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1 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 03:35:12 ID:Sf6DhUew
ここは、ヤンデレの小説を書いて投稿するためのスレッドです。

○小説以外にも、ヤンデレ系のネタなら大歓迎。(プロット投下、ニュースネタなど)
○ぶつ切りでの作品投下もアリ。

■ヤンデレとは?
・主人公が好きだが(デレ)、愛するあまりに心を病んでしまった(ヤン)状態、またその状態のヒロインの事をさします。
→(別名:黒化、黒姫化など)
・ヒロインは、ライバルがいてもいなくても主人公を思っていくうちに少しずつだが確実に病んでいく。
・トラウマ・精神の不安定さから覚醒することもある。

■関連サイト
ヤンデレの小説を書こう!SS保管庫
http://yandere.web.fc2.com/

■前スレ
ヤンデレの小説を書こう!Part8
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1186477725/-100

■お約束
・sage進行でお願いします。
・荒らしはスルーしましょう。
削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。

■投稿のお約束
・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
・作品はできるだけ完結させるようにしてください。



2 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 03:39:22 ID:4v1yW4gU
神速で2get

3 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 03:39:31 ID:Sf6DhUew
以下、投稿します。

4 名前:ヤンデレは誰だ[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 03:40:13 ID:Sf6DhUew
「9/16 日曜日」

こんなに愛しているのに、どうして。

こんなに近くにいるのに、どうして。

こんなに想っているのに、どうして。

どうして。

あなたは気付いてくれないのだろう。

いつでもあなたのことを考えているのに。

そう。毎晩あなたの写真とお話して、気がついたら朝が来てしまうくらいに。

好き。世界で一番好き。

こんなに好きなんだから、わたしの気持ちが叶わないはずないのに。

どうして。

5 名前:ヤンデレは誰だ[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 03:40:48 ID:Sf6DhUew
ピピピ ピピピ

ピピピ ピピピ

「ん…」
…朝だ。
いつもの規則的な電子音で目が覚める。
毎朝のことだが、早朝の寝ぼけた頭にこの大きな音は辛い。
布団から腕を出してゆっくりとその音源に手を伸ばすが、どうやらわずかに届かない。
そうして俺の手が空を掴んでいると、ふいにアラーム音が止まった。
「んー…?」
なんだか分からないが小うるさい音が止んだようだ。
ここはひとつ、もう少しの間惰眠を貪ろう。そう思ったときだった。
「こらっ!」
「んあっ!?」
突然の怒鳴り声に驚き、微妙に情けない声を出しながら起き上がる。
すると、そこにいたのは由香里だった。
「お兄ちゃん。起きて」
「んー…」
目をこすりながら、否定とも肯定ともとれない声を出す。まだ頭が働かないのだ。
「んー、じゃないでしょ。ほら早く」
そう言う由香里の片手には、目覚まし時計があった。
なるほど、アラームを止めたのは由香里か。
「…分かったよ」
ようやく目が覚めてきたので、俺はベッドから這い上がった。
大きなあくびをしながら首や肩を回すと、ボキボキっと鈍い音が鳴った。
「うわ…、ちょっとおじさんくさいよ」
「うるさい」
由香里の冷ややかな指摘を無視し、俺は重い足取りで部屋を出た。

「行ってくるよ」
男の支度なんて、本当に手早いものだ。
15分程度の間に身支度を整えて朝食も済ませた俺は、それだけ母に告げて家を出た。
「ちょっと、待ってよー」
そう言われ振り向くと、由香里が少し慌てた様子で追いかけてきた。
「人に起こしてもらっといて、なんで先に行っちゃうかなぁ」
「なんで、って言われてもなぁ」
俺は少し困って頬をかく。
「ていうかさ、なんで俺より早く起きてるのに俺より支度が遅いの?」
素朴な疑問だ。由香里の支度はいつも長く、正直いちいち待っていられない。
すると、由香里は少し怒ったような顔をして言った。
「女の子は支度に時間がかかるものなの!」
「そんなもんかね」
「そんなもんなの」
それだけ言うと、由香里は俺の隣に並んで歩きだした。
俺はふと、そんな妹の横顔を覗く。
由香里の顔立ちは俺と違って、完全に母親譲りだ。
もともと浅黒い俺とは違う白い肌が、いつの間にか覚えた化粧でほんのりと染められている。
茶色がかった髪は、地毛だろうか。思えば妹の髪など気にしたことがないので、ちょっと判別がつかない。
とにかく、そんな妹の髪はツインテールにまとめられて歩く度に揺れている。
確かに、こいつもいつの間にか年頃の女の子になっていた。
そりゃ身支度に時間がかかるはずだ。
そんなことを考えていると、いつの間にか由香里もこちらを見ていた。
「どうしたの?」
「ん? ちょっとね」
「なに?」
由香里は訝しげに首を傾ける。
「まあ…。お前も大きくなったな、と思って」
「なにそれ」
由香里は不思議そうな顔で、もう一度首を傾けた。

6 名前:ヤンデレは誰だ[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 03:41:51 ID:Sf6DhUew
俺と由香里が通う高校は、自宅から歩いて10分程度の距離にある。
今朝も由香里と他愛のない話をしている間に、学校へ辿り着いていた。
「おはよう。笹田くん」
ちょうど校門を抜けたところで、聞き慣れた声に呼ばれた。
「ああ、委員長。おはよう」
挨拶を返すと、委員長は長い髪を左手で耳にかけながら微笑んだ。最近知ったのだが、どうもこれは彼女の癖らしい。
他の女子ならちょっと気取った感じに見えるだろうが、委員長がやると清楚な感じに見えるから不思議だ。
「今日も妹さんと一緒なのね」
委員長は笑みを崩さずに言った。
「ああ」
俺がそう言うと、隣で由香里が頭を下げた。
「おはようございます。先輩」
「おはよう」
委員長も律儀に頭を下げて挨拶を返した。
「…じゃあ、わたし行くね」
そう言うと、由香里は一年生用の玄関へ向かって行った。
「可愛い妹さんね」
委員長が由香里の後姿を見つめながら、つぶやくように言った。
「そうかな」
「笹田くんはそう思わない?」
「よく分からないよ。兄妹だからね」
由香里を見送った俺は、今度は委員長と並んで歩き出す。
横で歩く彼女を見て、俺はあることに気付いた。
「委員長さ、最近ずっとメガネじゃない? コンタクトやめたの?」
俺がそう言うと、委員長は一瞬顔を赤くした。
「え、ええ」
「どうしたの? なんか心境の変化とか?」
「う、ううん。何でもないの。ちょっと、何となくっていうか…」
委員長はなぜかしどろもどろになる。あまり聞かれたくない話なのだろうか。
そんな間に、俺たちの教室の前まで来ていた。
すると、クラスメイトの一人が俺を見つけた。
「おーい、笹田。お前が聞きたいって言ってたCD持ってきたぞー」
「お、マジで?」
急いで友人のところへ行こうとして、委員長の存在に気付く。
「俺、行くね」と言おうとしたが、それより先に委員長が口を開いた。
「どうぞ。気にしないで」
委員長がいつもの笑顔でそう言ったので、俺は軽く頷いてからCDの、もとい友人のもとへ駆け出した。
「…笹田くんが、似合うって言ってくれたんだけどな」
委員長が小さな声で何かを言った気がしたが、よく聞き取れなかった。

7 名前:ヤンデレは誰だ[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 03:43:42 ID:Sf6DhUew
昼休み、俺は机に突っ伏して仮眠を取っていた。
こうして午後の授業のために体力を温存しておくのは、学生にとって重要な一日のプロセスなのだ。
しばらくの間そうしていると、あろうことか俺の安眠を妨害する不届き者が現われた。
誰かが俺の肩を叩いているのだ。
「………」
無論、シカトだ。
俺の大事な時間をそうそう他人に奪われてやるわけにはいかない。
しかし、どうしたことか。この不逞の輩は、俺の肩を叩き続ける。
トントン、トントン、と小刻みに俺の肩でリズムをとる。いい加減に鬱陶しくなった俺は、勢いよく起き上がった。
「なんだよ!」
そう言った瞬間、何か硬いものの角で頭を叩かれた。
「痛っ!!」
「全く。授業中だけじゃ寝足りないのか、お前は」
確実にコブが出来たであろう頭頂部を押さえながら見上げると、そこには担任の若槻先生がいた。
手に持っているの数学講師用の三角定規だ。…あれで殴られたのか、俺。
「いてて…。な、なんですか先生」
「今日の昼休みは、何か予定がなかったか?」
「予定…?」
そう言われて思い巡らすが、何も浮かんでこない。そんな俺を見て若槻先生は大きなため息をついた。
「…完全に忘れてるな。まったく、今日の昼休みは部活のミーティングだろう」
「…あ!」
思い出した。今日は美術部のミーティングがあったのだ。
美術部では選考会が近づくと必ずミーティングを開くことになっている。半分幽霊部員の俺でも、これは参加しなくてはまずい。
「まだ始まったばかりだろう。今からでも行ってこい。きっと芳野が怒ってるぞ」
腕時計を見ながら先生が言った。若槻先生は美術部の顧問でもあるのだ。
「は、はい! 行ってきます」
慌てて教室を出て行く。廊下は走るな、なんていってる場合じゃない。
「はぁ。だよなぁ、絶対芳野先輩怒ってるだろうなぁ…」
美術室へと向かって走りながら呟く。
我らが美術部の部長である芳野先輩は、俺にとっては頭の上がらない相手だ。
俺にとっては、というのは間違いか。おそらく彼女の周囲のほとんどの人間にとってはそうかもしれない。
先輩は容姿端麗、学業優秀、運動センスはおろか芸術センスも抜群、とまさに完全無欠のスーパーマン、いやスーパーウーマンだ。
おまけにちょっとした完璧主義者であり、自分に厳しいが人にも厳しい。
俺も一年の入部以来、何度芳野先輩に説教されたか分からないくらいだ。
とにかく急げなければ。俺は光のような速さで駆け行き、ものの1分程で美術室まで到着した。
「でも…。入るの怖いなぁ」
中へ入るのを躊躇う俺。しかしずっとこうしている訳にもいかず、俺は意を決した。
「…はぁ。素直に謝ろう」
ひとつため息をつくと、美術室の扉を開けた。
「すいません。遅れました」
そう言って中へ入ると、会議中の部員たちの目線が俺に集まった。…勿論先輩の目線も。
ミーティングの進行をしていた女子生徒がちらっと芳野先輩の方を見ると、先輩は顔色を変えずに「続けて」とだけ言った。
俺を無視したまま進行され始める会議。俺は非常に気まずい空気の中、昼休みの終わりを待った。
しばらく経って、先輩の締めの言葉でミーティングは終了した。
ぞろぞろと部屋を後にする部員たち。俺もさりげなくその列に加わる。
「笹田。あんたはまだよ」
「ですよね」
逃亡はあっけなく未遂に終わった。

8 名前:ヤンデレは誰だ[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 03:44:58 ID:Sf6DhUew
二人だけとなった部室で、先輩が口を開く。
「まったく。幽霊部員のあんたでも、会議くらい顔を出すものと思ってたけどね」
「いや、でも一応顔は出して…」
「コンパじゃないんだから、途中から少しやってきて『顔を出しました』なんて通用しないわよ」
まるでグサっという擬音が聞こえてきそうなほどの物言いに、思わずたじろぐ。
「す、すいません」
「だいたいもうちょっと部活出なさいよ。何のために部活入ってるの?」
「すいません」
「そんなダラダラ過ごしてたらね、高校生活なんてすぐに終わっちゃうわよ」
「すいません」
「すいませんすいませんってあんた本当に分かってんの!? ちょっとそこに座りなさい」
しまった、話してるうちに先輩を興奮させてしまった。一番悪いパターンだ。
「いや、でも先輩。もうすぐ授業…」
「なに?」
「なんでもないです…」
次の授業は遅刻だろうな…。
そう思いながら俺は、先輩に聞こえないように小さくため息をついた。

「以上だ」
午後4時半。若槻先生がホームルームの終わりを告げると、教室はすぐに騒がしくなった。
大急ぎで部活へ出る者、浮かない顔で補習に向かう者、特に予定もないので友人とだべりだす者。
生徒も先生もまだ残っていて、いろんな声が教室中を行き巡る。いつもの放課後の光景だ。
「さて、どうしようかな」
特に放課後の予定を決めていない俺は、一人呟く。
すると、近くの席の委員長が近寄ってきた。
「笹田くん」
委員長は俺のそばに来て軽く微笑む。
「笹田くん、今日は何か予定あるの?」
「ん、特にないけど」
俺がそう言うと、彼女は長い横髪を耳にかけてまた笑った。
「じゃあ、ちょとわたしに付き合ってくれない?」
「えっと、どうかしたの?」
「それがね、今日は図書館の当番なんだけど、もう一人の当番の子がお休みで…」
委員長は少し目を伏せた。
そういえば、委員長は図書館の司書係だった。
何度か仕事中の姿を見たことがあるが、本当に彼女のイメージにぴったりだった。
決して「地味だから」ではなくて、委員長の持つ、なんとなく知性的な雰囲気がそう思わせたのだと思う。

9 名前:ヤンデレは誰だ[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 03:45:37 ID:Sf6DhUew
「ちょっとわたし一人じゃ作業が大変で、よかったら手伝ってもらえないかなって」
委員長が申し訳なさそうに言った。
まあ、たまにはそうやって静かに放課後を過ごすのも良いかもしれない。人助けにもなるし。
そう考えた俺は「いいよ」と言おうとした。
しかしその声は、教室のドアを開ける音ともに突然入ってきた威勢のいい声にかき消された。
「笹田、いる?」
そう言いながら、ずかずかと下級生の教室に入ってきたのはもちろん芳野先輩だ。
先輩は教室の中から俺を見つけると、いつものキツめの口調で言った。
「今日は部活出るんでしょうね? 選考会も近いんだし、当然出るのよね?」
ずいっと俺に顔を近づけてくる先輩。至近距離で睨んでくるその目は、きっと「YES」の答えしか許さない。
「ああ、えっと…」
なんてタイミングが悪いことだ。俺は困ってしまい、横目で委員長を見る。
するとやはり、委員長も困ったような表情で下を向いている。
そんな様子に何か感じたのだろうか、先輩がじろじろと俺たちを見た。
「…もしかして、何か予定でもあったの?」
「あ、いや…」
口ごもる俺。
どうしたものか、実に困ってしまったこの状況。
しかしこの直後、さらに困ってしまうことが訪れた。
「お兄ちゃん。ちょっと帰り買い物付き合ってよ。荷物一人じゃ持ちきれなくて…」
そう言いながら、由香里が元気よく登場した。
まさしく、二度あることは三度あったのだ。
由香里は、俺のそばに立っている二人の上級生に気づく。
「あ、えっと。…他の予定あった?」
由香里はばつが悪そうにそう尋ねた。
「いや、その…」
本当に、どうしたものか。
自分でも情けないと思うのだが、俺が何も言えないでいると、委員長が控えめな声で口を開いた。
「わ、わたしはいいよ。元々自分の仕事だし…」
委員長は少し早口で続ける。
「やっぱり人に頼ってちゃダメだよね。…ごめんね、笹田くんの予定も考えないで勝手なこと頼んじゃって」
そう言うと、最後に「また明日ね」とだけ残して委員長は歩いていった。
なにか悪いことをしてしまったような気がして、俺は「うん」などと気弱な返事しか出来なかった。
すると、その様子を見ていた芳野先輩が口を開いた。
「…まあ今日は好きにしなさい。でも、せめて次の選考会にはちゃんと作品出しなさいよ」
釘を刺すようにそう言うと、先輩も教室を後にしていく。
「………」
「………」
残された俺と由香里。
「あー。買い物だっけ? 今から行く?」
「…んー、今日はもういいや。予定があったならそっち優先しなよ」
そんなことを言い残すと、由香里もそさくさと帰ってしまった。
一人残される俺。
「………」
「………」
「………」
「…帰ろ」
なんだかよく分からない状況に気疲れしてしまった俺は、一人帰宅することにした。

10 名前:ヤンデレは誰だ[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 03:46:58 ID:Sf6DhUew
「9/17 月曜日」

あの人とわたしの距離は、近いようで遠い。

もう少し勇気をだせば、もっと一緒にいられるかもしれない。

でも、それが出来ずにいつも遠くから見ている。

今日の放課後は、結局誰と一緒に過ごしたのだろう。

あの人の近くには、いつも他の女の子がいる。

わたしのほうが、好きなのに。

絶対わたしのほうが、あの人のことを好きなのに。

どうして。

11 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 03:48:00 ID:Sf6DhUew
今回分、投稿終わりです。
お目汚しでなければまた続きを書かせていただきたいと思います。

12 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 03:58:07 ID:zt9lqecl
>>11
乙&GJ!
ヒロイン達もそれぞれ可愛いし主人公もいい感じにヘタレだし先が楽しみ。
個人的には先輩がイイな

13 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 04:00:56 ID:5xT8VqoK
>>11
GJJJ!!!1111
いい病みだ。wktkしながら待ってるぜ!

14 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 04:53:21 ID:BtcirU3n
>>11世界中のヤンデレラバーに代わって言いたいことを代弁させてもらう。


誰 か 気 に な る ジ ャ マ イ カ!!

とりあえず頑張って誰か突き止めてやるぜ!
最後に超GJ!!

15 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 04:59:18 ID:EZp2Qy0X
よし、わかった

犯人はヤス

あとGJ

16 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 05:46:36 ID:TO9Pn9e6
本命:若槻先生
対抗:母
穴:使っている机の精霊
大穴:俺の別人格

17 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 12:23:50 ID:kpUuvuMC
こりゃ次回どう転ぶかね……じっくり熟成された病みが出て来そうだ。

>>14
一瞬ヤンデレバーに見えちまったじゃないかw

18 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 12:50:18 ID:UbOy+I4Z
ほう、うまいな
こういう形式のは初めてだからいいと思う
ありそうでなかった感じだし
これからの伏線とか練り込みにも期待

19 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 13:39:16 ID:vnIrH0sF
ヤンデレなのは主人公だな
それなら全ての辻褄が合う

20 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 16:23:20 ID:wM7+gh9f
>>19
「あの人の近くには、いつも他の女の子がいる」って書いてあるんだが・・・
この世界の女性はみんなレズなのかw


21 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 16:44:28 ID:zaYl+O+q
>>19
何の辻褄だよw初回からどんだけ伏線が張られてるんだw

22 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 16:51:31 ID:PH2RZxP7
>>17

ヤンデレバー?、ヤンデレ喫茶みたいなもんか?

23 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 16:57:51 ID:slqTC318
チョコバーとかスイカバーとかの方さ

24 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 17:25:39 ID:UbOy+I4Z
よくわからないなw
血の味でもするのか?

25 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 20:47:33 ID:eSNKF9jF
いつもより少しだけしょっぱい

26 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 20:52:51 ID:NnKJzdAh
食べると性欲MAX&理性崩壊

27 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 22:06:16 ID:V1H/GQFF
前スレ訂正
ヤンデレの小説を書こう!part9
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1186477725/

28 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 22:18:00 ID:Oy6SXXKV
泥棒猫の肝臓のことかと

29 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/17(月) 22:53:03 ID:NOG2Immr
世界「これでお前の告白チャンスは終了、妊娠効果によりお前の希望は0だ!
ヒャーハッハーやったー私の勝ちだ!!」
言葉「・・・何を勘違いしているんですか?」
世界「ヒョ?」
言葉「誠君は私の彼女ですよ?」
世界「何いってるんだ、誠の心はもう・・・」
言葉「速攻魔法!狂乙女魂!理性を全て捨て効果発動!」
世界「狂乙女魂?」
言葉「このカードは泥棒猫及び邪魔者以外のカードを引くまで何枚でもドローする事ができる
そしてその数だけ悲劇のヒロインは常軌を逸した愛の戦士となり追加告白できる」
世界「悲劇のヒロイン・・・?・・・!!あの時!」
(言葉)「沢永さんに犯されたことにより誠君の気を引きつけることはできますが
純血を奪われた悲しき身となります」
世界「言葉の奴・・・そこまで考えて・・・」
言葉「そしてさらにチェーン!速攻魔法発動!ナチェットブレイカー!
狂乙女魂が発動した時追加告白と同時に泥棒猫にも追加攻撃できる!」
「さぁいくぜ!まず一枚目!ドロー、害虫カード加藤乙女を捨て(ry

30 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 00:45:39 ID:f93AyQ5E
自転車のペダルに力を入れて、足に残る鈍痛を少し気にかけかばうように、ごく見慣れた道を行く。
住宅地を抜け、公園の傍を通るあたりになると、すぐに汗が体から吹き出てきた。
照りつける日光の破壊力はすさまじいものがある。
さらに、蒸した温風が頬をかする。
その風に混じって草木の青臭い匂いが鼻をつく。
夏の熱気でより青臭さが増しているので、気に留めないではいられない。
そして、暑いとそう思えば思うほどに、発汗量は右肩上がりにまし、皮膚を伝い蒸れている。
気持ちが悪いこと、この上なく不快指数は大絶賛で五桁を優に突破した感がある。

「今日は本当に天気になったなあ。」

しかし、口をつついて出てきた第一声は暑いではなく、雨雲を淘汰し、澄明に晴れ上がった蒼天への賛辞の言葉だった。

澄み切った青空にぽっかりと浮かぶ白い入道雲―。

最近は随分と夏らしくなってきたものだ。
これで吹く風が製鉄場の熱気を孕んだものではなく、少しでも涼しいものであれば完璧なのだが。
少しどころか南氷洋の氷山の風でもいいくらいなのだが。
熱気と相殺してきっと丁度良くなるはず―。
ああ、駄目か。それでは四季がなくなってしまう。
ゴム人形のような変遷を遂げてきたであろう僕の表情を眇めた目で見ていた時雨がくすり、と笑う。
「ふふ、今日は学校帰りに、一緒に何か冷たいものでも食べましょうか?」
そういえば、入院中に一度もアイスを口にしていない。
折角だから、今日はアイスにしよう。
ちなみに僕は、アイスをまとめて5個は一度に食べる主義なので、それを食べると必ずと言っていいほど大出費になる。

31 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 00:47:20 ID:f93AyQ5E
学校に到着すると、自転車を自転車置き場にとめようとして時雨に止められた。
入院以来学校に来るのはこれが初めてで、入院中に変わってしまった自転車置き場を時雨に教えてもらう。
なんでも、来年の新入生は増えるからと言う理由らしい。
だからといって、一学期から変える必要は無いだろう、という不満を持ったが自転車を規定の位置へ動かす。
僕が自転車を止めたときに近くでパンクしたときのように、空気が抜けていく音がした。
後ろに振り返り、黒髪の少女のほうへと駆け寄る。
彼女の自転車の車輪を確認するとやや大きめの穴があいていることに気がついた。
どうやら、落ちていた鋭利なガラス片が自転車のチューブを刺し貫いたようだ。
「落ちてたガラスを踏んでパンクしちゃったみたいだね。」
「運が悪かったのね。家自体はここから遠くないから、歩いて帰るわ。」

そこへ、タイミングを見計らったようにクラスメイトの岸が現れる。
岸は眼鏡をかけている女子で、やや高めのハスキーボイスで話す子で、理沙の所属する委員会の副委員長だ。

「朝から何してるの?落ちてた瓶の破片にも気づけないでパンクさせるなんて馬鹿みたい。そこ、私の自転車置き場だから早くどいてよ。」
「……。」

不躾に僕らを払ったところに彼女の不快感が現れている。
岸さんは時雨の隣の定位置に自転車を止め、荷台の紐を解いている。
しかし、僕は一点、さっきの岸さんの発言に疑問を抱いたことがある。
同じ疑問を時雨も抱いていたようで、手を自転車周辺で動かしている岸さんに声をかける。

「岸さん。」
「なぁに?北方さん。今忙しいんだけど。」
ぞんざいに答える。

32 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 00:49:46 ID:f93AyQ5E
「あなた、どうして私の自転車がパンクしたことを知っていたのかしら?」

暫くの沈黙。
その沈黙に岸さんが狼狽していること顕現されているのは誰の目にも明らかだ。

「……どうしてって、あなたたちが話しているのを聞いたからわかってんだけど?それが問題あるの?それとも、愛しい彼との話はどんなことでも他人に聞かれたくない訳ですか?」
「そう、でもあなた、さっき、『瓶の破片』ってはっきり言ったでしょう?弘行さんはガラス、としか言ってない筈だけれど?」
「っ!」
「どうして、あれが瓶の破片だとわかったのかしら?あなたには人知を超越した超能力でもあなたにはあるのかしらね?」

あれが、瓶の破片であることがわかるということは、まずあれを意識して敷設したからに他ならない。
要するに岸さんは時雨に嫌がらせをした、ということだ。
それから、僕は時雨の自転車置き場をかがんで観察した。
すると、いくつも車輪が来るであろう場所に鋭利なガラス片が配置してあった。
かなり用意周到に準備をしていたようだ。

「あなたがあれ、仕掛けたのよね?」
「ふん、知らないわよ。ガラス片って聞いたから、類推しただけだから。感情の無いあなたとは違って、類推はできるので。」

そんなやり取りが耳に入る。
あれだけ準備をしておきながら、いざその事実がばれると、逆に怒りだし時雨の人格批判をするとは許せない。
盗人猛々しいというところだ。

「他人の攻撃なんてやめて、本当のことを洗いざらい喋ったらどうですか?」
「車輪止めの近くに一列にガラス片が並んでいた。それで時雨の自転車に4つ穴ができていた。普通に考えてガラス片が自然に並ぶわけが無いだろう?
それにさっきの発言から岸が疑われても仕方がない、違いますか?
それなのに、時雨を逆に批判することができるんですか?」

鼻でせせら笑うような不愉快な笑い方をしたきり、何も語ろうとしない岸と僕の間でいたずらに時間が流れる。

「……所詮、あなたも私が憎らしくてたまらない松本理沙の協力者なんでしょう?」
時雨が嗤笑を受けたことに対して、相手の手の内を既に看破しているし、敢えて理沙の強力だと理解させることそのものに意義があるということも理解していると告げた。
すると、一回舌打ちをしてボソボソと何かをつぶやくと、敢えてそれを否定することなく、ふてぶてしいまでに居直った。
「ああ、そう。理解しているなら説明は蛇足。それに私がただの歯車のひとつだと言うなら、私が責められる言われは無いんじゃないの?」
しかし、理沙に協力しているかどうかについてはあいまいにはぐらかされた感が否めない。
察しの通り、理沙に協力している、だから話すまでもない、そういうわけだろうか。
「じゃ、もう用は済んだようだから、もう行くから。」
そう、矢継ぎ早に言葉をつなぎ教室に向かっていってしまった。


33 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 00:52:01 ID:f93AyQ5E
去っていく岸の背中をただ何もする事ができず見送った後、僕達も自転車置き場から離れ、昇降口へ向かう。

「痛っ!」

時雨が自分の上履きを取り出して床の上に置き、指を離そうとした瞬間、上履きの死角に取り付けられてた鋭利な刃で指を傷つけていた。
彼女の線傷から赤い雫が飛んだ。
よく彼女の指や手を眺めると、何箇所かに絆創膏が貼られていた。
おそらく、全てが理沙のしてきた嫌がらせの結果なのだろう。
その光景を目にしたことで、僕が時雨を選択したことで、生じた理沙への罪悪感がわずかでも薄れていくような気がした。
そして、時雨は俯いて上履きに取り付けられた刃を取り除き、ティッシュでくるみ、制服の外ポケットにしまった。
それから、鞄を片手で開こうとした。
彼女が鞄に応急処置の器具をしまっていることを知っているので、僕は殺菌した後、線傷全て覆うように絆創膏を貼った。
そのとき、応急処置をする僕の手を暖かい滴りが伝うのを感じた。
僕が戻ってきたとしても、いつも通りの苦しい日常が始まる、そう感じたのだろうか。

「時雨、許してもらえないのはわかっているけれど、理沙に代わって謝るよ。
本当に申し訳ない。僕自身、時雨がこんなひどい目に遭っているということになかなか気づいてあげられなかった。」

大丈夫か、という心配よりも謝罪したい気持ちがはるかに立ち勝っていた。

それから、僕は入院する前と同じ一学期のスケジュールに従って、学校生活に臨んだ。
しかし、それらは当然の事ながら、僕が入院する前のそれとは違ったもので、授業中と休み時間の別なく、執拗なまでに口実を探し出しては、時雨への迫害を繰りかえしていた。
当然、僕は批判したため、親友の南雲や何人かの友人は協力してくれた。さらに、担任の田並先生からも当事者と目される女子に対して厳重注意がなされた。
そのため、男子の中で時雨に嫌がらせするものはおらず、表立った場所での女子によるいじめを防ぐことができた。
しかし、もとより時雨への迫害に参加していたものは大半が女子である為、大きくは情況が好転してくれはしなかった。
そして、僕以外の人間に対しては最低限以上の会話はせずに、休み時間はほぼ全てと言っていいほど僕の傍にいた。
時雨は僕に対して、今までどおりの接し方で話しかけてきた。

この前作ってみた料理がどうとか、お勧めの本がどう、彼女のお父さんがいない間、家に来る頻度が高くなった使用人の誰それがどうした、などという当たり障りの無い話をしてきた。
それが僕への気遣いであることは言うまでもなく、逆にその心遣いが痛々しく感じられてしまう。
と、同時に彼女が如何に強い人であるかを再認識させられる。

というのも、彼女は下らない非難中傷の類を無視し、今朝のようなハプニングに直面したとしても、冷静に対処している為である。
それでも、その理性的な行動の裏には数日前に僕の前で見せたような深い悲しみが深々と根ざしていることは疑いない。
時雨は依存してしまうから、と言っていたがそうならないように相当苦しい努力を続けているのだ。
だから、そんな彼女の悲しみをわずかな時間の間でも忘れ去れることができれば、と考えて彼女を夏休みに突入する今週の土曜日に映画に誘うことにした。
もちろん、回答は二つ返事で快諾してくれた。


34 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 00:53:29 ID:f93AyQ5E
土曜日―。

この一学期最後の日を迎えるまでにこれといった変化はなく、時雨も柔らかい表情をしている時間が心なしか増えてきたような気がする。
理沙の体調も相当良くなっており、何度となく妹を見舞いに行った。
僕と理沙との間にはあれ以来、壁ができたかのように、関係は希薄である。
理沙から僕に話しかけてくることもなくなった。
彼女に僕から話をしても口をきいてくれることは無かった。
時雨の事をかばう僕に対する怒りと自分を拒んだ悲しさ故の事であろう。
だからと言って、時雨をかばう僕や友人にまで迫害の手が及ぶことは一度としてなかった。
流石の理沙も僕を巻き込んでまで、いじめを拡大させようとは考えていなかったのだろう。
ようやく小康状態に入りつつあり、かつてのようにとは行かないまでも、それに近いほどの安寧の日々が再び訪れる兆しが感じられるようになった。
そんな中で迎える夏休みである。

終業式が終わった後、約束どおりの時刻に駅で待ち合わせてから電車で、時雨と映画館に向かうことにしている。
時雨を待たせるわけにはいかないので、いつも以上に時間に気を払いながら、五分前には到着するように家を出る。
自転車で通過していく道々も、解放感に浸っている今はとても明るいものに思えてくる。
夏特有の日差しが強く、少しばかり午後から映画に行く計画を立てたことを後悔した。
自転車を駅前に昔から住んでいる老翁が管理する自転車置き場に置くと、集合場所の駅の時計前に視線を走らせる。

35 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 00:55:51 ID:f93AyQ5E
そして、即座に網膜に像を結んだ彼女の方へと小走りで向かう。
彼女は表情に現れてこそ無かったが、わずかな仕草からわくわくする気持ちを抑えきれずにいることがわかった。
それはこちらも同じ話な訳で、
「お待たせいたしました、時雨様。」
お嬢様に仕える一介の使用人の立場になりきって、それらしいポーズを作りそんな事を言ってみた。

「ふふふ、使用人は主よりも先に来るのがルール、違うかしら?」
などと楽しそうに返してきた。
「おお、これはこれは、お嬢様のご指摘の通りでございます。どうか寛大なお心でお許しを。」
そう言ってから、お辞儀をして垂れていた頭を上げる。

そこにいる時雨はいつもの制服ではなく、私服姿だった。
白を基調として薄いピンク色の模様が入ったワンピースに身を包み、肩にはミニバックの紐がかけられている。
そして、腰にまで届きそうなカラスの濡れ羽のように美しい光沢を保っている黒髪。
制服姿しか目にしたことが無い僕にはただただ美しいと息を飲んで、凝視することしかできなかった。
目鼻立ちも整った美人であり、ガラス細工のような繊細さをも持っている彼女。
その彼女に触れてしまうことで壊れてしまいそうで―。

「……私の顔に何かついているの?」
「い、いや、その、綺麗だなって。」

咄嗟にかけられた声に狼狽して声が裏返ってしまった。

「くす、ありがとう。けれど、声が裏返っていたわ。」
「へ?あ、ごめん。」
「ええ、気にしないから大丈夫よ。行きましょう。」

そうして二人は駅の構内に仲良く入っていった。
その姿を監視する影が二つあることに気づくことなく―。

36 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 00:57:11 ID:f93AyQ5E
僕たちの住んでいる町から4駅先の町にある映画館で、僕らは流行のファンタジー小説が元ネタになっている映画を見ることにした。
案外、時雨はこういうものが好きで、映画の間、僕の手を握る手に力を入れながら、スクリーンを凝視していた。
何事にも冷静沈着な彼女のイメージとは違った一面が際立った感じがする。
まぁ、どんな人であっても、新たな一面を見出すというのはなかなか楽しいものだと思う。
それにしても、結果的に時雨が喜んでくれたことには変わりは無いので、僕は満足だった。
映画館を出ながら、映画の感想と考察を聞かされ、僕も自分の意見を言わされてなかなか困ってしまったが、
これほどまでに感情豊かな時雨も可愛いと思う。
映画論議に花を咲かせながら、僕らは町はずれにある、高級感が漂う喫茶店に入った。

こういう店によく来るあたり、流石は時雨、というところか。
しかも彼女の行きつけの店に部類されるというのだから恐れ入る。

当の僕は、と言うと、高級感がありながら瀟洒さも兼ね備えている雰囲気の店内にただただ圧倒されるばかりで話にならない。
客の中にも当然、若者がいるはずがなく、皆それなりの年を召した人ばかりで、ごま塩頭ばかりしか視界に入らない。
突然の闖入者である僕に入り口に近いテーブルに腰掛けているご老人方の痛い視線が集中する。
これは、とんでもない場違いな場所に、来てしまったようだ。

37 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 00:59:29 ID:f93AyQ5E
そんな事を考えながらウェイトレスについていき案内された四席用のテーブルを挟んで向かい合わせに座る。
案内された席に腰掛けると柔らかな椅子の感触が心地よく、近くの壁に掲げられている絵も有名な画家の絵であった。
さらに花瓶の花も店の雰囲気に非常に合っており、これらの事からもこの店が如何に子供が入るべき場所で無いかが良くわかる。

それ以前に、もう少し僕が肩の力を抜けるような場所につれてきて欲しいのですが、時雨さん。

いや、これでは寿司にわさびとしょうゆを大量につけて、食べて美味しいなどといっている外人のような感じじゃないですか?
しかも、それを日本の回らない寿司屋で満足げにやらかしている。
そんな感じじゃないですか、いや、本当に。
いや、むしろ僕は外人だからしょうがない、ということに、つまるところ治外法権という伝家の宝刀を行使できるわけでは……って、そんなこと無いか。

治外法権の行使どころか、相当まずい状況下に自分が置かれていることに気がついた。
というのも、今、僕が座っているこの席は窓に面しており、外の通りから思い切り見えてしまう場所である。
まず、この時点でいかん。
しかもよくよく考えると、こういうお店は無駄に単価が高くできているものだという経験的法則性にたどりついた。
さらに、映画代と電車賃を使った僕の財布にお札が入っていることなど、万に一つも無いわけで、入っていたとしてもそれらのお札にはすぐに羽が生えて飛んでいってしまうだろう。
状況的に最悪。

死亡フラグが立ってしまったようなものだ。
僕のような一般人は飲み物だけ頼んで退散しますか。
しかし、本当にとんでもないところに来ちゃったもんだと、わが身の不幸を何度目になるかわからないが呪った。
すると、愉快そうに向かいの席の時雨が特有の優しげな微笑みを見せてくれた。

「くすくす、とんでもないところに来ちゃった、って顔してるわね。」
「いや、そう思うなら、別の喫茶店にしてくれれば良かったのに。」
「いいえ、たまにはこういうお店でもいいと思って、そうそう、ここのプリンはとても美味しいのよ。
弘行さん、プリン好きだって言っていたから。」
「いや、しかし、お財布様が不可能だと申しているのですが。」

返す刀でそう言うと、どうもつぼにはまってしまったらしく、肩を震わして少しの間、笑っていた。
こういう活き活きとした時雨を見るのは僕も好きである。

「ふふふ、大丈夫よ。私が全て払っておくから。あなたは好きなものを頼んでいいのよ、ね?」
「じゃ、折角だから甘えさせてもらいましょうか。」

そんなわけで僕はプリンアラモードを、時雨は抹茶パフェを食べることになった。

「弘行さん、そのプリンおいしいかしら?」
「うん。もちろん、おいしいよ。」

何でも一流のパティシエが作っているらしく、普段食べるものより数段は美味しく感じられる。
まぁ、こんなのは雰囲気を作って美味しく感じさせるようなものだからなぁ。

38 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 01:01:00 ID:f93AyQ5E
しかし、それはさておき、女の子におごってもらう僕。
……いや、なんというか、男の面目が丸つぶれだとか、そんな事を通り越して、もはや自分が哀れに思えてきた。
をいをい、本当にどうするんだよ、俺は!
そんな自問をしていることを見透かしてか、見透かしていないからか良くわからないが、時雨は至って楽しそうにパフェを口に運んでいた。
それも、恐ろしいほどに日常的で落ち着いた仕草で―。
なんとなく、ブルジョアジーと無産階級との格差を感じたような感じがするが、細かくは追及しないでおく事にしよう。
あー、僕らが精一杯背伸びしたところで、ブルジョアになんて勝てるわけないじゃないですか!


店の落ち着いた雰囲気に心地よさを感じ始めてか、ついのんびりしすぎて、店を出た頃には太陽がだいぶ傾いていた。
が、それから少しデパートによって、お店を冷やかしながら巡って回った。
帰途に着く電車に乗ったときはもう日没間際であった。
が、彼らは気づかなかった。この電車に乗り込んだ二人を尾行している人間がいるなどということには―。


39 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 01:03:04 ID:f93AyQ5E
住み慣れた町の駅に降り立ったのは、既に日が暮れてしまった頃だった。
映画を一緒に見て、感想を言い合って、レストランに入る。
弘行さんを変に緊張させてしまって、レストランの選択はいささか失敗した感が否めなかったけれど。
好きなものを食べて、これからの休みの計画に思いを馳せる。
沈みゆく太陽を眺め、オレンジ色の光に包まれながら、私は彼と二人隣り合った席に座っている。
そして、今こうして手をつなぎあって、暖かさを確認している。
ただ、それだけのことだけれど、普通の人からすれば取るに足らないことだけれど、
そんなささやかな事が今までの私にはどんなに努力しても得られなかった。
もしかすると私は自分の殻に篭り、努力も不足していたのかもしれない。
けれど、私はそんな普通のささやかな喜びを今、かみ締めようとしている。

しかし、私の心の中には未だに暗雲が消えずにいた。

横の弘行さんの指先に見ると、その小さくて繊細な指に『それ』ははめられており、あたりに燐光を放っているかのようにまばゆかった。
それは彼と初めて結ばれた時、彼の傍にいる善き日々が続くことを願って指にはめてあげたプラチナのリングであった。
彼は指からはずすことなく、はめ続けてくれているみたい。
私にとってその事実は喜ぶべきこと。
けれど、つい前まで命を絶とうとしたことを思い出して自分の浅はかさが思い出されてくる。

こんなにも彼に思われていたにも拘らず、私はその彼を悲しませるようなことをしようとしていたのだ。
あの日以来、松本君が理沙と交わったという話を村越さんから聞き、それが正しいかを確認せずに、
彼が私をかばうことに苦痛を感じ、嫌気がさしたのだと解釈した。
と、同時に私の存在が大きく彼の人生を狂わせてしまう、そう狂信するようになった。
あの時私は命を絶つことが、正しく最善の道であることを信じて疑わなかったけれど、結局、それは独りよがりだった。
私の指にはめられたリングが月光を反射する。
自殺しようとしたときに私はこのリングを少しでも省みただろうか。
そのリングの存在を忘れ去り、弘行さんが私の事を嫌っている、という醜い疑念さえ心の奥底に宿しさえした。
松本君は私の事を信じて、妹の理沙ではなく私を選択してくれたのだ。
その誠実な彼に対して、私はなんと不誠実だったか。

それに私は結局、彼に助けられてばかり。
彼に恩返しの一つもできていない。
ずっと依存するばかり。
依存と共存は別の事に他ならない。
依存して生きていながら、わずかな事から疑念を宿すなんて、恥ずべき寄生虫としての生き方そのもの。
にもかかわらず、弘行さんはこうして私を受け止めてくれている。
熱い何かが瞼を濡らし、頬を伝っていく。

40 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 01:06:08 ID:f93AyQ5E
「どうしたの?」

突然泣き出した私に気づいた彼は驚愕の色を隠せずに、そう問いかけた。

「ううん、なんでもないわ。」
「本当に大丈夫?何かあるなら、僕じゃ不十分かもしれないけれど、話を聞くよ。」

こう返事すると彼をより心配させてしまうことになることはわかっていたのに。
彼にいらぬ心配をさせるなんて、私は愚かだ。

「いいえ。ただ、こうやって当たり前の事のように、あなたと一緒に時間を過ごせることが、なんだか夢のように感じられて。」

もちろん、この発言に嘘偽りは無いつもりだ。
弘行さんはその言葉を聞くと一旦立ち止まった。

「そうかもしれないね、でも、幸せというのは、こういったささやかな事が涙でではなく、当たり前に受け止められるようになった時を指すんだと思う。
時雨も今は大変かもしれないけれど、いつかそんな幸せに至れると思うよ。」
真剣な眼差しで私の瞳を見据えながら、ゆっくりとまるで幼子を諭すかのように、言った。

「……。」

本当に弘行さんは優しい、いや優しすぎるのだ。
だから、このままではいけない、と理解していても依存してしまいたくなる。
弘行さんは諭すように言って、ニコリと微笑んだ後、再びゆっくりと歩を進め始めた。
ところどころにある街燈に照らされた道をゆっくり歩いていく。
言ってしまえば、彼は私にとって麻薬のような人に他ならない。
離れることができない人。どうしても依存してしまう人。
もっと端的に言ってしまえば、私は彼の存在なくして生きていくことはできない。
どれほど歩いたかわからないけれど、彼と別れなければならないところにまで差し掛かった。

「じゃあ、時雨、今日はお疲れ様でした。じゃ、また明日。」

弘行さんはいつも去るときに、また明日、と言ってくれる。
けれども、何故か今日はそのいつもと変わりない言葉が永別の言葉になってしまうかのような気がしてならないほど、突き放された感じがした。

「待って」

私は弘行さんを呼びとめた。
もう二度と会えないように感じられたからであり、弘行さんの事を疑っていた事実を清算したいと思ったから。

41 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 01:09:09 ID:f93AyQ5E
「…弘行さん、私には、謝らなければならないことがあります。」
「……?」

即座に彼の表情が頭が疑問符で埋まったような表情に変わった。

「単刀直入に言うと、私は弘行さんの事を疑っていました。」

それから、私は抱いていた疑念の事、その情報をもたらしてくれた村越さんについてなどを包み隠さず、全て話した。
心の内に秘めていたものを吐露することは心に安定にもたらしてくれる。
対して、それを受け止める側は苦しい思いをするもの。
当然、私は謝って済む問題だとは思わなかった。
たとえ、烈火のごとく彼が怒ろうともそれは私にとっての報いなのだと思う。
母から受けた暴力と同質のものを受けたとしても、彼からのそれならば甘んじて受け入れる。
けれども、彼は私の事を何一つ詰ることは無かった。
そして、よどんだ曇りのような気まずい沈黙の後、彼は口を開いて
「時雨が僕の事を責めても、僕は時雨の事を責める立場に無い。僕自身、時雨を裏切ったのだから」と言う。
そう言われてしまうと、私はどうすればよいのかわからなくなってしまう。
私は私なぞ彼には相応しくない、程度の事は言われてしかるべきだと覚悟していただけに、肩透かしを食らってしまったかのような気持ちになってしまう。

けれども、私には受けるべき罰が存在する。

まず、弘行さん自身はあくまでも襲われた側で、一点たりとも汚点が存在しないことだけは確か。
「弘行さん、あなたはあくまでも襲われた側。だから、決して悪いことなど無いわ。だから、あなたが許しを欲するならばあなたを許してあげます。」
当然、私がこんなことを言える立場の人間ではない。けれど、彼に自罰的になってほしくない。
また、涙が頬を伝っていく。彼の前では仮面をはずした私とはいえ、情け無いほどに泣いてばかり。

「だから、あなたは私をどうしたら許してもらえますか。」
そう私は言いたかった。
しかし、それはあまりにも虫の良すぎる話。
確かに彼ならば、許しを請えばおそらく許してくれるだろう。
それで、最後に残った暗雲も消え去るであろう。

42 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 01:10:43 ID:f93AyQ5E
しかし、私は彼の傍に立てるだけでもこれほどありがたい事は無いと思うべき。
だから、私から許しを請うという分にあっていないことはしてはならないはず。
そんな事を続けていれば、結果的に弘行さんを苦しめていくことになるかもしれない。
だから、私はここで許しよりも罰を求めなければならない。
けれども、彼は私のそんな気持ちを察してくれないで、寧ろ察した上でなのだろうか、彼は私は悪くない、と言った。
「………時雨、許してくれて、ありがとう。僕は時雨に関わらず誰でも、そんな情報を手にしたら、当然信頼をし続けることなんてできないと思う。
過程はどうあれ、僕は時雨を裏切ってしまったから。だから、僕は時雨も悪いとは思わない。
だから時雨が自分のしたことに後ろめたく思っているなら許してあげる。」と。

彼は私の心を読みつくしているのだろうか、どの一言よりも私の心を軽くする言葉を平然と紡ぎ出してしまった。
「それに、僕が言えた義理じゃないけど過ぎ去ったことを許すとか許さない、なんて事で時雨ともう話したくない。僕は時雨を嫌な気持ちにさせたくないよ。」

相手の事を信じない私でも見捨てずにいてくれる彼。
自分の事は棚に上げて、ただただ愛おしく感じる。
その気持ちがうれしくて、私は弱くなってしまう。
けれども、その弱さがいつもいつも彼を傷つけることになると思うと、悔しくてたまらない。



43 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 01:13:25 ID:f93AyQ5E
目の前に立っている彼女は涙でその目を潤している。
昼間はあれだけ楽しそうに、屈託の無い表情豊かな微笑みを見せてくれた彼女が今、涙を流している。
まるで感情の篭っていないと思われても仕方の無い発言を弄したのでは、当然彼女は泣き止むわけが無い。
大風呂敷を広げる事はできても、誠実な慰めの言葉一つかけられない自分が嫌だ。

彼女が苦しむ理由は僕が理沙と過ちを犯したと思い込んで、僕の事を信じていなかったということだ。
理沙が僕の病室を訪れた一週間以上前の日。
確かに僕は彼女を拒絶した。
しかし、僕以外の誰かから情報を得たとすれば、僕が彼女を裏切った、そうとってもおかしくは無い。
それに、僕も一線を越えそうになったのだから、見方しだいでは裏切ったといえる。
ましてや、理沙とつながりがあると彼女自身が行っていた村越とか言う子ならば、僕の事を信じられなくなるのは至極当たり前だ。

僕は馬鹿だ。

今日のこの瞬間まで、ここ数日を彼女と幸せなひと時を過ごした程度の認識しか持たなかったのだ。
彼女に自殺を思いとどまらせた、好きな彼女に依存されてもいい、などといいながらその男が信用できなければ、そんな言葉、一枚の紙切れほどにも意味を成さない。
いや、それどころか保証されることが無い約束ほど残酷なものは無い筈だ。
そんな半信半疑とみている男とこの数日間を過ごしたのだとすれば、それは何らかの苦痛を与えたのだろう。
僕は、それが誤解であることを証明したかった。
僕の約束が軽佻浮薄なその場限りのはったりであると誤解されるのは嫌だった。
しかし、それを泣いている彼女に証明できるだけの弁舌も冷静さも僕には伴っていなかった。
だから、不誠実な言葉しか出ないのだ。
だから、泣き崩れる彼女の肩を抱きとめることもできないのだ。
だから、呆然と馬鹿みたいに立ち尽くすしかないのだ。

おそらく、目の前にガラスの小片があるならば、今の僕ならばためらうことなく己が心臓めがけてつき立てることができたであろう。

しかし、それは自分の罪を飲み込んだまま逃げてしまうことである。
そして、時雨を本当の意味で捨ててしまうことだ。
僕は自己嫌悪の産物であるそれを心の奥底に十重二十重に鍵をかけて封印した。


44 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 01:15:25 ID:f93AyQ5E
丁度、その時、僕の後ろ手に聞きなれた少女の声が聞こえた。
即座に後ろに振り返る。
わずか六歩の位置に理沙は佇んでいる。

「あははっ、お兄ちゃんだ~。」

その声に僕は背骨が氷柱に変わったかのような感覚を覚えた。

「何驚いているの?まさか、お兄ちゃん、私の事を忘れちゃったわけじゃないよね。」
「あ、そうか。お兄ちゃん。私と会えて嬉しいんだよね。その、久しぶりだから。ずっと、待っていたんだよ、お兄ちゃん?」

そういうと、理沙は片頬を吊り上げるような冷酷な笑みをたたえて、時雨の方に向きなおした。
その笑みは僕が今まで一度として目にした事が無い程の狂気と憎悪そのもの。
それは一人に向けるものとしては遥かに強すぎる。
この二人を近づけることは惨劇を生む。それはほぼ間違いない。
しかし、僕の胴を貫く氷柱によってか、その身を芋虫ほどにも動かせなかった。

「北方先輩、お久しぶりですね。」
「……。」

気丈に振舞っていた彼女からはその強さの根源である冷静さも失われ、乾いた嗚咽の音と震えを呈すのみ。

「どうしたんですか?いつも冷静な先輩らしくないではありませんか?」
「目的の為ならばどんな事だってできる、冷静、ううん違う。冷徹に人を貶める事だってできる。それが先輩じゃなかったんですか?」
「……違う。」

時雨はいっそう強く肩を震わせながら、弱弱しく告げた。
その震えた姿からはかつての冷静さも人を圧倒する一種の威厳も彼女からは排されていた。
理沙はその時雨を上から意地の悪い笑みを浮かべたまま見下ろしている。
そして、その意地の悪い表情からは勝者から敗者へ与えられる残酷な憐憫が感じられた。

45 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 01:17:43 ID:f93AyQ5E
「何がそんなに悲しくて涙を流しているんですかね~?」
「ああ~、わかりました。先輩はお兄ちゃんに捨てられたんだ!あれだけいいように使われていれば、当然嫌われますよね。
私が何度も身を引くように警告したのに、それなのに引かないからこういうことになっちゃうんですよ?」
「あはは、でも、お兄ちゃんは優しいから、敵にすら、とっても優しいから、この程度で済んでいるんだよ。」
「散々、人の大切な、私だけのお兄ちゃんを弄んでおいてッ!」
「もう、先輩はどうなるか、分かっていますよね?」

時雨は傍の僕のズボンに震える手で弱弱しく握り締めている。
弱弱しい彼女ができる最善の選択。
それは僕に助けを求めること。
彼女は僕の罪を許してくれる、そういった。
だから、ここで、この土壇場で僕を信頼をしてくれているのだ。
僕の入院中に立てた誓いを再確認するまでも無い。
僕は彼女を守るしかない、たとえこの命が失われようとも。

「理沙、いい加減にしろ!お前が害意を持っている以上、時雨には指一本触れさせないッ!」

その言葉と、時雨の態度とが理沙を完全に爆発させた。

「あはははは、お兄ちゃんは操られているんだよ!だから!その女の呪縛から解き放ってあげるから、もう少しだけ静かにしていてね。」
「それに、私とお兄ちゃんの仲を引き裂いた連中もその女と同じく、お兄ちゃんを操って遊んでいるだけ!だから、そいつらも片付けるからね!
もう後、3000秒もすれば、そうたった3000秒でッ!片をつけるからね、だから、それまでの我慢だよ。」


46 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 01:22:11 ID:f93AyQ5E
「被告。北方時雨!」
「罪状。強盗罪!傷害罪!恐喝罪!強姦罪!拘束による身体的苦痛!名誉毀損罪!人道に対する罪!
主なものはこれら、まだ余罪は言い切れないほどある!情状酌量の余地なし!控訴は認めない!」
「検察も弁護人も要らない!ただ私、被害者であり裁判官である、私だけが閻魔が如く下されるべき罰をお前に下せるのだ。」
「判決。死刑ッ!死をもって深すぎる罪を償え!もちろん、並みの苦痛で贖えるものではない!」
「死刑執行ッ!」

そういうと、理沙はこちらに駆け始めながら、上着の内ポケットからナイフを取り出し、鞘を捨て、刃の光を煌かせた。
まるで、時が止まったかのような衝撃であった。
それがもう一閃している頃には、あと一秒二秒の内に時雨の命はない、そう確信した。
ここで僕ができることはただ一つ―。


時雨の前面を覆いつくすこと。


そして、時は動き始める。
鈍い音と激しくしぶく血潮によって、その動き始めた時を感じる。
腹に突き立てられた白刃の冷たさも、それすらもすぐに覆い隠した血潮の熱いと感じられるまでの暖かさ、倒れこんだ先のアスファルトが陽光の暖かさを吸った為に現れる生暖かさ、
全てが怜悧なまでの現実味を持って僕に襲い掛かる。
急所ははずしたようだが、臓腑をかなり傷つけた。
もう蝸牛ほども動けまい。
いずれにせよ出血多量で僕は死ぬだろう。
だが、これでよかった。
愛する時雨に信頼されずに死ぬのは嫌だったから。
これこそが僕の取るべき選択だったのだ、そう今では妙な納得がいっていた。

47 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 01:25:05 ID:f93AyQ5E
しかし、僕が守りたかった時雨がここで一緒に殺されるのは嫌だ。

北方時雨。
生まれながら、苦難の連続で、自分を殻のうちに閉ざし、ただ状況を冷静に静観し、誰からも好かれることなく、それが自分の運命であると信じてきた少女。
彼女はここで生きて、いくらでも生を享受しなければならない。
彼女の新たな人生は時間の経過と共に様々な呪縛から解き放たれて、始まるはずなのだ。
だから、今はただ逃げろ。
それ以外は望まない。とにかく、逃げろ。

理沙の許してくれ、という哀願の声がしたような気がするが、それはもう気にならない。
運命をあざ笑うしか能が無い、残酷な神様とやら、もし、居るんだったら、僕を苦しませろ。
そして、気持ちよく逝けるように走馬灯を見せようなんていう狭小な雅量は決して見せるな。
走馬灯なんかいらない、いいから時雨を助けてやってくれ。

どうせ、神様なんて当てにならないことはわかっていた。
だけど、この期に及んで追いすがってみる。
さして、僕は力を振り絞って叫ぶ。
刺した相手が僕であることに気づいて、断末魔の叫びをあげる理沙を無視して、
寧ろそれよりも声が大きくなるように、出血が多くなることなど厭わずに、腹に力を入れる。

「時雨、逃げろ!逃げて、逃げて、自分の運命に絶望することなく、ただ生きるんだ!絶望だけで人生を終えてやることは無い!
だから、逃げろ!逃げてくれ!」
「嫌ッ!あなたが居ないなら生きていても、意味が無い!だから、私も死ぬわ。だって、私はあなたに命を捧げているのだから。」

感情を高ぶらせて、泣き叫ぶ時雨に優しく諭すように言った。
けれど、もう僕の口には既に逆流した血液が流れ込み始めている。
話す分だけ、血液が流れ出るのは当たり前か。

「時雨、僕に命を捧げたなら、僕も時雨に命を捧げる。…だから、僕は時雨の中で生き続ける。
そうすれば、ずっと傍にいてあげられる。『闇の日は、そう長くは続かないものだよ。だから、自分の生を精一杯享受しなさい。』
これは時雨のお父様が言っていたことだよ。
時雨が死んで誰も喜ぶはずか無い。そう、病院で、入院してる、君のお父様も、」

苦しい。
血が口内に充満し、口角を伝っていた血とは比べ物にならないまでの勢いで血を吐き出す。

「い、生き…………ろ。」

48 名前:和菓子と洋菓子[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 01:26:54 ID:f93AyQ5E
そう精一杯の力を込めて、言い終わると、時雨は双眸に強い決意を込めて、涙の跡が生々しく残る頭を振って頷き、走り去っていった。
それを見届けたあたりで、再び勢いよ口内に溜まった血が溢れ出た。
気づけば、目の前に血溜りができていた。
気づけば体がすこし軽くなったように感じられる。
おそらく、血液の分だけ軽くなったのだろう。
薄れていく視界。そして、その視界には時雨は既にいない。
下腹部のナイフは抜き取られていない。
だから、段階的に血を放出しているが、これが抜き取られればおそらく、僕はいよいよおしまいだろう。

見れば、理沙は泣きながらも、誰かに電話をかけているようだ。
視界がぼやけつつあるのと同様に、聴覚にも異常をきたし始めているようだ。
しかし、理沙が泣きながら、誰かに僕の応急処置を頼んでいるようだった。
そんな事をしても無駄だ。もう間に合わないだろう。
しかし、ここで誰かに僕を任せたとすると、理沙は時雨を追うつもりのようだ。
「り…さ、や…め………ろ。し……ぐれ…を……殺さ…………ない…で、く、れ。」
「お兄ちゃん……ごめんなさい。」

ただ、薄れ行く視界の先に、闇の中に理沙の姿が消えていくだけだった。


49 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 01:28:44 ID:f93AyQ5E
以上です。
パソコン様が大往生なされた為、なかなか投稿できませんでした。
次回くらいに終わると良いなぁ、そんな感じです。
では、また。

50 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 01:37:28 ID:MMnF8Q1o
リアルタイムGJ!!

51 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 02:18:08 ID:KzKv5HVn
GJ!どんな最後になるのか楽しみだ

52 名前: ◆ph4kVdXQrE [sage] 投稿日:2007/09/18(火) 02:35:16 ID:dBF1t/59
すいません、4ヶ月ほど来てませんでしたが久しぶりに投下します。
久しぶりすぎて鳥が違うかもしれませんがその際は別人ということで。

53 名前:(仮称)まなみ[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 02:39:38 ID:dBF1t/59
相川まなみには最近気になる男性(ひと)がいる。
麻枝春彦。この夏限定のヘルプとして本店から派遣された同僚。

まなみの働くファミレスは小さな港町にある。大都市間を結ぶ国道沿いにあるので
儲けはそれなりだが、基本的に店は閑散としている。そのため、海水浴客でにぎわう
夏以外はたった4人の従業員しかいない。
そして夏。今年も恒例の本店よりヘルプ従業員がやってきた。今年のヘルプは非常
に珍しい男性従業員。現在チェーン店全体でも3人、一人は本社づとめなので実質2人
しかいない貴重品である。
まなみたちの店への派遣は通常「島流し」と呼ばれ、全店舗からくじ引きで決めら
れる。ところが今回来た春彦は自ら志願してきたというのだ。気にならないはずがない。

「お・に・い、さんっ♪」
まなみは倉庫で在庫チェックをしていた春彦に声をかけた。
「まなみちゃん、なにかな?」
「おにいさんは、どうしてここに来たんですか?」
春彦がここに来て1週間。まなみは幾度となく春彦へぶつけてきた質問を繰り返す。
春彦の答えはいつもは愛想笑いをするか、「そんな気分だった」というだけだった。
しかしこの日は違った。
「まなみちゃん、そんなに気になる?」
「気になりますっ!」
まなみは即答する。
「だって、おにいさんのこと、来たときからずっと気にかけてたんですよ?!店に来て
からずっと、お客さん相手の作り笑い以外にお兄さんの笑った顔見たことないし・・・」
「そう言ってくれると、うれしいな・・・」
そういうと春彦は笑みを浮かべた。今までまなみに向けてきた愛想笑いとは違う、
心の底からといった風な笑いだった。
「実はね」
春彦は真顔になってまなみに語りかける。
「俺・・・失恋したんだ」
「・・・!」
まなみは口に手をやって驚いたしぐさをした。自分は触れてはいけない何かに触って
しまったのではないか。
「ご、ごめんなさい!」
謝るまなみ。春彦はまなみの頭に手をやってなでなでしてやる。
「いいよ。事実なんだし」
一度話を切り、手を下ろすと春彦は話を続ける。
「本店ではね、幼馴染の女の子といっしょに働いてたんだ」
「幼馴染?」
「近所に住んでた子でね。小学生以来の付き合いさ・・・付き合い『だった』か」
そういうと春彦はため息を一度ついた。
「つまんないことで喧嘩しちまってね。それから口を利いてくれなくなって」
「えぇ・・・」
「こっちも頭にきて、つい応募しちまったんだ、島流しに・・・あ!」
そこまで言って春彦は自分が失言をしてしまったことに気がつく。まなみは地元採用の
女の子なのだ。
「ご、ごめん!!」
「いいですよ、これでおあいこですね、おにいさん♪」
まなみは笑みを浮かべると今度はまなみが春彦をなでなでする。
「あ、うん、ええと・・・そのあとね。さや・・・ああ、あいつの名前なんだけど、
俺が応募したのを見て、『よかったね♪』ていいやがって。見送りには来てくれたけど、
俺が電車に乗るとにっこり笑って手を振ってやがった・・・」


54 名前:(仮称)まなみ ◆ph4kVdXQrE [sage] 投稿日:2007/09/18(火) 02:41:08 ID:dBF1t/59
「ひどいです!」
まなみは声を荒げて言った。
「いくらなんでも、お兄さんがかわいそうすぎます!」
「ありがとう」
春彦はもう一度まなみに向かって微笑んだ。
「よーし、今日はおにいさんにまなみがおごっちゃいます!・・・といってもこの店で
ですけどね」
「おいおい、無茶しなくてもいいよ・・・」
「いーや!まなみもなんかむかついてきました!今日はおにいさんもまなみも早番です
から、晩ご飯いっしょに食べましょう!」
「おーい、まなみさーん・・・」
「い・い・で・す・ね?!」
人差し指を立てて春彦に詰め寄るまなみ。
「は、はひ・・・」
「では!おしごとがんばりましょー!」
そう言うとまなみは倉庫を出て行った。
「まなみちゃん、か・・・」
春彦は一人残った倉庫の中でつぶやいた。
「すごい勢いの子だな・・・」

「え、ええと・・・、まなみさん?」
「はい?」
仕事が終わり、春彦とまなみは職場のファミレスに客として来ていた。
「その・・・えっと・・・頼みすぎじゃない?」
二人の座ったテーブルの上に料理が並んでいた。それだけならごく普通の光景。しかし、
その数が尋常ではなかった。
プレーン、チーズ、おろし。ロコ・モコ、照り焼き、包み焼き。キノコソース、カレー、
鉄板焼き。店においてあるハンバーグが全種類机の上に存在していた。
二人のテーブルを歩く人が見ては引きつったような笑みを浮かべて通り過ぎていく。
「いつもコレぐらい頼んじゃうんです♪あ、お金は大丈夫ですよ?」
「いや、そういう問題じゃなくて・・・あの・・・残すのはもったいな・・・」
「コレぐらい普通頼みませんか?」
「しないしない!!」
ていうか全部食う気かよ。春彦はまなみの発言が正気とは思えなかった。まなみの身長は
150CMもなく、どう考えてもその体の中にこれらのものが入るとは思えな・・・
「んぐんぐ・・・やっぱり仕事した後はおなかすきますね。おにいさん食べないんですか?」
「・・・!」
気がついたらもうプレーンとおろしハンバーグが皿から姿を消しており、まなみは3つ目の
照り焼きに取り掛かるところだった。
「やっぱりまなみはハンバーグが一番好きだな♪お兄さんは何が好きですか?」
「あ、ああ・・・俺はから揚げかな・・・」
春彦が頼んだのは骨付きから揚げ定食というものだった。まぁ、中身は読んで字の如し。
「あ~おいしそうですね~♪いただきっ!」
「あ、こら、まなみちゃん!!」
まなみは3つ目を終えて4つ目のカレーに向けていた箸を春彦のから揚げに目標変更した。

ぱくっ。もぐもぐもぐもぐ。ばりばりばりばり。 

あっという間にから揚げは姿を消した。・・・あれ?春彦はなんか違和感を覚えたが
そのまま食事を続けることにした。


55 名前:(仮称)まなみ ◆ph4kVdXQrE [sage] 投稿日:2007/09/18(火) 02:43:19 ID:dBF1t/59
「おにいさん♪」
まなみは5つ目の鉄板焼きに手をかけようとしていた。
「さっきのから揚げの件、ゴメンナサイ」
「あ・・・うん、いいよ」
「お・わ・び・に、まなみの鉄板焼きを半分、あげちゃいます♪」
「あ・・・いいよ、そこまでしなくても」
「いーや!あ・げ・ま・す!」
顔こそ笑っていたがまなみのすごい剣幕に春彦もうなずく。
「ではですね・・・おにいさん・・・目をつぶってくれますか?」
「あ・・・うん」
言われるままに目をつぶる春彦。・・・なんで目をつぶる必要があるんだろ?
「次にぃ・・・口をあけてください。はい、あーん♪」
「・・・あーん」
口をあける春彦。あ、そうか。箸で口に入れてくれるんだ。春彦はそう思った。
しかし次に来たのは予想の斜め上を行く事態だった。

ぶちゅ。もごもごもごもご、ぐにぐにぐにぐに・・・。

まなみは口移しでハンバーグを食べさせてきたのだ。しかし物は鉄板焼き。つまり。
「あぢあぢあぢあぢあぢあぢあぢあぢ!!!!!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!おにいさんゴメンナサイ!」
口の中にハンバーグ半個分、それもアチアチを詰め込まれたのだ。
「みづみづみづみづ!!」
「はいっ!」
ごきゅごきゅごきゅごきゅ。
同僚に持ってきてもらった中ジョッキいっぱいの水を飲み干す春彦。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」
「ごめんなさい、おにいさん!まなみ、ドジっ子だから・・・」
そういう問題か?春彦はこの小さな同僚の頭の中を知りたかった。ていうか。
「まなみちゃん、コレ熱くなかったの?」
「まなみ、熱いの平気なんです。おうちがお肉屋さんだからかな?」
「・・・ソレ関係あるの?」
「余り物で焼肉したりとか。ほら、お肉って火を通さないと食べられないでしょう?」
「いやそりゃそうなんだけど」
そういってる間もまなみのフォークとナイフは止まらない。既に鉄板焼きは姿を消し、
6つめのチーズが既に半分になっていた。やがてチーズも姿を消し、包み焼きに手を
出そうとしたまなみだったが、少し考えて店員を呼ぶベルを押した。現れた店員に対し。
「あ、ごめんなさい。骨付きから揚げのおかずだけ追加~!」
「まだ食べるの?!」
既に店中の客から注目の的である。正直、春彦はもう店を出たかった。

骨付きから揚げが現れるころには最後のロコ・モコが姿を消そうとしていた。
「あ、早かったな~♪」
「は、ははははは・・・」
もう乾いた笑い声しか出ない春彦。まなみはロコモコの丼を空にするとから揚げに
取り掛かった。

ぱくっ。もぐもぐもぐもぐ。ばりばりばりばり。

相変わらずものすごい勢いで消えていくから揚げに春彦は呆れるばかりであった。そして、
春彦は先ほど抱いた違和感の正体に気がつく。

皿に、骨が、ないのだ。


56 名前:(仮称)まなみ ◆ph4kVdXQrE [sage] 投稿日:2007/09/18(火) 02:44:21 ID:dBF1t/59
「ま、ま、ま、ま、まなみちゃん!!」
「はい?」
9個もあったから揚げを秒殺したまなみは紙ナプキンで口を拭いていた。その目の前にある
皿には何も残ってない。そう、何も。
「まなみちゃん・・・鳥の骨は?」
「普通食べちゃいませんか?」
まなみがあっけらかんといった言葉に春彦は言葉を失った。
「鳥の骨って歯ごたえあっておいしいんですよね♪」
「・・・・・・そ、そう・・・なの?」
「けどまなみは牛さんの骨のほうが好きかな?あの骨髄のゼラチンがすきなんですよ~♪」
とても人類の発言と思えない言葉を口にするまなみ。
「さっきも言ったんですけどぉ、まなみはおうちがお肉屋さんなんです。だから家の中に骨が
転がってて。暇なときカジカジしてたら食べられるようになったんですよ?」
「あ・・・ああ・・・」
「まなみ・・・変な子なのかな・・・?」
ちょっとしょげ返るまなみ。
その姿を見て春彦は言おうとした『アンタ絶対前世ティラノザウルスだよ』という突っ込みを
飲み込んでしまった。
「いいいいいいいい、いや!まなみちゃんはおかしくないよ!うん!普通の、かわいい、
女の子だよ!」
「本当ですか!」
先ほどの暗い顔から一転、満面の笑顔を浮かべるまなみ。
「おにいさん、だいすきです!」
その後。店を出た二人は同じ方向に向かっていた。
「今日は夜だというのに暑いですね~。汗かいちゃう・・・」
「ねぇ・・・まなみちゃん?」
「はい?」
「俺・・・これから帰るんだけど、まなみちゃん家こっちだっけ?」
「えへへへへ・・・実は・・・」
まなみは両手の指を組んでもじもじする。
「おにいさんのぉ・・・お部屋をのぞいてみたくてぇ・・・」
「え゛っ!?俺の、部屋?!」
正直言って、部屋には入れたくなかった。男の一人部屋、部屋は荷物が片付いてないし
女の子には見せられないもの(主にエロ本)もある。
「いや・・・ほら、男の部屋って汚いしさ・・・」
「汚い部屋なんて気にしません!男の人の部屋なんですから、その・・・え・・・、えっちな本とか
あると思いますけど・・・まなみは気にしません!どんな本があってもおにいさんを軽蔑したり
しません!」
男にとってはそのほうがショックなのだがまなみの不退転の決意に引いてしまい春彦はまなみを部屋に入れることにした。て言うか断ってもそのまま上がりこんできそうだ。

「わー、これがおにいさんの部屋なんだ~」
「荷物、まだ片付いてないんだけどね」
春彦の部屋は4畳半の部屋にキッチンとトイレ兼用バスルームがあるだけだった。
たぶん荷物が入ってるのだろうダンボールは封もとかれずに部屋の片隅に5~6個積んで
ある。
「おにいさん、まなみ、汗かいちゃった。シャワー借りれますか?」
「汚いよ?」
「おにいさんが汚いはずありません!」
「・・・あ、ああ」
まなみの剣幕に押され春彦はまだ封を切られてなかったダンボールの箱をひとつ開け、
中からまだ使ってないバスタオルを取り出しまなみに放り投げた。



57 名前:(仮称)まなみ ◆ph4kVdXQrE [sage] 投稿日:2007/09/18(火) 02:45:07 ID:dBF1t/59
「おろしたてだから綺麗だと思うよ」
「わぁ、ありがとうございます♪」
まなみはバスタオルを受け取ると大仰におじぎした。そしてまなみは服を脱ぎだす。
それを見て春彦はびっくりして後ろを向きテレビをつける。
衣擦れの音。扉を開ける音。閉める音。シャワーの水音。そしてまなみの鼻唄。
春彦はテレビを見ていたが、何の番組なのかすら全く頭に入ってなかった。振り向く寸前に
見た小さなブラ。パンティ。それらを思い出しエロティックな興奮状態だった。それと同時に、
『それは犯罪だろ!!』と心のどこかから突込みが入っていた。やがて。
「おにいさーん、でましたー」
「おーう・・・って、おわぁっ!!」
風呂から出てきたまなみの姿はバスタオルで体を隠しただけだった。
「ま、ま、ま、まなみちゃん!!」
「ん?どうしました?」
「かっこかっこかっこかっこ!!!!」
「え、あ、そっか!」
まなみは両手でひとつ拍手をうつ。
「だってぇ・・・あついんだもん・・・」
「だからって、まなみちゃん!」
さすがに怒った口調になる春彦。
「も、も、もし!おれ、俺がっ!へ、へ、変な気に、な、なったら、どうするんだ!!」
「へ・ん・な・き?」
まなみはじりじりとにじり寄ってくる。まなみに対し思わず後ずさりする春彦。
「お・に・い・さん?えーい!!」
まなみはいきなり眼前まで近づくと春彦をつきとばした。思わず万年床に転がる春彦。
「ま、まなみちゃん?!」
まなみはこれまでの女の子女の子した口調から一転、妖艶なそれに変わる。
「おにい、さん?」
まなみはそのまま春彦の上に四つんばいになる。片手を床に着き、春彦に向かい合う。
「まなみね、シャワー浴びてる間、ずっと、お兄さんのこと考えてたんだよ?」
まなみは手をついてないもうひとつの手で自分の体を覆っているバスタオルをはずした。
小さな、膨らみかけの胸。無毛の股間。恥丘は存在せずクレパスがそのまま姿を現していた。
そして股間から糸を引いた雫が。シャワーの拭き残りの水でも、汗でもない、雫。
「おにいさん・・・まなみを、いっぱい、いっぱい、食べていいんだよ?」

その後、まなみは春彦の部屋に入り浸り・・・を通り越し半同棲の状態になる。昼は一緒に働き、
夕方はまなみの健啖ぶりに驚愕し、夜はまなみを食らう。そんな生活が一週間ほど続いた。しかし
そんな甘い生活は突如終わりを告げる。

ある日の夜、春彦にかかった電話。まなみのいる部屋を出て行き、廊下でひそひそと話す春彦。
部屋に帰ってきた春彦に告げたまなみの一言。

「おにいさん・・・うそでしょ?いまの、電話、どこの、雌豚、からなの?」



58 名前: ◆ph4kVdXQrE [sage] 投稿日:2007/09/18(火) 02:46:12 ID:dBF1t/59
投下終了。オチ読めたなんていわないでorz

59 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 03:31:11 ID:vd74AtWu
>>49
>>58
GJです。
まなみ(;´Д`)ハァハァ

皆さんの力作の後で恐縮ですが
僕も>>4->>10の続きを投稿させて頂きます。

60 名前:ヤンデレは誰だ/毒蛇 ◆i8W/K/qE6s [sage] 投稿日:2007/09/18(火) 03:33:31 ID:vd74AtWu
その日、事件が起きた。
俺のちっぽけな人生の中で、未だかつて経験したことのない大事件だった。
その日の朝。俺はいつものように朝寝坊をして由香里に叩き起こされ、夢うつつのまま学校へと向かった。
そしていつものように教室へ向かい、いつものように席に座り、いつものように授業を受けた。
しかしその日の昼休みだけは、いつものようではなかった。

さて、今日の昼も健やかに惰眠を貪ろう。
そう思って机に突っ伏そうと思った矢先、俺を呼ぶ声がした。
声の方を振り向くと、教室の入り口に見かけぬ女子生徒がいる。
「笹田先輩! ちょっといいですかー?」
元気よく俺を呼ぶ女子生徒。「先輩」ということは、この子は一年生か。
俺は戸惑いながら彼女の方へ歩くと、気弱な返事をした。
「えっと…。何かな?」
「先輩、ちょっとお時間いいですか?」
元気いっぱいに尋ねる一年生。その爛々とした目に押され、用を尋ねることも忘れて生返事をしてしまう。
「あ、うん。いいけど…」
「じゃあ、一緒に来て下さい」
その子はそれだけ言うと、俺の手を引っ張って歩き出した。
「え、ちょっと…。どこ行くの?」
「いいから、ついて来てください」
有無を言わさぬ押しの強さに、何もいえない俺。
下級生を相手に我ながら情けないものだと思いながら、そのまま引かれていった。
連れて行かれた場所は、体育館の裏だった。
「あの、こんなところに来てどうするの?」
何とも古典的且つベタなスポットへと来てしまい、俺は彼女に尋ねた。
すると彼女はくるっと俺の方へ振り返り、にこっと笑った。
「じゃあ、わたしはこれで」
そう言うと、なんと彼女はすたすたと立ち去ってしまったではないか。
「え、いやちょっと待って…」
俺の声は届かない。彼女は見る見るうちに遠くへ行ってしまう。
「…何なんだ、これ。嫌がらせ?」
この状況にどう対処してよいか分からず、呆然と立ち尽くす。
しかし、そうしているうちにあることに気づいた。
「……!!」
足音だ。そう遠くないところから、足音が聞こえたのだ。
足音はどんどんこちらに近づいてくる。
俺は心臓が高鳴るのを感じた。
何なんだ、一体。まさか校内で美人局…? いや、そんなはずはない。ていうか第一俺は何もしてないし…。
軽くパニックに陥った頭でそんなことを考えながら、俺は近づいてくる足音を待った。
しかし、そこに現われたのは、俺の予想外の生物だった。
「せ、先輩…」
ひょこっと俺の目の前に現われたのは、小柄な少女だった。
彼女はなぜか頬を赤く染め、俯きながら近づいてきた。
「え、えっと…。君も一年生?」
「は、はい…。一年の中島といいます」
「さっきの子は、君の友達?」
「はい。あの、わたしが頼んで、先輩を連れてきてもらったんです」
中島という女子生徒は、落ち着かない様子でそう言った。

61 名前:ヤンデレは誰だ/毒蛇 ◆i8W/K/qE6s [sage] 投稿日:2007/09/18(火) 03:34:39 ID:vd74AtWu
「そう。それで…何かな?」
そう尋ねると、彼女はまた俯いて黙り込んでしまった。
「………」
…さて、どうしたものか。俺まで気まずくなってしまう。
しかしいつまでもこうしていても、らちがあかない。
第一、俺の貴重な睡眠時間を削ってここに来ているのだ。これでどうでもいいような用事なら困る。
俺は先を急かそうとして口を開きかけた。
「あのさ…」
「先輩、好きですっ!!」
俺が話そうとしたその瞬間、そんな言葉のピストルが俺の脳天を貫いた。
多分、時が止まった。
あまり覚えていないが、数秒の間、俺は呆然と立ち尽くしていたと思う。
やっとの思いで我に返ると、俺は慌てて喋りだした。
「え、あの、いや…。え? その、あーっと…。マジで?」
なんだかよく分からない出来事に混乱した俺は、なんだかよく分からない言葉を発した。
「本当です!! わ、わたしと付き合ってくださいっ!!」
彼女は先ほどまでとはうって違い、俺の目を真っ直ぐと見据えた。
そんな気迫に、思わずたじろいでしまう。
ただでさえ生まれて初めての体験に、脳が追いついていない。ここは一旦落ち着いて考えるべきだ。
そう自分に言い聞かせ、俺は小さく深呼吸を繰り返した。
数分が経っただろうか。
俺は冷静さを取り戻すと、じっくりと考えていた。
この場の空気に流されないように、一番良い答えを見つけれるように、いつになく真剣に考える。
そしてゆっくりと口を開いた。
「あのさ…、俺なんかのどこがいいの?」
「えっと。気の弱そうなところとか、ちょっと頼りないところとか…」
中島さんは照れたような表情で言った。
なんかあまり褒められた気はしないが、それでも彼女の気持ちは本当らしい。
俺はもう一度考えると、一つ息をついた。
「…ごめんね」
その言葉を聞くと、彼女の顔に絶望の色が広がった。
みるみるうちに瞳に涙が溜まっていく。
「…なんでですか?」
彼女は震えた声で尋ねる。
「俺は君のことよく知らないし、…やっぱり急には無理だよ」
適当なことを言って誤魔化しても仕方がない。俺は正直な気持ちを口にした。
それからまた数分が経って、彼女はか細い声で「分かりました」と言って、泣きながら走っていった。
「はぁ…」
緊張が切れて、大きなため息をつく。
初めてのことに何がなんだか分からなかったが、ひょっとして勿体無いことをしてしまったのかなと、未だ冷めない頭で思った。
教室に戻ろうと歩き始めた頃、昼休みの終わりを告げるチャイムが響いた。

62 名前:ヤンデレは誰だ/毒蛇 ◆i8W/K/qE6s [sage] 投稿日:2007/09/18(火) 03:35:11 ID:vd74AtWu
その日の先輩は、なぜか機嫌が悪かった。
放課後、珍しく部活に顔を出すことにした俺は美術室へと向かった。
また何か絡んでくるかと思いきや、俺を見た先輩は「あら、来たの」とそっけない態度をとる。
無愛想なのはさほど珍しくないのだが、いつもはもっと辛らつな感じで攻撃してくるはずなのだが…。気のせいだろうか。
まあ、それはさておき部活に集中だ。どうやら今日は人物画のデッサンをするらしい。
しばらくして顧問の若槻先生が来て指示があると、部屋の中心に置かれた台の上にモデルを立たせ、他の部員でそれを囲んだ。
俺はたまたま先輩の隣だった。いつもと違う様子が気にならないこともないが、とりあえず集中してデッサンを始めることにした。
静かな部屋の中、カリカリと鉛筆の擦れる音が響く。
少し疲れた俺は、手を止めて一息入れることにした。すると、隣にいる芳野先輩が俺を見ていることに気づいた。
「…あんた、一年生の子に告白されたんだって?」
「え…。な、なんで知ってるんですか?」
「みんな知ってるわよ。結構うわさになってたから」
カリカリと鉛筆を動かしながら、先輩は言った。
沈黙が流れるが、何秒かすると先輩はまた鉛筆を止めてこちらを向いた。
「で、どんな子だったの?」
「どんな、ですか?」
そう言って少し考え込む。
「うーん。割りと背の低い子だったかな。っていっても先輩とそんなに変わらないですけど。…まあ、なんていうか結構可愛かったと思います」
「そう」
先輩は自分で聞いておきながら、興味なさげにそう言った。
そしてまた鉛筆を動かし始める。…と思ったら、また止めて口を開いた。
「なんで、断ったの?」
核心を突く質問に一瞬驚くが、俺は素直に答えた。
「まあ、知らない子にいきなり付き合ってって言われても…。やっぱりそういうのは好きな相手じゃないと」
「…そう」
先輩はそう言うとまた鉛筆を動かし始めた。
今度は本当にデッサンに戻ったようで、時間が終わるまで何も話さなかった。
どのくらい経っただろうか。
かなり疲れが出始めた頃、若槻先生が手首の時計を見て「そろそろ休憩にしよう」と指示した。
みんな集中していたのだろう。かなり疲れた様子で、それぞれ休息を取りだした。
俺はふと先輩を見る。
先輩は心ここにあらずといった感じで、ただぼうっと自分の描いた絵を眺めていた。
さっきは色々と聞いてきたが、もしかして俺のことと何か関係があるのだろうか。
「……そんなわけないか」
ふと窓を見ると、外は暗くなり始めていた。

63 名前:ヤンデレは誰だ/毒蛇 ◆i8W/K/qE6s [sage] 投稿日:2007/09/18(火) 03:35:45 ID:vd74AtWu
部活を終えた俺は、少し重い足取りで玄関へ歩いていた。
やはりたまにしか顔を出さない幽霊部員には、あの長時間の集中は厳しい。
今日は早く帰って、風呂でも入ってさっさと休もう。そう思いながら歩いていると、靴箱のあたりで見知った後姿を見つけた。
やや小柄で、細身の体の腰あたりまである自慢の黒髪が、さらさらと揺れている。
「委員長。今から帰り?」
俺が後ろから声をかけると、その背中はびくっと驚いた。
「さ、笹田くん。びっくりした…」
振り返った委員長は、胸に手を当ててそう言った。
「あ、ごめん」
そんなに驚くとは思わなかった俺は、反射的に謝る。
「あ、ううん。いいの。笹田くんも今から帰り? よかったら途中まで一緒に帰りましょう」
そう言って微笑む委員長に、ノーとは言えない。
俺たちは玄関を抜けて、薄暗くなった道を一緒に帰ることにした。
しばらく一緒に歩いていると、委員長もどこか様子がおかしいことに気づいた。
なにか落ち着かない様子で髪を触ったり、メガネをかけ直したり、とぎこちない。
「委員長。どうかしたの?」
そう尋ねるが、委員長は答えずに下を向いて何かを考え始めた。
しばらくすると、委員長は意を決したように重い口を開いた。
「あ、あのっ。笹田くん、一年生の子に、その…」
「…ああ、委員長も知ってたんだね」
「えっと、その…。振っちゃったの?」
委員長は腫れ物に触るように、恐る恐る尋ねた。
「ん、まあそうなるかな」
隠してもしょうがないので、俺はありのままを話した。
「やっぱり、全然知らない子とそういうのはダメかなって思って」
そう言うと、委員長は「そうなんだ」と小さく呟いた。
それにしても、こういう話に興味があるなんて委員長もやっぱり年頃の女の子なんだな、と俺は妙な感心をしていた。
いつも控えめで地味なところもあるけど、この子も誰か男を好きになったりするのだろうか。
「そういえばさ、『俺のどこがいいの』って聞いたら『気弱そうなところ』とか言うんだよ、その子」
どことなく静かな空気になってしまったので、俺は冗談交じりな口調でそう話した。
しかし、委員長の反応は俺の期待したものではなかった。
「分かるな、それ」
「え? ここ笑うとこなんだけど…」
「でも、なんとなく分かるの」
委員長は静かに笑いながらそう続ける。
「笹田くんって、何となくそんな感じ。母性本能をくすぐるっていうか…。ね」
優しく微笑んだ彼女を見て、俺は一瞬ドキっとした。
「どうしたの?」
「い、いや。なんでもない」
委員長もこんな顔をするのか…。
なんだか今日は、女性には色んな顔があるということを勉強したような気がした。

64 名前:ヤンデレは誰だ/毒蛇 ◆i8W/K/qE6s [sage] 投稿日:2007/09/18(火) 03:37:34 ID:vd74AtWu
「ねえ、誠。由香里の帰りが遅いんだけど、知らない?」
家へ帰りテレビを見ながら食事をとっていると、キッチンから母の声がした。
「いや、知らないけど」
もぐもぐと飯を口に押し込みながら答える。
「あいつだってもうそんな子供じゃないんだし、ちょっと帰りが遅いくらい心配ないよ」
「そうだといいんだけどねぇ」
洗い物をしている母が背中を向けたまま答えた。
すると、リビングのドア越しに玄関の扉がガチャリと開く音が聞こえた。
「ただいまー」
「ほらね」
由香里が慌しく部屋の中へ入ってくる。…なにやら小さな体にたくさんの荷物を抱えて。
「遅かったじゃない、由香里」
心配していた母がそう言うと、由香里はふて腐れたように答える。
「だって買い物してたら荷物多くて大変だったんだもん」
そう言いながら荷物をどかっと下ろしていく。おそらく洋服や本、化粧品などの入った紙袋やバッグが幾つも転がった。
「この間お兄ちゃんに荷物持ち頼もうと思ったけど、ダメだったからさ。今日は一人で頑張ったよ」
「ん? それなら今日誘えばよかったのに」
おかずのハンバーグを頬張りながらそう言った俺を、由香里はなぜか冷ややかな目で見た。
「お兄ちゃんは今日は幸せの絶頂だろうから、そっとしてあげようと思ったの」
「幸せの絶頂…?」
一体なんの話だろう。そう思って記憶を辿ると、昼休みのことが思い当たった。
「…あぁ、お前も知ってたのか」
「当たり前じゃない。隣のクラスの子だもん」
そう話す由香里は、どこか機嫌が悪そうだ。
「本当に物好きよね。よりにもよって、なんでお兄ちゃんなのかしら」
「まあ、あれかな。俺の秘められたカリスマ性に引き寄せられたんじゃ…」
「バカじゃない?」
な、なんて可愛げのない…。
まったく、昔はあんなに可愛かったのに。思春期の娘は難しいものだ。
そんなことを考えながら、俺はテレビのリモコンを手に取り、チャンネルを変えた。
この時間なら確かどこかの局で音楽番組があっただろう。
別に俺は見たい訳ではないが由香里が見たがるだろうと思い、チャンネルを回した。
その時だった。

『……先ほど入ってきたニュースです。河崎市内の高校生、中島伊織さん(16歳)が下校中、自宅近くの道路で
何者かによって腹部をナイフのような物で刺され、倒れているのを付近の住民によって発見されました。
中島さんはすぐに市内の病院に運ばれ、現在意識不明の重体です。現場では現在警察が捜査を行っています。
それでは現地のリポーターに様子を伝えてもらいましょう……』

その日、俺のちっぽけな人生の中で、未だかつて経験したことのない大事件が起きた。
そして、本当の事件が起こった。

65 名前:ヤンデレは誰だ/毒蛇 ◆i8W/K/qE6s [sage] 投稿日:2007/09/18(火) 03:38:13 ID:vd74AtWu
「9/18 火曜日」

どうして。

どうしてみんな邪魔をするの。

わたしがあの人を愛しているのに。

わたしが一番、あの人を愛しているのに。

誰も近寄らせない。

わたしがあの人を守ってあげる。

あの人に近寄る女がいたら、わたしがあの人を守ってあげる。

そう。今日みたいに。

どうしてみんな、わたしたちの邪魔をするんだろう。

どうして。

66 名前:毒蛇 ◆i8W/K/qE6s [sage] 投稿日:2007/09/18(火) 03:40:49 ID:vd74AtWu
以上、今回分終わりです。
なるべく早く完結させれるようにしたいと思います。

あ、できれば病んでるのが誰か分かっても内緒にしておいて下さい(^^;

67 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 04:16:56 ID:UHO4LtJC
普通に意識せず読んだら全員犯人っぽく思えてしまった俺
二回目は伏線とかに気を付けて見てみるか…


とにかく乙でした

68 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/09/18(火) 04:24:30 ID:cFzzX8EN
乙でした
面白かったです 早く続き読みたい……

俺的には妹がヤンデレかな~?と思ったり だけど全員ヤンデレってことも……?
続きにwktk

69 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 07:14:25 ID:VPKS/nC3
>>58
GJでし
Piaキャロ3思い出した
>>66
GJぃ
続きwktkして待ってます

70 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 11:39:44 ID:PDj6owwD
投下ラッシュktkr
作者さん達乙です

やはりヤンデレには刃傷が付き物なのか……ガクブルしつつもwktkが止まらないw



71 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 13:29:14 ID:opxZqv1R
付き物ではないと思うけどなあ…
あった方が面白いと言えば面白いがw

72 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 17:34:57 ID:RC6zwJ7t
鍋とバインダーでのし上がったお方もいるわけですし

73 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 17:59:33 ID:opxZqv1R
彼女の場合は依存ぶりや献身ぶりだと思うよ

74 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 19:07:43 ID:xHd/bcCu
葵の方ごっすんでしたー
早めの宣言を心がけるといいと思います
咲夜のスペルはとても強いものがそろってるので
相手のライフ5割くらいなら2回攻めれば終わらせることもできたりします

75 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 19:08:13 ID:xHd/bcCu
なんという誤爆orz

76 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 21:40:52 ID:Umdr7CBT
>>72
バインダーkwsk

77 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/18(火) 23:11:12 ID:ZCBFypvy
>>76
死んじゃえばいいんだー!

死んじゃえバインダー!
空鍋様のありがたいお言葉ですよ

78 名前:羊と悪魔[sage] 投稿日:2007/09/19(水) 00:35:10 ID:zx7wJDLP
高校生活のリズムにも慣れてきた五月、私はある悩みを抱えていた。
何故だか知らないが、私の所持品がすぐに消えてしまうのだ。
教科書、シャーペン、消しゴム、ボールペン……気がつくとそれらがあるべき場所から消えている。
「それさぁ、絶対ストーカーだよ」
理子がけらけらと笑いながら言う。本当にストーカーなら笑い事ではない。
「希美子は美人だからね、なんかそういうの連れてくるフェロモンとか出してるんじゃないの?」
玲が真面目そうな顔で、そんなことを言い出した。先ほどまで読んでいたブ厚い美術史の本を閉じて、私の顔をじぃっと見つめる。
「あー、希美子ってなんか女王蜂って感じよねー」
女王蜂ってどういう感じなのよ、とスナック菓子を頬張っているのぞみにツッコミをいれつつ、私はいつ失くしたのか、もしくは誰が盗んだのかを考えた。
しかしいざ考えようとしても、さっぱり答えは出ない。
いつ失くしたか憶えていないのだから、どこで失くしたのかもわからない。誰かが盗んだとしても心当たりはない、はず。
それに理子が言うようにストーカーだとしても、私にはそんなストーカーの気配など微塵も感じないのだ。
「これ、希美子」
「あてっ」
玲が、持っていたブ厚い美術史の本でチョップしてきた。
「あんたはあんまり難しいこと考えんな。あんたの心配はあたしたちがするから、あんたは自分の心配はしなくていいのよ」
無茶苦茶なセリフだけど、玲の表情はいたって真面目だった。
その真面目そうな顔があんまりおかしくて、私はついつい噴き出してしまった。
「ぷっ。あはははははははは!」
「何笑ってんのよ」
「いやごめん」
むくれてる玲の顔を見ていたら、ものが失くなったことなどどうでもよくなっていた。
玲ははげましたつもりだったんだろうけど、はげまし以上に心が満たされた。玲は、いい人だ。
「あ、そだそだ」
食べ尽くしたスナック菓子の袋を丁寧に折りたたみながら、のぞみが今思い出したらしい話題を語りだした。
「あの赤い髪のコ、なんだっけ名前、えーと……」


79 名前:羊と悪魔[sage] 投稿日:2007/09/19(水) 00:44:37 ID:zx7wJDLP
きみこちゃんと違うクラスになりました。
とても悲しいです。
やたらと私に他人たちが話しかけてきます。親友はきみこちゃんだけです。話しかけないでください。
私は悪魔ですから、あなたたちを食い殺しますよ?
そんなことを言っていたら、いつの間にか誰も私に話しかけないようになっていました。ありがたいことです。
カールクリノラースくんはそんな私をじぃっと見て、何も言いません。

きみこちゃんが他人と話しているのを見かけました。
とても悲しいです。
きみこちゃんは私の親友です。私の親友はきみこちゃんだけです。
そんなきみこちゃんが知らない他人と話をしているのを見るたびに、私の喉と胸が、針を刺されたように痛みます。
この感情は一体なんでしょうか。

いらだった気持ちのまま家に帰り、無言の父と母の横を通り、自分の部屋に入って鍵をかけます。
物で溢れかえる鞄を勉強机に置き、学校の制服を脱いで放り投げます。放り投げた制服は私の足元に落ちて、ここは自分の領地であるかのように裾を広げていました。
下着も脱ぎ捨て、ベッドに倒れこみます。暗い部屋の中で冷えた毛布の感触が、私の肌に直に伝わります。
女性には性感帯というものがあるそうなのですが、私が感じるものはこの心地よい冷たさだけです。自ら裸体を晒すあの他人たちは、この心地よい冷たさを知っているのでしょうか。
きみこちゃんは、この冷たさを知っているのでしょうか。
何故でしょうか、きみこちゃんのことを考えるたびに、冷たさが消えていく気がします。けれどそれもまた心地よくて、私はきみこちゃんのことばかり考えているのです。

いつかきみこちゃんをこの部屋に連れてこよう。私はそう思いました。
この暗い部屋に。この暗がりで冷えた、ゆりかごに。
カールクリノラースくんと私だけの部屋に。
私は一糸も纏わない自分の身体を抱きしめて、何がおかしいのか自分でもわからないまま、ただただ笑い続けました。

80 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/19(水) 00:47:10 ID:zx7wJDLP
羊と悪魔、続きです。遅筆で申し訳ありません。
そろそろ何か事件が起きそうな気がしないでもありません。

81 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/19(水) 01:23:32 ID:IFgtOmNf
>>80
GJ!!
いい雰囲気です
続きが気になる

82 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/19(水) 19:23:51 ID:rAmeb4e4
>>77
なるほどな
そろそろあれぐらいのヤンデレアニメを見たいものだ

>>80
GJ
続きを待ってるぜ

83 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/19(水) 21:58:18 ID:4h8cVc6u
>>80
GJ!


84 名前:きゃの十三 ◆DT08VUwMk2 [sage] 投稿日:2007/09/20(木) 01:09:44 ID:STS2Dsze
前スレにあって『ヤンドジ』をそのまんまSSにしてみました。

少女は、ポケットから刃物を取り出した...
そしてその刃を突き出しターゲット目掛けて突進した。

「えぇ~い、成敗!!」ポキッ
少女の刃物は、ポッキーのごとく折れた。

「痛っ!もぅ~またペーパーナイフも持ち歩きながらうろちょろして」
ターゲットは、そう言いながら彼女に近づきて来た。
(あわわ~こ・殺されるよぉ~助けて康介くん!!)
「言う事聞かない悪い子はこうだぁ」むぎゅっ
少女は、ターゲットに無理矢理、胸を押し付けられ窒息寸前。
(うぐぐぅ~助けて康介くん!このままじゃデカ乳オンナにおっぱいで殺されちゃうよぉ~)

しかし、当の康介少年は、少女を羨ましそう見ていた
(いいなぁ女の子は、ああいう事されてもお咎めがなくて………)


彼女の名前は、犬神萌(いぬがみもえ)。
同級生の山寺康介(やまでらこうすけ)に
思いを寄せる都立天領ノ酒中学校に通うごく普通の女の子。

これは、嫉妬深くてドジっ子な犬神萌のエキサイティングコンバットラブストーリーである

85 名前:『ヤンドジさん』 ◆DT08VUwMk2 [sage] 投稿日:2007/09/20(木) 01:12:03 ID:STS2Dsze


うぅ~よくも康介くんの前であんな恥ずかしい事を…もう許さないんだから!!

ようやく友人であり恋のライバル(と勝手に認識している)の牛飼くるみ(うしかいくるみ)の
オッパイ圧殺攻撃から逃れる事のできた萌は、新たなる作戦を実行していた。

ここは、給食室。
今日のクラス分の給食はここに配置されているのだ...
そう、萌の新たなる策略とは、くるみの給食に毒を入れ毒殺するという恐ろしい計画なのだ!!

「フフフ、あなたがいけないのよ」
萌はポケットから保健室から盗んできた薬をくるみの松茸ゴハンの中に入れた。
危うし!くるみの運命やいかに!!

「わぁ~今日は、松茸ゴハンだ!私、松茸ゴハン好きなんだ!」
くるみは、自分のどうでもいい情報をクラスメイトに公開すると松茸ゴハンを貪った。

(さようならくるみ、あなたの最後の言葉は『わぁ~今日は、松茸ゴハンだ!私、松茸ゴハン好きなんだ!』よ)

しかし、放課後になっても死ぬどころか痙攣さえ起こさないくるみ。
萌は、なぜくるみが死なないか不思議でなりません

「…なんで死なないんだろう?」
そう言いながら萌は、毒薬のビンを眺めていました。





『カッパ印の正露丸』

86 名前:『ヤンドジさん』 ◆DT08VUwMk2 [sage] 投稿日:2007/09/20(木) 01:13:01 ID:STS2Dsze
萌は、なぜ数多くの作戦が失敗するのか考えました。
―――そしてある事に気付きました。

刃物で刺しても毒薬を飲ませても死なないくるみ。
…そうかわかったぞ!実はくるみは地球外生命体なんだ!!
だから昨日、高所恐怖症を我慢して学校の屋上に連れて行っても怖がらなかったんだ
(ついでにその『屋上から突き落として自殺に見せかけよう作戦は失敗)

などと脳内MMRを展開させる萌。
『宇宙人=人間の康介が好きになるわけがない』という構図から
くるみはもう敵ではないと考えた萌は、今度は、どうやって康介を自分に振り向かせるかを考えた。

振り向かせるだけじゃ駄目!私だけを見て私だけを愛させる方法...
萌が脳内会議を白熱させていたその時!!

「えぇ~また某国が拉致をした疑いが浮上しました」
たまたま拉致事件のニュースが耳に入った萌は、恐ろしい策略を思いつくのであった。

そうだ!康介くんを拉致して私の部屋に監禁し、私の魅力に気付かせよう 
その後、愛し合う二人…そして康介くんと結婚。

『ヤンドジさん』第三部(も続いてないけど) 完!!

しかし、相手は男の子、とても私みたいな女の子じゃ拉致監禁は無理…
なので『拉致』の部分を『家に招いて美味しいご飯でもてなし』に変更。
『監禁』もママにバレたら怒られるので『帰りたくなくなるようにする』に変更。

…完璧だ
これで康介くんの心は私の物―――

「あ、あは、あはは、あ~っはははははははははははは………」


果たして、康介少年の運命やいかに?

To be continued...

87 名前: ◆DT08VUwMk2 [sage] 投稿日:2007/09/20(木) 01:19:45 ID:STS2Dsze
投下終了です。もうちょっとだけ続きます。

とりあえず前回の指摘された句点や中点等を気を付けて書いてみました。

88 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/20(木) 01:26:03 ID:1s9TIxpK
唐突に話す。
思い返したら、ヤンデレっていうジャンルから入ったんじゃなくて、すごくきたキャラが後で「ああ、あれはヤンデレだったのかな」って思ったのが
はじまりだったな。俺の場合は水夏の透子さんだったが。

YOUたちのはじまりはなんだい?

89 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/20(木) 01:33:04 ID:tYiG86Sj
一行空けると読みづらい

90 名前:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/09/20(木) 02:11:21 ID:gYbbEYsn
21話、投下します。

91 名前:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/09/20(木) 02:12:13 ID:gYbbEYsn
第21話~拒絶~

無言で廊下を突き進む。
香織とかなこさん、あの2人からとにかく離れたかった。離れなければならなかった。
2人を助けず置き去りにしたことの後ろめたさと、自分が何をしでかすかわからない、その2つの理由からだ。
薄情だが、香織はあのまま放っておいても大丈夫だったろう。うつぶせながらも喋っていたし、腕も動いていた。
香織以上に心配なのは、俺が殴ってしまったかなこさんだ。
きっと、窓ガラスの破片で怪我をしているだろう。
あれだけ強く殴ったのだから、もしかしたら肋骨を骨折しているかもしれない。
心配だが、今から引き返すわけにもいかない。俺がまた同じ事を繰り返さないとは言えないからだ。
室田さんが発見してくれるのが一番いい。
連絡がとれればいいのだが、昨日身につけていた通信機は知らないうちになくなっていた。
屋敷の中の電話を使おうにもどこに電話をかけたらいいかわからない。
「本当に他人任せだな……」
こういう場合には、他人や運に頼るよりも自分でなんとかするほうがいい。
いや、今は自分でなんとかすることができないから他人や運に頼るしかないのか。

だが、何もしないでいるつもりはない。他にやらなければいけないことがある。
俺がなぜ、香織やかなこさんを傷つけるようになったのか、その理由を突き止めなければならない。
そのために、今こうやって廊下を早足で歩きながら、ヒントのありそうなところへ向かっている。
目指すは、十本松が使用していた部屋。
あそこに行けばなにかがあるかもしれない。もしかしたら無いかもしれないが、何もしないよりマシだ。

通路の外側の壁には窓がある。窓からは芝生が見える。
緑色の芝生の向こうへ視線を移すと花壇があり、そのまた先には背の高い木々が壁をつくっていた。
屋敷の周囲は木で覆われているようで、長い廊下を歩く間はずっと同じ景色が続いていた。
廊下の突き当たりは右へと折れていた。
右に曲がってしばらく歩くと、廊下の突き当たりへとたどり着いた。今度はそこで行き止まりになっている。
代わりに、ドアがあった。これで見るのは3度目となる、十本松が住んでいた部屋のドアだ。

ノックなしでドアを開ける。
無駄に広大な空間に、本棚が倒れていたのが目に入った。
本棚で隠されていたと思しき壁には扉がある。昨日、華はあのドアから屋敷に侵入していた。
あのドアは外へと続いている。この屋敷を出るならあのドアを使えばいい。
だがまだあのドアのノブには手をかけない。この部屋を調べなければならないからだ。

ベッドの下。何もない。のぞき見た位置の反対側から光が漏れていて、絨毯が続いているだけだ。
クローゼットの中。高級そうなスーツや礼服、コートが大量に掛かっていた。どれも女物ではない。
机の上。本が二冊置かれている。それ以外に目につくようなものはなかった。
本を一冊、手に取る。こっちの本は以前図書館で借りた方の本で、武士と姫の話が綴ってある。
ぱらぱらとめくってみる。前に読んだ時と全く同じ内容で、どこも書き直してある様子はない。
そういえば、この本からいろいろ始まったような気がする。
本を返しに図書館へ行って、かなこさんに初めて会った。
しばらくして大学で再会した。その次に会ったのはこの屋敷だった。
パーティの夜、俺はかなこさんの部屋に連れ込まれ、ベッドに縛り付けられた。
そして、かなこさんに犯された。今でも思い出せるが、興奮よりも恐怖の記憶の方が勝っている。
翌朝には、首を絞められて殺されそうになった。
あの時華が来てくれなければ今頃俺はここにはいなかっただろう。


92 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/20(木) 02:14:29 ID:ZLmq5ztl
>>88
むしろ、それは埋めネタとして話すべきじゃないかと
ちなみに自分はコ・コ・ロ…の久遠寺華澄(プレイしたのはVoice版)


93 名前:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/09/20(木) 02:14:46 ID:gYbbEYsn
そういえば、華は大丈夫だろうか。昨日この部屋でひどいことを言ってしまったが。
俺が、二度と会うな、言っただけでかなり落ち込んでいた。
きっと華にとっては、自分がやった行動は全て俺のためによかれと思ってやったことなのだろう。
その行動がかえって逆の効果をもたらしたと知ったならば、落ち込むのも無理はない。
「だからって、あの言い方はなかったかもな」
ひとりごちる。同時に後悔の念を覚える。
いくら頭に来たとはいえ、もう少し別の言い方があっただろうし、何も言わないで突き放すだけでもよかったのに。
今さら言ったところでどうにかなるものでもないが。

本を机の上に戻し、なんともなしに後ろを振り返る。
すると、部屋の入り口に人が立っているのが目に入った。
「華」
「……もう起きても大丈夫なんですか?」
「ああ」
いつもより伏し目がちに見つめてくる華を正面から見据える。
華に対して後ろめたいものを感じていたから、目を合わせながら喋りたくなってしまう。
「お前こそなんともないのか? どこか体が痛いとか」
「はい。一晩寝たらもう回復しました。それより、昨日はごめんなさい」
華は俺に向けて頭を下げた。なぜ華が謝る?
「私、昨日おにいさんを怒らせるようなことを言ってしまって……」
「気にするなよ。というより、俺の方が謝りたかった。
昨日は、悪かった。もう少し落ち着いてお前と話をしていればよかった」
「もう、怒ってないんですか?」
頷く。
すると、華は安堵したように微笑んだ。華のこういう表情は久しぶりに見る気がするな。
少しだけすっきりした。心にかかっていた靄が晴れたような気分だ。

「華は何をしにこの部屋に来たんだ?」
「おにいさんを探してました。おにいさんと一緒にここから出て家に帰るつもりでした。
なるべく人に見つからないように2階を歩いて部屋を開けて回っていたら、
いきなり1階の方からガラスの割れる音がしたので下りてきたんです。
どこで音がしたのかわからなかったから、とりあえず知っているところから廻ってみよう、
と思ってこの部屋に来てみたらおにいさんがいたんです」
「じゃあ、まだ1階の他のところには行っていないってことだな」
「はい。何か知っているんですか? あのガラスが割れた音のこと」
「……いいや」
ガラスの割れる音っていうのは、間違いなく俺がかなこさんを殴ったときに立てた音だろう。
俺がかなこさんを殴った、と華が聞いたらどう思うだろう。
女に手をあげるだなんて最低だ、と言って俺の頬を張るかもしれない。
そうであったらいい。今は誰かに殴られたい気分だ。
「なあ、華」
「なんですか?」
「ああ、いや、やっぱりなんでもない」
俺を殴ってくれなんて、やっぱり言えないな。
言えばおそらく殴ってくれるんだろうが、どうして殴らなければいけないのかと聞かれたら答えられない。
俺がかなこさんを殴ったからだ、とでも言えば、どうして殴ったんですかと問い質されかねない。
どうして殴ったのか、それは俺が一番知りたいところだ。


94 名前:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/09/20(木) 02:16:23 ID:gYbbEYsn
カッとなってやった、というのとは少し違う感じがした。そもそも十本松が死んで怒る理由というものがない。
あいつが死んだという事実を思い浮かべても怒りは沸いてこない。
少しばかりの悲しさはある。そして悲しさより少し多く、寂しさを感じる。
なんだか、胸の辺りに拳ほどの大きさのボールが入っているような気分だ。
寂しさでできた膜が、悲しさという感情の周りを覆ってできたボール。
ボールは現実感のないもので、胸のどの辺にあるのかはっきりとしていない。
けれど、胸の中に何かがある。拳大のボールの分だけスペースが割かれている。
じいさんが亡くなったときもこんな感じがした。

「華は、十本松が…………死んだって知っているのか?」
「気絶してましたから、はっきりとこの目で見たわけではないですけど、察してはいました。
私が気絶する前、十本松あすかは壁にもたれかかってましたから、たぶんその後で殺されたんでしょう」
「お前はなんで気絶してた?」
「地下室に飛び込んだとき、おにいさん十本松あすかに犯されてるのを見て、私が殴りかかったんです。
それからもみ合いになって、私が先に気絶してしまって」
「そっか。……あいつが死んで、悲しいとか」
思うのか、と聞こうとしたら先に答えを返された。
「思いません。せいせいしてます。あの女は、おにいさんに危害を加えた人間が受けるべき報いを受けたんですよ。
だから、おにいさんが十本松あすかが死んだことを悲しむことはないんです」
「別に悲しんじゃいない。ただ……」
「寂しいですか?」
「まあな。この間知り合ったばかりだったけど、それなりに話もしたし」
ここ最近は色々なことがありすぎたから、印象が強い。
おまけに十本松の服装や喋りや性格、全部がおかしかったせいで忘れようと思ってもなかなか頭の中から消えてくれない。

「そうですか……死んだくせに、あの女はまだおにいさんの心の中にいるんですね」
「そんなにおおげさなものではないけどな」
故人である十本松には失礼かもしれないが、あいつの残滓は風呂場のカビみたいなものだ。
消そうと思ってもなかなか消えてくれない。
「死ぬ直前におにいさんを好きに扱って、そのうえ記憶の中に居座り続けるなんて……図々しい」
「おい、華……?」
華の目が俺を見ていない。睨め付けるような目で、床を見下ろしている。
「どうしたら、おにいさんは十本松あすかを忘れてくれますか?
この部屋が無くなったら? あの女の服を全部燃やしたら? あの女の痕跡を根こそぎ無くせば?」
華は顔を右へ、左へと向けた。まるで部屋を見回すような動きだった。
「それとも……あの女がしたみたいにおにいさんを犯せばいいんですか?」
「それはやめてくれ」
現時点で女二人に無理矢理犯されているされているというのに、
さらに従妹までが加わったら男としての自信がなくなってしまう。
それに華と肉体関係ができてしまったらどうなるかわかったもんじゃない。
親や親戚からの俺に対するただでさえ弱い信頼が、ゼロになる可能性もある。
なにより、ここ最近の華のことを考えるとそこから雪崩式に堕ちていってしまう気がする。
心が堕ちて、二度と逃げられなくなってしまう気がするのだ。
この話はしない方がいい。話をしているだけで思考が泥沼にはまっていく。


95 名前:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/09/20(木) 02:17:52 ID:gYbbEYsn
「なあ、俺が十本松のことを覚えてたら不都合でもあるのか?」
「私が不愉快なんです。十本松あすかはおにいさんを穢したんですよ?
それなのにいつまでもしつこくおにいさんの中に存在している。
私のことなんか、しばらく会わないだけで忘れてしまうくせに」
「いつ俺がお前のこと忘れた?」
「いつ? ……もう忘れちゃったんですか。やっぱり物覚えが悪いですね。
私がこの町に来て、おにいさんとばったり会ったときにすぐ思い出さなかったじゃないですか」
「あれは……お前も人のこと言えないだろ。俺が名乗るまでわからなかったくせに」
「私はおにいさんの顔を見てませんでしたから。道ばたでいきなり会った男性が優しくしてくれるなんて、
絶対に裏があると思ってましたので。しかもその相手がおにいさんだなんて露ほどにも思いませんでしたし。
それに……見知らぬ女性に対してはとっても優しくするとも、思ってませんでした」

窓から差し込む陽光が華の瞳に反射している。華の瞳が俺をまっすぐに見つめてくる。
なんだろう、話す度に泥沼に嵌っていくというか、追い詰められているというか、そんな感じがする。
別に悪いことをした自覚はない。あの時は偶然道ばたで会った人に手を貸しただけなのだから。
いや……華にとってはそれさえも不機嫌の理由になるのだろう。
たった今、俺との距離を手を伸ばせば届く位置にまで縮めているのが華が不機嫌であるという証拠だ。

「何を考えているんです?」
「別に」
今、お前の機嫌をどうやってよくしようかと考えていたよ。
「嘘ですね。おおかた、天野香織か菊川かなこのことでも考えていたんでしょう。
おにいさんにとっては、私よりあの2人の方が心配ですものね。
昨日、私を病院に置き去りにしてこの屋敷まで助けにくるぐらいなんですから」
「変に勘ぐって変な勘違いするな」
普段は鋭いくせに、どうしてこんな時に限って的外れな勘違いをするんだ。
「そんなに私じゃ不満ですか? そんなに私は魅力がないですか?
おにいさんを助けるためならどんな危険だって冒しても構わないと思ってるのに。
何もしない、ただおにいさんを振り回すだけしか能がない女の方がいいんですか?」
「だから……」
「そりゃ、私は胸が小さいですよ。風呂場で鏡を見る度にそう思います。
だけど胸なんて無駄な部品じゃないですか。年を取ったら垂れてくるんですよ。肩がこりやすいんですよ。
将来のことを考えたら、絶対に私の方がいいに決まってます。間違いありません」
的外れな勘違いの次は、胸の話かよ。
ああもう、なんか返事するのが面倒くさくなってきた。
ただでさえ今はかなこさんをなんで殴ってしまったのかっていう疑問に悩まされているのに。

――あれ。そういえば、今の俺って。


96 名前:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/09/20(木) 02:19:41 ID:gYbbEYsn
「料理だって、いずれレパートリーが増えますし、上達もします。絶対におにいさんを唸らせて見せます。
だから、お願いです、私を――」
そう言って華が手を伸ばしてきた。手に触れないよう一歩後ろへ下がる。
華に触れられるのが嫌だったわけではない。下がらなければならなかったから下がったのだ。
「そんな……なんで、逃げるんですか……?」
「違う。逃げた訳じゃない。これには深い理由があって」
「どんな理由ですか。そんな深刻な顔して逃げるほどの理由なんですか?」
「ああ。頼むから、今の俺に近づかないでくれ」
「どんな理由ですか? 話してください」
「……話してもいいけど、たぶん信じないと思うぞ」
「いいから、話してください」
ごまかしは許さない、という感じの目で華が俺を見た。

かいつまんで華に事情を説明する。
今朝目を覚ましたとき、会う人を見る度に暴力を振るいたくなるということ。
なぜそうなったのかがわからないということ。
かなこさんを殴ってしまった、ということは伏せておいた。口にしたくなかったからだ。

「そういうことだったんですか」
「信じられないだろ、こんな話」
俺自身、華に説明していて本当かどうか疑わしい気分になったほどだ。
信じてもらえなくてもいい。今の話を聞いて、しばらくの間近づかないでもらえればいい――って。
「おい、華」
「なんでしょうか」
「今の話、聞いてなかったのか。近づいたら、怪我するかもしれないって言ってるだろ」
話が終わった途端、華が距離を詰めてきた。
一歩下がり、距離をとる。また華が近づいてきた。
「いいですよ、私は」
「……なにがいいんだ?」
「おにいさんに殴られるなら、それでもかまいません」
「はああっ?」
「殴られても、蹴られても、投げ飛ばされても構いません。おにいさんに触れるならば」
そう言うと、華は一気に距離を詰めて、懐に飛び込んできた。
次の瞬間、足を引っかけられ俺の体は床に押し倒されていた。
体の上には華が乗っている。華の両手は、俺の両肩に添えられていた。
体の痛みは無かった。だが腹が立った。なぜいきなり押し倒されなければいけない。
俺は誰かに、ましてや従妹に押し倒されるようなことはやっていないぞ。

華を真正面から睨み付ける。文句を言ってやろうとしたのだ。
しかし、すぐに口を開けなかった。華が不敵にも笑っていたからだ。
「手を出しませんでしたね」
「…………何?」
「私は今、ものすごくおおざっぱな動きで接近したんですよ。それなのに、押し倒すことができた」
どこがおおざっぱだ。
華が目の前に来た、と理解したらいきなり倒されていたぞ。
くそ、情けない。こうもあっさりと年下の女の子に組み伏せられるとは。
「まあ、そこはおにいさんが鈍かったということにするとして。その後ですよ。
今もそうですけど、攻撃する気配のようなものが感じられないんですよ、おにいさんから」
「攻撃しようとする気配?」
「はい。相手の呼吸とか体の反応とかで大体わかるものなんです。
ましてや、これだけ接近――密着をしていれば、嫌でも感じられます」
「今の俺からは、感じられないのか?」
「話を聞いていると、勝手に体が反応するように聞こえたんですけど。
ここまでして反応が見られないということは、どうやら私には攻撃しないみたいですね。ふふっ……よかった」
華が笑ったときに口から漏れた息が、頬にかかった。
気づく。華の顔がものすごく近い位置にある。20センチ、いや10センチも離れていない。
首を華の両腕で抑えられていて、思うように動かせない。


97 名前:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/09/20(木) 02:21:01 ID:gYbbEYsn
「一つ、わかったことがあります」
「……なんだ」
努めて冷静に言う。これだけ間近に華に接近されたらどうしても落ち着かなくなる。
華も、香織やかなこさんに負けないくらい綺麗なのだ。
伊達眼鏡をかけていないせいでよりくっきりした輪郭を見ていると、改めてそう思える。
「おにいさんの無意識の暴力は、向けられる人と向けられない人がいるということです。
おにいさんが朝に出会った人は暴力を向けられる人。
対して私は暴力を向けられない人、に該当します。どういう基準で分けられているのかはわかりませんけど」
「なるほど」

つまり、香織とかなこさんには近づけない、華には問題なく近づける、ということだ。
一体どこでそんな区別がされているのだろう。
華と、香織とかなこさんの2人を比べてどこか違う点があるか?
年か、付き合いの長さか、それとも俺との関係か?
俺との関係の違い、ということで考えると、ただ1人違うのは彼女になった香織だ。しかしそれだと腑に落ちない。
香織1人だけが特別だとしよう。しかし、それではなぜ俺はかなこさんに対して香織と同じ反応をしたのか説明できない。
たぶん、何か別の理由があるはずだ。

「私は嬉しかったり残念だったりしてますけどね」
「何が?」
いきなりそう言われても何のことを言っているのかわからん。
俺の異状のことを言っているのか?
残念という言い方にも引っかかるし、それに嬉しがる要因がどこにあるというんだ。
「おにいさんが私を傷つけようとしないっていうのが嬉しいんです。
だって、知らないうちに私を傷つけてしまうとわかっていたら、離れていってしまうでしょう?」
「当たり前だ。俺はわけのわからない理由で傷つけたり……したくない」

今までにもいろいろな人を傷つけてきた。また反対に傷つけられることもあった。
肉体的に、精神的に。忘れようと思っても忘れられないことだってある。
けれど、それは感情や自分の意志があってやったことだ。
どの人だったらやる、あの人だったらやらないという条件反射的にやったことなど一度もない。
もし、自分が誰にでも暴力を振るうようになっていたのだとしたら、俺は誰にも会わない。
一人で誰も知らない場所に隠れ、いつ治るともしれない症状と向き合いながら過ごすだろう。
しかし、治ったかどうかを確認するためには人に会わなければいけない。
その時に治っていなければ、またしても望まない行動をとる。
そして、いずれ人に会うことすらしなくなる。それはさすがにまずい。
再就職どころか、ひきこもる方向へ一直線だ。
しかし、まだ望みはある。
俺は華に対して異常反応を示さなかった。他の人間に対して普通に接触できる可能性がある。
どんな基準で俺が妙な反応をするかわからないから、誰にでも、というわけにはいかないが。


98 名前:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/09/20(木) 02:22:25 ID:gYbbEYsn
「ところでさっき、残念だって言ったよな」
「はい」
「あれはどういう意味だ?」
こういう時は、ショックだ、とかいう台詞の出番だろう。
なにを残念に思っているんだ。

「例えば、おにいさんがヤマアラシだとします。自分が人間サイズのヤマアラシだと思ってください」
「……ああ」
とりあえず、タヌキと同じ大きさのヤマアラシを想像してみる。
人間サイズのヤマアラシなんか想像できるか。
「街を歩いたら、誰にもぶつかることはできません。お店に入ることもできないから、買い物ができません。
働こうにも、職種は限られてきます。客商売は無理、誰かと組んで仕事をすることはできない。
あと残っているのは人を直接相手にしない職種しかないです」
「……だな。それで?」
「もしそうなった場合、おにいさんはどうやって生活しますか?」
「どうやって……? 人に会えない、働けない、外に出ることがなくなる。
もしそうなったら自動的に家に引きこもることになるな」
「誰かがお世話しないとおにいさんは、野垂れ死にしちゃいますね?」
「だろうな、多分。で、結局なにが言いたい」
「つまり、そんな時は私がおにいさんのお世話役を買って出てあげますよ、ってことです。
社会の底辺を生きるおにいさんを、私無しでは生きていけないようにできるじゃないですか。
そうならなくて惜しいな、という意味で残念と言ったんです」
「……ほう」

体の上に乗っている華の肩を掴んで引きはがし、横にどける。
即座に立ち上がり、華との距離をとる。
「……逃げないでくださいよ。なんで逃げるんですか」
立ち上がった華が不満そうな顔つきで言った。
なんでもなにもあるか。華の奴、とんでもないことを考えてやがった。
最近の華がおかしいとは思っていたが、まさか俺を目の前にしてこんなことを言うとは。
「本気にしてないですよね? 今のは冗談ですよ」
……本当かよ。
「もし本気でやるつもりだったら私は口にしたりしませんよ?」
「そりゃそうだろうが……冗談でもあんなこと言うな」
「ごめんなさい。おにいさんを和ませようと思って、つい」
あんな会話で和むわけないだろうが。

「あら? この本」
華は机の上に置かれたままの本に目を留めると、二冊とも左右それぞれの手で持ち上げた。
「この部屋にあった本ですか、これ」
「ああ」
「タイトルが無いですけど、どんなことが書いてあるんですか?」
「簡単に言えば、ハッピーエンドで終わらない話」
「面白かったですか?」
数日前なら面白かったと俺は答えただろう。しかし、今ならこう言える。
「……いいや、実に不愉快で面白くない内容の本だった。読むだけ時間の無駄だった。
その本を手に取るだけで不幸が訪れるから触らない方がいいぞ」
「珍しく、ずいぶんな言い様ですね」
「それだけひどい本だってことだ。だからその本を読むのはやめとけ」
「へえ……」
本を裏返して背表紙まで眺めてから、華はこう言った。
「でもおにいさんが読んだ本なら私も読んでみたいです」


99 名前:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/09/20(木) 02:24:57 ID:gYbbEYsn
華は手近にあった椅子を引くと、腰掛けて本を広げた。
青い背表紙。以前十本松から渡された方の本だ。
二冊の本が上下巻に分かれるとするなら、下巻の方になる。
俺がその事実を教えようか、それとも読ませないようにしようか、と考えていると。
「……ん?」
ふと、この場にいない人間の声が聞こえた。小さな声だった。
耳をすませていないと聞こえないような声量だったというのに、俺がその声を聞き取れたのは不思議でもある。
だが、時折こういうことはある。自分が望まない事態の場合、自分の聴覚が鋭くなることがある。理由はわからない。
そして、望まない事態というのは連鎖するようだ。華までが声の主に気づいた。

「天野香織の声ですね」
ああ、その通りだ。
よりによって今一番会いたくない相手が来た。ついでに言うとこの場に来て欲しくない相手だ。
俺が香織を目にした瞬間に襲いかかったりすることはないだろう。
だが、この場には華がいるのだ。
もし、俺が何かの間違いで香織に対して拳を振るおうするところを、華に見られたら。
いや、それよりもこの場で香織と華が顔を合わせたら。
そこから一体どんな展開になるのか、まったく予想がつかない。
ただでさえ最近は予想外の事態ばかり起こっているというのに。もう、これ以上は御免だ。

「華」
「はい?」
「今すぐにこの屋敷から出るぞ。家に帰る」
「え、でも……」
華は部屋のドアへと顔を向けた。
香織と顔を合わせたときの台詞を決めていたのかもしれない。
どんな台詞を口にするのかは想像できないが、それはこの場で破棄してもらおう。
「この部屋から外に出られる。前にも通ったことがあるだろ」
「そうですけど、私はあの女に話が」
「いいから、来い」
華の右手首を掴み、強引に立たせる。右手には青い背表紙の本が握られたままになっている。
もう一冊の本を手に取り、華の左手に渡す。
「その本を読みたいんなら家に帰ってから読め。香織が部屋に入ってくる前に出る」
「……あの、なんでそこまであの女から逃げようとしているんですか? 
もしかして、おにいさんが拒否反応を示す人って……」
気づかれたか。これだけ頑なに香織と会うことを避けようとすれば、聡い華は気づくに決まっている。
しかし、今はそんなことの後悔をしている場合でも、自分のうかつさを呪っている場合でもない。
香織の声は少しずつ大きくなってきている。この部屋にたどり着くのは時間の問題だ。
「あとでちゃんと話してやる。だから、今は言うことを聞いてくれ」
「……わかりました。そこまで言うんなら、言うことを聞きます」

部屋の裏口から、華と一緒に屋敷裏の空き地へ出る。
季節はまだ冬で、扉を開けた瞬間に冷たい空気が肌に触れた。
一瞬部屋に戻りたい気分になったが、意識して首を振り、家に帰るという本来の目的を思い出す。
裏口のドアを閉める。すると、さっきまで聞こえていた香織の声がかき消えた。
扉の存在が、俺が香織を拒絶した、という事実を証明しているような気分にさせてくれた。


100 名前:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] 投稿日:2007/09/20(木) 02:27:13 ID:gYbbEYsn
21話はここまで。次回へ続きます。

101 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/20(木) 02:38:54 ID:Pim/gzYS
一番槍GJ

102 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/20(木) 02:57:15 ID:ZLmq5ztl
>>100
GJ、そして乙
…乱入スマソorz


103 名前:名無しさん@ピンキー[age] 投稿日:2007/09/20(木) 03:05:47 ID:aPhhcrfM
保守

104 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/20(木) 07:22:33 ID:6V2fvanv
>>87
これは良いものだ
萌可愛いよ萌

>>100
個人的に華の好感度が上がりっぱなし。
嬉しいけど、でもかなこさんも香織もガンガレ!

105 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/20(木) 10:44:31 ID:vE1Kp3Ea
>>87
グッド

106 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/20(木) 11:11:36 ID:TZ9rgYhA
>>87
ヤンドジというか…頭の弱い子?
好物なので美味しくいただきましたが。

人称の整理と出だしのタルささえなんとかすれば
もっと良くなると思います。

偉そうにして申し訳ない。

107 名前:慎 ◆UPiD9oBh4o [sage] 投稿日:2007/09/20(木) 18:46:02 ID:85365FQ6
大分遅くなりましたが”Versprechung”第1章その1投下します。


108 名前:Versprechung ◆UPiD9oBh4o [sage] 投稿日:2007/09/20(木) 18:47:27 ID:85365FQ6
第1章
―1―
「あぁ~だるい~」
N県警捜査一課にあるデスクの一角で背伸びをする女性が一人。
彼女以外の捜査員は現在外に出ている。故にこんなことを言っても誰にも聞かれないのでまったく問題はない。
つい最近あった市長銃撃事件の捜査に出かけてるのだ。ところが彼女だけは―否もう一人いるのだが、その捜査からははずされていた。
まず第一に彼女はまだ若かった。この課に配備されてからまだ二年目。しかし成果は誰よりも挙げていた。
彼女自身正義感がとても強く。、悪即逮捕の姿勢を貫いてるからだろう。
そのことが今回の外された件にも関わってることは否定は出来ないだろう。
女はでしゃばるな―そういった雰囲気になりつつあるのは彼女自身で感じ取っていた。
そういうわけで彼女にとって今回の件で捜査から外されたのまでは想定内であった。
名目としては、他の事件が起きたときへの対応する人員が必要だから、とのことだった。
「にしても、こんな大変なときにわざわざ事件起こすような馬鹿は居ないわよねぇ…」
明らかに他の捜査員より暇である。ここまでも想定内である。今までの資料整理できる暇があるかなぁなんてことも考えていたものである。
ところが大きく彼女の想定を逸脱することが起こった。他の刑事が捜査に出ている間に起こった事件に対応するためにコンビを組んでくれという申し出があったのだが、そしてそのコンビニなった刑事が…
「はぁ…」
思い出したくもないような人物であった。考えたくも無いような人物であった。
その人物は今席をはずしている。今までにあった事件の資料を読み漁るのが彼の日課らしい。そろそろその日課を終えて戻ってくる頃だろうか…
「どうして私がこんな人と…」
このことは彼女にとって大きな痛手である。いままで積み上げた実績が台無しになるかもしれない…彼女はそこまで考えていた。
彼女にそこまで考えさせるような人物とはいったいどのような人物なのか。
彼女がコンビを組めといわれた刑事―その刑事は課内では厄介者としてあまり好まれてはいない人物であった。
能力はたしかである。洞察力に優れ、行動力もある。だからこそ厄介なのである。
無駄に捜査をかき回す、自分とかかわりの無い事件まで首を突っ込む…
しかも自分の担当の事件がつまらない事件だと判断したらとことん手を抜く。あげく
「俺は面白い事件にしか興味はねぇ」
とのたまう始末。今回の銃撃事件も犯人が挙がった時点で興味をなくしたらしく、課長に自ら外してくれといったらしい。課長としても無駄に動かれるよりは都合がいいらしい。しかし一人にしておくのは問題でもある。一人にしてなにやら変なことをされては元も子もない。
要するに彼女は監視役になったのだ。任命された日を思い出すと今でも忌々しいという気持ちで一杯になる。何でこんなことに…
彼女は今でも1時間ごとに心の中でそういってる。
そう、辞令を言い渡された昨日からずっと…

109 名前:Versprechung ◆UPiD9oBh4o [sage] 投稿日:2007/09/20(木) 18:50:14 ID:85365FQ6
さかのぼること、N市長銃撃事件の翌日―つまり昨日の事。
「お呼びでしょうか、課長」
彼女、松代直子は他の刑事がばたばたとあわただしく動き回ってる中、課長に呼び出されて課長のデスクの下へといった。
「いやねぇ、今回の事件犯人が取り押さえられたといっても裏がまったくわからなくてねぇ…刑事を総動員しようと思うんだ。
何せ市長が銃撃されたんだからねぇ。でもそうなるとこの間に誰もいなくなってしまって他に何か起こったとき対処が出来ない。
だから君には捜査には加わらず、そういった事件の対応をしてもらおうと思ってね」
課長は何かを言いにくそうに彼女言った。裏で何か言いたいことがあるように彼女には見えた。
「わかりましたが、どうして私が?」
彼女は何事も無いかのよう無く聴いた。
その口調が何の感情も無く事務的なものであったのが、課長をさらに狼狽させた。もしや全てを見透かされてるのでは?という不安に駆らせるものだったからだ。
これに明確にむっとしたもの、いらっとしたものなら対処もしやすい。
なだめすかせばいいし、なにより一般的な反応であるという安心感がある。でも、彼女の反応は違う。
なにかわかっていたような反応…予定調和、でもとりあえず理由は聞いとくか…そんな反応だった
課長は、どう答えるべきか迷った。正直に言うべきか、別の理由で逃げるか。
どちらが波風がより立たないか。
なにより、彼女にとってベストなのか。
つまるところ言い換えれば彼にとて何がベストなのかで迷っていたのだが、そこには突っ込みを入れないでおこう。
結局彼が選択したのは正直には言わないことだった。彼女にはあえて言わないほうが良いだろうという判断だった。
「うん、ほら女性関係の事件があったりしたとき、女性刑事がいたほうが対応しやすいだろう?
この課で、女性刑事は君だけだ。となるとね…君が優秀なのは知っている。だからこの判断は心苦しい。だが全体を見たときにベターな選択肢は君を残すということだったんだ。理解してくれないか?」
課長の言葉は一般の人からすると十分な言葉だ。彼女の事をフォローしながら理由を述べてる。しかし、彼女には違った。
彼女はもともと嗅覚のようなもの、身体的なものではなく、勘のようなものといった意味での嗅覚ではあるが、そのようなものが優れていた。
女だからとかいう議論はさておき、とにかく優れてた。外れることもままあるが、当たる確立は一般的なそれよりは高い。
そういったわけで課長の今の言葉には何か裏があるなと、彼女はまったく根拠はないものの瞬間的に思ってしまった。
そもそも彼女が見透かしたかのように発言したのも偶然である。
確かに彼女はここ最近課の男刑事の自分への視線がおかしいいなとは感じていた。だが確信があったわけではない。
それでもその疑念が発言に意図せずとも表れたのは事実である。そしてそれが、課長に対して図らずもプレッシャーを与えたことも。
彼女の次の言葉も、決して確信があって発言したわけではない。だが、他人からみれば十分驚くような言葉であった。

110 名前:Versprechung ◆UPiD9oBh4o [sage] 投稿日:2007/09/20(木) 18:53:17 ID:85365FQ6
まぁいいですが。別に何かあるのならいいですが、そういった理由ならいいですよ。まったく問題はありません。そういった理由ならね。」
課の空気が少し冷たくなった。男どもの動きが一瞬止まった。顔が引きつったものもいた。思考が完全にストップしかけたものもいた。
だが一瞬は一瞬だ。寒気が走ったのは事実だが、直接的なことを彼女が言ったわけではない。彼らはすぐに冷静さを取り戻し仕事を再開した。ただ一人を除いて。
課長は冷静さを完全には取り戻せずにいた。別になんてこと無い一言である。そう普通の。
だが彼女の今までの言動、しぐさ、口調…今日だけじゃない。いままで嫌というほどプレッシャーを浴び続けてきた課長には、正直もう堪えられなかった。
さらにいうなら実言うと課長、彼女に言ってないことがもう一つある。それはもう一つの辞令。
このこともいわないといけないのか思うと、今すぐこの部屋の窓から飛び降りたい気分になってきていた。
それほど彼女のだすプレッシャーはすさまじかった。
彼女といえばそんな課長の様子の変化を敏感に嗅ぎ取っていた。
「これは何かあるわ…」
もはや彼女のなかで疑惑は確信にいたっていた。こんなこと考えたって、どうしようもないことは彼女にはわかっている。
辞令を淡々と受けて仕事を確実にこなせばいいだけの話。
だが課長の変化は明らかすぎた。何かを隠している。誰もがそう思うような急変だった。
うつむき加減で声は小さくなり、さっきの自分の言葉に対してなにか言っている。しかし聞き取れるのはあ~とかう~とか、
歯切れの悪い言葉というよりは、どうにかしてやり過ごすための言葉を考え中という感じの声だけだった。
「課長…」
「…何だね」
「何かおっしゃりたいことがあるのなら、言ってしまったほうがよろしいのでは?そのほうがすっきりなさいますし、後々楽になりますよ。後々ね」
彼女は思い切っり口調を丁寧にしかし冷たくしてみた。これは意図的なものである。
課長にさらなるプレッシャーをかけるための、意図的な口調の変化。
このことがとどめになったのか課長は観念したかのように「後で、話がある、誰もいないときに来なさい」とだけつぶやいた。
その姿は、警察の上のほうに立つ人間とは思えないほど、惨めで、小さいものだった。
このように彼女のプレッシャーは上司すらもひれ伏すほどすさまじい。
課の男供からは影でまだ新人なのに、将来はお局様なんていわれている。
刑事なのにお局様だなんて…彼女はこの呼称を一番嫌っている。仕事が出来ないのに偉ぶってる…そういう印象があるからだ。
さてこんな風に言われてるわけだが、実績を上げている以上、誰も文句は言えない。
このことが彼女が課のなかで疎まれている原因のひとつだと彼女は思っている。
課長は二人で会う場所に近くの喫茶店で指定してきた。少し歩いて川のほうに出るとある喫茶店。
警察内より、そっちのほうが彼にとって都合がいいのだろう。断る理由は無い。
彼女は「わかりました」と一言だけ告げて自分の席に戻った。
戻るときも姿勢は崩さず、綺麗に、優雅に歩く。歩くたびに彼女の長い髪が揺れる。華麗に、しかし威厳深く。
芝居をするなら徹底的に。彼女の課長落し作戦とも言うべき芝居はここに一つの結果を見た。彼女はそう確信して内心でガッツポーズをした。

111 名前:Versprechung ◆UPiD9oBh4o [sage] 投稿日:2007/09/20(木) 18:57:06 ID:85365FQ6
仕事もひと段落した頃、課長に指定されていた時間が近づいてきたので彼女は喫茶店に向かうことにした。
横断歩道をわたり少しするともう川沿いだ。この川は石橋群で有名である。川沿いには観光客が休めるよう店も多い。
今回呼ばれた喫茶店もその中のひとつである。
とはいっても雑誌で取り上げられるような店ではなく、小さく、静かな、地元の店といった趣の店である。
珈琲がとても美味しい店でもある。彼女は別の警察署勤務からN県警の現在の課に所属になってからは、かなりの頻度でこの店に通っている。他の刑事には賛否両論の店だが、自分は少なくともN市1、いや日本でいちばん美味しい店だと思っている。
だいたい人の好みなんて違うんだから、自分がここは日本一だと思えばその時点で日本一の店なのよ、と彼女は思っているので、
否のほうの意見はまったく耳に入っていない。ただし、自分でこの店は美味しいと触れ込むことも無い。
ただただ通うだけであるし、世間には知られたくないとさえ思っている。彼女だけの専用の店になればいいのにとまでは思っていないようだが。
課長もこの店のファンの一人であるようだ。実際店で会うこともよくある。その時は、なるべくにこやかにすごすようにしている。
にこやかに、にこやかに。
逆にそれが課長には不気味に写ってるとも知らず、今日も喫茶店についったときからにこやかモードのスイッチを押していた。
しばらくすると課長が喫茶店に入ってきた。
課長は別にはげてるわけでもなく、中年太りが激しいわけでもなく、眼鏡かけてるわけでもなく、
そこらへんにいる人とは違い少し筋肉質な体をもつ刑事としては理想的な人であった。柔道の有段者であり、抜群の判断力も備えている。
だが彼女に押されてることからもわかるとおり人がよすぎるのが弱点である。
そのため、抜群の判断力も宝の持ち腐れとなっている。が、仕事で鬼になったときの指示出しは完璧である。
いつもそうであればと思う人は多いが課長の人の良さで得をしていることも多いので誰も口には出さない。
さてその鬼モードになったときの課長だが、判断にいっぺんの迷いも無く、それでいて的確な指示を出来る頼れる上司である。
しかしそれ以外となると、他人優先が強く出すぎてしまいうまく判断できなくなってしまう。
彼はそれゆえどうにも頼りない印象を他の課の刑事にもたれてしまっていた。彼女はそのことについて赴任当初かに気づいていた。
いや、気づいてたというより自然と感じていたというべきか。
彼女が今回強気に出たのもそんな感触を持っていた故であり、決して怒りからではなかった。
だがやはり半分は天然での行動であり、後付でこうすればうまく行くだろうと考えるのが彼女である。
今回も最初のほうには課長を軽く脅すなんてことは考えてなかった。あくまで後付である。
しかし彼女はそんなことはすっかり忘れている。最初から考えていたと思っている。
彼女は常に自信に満ち溢れているように見えるらしいが、このような思考体系が自信があるように見えるゆえんだろう。
実際のところはそこまで彼女は自信があるわけではない。むしろ強がりなほうだろう。
彼女は常に気を張っている。男だらけの職場で負けないように、職場で気を緩めることは無い。
服装にも気を使っている。他人に文句は言わせない。言われたくないから、言わせない。事実言われたことはない。
この点に置いては彼女は自信を持っている。
しばらくすると課長が店に入ってきた。小さな店だが場所を知らせるように手を振る。課長はすぐに気づきこっちに向かってきた。
「すまんね。こがんとこに呼び出して。」

112 名前:Versprechung ◆UPiD9oBh4o [sage] 投稿日:2007/09/20(木) 18:58:52 ID:85365FQ6
課長は部下と二人だけになると方言がひどくなる。普段課にいるときはそんなことも無い。しかし課をはなれると、とたんに方言だらけになる。
他の同僚に聞いてもそうらしいので、普段は意識して使わないようにしているのだろう。
「それで、課長、お話と言うのは?」
「まぁまぁ、まずは落ち着かんね。コーヒーもまだたのんどらん。店員さーん。コーヒー、ホットで。」
彼女は気がはやっていた。課長がコーヒーを頼む時間さえもったいないような気がしていた。
辞令に不満があるわけではなかった。だが、何か不穏な空気を一度感じてしまった時点で、
彼女のなかの何かがうずき続けていた。この不穏な空気をどうにかしろと。早く、一刻も早く、と。
「うん、今回の件だが…結論から言ってしまえば、君をおろさざるを得なかった、というこ…」
「どういうことです!?」
「人の話ば落ち着いて聞かんね…うんまぁでもさえぎられたとはいえ結論はわかってくれたと思う」
「だからどういうことかと聞いてるんです!」
「落ち着かんね。ここは署じゃなかとやけん。周りのお客さんとかびっくりしとるたい」
彼女が課長に言われまわりを見渡すと周りのお客さんがびくびくしながら彼女達のほうを
見ていた。
彼女はかなり取り乱していた。自分でもらしくないなと感じていた。深呼吸。息を整え、落ち着きを取り戻す。
「それで、なぜ、私を外さざるを得なかったと?」
「このごろ休みとっとる?」
「え…と…」
彼女は考えてみた。そういえば、最近は課の管轄外であるような事件にも手を出していた。
主に女性警官が手がけてる物には積極的に手を貸していた。そのため毎日残業。休みなんて確かにここ最近とってなかったような気がする。
「取ってない気が…します」
「やろう?ここ最近よう働いとったけん、心配しとっとさ。いつか倒れんやろかと。」
「心配要りません。私はまだ20代。十分若いです。体力もみなぎっています。お心遣いはありがたいのですが…」
「本人は大丈夫って言っても実際はどうやろか?まぁここらで一度小休止してみんね。
この事件、市長が撃たれてる犯人が捕まってるとはいえ、背後関係をつかむのには結構な労力がかかるだろう
。そがんとの捜査入れたら、また疲れがたまってしまう。もしかしたら今までとは比にならないね。
やけん、上司としては絶対に入れられん。そういうことだ。」
課長の言葉一つ一つには重みがあり彼女は何も言い返せなくなった。
「そうですか…残念です」
「言いたいことはわかるさ。このごろ男にあんまりいい目で見られとらんけんその圧力の合ったと思っとるとやろ」

113 名前:Versprechung ◆UPiD9oBh4o [sage] 投稿日:2007/09/20(木) 18:59:49 ID:85365FQ6
「!!」
「わからんとでも思うとったと?まぁあそこまで言ってると、言われてるほうもさすがに怒りたくはなると思うが…」
「課長は…課長はどう思ってるのですか?」
「何を?」
「その…私の事」
「優秀な部下さ。確実に仕事をこなしてくれる頼りになる、ね。いい部下をもってると思ってるよ。これでもまだ一年目で若い。
将来はうちの課のエースになってほしいって思ってる。他の連中も一緒さ」
「じゃぁ…」
「どうして影で何か言うのかって言いたかとやろうけど、まぁあれさ、敬意さ。」
「敬意?」
「そう、敬意。みんな驚いとっとさ。一年目でこがん結果ば出すとは思うとらんやったけん。
おいたちも頑張らんばって思って自分の事を奮い立たせよっとさ」
「わからないです…さっぱり」
「わからんやろうね。でもこれが男ってもんよ。そこは耐えてほしい」
「…でも」
「あぁもうわからんとね?課の連中はあんたの事は信頼しとる。もう、この話は終わり。よか?」
課長は厳しい口調で、でも顔は穏やかな笑顔で言った。彼女の完全に思い違いであり、負けである。そのことを彼女は自分自身で認めた。
「はい、ありがとうございます。」
まったくこの課長は頼りになるのかならないのかはっきりしてほしいと彼女は思った。でも今はため息ではなく笑みがこぼれる。
苦笑い気味の笑いが、自然と。
「何がおかしかと?」
「課長って方言すごいですよねぇ、課では普通に標準語なのに」
「あぁもう仕事中は方言はださんごと訓練しとるからね、でんとよ。
でも普段はこのとおり。本当は普段も標準語にしたかとやけど、どがんしようもなかとさね。」
課長も苦笑い気味に語った。 ふたりの少し抑え気味の笑い声が店内に響いた。
「課長!本日はすいませんでした。ここら辺で帰ることに…」
「あぁ~ちょっと待たんね」
彼女は席から立ち上がろうとしたところで課長に呼び止められた。
「何でしょうか?」
「実言うと君にはまだ言ってないことが…う~ん」
課長の署での何かあるような雰囲気が戻ってきていた。彼女は少し不安になった。
さっきの話題以外に何か言いにくいことがあるとは想定外だったからだ。彼女は課長に尋ねてみた。
「あの、はっきり言ってしまわれたほうが…こちらとしてもいいですし…」
課長は本当に重たそうな口を開き答えた。
「君にはパートナーがつくんだよ。正確に言うと今回の事件でもう一人刑事が外れる」

114 名前:Versprechung ◆UPiD9oBh4o [sage] 投稿日:2007/09/20(木) 19:01:20 ID:85365FQ6
彼女はなぜ課長が重々しく言うのかわからなかった。ただだれかと組めというだけなのに。
「あら。そうなんですか。誰なんですか?私と組む人は」
「…怒らんよ」
「怒りませんよ。何をそんなにビクビクしているのですか?」
「じゃぁ言うよ。君は増田君と組んでもらう。2人で事件等が起きたら解決のために働いてもらうということだ。
期間はとりあえず市長銃撃事件の捜査がある程度落ち着くまでだ。もう一度言うけどこれは辞令ね。」
その名が、辞令が告げられた瞬間、彼女の中の時間が止まった。事態が飲み込めない。
「私が…組むのは…増田君…?
へぇ…っていったいどういうことですか!!!!!!!!!!!!!!」
「…ほら怒った。だから言いとぉなかったっさ…」
課長がぼやく。しかし彼女ははぼやけない。いったいなんであんな奴と組む羽目になってるのか。
いったいどういうことなのか、彼女にはまったくわからなかった。増田君というのは署内一のトラブルメーカーで有名な男だった。
そんな彼を押し付けられた…そう考えると彼女のなかで怒りが生まれてきていた。
「お断りします!そのような辞令、受け取れません!」
机を叩きながら彼女は激しく抗議する。
「いやまぁそういわんで。貴重な体験だと思って…」
「何が貴重なんですか!あんなのと組んでプラスになることなんてあると思うんですか!?プラスになることなんて、何もないでしょう!?」
彼女の言葉は憤りと嫌悪にあふれていた。まるで、この世の終わりがきたかのような振る舞い。
静かな喫茶店の中では異質な空気が2人の間では流れていた。
「それはやってみないとわからんとじゃなかかなぁ。意外にうまく…」
「行きません。万に一つもそういう可能性はありません。」
彼女の拒否反応はすさまじいものだった。
課長のなだめるための言葉を言ってしまう前からさえぎってばっさりと否定するほど素早い反応で、抗議している。
まさにヒステリーとはこのことなのだろうかと課長は思った。だがどうしていいかはわからない。しかたなかうなんとかなだめようとすることにした。
「いやまぁね。決め付けはいかんよ。決め付けは。彼だって一人の刑事だよ。とても仕事熱心な」
「あれは仕事熱心とはいいません。ただ邪魔しているだけです。」
だが彼女はきっぱりと言い放つ。課長も負けずに反論するが、その口調は人柄が出てか、穏やかなものであった。
そのため彼女に圧倒されてるような印象になってしまう。
「まぁ確かに邪魔になることは多いが…彼は彼なりに頑張っているとじゃなかと?」
「無能な人間は動かないほうが有益です」
冷たい直子。暖かい課長。二人の出すオーラはあまりにも相対するものであった。

115 名前:Versprechung ◆UPiD9oBh4o [sage] 投稿日:2007/09/20(木) 19:02:53 ID:85365FQ6
「彼は有能だとおもうけどなぁ…まぁ性格面に問題あるのは否定しないが。」
課長はあくまで穏やかな物言いである。まるでなだめるように、しかしうまくかわしながら反論する。
しかしわずかな隙も彼女は見逃そうとしない。そこにほころびがあるかも?と思ったら迷わずに突っ込むのが直子の持ち味だ。
だからこそ、他人が思いつかないような着想を得。事件の解決へと導くのだ。
また引くのも速い。ここまで問題がさほど発生していないのも、未然に防ぎきってるからだ。
彼女は流れを読むことを得意とするとも言われる。こと事件捜査においてはそうだ。
ここぞというときの判断は課長以上のものがあるとも評判である。
このときもそうだ。このまま課長を説得できる流れが来たと彼女は感づいた。
「問題がある時点で、もはや有能とはいえません。有能な人間とは完璧でなければなりません。」
この一言。意図は課長から譲歩を引き出すこと。そこを突いて一気に切り崩す。
もっとも、今言ったことはただの彼女の持論であり、特にあいての事を考えていたわけではないのだが。
だが課長も課長だ彼女の高圧的な言い方にもひるまずに課長は食いつく。
「でもさ、それじゃ社会はうまく動かんとじゃなかと?」
「なんでですか?」
「完璧な人間なんてそういるわけじゃなかやろ?」
「そうですが、なにか?」
「君の理論ならば有能な人間しか働くな、ということになる。そうなると働ける人はとても少ない人数になるとじゃなか?そうなったらどがんすると?」
「すこし意味が違います。私の理論ではそうなりません。」
「じゃぁどがんなるとね?おいにはそがん風にしか聞こえんやったとやけど」
課長の訛りはますます激しくなってきていた。
「無能な人間も働きます。ただし、彼らは、多くの事を出来ません。だから与えられ役割もそれ相応なものになります。」
ここまではまだ想定内。課長がここまで暗いついてくるとは思いもよらなかったが、だが反論は用意してある。
否、彼女にとって反論の中身云々は本当はどうでもいい。要は相手を圧倒し、こちらのほうが少しでも正しいと思わせればよいのだ。
その時点ですでに勝機は十分に見えている。あとは切り崩していくだけ。直子は課長の事だからこれで今回もうまく行くと思っていた。
「果たしてそうかな?」
ところが課長はなおも食いつく。まるで経験豊かな老人が若者に諭すように。実際彼女は若者であるのだが。課長は穏やかな口調で続ける。
「有能か無能か評価を下すの誰かな?
例えば仕事であれば上司、スポーツであれば監督、ファン…これはあくまで相手からみた視点での評価だろ?
その人から見れば無能か有能かだけであり、その人の本質を表してるわけではない。」
訛りが消えた。直子にとって初めての経験である。
「えぇ、そうですわ。でもその人の一面を表すものではありますよね。」
直子は苦しくなっていた。正直すぐにどうにでもなると高をくくってしまったのが間違いであった。なにも考えていなかった。
このぐらいの質問、来ることぐらい想定できたはず。でも今回は…。ここから先はアドリブだ。
だがそのうち脳がフル回転してきて、そのアドリブでも十分なものになるだろう。彼女はいまだわれに勝機はあり、と信じていた。

116 名前:Versprechung ◆UPiD9oBh4o [sage] 投稿日:2007/09/20(木) 19:06:27 ID:85365FQ6
「そう一面を表すもの。でもそこには評価を下す人の恣意が加わることも加味しなければならない。」
「しかし大多数から下された評価であれば?恣意などで大多数の意見を纏め上げることが出来るでしょうか?」
彼女はとにかく質問攻めをすることにした。いつかは相手が答えに行き詰る。そのときを待って。だが課長は行き詰らない。
まっすぐに、ぶれた形跡もみぜず、回答する。
「出来る。君は郵政選挙というものを見ただろう?あれがまさにいい例だ。あの選挙は争点意図的に作られた選挙だ。
そして見事に大衆はその争点のみを見てくれた。小泉純一郎の勝利でもあったが、あれはマスコミの勝利だ。
まだ利用価値があるとおもわせたマスコミのな。あの時、いわゆる郵政造反組は悪役にされ、そして敗北したものもいた。
悲劇のヒロインになり勝利したものもいた。マスコミが報じた姿がそのまま評価になる、そして結果に出る。
誘導されたとは知らずにな。ま、所詮大衆の評価なんてそんなもんだ。簡単に誘導できる。」
堂々とした立ち振る舞い。その姿は彼女を困惑させる。そのことを表すように、彼女の口調から徐々に威圧感がなくなってきている。
だが彼女はめげない。
「それは論点ずらしです。今自分が言いたいのは」
「結局彼と組みたくないってことだろ?」
図星だ。ここまでうまく論点ずらしをしていたのは彼女のほうだ。回りくどい口調で相手を困惑させる。
そうして撹乱しといてうまく結論を誘導する。そうして立ち回ってきた。が見破られた。
よりにもよって、普段は敏腕と称されるのが嘘に思えるほど昼行灯としていた課長にである。
「わかりました。努力します。」
彼女はあきらめた。これ以上何かをすることはもはや無意味であると考えたのだ。これ以上の悪あがきをする必要は無い。
人がいないといったって、結局その状況が一ヶ月以上続く尾は考えにくいし。彼女は楽観的に考えることにした。
どうせたいした事件も舞い込んでこないだろうし、とも思っていた。
しかしよくよく考えると今日は課長にやられっぱなしだ。頭が回ってないのかな、とでも言い訳したいほどに。
課長も普段からこんな風にしっかりしてればなと彼女は思う。でもそうだったらそうだったで課の雰囲気が変わってしまうだろうなとも。
今の課がうまく回ってるのは課長が表では昼行灯のような状態でありながら裏ではきちんと処理をする、仕事人であるから。
表ではそこまで厳しくないゆえ、課は非常にのんびりした雰囲気に普段は包まれる。
だが裏ではこうしてしっかりと話をする。軽率なミスは許さないし、指示通り動かず失敗しようものならとんでもないことになる。
成果を挙げれば別だが。それゆえ、のんびりとしているとはいえ事件になると空気が変わる。
九州では優秀なほうの部類に入るといわれるこの課はこの課長あってのものなのだ。今日負けたことも考えれば普通の事。
勝てると思った自分が甘すぎたのだ。
優秀とはいえその腕を発揮する機会にはあまり恵まれない。この市では確かに凶悪な事件も起こる。だが年に1回程度だ。
今回の事件が起こってすぐに、またとんでもない事件が来るとは思えない。今
回楽観的に見れたのも軽い事件なら自分ひとりでも何とかやれるという読みがあったからだ。
そう自分一人でやれる程度ならば、相棒なんていてもいなくても問題ない。
むしろいないほうが都合が良い現状、むしろ一人でやれる状況のほうが歓迎である。
市民の皆さんよ、ここぞとばかりに暴れないでくれと思うのは自分勝手だろうが、彼女は心からそう願った。だがしかし、
「そうか。まぁ留守の間よろしく頼むよ。特にちょっと厄介な案件がきていてな…でも君がいるなら安心だ。市長銃撃のほうに全力をまわせるよ。」
彼女の期待を打ち破るかのような声が喫茶店に響いた。

117 名前:Versprechung ◆UPiD9oBh4o [sage] 投稿日:2007/09/20(木) 19:08:08 ID:85365FQ6
声を出したのは課長である。
課長は安堵しきった表情で彼女に伝えた。厄介な案件があると。
彼女の時間が一瞬凍りついた。課長は何かの変な力が使えるのかと一瞬考えたほどだ。
厄介な案件?なんですかそれは?彼女の頭の中は一気にクエスチョンマークに支配された。
「課長…なんですか?その厄介な案件だというのは…」
課長は彼女に尋ねられると、さっきまでの鮮烈な表情ではなく普段の少し弱気な、気のいい人の状態に戻り、少し言いにくそうに語った。
「いやな…うちではちょっと忙しいから扱えない!ってつっぱねたんだが…
向うは向うで、事件性がある、調べろってうるさいんだ。」
彼女はたかに厄介な案件なんだろうなと感じた。人のいい課長が嫌がるのだ。よほどの事件に違いないとまで思っていた。
「それで私達は何をすればいいのですか?」
課長はしばし沈黙した後、簡潔に言い放った。
「…人探しだ。」
再び彼女の時間が止まった。
「課長、いつから人探しがうちの仕事のなかに加えられたのですか?」
「知らん。なんかどこも暇じゃないからうちは何人か残すよって言ったら押し付けてきたんだよ
。まったくまだそれなりに若い子なんだからそのうち見つかると思うんだけどな。
ほら、あるだろ?急に旅に出たり。自分探しのたび~なんか言っちゃって。」
「ですよねぇ。で、どういう人なんですか?探すのは。」
「ほい資料」
課長に手渡されたのは捜索届けのコピーを含む数枚の資料だった。
「大事にしとけよ?落としたらしゃれにならんから。」
「…秀樹?」
彼女の表情が一瞬にして曇った。
「ん、知り合いか?」
「え、えぇ幼馴染でして…でもまさか…」
「ご近所さん?」
「はい、結構近いですね。小学校も一緒でしたし。」
「じゃぁなんで気づかんかったと?」
「彼は今は一人暮らししてますから…でも…」
彼女の言葉からは驚きと衝撃が混じった何かが感じられた。
「へぇ。同じ市にすんどっとに一人暮らしね。まぁ親御さんも裕福かごたんけんよかとやろうけどさ。
まぁとりあえずその彼、宮田秀樹が連絡もなしにいなくなったらしい。というわけで探してくれ」
「探してくれって何の手がかりもなしに?」
「手がかりはいつも用意されてるわけじゃないやろ。自分で探さなんばいかんとよ?言わんでもわかっとるやろうけど。
まぁこういうのをやってくれというのも心苦しいが、まぁ数日たったらひょっと出てくるとも思うし気楽にやってよかよ。
心情としては少し気楽にはなれんやろうけど。」
課長は当初はそこまで真面目にはやてくれなくてもいい、と思っていた。人探し程度、軽めにやってもらって、
本来やるべき課の仕事が空き次第、引き継いでもらえばいいや、と考えていた。
しかしここで一つ誤算。行方不明者は彼女の知り合い、しかも幼馴染的な存在のようだあるということ。これは驚きの事実である。
彼女の性格からしてこの事案、本気で取り掛かるだろう。
他に本来この課がやるべき事件がこの期間で起きた場合彼女はどうするのだろうか?また自分達が市長銃撃から戻った後は…?
本来やるべき課から引継ぎを求められた場合は…?
課長は少し迷った。この人探しをやることをいまから不許可にするかどうかで。
この事案は本来ならこの課がやることではない。ただ人がいるから頼んでみようか、と請け負っただけである。
こちらで不許可にして、その請け負った先の課には暇じゃなかったと報告すれば済む話である。しかし、探し人は…
「課長、やらせてください」
課長の思考を断つように彼女が言う。
「この馬鹿を、私が探して説教してやりますよ。どこ行ってたんだとね。人を心配させた代償はきっちり払ってもらいます。」
彼女の言葉にはもう驚きや困惑の色はなく力強さにみなぎっていた。


118 名前:Versprechung ◆UPiD9oBh4o [sage] 投稿日:2007/09/20(木) 19:11:49 ID:85365FQ6
人物まとめ
松代 直子:N県警の刑事。幼馴染探しに駆られることに
増田君: 直子の相棒となった刑事。トラブルメーカー。
課長:いい人だけど仕事人。
宮田 秀樹:監禁されてる人。直子の幼馴染。
?:監禁した人。約束がどうのこうのといっている。

今まで出てきた人物のまとめです。あと何人か人物が出ます。
今回はこれで投下終了です。


119 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/20(木) 21:25:05 ID:6V2fvanv
>>118
普通に推理小説を読んでいるような気分になった。
と同時にここまで叩かれる増田君が非常に気になる。
どんな登場をするのやら

120 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/20(木) 22:28:31 ID:2j6YuFBn
スレ題的にはまだなんとも言い難いな
刑事物語主体でおまけヤンデレにならないかが不安になった

121 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/09/20(木) 23:01:50 ID:y8Pb8RoT
同感
でもGJ

122 名前:羊と悪魔[sage] 投稿日:2007/09/21(金) 02:36:32 ID:2YnSFZz4
「あの赤い髪のコ、なんだっけ名前、えーと……」
……彼女の赤い髪のことは、そりゃあまぁすぐに広まるだろう。私のところまで来るのに、むしろ遅かったくらいだ。
「あきらのこと?」
「ああそう! あきらさん! ……うにゃ、知り合いなの?」
「うん、小学校からずっと同じクラスだったから」
正確には、小学校高学年から、だけど。
「へぇー! そーだったんだー!」
やけに大袈裟に驚くのぞみ。いつでもテンションが上がったまま下がらないから、彼女がいるだけでそのグループは賑やかになる。
「ああ、石橋さん。『悪魔』ね」
玲が呆れたような顔と声でそんなことを呟いた。
「『悪魔』?」
私は思わず聞き返した。あの大人しいあきらが悪魔などと呼ばれているなんて、一体彼女は何をしでかしたのか興味がある。
玲は言う。
「何考えてんのかわかんないけど、あの子自分のことを『悪魔だ』って言ってんのよ。『話しかけるな、私は悪魔だからあなたたちを食い殺すぞ』ってね」
「……どこの中二病よソレ」
かつてのいじめられっ子が高校デビューで電波少女と化していたらしい。
「でもでもあの容姿と合わせて話題性抜群だよっ。あの子かなり美人だしっ」
理子が興奮しながら言う。あきらが美人……そうなのだろうか? 赤い髪にばかり視線が向いていて、彼女の顔をまともに見たことがなかった気がする。

「お腹すいたー」
「……あんたさっきあれだけお菓子食べといて、まだ食べんの? 太るわよ」
「ダイエットするから大丈夫!」
「そういうこと言う人は大体ダイエットしないのよね」
「玲ー、ハッキリ言わないでよー」
「じゃあのぞみんっ、あたしと一緒にダイエットしよう!」
「理子はダイエットする必要無いわよ。ってか細すぎ! 何食べたらこんな風に細くなんの!?」
「えー? あたし細い?」
「細いわね」
「細いっていうか痩せすぎ。もうちょっと食べなさい」
雑談をしながら、学校の階段を降りていく。時刻はもう六時。下校時刻ギリギリだ。
窓の外はうすい藍色ともいうべき暗闇に覆われていて、車のランプやビルのあかりが、夜を迎える街を彩っている。
私は帰宅部だけど、理子と玲、のぞみの三人は美術部の仲間だ。今日は部活動が無いので一緒に下校できる。美術部の活動がある日は、私は他の友達と一緒に帰る。
最近は誘拐事件も多いらしいし、私はなるべく友達と一緒に帰るようにしているのだ。
「にゃ?」
いきなり、理子が変な声を出した。
というか、変な声を出さざるをえなかったのだろう。私が最初に気付いてたら、私が変な声を出していたと思う。
階段を降りたその先、生徒昇降口を目前にした廊下に、赤い髪の女の子が立っていた。

123 名前:羊と悪魔[sage] 投稿日:2007/09/21(金) 02:37:32 ID:2YnSFZz4
きみこちゃんのいるクラスは今、体育の時間です。この時間、この部屋にいるのは私とカールクリノラースくんだけです。
私が受けるべきだった授業は英語。けれど、そんなものは関係ありません。あの他人たちは私がいなくても困りはしないのです。
さあ、きみこちゃんの机を探しましょう。
座席表は教壇の上にありました。きみこちゃんの席は窓際の、前から二番目の机です。
ああ、ようやく私はきみこちゃんの親友になれるのです。とても嬉しいです。
カールクリノラースくんは何も言いません。
きみこちゃんの机から椅子を静かに引き出します。これがきみこちゃんがいつも座っている椅子。そう思うと身体が悦びで震えます。
やるべきことをやってしまいましょう。机の中から、筆箱を取り出します。
ずっときみこちゃんを見ていたからわかります。この筆箱は中学二年生の夏休み明けから使っているものです。さすがきみこちゃん、物を大切にする人です。
私は筆箱を開け、シャープペンシルを手に取り、制服の内ポケットに仕舞いました。筆箱を閉じ、元の場所に戻します。
これこそが、私の悲願。これでようやく、本当にきみこちゃんの親友になれるのです。

私が本当にきみこちゃんの親友になった日から少し経ってからのことです。
きみこちゃんが、知らない他人たちとおしゃべりをしています。
きみこちゃんはとても楽しそう。きっと本当に楽しいのでしょう。きみこちゃんが楽しいと、私も楽しくなります。

眼鏡をかけた一人の他人が、分厚い本できみこちゃんの頭を叩きました。
きみこちゃんが痛そう。なんて酷いことをするのでしょうか。
けれど、私にはその明るい部屋の中に入ることはできません。
私が悪魔だから? いいえ、ただ勇気が無いだけなのです。ただ足を踏み入れて、きみこちゃんになんてことをするの、と言うだけのことができない臆病者です。
私はただ、教室の入り口からそっと、きみこちゃんの様子を見ることだけしかできないのです。
──本当に、それだけ?
誰かが、そんなことを言った気がしました。
わかっています。カールクリノラースくんです。
カールクリノラースくんの言葉は、私の中から余計な感情を消し去ってくれました。
そうだ、勇気を出そう。勇気を出して、きみこちゃんに会おう。

結局私はその部屋の中に入ることができませんでした。
だから、待ちましょう。階段を降りたところできみこちゃんを待ちましょう。
とても楽しみです。ようやく、きみこちゃんに会える。

124 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/21(金) 02:40:11 ID:2YnSFZz4
羊と悪魔、続きです。
きみことあきらの視点一つずつをワンセットで投稿するのは、読んでる人にもウザイだろうと思うので、
次からはまとめて書いたものをまとめて投稿します。

にしてもあきら、ヤン状態にしかなってねぇよ。どうやってデレさせよ。

125 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/21(金) 09:08:55 ID:8cYvtwfD
>>124
GJ!!
がんばってデレさせてください

126 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/21(金) 13:00:01 ID:6cUbTE45
個人的には結構デレてるように見えるんだけどなあ。
ただ、想っているだけでデレな行動に出ていないから
その辺りが足りないって事かな。

127 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/21(金) 14:27:57 ID:zvZ3s/iJ
>>124
GJ
どういう行動に出るのか期待してます

128 名前:名無しさん@ピンキー[age] 投稿日:2007/09/23(日) 05:58:57 ID:dbm6zqBe
保守

129 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/09/24(月) 23:24:59 ID:azTAyJyY
新参が処女作投下

130 名前:溶けない雪[] 投稿日:2007/09/24(月) 23:28:28 ID:azTAyJyY
「どうして私じゃ駄目なの?ねぇ、何で?どうして?教えてよ……………」
今僕の前に一人の女性がいる
夕方の学校の屋上で、目の前の女性は泣いていた。
いや、僕が泣かしたと言った方がいいだろう。
普通なら男が女を泣かせば大概は男は世間的に最低野郎になるのが普通。
しかし、今の状況の場合では違う
確かに僕が彼女を泣かせたのは事実だろう。でも僕は仕方ないと思う。



彼女に告白され、そして振ったのだから



1
彼女と初めて会った時は僕こと坂田 健二がめでたく高校に入学し、一年間自らの教室になる部屋に足を踏み入れた時だった。
教室に足を踏み入れた時、一人の女子に目がいった
彼女は窓際の席に座っていた。
この教室に在籍している生徒は37人、そのうちの20人が女子という事になっている。
なので、別に教室に入った瞬間に女子に目がいったとしても別に女子の方が人数が多いから別によくある事だし、別段大した事もなしに直ぐに視線を外すのが普通だろう。

それがなんとなしに目が入っただけという理由ならば


131 名前:溶けない雪[] 投稿日:2007/09/24(月) 23:30:35 ID:azTAyJyY
教室に足を踏み入れた時には彼女を含めて、14、5人程が視界に入った。
だが、彼女はその14、5人の一人に過ぎないのに即座に彼女に目がいった。
何故そうなったのかは、頭が彼女に目がいったと認識してから分かった
白、なのだ
肌もそうだが、視界に入る人間の事を忘れさせる程の美しく、長くて白い髪、それが彼女に目がいった理由なのだ。
まるで雪で作られたかのような純粋なる白き髪
正直、こんな何のへんてつもない場所に居るのは場違いだと思ったりした
そんな彼女に目が行って見つめる事数秒、
「よう健二、お前も同じクラスだったんだな、まぁなにはともあれ……って何で入り口でつったってんだ?」
そう言いながら一人の男子が僕に近づいてきた。
はっと我に帰り、その一年前からの友人である雲海 良平に返事をした
「いや、なんでもないよ。少しボーッとしちゃってさ、まぁまたよろしくたのむわ」
そう言いながら黒板に書いてある席順を見て、自分の席にとりあえず鞄を置く事にした。よく考えれば初めて見るような人をまじまじと見つめるのはどうかという事に気付いて、少し自己嫌悪に陥ったりした。


132 名前:溶けない雪[] 投稿日:2007/09/24(月) 23:31:50 ID:azTAyJyY
さて、自分の席について2つ気付いた事がある。
まずは先ほど見つめてしまっていた女子が自分の席の左斜め上に座っている事、そしてもう一つは、彼女の周りに人が居ないという事だった。
教室を見ると、入学したばかりという事もあり、皆は新しい友達作りに励んでいた。
いわばこの最初の友達作りをいかに上手くいくかによってこれからの学校生活が左右されると言っても過言ではない。
そのため、ほぼクラスの全員が教室のところどころに数人で集まって話ている。
だが彼女はその「ほぼ」に当てはまらなかった。
いや、彼女だけがと言うべきか
一人で何をするでもなく、彼女は窓の方を見てた。
恐らく何もする事がないから空でも見てるのだろう。
改めて彼女を見ると髪だけじゃなく、整った顔立ち、落ち着いた雰囲気、髪は白に対して黒であった。
彼女について感想を言うなら恐らく100人中100人がこう言うだろう。
美人と、
彼女は美人だからこそ何で周りに誰も居ないのかが気になった。
こんなに美人なら普通は彼女から声を掛けなくても美人だねとでも言いながら声を掛けられるものだと思う。


133 名前:溶けない雪[] 投稿日:2007/09/24(月) 23:33:45 ID:azTAyJyY
でも、逆に美人すぎるからこそ声を掛けずらいというのもあるのかもしれない。
それでも彼女から声を掛ければ直ぐに打ち解けられる様に思える。ここまで考えて、はた、と気付いた、自分が声を掛ければいいじゃないかと。
別に友達になれないにしてもこんな美人と話して損をするなんて事はあり得ないだろう。丁度これから黒板横で輪を作ってる雲海のとこに向かうのでついでに声を掛けるのもいいだろう。
僕は席を立ち、窓の方に向いている彼女の後ろから
「綺麗な髪だな、こんなに綺麗な髪は初めて見たよ」
いきなりで何だが、言って後悔した。
いきなり挨拶もなしに背後から声を掛けて違和感を感じない方がおかしい。
何より自分に言われてると気付かれないでこっちに振り向かなかったらかなり虚しいじゃないかと
しかしそんな考えはきゆうに終わり、彼女はややあっけに取られていたがこちらを向いてくれた。
「そう、ありがとう
そんな事言われたのは初めてだよ」
ん?初めてだったのか………
案外皆言わないものなのかな?
「そうなの?あまりの美しさに見惚れた位だよ」
思い返すとかなり恥ずかしい台詞だ

134 名前:溶けない雪[] 投稿日:2007/09/24(月) 23:35:50 ID:azTAyJyY
しかし、もし友人が居なかったと仮定するなら、彼女程ではないにしろ、声を掛けるのが恐く感じただろう。
たとえそれが美点になるとしても、他の人とは違うという点を持っている彼女はさらに恐いのだろう
「大丈夫だよ
今日なんかは皆心をオープンにして友人を作ってるからね。
声を掛ければ大丈夫だから自信を持てばいいよ」
「…………うん、そうだね。
ありがとう、頑張って声掛けてみるよ」
少し悩みながらも彼女はそう答えた。
性格も悪いみたいじゃなさそうだし、きっと直ぐに友達が出来るだろう。
「じゃあ、頑張ってね」
そのままの流れで友人のとこに向かおうとして、
「あのさ、名前を聞いていいかな?」
まさか女子に名前を聞かれる日がくるとはな「坂田 健二だよ、君の名前は?」
「私は水無月 雪梨」例え、この後、HRでの王道、自己紹介で聞く事になるのだとしても、こんなに綺麗な人と名前の交換が出来るなど、充分幸先の良い始まりじゃないだろうか?

135 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/09/24(月) 23:37:06 ID:azTAyJyY
投下終了
初投稿だが、しょうじきに乱文、テンポ悪い、面白いとこあった?の見事な三拍子感が否めない
だが後悔はしてない
何かアドバイスとか貰えれば嬉しいです
スレ汚し失礼しました

136 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/24(月) 23:37:57 ID:N2mXTG29
sage

137 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/24(月) 23:53:05 ID:hWuPVcBZ
>>135
GJ!!
初めての割りにかなり上手いと思うよ
続きが気になる



138 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/09/25(火) 00:03:54 ID:azTAyJyY
見直したら修正点orz
髪は白に対し黒

瞳の色は白の髪に対し黒だった

です



139 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/25(火) 00:07:39 ID:4RTA4Mqv
>>135
まだ始まったばかりだけど先が楽しみ、ガンガレ! 続きを待ってる。

あと、メール欄に半角でsageと書いてくり

140 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/09/25(火) 00:14:30 ID:W8xw05QG
>>139
すまない
以後気をつける

141 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/25(火) 00:47:58 ID:h4iq1541
アルビノ

142 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/25(火) 02:25:43 ID:GN5fG0qC
>>140
(°ω°)・・・

143 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/25(火) 05:26:45 ID:gOa3+DVV
>>142
(゚ω゚)ヾ(ω` )

144 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/25(火) 05:45:50 ID:gHpegXWP
>>135
良いねぇGJ!
続きが気になるよ

145 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/25(火) 05:59:17 ID:nYS35BTh
アルビノの人の目は赤くなるはず

146 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/25(火) 06:46:00 ID:tBIywWZJ
>>135
GJ
結構良かったよ

それと


お・・・・・・・男に本気で萌え
と思ったのは始めてだ・・・・・・・

ドヂマンセー


147 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/25(火) 08:21:53 ID:0OMTqsdK
>>135
gj
処女作でこれは全然上手い。

アドバイス欲しいとの事なので気付いたとこ一個挙げます。
>>130の前文と次の段落で文章の形が同じ。
しかもそれが話をぶった切る形なもんだから少しもたついた感じになるんじゃないかな。
自分でも言ってたテンポ悪いってのはこれで大分直るかも。

148 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/25(火) 08:42:02 ID:fW1angxg
>>145
まあそれを言い出したら…な
誰も声をかけないのも、髪が綺麗だと言われないのも疑問の余地がなくなるしな

149 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/25(火) 10:20:46 ID:W8xw05QG
>>145
アルビノググってきた
確かに狙ってはないにしろ目以外はアルビノだた

150 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/09/25(火) 15:49:14 ID:gbhWjLn1
>>135
GJ、そして乙。処女作とは思えない深みを感じた。
アルピノなんだけど黒いカラコンをつけたか、
偶然白変(↓参照)して生まれたからなのかが気になるところ。
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BD%E5%A4%89%E7%A8%AE