301 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/07(日) 00:43:05 ID:AreITkIC
>>229と>>233からわかりあってるようで全然わかりあってないカップルの心情を書いてみました。
この題材は結構使えるから練りこんでみたいなぁ

302 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/07(日) 00:55:04 ID:0Xc1wDrH
作品自体もさることながら、よづりの事を忘れずにいてくれたこともすごく嬉しい。
最初に見たとき別の書き始めてしまった以上、もう続編書いてくれないのかなぁと物悲しくなっただけに尚更

303 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/07(日) 02:30:43 ID:OV6V7ZfE
>>301
続きを心待ちにしておきます、GJです!

304 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/07(日) 03:00:48 ID:UnjjNeXL
>>301
うん。これは・・いいな。
錯綜と依存がいい感じで混在しててこの二人の行く末読みたいかも

305 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/07(日) 14:16:57 ID:RXoTl9P+
さっき車のナビいじってて思ったんだが、ヤンデレカーナビって面白くない?車降りようとしたら「あなたを離さない」とか言ってドアをロックしたり果ては勝手に走りだしたり

306 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/07(日) 14:29:48 ID:ruMftoCB
>>305
ttp://x51.org/x/07/03/1124.php
こんな事させられるわけか

307 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/07(日) 14:35:44 ID:7/DBvBHN
機械相手だとなぜだか怖いよwなんでだろ…

308 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/07(日) 14:36:24 ID:RXoTl9P+
>>306
さすがにココまで行くと…最後は「ずっと一緒」なんて言って海にボチャンとかがいいな

309 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/07(日) 15:11:44 ID:OV6V7ZfE
お前寒くないか?っていいながら火をつけておさらばしてやるぜ

310 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/07(日) 15:17:14 ID:RXoTl9P+
火をつける前にはね飛ばされるんじゃね?

311 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/07(日) 15:26:18 ID:OV6V7ZfE
そうしたらお前みたいなやつもう知らねえ!て言って帰る

その前に死んでるか・・・・

312 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/07(日) 16:36:35 ID:AigLSzfW
もはやカーナビと言うよりは、ヤンデレな「ナイト2000」って感じがするw

車に限らずヤンデレ人工知能ってのも面白そうだと思うんだが

313 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/07(日) 16:55:23 ID:RXoTl9P+
ヤンデレな機械は最凶

314 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/07(日) 16:59:21 ID:iVxXBThV
えっと・・・・


デモンシード?

315 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/07(日) 19:41:55 ID:VhSzRaNU
「コーヒーデキタゾ、ノミヤガレ」

316 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/07(日) 21:35:04 ID:N3CTmQg8
ここでまさかのバジン様

317 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/07(日) 21:53:25 ID:zojzneOj
じゃあさらにはバッシャー様だな

318 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/08(月) 00:14:48 ID:1HW725Oa
ヤンデレの機械には萌えるけどパソコンがヤンデレだったら最悪だよなwwww

319 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/08(月) 02:27:05 ID:m5rUvL7/
電子の世界に連れていかれそうだ。

320 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/08(月) 02:48:56 ID:xR49H+PE
ペットの烏やロボ娘のリミットと一緒にオーバーロードを倒すのか


321 名前:名無しさん@ピンキー[age] 投稿日:2007/10/08(月) 03:38:49 ID:9rESTEl8
それ以前に他スレ読んでたら俺ら死ぬぞ

322 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/08(月) 04:39:07 ID:2fE4ycBw
Jet oneechan got closer

323 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/08(月) 06:40:49 ID:pdSlabBP
>>318
つ「こーこはどーこの箱庭じゃ?」

324 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/08(月) 07:54:48 ID:mPNgNCVz
>>315

コブラでレディが最初に出てきたときの台詞?

325 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/08(月) 18:36:15 ID:rT9nn896
きっと画面から目が離せず、寝ることもできず、ずっとパソコンいじってないといけないんだよ

326 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/10/08(月) 22:37:46 ID:erUdUA9C
前スレの埋めネタの続きが浮かんだので、投下します。

327 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/10/08(月) 22:38:42 ID:erUdUA9C
秋。それは人によってさまざまなあり方を見せる季節。
食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋。
俺にとってはプラモデルの秋だ。
いや、俺は年がら年中プラモデルを作りながらあーでもないこーでもないと言いつつ
プラスチックに色を塗ったりしているわけであるから、秋が特別というわけではないな。
プラモデル作りは俺にとってライフワークである。
よって、俺にプラモデルの秋は到来しない。
だからといって、秋にプラモデル作り以外の何かをしようとは思わない。
新しいことを始める暇があるならプラモデルでも作っていたいのが俺という人間である。
つまり、俺は秋になっても相変わらず、というわけである。

蒼穹の一部に光の穴を開ける太陽は、朝から調子が良さそうだ。
ついこの間まで半袖シャツを着ていたというのに、いつのまにか朝の空気は肌寒く感じられるようになっている。
朝の清々しい空気を吸い込みながら歩道を歩く俺の前方には、腕を絡み合わせているカップルの姿がある。
弟と妹である。実の兄妹同士である彼と彼女は当然恋人の関係にはない。
だが、こうやって後ろから見ていると恋人そのものである。
今すぐベロチューでもかますのではなかろうかと俺に危惧させる程の密着度で2人はくっついている。
そんなべったりとくっついている弟と妹の後方を俺が歩いているのは、ストーカーをしているからではない。
ただ今俺と弟と妹は、登校中の態勢にあるからである。
俺と弟は高校へ。妹は高校から数百メートル離れた中学へ。

妹は中学校へ向かう岐路に立つと、しょぼくれた表情で言った。
「お兄ちゃん……学校行きたくない」
「わがまま言うなよ。学校はちゃんと行かなくちゃ」
「だって、私が学校に行ったらお兄ちゃん私以外の女と……そんなの、許せない……」
「まさか、そんなことありゃしないさ。ほら、早く行かないと遅刻するぞ?」
「うん……行ってきます、お兄ちゃん」
妹は渋々といった感じで中学校の通学路へと歩を進めた。
何度も振り返りつつ、妹は段々と離れていき、角を曲がったところでようやく姿が見えなくなった。

ここからは弟との二人きりの登校である。
高校の正門へと続く坂道は緩やかな傾斜が続く直線の道になっている。
目測で200メートルはあるこの坂は全校生徒にとっての不満の対象となっており、同様に俺も不満である。
この坂道を上る頃になって、ようやく弟の顔から陰が消える。
妹と一緒にいるときの弟は、どこか後ろめたい表情をしている。
それは実に微妙な変化であるため、妹すら気づいていない。――たぶん。


328 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/10/08(月) 22:39:57 ID:erUdUA9C
高校へ着いた。
弟は校舎の玄関の入り口に立つと、無言で俺に手を振って中へと入っていった。俺は首を縦に振って応える。
俺と弟は一つ違いである。俺は現在17歳である。だから弟の年齢は16歳ということになる。
そのため当然学年が違うわけであり、下駄箱の位置も別である。
校舎の壁に貼り付いている時計は7時30分を指している。
生徒がまばらに登校する時間で、まだ玄関は朝の静けさをかすかに残していた。
自分の上履きを収納している棚の前に行き、上履きを取り出す。
上履きを何気なく床に落としたとき、一緒に封筒が落ちてきた。
上を見る。天井しかない。誰もいない。誰かが落としたというわけではないようだ。
前後左右を確認。人の気配無し。俺を監視しているらしき人物はいない。
白い封筒を拾い上げて、再度周囲を見回してから、開封する。
中に入っていたのは二つ折りになっている便箋だけだった。

ふむ。なにかがおかしい。
なぜ俺の下駄箱の中に便箋入りの封筒が入っていたのであろうか?
朝俺が登校する前に下駄箱の中に手紙を入れていくなんて、まるでラブレターみたいではないか。
ラブレターか。思い返せば、今まで恋文というものをもらったことは一度もないな。
弟に見せてもらったことは何度もあるのだが。
今俺の右手の親指と人差し指に挟まれているこのラブレターらしきものは、俺に宛てたものなのか?
いや、それはないだろう。
俺のことを好きだという女がいるとはとても思えない。
俺は女から注目を浴びたことはない。注目されようと思ったこともない。もちろん男に対しても同様である。
だというのに、俺の下駄箱にラブレターが入っていた。
それは、つまり、その。
俺のことを好きだってこと、――――は無いな。無いだろう、さすがに。
きっと間違って俺の下駄箱にラブレターを入れた女の子が居るのだろう。
しかし、今時文章をしたためて恋を伝えようとする女子がいるとは。
俺は感動した。感動したぞ、名も知らぬ女子。
だが、俺の下駄箱に間違っていれたのは失敗だったな。
君が失敗を犯したせいで君の熱い想いがこもったラブレターの封は切られてしまった。
ピンクのハートマークのシールは無惨にも破かれてしまったのだ。
なんという悲劇。数十センチの間合いを違えてしまったために君の慕情は霧散してしまった。
俺も早く間違いに気づいてあげられればよかったのに。俺の阿呆。
こうなっては、せめて君の想いが冷めぬうちに中身を読んでしまわなくては。
そうでなくては、あまりにもこの紙切れ達が可愛そうだ。
送付先の男子にこのラブレターは渡せないが、君の下駄箱に返しておくよ。
また、諦めずに筆をとってくれたまえ。

便箋を封筒から取り出してひろげ、文に目を通す。
なになに、『同じクラスになったときから、あなたのことばかり見ていました』か。
嗚呼、なんと健気なことよ。男子に自らの想いを悟られぬよう、物陰からひっそりと見つめているだなんて。
着物を身に纏った文学少女が木の幹の裏に隠れている姿が浮かぶ。
その純な想いが俺に向けられることはないのですね。まったく、残念だ。
手紙の二行目。『あなたのことが好きです。もし話を聞いていただけるなら、昼休み屋上に来てください』。
おお。喉の奥に甘酸っぱく、それでいてしつこくない感覚がこみ上げてくる。
ひねりをくわえた変化球のような文章では、ここまでストレートな感動は押し寄せてこない。
一体、君は誰に向けてそのストレートを放ったんだい?教えてくれ。

俺は、便箋の下に書かれていた文字を見た。そして目を激しくしばたたかせた。
そこに書かれていたのは、平凡極まりない俺の名前だったのだ。


329 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/10/08(月) 22:40:59 ID:erUdUA9C
*****

昼休み。
俺はいつもより早めに昼食のパンを食べ終えると、屋上へと向かった。
二段とばしで階段を上り、屋上へ出る扉の前に立つ。
どきどきする。顔の熱を下げられない。冷静になんてとてもなれそうにない。
別に興奮しているわけではない。緊張しているからなのである。
今朝俺の下駄箱に入っていた手紙は、間違って入っていたわけではなく、俺に宛てられたものだった。
文章を読んだところ送り主は俺に対して好意を持っているようである。
そして、俺は送り主の正体が気になったからこうやってのこのこと屋上へ向かっているのである。

あの手紙がいたずらでなくば、彼女は俺へ向けて告白をしてくるはずである。
きっと、両手を祈るように胸の前で組んで、頬を赤く染めながら、熱っぽい眼差しで俺を見つめてくるのだ。
その状態のまま、思わず録音したくなる恋の言葉を言ってくれるであろう。
彼女の告白に対する、俺の返事はもう決まっている。
だが俺は、その返事をしていいものか、決断がつかないのだ。
「……ええい!」
開けてしまえ!なんとでもなる。
もしも変な結果になってしまってもその時はその時だ。

屋上へ向かうドアを開ける。
途端に、新たな行き先を見つけた風が廊下へと吹き込んでくる。
視界の先にあるのは開けた屋上の光景。ここから人の姿は見えない。
深呼吸を1回。そして足を踏み出す。
屋上は周囲にフェンスが張り巡らされている。
ベンチが置かれていないのは、あまり生徒が立ち入らない場所だからである。
事実、ここに昼食をとる生徒の姿はない。
さて、手紙の送り主はどこにいるのか。
右を向く。フェンスの向こうに広がる街と空が見えただけだった。左も同様。
誰もいないな。やれやれ、やはりいたずらだったか。
――よかった。一気に肩の荷が下りた。
よし、教室へ戻って惰眠をむさぼることにしよう。

振り返る。と、そこには女子生徒がいた。俺の進路を塞ぐように、屋上の入り口に立ちはだかっている。
いつのまに現れたんだ?足音一つしなかったぞ。
この人が俺を手紙で呼び出したのか?
……だろうな。状況から考えて。

女子生徒は屋上の風に黒い艶やかな髪を任せていた。彼女の髪を見ているとコーヒーゼリーが思い浮かんだ。
別に彼女の髪の毛を食べたくなったとか、そういうわけではない。
彼女の瞳は俺の目に釘付けになっていた。まばたきをするとき以外は、ずっとそんな状態であった。
視線を交わし合って、数秒が過ぎて、ようやく俺は目の前の人物に対して見当をつけられた。
彼女は、俺のクラスで一番の美人であるという評価を男子によって下されている、葉月さんであった。
――ここにきて、俺のあの推測は確信になったな。


330 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/10/08(月) 22:41:56 ID:erUdUA9C
葉月さんは俺の目を見ながら、両手を胸の前で組み合わせた。
こんな動作まで想像通りにならなくてもいいと思うのだが。
「や、葉月さん」
「あ、あの……手紙、読んでくれた?」
葉月さんの声は控えめで、男の庇護欲を駆り立てる響きを持っている。
普段明るい人気者である葉月さんの声は、たった今屋上にて俺一人に向けられている。
なんだか自分が特別な人間になったような気分である。
「うん、朝きたら下駄箱に入ってたから。ちゃんと読んだよ」
「じゃ、じゃあさ……私の気持ちも、もちろん気づいているよね?」
あなたのことが好きです、というのが葉月さんの気持ちであろう。手紙にはそう書いてあった。
手紙の文を信じるのであれば、葉月さんは俺のことが好き、ということになる。
「それでさ……返事は決まってるのかな? できたら、ここで教えてもらいたいんだけど」

返事を早急に要求してくるのはいい判断だ。
告白の返事は早めに受け取ったほうがいい。
告白されてすぐであれば、相手は高揚しているであろうから、いい返事をもらえる可能性が大きい。
しかし、それは告白を受けた相手が好意を抱いている場合である。
つまり、告白してきた相手を嫌いであればいい返事は返ってこないということである。
俺の場合、葉月さんを嫌っていないのだからこれには当てはまらない。
なにせ、クラス一の美少女からの告白である。
俺には葉月さんを嫌う理由などない。クラスの他の男どもと同様に、俺も葉月さんに好意を持っている。
交際を申し込むほど思い詰めてはいないから、告白する気などまったく無かったが。

「ねえ……どうなの?」
葉月さんはそんなことを言いながら、続けて俺の名前を呼んだ。
まるで付き合ってくれ、と懇願しているようである。
葉月さんが一歩踏み出してきたことにより、俺との距離は少しだけ短くなった。
ここで俺が数歩踏み出して葉月さんを抱きしめれば、晴れて俺にも彼女ができるということになる。
だが俺には、そうすることはできない。
よって、告白に対する俺の返事は、こうなる。
「ごめん、葉月さん。……俺、君とは付き合えないよ」

眼前にある葉月さんの顔から、気のようなものが、ふっと消えた。
目を大きく開け、呆然として立ちつくしている。
それはそうだろう。なにせ、俺なんかに振られる形になったのだから。
「どうして……? 私のこと、嫌いだったの?」
葉月さんの目尻に涙が浮かんだ、ように見えた。
距離があるのだから目尻まで見えるわけがないのだが、声を聞いているとそんな錯覚を覚えたのだ。
「俺は、葉月さんのこと嫌いじゃないよ」
「じゃあ、どうして……?」
「……」
言えない。言いたくないのだ。だから早くこの会話を終わらせたい。
俺は、無言でその場を立ち去ろうとした。
が、葉月さんが行き先を遮っていたので、足を止めることになった。
しばらく、目で「どいてくれ」と語ったのだが、葉月さんはどいてはくれなかった。
仕方なく、葉月さんの肩を押してどけようとした。
その時である。俺の視界の天地が逆転したのは。


331 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/10/08(月) 22:43:13 ID:erUdUA9C
ふと見上げた先には空があった。
たった今視界の先に空が広がっているのならば、さらにひっくりかえれば目の前にコンクリートの
地面が広がっているはずだが、そんなの当たり前だな、とか意味もなく考えた。
次に考えたのが、俺はなぜいきなりこんな状態になったのかということである。
ああ。たぶん葉月さんに向けて俺が手を伸ばした時、投げられたのだろう。
痴漢行為をされるとでも思ったのであろうか。そうであればこの反応は正解である。
視界の一部に、葉月さんの頭が割り込んできた。
近くで見ても、変わらず葉月さんは美人顔であった。
「なんで理由を教えてくれないの!? ねえ、なんで?」
涙目と、涙声。これを俺がやったのだ、と思っただけで自分が罪人になった気分になる。
俺が葉月さんをふった理由はある。だがそれは言えない。
「ごめん、葉月さん……」
俺は葉月さんの肩を押し、隙をついて廊下へ向けて駆けだした。
葉月さんの声を、階段を下りながら聞く。
「待って! 待ってよっ! 好きなのに! 本当に好きなのにぃっ!」
悲痛な叫び声だった。その声は、俺が教室へ戻って机に突っ伏すまで耳に残っていた。

俺が葉月さんをふった理由は、葉月さんの告白が嘘であると見抜いていたからである。
そう思うのには、理由がある。

まず一つ目。葉月さんは俺ではなく、弟のことが好きなのだ。
クラスにて、時々複数の男女を交えて会話をすることがある。
その際、葉月さんは必ずと言っていいほど、弟のことしか聞いてこなかったのだ。
周りの男どもは葉月さんと会話できる俺のことを恨めしげな目で睨んでいたが、
俺にとっては葉月さんと会話をするのはそれほど嬉しくなかった。
弟のことしか聞かないのだから、当然俺のことなど一切聞いてこない。
どう考えても、俺から弟の情報を聞き出そうとしているようにしか考えられない。
将を射んとせばまず馬を射よ。将は弟、馬は俺。
葉月さんは弟という将軍の首をとるために、馬である俺を仕留めるつもりだったのだ。
だから、俺と付き合って弟に接近しようと試みた。
そして俺は、葉月さんのその企みを見抜いていた。だからこそふったのである。

これは決して、俺の考えすぎというわけではない。
前例もあった。その前例こそが、葉月さんが嘘を吐いていると思わせた二つ目の理由である。


332 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/10/08(月) 22:44:39 ID:erUdUA9C
あれは確か、中学三年のころだったか。
机の中に入っていたラブレターを読み、俺は手紙に導かれるように体育館裏へと馳せ参じた。
そこで待っていたのは、以前から俺が恋していた(と思う)同級生の女子であった。
彼女は付き合ってください、と俺に言った。俺はもちろんOKした。
その場で彼女と離れてから、俺は雄叫びをあげた。もちろん歓喜によるものである。
たくさん話をして、いろんな場所に行って、あふれんばかりの想いを伝え、あんなことをしたい。
夢のような心地であった。そしてそれは現実に夢まぼろしとなった。
彼女はよく俺の家に遊びに来た。それ自体は別にかまわなかった。
問題は、彼女は遊びに来ても弟としか会話をしようとしない、という点だった。
俺が、弟と会話をする彼女に声をかけると、邪魔者を見る目つきで睨んできた。
決して錯覚ではない。彼女がそんな態度をとるのは一度や二度ではなかった。
そんな感じでだらだらとした関係を続けてきたある日、俺は彼女に別れを告げられた。
俺自身彼女への想いが冷めていたのを実感していたので、簡単に別れることにした。
問題はその後。弟が言ったのである。「今日、兄さんの彼女に告白されたよ」、と。
俺は冷めた気持ちでそれを聞いていた。このときには、彼女の思惑にも気づけていたから。
弟の相談に対して、俺はどんな返事をしたか覚えていない。
付き合えばいいんじゃないか、と言ったのか、やめておけ、と言ったのか。
悲しかった。裏切られたことも悲しかったが、ダシに使われたことはもっと悲しかった。
最初から、「弟との仲をとりもってくれ」と相談してくれればよかったのに。
俺は喜んで彼女に協力していただろう。
弟の傍で幸せな顔で笑う彼女を見ていられればそれで満足できたから。
少しばかり胸が痛もうとも、我慢できたから。

だけど、昔の彼女と同じく葉月さんも俺を利用しようとしていた。
作戦としてはまあ、悪くはない。対象の身近な人間と接触し、外堀を埋めていくのは有効な手段である。
けれど、俺は思うのだ。人の心を踏み台にする作戦など、人がやるべきことではない。
悪魔だ。悪魔の所行だ。人間は生きているのだ。心があるのだ。
踏み台にされてしまえば、人の重みに負けて心が軋むものなのだ。
もう俺の心は鉄筋の骨とコンクリートで組まれた階段ではない。
築50年の学校の、木の階段である。しかも腐っている。シロアリだって潜んでいるかもしれない。
だからもう、踏まれたくないのだ。壊されたくないのだ。そっとしておいて欲しい。
ごめん、葉月さん。俺をそうっとしておいてくれ。これ以上、女という存在に絶望させないでくれ。
女は皆が男を裏切ろうとしているとか、妹は兄と結ばれることを夢見ているとかいうのは、もうたくさんだ。

俺は、昼休み終了を告げるチャイムが鳴ってからもずっと机の上で寝たふりを続けた。
昼休み終了から帰りのホームルームが終わってクラスメイトが帰るまで、ずっとそうやっていた。
ようやく人気がなくなったのは、六時になる五分前であった。


333 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/10/08(月) 22:46:37 ID:erUdUA9C
*****

きっぱりと、ふられちゃった。
昨晩寝ずにラブレター書いて、眠気を我慢しながら目一杯力を入れて化粧までしてきたのに、
あっさりとふられちゃった。
せめて、少しだけ迷う素振りでも見せてくれれば望みはあったのに、それもなかった。
ということは、彼にはすでに心に決めた女の人がいるってこと?
そんなはずがない。だって、彼の弟はそんなこと言ってなかったもの。

私は高校に進学して、彼に出会うまで男子に恋をしたことがなかった。
それは決して私がレズっ気があるからというわけではなくて、周囲に魅力的な男子が居なかったから。
どの男子も、見ていて恥ずかしくなるぐらい子供っぽかった。
だから、いくら口説かれても告白されても、胸がときめくということがなかった。
高校に上がったら男子も成長しているはず、という期待は外れてしまった。
むしろ、変な目で私の体を見てくるようになったことでさらに悪化したようにさえ思えた。
唯一の例外が、彼という人間だ。
入学当初は、名前も知ろうと思わないほど、興味の対象外の存在だった。
それがひっくり返ったのは、一年生の六月に全校生徒参加で行われた、河川敷のゴミ拾いの時。

全校生徒総出で河川敷を拾うとなると、中にはまじめに作業しない生徒もいる。
皆友達と歩きながらおしゃべりしていた。まじめにやるのは、先生が近づいたときだけ、という有様だった。
私は1人でゴミを拾っていたのだけど、やっているうちに馬鹿馬鹿しくなってきた。
私以外の誰一人としてまじめに拾っていないのに、どうして私だけがまじめにやらなければならないのか。
自分だけがおかしいのではないか、とまで思えてきた。
もうやめてしまおう、と思って女友達のところへ向かったとき、彼が私に近寄ってきてこう言ったのだ。
「葉月さんも休憩? ならゴミ袋、貸して」。
どういう意味か、すぐにはわからなかった。けれど、彼の服の汚れ具合を見たら疑問は解決した。
彼の体操服は草や土で汚く汚れていたのだ。彼は、そんなになるまで熱心にゴミを拾い続けていた。
注目すると、彼は人が立ち入らないような草が生い茂った場所まで踏み込んでいた。
そして、ものすごく満足そうな顔をしながら、ゴミ袋を掲げて出てくるのだ。
拾ったどー!と吼える彼を、皆は笑って見ているだけだった。
誰一人として、彼を手伝おうとはしなかった。
私は、彼を手伝おうと思ったのだけど、どうしても足は動かなかった。
その場に足を縫いつけられたかのようだった。
そんな状態になっても、視線は彼の姿を勝手に追う。
彼が進んでいく道には、満杯になったゴミ袋だけが残っていた。
彼の背中を見つめたまま、作業終了の時刻になり、私は学校へ戻った。
けれど、教室に戻って彼の姿を探しても、どこにも見当たらなかった。
彼が戻ってきたのは、私たちが学校に戻った二時間後。
ゴミ袋の代わりに、大量のジュースを持ってクラスへやってきた。
なんでも、河川敷のゴミ拾いに感謝した付近の住民が持たせてくれたらしい。
ジュースは全校生徒には行き渡らなかったものの、クラスメイト全員の手には渡った。
一年以上が経った今も、私はその時にもらったジュースを飲んでいない。
冷凍庫に入れたまま、ずっと保管している。毎日霜を落としているので保管状態は万全だ。
あのジュースは、私が彼に惚れた日の記念品なのだ。

あのゴミ拾いの日をきっかけにして、私は彼の姿を目で追うようになった。
高校生には見えないほど、威厳のある背中。
異性に対する、達観したようにさりげない態度。
そして時々見せる、憂いを帯びた眼差し。
皆で夏休みに家族でどこへ行った、という会話をしているときにその目をよく見た。

気づけば私は、彼のことばかり考えるようになっていた。
今では、彼の姿を見られない日には悲しくて寂しくて、泣きたくなるほどになっている。
そんなときは、彼が来て私の涙を拭っていく夢を必ず見る。そしてさらに寂しくなってしまう。
もうこんな状態は耐えられない。そう思った私は、ずっと彼に傍にいてもらおうと決めた。


334 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/10/08(月) 22:49:41 ID:erUdUA9C
しかし、いざ彼の心を虜にしようと思っても、どうしたらいいのかわからなかった。
友達に、「好きな人がいるからどうしたら付き合えるのか教えて欲しい」と聞いても、
「葉月ちゃんなら、話してるだけでオッケーでしょ。どんな男もイチコロだって」と言われるだけだった。
話しかけるだけなら、すでに実践している。けれど、彼は私に惚れているようには見えない。
むしろ、彼と話す度にどんどん惚れ込んでいくのは私の方。どんなことを話せばいいのかもわからない。
何を話しても、些細なことを聞いても、彼の眼差しは私の邪な感情を見透かしてしまう気がする。
本当は聞きたいことが山のようにあるというのに、聞くことができない。
彼女がいるのかいないのか。どんなタイプの女の子が好きなのか。
私のことは、恋愛対象として意識してくれているのか。日ごとに聞きたいことが心に溜まっていく。
だけど彼と話をしたい。私だけに向けられた彼の言葉を胸に刻みたい。
だから、あたりさわりのない会話として、弟さんのことを聞くことにした。
彼はちょっと複雑そうな顔をしていたけど、ちゃんと教えてくれた。

彼から弟さんの話を聞くうちに、私はあることに気がついた。
彼と仲良くなるために、弟さんの協力を得ればいいのだ。
そのことに気づいてすぐ、弟さんを捕まえて彼の情報を聞き出した。
どうやら彼に彼女はいないらしい!一瞬で、世界が光り輝いているように見えた。それが昨日の出来事だった。
勢いをそのままに、彼への想いをしたためたラブレターを書き、彼の下駄箱へ入れたのが今朝。
そして、ふられた理由もわからないまま呆然と屋上でうなだれ続けて、ようやく立ち上がれたのが今。

今の時刻は何時かわからないけど、空はとっくに灰色に染まっていた。
午後の授業、全部さぼっちゃったな……。でも、今の私の顔を彼に見られたくなかったからこれでいい。
これからどうしよう?彼にあそこまであっさりとふられてしまったということは、やっぱり私のことなんか
眼中にないということなんだろうか。
――いや。眼中にないというのなら、無理矢理にでも視界に割り込んでやるまで。
だって、この想いは私には止めようもないほど大きくなっているのだ。
そして私も、止めようとは思わない。彼に全て受け取ってもらうのだ。
粉々に打ち砕かれても、私は諦めたりなんかしない。
「……諦めて、たまるもんかっ!」
絶対に、この初恋は実らせてやるんだ。

幸いなことに、明日は学校が休みだ。
今までは憂鬱で仕方なかった休日だけど、明日は違う。
彼の家に押しかける。クラスメイトが遊びにくるぐらい、別におかしいことじゃない。
もう、自分にできる手段は全て実行するまで。
彼を手に入れるためなら、どんなことでもする。
彼がどうして私をふったのか、その理由を明日はっきりと聞き出してやるんだ。

もし、彼に女がいるのであれば――寝取ってやる。
初恋の人に、初めてを捧げるなんて、なんてロマンチック……。
今日、ちゃんと眠れるかなあ?


335 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/10/08(月) 22:51:25 ID:erUdUA9C
とりあえず、前編を投下しました。
後編は近いうちに投下します。

336 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/08(月) 22:53:53 ID:if4qS3nE
1stGJ

337 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/08(月) 22:55:45 ID:+fh7TI60
リアルタイム……G、、GJ
体裁とか抜きにここまで続きにwktkした作品は久しぶりだ
続きにも期待してる

338 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/08(月) 22:58:35 ID:5tj8VrOT
GJ……なんだけど、登場人物にヤンデレ要素が見当たらない。
しいて言えば、葉月かな?

339 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/08(月) 22:58:46 ID:Tea/ekaM
>>335
GJGJ!
お兄ちゃんいろんな意味でカワイソス。
葉月ガンガレ!

340 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/08(月) 23:00:47 ID:Tea/ekaM
>>338
葉月が病みかけてるのもあるが
前スレの埋めネタまだ読んでないのか?

341 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/08(月) 23:01:57 ID:t7OR1koh
お兄ちゃんに(スレ的な意味で)春が来ますように・・・

GJっす!

342 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/08(月) 23:40:56 ID:gnTO/FX9
GJ
だけど前スレの埋めネタに気づかないで
こっち来ちまってたよ
まとめにあるかなぁ

343 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/10/08(月) 23:42:34 ID:O4jolo+M
GJ!!!続きが気になっちまうぜ・・・
お兄ちゃんは本当に幸せになってほしいと思う。

344 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/08(月) 23:56:03 ID:d6ex25qv
弟はモテモテだが兄貴はすげー地味

これなんて俺?
俺が弟のこと好きなところまでそっくりだぜ・・・

345 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/08(月) 23:57:10 ID:T6MvjsVl
見事に埋めネタに気づけなかった俺哀れ
誰か.datか.txtでくれる神はいないものか

それはともあれ

G J !

346 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/10/09(火) 00:21:19 ID:cjmGH4sH
>>335
GJ!!!

347 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 00:21:51 ID:cjmGH4sH
すまん・・・ageてしまった・・・・。
ちょっとヤンデレに殺されてくる。

348 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 00:50:01 ID:twOj1VNe
自宅訪問→やっぱり弟狙いと確信という最悪のコンボになりそう。
どんな風に病んでいくか今からwktk

あとは、弟がどうなるかな。
妹との事を全面的に受け入れているわけではないみたいだけに、気になる。

349 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 01:30:47 ID:mJXi53O/
GJ!

ところで前スレ呼んで思ったが、何で弟は兄貴のこと味方してやらないのかね?
一種の家庭内暴力だろ、あれは。

350 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 01:46:46 ID:TOXF724i
前スレのログうp
うん、すまない、HTMLなんだ。それでもよければ落としてくれ。

ttp://www11.axfc.net/uploader/20/so/He_38762.xxx.html
パス:yan

351 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 01:52:59 ID:TOXF724i
なにやらPC内を漁ったら生DATもあったのでうp

http://www.uploader.jp/dl/k1320/k1320_uljp00183.dat.html
パスは同じ

352 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 02:14:42 ID:4uGOQ5b8
>>351
DAT再生ツールって窓であったっけ

353 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 02:19:56 ID:mEdsWwzW
専ブラで表示できなかったっけか

354 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 02:36:45 ID:KqwUsefO
長男死亡フラグ立ってるしどうなるんだろ

355 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 02:44:43 ID:FaScJqYE
>>352

Janeしか知らないけれど、
とりあえずログにdatを放り込んでボードデータの再構成をクリックすれば普通に見られるようになる。

356 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 03:11:04 ID:D97Ys1iP
ぶっちゃけ弟が妹と一緒にいながら後ろめたい顔をするのは、
兄に気があるから。

と、ホモフラグを考慮しているのはオレだけじゃないはず

357 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 03:42:57 ID:to082kNN
ニコニコでスマソ
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1225347
このレナだったらヤンデレって呼んでもいいよな?

358 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 03:45:14 ID:to082kNN
ああああああh抜くの忘れてた!

病んだ幼なじみに殺されてきます……

359 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 03:50:05 ID:wSfFHZM4
まぁ、いいんだろうけど…
レナをヤンデレって呼びたい奴って本当多いな
このあいだ詩音もヤンデレって言ってる奴いたし

360 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 08:12:51 ID:ri0ST+kY
レナは違うが、詩音はヤンデレじゃないか?

361 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 08:40:21 ID:oD6D+uUH
ひぐらしは境界線が難しい…レナは病んでるだけ、魅音は微妙、詩音はヤンデレ

362 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 09:07:53 ID:aQkD63ql
ttp://kill.g.hatena.ne.jp/xx-internet/20071008/p2
まさか宗匠がこのスレの住人だとは思ってもみなかったぜ……!

363 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 09:48:53 ID:wSfFHZM4
ソレ誰?

364 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 13:58:18 ID:kZXpB518
>>349
弟が兄のフォローをすると「弟の心の一部を奪われた」妹がキレるからです

365 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 16:15:36 ID:CpTAZY18
詩音→悟史を愛するが故の凶行=ヤンデレ
レナ→圭一に好意はあるがそれ故の凶行ではない=Notヤンデレ
魅音は微妙以前に病んでなくね?

366 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 17:16:28 ID:r0rHkLW7
前スレの埋めネタ見たけど、マジで悲惨だな。
お兄ちゃんには是非幸せになってほしい・・・望み薄かな?

367 名前:溶けない雪[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 18:46:01 ID:QQ61Wk/i
ようやく書き終わりましたので5話投下していきます

こんな駄文を毎回呼読んでくれている方々に感謝を



368 名前:溶けない雪[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 18:47:25 ID:QQ61Wk/i
5
水無月 雪梨視点より


「それじゃあ、僕はこっちだから」
そう言い、彼は私と反対方向に向かい、帰っていきました。


私は帰りながら、今日の彼との会話を思い出していました。
それなりに、話をする事は出来たけれど、
内容が内容なので会話というのも少し首をかしげるけど。
その内容とは、 私が彼に興味を持ったという事。
会話の内容を思いだし、私は苦笑しました。
我ながら、意味が分からない事を言ってしまった。
大体、興味を持たれた人が、興味を持ったなどと言われても、
どうすればいいのか分からないだろう。
全く、いくら彼に話掛けられて動揺していたとしても、
微妙な雰囲気にするのは頂けないと思う。
でも、普通じゃない会話をしていたから、
彼も私に少なからず興味を持ったはず。
それはそれで結果オーライだろう。

私は彼に興味を持ったと言ったが、それには少し語弊がある。
つまる所、私が興味を持ったというのは




想い人に対する興味だった。









彼と初めて会った日を思い出す。
その日、私は入学した高校の初めての登校だった。
高校受験頃に、こちらに引っ越してきたので、高校に友達は1人として居なかった。
だけど、中学の時も、ほとんど同じ条件から始まったようなものだったから、


369 名前:溶けない雪[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 18:48:21 ID:QQ61Wk/i
また普通に友達位作れる、そう楽観していた。
しかし、そんなに簡単な話ではなかった。
中学の時はまだ、私の白い髪を見て、
皆はなんでだろうと、思いはしても、
珍しい物見たさで私に話掛けてきたお陰で、友達もそれなりに出来た。
友達がたくさんできたても、私は増長とかする性格でもないので、
髪を理由にいじめられる事も無かった。

高校に着き、教室に入った瞬間に突き刺さる、視線。
好奇の目を全く隠さずに、教室中から視線を向けられた。
さっきまで、頑張ろうと思っていたのが嘘みたいに、頭が真っ白になった。
ほんの少しで、私を見ていた目は、私が入る前に戻ったが、
私にはその少しが、何時間にも感じられた。
視線に晒されている間は固まっていた私だったが、
視線が外れた今、固まっていても、
恥ずかしいだけなので、前の黒板を見て、自分の席に着いた。

自分の席に着いても、思った通りというか、私は浮いていた。
教室中の人達はまるで、私が見えていないんじゃないか?と思ってしまう位だった。
独り



そう、孤独だ。
この、教室という名の世界で私は孤独だった。
周りに知り合いはいない、話掛けてももらえない、話掛けたくても心が折れた。
私はその時震えていた。
身体的にではなく、心の底で震えていた。
いや、もしかしたら体も震えていたかもしれない。
そんな孤独に震えている時でした。
「綺麗な髪だな、こんなに綺麗な髪は初めて見たよ」
背後から声が聞こえてきました。


370 名前:溶けない雪[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 18:49:23 ID:QQ61Wk/i
最初は、私に声を掛ける人なんていない、と思っていたから
自分に言ってるとは思いませんでしたが、言葉の、「髪」
の部分を思い出し、振りかえりました。
そこには、男の人が立っていました。
その事に驚くと同時に、声を掛けられて安心しました。
彼と話をして、一人ではなくなると思ったから。
単なる好奇心からでもなんでもよかった、
独りじゃなくなるのなら。
でも、振り向くだけでは会話にならない
ちゃんと返事をしないと、無愛想に感じてしまうだろう。
「そう、ありがとう。
そんな事言われたのは初めてだよ」
そう、彼は髪を綺麗だと言ってくれたが、そんな事は初めてだった
普通の人と違う髪なんて、興味の対象にこそなっても、
綺麗だとかを考える人はそんなにいないだろう。
「そうなの?あまりの美しさに見惚れて位だよ」
「あなたは冗談が上手いんですね」
本当に上手いと思う。
さらりと言われなければ私は真に受けて赤面してしまっただろう
「君は女子の方に声を掛けないの?かなりお節介だと思うけどさ」
その事を言われて、思わず私は、自分の下を見てしまいました。
声を掛けられない事を彼に相談してもいいのだろうか?
初対面の、しかも男の人に。
でも、相談しなかったらきっと、このまま時間がすぎるだけだと思う。
それに、少し話をしただけだけど、彼ならきっと
ちゃんと相談に乗ってくれると思う。
結局、私はほんの少し間を置いて、相談する事にしました。
「声掛けたいけたいんだけどさ、
私って髪の色が普通じゃないじゃない?
だから声掛けるのが正直な話恐いんだよね。
君みたいに掛けてくるならそういう心配しなくてもいいんだろうけどさ」
内心を話し、彼の返事を待つ。
しかし、別に答えを気にしているわけではない。
どう言われても、結局は自分が解決させるかさせないかなのだから……。
「大丈夫だよ。
今日なんかは皆心をオープンにして友人を作ってるからね。
声を掛ければ大丈夫だから自信を持てばいいよ」
彼が、私の相談を聞いて、
答えてくれたのは、そんな言葉だった。
私はその言葉を聞いて、
頑張って声を掛けてみようと思えた。
別に、言葉でそう思えたわけではない。
只、彼の真剣さを感じた。
それだけだった。
最初は、興味を持ったから声を掛けてきたと思っていたけれど、
話をして分かった。
彼はきっと、私を心配していたのだろう。
皆が話をしているなか、ただ一人だけ席に居る私を。
きっと、髪の色が普通でも彼は私に話掛けただろう。
彼は凄く優しい。
それに気付けたから、私は頑張れると思った。


371 名前:溶けない雪[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 18:50:27 ID:QQ61Wk/i
「・・・・・・・・・うん、そうだね。
ありがとう、頑張って声掛けてみるよ」
素っ気ない言葉で言ってしまったけれど、
本当に感謝してる。
あなたのお陰で、私は頑張れると思えたのだから。
私の返事を聞いて、彼は安心した様な顔をした。
「じゃあ、頑張ってね」
そう言って、彼は黒板の方向に歩いていきました。
元々、心配になる人が居たから、
私に声を掛けたので、仕方がない事でしょう。
話掛ける理由が解消されて、その事以外に、
私に用がないのだから当然だ。
彼が、心配だから、という理由だけで声を掛けたという事が
再確認させられるが、同時にひどいなぁーとも思う。
そんな優しさにふれてしまったら、
もう手放したくなくなるではないか。
多分、無自覚な優しさなのだろう。
自覚がない優しさは時として残酷だけれど、偽善とか、
上辺だけの優しさよりかは遥かにましだ。
何故なら、無自覚だからこそ、
心の中にまで踏み込んできてくれるから。
彼から声を掛けてきてくれたんだ、今度は私から声を掛けよう
そう思ったと同時に私は彼の背中に言う。
「あのさ、名前を聞いていいかな?」
親しくなるための、初めの一歩の言葉を。


372 名前:溶けない雪[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 18:50:59 ID:QQ61Wk/i
投下終了
正直な話
手こずって投下するのが遅れました

ふがいなくてすみませんorz


373 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 18:55:16 ID:r0rHkLW7
GJ!!
これからどのようになっていくのか、楽しみで仕方ない。

374 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 19:03:11 ID:smmPSU6T
ktkrktkr!!

GJでやんす。

375 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 19:06:11 ID:+yoT90a5
( :∀:)イイハナシダナー

376 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/09(火) 19:13:52 ID:NoRvxLnA
>>372
これはいい依存の兆し。
思い詰めちゃった挙げ句に暴走しちゃうんだろうかと今からwktk

377 名前:羊と悪魔[sage] 投稿日:2007/10/10(水) 01:19:12 ID:NYiV8XTy
「玲……ッ」
何故、玲は殺されたのか。何故、玲が殺されなければいけないのか。
何一つわからないまま、私はただあきらの隣でうつむいて、涙を流し続けていた。
不敵な笑みを浮かべる。分厚い美術史の本を読む。いつも私や理子やのぞみの心配ばかりしている。そんな玲が、死んだ。
人が死ぬということを今まで知らなかった。テレビの向こうで人が死んでも何も思わない何も感じない。死は、現実じゃなかった。
首にパレットナイフを突き立てられた玲は、驚いた顔のままで、永遠に停止していた。
あれが、死。死という現実をいきなり押し付けられた私は、今まで夢を見ていたのだろうか。
ただ、泣いていた。玲の顔が目の前にある気がして、それが怖かった。泣いていれば、現実から逃げられる気がした。
現実逃避している。そんなのはわかってる。でも、泣きたかった。
「玲……」
「やめて」

突然の否定に顔を上げると、あきらが私を睨んでいた。
「あんなゴミの名前を言うのはやめて」
あきらの眼は鋭く、風船のような私の心を今すぐにでも割ってしまいそう。
「『あれ』はきみこちゃんを穢そうとしたんだよ。あんなゴミは、消えたほうがよかったんだよ」
なんであきらがそんなことを言うのか、私にはわからない。
「きみこちゃんは私の『親友』なんだから。私の『親友』を穢す奴は消えてしまえばいい」
「あ、あきら……」
「あんなゴミはきみこちゃんの『親友』なんかじゃない。あんな淫乱女、死んでよかったんだよ」
なんで────!
「なんでそんなこと言うのよっ!」

「だって私は、きみこちゃんの『親友』だから」
薄く、笑う。
背筋が、いや全身の神経一本一本が冷えていく。
赤い前髪から僅かに覗かせたあきらの眼は、ひどく暗かった。
「なに、言って」
「ときどき不安になるんだ、きみこちゃんが私のこと忘れちゃうんじゃないかって」
「あ、あんた……!」
「私のこと忘れて、きみこちゃんを穢そうとする連中と楽しそうに話しているんじゃないかって、すごく不安だった」
あきらのことは、ただの同性愛者だと思っていた。
それか、みんなの中心にいる私を羨望の的にしているだけだと思っていた。
「ねぇ、きみこちゃん」
違う。あきらは何もかもが根本から違う。
「私はきみこちゃんの親友だから、きみこちゃんを穢そうとする奴はみんな消してあげる。あの眼鏡をかけた他人みたいに。
私はきみこちゃんの親友だから、きみこちゃんのものは勝手に持っていくよ。きみこちゃんがそうしたように。
私はきみこちゃんの親友だから、ずっとそばにいてあげるね。どんなときも。
きみこちゃん、愛してるよ。きみこちゃんだけは絶対に嫌いにならないから。

だからきみこちゃんは、あんな奴と一緒にいちゃだめなの」

私はようやくそこで、一つの事実に気がついた。
「あんたが玲を殺したの?」
「うん」
あきらは、ぞっとするほどに可愛らしい笑顔で、そう言った。
その笑顔に、全身の神経が凍りついた瞬間。私はベンチに、押し倒された。

378 名前:羊と悪魔[sage] 投稿日:2007/10/10(水) 01:19:48 ID:NYiV8XTy
きみこちゃんは私のもの。
いつから私はこんな妄想にとりつかれることになったのでしょうか。
最初は違っていた気がするのです。最初は、きみこちゃんのことを、許していたような気がするのです。
──最初とは、いつのことだったのでしょうか。

私は愛されないこどもでした。
赤い髪をもって産まれたとき、父も母も驚き、私が本当に自分たちの遺伝子を受け継いでいるのか疑心暗鬼になったそうです。
本当の娘ではないのかもしれない子供に、愛せるわけがありません。今の私は父と母の想いがよくわかります。
私の小さな愛無き世界で、私は愛というものが理解できませんでした。
絵本を読めば、登場人物はみんな優しい眼をしています。他の誰かが他の誰かに向ける眼と同じです。
私に向けられる眼は、絵本の登場人物が悪魔を見るときの眼でした。
「悪魔め、おまえは生きていてはいけないんだ」
そんなことを言われてる気がして。
悪魔であることが怖かったのです。きっと私は、優しい眼を向けられることを望んでいたのです。叶わなかったけれど。
だから赤い髪を隠しても、他人たちの眼は変わりません。
髪を染めればよかったのでしょうか。でも赤毛のアンは黒く染めようとして緑色の髪になってしまったといいます。結局、何も変わりません。
きみこちゃんの眼も、悪魔を見るような眼でした。
それでも、きみこちゃんは、今まで私が言われたことがなかった言葉を、言ってくれたのです。

『じゃあ、私とあきらは親友ね!』

きみこちゃんは何気なく言ったのでしょう。もう忘れているかもしれません。
けれどその言葉は、私にとっては、神様の言葉よりも神聖で、大切な言葉でした。
きみこちゃん。私を親友だと言ってくれたきみこちゃん。
私にはきみこちゃんしかいません。きみこちゃんが見えない場所に立たされたら、私は生きてる意味を失います。
私みたいな悪魔に、親友と言ってくれたきみこちゃん。
だけど、それでも私は悪魔なのです。
悪魔だから、こんなことを考えるのです。
きみこちゃんは、私のもの。
神様、神様、私を地獄に堕としてください。私のような悪魔は、二度と出てこれない地獄に落としてください。
私は人に迷惑をかけることしかできない悪魔です。

きみこちゃんの半分開いた瞼からこぼれた涙を見つめていて、私は自分が何をしてしまったのか思い出しました。
引き千切られたきみこちゃんの制服。きみこちゃんの腿に流れる、赤い血。
ごめんなさい、きみこちゃん。
私は、酷い悪魔です。

379 名前:羊と悪魔[sage] 投稿日:2007/10/10(水) 01:28:36 ID:NYiV8XTy
羊と悪魔、終盤です。ここで一つの区切りになります。
遅筆ですが、生暖かく見守っていてください。駄文ですが頑張ります。頑張りますとも。

380 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/10(水) 01:29:55 ID:zeBk9pkl
>>379
応援しております
頑張ってください!!

381 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/10(水) 07:06:56 ID:KKNxbR1m
>371
語尾が「○○ました」みたいな丁寧な形なのと、「○○だった」、「○○だろう」のような砕けた形に分かれているのがちょっと気になった。
学校の課題図書に対する読書感想文のように揃えるのも味気ないけど、同じ人間の一人称なんだし、ある程度はまとめたほうがいいと思う。
それとも、主人公の動作に対してのみ前者の形とか、そういう風に意図的に使っているんだろうか?
だったらすまない

382 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/10(水) 10:51:23 ID:P+ZIauJH
――――書き方講座 終了のお知らせ――――

383 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/10(水) 12:02:37 ID:B561rJkN
>>379
GJGJ
結末も分かっているんだけどやっぱりあきらカワイソス

384 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/10(水) 13:20:29 ID:FEr7TCMR
>>381
作者の意図はここでは置いとくとして

ました←行動説明
だった←現状説明
でしょう←推測説明
みたいな感じではないのか?


385 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/10(水) 16:37:58 ID:NyGkW0Az
文章の書き方もわからない奴が職人してんの?

386 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/10(水) 16:43:32 ID:VdsyQr2d
するするスルーするスール

387 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/10(水) 18:07:25 ID:0tBnw5RV
ここの住人には愚問かもしれないが、実際に自分の彼女(嫁でも可)が重度の
ヤンデレだったらどーする?
俺はたとえ刺されてもその子のことを選ぶけどな。
だってそこまでして(明らかにやりすぎだが)俺の事を好きでいてくれるんだかし。
第一順位として俺→彼女が来るわけだから実の家族でもそこまで優先順位
が大きい関係ってそうは無いと思う。

388 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/10(水) 18:24:56 ID:sY7OzMX1
本物の境界例女と二回付き合ったことがある俺としては
>>387の考えは甘いとしか言いようがない

389 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/10(水) 18:40:02 ID:foMuiZQq
もうケコーンしちまったから新たな出会いなんてないな。
>>387は是非ヤンデレな彼女と添い遂げてほしい。

390 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/10(水) 19:20:46 ID:CHPQiFk8
ヤリチンになる方法でも語ればいいの?
つか三次の話やめようぜ

391 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/10(水) 19:27:51 ID:snaXixSD
>>385

ググって書き方を見ていましたが、
実践していかないと上達するわけがない
と、思い書いていました。


しかし、>>381
の方から指摘を頂いたりしているので
(一応、語尾は意図的にばらしていました)
再度、書き方を見直しながらじっくり書いていきます



392 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/10(水) 19:42:23 ID:ZrOf8wyA
保管庫更新頼む

393 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/10(水) 22:56:39 ID:B561rJkN
管理人さん帰ってくるまで用に緊急保管庫ウィキで作ってみるわ

394 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/10(水) 23:22:29 ID:B561rJkN
あれ?
緊急だから保管庫で更新されてないぶんだけ作ればいいよな?

395 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/10(水) 23:27:53 ID:foMuiZQq
>>394
それでいいと思う。
さすが>>394!みんながやらないことをやってのける!
そこに痺れる、憧れるッ!

396 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/10(水) 23:43:00 ID:B561rJkN
ウィキ初めて作ったからぜんぜんおわらねえw
今夜少しずつやってるからまあ期待しないで待っててくれ
一応誰でも編集できるからこれから余裕ある人編集よろしく
http://www42.atwiki.jp/i_am_a_yandere/

397 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/11(木) 00:56:17 ID:K37HSxdO
>>396
あなたが神か!

398 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/11(木) 01:22:25 ID:nBW9hCaG
>>396
あれ?人の中になんか神がまじってね?

399 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/11(木) 06:42:06 ID:4k1hSdw7
神が降臨しなすったぞ

400 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/11(木) 15:35:18 ID:UvX5pQy+
本保管庫にはないけど埋めネタ集追加しときました。
これで終わった……と思う、足りない所あったら誰か補完ヨロ。
昨日酔った勢いで始めたらこんなに大変だとは思わなかったorz
改めて本保管庫の管理人さんに感謝&早く帰ってきて

401 名前:羊と悪魔[sage] 投稿日:2007/10/11(木) 17:52:47 ID:vdxVLl8U
>>396
ありがとうGodJob。

402 名前:赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/10/11(木) 18:07:57 ID:Sz919uDw
投下します。

403 名前:真夜中のよづり8 ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/10/11(木) 18:09:08 ID:Sz919uDw
しまった。よづりを見失った。
昼休みの終了を告げるチャイムが校内に鳴り響き、廊下は一気に人影が消えていく。
一分後には廊下は閑散と人気が消えうせてしまった。所々で漏れ聞こえるのは、授業をはじめたらしき教室の教師の声だけ。
ああ、そうか。俺、5時間目も遅刻になっちまう。今から走って教室に戻れば、間に合うだろうか。
いや、だめだ。よづりを放ってはいけない。どうせ、今日は1時間目から4時間目までサボっちまったんだ。いまさら5時間目がなんだっつーんだよ。
よづり…、よづり……。
よづりレーダーとかあればいいのにな。ビーコンみたいに近づくだけで鳴るやつでもいいからなぁ。俺は閑散とした廊下を歩き、よづりの姿を探すことにした。
廊下は一通り見てみた。しかしよづりの影はない。
あんな影みたいなヤツ。どこへ行ったんだ? あんな常時フラッフラのヤツの脚力がそこまで持つとは思えない。むしろ、歩いただけで筋肉痛にでもなりかねない程だ。それは言い過ぎか。
一番わかりやすいのはどこかに潜んでいる可能性。
ふと、横を見ると静かな教室が目に入った。ここは、たしか元々特別進学クラスの教室だったところだ。だったっていうことは今は違うわけ。
一年前まではここに瓶底メガネかけたガリ勉生徒たちがいっぱい居た異様な教室だったのだが、生徒数の減少とこの教室の他の特殊教室とのアクセスの悪さで、いまはここはあまった机と椅子を置くただの物置兼予備教室となっている。

……なんだか、臭い。
妙に俺の勘が「ここだ!」と反応を示している。
元特別進学クラスの教室は擦りガラスと無機質な引き戸で閉め切られているが、なにか中から人の気配がしないでもない。人気が無いことも無いことも無いことも無い。つまりなんかありそうだってこと。
開けたら案外居るんじゃないか。あいつが。
俺は特別進学クラスの引き戸に手をかけた。もしかしたら中に居るよづりを刺激しないようにゆっくりと開ける。

がちゃり。

案の定鍵がかかっていた。
そりゃそうだ。いくらかっこいいからという理由で木刀を持ち込む女子生徒(つーか、クラスメイトな)を黙認するゆるーい校風でも、そこらへんのセキュリティはしっかりしているようだ。
うーん、あいつが鍵かかった扉を開けるようなスキルを持っているとは思えないし……。ここは違う……な。
俺がここを諦めて別の場所へ探しに行こうと足を動かそうとした、そのとき。

ガララ。

元特別進学クラスの教室の戸が開いた。
俺のいた西側の引き戸ではなく、東側の引き戸がだが。……特別進学クラスも教室の前と後ろにドアがある。後ろのドアは鍵が開いていたのか?
いや、それよりもこんな授業時間に誰が……。もしかしてよづりか? 俺は一瞬向こう側の開いた出入口からよづりが顔を出すのを期待した。
しかし、一瞬の間のあと。顔を出したのは驚くべき人物だった。

魔女だった。

「……」
まるで暗闇のように暗黒色をした長い髪の毛と、世間を斜めに見るような冷めた目つき。
魔女。本名は紅行院しずる。俺の理解をはるかに超えた人物である。まず、生徒のはずなのに授業にまったく出てこないという。それなのに学校へは毎日のようにやってくるらしい。
校内での行動は奇妙で奇天烈。俺が聞いた噂だけでも全ての行動に脈絡が無く、自由奔放だと。しかもわけのわからないことに学校はなぜかソレについては黙認しているとか。
外へ出てきた、魔女は反対側の引き戸の前に居た俺に気付き視線を移す。その瞳に見つめられ俺の体に一瞬緊張が走る。こんな瞬間嫌だぞ。
……が、魔女はすぐに興味を無くしたようで俺に背を向けるとどこかへ向かって歩き出した。
ふぅ……。俺は安堵の息を吐こうとして……。
「はぁ~……、んっ!?」


404 名前:真夜中のよづり8 ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/10/11(木) 18:10:26 ID:Sz919uDw
絶句した。
魔女の姿。
上半身は学校指定の体操服だ。
問題は歩くごとにぷりぷりと振られる尻である。魔女の尻に俺は釘付けになった。
いや、魔女の尻があまりにもセクシーだったからじゃない(それ以前に魔女の尻はセクシーというよりプリティと言うほうが……げふげふ)。
俺の頭の中がバグったんじゃないかと思ってしまうぐらい、そこが(魔女の尻)理解不能なことになっていたからだ。
ここで、「なんと魔女の尻は割れていたのだ!」と続けばいろんな人から愛想をつかされるが、もちろんいまはボケている場合じゃないよな。ちゃんと説明する。
魔女が履いている白色のブルマ……。ブルマに白色ってあるのだろうか。そうだ、あれはブルマじゃない。魔女が履いているあの白色のモノ。俺には見覚えがある。つい今しがた見たばっかり。
あれは……。あれは……!

……さっき、俺がばっちり見ちまったよづりの毛糸パンツじゃないか!!

「ええええぇぇぇ!?」
俺が気づいての叫び声をあげたときには、魔女の姿は廊下から消えていた。まるで煙のように、魔女の質量すべて合わせて姿がなくなっている。
それはもう見事といえるほど綺麗に居らっしゃいません。あの白色の毛糸パンツをはいた不思議な不思議な魔女さんは。本当に魔法でも使ったんじゃないかと思う。
「ど、どういうことだ!?」
もうワケがわからなかった。しかし、すぐに気合を入れなおすと俺は魔女を追いかけようとした……。が、ふとあることに気付いて足を止める。
つい今、この元特別進学クラス。……いまここからよづりの毛糸パンツを履いた魔女が出てきたってことは……、
この中によづりが居るかもしれない。魔女を探そうにも、廊下から消えている。
恐る恐る俺は今度は今魔女が出てきた東側の引き戸に手をかける。ゆっくりと力を入れると、引き戸は静かに音を立てて開いた。

ガラ……ガラッ、ガラッ。

室内に体を滑り込ませる。
カーテンが閉じられている部屋はほこりっぽくて暗い。教室の隅にうずたかく積み上げられた机。椅子。黒板。なにも掲示されていない掲示物。
それ以外に何があるというのか、この教室には。
なんで、こんなところに魔女は居たんだ? ……なんで、よづりの毛糸パンツを履いていたんだ?
一応、部屋を調べてみよう。
とりあえず、まず教室の後方隅に備え付けられた掃除用具入れを開けてみる。
「ひっ!」
……早速居た。
よづりはタダでさえ狭い掃除用具入れの中で小さくなって蹲っていた。用具入れの中身は空で人ひとりが簡単に入れるスペースぐらいなので、よづりもうまーく収納されている。
長い髪の毛が用具入れの地面に垂れて、昨日ざっくりと切った前髪の間から瞳を覗かせ俺の姿を見据えていた。
「よづり」
「……」
俺が声をかけるとよづりは、無言でふるふると首を振った。
まるで、俺を拒絶するような態度。俺の顔を捉えるよづりの瞳は安堵と何かが入り混じった不思議な光を放ち、俺を寂しげに見つめる。
なにか言おうとしているのか、ぱくぱくと口をあけたり閉じたり。そんなよづりを俺はじっと見つめる。彼女を落ち着かせるように。
「かず……くん」
向き合って10秒ほど経ったぐらいか。ようやく、よづりは俺の名前を呼んでくれた。彼女の瞳に力が湧き始め色素の薄い唇がにこりと微笑む。
俺はよづりに向かって手を出した。よづりは震える手でそれを掴む。よづりの細い指先を握り、俺は彼女を掃除道具入れから引きだした。
こんなところに篭っていたら、家に居たときと同じだぞ。
ガタガタと音を立てて引きずり出したよづりの体は、マスターを失ったあやつり人形のように脱力していた。
「おいおい。よづり。立てるか?」
「……体中が痛いよ……」
「そりゃそうだ。こんなところに変な姿勢で篭ってたからだよ」
「ごめんなさい」
俺が促すとよづりはアヒル座りで教室の床に尻をつける。俺も視線の位置を合わせるため、ほこり舞う床へ跪いた。
よづりの表情はまだ妙に寂しげだ。そんな顔が気になってしまい、俺はできる限り明るい口調で話をはじめた。
「え、えーっと。よづり。一旦走り出してどうしたんだよっ」
「……見た?」
よづりが俯き加減に聞いてくる。
「何が?」
俺はしらを切った。
「見たよね……わたしの」


405 名前:真夜中のよづり8 ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/10/11(木) 18:12:47 ID:Sz919uDw
「だから何がって。俺にはお前が階段からねねこと滑り落ちたところまでしか知らない。気がついたらお前は走り出してたからな」
できるかぎり、俺はさっきの水色パンツ事件を『なかったこと』にしようとしたのだ。見たと思ったのはよづりの勘違いで実際にはよづりがあんな水色毛糸パンツなんて履いてたなんて誰も見てないぞ……とな。
「……」
やべぇ。失敗だったか。
「えへっ」
おっ? 機嫌が直ったか? と思った直後。
「えへへへへっ。あはははっ」
途端、よづりはいきなり笑い出した。
「お、おい」
「えへへへっ……かずくん。いいよ。誤魔化さなくてもいいの」
いままでのあの堕落しきった甘ったるいぐんにゃりとした声とはちょっと違う態度になる。よづりは不気味に笑い、そして自嘲気味に言葉を紡いでいく。
「わたし……。二十八歳だもん、だからかずくんのお友達の女の子たちとは違うの。制服だと……足がスースーして、寒いの。だから、毛糸のおぱんつ履くの……」
いや、俺と同い年のロリ姉も毛糸のパンツ履いていたぞ。お前は見てなかったようだが……。
「ごめんね、かずくん。わたし、かずくんよりうーんと年上なのに……かずくんに毛糸のおぱんつ見られただけで恥ずかしくなっちゃって、ん~~~~ってなっちゃって……」
よづりは無理に笑おうとして、作り笑いに慣れてないようで、口元をゆがめただけの変な表情になってしまっていた。そうだよ。俺は心の中で苦虫を噛みしめた。
よづりがあまりにあっけらかんと「二十八歳で元引きこもりだから」って言ってたからあまり気にはしなかった。しかし、そんな年齢差の事実はよづりの心の中にはじつは深く深く問題を根付かしていたんだ。
よひきこもっていたせいかどうだかはわからないが、他人との差異にひどく敏感に感じ取っているのかもしれない。
……こいつの心の中は大小さまざまな糸が絡まりあっていて、全体像がまったく見えてきやしねぇ。
「ごめんね。かずくん。めーわくかけちゃってごめんね……。」
よづりはそう呟きながらじりじりと俺のズボンに手をかける。
「もう、ぜったい、ぜったいかずくんにめーわく、かけない。かけないから……」
途端、よづりの表情が180度変化する。さっきほどまで浮かべていた歪んだ笑顔は、瞳を潤ませ不安に満ちた光を放つ悲しみの顔へと変化する。よづりの細い腕は俺の脚に抱きつき、太腿部分に顔を寄せていく。
ひざまずいていた俺は、支えられず思わず尻餅をついた。
尻餅をついた俺によづりは悲しげにその細くて豊満な体を近づけ、俺の存在を確認するかのように悲しみの顔を寄せていく。どかそうとしたいが、よづりの悲しみの表情が気になり、俺はなすがまま。
俺の胸のなかによづりは顔を埋める。長い黒髪に阻まれてよづりの表情は見えない。ただ、一本一本が漆黒に光る黒髪の間からすぅはぁすぅはぁと漏れるよづりの呼吸音だけが聞こえていた。
「……かずくん。もう絶対めーわくかけないから。私とずっと一緒にいて……」
「よづり?」
「一緒に。おねがい、かずくん。もう一人はいや……。この中に隠れてて、一人、暗い中、狭い中、ひとりぼっち、ひとり、ひとり、わたし、すっごく怖かった……。こわかった。こわいこわいこわいこわいこわい……」
「落ち着けっ。よづり」
「気付いたの。わたし、一人じゃ生きていけない。わたし、一人じゃなにもできない。だから、だから……」
………。
「かずくん。ずっと、わたしと、ずっと一緒、一緒にいよう? かずくんがいないとわたし、もうだめなの。だめ、だめ、だめ……えぐっ、えぐっ」
嗚咽。そして、そのまま。よづりは俺の胸の中で静かにずっと泣いていた。
俺は返事をするべきなんだろうけど、どう返せばいいのか? 思いつかない。安心させるためにはすぐにでも「ああ」と言ってやればいい。今日の昼間だって結局はよづりにあわせて喫茶店まで入ったんだしな。
だが、今の状況は喫茶店のときとは同じに出来ない。俺の頭の中で警戒アラームが鳴り響く。
本当にこのままよづりの全てを受け止めていいのか? 俺はよづりを普通にしてやろうとしてるんだぞ? なのにこのままよづりを俺に依存させてしまったら……。

俺は何も言えずに、ただよづりの背中を優しくなでていた。

行為は言葉よりも伝わらないものである。よづりは俺の優しい手つきから、俺の返事を「肯定」ととったのだ。
それから、よづりは本当に俺から離れなくなった。
(続く)


406 名前:赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg [sage] 投稿日:2007/10/11(木) 18:14:28 ID:Sz919uDw
また短めです。
次回投下は未定です。

407 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/11(木) 18:15:29 ID:nJxRXd0r
リアルタイムキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

408 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/11(木) 18:29:53 ID:oQwQgxVP
>>400
大・感・謝!!次スレ立てるときに気をつけとかねば。

409 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/11(木) 18:49:33 ID:AF0TxLdz
東スポにヤンデレが!

彼氏(28)宅でAVと女の名前がかかれたメモをみた彼女(17)が放火したらしい
ヤンデレ大全の編集がヤンデレ認定&ひぐらしとスクディの宣伝してた

410 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/11(木) 18:53:25 ID:xlv2P4+l
gooooooooooooooodjob!!

411 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/11(木) 19:05:39 ID:H1KF8Pe8
>>409
年々こういう事件増えていってるような希ガス。
やっぱり女は男と違って自分の思考を抑えることが出来ないんだな。

412 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/11(木) 19:34:23 ID:8W65MFwl
少なくとも、俺はそこに萌える

413 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/12(金) 01:22:58 ID:JAQB4Jb4
美人で若ければな・・・

414 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/12(金) 02:00:09 ID:T0HfUfBo
>>412
そこで親父が
「男はもっと強くならないといかん!!女なんかになめられるな!!最近の若い者は情けない!!」
と言いながら母親(親父の妻ね)に頼まれた服を買いに出かけて行った。

415 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/12(金) 14:56:52 ID:OAzvfEgn
非常に身勝手かつわがままな携帯厨のお願いなんですけど
wikiのトップページにメニューへのリンクを作って下さると携帯で見るのがすごく便利になるので作って頂けませんか?

416 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/12(金) 15:22:48 ID:H0w4kzg5
メニューへのリンクは既にある

417 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/10/12(金) 18:38:37 ID:5fyYsP/G
ヤンデレの天敵貼る

, べ、 /ヽ   _    /ヽ、,.- 、
./「 ̄ヽn' ,.! ' ´‐- ミf⌒`丶、h'" ̄}      / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
/   〉 -‐/、 _,. -‐ ~ へ,ヘ~、`、ー〈 \   | ・・・私はパンを焼いてあげました。 だからあなたも私にパンを焼いてください。
./ //{_,,../ゝ// ,.' / } } } 、ヽ}ー┘、 ヽ   | 私は誕生日プレゼントをあげました。だからあなたも私の誕生日にはプレゼントをください。
ヽ'  ! / .{.v' ,' , 〃 / ノ ! ! i } } ヽ, ヽ. 〉  .| 図体デカイわりに頭悪いわねっ! 女々しい女を見てると腹が立つのよっ!
`、!└‐lミ| i | { /,/_.ノ ,. '_ノノノ! !__,,」 '/   | 私はこれだけの事をしてあげました。だからあなたも私に同じだけの事をしてください。
}!  ,'{fj {、二Z,_'"(r' `_,.Z二 }; l | | ./   .| こう言えばわかるかしら?
l.| // 〉,ゝ`{{liア` ` ´ {{lリ.∠ノ ,' /,.'     | 私はあなたを愛しています。だからあなたも私を愛してください。
// 〃 / { ハ:;; ̄    ,    ̄;;// / /,{      | 
/ '/' ノ//ゞ, ヽ、   rァ   ノ/ / ,' .i !    < ふざけんじゃないわよっ!
, ' /.ノ','  ,)' .f!`.._、_. r ´ {. { { l ヽ、    | 自分がどれだけのことをやってあげたからって、
/,.' //  _,...人  /「}ム..,__ l  l. ゝ ヽ \   | 相手にそれを求めるなんてただの我が侭もいいところじゃないっ!
' ,.' /,.'  .r'´  ヽ ヽ//兀ハヽ ヽ`ヽ、ヽヽ \ \ | 相好意ってのは誰かのためにしてあげることで
/ //   {    }} ん'//ハムヽ`丶、ヽ } } .} }| そこに打算とか見返りとか、面倒なものは持ち込むなやっ!
| そんなんじゃあ、 やることなすこと全部に他の目的があるみたいで、
| この世のすべてが胸糞悪くなるじゃないさっ!!
| 好きなら好きで最後まで貫き通せばいいじゃないさ。
| それができないなら消えなさいよ。 見苦しいだけよ。
| 好きって気持ちだけで相手を信じることができないなら、もう終わってるんじゃないの?  
| 誰かを好きになるのに、理由なんていらないだろ……
| 誰が言った言葉だと思う? あたしの彼氏が前にあたしに言ったのよ
\_____________________________________


418 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/12(金) 20:02:27 ID:gdK9LwGV
<<417
ちょwwwwwwww

AA乙

419 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/12(金) 20:37:24 ID:NxDpsqFb
保管庫、一部だけ更新されてるけれどWikiとソースが違うな……。
活用してくれなかったのかしらん?

420 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/12(金) 21:18:41 ID:oApKV/hk
>>417

元ネタは何?

421 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/12(金) 21:23:23 ID:NxDpsqFb
>>420

君が望む永遠

422 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/12(金) 23:08:15 ID:woWrmww8
しかしヤンデレの中には求める事はしないのもいるからな
脳内で全て補完しているタイプとかは特にヤバイ

423 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/10/12(金) 23:37:28 ID:F9jMz0Zs
遅くなりましたが投下します

424 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/10/12(金) 23:38:48 ID:F9jMz0Zs

いつかどこかで。そんな言葉が、頭の中に浮かんでくる。
いつかどこかで。
いつかどこかで、これに良く似た光景を見たな――身体から離れて落ちていく首を見ながら、
不思議なほどに冷静にそんなことを思う。いつかどこかで。確かに見た。落ちていく首を。首
には“そこから先”が存在せず、赤い断面を見せながら、赤い血液を撒き散らしながら、くる
くると、狂々と、落ちてくる。
落ちる。
散る。
朽ちる。
落ちる。
「あ――――――」
今度のその声が、どっちのものだったのか、僕には自信がなかった。僕の声だったのか。そ
れとも、隣にいる如月更紗の声だったのか。あるいは、その声は本当に存在するのか。サイレ
ンのように鳴る言葉。チャイムはない。空気は静かに震えている。
思い出す。世界の揺れを肌で感じながら、僕は想いだす。いつかどこかで――そう遠い昔の
ことじゃない。そんなに何度もあってたまるものか。ただ単に、思い出したくなかっただけだ。
――神無士乃の死ぬところなんて。
それでも、思い出してしまえばそれはそっくりだった――あの地下室で、神無士乃の首が落
ちてきたときと。
ただ一つ、決定的に異なるものがあるとすれば、今落ちてきた首は、あのとき神無士乃の首
を切り落とした人物の首だということだ。
即ち。
如月更紗と――同じ顔をした首。
ちょきん、と。
聞こえるはずのない、鋏の音を聞いた気がした。
「そう――かい」
そう、言ったのは。
誰でもない――僕でもない――他の誰でもない、如月更紗だった。屋上の床に転がる、自分
とまったく同じ顔の生首を見て、そう呟いた。
人間の声にしか聞こえなかった。
死に対する憤りも怒りも驚愕も恐怖もない、揺れ動く感情を一切感じさせない――少しだけ
疲れたような、溜め息まじりの声だった。そこには非日常性を含まない、どこまでいっても人
間的な――日常があるだけだった。
なんだ……? なんなんだ一体。如月更紗の落ち着き払った態度に、僕は逆に混乱してしま
う。どうしてお前はそんなに冷静なんだ。つい先まで話していた、自分の姉妹の生首を見て
――どうして少しも動じずにいられるんだ。それじゃあ、それじゃあまるで始めから知ってい
たみたいじゃないか。
こうなることを。
問いただしたかった。
問いたださなかったのは、僕よりも先に、如月更紗が再び口を開いたからだ。
「……くるよ、冬継くん」
――くる?
何が、と聞く暇はなかった。すぐに思い至る――そうだ。これがあの時と同じだというのな
ら。このあとにくる展開はわかりきっている。あの時、神無士乃を殺した、如月更紗に似た誰
かが会談を降りてきたように。
今。

ゆっくりと――扉が、開いた。



425 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/10/12(金) 23:39:36 ID:F9jMz0Zs

初めに見えたのは、黒い傘。
あの夜と同じだった。黒と白のその姿が目に移る。開いた扉の向こうは色が失われていた。
――黒白。
白く、黒い。モノクロで歪な姿。着ている服は輝かんばかりに白い、フリルの過剰なウェデ
ィングドレス。スカートの前は大きく膨らんでいて、後ろは地面すれすれまでテールコートの
ように伸びていた。袖口は大きく膨らんでいるのに、肩と腋がむき出しになった奇妙な服。
あの夜と違うのは、薔薇をあしらったヴェールはなく、その顔ははっきりと見えていた。
長い長い黒髪と――中性的な顔。
どこかから、猫の鳴き声が、聞こえた。
そして、少女が、一歩だけ前へと踏み出す。背後で扉が閉まり――それ以降は、歩いてこな
い。そして僕は気付く。彼女があの夜と違うことに。あの夜は、黒と白だった。
今は違う。
今は、黒と、白と、赤だ。
純白のウェディングドレスは――返り血で、真っ赤に染まっていた。
赤く、
赤く、
真紅の花嫁。
血にまみれた――モノクロの少女が、傘をくるりと、回した。
「やぁ」
と。先手を切り出したのは僕でもなく謎の少女でもなく、隣に立つ如月更紗だった。ほがら
かな笑みを浮かべて、まるで歓迎でもするかのように両手を広げている。口元はにやにやとつ
りあがっていて――本当に楽しそうだった。
……楽しいのか?
この状況で、如月更紗は楽しんでいるのだろうか。この状況を楽しいと思っているのだろう
か。少なくとも、僕はコレを楽しめるほどにイカレてはいないらしい。楽しむどころか、さっ
きから頭は混乱の連続しっぱなしだった。ハサミも生首もひとまず放って、どっちでもいいか
ら状況説明しておほしい。正直何がなんだかまったくわからないぞ。
僕の内心の願いもむなしく、如月更紗は笑ったままに、彼女たちにしか判らない言葉を吐き
出した。
「やぁやぁやぁ――久し振りだね久し振りじゃない。やはりまさか君がきてくれるとは夢にも
想わず現実で思っていたよ」
「――――――」
相対する少女は何も言わずに傘を閉じた。傘の先から垂れた液体がコンクリートの床に赤い
染みをつける。どうやらあの傘、真っ当な使い方をされなかったらしい。隣に転がる生首を見
れば、あの液体が何なのか想像もつくというものだ。
文房具にすら見えないハサミを振り回すバカもいるので、今更驚きはしないが。せいぜい呆
れるくらいだ。
「馬鹿というほうが馬鹿なのよ冬継くん」
「当然のようにモノローグを読むんじゃねえ!」
「顔に描いてあったのよ」
「お前僕を見てないじゃん!? 黙って前見てろよ緊迫した場面なんだから!」
ろくでもないやりとりだった。
しかも謎の少女、くすりとも笑わねえ。むしろ僕が笑い出したい。

426 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/10/12(金) 23:40:45 ID:F9jMz0Zs
如月更紗も笑ったままに、
「人生にはつねに笑いが必要というのが私の哲学なのさ」
「お前がそんな哲学を持ってたとは初めて知ったよ……」
「人生には愛が必要なのよ?」
「なんで疑問系なのかわからないけど、それなら、まあ……」
「人生にはエロが必要なのよ!」
「堂々と言い切ってもらって悪いがそれはないな!」
馬鹿なやりとりだった。
ちらりと視線をずらすと、まったく変わらない位置で、まったく変わることのない表情のま
まに少女は立っていた。笑いもしなければ襲ってもこない。完全な無視だった。
今まで一番の強敵かもしれない。
いや、今までにだって敵がいたわけじゃないけど。
「で、アイツはどこの誰なんだ?」
相手が動かないのをいいことに、堂々と如月更紗に向き直って訊ねてみる。おおよその見当
はついているが、できれば如月更紗の口からはっきりと聞きたかった。
如月更紗は僕の質問に、微かに首を傾げて、
「知らないわね。冬継くんのお友達?」
「あんな奇抜なオトモダチはお前だけだよ!!」
どう考えたってあれはお前の――いや。
狂気倶楽部の関係者に、決まっているだろうが。
「あら」如月更紗は僕を顧みて、「神無士乃は――友達じゃなかったのかしら」
「…………」
「それに、私は友達でいいのかしらね?」
「……? どういう意味だそれ」
如月更紗は答えなかった。不敵に笑うだけで、僕から視線をそらす。僕もまたつられるよう
にその視線を追って、立ち尽くす少女を見た。
やっぱり、さっきから少しも動いていない。畳んだ傘を手にもって、残る手を軽く添えてい
る。いつかの夜のように、突然切りかかってくることもない。
そういえば――今更にして思い出したけど、あの杖は仕込み刀だったっけ。本当に何でもア
リだな、狂気倶楽部。
「どう言う意味もこういう意味も、そういう意味よ」
言った如月更紗の横顔は、一瞬だけ微笑んでいるように見えた。それは一瞬だけのことで、
すぐにいつものにやにや笑いに戻ってしまったけれど――気のせいなんかじゃ、なかった。
どういう意味だったんだろう、その笑みは。
色々考えてしまうじゃ――ないか。
「君は私のことを友人だと思っているのかい――チェシャ?」
唐突に。
如月更紗は話の矛先を僕から少女へと向けた。初めから話をふられることがわかっていたか
のように、少女は身動ぎもしない。表情すら変えずに――何一つとして、反応を返さない。
むしろ、驚いたのは僕の方だった。聞き覚えのある名前に驚愕せざるをえない。
チェシャ――チェシャだって? その名前には聞き覚えがあるし、いつかにその名を持つ相
手と遭遇したことがある。チェシャ猫。不思議の国のアリスにでてくる、にやにや笑いだけを
浮かべて消える猫。
けど――彼女は今、にやにや笑いを浮かべていない。
そのせいか大分印象が違うけれど……そうだ、解った上でよく見てみれば、確かにその顔は
学校の帰り道で見かけた少年のそれと同じだった。髪を帽子で隠していたのか、カツラをかぶ
っているのか、少女なのか少年なのかはわからないが、とにかく、あのチェシャとこのチェシ
ャは同一人物なのだろう。

427 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/10/12(金) 23:42:06 ID:F9jMz0Zs

…………。
こいつが――僕を狙っていたのか。
しかし、そのわりには実感も実害もない。姐さんを殺したかもしれないのは五月ウサギだし、
神無士乃を殺したのは如月更紗の姉妹だ。一度として、チェシャ猫は僕に関わってきていない。
完全に無関係な通行人だ.
だからこそ――怖い。
ここまで一切関わってこなかったやつが、今此処で、このタイミングで関わってくることが。
如月更紗は狂気倶楽部を“ごっこ遊び”と言った。これがごっこ遊びであるのなら、お話は
そろそろ終盤に近いはずだ。主だった登場人物は減りに減って、物語はクライマックスを迎え
ようとしている。これ以上、話は展開しそうにもない。それがどんな形であれ――エンディン
グはすぐそこだ。
だというのに。
ここにきて、新しい登場人物が現れるだなんて。
否が応にも考えてしまう。物語を盛り上げるためのキャラクターではなく、物語を終らせる
ための機構。
デウス・エクス・マキナ。
機械仕掛けの神。
彼女は、そういう役割なのではないかと――――――
「あぁ、ああ! そうかそうだねどそうだとも。返事をしてくれなくて寂しいと思ったが――
今の君はチェシャではなく、こう呼ぶべきだったね。

――アリスと。

その名で、君を呼ぶとしよう」
僕の思考を貫くような、如月更紗の言葉に。
チェシャは――アリスは。
初めて、その表情を崩した。口元を歪めて。目元をさげて。確かに――裁罪のアリスは、満
足げな笑みを浮かべた。
「アリスは……共通ハンドルだったな」
「えぇ。けれど冬継くん、彼女は真のアリスよ。アリスたちの中で最も“不思議の国のアリス”
に近い――裁罪のアリス」
真のアリス。
アリス・イン・アリス。
成る程――真打ちか。アリスが何人もいるというのなら、当然その中にも多少なりとも上下
関係があるのだろう。一番アリスに近い存在。それがチェシャということか。
それは――最も狂っているということに、他ならない。
裁罪のアリス。
罪を裁く死のアリス。

428 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/10/12(金) 23:42:57 ID:F9jMz0Zs

「で、だ」
「んん?」
「そのアリスさんは、何をぼけっと突っ立ってるんだ?」
顎先でアリスを指して僕は言う。視線を向けられてもアリスは動くことなく、笑ったまま、
扉の前から動こうとしない。足許に転がったまま放置された生首だけが、異様な存在感をかも
しだしている。
身体は……どこにいったんだろう。
如月更紗を見る。彼女の首も、身体も、ちゃんとそこにあった。そのことに……少しだけ、
僕は安堵する。
「冬継くん、そんなに見つめられたら照れるわよ」
「素敵に胡散臭い言葉だな……」
お前が照れた所なんて想像すらできない。
そんな意味をこめた視線を送ると、視線から意味を悟ったのか如月更紗は笑い、
「ピロー・トークは二人きりのときにしようということね?」
「アイ・コンタクトなんて幻想だったんだな!」
「エロー・トークがいいだなんて……冬継くんははしたないね」
「もしかしたらお前自分で気付いてないかもしれないから教えてやるけど、はしたないのはお
前であって僕じゃないしついでにマッド・ハンターの時と如月更紗のときえお前キャラが全然
違ってるからなお前!」
ツッコミが長すぎる上に、一文でお前を四回も使ってしまった。
狂気倶楽部――ごっこ遊び、か。
演じること。
如月更紗を演じる。
マッドハンターを演じる。
はたしてどっちが本当の彼女なのだろうか。どちらも本当の彼女じゃないのだろうか。どち
らとも本当の彼女なのだろうか。
本当って、なんだ?

429 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/10/12(金) 23:44:01 ID:F9jMz0Zs

「ごっこ遊びだからさ」
今度こそ本当に表情から思考を読んだのか、如月更紗はそんなことを口にした。
「……それ、どういう意味だ?」
「彼女がどうして動かないのか――それについての答えよ、冬継くん」
「ごっこ遊びだから、動かない?」
「動けない、とでも言うべきね。もっともアリスに近いから――誰よりもアリスに左右される
。登場人物が出そろうまでストーリーを進めることができない」
「…………これ以上誰が増えるんだ?」
まさか今更五月ウサギとか出てくるんじゃないだろうな……。それとも一度も名前が出てこ
ない、お茶会の最後の登場人物であるヤマネでも出てくるのか。
「いやいや冬継くん、奇しくも君の考えたとおりよ。

ここには如月更紗はいてもマッド・ハンターがいない。

――そういうことさ、そういうことなのよ」
言って。
如月更紗は、あっさりと踵を返した。何の躊躇もなく、アリスに背を向ける。見ている方が
はらはらする行為だったが、アリスはそれでも動かない。如月更紗はつかつかと歩き、フェン
スに添えるようにしておいたままにしてあった、黒赤のトランプ柄のトランクを手にした。
「あ、それ――」
そういや、屋上にきたときには意識していなかったけど……あのトランクケース、僕の家に
持ってきていたやつだよな。
なら――あの中には。
見遣る僕とアリスの前で、如月更紗はトランクケースを押しあける。
中には。

「さぁ、さぁ、さぁ――冬継くんにアリスちゃん。楽しい楽しいお茶会を始めましょう」

あの夜に見た、男物のタキシードと――シルクハットが、収まっていた。


430 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/10/12(金) 23:47:42 ID:F9jMz0Zs
以上で投下終了です
エロシーンをいれるかどうか悩んでいたらかなり遅くなってしまいました。続きは近いうちに投下します。

ヤンデレ分がちょっと足りないので近くにふらっと短編書く予定。

431 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/13(土) 00:07:26 ID:LkRe2Hvg
投下お疲れ様です

432 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/13(土) 01:52:03 ID:ciLabBUL
ちょ、ここで来ますか、チェシャが。
……あの話の"彼女"と同一ですよね? いやあ、毎度毎度楽しませてもらってます。

433 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/13(土) 05:41:37 ID:QWbzdke+
>>430
久しぶりにいない君キター!
更紗分も補給完了で今日も一日頑張れるぜ

434 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/10/13(土) 22:21:57 ID:jWabB8ch
遅くなりましたが396氏お疲れ様です

>>432
あの話の彼女と同一です。服装の辺りがこっそり伏線に使われてます

投下します

435 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/10/13(土) 22:22:41 ID:jWabB8ch

そういって如月更紗は、僕らの見ている前で遠慮なく脱ぎ始めた。
……は?
あまりにも自然すぎて、一瞬何をしているのかわからなかった。わかりたくなかったという
のが本音かもしれない。そこそこに緊迫した――その緊迫もなんだか曖昧になってきているけ
れど――場面で、突然脱ぎだすなんて行為に意味があるとは思えなかった。いや、意味があっ
たほうがまだましなのか。
こいつ……ほんとに露出狂なのか?
頭を抱える僕の前で、如月更紗は遠慮も躊躇もなく脱いでいく。スカーフをはずし、ブラウ
スを脱ぎ、スカートを下ろす――ああこんなときに思うべきことじゃないけど、それでも思わ
ずにはいられない。保健室のときから思ってたけど、こいつの肌恐ろしいくらいに白いな……
新雪のようになんて例えはふさわしくないのだろう。雪は空気中の汚れが元になったものであ
って、如月更紗の肌には汚れなんてひとつとしてなかったのだから。広がる髪の黒との対比に
めまいがしそうだ。
って。
冷静に肌の批評をしている場合じゃない。
「おい、如月更紗」
上下の下着だけになった如月更紗に声をかける。隠すことも恥ずかしがることもないまま、
如月更紗はそのままに振り返った。
……。
目のやり場に困る。
が、いまさら目をそらすのもあれだった。すでに散々見てきているのだ。開き直って如月更
紗の顔を見る。彼女も僕を見ていて、その顔ははっきりと笑っていた。なんか思考を読み取ら
れてそうで嫌な笑いだな……
「冬継くんのすけべ」
「だまれ露出狂」
「それで、何の用かしら?」
「何の用っていうか、なんで脱いでるんだお前?」
もっともな突っ込みだった。
いきなりストリップショーをされても素直に喜べるはずもない。それを目の当たりにしても
表情を変えないアリスは、さすがと言うべきなのか……? それともあれだろうか、アリスも
また如月更紗の裸を見慣れているのだろうか。
……。
…………。
考えてはいけないものを想像してしまった……。
さすがにその種のインモラルさには耐性がない。見たいような見たくないような微妙な気分だ。


436 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/10/13(土) 22:24:09 ID:jWabB8ch

「何で脱いでるのかといわれても――脱がなければ話が進まないわよ?」
「僕が知らないだけで狂気倶楽部の入部条件は露出狂であることなのか?」
それが本当なら、僕は姉さんに対する感情を思い直さなければならない。
……。
狂気倶楽部って男もいたよな……?
思い浮かべてしまった僕の恐ろしい想像を、如月更紗は「違うわよ」と否定してくれた。心
のそこからよかったと安心する。もし如月更紗に肯定されていたら、僕は何もかも殴り捨てて
逃走していただろう。狂人と同一視されるのはまだ仕方がないのかもしれないが、露出狂と同
一視されるのだけはごめんだ。
「脱ぐのが目的ではないのよ。脱がなければ服が着られないから脱ぐ――それだけのこと」
言って、如月更紗はずるりとトランクケースの中からタキシードを取り出した。それで半分
は納得する。たしかに、服を着るためには前に着ていた服を脱がなければならない。当然の摂
理だ。どうして服を着替える必要があるのかという一点を除いては。
その理由も、少し考えれば、理解できた。
「如月更紗はいてもマッド・ハンターはいない――そういうことか?」
「そういうことね」
したり顔でうなずく如月更紗に僕は納得する。
そういうことなのだ。
衣装を身にまとわなければ舞台にあがったとはいえない。私服姿でいるかぎり、如月更紗は
いくら言葉遣いやキャラクターを替えたところで如月更紗でしかないのだ。服を変えてマッド
・ハンターに成って舞台にあがる。それを、アリスは待っているのだ。舞台に登場人物がすべ
て出揃うのを。
理解はできた。
納得はできなかった。
「なあ、如月更紗。ひとつ質問していいか?」
「ひとつといわずいくらでも」
答える如月更紗は、まずはブラウスに手を伸ばしていた。ああ、下着は替えないんだ……そ
のことに妙に安心を覚える。冷静に考えてみればブラウスを着るなら制服の下は脱がなくてい
いんじゃないのかと思ったが、突っ込みどころか多すぎてすべてに突っ込んでいたらとてもじ
ゃないが話が進まないので放置することにする。
突っ込みどころは別にあった。
「ということは何か――あのアリスは、ただお前が着替えるのを待ってるのか?」
「そういうことになるね」
「…………」
冷静に、冷静になろう。
冷静になって改めてこの状況を確認する。下着姿で着替えようとする如月更紗と、それを微
笑んだままに見ている裁罪のアリス。服は血にぬれていて、足元には生首が転がっている。夜
の校舎には僕ら三人しかいなくて、空を見上げれば月と星が見えた。夜は静寂の帳を下ろして
いて、衣擦れの音だけがやけに響いた。
……。
…………。
シュールだった。
シュールな光景すぎた。

437 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/10/13(土) 22:25:37 ID:jWabB8ch

思ったことを、そのまま口にすることにする。
「阿呆だろ、お前たち」
「阿呆とは酷い言い草だね」
「いやよく考えてみろ如月更紗。冷静に自分たちの状況を見つめてみろ――阿呆としか言いよ
うがないぞ」
舞台とか演じるとか狂気倶楽部とか……そういった色眼鏡をすべてはずしてみれば、そこに
あるのは屋上で脱ぐ露出狂とそれを見守る変態二人。いっけん場面が緊張しているから様にな
っているように見えるが、夜空の下で一人着替える如月更紗は、間抜けとしかいいようがない。
何よりも間抜けなのは、ここにいる人間が誰一人としてふざけていないことだ。
まじめに阿呆なことをしている。
……めまいがしてきた。
「冷静になって考えてみると」
「ああよかった、考えてみてくれたんだな」
「冬継くんと二人きりのときがいいね」
「そんなことを言ってんじゃねぇ――!」
思わず夜空に向かって叫んでしまった。しかもちょっと気持ちよかった。狼の気持ちがわか
ってしまった……。
「どちらかといえば冬継くんは狼というよりは犬よね」
「犬か……」
「わんこ」
「かわいく言い直すな」
ばかなやりとりをしている間にも、如月更紗の着替えは進んでいく。ブラウスのボタンをす
べて止め――と、そこで気づく。ブラウスはブラウスでも、学校のカッターシャツとは少しデ
ザインが違う。襟が大きく、そして硬そうだった。材質的に、立て衿をするためのものなのだ
ろう。ボタンを留め終え、如月更紗は鏡も見ていないのに器用にネクタイをしめる。
何百回と――繰り返した行為なのだろう。着替えにはよどみがない。
着替えるたびに。
彼女は、如月更紗から、マッド・ハンターへと変わったのだろう。
狂気倶楽部の一員へと。
「…………」
如月更紗。狂気倶楽部の一員。マッド・ハンター。狂気倶楽部の古参。
どうして。
どうしてなのだろう、と僕は思う。どうして彼女は今、こちら側にいるのだろう。僕を助け
るようにして。僕を守るようにして。君の命は狙われているといった彼女。その口で、僕の命
を守るといった彼女。物騒な鋏を振り回す、どこかとぼけた女の子。
僕がここにいる理由は、もう分かっている。図書室でもなく実家でもなく、此処にいるのは
――認めてしまおう、如月更紗が此処にいるからだ。
でも。
如月更紗は、どうして此処にいるのだろう――そんな疑問が、いまさらに浮かぶ。いや、い
まさらではないかもしれない。本当はずっと頭にあっただけで、それを確かめなかっただけな
のかもしれない。確かめてしまえば、
居心地のいい関係は、終わってしまうかもしれないから。


438 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/10/13(土) 22:27:35 ID:jWabB8ch

「ん、どうしたんだ冬継くん。裸を見れないのが口惜しいという顔をしているよ」
「僕はなんでお前が上しか着ないのか考えていたところだよ」
ネクタイをしめおえた如月更紗は、中に着るベストを着ているところだった。下には当然何
も着ていないので、かわいらしいパンツを丸出しにしている。羞恥心は一切ない。足細いなあ
、とかわけの分からない感慨を抱いてしまう。
「人には人の着替え方がある、ということよ」
「まあな……僕の姉さんは体を拭く前に着替えて大変なことになったことがあるよ」
「それはただの阿呆だね」
お前に言われたくはない。
僕もそう思うけど。
「着替えも終わったことだし――そろそろ楽しい楽しいお喋りも切り上げようか」
言葉の通りに、如月更紗は最後のボタンをとめおえて僕を振り向いた。タキシードの上着を
気負えた如月更紗は、アリスとは対照的に全体的に黒かった。その中でなお、むき出しになっ
た足は白い。
…………。
ズボンをはいていなかった。
パンツまるだしの如月更紗は、両手を広げてアリスと僕を交互に見た。
「さぁ――お茶会の時間だ」
「天然なのかぼけなのか突っ込みずらいんだよ! わざとやってるならそろそろくどいし本気
でやってるなら救いようがないな!」
「遊びでやってるのさ」
肩をすくめ、如月更紗は今度こそズボンに手を伸ばした。穿いていた靴を脱いでトランクに
突っ込み、ズボンをはく。ベルトをしめ、先とは違う革靴を取り出してはきなおした。最後に
トランクケースの中から杖を取り出して――脱ぎ終えた衣服をつめて、トランクケースを閉め
る。
そうして。
最後に。
如月更紗は――いや、ソレはもう、その名で呼ぶべきではないのだろう。
マッド・ハンターは、トランクケースの上においていたシルクハットを、頭にかぶった。
右手に長定規を組み合わせたような歪で巨大な鋏を。
左手に黒く長いステッキを。
両の手でそれらをくるりと回し――切っ先を裁罪のアリスへと向けて。


「さぁ、さぁ、さぁ! お茶会を始めましょう、時計の止まった狂ったティーパーティーを!」


今までで一番深い笑みを浮かべて、夜空に、そして月に向かって、マッド・ハンターは吠えた
のだった。


439 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/10/13(土) 22:29:26 ID:jWabB8ch

瞬間――誰よりも早く動いたのはアリスだった。笑みを浮かべたままに、地面を蹴って、
そのときにはもう、僕の目の前にいた。
は、速――
「……っ!」
ほとんど反射的な行動だった。後ろに跳びながら、右手で握ったままだった魔術短剣を振る
う。その間にもアリスはさらに踏み込み、同じように右手の傘を横殴りに振るう。軌道が衝突
し、
重く、硬い感触。
分かってはいたが――普通の傘じゃない! 柄の部分がやたらと硬いだけじゃなく、魔術短
剣の刃が触れたというのに破けてもいない。近くで見れば、材質は日ごろ見るものと違うのに
気づく。防刃なのだろう。初めからそういう行為のために作られた傘。
傘についた赤が、目についた。
――血。
「君は――」
アリスの口が動く。初めて聞く声だった。中世的な声。不思議なほどに抑揚がない。そのく
せ、耳元でささやかれているように聞こえた。声をきくだけで、脳が止まりそうになる。
それでも、止まるわけにはいかなかった。魔術短剣と傘は、きりあったまま離れないのだか
ら。ものすごい力で、傘に短剣が押される。身体ごと。アリスの三度目の踏みこみで、僕は傘
を防いだままの姿勢で背後のフェンスにたたきつけられる。
なんだ……この力!? 見た目は如月更紗とかわらないような細さなのに、傘にこめられた力
で押しつぶされそうになる。こんな華奢な身体のどこに、あんな速さと強さが……
そこで僕は自分の失策に気づく。そうだ、忘れていた。馬鹿なやりとりばかりで失念してい
た。いくらふざけていても……ふざけているからこそ、こいつらは狂気倶楽部だということを
。演じる。あの夜と同じだ、一種の自己暗示、着替えることで滅茶苦茶な動きを、
「――自身の罪を覚えているかい」
罪?
その意味について深く考える暇もなく、傘にこめられた力がさらに強まる。抑えていた魔術
短剣が、逆に自身の胸を貫きそうなほどに近づいてくる。まずい、このままだと自滅だ……!
自身へと迫る魔術短剣。
その綺麗な刀身に――月の光が反射して、鏡のようになって。
自分自身と、目が合った。
「――、!」
胸に突き刺さりそうだった魔術短剣を無理やりに押し返す。そうだ、何を戸惑っている。あ
の服が彼女たちにとっての自己暗示、魔術儀式なら――僕にとってのこれこそが、そうじゃな
いか。姉さんの遺品。姉さんの血がしみた魔術短剣。
集中しろ。
没入しろ。
切り替えろ。
変われ。
換われ。
成れ。
ここはお茶会だ。
不思議の国の、狂ったお茶会だ。
「罪、ね――」
裁罪のアリス――罪を裁く、か。
さらに魔術短剣に力をこめて、


440 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/10/13(土) 22:30:26 ID:jWabB8ch

「そう、そうだね、そうだとも! 罪人であることを忘れてはいけないのさ!」
急に魔術短剣を抑える力を失い、僕は前へとつんのめりかけた。傘を持つアリスが、二歩分
ほど後ろに下がっている。そして、僕とアリスの間を、風を伴って大鋏が通り過ぎていった。
見れば。
いつのまにか――横にはマッド・ハンターが立っている。僕へと襲い掛かるアリスを横から
狙ったらしい。助けてくれたことはうれしいが、下手によろめいていたら自分があの鋏で殴ら
れていたのだと考えればぞっとする。腹の部分で殴られても骨くらいは折れるだろう。
ましてや刃で切られたら……ちょぱん、だ。
「助かった……ありがとう」
フェンスから身を離す。自分の形にフェンスがゆがんでいた。あのまま押され続けていたら
、フェンスを突き抜けて下へと尾とていたのだろうか。
本当に……常識はずれで、常識しらずだ。
初撃に失敗したアリスは、とん、と軽く後ろへ跳んだ。スカートが風に大きく膨らむ。距離
をとり、傘で杖のように地面をつく。
かん、といい音がした。
「やはり、やっぱり、やっぱりね。当然のように冬継くんを最初に狙ったね?」
「やっぱりねって――わかってたのか?」
「もちろんもちろんもちろんだとも。これは物語だからね。赤頭巾ちゃんを食べようとする悪
い狼は、猟師に撃たれるということさ」
「……配役がなんとなく納得いかないけど、まあわかった」
僕が狼で、マッド・ハンターが赤頭巾ちゃんで、アリスが猟師か。
僕、悪役じゃん。
アリスにしてみれば僕は悪役、適役に過ぎないか……狂気倶楽部という楽園を狙う許しがた
き敵。赤頭巾ちゃんが狼と仲良く名手いるのは計算外だろうが、もとよりアリスの敵はマッド
・ハンターではなく僕であり、僕を排除することこそが彼女の勝利条件なのだ。アリスが僕の
首をはねれば、お話は『めでたしめでたし』で終わるのだろう。
じゃあ、逆に。
「僕らの勝利条件ってなんだ?」
「その数は二つ、勝利条件は二つ、たったの二つ。この町を出るか、君自身が狂気倶楽部に入
るか」
「…………」
おい。
ちょっと待て。
そういう重要そうなことをさらりと言うんじゃない。それはむしろ、真っ先に言っておくべ
きことだろう……? いや、聞かなかった僕が悪いのかもしれないけれど、それにしてもあん
まりだ……ああいや、仕方ないことなのか。如月更紗どころかアリスにとってさえ、この状況
は計算外のはずだ。物語の登場人物がすじがきを無視して勝手に暴走しているようなものだ。


441 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/10/13(土) 22:31:21 ID:jWabB8ch

本来ならば、
五月ウサギと対決するか、
如月更紗の姉妹と対決するか。
その二択だったはずだ。"ごっこ遊び”というのならば、それこそがふさわしい展開だ。その
はずが、どこかの馬鹿が如月更紗に惚れ込んで彼女の家にいったあげくに第三の選択肢を選んだ
からややこしくなった、と。
自業自得じゃん。
「二択――」
ゆっくりと考える時間は与えられていなかった。距離をひいたアリスが再び突っ込んでくる。
僕が右でマッド・ハンターが左、アリスが前で衝突は一秒後。右半身を前に出して魔術短剣を振
るう、傘の先端であっさりとはじかれて、そのまま先端で突きが繰り出されたのを横からマッド
ハンターが斜めにはじき先端は頬をなめるようにしてそれ、
アリスの左手が、まっすぐに僕の首へと突き出される。
何も持っていない――長く伸びた黒い爪が、首の動脈を狙っている。
「冗談きついな!」
この近距離でよけるのは難しい。右手ははずかれた勢いで右側へと流れている。ならばと、そ
の勢いのままに左手を突き出す。手のひらで爪を受け止めるように。首を刺されるよりはマシだ、
代わりに指を折ってやる。
目論見は成功しない。アリスの左手は蛇のように動き僕の左手首を掴み取り、同時にスカート
から伸びた足に払われて視界がくるりと回り、逆さになって倒れ行く中で、傘を持ち替えて振り
下ろそうとするアリスの姿、
その首めがけて繰り出される、巨大な鋏。
ちょきん、と鋏をかみ合わせる音がして――アリスの髪が数本、宙にまった。スウェーをする
ようにして鋏の一撃をよける、つかんでいた手を離されて僕は地面にたたきつけられ、追撃で繰
り出された杖での一撃をよけるようにアリスは右へと跳んだ。
また距離が離れ、僕はあわてて起き上がる。
視界には、僕を守るように仁王立ちになるマッド・ハンターと、離れて傘を構えるアリスの姿。
なんというか……みっともないことこの上ない。女の子にずたぼろにされて女の子に守っても
らってる。やっぱり付け焼刃の自己暗示じゃ彼女たちみたいにはいかないらしい。そもそも、格
闘の経験なんて僕にはないのだ。
ならば。
格闘をしなければいい。
思考を切り替える。 
意識を切り替える。 
戦うのではなく。
殺すことだけを考えて――魔術短剣を、構えた。
「……人を殺すのは初めてだ」
「私もだよ」
そらとぼけるようにしてマッド・ハンターが言う。いや、今のは如月更紗か? その言葉が嘘
なのか本当なのか、僕にはわからない。ただ、目の前のアリスが殺人者であることだけは間違い
なかった。
躊躇がないとか、慣れているとか、そういうことだけじゃない。
彼女は、明らかに楽しんでいる。
この状況を楽しんでいるのが――見ているだけでわかる。


442 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/10/13(土) 22:33:12 ID:jWabB8ch

「…………」
距離がはなれた間を利用して僕は思考を続ける。身体能力的に劣っている以上、この状況を
打破する方法を考えなければならない。そもそも、何をもって打破となるのかすら僕はよくわ
かっていないのだ。
もう一度――最初から、考え直せ。
如月更紗は言った。選択肢は二つだと。
この町から逃げるか、
狂気倶楽部に入るか。
それは、表裏一体の答えだった。狂気倶楽部の手が届かないところにいくか、狂気倶楽部に
なってしまうか。それ以外に選択肢はない。つまりは、僕はもうどう考えたって取り返しのつ
かないところまで足を踏み込んでしまったのだ。
姉さんは死んだ。
神無士乃も死んだ。
そして僕は、如月更紗の隣にいることを望んだ。
もう――これまでのようには、いられないのだ。
選ばなければならない。
考えなければならない。
勝利条件は、如月更紗と共に生きること。
ああ――なんだ。そうか、どちらを選ぶにせよ、その前にはっきりさせなければいけないこ
とは結局それなのか。僕だけじゃだめなのだ。僕がどうしたいかじゃない。問題は、如月更紗
がどうしたいかなのだ。
彼女が残りたいのなら、僕は残ろう。
彼女がうなずくのなら、僕は逃げよう。
そして――考えたくはないけれど――如月更紗が僕のことを好きでもなんでもなく、共にい
ることを望まないというのなら、哀れなピエロとして僕は自分の手で物語を終えよう。それが、
如月更紗を選んだ僕にできる最後の方法だろう。
だから。
戦うとか、殺すとか、それ以前に如月更紗と話をしなければならない。これからのことを。
まじめな話を。
……返す返すも馬鹿話をしていたことが悔やまれる。アリスが来る前に思いついていれば、
そのことについてちゃんと決断を下せたというのに。こうなってしまった以上、なんらかの形
でアリスを打破してからしか、結論を出せない。
ん……そう考えると、逆説的になるけれど。
如月更紗は――話をそらしていたのか? 結論を先延ばしにするために?
それはどういう意味を、
「冬継くん!」
名前を呼ばれて、僕は再度アリスが突進してきていることに気づいた。思考が急速に無産す
る。さすがに三度目ともなれば目もなれる。右手には傘、左手には爪。リーチの差がある以上
、まずは傘に注意を払えばいい。
前にはマッド・ハンター。射線がかぶらないように僕はわずかに左にそれ、


443 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/10/13(土) 22:34:40 ID:jWabB8ch

ふわりと。

音もなく――重力からとき離れたかのように、裁罪のアリスが飛んだ。ムーンサルト。空中
で反転しながら、僕とマッド・ハンターを軽々とアリスは飛び越える。重力から逃げ切れなか
った髪が下にたなびき、スカートが大きく天蓋のように広がる。さらに身体をひねり、足から
フェンスの上へと着地する。
ぎしりと、その重みにフェンスがたわんだ。
「そこまでやるか!?」
思わず声をあげてしまう。滅茶苦茶というか、はちゃめちゃだ。上海雑技団でもあるまいし、
そんな芸当までできるなんて誰が思うか!
あわてて振り返ると、そのときにはもうアリスはフェンスを蹴っていた。斜め上から襲い掛
かってくるアリス、構図はかわって僕が前でマッド・ハンターが後ろ。加速度は先の比ではな
い、考える間もなく傘が、
――ままよ!
反射だけで、前へと跳んだ。その場で、傘の一撃を受けきる自身はない。なら、相手が着地
するよりも先にいなすしかない。魔術短剣を上に構え、構えた瞬間には接敵する、
靴が見えた。
え、
声はでなかった。飛び込んできたアリスは――傘の間合いがずれると見るや、空中で姿勢を
かえて僕の肩に着地したのだと――そう気づいたのは、地面に転がってからだった。衝撃を殺
しきれずにコンクリートの上をすべる。蹴られた左肩が、熱を持ったように激しく痛んだ。
僕を土台に跳んだアリスは空中でマッド・ハンターの斬戟をかわし、フェンスに傘をひっか
けるようにして落下位置を変えて杖すらもかわした。ましらのような動き。そのくせあわただ
しさはなく、妙に上品で洗練されていた。踊っているようにすら見える。
遊んでいるようにすら、見えた。
「ぐ、ぅぅぅうう、……」
もっとも攻撃を食らったこっちとしては遊びでもなんでもない。斬られなかったから平気、
だなんていえるはずもない。全体重をのせた衝撃を食らったのだ、皹くらい入っていてもおか
しくない。左手動かすと引き攣ったような痛みが走る。
折れてないといいけど。
折れてなくても、痛いものは痛い。
痛いけど――死んではいない。
「世界びっくり人間ショーに出れそうだよな……」
死んでいないなら、まだやれる。魔術短剣を持った手でコンクリートを押さえて立ち上がる。
動かすたびに左腕は痛むけれど、動かすことはできる。それなら十分だった。爪が食い込むほ
どに強く、魔術短剣を握りしめる。視界の先ではマッド・ハンターとアリスが一進一退の攻防
を繰り広げている。アリスもとんでもなかったけど、こうして離れてみるとマッド・ハンター
の動きも目を瞠るものがある。



444 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/10/13(土) 22:36:19 ID:jWabB8ch


若干……マッド・ハンターのほうが押されている、のか? 杖と鋏を器用に振うマッド・ハ
ンターに対して、アリスは傘だけでその両方を捌いた上で反撃まで加えている。一見互角に見
えるけれど、よくよく観察すれば、じりじりと押されている。
なら――加勢しないと。
二人の下に足を一歩踏み出し、
踏み出しかけた足が止まった。
「………………」
一度痛みを受けたことで、頭のどこかが冷静になったことに気付く。
そうだ――僕は考えなければならない。
そして、決定しなければならない。
打破だなんて言葉で片付けてはならない。決着をつける前に、きちんと答を出さなくてはな
らないのだ。裁罪のアリスをこの手で殺すのか、それともいなして逃げるだけなのか――それ
すら決まってないで、何が『打破する』だ。
中途半端にも程がある。
この状況で出来ることは二つだ。一度裁罪のアリスをいなして逃げ、マッド・ハンターと――
いや、如月更紗と話をする機会を作るか。彼女に真意をきいて。僕一人でなく、二人で道を選
ぶか。
それとも――今、此処で、裁罪のアリスを殺すか。
五月ウサギが姉さんにしそうしたように。
白の女王が神無士乃にそうしたように。

殺害して、道を作るか。

それは――向こう側に渡ることに、他ならないけれど。狂気倶楽部と同じ側に立つというこ
とだ。
僕は。
僕は、選ばなきゃならない――


→END1 この場は逃げる
END2 アリスを殺す



445 名前:いない君といる誰か ◆msUmpMmFSs [sage] 投稿日:2007/10/13(土) 22:38:57 ID:jWabB8ch
投下終了です
一応選択肢の形になっていますが、片方はバッドエンドなので即終わります
ので順番に書いていこうと思います。

446 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/13(土) 23:28:09 ID:W1yKr/rF
個人的にはEND1なんだけど、どうなるんだろうか……まあそれにしても

>どこかの馬鹿が如月更紗に惚れ込んで彼女の家にいったあげくに第三の選択肢を選んだからややこしくなった
なんだコラ、文句あるのか。

スミマセン、ゴメンなさい。
でも更紗派だから仕方ない、今も反省はしていない。
てかここの住人ほとんどそうだったようなw

447 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/13(土) 23:47:48 ID:QWbzdke+
>>445
GJ
いよいよクライマックス?
どんな結末を迎えるのか楽しみで、でもなぜか不安なような

448 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/14(日) 02:45:42 ID:ywEpaOPx
>>445
やはり彼女でしたか。しかし相も変わらず最強具合な様で。
それにしても良い仕事です。
……ここは何となくBAD風味な気のする2で。

449 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/14(日) 11:10:35 ID:qTFq+34q
いつのまにか本家保管庫が更新されてるw

450 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/14(日) 11:27:20 ID:1BmMRQDT
>>449
>>419


451 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/14(日) 23:31:16 ID:ph8pFXus
>>300の続きが読みたいな

452 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/15(月) 22:31:30 ID:+Glh4y0p
投下しますよ

453 名前:『ドラゴン一人乗り。』(前編)[sage] 投稿日:2007/10/15(月) 22:32:44 ID:+Glh4y0p
星空が映る湖の岸辺に、声が響く。
歌だ。
ドの音階、ラの単語で始まるそれを、少女は歌う。
目を伏せ、スカートの裾と髪を風に踊らせながら、しかし身を動かさず、少女は思う儘
に声を連続させてゆく。頭に思い浮かんだリズムに即興で歌詞を乗せるそれは、それ故に
明確な終わりというものが存在しない。だからこそ、彼女は思った儘に紡いでゆく。
快い、と思いながらも歌を止めたくなくて、その感情は言葉として出てくることはない。
ひたすらに、その感情も込めて、ただ歌が流れてゆく。
それが暫く続き、どれだけ歌っていたのか時間を確認する為に月を見上げようとして、
少女は目を開いた。完全な暗闇だった視界に光が侵入し、周囲の光景が意識に入り込んで
くる。目を閉じていたことで普段と比べて夜目が利く状態になった現在では左手側、暗い
森の中もある程度は視認することが出来る。
だから、彼女は気が付いた。
「いつから居たのですか?」
この場所に居るのは自分一人だと思っていたが、それ以外、森の中に人影があった。
「ここは立ち入り禁止となっているのですが」
その言葉に応えるように、人影が一歩踏み出してくる。
それは青年だった。
身長は高く、体は全体的に太い。だが太っているのではなく、衣服越しでも分かる程に
筋肉がついているからだ。青年の左右の側頭部に生えた二対の竜角は彼が竜であることを
示しているが、それ自体は珍しいものではない。竜証としてはありふれたものだし、この
地方では特に竜角を生やしたものが多く生まれるので普通以上に見慣れている。
どれも平凡な特徴だが、彼女はすぐに青年の名前を思い出した。
「ガリスさん」
名前を呼ばれた青年は、体躯に似合わない穏やかな笑みを浮かべ、短く刈った髪を掻く。
「覚えておいででしたか」
「はい。大事なお客様ですから」
三日前に来たばかりなので記憶に新しい、というのが、ガリスの名前をすぐに思い出す
ことが出来た理由の一つだ。それに実際に会うのは初めてだが、客分ということなので、
それだけ印象も強い。彼は旅の薬売りだ、と聞いている。実際に病気が治ったという者も
僅か三日の内に何人も出ていて、それもまた記憶に強く残らせている原因の一つだ。
「ですが、それと決まりは別問題です。今すぐここから離れて下さい」


454 名前:『ドラゴン一人乗り。』(前編)[sage] 投稿日:2007/10/15(月) 22:34:15 ID:+Glh4y0p
静かに少女が告げると、ガリスは礼を一つ。
「失礼致しました」
踵を返して数歩進み、そこで振り返った。
「あの、最後に一つ尋ねても良いですか?」
「何でしょう?」
「いつも、この辺りで歌っているのでしょうか?」
その言葉に、少女の心臓が跳ねた。
聞かれていたのか、という疑念を視線に込めて見つめると、癖なのだろうか、ガリスは
照れたように再び髪を掻いた。表情を見る限りでは特に咎める様子もなく、単純に疑問に
思ったようだ。それに安堵し、少女は吐息する。
「はい、そうですね。隠しても仕方がないので、認めます。ですが、その、このことは、
出来れば口外しないで下さい。貴方を咎めておいて図々しい話だと思うかもしれませんが、
儀式以外のときには歌ってはいけない決まりになっているのです」
それを聞いて、ガリスは若干寂しそうな目をして髪を掻いた。これで三度目になるが、
感情とは別物の仕草だ、と少女は判断する。もう体に染み込んだ、自分が歌うときに目を
伏せるようなものだと。
沈黙。
「残念です」
それを破った言葉の意味が理解出来ずに視線で尋ねると、ガリスは髪から手を離す。
「それはつまり、滅多に聞けないということでしょう。綺麗な声だったので、この場所で
なくとも聞ければと思ったのですが、それも難しいみたいですね」
歯の浮くような台詞だ、とは思ったが、しかし少女は初めて笑みを見せた。それは少し
唇の端を吊り上げただけのもの、笑いの声さえも漏らしていない。しかも掌を口に当てて
隠している。だが誰が見ても喜んでいると判断出来るものだ。
それを見てガリスは首を傾げたが、すぐに同じ笑みを返す。
「すいません、はしたないところを見せてしまって。ええ、そうですね。本当は、好きに
歌いたいのですけども、全く残念な話ですね」
「我慢はしなくても良いと思いますよ。それが」
一息。
ガリスは空を見上げ、少女も釣られて空を見上げた。曇一つない、無数の星が輝く空が
目に映り込んでくる。綺麗だ、と思う意識に入ってくるのはガリスの言葉の続き。
「それが、生きるということですから」


455 名前:『ドラゴン一人乗り。』(前編)[sage] 投稿日:2007/10/15(月) 22:36:09 ID:+Glh4y0p

◇ ◇ ◇

「……ア様、アムシア様!!」
肩を揺すられ、アムシアと呼ばれた少女は薄く目を開いた。朧気な意識の中にあるのは
先程まで見ていた光景の記憶。それと眼前の光景を比較して、つい眠ってしまったのだと
自覚する。夢の中に出てきた青年のように髪を掻けば、自分を起こした侍女、ニグベスの
「はしたない」とたしなめる声が飛んできた。
だがニグベスの表情はすぐに心配するようなものに変わり、
「どうされたんですか?」
その言葉に、素直に寝不足だと答えようかという気分になる。普段から人前では真面目
に振る舞っているので、まさか規則を破り連日夜中に歌っていだなど誰も思わないだろう。
何か思われたとしても、それは寝付きが悪くなったという程度のものだ。そうなったら、
薬を貰うという名目で昼にもガリスに会うことが出来るかもしれない、そんな打算もある。
口を開こうとして、しかしアムシアは黙った。それでガリスに迷惑を掛けてしまうかも
しれないし、夜に歌うことに注意をされるかもしれない。確かにガリスは自分の歌を快く
聞いてくれてはいるが、根は真面目だ。儀式の妨げになるかもしれないという理由で歌う
ことを注意されるだろう。そうなれば本末転倒だ。
少し考え、
「夢を、見ていました」
強引な話題の転換だが、ニグベスは興味を持ったらしい。
「一月程前の、少し面白かった日のことです」
長老がボケて曾々孫とパンを間違え、娘に叱られていた日だ。それを思い出したのか、
ニグベスも小さな笑い声を漏らす。本当は違う夢を見ていたのですけど、と小さく呟き、
長い金色の髪を揺らしながらアムシアは立ち上がる。
「あ、そうそう。一月前と言えば、その頃に来たガリス様。アムシア様は御会いになった
ことは無いかもしれませんけれど、あの方は良い人ですよ。是非一度御会いになった方が
良いと思います。楽しい話も色々知っていますし、御体が悪いなら何か薬でも」


456 名前:『ドラゴン一人乗り。』(前編)[sage] 投稿日:2007/10/15(月) 22:37:35 ID:+Glh4y0p
知っています、と言いかけて、また口を閉じた。会ったことも無い筈なのに知っている
などと言ってしまったら、そこから騒ぎになる。表情を薄い笑みに変えて、楽しみですね、
と言って視線を横へ。上手く出来ただろうか、と考えながら見た先にあるのは、いつもと
何も変わらない湖と森の風景だ。
「それで、ガリス様ったら……」
続いているガリスの話を聞きながら、ふと気が付いた。
「あの、様付けをしてるのは」
比較的医者に近い立場にはあるがガリスは正式な医者ではない、旅の薬売りだ。自分の
ように特殊な地位に居る訳でもなければ、貴族でも何でもない。それなのに普通に様付け
で呼ばれていることに疑問の言葉を投げ掛けると、ニグベスは面白そうに笑った。
「あ、それですか? 実際に会えば分かると思いますが、あの方はどこか浮世離れをして
いると言いますか、どこか天上人のような雰囲気がありまして。人当たりも良いし、取り
巻きと言うのでしょうか、要は惚れ込んだ娘が何人も出来て。いつの間にかガリス様って
いう言い方が定着したんですよ。まあ、今では私もその一人ですけどね」
薄く赤に染まった頬を押さえて腰をくねらせるニグベスを見て、アムシアは吐息を一つ。
通りでよく話す訳ですね、と心で呟いて、わざと足音を鳴らし一歩前に出た。その足音で
現実に戻ってきたのかニグベスは真面目な顔に戻り、アムシアの後方に立った。
「少し早いのでは?」
「遅くて困ることはあるでしょうが、早ければ待つだけで済みます」
失礼致しました、と礼をするニグベスを視界の端に捕えて、更に一歩前へ。改めて前へ
向けた視線の先にあるものは、石で出来ていることを剥き出しの質感で示すバルコニーだ。
窓の外から聞こえてくる声からは既に人が集まっていることは分かっているし、強い風が
長い僧衣の裾をこちらから見える程に揺らし、なびかせていて、司祭が待機しているのも
確認出来る。後は自分が出るだけ、という状況だ。


457 名前:『ドラゴン一人乗り。』(前編)[sage] 投稿日:2007/10/15(月) 22:38:52 ID:+Glh4y0p
「行きましょう」
ここから先は『巫女』であるアムシアと司祭だけの世界になるので、『神世』の部外者
であるニグベスからの返事は来ない。しかし、それが当然なので構わず前に進む。右手を
伸ばせば普段と変わりない質感と重さの剣が存在し、それを掴んだアムシアは周囲を気に
することなく刃を宙に踊らせた。
室内の空気が変わる。
『巫女』が剣を走らせるのは、周囲を断ち切ることを意味する。周囲のものを意識の内
から外すという意味と、空間を切断するという意味を持つからだ。床や壁、柱や調度品、
それが例え侍女が相手だとしても、『傷付いた』ことを意識してはいけない。『何も存在
しない』、と意識すれば空気は自然とアムシアから『巫女』へと切り替わる。
目を伏せて、『巫女』は意識を剣へ集中させる。彫り込まれた『咎殺し』という文字を
指先の感覚で読み取り、足音を殺し前進。まるで歌うように、言葉を重ねてゆく。
目を伏せたせいで黒く染まった視界の中に、光が生まれた。
『巫女』は思い浮かべる、遥か昔の神々の時代の一つの話を。
かつて神と人は共存していた。人々は神を恐れ、そして敬い、慈悲深い神々はその人々
に恩恵を与えていた。それにより人々は豊かな暮らしを行うことが出来、国はどこよりも
栄えていた。全てが幸福の内にあり、それは永久に続くと思われていた。しかし、それは
続かなかった。一組の男女の強い想いから、決して取り返すことが出来ない一つの悲劇が
起きたからだ。男は神官で、女は神に遣える巫女だった。二人は恋仲で結婚の誓いまでも
行っていが、巫女は神の嫁という役目を背負っていた為に結ばれることは不可能だった。
男は神に対し怒りを露にし、巫女を妻にすると決めたという雨を司る神との契約を恨んだ。


458 名前:『ドラゴン一人乗り。』(前編)[sage] 投稿日:2007/10/15(月) 22:39:56 ID:+Glh4y0p
そして悲劇は起こる。
雨の神から祝福を受けた剣を持ち出し、神を呼び、そして殺した。
悲劇は続く。
雨の神を殺されたことにより他神も怒り狂い、この地は長い不作が続いた。病は流行り、
獣が溢れ、蛮族に襲われ、何もかもを失ってゆく。人々は苦しみ次々と死に絶えていった。
巫女は悲しみ、嘆き、神々にどうすれば良いのかと尋ねた。
『全ての罪を終わらせろ』
神の指示に従い巫女は剣を清め男を刺し殺し、そのことを悲しみ、自らの命も絶った。
『神』の剣は『神殺し』の剣へと変わり、『神殺し』の剣は『咎殺し』へと変わった。
神は巫女の腹の中に宿っていた娘を育て、時は流れ、
「それは私へと続いてきた」
軽音。
足音が生まれたことと足に来る感触が変わったことでバルコニーに出たことを理解して、
『巫女』は目を開いた。眼下にあるのは街に住む者、ほぼ全員の姿。竜族、人間、視線を
巡らせると老若男女様々な、だが見慣れた人々の姿が見える。
「アムシア様」
声を聞き、『巫女』は左を向いた。
「アムシアの意味を唱えよ」
「『巫女』であり、人であり、そして『雨の神』である名前でございます」
「その証を唱えよ」
「長く伸び、稲穂の如き輝を持つ金色の髪にございます」
「然らば、私の在り方を示せ」
「貴方の力がここに」
頷き、剣を水平に構えると、司祭は麦の束を刃に滑らせる。長い年月を経た刃は、その
長さ越えてきた事実を感じさせない程簡単に束を切断した。風に巻かれて飛んでゆく穂を
短い時間見つめた後で、『巫女』は再び眼下へと視線を向けた。
「私は、ここに存在する」
口を一旦閉じ、僅かな溜めの後に、『巫女』は歌い始めた。


459 名前:『ドラゴン一人乗り。』(前編)[sage] 投稿日:2007/10/15(月) 22:41:27 ID:+Glh4y0p

◇ ◇ ◇

窓の外から聞こえてくる声に耳を傾け、ガリスは薬茶を口に含んだ。元から苦味と酸味
と辛味が混ざったものな上に濃く煎れてあるので強烈な味になっているが、それに対する
反応といえば僅かに眉根を寄せただけだ。意識は依然窓の外に向いていて、視線と指先は
数分前から変わらず売り上げの計算表の上を滑っている。
「そう言えばガリス様、儀式は見に行かないんですか?」
「そういうナムこそ行かなくて良いのですか?」
掛けられた声に振り向き、言うと、ナムと呼ばれた少女は笑みを見せた。
「アタシは良いんですよ、昔から見てるし。アムシア様に変わった後も何回も見てますし、
それに絶対参加って訳でもないですから。逆にガリス様は一回も行ってないですよね?」
問うてくるナムに首を振り、立ち上がった。遠目で見たときなら何度かあるし、歌声を
聞くのならば現在住んでいる、この家でも充分なものだ。広場で行われている儀式の声は
街の外れにあるこちらまで届いているし、不足はないと考える。自分はこの街に住んでは
いるが、所詮は旅の者なので参加する資格はないと思い、それも参加を躊躇わせていた。
それに口には出さないが、参加出来ない大きな理由もある。
どう答えようかと考えていると、袖を引かれた。
「今度はどうしましたか?」
「あの、物凄い勢いで染みが広がってますけど」
ナムが指を指した先を見れば、言葉の通り、計算表の上に垂れた薬茶が勢い良く領土を
拡大していた。慌てて雑巾を持ってきて拭き取るが濃く煎れたせいで粘度が非常に強く、
布に染み込まない薬茶は雑巾の動くままに紙の上に広がっていく。結果、元の白さは欠片
も感じられない程、見事褐色に染まった紙が出来上がった。
「書き直しですね。文字も読めないので、計算も最初からになりますね」


460 名前:『ドラゴン一人乗り。』(前編)[sage] 投稿日:2007/10/15(月) 22:43:02 ID:+Glh4y0p
「そうですね、何故こんなことになったのでしょうか?」
「ガリス様の特殊な趣味が悪いんじゃないですか?」
「あの喉に絡み付くような粘度と最悪な味が良いんですよ!!」
そうですか、と半目で見つめるナムから目を反らし、ガリスは吐息。棚から帳簿を下げ、
ページを捲り始める。ナムは既に雑巾を洗いに行ったらしく、台所の方向から窓の外から
聞こえてくるものと同じ旋律の鼻唄が聞こえてきた。
「もう一月か。私は後、どのくらい居れるでしょうか」
ペンを止め、呟く。
「何か言いましたかー?」
「何でもないです、ただ綺麗な歌だと」
もう十何年も聞いてますからね、と言って雑巾を干すナムに、笑みを向ける。生まれた
頃から聞いているのだから、それは誰でも歌えるようになるだろう、と思う。ガリスにも
似たようなものがあり、それを思わず口ずさみそうになり、
「馬鹿か、私は」
出すべきではない、と自重する。
代わりに口から流れてくるのは一月の間に聞き覚えた曲、ナムが歌っているものと同じ
メロディの歌だ。当然上手くはないが、それを補うようにナムが声を重ねてくる。それを
快いと思いながら、夜に会うアムシアのように目を伏せて歌う。
「このように、感じているのでしょうか」
誰が、とは言わない。
思い浮かべたのは金色の長い髪を持つ少女と、それを見上げる人々の姿だ。どのような
ことを考えながら、どのような気持ちを抱きながら歌っているのだろうか。決まっている、
今の自分と同じように、声とリズムによって重なることを楽しんでいる。
楽しむ。
自分で考えた言葉に、誰にも気付かれない程小さな失笑が混じった。すぐに消えたそれ
は小さな罪悪感と、目に見えない程の後悔だ。自分が進行形で重ね続けている嘘を、更に
大きくするようなもの。それを自覚して、続けていた歌が途切れた。


461 名前:『ドラゴン一人乗り。』(前編)[sage] 投稿日:2007/10/15(月) 22:45:28 ID:+Glh4y0p
「……馬鹿め」
「……ガリス様」
不意の感触。
そこに目を向けると、ナムが腕を強く握っていた。
「やっぱり行った方が良いですよ。一人で、そんな辛そうに歌っているなら。文句なんて
誰も言いませんし、仮に誰かが言ったとしてもニグベスに頼んで叱って貰います」
「そう言えば、ニグベスさんは神宮勤めでしたね」
「はい、自慢の妹です!!」
胸を叩き、今からでも遅くありません、と腕を引くナムに苦笑を返す。確かに一度だけ
ならば、人に紛れるようにするならば、それも良いかもしれないと考える。決して誰にも
見られてはいけないものも、そうすれば幾らか見えなくなるだろう。身勝手で随分都合の
良い話になのだろうが、それでも良いなら、そう考えながら歩き始める。
「早く早く、広場は逃げませんけど時間は逃げますよ!!」
やや強引とも言える勢いは、苦笑を微笑に変える。
だが、それは油断に繋がった。
油断が一瞬の隙を生み、隙は普段では有り得ないミスを生む。
鈍音。
襟布を固定していた糸が切れ、ボタンが弾け、袖を引かれた勢いのまま一気に喉や鎖骨
が露になった。普段は殆んど顔以外の露出をしないガリスの素肌にナムは赤面したが、
「ガリス様、それ」
それは、一瞬で青いものへと変わった。
「バレてしまいましたか」
力の足りない視線でナムが見つめた先、そこには通常の竜族では有り得ないものが己の
存在を示していた。それを隠しもせずにナムの腕を振り解き、ガリスは一歩後退。
歌声と音が次第に止む中で、
「私は、半竜なんですよ」
ガリスは、儀式の参加を躊躇わせていた最大の理由を言う。
喉元に存在する一枚の鱗が、夕暮れの光を鈍く反射していた。


462 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/15(月) 22:46:05 ID:+Glh4y0p
今回はこれで終わりです
続きは後程

463 名前:□ボ ◆JypZpjo0ig [sage] 投稿日:2007/10/15(月) 22:54:25 ID:+Glh4y0p
うぁ、トリップ忘れた
今度こそ終わり

464 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/16(火) 02:30:04 ID:2tZd7ZK3
>>463
大変乙

気になる~、気になる~!wktkで眠れな~い!

465 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/10/16(火) 02:46:38 ID:pWcIKRX8
「ヤンデレ家族と傍観者の兄」の続きまだー?

466 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/16(火) 03:07:04 ID:DSM8BFEn
>>463
GJGJ
なにか影のある主人公がイイ。情景も綺麗な感じ。
誰がどんな病み方するか楽しみ

467 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/16(火) 04:23:16 ID:4mz3tlFa
GJ

向こうのスレの同タイトルとどういう関係があるのかが気になるな。
半竜の夢 と世界観が一緒なのはわかったが

468 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/16(火) 07:54:30 ID:Bu+aK8rB
凄い好みな世界観ですわ。文章力もあって、良い仕事です。

冒頭の文体でとある作家さんを思い浮かべたんですけど、もしかしたら趣味が近いのかもしれませんな。

469 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/10/16(火) 11:48:53 ID:3EWtNrIn
投下開始します。13レス使用します。

470 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/10/16(火) 11:49:41 ID:3EWtNrIn
*****

休日の朝である。眠いのである。
なぜ眠いのかというと、やむにやまれぬ事情というものがあるからであった。
なにせ、昨晩から両親はどこかへ出かけているのである。
故に、健全な高校生としては、不健全に徹夜のようなものをするのにふさわしい状況だったのである。
もちろんただ起きていたわけではない。
昨晩は夜間のプラモデル作りについてとやかく言う母が我が家に不在であったため、
昼間しか使えないエアブラシを夜間に存分に使うことができた。
結果、1/12サイズのGPレーサーのプラモデルを完成させられた。
朝日の差す場所に、数分前に完成させた作品を置く。
――おお、黄色く輝いて見えるぞ。
出来としては、最近作ったものの中では一番である。
やはり創作環境というものは大事だと改めて気づかされた。
これからも父には是非とも頑張ってもらい、母を外へ連れ出していただかなくては。
なんなら、このまま一ヶ月ぐらい旅行へ出かけてもらっても構わないぞ、父と母よ。

さて、今は7時。
今から昨晩の睡眠時間を取り戻すとしようか。
7時間寝るとして、起きるのは十四時。つまり午後の2時。
まあ、昼飯を食うのに遅すぎる時間というわけではないな。
朝飯は食わず、このまま倒れるように布団の上で眠るとしよう――。

布団がちょうどいい暖かさになっていて、心地よく眠れそうだ、などと思っていた時であった。
携帯電話に突然着信があったのである。
誰だ?こんな朝から電話してくるような俺の知り合いは。
携帯電話のディスプレイを見る。知らない番号だ。よし。
通話ボタンを押す。間髪入れずに電話を切る。
朝から間違い電話などに付き合っていられるほど、今の俺に余裕はない。
早く眠りたいのである。

もう一度布団に身を投げ出し、再度眠りにつこうとしたら、今度は部屋のドアがノックされた。
弟か妹であろう。めんどくさかったので、狸寝入りをする。
が、いくら待ってもノックが止む気配がない。
むう。なにかあったのであろうか。もしやとうとう父の体力が尽きて危険な状態になってしまったのか?
仕方ないな。少しだけなら相手をしてやってもいいだろう。
「空いてるから入っていいぞ」
扉へ向けて話しかける。すると、弟がドアを開けて入ってきた。
「兄さん、おはよ。電話がかかってきてるよ」
「誰からだ?」
「話してみたらわかるって。はい」
弟は電話の子機ではなく、自分の携帯電話を俺に渡した。
弟の知り合いか?俺と弟に共通する知り合いなどいないのだが。
いまいち納得のゆかないまま電話に話しかける。


471 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/10/16(火) 11:50:28 ID:3EWtNrIn
「もしもし、変わりました」
「……あ……」
「あの、どちらさまですか?」
「あの……その……」
あのその、と言われても。
電話越しに緊張するなんて、どれだけシャイなんだ、この相手は。
「とりあえず、名前を教えてくれませんか?」
「あ……そ、そっか。私、同じクラスの葉月」
「え……」
葉月さんだって?なぜよりにもよってこんな朝から電話をかけてくるんだ。
昨日、あんなかたちでふってしまったというのに、どうして電話をしてくる?
「おはよ。葉月さん」
「お、おはよっ、うございます」
もしかして今、噛んだ?
まあ、緊張するのも無理はないか。昨日のこともあるし。
「何か用なの?」
「あ、あのね。今日おうちにいるかな、と思って。それで電話したの」
「はあ。一応、今日はずっと家にいるつもりだけど」
俺の予定など聞いてどうしようと言うんだ。葉月さんは、弟が好きなのに。
そういうことは俺ではなく、弟に聞くべきだろう。
「そうなんだ……あの、誰かが遊びに来るわけじゃあないよね?」
「違うよ」
悲しむべきか喜ぶべきかわからないが、今日は誰かと遊ぶという約束はしていない。
恋人でもいるのならば、デートにでも行くのであろうが。
恋人か。もし昨日葉月さんの告白にOKの返事をしていれば――やめよう。
葉月さんの気持ちが俺に向けられていないことを知っておいて付き合うなど、失礼だ。
それに、そんなことをしてもまた俺が惨めな気分を味わうだけである。
葉月さんが何用で俺に電話をかけてきたのかは知らないが、早いところ切ってしまうに限る。
だいたい、葉月さんは弟のことが好きなわけで――ん。おお、そうだ。
「葉月さんは今日、何か用事が?」
「え……無いけど?」
「じゃあ、うちに来ない? 弟もいるよ」
「え……嘘、いいの? 今、こっちから遊びに行ってもいいか聞こうとしてたんだけど」
「もちろんいいよ。弟も喜ぶと思う」
「う、うん、わかった! すぐに行くから待っててね! じゃあ!」
言い終わると、葉月さんはすぐに電話を切った。

なんともわかりやすい反応であった。
弟がいると聞いてあそこまで喜ぶということは、やはり葉月さんは弟のことが好きなのであろう。
携帯電話の番号を交換しあうほど2人は仲良くなっていたのか。葉月さんの熱意には敬意を表したい。
しかし、どうして俺に電話を代わるという展開になったのかは、よくわからない。
弟も勝手に葉月さんを家に呼べばいいというのに、なぜ俺に電話を代わったのか。
もしや、俺に遠慮でもしているのであろうか?
弟のことだから有り得る。だが、俺はそのへんは寛大なつもりである。
もし弟と葉月さんの間に甘い空気が流れ始めたら俺はしばらく家を出て時間をつぶす。
人の恋路を邪魔して、その後で馬に蹴られて死ぬ予定は俺にはない。


472 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/10/16(火) 11:51:35 ID:3EWtNrIn
ただ、弟と葉月さんが付き合いだすには、一つの障害がある。三兄妹の末っ子の、妹のことである。
今では立派なブラコンに成長してしまった妹は、葉月さんを快く思うまい。
いや、心証を悪くするだけならまだよい。あくまでも勘であるが、ただごとでは済まない気がするのである。
具体的には、昼ドラ的な展開が起こりそうな気がするのだ。
あの、『この泥棒猫!』がリアルに聞ける可能性が大である。
オプションとして妹が葉月さんに包丁を向ける可能性もなきにしもあらず。
しかも演じるのはベテラン女優ではないにしても、シリアスに怒っている妹である。
思わず身震いするような気迫を放ってくれるに違いない。
現場に居合わせたくはない。録画した映像で俺は満足できるから。
とはいえ、妹が怒りに燃えるとなると、間違いなくその場に居合わせるであろう弟と葉月さんが
無事で済むという保証ができなくなる。
やはりここは妹を外に連れ出して、弟と葉月さんの2人っきりにさせるのがベストであろうな。

さあ、妹を外に――――――どうやって連れ出す?
如何なる手段をもって妹を外に連れ出そうなどと考えついたんだ、俺は。
連れ出せるわけがないだろう。なにせ妹は俺を嫌っている。いや、それ以前にどうでもいい存在に思っている。
同様の理由で妹を引き留めるのも不可能。
そんな絶望的な条件下で、どうやって同じ屋根の下にいる弟と妹と葉月さんを鉢合わせさせないようにできるのだろう。
俺と弟で家を出て葉月さんを迎えに――行ったら、おまけに妹もついてくるか。
仕方がない。今から電話をかけ直して葉月さんに、今日は来ないでくれ、と言おう。
こちらから誘っておいて来るなと言うのも失礼だがこの場合は仕方がない。
弟と葉月さんには、この家以外の場所で会うようにしてもらおう。

慣れない弟の携帯電話を操作し、葉月さんにリダイヤルしようとしたときである。
ピンポーン、という間延びした音が鳴った。来客が玄関のチャイムを押したのであろう。
つまり、今この家の玄関に来客が来ているということになる。
携帯電話で時刻確認。7時50分。
この時間に突然の訪問者は現れることは稀にあるが、今日ばかりはそれとは違うように思える。
おそらく、玄関のチャイムを押したのは葉月さんだ。
来るのが早過ぎるぜ、葉月さん。通話が終了してから10分も経っていないじゃないか。
葉月さんの家は、この家のすぐ近くなのか?
いや、電話をかけてきたとき、すでにこの家へ向かっていたのであろう。だからこんなに早く来られたんだ。
葉月さんが我が家の玄関まで来てしまった以上、出迎えに行かない、というわけにはいくまい。
おお、そうだ。俺が出て葉月さんに帰ってくれるよう頼めばいいじゃないか。電話をする手間が省けた。

部屋を出て、玄関へと向かう途中のことである。2人分の話し声が聞こえた。
「弟君、おはよう」
「おはようございます、葉月先輩。今日は、やっぱり……」
「うん。昨日のことをちゃんと聞こうと思ってきちゃった」
「わかりました。じゃあ早速中へどうぞ」
足音が玄関の方向から伝わってきた。即座に自室へ引き返す。
しばらく待っていると2人分の足音は部屋の前を通り過ぎ、リビングへと向かった。
危なかった。別に弟と葉月さんに会って危ないということではないが、つい逃げてしまった。
昨日、あんなかたちでふってしまったから、葉月さんと顔を合わせたくなかった。だからつい逃げてしまった。
チキン。ヘタレ。臆病者。なんとでも罵れ、自分。俺はこんなやつなのだから。


473 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/10/16(火) 11:52:37 ID:3EWtNrIn
部屋を出て、廊下からこっそりとリビングの音声を聞く。
「葉月先輩、コーヒーでいいですか?」
「うん、ありがと。ねえ、弟君」
「はい?」
「私って、魅力が無いのかなあ……?」
自信なさげな声であった。
俺は葉月さんに魅力がない、とは思わないのだが。
「僕はそんなことないと思います。同じクラスの男子も先輩は美人だって言ってますよ」
この辺の考えは俺と弟は一致しているらしい。というか大概の男なら同じ意見であろう。
「じゃあ、どうしてあんな簡単にふられちゃったんだろ。私嫌われてるのかな、お兄さんに」
俺が葉月さんをふったということは、弟に伝達済みらしい。
俺は弟に話していないから、葉月さんから話したのであろう。
「うーん……兄さんは先輩みたいなひと好きそうなんですけどね。
どうして断ったのか、僕にもよくわからないです」
「そう……」
弟よ。本当にわからないというのか?
目の前にいる葉月さんが、お前を強く想っているということが。
彼女の目をよく見ろ。どこまで鈍感なんだお前という男は。
いや、鈍感であるから弟は女性にもてているのか?
むう。こうなったら俺も負けじとニブチン男になってやろうか。
しかし、如何なる訓練を積めば女性の好意に気づきにくくなれるのであろう。
うむむ……思いつかん。やはり鈍感というのは天賦の才なのか?

「ねえ、弟君。お兄さんは今どこ?」
ぎくり。
「部屋にいますよ。先輩が来ても出てこないってことは、寝てるんじゃないんですか。
昨日は徹夜してたみたいだから。見に行きます?」
見に行く?まるで動物園にいるシカを見物しにいくような調子ではないか、弟よ。
それに出てこないのは寝ているからではなく、葉月さんと顔を合わせたくないからだぞ。
交際を断った昨日の今日で正面から話せるわけがないだろう。そのへんの事情を察して発言しろ。
「うん……でも、私……もしかしたら嫌われてるかも。だから会ってくれないんじゃ……」
「大丈夫ですって。兄さんも一晩過ぎて先輩と付き合わなかったことを後悔してる頃ですよ。
もう1回告白すれば、きっとオーケーしてくれます」
このアホ弟!なぜ葉月さんの好意に気づかない!
葉月さんが俺に告白してきたのは、お前に近づくためなんだぞ!
本気で好きじゃない男に告白してまでお前に近づきたいと思っているんだ!
彼女はそこまで思い詰めているんだぞ!
「うん……わかった。もう1回言ってみる。このコーヒー飲み終わったら行くよ」
ええい、葉月さんも葉月さんだ。
なぜ二人っきりのシチュエーションだというのに甘い空気へ持っていかない。
恋の勝負はチャンスを逃せばそれでおしまいなんだぞ。いや、よくわからないけど、たぶんそう。

ちい。このままでは葉月さんと顔を合わせることになってしまう。
そうなったら、昨日なぜ告白を断ったのか問い質されてしまう。
それに対して洗いざらい吐いてしまうという手段もあるが、できればそれはしたくない。
いくら葉月さんが嘘をついているとはいえ、当人の前で嘘を暴いてしまったら傷つくだろう。
早く家から出よう。葉月さんから逃げるんだ。
目に涙を溜めた儚い表情の葉月さんから告白されて、また断れるかはわからない。
ふとした弾みで頷いてしまうかもしれない。
それだけはしたくない。また後になってふられてしまって、苦い思いを味わいたくはない。
前の彼女みたいに、葉月さんを心の底から嫌いになりたくない。


474 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/10/16(火) 11:55:58 ID:3EWtNrIn
立ち聞きしていた場所から玄関へ向けて一歩踏み出したそのときである。
カチャ、という丁寧な音が聞こえた。リビングのドアが開く音に似ていた。
似ているということはつまり本物の音である可能性もあるわけで。
もし今の音がリビングのドアが開く音であると仮定した場合、後ろには葉月さんがいる、ということになる。
逃げ遅れてしまった。
ああ、何を言われるのであろう。もしかしたらあの手紙での告白以上に熱烈であり、しかし嘘である告白を
してくれるのであろうか。
いやそれとも、葉月さんが言いそうにない罵詈雑言をたっぷりぶつけてきてくれるのであろうか。
不意に、家の前の道路を自動車の走行音が通り過ぎた。そして、排気音の響きが止んだころである。

「誰よ! あんた!」
いきなり妹の怒声が背後からすっ飛んできた。
脳に残っていた朝特有の爽快な気持ちの残滓が、今ので全て吹き飛んだ。
振り返ると、確かにリビングのドアは開いていた。しかし葉月さんはそこにはいなかった。
代わりに、妹の後姿が廊下へ少しだけはみ出していた。妹はリビングへ向けて怒鳴っていた。
「なんで朝から人の家に上がりこんでいるの!」
弟と葉月さんが一緒に居る光景を妹が見たらまずい空気になるだろうとは思っていた。
だが、妹の調子は最初から怒りの方向へまっしぐらであった。いきなり臨戦態勢になっている。
体を後ろへ方向転換し、リビングへ向かう。
リビングの入り口から見えたのは、まず妹のセミロングの黒髪であった。
その奥に、致命的な失敗をしましたと物語っている表情の弟と、きょとんとしながらコーヒーカップを
持ち上げている葉月さんが、一つのテーブルに向き合うように座っていた。
2人の視線は妹へ固定されている。妹は視線を一身に受けながら叫ぶ。
「答えなさいよ! どういうつもり?!」
「落ち着けって。この人は葉月先輩。兄さんのクラスメイトの人だよ」
表情を普段のように柔和にした弟が言った。
「先輩……?」
「そうよ。よろしくね、妹さん」
葉月さんは微笑みながらそう言ったのだが、妹の感情は落ち着いてくれなかった。
「何しにきたの……? もしかして、お兄ちゃんを奪いにきたの?」
「奪う? どういう意味?」
「お兄ちゃんを誑かして、この家から連れ去る気だったんでしょ!」
「誑かす? え?」
「絶対に、お兄ちゃんは渡さない! お兄ちゃんは私とずっと一緒にいるんだから!」
「え……なに、それ」
葉月さんが困惑している。
まあ、無理もない。いきなり目の前でブラコン宣言されたのだから。
しかもそのブラコンっぷりが兄弟愛のレベルを超して、男女の愛であることを匂わせるようなものであったから、
なおのこと葉月さんには理解し難かったろう。


475 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/10/16(火) 11:58:18 ID:3EWtNrIn
葉月さんはようやく俺に気づいたようだった。妹を挟んで、見つめ合う。葉月さんから話しかけてきた。
「ねえ、どういうこと、これ」
「その……見ての通り、妹はこういう人間なわけで」
「もしかして昨日の告白を断ったとき、理由を言えなかったのって、妹さんのせい……?
妹さんが好きだから、私を拒絶したの?」
ふむん?妹の話をしていたというのに、なぜ昨日の告白の話になるのであろう。
それに、俺が妹を好き?好きか嫌いかで言わせれば好きである。ラブではなくライク。
「確かに妹のことは家族として大事に思ってるよ。けどそれと昨日……のことは関係ないよ」
「……嘘。今、返事するまで間があった。ごまかすために、言い訳を探してた」
それ、言いがかりですから。
返事に窮しているときは嘘を考えているときである、なんて乱暴すぎる。
俺が嘘を吐いていないと困ることでもあるのだろうか。
嘘を吐いているということにすれば、昨日葉月さんをふった理由になるからかもしれない。
なるほど、それなら今の言いがかりが葉月さんの口から飛び出してもおかしくはない。
だがその言いがかりは絶対的に真実ではない。
だって葉月さんは、俺の「妹のことを家族として大事に思っている」という台詞を嘘だと思っているのだ。
つまり、葉月さんはこう言いたいのだ。
「妹さんが好きなんでしょ? だから昨日、何も言えなかった。そうでしょう?」
ありがたくも葉月さんが脳内の台詞を代弁してくれた。
そしてその台詞はとうてい無視できるようなものではない。
「違うよ。俺が昨日あの返事をしたのは…………別の理由があるからなんだ」
「じゃあ、それを教えて」
「言えないんだ、どうしても。ごめん」
「……ほら、やっぱり嘘を吐いてる。バレバレだよ」
真実を語っているというのにそれを相手が信じない。
俺が隠し事をしているからそう思われているだけかもしれないが。
「そうなんだ。妹がいいんだ……だから、私をふったんだ……」
ゆっくりと椅子をひき、葉月さんは立ち上がった。
葉月さんの目は、今まで俺が目にしたことの無いような――いや、どこかで似たものを見た気もするが
思い出せない、暗い色をたたえていた。

妹が、俺と葉月さんを結ぶ空間に割り込んできた。
「帰って頂戴。お兄ちゃんは私とずっと一緒にいるの。この家でずっと暮らし続けるの。
あなたが割り込む隙間なんか、一ミリだってありはしない」
「……あなただったのね。あなたがいるから、彼は私を拒んだんだ。
あなたの言うことは、少しも聞き入れられないわ。だって、私はあなたのお兄さんを好きなんだもの」
「お兄ちゃんを……?」
「ええ、そうよ。諦めなさい。兄妹が結ばれることなんか、ありはしない。絶対にね」
「そんなことない! だってうちの両親は……」
――まずい!
「言うな!」
叫んだのは弟。タッチの差だった。もし弟が言わなかったら、俺が妹を止めていた。
「そのことは、言っちゃダメだ。家族だけの秘密なんだから」
妹は弟の言葉には返答せず、ただ頷きだけしてみせた。


476 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/10/16(火) 12:00:05 ID:3EWtNrIn
しかし妹の勢いは少しも静まっていなかった。再度葉月さんに食ってかかる。
「世間では兄妹同士は結婚できないって言うわ。けど、結婚なんかしなくたって一緒には居られる。
私は、結婚できなくてもいい。ただお兄ちゃんと暮らせればそれでいい。
だけど、その生活には誰も割り込ませない。特に、あんたみたいな泥棒猫にはね!」
「本気なの? そんな馬鹿げた考えが世の中で通用すると思っているの?
きっと、あなたの両親も親戚もあなたの考えを認めないわ。2人別々の道を歩かせようとする。
そんなとき、あなたは立ち向かえるの? 悪いことは言わないわ。よしておきなさい。
お兄さんへの感情なんか、所詮兄弟愛を超えるものになりはしないんだから」
「あんたに何がわかるのよ! お兄ちゃんのことなんか、何一つ知りはしないくせに!」
「そうね。まだ少しだけしか知らないけど、私は全てを受け入れるつもりでいるわ。
そして、妹であるあなた以上に彼のことを理解してあげられる。私なら、それができる。
お兄さんの幸せを願うなら、お兄さんの一生を壊したくないのなら――諦めなさい」
葉月さんは、まったく妹の考えを認めていなかった。
兄妹の恋愛など、絶対に成立しない。むしろ、相手のことを思うならば諦めるべきだと、そう語っていた。
葉月さんの言葉は俺に直接向けられたわけではないが、どれだけ妹にとって残酷な台詞だっただろうか。
両親が兄妹同士でありながら結ばれたのと同じように、自分と兄も一緒になれると思っていた妹。
きっと妹は、正面から自分の考えを否定されたことなどなかったろう。
両親は我が身を省みては何も言えなかったはずだ。俺は妹に説教したことはない。
おそらく、弟も何も言っていない。弟は妹に優しいから。否、誰に対しても優しいから。
だから、初めて妹に説教した葉月さんに対して、妹が反発するのは当然のことであった。

「この……! あんたなんかに、お兄ちゃんを幸せにできるはずがない!
どうせ誰にでもそんなこと言ってるんでしょ! 美人はいいわね、男に不自由しなくって!」
「私、誰とも付き合ったことなんかないわよ? おまけに言うと、あなたのお兄さんに会うまで、
誰かを好きになったことすらなかったもの」
そうだったのか? 葉月さんの初恋は弟だった?
なんて果報者なんだ、弟よ。できたら俺と代わってくれ。妹はお前に譲るから。
「嘘! 嘘よ! あんたなんか、あんたなんか……」
「私なんか、何?」
「あんたなんか……死んじゃえ! お兄ちゃんの前から、消えてしまえ!」
突然妹が葉月さんへ向かって駆けた。後ろにいた俺は止めることさえできなかった。弟も同様であった。
ただ、妹が葉月さんに両手を伸ばし――突然宙を舞い、床に叩きつけられるのを見ているだけだった。
「がっ! ……あっ…………ぐ、ごほっ、ごほっ!」
ずだん! という音と共にフローリングの床の上に背中から着地した妹が、激しく咳き込んだ。
妹の位置は、葉月さんの斜め後ろ。着地地点には何も置かれていなかったことが幸いだった。
何が起こったのかは理解できた。葉月さんが妹を投げたのだ。
細かくは見られなかったが、一瞬で妹の体が頭上まで浮いたシーンは目に焼き付いている。
その際に妹のスカートの中身も見えた。青と白のしましまであった。だがそんなことはどうでもいい。
「葉月先輩、いきなり何を!」
妹の背中をさすりながら、弟が言った。
「いきなり襲いかかってきたんだもの。正当防衛よ」
「だからって、いきなりこんな!」
「聞き分けのない子供には、誰かがしつけをしてあげないと。それがその子のためよ」

弟と妹を見下ろしていた葉月さんの視線が、俺へと向けられた。
たじろがず、正面から見つめ返す。ここで引くことはできない。
――あれ、なんで俺はそんなことを思うんだ?
理由は、思い出せない。兄として妹を守らなくては、という意識のせいであろうか。
ただ、どうしても弱気にならない。葉月さんのナイフのような目が俺に向けられていて怖いと思っているくせに、
体だけは恐怖を覚えない。
今なら、包丁が正面から飛んできても突っ込めそうだ。体が心を鼓舞してくれている。


477 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/10/16(火) 12:01:42 ID:3EWtNrIn
くすり、と葉月さんが笑った。
おかしいから笑ったのか、嬉しくて笑ったのかはわからない。
「見た? あなたの妹さん。おとなしそうな外見とは違って凶暴なのね」
「……そうだね」
「実は私の実家、道場を開いててね。ときどき練習にお邪魔させてもらっているの。
だから、さっきみたいに襲いかかられるとつい体が反応してしまうのよ」
「なるほどね」
昨日、屋上で俺を地面に組み伏せることができたのは武道の心得があったからなのか。
ぱっと見ただけではそういうことをしている人には見えないが、美人には謎が多い方がいい、
とか誰かが言っていたから、葉月さんに意外な一面があってよかったと思うとしよう。
しかしそんなことを聞いても、この場では緊張の種にしかならない。
いったいどれほどの実力者なのか、話を聞いただけでは推測できなかった。
理想としては初心者レベルであって欲しいが、一瞬で妹の体を投げ飛ばす人が軽く武道をかじっただけなら
師範クラスの人はどこまで化け物なのかわからなくなり空恐ろしいので、葉月さんは中堅クラスとお見受けする。
まあ、武道を習っている時点で脅威であることに代わりはないか。

俺がそんなことを考えているうちに、葉月さんは妹に向き直っていた。
「妹さん。お兄さんのこと、諦める気になった?」
いいえ、と答えることを許さない口調である。
妹は咳を吐き出していた胸を鎮め終わったところだった。
床に手を着きながら立ち上がる。が、体をぐらつかせて弟に支えられた。
それでも、葉月さんに敵意を向けることだけは忘れない。
「誰が諦めるか……。お兄ちゃんは、私の、ものよ」
「まだそんな口を叩けるのね。本当はやっちゃいけない投げ方で投げたのに。
なんなら、もう1回いっとく?」
「やれるもんなら、やってみなさいよ……。近づいた瞬間、あんた喉笛を噛み切ってやる。
投げようとしたら、その時に肘をへし折ってやるから」
実に勇ましい台詞ではあったが、それが強がりであることは俺にもわかる。
おそらく葉月さんもそれを理解している。
妹の執念は、蛮勇をもってしてどうにか支えられている状態であった。
「そう。じゃあ、涙と鼻水を流しながらごめんなさいするまで、痛めつけてあげましょうか」
葉月さんが一歩踏み出す。妹は歯ぎしりをさせつつ、葉月さんをきつく睨む。
その雰囲気に危険を感じた俺よりもいち早く、弟が妹をかばうように抱きしめた。
「やめてください、先輩」
「どきなさい、弟くん」
「嫌です」
「どうしても?」
「絶対に、絶対に嫌です。先輩が何をしようと、どきませんから」
「そんなふうに妹さんをかばうから、わがままな妹さんになってしまったとは思わない?」
「僕は、先輩が何を言っても絶対にどきません」
弟はすでに葉月さんも妹も見ていない。ただ目を閉じて妹を抱きしめていた。
そして、抱きしめながら言う。

「先輩、『妹をいじめないで。いじめないでください』」

2つの写真を用いた間違い探し。それの正解を見つけたときの閃きに似た、既視感が脳をよぎった。
同時に、悲しくなり、寂しくなる。
叫びたくなった。けれどそれが喉にある堤防のようなもので止められ、やはり叫べない。声も出せない。
恐怖だった。俺は恐怖を思い出していた。弟の言葉が引き金になって。
『妹をいじめないで』。妹をいじめないで。ただこれだけで、どうしてここまで心が揺れ動く?
何かが思い出せそう――なんだけど、何かの影しか浮かんでこない。何かの正体が掴めない。
探れば探るほど、影は薄くなっていく。そして――あっというまに見えなくなった。


478 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/10/16(火) 12:03:52 ID:3EWtNrIn
夢想から覚めた時、目の前には以前と同じ光景がまだ残っていた。
葉月さんと妹はにらみ合っていた。弟は妹の体を横から抱きしめていた。
妹が葉月さんへ飛びかからないように、また同時に葉月さんが妹に手を出せないように、抱き留めていた。
「いじめるだなんて。別にそんなつもりはないんだけど。ただ妹さんに考えを改めてほしいだけなのに」
「けど、そのためなら先輩は妹をいじめるんでしょう? 同じことです」
「強情ね。その妹を守ろうとする姿勢はいいのだけれど、そのせいで自分の身が危険にさらされている、
ってことわかってる?」
「……もちろんです」
「それでもどくつもりはない、ってわけ。いいわ。だったら、君も……」
君も?弟も妹と同じ目に合わせるつもりか?
どうしてだ。どうして、葉月さんは自分の好きな男に対しても憎悪を向けるんだ?
もしや、妹への憎悪で我を忘れているのか?

こんなことはやめてほしかった。ここが俺の家であるという要素を抜きにしても、骨が軋み皮膚が
裂かれてしまうような争いは、葉月さんにも妹にもしてほしくない。
2人ともただ弟が好きなだけで、その気持ちは似通っているはずなのに、ぶつかり合ってしまう。
似たもの同士であるはずなのに、磁石のSとNが弾かれるように、太極の陰と陽が交わらないように、
葉月さんと妹はわかり合おうとしない。
諍いが、どちらか一方が弟からの恋や愛を独占するためのものであることなどわかっている。
決着が、どちらかが諦めるまではつかないということもわかっている。
また、どちらも決して諦めないということも。
この場にいる俺はなにもせず、終わる目処の立たない争いをじっと見ているつもりか?
俺は何のためにここにいる?俺がここでできることは何もないのか?
そんなことはないだろう。この3人にはできない、何かが俺にはできる。
3人とは違うからこそ、成せないこともあれば成せることもある。
母性本能をくすぐると女子生徒の間で評判の弟にも、可愛い顔をしながら弟以外の男に興味を持たない
妹にも、クラス一の美少女でありながら意外と怖い葉月さんにも、できないことがある。
そうとも。この修羅場を鎮めることができるのは、俺だけしかいないんだ。

「葉月さん」
呼びかける。葉月さんが端正な横顔を向け、目線を流してきた。
「ごめんね。ちょっとだけ待ってて。妹さんをすぐにしつけの行き届いた犬みたいに従順にしてあげるから」
微笑みを見せながら、葉月さんが言った。
その笑顔も、俺が立ち向かわなければならないものであると、自分に言い聞かせた。
「妹にも、弟にも手を出さないでくれ。いや、出させない」
「え? 何、言ってるの?」
「目の前で、妹が痛めつけられるのはもう見たくない。だから」
葉月さんの白い右腕を掴む。思っていたよりもずっと、彼女の手首は細かった。
「悪いけど、今日は帰ってくれ。葉月さん」
きっぱりと告げて、その場できびすを返して葉月さんの腕を引く。
突然、足裏が床を滑った。床がベルトコンベアになっているみたいに、後ろへ無理矢理動かされた。
体は壁に叩きつけられてからようやく止まり、短いうめき声を吐き出した。
今のが葉月さんの仕掛けた技だとは理解していた。
彼女の手首を握った瞬間から、こうなることは覚悟していたからだ。 
だから、まだ俺の手は葉月さんの手首と繋がったままだった。
「妹さんを庇うの? そんなに、妹さんが大事?」
平らにした目で葉月さんが見下ろしてくる。
返事の代わりに、腕を引っ張って意志を伝える。妹は大事にしたい人だよ、葉月さん。
それが不快だったのか、それとも最初からこのつもりでいたのか、葉月さんは俺を持ち上げた。
いや、俺の感覚からすると持ち上げられたというよりも、自分の超能力で浮いたと言った方がふさわしい。
もちろん俺に超能力など無いが、もしあったとしての話。
浮遊の後は、重力に逆らうことなく、今回はテーブルの上に落っこちた。
頭のすぐ横で猫の絵が描かれたカップが倒れて、中身をテーブルにぶちまけた。
コーヒーは熱を持っていなかったが、頬をべったりと濡らして俺を不快にさせた。


479 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/10/16(火) 12:07:41 ID:3EWtNrIn
強制的な宙返り運動の余韻に苛まれながらも、俺はまだ葉月さんの手を離していなかった。
この手を離したら終わりだという意識が働いていたからだろう。
「離してよ! 離してったら!」
葉月さんが俺の手を外そうとしている。だが当然のごとく俺は抗うわけであり、簡単に事は運ばない。
右に目を向けると、揃いも揃って目を大きくした弟と妹の姿があった。
なんだかおかしかったので、やあ、とでも挨拶したい気分になったが忙しかったのでやめた。
唐突に浮遊感が襲来した。俺の体はテーブルからテイク・オフ。
今回はひと味違い、回転運動が加わっていた。葉月さんを中心にして、リビングの宙を舞う。
テレビ、ソファー、窓ガラス越しの朝の風景、顔面蒼白の弟、いつもと違う眼差しで見つめてくる妹、
無人の整頓されたキッチン、リビングのドア。
あらゆるものがカラフルな線へと変容し、俺の目の前を通り過ぎていく。否、俺が通り過ぎているのか。
空中回転木馬によるフライトは、固いものに体がぶつかってようやくの終焉を見た。
意識が千々に乱れていて、自分が衝突した場所を理解するまで手間取った。
俺は右にある茶色の壁にもたれていた。よし、生きてるな。
続いて平衡感覚と視界を再構成する。
あれ――おかしい。葉月さんと弟と妹、さらにあらゆる景色までが右側の壁に垂直に立っている。
これだけの短時間に地球の重力は歪んでしまったのか?ではなぜ俺だけが正常なんだ?
いや、待て。もしかして……。
目を閉じる。スリーカウント。ワン、ツー、スリー。目を開ける。
……ああ、さっき見たのは間違いだった。周りがおかしいんじゃなかった。
俺が床に倒れていたから、景色が90度回転して見えたのだ。

体が重い。床に引っ張られているような感じだ。
努力して上半身はどうにか起こせたが、膝が笑っていて立つことができない。
すでに俺は葉月さんの腕を離していた。俺と彼女の間には1メートル強の距離がある。
葉月さんが妹に手を出していたら、とても止められない距離であった。
だが、葉月さんは視線を俺へと向けることに集中していた。
弟と妹も俺を注視していた。俺は唇だけで小さな笑いを作る。
手近にあった壁を支えにして立ち上がり、再度葉月さんと対面する。
「気が済んだ? 葉月さん」
「なんで……なんでそこまでして、必死に庇うのよ」
葉月さんが悔しげな顔で俯いた。ロングヘアーも地面へ向けて垂れる。
「そんなに妹さんが好きなの? 私の告白は断ったのに! 未練なんかこれっぽっちも見せなかったのに!」
叫び声が肌を襲う。皮膚の表面の毛を軒並み震わせる。そんな錯覚までした。
俺の腹の虫が機嫌を損ね始めた。どうして今さら、この人は。
「妹さんを見なさいよ! あなたがこんなになっても、どれだけ必死になっても庇ってくれない! 動こうとしない!
私はあなたのためならなんでもする気なのに、それでも絶対に拒絶するの?!
妹が好きなら、はっきりそう言えばいいじゃない! 私なんか嫌いだって、そう言えばいいじゃない!」
そっちこそ、本音で語ってくれないくせに。
――もういいや。吼えよう。全部吐き出そう。

「葉月さんが本当は俺のことなんか好きじゃないって、俺にはわかってるんだよ!」
自分の声で耳鳴りがした。それでも口はいくらでも働いてくれる。
「俺のことなんか少しも興味なんか無いんだろ? だからいつも話をするとき、弟のことしか聞いてこなかったんだろ!
葉月さんが弟のことが好きだってとっくに俺は知ってるんだよ!」
葉月さんの顔に驚きが見えた。思惑を言い当てられたんだから当然だ。
しかし、弟も同様に表情を変化させたのはなぜなのであろう。
まあいい。今は葉月さんだ。
「俺と嘘の付き合いをして、弟と仲良くなろうとしてたことなんてバレバレなんだよ!
もう昔みたいな経験をするのはたくさんだ! 好きになってくれないって知っているのに、
付き合おうなんて言えるもんか! 葉月さんこそ本気になれよ! 真剣になれよ!
勇気を出して、弟に正面から告白すればいいじゃないか!」
震える腕を奮い立たせ、びしっ、と葉月さんの顔を指さす。
ああ恥ずかしい。思ってたこと全部吐いてしまった。
もう頭の中がからっぽだ。言いたいことなんか一つもねえ。おかげですっきりしたけど。


480 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/10/16(火) 12:10:10 ID:3EWtNrIn
腕を下ろす。果たして飛んでくるのは葉月さんの怒声か、鉄拳か。
何にしても、もうガス欠である。敗北必至。四面楚歌。
しかし、身構えていても何も起こらない。
変だ。俺の口撃から10秒は過ぎている。なのに反撃がこない。
葉月さんはまるで未知の数式に相対したかのような微妙な表情で俺を見ていた。弟もである。
「あの……………………兄さん」
なぜ弟が口を開く。
「なんだ、弟。しばらく大人しくするか、逃げるかしてくれ」
「言いたいことがあるんだけど、言ってもいいかな。結構大事なことなんだけど」
この場で発言しなければならない事項が弟にあるとは思えないのだが。
「いいぞ。言ってみろ」
「うん、あのね、兄さん」
いつの間にか、葉月さんと弟が微笑み顔を浮かべていた。
なんだ?この学園ドラマでよく見る喧嘩の和解シーンのような空気。
妹は困惑顔のままである。たぶん俺も同じであろう。笑っている2人の思考が読めないから当たり前である。
葉月さんと弟は一度顔を見合わせて笑い合うと、俺を見た。
二人揃って、先ほど俺がしたように人差し指を突きつけてくる。そして、口を開く。

「勘違いしてる」

*****

「ごめんなさい。本当にごめんなさい」
俺は謝っていた。後で見たら可哀想になるぐらいかしこまりながら土下座をしていた。
もはや土下座組にでも入った心意気であった。上手に謝らなければタマをとられる。
謝罪の意志を向ける対象は葉月さんである。
「勝手に勘違いしてごめんなさい。ひどいこと言っちゃってごめんなさい」
「い、いいよ、もう。そんなに謝られても困るし……私にも悪いところあったと思うし。
紛らわしいことしちゃって、ごめん」
俺と葉月さんがいるのは、家の玄関である。
そこで俺は平身低頭、必死に頭を下げているのであった。
「本当にごめん。俺、昔っからこうで。告白とかされると、疑いから入ってしまうんだ」
「もういいって言ってるのに……。でもよかった。私のことが嫌いなのかとか、
他に好きな女の子がいるのかとか考えちゃってたから。よく考えたら、妹に恋するわけないよね」
あはは、と葉月さんが恥ずかしそうに笑った。俺は父親とかを思い浮かべつつも、笑顔を見せた。

さっきの一件は、俺の勘違いが原因で起こったのである。
事は、俺が『葉月さんは弟が好きである』と勘違いして告白を断ったことからまず始まる。
ふられた原因を確かめようとこの家にやってきた葉月さんは、弟と会話しているシーンを妹に目撃された。
兄(弟の方)ラブの妹は、葉月さんが兄を奪う泥棒猫であると勘違いした。
妹にとっての『お兄ちゃん』(俺はお兄さんと呼ばれている)が俺のことであると勘違いした葉月さんは、
妹が邪魔者であると勘違い。掴みかかってきた妹を投げ飛ばした。
そこへ、頭がパーになっていないとやらないような勘違いをした俺が乱入し、リビングは戦場になった。
というわけである。
発端は俺、終末も俺。何やってんだ俺。
ああ、あと十回くらい投げられた方がいいかも。そしたら頭が正常に戻るかもしれないし。
今度葉月さんの道場を覗きに行こうか。うん、星座占いで一位だったらお邪魔しに行こう。


481 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/10/16(火) 12:12:40 ID:3EWtNrIn
*****

今の私は、嬉しさと恥ずかしさで泣きそうな気分だ。
だって、彼に恋人がいないという確信が得られた代わりに、3回も投げてしまったのだから。
目の前で彼が正座しながらまた謝ろうとしてくるのを、私は肩を掴んで止める。
「謝らせてくれ、葉月さん。俺みたいな人を信じられない奴は、こうしなきゃならないんだ」
「あの、あんまり謝られても困るから、その……この辺りでやめてほしいな、私」
「ああ! ごめん。また俺は勘違いを……」
らちがあかない。こうなったら、強引に話題を変えてしまおう。
「あのさ、告白の返事。まだちゃんとした返事してもらってないかなー、なんて思うんだけど」
恥ずかしいなあ。昨日屋上で向かい合ったときよりずっと恥ずかしいよ。
どうしよう。顔、紅くなってないよね?
「返事、もらえないかな。ここで」
――言っちゃった。また言っちゃった。
ああどうしよう。今すぐに答えを求めなくてもいいのに。
彼に性急な女だと思われないかな?
彼は頭を掻きながらうー、とか、あー、とか呻いている。
わかる。彼は今、真剣に私の告白について悩んでくれている。
彼が私のことだけ考えてくれてる。
もしかしたら、私とデートするシミュレーションを頭の中で考えたりしてる?
喫茶店に行ったり映画館に行ったり海に行ったりするところとか。キ……キスするシーンとか。
いやもしかして、それより先に……ああ、でもそれはまだ早いよ……でも、あなたとなら……。

「――――きさん? 葉月さん?」
「えっ、あっ?!」
「大丈夫? 具合でも悪い?」
「ううん! 平気平気。私健康と頑丈さだけが取り柄みたいなものだから!」
ちょっとトリップしてたみたい。唇を指で撫でる。よかった、よだれは垂れてない。
彼が私の目を見据えている。自然と私の体は金縛りにあったみたいに固くなる。
「告白の返事なんだけど」
「う、うん……」
ああ、何を言われるんだろ。――ううん。断られたっていい。
彼には何遍だってアタックしてみせる。
何度投げられたって意志を曲げなかった彼に、私はさらに惚れ込んでいるのだから。
彼が、躊躇いがちに口を開く。
「オーケーとは、言えない。ごめん」
ああ、やっぱりか。覚悟はしていたけど、はっきりと言われるとやっぱり辛いなあ。
仕方ないよね。さっきあんなに投げちゃったんだから。嫌いって言われないだけマシだよ。
私が肩を落としていると、また彼はしゃべり出した。
「俺さ、女の人と付き合う時は自分から告白しようって決めてたんだよね。昔変な経験したから」
「?」
「だから、女の人から告白では、付き合わないつもりなんだ。こんなの聞いたら男は怒るだろうけど、
どうしようもないんだ。体がどうしても受け入れてくれない。それでね、じゃなく、けれども……俺は」
彼の顔が紅くなっている。初めて見た。うわ、なんだか可愛い。
「もう少し葉月さんと仲良くなりたい。前からそう思ってた。俺、葉月さんのことろくに知らないから。
つまりどうしたいかというと、あのですね」
彼が白い携帯電話を取り出した。私のと同じ電話会社のだ。嬉しい。
「携帯電話の番号とメールアドレスを教えてください」
――要するに、彼は、いつでも私の声を聞きたいと。
――どんなときでも私からの連絡をお待ちしていますと。そういうことですね?そう受け取っていいんですね?
そして、自分から告白したいというさっきの台詞は、いずれ私に告白してくれると。そういうことですね?
「いいかな? 葉月さん」
好き好き大好き愛してるアドレスだけじゃなくってスリーサイズもカップも敏感なところも全部教えてあげますよ、
とは言わない。実はすでにあなたに朝電話をかけたのは私です、とも言わない。ただ、私は頷いた。
こみ上げてくる気持ちを涙に変えないよう、じっくりと噛みしめながら。


482 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/10/16(火) 12:15:20 ID:3EWtNrIn
*****

ごめんクラスの皆、すまない後輩諸君、許してください先輩方。俺はヘタレです。
みんなの憧れ、葉月さんからの告白を断ってしまいました。身勝手な理由で。
さらに、葉月さんの好意を利用して携帯電話の番号とアドレスを聞き出してしまいました。
彼女の気持ちが俺にまだ残っていることを察していながら、そんなことをしたんです。
いくらでも罵ってください。俺は美人の葉月さんとのつながりをこれっきりにしたくなかったんです。
浅ましい人間なんです。下劣な下半身が主の人間なんです。そして低脳の勘違い人間でもあるんです。
でも俺は後悔していません。それだけは事実です。

さて。まだまだ足りない気もするが、内省はこれぐらいにしておくとしよう。
葉月さんが帰ってからリビングへ移動すると、床に散らばった小物を拾い集めている弟の姿があった。
妹はキッチンへ移動して、フライパンをガスコンロの火で炙っていた。朝食でも作っているのであろう。
弟の手伝いをすべく、床に落ちた割れたコップの破片を拾い集める。
左手に乗せた破片が、突然弟の手によって取り上げられた。
「何をする。弟よ」
「兄さんは座ってて。僕がやるよ」
「何を言う。さっきの喧嘩は俺のせいで起こったようなもんだ。俺がやるのが当然。
お前こそ椅子に座って朝食を食べてろ」
ふう、と弟はため息を吐いた。続いて目をつぶりながらかぶりを振る。
「なんだ、その呆れたことをあらわすようなジェスチャーは」
「兄さんはどれだけ立派なことをしたか、自覚がないんだね」
「立派なんて言葉、俺には十年早い」
ヘタレだもん。
「そんなことないよ。昔みたいに、僕と妹を庇ってくれた」
「庇ったって……結果的にはそうなるけど、そりゃ普通のことだろ」
昔っからああするのが当然だったんだ。今さら感謝されるほどのことでもない。
――ん、昔?
「なあ、昔お前か妹がいじめられてたことなんかあったか? 記憶にないんだけど」
「やっぱり忘れてるんだ。兄さんは」
兄さん『は』ってなんだ。俺が馬鹿みたいじゃ――はい、脳みそツルツルピカピカでした。ごめんなさい。
しかし、弟にしては珍しく思わせぶりな口調だな。
「お前、何か俺に隠し事してないか?」
弟は首を振る。
「兄さんも知っているはずのことだから、あえて言わないだけだよ」
ふむん?俺は既知のはずである、と?
思考の海へボートで出て、オールで漕ぐ。――だめだ。いくら漕いでも目的地にたどり着けない。
靄がかかっているし、海面から岩が突き出しているから体力ゲージがあっという間に尽きてしまった。
「思い出せなければそれでもいいと思うよ。僕だって、本当は忘れたいんだから」
くそう。弟のくせに生意気な。もう勉強を教えてやらんぞ。
本当は忘れたい、ね。俺は何かを忘れているんだろうか。そして、それは思い出せない方がいいものなのか。
忘れたいと願い、記憶の奥底へ封じ込め、たぐり寄せる糸も、たどりつくために使う磁針も投げ捨てたのか。
きっとそうなんだろうな。俺は昔から、嫌なこととかすぐに忘れたいと望む男だから。
それでいいのだ。

コップの破片を捨てたあと、俺は朝食を摂ることにした。
朝食は、奇跡でも起こったか投げられたせいで頭でも打ったのか、殊勝にも妹がフレンチトーストを作ってくれた。
はっきり言おう。妹はなんにでも砂糖や塩を使いすぎである。
だが、美味かった。それだけは事実である。


483 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/10/16(火) 12:19:09 ID:3EWtNrIn
投下終了です。

本当は前後編で終わらせるつもりでしたが、この家族の話はまだ続きます。
今までの話は第一章みたいな感じでとっていただけるといいと思います。

「向日葵になったら」の頃と比べてだいぶペースは遅くなりますので、ご容赦ください。


484 名前:訂正 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/10/16(火) 12:21:20 ID:3EWtNrIn
>>481
>とは言わない。実はすでにあなたに朝電話をかけたのは私です、とも言わない。ただ、私は頷いた。



とは言わない。実はあなたに朝電話をかけたのは私です、とも言わない。ただ、私は頷いた。

が正しいです。ごめんなさい。


485 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/16(火) 12:46:16 ID:NfLTFKjL
>>483
まさかこんな時間に投下とは
何はともあれgjです
大学生?

486 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/16(火) 13:00:59 ID:rM+gaJC/
GJ

487 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/16(火) 13:15:09 ID:xCwHIbeW
>>483
お兄ちゃん幸せになれそうでよかったよかった。
続きでは葉月さんにさらなる暴走をしてもらいたいと思いつつ、GJ!

488 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/16(火) 18:35:56 ID:kpXaB/if
ヤベェヤベェ超おもしれー
この兄弟と妹と恋人の今後がメッチャ気になる!

489 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/10/16(火) 21:12:23 ID:pWcIKRX8
GJ!!
もうこの一言に尽きるぜ・・・
これから先が楽しみだよ。

490 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/16(火) 21:18:44 ID:P7zVYwGF
おおう、どうにか葉月さんへの誤解が解けたようで何よりです。
いや、堪能させていただきました。

491 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/16(火) 21:23:45 ID:pfIzEAwx
GJ!
マジ面白いな、お兄ちゃんもいい奴だし
幸せになって欲しいな……本当に。

492 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/16(火) 21:43:49 ID:F4ndi607
GJ

こんなに応援したくなる主人公は、初めてだ
是非ともhappy endで終わってほしい

493 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/16(火) 22:00:49 ID:tLrM1eow
GJ
しかし最後の方の文からまたなにか一悶着ありそうな悪寒

494 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/16(火) 22:02:55 ID:tQuJ9TfI
GJでした

休日の前になると、お父さんはお母さんを連れ出すのか
お父さんは子供たちに気を使っているんだね
三十代越えで子供も三人いるけど、ラブホ(推定)を利用する夫婦、か
ラブラブっぷりに萌えた

お兄さんも幸せになれるといいな
妹も最後で少し心を開いてくれたみたいでよかった、よかった

495 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/16(火) 23:31:59 ID:SusfvChO
なんとなく妹フラグ?の予感が・・・しないかw

496 名前:きゃの十三 ◆DT08VUwMk2 [sage] 投稿日:2007/10/16(火) 23:42:17 ID:uxqAZiLX
短編ながら投下します。

497 名前:【兄貴のお嫁さん】 ◆DT08VUwMk2 [sage] 投稿日:2007/10/16(火) 23:44:18 ID:uxqAZiLX
「君が涼一くん?」
「そうですけど…えぇ~っと、どちら様ですか?」
学校の帰り道、見知らぬ女の人から声をかけられた。
長い黒髪に季節はずれの白いワンピースを着た綺麗な人だった。
こんな綺麗な人、男なら忘れるはずが無い
だから多分、人違いなんだろうけど…でも俺の名前、知ってるから
やっぱり、知り合いなのかな?
「お姉さんね君のお兄さんのお嫁さんになる人なの」
女の人は、そう言って頬を赤く染めた。
うちの兄貴がこんな綺麗な人と結婚だって?
俺の兄貴は、お世辞にもカッコいいとは言えない
っというか大人のくせにオモチャ(ガンプラとかTFとか)を買い集めるようなオタクで
世間一般的から観るといかにも『モテない男』の分類に入る
そんな兄貴がこの人と結婚するなんて……邪気眼でも使ったのか?
「君のお兄さんから君の事やお義父様やお義母様の事、色々と聞いたわ」
「そ・そうなんッスか?」
どうやら兄貴の奴、俺や家族の個人情報をこの人にペラペラと話してるようだ
まったく、プライバシーという言葉をあの男は、知らないのだろうか?
「ねぇ涼一くん?今から君の家に行く予定だったんだけどあの人とはぐれちゃって
涼一くん、道案内してくれる?」
俺は、女の人の頼みを断る理由がないので我が家に案内する事にした。

498 名前:【兄貴のお嫁さん】 ◆DT08VUwMk2 [sage] 投稿日:2007/10/16(火) 23:45:59 ID:uxqAZiLX
家には、兄貴がいた―――が、自分の嫁(になる人)を見るなり
「夕、なんでお前がここに」と手足を震えながら叫んだ(全く、近所迷惑だぞ兄貴)
「だって、私はあなたの妻になる人間なんですもの
妻が旦那様の実家に行かないなんておかしいでしょ?
っと、兄貴のお嫁さん(になってくれたらいいなぁ)は、
兄貴に(ちょっと不気味ながら)微笑みながら答えた。
あぁ愛し合う二人…って兄貴が逃げ出した。
本当に兄貴は、『超』が付くほどの恥ずかしがり屋だなぁ~
それを追いかける兄貴のお嫁さん(そして俺のお義姉さん)…あっ、あっけなく捕まった。
そして兄貴のお嫁さん(予定)は、兄貴とともに2階の寝室に入ったいった。
それから1時間、上から地響きが聴こえて来た。

――甥と姪、どっちが生まれるんだろうか?
やっぱり、正月になったら叔父としてお年玉をあげなきゃいけないのかな?
…などと今後の金銭心配をしていると
ぐったりとした兄貴とお腹を優しく擦る俺のお義姉さんが戻ってきた。



それから3ヵ月後、二人は、めでたく結婚しました。
ついでに生まれた子は、『姪』でした。
俺は、この子を兄貴夫婦と同じぐらい可愛がってやろうと思います。

499 名前:きゃの十三 ◆DT08VUwMk2 [sage] 投稿日:2007/10/16(火) 23:50:49 ID:uxqAZiLX
投下終了です。

『ヤンドジさん』を執筆中にふっと思いついたネタで
他にも2~3作ぐらいショートストーリーを書いたけどそれは、
『ヤンドジさん』を書き終わったぐらいに投下予定です。

500 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/10/17(水) 00:28:46 ID:3u/82pIu
乙。
涼一くんはいずれこの姪と……

最終更新:2009年01月13日 14:29