401 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/23(金) 21:05:43 ID:ErgPvPGu

がちゃり

「あ、マユミ起きてたんだ」

名前を呼ばれて視線を向けると、ユキが部屋に入って来たところだった。
ユキ。高校時代に一緒だっ

来るな!!!!!

ユキを見た途端に全てを思い出した。
そうだ。
昨日久しぶりに飲もうと誘われてコイツとあって飲んでたら体が重くなってきて
そしたら知らない男が5、6人出て来て車に押し込まれてこの部屋に連れ込まれて
怖くて声が出なくて体に上手く力も入らなくて布団の上に投げ出されてたくさんの目が
ぎらついた目がこっちを見ててユキが笑って服に手がかかってボタンが飛んで手が
いっぱい伸びてきて息が舌が手がそれからそれからそれからそれからああああああああ

「まだ薬残ってるのかな。ごめんね」

上手く動かない体で必死に逃げようとしたがユキに簡単に捕らえられた。
がちゃりと手錠が嵌められる。次いで足にも枷が嵌められた。

「まだ起きないと思ったから拘束衣は下なの。後で着せてあげるね」

なんでこんなことするの

涙が頬を伝った。相変わらず声は音にならず私の中にたまっていく。



402 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/23(金) 21:08:39 ID:ErgPvPGu

「マユミ、汚れちゃったね」

ユキが私の肌を撫でながら静かな笑顔でポツリと言った。
そして顔をあげ、私の目を見て深い笑みを作る。

「もうカズキさんのところには帰れないね」

カズキさんには手を出さないで!

「大丈夫だよ関係ない人のことなんてすぐ忘れるから」

恋人の名前を出されて動揺する私を宥めるようにユキは笑った。
そんなことより言ってる意味が分からない。関係ない?彼は私の恋人だ。忘れる?

「ねえ、今日からマユミは私のモノだよ。ずっとずっと欲しかった」

ユキが私を抱きしめる。

「女だからって理由であなたを諦めなきゃいけないのは辛かった。そして諦めきれなかった。」

彼女の手が私の頭を撫でる。

「もう、私のモノだよ。こんな汚れたらどこにもいけないでしょう?体も動かないのに」

彼女は……泣いている。

「やっと手に入れたよ。マユミ。逃げたらまたあいつらが犯すからね」

私の心はじわじわと恐怖に染まって行った。

「もうどこにも行かないでね。マユミ。愛してる」

ユキの唇が私に触れた。
彼女の狂気が流れ込んで来た。



403 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/23(金) 21:11:29 ID:ErgPvPGu
以上です。スレ汚しすみませんでした。
タイトルは無いです。続きが浮かんだけれど書く体力はありませんでしたorz

暮らしが落ち着くまでリハビリして
逃亡作者になってしまってる分の続きを書きたい……とは思ってます。



404 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/23(金) 21:26:20 ID:vzzNGVTy
GJ!

405 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/23(金) 21:44:06 ID:/q2T6qAy
>>402
超怖っ……あれ、なんかおちんちんが……

406 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/23(金) 21:49:19 ID:/NDXokSL
>>403
GJ!!レズ注意は欲しかった気もするけど、それだとオチバレになるし難しいか。

407 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/23(金) 22:43:23 ID:ErgPvPGu
そうでしたすみませんでした。百合モノなんで注意迷ったんですがすみませんでした。

408 名前:きゃの十三 ◆DT08VUwMk2 [sage] 投稿日:2007/11/24(土) 02:06:36 ID:E4af3Dlk
投下します。

409 名前:お見舞い ◆DT08VUwMk2 [sage] 投稿日:2007/11/24(土) 02:08:10 ID:E4af3Dlk
「気が乗らないなぁ~」
僕は、そう思いつつ今日、風邪で休んだ高島さんにプリントを届けに彼女の家へ向かった。
普通は、高島さん家に一番近い吉田がこの役を先生に任せられるべきなのだろうが
どうやら高島さんが電話で先生に俺に来させろっと電話してきたそうだ
普通なら却下されるところだが
いかんせん高島さんのおじいちゃんは、うちの学校の理事長らしい
だから一介の教師であるうちの担任は、高島さんに頭が上がらない

「しかし、いつ見てもでっかい屋敷だなぁ~」
僕は、(これまたでかい)門の前のインターホンを鳴らす
3秒もしないうちにインターホンから
「はぁ~い、努くんですか?森野努くんですね今、門は開いていますよぉ」と
高島さんのとても風邪とは、思えない元気いっぱいの声が聞こえた。

門を通り屋敷の戸を開けると玄関に綺麗な黒髪の割れ目から見えるオデコに
冷えピタシートを装着しパジャマ姿の美少女が立っていた。
彼女が今日、風邪で休んだ高島詩織である

あぁ~本当に風邪ひいてたのね

「さぁ努くん、あがって下さいな」
「いや…プリント渡しに来ただけだから………」
「まぁ私の為にはるばる我が家へ!?
まさかとは思ってましたがやっぱり私達は、相思相愛だったのですね」
僕は、高島さんが来いって呼んだんじゃんっと言いそうになったが辞めとこう…きっと無駄だ
そんな事より早く用事を済ませて帰ろう

「えぇ~っと、これが今日渡されたプリントで…」
「ここじゃ寒いでしょうから中に入ってお話しましょう」
「いや結構でs「そんな遠慮しないで努くんと私の仲じゃないですか」
そう言うとどこから出るのか細い腕で僕を客間へと連れてった。

客間には、お茶とお菓子が置いてあった。
多分…というか確実に媚薬かしびれ薬、もしくは両方が入っていると思っていいだろう
先週、コレのせいで危うく高島さんに童貞を奪われるところだった(いやぁ~あの時は危なかった)

410 名前:お見舞い ◆DT08VUwMk2 [sage] 投稿日:2007/11/24(土) 02:08:49 ID:E4af3Dlk
「さぁ努さん、私が作った手作りお菓子を食べてくださいな」
芸がないな高島さん、同じ過ちを二度繰り返す僕じゃない!!

「ご・ゴメン、僕、虫歯だから悪いけど食べられないや」
「あらそうでしたの?それは、失礼を」
高島さんは、残念そうな顔でお菓子を片づけに炊事場に行った。
悪い事したかな?否、断じてそんな事はない
ってそんな事より早くプリント渡して帰らなきゃそろそろ危険だ

「努くん♪」
どうやら炊事場から戻って来たみたいだ
「高島さん、はいプリン………と」
そこには、素っ裸になった高島さんが立っていた。
上半身を見ると小さいながらも形の良い胸が見える
下半身の方を見ると薄い桜色の秘所が見え…なかった。

「た・高島さん、なんでそんな格好を…っていうかアンタ風邪引いてるんだぞ!!」
「うぅ…だってだって努くんがあまりに素直になってくれないから」
「素直じゃない?」
「本当は、私の事好きなのに嫌いな振りして意地悪するから」
そう言うと高島さんは、座っている僕に回り込み背中を抱きしめてきた。
「もう絶対に離しませハックシュン…んがらね」
「高島さん、とりあえず服着たほうがいいよ寒いでしょ?」
「ぞんな事言っでまだ逃げる気でじょう?努くん湯だんぽがあるがら寒ぐありまぜん」
鼻水声で何言ってるかわかんないけどとりあえず離さないらしい
こりゃまた帰るの徹夜になりそうだ やれやれ家に電話しておこう

411 名前:お見舞い ◆DT08VUwMk2 [sage] 投稿日:2007/11/24(土) 02:09:57 ID:E4af3Dlk
(1時間後)

なんとか寝かしつけられた。
思ったより速く寝付いてくれてよかった。

あの後、なんとか説得しパジャマを着せるのに成功したはいいが
「一緒にお布団入ってくれなきゃ死んでやる」っとペーパーナイフを自分の首に向けられ
しぶしぶ一緒に布団に入らされる事になってしまった。

その後、「男女が一緒に寝る時って…その…セックスする時ですよね?
私、風邪で弱ってるから犯そうと思えば…努くん、聞いてますか?」と色っぽい声で
コチラを誘惑してくるのだった(我が理性、よくぞ頑張った)

高島さんが起きないようにそっと高島さんの寝部屋を後にした。
そして僕は、高島さんの部屋に向かった。
別に高島さんの下着を盗んで家に帰ってスーハースーハーしようと言うわけじゃない
っというかそんな回りくどい事せんでも高島さんの事だから下着はおろか使用済みタンポンとかくれそうな気がする
まぁしないけどね

「あった」
高島さんの机からどこで隠し撮りしたのかわからない僕の排泄シーンが写った写真が数枚。
きっとおじいちゃんに頼んで隠しカメラを設置してもらったのだろう
こういう陰湿なところがなかったら付き合うんだけどなぁ
こっちの写真は、修学旅行の時に撮られた僕の寝顔写真。これは、前田に金渡して撮ってもらったのだろう
最後に僕と高島さんのツーショット写真2枚(1枚は無理矢理撮らされもう1枚は合成)

どの写真も高島さんの唾液と愛液まみれでベタベタしてる


とりあえず排泄写真は、家に帰ってゆっくり処分。
寝顔写真とツーショット写真は、流石に取り上げるのかわいそうなのでそのままに
さてと、じゃあそろそろお暇させていただきますか

さてと家に帰って『銀魂』観るかな
自分の今日のスケジュールを考えながら靴を履こうと靴を取ろうとした時

「どこ行くの?努くん!!」

いつの間に高島さん、起きたんだろう?
「やっぱり私を置いて出て行こうとしましたね?一緒にいるって約束したのに」
そんな約束した覚えは断固としてない
約束した覚えはないのでそそくさと靴を履きダッシュで高島さん家を後にした。

「あっ待ちなさい!未来の奥様の約束を破る悪い人はお仕置きです!!」
高島さんは、パジャマ姿で追っかけてきた。


こうして今日もいつ果てるとも知れぬ鬼ごっこを繰り返すのであった。
あぁ~『CLANNAD』始まる前には帰りたいなぁ~

412 名前:きゃの十三 ◆DT08VUwMk2 [sage] 投稿日:2007/11/24(土) 02:13:15 ID:E4af3Dlk
投下終了です。

嫉妬やグロエロのないヤンデレを書こうとしたらいまいちヤンデレっぽくない物が出来てしまった。

413 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/24(土) 02:17:27 ID:fmHmhBQ2
個人的には彼女の方は十分ヤンデレだと思う。
ただ、慕われてる方が怖がらなければ物語の上での脅威度が薄れるってだけで。
怪物や幽霊に対抗する手段が出た途端に、ホラー映画がアクション映画に切り替わるような感じ。

っつーか努君余裕ありすぎだろw
このぐらい器がデカい男なら、ヤンデレ相手でも普通に対処出来てしまうに違いない。


414 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/24(土) 03:14:05 ID:HAgQ6NZf
>>412

これはまた明るく良いヤンデレです

415 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/24(土) 13:19:15 ID:uX2E3vqm
GJ!
ヤンドジっぽい感じもする。個人的には続けてほしい。


416 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/24(土) 13:29:22 ID:Ge8dQqZ4
「~」をみると岡山の糞親父を思い出してだめだw

417 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/24(土) 14:10:25 ID:JECmWZMr
>>412
うむ。高島さんは立派にヤンデレなんだが
努くんの度量の広さというか能天気さでお馬鹿な印象になっているような気がしないでもない。
とにかくGJ

418 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/24(土) 17:36:50 ID:8nn39tfs
本保管庫のBBS、アダルトサイトの宣伝がさりげなく削除されている……。
管理人さん、ちゃんと見てるんだな。

419 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/24(土) 20:58:04 ID:WeiTbhQG
wikiについての提案。

1スレから前スレまでのログをHTMLで見られるようにしようと思うんだが。
俺がやってもよろしいか?

420 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/24(土) 21:11:49 ID:WVaTjaa0
>>419
ログ消しちゃった俺には吉報だ。
よろしくたのむ

421 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/24(土) 22:12:27 ID:KS9/mzXJ
一応、保管庫の中に前々スレまではhtml化されたのがあったぜ。
どうやってftpの中身を見たかについては聞かないでくれよ。

ttp://yandere.web.fc2.com/thread/

422 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/24(土) 22:28:44 ID:KS9/mzXJ
うはwwwwwwwwwもう消されてるwwwwwwwww
保管庫の人、まだここみてるんだなwwwwwwwwww

423 名前:419[sage] 投稿日:2007/11/24(土) 22:47:27 ID:WeiTbhQG
過去ログを見られるようにしといたよ。

424 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/25(日) 01:26:08 ID:sJRlPWsq
電波を受信した。

主人公(おまいら)は電話相談の人(いじめとかの)。
ある日電話がかかってくる。それは、高校生の男の子からで、
姉が自分のことを本気で愛している事、そのせいで性的ないじめを受けている事などをその子から聞く。
主人公はできるだけのアドバイスを彼にして、
「次があった時の為に」と、名前と電話番号を伝える。
次の日、彼からの電話がかかってくる。
「助けてほしい」と。
自分の考え一つで彼を幸せにもできるし、又その逆も。
あなたはどうする?

…うん、長々とごめん。
どこかで見たやつに妄想付け加えただけなんだ。本当にごめん。

425 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/25(日) 01:54:14 ID:DvD+xI7G
それはキモ姉、キモウトスレの範疇じゃないか
それがクラスメイトとか先輩とかならこのスレでOKだろうけど
当然このスレの住人なら「2人」が幸せになるように煽るだろうな。

426 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/25(日) 02:24:40 ID:eP4QT8Oo
そーいや、たとえばヤンデレだった女の子が浄化されてまともになる、
みたいな感じのもここの範疇でいいのか?
それとも最終的に二人とも堕ちる筋書きじゃないとダメなんだろうか。

427 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/25(日) 03:00:53 ID:K9fL5Dsu
>>426
少なくともスレ違いにはならないと思うが。

428 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/25(日) 04:26:23 ID:BagYiQGw
堕ちる以外のも見てみたいな。

429 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/25(日) 05:19:03 ID:YwD9rO2U
読みたいな、それ。
たまにはこのスレの娘達にも普通の幸福を手に入れて欲しい。


430 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/11/25(日) 07:35:33 ID:QLG5I9lw


431 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/25(日) 08:13:13 ID:QCgLMV5B
>>426
つ『あなたと握手を』

432 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/25(日) 10:54:26 ID:1rtHo8AE
>>424
キモ姉スレの保管庫で似たような話を見かけた気がする

433 名前:ヤンデレの薬[sage] 投稿日:2007/11/25(日) 21:36:33 ID:gK1hC/nj
「ついに完成だ!」

怪しげな研究者が怪しげな研究室で何か薬を開発していた。

「ヤンデレの薬が!」

この科学者の名前は薬丸、ヤンデレが大好物でヤンデレ系作品で彼がやったり読んだことが無い作品は無い程だ。そんな彼はどんな人でも(女限定)ヤンデレにできる薬の研究をしていたすべては自分の欲望を満たす為に

「宮本君!」

名前を呼ぶとくるぶしまでとどく長いツインテールで背丈は158くらい、割とスレンダーな女の子が出てきた。

「なんですか教授」

「この薬を全国に散布してくれ」

薬瓶を彼女に渡す。

「わかりました」


434 名前:ヤンデレの薬[sage] 投稿日:2007/11/25(日) 21:38:42 ID:gK1hC/nj
研究室を出た後彼女は考えていた

「彼氏と別れて気付いたのは良いけどこの想い教授にどう伝えよう、とにかく仕事頑張ってチャンスを探しましょう!」

ちなみに彼女はしっかりしているけどドジです。

「きゃ!?」

自分のツインテール踏んでこけました
パリーン

「教授……」

「お、早かったね宮本くんぐ!?」

いきなり抱きつかれキスされました。

「私教授が好き!」

彼女は半泣きで自分の気持をうったえてきた。

「でも君には彼氏が」

「ずっと前にわかれましただから私のモノになってください」

「わかったこれからは君を真剣に愛そう!ぐッ?」

いきなり腹から激痛が走る

「アハハじゃあずっと私しか見れないようにしてあげます!他の女なんかに渡さない!」

ぐりぐりと包丁を動かす。
「みやもとく……」

薄れゆく意識の中で彼は思った、最高に幸せだ!
変態は死ぬまで変態だった。

彼女は血だらけだった、多分他の助手の女の子達も殺したのだろう

「さて、ホルマリンとか用意しなきゃね、教授待っててくださいねアハハハアハハハアッハハハハハハ」

研究室無いに響くのは彼女の悲しく狂った笑い声とスキップする音だけだった。

435 名前:ヤンデレの薬[sage] 投稿日:2007/11/25(日) 21:49:13 ID:gK1hC/nj
ヤンデレ初めて書いたんですがこんなんで大丈夫ですか?(´・ω・`)

436 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/25(日) 22:06:36 ID:QCgLMV5B
なんとわかりやすいヤンデレキャラ。
そしてGood Job.


長いツインテールと聞いて宮本くんのイメージが初音○クになったのは俺だけでいい。

437 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/25(日) 22:43:59 ID:ksGoxaSF
敢えて言おうと思う。展開が早い。薄い。あと刺さなくても、むしろ刺さない方がヤンデレになれると思う。

もっと丁寧に作れば、素敵になると思う。次に期待。

438 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/25(日) 22:48:10 ID:nEQ9b22z
句読点はきちんと入れましょう
特に読点をもっと使ってみては
あと擬音は止めておいた方が

439 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/25(日) 22:52:56 ID:G0LDmkGF
何でも狂気があればヤンデレって訳じゃない。
狂ってるベクトルが全身全霊で愛に向かっているのがヤンデレなんだ!
だからそれはヤンデレではないと個人的に思う。
別に非難してるわけじゃないんでスルーしてくれてもかまわない。
だが最近になってヤンデレじゃないキャラがヤンデレと呼ばれてたりしていないかい?
目のハイライトが消えればヤンデレですか?
鉈やナイフを振り回せばヤンデレですか?

440 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/25(日) 23:06:29 ID:dRCV+Tzd
量産機とカスタム機の違いだな

441 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/25(日) 23:10:49 ID:LIEiMn/E
ヤンデレとはな・・・・・・
萌えるんだ。とってもな。もう、様を付けたくなる程に愛おしいんだよな
小動物の女の子が愛しい主人公を手に入れるために黒化して
必死に着信99件にしたり、主人公の家の合鍵を作ったり、
盗聴器も仕掛けて24時間監視したりと

そんな健気な行動が評価されて今があったらいいなと思う。

個人的にはヤンデレ化したヒロインの頭を優しく撫でると
喜んで尻尾を振るのか? 難問に俺は立ち向かっている

442 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/25(日) 23:51:26 ID:CFJAVw4r
「べ、別にただの残り物だよ!捨てるの勿体無いし、俺は腹空いてないし…え~とっ、残飯処理!そうお前は残飯処理係な」











ヤンキーデレスレはここでつか?


443 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/25(日) 23:55:26 ID:Ja5nu43W
>>439
いかなる言葉も、普及するにつれて意味が拡散していく。
ツンデレとかゴスロリとか見てると分かるだろう? まったく別物になっちまった。

444 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/26(月) 00:08:55 ID:53kU/T/b
>>441
「病み」の質に寄るんじゃないかな?
仮に優しく頭を撫でても「この人は優しい振りで私を騙しているだけなんだ」と思えば「私のものにならないならいっそ・・・」と邪魔な連中共々デストロイしちゃうだろうし
「彼が私以外の人間に優しくするはずないもん!」と信じ込んでいるなら「あいつ等がいなくなれば私ダケノモノ・・・」と相手だけをデストロイするだろう

ヤンデレは無限大の可能性がある
ヤンデレは俺たちを育む宇宙なんじゃないかと俺は思うよ

445 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/26(月) 01:26:28 ID:SZjTJRlX
>>443
明確な定義があればいいんだけどね。
広辞苑あたりがビシッと載せてくれればそれで解決だぜ。

446 名前:429[sage] 投稿日:2007/11/26(月) 02:11:31 ID:bi7ww6P2
>>431
ありがとう、俺の心が浄化された。

俺の携帯からだと少し面倒臭い事しないと読めなかったから飛ばしてたみたいだわ。


447 名前:ヤンデレの薬[sage] 投稿日:2007/11/26(月) 08:38:45 ID:u5ECGHpw
みなさんありがとうございます。
自分シリアスが苦手なんでシリアスな話になりやすいヤンデレを笑いにしようってコンセプトで書いてみたんですが、ヤンデレと笑いって合い入れないものなんですかね(´・ω・`)
それともただ単に自分の力量不足なだけかもしれませんがw
なんにせよ次は頑張ります。
ヤンデレを
萌のかわりに
笑にする

448 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/26(月) 10:00:19 ID:FBz1G16h
ヤンデレのコメディはなんだろうな
病的にまで愛してるんだけど、どこか憎めない、どこか怖くないって感じが強いかもな

住人は基本ヤンデレになった過程と理由を重視するので、
「病んでしまうくらい愛してしまった」過程になんか面白みを入れてみるのもいいかもな

例えば夢見がちな女の子がいたとして、主人公がたまたま毎回毎回
その女の子が困ってたりするときに助けてくれたりするうちに
『私の王子様!』みたいな感じでとってしまってたりな
でも主人公には自覚なくてただ偶然に助けたりしてるだけなかんじ
で、いっつも告白しようとしたりするんだけど妄想がひどいので
いっつも言いたいことが伝わらなかったりとかなw

449 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/11/26(月) 10:16:49 ID:USB98JEl
こんばんは、大変時間がかかってしまいましたが無事にショタヤンデレ作品が完成しましたのでさっそくですが
投稿します。
ショタヒロインに関して貴重なご意見を頂けて大変嬉しかったです、どうもありがとうございました。
それでは始めます、一応ショタとグロ、そしてインチキ時代劇注意です、長くなりますがご覚悟を…。

「月輪に舞う」①

…あらあ、兄ちゃんここいらじゃ見かけない顔だわね…いやいやあ、こんな狭めー村じゃあよその人なんて一発で解っちまうからよお……そんで、今日は何かい?こんな山奥の村の、よりにもよって居酒屋によお…へえ、学生さんで、こんなところまで民俗学の研究ってかい…。
そんで…昔話?そんなモンを調べてんのかい?…いいぜえ、んならおらっちさが教えてやっからよお…。
…これはむかーしむかし、まぁだ織田信長がガキ大将をしてた頃…そこの筑摩山に、忍者の里があったころのお話でよぉ…。

…空からは大粒の雪が降っていた、まだ季節は神無月の初旬であるというのに…。
男は走っていた、といってもただあてもなく走っていたわけでもない、久々に仕事を終えて久々に里に帰るために走っていたのだ。
「寒いな…全く…」
男の口からはそんな言葉が漏れた、無理もない。時刻は丑三つ時、さらに雪が降っていると言うのに男は傘もかぶらず薄い綿入りを着ているだけといった格好で、更に汗で髪と、眼帯と顔を濡らしながらもすさまじい速度で街道を走っているのだ。
普通の人間ならばこの季節柄、凍傷…最悪凍死しまってもおかしくないだろう。しかし男は普通の人間ではなかった。
男の生業は忍者だった、しかもただの下忍ではない…里の土地柄ゆえか活動範囲こそ限定されてしまっているが、それでもそこそこ名の知れた流派の腕扱きとして、たった今まで任務をこなして…やっと里に帰ろうとしたときにこんな目にあってしまったのだ。 
「今日はついていないな…本当に…」 
そういいながら男は立ち止まると街道の右側にある山の獣道に向かって走り出した…獣道をまっすぐ入り、そのまま山を二つ越えれば男は見事里の家に帰れるといった具合である。
(二刻ほど掛かるかな…早く帰らねば本当に風邪を引いてしまう)
男はそんなことを考えながら懐かしい故郷の山道の土を踏みしめて…ふと異変に気づいた。
臭い…何かが匂う…それも普通の糞尿の類の匂いではない、これは…人間の血糊の匂いだ。
「…死体か?」 
男は呟いて辺りを見回した、訓練された目はこんな夜道でも梟のごとくものを見ることが出来るのだ。
男は視線を周囲にめぐらし…自分の横にある大木の下に目を向けた。
そこには一人の…裸の人間が横たわっていた。まだ雪が降り積もっていない分熱を帯びているようだ…辺りには衣服が乱雑に散らばっており、血の匂いもそこから漂っている…。
「…生きているのか?」
倒れこんだ人間にそう男が尋ねた瞬間、背後にまばゆい光が迫った…。


450 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/11/26(月) 10:19:24 ID:USB98JEl
「月輪に舞う」①

「水雲さま!帰ってこられましたか!蓑虫は嬉しゅうございますぞ!!」
男…水雲が背後に振り向くと、そこには提灯を持った初老の…隻眼の男
が立っていた。
「…何だ、蓑虫か…驚かすなよ…」
「へへぇ…すいやせん…」
そういって蓑虫は顔をくしゃくしゃにして微笑んだ…その手には蓑と傘、更に
はかんじきと酒徳利までもが握られている…どうやら帰るのが遅い自分を心配して
迎えに来てくれたようだった。 
「出迎え有難う…ところで蓑虫、少し提灯を貸してはくれぬか?」
「へえ?いいですが一体何を?」
「…あれだ」
そう言うと水雲は蓑虫から提灯を受け取り、大木の根元を照らした。
「…こりゃあ…死体?ですかい?」
「いや…息があるな……これは」
水雲はそういいかけて…息をのんだ。
根元に横たわっていたのは少年…いや、少年だった、と言うべきか…
その見た目は少年と言うにはあまりにも美しすぎた。
…まるで雪と同化したような真っ白な肌と髪、そして少女のように
整った顔立ち…そして前文全てを否定するかのように股間に生えた可愛らしい一物
…脱がされた服と、下腹部の出血から考えれば乱暴され、そして口封じがわりに刀で斬られた
のは明白だったが…その光景さえも美しく感じるぐらいに少年は魅力的な…まるで、妖気を放っていた。
「うう…」 
光に反応したのか、少年は弱弱しい声を上げる…そのわずかに見開かれた目と、紫色の唇は…。
…どういうことだコレは、俺は狸にでも化かされているのか?…コイツは、コイツは一体?…。
「…鬼灯…」
「ひ…ひい!いけません水雲様!すぐお離れください!こいつはきっと妖の類です!…でなければ
あんな、ほ、鬼灯様のような顔は!」
後ずさる蓑虫を、水雲は睨み付けた。
「・・・蓑虫、少し黙れ」 
その目は普段の穏やかな水雲の目ではない、近頃関八州を騒がせる忍…天目水雲の目だ。
そういうと水雲は蓑虫に手を差し出した、蓑虫は事情を察してすぐに酒徳利を手渡す。
水雲はそれを手に取ると口に含み、少年のそばに寄ると、酒を傷口に吹き付けた。
「…ぎああああああ!!!」
少年はまだそれほどの力が残っていたのか甲高い絶叫を上げる、水雲はついで懐にしまった
路銀代わりの絹糸を取り出し、持っていた針に糸を通す。
「…助けるのでございますか?水雲様?」
「ああ、このままほおっておいたのでは気分が悪い」 
そう言うが早いか水雲は絹糸で少年の傷口を仮縫いして、自分の着ていた綿入りを着せ、蓑虫
の持ってきた傘と蓑を被せた。
「これを飲め…体が温まる…」
「う…あう…」
「もう大丈夫だ、お前は必ず助かる」 
水雲は普段の柔和な顔でそう呟きながらかんじきを履いた。


451 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/11/26(月) 10:24:59 ID:USB98JEl
月輪に舞う」①

…これは、やはり神様仏様が下された罰なのか…?。 
…少年を担ぎ、少年を気味悪がる蓑虫を連れて里に向かって走っている間
水雲はずっと考えていた、背に担いだ少年は微弱ながら脈もあり、声も上げ
られる、急いで里に帰れば命は助けられるかもしれなかった。
しかしその少年の容姿は…あまりにも似ていた、いや…瓜二つだった…
まるで金型で鋳造したかのような容姿…そして、よくよく見ればその姿は…
白子(アルビノ)というところまで全く同じだった。
…水雲、好きだよ…そう、今にも少年は自分にそう呼びかけてきそうな気がした。
「…馬鹿な事を考えるな、こいつは鬼灯ではない…」
水雲はそう呟いて自分の考えを否定した…そう、こいつは鬼灯ではない、彼女はあの
日死んだのだ…だから、そんなことはもうあるわけがないのだ…。
水雲は動揺する心を必死に押さえつけて二つの山を越え、やっとの思いで筑摩の里に
たどり着いたのはやや空が白くなり始めた頃だった。

筑摩の里は周りを山野に囲まれた小さな小さな村である、しかし塩が取れないと言う
事情からか物流は行われ、人の行き来は常人が思うよりは多少はある…忍者を育成する
のに適した、それでいて程よい閉鎖環境を保っている村だった。
「先生!起きてくれ!頼むから起きてくれ!!」
明朝、朝一番に筑摩の村の診療所に乗り込んだのは水雲だった。
水雲はまだ鶏が鳴く前に医者をたたき起こすと、すぐさまに少年の怪我を直すように頼み込んだ。
そしてそのまま家にたどり着くと、水雲は死んだように眠った、実際二日も目を覚まさなかった
ので蓑虫は本気で水雲が死んだのではないのかと心配したくらいだった。

「…遅れましたが報告終わりまして、以上にございます」
そして二日後、水雲はすぐ様に飛び起きると里の長に仕事の報告をした
かりにも水雲は里でも腕扱きの忍…筑摩七本槍の四位である。これを三日も
怠って臥せっていては七本槍の名が泣くだろう。  
「ご苦労であったな…時に水雲よ」
「はっ…何でございましょうか?」
「某はあの山で…鬼灯に似た少年を拾ったそうだな」 
「はっ!」
「…陰間にでもなるつもりか?」
ぎりりと、水雲は唇をかんだ…。
「いえ…そんな気はありませぬが、どうも罪無き手負いのものは頬って
はおけないゆえ…怪我が治ったらば、事情を聞いて元居た所に帰そうかと…」
「ならばよいがな…お主は里の宝故…間違いがあってはいけぬのでな」
「…ありがたきお言葉…ではこれにて」
内心苦々しい顔のまま、一礼をして水雲は里長の屋敷を後にした。
「鬼灯のことは忘れるのだ…」
里長の言葉はどんな攻撃よりも、水雲の心を傷つけた。


452 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/11/26(月) 10:27:04 ID:USB98JEl
「月輪に舞う」①

鬼灯を忘れろ、か…よくも言えたものだな。そう内心をいらいらさせながら
も水雲は家に帰り、蓑虫の用意した茶漬けを食い、そのまま診療所に向かった。

「経過は良好だがな…どうにも人を怖がってかなわん…」
ため息をついて医者はそういった、もともと子供好きな男だったのだが、少年
には全くなついてもらえず、さらに自分を見ておびえられるという行為には耐えられなかったようだ。
「それで今、あの少年はどこに…」
「縁側で日向ぼっこをしているよ…しかしあの年で乱暴されて斬られるとは…不憫だな」
「…全て時代が悪いのですよ、それ一言で飲み込みたくは無い言葉ですが…失礼」
そういうと水雲は土間から診療所に上がり、縁側に向かった。

少年は縁側にたたずんで、飛んできた鳥と戯れていた、白子、と言う見た目と少女のように整った
顔はまるで風景を一枚の絵に変えていくようだった。
「…調子はいいようだな」
「…っ!!……あなたは…」
少年は水雲の声とともに竦み、びくりと体を震わせたが…その顔を見るなり、まるで地獄に仏、と
いったような笑顔で水雲に微笑み返した。そして立ち上がると水雲にぺこりと頭を下げた。

「私のようなものの命を助けていただいて…本当に有難うございました…貴方がいなければ、僕はあ
のまま死んでいたでしょう…本当に何度お礼を言っても言い足りないぐらいです…有難うございました」
「いや…例には及ばない、狭い里だがゆっくり休んでいくといい…怪我が治ったら元居た場所に送り届けてやるから安心しなさい」 
「…お優しいのですね、有難うございます…」
忍びの性か、声や顔には出さなかったが水雲は大きく動揺していた、少年の凛、とした声は、そして笑顔はまるきり鬼灯と同じだった
のだ…このまま押し倒したい、着物の襟から除く少年の白い首筋を見ると、水雲はそんな感情を抱きはじめ…また必死にその感情を抑えた。
「…しかし、申し訳ありませんが、自分には…もうきっと帰る家はありません。野党に襲われて…家は、屋敷は焼かれました…父様も、母様
も…生きているのかは怪しいものです…それに、家に帰っても…白子の自分は…」
座敷牢くらいしか居場所は無い、そう言いたいのだろう…この地方では白子は福を招く富の象徴だ…箱入りで閉じ込めて大切にはされるかも
しれないが、人並みの幸せは与えられない…きっと少年を襲った連中もそのご利益だのといったくだらない理由で少年を犯したのだろう…と、なんとなく想像がついた。
それに少年がそういう身の上かもしれないことはうすうす気づいていた…もちろんその場合の返答も…苦心はしたが、考えてはいた…自分はもう二十歳で、さらに里
で責任ある立場にいるのだ、拾った孤児を放り出すのは恥だ…取るべき責任はきちんと取るべきだ。
怖がらせないように笑顔でそっと、そしてやさしく、水雲は少年に声をかけた。
「ならばうちに来るといい、ちょうど小間使いが欲しかったところだ…うちで使ってやろう…」
「…迷惑では、ございませんか?こんな、私のようなものなど…」  
「迷惑などではないさ、それにこの村の住人もいい奴ばかりだから安心するといい…きっともう、つらい思いをする事はないだろう」
「う…う、うああああああ!!!ありがとうございます!ありがとうございますぅううう!!!」
少年は大粒の涙を零すと水雲に抱きついた、乱暴された記憶からか、男を見て怯えるという症状を起こしていたのが嘘のように、ぎゅ
っと強く水雲を抱きしめた。
「…大丈夫、もう大丈夫だ…」
そういって少年を抱きしめ返す水雲の心境は複雑なものだった。あまりにも鬼灯と同じ外見を持った少年は…どれほど心で否定しても、水雲
のその心を惑わせるものでしかなかった。
…怖いよ、水雲…怖いよ…
少年の柔らかい肌…その感触で記憶が蘇る、初めて鬼灯を抱いたあの日の記憶が…。
「私の名は…天目水雲…お前の名は?」
「弧太郎…弧太郎と申します」
悲劇は、このときにもう始まっていたのかもしれなかった…。


453 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/11/26(月) 10:28:19 ID:USB98JEl
月輪に舞う①

それから二週間ほど時が流れた、弧太郎はある程度心の傷が癒え始めたのか、水雲以外の他の男を見ても
あまり怯えなくなってきた…。
弧太郎は村人たちとの交流も上手くいっているようだった、同い年の子供たちも始めはよそ者とあって近寄り
がたいようだったが…それでもその人をひきつける容姿と優しい性格から打ち解けあい…やがては鬼灯の亡霊と
気味悪がっていた村の大人たちとも交流が出来るようになっていった。
「蓑虫様、それではそろそろ出かけましょう!」
「あいさあ!それでは早速行きましょうか!」
蓑虫も例外ではなかった…早くに子を失い、熱病で枯れたこの男もまるで
孫が出来たかのように弧太郎を可愛がってくれた。
「…よかった、本当に…」
水雲はほっとしていた、もしも弧太郎が皆と上手くいかなかったらどうしよう
かと思っていたが…どうやらそのような心配は要らないようだった、まあ…しかし今一番の問題は…。
「よお!弧太郎ちゃん!釣りに行くなら俺も…うわっと!!!」
玄関から盛大に転ぶ音が聞こえる、妖気に弧太郎に声をかけるこの男は名を冬士郎といった…男が転ぶ
理由はただ一つ、男も水雲と同じ筑摩七本槍の上…片目を眼帯で覆っているからだ。
「馬鹿だねえアンタ…ねえ水雲、あんたもそう思わないかい?」
そしてその背後にもう一人、やはり眼帯の女が立っていた。
「門女まで…一体どうしたんだお前ら…?」
「っつ!どうしたもこうしたもないさ…弧太郎が釣りにいくって言うから俺も一緒に行こうと思ったのよ!」
「…そうか、人気者なんだな…あいつは…よかった」
「ああ、人気者だよあの子は…化粧もよく似合うしねぇ…ふふふ」
そういって笑う門女と冬士郎の笑顔を見て水雲は笑った…。
「しかし、遅かったな冬士郎…弧太郎なら今さっき蓑虫と沢に向かっていったところだぞ」
「何ぃ!早く言えよ!じゃあな!」
水雲と門女は急いで駆け出す冬士郎の背中を見送った。
「…しかし不思議だねえ、鬼灯の実の兄貴だったアイツが…あんなにもあの子と遊びたがるなんて」
「…それをいうなら、鬼灯と許婚の俺はもっと不思議と言う事になるな…ところで門女」
「ああ、私もあの子と遊びたいのは山々だけど…アンタに用があったんだよ、はい!」
そういうと門女は懐に持っていた札を水雲に差し出した、真っ赤に塗られた札には、甲斐という文字が書かれている。
「…仕事か、今度は甲斐の国とは…長くなりそうだな」
「ああ、そうだろうね…」
「冬士郎共々…弧太郎を頼むぞ…色々と、な」
「任せときなって、それよりあんたも…生きて帰ってくるんだよ、弧太郎ちゃんが悲しむから」
「ああ…それから」
水雲は門女の言葉に安心すると、身支度を始めた。
赤札は暗殺の印だ、詳しい情報は甲斐にいる草の者にでも聞けば解るだろう…。
「あの子は何が何でもこの世界にかかわせないでくれ…頼むぞ」 
「…任せときな…」
水雲にとって一番の心配事、それはやはり…弧太郎がこの忍の世界にかかわる事だった。


454 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/11/26(月) 10:29:56 ID:USB98JEl
月輪に舞う①

翌朝、水雲は泣きじゃくる弧太郎をおいて村を出た、名残惜しかったが仕方のない事ではあった。
いかないでくださいませ!水雲様…そういう小太郎を振り切って、水雲は甲斐の国へ向かった。

休息が終わり、任務に戻れば日々はまたいつものように殺伐としたものだった。
今回の仕事は近々行われる戦の情報収集というものだった、水雲は主に的に作戦を傍受してそれを伝え
さらに作戦に重要な指揮官を暗殺してくる任務を負わされた。
普通の忍なら甲斐お抱えの根来衆の目をくぐって諜報活動をするのは至難の技だろう、しかし水雲には
それを可能にする特殊能力があった。
水雲は甲斐の陣よりやや離れた森にいた、見回りの来る心配のないそこで深呼吸をすると水雲は片目を
覆う眼帯を取った…象牙で出来た眼帯の下には、大きなくぼみと…青い義眼が埋め込まれていた。
青い義眼は筑摩の里の秘法…忍術を使える者にのみ与えられる証明だ…そして水雲の忍術は…一瞬にして
背景と自分とを同化して、視覚と聴覚、さらに嗅覚から自分を消し去るというものだった。
(いっそ任務も俺のように消え去って、早く里に帰れればいいのにな…)
敵たちの横を悠々と通りながら水雲はそう考えた…早く帰って弧太郎に会いたかった…。

その頃、弧太郎は一人深夜の神社に御参りに行っていた、俗に言うお百度参りというものである…
願いはもちろん、水雲が無事に帰ってくるように…それだけだった。
(水雲さま…生きて、帰ってきてください…)
弧太郎は無心に祈っていた、自分の命の恩人の生還を…それはもちろん救ってもらった恩義もあったが
弧太郎はそれ以上に一刻も早く水雲に会いたかった…会って、何時もの笑顔を浮かべたまま、自分をやさしく
抱きしめてもらいたかった…。
まだまだ子供とはいえ…弧太郎は水雲に対して淡い恋をしていたのだ。
「水雲さま…弧太郎は、早く会いとうございます…」
「そうか、それほど会いたいのか…ならいい方法を教えてやろうか?」
背後からいきなり声をかけられて弧太郎は一気に後ろに振り向いた。その先には
…眼帯をした老人がいた。
「何者です!?」
「安心しろ、わしはこの村の者だ…」
老人はそう言うと微笑んだ、そしてこう言った。
「水雲に会いたいのなら忍になれ、さすれば嫌でも一緒に仕事をすることになるだろう
…それに、あの男の役に立ちたいとは思わんか?」
「…役に、立つ…」
その言葉に、弧太郎は悩んだ…今こうしてあの人の帰還を望むだけでいいのか、恒にそう
も考えていた彼にとっては…老人の言葉は渡りに船、といった所だった。
目の前にいる笑顔の老人の正体がこの筑摩の村の長であるという事も知らずに…。 

455 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/11/26(月) 10:31:54 ID:USB98JEl
月輪に舞う① 

それから半年後、やっとの思いで任務を終えた水雲は一刻も早く帰郷するべく、筑摩の里への山道を
凄まじい速度で上っていた。
その背には大きな風呂敷包みがある、中には露店で買った弧太郎へのお土産が山ほど詰まっていた。
(弧太郎、喜んでくれるといいのだがな…)
と、顔をにやつかせながら走る水雲の前に、白い影が現れた。一瞬で立ち止まって身構える水雲。
「山河と筑摩…その意は」
白い影はそう訪ねた、夕暮れ時の山道で顔はよく見えないが…これは筑摩の里特有の、確認の合図だ…
水雲は答えた。
「ただ一人、月輪に舞う…」
「水雲様!!帰ってまいられましたか!!」
白い影はそう言うと、水雲の胸に飛び込んだ…その小さな姿、そして香る少女のような匂い…間違いない…
コイツは弧太郎だ…。
「ああ…さびしい思いをさせてすまなかったな、弧太郎…」
「嬉しゅうございます、手も…足もある…ぐ・・・ぐず…」
弧太郎は水雲の胸で泣きじゃくった…無理もない、半年も文もよこせずに任務に没頭していたのだ。
さぞ寂しかったのであろう…やはりこう言う所は鬼灯とは違うのだな…だが、それでいい…。
そう考えて…ふと、感じた違和感を拭うため、水雲は一気に弧太郎を押し倒した。
「うわ!!ああ!!水雲様…何を…!?」
水雲は一気に弧太郎の服の胸元をはだけさせる…そして、白い肌とともに現れたあるものに、水雲は愕然とした。
「……お前、忍になるのか?…誰に技を教わった!?」
「は…はい…まだまだ至りませんが…蓑虫様に…」
弧太郎は少し嬉しそうに、顔を赤らめながらも答えた…。
「里へ帰る!帰るぞ!!」
水雲はそういうと、凄まじい速度で山道を駆け出した、そんな態度に弧太郎はきょとんとしながらも…
衣服の乱れを直し始めた。

弧太郎は嬉しかった、水雲は自分の変化と…服の下に隠れた…稽古の後の痣に気づいてくれたのだ。
きっと水雲は驚いて、嬉しさで言葉も出ずに走り出してしまったのだろう…そう考えた。
…恥ずかしがり屋なのかな…でも、こうして水雲様に…思ってもらえているというのは…悪くないなあ
・・・でもどうしたんだろう、いきなり僕の裸を見て…興奮したのかなあ?…そうだったら、少し嬉しいな…。
弧太郎は気づいていなかった、水雲の顔が完全に青ざめていた事に。

「お館様!これは一体どういうことでございますか!?」
水雲は一気に里の館に向かうと、任務の報告もそこそこに里長に事を問いただした。
「どうもこうもない…あのものは忍の素質があるでな、わしが蓑虫に育てるように命じた」 
「…里の秘法を、部外者に教えるということは…」
「これは里の総意だ、そのような小さなことはどうでもいい…それにお主も見ておろう、弧太郎は
この半年で…蓑虫の攻撃全てを交わし、反撃を二手三手いれるほどになったのだぞ…あの実力は素晴らしい
きっと鬼灯のように抜け忍などにならずに…里の反映に手を貸してくれようぞ」
…水雲はぎりぎりと、歯をかみ締めた…。 
最も起こってはいけない事が起こってしまったのだ。

456 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/11/26(月) 12:27:01 ID:USB98JEl
月輪に舞う①

弧太郎は戸惑っていた、あれから数日の間、水雲はまるで口も聞いてくれないのだ。
「水雲様…今日は、蓑虫様ではなく、水雲様に術を教えていただきたいのですが…」
「成らぬ、師が二人つく事は里の掟に反する」
そういって昼ごろに起きると、いつもどこかにふらふらと出かけてしまうのだ。
…やはりまだ自分は半人前故に、厳しくしてくれるのかな?…弧太郎はそう考えた
それはある意味いつか自分を認めてくれるのだろうという期待に繋がった…。 
「行きますぞ!弧太郎様!」
蓑虫は師として厳しく、時には何時ものようにやさしく弧太郎に師事した、水雲の
任務に比べれば軽い仕事なども任されるようになった。
泣きたくなるような日もあった…そして、時に人も殺した…それでも、この行いが
いつの日か水雲への恩返しに繋がるのなら…そう考えた。

「もう…駄目なようだな…あれほどの才能が有れば…今夜辺りには…」
「ごめんね…水雲…私、力になれなくて…」
そんな様子を門女と共に影で眺めながら、水雲は涙をこぼした…。
「…そうではない、あれほどの才能があれば里の忍は誰も放ってはおけないさ…でも
でも俺は…あの子に…なんて事を…」
「…ごめんね、ごめんね…私が悪いんだ…鬼灯の時だって…私が…」
「…いうな、かどめ…うう、うう…」
二人は抱き合って、泣いた。

457 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/11/26(月) 12:31:18 ID:USB98JEl
月輪に舞う①

その晩、弧太郎は蓑虫に里の近くを流れる渓流に呼び出された…奥義の伝授、そういう話だった。
「あ…蓑虫様…」
弧太郎は影から音もなく現れた蓑虫のその格好に驚いた…服は黒の忍服、鉄鋼と脚半を装備した
その姿は…まるで修行ではなく、本当の任務に向かうときのような服装だったからだ…。
「…先手は譲ろう…来い、弧太郎!!」
「は、はい!!」
言うなりいきなり抜き身の刀を渡すと、蓑虫は後ろを向いた。
「こ、これは一体…」
「この里では奥義の伝授は…師を殺して初めて行われるのだ!!…水雲と並ぶ実力が欲しいの
ならば…ためらわずに来い!!」
「う…うおおおおお!!!」
蓑虫の声はぞっとするほど冷たい…しかし…ここまで来て、ためらうわけには行かない…そう
弧太郎は…水雲の手助けをするため…そのために忍になったのだ。
刀を水平に構えて、一気に蓑虫の背後に迫る。しかしそうもうまくはいかない、蓑虫は軽く
その攻撃を受け流すと、後方に弧太郎を弾き飛ばした。
「ぐう…っつ!」
倒れこむも一気に飛び起きて襲い掛かろうとする弧太郎、しかし眼前に蓑虫の姿はなく…いや、
その姿は上空にあった…蓑虫は服の袖からは黒い縄が四本、まるで触手のように飛び出していた。
蓑虫の術は袖から出した縄をまるで本当の腕のように使う、といったものだった・・・伸縮自在な上
にまるで鉄鞭のような硬度を持ったそれでいっぺんに叩かれては、普段の練習とは違い…弧太郎の肉
は簡単に裂けてしまうだろう。
ヒュ!!ヒュ!!!ビシイ!!!!
凄まじい音が響く、しかし縄が叩いたのは蓑虫が手渡した刀であった。
弧太郎は一気に後ろに飛ぶと、手に持っていた標で次々に三本の縄を切り落とす、これが弧太郎の
修行の成果だった。
もちろんこんな芸当は水雲でも出来ない。
「はあ!!」
蓑虫は残った一本の縄で木に飛び移ろうとする、しかしその縄すらも切り落とされると…一気に地面
に落ちた、いや、叩き落された。
「…ぐ、うう…」
それほどの高さではなかったので何とか息はあった、しかし片手の骨が折れたようで…老体の蓑虫に
反撃は不可能なように思えた。
「はあ、はあ…」
その体の上に弧太郎が馬乗りになる、手には大きな標が握られていた…勝ちはもう決まっていた、しかし
弧太郎は…息を荒げたまま
刃を刺せないでいた。
「どうした…やれんのか…」
「…はあ、はあ…あなたをそう簡単に…出来るわけ…」
「…やはりな、余所者の上に…陰間にはそのような根性はありはせぬか…」    
「な…なあ!!!」
まだ数えで11である弧太郎にとって…蓑虫を、水雲のいない間、まるで孫のように可愛がって
くれた蓑虫を本気で尊敬する弧太郎にとってその言葉は…ただただ動揺するしかなかった。
「忍になって水雲の気を引きたいのであろう…しかし、哀れよ…愛するもの以外を殺す覚悟のない
お前には…陰間のお前には…水雲に愛される資格などは…抱かれる資格等はないわ!…あやつにとって
お前はただの…拾った子犬に過ぎぬ!!」

弧太郎は動揺していた、訳がわからなかった。 
何で、何でそんなことを言うのです…蓑虫様…僕は、貴方を尊敬しているというのに、水雲さまの次に
僕をかわいがってくれた貴方を…親同様に、好きだったというのに…わからない…なぜこの様な目にあうのか
人を愛するのがこんなにつらくて大変な事なのか…何故こんなにも苦しむのか…わからない、わからないわからない
わからないわからないわからない……うああああああああ!!!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!こんなことせずに…いっそ僕が…
でも…でも水雲様…僕は貴方の事が、僕は貴方の事が…ダイスキナンデス・・・オヤクニタチタインデス…ソバニイタインデス…ダカラ…
ごめんなさい、本当にごめんなさい…みのむしさま。
「は…はははっ!!はははははははははははは!!!!」
どすり!!と…笑い声と共に、弧太郎は標を蓑虫の胸に突き刺した。
ぐう!と蓑虫が悲鳴を上げる。


458 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/11/26(月) 12:33:33 ID:USB98JEl
「…お見事…もう、これで…水雲様の守護のお役目は任せられますな…弧太郎様…」
そういうと、蓑虫は弧太郎の頬を優しくなでた…弧太郎はきょとんとする。
「…貴方の実力なら…その覚悟がおありなら…たとえ子は宿せずとも、夫婦には
なれずとも…ずっと水雲さまをお守り出来ましょう…なに、元は里一といわれたこの
蓑虫を殺せたのです…しんぱいは…」
「あ…ああああああ!!!いやだ、蓑虫様!!いやだああああああ!!!!」
弧太郎は全てを悟ったのだ、蓑虫の想いを…しかし時はもう遅かった、蓑虫の呼吸は
次第に弱弱しくなっていく…その間、弧太郎には蓑虫とすごした日々の走馬灯が見えた
…たった半年とはいえ、彼との思い出は…弧太郎にとっては大切なものだった。
そして数秒後、蓑虫の息は完全に途絶えた…。 
「ふ…ふふふ、あははっ!!ははははははは!!!あはははははははは!!!!」
顔を血にぬらし、涙を流しながら笑う弧太郎…その背後に突如として篝火が現れ…
弧太郎の周りを七つの影が取り囲んだ。 
「大儀であったな弧太郎…これでお前は晴れて筑摩の里の忍…それもその上の、筑摩七本槍
の七位の位が授けられようぞ…」 
七つの影を引き連れて、弧太郎の眼前に現れたのはあのときの老人…この筑摩の里の里長だった。
「…あなたは…そうですか、貴方が里長なのですか…」
微笑む里長と、空ろな目と言葉でそれを帰す弧太郎…弱弱しいながらも弧太郎は里長にぺこりと頭
を下げる…その瞬間に、弧太郎は二つの影に両手を掴まれた。
「悪く思うなよ、弧太郎…」
影の正体の一人は冬士郎だった、冬士郎はそう耳元で呟くと、懐から竹筒を取り出して里長に渡した。
この筒を使って里長は継承儀式で師を殺した忍の目をえぐり…秘伝の義眼を埋め込む事で奥義を継承させる
ことでこの儀式は終了する…それが手順だった。
「・・・・・・いえ、里長殿と、冬士郎様の手を煩わせるまでもありません…」
しばしの沈黙の後、弧太郎はそういった…するり、と二人の拘束を解いて竹筒を里長の手から取り上げる。
「これも、必要ありません…」
ヒュ!という音と共に手刀で竹筒を割る。そして弧太郎はそのまま…人差し指を一気に瞼に当てた。
これは罰だ、自分を大切にしてくれた人を殺した自分への罰だ。
「ぐ……ぎああああああ!!!!」
ブチュ!グチュ…血の音と共に甲高い声で悲鳴を上げながらも一気に目玉を引き抜く弧太郎…ひときわ
甲高い声を上げると同時に…目玉は弧太郎の手中に落ちた。
「よろしい…それではこれからも…せいぜい…水雲と、筑摩の里のために働くがよいぞ、弧太郎」
里長は弧太郎の目玉を受け取ると、それと引き換えに白い義眼と、象牙の眼帯を与えた。
…弧太郎はそれを聞くとその場にへたり込んだ、里長と七本槍のうち四人はそのまま渓流を去り…
残りの二人…門女と冬士郎は蓑虫の死体を担ぎ上げて墓地へ向かう、そしてその後には…水雲と弧太郎
のみが残された…水雲はそのまま弧太郎を優しく担ぎ上げる。
水雲は泣いていた…蓑虫を失ったという悲しみもあったが…それ以上に、これまでさせるまいと思って
いた弧太郎に…つらい思いをさせてしまったのが申し訳なかった。
「私は…水雲さまを守ります…絶対に守ります…ふふふ、あははははは…」
うわごとのように、こんな言葉を繰り返させるくらいに…弧太郎の心を追い詰めていた原因が自分にある
のが…とても悲しかった。
「おしたい申しております…大好きです、水雲さま…」
こんな自分でもなお、慕ってくれている弧太郎…水雲は、その弧太郎の姿をいとおしく思うと共に…それでも
鬼灯の事を忘れられずに弧太郎の気持ちに答えられない自分を恨めしく思った。 


459 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/11/26(月) 12:35:18 ID:USB98JEl
月輪に舞う ①

それから二日の間、弧太郎は屋敷の自分の部屋にこもってしまい、たとえ水雲がなれない
食事をつくろうとも…部屋から出てこなくなってしまった…。
三日目、水雲は意を決して弧太郎の部屋に飛び込んだ。
「弧太郎…いい加減に飯を食わないと死んでしまうぞ…」
炊いた粥をもって部屋に飛び込む。その先では痩せこけて青ざめた弧太郎が…抱きしめた布団
に何かを呟いていた。
「…大好きですよ…すいうんさま…え、もちろんみのむしさまもだいすきですよ…うふふ…」
心が壊れたのか…いたたまれない…そう思い、それでもあきらめきれない水雲は弧太郎を抱き
起こすと、その唇に口付けをした…それならば、せめてものこいつの願いをかなえてやろうと。
「うわあ!…ん…ちゅ…はあ…」
そのまま舌を口腔内部に侵入させる…唾液もほとんどなく、乾いたそこは甘い味がした。それに
あわせるかのように、弧太郎も水雲の舌に自分の舌を絡ませ…そのまま、長い長い接吻が続いた。
「ん…水…雲さま…弧太郎は…弧太郎は…水雲さまを…愛しております…だから…」
抱いて欲しい、そういうことなのだろう…水雲は無言で了承して、弧太郎の寝巻きを脱がせた。
「あ…恥ずかしいです…」
弧太郎はまるで少女のように胸と股間を隠す…そんなことはしなくても、何度となく見ているという
のに…水雲はその行為を微笑ましく思った。
……いや、違う…水雲は頭の中で浮かび上がる思考を必死に否定した…あの時も同じだったのだ…自分の
師を、祖母を殺して…自ら片目をえぐって儀式を終え…引きこもる鬼灯を抱いた日も…今日と同じこの日この季節…。
「水雲さま・・・やはり、私は…男は…嫌いですか?」
「そうではない、そうではないのだ…俺は、お前を…別の女と…死んだ許婚と…重ねようとしているのだ、そんな
俺にお前を抱く権利など…」
肩を震わせる水雲、弧太郎はその体を優しく抱いた。
「ふふふ…いいのですよ水雲様…私は…たとえ貴方が…貴方がどう思おうと…たとえどんな女性と私を重ねようと…
私は貴方を、愛しておりますから…」
水雲は情けなかった、涙を流した…しかし、それでも、弧太郎が元気になればと…弧太郎を抱いた。

「っ…痛くないか…弧太郎…」
「はい…嬉しいです、嬉しいです…ん…ああ…うれしいです…すいうんさま…ああ!!」
「…くう…は!あ!」 
二人は同時に達した…事後…水雲は弧太郎にやさしく口付けをし、抱きしめ…明朝、里長の指令を受けて
奥羽に向かうべく屋敷を後にした。
「もしもこの任務を断れば、弧太郎にはもっときつい任務を与える」
里長はじかに水雲の前に現れてそういった…応仁の乱をとうに過ぎたとはいえ、まだまだ未開の地である
奥羽への遠征はたとえ水雲であってもそれなりに危険が伴うだろう…それでも、それでも水雲はたった一人
奥羽へ向かった。きっと弧太郎は悲しむだろう、でも…この指令を聞かねば、それだけはすまないのも事実だろう。
(何があっても…俺は必ず守る、弧太郎を…この命にかけてでも…)
水雲の決意は固かった…里を離れると言う事がどういう意味を持つ事なのかも考えずに。


460 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/11/26(月) 12:37:13 ID:USB98JEl
月輪に舞う②

そしてそれから一年の月日が流れた、水雲は奥羽から里に帰る前にさらに尾張の任務に向かわされ…
ある日、尾張の町で薬屋に変装して蕎麦屋で食事を取っていると…こんな噂を聞いた。
「-近頃、腕利きの白子のくの一が現れる-」と
水雲は嫌な予感を抑え、必死の思いで任務をこなし…里へ戻った。
里に戻った水雲が見たのは…月日が流れて男らしく成長するどころか…まるきり、そう、まるで鬼灯
の生き写しのように…化粧のよく似合う、女のように育った弧太郎だった。

「お前らは里長にいいように使われてたのさ…」
冬士郎は久々にあった水雲にそう言った…里長は同じ事を弧太郎にいい、そして弧太郎をきつい任務
につかせて…二人を使っている、冬士郎はそう断言した。
「なぜ…そんな事を…」
「お前が不安要素だからさ…お前の力は強いが、抜け人の鬼灯の許婚だ、いつ裏切るかわからない分
こうやって弧太郎っていう子犬を人質に取っておけば裏切られる心配はないし…忠実な子犬を安心して飼う事も出来る…」
「なぜ、我々はこうも…あの子はこうも…辛い目に合わされるのだ?」
「そうするしかないのだよ、それが忍だ…そう割り切らなければ、お前に殺された妹は…鬼灯は、もっと簡単に抜け出せたはずだ…」
二人は同時に俯く、とそこに弧太郎が走ってきた。
「…水雲様…お会いしとうございました!お会いしとうございました!」
弧太郎はそう言うなり水雲をひしと抱きしめた、事態を悟った冬士郎は気を使ってその場を離れる。
「少し、背が高くなったな…ただいま、弧太郎…」
「はい、はい…お帰りなさいませ!!水雲さま…大変お疲れだったでしょう、今夜はごゆっくりお休みくださいませ・・・」
弧太郎の顔は少し痩せているように見えた…そして表情もあの日からあまり変わらず、どこかその瞳も空ろに見えた…。
弧太郎は水雲の体を話すことなく、そのままぼろぼろと涙を流し始める…そんな弧太郎を水雲はせいいっぱいの気持ちで労う為…
口付けをして、その場に弧太郎を押し倒した。

それから数日の間、弧太郎と水雲は交わり続けた、弧太郎は何度となく水雲を求め続け、水雲もそれに応じた…まるで埋められなかった
時間を体で埋めるかのように…そして、事が終われば二人は抱き合って眠りについた…そんな生活が二、三日続いた。
なぜそこまで執拗に弧太郎が体を求めてきたのか?・・・その謎はその日、呼び出された里長の屋敷で判明した…里長は水雲に命じたのだ
門女との結婚を…。


461 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/11/26(月) 12:39:15 ID:USB98JEl
月輪に舞う②

「もう…ここまでなのですかね…」
弧太郎は川原にいた、たった一人・・・里の中でもっとも信頼した師である蓑虫を殺した川原で、手に短刀を持ってたたずんでいた。
弧太郎は悩んでいた…せっかく得た水雲を守るという誓い、たった一人で彼に仕える…その想いすら打ち砕かれる事になってしまう
ことに、彼の心はもう耐え切れなかった。
いっそ門女を殺したかった、でもそれは出来なかった…もう誰も傷つけたくない、蓑虫を殺した時のような想いはしたくない…そして
何より、水雲の悲しむ顔を見たくはなかった。
「よせ、自害などするな…」
背後から声をかけたのは冬士郎だった、彼は涙で頬をぬらす弧太郎に手ぬぐいを渡すと弧太郎の横に座った。
「冬士郎様…しかし自分は…怖いのです、このまま壊れて…誰かを傷つけてしまうくらいなら…いっそこの手で…」 
「俺の妹も、鬼灯もそうだった…あいつはお前と同じく、心が壊れるのを防ぐために逃げて…最も愛する水雲に殺されたのさ」
「…!!…何故…一体鬼灯さまという方に何があったというのですか!?」
「あいつは心が壊れたのさ…師であるおばあを殺した日から水雲に依存を重ねてたんだ…そしてその挙句、水雲に横恋慕して迫った
くの一を殺して…」 
里掟を破り、責任を取るべく送り込まれた水雲に殺された…それが鬼灯をめぐる事件の顛末だった。里の友人である門女を人質に
取られた水雲は悩んだ挙句…斬り殺したのだ、鬼灯を。
「うれしいよ…こんな私でも泣いてくれるんだね…水雲…」
彼女はそういって事切れたらしい。
「…私はその方と同じように生きていたのですね…でも、その方と同じになって…水雲さまに迷惑をかけるくらいなら…いっそ!
うわあ!!な、何を!?」
言い終わるのを待たずに冬士郎は弧太郎を押し倒した、そしてそのまま一気に着物の服をはだけさせる。
「…俺の話がここで終わると思ったか?…俺はお前に言いたいのだ…弧太郎、もう俺は我慢できん…俺の女…いや、男になれ、俺は
絶対にお前を幸せにする!悲しませることなどしない!…もう嫌なのだ…水雲に、あの男にお前を取られるのは…こたろう、こたろう!!」
「い…いやあ!!お止めくださいませ!!冬士郎様!!あ!ああ!!」
弧太郎の弱弱しい叫びを無視して冬士郎は弧太郎の乳首を舐めまわす…そしてその唇を弧太郎に近づけたとき…冬士郎の首は綺麗こぼれ落ちた。
「あ…ああああああああああ!!!!嫌嗚呼嗚呼アアア!!!!!」
条件反射、といった方がよいのだろうか…弧太郎はいつも、暗殺任務のときにそうしていたように手に隠し持った大型の標で一気に冬士郎の首を
切り落としたのだ…初めて里の皆にあったとき、陽気に自分に話しかけてくれて…まるで実の兄のように遊びを教え、蓑虫と同様に自分を気にかけて
くれた男を…冬士郎を…。
「・・・…うああああああああ!!!!ああああああああ!!!!!」
弧太郎は泣いた、泣きながら走り出した…もう何が何かわからなかった、自分の生き方を呪った……自分に優しくしてくれた人を殺し、愛してくれた
男に迷惑をかけ続ける自分を呪った、でも…それでも、弧太郎は…愛していた、水雲を、愛していた。
「あはははははははははは!あはははははは!!水雲様、もう、もう弧太郎に生きる資格はありません!
でも、それでも貴方を!貴方が!私は貴方が好きなのです!!!あははははははははは!!」
せめて、里掟にしたがって水雲に自分を殺させないようにと…山の谷に向かって弧太郎は走った。


462 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/11/26(月) 12:41:14 ID:USB98JEl
月輪に舞う②

弧太郎に相談があると呼ばれて、所用で少し遅れながらも川原にたどり着いた門女は冬士郎の
首なし死体を見て…ここで起こった事の全てを悟った。
「…このままじゃだめだ!弧太郎を助けなきゃ!!」
門女は眼帯を取って術を使った…門女の術は一種のレーダーのようなものである、弧太郎の残
した気配をたどれば彼がどこに向かうのかは察しが着いた。
門女はいそいで水雲の家に向かう、そして水雲に全てを話して…自分の持っていた巾着袋を放り投げた。
「このままいけばあの子は自殺しちまうだろうし…もしもそれを食い止められても、里掟でまたあんたは
あの子を鬼灯と同じように殺す羽目になる…だから、逃げな…それを持って、唐にでも」 
以外に大きな袋の中には金塊と宝石が入っていた、これだけの量が有れば唐まで逃げるのは余裕だろう。
「…かたじけない、しかし…そうなればお前は…」
脱走幇助でどの道死ぬ羽目になる、そう言おうとした瞬間、門女は怒鳴った。
「馬鹿野郎!あの子はアンタが好きなんだよ!蓑虫を殺して!心を壊しながらも忍びになって!冬士郎を
殺せるくらいにあんたの事が好きだったんだよ!?それを…また助けてあげないでどうするのさ!また助け
られなかった私はどうなるのさ!…早く行っちまえよ馬鹿野郎!!」
「…すまない、門女…」
そういって水雲は門女に背を向けると、山の谷に向かって走り出した…門女はそれを涙目で見送ると…胸に
短刀を当てながらこう呟いた。
「あの子を幸せにしろよ…大好きだったよ、水雲…」
門女は一気に自分の胸元を短刀で刺し貫いた。

弧太郎は崖の前で立ちすくんでいた…そろそろ、潮時かな…そう考えて崖に飛び込もうとしていた。
このまま飛び込めば下は岩石がごろごろした大きな穴が広がっている、きっと死ぬ事は簡単だろう。
「愛していますよ…水雲様…ふふふ…」
…ありったけの思い出を思い出して、たっぷり感傷に浸った後、弧太郎は一歩一歩、崖に向かって歩き
出した。一歩、また一歩…そして最後の一歩を踏み出そうとしたとき、弧太郎は首根っこを掴まれた。
「なら…死ぬな、ずっと一緒にいよう、弧太郎」
弧太郎はその手の主が誰なのかを一瞬で判断した。
「でも…このまま一緒にいれば…私は必ず貴方を…水雲様を不幸せにしますよ?大切な人の命を奪う
かもしれませんよ…もう、もう…私など…貴方のために、死ねたほうが…!!」
ばちいん!!と、弧太郎の頬を叩く水雲、彼はその後すぐに弧太郎の体を抱きしめ、言った。
「俺はお前が好きだ、もう放したくない…たしかにこれまで多くの、俺の大切な人が死んだかもしれない…
お前はその人を手にかけたかもしれない…それでも、それでも俺は…お前が愛しいのだ!!お前と一緒にいたい
たとえ病めるときも…老いて死ぬときも…片時も離れずに、同じく死に、腐れ落ちる…俺はそうありたいのだ!
…たとえ里も、国も…全てを敵に回してでも!!俺はお前が好きなのだ!」
水雲の言葉に偽りはなかった、鬼灯への想いは…未練と後悔は、捨てていた。
「本当に…いいのですか…本当に…わたしなど、わたし…う、うああああああああああああああ!!!!ああああ
ああああ!!!!!」
弧太郎は水雲の胸で泣いた、水雲はそれを抱きしめた。
そして二人は手をとり、里から街道へ抜ける道を、手をつないで目指した。
瞬間、ぐさり!という音と共に血を噴出して水雲は倒れた。
青ざめる弧太郎たちを…鉄砲を持った忍の群れが囲んでいた。理由は一つしかない…抜け忍に対する
制裁行為だろう。
パン!パン!パン!パン!! 
次々に弾丸が飛び交う、水雲は弧太郎を守るべく必死に立ち上がって自分の体を盾にしようとしたが…
それもむなしく、二人は倒れこんだ。


463 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/11/26(月) 12:43:06 ID:USB98JEl
月輪に舞う②

里長は二人が死んだ事の報告を受けて、本当に嬉しそうな笑顔を見せた。
自分の娘である鬼灯と、出来損ないとはいえ息子の冬士郎の仇が討てたのだ…
それも鬼灯の仇である水雲はさんざん苦悩させた挙句、一番の幸福を与えてから殺す
というサディスティックな方法が行えた…里長にとってこれほど嬉しい事はなかった
たとえ里にとっては逸材の、とても優秀な忍を二人失う結果になったとしても、である。
里長は村を守らねばならない立場だ、でもそれでも…掟で、自分が命令を出したとはいえ
…娘を殺した水雲が憎かった…いや、誰かを憎まねば気がすまなかった。
冷酷な里掟の矛先は…歪んだ男の逆恨みの復讐劇を成就させた、たとえその行為が矛盾だらけ
な上に…全く理のないものだとしても、男…里長は満足していた。
ふと、里長が床に眼をやると…そこには何かが転がっていた。よくよく見ればそれは…見覚えの
ある七つの玉…七本槍に与えた、さまざまな色の義眼だった。
「たあああああああ!!!」
里長が手槍を取って身構えた瞬間、その首は簡単に落とされた。
里長の背後には、標を構えた弧太郎がいた。
「あはははははは、あはははははははははは!!!!」
弧太郎の体は血にまみれていた、先ほど鉄砲で撃たれた傷の出血も十分に酷かったが…その血の殆どは
…水雲を殺そうとした七本槍と…それを見てみぬ振りをした、村人達の返り血だった。
「あははははは!あはははははは!!!」
弧太郎の心は完全に壊れた、そしてその怒りを村の住人にぶつけて…本気で暴れた結果、小さな村は一夜に
して軽々と全滅したのだ…。 
かつて死を恐れぬと言われた南洋の戦士は第一次世界大戦の際、十二発もの弾丸を心臓と頭部に打ち込まれ
ながらも動き回り、二人の騎兵を軽々と切り殺したと言う…忍の天才である弧太郎にとって、重傷を負いながら
の戦闘行為は…至極可能なものだったのかもしれない。
戦闘が終わり、村に朝日が昇る頃…弧太郎は再度崖の近くに向かい…そして、水雲と一緒に埋まれるような、大きな
大きな墓穴を掘った。
「老いて死ぬときも…片時も離れずに、同じく死に、腐れ落ちる…ふふふ、いっしょですよ、ずーっといっしょですよ
すいうんさま…」
穴に綺麗に水雲の死体を寝かせると、そんな言葉を呟きながら…弧太郎は穴に入って水雲の死体を抱きしめ…その中で
ようやく絶命した。
…自分が上になっていいのかなあ…水雲さま、きっと恥ずかしがるだろうなあ…。
そんな事を考えながら、弧太郎の意識は途絶えた。

464 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/11/26(月) 12:44:20 ID:USB98JEl
月輪に舞う エピローグ

…おしまいおしまい、と…ああ、猛こんな時間かい…悪かったない、こんな遅くまで
くだらねえ忍者の話なんかでつき合わせちまってよう…って、泣いてんのかい?…
涙もろいやねえ兄ちゃんはよお…。
へ?二人が可哀想だって?まあまだ話には続きがあってさね…このあと二人は地獄に
落ちるってんだけどよお、あの世で二人を哀れに思った閻魔様は…二人を畜生…狐にして
この筑摩の山に夫婦として永遠に転生させるってことに決めたってんだわなあ…。
そうして今でもあの山では…二人は中むつまじく、夜もすればおどってんだとよ…どうだい?
これで安心したかい…っと、これで店じまいだな、お代はいらねえよ…くだらねえ年寄りの話に
付き合ってくれたお礼だ…また来てくんな、今度はもっと泣ける話をしてやっからよお…。

筑摩の山ではかつての里の跡も消え、今では木々が広がっていた。
そしてちょうど木々がなくなった原っぱでは…満月ともなれば、どこからともなく二匹の狐が現れて
くるくると…まるでダンスを踊るかのように双方が回って、戯れていた。
空には月がさしていた、そしてそこには弧太郎と水雲の二人がいた。

二人の愛は、たとえ姿が変わっても永遠だったのだ。

…山河と筑摩…その意はただ二人、永久に月輪に舞う…

FIN


465 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/11/26(月) 12:46:20 ID:USB98JEl
以上で終わります、長文な上になんかあまりショタヤンデレっぽくないかなあ?な出来でしたが
長文にお付き合いいただき有難うございました。

466 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/26(月) 13:10:10 ID:kxLbGy42
>>465
GJ!

どうでもいいが1970年~1990年代のドラマは女がヤンデレって言うケースが多いな。
最近は見かけないけど規制とかかけられたのかな。

467 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/26(月) 15:59:51 ID:FWyskqo5
>>466
単に今やっても受けが悪いからじゃないかな
なんか今は綺麗事並べる恋愛の方が受け良さそう

468 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/26(月) 16:17:57 ID:u5ECGHpw
>>465
(´;ω;`)ぶわっ
GJ!すぎてなんて言えば良いかわかんない

ところでヤンデレ男×女ってありかな?
ストーカーっぽくなりそうだけど

469 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/26(月) 17:01:09 ID:2vXOBINk
>>1にヒロインって書いてあるから多分なしじゃないか?
需要については俺一人の意見で決めつけるわけにはいかないから、↓を参考にしてくれ

470 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/26(月) 17:04:47 ID:jArq0QpM
あれ?そうなると、>>465の小説もスレ違いになるなね。
だってヤンデレ化するのはショタだし……。

471 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/26(月) 17:05:36 ID:z/rMFJ17
過去ログ読めば分かるがその話は毎回議論が続くんだが結局男のヤンデレは基本NGって事になる。

472 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/26(月) 17:20:39 ID:2vXOBINk
>>470
ショタなら許容範囲って意見も少なくないからスレ全体の判断は難しいんだよな

473 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/26(月) 17:36:14 ID:7lJ/mAI4
主人公がショタだと思ってたんだが違うのか
昔他スレでそれっぽいの読んでグッときたせいで勘違いしてた

474 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/26(月) 18:28:14 ID:dYQ6FbdK
そんな事だったら百合物も駆逐してほしいわ

まあ、無しとかそういう話はやめにして個人個人がNGすればいいだろ

475 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/26(月) 18:54:21 ID:SZjTJRlX
>>474
だな。
百合注意とか書いておいてくれればおkだろ。

476 名前:溶けない雪[sage] 投稿日:2007/11/26(月) 19:24:15 ID:MLwnsq7n
遅くなり気味ですが投下します


477 名前:溶けない雪[sage] 投稿日:2007/11/26(月) 19:25:36 ID:MLwnsq7n
8
カーテンを開ける。
カーテンを開けた瞬間に差し込む健康的な光。
天気は、今日の幸先の良さを思わず感じさせる程の晴天だった。
ベッドから本格的に起き上がり、
始めに感じたのはとてつもない空腹感。
凄くオーバーなリアクションを取るとしたら、
ベタだが死にそうな位と言いたくなる程に、お腹が空いていた。
考えてみれば、昨日の夜から今日の昼まで何も食べていない。
お腹が空いているとなればやる事は一つしかない。
携帯をポケットにしまい、一階の冷蔵庫に向かう。

短い廊下を通って、階段を降りる。
階段を降り終わると、直ぐに目的地、リビングに着いた。

リビングと聞くと賑やかなイメージが自分の中ではあるのだが、
今自分の視界に入っている居間の雰囲気は、賑やかとは到底言えない静けさだ。
「またいないのか………」
誰に言うでもなく一人呟く。
ただ、口から溢れただけの声は、リビングの静けさの中で反響した様に聞こえた。



柄にもなく久しぶりに感傷に浸ってしまったお陰で、本来の目的を忘れる所だった。
今はさほど気にしていない静かな居間の中央を通りすぎて、キッチンにある冷蔵庫へ向かう。
何かないかな?と思い、冷蔵庫を開ける。
幸いにも、鮭が入っていた。



昼ご飯を食べ終え、暫くボーッとしている。
ボーッとしている内に、眠くなってきてしまったので、
そのまま、カーペットで保護されている床に体を倒す。
と同時に、ポケットの辺りに圧迫感を感じる。
何だ?と思いながらポケットから何かを出す。
あぁ……
そういえば携帯をポケットに入れていたんだっけ……。
ポケットから取り出した携帯をじっと眺める。
水無月さんのメールの事を忘れていたわけではない。
ただ、考えるのを後回しにした。
それだけの話だ。

携帯の受信ボックスは再度見る。
そこに書かれている差出人は全て水無月さんだ。
「何でだろうなぁ…………」
そう呟きながら、さっき見ていなかった残りのメールを見ていく。



478 名前:溶けない雪[sage] 投稿日:2007/11/26(月) 19:26:42 ID:MLwnsq7n
見ていく事で、ある事に気が付いた。
全てのメールが、30分の間隔で送られている。
妙に律義というかなんというか……
そしてもう一つ気が付いた。
メールが約12時頃に終わっている。
これが意味する事は何か。
確か僕はメールで寝る時間帯は12時だと答えた。
そして、水無月さんの少し異常とも取れるメールの数。
30分間隔、12時にピタリとメールを送るのをやめている。
つまり、水無月さんは少なくとも普通にメールを送っていたという考えが浮かぶ。
その普通が、少し異常なのが問題なのだろうけど………


考えても、これからどうすればいいのかが分からない。
無視しようかとも考えたが、結局そんな事は出来ず、
水無月さんに昨日のメールの返信をする事にした。
(ごめんね、昨日は早く寝ちゃってた(汗))
嘘は付いていない。
色々理由はあったのだけど、早く寝たのが一番の理由なのだから。
昨日のメールの返信なので、届くまで時間が掛かると予測したねで、
それまでの間にテレビの電源を入れようと立ち上がった。
立ち上がったのだが、床に置いた携帯から着歌が流れたので直ぐに腰を降ろす。
さて………、差出人は水無月さんだった。
もしかしたら水無月さんは携帯を常に自身の回りに置いているのかな?
などとおぼろげに考えながら、返ってきたメールを見る。
(そうだったんだ……いきなりメールが戻ってこないから心配しちゃったよ)
心配………か

僕が少し考え過ぎていただけだな…………
何でもかんでも僕は深く考えすぎるんだよ。
深く考えるという事は、日常的にはあまり意味がない事だ。
お陰で昨日なんかはトラックに轢かれそうになったし。



(本当にごめん(汗))
分かっていて返信をしなかった事もあって、もう一度謝罪のメールを送る。
今度も大して待たずに返信がきた
(うーん………じゃあ、お詫びという形で買い物に付き合ってくれないかな?)
(それ位なら全然構わないよ)
誘いのメールを即座に受ける。
ちょっとした罪悪感と、どうせ今日は暇だからだ。
(じゃあ、2時30分に繁華街の北入り口で)
(了解)
メールを送り、携帯で現在の時刻を確認する。
携帯に表示されている数字は1と50、


479 名前:溶けない雪[sage] 投稿日:2007/11/26(月) 19:27:17 ID:MLwnsq7n
つまり1時50分だ。
ここから繁華街に着くまで6分程度、充分に時間はある。
準備は先に済ませてしまおう。
使用した食器を片付け、2階にある自室に向かう。
廊下を一歩、一歩と進む毎に足元から木が軋む音が聞こえる。
足元から軋む音が聞こえる度に、床が抜けやしないかと冷や汗をかく。
簡単に床が抜けるわけがないと分かっていても、そう思ってしまう。
何より、さっき通った時は鳴ってなかった気がするんだけどな………

ひやひやしながら廊下を通り、階段を登る。


自室に入り、着替えを済ませる。
着替えが終わった頃には、時間が2時を回っていた。
「うーん……」
待ち合わせの時間は2時30分、
今の時間は2時近くだ。
「今から行くか……少しのんびりしてから行くか………」
今は寒い季節ではなく、これから歩いて10分頃には着く。
約束は30分からなので20分位待つという事になる。
しかし、のんびりしてギリギリ位に行けば相手を待たせる事になる可能性もある。

「………行くか」
結局、今から出る事にする。
少し待つ位、別にいいじゃないか。
そう考えて、薄着で外に出る。

徒歩で歩くこと約6分、水無月さんとの待ち合わせ場所に着いた。
待ち合わせ場所には、
誰が作ったのかが全く分からない、犬と人間の像が中央に建てられていて、
像の近くには、ところどころにベンチが設置されている。
やはり少し早すぎた様で、まだ水無月さんは来ていないみたいだ。
辺りを見回すと、待ち合わせ場所としてはそこそこ人気なのか、それなりに人が集まっている。

再度時計を見る。
現在2時8分。
多分あと10分位で水無月さんは来ると思う。
とりあえずはベンチに座って待つ事にしt
「約束20分前行動とは、感心しますね」
ベンチに腰掛けようとした時、背後から声をかけられた。


480 名前:溶けない雪[sage] 投稿日:2007/11/26(月) 19:30:22 ID:MLwnsq7n
投下終了

最近は続きがなかなか書きだせない・・・


逃亡作者にはならないようにします




481 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/26(月) 20:29:47 ID:z/rMFJ17
まあ簡単に言えば
水無月さんが可愛いのでオールOKw

なんかバランス取れてきた気もするけどこれからどうなるのやらw

482 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/26(月) 21:49:06 ID:eYhb8Oas
溶けない雪GJ

これからどういう風な
展開になるのかwktkして待ってるぜ


483 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/11/27(火) 01:02:29 ID:nZgZ3m6t
投下します。10レス使用。第四話目になります。

484 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/11/27(火) 01:03:25 ID:nZgZ3m6t
保健室。そこにいくのは本日二回目になる。
一回目にやってきたときは怪我した指に絆創膏を貼るのが目的だった。
そして二回目たる今は、怪我はともかく病気などろくにしないくせに、今日どういうわけか廊下で
倒れていたらしい弟の様子をみるのが目的である。

弟は成績はそれほどよくはないが、その代わりに自身の持つ身体能力を活かして体育や部活動では
かなりの活躍を見せている――らしい。
噂でしか聞いたことがないので、その辺りのことは詳しくは知らないのだ。
あえて知ろうとは思わないだけであって、知りたくないわけではない。
兄弟であり同居人であるため、ただでさえ俺は弟のことをいろいろ知っているのだから。

弟が高校にあがってからも妹と風呂に入っていることなど、学校にいる連中は誰一人として知らないだろう。
妹の仲を誤解されるようなことを弟が自分から口にするはずがない。俺だってもちろん口外していない。
他に知っていることとしては、弟が未だに自慰行為の意味すら知らないことがあげられる。
ちなみに、これは嘘ではない。 弟が嘘を言っているのでなければだが。
以前、話の流れで弟にさりげなく「弟。オナ……自慰をしたことがあるか?」と質問したところ、
「示威? ……兄さん、人を脅すのは良くないよ」という天然ボケを思わせる回答が返ってきたのだ。
あの時は、あえて自慰と言い直した俺の言い方が悪かったのかもしれない。
だが、『じい』と言ったら示威よりも自慰の方をすぐに思い浮かべるはずだろう。高校生であるならば。
それはまあ、高校生と言っても様々な人間がいるから自慰のことを知らない者がいてもおかしくはない。
しかし、まさか俺の弟がそうであるなどとは足の小指の爪先ほどにも思わなかった。

この他にも、弟に関して知らなくてもいいのに知っていることはたくさんある。
その代償として、家族として知っておかなければいけないことは全て把握している。
今まで弟が貧血を起こして倒れたりしたことは一度もなかった。持病があるという話も聞いたことはない。
うちの兄妹が近親相姦で生まれたと知ってから今まで、兄妹のうち誰かの体に欠陥がないかと疑ってきたから、
俺はその手のことに関してはかなり気を配っている。 
今のところ、俺が平凡で、弟が身体能力が優れていて少し天然ボケが入っていて、妹が弟に対して異常なまでの
ブラザーコンプレックスによる執着と独占欲を見せているぐらいで、誰の体にも変なところは見られない。

だというのに、今日弟は倒れた。
もしかしたら何かの病気が発症したのかも、と不安にはなる。
だが、今日に限ってはその不安は外れていると考えられる。
それは、保健室であの女の子に出会ったからだ。
あの子は、俺の身近にいる誰かを気絶させようと目論んでいた。
学校にいて俺と接点のある人間というと、弟と葉月さんとクラスにいる数人の友人ぐらいだ。
それ以外は教師や顔も知らない生徒たちだけだが、あまりに対象が多すぎる。知り合いには含まれない。
それを考慮に入れると、保健室で会った女子生徒の狙いは弟である可能性が高い。

もちろん、あの子に全ての嫌疑をかけるわけではない。
日々大量のラブレターや遊びの誘いのメールを受け取る(らしい)弟は、同学年の女子生徒のあこがれだろう。
弟を無力化して無理矢理モノにしようとする過激な女子がいてもおかしくない。
恋の力というのは人間の正常な判断力を奪うものだ。
俺だってそんな気分になったことがあるのだから、犯人の感情は否定しない。また責めもしない。
しかし、弟や妹や友人に手を出したのならば、俺は犯人を断固否定する。
事を無理に押し進めようとすれば周囲との軋轢が生じるものだ。
その軋みがいかなる結果を生むのか、犯人は分かっていない。
これから先の長い人生を犠牲にしてしまうような取り返しの付かないことになる前に、何としても止めなければ。


485 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/11/27(火) 01:04:44 ID:nZgZ3m6t
幸いにも廊下を走っている現場を教師に発見されることもなく、保健室に到着した。
保健室の入り口は、その地点だけが高い人口密集度を見せていた。
男女の比率は男ゼロで女が百。集まっているのは全員が女子生徒であった。
事情を知らない生徒であれば一体どんなアイドルが保健室に匿われているのかと疑う状況だ。
しかし俺は知っている。保健室の中にいるのは歌って踊れて演技もできるアイドルではない。
俺の弟だ。特技が『特撮ヒーローの必殺技のモノマネ』の弟である。
ここにいる女子達が弟を心配してやってきたということは言うまでもない。
ポイント稼ぎのつもりだったのだろう。
だが、これだけ集まっていたら弟のポイントは全員に行き渡る前になくなるな。

「ちょっと御免なさい。通してね」
葉月さんが女子達の中へ突っ込んでいった。
俺もそれに続こうとしたのだが、葉月さんの真似をするには難度が高すぎることに気づいた。
女子生徒の人混みに紛れ込んでいいのは同性である女子か、人気者の弟みたいな男ぐらいである。
特徴を挙げるなら地味の一言に尽きる俺がとっていい行動ではない。
先に進むことを逡巡しているうちに、葉月さんは保健室の入り口に到着していた。
しかし、どういうわけか葉月さんはドアを開こうとしない。何かあったのだろうか。
女子達は俺に背中を向けていて、俺の存在には気づいていない。
これ幸いと女子達の人混みに少しだけ接近する。
……むう。あまりドキドキしないのは俺が葉月さんと話すことに慣れているからなのであろうか。

葉月さんと数人の女子の会話が聞こえる。
「……ちょっと。どいてくれない? 保健室に用事があるのよ」
「駄目です。いくら葉月先輩でも、いやむしろ葉月先輩だからこそ、中に入れるわけにはいきません」
葉月さんに先輩をつけて呼んでいるということは、相手は一年生のようだ。
しかし、なぜ一年の女子は保健室に通してくれないのであろうか。
「中にいる男子生徒に用があるの。倒れたって聞いたけど」
「やっぱり彼に会うのが目的なんですね。……怪我はしていないから安心して帰ってください」
「直接見なくちゃ信じられないわよ。別に変なことしないって。ただ様子を見に来ただけだから」
「それでも駄目です。他の女子生徒を中に入れることはできません」
これはおかしい。まるで面会謝絶状態ではないか。
怪我をしていないのなら、ここまで強硬につっぱねることもないだろうに。
入れられない理由でもあるのか?
「ハア……。あなたたち、やっぱりあれ?あの、噂の」
ん、噂?
「そういうことです」
「確かにあの子は顔もいいし運動もできるから、あなたたちみたいなミーハーな子が騒ぐのも無理ないけど。
だからって私が中に入れない理由にはならない。勝手な決まりを作るなら内輪だけでやって頂戴」
「できません! 会員第四条特例項目、『葉月先輩は要注意』! それに、個人的にも葉月先輩を彼に近づけたくないんです!」
今、変な単語が出たぞ。会員? 第四条特例?
何の会の、どんな決まりのことを言っているんだろう。

「……いいからそこ、どきなさいよ。力づくで通ってもいいのよ、私は」
「できるならやってみてください。すぐに先生を呼びますから」
「言うわね。一人じゃ近づくこともできない、告白する勇気もない、だからせめて誰も近づけないようにしよう、
なんて甘い考えのお嬢様集団が」
まずい。葉月さんの声が低くなり出した。おまけにセリフに毒がにじみ出している。
このままじゃ、葉月さんと対面している女子の身に危険が及ぶかもしれない。
だが、こんな離れた場所からじゃどうにもならない。止めようがない。
お願いだ、見知らぬ女子よ。これ以上葉月さんをヒートアップさせないでくれ。


486 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/11/27(火) 01:06:52 ID:nZgZ3m6t
「葉月先輩みたいに綺麗な人にはわかりませんよ。私は、自分に自信が持てないんですから……」
「あなたが自分に自信を持っていようがいまいが、私には関係ないでしょう」
「だって……葉月先輩が彼と付き合いだしたら、私は邪魔なんかできないじゃないですかぁ……。
絶対、葉月先輩には勝てないもん……」
涙声。泣いているのは葉月さんと向かい合っている女の子だろう。
そりゃまあ、容姿で葉月さんに勝っている女子はそうはいないから、勝てないと思い込んでも無理はない。
しかし、容姿が良くても恋愛成就するとは限らないぞ。
事実、弟は葉月さんの容姿を褒めることはあっても付き合いたいと言ったことはない。
というか、弟は誰かと付き合いたいという話を持ちかけてこない。
弟が中学時代に女子に付きまとわれ始めてから今まで、ただの一度もだ。
誰か好きな人がいるのかと問い質しても答えをはぐらかすばかりで、未だに奴の真意はつかめない。
ただ、その相手が妹でないのは確かだろう。
もし弟が妹に惚れているのならば、今以上の心労がたたって俺は色々な部分がボロボロになっているはずである。

「言っておくけど、私はあの子と付き合うつもりなんかさらさらないわよ。
だって…………他に好きな人がいるから」
葉月さんのカミングアウト。続いて女子の集団から大きなざわめきが起こる。
「ええっ! ほ、本当ですかっ?!」
「相手は? 三年の男子の小山さんですか?」
「数学教師の奥ちゃんだよ、きっと!」
「そんな……憧れの葉月姉様が……」
保健室のドアの前が多数の驚きの声と少しの悲しみの声で騒々しくなる。
女子達の放つ熱気は俺の足を勝手に後退させるのに十分な勢いを持っていた。
しかし後ずさりしたのは熱気に押されたことだけが理由ではない。
――激しく嫌な予感がしたのだ。
葉月さんが好きな人。以前ならそれが誰であるのか、俺だって興味津々だった。
今では、葉月さんが誰を好きなのか知っている。
彼女はその相手にラブレターを書き、屋上で告白をし、相手の家に押しかけまでした。
羨ましくも葉月さんにそこまで想われている相手は――

「そこにいる、彼よ」
葉月さんが短く、しかしはっきりとその場にいる全員に聞こえるように言った。
そう、未だになぜ好かれているのか自分の行いを省みても全く心当たりがないのだが、
どういうわけだか葉月さんが想いを寄せている相手というのは俺なのである。

葉月さんの言葉に反応した女子全員が俺の方を向いた。
振り向いた瞬間の彼女たちの目は隠しきられていない好奇心で一杯だった。
言葉にするなら、一年女子の一部に憧れの目で見られている葉月さんが好意を寄せる相手はどんな人間なのか、
ものすごく素敵な人に違いない、という感じだろう。
だからであろう。全員が俺の顔を見た瞬間に肩透かしを食らったような表情をしたのは。
「えー……っと」
「この人を? 葉月先輩が?」
「あの……とりあえず、こんにちは」
一番近くにいた女子生徒が軽く会釈してきた。頷きで返事する。
……いや、いいんだけどね。そういう反応されてもさ。
自分の顔は毎日鏡で拝んでどんなものかよくわかっているし、クラスの女子にも似たような反応をされているし。
彼女たちは、なんで俺みたいな地味な奴が葉月さんに好かれているのかわからないのだろう。
俺だってわからない。だから彼女たちに何かを言う資格は俺には無い。
だがそこまで落胆してもらうと、さすがにこっちまで落ち込むというか、なんで同じ親から生まれた兄妹なのに
ここまで扱いに差が出るのかとか、そんな微妙な気持ちになってしまうではないか。
最近葉月さんに優しくされているから錯覚していたようだ。
やはり、異性は俺に対して薄い印象しか抱かないらしい。


487 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/11/27(火) 01:08:01 ID:nZgZ3m6t
この空気に耐えかねてそろそろ立ち去ろうかと思ったとき、葉月さんが俺の方へ戻ってきた。
立ちすくむ俺の腕を取り、保健室の入り口の方向へと連れて行く。
ドアの前にはやはり知らない女子生徒が立ちはだかって進路を妨げていた。
「そういうわけだから、あなたたちの心配するようなことはしないわよ。
もう一人男子が一緒に行くんだから、変なことをする心配もしないで済むしょう?」
「ええ、そういうことでしたら。疑ってすみませんでした、先輩」
女の子は申し訳なさそうに頭を下げると、ドアの前からどいてくれた。
「いいのよ。なるべく危険因子は近づけたくないっていうその気持ち。よくわかってるつもりだから」
「先輩。最後にひとつだけ聞いてもいいですか?」
「何?」
「その人、何者ですか?」
「……質問の意味がよくわからないんだけど」
同意である。何者と言われても、ただのいち高校生としか答えられない。
以前は久しぶりに会った親戚に実年齢より五歳以上年上に見られたりしたが、今は制服を着ているのだから
高校生にしか見えていないはずだ。

「いろいろと疑問に思うことはあるんですけど、一番わからないのはその先輩まで保健室に入ることです」
「あ、そういう意味なの」
「葉月先輩の付き添いできたんですか? それともただ心配で来たんですか?」
「後者よ。だって彼、あの子のお兄さんだもの」
「……お兄さん?」
「そうよ。知ってるでしょ、あの子にお兄さんがいることぐらい」
「じゃあ、この人が、あの」
女子生徒はここで言葉を飲み込んだ。
あの、ってなんだろう。俺に関する噂でも流れ出しているのか?
葉月さんと一緒に登下校するようになってから変な噂が流れていないか耳を澄ませているが、
タチの悪いものはまだ耳にしていない。軽い恨み程度ならしょっちゅう聞いているが。
「そうなんだあ……お兄さんか」
人形でも見るような無機質な女の子の目に色が宿った。
俺の正体が知人の兄だということがわかって、ようやく警戒が解けたようだった。
だが、どうにもそれだけではないような気もする。
さっきまで邪魔者でも見るような目つきだったのに、今ではにこやかに微笑んでいるのだ。
視線を横に流す。他の女子も雰囲気を柔らかくしていて、排斥する気配を消していた。
変わり身が早すぎるだろう、後輩諸君。
俺が憧れの男の兄だとわかっただけでここまで手のひらを返されると、弟の人気者ぶりに少しの誇りと
たくさんの嫉妬を覚えてしまうではないか。

左にいた女の子が俺の左手を握った。しかも両手で。
「あの、お兄さん。私村田って言います。いつも弟さんには仲良くしてもらってます。よろしくお願いしますね」
「……はあ」
どう答えたらいいかわからないので、こんな声しかでない。
ぼんやりしているうちに、今度は周囲から色々な声を投げかけられた。
「村ちゃんずるい! あの、私は石川です!」
「平田です! 気軽に平ちゃんって呼んでください!」
「みんな少しは落ち着きなさい。……広瀬です。私の名前だけは覚えてください」
自己紹介の嵐。続々と女の子が俺に向けて名乗りを上げる。
悪いけれど、左手を握ってきた女の子以外の名前はちっとも耳に残っていない。
俺は基本的に人の名前を覚えるのが苦手なのだ。
いや、仮に得意であったとしても十人以上の女の子の名前と顔を一致させる離れ業まではできない。
この子達も、俺に自己紹介したところで弟の好感度がアップするわけではないというのにご苦労さまなことである。


488 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/11/27(火) 01:09:34 ID:nZgZ3m6t
さて、今の俺は右手を葉月さんに、左手を村田という名の女子に握られたままの状態にある。
両手に華とはまさにこの様子のことをいうのだろう。
むしろ周りは女子だらけなわけだからお花畑の中にいるとでもいった方がふさわしいかもしれない。
しかし、どうにも納得のいかないこともある。
なぜ俺の右手は握られている痛みで悲鳴をあげているのであろうか。
「なによ……あんたたち……勝手に手なんか握って……しかもいきなり馴れ馴れしくなって……!
私でさえ、簡単に声をかけられなかったのに…………」
この声は葉月さんか。いつもと違って声を絞り出すようにして喋っているからすぐにわからなかった。
どうやら葉月さんは怒っているご様子。女の子達が俺に話しかけだしたのが気に入らないらしい。
もしかして、やきもちというやつか? 葉月さんは後輩の女子に嫉妬している?
それほど葉月さんに想われているなんて、俺はなんと幸せ者なんだろう。
右手に痛みどころか触覚まで感じなくなるほど今の俺は喜びに打ち震えている!

学年一の美女プラス多数の後輩女子による似非ハーレム状態を堪能していると、突然保健室のドアが開いた。
「みなさん、少し騒ぎすぎですよ」
と言いながら扉から顔を出してきたのは――我が2年D組の担任であった。
なぜ担任が保健室からでてくるのだろう。授業中以外は職員室で茶を飲みつつ文庫本を読んでいるか
図書館にて分厚い本を読んでいるかという行動パターンしかとらないはずなのに。
「中には寝ている生徒がいるんですから、心配してきたのならもっと気を配ってください」
担任の声を聞き、女子達は急に静かになった。
少しの注意であれだけ騒いでいた女子を鎮めるとは意外である。
もしかしたらうちのクラスの担任は生徒からの人望を集めているのかもしれない。
「あら? お二人ともどうしてここに?」
担任が俺と葉月さんに向けて疑問の声を向けてきた。
「実は弟が倒れたって聞いたもんで。ちょっと見に来たんですよ」
「弟? ああ、そういえば名字が同じでしたね。 ふー……む」
担任は俺の顔を見たまま右手を顎に当てた。何かを考えているようである。
「あまり似ていな――――いえ、なんでもありません」
「……今、似ていないって言おうとしませんでした?」
「弟さんは中にいます。どうぞ、中に入ってください」
この教師は、人のツッコミに対してなんと見事なスルーをするのであろうか。
流石、その年になっても独身でいられるだけある。
聞きたくない人の言葉を切り捨てる技術は並ではない。そこだけは見習いたいものだ。

「ところで先生はなんで保健室に来てるんですか?」
「私が弟さんの倒れていた現場の第一発見者だからです。廊下を歩いていたら偶然倒れている生徒を
見つけたので、他の生徒の手を借りて保健室に運び込んだんです」
「そうだったんですか。それは、どうも……ありがとうございます」
「弟さんは体調管理を怠っているのではないですか? 倒れた場所が校内、しかも廊下だったから
よかったものの、車道の近くで倒れたりしたら命に関わりますよ」
「はい、家に帰ったら言い聞かせときます……」
「まったく。……あら?」
担任の視線が斜め下、俺の右手へと向けられた。
つられて自分の右手を見る。俺の手と葉月さんの手は繋がったままだった。
それはいい。それはいいのだが――指が紫色になっているのはよろしくない。
そして、手が危険な色になっているというのに痛みを感じないのはどういうわけだ。


489 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/11/27(火) 01:10:34 ID:nZgZ3m6t
「あの、葉月さん?」
「また……女が増えた……」
「手を離して――いえ、お手を離していただけないでしょうか?」
「年増のくせに…………!」
これは――葉月さん、相当頭にきてらっしゃる。やきもちを妬くとかそういうレベルではない。
俺でさえ担任に向けて年増という暴言は頭の中でしか吐かないというのに、葉月さんは口に出してしまった。
ぽつりとつぶやいた感じだったが、これだけ近ければ担任にも聞こえているはずだ。
しかし、担任は相変わらずのやる気があるのかないのかわからない事務的な表情をしたままであった。

「葉月さん、そろそろ手を離してあげてはどうですか?」
葉月さんは答えない。俺の手を握りしめて俯いたままだ。
「そのまま握り続けていると、彼の右手は使い物にならなくなってしまいますよ?」
その通りだ。こんな紫色の手では塗料の瓶の蓋を開けることすら出来ない。
ぜひとも今すぐに離して欲しいところである。
「私と彼の繋がりを……断とうっていうの? そんなのは……」
「まったく……仕方がないですね」
担任はため息を吐くと、葉月さんの耳に口を寄せた。そして小さな声で呟く。
「彼の右手が使い物にならなくなったら、指で弄ってもらえなくなりますよ?」
「――――――あっ!」
突然声をあげた葉月さんから俺の右手がようやく解放された。
右手には葉月さんの手形がはっきりと残っていた。
紫に染まった手の中でそこだけは白いままで、まるで葉月さんの手形によって守られていたみたいだった。
もちろん、右手を変色させてくれたのは葉月さんなわけであるから、感謝しようとは思わない。

「ごめんね! 大丈夫だった?!」
葉月さんが俺の右手をとってマッサージをしだした。
見ている分にはしきりに手を揉み続けているようだったが、どうにも指の感覚があらわれてこない。
「ごめんなさい、ごめんなさい! つい頭に血が上っちゃって、それで……」
「いや、いいよいいよ。そんなに謝ってくれなくても。たいしたことないし、それに感覚も戻ってきたし」
マッサージが効いたのであろう。指の辺りにこそばゆい痺れがあらわれだした。
よかった。まだ俺の右手は生きている。
これからも趣味を継続していける。そんな当たり前のことがこんなに嬉しく感じられるなんて。
幸せというのは日々の生活の中に溶けこんでいるものなんだなあ。


490 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/11/27(火) 01:13:26 ID:nZgZ3m6t
謝り続ける葉月さんをどうにかなだめ、保健室の中へ。
「あ……兄さん」
するとそこには、どういうわけか相も変わらず柔和な表情の弟が立っていた。
廊下で倒れていたことなどまったく連想させない顔色。
安堵すると同時に、拍子抜けした。無駄な心配をした気分だ。
しかし心配したのが無駄だったとは思わないのも事実。
いつ何時、どんな場所で、俺たち兄妹は体に異常をきたすかわからないから気を配りすぎても配りすぎ、
ということはない。
とはいえ、弟の顔を見て心配させやがって、とか小言を言うと弟を心配していた兄だと葉月さんに思われかねない。
こういうむきだしな感情はなるべく人には見せたくない。俺は冷静な男というイメージを守りたいのだ。
――待てよ。
今時家族に対する情が厚い男というのはなかなかいないのではないか?
だとすれば、意外に葉月さんの受けもとれるのでは?
よし。ここは兄として、弟を心配していたような振りをするとしよう。

「ごめん、兄さん。心配させて」
「心配させやが…………は?」
「倒れたって聞いて、心配だったから来たんでしょ? だから、ごめん」
なぜこんなときにしおらしい態度をとりやがる、弟。
そんな台詞を聞くと頬がひくつくだろうが。
「…………別に心配してたわけじゃないぞ。勘違いするな」
「そう……」
弟が表情のベクトルをほんの少しだけ残念そうな方へ向けた。
――しまった。つい天の邪鬼な性質を表に出してしまった。
だって、それはあれだ。家族に謝られたらなんだか気恥ずかしいんだよ。だからついやってしまったんだよ。
軽くさらっと礼を言われたり、憎まれ口を叩かれている方が俺は気楽だ。
弟だって普段勉強を教わった後は深々と頭を下げたりしない。ありがと、とか言うだけだ。
だというのに今日はどうしてそんな反応をとるんだ。
なぜ弟の見舞いに来た俺が、弟からの予想外の謝罪を見舞われなければならない。
機会を逃しては普段通りに冷静で厳しい兄として振る舞うしかないではないか。
葉月さんへの好感度を上げる絶好のチャンスがふいになってしまった。

弟から目を逸らし、回れ右。保健室の出口へ体を向けて、後ろにいる弟に告げる。
「体調が良くなったんならさっさと帰るぞ。葉月さんも送って行かなきゃならないんだから」
「うん……」
やけに低い調子の弟の声。しかし俺は謝らない。
俺は少し不機嫌なのだ。帰りは遅くなるし、ポイントは取り損ねるし。

と、その時。
「ふふふ……」
背後からささやくような笑い声が聞こえてきた。
肩越しに視線を向けると葉月さんが右手を唇に当てながら微笑んでいた。
「弟君。残念がることないわよ。お兄さんはあなたが倒れたって聞いて、
すっとんきょうな声を上げるほどに驚いたんだから」
んな!
「……何を言っているんだい、葉月さん。俺がそんな声出すわけがないじゃないか」
そう。あの時声を上げたのは、――かけ声を出しただけだよ。
うん、文化祭で呼び子をしなきゃいけないから、その練習をしただけさ。
一通り頭の中でそんなことを考え、さらにごまかしついでにハハハハハ、と笑ってみる。
「そうなの? 兄さん」
返答代わりに、ハを連発させる。今度はちょっと長めに。ハハハハハ、ハッハッハッハッハ。
「イエス、だってさ。弟くん」
「兄弟の仲はよろしいようですね。
正直お兄さんの方が劣等感を――いえ、遠慮をしているのではないかと思っていましたが。
仲良きことは美しきかな。これからもご兄弟で助け合っていってくださいね」
声の調子から意外なことに葉月さんのポイントを稼げていたことがわかったとか、担任のごまかしきれていない
失言が聞こえたとか、そんなことはどうでもよかった。
ただ俺は笑った。笑い続けたらこの状況から逃れられそうな気がしたからだ。


491 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/11/27(火) 01:18:13 ID:nZgZ3m6t
*****

俺と葉月さんと弟の三人で校門から出たときには、時刻はすでに六時近くになっていた。
最近は平均気温低下の進行に連動するように、日の暮れるペースもだいぶ早まっている。
そのため六時、つまり今頃の時間には辺りはすっかり暗くなってしまうのである。
黒の色合いを濃くした路地を俺、その左に葉月さん、そのまた左に弟という陣を組んで進む。
正面から見れば俺と弟で葉月さんの両脇を固めているように映るはずだ。
もっとも、暴漢に襲われた際、三人の内で無傷でいられる可能性が高いのは葉月さんである。
だが、もちろんそんなことは言わない。
そんなことを言うのは失礼だし、何より葉月さんだって無敵ではないのだ。万が一ということもある。
いや、万が一という言い方も失礼か。もしかしたらということもある、に訂正。

それに、葉月さんの武道家としての実力云々を別にしても、俺自身が葉月さんを家に送りたいのだ。
学内でも美人と評判の女子生徒との下校。さらにその子は自分の憧れの女の子。
本来ならこちらから頭を下げてでもお願いしたいシチュエーションだ。
幸いにして、俺の場合は葉月さんからの申し出を二つ返事するだけで引き受けることができた。
そんな経緯を経て、頼りない実力皆無の葉月さん専用ナイト(俺)が誕生したわけである。

実は、葉月さんが家に入ったのを確認してから俺の警戒レベルが数段上がるのは秘密である。
最近は学校の中でも冷ややかな視線を浴びている俺としては、暗い夜道など避けたい状況でしかない。
誰かが俺を影から狙っているかもしれない。しかもそれがクラスメイトの誰かである可能性まである。
したがって、葉月さんと別れた後の俺の下校方法は競歩ではなく、またジョギングでもない。
サブスリーを目指すマラソンランナーのようなペースでの疾走である。
走っていると、緊張感から自分の足音を追ってくるような靴の音まで聞こえてくる。
強迫観念により、俺の足はさらに加速する。自分がどんな呼吸をしているのかも意識できなくなる。
よって葉月さん宅から自宅までの距離を、俺が何分で走り抜けているのかは未だに計測していない。
しかし、路地を走る自転車をあっさり抜いている点から考えて結構な記録が出ているのではなかろうか。
足が速くなったところでプラモデル作りの腕が上がるわけではないのだから、嬉しくはないのだが。

俺が考え事をしている間に、左側にいる葉月さんと弟は親しく会話を交わしていた。
「僕、葉月先輩の家に行ったことがないんですよ。学校から遠いんですか?」
「ううん。歩いて十分ちょっとで着くよ。……ほら、見えてきた」
葉月さんの視線の先には、立派な構えの門がそびえ立っていた。
永い時の経過を感じさせてくれる漆黒としけった茶の混ざり合った木柱が四本と、それに支えられて鎮座する
瓦を被った屋根の組み合わせである。長く連なる塀が門の威容を慎ましくも壮大なものとして見せつけている。
「はー……すごいですね。先輩ってもしかしてお嬢様ですか?」
「そんな大したものじゃないよ。道場が敷地の中にあるから、おっきいだけ。
昔からある家をそのまんま残しただけだから、うちの両親も武道が出来る以外は平凡な夫婦だよ」
「そうなんですか。うちの両親は普通――――だけど、ここまで大きな家は持ってないから、ちょっとうらやましいです」
「あははっ。お兄さんと同じこと、言うんだね。実際は知り合いも多いからめんどくさいんだけど。
ほら、家が長く続いてると親戚も比例して増えていくからさ。その分お年玉はがっぽり、ね」
「お年玉、ですか……」
「二人とも、お年玉とかどれぐらいもらうの?」
「えっと……そこそこです。はい」
「そうなの?」
と、葉月さんが俺に話を振ってきた。
「そうだねぇ……。うん、やっぱりそこそこかな。月の小遣いよりも多く、だが決して無駄には使えない、って感じ」
「へー、そうなんだ」
葉月さんは納得したように二回頷いた。どうやら、ボロは出さずに済んだようだ。


492 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/11/27(火) 01:20:17 ID:nZgZ3m6t
両親が血の繋がったブラザーアンドシスターである我が一家でも、葉月さんの家族のように正月は迎える。
盆と正月ばかりはさすがに両親も実家に帰る。そして両親の生みの親である祖母と過ごす。
他の家庭では正月には親戚なども集まるらしい。だがうちの家族はひと味違う。
親戚がろくに来ないのだ。当然である。別々の家同士を結びつけるはずの結婚を身内同士で行ったのだから。
来てくれるのは祖父方の親族が数名のみ。しかも軽く挨拶して、祖父に線香を供えるだけで帰って行く。
その時に上手く鉢合わせできればお年玉を戴けるのだが、タイミングを逃せば無論のこと……である。
そのため、うちの兄妹はお年玉にあまり縁がない。
祖母と両親からは毎年もらえているから、絶縁状態でないだけマシかもしれないが。

さて、あまり人様の門前で立ち話するのも失礼だ。今日は帰るとしよう。
「葉月さん。また明日、学校で」
「先輩、さようなら。今日はどうもありがとうございました」
「うん、それじゃあね。二人とも気をつけて帰ってね。……バイバイ」
葉月さんに見送られ、弟と二人で自宅への帰途につく。
今日は弟がいるから走って帰る必要はない。
さすがに二人を相手にしてまで襲いかかってくるほど、敵も不用心ではあるまい。
事前に二人を相手にする準備をしていたのならともかく、俺が弟と帰るのは久しいのだから、今日のことは
予想していないはずだ。

冷たい空気の中、腕で伸びをしながら歩きつつ弟に話しかける。
「お前、今日は一体どうした?」
「ん、どうしたって、倒れたことを言ってるの?」
「ああ。お前が倒れるなんて今まで一度もなかったからな。ご飯を抜いて、そのせいで……とかじゃないんだろ?」
「朝も昼も、妹の料理をちゃんと食べたから、それはないよ」
ふと、そのせいで倒れたのではないかとか考えてしまった俺は兄貴失格なのであろうか。
長男としては末っ子の妹のことも信じてやるべきなのだろう。
だが、どうにもなあ。弟よ、わかっているんだろう? 料理しているときの妹の嬉しそうな表情の意味を。
愛しの兄に料理を作っているという理由だけでは、絵本に出てくる魔女みたいに唇の端をあげないぞ。
あれは、興奮状態とか恍惚状態って言うんだぞ。言い換えればエクスタシーだ。
まあいい。今までも弟は妹の料理を食べても倒れなかったのだから、血の繋がった魔女の仕業ではないということだろう。
――では、一体なぜお前は倒れたんだ、弟?

「実は、僕のクラスは文化祭でコスプレ喫茶なんてものをやるんだ」
「……ほう。どんなプレイをするんだ?」
「プレイって言わないでよ。そうだね、巫女さんとかメイドさんとか、侍とか甲冑を着た騎士とか。
あ、ピーターパンなんてのもあったっけ。僕はヒーローの役をやりたいんだけどね」
「ほっほぅ。それはそれは。素晴らしい事じゃないか」
「うん。で、まだ準備が終わってなくて。放課後も残って作業なんかしてるんだけどね」
くくく、結構結構。僥倖だ。
「僕も残ろうと思ってて、HRが終わってからすぐにトイレに行ったら……後ろからチョークスリーパーをかけられて、
顔にいきなりスプレー……かな、あれは。それを吹き付けられたら眠くなって、たぶんそれで」
「なるほどなあ。ま、無事だっただけ儲けもんだな」
「うん。篤子先生には感謝してるよ」
突然知らない名前が出てきた。
「誰だ? 篤子先生って。担任の先生か?」
「……兄さんのクラスの担任でしょ。名前、覚えてないの?」
「特徴的な外見をしているからすぐにわかる。名前なんて必要ないだろう」
常に文庫本を片手に持ち歩いているセーターとジーンズも似合うけどどんな格好も似合いそうな文学オタ美人、
とでも覚えておけばいいんだ。おっと、年増と独身というフレーズも忘れてはならないか。失礼した、篤子女史。


493 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/11/27(火) 01:22:42 ID:nZgZ3m6t
「いいけどね、別に。ともかく、さっき説明した通りの状況で眠らされたんだよ」
「ふむ。後ろから襲われたということは顔も見ていないわけか」
「うん。小さい手だったから女の子じゃないかとは思うけど、それだけ」
「女の子、か……」
どうしても今日保健室で会った美少女の顔が浮かんでしまうな。
彼女の不審な言動。俺のことを知っているような素振り。今のところ、彼女が一番疑わしい。
というより、今のところ他にいないか。
女の子という条件で弟を狙いそうな女子というと……保健室の前に集合していた女子達が全員疑わしくなる。
今のところは犯人を特定できない。ヒントが少なすぎる。
――ならば、こちらから探ってやろうではないか。

「弟、さっき文化祭の準備が遅れている、と言っていたな」
「うん。接客する人だけ衣装を用意すればいいんだけど、クラスの半分以上がやるつもりみたいだから。
裁縫係の女の子たちはすっごいぴりぴりしてるよ。小道具担当もね」
弟の言葉を聞き、自然と頬がつり上がる。
最高だ。この状況こそ、俺が望んだものだ!
「誰か手伝ってくれる人、いないかな。誰でもいいんだけど。兄さん、心当たりはない?」
「ここにいるだろう」
「ここに? ……って兄さんしかいないけど」
「だから、俺がいるだろう、という意味で言っている」
「え……でもさ。兄さんのクラスは?」
「ふん。純文学喫茶など灰にして塵として土に帰してやればいい。俺にはやらなければならないことがある。
そう。お前のクラスのコスプレ喫茶を成功させるため、力を貸すという大事な仕事がな」
正直に言えば俺の欲求不満を満たすのが目的なのだが。
だが、弟はそんな俺の本心など微塵も悟ってはいない。
「ありがとう! 兄さんみたいな器用な人が居れば、準備がもっと早く終わるよ!」
このように、俺の助けを得られるとわかって神の手でも得たときのようにありがたがっている。
期待に応えようではないか。俺の覚悟は今すぐに学校に引きかえすことも辞さない。
途中で通り魔に遭おうと知ったことではない。
襲いかかってくるナイフを鞄で受けて、ウエスタンラリアットの一撃でコンクリートのマットに沈めてやる。
「じゃあ、早速明日からよろしくね! 兄さん!」
「応ともよ」

文化祭まで、あと一週間もない。
だがそれは、一週間近くも時間があるということでもある。
なにせ一日は二十四時間もあるのだ。数日あれば十分だ。十分すぎる。
弟の素晴らしきクラスメイトたちよ――もう、安心していい。俺が居れば全てが上手くいく。

------
今回はここまでです。


494 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/27(火) 01:53:04 ID:DY+ELF68
>>493
GJ
例の美少女が誰狙いなのか次回には明かされることを
期待して待つよ。

495 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/27(火) 02:10:00 ID:N3DqyGoF
>>493乙。そしてGJです。
それにしても葉月さんは可愛いなw

続きを楽しみにまったりと待ってます。

496 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/27(火) 02:21:29 ID:8CgDs1O3
>>493
GJ!葉月さん可愛すぐる

それにしても兄貴は文化祭で何をするつもりなのか怪しく見えるぞww

497 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/27(火) 02:58:06 ID:VyLR6Dyt
弟の好きな人、・・・いや、なんでもない。忘れよう。GJ!

498 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/27(火) 03:27:20 ID:U0IjNHUH
男が軽くヤンデレになるSSなんだけどここが該当するのか?

499 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/27(火) 03:30:59 ID:nzxekUae
>>493GJ!
葉月さんも可愛いのだが、兄のキャラがすごくつぼにはまる

500 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/27(火) 03:48:07 ID:inV+gPrq
まさか弟…ウホッではなかろうな

501 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/27(火) 10:15:53 ID:OkiUSePz
すでに不測の事態に備えて弟を鰤に脳内変換している自分は
石橋を叩いてわたる派

502 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/27(火) 10:32:00 ID:02+niPWa
>>498
みたくないやつはフィルターかけるしあらかじめNGワードふっとけば良いんじゃね?
俺は読んでみたい

503 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/27(火) 11:37:26 ID:NuzDpeQh
男を病ませて一体誰が得するんだと何度
鬱屈したキモい奴か陵辱モノの主人公かのどっちかになると思う

他の住人が良いんなら試しに見てはみたいけど…惨状必死

504 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/27(火) 11:52:42 ID:ogY1vAem
男でヤンデレというとすげこまくんが頭に浮かぶ。
あれくらいはっちゃけてて、殺傷方面にいかないなら読んでみたいかも。

505 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/27(火) 12:10:01 ID:i//yxhr4
見たくなければNG登録を住人が徹底できればいいが、
過去に百合でも突っかかってくる人とかいて荒れたりしたからなあ。
慎重にやらないと空気悪くなるのは避けられないので配慮していただければ。

まあ読みたいか読みたくないかで言えば俺は読みたくない。

506 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/27(火) 14:04:39 ID:GjpQSCFo
過程にもよるんけど
ヤンデレ女にMCされて男が病むとかだったら読んでみたい

507 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/27(火) 16:50:00 ID:U0IjNHUH
最終的に嫉妬スレに書いたんでよろ

508 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/27(火) 19:44:20 ID:gPOzsm69
>>493
GJでした。
しかし、兄さん。もはや傍観者じゃないだろw

509 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/27(火) 21:32:51 ID:hM8hQ68V
>>507
明らかにプロットに見えない件www

510 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/11/27(火) 22:21:19 ID:P3ImyfcO
>>493 GJ
篤子女史が弟を気絶させたのではないかと考えている俺

511 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/27(火) 23:58:10 ID:zS2alqz5
弟の思い人が篤子女史であると推測。

512 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/11/28(水) 00:39:05 ID:CkzdOEiH
弟が、実は女で兄を慕っているなんて話だとかなり嬉しい俺

513 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/28(水) 02:48:20 ID:wK9GFkl8
弟が、実は兄を慕っていると推測。

514 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/28(水) 11:36:15 ID:QLkMAClv
何度読んでも弟→兄にしか見えない

515 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/28(水) 13:17:10 ID:QjtXn+Gr
脳内変換「準にゃん」


516 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/28(水) 19:40:47 ID:edWuJzEc
アッー!は某プロ野球選手だけで十分なんだぜ

517 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/28(水) 20:21:06 ID:/1Nd5e28
てかおまいら明らかに期待してるだろw

518 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/28(水) 21:01:46 ID:ufvIBa6S
男は度胸!なんでも試してみるモンだ。きっと気持ちいいぞ!

519 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/28(水) 21:34:43 ID:7IQmR5w+
そういえば、ガチホモのSSがなぜか投下されていた時期もあったなぁ…
懐古してしまった、スマソ

520 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/28(水) 22:47:06 ID:52NVVfRb
初代スレだよな!ログはなくなってしまったが覚えてるぞおー

521 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/28(水) 23:15:46 ID:/1Nd5e28
あれは荒らされてただけだw
懐古ついでに言えば初代の頃は「ヤンデレ」でスレタイ全板検索しても
こことVIPしか引っかからなかったなあ。

522 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/29(木) 00:21:01 ID:P4TdiHns
懐かしいなww
あの小説を読んでおっきしたのも今となってはいい思い出だ…

523 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/29(木) 00:44:42 ID:fpaMTy/S
唐突だけど
臨時保管庫にて編集作業している人、乙です
ほとんど時間を置かずに保管してくれていつでも見られるので感謝してますよ
これからもよろしく

524 名前:トライデント ◆J7GMgIOEyA [sage] 投稿日:2007/11/29(木) 00:58:00 ID:rCB25aQZ
お久しぶりです。以前の投稿から半年以上が経っていますが
投下致します

525 名前:幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] 投稿日:2007/11/29(木) 01:00:50 ID:rCB25aQZ
第1話『幽霊屋敷』
この春。
俺はめでたく浪人することが決定した。
そりゃ、大学受験の当日に受験会場へ辿り着かなかった不運の持ち主だったら、
来年は頑張って志望の大学に受かってやるという意気込みが沸いてくるのだが。
学力以外の方法で試験に合格する手段はある。正真正銘のアホである俺は裏技を使わざるえなかった

それは……カンニング。
数学関連は適当に解けばいいんだが、暗記が必要とされる科目に関してはお手上げだ。 
事前に用意したカンニングのために仕込んだ消しゴム。目が怪我しているように装い、左目の包帯に
いろいろと英単語や別に覚えてなくていいだろう歴史や地理の名前など。

完璧に用意したカンニング方法は……試験開始5分ぐらいでバレた。
試験官が俺の背中を優しく叩いた瞬間に、皆がテストを受けている時に
俺は相手の胸に頭突きしたサッカー選手のようにレッドカ-ドで退場。
後は偉そうな天下りしてそうな貫禄のあるハゲに人生とは何か? だんご大家族とは何かと延々と説教させられた。

悪質なカンニング行為をした懲罰として俺は試験を受けさせてもらう資格を剥脱された。試験を受けさせないなら受験料を返せよ。
そんな感じで俺は浪人することになった。
両親も息子がカンニング行為をやったぐらいでお前は勘当だ。
家から出ていけと怒鳴られて、僅かなお金を渡されて家に追い出される始末。

まあ、母親が仕送りと予備校の学費と引っ越し予定のボロいアパートの家賃を送ってくれなければ、
念願の独り暮らしなんてできなかっただろう。その事に感謝しながら。
引っ越してきたボロいアパートで俺の新生活が始まろうとしていた。

さて、引っ越したアパートの物件を選んだ理由は家賃が安いし、周囲には駅も近く遊ぶ所には困らない。
今時、家賃1500円なんて信じられない家賃に少しでも仕送りのお金を節約して
小遣いを増やそうとこすいことを考えていた俺は速攻で契約した。敷金も保証金も0円という。本気で有り難い。
ただ、物件を仲介した人は本当にいいんですか? 何度も何度も確認を求めてくる。
怪しい態度に気付いた俺は何を隠しているのかと怯えている仲介人の胸倉を掴まさせて、白状させた。

なんと、俺が契約したアパートには幽霊が住んでいるらしいのだ。
そう、この物件と契約した人たちはたったの三日ぐらいで契約解除して泣きながら助けを求めてきたらしい。 
正直、俺も信じがたい話だが、その仲介人も幽霊の存在を見たことがあると自分の恐怖体験を延々と語りだした。
深夜零時頃になると幽霊がうらめしやーと叫びながら姿を現す。

予想もしていない異物な存在にパニックを起こした仲介人が唯一確信を持って言えたのは、幽霊は女性だった。
たった、それだけのことである。

526 名前:幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] 投稿日:2007/11/29(木) 01:03:23 ID:rCB25aQZ
その事実を知ってから、松山光一(俺)は中古アパートに引っ越して一週間。
何事も起こらなかった。
幽霊なんて噂話に過ぎなかったのではないか? 住人の全てが麻薬中毒者で幻覚症状に陥っていた可能性すらも浮かんでくる。
ともあれ、夜だ。

「今夜も秘蔵のお宝をインスト-ルするか」
浪人生である俺が自宅から持ってきたPCでお目当てのゲームをインスト-ルするのは
真面目に受験に取り込んでいる人たちが見るとお前絶対に必ず落ちると指を差して笑われるかもしれないが、断固として言うであろう。
激しい受験勉強で数々のストレスが体に蓄積しているので、少しぐらいゲ-ムをやってもいいだろ。
そんな感じでPCを起動して、スピーカーの差し込み口にヘッドホンをする。隣に住人はいないが、外に声が漏れるのはよろしくはない。
完全最強装備を整えた俺はいざ勝負っ!!

「う~ら~め~し~や~」
「ん? 何か聞こえたような?」
スピーカの音量をMAXにしているため、僅かな小さな声が聞こえるだけである。
「そんなことよりもヤンデレヒロインを頑張って病んでもらわないとステ-ジクリアができねぇよ」
「う~ら~め~し~や~」
「最近のヤンデレヒロインは着信99件に、ポストに五年分の手紙が入っていると年々と凄くなってきているな」
「う~ら~め~し~や~」
「ひゃっほっっっ!! ヤンデレゾンビが鉈を装備かよ。誰かロケットランチャ-持ってきてくれ」
「う~ら~め~し~や~。う~ら~め~し~や~」
「う~む……。精神世界にダイブするとまともだったヒロインがヤンデレ化して、
自分のために死んでよと嘆願されてもなぁ。男は余裕でひくって……」
「う~ら~め~し~や~。うらめし~や」
「ん?」

後ろを振り返ると……そこには見慣れない少女がいた。
白い服だけ身に纏っていた少女が涙目になって、うらめしやと呟いていた。
年頃は俺と同じくらいであろう。腰まで届く長い髪に、整った可愛らしい容姿。
これが幽霊と言われると、押し掛けてきたストーカーが家に侵入してきたように思える。

「とりあえず、うらめしいんですよぉ!!」
と、目の前の幽霊は振り返った来た俺の身体にポカポカと力を入れずに叩き出した。
何がうらめしいのか、その小さなお口でちゃんと事情を説明して欲しいもんだ。

「その前に。あんたは噂になっている幽霊なのか?」
「そうですよ。すでに故人です!! お墓もありますよ!!」
「それは良かったな。じゃあ、俺はヤンデレオンラインRPGの攻略するからじゃあ」

「ひ、酷いです。わ、私のお話も聞いてくれてもいいじゃないですか……」
「いや、聞いてもさ。生前、私は犬でしたがご主人さまのために転生しましたオチでしょ?」
「犬なんかじゃあありません。生前はまともな人間でしたよ!! それに私が話したいことはそういうことじゃあないんです」

この幽霊はしつこく俺に歯向かってくる。せっかく、至福の時間を潰す奴は極楽へ行かせてあげたい気分になってきた。

527 名前:幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] 投稿日:2007/11/29(木) 01:05:43 ID:rCB25aQZ
「大体、光一さんはあなたは一体何ですか!! 
あなたがアパ-トにやってきた日からずっとずっと、
うらめしやうらめしやって言っているのに全然気付いてくれないじゃないですか? 
あなたは本当に人間なんですか。他の人なら私の声に気付いて、すぐに逃げるんですよ」
と、幽霊はポカポカと俺の頭を叩いてくる。力が篭もっていないので全く痛くも痒くもないが、幽霊の愚痴はまだまだ続く。
「なのに……光一さんは毎日毎日PCゲ-ムで夢中になって、本当に受験生なの!? 
って感じに朝になるまでゲ-ムをやっているだもん。
私、一度その人に姿を見られない限りは朝になると見えなくなるんですよ。
だったら、夜は早く寝てください。そうじゃないと私の声が聞こえないでしょう!!」
「ようするに気付かなかったことに怒っているのか」
「そうです!! 寂しがっている女の子の気持ちに気付かないと背後から鋸から刺されますよ」
俺に無視されて、寂しかったのか幽霊。

「まあ、気付かないのは真面目に受験勉強に取り込んでいた俺の落ち度ということは認めよう」
「誰がが真面目に勉強していたんですか?」
「ともあれ、幽霊が実在していると証明されたので。それじゃあ」
「それじゃあないんです!!」
と、先程から幽霊は自分の受けた仕打ち分は怒る権利があると言うばかりに怒鳴り散らしていた。
可愛いらしい容姿をしていても、カルシウム不足の女は男にモテないと思うんだが。
「どうして、光一さんは私のことを恐がらないんですか? 仮にも、私はすでに死んでいるんですよ」
「恐がると言われてもな……」
これが筋肉ダルマの幽霊や顔が半分潰れている生理的に受け付けない幽霊なら
裸足でお宝のソフトコレクションを持ちながら逃げ出していただろう。
だが、目の前の少女は和やかな雰囲気を部屋に充満させているおかげでそんな恐怖を微塵も感じなかった。
「幽霊が居てくれないと家賃が上がるじゃん」
「家賃って」
「幽霊が出ると噂されているボロいアパ-トのおかげで家賃が安くて助かっているんだ。恐れるどころか、逆に感謝したいとこです」
「感謝って……」
「でも、遠きヴァルハラの道に行きたいなら、別に成仏してもいいんだけど」
「いいえ。まだ、私は成仏したくありません。この世に未練はたっぷりとあるんですよ」

528 名前:幽霊の日々 ◆J7GMgIOEyA [sage] 投稿日:2007/11/29(木) 01:08:24 ID:rCB25aQZ
「その未練とは?」
幽霊がこの世に固執した理由を肴にして、今晩は暇つぶしができそうだ。
軽い気持ちで聞いた俺とは違って、幽霊は前髪で表情を隠して陰気な雰囲気を漂わせてから言った。
「私が死んでから15年の月日が経ちました。
生前は光一さんと同じように新築したアパ-トの部屋に住んでいました。
ここに住んだ理由は一生懸命勉強して入った大学に通うために下宿したんです。
この大学に入るために青春の全てを犠牲にして猛勉強しました」

小さな手で鉛筆を動かしている幽霊の姿を思い浮べる。バカと書かれていた鉢巻きを頭にしている
彼女の健気な受験勉強に声援の一つとバナナの皮を持ってきて、
その場で滑って見せたりといろいろな悪戯もやりたくなるわけだが。
幽霊は感情が強くこもった声が周囲の空気を更に重くした。

「せっかく、ギリギリで受かった大学も勉強が難しくてついていくことがやっとでした。
毎日毎日、自習や勉強に貴重な時間を費やしたときに気付いたんです。
他の皆は大学を勉強している場所ではなくて、男遊びにやってきた雌だということに。
友達も勉学よりも医大や一流大学のボンボンばかりを狙う狩人でしたし。
そこで私は勉強のおかげで自分の初恋もまだだったことに気付きました。
これからは男を、彼氏を作って、失われた青春を取り戻してやるんです!!

宮野由姫(みやの ゆい)20才。運命を変える決心した日ですぅ」

宮野由姫……男に泣かされるフラグが見事に立ちやがった瞬間だな。

「ところが、私は情けない事故で死ぬことになりまして。
若い年頃の女の子が初恋もできずに死んでしまうということは幽霊になる理由としては充分すぎると思いませんか? 
それがこの世に未練を残すことになったんです。本当に可哀相だと光一さんも思ってくれますよね?」
「俺が言えることはたった一つだけだよ」
宮野由姫の悲しい過去に同情することはできないだろ。
どう受け止めるかは人それぞれ違うものだから。
俺は俺の真実を大声で告げるだけだ。

「実年齢35才!!?? いや、それよりも。驚くべきことは……
この鍛え抜かれた鋼鉄の肉体!!!!」

「鍛え抜いていませんし、普通の女の子の体ですよぉぉ!!」
幽霊・宮野由姫は頬を膨らませて、女の子に鋼鉄の肉体って嫌味ですかとジト目で睨まれていた。
小動物が少しムクれている姿は幽霊であっても可愛いもんだ。
と、俺は今まで話を聞いてとある事実に気付いた。

「未練を残して幽霊になったってことは……宮野由比さんが初恋するまでは成仏できないのか?」
「その通りです」
「それまでは俺の部屋で居座るつもりかよ」
「ううん。ずっと、光一さんの傍にいますから。よろしくお願いしますね」

こうして、俺と幽霊の奇妙な共同生活が始まった。
やれやれだぜ。

529 名前:トライデント ◆J7GMgIOEyA [sage] 投稿日:2007/11/29(木) 01:10:26 ID:rCB25aQZ
投下終了です。
一応、短編で終わらせる予定です。

ヤンデレスレは二度目の投稿になるので
よろしくお願いします。

530 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/29(木) 03:40:52 ID:lmJpuons
所謂ヤンデレコメディ的なノリですな。
こういう笑えるの大好物だwww

てか男のキャラに吹いたwwwニヤニヤしながら癒されましたww
GJ!!

531 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/29(木) 04:17:11 ID:8topzTfM
トライデントってあの荒らしのトライデントか?

532 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/29(木) 07:31:44 ID:fZEMAy9O
NG指定:8topzTfM

533 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/29(木) 07:33:49 ID:glm/58lu
>>529
GJ
黒の領域好きでした
続きを楽しみに待ってます

534 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/29(木) 12:43:12 ID:dKmP0TWA
>>529
GJ!!
こういうの大好きだ。
短編なのが残念だ。

535 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/29(木) 12:52:53 ID:vRFIwkkU
>>529
GJと言いたい所だけど、言葉の使い回しとか誤字が多いので、しっかり推敲してほしいです

536 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/29(木) 13:33:32 ID:8X5oLiXt
>>535
そんなに誤字が多かったけ? よくわからないけど

537 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/29(木) 17:18:58 ID:X3e5tVc7
一瞬「えっ!!桜荘はっ!?」
って思ったけど
ここはヤンデレスレだったな

538 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/29(木) 17:37:49 ID:g+HB/JQ1
>>529
GJGJ!!!!1

3年前に北海道の会社に就職したとき家賃3000円の部屋に幽霊が出たのを思い出した。

539 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/29(木) 18:05:14 ID:bzDg5k5i
トライデントさんは荒らしに好かれてるからな、もれなく荒らしが着いてくるんよね
しかし文法間違いや誤字が多いのは事実

540 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/29(木) 18:44:49 ID:FN75cyde
>>539
だったら、ちゃんと間違いを指摘してあげたら?
個人的にはネタが良ければ、それでいいんだが

541 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/29(木) 18:58:35 ID:74u0AYNO
例えばこことか。
>他の皆は大学を勉強している場所ではなくて、男遊びにやってきた雌だということに。

まああんだけ言われてんのに直らないってことは
この人の芸風なんじゃね?って俺は解釈してるけど。

542 名前: ◆5PfWpKIZI. [sage] 投稿日:2007/11/29(木) 19:04:18 ID:DLC4FQNb
トライデントさんGJです
誰がなんと言おうと俺は書き続けるあなたを尊敬するしあなたのファンです。


逃亡したと思われているであろう俺が投下します。リハビリ投下で書く希望をもらいました。
本当にすみませんでした。
初見の方もたくさんいらっしゃると思います。
本保管庫の方にまとめていただいているので興味が合ったら読んで下さい。
では投下します↓

543 名前:恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] 投稿日:2007/11/29(木) 19:09:03 ID:DLC4FQNb

シャラン

湯の中で鎖を揺らすと耳に心地良い音が鳴った。聖佑人はだいぶのぼせた頭で鎖を
鳴らして遊んでいた。そろそろ姫野亜弓にでも助けを求めようか、と考えながら
どうにも面倒で体が動かない。このままいたら立てなくなるな。頭の隅でそう呟く。

先ほど、姫野真弓は佑人に口づけた。
唇はすぐに離れて一瞬だけ2人の瞳が交錯する。

「あっいや……今のは……」

目を逸らして口ごもると次の瞬間に真弓は弾かれたように立ち上がり素早く
手錠を蛇口に付け替えると風呂場から逃げ出してしまった。

「ゆっ佑人が見つめるからいけないんだからね!!!!」

扉ごしにそう意味の分かるような分からないようなことを叫ばれて佑人は放置された。

そして今に至る。ぼーっと湯に浸かり続けて一時間、佑人はのぼせきっていた。


■■■■■■
■■■■■■


急にに鮮烈な空気が入ってきて顔をあげる。風呂場のドアが開いて亜弓が立っていた。

「のぼせちゃったかしら……ごめんなさいね、真弓を宥めるのに時間がかかってしまって」

言いながら入ってきてカチャリと手錠を外す。湯気で青白いほどの肌に黒髪が
張り付いていた。生き物のようにも見える黒髪。その下に見えるうなじから鎖骨に
かけて目を走らせると平素よりか幾分色づいている。血が通っているのだ。
この人も生きてるんだな。佑人は妙な実感を覚えた。

「ありがとうございます」
「いいのよ……部屋で真弓が待っているわ。行ってあげて」

そう言いながら亜弓は佑人の首輪の鎖を有無を言わさずに引いていた。


■■■■■■



544 名前:恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] 投稿日:2007/11/29(木) 19:12:05 ID:DLC4FQNb
■■■■■■


暗い部屋に入る。亜弓は音も立てずに真弓の首輪に鎖を繋ぐと出て行った。

「……真弓」

黙っているのも気まずいので話しかける。返答は、無い。一メートル程度の距離の所で
背中を向けてうずくまる真弓は酷く小さく見えた。こんな子に俺は繋がれてるのか。
酷くバカバカしい事実だったが、事実は事実だった。もうすぐ終わるであろうにしても
今現在繋がれていることに変わりはない。薬がまた回ってきたのか体が酷く重かった。

「真弓。寝ようか」

肩に手をかけると真弓の体がびくんと震えた。

「真弓?」
「……っ佑人は、佑人は私に興味ないの?」
「は?」

佑人には脈絡なく感じる問いだった。

「だから、佑人は、私と、その……その、えっちな事とかしたくないの?」

暗闇でも分かる。真弓の顔は赤かった。

「いや…」
「だって好きなんでしょ?好きだったらしたいものでしょ?」

一度言ってしまうと真弓は吹っ切れたのか一気に言葉を継ぐ。

「私は……佑人と、したいよ?体も佑人のものになりたい。佑人が、好きだから」

言い切ると真弓は一旦俯いて、それから驚きで硬直している佑人にキスをした。



545 名前:恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] 投稿日:2007/11/29(木) 19:16:33 ID:DLC4FQNb

始めは唇が触れるだけの。
その次は触れた後に舌でなぞって。
三度目に触れた時に真弓は佑人の中に舌を差し込んだ。
口腔の中に真弓が入って来るに至って佑人の鈍った頭にも警鐘が鳴りだした。
まずい。このままではまずい。また侵食されてしまう。だがそう思う間にも真弓の舌は
佑人を犯していた。絡みつき、隅々まで舐めていく。ゆっくりとした動きだが確実に
佑人の脳は快感を感じていた。いつの間にか腕が首に回されており体が密着している。
薄いパジャマを通して真弓の胸が、太ももが、腹が、佑人に密着していた。
彼女の鼓動――早鐘を打っている鼓動が伝わってくる。
その暖かさは、愛しささえ錯覚させて来る。しがみつくように、離さないように
腕や足に力が込められ、軽い圧迫感すら与えた。

軽い呼吸音。
息が続かなくなったのか真弓が顔を離した。小さく佑人、と囁いて首に回していた
腕をとく。そのまま佑人のパジャマのボタンを外し始めた。

「真弓っ何し」

止めようとすると唇を塞がれる。舌を吸われながら、佑人はそれでもまだ抵抗
しようとしていた。自由にならない体に加えて抵抗しようとする気さえ萎えていく。



546 名前:恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] 投稿日:2007/11/29(木) 19:19:57 ID:DLC4FQNb

いいじゃないか。殺される訳では無い。
だがそう思う一方でこれ以上進めば戻って来られない領域に足を踏み込むことに
なることも分かっていた。取り返しのつかない、帰って来られない領域へ。
あまり自分を明け渡してはいけない。分からないけど何かが危険だ。
これ以上自分を削られてはいけない。名前を読んでキスをして愛を告げて
もう自分は随分真弓に取り込まれていないか?
佑人の頭の中で鳴る警鐘を押し流すように真弓は行動を続けた。舌が這う。

佑人の上半身を脱がしたところで唇を離し、そのまま首筋を伝って行く。
首輪に沿ってキスをされ、一瞬痛みのような感覚が走る。



547 名前:恋人作り ◆5PfWpKIZI. [sage] 投稿日:2007/11/29(木) 19:24:42 ID:DLC4FQNb

「痕、つけちゃった」

軽く笑いながらいつの間にか彼女のパジャマのボタンも外されきっていた。
少し涙で潤んだ瞳が見上げて来る。

「佑人、脱がして?」
「俺は」
「女の子が必死で迫ってるのに……」
「そういう問題じゃなくて」

「佑人」

暗くて見えない筈なのに分かった。
真弓の瞳の色が変わった。
持ち上がって来た手が首輪に繋がる鎖にかかる。
じわじわと力がかかって首が締まって行く。
真弓の瞳には佑人が写っている。写っているがそれは真弓の佑人ではない。
真弓の佑人は優しくキスをして真弓を抱き締めて頭を撫でてくれる。
今真弓の瞳に写っているのはそうでは無い佑人だ。
そんな佑人は、真弓には必要ではない。

「……ま…ゆみ…」

意識が遠のく。殺されないんじゃ無かったのか。

死にたくない。

死にたくない。
まだ明日も生きたい。真綾に会いたい。……真綾。
彼女を思い出すのも随分久しぶりかもしれない。

かすみそうな意識の中で佑人は決めた。

俺は生きたい。

手を伸ばして少女の頬に触れ、そのまま下に下ろして羽織っているだけだった
パジャマを滑り落とす。
佑人は自分を明け渡すことに決めた。


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548 名前: ◆5PfWpKIZI. [sage] 投稿日:2007/11/29(木) 19:25:45 ID:DLC4FQNb
今回は以上で終わりです。

すいませんでしたorz
すみませんでしたorz

549 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2007/11/29(木) 19:28:53 ID:+9AjyI/l
>>548GJ

550 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/11/29(木) 19:35:51 ID:o/mwFYq7
>>548
誰だっけ?






嘘です。
うおおおーー! 素で忘れていたじゃないか!
初代スレの話題が出たり、カムバックが最近の流れなのか?
大歓迎だぜ!

最終更新:2009年01月13日 16:16