいる……

138 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/03/29(木) 00:07:50 ID:ccjIKQbq
>「加奈ッ!!お帰り!」
ここ見てとあるエロゲーを思い出した。

139 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/29(木) 00:50:37 ID:ZiHX2F8R
GJ!
島村さんまで萌えキャラになるとは思わなかった。

140 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/03/29(木) 01:11:19 ID:dfXEPjy/
GJ…以下チラシの裏



どうしてお茶会の人といい上書きの人といい、ヒロインを呆気なく殺してしまうんだろう…。

141 名前: ◆6PgigpU576 [sage] 投稿日:2007/03/29(木) 01:31:34 ID:PjZaIhi7

投下します。
第八話目になります。

142 名前: ◆6PgigpU576 [sage] 投稿日:2007/03/29(木) 01:32:33 ID:PjZaIhi7

瞳に突き刺したナイフを、抉る様に捻り引き抜くと、又も夏月は振り上げ、
今はまだ無事な左目に、突き立てようとした。

頭は真っ白なのに、自然と身体が反応していた。
二度目の、左目に突き刺そうとしたナイフを、僕は止める事が出来た。

「だ、だめ… にい、さ… よご、よご、れ… 汚れ… ちゃ…
ごめ、ご、ごめ、さい… ごめ、な、さい… ごめ、な、さ……」
左目からは透明な涙を零し、右目からは涙のように真っ赤な血を流し、
夏月は僕に謝り続けている。

堪らなくなって、僕は夏月を抱き締めた。

「夏月、ごめん! ごめんっ!」

もっと早くこうしていれば、よかったんだ。
後悔に苛まれながら、今はそんな場合じゃないと気付く。

このままじゃ、夏月が、失明… いや、死んでしまう!
どうすれば…!?

咄嗟に思い出したのは湖杜さんと射蔵さんで、慌てて携帯とメモを引っ張り出すと
夢中で連絡を取っていた。
助けてとか、夏月がとか、混乱した事ばかり口走っていたような気がする。
そしてその後の事は、よく覚えていない。
謝り続ける夏月を、ただ抱き締める事しか出来なかった事しか。





テレビや映画でしか見た事がないような、立派な庭園を眺めていた僕の隣に、
何時の間にか、射蔵さんが並んで立っていた。
「また眺めていたのか… いい加減飽きただろう?」
「いえ、まだまだ飽きませんよ」
静かだった。
改めてこの広い敷地では、外の雑音など全く関係がない事を思い知らされる。

「今日… これから、行って来ようかと思います」
庭園に目を向けたまま、僕はそう言った。
「そうか、決心がついたのか」
射蔵さんもまた、見飽きているであろう庭園を向いて、煙草を燻らせている。

夕陽に照らされていた庭園にも、そろそろ夜が来る。
「いい加減、けじめをつけなきゃいけないと……」
「けじめ?」

「ちゃんと別れを言うのが、けじめだと思いました。
けじめをつけないと、先には進めないんです」

143 名前:同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 [sage] 投稿日:2007/03/29(木) 01:34:02 ID:PjZaIhi7

これから僕がしようとしている事を考えると、辛い。
自分で考えて出した結論だけれど、やっぱり辛い。

けど、決別しなくては、僕は、先には進めない。

「そうか。では、車を手配しよう」
「ありがとうございます」

「お花は、どうなさいますの?」
いつから聞いていたんだろう? 湖杜さんが廊下の先からこちらへ、そう言いながら
ゆったりと近付いて来た。
「花、ですか?」
「お持ちになるのが、定番ではなくて? 用意致しましょうか?」
「…いえ、花はいいです。すぐに済みますから」
湖杜さんの気遣いは嬉しかったが、元より長居をするつもりはなかった。
別れの挨拶をするだけなのだから。

「陽太さん、私もご一緒してよろしいかしら?」
「え?」
真っ直ぐこちらを見る湖杜さんの意図は解らないが、正直迷う。
最後の別れは誰にも邪魔されたくなかったから。
「大丈夫です。陽太さんの邪魔はいたしませんわ。私は、車に居りますから」
「あ、いえ、は、はぃ…」
うわ、バレバレだよ…
恥かしさに吃ってしまった僕に、にっこりと微笑む湖杜さんは気にもしていない
様子で、それがまた余計に恥かしさを煽った。

「では、正面に車を回すよう手配するから、二人とも仕度を済ませたらどうだ?」
「そうですわね。それでは陽太さん、また後ほど」
「は、はい」
射蔵さんの助け船にのって、僕は湖杜さんの後姿をほっとした気持ちで見送った。


重厚な黒塗りの車の後部座席に、湖杜さんと並んで座っていたが、終始無言だった。
その間僕は、これまでの事、これからの事をずっと考えていた。

あの時こうしていたら… すぐにその考えに至ってしまい、またすぐ打ち消す。
起きてしまった事を、今更悔やんでも遅い。
考えなくてはいけないのは、これからの事だ。

これからの事。思い出すのは、楽しかった事。

思い出に浸りながら、それと決別しようとしている事に、痛みを感じていた。

今だけ、この車の中で、最後にしよう。
三人でいた、あの輝いていた、楽しかった日々を思い出すのは。

144 名前:同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 [sage] 投稿日:2007/03/29(木) 01:35:11 ID:PjZaIhi7

「陽太さん、私はここでお待ちしておりますわ」
車はすでに目的地についていた。
湖杜さんに声を掛けられてその事に漸く気付いた僕は、返事に代わりに小さく頷くと、
一人車を降りた。

思った以上に、人の出入りは疎らで、閑散としている。
本家を出た頃はまだ仄かに明るかった空も闇に包まれ、すっかり夜になっていた。

歩きながら、落ち付いていくのが解る。
車内であれほど感じていた躊いや痛みは、今ではもう感じない。

そして、凪いだ気持ちのまま、目的のドアをノックした。


「…はい」
最後にその声を聞いたのは、いつだっただろう?
酷く遠く昔のように感じられ、その懐かしさに一瞬引き込まれそうになるが、
目を閉じその思いを振り切ると、白いドアを開けた。

「久しぶりだね… 怪我の具合はどう?」
いつも通りに話しかけると、滅多に見られない驚いた表情でこちらを凝視したまま
固まってしまっている。

無理もないと思う。
しばらくドア傍に立ったまま、落ちつくのを待った。

しかしすぐにその驚きの表情は安堵の顔に変わり、軽く息を吐くといつもの見慣れた
表情に戻った。
「大丈夫だ。それより、お前、今までどこにいたんだ?
学校の連中に聞いても、お前も夏月も伊藤も、学校にはあれ以来姿を見せてないって
言うし、お前の家や携帯に電話しても繋がらないし…
あれから何があったんだ? 陽太」

「巻き込んで怪我までさせて、ごめん。
東尉には感謝してもしきれないくらい、感謝してる。ありがとう」
きっちりと頭を下げ、謝罪と感謝を告げた。

「馬鹿、頭上げろって。俺が勝手に巻き込まれたんだし、お前が怪我させた訳でも
ないだろうが。それより、何があった?」

「それは言えない。東尉は知らない方がいい」

145 名前:同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 [sage] 投稿日:2007/03/29(木) 01:36:40 ID:PjZaIhi7

「……それは、どういう意味だ?」
訝しげに眉を寄せた東尉の顔を、静かに見続ける。

「今日は感謝と謝罪、そして別れを言いに来たんだ」
感謝と謝罪は終った。残るは―――

「今まで、ホントにありがとう。東尉が親友でよかった。
もう会う事もないけど、元気で」

「お前何言ってるんだ? ちゃんと説明しろ、陽太!」

「―――さよなら」
「陽太っ!!」

呼び止める東尉の言葉を振り切り、病室を出て足早に出口に向かう。
脚を怪我している東尉が、僕を追ってくるのは無理だと解ってはいたが、
一刻も早くこの場を去りたかった。


闇に溶け込む様にひっそりと駐まっている車に安堵する。
車から降りてきた湖杜さんはドアを開けたまま佇んで、僕を待っている。

一歩一歩、ゆっくりと車に近付くと、無言のまま湖杜さんをそのままに
車に乗り込もうとした。
しかしその前に、もう一度病院を振り返り、これが最後だと目に焼き付ける。

「陽太ぁっ!!」

驚いた。驚いた事に、病院の入り口には、肩で息をする東尉の姿があった。
ギプスで固められた脚を引き摺って、ここまで追いかけてくれた事に胸が痛んだが、
すぐに消えてなくなるだろう。
迷わず車に乗り込み、シートに深く座る。

「陽太っ、待て! ――っ!」
どさりと鈍い音がして、東尉が倒れ込んだんだと解ったが、敢えて何もしない。
視界の端で湖杜さんが東尉に駆け寄って、手を貸しているのが見えた。

東尉はまだ追ってこようとしていたが、それより早く湖杜さんが戻ってきて、
車は何事も無かったかのように滑り出した。


これで、お別れだ―――


バックミラーに映る東尉の姿に、最後の別れを告げ、目を閉じた。

146 名前:同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 [sage] 投稿日:2007/03/29(木) 01:37:44 ID:PjZaIhi7

すっかり見慣れたが見飽きない庭園を、何時の間にか居た射蔵さんと並んで眺める。
「煙草… 身体に悪いですよ?」
一体一日に何本、いや何箱吸っているのかと思うほど、いつでも射蔵さんは
煙草を吸っている。

一度ゆっくり深く吸い込むと、射蔵さんは紫煙と共に吐き出す様に呟いた。
「吸うと思考が鈍るんだ… 苛つきが少し治まるしな。
見つからないもどかしさに、おかしくなりそうだ…
生まれる前から運命の相手と一緒のお前が羨ましいよ」

そう言って笑った射蔵さんの言葉は、既に狂人のものだった。
けれどその狂人の言葉に、笑顔で頷いた僕もまた、狂人なのだろう。


離れの中に入ると、楽しげに話す声が聞こえる。
「――それで、兄さんの事を兄さんって呼ぶようになったんです」
「そう」
「…………。十年くらい前の本家の集まりに、湖杜さん来てましたか?」
「ええ、居ましたわ」
「お兄さんも一緒でしたよね?」
「ええ、お兄様も一緒でしたわ」
「湖杜さんが、きっかけなんですよ」
「そうですの… 夏月さん、その話はまた今度聞かせて下さいね。
今日はこれで帰らなくてはいけませんの」
「はい、湖杜さん」
「ご機嫌よう、夏月さん」

「同じ話を何度もすいません…」
「確かに、空で言えるほど聞きましたわね」
玄関にやってきた湖杜さんにそう謝ると、笑いながら少し僕を責める。
「でも、今日で最後ですから」
「あら… そうですの」

そう、今日で最後だ。夏月に寂しい思いをさせるのは。

僕の決心を悟ったのか、湖杜さんはにこりと微笑むとそのまま離れを出ていき、
僕は玄関のドアに鍵をかけると、迷わず夏月の元に向かった。
ノックもせずに部屋に入ると、ベッドの上で上半身を起した夏月がいた。

こうして二人きりで向き合うのは、久しぶりだった。
夏月はどこかぼんやりとした表情で、僕の事を気にも留めていない。

いや、実際見えていないのだろう。

「夏月、戻っておいで」
向かい合う様ベッドに座ると、無事な左目を覗き込んで呼びかける。

夏月、夏月、寂しいよ、夏月。
夏月は、寂しくない? 僕は寂しい。独りきりは、寂しいよ。
でも、一緒なら寂しくないよね? ね、僕も一緒だから、

だから、戻っておいで―――


147 名前:同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 [sage] 投稿日:2007/03/29(木) 01:38:56 ID:PjZaIhi7

「夏月、夏月、夏月、夏月、夏月…」
何度も何度も名を呼びながら、何度も何度も触れるだけの口付けをする。

投げ出された細く小さな手を握り、口付けの合間に柔らかい唇を舐め、
薄く開いたそこに舌を潜り込ませた。
滑らかな歯や歯肉を舌先でなぞると、誘う様に更に口が開く。

「……んっ…」
舌先が奥に隠されていた舌を掠める様に撫でると、小さかったが反応があった。
その夏月の漏れた声と、震えた身体に、あの時と同じ感覚が背筋を駆け上がる。

夏月のこの舌に、傷口を舐められた時と同じ感覚。

それは、肉欲――

その衝動に突き動かされるまま、深く唇を重ねると舌を絡めた。
思うまま存分に夏月の口内を貪っていると、息も荒く僅かだった反応も徐々に多くなり、
その事が僕の欲を益々煽り、夢中で味わい続けた。

強く握り返された手に、名残惜しく唇を離すと、夏月を覗き込む。
「夏月?」
「兄さん…」

戻ってきた。戻ってきてくれた。
嬉しさに夏月を抱き締めようとすると、やんわりと拒絶されるが、それは予想済みだ。

「だめ… 汚れる、よ… 汚… わ、わたし… きたな…」
「汚れないよ。夏月は、汚くない」
「ちが… きたな…」
「大丈夫。僕と夏月は一緒だから、大丈夫」
「い… しょ?」
「そう、一緒。同じだよ。だって、双子だろ?」
「ふた、ご… おなじ…?」
「そうだよ。一緒。同じ。だからね、大丈夫」
「わたし… わたし…」

「好きだよ、夏月。好きは、夏月と同じ好き。僕も夏月が好きなんだ」

信じるまで、何度でも言うから。
「夏月、好きだよ」

「わたし… 兄さんを、好きで、いいの?」

夏月の左目から溢れる涙を、そっと拭ってやり、そのまま頬を包み込む。

「いいよ。僕も夏月が好きなんだから」

「兄さん… 好き… 兄さんが、好きなの」

僕もだよ。返事の代わりに、口付けた。

148 名前:同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 [sage] 投稿日:2007/03/29(木) 01:40:02 ID:PjZaIhi7

そっと抱き締め、口付けを深くし舌を絡めると、今度はしっかりと答えてくる。
ぬるぬると蠢く舌が絡まり、じわりと腹の底から熱が沸き上がって、堪らずに夏月を
押し倒すと覆い被さる様にして、また貪る。
獣染みた互いの息遣いと、にちゃつく水音、そして口内での繋がりが欲を掻きたて、
夏月の寝巻きの合わせ目から手を滑り込ませた。

寝巻きの下には何も着けておらず、掌に夏月の滑らかな肌の感触が伝わってくる。
そのまま掌を滑らし、一層柔らかく膨らんだ場所、乳房に辿り着く。
初めて触れた吸い付くような肌と弾力。
確かめる様に優しく触れていたのは最初だけで、夏月の身体がびくりと震えたのを
合図に、持ち上げる様に押し付ける様に揉み拉く。

そして掌を押し上げる様に硬く凝った頂きを摘むと、夏月は甘く高い声を上げて身体を
仰け反らせた。
その反動で唇が離れてしまったので、飲みきれず顎を伝わって零れる雫を舌で辿り
腰紐を解きはだけると、首筋、鎖骨を舐め、尖ったそれに吸いついた。

「あぁっ… にぃ、さんっ… 好き、好きなのっ」
甘い声が僕を呼び想いを告げる。

もっとその声が聞きたくて、吸いついたそれを舌で転がし甘噛みし、空いた手を
脇腹からのなだらかな線に沿って滑らす。
「ひぁんっ! …あっ!」
辿りついた秘所は既に濡れていて、指を滑らせるとより一層甘い声で鳴いた。

ぬるりと指に絡みつく蜜を擦り付ける様に、何度も陰唇をなぞり、溢れてくる
蜜の助けを借り、徐々に沈み込ませていく。
「んんっ! っ… ああっ!」
淫口に指をゆっくりと押し進めると、やはり痛かったようで夏月の身体が強張る。
しょうがない事とはいえ、これから更に夏月には痛い思いをさせてしまう。
僕に出来る事といえば、少しでも痛みを軽くする事ぐらい。
そんな思いと、もっと気持ち良くなって欲しいという思い、そして自分自身の欲から
身体をずらすと、夏月の秘所に舌を這わせた。

「ひあぁぁん! …あぁん! にぃ、さっ… 兄さんっ!」
次々溢れる蜜を舐め取り、指と舌とで淫口を解すように刺激していると、漂ってくる
女の雌の匂いが色濃くなり、頭の芯が甘く痺れ、もっともっとと駆り立てる。
そしてさっきよりは柔らかくなった淫口に、なんとか指を沈み込ませると、
ぷくっと膨らんだ淫核に吸い付き吸い上げた。
「ひぁぁぁぁぁっ!!」
その淫核の刺激に、ぎゅっと肉襞は指を締め付け、身体を仰け反らせると、
一際高い嬌声を上げた。どうやら、いってしまったらしい。
しかしその事で、ひくつく肉襞は柔らかくなり、指の動きを受け入れるようになった。

丁寧に確実に追い詰めながら、指を増やし解してゆく。
嬌声にすすり泣くようなものが混じり、夏月が身をくねらす。

「にっ… さぁん! も、もう… ダメぇ! ひあんっ!」
その言葉に身を起こし指を緩やかに引き抜き、着ている物全てを脱ぎ捨て、
夏月の脚を開くと、身体を滑り込ませた。

149 名前:同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 [sage] 投稿日:2007/03/29(木) 01:41:08 ID:PjZaIhi7

「夏月… このまま挿れて、中に出すからね」
コンドームを付ける気は無かった。
それが僕の、夏月に対しての答え。
「うん。兄さんの、わたしの中に… 全部ちょうだい…」
うっとりと微笑んだ夏月の、汗で貼りついた前髪を梳いてやり、露になったおでこ、
包帯に隠れた右目、赤く熟れた唇に口付けた。

「夏月… 力、抜いて」
「ぅん…」
その言葉に従って夏月が息を吐いた瞬間、怒張を一気に最奥まで突き立てた。
「―――っ!!」
ぎゅっとしがみ付いてくる夏月を愛おしく感じながら、眩暈がするほどの快感を
抱き返しながら、ぐっと耐える。
痛みに浅い息を繰り返す夏月に口付けながら、じっと動かず落ち着くのを待つ。

「夏月、好きだ… 夏月、夏月、好きだ」
「…わた、しも… すき、好きなの… 兄さん、大好き…
ね、兄さん… わたしに、ちょうだい… 全部、全部、ぜんぶ
兄さんの、全部、わたしに、ちょうだい…」

ああ、もう少し待つつもりだったのに。
優しくするつもりだったのに。

「全部あげるよ、僕の全部をあげる…
だから、夏月の全部、…僕が貰うよ」
夏月の返事を待たずに、激しく腰を打ち付ける。
「ひあっ!! あっ! んぅ! あぁっ!! んんっ!」
痛みを耐えるような声に、僅かに快楽の色が見え隠れするのがせめてもの救いだったが
それでももう止まれなかった。

本能の赴くまま、快楽だけを追い求める。
「…兄さんっ! にっ、さん! …あぁっ!」
「夏月っ! 夏月っ…!」
名を呼びながら、ただひたすら貪り尽くす。
そして全てを、夏月の中に放った。


荒い息を吐いたまま、腕の中にいる夏月の重みを感じ、ぼんやりと天井を見ていた。
「にぃ… さん…」
掠れた声で囁いた夏月の吐息が、鎖骨を擽りふわりと消える。
「わたしの中で、たくさん、出してくれたんだね… 嬉しい…
ね、兄さん… 兄さんはわたしのだよね?」
摺り寄せる夏月の柔らかい髪や肌を擽ったく感じながら、そっとお腹に手をやった。

「夏月の中、凄く気持ち良かったからね。沢山、出たよ…
夏月は僕のものだし、僕は夏月のものだよ」

「うん、嬉しい… わたし、幸せ… すっごく幸せだよ…
これからもいっぱい、いっぱい出してね… だって―――」

「うん。僕も、幸せだよ。そうだね、沢山夏月の中に出すよ…
僕も、欲しいから―――」

150 名前:同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 [sage] 投稿日:2007/03/29(木) 01:42:17 ID:PjZaIhi7

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「ふぁぁぁぁ… おはよー夏月」
「おはよう、兄さん。今出来るから座って」
「んー」
リビングに入るなり、大きな欠伸をして朝の挨拶をした僕に、朝食作りの手を止め
笑顔で挨拶をしてくれる、愛しい双子の片割れで妹の夏月。
白いエプロンを付け、くるくると手際よく朝食を作るその姿は、ホント可愛い。
朝から僕のためだけに甲斐甲斐しく働く姿が見られるのは、兄である僕の特権だ。

「ごめんねー、夏月ぃ… 朝ご飯の仕度、全部任せっきりで」
離れに二人で生活し始めて三ヶ月、ほぼ毎日ほぼ同じ台詞で謝っている。
炊き立てのつやつやふっくらご飯をよそりながら、夏月はぷっと頬を可愛らしく
膨らませた。怒っている顔をしているようだが、ちっとも怖くなく逆に愛らしい。

「もう! 気にしてないって言ってるでしょ? 兄さんは朝弱いんだから、いいの!」
そうは言っても、任せっきりっていうのは、どうだろう。
夏月も大事な時期に差し掛かった訳だし、朝もちゃんと起きて手伝わなくちゃな。

「うーん… じゃあ、今日の夕飯は僕が作るからさ」

「え!? ホント!?」
「ホントにホント。今からレパートリー増やしておかないとね。
ただし、リクエストは僕が作れるものにしてくれよー」
「うん! ありがと、兄さん!」
「お礼言うのは僕の方だってば。
あ、夏月の美味しいご飯冷めちゃうよ、早く食べよう。いただきます!」
「いただきます」
もぐもぐと美味しい夏月の朝ご飯を食べつつ、目の前で笑顔でご飯を食べている
夏月を見ながら、僕は幸せに浸っていた。

「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
日課になっているのに、いまだに照れるのか、ほんのりと頬を桜色に染め、
目を瞑ってその時を待つ夏月の可愛らしい唇に、触れるだけの口付けを落とすと、
まだ何の変化も見えない夏月のお腹を、そっと撫でる。

手を振って見送ってくれる夏月に手を振り返しつつ、僕らの家である離れから、
仕事仲間の射蔵さんらが居る母屋までの道程を歩きながら、庭園に目をやる。
残暑も過ぎ、秋の気配が色濃くなって、また違った風情がある。
この庭園で四季を繰り返し感じながら、これからの日々を過ごしていくんだろう。
そして一日の仕事が終ると、我が家、夏月の元へと帰る。


巡り巡って、帰ってきた――――

僕の帰る場所は、夏月。
夏月の帰る場所は、僕。


「ただいま」「おかえり」


-了-