201 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/08(日) 21:31:19 ID:49zRa4yR
>>198
京極?お茶会は、文章の言い回しがそれっぽい

202 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/08(日) 21:40:15 ID:K/tajX/u
>>191
GJ!
室田さんテラカッコヨス

203 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/08(日) 21:46:43 ID:8RsNpQMy
綾緒の親父や北方さんの親父、そして室田さんと
最近渋い親父さんたちがいい味出してるなw

204 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/08(日) 21:53:09 ID:8RsNpQMy
んー。連投スマソ。
お茶会の人は京極さんは好きみたいだよ

205 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/08(日) 23:25:15 ID:2xM6ukLJ
雄志HP45
室田HP21
かなこHP120
10本松HP1200
華HP450
まっつあんの回し蹴りは300くらいくらうので雄志と爺さんではまず耐えれませんw

206 名前:名無しさん@ピンキー[age] 投稿日:2007/07/09(月) 02:35:30 ID:oPLd+SgQ
さて保守

207 名前:名無しさん@ピンキー[age] 投稿日:2007/07/09(月) 02:44:05 ID:oPLd+SgQ
アゲ

208 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/07/09(月) 22:41:32 ID:qyOrTyQe


209 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/07/10(火) 21:09:41 ID:QEpBNX7q
あげ

210 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/07/10(火) 22:24:55 ID:l55ZmRKf
・21話

――そうして。
僕は独り、夜の校舎の前に立っている。
空に浮かぶ月はようやく真上にたどり着こうとしていた。真っ暗な夜の中、そこにだけ
ぽっかりと穴が空いたかのように輝いていた。近くに街灯はない。懐中電灯なんて持って
きていない。月明かりだけが頼りだった。
それでも。
闇の中、静まり返った校舎は、月明かりを浴びて――くっきりと浮かび上がっていた。
蜃気楼のように。
現実味もなく。
現実感の失われた景色。
日常から、遠く乖離した光景。
ソコにあるのは、昼間に通う学校とは、まるで別物だった。
――異界。
彼女たちの言う、ソレにこそ相応しいのだろう。
「…………」
異界となった学校を、独り、見上げる。
当然の如く、周りには誰もいない。僕独りだ。独りきりだ。
神無士乃は傍にはいない。
神無士乃は何処にもいない。
如月更紗は傍にはいない。
如月更紗は、向こうにいる。
向こう側で――僕を待っている。
「……行くか」
僕は独りごち、校舎を乗り越えようとして……止めた。夜中の学校に正面から忍び込んで
もし警報が鳴りでもしたら全ては台無しだ。
他の誰にも、邪魔されたくなかった。
幸い制服を着たままなので、闇の中に溶けるようにしてそう目立ちはしないだろう。と、思う。多分。
それでも補導でもされたら事なので、こっそりと、見つからないように気をつけながら校門沿いに裏手
へと周る。
「…………」
歩きながら――ふと、笑いそうになる。
補導。
見つからないように。
そんなことを、そんな当たり前のことを、当たり前のように考えてる自分に。
――しっかりしろよ里村冬継。そんな『日常』が、一体何処にある?
心の中で誰かが囁く。
頭の中で自分が囁く。
そんなものはありはしないと。
幼馴染は狂っていて。
幼馴染が殺されて。
実の姉は狂っていて。
実の姉は殺されて。
クラスメイトは狂っていて。
クラスメイトが殺して。
狂気倶楽部。
マッド・ハンター。
アリス。
三月ウサギ。
魔術短剣。
ハンプティ・ダンプティ。
そんなもののどこに――日常がある。
狂気しか、ないじゃないか。
誰も彼もが、狂っている。


211 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/07/10(火) 22:34:11 ID:l55ZmRKf
「……は、」
乾いた笑いが出た。笑わずにはいられなかった。
――誰も彼もが狂っているのならば。
それは、彼ら/彼女らにとっては、日常に他ならないからだ。
基準点が違うだけの普通さ。アブノーマルなノーマル。
そこに――僕は今、自分から、脚を踏み入れようとしている。
「…………」
校舎の後ろに出る。グラウンドの端の方は一部がバックネットが低くなっていて、そこ
からならば乗り越えて入ることができた。裏門でも正門でもない第三の道。這入るならば、
ここからが一番いいだろう。
フェンスに手足をかけて、昇る。一歩上へと進むたびに、がしゃり、がしゃりとフェン
スは嫌な音を立てた。
「…………」
その音を聞きながら――僕は思う。
今、自ら、脚を踏み込もうとしている。踏み入れようとしている。踏み出そうとしている。
向こう側へ。
でも、
――何のために?
自問する。
自らに、問う。
――誰のために?
誰のために夜の校舎へと向かっているのか。誰のために夜の校舎へと向かっているのか。
姉さんの死の真相を知るために?
神無士乃の死に仇討つために?
それとも。
それとも、僕は。
如月更紗を――
「……考えるな」
自分に言い聞かせる。今は考えるときじゃない。余計なことを考えれば、動くことができなくなる。
考えるよりも前に、動け。
全ては。
事の真相を、真実を知ってからでも――きっと、遅くはない。
「…………」
フェンスを乗り越える。僅かな距離を下へと降り、最後はいっきに飛び降りる。グラウンドの土の上に
着地して、制服の裾を払った。
手に持った鞄が、やけに重く感じる。
中に入っているものは――いつでも、取り出すことができる。


212 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/07/10(火) 22:49:09 ID:l55ZmRKf

グラウンドを横断して校舎へと近づく。間近で見上げるは、昼よりも一段と威圧感を放って見えた。
こうしているだけでわけもなく気圧されそうになってしまう。夜の校舎に明かりはない。どの教室も、
完全に寝入るように暗く静まっていた。この時間にもなれば、誰一人として学校内には残っていないの
だろう。
本来なら。
暗くて、分からないけれど――このどこかに。
彼女が、待っている。
「…………」
そこで、気付いた。
「……どこにいるんだよ……?」
おいおい、ちょっと待て。ここまでシリアスできてそれが分からないとか洒落になってないぞ……
というか洒落以外の何でもないじゃないか……まさか学校中を探せとか言うんじゃないだろうな。
いや。
思い出せ。
確か、あの時。
神無士乃を殺した彼女は、確か言っていたはずだ。なんだったか――その前後のインパクトが強すぎて詳しく
思い出せないけれど、確かに、言っていたはずだ。
――姉さんが死んだ場所に、『彼』を呼んだ。
そう、言っていたはずだ。
姉さんが死んだ場所。冬継春香が死んだ場所。
「……図書室、か……?」
直接に死んだ場所というのならば、それこそ『落下地点』なのだろうけれど……まさかそんな見通しのいい
場所を待ち合わせ場所に指定するとも思えない。そんな場所に間抜けにも突っ立っていれば、何かの際に外か
ら見られかねないし――第一そもそも、ここからも人影は見当たらない。
図書室、だろう。
そこに、あいつが待っている。
五月生まれの三月ウサギ。
姉さんを殺したかもしれない、相手。
『彼女』がそこにいるのかは――分からない。
「…………」
校舎を前にして、僕は考え込む。真実を知りたいのならば、全てに決着をつけたいのならば、迷わずに
図書室にいくべきだ。そこから全てが始まったというのなら、そこで全てが終わるはずだ。
でも。
僕は、知ることよりも――姉さんよりも。
あいつのことを大切だと――一瞬でも、思わなかったのだろうか。
疑惑がある。確信にまでは満たない、かすかな疑惑が。夕焼けの道で、夜の道で、
あの地下室で感じた、微かな違和感。違和感とすら気付かない、今になって、冷静になって
ようやく気付くような――些細な齟齬。
如月更紗の家にいって、その齟齬に、僕は気付いた。
もしかしたら、と。
ありえない、馬鹿げている、仮定にすらならない――狂った話だ。狂った道理だ。
けど。
狂ったものがまかりとおるこの世界でなら。
それは、あり得ないことじゃ――ないのかもしれない。
どちらにせよ。
決めなくては、ならない。
図書室へいくのか。それとも、僕は。
僕は。
僕は。
僕は――――――――――――――――――――

A-1 図書室へと行く。
A-2 屋上へと行く。


213 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/07/10(火) 22:50:40 ID:l55ZmRKf
……以上で21話終了です。
調子を取り戻しながら書いているので、変なところ、読みにくいところがあったらごめんなさい。
ラスト分岐で二パターンエンドになります。よければどちらか選んでください

214 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/10(火) 23:03:56 ID:mu0XAkSW
うおおおおおおお!
スマン、ちょっとだけ、ちょっとだけ悩ませてくれえ!

215 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/07/10(火) 23:08:25 ID:QEpBNX7q
無難にA-1でたのむ

216 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/10(火) 23:13:25 ID:mOUQvF7Y
ちょw
そこまで言うのなら

A-2

更紗と冬継に幸あれ

217 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/10(火) 23:21:56 ID:uMu03RXw
>>213
うわあああ
ここで選択肢ってキツい(´;ω;`)

……冬継の齟齬を信じてσB

218 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/10(火) 23:22:20 ID:qIpG6hZe
A-3 帰る

ごめん、嘘ですwwww

A-2お願いします

219 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/10(火) 23:28:31 ID:uMu03RXw
>>217
ちょwwwww
Bってなんだよ俺orz
スマソ、A-2で

220 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/10(火) 23:29:04 ID:qIpG6hZe
>>219
気持ちはわかるw

221 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/10(火) 23:49:04 ID:cdfnIJiy
Aー2だな

222 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/07/11(水) 00:24:16 ID:p23+qE/s
>>218
僕は――――――――――――帰ろう。
「もう夜も遅いし、帰らなくちゃな……」
時計を見ればもうすぐ十二時だ。こんな時間に出歩いてたら姉さんに怒られちゃうや。
だいたい夜更かしすると健康に悪いんだよな……明日も学校があるし、早く風呂に入って寝よう。
大体。
みっともないから言わなかったけど、夜の学校で、オバケが出そうで怖いんだよな。
僕の学校の七不思議のひとつにブリッジしながら高速で迫ってくるベートーベンというのがあるけど、
実際にそれを見たら間違いなく心臓ショックで死ぬ自信がある。
……まさかそれも狂気倶楽部が関わってないだろうな?
いくらなんでもそんなお間抜け団体ではないと信じたい……
とりあえず、僕はまだ長い長い復讐のロードを昇り始めたばかりだから、今日は帰るとしよう、うん。
「ああ……今夜も月が綺麗だ……」
そんなどこかで聞いたような言葉を呟きつつ、僕は踵を返し、

「――――待て!!」

そんな声に、呼び止められた。
聞き覚えがあるような、
聞き覚えがないような、
そんな声だった。
「………………」
かなり嫌な予感がしたけれど、声のあまりの迫力に、無視するわけにはいかなかった。
恐る恐る、
ゆっくりと、
僕は、
振り返る。
その瞬間――――

カッ、と。

――グラウンドの照明が、一斉に点灯した。

「――!?」
昼間以上の明るさに一瞬目がくらむ。野球の試合で使うような特大のライトがいつのまにかグラウンドを囲むように
設置されていて、それが一気にともったのだ。先までろくに見えなかったグラウンドは、今は夜の光の中に赤裸々とその
姿を見せている。
そして、そこには。
「お、お前は――!」
「何をしているの冬継! 貴方の戦いはまだこれからなのよ!」
姉さんがいた。
正確に言えば、姉さんだけじゃなかった。
姉さんがいた。神無士乃がいた。神無佐奈さんがいた。
須藤冬華がいた。須藤幹也がいた。ヤマネがいた。グリムがいた。裁罪のアリスがいた。白の女王がいた。
壱口のグレーテルがいて、名前すらなかった死体がいて、ニュースキャスターのお姉さんまでいた。
如月更紗がいた。
……なんでお前までここにいるの?
とにかく生きている人も死んでる人もいちゃいけない人もまだ出番のない人も全員いた。
明らかにおかしくておかしすぎるオールスター全員大集合だった。
その中で一人、須藤幹也が一歩踏み出してきた。
顔にほがからな笑みを浮かべていた。
「さあいこうぜ! 僕らの戦いはまだこれからなんだ!」
――キャラが違った。
そしてその言葉を合図に、全員が意気揚々と、まるでアニメのエンディングのように校舎へと駆け出した。
駆け出していった。
「…………え?」
跡には。
わけのわからず、僕だけが、ぽつんと一人で――――――
END.

223 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/07/11(水) 00:25:46 ID:p23+qE/s
A-3を見た瞬間気付けば勢いで書いていたた
反省している

224 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/11(水) 00:28:30 ID:VO+e09bv
ちょwwwwwwwwww
俺の冗談が実現したwwwwwwwww

手間かけてすんませんw
超GJ!!

225 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/11(水) 00:35:23 ID:bEWFbty3
>223
GJ。実に台無しだw
つーか仕事が速すぎるぞ貴兄w

俺もA-2で。

226 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/11(水) 01:01:11 ID:W8zGd28Y
こんな時間なのに不覚にも笑ってしまった。超GJ

227 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/11(水) 03:51:25 ID:subdYLRb
幹也っちのやたらハイテンションぶりに噴いたww
完全にキャラ違いだろwwww

選択肢はA-2で!

228 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/11(水) 09:23:08 ID:PFjIO+BP
ああもう、いろいろと楽しませてくれるなあw
A-2でお願いします。

229 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/11(水) 10:06:04 ID:xbUexZZv
A-2キボン

230 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/11(水) 10:08:41 ID:j5sIuJjX
ここで両方と言ってみるテスト

231 名前:伊南屋 ◆WsILX6i4pM [sage] 投稿日:2007/07/11(水) 10:45:05 ID:Dnev62LT
ネタに反応
http://imepita.jp/20070711/385800

選択肢は最終的に両方見れるなら順番は作者様に任せます。
つうわけで両方に一票。

232 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/11(水) 11:32:49 ID:3RuyCtSU
>>141
まとめも更新終わってるし荒らしいっぱいだし・・・。
大変だね、がんばって(´・ω・`)

233 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/11(水) 15:05:40 ID:rDR4xnEa
>>231
リアルでコーヒー吹いたw

234 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/11(水) 15:56:25 ID:subdYLRb
>>231
電車の中で笑って回りに白い目で見られたぞwwどーしてくれるwwww

235 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/11(水) 16:35:52 ID:nMDkay/J
>>234
やあ俺wwww

236 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/11(水) 16:54:48 ID:6XSE7DNB
>>232
お前そのAAみて明らかにそのスレの住人に対する悪意をを感じないのか? 天然か? それとも

237 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/11(水) 18:11:36 ID:+WyFl3xc
>>236
そういう系のAAにはキガーとキキーンとある
だがどちらもニダー関連AAだそうな

238 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/07/11(水) 20:44:09 ID:giYDbz6s
A-2/22話投下します。
今回は短めで、次が長めになる予定。
A-1ルートは、A-2ルートが書き終わったあとで書く予定。

>>231
覚悟してみたがそれでも吹いてしまった

239 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/07/11(水) 20:44:51 ID:giYDbz6s
……どうしてだろう?
どうしてだろうと、僕は考える。おかしい。冷静に考えてみればわかるはずじゃないか。
そんなことをする理由は、ひとつだってないはずだ。
なかった、はずだ。
……どうしてだろう?
僕は自問する。そして、自答を求める。頭の中に浮かんだのは、非論理的としか言いようの
ない思考だった。姉さんを愛していた。姉さんは死んでしまった。姉さんは殺された。姉さん
の死の真相を知り、姉さんの仇を討つ。
姉さんのために。
そのためだけに――生きているつもりだった。狂気倶楽部とかかわったのだって、姉さんの
死に関する真実を知るため、それだけだった。
それだけだったはずなのに。
「…………」
目を閉じる。頭に浮かぶのは、死んでしまった姉さんでも、死んでしまった神無志乃でもな
い。
如月更紗の、顔だった。
如月更紗。奇妙なクラスメイト。狂気倶楽部の一員。マッド・ハンター。男装の麗人。大鋏
を振り回す狂人。帽子屋。皮肉が好きでキスが下手で。諧謔的なことばっかりを口にする露出
狂で。
……ろくでもないぞ?
よく考えてみれば、よくよく思い出してみれば、ろくでもない人間だ。まっとうだなんて言
い難い。言うまでもなく真っ当じゃない。常識から外れている。変人で、変態で。狂人かどう
かは、わからないけれど、道を踏み外しえいるのは確かだ。
よく考えてみろ、僕。
そんな女と――姉さんと、どっちが大切なんだ?
姉さんの死の真実を確かめることと。
如月更紗の真実を、確かめることと。
「……考えるまでも、なかったのかもな」
僕は目を閉じたままに独りつぶやく。まぶたの裏に浮かぶのは、あの日のあの景色だ。如月
更紗と共にすごした、ごくごく短い――けれど、決して忘れることのできない日々だ。
屋上でキスをして。
保健室で語り合って。
一緒にチェスをして。
短い時間だったけれど。
短い時間だからこそ。
あの時、中途半端な位置に立っている、向こう側に立っているくせにこちら側の意識を持つ
と僕を称して、そんな僕の側が居心地がよいと如月更紗が言ったように。
僕は。
初めて、姉さん以外の人の。

隣にいて――楽しいと、そう思ったんだ。

あの地下室で、僕は明瞭と、そう思った。
その感情を何と呼ぶのか、僕は知らない。
その感情を何と呼ぶのか、僕は判らない。
けど。
選ぶべき道は――決まっていた。
「…………」
僕はゆっくりと、ゆっくりと瞼を開く。暗く昏い視界が戻ってくる。闇に慣れていた瞳には
、夜のグラウンドが、ぼんやりと見えた。
そこに。
そこに、姉さんが立っていた。

240 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/07/11(水) 20:45:36 ID:giYDbz6s
「――――」
グラウンドの端、校舎の側。レンガ造りの地面の上に、姉さんは立っていた。校舎の壁に寄
り添うようにして。制服に身を包んで。
笑うことなく、じっと僕を見つめていた。
……ああ。
悟る。姉さんは、あそこで死んだのだと。理屈ではなく、わかった。姉さんは、あそこに落
ちたのだと。
その場所に立って、姉さんは、歩み寄ることなく、僕を見ていた。
僕も姉さんを見返して――けれど、歩み寄らない。
わずかな距離。
夜闇の中でも姿の見える、わずかな距離。
それでも。
その距離は、決定的なまでに、遠かった。
「……姉さん」
声が届くと信じて、僕は死んでしまった姉さんに語りかける。 
僕にしか見えない姉さんは、笑うことなく、言葉を返すことなく、ただ静かに耳を傾けてく
れた。
語るべき言葉は、なかった。
だから、僕は言う。
「僕は……行くよ」
姉さん。
里村春香姉さん。
僕を必要としてくれた人。
『自分を愛する誰か』を必要とした、弱くて脆い、僕の姉さん。
死んでしまった、姉さん。
きっと……満たされたのだろうと、そう思った。
僕以外の誰かの手によって。
『彼』の手によって。
姉さんは愛されて、愛されたから死んだのだと、そう思った。
だから、僕は言う。
かつて愛していた姉さんへ、僕は、言う。
別れの言葉だった。

「さよなら――姉さん」

そうして、姉さんは。
僕の言葉を聞いて――笑った。
にやにや笑いでも、
アルカイック・スマイルでもなく。
どこかさびしげで……どこか安心したような、
別れの、笑みだった。
その笑みを最後に、姉さんの姿は闇に溶けるようにして消えた。後には何も残らない。グラ
ウンドに立つのは僕だけで、夜の闇の中、僕はただ独りで立ち尽くす。側には誰もいない。誰
の姿も見えない。いつでも側にいて、達観した笑みを見せていた姉さんは、最後に人間的な笑
みを見せて消えてしまった。
もう会うことは、ないのだろう。
もう、姉さんの姿を見ることは――ないのだろう。
「…………」
どこか、寂しくて。
どこか、悲しくて。
わけもなく泣き出したくなって……けれど僕の瞳からは、涙はこぼれてこなかった。胸に開
いた小さな穴が、かけてしまった心が、ただ姉さんの残滓を残すだけだった。
欠落。
それでいい。
それで……いいんだ。
「…………行くかな」
僕は踵を返し、歩き出す。振り返らずに。振り返ることなく、歩き出す。夜のグラウンドか
ら、夜の校舎の中へと。
屋上を目指して、僕は歩みだした。


241 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/07/11(水) 20:47:38 ID:giYDbz6s
以上です。

242 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/11(水) 21:33:44 ID:subdYLRb
GJ。
ここまで来たらもう何も言わん。
この選択肢がどう転ぶのか、無言でwktkしておきます。

243 名前:伊南屋 ◆WsILX6i4pM [sage] 投稿日:2007/07/11(水) 22:42:53 ID:Dnev62LT
>>241GJ!そしてネタへのレスサンクスです。
イラスト投下
狂人は愛を嘯くより
http://imepita.jp/20070711/814990
いない君といる誰かより
http://imepita.jp/20070711/815820

久し振りだったんでいない君の各キャラの描き方忘れてる……

244 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/11(水) 23:20:22 ID:rDR4xnEa
>>241
wktkが止まらない
これほど先が楽しみなのは久しぶりだなあ


>>243
本文読んでから春香の絵を見たらちょっと泣けてきた

245 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/12(木) 03:04:54 ID:x+LURFcw
>>236
いや、全然悪意ないし天然じゃないよ。

246 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/12(木) 03:37:12 ID:MnImhUEW
本人乙

247 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/12(木) 08:42:23 ID:RQmHCnLO
>>246
まあどうでもいいじゃないかそんなこと

248 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/12(木) 15:19:40 ID:X1hzArOi
■■■■■蠶蠶醴鬮醴髏醢儲諟鑓鈊羽Ы⊇■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■蠶蠶蠶髏勧醴靃藹韲菅莢べ⊇∃■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■醴醴蠶蠶齬醯譴甜Ρ       `∃■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■蠶醴髏髏髏靃醯佼三、      ベ■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■蠶盛護燗燗鷦妓冖マ∴、    ベ■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■蠶醢世鎰鋸謐幽廷レ、        ■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■蠶蠶蠶靉咒謐醴蠶蠶醢止     ■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶醴髏髏蠢〟    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■蠶蠶蠶蠶蠶蠢蹟蠢蠧熨醴影    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■蠶蠶蠶蠶蠶醪攤鸙蠡鸙髏’     ■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■蠶蠶蠶蠶蠶蠶記鷦騾粳”       ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠢,``          ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶監            ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠢』          ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶鋻          ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶』         ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶鬮。      ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶監      ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶鈊    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠢』   ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠢〟■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


249 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/12(木) 19:44:41 ID:Op6jep+B
>>243もう消えてるorz

250 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/12(木) 19:51:10 ID:kvtWW82W
よづりの新作まだかな・・・





∧_∧  +
+ (。0´∀`)
(0゚つと )   +
+  と__)__)


251 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/12(木) 20:02:26 ID:M8EhNDl8
>>249
IE、火狐、月、Janeでは見れたんだぜ。

252 名前:伊南屋 ◆WsILX6i4pM [sage] 投稿日:2007/07/12(木) 21:21:38 ID:w8GH5wqh
見れない人はこれなら見れるかな?
http://imepita.jp/img/trial/20070711/814990.jpg
http://imepita.jp/img/trial/20070711/815820.jpg

んで新作
戯言パロで本の表紙風
http://imepita.jp/img/trial/20070712/766220.jpg
どうせなら全部戯言風にしたかったけどこれが限界orz

253 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/12(木) 23:39:11 ID:2560RRT6
>>252
GJ!
てか抱えてるモノが……

254 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/13(金) 13:07:36 ID:+3Y+lSac
ほトトギすはまだかいな。

255 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/07/13(金) 13:30:25 ID:474MCNay
310 :本当にあった怖い名無し :2007/07/08(日) 00:00:50 ID:yzbATqoHO

2年程前から、隣町に住んでる女に言い寄られてた
高校からの友達で性格は良いんだけど顔が好みじゃないから、
やんわりと付き合えないと断り続けてた
その頃仕事も上手くいかず、悪いことは重なるもので母ちゃんが事故で死んだんだ
同情だけは絶対にされたくないから、
母ちゃんが死んだことを誰にも言わず一人で落ち込んでた
母ちゃんが死んだその日の夜、その女から電話が
「お母さん亡くなったらしいね・・・。」
「・・・」
「今まで言わなかったけど、私もお母さん死んだんだ・・・
昨日だよ。家の階段から落ちたんだ・・・」
「・・・え?」
「・・・一緒だね」

・・・この一言で救われた様な気がした。彼女なら分かってくれると思った
同情なんていらないと思ってた。ただ甘えたかったんだ
抑えてた感情が一気に溢れ出し、大の大人がわんわん泣いちまった
そんな俺の醜態にも、彼女は一緒になってわんわん泣いてくれて、
いつしか彼女のことが好きになってた
これが俺と嫁のなれ初め

256 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/07/13(金) 13:34:23 ID:ZlyLwyfl
風俗デリヘル運営者様へ

風俗ランキング|風俗・大魔神 ポータルサイトを運営しております、
サイト運営者の高橋と申します。何卒よろしくお願いいたします。
この度、風俗ランキング|風俗・大魔神 を現在運営させて頂いています。
風俗サイト運営者様のサイトをご登録して頂きたく誠に申し訳御座いませんが書き込み致しました!
風俗・大魔神の運営する、風俗ランキング、その他の検索エンジンです!
「風俗・大魔神」(http://www.aquakent.net/)の登録を是非お願いしたく
書き込みをさせて頂いたしだいです誠に申し訳御座いませんがご協力お願い致します。

257 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/13(金) 14:42:13 ID:ZfoQN8lp
>>255
女が母親を殺したようにしか見えないwwww

258 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/13(金) 14:55:08 ID:+3Y+lSac
>>257
だよなーw
このスレに毒されすぎてるのか?

259 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/13(金) 23:28:14 ID:iRk0Fy1v
なんの踏み絵だw
夫に先立たれた妻がもう一度葬式をしたいから子供を殺す話みたいじゃん

260 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/13(金) 23:35:08 ID:162aYEan
普通に両方の母親を殺したものだと思ってしまった

261 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/14(土) 03:35:45 ID:q0VL5f0B
いや両方の母親殺したとしか読めないだろ…

262 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/07/14(土) 11:55:38 ID:ThBKU7GD
ttp://guideline.livedoor.biz/archives/50928234.html
これの310?

263 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/14(土) 12:03:27 ID:zXz4WASI
すげえな・・・

264 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/14(土) 21:59:03 ID:j2rjd664
>>255は
>母ちゃんが死んだことを誰にも言わず一人で落ち込んでた
>母ちゃんが死んだその日の夜、その女から電話が
>「お母さん亡くなったらしいね・・・。」

ここがミソ
さらに言えば女が言うお母さんが「お義母さん」という意味である可能性もある

265 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 02:13:47 ID:teTGGwWE
規則的に一日二回、通いなれた道を自転車を走らせながら学校に向かう少女が一人いた。
まだ、さほど人通りが激しくない通路であったため、彼女の姿を目の当たりにする人はごくわずかであった。
しかし、その少女は梅雨の風物詩である紫陽花(あじさい)もあちこちにできている水溜りも目に入ることなく、
外界の刺激を受け流しながら、何か思いつめた表情で物思いにふけっているようなので、
黒髪で元来の怜悧な印象との相乗効果で近寄りがたいオーラを通路を往来する人に与えているようだ。

266 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 02:15:50 ID:teTGGwWE
私があの害物に屋上に呼び出されてから、既にかなりの時間が経とうとしていた。
この期間は言い換えれば、私が松本君と一日のうちに一秒たりとも、顔を合わせることがなかった期間でもある。
というのも、父が私とあの害物の抗争を解決するために、松本君の体調が良くなるまでの間、
一度たりとも顔を合わせない事を私と害物に提案したから。
当然、条件があの害物と同じものだというのは、正直業腹であったけれど、あの場合は冷静に考えて、譲歩しておいたほうが後々、
得になると思ってその案を呑んだ。
だから、自分の選択の結果として、彼に会えずに二週間近くが過ぎようとしているのだが、
いまさら、昔のように彼のことを一方的に想い続けるだけの日々というものは、相当寂しく感じられ、
時折耐えられなくなることがある。
それで、私は何度となく、父を伝って手紙を渡そうとしたが、父は頑として受け付けなかった。

父が何故私にそんな理不尽なことをするのか、解らなかった。
ただ、面倒だったからなのか、問題がねじれていく可能性があると判断したからなのか、
それは私には推し量ることができない。
かつて、私が母に虐げられていたときも、見て見ぬ振りをしていたような父のことだから、
私に対する人間的な情などもともと期待すること自体が間違っていたのかもしれない。
いずれにせよ、私がありとあらゆる松本君との接点が絶たれている状況には他ならない。
幸いにもが異物も私と同じ条件が課されているため、これ以上彼が毒されることはない。

しかし、自分の事しか考えていないあの害物が、果たしてこの条件をどこまで遵守するかは保証されていないことに私は当然気づいている。
仮に害物が約束を違反したとしても、それを咎めたり実際に阻止しようとする人間は私とは違って傍にいない。
だから、実際にそうなってしまってから言っても詮無いことだけれど、私が約束を遵守するなど、馬鹿げている。


267 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 02:16:44 ID:teTGGwWE
それから、最近気になっていることがある。
そもそも私は自分の価値観を理解することができる、ないし共有している人間とだけ付き合うことにしてきていた。
あくまでも私の世界は私のものであって、他の人間とは異なったものとして独立していた。
それは、自他共に認められていて、私は他との交わりは希薄なものであった。
私自身は他人に話しかけず、聞かれたことにだけ淡々と答える。また、相手も私に干渉しないし、口も利かない。
それが今までの構図であった。
けれども、その構造が崩れてきていると思う。
これは、松本君が事故にあったときを境にしていると思うのだが、他人が私の陰口をきくのは今に始まったことではないが、
最近それが著しくエスカレートしつつあった。前はごく一部の人だけであったため、歯牙にもかけなかったが、
最近では大多数の人間が私の人格侮辱語を発しているようだ。
中には正面から罵詈雑言を浴びせかける人すらもいる。


268 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 02:18:27 ID:teTGGwWE
所詮は自分と価値観を共にしない私から見れば部外者の人間の言うことだから気にしないが、
これがエスカレートし始めた時期が自転車事故前後であることが妙に私の中で引っかかっていた。
そんな事を考えているといつの間にか、学校の校門を越え、既に自転車置き場にまで来ていた。
いつもの習慣から機械的な動作で自転車の鍵を施錠し、一直線にグラウンドを横目にしつつ、昇降口へと向かう。
名前の順でわりと早いほうにある、私の苗字のため、下駄箱は上から二段目の左から三番目にある。
北方、と書かれた名前カードの上の取っ手に何気ない動作で手を掛ける。

「痛っ!」

突如、指に電流が走ったような痛みを感じる。
取っ手から手を離して、痛みの走った人差し指を見ると、鮮朱の血が指を伝っていき、
床に真紅の小さな斑点がいくつかできているのがわかった。
血を見ると無意識のうちに、気が遠のいていくような感じがした。
無意識のうちに力を入れていたので、想像以上に血の量が多いようだった。
一瞬、私の脳裏は真っ白になり、何が起こったのか冷静に考えることができなかった。
少しして、指をかけていた取っ手の部分を蚤取り眼で見ると、裏の陰になって見えない部分にかみそりの刃が取り付けられていた。
見事なまでに一箇所だけでなく数箇所に取り付けられており、どの方向に手を入れても怪我をするように周到に計算されているようだった。

269 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 02:19:45 ID:teTGGwWE
こんなことを仕掛けてくるのが誰であるか私は想像がついていた。
しかし、何と姑息な手を使うのか、と怒りよりも呆れが先立ってしまった。
あの害物は本当に自分中心の思考しかできないよう。
結局、害物は本当の意味で松本君が好きなのではなく、それを支配する自分が好きなだけなのかもしれない。

滴り落ちる血液の鉄の匂いが鼻につくので、私は鞄の中にある、応急処置セットを取り出すと、
消毒液をティッシュにとり、傷口を消毒し、その上から絆創膏を貼り、その上からガーゼで傷口を圧迫しておく。
取っ手に仕掛けられたかみそりを全てはずしてから、下駄箱の中の上履きや内側に仕掛けがないか入念に確認したが、特に問題はないよう。
上履きを取り出して静かに履くと、まだ誰もいない自分のクラスの教室へと向かっていった。

このとき、北方時雨は自分の後ろでわずかに小さな影が動いたこと気づかなかった。
そう、喜色をたたえた表情で肩頬を緩ませていながら、やや曇った目は微動だにせずどこか不調和な印象の、ブロンドの少女の存在を―。

270 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 02:20:46 ID:teTGGwWE


人という字は二人の人間が支えあっているから立っていられる、ということを示しているのです―。


それはどこかで使い古された、言い換えるなら、手垢のついた陳腐な話だと引き合いに出しておきながらも、思う。
しかし、多くの人は気づかない事が多いけれども、身近な人がどれだけ自分たちの心の支えとなっていることか。
それはお互い様のことなのでどちらが片一方に、一方通行に貢献している、というわけではない。
多くの場合、それは失ってから気づくものなんだよね。
私自身はもともと、お兄ちゃんの存在は大きなものとしてとらえていたけれど、お兄ちゃんと会える機会が減ったことで一層、私の中における存在が大きくなったよ。
本当に失ってから気づくことだよね。
でも、これは私にとっては人災で、とばっちり以外の何物でもないよね。
だって、私は雌猫を退治しようとしただけだもの。それなのに、父猫がにゃーにゃー、うるさいものだから、私ね、すごく哀れになってきちゃったの。
私は動物を好き好んで殺す趣味はないからね。私にたてつく動物以外は。
私はあくまでも襲われた側にもかかわらず、何で行動を束縛されなければならないのかな。
お兄ちゃん、わからないよ、そんな問題。お兄ちゃんにも絶対に、絶対にわからないはずだよ。

271 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 02:22:10 ID:teTGGwWE
だからね、こんな理不尽な思いをする事になった直接の原因のあの雌猫に少しだけ、
うん、小出しに報復してやることにしたの。
私が不当に味わった悲しみを何倍もあの雌猫に味あわせてやるつもりだよ、あはは。
やっぱり身近な人が死んでいったり、近くにいる人からいろいろと嫌がらせを受けるのは誰だって嫌だよね、
それが人間じゃなくても。寂しいと死んでしまうという動物は何だっただろう?その動物じゃないけど、
苦しい思いをしたから死んじゃった、なんていったら、それはそれで楽しい逸話が一つできて、
何かの本に載ったりしてね、あははは。

でも、それに比べてさっきのはつまんない。
せっかく苦労して、朝早く起きて取り付けた仕掛けを全て見破られちゃった。
しかも、あの泥棒猫は自分の傷口は取り澄ました表情で応急処置を何事もなかったかのようにしてしまう。
まだ、保険医の先生が来ていないから、もっと怖がると思ったのに、残念だなあ。
せっかく猫なんだから、猫らしく傷口をなめて、にゃーにゃー泣いていれば良かったのに。
まぁ、いいや。次はどんな仕掛けを使おうか考えておけばいいんだし。

272 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 02:23:06 ID:teTGGwWE
それよりも、この前にお兄ちゃんに会ったのは、お兄ちゃんがまだ眠ったままのときだったっけ。
それから、何度もお兄ちゃんに会おうと思ったけどいろいろあって、
ごたごたしているうちに思った以上に日がたってしまった。
だから、今日の帰りには寄ってみることにしよう。
それで折角、あの泥棒猫の影響がないのだから、お兄ちゃんの誤解をといておかないと。
いや、それだけじゃ駄目だよね。プラスマイナスゼロじゃ意味がない。こういう好ましい状況はプラスにしなきゃいけない。
そうなると、学校で過ごす時間がわずらわしくなってくる。
でも、私が学校に行かなかった、お兄ちゃんが悲しい顔をするので、そうしないように私は仕方なく学校に通っているのだ。
それにしても、早くお兄ちゃんに会いたいなあ。


273 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 02:25:03 ID:teTGGwWE
「と、いうわけでこの場合の摩擦力は垂直効力と動摩擦係数の関係から……」
物理担当の白衣に身を包んだ若い女教師が、聞き取りにくい小さな声で、教科書にある問題を説明しながら、
黒板に板書された図にいろいろな数値やら、計算式やらを書き込んでいく。

今日は一時間目に物理という、頭を使う学科がきているので、一様に眠そうな顔をしながら、理解しがたい話に耳を傾けている。
この言い方では、やや語弊があって、どんな授業でも必ず悪い意味で教師から目をつけられている人間がいて、
そういった連中は冷房でちょうど良い環境になっているため、堂々と居眠りをしたり、またある者はノートに思い思いのものを落書きしている。
最も、まじめに聞いているような振りをしながらも、先生の目を盗んでは、近くの人と話したり、学校に持ち込んではならない不要物の漫画を読んだりしている者もいる。
別に私は、他人は他人だと思うので、特別にどう思う、とかこうこう行動しよう、とか考えたこともない。
私自身、物理はあまり好きでない教科なので、特別に授業を聞きたいとも思わない。

「というわけで、この問題の解法を活かして、96ページの問2、発展、ですが解いてもらいます。」
説明を一通り終えるとこの教師は毎回恒例で発展問題を解かせるので、私のクラスは本来理系のはずなのだが、
文型肌で、特に物理が苦手な大半の人間にとっては、憎悪の対象となっている。
実際に越えのボリュームを下げた状態で、死ね、黙れ、調子に乗るな、などと言ったたわいもない陰口を叩いている連中も数人だが、確実にいた。

274 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 02:26:38 ID:teTGGwWE
「ええと、34番・松本弘行さん、この問題を解いてください。」
もう二週間近くも入院している松本君を問題を解く人間に指名するとは、何を考えているのだろうか、と咄嗟に呆れてしまったが、その無粋な態度が私を非常に不愉快にした。
「先生松本君は入院しています、それなのに指名するというのはいかがなものでしょう。」
一歩間違えば、大爆発を起こしかねない負の感情を、すんでのところで抑えこみ、まるで吐き捨てるように早口でまくし立てるように言った。
「あ、そうでしたっけ?では、誰にやってもらいましょうか。」
急に椅子から立ち上がり、そう言い放った私の剣幕にたじろいだのか、相手からやや狼狽の色が読み取れた。
他のクラスメイトも呆気にとられてみていたが、再び自分が問題に当たるかもしれないという危惧から、急に騒がしくなった。
「おい、俺は解かないからな!」
「おまえ、ずるいぞ!お前が解けよ。」
「とにかく、俺は解けといわれても、わかりません、としか言わないからな。」
などと言い出す輩も通常よりも増えている。私には知ったことではないので、さっさと自分の主張も終わっていることもあって、
静かに座り、状況を静観することにした。

物理担当はまだ大学の教育実習生と言ってもおかしくないくらいに若い先生で、こうなってしまうと手のつけようがない。
必死に騒ぐ連中を黙らせようとするが、彼女の声は小さくて聞き取りにくいので意味を成していない。
オロオロしながら右往左往する教師と騒がしい生徒、冷めた目で見てしまえば、滑稽なものにしか見えず、
なかなかに見苦しいものなので、それを見ないようにするためか私は傍らに置かれている問題集に手をつける。
三問目に取り掛かりだした頃から、私は何人かの発言が気になった。

275 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 02:27:56 ID:teTGGwWE
「何、あの態度。」
「えー、誰のこと?」
「北方……なんて人だったっけー?よくは覚えていないけど、松本が入院しているのでいません、とか言って、
で今はお高くとまっていやがってさ、気分悪くならない?」
「まあ、ね。第一、あいつは何を考えているかわからないし。」

口を利いたことのない女子の二人組、私から見れば特にとりえのない種類に属する人種だったが、
私に対する随分と辛口の中傷を展開しているようだ。
例によって最近、急速に増えだした私への個人攻撃だったが、こういう態度をとっている以上、
いつかはこうなっても仕方ないことは自覚していたので、私への中傷だけだった最初は私は聞き流していた。
ごたごたしたまま、物理の授業は終わってしまい、折角教えていた公式も解法も誰も覚えていない、
という感じであったが、そんなことは些事に過ぎない。

それからの授業は、いつも通り、味気なく淡々と決められたことを機械的に先生が板書し、それを書き取るという形態で、特に問題なく過ぎていった。
放課後は、私は図書室の片づけと蔵書点検、それから督促状の作成をしなければならないので、図書室に向かう。

276 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 02:29:09 ID:teTGGwWE
施錠されている図書室の鍵の鍵穴に職員室からとってきた鍵を差込み、開錠する。
他教室より重い図書室の扉を開放し、図書カウンターの引き出しに鍵をしまう。
それから、図書室内を一望する。
そういえば、松本君と初めてこちらから積極的に話しかけたのはあのときが初めてだった。
半ば、強制させるような形だったけど、この図書室の片づけを手伝ってもらった。
私は本の片付けをして、彼には掃除をしてもらった。
何とも、味気ないファースト・コンタクトだったものかと今は思ってしまうが、それでも私にとっては大きな転機だったと手前の机に無造作に積まれている本を前にしながら、思う。
手際よく片付けるにはどうすれば良いかを考えて、作業に取り組むと一人でも一時間とかからずに全ての仕事を終えることができた。
図書館で司書の仕事をしている先生がわりと仕事をさばいておいてくれたおかげもあったが、これほどの時間で終わるというのは、驚きだった。

しかし、そのてきぱきと片付いた作業の達成感はあったにはあったが、なんとなく空虚な気持ちが心を掠めた。
何かが足りない。その何かが何であるかも当然、私は解っている。
そう、彼が傍にいない事が私の心にぽっかりと穴を作ってしまっているのだろう。
私は彼と話をしなかったこの期間は、前は話すことができないのが当たり前だったのに、ただただ侘しい。

277 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 02:30:56 ID:teTGGwWE
何度となく彼には図書室掃除を手伝ったもらったが、いつもこの仕事が退屈で仕方のない私をいろいろと楽しませてくれた。
それから、私の話をきちんと聞いてくれた。
私は昔から自分から話をすすんでしようとはしなかった。
父に話せば、仕事のこと以外に興味のない父に無視をされ、母にはなせば、どんな内容でも揚げ足を取られて、虐待を受ける。
かといって、雇われていた使用人に話せば、仕事として義務として話を聞くだけであって、その対応は無味乾燥とした味気ないものだった。
母が私の前から姿を消した後、私は度々、習い事のために家の外に出て、同世代の子と触れ合ったが、同世代の相手とは話の内容がかみ合わず、
私の話す文学やアネクドートの類は他人には嫌味に映ったらしく、自然と人の輪から外れていた。そんな記憶しか思い出せない。
そんな中、嫌な顔一つせず話を対等にしてくれたのは、彼くらいのものだった。

気づくと、頬を温かく湿った感じのしょっぱい何かが流れていく。
泣かないように、と精一杯こらえてみるが、それはやがてくぐもった嗚咽になるだけだった。
こうなると、自分が情けなく思えてくる。
こうして泣いているだけでは何の意味を持たないことを私は知っているのに、実際に何をしたか、努力したかが、重要なのに、
堰をきったように溢れ出てくる奔流を押しとどめることができない。
自分は、一人で、誰とも接点を持たずに何事もこなしてきたが、自分ひとりの感情を抑えられないのだから、自分は決して強い存在などではなく、
もっと脆いものであると、再び確認する。

278 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 02:31:59 ID:teTGGwWE
126という部屋の識別数字の下に松本弘行と書かれた紙が張られ、その部屋にいる患者名がわかるようになっているプレートが表に掲げられている、どこか空しい病室。
患者は自身の妹である理沙と面会していた。
手持ち無沙汰でベットに横になりながら、お気に入りのアニメ鑑賞で時間を潰していた兄は突然の来客に驚いた。
ましてや、その来客が来ることが考えられない人物であったからだ。

「り、理沙!どうしてここへ来たんだ。」
「確かに私はお兄ちゃんのところに行っちゃ駄目だって怒られたけど、妹が兄に会って、話をするのは普通のことだよね、そうだよね、お兄ちゃん?」
「いや、それは…」
「確かにお兄ちゃんの体調が良くなるまで、行かない、と約束したけど、それは、私自身にもその条件を呑まざるを得なかったからだよ。
だからね、あの場はああするしかなかっただけで、それを守るかどうかは私の勝手になっているのだから、そんなことには従えるわけがないよね、ねえ、お兄ちゃん?
お兄ちゃんは理沙の事、叱らないよね?」

約束を一方的に破った理沙はやはり間違っていると僕は思うが、やはり理沙に対する今までとっていた態度を考えると、
少しくらい甘くてもいいのでは、と思ってしまう。
第一、僕が帰るように諭してもこの子のことだから、こういう時は僕の言った事でも、頑として聞かないだろう。
とにかく、何か理由があってきたのだろうから、話しを聞くくらいはしてもいいんじゃないだろうか。


279 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 02:33:48 ID:teTGGwWE
すぐに何かを言い出すのかと思っていたが、理沙は黙り込んでしまった。
それだけでなく、僕に愛に来たことでうれしげな表情を浮かべていたさっきとは打って変わって、沈みこんだ、
どこか申し訳なさそうな感じの表情になっている。
どこか気まずい感じの沈黙の時間が流れる。
こういうときは、相手の発言を待ったほうが良いのだろうか、それとも僕から話しかけたほうが良いのだろうか、と真剣に考えてみるが、答えは見つかりそうにない。
そうしていると、ついに覚悟を決めたのか、気のせいか、すう、と理沙が息を吸う声が聞こえた。

「お兄ちゃん、あの、今までお見舞いにこれなくてごめんなさい。」
「………。」

謝罪から始まった理沙の話に何と返せばいいのか解らず、僕の反応のための時間が三点リーダで埋まってしまう。
「お兄ちゃんがどう思っているかわからないけれど、妹としては恥ずべき行為だよね。」
「それと、もう一つ謝らなければならないことがあります。お兄ちゃんはもう既に知っているかもしれないけれど、
お兄ちゃんの今負っている怪我の九割は私が原因だということです。」
そこまで気丈に理沙は言い続けてきたが、申し訳なさそうな表情に加えて、涙をこらえているのが見て取れた。
もう既に知っていることであり、この事故については僕自身にも遠因となるものがあったと思うから、特別、理沙が悪いなどと僕は思っていない。
そう、ここで理沙の行っている途中に口をさしはさんだところで、彼女を混乱させてしまうだけだろうから、黙って、すぐにも泣き崩れそうな妹を見守りながら、なるべくなら話の聞き手に徹しようと思う。

「お兄ちゃんの怪我の原因になった……自転車は……うっ、ぐすっ、わ、私が……細工したものだったから、……私が、ぐすっ、お兄ちゃんを怪我させて………しまったようなもの………」
そこまで、既に泣くのを我慢できずに嗚咽を漏らしながら、弱弱しく話している理沙はそこまで話し終えると、正しくは中断し、感情が抑えられなくなったのか泣き出してしまった。
もともと自分が泣いているところを誰かに見られることを嫌う、健気な理沙の性格から彼女の心中を想像するのは難しくない。

280 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 02:35:37 ID:teTGGwWE
このまま、聞き役に徹することは不可能だと悟ったので、声をかける。
「理沙、僕は理沙が自転車にいたずらした事くらい、当然知っているよ。
でも、僕が怪我したことについては僕自身、いろいろあって、納得しているんだ。だから、そんなに泣くことはないよ。」
涙にぬれ、抑えられなくなった感情から赤く染まった理沙の顔にきちんと目を向けて話す。
「うっ、ぐすっ、…………お、お兄ちゃん……。」

そう僕に許しを請うような表情で、理沙も僕の顔から目を逸らすことなく一心に見つめてくる。
二週間前、理沙について考えていた、あの時のことが脳裏によぎる。
だから、僕は理沙に対して冷たい態度を知らず知らずのうちにとっていたことを遅くならないうちに謝りたい。
何だかんだ言って、結果的に僕の選択が謝っていたがゆえに起こってしまった事なのだ。
やはり、こんな一方的に理沙が謝り続けるのはおかしいような気がする。

あの時は二律背反、などという難しい言葉を持ち出して、この理沙と北方さんとの問題はどうにもならないと思ったが、そんなことはないと今は思う。
努力という言葉はあまり好きになれないが、結局は人間の努力しだいなのだ。
どちらかを選べ、なんて酷薄な選択をする必要なんてどこにもない。
妹を捨てるような選択も好きな人を捨てるような選択も、やはり愚かだと思う。

「理沙、僕は、僕はこの怪我をしてから、考えた。なぜ、理沙がこんな行動をしてしまったのか、
自分が足りないところがあったからこんなことになってしまったのか、その足りないところは何なのか、という風に。」
「それで、僕はお前がこんな行動に出てしまったことは、僕が冷たい態度を取って、理沙が何を必要としている、
自分の行動によって理沙がどう考えるかを理沙の視点からあまり捉えようと、努力しなかった、ということに気づいた。」
「確かに、兄としては愚かしく、お粗末な限りだけれど、僕は今からその自分のミスを直すのでも、遅くないような気がするんだ。
理沙としては今頃になって、と思うかもしれないけれど、僕を許してくれないか?」

そう、僕が気をつけていれば理沙は北方さんと争うことなんてなかったに違いない。本当に僕は兄としては失格だろう。

281 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 02:36:43 ID:teTGGwWE
理沙は嗚咽を漏らさないようにこらえながら、真剣に僕の発言を聞いていたようだ。
真剣なまなざしで僕に双眸を向けている。そして、再び沈黙が訪れるのかと思った瞬間、理沙が唐突に僕の胸に飛び込んできた。
「り、理沙!」
「……お兄ちゃんは悪い訳なんてないよ。それにね私、うれしいの。お兄ちゃんが私のこと、真剣に考えてくれているなんて思わなかったから。」
僕の胸に顔をうずめている理沙がくぐもった声でそう言った。
「それよりも、お兄ちゃん。お兄ちゃんに迷惑をかけた私のことを本当に許してくれる?」
「ああ、もちろんだよ、理沙。」
「でも、北方さんの自転車に細工をしたということは、理沙はけじめとして北方さんに謝らなければならないだろう。」
そう言いながら、こうされることが理沙は好きだということを知っているので、
丁寧に手入れされているブロンドの髪をゆっくりと人形を扱うようになでる。

「お兄ちゃんの言うことだから、もちろん北方先輩にも謝ります。」
そう言ってから、理沙は瞬間的なまでにわずかな時間であったが、邪悪さを含んだ笑みを見せていたことに松本弘行は気づかなかった。
また、同様に自身が入院した際に病室に妹によって取り付けられたはずの、盗聴器にも―。



282 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 02:37:38 ID:teTGGwWE
第11話お終いです、ではまた。


283 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 02:54:08 ID:yzPbi96l
GJ!
北方さんカワイソス

284 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 04:48:22 ID:Od1bPg3C
257 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/13(金) 14:42:13 ID:ZfoQN8lp
>>255
女が母親を殺したようにしか見えないwwww

258 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/13(金) 14:55:08 ID:+3Y+lSac
>>257
だよなーw
このスレに毒されすぎてるのか?

259 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/13(金) 23:28:14 ID:iRk0Fy1v
なんの踏み絵だw
夫に先立たれた妻がもう一度葬式をしたいから子供を殺す話みたいじゃん

260 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/13(金) 23:35:08 ID:162aYEan
普通に両方の母親を殺したものだと思ってしまった

261 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/14(土) 03:35:45 ID:q0VL5f0B
いや両方の母親殺したとしか読めないだろ…


263 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/14(土) 12:03:27 ID:zXz4WASI
すげえな・・・

264 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/14(土) 21:59:03 ID:j2rjd664
>>255は
>母ちゃんが死んだことを誰にも言わず一人で落ち込んでた
>母ちゃんが死んだその日の夜、その女から電話が
>「お母さん亡くなったらしいね・・・。」

ここがミソ
さらに言えば女が言うお母さんが「お義母さん」という意味である可能性もある



お前ら本当に文読んでるの?確かに、女が殺した可能性も大事だけど、最も重要な点は
>誰にも言わず一人で
だろ?この男はその前からずっと監s

あれ?隣に引っ越してきた新婚の奥さんが挨拶に来たわ
ちょっくら行ってくる

285 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 09:01:40 ID:HZ76UTay
いちいちコピペして無駄に容量食ってんな
アンカーでいいだろうが

286 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 18:50:13 ID:kelA4/rI
>>282
北方さんへの周囲の仕打ちが理不尽すぎる。
でもこれが松本君への依存を深めることになるのだろうか、
と思うと途端にwktkしてくる俺はもう駄目かもわからんね。

287 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 22:48:57 ID:smX/eHhO
>>286
おそらくは妹の張った策なのではないかと。
周囲に彼女自身のキャラが理解されてないっぽいし、
負の感情を呼びやすい空気があるのを利用された感じ。



288 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/16(月) 05:51:25 ID:JE73Tsjf
>>287 わかってるYO

289 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/16(月) 22:25:32 ID:ca3mwJM9
未来日記の由乃ってヤンデレだよね?

290 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/16(月) 22:26:47 ID:LtCEniMF
何をいまさら・・・

291 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/17(火) 06:59:39 ID:CcDuro8l
>>289
違うよ。ただちょっと愛が深いだけだよ。ヤンデレじゃないよ。純愛と言う名の淑女だよ。

292 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/17(火) 09:21:32 ID:DbilYoT2
俺この歌聞くとゾクゾクするなあ


愛し子よ いつまでも この胸に抱かれて眠りなさい
いとけない あなたのことを もう二度と逃がしたりはしない

彼女のことなら 忘れてしまいなさい
ざらついた猫撫で声が その耳を舐めないように
咽を締上げておいたから

ふたりだけでいい 他には誰もいらない
私だけがあなたを満たせるわ
あなたの足に銀の足かせをはめましょう
同じ過ちを犯さないように

293 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/17(火) 14:05:43 ID:6dxUliIh
>>292
kwsk!!!

294 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/17(火) 20:50:43 ID:GyizwiyY
ググったら出たよ。

295 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/07/17(火) 21:41:13 ID:uhiw38+I
ググってみた。感動した!

296 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/07/17(火) 22:06:17 ID:xuS1+OyT
ようつべで見た

PVや歌が最高にイカしたヤンデレだった

RURUTIA[ルルティア] - 愛し子よ、で検索すれば出るよ


297 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/17(火) 22:36:28 ID:rMHJHlhN
わかったからsageてちょーだい

298 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/17(火) 22:37:18 ID:AfvRGitR
見てきた
明日ちょっとアルバム買ってくる!

299 名前:赤パパ ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/07/17(火) 23:19:32 ID:Io6KUq7X
三連休全部仕事だったよ…。ちょっとだけ投下。ヤンデレはまだ。

300 名前:一週間 ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/07/17(火) 23:21:36 ID:Io6KUq7X
「みぃーくん、おはよぉ」
朝、僕がフラフラとおぼつかない足取りのまま台所でフライパンで目玉焼きをつくっていると、遅れて起きてきた先輩が爽やかな声を出して後ろから抱き着いてきた。
僕の方に顔を載せて、マッサージするようにあぐあぐと顎をうごかしている。
もちろん体はぴっとりという表現が似合うほど密着させていて、背中には先輩の柔らかな二つのふわふわした感触が押し付けられている。
「今日もいい朝だね」
いや、先輩。僕はいつものとおりいい朝とか言う余裕はないんです。
「おはようございます。先輩」
「んう、おはよぉ」
先輩の顔は見えないけど、多分物凄い癒されているような表情なんだろう。鏡があれば、口元を数字の3を横にしたようなネコ口でほんわかと和やかな気分に慣れそうな先輩が見えるはずだ。
が、そんな先輩の表情も、僕に密着するとすぐ変わる。
「昨日のね。みぃーくんがいっぱい注いでくれたのがね、まだあたしの中で感じるのぉ……」
そういって、先輩の腕がするすると僕からだのラインをなぞる様に動き、下半身に伸びていく。
「先輩、だ、だめですよ。危ないですから」
「いいからいいからぁ」
僕は制止の声を出すが、もちろん先輩は聞いちゃくれない。無理矢理止めようにも両手は菜ばしとフライパンを持っているので、すぐには止められない。
肩に顔を乗せた先輩の表情が容易に想像できる。エッチの時、やたらこっちをみながらうへうへとニヤけているときの悪戯モードの顔だろう。絶対。
先輩の手が僕のアレに到達する。起きてから10分近く経っているから、朝の生理現象は収まっている。ふにゃふにゃだ。
「んーん」
先輩はそのふにゃふにゃになったアレをまさぐる様に手のひらで刺激し始める。こちょりこちょりと全体を揉みこみ、指先で引っかくように先端部分をかりかりとなぞって来る。
「……へへ。エプロン姿が似合うねぇ、いいお嫁さんになれるよ」
先輩。僕は男です。男のシンボルを弄りながらそんなコト言わないでください。
「ちょ、先輩っ。朝はダメですよ。会社……」
「うなじもせくしぃだよねぇ。ちゅるり」
耳元で先輩が涎をすする音がする。あの口の中に昨日何度も出したことが思い出され、僕は頬が熱くなった。それと共に、先輩に刺激されて下のほうも熱を持ってくる。

301 名前:一週間 ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/07/17(火) 23:22:23 ID:Io6KUq7X
「あつくなってきたぁ……」
悦ばしげに呟く先輩。うわぁ、本気になっちゃってる。それでも僕は耐えて、股間を弄られながらも完成した目玉焼きを二人分お皿にのせた。
「先輩、朝ごはんできましたから。もう止めてくださいっ」
「今日の朝食はみぃーくんです」
そのまま先輩は耳を甘噛み。
はみっ。
「ひぃっ」
フライパンを落としそうになる。
「耳弱いモンねぇ」
先輩に耳を重点的に攻められ、下半身はいつのまにかパンツの中まで手を突っ込まれている。形を形成し始めた僕のアレを先輩はおもちゃのようにうりゃうりゃと三本の指で擦っている。
僕は震える手で、フライパンと菜ばしを置く。そうすれば、後はもう先輩の独壇場だ。先輩は僕を抱きぬいぐるみを運ぶように台所から移動させる。その先は、昨日散々二人でむさぼりあったベッドだ。
そのまま押し倒された。
「先輩……」
「もうね。みぃーくんがいけないの。そうやって、仕草のひとつひとつがぜーんぶあたしを誘ってるんだから」
そんな覚えはありません。
そんな反論もする暇なく、先輩は僕を見下ろしながら意地悪く微笑み。唇をすぼめて、僕の顔へ重ねた。唇だけではなく、胸、手、足、腰すべてお互いのものと重ねていく。
こうして、いつものように僕と先輩の愛を確かめる行為へと移行するのである。
毎朝の出来事。すでに日常と化した僕らの行為。

先輩は美人だ。凛としたかっこいい顔立ちにきらりと光るまっすぐで綺麗な瞳。長い黒髪を後ろでまとめて、スーツを着込みきびきびと胸を張って仕事をする姿はまるで一厘の美しい薔薇のよう。
そんな先輩を彼女の出来た僕はもう世界で一番で幸せものなんじゃないかと思う。先輩に愛されていると実感できるこの日々は、僕にとって甘くて素晴らしい毎日。

でもね、先輩。
さすがに、そろそろこの毎日にも支障が出始めてるんですよ。
ほら、先輩。僕最近居眠り多いでしょ? あと僕の書類、最近ミスが多くなってきましたよね。エレベーターもよく使うようになりましたよね。それと最近先輩、職場でもボディタッチしてきますよね。
だから、先輩。なんというかー……。僕もね、先輩がしてきてくれて嬉しいんです。気持ちいいし。幸せだし。
ですけど。さすがにお互いもう学生じゃないですし。責任を持った社会人ですし。僕も十代のように若くないですし。先輩だってピー歳ですし。
だからここはオトナらしく、そろそろ節度を守ったほうがいいと思うんです。毎日これじゃあ僕も疲れますし、先輩だって辛いですよね。
ですから、なんというかー…、えーっと。ほら、ちょっとここらで冷却期間というか、いや、冷却じゃなくて、静養期間というか。
と、とにかく、そういうものを僕たちの間にも取りませんか……?

(続く)

302 名前:赤パパ ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/07/17(火) 23:23:51 ID:Io6KUq7X
よづりが全然すすまねぇ。
土日投下を目指して。

303 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/07/18(水) 00:38:50 ID:P6XmKmjQ
>>302
お仕事お疲れ様です。
HPでも魅力的な作品で楽しませていただいていますが、やはり最萌はよづりさんです。
首をキリンさんにしてお待ちしています。



304 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/18(水) 00:43:58 ID:nA0HMiZq
最近ageてるヤツが多いのは何でなんだぜ。


305 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/18(水) 02:32:50 ID:EaghRJnS
愛してる愛してるきみのことを愛してる心から頭から足先まで丸ごと愛してる本当だ。
昨日の夢にはきみが出てきた。 ぼくの隣にきみがいて、きみと、ぼくとで一緒に散歩をするんだ。
もちろんぼくの隣にはきみがいるから、きみとぼくときみとだ。
そしてきみの隣にもいる。ぼくだ。きみとぼくときみとぼくだ。
そしてきみの隣にぼくとぼくの隣にきみがいてその隣のぼくの隣にきみがいる。
きみとぼくときみとぼくとぼくときみ、それなら当然ぼくの隣にきみのもいるわけだ。
ならもちろんきみの隣にはきみとぼくがいる、そうしたら当然ぼくの隣にもきみもいる。
なんて幸せなんだ。
きみがいてぼくがいてきみがいてぼくがいるそしてぼくがいてきみがいる。これ以上の幸福はないんだよ。
あぁどうしてだろう。 どうしてここにはきみとぼくしかいないんだろう。
きみがいれば幸せなのに、きみがいれば、そしてきみがいれば。とうぜんぼくもいる。ぼくもいるしぼくもいる。
どうしてきみはいないんだい?きみは?きみは?きみは?
ひとりだけ?
ひとりだけなんだね?
じゃあぼくもひとりだけだからおそろいだ。 嬉しいな。きみとおそろいなんて。
嬉しいな。嬉しいな。大好きな人とおそろいだ。
ほかにもおそろいはあるのかな。探してみたいね。もっとたくさんあるといいな。
ぼくは幸せだ。
愛してるよ。きみを愛してる。
けどどうしてだろう。なぜぼくを見ないの?
ぼくの目が怖いかな。じゃあ目隠しをするよ。これでいいかな。まっくらだ。
ぼくが近くにいるのが怖いかな。じゃあ後ろにいくから。ゆっくりいくから。
だからもう震えないで。愛してるよ。愛してる。震えてるきみもすごくすごく愛してる。
全部全部愛してるけれどきみがみえないよ。
どうして見えないの?どこへ行ってしまったの?どうしてここはこんなに暗いの?
どこにいったの?きみはどこにいるの?教えて。ねぇ、どこ?
まだぼくの前にいる?一緒にいる?
愛してる愛してるよ愛している。だからお願い許してください。
お願いしますお願いしますお願いしますお願いします。
愛していることを許してください。

306 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/18(水) 04:35:32 ID:ua01w/Jy
>>302乙です
早く病んでくれないかと期待
他のも期待して待ってます

307 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/18(水) 10:38:29 ID:VQXCR+6Z
http://alfalfa.livedoor.biz/archives/51060996.html

妹テラツヨス

308 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/18(水) 16:46:21 ID:lcrPgvES
>>302
お仕事頑張ってください!
作品も楽しみにしてます。よづり、今だに学校に着いてないしなぁ
着いたらどうなっちゃうんだろうか、とか勝手に妄想して待ってます(*´д`*)

309 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/18(水) 16:51:14 ID:WV50+JKv
>>307
・・・・・・・・・・・・・・・・・。

(((;゚д゚)))

310 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/18(水) 21:55:52 ID:gA5dyw+1
まとめはもう更新しないのかね?

311 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/18(水) 21:57:31 ID:g2BolJjo
まとめ管理人って唐突に消える事が多いよな・・・
Wikiで作るのが一番無難か?

312 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/18(水) 22:07:17 ID:PkBeCcrr
てかこの位間隔開くことは前からあったが。
普段お世話になってるんだし
今忙しい時期だし待ちましょ


313 名前:赤パパ ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/07/18(水) 23:27:09 ID:Fwcj9Xcj
投下します。

314 名前:一週間 水曜日 ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/07/18(水) 23:29:42 ID:Fwcj9Xcj
久しぶりに帰る我が家は、先輩の姿なくがらりとしていた。
いつも僕より早く帰り、夕食の用意をして待ってくれていた先輩。
会社では氷のように冷たく鋭い表情もここへ来れば、夏の暑い日に大きく空を見上げて笑う向日葵のように明るく穏やかになる。
ネコのように喉を鳴らして、べったりとくっついて。お互いを暖めながら過ごす毎日だった。
でも、そんな先輩は今日は居ない。
そうだ。僕と先輩は昨日から期間を設けて逢わないことにしたのだ。長さにして、今日から日曜までの4日間。僕たち二人は一緒の家で過ごさないし、一緒にご飯も食べないし、一緒のベッドでも寝ない。
会社で顔を合わせても必要最低限の接触はしない。
こんな約束を、僕は先輩に取り付けたのだ。
先輩を別に疎ましく思っていたわけじゃなかった。
「でもなぁ、やっぱり一番は体が持たないって……」
昨日の会話が思い出される。

「みぃーくんはあたしが嫌いになったのね? そうなのね」
いやね。先輩。だから違うんですよ。嫌いになったとかじゃないんです。だからそんな世界全てに否定されたとか悲劇のヒロインみたいな膝を抱えてこっちをおびえるように見ないでください。逆に怖いです。
「じゃあ、どうしてそういうことを言うのかしら?」
えっとなぁ。
「先輩。いつもいつも僕と一緒に居て飽きませんか?」
僕は言葉を考えながら、先輩に出来る限り簡潔に答える。
先輩はふるふると首を振った。
「そんなことない。私、全然飽きないよ。みぃーくんの顔を見るだけで一日が終わってもいいくらいだもの」
幼児言葉がなんか、被虐感を醸し出していて辛い。普段はあんなにシャキッとキャリアウーマンしてるのに何でうちでパジャマを着た途端、女の子になっちゃうんだろう。
「自分のデスクのパソコンのスクリーンセーバーもみぃーくんにしてるよ。みぃーくん、本当はデスクトップにしたかったけど会社の人にバレたくないって言うからスクリーンセーバーで……」
ああ、先輩。会社のパソコンを自分好みにカスタマイズしまくるのはやめてください。あとそれ先輩が昼休みに席を外したら思いっきりそのパソコンに僕の顔が流れますね。どうりで全員にバレてるハズだ。
「ねぇ。それとも私に飽きちゃった……?」
「それはないです。自信を持って言いますよ」
先輩に飽きたなんてこれっぽっちも思ってない。
「じゃあ、どうして? 私、みぃーくんと一時でも離れたくないのに……、どうしてそういうこと言うの? 3日間も逢えないしおしゃべりも出来ないなんて酷すぎるわ。酷すぎるなんてもんじゃない。即死モノよ。即座に死ぬって意味よ」
「いやいや、先輩。たった3日間ですよ」
「3日もっ」
「『もっ』じゃないですよ」
「夜が3回来るまでもダメなのよ」
「先輩、3日でダメって。僕が出張とかの時はどうするんですか?」
「そのときは私の手腕で、大義名分を作ってその出張に着いて行けるようにする」
そんな時にだけ、キャリアウーマンの目にならないでください。
「えーっと、うーん」
僕は頭を抑える。いや、本当の理由はあるのだ。一番の理由。
むしろ、これがいま一番深刻だからこそ、僕はこの中休み期間を提案したんだ。
「なぁ。本当のことを言ってちょうだい。いままで私はみぃーくんにどんなこともしてあげたし、どんな恥ずかしいことでもやってあげたよ? いままでずっと一緒だったのに……。どうして、そんなこと言うの!」
……恥ずかしいこと……。そうです。それが理由です。
「じゃあ、言いますよ。本当のこと」
「うんうん」
「ショック受けないでくださいよ」


315 名前:一週間 水曜日 ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/07/18(水) 23:30:34 ID:Fwcj9Xcj
「……ごくり」
先輩は真剣な目つきで膝を抱えながら僕のほうを見つめている。
「エッチ……」
「へ?」
「先輩、エッチが……激しすぎるんです」
僕のほうが恥ずかしくなってきたじゃないか。でも、ちゃんと言った。
「エッチ?」
しかし、対する先輩の反応は薄い。もろ頭から?マークをだしてこちらへ顔を突き出している。
「エッチですよ! エッチ!」
「ええー?」
「先輩。昨日の夜僕と何回やりましたか?」
「13回」
全部僕が出しました。
「先輩。多いと思いません?」
「多いの!?」
……二桁いってる時点で気付いてください。あと、ちゃんと同僚とセックスの話もして情報交換してください。
「じゃあ3回ぐらい減らす?」
危機感なさげに言わないでください。
「多いんですってば!!」
僕は思わず声を荒げる。
「それにくわえて」
「咥えて?」
「『加えて』です。反応しないでください。それに加えて、朝で2回、朝食中にたまに1回、入浴中に6回……えーっと、入浴中はさすがに僕も悪いですけど、とりあえず人間が一日に出来る回数を軽く超えてるんですよ」
……先輩はなんだかだんだん青ざめている。
「……みぃーくんはあたしとのエッチが嫌いになっちゃったのね」
「……話をちゃんと理解してくださいよ。量の問題をしてるんですから……」
というか、先輩はどれぐらいの性知識を持ってるのかと不安になる。そういえば初めての相手は僕だって言ってたなぁ。嘘だと思ってたけど、この分だと本当かもしれない。
「だぁかぁらぁね。控えようって話なんですよ! こんだけ多いと、僕も病気になっちゃいますし、仕事にも支障が出てるんです! 最近部長に怒られてばっかりなんですから」
「あの部長か……」
「怒らないでください。僕が会議のプレゼン中に居眠りしたのが原因なんですから!」
だから鞄から取り出したその真っ黒いノートに部長の名前を書き足そうとしないでください。何リストなんですか。それは。
話を戻す。
「だからね、3日。3日だけ。一時的に関係を無くしましょう!」
「……わかった」
よかった、納得してくれたみたいだ。
「じゃあ。最後に1回だけ……」
やーめーいっ! 絶対その10倍搾り取るつもりな目つきで僕にのしかかって来ないでくださぁぁい!

そんなこんなで今日。僕は久しぶりの一人の夜をすごすことになる。
「着信、着信……」
電話の留守電を調べてみる。着信件数、22件。うわぁ、全て先輩からだ。よく見ると、僕の帰社予定時間から5分おきにかけているみたいだった。
あのヒトは本当に……。もう。
「でも、そこまで想われてるって幸せなんだろうなぁ……」
僕は一人にやにやと口元を緩めて、大きく鳴り出した電話の受話器をとった。
「ただいま、先輩」
僕と先輩の禁欲期間の一日目は何事もなかったかのように過ぎていった。
(続く)


316 名前:赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/07/18(水) 23:31:25 ID:Fwcj9Xcj
以下次回。

317 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/18(水) 23:33:20 ID:x1/uLa9R
いい感じに病み可愛い。

318 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/18(水) 23:35:24 ID:E7C9XnAv
リアルタイム乙。

319 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/19(木) 00:04:39 ID:YnxRWI9v
やは゛いかわいいよ先輩www
このまま平和に終わるわけがないと思いつつwktkしなか゛ら続きを待ちます。
作者さんGJ

320 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/19(木) 01:22:43 ID:u5p/XDue
投下します

321 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/07/19(木) 01:34:29 ID:u5p/XDue
夜の校舎には当然のように人がいない。その代わりに、人以外の何かがいそうな雰囲気で満ちていた。
日常とは違う非日常。現実とは違う非現実。昼間の世界から遠く隔離された、夜の校舎。
「…………」
ブリッジしながら歩くベートーベンの七不思議があったな、と思い返しながら僕は静かに歩く。他に七不思議
は何があったかな――と考えようとして、怖くなってやめる。怖いというか、下手にそんなことを考えて思わず
笑い出してしまったら全てが台無しだ。
シリアスに行こう。
笑い出していけない理由は単純で、今僕は、酷く気を払って音を殺している。電気すらもつけていない。校舎の
中は真っ暗だが、廊下が広いのと窓から振り込む月明かりのおかげで歩きにくいというほどでもない。
電気をつけてしまえば、見つかってしまう。
外から――ではない。
中にだ。
中で待っているであろう誰かに、気取られたくなかった。
だからこそ、靴を脱いでまで足音を殺しているのだ。上靴にはきかえることなく、靴下で足音を殺し、
静かに、静かに、静かに廊下を歩きつづける。片手に鞄、片手に靴。
なんだか泥棒みたいだ。
そう思った。
「…………、」
息をするときですら、気を遣う。廊下の月明かりが届かない部分には、真に濃い闇が沈殿していて
今にもそこから何かが出てきそうな気がした。
声を殺す。
息を殺す。
音を殺す。
見つからないように。
此処にいることに、気付かれないように。
「…………」
本当なら、しなくていい苦労だ。図書室に行くのならば、堂々といけばいい。そこで彼はきっと
待っているのだから。
けど。
僕が向かっているのは、図書館じゃない。
屋上だ。
だからこそ――図書館にいる彼に、校舎内に残っている人間に、僕が此処にいることを気付かれたくない。
僕が屋上へ向かっていることを、知られたくない。
これは、
きっと、正規の話の流れじゃない。
裏技、 
裏道、
そんな、本当の物語から外れる、行為だ。
誰かが僕の――僕らのために描いた物語から、逸脱する行為だ。

――知るか。

その誰かに毒づいて、僕は少し脚を速めた。階段を昇り、一階から二階へ。二階の図書館には電気は
ついていなかった。けれども――そこに誰かが、いる気はした。心持ち身体を隠しながら、さらに三階へ。
階段を昇って、廊下を歩いて、階段を昇って。
そろり、
そろりと。
静かに、
僕は――

屋上の扉の、前に立った。


322 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/19(木) 01:36:14 ID:ULiaD+XJ
>>316
つまらない乙
消えたらどうだ?

323 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/19(木) 01:36:55 ID:ULiaD+XJ
夜の校舎には当然のように人がいない。その代わりに、人以外の何かがいそうな雰囲気で満ちていた。
日常とは違う非日常。現実とは違う非現実。昼間の世界から遠く隔離された、夜の校舎。
「…………」
ブリッジしながら歩くベートーベンの七不思議があったな、と思い返しながら僕は静かに歩く。他に七不思議
は何があったかな――と考えようとして、怖くなってやめる。怖いというか、下手にそんなことを考えて思わず
笑い出してしまったら全てが台無しだ。
シリアスに行こう。
笑い出していけない理由は単純で、今僕は、酷く気を払って音を殺している。電気すらもつけていない。校舎の
中は真っ暗だが、廊下が広いのと窓から振り込む月明かりのおかげで歩きにくいというほどでもない。
電気をつけてしまえば、見つかってしまう。
外から――ではない。
中にだ。
中で待っているであろう誰かに、気取られたくなかった。
だからこそ、靴を脱いでまで足音を殺しているのだ。上靴にはきかえることなく、靴下で足音を殺し、
静かに、静かに、静かに廊下を歩きつづける。片手に鞄、片手に靴。
なんだか泥棒みたいだ。
そう思った。
「…………、」
息をするときですら、気を遣う。廊下の月明かりが届かない部分には、真に濃い闇が沈殿していて
今にもそこから何かが出てきそうな気がした。
声を殺す。
息を殺す。
音を殺す。
見つからないように。
此処にいることに、気付かれないように。
「…………」
本当なら、しなくていい苦労だ。図書室に行くのならば、堂々といけばいい。そこで彼はきっと
待っているのだから。
けど。
僕が向かっているのは、図書館じゃない。
屋上だ。
だからこそ――図書館にいる彼に、校舎内に残っている人間に、僕が此処にいることを気付かれたくない。
僕が屋上へ向かっていることを、知られたくない。
これは、
きっと、正規の話の流れじゃない。
裏技、 
裏道、
そんな、本当の物語から外れる、行為だ。
誰かが僕の――僕らのために描いた物語から、逸脱する行為だ。

――知るか。

その誰かに毒づいて、僕は少し脚を速めた。階段を昇り、一階から二階へ。二階の図書館には電気は
ついていなかった。けれども――そこに誰かが、いる気はした。心持ち身体を隠しながら、さらに三階へ。
階段を昇って、廊下を歩いて、階段を昇って。
そろり、
そろりと。
静かに、
僕は――

屋上の扉の、前に立った。

324 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/19(木) 01:37:39 ID:ULiaD+XJ
「……ごくり」
先輩は真剣な目つきで膝を抱えながら僕のほうを見つめている。
「エッチ……」
「へ?」
「先輩、エッチが……激しすぎるんです」
僕のほうが恥ずかしくなってきたじゃないか。でも、ちゃんと言った。
「エッチ?」
しかし、対する先輩の反応は薄い。もろ頭から?マークをだしてこちらへ顔を突き出している。
「エッチですよ! エッチ!」
「ええー?」
「先輩。昨日の夜僕と何回やりましたか?」
「13回」
全部僕が出しました。
「先輩。多いと思いません?」
「多いの!?」
……二桁いってる時点で気付いてください。あと、ちゃんと同僚とセックスの話もして情報交換してください。
「じゃあ3回ぐらい減らす?」
危機感なさげに言わないでください。
「多いんですってば!!」
僕は思わず声を荒げる。
「それにくわえて」
「咥えて?」
「『加えて』です。反応しないでください。それに加えて、朝で2回、朝食中にたまに1回、入浴中に6回……えーっと、入浴中はさすがに僕も悪いですけど、とりあえず人間が一日に出来る回数を軽く超えてるんですよ」
……先輩はなんだかだんだん青ざめている。
「……みぃーくんはあたしとのエッチが嫌いになっちゃったのね」
「……話をちゃんと理解してくださいよ。量の問題をしてるんですから……」
というか、先輩はどれぐらいの性知識を持ってるのかと不安になる。そういえば初めての相手は僕だって言ってたなぁ。嘘だと思ってたけど、この分だと本当かもしれない。
「だぁかぁらぁね。控えようって話なんですよ! こんだけ多いと、僕も病気になっちゃいますし、仕事にも支障が出てるんです! 最近部長に怒られてばっかりなんですから」
「あの部長か……」
「怒らないでください。僕が会議のプレゼン中に居眠りしたのが原因なんですから!」
だから鞄から取り出したその真っ黒いノートに部長の名前を書き足そうとしないでください。何リストなんですか。それは。
話を戻す。
「だからね、3日。3日だけ。一時的に関係を無くしましょう!」
「……わかった」
よかった、納得してくれたみたいだ。
「じゃあ。最後に1回だけ……」
やーめーいっ! 絶対その10倍搾り取るつもりな目つきで僕にのしかかって来ないでくださぁぁい!

そんなこんなで今日。僕は久しぶりの一人の夜をすごすことになる。
「着信、着信……」
電話の留守電を調べてみる。着信件数、22件。うわぁ、全て先輩からだ。よく見ると、僕の帰社予定時間から5分おきにかけているみたいだった。
あのヒトは本当に……。もう。
「でも、そこまで想われてるって幸せなんだろうなぁ……」
僕は一人にやにやと口元を緩めて、大きく鳴り出した電話の受話器をとった。
「ただいま、先輩」
僕と先輩の禁欲期間の一日目は何事もなかったかのように過ぎていった。


325 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/07/19(木) 01:43:30 ID:u5p/XDue
「…………はぁ」
ようやく。
僕は鉄の扉の前で一息ついた。ここまでくれば、いくらなんでも音が下に漏れることはない。
扉の向こうに出てしまえば、よほど大声で会話をしない限り、声が漏れることもないだろう。校
舎の中を歩き回っていた間中に感じていた緊張が、ゆっくりと身体の外に流れ出ていく。
緊張。
本番は――これからだというのに。
「…………」
気の抜けかけた意識を貼りなおす。そうだ、今気を緩めるわけにはいかない。僕は何を確めた
訳でも、何を成したわけでもない。
すべてはこれからだ。
すべてはこれからなんだ。
終わってしまった――わけじゃない。
「…………よし」
片手に持っていた靴を履きなおす。少し考えて――鞄の中から魔術短剣を取り出す。もうここまで
きたら隠す必要もない。鞄は邪魔になるだけだ。扉の傍に鞄を置き、いつどこから襲われても大丈夫な
ようにしっかりと魔術短剣を右手に握る。
闇夜の中、
命を持ったように、魔術短剣は輝いて見えた。
――できることなら。
僕は、願う。
――これを、使わずにいられたら、いいけれど。
そして、笑う。
人知れず、僕の顔に笑みが浮かぶ。今、自分が考えたことが、自分が願ったことがおかしくて
たまらなかった。
姉さんの復讐を考えて、
その相手を殺すことを考えていた自分が。
この先にいるであろう相手に、それを使いたがっていないという事実に。
その事実に、僕は笑う。
嫌な気分は――不思議としなかった。
「――行くか」
気合を入れて。
僕は、左手で屋上へと続く扉のノブをつかみ、

躊躇うことなく、引き開けた。


326 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/19(木) 01:45:17 ID:ULiaD+XJ
「支倉……綾さんですか?」
「はい」
「あの……ひょっとして……陽一さんの妹さんですか?」
「そうなりますね」
どこか不敵な表情で言う綾。
夕里子は身を固くして、深く頭を下げた。
「お、お初にお目にかかります! 私、陽一さんとお付き合いさせていただいております、四辻夕里子です!」
「ええ、聞いていますよ。兄も嬉しそうに話していました」
「そそ、そうですか……」
改めて綾は四辻夕里子を見た。
髪は長く、綺麗な栗色をしている。
睫毛も長く、少し垂れ気味の目は、いかにもおっとりとした気性を伝えていた。
背も高い。
そして、スタイルは非常によい。
(別にコンプレックスがあるわけじゃないけれど……)
綾は自分の胸と夕里子の胸を、じっと見比べた。
「あ、あの……綾さん?」
「……そんなに固くならなくてもいいですよ。私と話すのは緊張しますか?」
「え、いえ、その……」
「夕里子さんの方が先輩なんだから、もっと気楽な口調でいいですよ」
「いえ、私、この喋り方の方が慣れていまして……誰と話すにも、こんな感じなんですよ」
言ってほんのりと笑う。
まだ緊張はしているようだが、懸命に綾と話そうとしているのが見て取れた。
「あのまま勧誘に引っかかっていたら、お兄ちゃんとデートできなくなっていましたね」
「すみません……何とか逃げるつもりではいたのですが」
「少し隙が多いようですね」
「はい……ボーッとしてると良く言われます」
赤い顔で縮こまる夕里子。
綾は信じられなかった。
この、四辻夕里子という人物に、兄を奪われたことが。
縁のような機知は感じられない。
アキラのような過激なまでの自己主張も感じられない。
隙だらけの、凡庸な人物に思えた。
(どうしてお兄ちゃんはこんな女に……)
兄にとって自分が今のところ女ではないのは、先日痛いほど良くわかった。
だが、なぜこの女なのか。
今目の前にいる女が、陽一にとって自分よりも魅力的だなんて、認めたくはなかった。
「夕里子さん……私、夕里子さんに会ったら聞きたいなと思っていたことがあるんですよ」
「あ、はい……何でしょう」
「お兄ちゃんは、あなたのどこが気に入って付き合う気になったのだと思いますか?」
「え、ええと……それは……私もわからないんですけど、こう言ってくださったことはあります」
夕里子はその時のことを思い出してか、はにかんで言った。
「その……裏表がなくていいって」
「……!」

327 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/07/19(木) 01:53:41 ID:u5p/XDue

思っていたよりも――考えていたよりも、扉は勢いよく向こう側へと引き開けられた。気圧差。そんな言葉が
頭に浮かぶと同時に、向こう側から新鮮な風が中へと吹き込んでくる。夏の匂いをはらんだ、夜の匂いをはらんだ、
強い風。暑さすら感じてしまう、涼しい風。
同時に、光。
扉によって防がれていた月明かりが、正面高くに昇った月の光が、僕の目に飛び込んでくる。夜のまぶしさ。思わず、
目がくらんでしまう。どこまでも続く空は暗くて、その最果てにぽっかりと、穴が開いている。開いた穴から注ぎ込む光が、
夜の街と、夜の校舎と、夜の屋上と、


そこに立つ、彼女の姿を照らし出していた。


規定どおりの制服。紺のプリーツスカートに白の半そでシャツ。凹凸の少ない、生きていくために必要な
肉付きすら少ない、抱きしめれば砕けてしまいそうな身体。長く伸ばした艶ある黒髪は、こまめに手入れし
てあるのか腰の辺りで綺麗に切りそろえられている――その髪が、今は風で微かに揺れていた。古いモノク
ロ映画に出てくる幽霊のような雰囲気。
現実味のない、姿。
現実感のない、姿。
月明かりを浴びて、フェンスに寄りかかって立つその姿を、

僕は、素直に――綺麗だと、そう思った。

シルクハットはない。男装のスーツも、杖も、そこにはない。彼女が狂気倶楽部であることを示すのは、
寄り添うようにしておかれた、赤のクイーンと白のクイーンを両面に模したトランクケース。
あの中に這入っているものを、僕は知っている。
そして――彼女の背中にしこんである、大鋏のことも。
触れれば壊れそうな、姿。
触れれば壊してきそうな、姿。
両刃の刀のような、
心中自殺のような――そんな雰囲気が、彼女には確かにあった。
今なら、わかる気がする。
おちゃらけていた時の彼女と、
狂気について語る、彼女。
そのどちらもが――全て、彼女なのだろう。
――今は、どちらなのだろう?
そう思いながらも、僕は、


「――如月更紗」


彼女の名前を、呼んだ。

328 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/19(木) 01:55:56 ID:ULiaD+XJ
思っていたよりも――考えていたよりも、扉は勢いよく向こう側へと引き開けられた。気圧差。そんな言葉が
頭に浮かぶと同時に、向こう側から新鮮な風が中へと吹き込んでくる。夏の匂いをはらんだ、夜の匂いをはらんだ、
強い風。暑さすら感じてしまう、涼しい風。
同時に、光。
扉によって防がれていた月明かりが、正面高くに昇った月の光が、僕の目に飛び込んでくる。夜のまぶしさ。思わず、
目がくらんでしまう。どこまでも続く空は暗くて、その最果てにぽっかりと、穴が開いている。開いた穴から注ぎ込む光が、
夜の街と、夜の校舎と、夜の屋上と、


そこに立つ、彼女の姿を照らし出していた。


規定どおりの制服。紺のプリーツスカートに白の半そでシャツ。凹凸の少ない、生きていくために必要な
肉付きすら少ない、抱きしめれば砕けてしまいそうな身体。長く伸ばした艶ある黒髪は、こまめに手入れし
てあるのか腰の辺りで綺麗に切りそろえられている――その髪が、今は風で微かに揺れていた。古いモノク
ロ映画に出てくる幽霊のような雰囲気。
現実味のない、姿。
現実感のない、姿。
月明かりを浴びて、フェンスに寄りかかって立つその姿を、

僕は、素直に――綺麗だと、そう思った。

「バカヤロウ!! 本気で言ってるのか?!」
「えぇ、本気ですよ。 冗談でこんなこと言えるわけないじゃないですか。 だから退いて下さい。
退いてくれないなら先輩も……」
「俺も刺すって言うのか? いいぜ……」
次の瞬間、先輩は私の手首を掴むと自分の方に向け……。
「せ、先輩何するんですか?!」
先輩は私の手に握られたナイフをそのまま自分の腕に突き刺したのだった。
手に伝わってくる肉を切り裂いた感触が、伝って流れてくる血の生温い温度に私は……。
「目を反らすな白波! コレがお前がしようとしてた事なんだぞ?!
こんな事をお前はしようとしてたんだぞ?! 分かっているのか?!」
先輩の言葉が胸に突き刺さる。 ナイフから滴る血は私の手にも伝ってきて――。

「う、うわああぁぁぁぁぁ……………!」
途端に恐ろしさが込み上げてくる。 人を傷つけてしまったと言う事の怖さ、
取り返しのつかないことをしてしまったという罪悪感――。
指先から力が抜けナイフから手が離れると真っ赤に染まった掌が目に飛び込む。
血塗られた掌に私はその場に崩れ落ちそうになり――。
「白波?! おい?! 大丈夫か白波?!」
――そんな崩れ落ちそうになった私の体を支えてくれたのは先輩の腕だった。



「ゴメンナサイ……ゴメンナサイ……ゴメンナサイ……」
「いや、俺の方こそ色々済まなかった……」
あの後泣き崩れる私は先輩に連れられその場を離れ、そして先輩の腕の手当てもして今に到ってる。
「先輩……、腕の方は……」
「あぁ……もう血も止まってるし、ちゃんと指も動くし神経とかも大丈夫みたいだ」
先輩の言葉に私は胸をなでおろした。 そしてホッとするとまた涙が溢れてきた。
そんな私の涙を先輩は拭ってくれて心配そうに覗き込んできた。
私を案じ顔を真っ直ぐに見つめてくる先輩の眼差しに私の荒んでた心は癒される思いだった。

「先輩……どうして、その、私なんかのためにココまでしてくれたんですか?」
私がそう訊くと先輩は一瞬困惑したような表情を見せ、そして僅かに視線をそらし口を開く。
「その……お前の事が、まだ……好き、だから……」
「え……? そ、そんな……。 だ、だって私……」
私は紅司を忘れられなくて、それが辛くて紛らわせたいと言う身勝手な思いで
その気も無いのに先輩と付き合った振りしてて……。
それで先輩を傷つけたのに…

329 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/07/19(木) 02:11:23 ID:u5p/XDue
彼女は。
クラスメイトにして狂気倶楽部の一員、マッド・ハンターでもある、彼女は。
如月更紗は、名前を呼ばれて、初めて気付いたように僕を見て――酷く驚いた顔をした。彼女の表情がここまで崩れる
のを、僕は初めて見たような気がする。大きく見開かれた黒い瞳が、じっと、真正面から僕を見据えていた。
言葉に表すまでもなく、驚いていた。
僕が、此処にいることに。
そして、驚いたその顔のままに――如月更紗は、僕へと、言う。
「……えっと、どちらさま?」
「ボケから入るのかよ!」
「ああ、挨拶がまだでしたね。初めまして、須藤冬華です」
「さらっと偽名使ってんじゃねえ!? お前の名前は如月更紗だろうが!」
「不束者ですが、よろしくお願いしますね。式はいつにします?」
「展開速いな――!」
思わず突っ込んでしまった。
突っ込まずにはいられなかった。
僕の突っ込みを受けて、ようやく如月更紗は一瞬顔に浮かべた動揺を、チェシャ猫のような薄い笑いで覆い隠した。
……ふん、本気でボケたのかと思ったが、どうやら驚きを隠すための時間稼ぎだったらしい。
しかし、ほんとに誰だよ須藤冬華。
口調まで違ったぞ、今。
「それで……一体何の用かな、冬継くん。私はそんなに、暇じゃあないんだけれど」
あっさりと話を元に戻しやがった。
しかも、前振りのボケを完全に流してる。この辺りの切替の早さだけはさすがと言わせてもらおう……
「……夜中の学校にいるような人間が、暇じゃないとは知らなかったな」
「私は夜行性なのよ」
「そんな気はしてたよ」
「具体的に言えば、夜中に鋏だけ持って街を徘徊するのが趣味――とも言えるわ」
「それはただの変質者だよ! いや、鋏持ってる分だけ変質者よりタチが悪いぞお前!」
「冬継くんはどんなときでもボケを忘れないから好きよ」
「ボケはお前のほうだ!」
本当にやりそうだから本気でタチが悪い。全裸で人の布団にもぐりこんだ姿が、未だに脳裏
からは消えていないのだ。
しかし――なんとなく、懐かしいやり取りだ。
こういう、馬鹿な話。
よく考えれば、如月更紗とこういう会話をするのは、もう一週間ぶりくらいになる。最後に交わしたのが
僕の部屋の中で……それからずっと、神無士乃に監禁されていたからな……。
――神無士乃。
そうだ。
そのことが――あるんだ。
明瞭させなければならない。楽しいやり取りをする前に。
全てを。
「――如月更紗」
僕はもう一度、彼女の名前を呼ぶ。きっと、一瞬前とは表情が変わって見えただろう。
ふざけあうのは……一時、おあずけだ。
それがわかったのか――あるいは、最初からわかった上で、馬鹿な会話へと話をそらしていたのか。
如月更紗は、つぅ、と唇の端をあげた。
笑っている。
月光の下、如月更紗は、僕を見て笑っている。
「何かな――冬継くん」
きしり、と。
フェンスが鳴った。如月更紗が体重を後ろのフェンスにかける。きしり。音が鳴る。
心のどこかが、きしむ音が聞こえる。
「そんな、物騒なものを持って。まるで私のように物騒なものを持って」
幽かに視線をそらし、如月更紗は僕の右手を見た。右手に握られている、魔術短剣を見た。
物騒なもの。
彼女が持つ鋏のように、物騒なもの。
神無士乃の首をはねたモノのように――物騒な、武器。
それを持ったままに、僕は言う。
彼女に、問う。

「お前は――――――――――誰だ?」

330 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/07/19(木) 02:13:06 ID:u5p/XDue
他の方と投下が被ってるので、中途半端ですが続きは明日に投下します。
話数はまだ途切れてません。


331 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/19(木) 02:22:35 ID:Lv03r3F8
>>330
この作品でボケとつっこみが見られるなんて思わなかった。超GJ!!!
明日の続きも楽しみに待ってます。

332 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/19(木) 02:30:12 ID:O+u8MR6K
>>330
よくレス見ろ 多分荒らしだ

333 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/19(木) 05:07:27 ID:EzfV12al
修羅場スレでNGIDにしたヤツがこっちでも暴れててフイタwwwwww
ついでに言っとくけれど、阿修羅氏もここの保管庫の中の人も管理放棄してねーよwwww

334 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/19(木) 07:08:16 ID:vf5X8Afi
更紗分補給完了ー!
期待と不安が綯い交ぜになってまいりました。
てことで今夜wktk

335 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/19(木) 07:09:59 ID:vf5X8Afi
あ、今夜じゃなくて明日か(´・ω・`)

336 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/07/19(木) 07:39:08 ID:GjboZ9Yl
http://www.nicovideo.jp/watch/sm657560

337 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/19(木) 08:08:08 ID:EzfV12al
>>336
パクリまで出てくるとは……。

ヤンデレ長門は人気だな。

338 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/19(木) 22:00:55 ID:NE+jX6hw
>>296
他にこんな感じのいい曲ってないのかな?
個人的にはCoccoとか好きなんだが

339 名前:赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/07/19(木) 23:43:14 ID:SJZmgcvh
投下。短め。

340 名前:一週間 木曜日 ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/07/19(木) 23:44:01 ID:SJZmgcvh
会社でふたり。僕と先輩はたまたま同じタイミングで廊下に並んだ。
「……どうも」
「…………どうも」
僕はできる限り目を逸らして声をかけるが、対する先輩は思いっきりこっちをガン見。ガンガン見ている。もちろん月刊の雑誌ではなく、物凄くこっちを見ているという意味。
視線は確実に僕のほうへ向いていた。穴が開くように見つめている。目を逸らしていても、先輩の焼け付くような視線は感じ取れる。
ああ、先輩。でもこれも先輩のためです。
「じゃあ」
「あ……っ」
僕は曲がり角で先輩と別れる。僕が何も話さず離れていくことで先輩は残念そうに声を漏らした。先輩のそんな感情の声を聴くのは久しぶりだ。しかし、僕は振り返らない。
先輩のためなんです。自分の心の中で何度も先輩に訴えかける。だって、今時一日二日逢えないだけで情緒不安定になるってどんな中学生カップルですか。先輩26ですよね?
逢えない時間が愛を育てるんですよっ。

……まぁ、本音は僕の体力が持たないからってのもあるんだけどさ……。
先輩にはこれを機会に、性欲を抑えるっていうことを覚えてもらわないと。
昨日電話して、二人で会話したときに一生分の「大好きだから」「愛してるから」を聞いちゃっているんだよなぁ。
それにしても。先輩、よっぽどイラついているらしいなぁ。
先輩の部下である僕の同僚に聞いたところ、先輩はまがまがしいオーラを職場中に放っていて、うっかりお茶をこぼしたドジっ子めぐみちゃんに800円投げつけてDSを買いに行かせるというリアルに痛い罰を施行したらしい。残りの16000円は自腹ですか?
まぁ、先輩もしばらく時間を置けば落ち着くだろう。どう足掻いても僕は距離を置くし。
「さてと、ご飯食べに行くかー……」

着信47件。ディスプレイには先輩の名前がずらり。
昨日よりも酷いなぁ。僕はまた鳴り始めた電話を取る。
「ただいま、先輩」
『出た…? 出た! 出た! 出た!!』
出ただけでそこまで興奮しないでください。宝くじじゃないんですから。
「先輩。かけすぎですよ。僕の着信履歴が全部先輩で埋まっちゃったじゃないですか。」
『えへへ。いっぱいかけたからねぇ』
得意げに笑う。
「もう……」

341 名前:一週間 木曜日 ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/07/19(木) 23:44:43 ID:SJZmgcvh
『ねぇ、みぃーくん』
電話越しに聞こえる先輩の声はとても楽しげだ。そりゃそうだ。先輩にとって、この甘い口調で僕と話が出来るのはこの電話だけなのだから。
「なんですか?」
『好きって言って』
「またですか」
僕は電話を肩と首に挟みながら、台所の冷蔵庫を開ける。ぺたりと冷蔵庫からスライスチーズが落ちてきた。それをひろって、冷蔵庫の棚に戻す。
「昨日、一生分の好きを言いましたよ」
好き、大好き、愛してる、電話をとってから僕が眠りに着くまで、先輩と僕との電話での会話ではこれらの言葉が三分に二回のペースで出ていたのだ。
『昨日は録音し忘れてたの』
……は? 僕はまたスライスチーズを落とす。ぺたりとフローリングの床に黄色くて四角いチーズが広がる。
「録音…ですか」
『うん。みぃーくんの愛の囁き。今日はみぃーくんの電話越しから聞こえる美声をぜーんぶ録音するの』
「………」
『だってみぃーくんがそばに居ないから。みぃーくんが寝ちゃったら私、どうやってもみぃーくんを感じられないじゃない』
先輩……。
僕はチーズを拾って、もう一度冷蔵庫の棚へ戻す。
『あ、そうだ。ipodに入れちゃえば通勤中でも仕事中でもみぃーくんの甘い囁きを聞けるね。じゃあ、パソコンでデータにしないと……。ちょっと待っててみぃーくん……マック立ち上げるから……』
ごそごそと動く音が聞こえる。電話越しに聞こえる衣擦れの音とジャーンというパソコンの起動音。その後にはコードをつなげているらしいガチャガチャとした端末口を弄る音が混じる。
かちり、かちり。クリック音。そして、先輩の荒い吐息がはぁはぁと受話器から僕の耳へ。心なしか先輩の呼吸が荒くなってきたような気がする。
「先輩、先輩っ。先輩!」
『できたっ。じゃあ、みぃーくん。まずは基本で「愛してる」と「大好き」からお願いね』
そんな可愛く言わないでください!
「なにやってるんですか! 先輩。なんのために僕が先輩と距離をとってると思ってるんですか!」
先輩に自制の心を持ってもらうためだ。
『ああっ。罵声もいいなぁ。あとで編集で繋げるね。みぃーくん、「愛してる」。言って』
しかし、先輩。何故か楽しげにえへへへと返すだけだ。
「先輩!」
『あ・い・し・て・る。 言って♪』
だめだ。聞いてない。
「もう! 先輩。もう電話は禁止です!!」
『えっ!?』
エッチを自制するための期間なのに……。
テレホンセックス以上のことしちゃったら、意味がないでしょう!
「それじゃあ!」
僕はコードレスの受話器を持って、赤いボタンを押して通話をきった。スライスチーズがまたおちたがもう無視した。
RIRIRIRIRI。
すぐさま鳴る呼び出し音。僕は電話線を引っこ抜くと、シャワーも浴びないままベッドにダイブした。
(続く)


342 名前:赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/07/19(木) 23:45:41 ID:SJZmgcvh
以下次回。

343 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/20(金) 00:08:42 ID:iBU8ya0n
>>342
gj! 先輩がさらに暴走気味なのも、またいい感じです

344 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/20(金) 00:31:16 ID:yokhxTJE
>>342
乙です。
危険なフラグをどんどん立てる主人公が素敵だぜ。
先輩がこの先どうなるのかオソロシス

345 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/07/20(金) 04:19:06 ID:VvIppM+g
遅くなりましたが続き投下します

346 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/07/20(金) 04:19:55 ID:VvIppM+g
その質問に、如月更紗は、微笑んで。
嬉しそうに微笑んで、言葉を紡ぐ。
「おや、おや、おや――どこかで聞いたような言葉ね、どこかで聞いたような言葉だわ」
「……そうだな」
彼女に言われてようやく僕は思い出す。奇しくもそれは、如月更紗が僕の部屋へと忍びこん
だあの朝に、彼女に向かって問いかけた言葉だった。
お前は誰だ、と。
あのときは、彼女の『二つ名』を知らなかったから。狂気倶楽部での立ち居地を知るために
訊ねたのだ。お前の二つ名は何だ、という意味で。
今は、違う。
お前は如月更紗なのかという意味で、僕は問うたのだ。
同じ言葉でも――意味が違う。
それがわかっていて、如月更紗は笑っているのだろう。思い出すように。思い返すように。
懐かしい記憶を。
「あのときは……はぐらかされて、答えは聞けなかったな」
そうだったかしら、と如月更紗は首を小さく傾げた。とぼけているのか、本当に忘れている
のか、それとも知らないのか。その態度からでは判然としない。
彼女が彼女であるのなら、きっととぼけているのだろう。
僕の知る如月更紗は、そういうやつだ。
にやにや笑いを浮かべたままの如月更紗へと、僕は一歩だけ、脚を進めた。月に照らし出さ
れた影が、如月更紗に近づく。右手に握った短剣が、月光を反射して輝いていた。
如月更紗は、何も言わない。
物騒な様相をした僕を見ても、何も言わない。逃げようともしない。
待っているかのように。
ただそこで、笑っている。
嬉しそうに。
嬉しそうに、笑っている。
その笑みから、視線をそらすことなく、僕は言う。
「返答次第では――僕は、お前の敵に回らなくちゃ、ならない」
その問いに、如月更紗は肩をすくめた。制服の襟口から覗く鎖骨が浮いて見える。月光のよ
うに白い肌に、一房、黒い髪が雨のように流れている。
肩を竦め、笑ったままに、如月更紗は答える。
「私は私さ、私は私だよ、冬継くん。如月更紗。それとも、もう一つの名前で名乗ったほうが
いいかい?」
もう一つの名前。
狂気倶楽部の中での、二つ名。
狂った芝居の中で、彼女が演じる役。
――マッド・ハンター。
イカレ帽子屋にして、狂った首狩人。
――違う。
それは違う、違うんだ如月更紗。僕はそんなことをお前に聞きたいんじゃない。そんなこと
を訊ねるために、そんなことを確認するために此処まできたんじゃ、ないんだ。
僕は、
ただ。

347 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/07/20(金) 04:21:13 ID:VvIppM+g
「……言い換えようか、如月更紗」
「……?」
わからないわ、と言いたげに首を傾げる如月更紗。とぼけようとしているようにしか見えな
かった。とぼけたいのだろう。
如月更紗は、きっと、僕が何を言い出そうとしているのか、勘付いている。
勘付いているから――そちらへと、話をもって行こうとしないのだ。
それは、向こう側へと踏み込むことだから。
一方的に僕の方へと踏み込んできていた、如月更紗の方へと、逆に僕が踏み込むことだらか
ら。踏み込んでしまえば、もう、戻ることはできないから。
――構うものか。
戻るつもりは……もうない。戻る場所も、もうない。
あるとすれば、如月更紗。
――お前の側くらいだ。
恥かしい台詞を口の中で押し殺して、代わりに、僕は言う。
彼女に対する、最大の疑惑を。

「神無士乃を殺したのは本当にお前なのかって――そう訊いてるんだ」

如月更紗は、即答した。
「なんのことか、なんのことだかわからないね冬継くん。わかられるように説明してくれない
かな」
「呂律が回ってないぞ」
「酔いが回ってるのよ」
「お前未成年じゃなかったのか!?」
クラスメイトである以上、同い年のはずだぞ。
それともまさか、五年以上留年してるのか……?
一瞬本気で悩んでしまった僕に対し、如月更紗はにやにや笑いを深めて、
「貴方の瞳に酔ったのよ」
「…………」
ボケか。
ここまできてボケるか。
どうあってもシリアスに持っていきたくないらしい……いや、ある意味それも如月更紗らし
いというか、僕ららしいと言うのだろうか。よく考えれば、あの時だって、あの時だって、シ
リアスの真っ最中にこいつは下ネタとボケを飛ばしてきていた。
シリアスの最中ですら――よくある日常だと、態度で彼女は表していた。
こんなことは、いつものことで。
いつものように、やるのだと。
――なら。
如月更紗、それがお前のやり方だと言うのなら。
僕は、それに付き合ってやる。
どこまでも。

348 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/07/20(金) 04:22:38 ID:VvIppM+g
「……もう一つの名前、か」
「そう、そうね、そうだわ。狂気倶楽部の最古参、狂った狩り人してイカレた帽子屋――」
「あるいは」
彼女の言葉を遮るようにして、僕は言う。
如月更紗の家で読んだ、あの絵本を思いうかべながら。
僕は、言う。
恐らくは――それこそが、彼女に対して核心となる言葉だと信じて。
「ハンプティか? それとも――ダンプティか?」

「――随分と」

今度もまた、即答だった。
微塵の間もあけずに、如月更紗は即答し、即断する。彼女の表情は変わらない。顔にはりつ
いたにやにや笑いは変わらない。それでも、この短い期間の付き合いからでも、彼女が焦って
いるのがわかった。
少なくとも――揺れている。
平常心じゃ、ない。
それでも笑みを浮かべたままに、如月更紗は言葉を続けた。
「懐かしい、懐かしい、懐かしすぎる、名前を言うものね」
「懐かしいのか」
そうね、と如月更紗は頷いた。
そうして、さらりと彼女は言う。
「それは、私が『マッド・ハンター』になる前の名前だから」
マッド・ハンターになる前の名前。
三月ウサギが代替わりするように。
狂気倶楽部がごっこ遊びである以上、役柄は、変わりゆく。
姉さんは、三月ウサギだった。
如月更紗は、マッド・ハンターだった。
――なら、その前は?
姉さんは、三月ウサギになる前は、ただの姉さんだった。新人である姉さんは、三月ウサギ
から始まった。
最古参である如月更紗は、違った。
マッド・ハンターになる前に、違う役を、経験していた。それがどんな役なのか、いくつの
役を演じてきたのか、僕にはわからない。それでも、マトモな人間がいない狂気倶楽部の中で
、役代わりは頻繁に行われてきたはずだし――如月更紗が演じた役のうち、少なくとも二つは
、はっきりしている。
ひとつは、マッド・ハンター。
そしてもう一つが――ハンプティか、ダンプティだ。
あの絵本を読んで、確信まではいかなくとも、その可能性に思い至ったのだ。

349 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/07/20(金) 04:23:47 ID:VvIppM+g
「……どうして」
如月更紗は。
笑いを浮かべたままに――それでもどこか、それは僕の気のせいなのかもしれないけれど、
泣きそうな顔をして――消え入るような小さな声で、僕に言ってくる。
「どうしてなのかな。冬継くんが、どうしてそんなことを知っているのかしら?」
「お前と同じだ。ここに来る前に、お前の家に寄らせてもらった。あれを家というのなら、だ
けどな」
「不法侵入は立派な犯罪ね」
「お前にだけは言われたくないな!」
玄関から侵入して窓から逃げてったお前にはだけは言われたくないな!
……。
そういえば、僕の家一週間も留守にしとておいてよく泥棒に入られなかったな……まさかあの
あと如月更紗が戸締りでもしてくれたのか……?
今更疑問が思い浮かぶが、とりあえずは後回しにしておく。確める機会があるとは思えないが、
まあ、確める必要もないだろう。
「自首することをお勧めるよ冬継くん」
「その時はお前も道連れだな!」
罪状で言うなら、間違いなく僕よりお前の方が多いぞ。
……その時は、狂気倶楽部まるごと芋蔓式に捕まるだろうけれど。
ん……そうか、だからか。如月更紗があの時言っていた、遺書を書くのと外側を巻き込まないと
いうのは、何かがあったときに自分ひとりで物語を完結させるためか。
仲間でありながら、横の繋がりは存在しない。
いつ死んでも、いつ殺されても構わない、閉じた輪。
――狂気倶楽部。
「…………」
実際――姉さんの死も、少しも話題にはならなかった。多感な少女が自殺しただけ。それだけで、
すべては片付けられた。その奥にあるものについては、何一つとして明るみにはならなかった。
明るみにしてはならないことだから。
それが――狂気倶楽部の、掟だから。
……なら。
今更にして、僕は思う。なら、と。
――神無士乃の場合はどうなる?
あいつは、狂気倶楽部のメンバーじゃなかった。遺書を用意していなければ、横の繋がりがあるわ
けでもない。家族もいて、多少歪でも普通に生活に生活していた、一般人だ。彼女が殺されたら――
何かしら問題が起こるんじゃないのか?
そんな疑問が、頭に浮かぶ。
それは先の泥棒の件とは違い、さらりと流してはいけないような気がしたが……どの道、今の最重
要目的は、如月更紗以外にはありえない。

350 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/07/20(金) 04:25:25 ID:VvIppM+g
僕はまた一歩、如月更紗へと近づく。目算で、あと五歩。五歩もあるけば、如月更紗に手が届く。
彼女が逃げない。
じっと、ずっと――僕を、待っている。
「お前の家で読んだんだ。『ハンプティとダンプティ』の話を。あれは――」そこで僕は言葉をくぎり、
一度大きく、息を吸って吐いた。言葉を出すのには、覚悟がいった。ゆっくりと、意識してゆっくりと
くぎるように、僕は続ける、「あれは――実話なんだろう?」
「そうさ、そうね、そうだとも」
あっさりと。
呆気にとられるほどにあっさりと、如月更紗は、僕の言葉を首肯した。
「狂気倶楽部には一つの伝統があってね。自分たちの物語を、自分で絵本にするというものさ。こちら
は強制ではないが……喫茶店グリムの地下には、本が山と並んでいるよ」
「メンバーの数だけ、か」
「かつていたメンバーの数だけ、よ」
いなくなってしまった人の、
失われた物語。
自身の手で――綴られた、絵本。
狂気倶楽部の、物語。
そして、如月更紗は。

「私の父も――本を書いたわ。狂気倶楽部の一員として、『ハンプティとダンプティの物語』を」

笑みを、消して。
ずっと浮かべていたにやにや笑いをかきけして、どこか困ったような、どこか寂しげな表情をして、
僕の疑惑を肯定する言葉を吐いた。
けれど、僕は。
「…………」
何を言い返すこともできずに、沈黙するしかなかった。
――父親?
父親……だって?
あれが彼女たちを描いたものだとは思っていたが、まさかそこまでとは思っていなかった。てっきり、
如月更紗自身が描いたものだと思い込んでいた。それが父親が書いたもので――しかも、父親すら、狂気
倶楽部の一員だって?
そんなの……筋金入りじゃないか。
血統のような。
連綿と続く、狂気の血統。
狂気の子は――また狂気。
そういう……ことなのだろうか?

351 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/07/20(金) 04:26:29 ID:VvIppM+g
はぁ、と、困惑する僕に対して、如月更紗はやるせないため息を吐いた。わざとらしく肩をすくめ、
やけに明るい声で、
「困ったものだよ、困ったものだわ、本当に。冷蔵庫の中は見たかしら?」
「…………」
「見た、って顔に描いてあるわよ」
「……ああ、見た」
見た。如月更紗にどこか似た、女性の生首が――入っていた。
頷く僕に対し、如月更紗は、からかうような笑みを再び顔に浮かべ、
「あれが私たちの母で……同時に、父の妹なのよ」
まったく困ったものだわ――と。
そう、繰り返した。
至極当たり前のように、繰り返した。
「…………」
母親。
……妹?
如月更紗の言葉を素直に受け止めるのなら、彼女は、実の兄妹から生まれた近親相姦の子ということになる。
言うまでもなく、常軌を逸している。
日常から、遠く乖離している。
狂気。
狂気――倶楽部。
「…………」
一体……どこまで根が深いんだ? どこまで辿れば、原因に辿り着く?
なにがおかしいのか。
誰がおかしいのか。
そんなことすら――わからない。
狂っている。
はじめから、狂っている。
はじまる前から、狂っている。
「ま、」
ぐるぐると、遠退きかけた僕の思考を呼び戻すかのように、如月更紗はさらに明るい声を出した。
その声に、意識が引き戻される。揺れかけていた焦点が、再び彼女に向けられる。
……しっかりしろ。
今は――考える必要の、ないことだ。
「考える必要のないこと、よ。それはそれで、また別のお話なのだから。それは私の物語でもなく、冬継くん
の物語でもなく、ましてや貴方のお姉さんの物語でも三月ウサギの物語でもない、また別の物語なのだから。
今は――」
「――そうだな、今は」
僕は如月更紗の言葉を受け継ぐようにして、言う。
頭に思いうかべるのは、あの部屋のこと。あの部屋で見た全て。廃墟とかした家。少女趣味な部屋。生首。
――二段ベッド。
そして、『ハンプティとダンプティ』の物語。

――『ハンプティとダンプティの双子が、そのお茶会に加わったのでした。』

その全てを、頭の中で反芻しながら。
僕は、言った。

352 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/07/20(金) 04:28:43 ID:VvIppM+g




「神無士乃を殺したのは、如月更紗じゃない。お前の――――双子の姉妹だ」









その通りだよ、と。
どちらともつかない彼女は頷いた。





353 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/07/20(金) 04:29:46 ID:VvIppM+g
ずっと感じていた、些細な違和感の正体を。
「一晩休んでゆっくり思い出してみれば……お前は僕のことを、冬継くんって呼ぶんだよ」
あの時。
神無士乃に地下室で監禁されていた時、僕を助けにきた――というよりも、神無士乃を殺し
にきた彼女は、僕を見てこう言った。
――里村くん、と。
違和感は、それだった。それだけだった。たった小さな、呼び方という違和感。冬継くん、
と名前ではなく、里村くん、と苗字で呼ばれたこと。
些細なことだ。
けれど、違和感を感じずには言われなかった。僕が決して、一度として、如月更紗のことを
フルネーム以外で呼ばなかったように、姉さん以外の誰かをフルネーム以外で呼ばない僕にと
って、呼び名というのは常に無意識を払っているものだったから。
加えて、『里村くん』だと、如月更紗が呼ぶ場合には、姉さんまでも含まれてしまう。
だからこその――違和感だった。
「成る程、成る程、成る程ね。呼び名の違いは、ミステリィの基本だよ――よく気付いたわね
、冬継くん。それとも本当に褒めるべきなのは、そんな些細な違和感を信じて行動したことか
しら?」
「……さぁな」
僕は嘯く。本当のことを言うつもりはなかった。これだけは、口を閉ざしておくつもりだっ
た。
確かに、違和感を感じたのは本当だ。
きっかけになったのも、事実ではある。
けど、僕はそれを、信じたわけじゃない。そんなことを信じて行動したわけじゃない。
ただ、信じたかっただけだ。


如月更紗があんな殺人を犯すような人間でないと――――信じたかっただけだ。


「…………」
恥かしいから、絶対に言わないけれど――もしも言ってしまったら、この先一生からかわれ
るのは目に見えているので、それこそ墓の中まで持っていくつもりだけど――結局のところ、
僕は如月更紗を信じたかったから、信じるための証拠を探しに、こいつの家までわざわざ脚を
運んだのだ。
何かないかと、探すために。
結果として十分すぎる何かは見つかったわけだけれど……それは結果論にしかすぎなくて。
ようするに。
あの時点で、僕は。
どうしようもないほどに……如月更紗に、心を奪われていたのだ。
ただ――それだけなんだ。

354 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/07/20(金) 04:31:56 ID:VvIppM+g
「…………」
……。
…………。
口が裂けても言えないなこんなこと……今にして思い返せば、思いっきりバカップルみたい
な発想じゃないか、これ。妄信的にも程が有る。『恋人のことなら何でも私信じるわ!』なん
て、大昔のラブコメじゃあるまいし、まさか自分がそんなことをやりだすとは思いもしなかっ
た、というか今でも思いたくない……。
妄信的な愛。
狂信的な愛。
そうなのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。僕はひょっとしたら異端で、如月
更紗は間違いなく異端だけれど――だからこそ、真っ当な恋愛がしたかったと、それだけなの
かもしれない。
自信なんてなかった。双子だという突拍子もない説を、心の底から信じていたわけじゃない。
今だって、信じているわけじゃない。
信じたいだけなんだ。
如月更紗に、人殺しをしてほしくなかったから。
如月更紗を、復讐の対象にしたくなかったから。
それだけ――なんだ。
それだけの、ことなんだ。
「……だから訊いたんだよ、お前は誰だ、って。少なくとも見かけだけじゃ、双子の姉妹なんて
僕には判別がつかないからな」
「そこは愛の力で」
「できるかよ、そんなの」
「そこはエロの力で」
「それができるのはお前だけだ露出魔!」
「つまり――脱いで証明しろということだね?」
「いつ! 誰が! 脱げって言った!?」
「前世からの運命で、冬継くんが言うことは運命づけられていたのよ」
「一山いくらなメンヘラみたいなこと言ってんじゃねえ! いつからお前は運命論者になったんだ!?」
「ふ、ふ、ふ、」
と。
今時聞くのも恥かしいくらいに典型的な笑いを如月更紗は言葉で表現した。笑っているというよりは、
ただ単純に、笑うという声を発したようにしか聞こえなかった。
「運命を信じたくもなる、運命を信じたくもなるわよ――だって、まさか」
そうして、如月更紗は。
僕を見上げて。

「冬継くんの方から、私の方へ歩み寄ってきてくれたのだから。運命ですら、信じたくなるものよ」

嬉しそうに――母親に褒められた子供のように――にやにや笑いとは似てもつかない、純粋な笑みを
浮かべたのだった。

355 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/07/20(金) 04:35:33 ID:VvIppM+g

以上で投下終了です。
……正規ルートをふっとばしていきなり裏ルートに突入したような、早いネタバラシでした。
A1に進んでいた場合当然の如く死亡フラグが。しかし物語的には(ヤンデレ的にも)やっぱりそちらが正規ルートで。
というわけで、裏ルート兼如月更紗ルート突入となります。
無事エンドを迎えるまでにはもう一波乱、最後の障害が。
最後までお付き合いいただけたら幸いです。

>>336
見てたらヤンデレ長門で長編を書きたくなるな……

>>伊南屋氏
春香姉さんの絵になんともいえない感慨を感じつつ
戯言パロの洒落にならなさに吹きました

356 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/20(金) 04:45:22 ID:HRz8RgpR
>>355
リアルタイムで読めた! 感謝!
真実に驚愕、でもそれ以上に更紗切ないよそして可愛いよ更紗。
あと冬継君のデレっぷりに萌えたw

357 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/20(金) 04:45:37 ID:aLIgHqLI
一番海苔GJ!
まさか双子とは……この展開は予想GUY。
そして来るべき最後の障害にwktkが止まらないっ!

358 名前:伊南屋 ◆WsILX6i4pM [sage] 投稿日:2007/07/20(金) 04:46:56 ID:SG+dRwCm
GJ!
これからバイトだからあんま多くは語れませんが、兎にも角にも続き期待させて頂きます。

359 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/20(金) 04:47:31 ID:aLIgHqLI
>>356
∑(゚Д゚;)

360 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/20(金) 12:18:24 ID:g7nfigbZ
>>355
GJ! 
裏ルートだろうとかまうもんか二人には幸せになってほしい。
でも前回の選択肢といい今回といい
スレ住人のほとんどは更紗ルートまっしぐらだったなw

361 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/20(金) 13:13:38 ID:y9NUbRdC
俺の中でヤンデレのハシリは勝手に改蔵の羽美

362 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/20(金) 13:39:31 ID:+Y1Q0epS
羽美にはデレがないぞ

363 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/20(金) 16:38:25 ID:y9NUbRdC
最後の最後で手を繋いでたじゃないかぁ!

364 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/20(金) 19:44:19 ID:bWDaDyhr
>>355
いやあ、これは先にA1ルートを見ていたらもっと驚きがあったかもしれない展開ですね……。
ルート突入を機に今までの作品振り返させていただいたんですけど、伏線の張り方が凄まじいですな。お見事です。

……いや、更紗の妹の事についても何者かが見えてきましたし。
ここで終わったあとのお茶会のアレが絡んでくるんですか。

365 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/20(金) 19:50:41 ID:TY+w6deM
>355
毎回GJ!!

俺も「いない君といる誰か」は更紗派で違いないんだが、最近読みなおしたら佐奈さんに惹かれる今日この頃。
ということでBルートにも密かに期待。


366 名前:伊南屋 ◆WsILX6i4pM [sage] 投稿日:2007/07/20(金) 22:42:55 ID:SG+dRwCm
線画ばかりを三枚ほど
http://imepita.jp/img/trial/20070720/810130.jpg
http://imepita.jp/img/trial/20070720/811040.jpg
http://imepita.jp/img/trial/20070720/811881.jpg
色々怒られるんじゃないかと思いつつこんな絵をUPしてしまうあたり、真性のマゾであることを改めて自覚せざるを得ない。

367 名前:伊南屋 ◆WsILX6i4pM [sage] 投稿日:2007/07/20(金) 22:48:32 ID:SG+dRwCm
しまったアドレス変えるとタイトル表示されないのか。
タイトルはそれぞれ
如月更紗/クビキリゴッコ
ヤマネ/クビシメゴッコ
グレーテル/クビツリゴッコ
となります

368 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/20(金) 23:23:53 ID:HRz8RgpR
>>366
病んだ感じの目が(・∀・)イイ
特にヤマネ

369 名前:赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/07/21(土) 12:18:29 ID:GEl7EzNH
昨日分を投下。

370 名前:一週間 金曜日 ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/07/21(土) 12:19:21 ID:GEl7EzNH
仕事を終えて、我が家へ帰ってくると。
僕の部屋の前に、先輩が居た。ドアに体をもたれさせて、僕の帰りをずっとずっと待っていたようだ。
「みぃーくん……」
「先輩……」
先輩はスーツ姿で、長い黒髪を纏めもせず垂らしたまま、出入り口である階段のあたりをじっと見つめていたようだ。
僕の姿が見えた途端、この世の終わりのように沈んでいた顔がぱぁっと明るくなる。ころころと変わるサイコロのような変化。
「やっと。やっと帰ってきたんだねぇ。おかえりぃ」
「た、ただいまです」
先輩はゆっくりと立ち上がる。そしてふらりふらりとこちらへ寄ってきた。足元はおぼつかず、僕のほうを見ながら少しずつ少しづつ距離を縮めてきて。
「みぃーくんんんっ」
はぐぅっ。
両手を広げて、大きくハグされたのだ。
「わっ。先輩!」
「ひさしぶりぃ。みぃーくんの温もりだぁ……。すっごいよぉ……」
まるで、薬物常習者のように意識が飛ばした囁き。先輩の体が僕に向かって押し付けられる。胸、腰、腕。僕の匂いを自分にこすりつけるように蠢く先輩の体。
「酷いよぉ、みぃーくん。電話も禁止だって……本当に出ないんだもの。私、あの後なんにも考えられなくなっちゃったんだよぉ……」
僕の肩に鼻と口を押さえつけて、すーはーすはーくんかくんかくんかくんかと汗を吸うようにぐりぐりとする先輩。
「みぃーくんみぃーくん。みぃーくんの汗のにおい……すっごくいいよぉ。」
まるで、なにかにとりつかれたように囁きながら、僕の体に体重を乗せていく。
「先輩。先輩っ!」
僕は慌てて声を出して。先輩の肩を掴み、体を離した。先輩の体は軽く、僕の行動にも抵抗しなかった。いや、肩をつかまれたことにより別のことを期待したようで。
「んー~……」
「唇を突き出さないでください」
僕は先輩を離すと、先輩はふえぇぇと崩れ落ちた。僕と逢って安心して脱力したよう。ふにゃふにゃ笑って、こっちを期待を込めた目で見つめる。
潤んだ瞳と赤く染まった頬。口元は儚げに揺れてとろんとした桃色の唇から一筋の液体がたらりと流れていた。
「先輩。大丈夫ですか?」
「えへへ。みぃーくんに逢えたら、安心しちゃった……」
「とりあえず、ここ廊下ですから。廊下で抱きつくのは止めてください」
「うんっ」
僕が手を伸ばすと、先輩はそれを掴み体を起こす。先輩の手は強く握られ指の一本一本まで絡められる。
「えへへ。入ろう。これから逢えなかった分。全部返してもらうから♪」
もじもじと何かを期待するように下腹部を抑えながら、僕に向かって期待した目で微笑む先輩。頭の中では、今からこの部屋に入って、僕を押し倒しうにゃんうにゃんする映像が流れてるに違いない。
しかし、僕の返す言葉は決まっている。
「は? 何言ってるんですか。禁欲期間は今日までですよ?」
「え」
先輩がはとが豆鉄砲を食らったような顔になる。そして、明らかにわかるほど狼狽し始めた。
「先輩。3日間逢わないって言いましたよね。今日は金曜日ですからその三日目ですよ」
「………いやいやいや」
先輩。ないないといった風な顔は止めてください。
「だから、明日です。明日で終わりですよ」
「……じゃじゃあ。日付が変わるまであと3時間だからっ、それまで待つわ!」
「ダメです。ちょうど3日間、72時間だから明日の夜までですよっ」

371 名前:一週間 金曜日 ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/07/21(土) 12:20:02 ID:GEl7EzNH
「そ、そんなぁ」
本当は別に今日でもよかった。しかし、先輩のこの禁欲期間に対する意図をわかってもらえないことには、この3日間の意味がないのだ。
だから、僕は心を鬼にして言っているのだ。けして見ずに溜めていたAVを消化するのに間に合わないのが理由だからでは無いっ。……本当だよ?
「ねぇ、今日でもいいじゃないっ。もう私、今日で終わりだと思って……我慢に我慢を重ねてるんだからぁ!」
先輩の瞳からぽろぽろと涙が溢れていく。心が痛むが、これも今後の関係のためだ。
「ダメですよっ。先輩、それよりも何のためにこの禁欲期間を設けたか、先輩はわかってます?」
「……同僚から聞いたわ。何日か溜めたほうが極上の気持ちよさになるって!!」
焦らしてるんじゃないんですってば!
「だから、いっぱいいっぱい我慢したよ! それに普段恥ずかしくて出来なかったことも使用と思って、いっぱい持ってきたのに……!」
い、いっぱい持ってきたって……。
「ムチにローソクにロープにラップに動くアレにぬるぬるするヤツに妹の電話番号に……」
最後のは何に使うんですか! というか誰の妹ですかそれ!?
「……えへへ。ねぇ、みぃーくんは姉妹丼とか興味あるかな?」
「やめーい!」
さすがに、僕も我慢の限界だ。先輩の手を振り切るっ。
「先輩! いい加減にしてください! こうなったらもう一日追加です!」
「ええええ!」
「期間は明後日、日曜日まで延長ですっ。いいですね!」
「そんなぁっ。みぃーくん、勘弁してよっ! 私、もうだめなのぉ! みぃーくんとエッチしたくてしたくて、ほら! 見て、ここ!」
先輩がスカートをたくし上げる。露わになる先輩のショーツ。縞々のショーツはぐっちょりと濡れていて、溢れる涙と同じように湿らせている。
しかも、その三角の先端部分はなにかを仕込んだかのようにぷくりと膨らんでいて、心なしかぶぶぶぶぶと音を立てて振動しているような……。
「ダメです! ダメですっ! ダメですっ!! おやすみなさい!」
僕はすばやく体をひねり、自室のドアを開ける。そして、すばやく閉めて鍵をかけた。
「みぃーくん! みぃーくん! みぃーくぅぅぅん!!」
ガンガンとドアを叩く先輩。僕は心を鬼にして全力で聞こえないフリをする。
先輩の声はしばらく響いたが、やがてダメだと悟ったのか。先輩の声は止み、静かになった。
「……先輩」
もしかしたら、先輩とはもっと距離をとったほうがいいのかもしれない。
(続く)

372 名前:赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/07/21(土) 12:20:43 ID:GEl7EzNH
以下次回。

373 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/21(土) 12:26:46 ID:Gv93axGg
エロス

374 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/07/21(土) 12:41:28 ID:Gzqk6ITQ
>>372


GJっす!

先輩の壊れ具合に期待

375 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/21(土) 13:01:29 ID:ScmrBk2v
主人公フラグ立てすぎワロタ

376 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/21(土) 13:26:29 ID:5beoT2Ar
>>371
GJ! そしてワロタ
姉妹丼すら提供する先輩もすごいが、みぃーくんが
先輩に放置プレイを強いるSに見え
そして自分への欲求を求めているMにも見え

377 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/21(土) 13:30:21 ID:xMSbj4Gu
>>372
GJ!
好き好き言って来る女の子から逃げ回ってた小学生の時の快感を思い出した
今思えばあの時代が俺の頂点・・・

378 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/21(土) 13:32:54 ID:ujJ0ofqV
超絶GJ!!
主人公フラグ立てすぎワロタwww
先輩の壊れっぷりににやにやしながら次回を待ちます。

379 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/21(土) 13:33:38 ID:mO3Rj4Hp
来世があるさ・・・

380 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/21(土) 20:42:57 ID:rc6eDEiv
監禁フラグ達成率95%ってとこか

381 名前:赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/07/21(土) 23:13:48 ID:GEl7EzNH
とうかします。

382 名前:一週間 土曜日 ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/07/21(土) 23:15:34 ID:GEl7EzNH
さてと。僕は自宅のベッドに転がって天井を眺める。時刻は午後6時。夏場だからいくらか明るい外もそろそろオレンジ色に染まり始める。
昨日の先輩の襲撃事件があって、一日あけた今日。僕は平和的な一日を過ごしていた。
一日中寝っころがってテレビを見て、洗濯をして、ゴロゴロして。うん、とっても健康的で堕落した休日の使い方だ。一切家から出ることなく、僕は一日を終えようとしているのだ。
だから。先輩とは一切逢っていない。たとえ、先輩が玄関のドアのすぐ傍にいようとも。
「せーんぱい。そろそろいいかげん帰ってくれませんか?」
「帰らないもん!」
玄関の向こうから聞こえる先輩の声は、あいも変わらず切なく寂しそうだ。
そう。先輩は昨日の夜襲撃して来てから一夜明けて、昼を過ぎてそしてこの今まで。ずっとこの玄関の前に張り付いていたのだ。
朝、コンビニへ行こうと玄関を開けたら驚愕したもんな。この玄関前の砂とほこりが舞う廊下で先輩が横になって寝ているんだもの。
覗き穴から覗いてみると、着のままのスーツと中に何かが仕込まれていたスカートを砂だらけにして、涙で腫れた瞼を閉じて時折口元で「みぃーくん……」と呟きながら僕の部屋の前を占領している先輩。
びっくりして思わずドアを閉めて、普段かけないチェーンも思いっきりかけたよ。
そして、思いを振り切るように眠りについて(嫌な夢を見た)、昼ごろ、僕はそろそろ帰っただろうと覗き穴を覗いてみると……。
まだ居るのだ。玄関前で体育座りをしながらずっとずっとまるで暗闇の中で明かりがそこにしかないように、僕の部屋のドアを見つめていた。
起きている。だが、意識はどこへ居るのかわからない。虚ろな表情でただじっと僕の部屋のドアを見て、パクパクと口を動かしている。
僕が少しだけ、ドアノブを動かしてみた。鍵をかけたまま、ドアノブを少しだけ捻る。
かちゃ……。
瞬間。
「みぃーくん!!」
瞬間。先輩はまるで先ほどとは別人のように跳躍し、驚くべきスピードでドアノブを掴み思い切り力を入れてがちゃがちゃと開けようとひねる。
が、鍵をかけてあるので、一向に開かない。
「……みぃーくん……みぃーくん……」
先輩はドアノブを話すと、絶望にうちしがれたような表情を浮かべて、へなへなと脱力した。
もう一度、少しだけドアノブを動かしてみる。
「みぃーくんっっ!!」
その反応だけは、何よりも早かった。またもや、掴まれる玄関のドアノブ。そしてがっちゃがっちゃと勢いよく動き……。
「……そんなぁ……」
またもや静かになる。
……怖い。僕はすこしだけ動かす度に、すぐさま開けようとする先輩の必死さに恐怖を覚えた。触ると動く。おもちゃだったら面白いけど、これがこんな状態だったらどうやっても楽しめない。
「先輩」
あまりの異常さに、僕はドア越しに声をかけたのだ。
「みぃーくん! お願いだから開けて! なにもしないから、なにもしないから、なにもしないから!!」
先輩の口から飛び出すのは「なにもしないから」という言葉だけ。どれだけ必死なんだ先輩は! たかだか4日間じゃないかっ。
「ダメですっ! 明日入れてあげますから! だから今日はもう帰ってください!」
「お願い、お願いよぉぉぉ……」
先輩のか細い声に僕も良心が痛めつけられる。

383 名前:一週間 土曜日 ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/07/21(土) 23:16:21 ID:GEl7EzNH
でも、開けてはいけない。昨日までは先輩のためと自分のためを思って開けなかった。しかし今日の様子は昨日と違う。
「ねっ? もうエッチもしないから。なにもしないから。ただみぃーくんの顔だけ眺められたらいいから。だから、一緒に居させて……。私を拒絶しないで……。見捨てないで……」
危険。この二文字が僕の脳内に浮遊し赤い光を放ちながらワーニングワーニングと警告音を鳴らしているのだ。
もはや、命の危険とも同じぐらいの危機感。 あ、いや、毎日の先輩とのエッチでも何度も命の危険は感じてたけど、それとは比べ物にならないぐらいの恐怖と異質さ。
「…………」
どうする? 今開けるか。それとも明日開けるか。
どっちが一番安全だろうか?
今開ければ、まだ間に合うかもしれない。エッチも30回ぐらいでギリギリ勘弁してくれるかも……(それに明日日曜だし)。
いや、先輩の体力も限界はある。明日なら、先輩の体力も落ちてむしろ最小限被害でいい方向へ転がる可能性も……。
そのとき。
RIRIRIRIRI
「電話だ……」
僕は受話器を取る。
「もしもし……、あ。課長」
電話の主は課長からだ。
「はい、はい、はい、え……?」
……緊急の仕事? 今から課の仲間を全員集めてミィーティングをして、すぐさま大阪に行くことになった? 休日出勤で悪いが、いますぐ支度をして会社に来てくれ……?
「はい、わかりました……」
……電話が切れる。課長はかなり慌てた様子だった。しかし、大阪まで行くって、なんて突然に。
でも何日かかるんだ? 明らかに泊りだって言ってたし。それよりも……。
「……先輩をどうしよう……」
さてと。ここで問題。どうせ休みだから篭城するつもりだったけど、この家から出ざるをえなくなった。
しかし、玄関には先輩が居て病的なまでにこちらを見張っている。先輩とは課やらなんやらが違うから、先輩も大阪に行くことは無いだろう。
しかし。この状態で外に出たら、先輩を振り切るのは辛そうだ。覗き穴から先輩の様子を確認する。
「みぃー、みぃー、みぃー、みぃー……はぁはぁ」
もはやあだ名でさえも君付けじゃなくなっている。僕の姿を見たらすぐさま押し倒し陵辱したりんという禍々しい紫色のオーラを放ってドア越しに居るであろう僕を見据えている。
「……こうなったら、方法は一つだ」
僕はそっと玄関から離れ、スーツを着込むとリビングを通ってベランダへ。
僕の部屋は二階で、しかもベランダの傍には電信柱が建てられている。つまり、やろうと思えばベランダから出入りすることが出来るのだ。
先輩に気付かれないように僕はベランダへと出る。電信柱に足をかけてするすると降りていった。
ふっ。この秘密の抜き道の存在は先輩も知らないはずだ。
(せんぱいっ。ごめん!)

僕は心の中で先輩に謝ると、走って逃げるようにアパートを離れていった。
(続く)

384 名前:赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/07/21(土) 23:17:01 ID:GEl7EzNH
残ったのは誰も居ない部屋と先輩。次回へ続く。

385 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/21(土) 23:20:40 ID:4n/P3ftK
idealの更新を待ってる俺

386 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/21(土) 23:34:02 ID:0VCuKx1C
>>384
GJ!
でも先輩(´・ω・)カワイソス
このままでは最後みぃー君は
搾り取られて死ぬのではあるまいか

387 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/21(土) 23:45:47 ID:xMSbj4Gu
>>384
GJ
先輩もはや理性失ってるな・・・
こりゃ、次辺り大変な事になりそうだ (´・ω・`)

388 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/22(日) 00:40:31 ID:Lhs0b9Qy
風船に空気を入れ続ければどんどんふくらむ
水槽に水を入れ続ければどんどん水かさが増す
しかしそれが破裂したり水があふれることには思い至らぬのが修羅場主人公

389 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/22(日) 00:46:20 ID:NtukyyY/
ちょwww先輩寺かわイソ巣www

390 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/22(日) 00:54:31 ID:v0muAcJB
これ見て思ったがヤンデレ物の話って男に問題があるパターン多いな…
てかほとんどか?

391 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/22(日) 01:46:25 ID:HDrtyPcm
嫉妬が介入しないヤンデレもなかなかいいものだ

392 名前: ◆zvQNG0FZvQ [sage] 投稿日:2007/07/22(日) 02:05:16 ID:7r6fu7n4
久しぶりに覗いた。
>>385
涙が滲んだ。有難う。

393 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/22(日) 02:09:26 ID:LK9OP0VZ
時間的に見て自演だな・・・

こういう風にしか思えない俺をどうにかしたい、と言うかこんな風に俺を変えたのは誰だ

394 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/07/22(日) 02:48:11 ID:F2Rx83I9
ことのはおもすれいです

395 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/22(日) 04:21:03 ID:zXaXMq1h
お前が時間的なタイミングがどうこうと口にするのかwww

ところで。
関連スレに単発での煽りが湧いてるんだけれど、心当たりは無いか?

396 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/22(日) 04:35:55 ID:LK9OP0VZ
今の所ここの他にはキモ姉妹スレにしか書き込んで無いな

397 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/22(日) 05:31:08 ID:NHV32SMX
>>384
主人公ヒドスw
悪意がないからかえってタチが悪い
先輩ガンガレ

>>392
idealは俺も気になってたから再開してくれると嬉しいなあ。

てか連載されている作品はどれも気になる
良いところで中断されている作品が多いし。
他の作者さん達も帰ってきてくれないかな

398 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/22(日) 05:40:54 ID:JT/Edd1R
洋館に閉じこめてギタギタにしていくのはなんだっけ?
あれは完全に病んどる

399 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/22(日) 05:41:06 ID:LadU2mXx
まあ、俺はずっと全裸で待ってるわけだが。

400 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/07/22(日) 05:58:46 ID:NHV32SMX
>>398
ひょっとして「死の館」か?

最終更新:2009年01月13日 14:07