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201 名前:ヤンデレ臣下とヤ○チャ王[sage] 投稿日:2007/12/17(月) 21:49:12 ID:/z4YnT6a

「陛下、ご聖断を」
侍従長の東雲がさっきから僕を催促する。
会議に出席している連中の中で、紅一点しかも唯一20代の彼女だが
出席中のメンバーの中で一番、僕に対する視線がキツイ。
その怜悧な美貌もあいまってなおさらキツク感じる。
対する僕はそれに視線を合わせれない。
いい加減にしてくれと思う。
好き好んで皇家に生まれたわけでもないのに皆が僕に責任を押し付ける。
本当にうんざりだ。いい加減全てを放り出してコメリカにでも亡命しようか。
流石に戦争相手の国に亡命したら東雲も追いかけてはこれないだろう。

王紀3075年
70年前に始まった戦争は今では所々で戦闘を思い出したかのように始め
そしてまたいつの間にか終わることを繰り返しながら未だに終わりを迎えない。
御爺様が始めたはずの戦争なのに、御爺様とその側近は皆死んでしまった。
だが、それでも5年前父上が一部の反発を押し切ってコメリカと休戦条約を結び
一応武力衝突は終わりを告げることが出来た。
そしてその父上も崩御し今では僕がこの国の皇王になってしまった。


そもそもの始まりは、御爺様が亜細亜国家の開放とか言ってはじめた小さな戦争だ。
結果、亜細亜は開放されたけど植民地を持っていた国々は再植民地化を目指して本格的な戦争が始まった。
休戦条約のお陰で、いまでこそ小さな小競り合い程度は起きているがそれでも戦闘はおこなっていない。
その間に世界はそれぞれの国の利害の為大きく4つに分かれてしまった。
コメリカ自由連邦、人民解放者共同体、欧州連盟、そして僕の国が所属している亜細亜統合評議会。
この4者が未だに覇権を争っている。そして亜細亜統合評議会の議長は僕だったりする。
だけど、正直言って僕は覇権なんかまるっきり興味が無い。
さらにぶっちゃけて言えば、狭い部屋に閉じこもって好きなアニメを見ている時が一番幸せだったりする。
宮殿の物置をこっそり一人で改造した隠れ家だけが僕の世界だ。
その世界が安寧ならあとは知ったことではない。

202 名前:ヤンデレ臣下とヤ○チャ王[sage] 投稿日:2007/12/17(月) 21:50:07 ID:/z4YnT6a
だけど先月そんな小さな世界の安寧もあっという間に終わりを告げた。
東雲だ。
彼女はどうやったかは知らないが鍵をかけていた僕の隠れ家に侵入していた。
その日の公務を終えて溜まっていたアニメの鑑賞に勤しもうと部屋の戸を開けた瞬間の僕の驚きは
言葉に出来ないものがあった。
驚いて固まっている僕に対し、東雲はその手に秘蔵萌えDVDを持ち、酷く冷たい表情で
「陛下。陛下はこのような下賎の者が見るようなモノは見てはなりません。
この表紙に載っている破廉恥な二次元の汚物など御目に入れては穢れてしまいます。
この汚物の声などお聞きになっては御耳が駄目になってしまいます。
陛下は私だけを見て、私の言葉だけを聞いていればよろしいのです。」
と一気にまくし立てて握力だけでDVDを潰してしまった。
それから僕がコツコツ小遣いをためて買ったDVD・フィギア・漫画・情報誌全て捨てられてしまった。
その夜の床で密かに涙したのは今でも記憶に生々しい。

だけど、それからも僕は暇を見つけてはコツコツと新しい隠れ家作りに勤しんで
ようやく一昨日、隠れ家2号が完成した。まだソフトは無いがとりあえずハードは完成した。
そして次こそ東雲に見つからないようにしようと固く心に誓ったのだ。

そんな日々を送っていた僕だが、いきなり今日
東雲から「御前会議を開きたい」と言われ少々面食らった。
そもそも御前会議は政務、ことさら国体に関することで開かれる。
侍従長の東雲にはそもそも関係の無いことだ。
しかも父上が休戦条約を結んだ時を最後に開かれていない。
そんなことを考えているとその様子を見た彼女は
「国体に関する緊急事態です。陛下お願いいたします。」
と、どう見てもお願いしている感じには見えないが、とにかくお願いされてしまった。
彼女が僕にお願いなど天変地異の前触れか。とも思ったがそれほど急を要する自体なんだろうと
納得し政務官・軍務官・内閣閣僚、軍部それに加え特別に侍従長の東雲・集めた会議を開くことにした。
そして会議の冒頭、東雲はいきなり僕の前に座っている皆に対して
「軍の情報局からの情報だが、コメリカの情報部が陛下の誘拐を計画している。」
と爆弾を投下してきたのだ。
一気に会議はざわつき始めた。
それはそうだ。
いくら僕の側近とはいえ一介の侍従がこんな発言をすればそうなる。
だがあっけに取られている僕達を他所に東雲は言葉を続けた。
「ついては陛下の御身を害そうとしたコメリカにも、それ相応の対価を支払わせる必要がある。
コメリカに対し正式に休戦条約の終了ならびに宣戦布告することを発議する」
それだけ言うと東雲は場を見渡す。
軍の将軍連中はしたり顔をして黙り、内閣の面々は顔を真っ青にしてざわめいている。

その様子を見てなんとなく僕にも状況が分かってきた。
元々戦争をしたがっていた軍は内閣に休戦条約の破棄を迫ってたんだろう。
だけど内閣としては5年前に結んだばかりの条約を破棄したくない。
それで業を煮やした軍が直接僕に発言できる東雲を使って会議を開かせた。
多分そんなところだと思う。

僕としてはもちろん戦争は避けたい。
というか僕にそんな重い決断なんて、とてもじゃないが出来るはずもない。
そう僕はヘタレなんだ。ヤ○チャ並なんだ。ほっといてくれ。
僕は自分の小さな世界の安寧だけあれば十分なんだ。


203 名前:ヤンデレ臣下とヤ○チャ王[sage] 投稿日:2007/12/17(月) 21:51:23 ID:/z4YnT6a
act.1

昔、陛下は私にべったりだった。

父が先帝の侍従を務めていた関係で私は昔から宮中に参上することを許されていた。
だが幼い私にはそんな大人の決めた難しいことなどまったく分からず
ただ仲のいい年下の少し頼りない小さな男の子と遊ぶことが何より楽しかった。
だが、そんな関係もいつしか終わりを迎えた。当時小学生だった私はてっきりその子も
同じ学校に通うものとばかり思っていた。だがその子は選ばれた子だったのだ。
王太子、つまり現人神の子。
もちろん普通の小学校になど通うはずも無く、
私たちは離れ離れにされた。たまに父に連れられ宮中に行っても昔のように遊ぶことは中々出来ない。
あの子と離れ離れになることが我慢できず父にかなり我儘を言った記憶がある。
そんな時、父は決まって「殿下はお忙しいのだ。」とたしなめられた。
中学校に上がると流石に殿下がどういうお方か分かってきた。
我々とはまったく異なる世界に住まわれるお方。
その頃にははっきりと自分の持つ殿下にたいする気持ちが恋心だと気づいていたが
それはある種の諦観も併せ持ったものだった。
そうやって無為に3年間は過ぎ、ただただ惰性で通っていたようなものだ。
だが再び転機は訪れた。父が宮中に上がらないかと言ってきたのだ。
曰く「殿下の御傍用人に空きができた。花嫁修業のつもりで仕えてみないか?」と
その言葉を聞き、私は産まれて初めて天に感謝した。

やっと殿下の傍へ近づくことが出来る!

まず可能性は無いに等しいが0ではなくなった。そのことに狂喜乱舞した。
それからの私は必死で宮中のしきたり、儀典のしきたり、政務・軍務、さらには閨中術まで勉強した。
今まで自分の外観など気にしたことなど無かったが必死で化粧も覚えた。
そうして殿下の傍用人として仕え始めてしばらくしての頃。
延々と続いていた戦争も休戦条約を結ぶことになった。
私はただ戦争が終われば殿下と過ごす時間が増えるかもしれない、とその程度にしか考えていなかったが
殿下が帰国された時どこか様子がおかしかった。
日中公務にも身が入らない様子で夜は深夜まで何か考え事をされている。
何か向こうであったのかと思い同行した侍従に問いただすとコメリカ産メス豚が殿下に色目を使っていたらしい。
思わず、その侍従に掴み掛かりそうになるが何とか押さえ、
さらに詳しい話を聞いてみるが、それ以上のことは分からないと返事が返ってきた。
それを聞き今度は激情ではなく、妙にすっきりとした冷静な考えが浮かんだ。

このままでは殿下を取られてしまう。もっと殿下のそばに居ないと他のメス豚どもが近づいてきてしまう。
ならばもっと偉くなればいい。そうして殿下に近づくメス豚を排除する。
その為ならどんなことでもする。

その後は必死で勉強し大学を出た。父のコネを使い正式に宮内省の東宮侍従になる。
さらに殿下が帝位に付かれた時には侍従長となるよう念入りに裏工作をした。
あとは殿下が即位するだけ。
そんな時、帝がたまたま崩御した。さっさと帝位から降りてもらう為に毒まで用意したのに無駄になってしまった。
だがこれで殿下の御世だ。その傍には常に私が居る・・・
そんなことを即位の礼の時考えていたのは誰にも明かせない秘密だ。

204 名前:ヤンデレ臣下とヤ○チャ王[sage] 投稿日:2007/12/17(月) 21:51:58 ID:/z4YnT6a
殿下から陛下と呼び方が代わって暫くすると、再び陛下の様子がおかしいことに気づく。
またどこかのメス豚が色目を使ってきたのか、といぶかしむがどうやらその様子も無い。
とりあえず宮中の保安所の監視カメラで暫くご様子を見ることにした。
そこには一人こそこそと宮殿の片隅にある倉庫へと入る陛下が写っていた。
あんなところに何が・・・?もしやどこかのメス豚との逢引か?
一瞬そんな不安がよぎるが、まさかと思い直す。
宮内の女官連中は私が取り仕切っているといってもいい。そんなメス豚が現れたらすぐさま分かるはずだ。
では一体何故?そんなことを考えているうちに再び殿下が出てきた。またも周囲を窺いつつこそこそとしている。
とりあえず考えることを止め私は陛下が出てきた倉庫へとやってきた。
鍵を開け中に入ろうとするが開かない。
おかしいこの鍵で合っているはずだ。まさか陛下が鍵を変えられているのか?
私に隠しごとなんてありえない。私は陛下の全てを知っていなければならないのに!
奇妙な高揚感を体に感じると気づいた時にはドアを力任せに破っていた。

中に広がっていた世界は私の知らない世界だった。
最近TVでよく特集されている所謂オタクの部屋だ。
何故こんなものが、そもそも何故陛下がこの部屋から出てきたのか。
何もかも分からなかった。

とりあえずその辺にある箱を手に取るとそこには半裸の女が描かれている。
やたらとデフォルメされた目や異常なほど巨大な胸がやけに癇に障る。
なるほど。
陛下も年頃だ。もちろん性に興味をもたれてもおかしくはない。
いや、そもそも英雄色を好むとも言うからあたりまえだ。
なのに私ときたら未だに陛下に夜伽をして差し上げていなかった。
そうか。
だから陛下はこんな破廉恥なモノを見て御自分をお慰めになっていたのだ。
私が気が利かないばかりに陛下はこんなキタナイモノを使わなければならなかった。
そう考えると世界が真っ白になる。
それにしても、、、陛下も私を求めてくださればいつでもどんな時でもこの体を献上するのに。
いや体だけじゃないそもそも私の体も心も魂も全て陛下の所有物だ。
それともシャイな陛下のことだから、私から行ったほうが良いのか。
そうだそのほうが良いに決まっている。
そう決めると自然に私の口から笑いが零れてくる。
「あは・・アハハは・・ハハハアハハハハハハハハハはあハハハはははあははははああはあああああああああ」


205 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/17(月) 21:54:18 ID:/z4YnT6a
異常っす

ヤンデレおねぇちゃんとガチレンジャーパンツの続きが書けない。
ヤンデレは難しい。。。

206 名前:ヤンデレ臣下とヤ○チャ王[sage] 投稿日:2007/12/17(月) 21:55:58 ID:/z4YnT6a
以上だった・・・

スマソ俺が異常だわ。。。

207 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/17(月) 22:03:14 ID:NAB5GJgR
一番槍GJは俺が頂く
続きが楽しみだわ

208 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/17(月) 22:04:05 ID:oEF8SGXg
GJだから落ち着けよw
読みやすいし感情の流れも分かりやすいしで好み。
こういう、キツい感じの人が実は狂的な愛情を持ってるってのはいいもんだよな。
男側もいい感じにヘタレでヨス。今後どう変化していくのか楽しみだ。

あと、東雲って「しののめ」って読み方でいいんだよな?

209 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/17(月) 22:15:29 ID:/z4YnT6a
>>208
うぃむっしゅ

210 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/17(月) 23:35:24 ID:YA22ATQP
グッジョブお疲れ
続きに期待

211 名前:傷が消えぬ日まで[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 01:02:42 ID:guwR8E1H

深い闇の中に音もなく銀色の刃が走って、僕の右腕が薄く切り裂かれる。
滲む血に赤く染まった肌を見て、八重子は微笑を零した。
「瞬君の血、とってもきれい」
うっとりとした声だ。八重子は鼻歌を歌いながら、果物ナイフの切っ先を、また僕の肌に軽く押しつける。
痛みと共に、また新たな傷が刻まれた。滲み出す血を、八重子は瞬きもせずにじっと見つめている。
「これはわたしがつけた傷。わたしが瞬君につけた傷。どれだけときが経っても、決して消えないわ
たしの傷」
呪文のように呟きながら、八重子は僕の腕に傷を刻み続ける。
赤い血と絶え間ない痛みと、呪文のような八重子の声。
僕は耐えられなくなって、低く嗚咽を漏らしてしまった。八重子が弾かれたように顔を上げる。
「どうしたの、瞬君」
なんでもない、とくぐもった声で言っても、八重子は信用してくれない。
心配そうに僕の頬を撫で、それからふと、自分が持っている果物ナイフに目を落とす。
その瞬間、
「あ、ああ――!」
八重子は目を見開き、果物ナイフを取り落とした。銀色の刃が床に跳ねて、耳障りな音を立てる。
「ごめ、わた、わたし、なんてこと――!」
八重子はすっかり取り乱して、無数の傷が刻まれた僕の腕を手に取り、涙を流し始めた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、わたし、また瞬君にこんなこと。痛かったでしょ、ごめんなさい、
ごめんなさい!」
頬を伝う涙を指で拭ってやりながら、僕は「いいんだよ」と囁き、彼女の体を抱きしめる。
どんなに慰めても八重子は泣きやまず、やがて疲れたように眠ってしまった。僕は彼女の体をベッ
ドに運び、そっと毛布をかけてやる。
涙の痕が痛々しい八重子の寝顔は、苦しむように歪んでいた。
それをじっと見下ろしながら、僕はため息を吐く。
八重子と僕が付き合い始めてから、もう一年ほどになる。
最初からこんな風だったわけではない。快活で明るい彼女は、生来内気で何かと沈みがちな僕を、
いつでも楽しい気分にさせてくれた。
彼女がこんな風になったのは、半年ほど前のこと。
彼女自身が変わってしまったのではない、と思う。変わってしまったのは、周囲の環境だ。
彼女の父親が、ある種の病気にかかってしまったのだ。
ずっと昔に妻と離縁した八重子の父は、男手一つで大切に娘を育ててきた。八重子の方も父の愛情
を素直に受け取り、二人で支えあって生きてきたのだ。
そんな、深い愛情で結ばれていたはずの親子の絆は、病魔によってあっけなく壊されてしまった。
一言で言えば、心が壊れてしまう病気だ。まだまだ働き盛りと言ってもいい八重子の父親は、今は
病院のベッドの上で、一日中何もせずに口を開けたままぼんやり窓の外ばかり眺めている。愛娘の八
重子がどんなに必死に呼びかけても、全く反応を示さない。
「お父さん、忘れちゃった。わたしのこと忘れちゃった」
当時、八重子は狂乱状態で泣き喚いた。もともと情が豊かな女性だったから、最愛の父親に忘れら
れたという衝撃は、彼女の心を粉々に打ち砕くのに十分だったらしい。
一日をほとんど嘆き悲しむことに費やす彼女を、僕は必死に慰め続けた。だが、八重子の父親が娘
のことを忘れてしまったという現実を変えることは出来なかった。

212 名前:傷が消えぬ日まで[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 01:03:45 ID:guwR8E1H

そうして一ヶ月ほどの時間が過ぎたころ、彼女の奇行は始まったのだ。
「ねえ瞬君、俊君は、わたしのこと忘れちゃったりしないよねえ?」
うつろな微笑を浮かべながら八重子が聞いてきたのに、僕は「当たり前だろ」と答えることしか出
来なかった。
八重子は一瞬嬉しそうに微笑んだあと、すぐに顔を曇らせた。
「でも、お父さんも、きっと昔はそう言ってくれたと思う。それなのに、わたしのこと忘れちゃった」
八重子の瞳から涙が溢れ、ぽろぽろと零れ落ちる。
「だから、ね」
不意に、彼女の唇が笑みを形作った。
「わたしのこと、忘れないようにしてあげる。俊君の体に、わたしのこと刻み付けてあげる。そうし
たら、わたしのこと忘れないでいてくれるでしょう?」
一体何をするのだろう、と不思議に思っていると、八重子は黙って果物ナイフを取り出し、僕の腕
に冷たく光る刃を押し付けた。
「何するんだ、八重子!?」
僕は驚き、彼女の手を振り解いた。「動かないで!」と彼女は悲痛な叫びを上げた。
「これは儀式なの。俊君にわたしの存在を刻み付けるための儀式なの。こうしないと、俊君はわたし
のこと忘れてしまう。わたし、瞬君にも忘れられちゃったら、もう生きていけない!」
暗い部屋に響き渡るその叫びが、僕の胸を深く抉った。
僕が黙って差し出した腕を手に取り、八重子は嬉しそうに果物ナイフを握り締めた。
「ありがとう、瞬君。今から、わたしのこと、俊君の体に刻み付けてあげるからね……」
そして、彼女は「これはわたしがつけた傷。わたしが瞬君につけた傷」と呟きながら、僕の体に傷
を刻み始めたのだ。
この儀式は傷が癒えるたびに幾度も繰り返され、いつも唐突に終わった。
僕が泣いたり八重子が急に正気づいたり、切欠は様々だったが、いつだって終わり方自体は一緒だ。
「ごめん、ごめんね瞬君、わたし、なんてこと――!」
自分のしたことに初めて気付いたように取り乱す八重子を、僕が必死で慰める。しかし彼女は泣き
やまず、やがて疲れ果てたように眠ってしまう――その繰り返し。
眠る八重子の顔を見つめながら、僕はときどき考える。彼女は狂っているのだろうか、と。
そのたび、すぐに否定する。
(違う、彼女は狂ってなんかいない。お父さんのことで、少し疲れているだけなんだ)
だから、彼女を気違い扱いして病院に押し込もうだなんて、一度たりとも考えたことはない。
状況に終わりが見えないことは事実だ。彼女はこんな状態でも優しさを失っていないらしく、僕の
皮膚は本当に薄く切り裂かれるだけ。一生消えない傷跡なんていつまで経っても刻まれないし、それ
故すぐに消えて、元通りになってしまう。
僕の腕に傷がついている間は、八重子は落ち着いていた。だが、傷が消えるとすぐに不安定になり、
また僕の腕を取って儀式をやり直すのだ。
そんなことを、もうずっと繰り返している。終わりなんて、見えない。
「やだ、瞬君」
不意に、八重子の閉じられた目蓋から涙が零れ落ちた。
「忘れないで。わたしのこと、忘れないで、お願い」
僕は眠りながら苦しむ八重子の手を、ぎゅっと握り締める。その腕には、八重子が刻んだ無数の薄
い傷跡がある。おそらく、一週間も経つころにはすっかり消えてしまう切り傷だ。
(僕は大丈夫だよ、八重子)
声には出さずに、語りかける。
(もっと深い傷を刻んでくれたって、大丈夫だ。それで君が安心できるって言うなら、いくらでも痛
みを受け入れる)
言えば逆に八重子を躊躇わせ、苦しめることになるだろう。
だから僕は、この思いを押し込めたまま、ただ時を待つのだ。
彼女が本当に僕の腕を深く抉り、傷と共に自分の存在をも刻み付けられたと確信できる、そのときまで。
窓の向こうに目を向ける。闇は深く暗く、夜明けはまだ遠いようだった。


213 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 01:05:24 ID:guwR8E1H
昨日の>>186ッス。指摘受けて、脳味噌の部分は確かに違ったなあ、と
反省しつつ、また別の話思いついたんで書いてみました。

214 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 06:40:04 ID:WvYrEz1M
>>205
テラGJ
東雲のキャラも陛下との関係もメチャクチャ俺の好み。
続きに激しく期待

>>213
難しいなあ……
病んだキッカケが主人公じゃなく父親への愛って所が、評価分かれそうというか。
個人的にはただのメンヘラに見えてしまう

215 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/18(火) 06:48:11 ID:L0TLbg72
投下します。第六回目です。
長いです。15レス使用します。

-----

*****

俺と妹と着物姿の葉月さんが、ほとんどの生徒が帰ってしまった放課後、蛍光灯の明かりのない廊下で、
向かうところ敵なしのはずの覆面ヒーローを引きずっている女忍者と出会った。
つい今し方、俺が遭遇した状況を端的に言い表すとそうなる。
昨日こんなことがあったんだ、と他人に言っても決して信じてもらえそうにない光景である。
しかし、今日は学校内で文化祭が行われている。中にはコスプレ喫茶を営むクラスも存在する。
よって、覆面ヒーローがいようと女忍者がいようと、俺は驚かない。
だが、コスプレ喫茶の存在を知らない、俺以外の人間はそうでもないようだ。
俺と行動を共にしていた葉月さんと妹は、何度も目をしばたたかせている。
葉月さんは一日中、自分のクラスのウェイトレスをやっていた。
妹は一般公開の終わった時刻になってこの学校へやってきた。
弟のクラスの出し物がコスプレ喫茶だということを知らなくても仕方ない。

揃って覆面を被った二人のうち、一人は弟だ。
あの仮面も、黒いボディスーツも、薄く汚れたプロテクターも、俺が手を加えて作ったものだ。
弟の細かい注文を聞いて作った特注品である。着ている本人よりも詳しく知っている。
弟に平和を守るヒーローになって欲しいという願いを込めて作ったわけではないのだが、弟よ、ヒーローが
気絶して、あまつさえ連れ去られたらさすがにまずいだろう。
第一話で主人公が悪の組織のアジトに連れ去られる展開はある。
が、変身できるようになってからは悪の首領を成敗する目的で乗り込むのが王道だ。
強くなってからさらわれちゃ格好がつかないぞ。
お前が理想とする英雄たちはそんなへたれた存在じゃないはずだ。しっかりしやがれ。

俺たちがやってきたことに気づいたくノ一は、引きずる動作をやめてこちらを向いた。
校舎の窓ガラス四枚分の距離を開けて、俺たちは対峙した。
「……ねえ」
葉月さんが小声で話しかけてきた。
「あれ、何? なんで忍者が居るの? しかも……なんか引きずってるし」
まったく、その通りだ。運ぶのならもっと効率のいい手段もあるだろうに。
それに、まだ生徒がいるかもしれないこの時間に動かなくてもいいじゃないか。
もしかしてこの忍者――要領が悪いのか? それとも頭が回らないのか?
どちらにせよ、そのドジ振りはありがたい。おかげで弟誘拐の憂き目を回避できた。


216 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/18(火) 06:49:10 ID:L0TLbg72
「お兄さん」
今度は妹が声を出す番だった。妹の声は静かで冷たい。
しかしそれは妹が俺と話す際のデフォルトであり、この状況に影響されたわけではない。
「もしかしてあの倒れた仮面の方、お兄ちゃんじゃないの?」
――え? なんでわかるんだ?
愛の力でわかったとか、間違っても口にするなよ。
妹の気持ちはくどさを感じるほどわかっている。こんな時まで聞きたくない。
「昨日の夜、話をしているときにはしゃいでたから、もしかしたらと思って。
やっぱりこういうことだったんだ。でも……こんなことだったら内緒にしなくてもいいのに」
なんだ。妹は弟がヒーローのコスプレをすることをとっくに知っていたのか。
妹は弟の変化に敏感だ。前日にはしゃいでいれば、何かあると勘づくのは当然のことだ。
弟から文化祭の出し物でコスプレ喫茶を開くと聞いていたのだろう。隠すことでもない。
戦うヒーロー大好きの弟が、仮装パーティの衣装を選んだらどんな格好を選ぶか。
我が家に住んでいる人間なら誰でもわかる。
日曜の朝、特撮番組を見る弟がリビングのテレビを独占するのが慣例だから。
今回はそのわかりやすい習性が裏目にでた。

連れ去られそうになっているのが弟だとは悟られたくなかった。
妹がどんな反応をするかなんて、たやすく予想できる。予想が百パーセント的中することも保証できる。
また修羅場が発生する。前回は対葉月さんだったが、今回の相手はくノ一だ。
女忍者の実力が未知数だから、妹の勝率はわからない。
妹の戦闘能力はどれほどか知らないが、以前葉月さんに怒りの勢いで特攻した点、そしてその後為す術もなく
投げ飛ばされ着地し咳き込んだ点から考えて、対人戦術を身につけているわけではないとわかる。
戦わずに済んでくれればなによりなんだが……そうはならないだろう。断言できる。
場に妹がいなければ弟を取り返して終わりだ。女忍者はその後で追い払えばいい。
しかし妹がいると、問答無用で殴りかかるだろう。
妹には悪いが、やっかいな奴がもう一人いるような気さえする。
夕方になってから、妹が学校に来なければよかったのに。

さて、なぜ俺たち三人がこの場にいるのかを説明するとなると、今日の四時頃まで時を遡らなくてはならない。

*****

今日の四時、つまり文化祭一日目の一般公開の時間が終了する頃。
二年D組の教室内に、寝ぼけ眼で周囲の状況を確認している男が居た。俺のことだ。
ふて寝していたのだ。昨日の夜から今朝までずっと眠っていなかったから。
また、誰かの下した命令のせいで半拘束状態に置かれていたからでもある。
普段ならば、後日白い目で見られることを覚悟した後に、甲高い奇声を上げて脱走するところである。
絶対に従いたくない類の命令だったのだ。被緊縛嗜好は持ち合わせていない。精神的にも肉体的にも。
あえて従ったのは、しかめっ面をつくりながらもなんとか許容できる程度の理由があったからだ。


217 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/18(火) 06:50:07 ID:L0TLbg72
さらに時間を遡り、午前中。純文学喫茶開店前。

控え室の隅っこに設えられた俺専用の席に座っていると、高橋から話しかけられた。
「不満そうな顔だね、色男」
「お前は相変わらず地味な顔つきをしているな」
「ありがとう。僕は自分が地味な容姿をしていることにも、地味な性格をしていることにも誇りを持っているから、
君が抱く僕の印象がそうであってとても嬉しいよ」
「……少しは堪える素振りを見せろってんだ」
「ところで、君はあのプリントを見て、それに書かれていた内容に腹を立てているようだが、それはよくない。
あの命令は、クラスメイト全員の総意と言ってもいいものだよ」
「お前らは、俺に窓際族でいてほしいのか……?」
「そういう意味じゃない。君がこの教室にいてくれないと、喫茶店の利益が上がらないからだ」
「俺が居たところで客がくるわけでもないだろ」
「違うんだな、これが。確かに、君がウェイターをしたところで売れ行きは伸びないだろう。
しかし、君が居てくれないと売り上げが落ちるのは結果として起こりうることなんだ」
「……なんだそりゃ?」
「要約すると、君が教室にいれば葉月さんがウェイトレスをやり続けてくれるから、
君には教室に居てもらわなければいけない、ということだ。
もし君が居なくなれば、葉月さんは君を捜しにどこかへ行ってしまうだろう。それは非常によろしくない」
「そんなわけないだろ? 給仕役は交代制のはずだし、勝手にどこかに行ったりは……」
「葉月さんが何を目的にしてウェイトレスをやっていると思っているんだね、君は」
「……さあ? ウェイトレスをやると取り分が増えるから、とかか?」
「この鈍感め。彼女は君に見て欲し………………ふ、言わないでおこう。言うほどのことじゃない。
それに、僕が言うべきことでもない」
「気持ち悪いところで止めるなよ。俺に、なんだってんだ?」
「自分で考えるんだな。ここまで言ってもわからないんだったら、今日から君と言葉を交わすとき、
僕は自分の台詞の後ろに(鈍)をつける。そうなりたくなかったら、脳の血の巡りを良くすることだ」

高橋に「おはよう、今日も元気そうだな(鈍)」とか、
「悪い、忙しくて宿題をやってくるのを忘れてしまった(鈍)。写させてくれ(鈍)」とか言われようと
かまわなかったのだが、あそこまで馬鹿にされて放っておくのも癪である。黙って沈思することにした。
机の上で腕を枕にして伏せる。体勢を維持したまま、窓から差し込む陽光に微睡んでいると、答えが浮かんだ。
葉月さんは、自分の着物姿をクラスの誰よりも早く俺に見て欲しいと言っていた。
男冥利に尽きる殺し文句を、俺だけに見て欲しかった、という意味で勝手に解釈するとしよう。
すると、俺が見ていなければ葉月さんが着物姿でいる理由は消失してしまう。
結果、葉月さんはウェイトレスをしなくなる。またひとつ、日本から美が失われる。
導かれる結末として、我がクラスの総力を結集した喫茶店の売り上げは落ち、打ち上げ会場のテーブルの
上に並べられるピッツァがスナック菓子の偽物ピッツァに変わってしまう。
高橋の言葉をそのまま借りよう。それは非常によろしくない。

葉月さんが袴姿の給仕役を請け負った理由を悟ったことにより、友人から括弧綴じしてまで鈍感さを
強調されることはなくなったわけだが、それこそ蛇足というべき余計な効果である。
一番大事なのは、俺が今日明日ともに教室に立て籠もらなければいけない理由が正当なものであると気づいたこと、
そしてクラスメイトから軟禁状態に置かれているのはやむなくのことである、と知れたことだ。
そりゃそうだ。いくらなんでも謂れなくあんな命令をクラスメイトが下すはずがない。
理不尽ともとれる命令は二年D組全体のためを思ってのことだったのだ。
すまなかった、皆。
皆はあそこまで陰湿なやり口で俺を追い詰めたりしないもんな。――俺、信じているよ、うん。


218 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/18(火) 06:51:39 ID:L0TLbg72
納得したところで、目をつぶり、意識のベクトルを体の外から内へ変更する。
首の後ろから背中にかけて人肌の温度に保たれたタオルを乗せられているような陽光の中、ああもし自分の魂を
今のままに生物種を変えられるなら猫になりたい、と荒唐無稽なことを考えているうちに、眠ってしまったらしい。
らしい、という持って回った言い方をしたのは、いつの間に睡眠状態に移行したのかわからなかったから。
あと、もう一つ。それが睡眠ではなく、昏睡だったのかもしれなかったからである。

目を覚ましたとき、カーテンで仕切られた簡易控え室の中にクラスメイトの姿はなかった。
眠りの余韻を残した瞳で床を見る。俺の影がなかった。リノリウムの床が灰色に染まっていた。
振り向いて、窓の向こうの空を見上げる。
すでに太陽は沈んでいた。青くて暗いパノラマには置いてきぼりにされたように雲が点々としていた。
デジタル式で表示された携帯電話の時刻表示を確認する。
午前中を最初のコーナーでパスし、昼食時間をあっさり周回遅れにし、午後の時間のすべてをラストの直線で
置き去りにして、トップでゴールしていたことに気づいた。
優勝カップの携帯電話には、PM4:40の文字が表示されている。
どうりでクラスメイトの姿がないわけだ。
明日のことは明日すればいいや、程度にしか喫茶店の成功について考えていないのだろう。
担任は臨時従業員の意識変革を図る必要がある。
もっとも、明後日になれば教え子に戻るわけだからあえて説き伏せる必要性は感じられない。

既に営業が終了している以上、教室にいても仕方がない。教室を後にする。
二年の教室をC、B、Aの順に通り過ぎる。校舎の設計上、先には上下階への昇降を可能にする階段が存在している。
三階へ行く用事は差し当たってないため、階段を降りていく。
踊り場にて階段を折り返し、さらに下へ向かおうとしたときである。
「きゃっ!」
という可愛らしい悲鳴を、俺とは逆に階段を昇ってきた女性が言った。
彼女は俺と顔を合わせることなく、頭を下げた。
「ご、ごめんなさいっ。ちょっと急いでいたので、つい!」
「いえ、別にいいですよ」
「本当すみません、それじゃ!」
言い残し、俺の左側を過ぎようとしたその瞬間だった。
日が沈み、薄暗くなった階段の空気の中、俺と彼女の視線がぶつかった。
俺はなんとなく、本当に理由もなく彼女の顔を確認しようとしていた。
彼女はきっと、俺以上に理由なんかなかったんだろうけど、俺の顔に目を向けていた。
偶然により引き起こされた視線の邂逅。

そして、彼女が眉を顰める。
なんという失礼な反応であろうか。こっちだって目を合わせたくなんかなかったんだぞ。
そう思っても、俺は表情を変えない。
彼女から――既知の相手である彼女から今のような顔で見つめられることには慣れているのだ。
むしろ、温いくらい。目があったらオプションで舌打ちをされるくらいが普段の対応だ。
彼女があらぬ方向へ視線を逸らし、口を開く。口調に嫌悪感が滲んでいるのは(以下略)。
「お兄さん、まだ学校に残ってたんだ」
「ああ、ちょっと色々あってな」
「そう」


219 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/18(火) 06:52:51 ID:L0TLbg72
短いやりとりの後、沈黙が場を支配する。
まあ、これもいつも通り。彼女――二つ歳の離れた妹と一分以上会話を継続させたことなど記憶に無い。
悲しくはある。だが、高橋みたいに饒舌になられてもむしろ俺が困ってしまうので、今の方がやりやすい。
妹の冷たい態度の中に暖かみを探すのが俺側の対応である。
妹がデレを見せたのは葉月さんが家にやってきた日に起こった、朝食を作ってもらった事件(誤用ではない)が最後。
以来、妹の態度は改まることもなく、弟に勉強を教えているときは憎悪の視線を向けてくるし、風呂上がりの俺の
格好を見てはさりげなさを演じず顔を背けるようになった。
……なんだろうな。朝食事件があまりにも暖かすぎたから、妹の態度がさらに冷え込んだように感じられる。
だけど、妹が俺と弟を勘違いして優しさを見せてくれないかなとか、つい期待してしまう。
いくらムチで叩かれようと、アメがもらえそうな気がするから離れられない。
こうやって世の男は調教されていくのだろうか。
俺がそうならないとも限らない。注意しておこう。

「お兄さん、お兄ちゃんを見なかった?」
兄弟以外が聞けば誤解を招くこと必至の問いかけだった。
『お兄さん』は俺。『お兄ちゃん』は弟。明らかに片方だけに親しみが込められている。
まだ『お兄さん』と呼ばれているからいい。いつか『兄さん』になったら、俺はどうしたらいいのだ。
――という内心の葛藤はこの場ではさて置いて、妹に返事する。
「見てないな。というか、朝見てから弟の顔は見てない。弟を迎えに来たのか?」
妹が頷く。
「本当は明るいうちに喫茶店に様子を見に行きたかったんだけど、お兄ちゃんが土曜日でも学校はさぼったら
ダメだって言うから、こんな時間になったの」
なるほどね。弟の言うことは素直に聞くからな、こいつ。
「一般公開が終わったのが四時頃だから、もう着替え終わって、明日の準備でもしてるんじゃないか」
「お兄ちゃんの教室に行って来たけど、お兄ちゃんはいなかった」
「同じクラスの人に聞いてみたか?」
「聞いてみたけど、知らない、としか。だから自分の足で探しているの」
「……ん? そりゃおかしいな」
まじめで、誰に対しても優しい弟がクラスメイトに黙って帰るとは思えない。
それに、「知らない」? 
知らないなんてことないだろ。本人の与り知らないところでハーレムが形成されるほど人気者の弟が、
女子からの視線をかいくぐってどこかに行けるなんて考えられない。
こそこそ隠れてなら不可能ではないだろう。でも、隠れる必要があるほどの用事が弟にあったのか?
「お兄さんはお兄ちゃんがどこに行ったか……知らないよね」
「ああ。いちいち弟の行動を把握するほど俺も暇じゃないからな」
「あっ、そう」
使えねえなコイツ、というニュアンスを含んだ返事である。
だが、この程度でへこたれるほど俺だって弱くない。ちと反撃してやろう。


220 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/18(火) 06:54:41 ID:L0TLbg72
「お前こそ、まだ弟を見つけてないんだろ?」
「……ええ」
「いかんな、それじゃ。もしかしたら弟のやつ、今頃女の子と……」
「はぁ? …………なんですって?」
妹が距離を一歩詰めた。見上げる格好だが、上目遣いではない。
「お兄ちゃんに近寄る女がいるっていうの?」
「いや、いるというか……いないというか……」
「はっきりしなさいよ。いるの? いないの? ……どっち?」
可愛らしさをアピールしない女の子の目って、どうして男を不安な気持ちにさせるんだろう。
疑問の答えを出さぬまま、妹の迫力に押された臆病な長兄は正直に答える。
「いる。たくさん」
「……何人?」
「正確にはわからん。だが十名は下らない。安心しろ。あの子たちは弟の特定の相手じゃないから」
「そんなことわかってるのよ!」
いや、吼えなくても、いいんじゃない? お兄さん結構怖がってるんだよ?

「許せない、許せない許せない! どこの雌豚がお兄ちゃんに近寄ってるのよ!」
「あー……近寄ってはいないんだ。女の子たちはお互い牽制しあって、同盟みたいなのを結んでいて」
「同盟……一緒になってお兄ちゃんを犯すつもり? いいえ、そうに違いないわ!」
「すまん、違った。同盟じゃなくって、えっと、見守っているだけだった」
「かっ、はっ…………お兄ちゃんと同じ学校にいるだけじゃ足りず、ずっと見つめているですってぇ!」
そんな強引な解釈の仕方、アリか?
今となっては妹に何を言ってもネガティブな意味合いでしか受け取ってくれない気がする。
嫉妬深い性格をしているとは知っていたが、これほど性質が悪いものとは思わなかった。
何も言えん。言ったら言った分だけ妹の怒りが根強く浸透していってしまう。
「お兄ちゃんもお兄ちゃんよ! 他の女に隙を見せるなんて、どういうつもりなの!?
私がお兄ちゃんのそばにいないからって、浮気していいってわけじゃないのに!」
今気づいたが、俺の台詞ってさりげなく弟を追い詰めてなかったか?
もちろん追い詰めるつもりなんかさらさら無かったけど。
フォロー……してももう遅いな。さらに怒りを深刻化させる危険もある。
すまん、弟よ。藪をつついて蛇を出してしまった。
俺はこれ以上刺激しないよう逃げる。お前はなんとかして大蛇の怒りを鎮めてくれ。

妹から離れるべく、右足を引く。回れ右をするためには右足を引かねばならないから。
だが、今の妹にとってはわずかな動きさえ気に障ってしまうようだ。
マイシスターが一歩踏み出す。距離を詰める。続けてブラザーである俺に対して詰問する。
「どこに行くつもりなの?」
目的地なんかない。お前の前から姿を眩ましたかっただけだ。
「いやなに、ちょっと忘れ物をしたから、教室に。ああ、弟のことなら心配するな。
放っといたら家に帰ってくる。説教するんなら帰ってからでもいいだろ」
「いいえ。もうお兄ちゃんは信じられないわ。今日は意地でも探し出して連れ帰る。
もしかしたらこれから女の家に行くかもしれない」
「そうか。まあ、そういうことなら止めやしない。あんまり遅くならないうちに帰るんだぞ」
兄貴っぽい台詞を言い残し、回れ右の動作を続行する。
体が後ろを向いたところで、妹に動作の完了していない左腕を捕まれて引き戻された。
「……どうか、したのか?」
「協力して。お兄ちゃんを捜すの」
妹に頼まれごとをされるなんていつ以来だろう。ひょっとしたら初めてのことかも知れない。
本来なら諸手を挙げて喜んでいるところだが、弟を捜すことに協力するのとは別の問題だ。


221 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/18(火) 06:56:23 ID:L0TLbg72
「悪いが、協力することはできない」
「どうして?」
「さっきも言っただろ。忘れ物を取りに教室に行くんだよ。」
「――嘘ね。あの女のところに行くんでしょう、お兄さん」
ん? 誰のことを言っているんだ? あの女?
妹が知っている俺の知り合いなんていたか? 今のところ――ひとり、該当しているな。
忘れるはずもない。なにせ、妹は一回彼女に豪快に投げられたのだから。
「葉月さんのことか? 前にうちに来た」
「そんな名前だったんだ。印象の薄い名字だから覚えるのも一苦労ね」
葉月って結構いい名字だと思うけどな。響きがいい。
うちの家族総員の名前にくっついている名字みたいに没個性的ではないぞ。

「あの女に会うのは後回しにして。先にお兄ちゃんを捜すの、手伝って」
「お前、やけに葉月さんには辛辣な態度をとるな」
俺に対しても辛辣だが。けれど、葉月さんに対してはとりつく島もない。
「当然。あの女、私を思いっきり放り投げたんだから。あれ、下手したら死んでたわよ」
「それについては否定しないが。だからって……」
「私、あの女嫌い」
にべもない返事だった。俺に対してさえ、嫌いと言ったことはないのに。
妹は俺を嫌っているだろう。少なくとも、好きよりは嫌いの方に気持ちが偏っているはず。
嫌われるような真似をした覚えはない。
だが、俺は昔の出来事の記憶をなくしているらしい。弟の態度から察するとそういうことになる。
過去の出来事が原因で妹は俺を嫌っているのか、それとも俺の性格容姿その他諸々が気に入らないのか。
俺にはわからない。聞くこともできない。何を言われるか怖くて、聞くことができないんだ。

妹は自分の感情を口から吐き出す。まるで対象への嫌悪を再確認するかのように。
「嫌い。私がどれだけ、お兄ちゃんへの想いに苦しんでいるかも知らず、あんなことを言うなんて。大っ嫌い」
あんなこと。「兄妹は絶対に結ばれない」という葉月さんの台詞か。
「お兄ちゃんのこと諦めようと思って、けど、顔を見ていると気持ちが膨らんで、その繰り返し。
あの女もだけど、きっとお兄さんにもわからない。上手くいかないってわかっているのに、それでも挑まなきゃ
ならない人間の気持ちなんかわからないでしょ。わかってくれなくていいよ。私、優しさなんて要らないから。
お兄ちゃんだけが優しくしてくれたらいい。昔から、私を守ってくれたのはお兄ちゃんだけだったもの」
また昔話か? なんで弟妹揃ってもやもやさせるんだ。
全四巻の漫画のうち三巻だけが抜け落ちてるみたいな気分だ。
俺は、欠けた道を突き進んで、今の場所に辿りついたのか? 本当に通っていないのか?
いいや。何かの事件があったはずだ。俺ら三人兄妹全員に関わる――暴力的な事件が。

「でも――お兄さん」
妹が俺の顔を見上げた。何事かを思い出したような様子だ。
「あの女から、お兄さんは私を守ってくれたよね?」
「あ、ああ……」
「どうしてあんなことしたの? どうして、何度投げられても立ち上がって、かばってくれたの?」
理由なんかなかった。弟と妹を庇わないと、葉月さんを止めないと、という気持ちだけだった。
「長男が弟妹を庇ったらおかしいか? 理由なんかねえよ」
「だって、おかしい。お兄さんが私を庇うなんて、そんなの……」
妹はそこで言葉を切った。俯いて、黙考している。俺は続きの言葉を待つ。
やがて、顔を上げた。続きの言葉を口にする。
「お兄さんは昔、私を………………いじめていたのに」


222 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/18(火) 06:58:31 ID:L0TLbg72
妹の小さな声が、氷の固まりになって胃を満たした。
いじめていた。俺が、妹を傷つけていた。
「妹をいじめないで」。葉月さんに向けて弟が言った台詞だ。
思い出すだけで恐怖が沸いてくる。いじめていたのなら、どうして俺が戦く?
黒いもやが脳に入り込む。明かりのない校舎の空間全体が俺の敵になっている。
逃げられない。どこに逃げても、俺は捉えられてしまう。
それに、さっきから、胃が苦しい。破裂しそう。膨らんでいる。内側から貫かれている。
「記憶はおぼろげだからわからないけど、でもたぶんあれは――あ、れ? お兄さん?」
足が自分のものではないみたいに無様に揺れる。膝が折れる。足首が曲がる。
目の前には、暗い階段の列がずらりと続いていた。俺を階下へと導いている。
抵抗する術をなくした俺は、そのまま暗い空間へと身を投げた。

「――――だめ!」
がくり、と首がうなだれた。そこで気づく。
俺は踊り場から一階へ向けてダイビングを敢行していた。
落ちていたら怪我は免れなかっただろう。骨折ぐらいしてもおかしくない段数だ。
倒れる俺をその場に留めていたのは、葉月さんであった。
振り袖と袴のコンビネーションが、いっそう魅力を引き立てている。
――髪の毛を結んでるリボン、解きたいなあ。
「ねえ! 大丈夫? どうして顔色が悪いのに笑っていられるの?」
ああ、俺は笑っていたのか。きっと葉月さんのおかげだろう。
葉月さんは綺麗で、清楚で、まっすぐだ。なのに、俺なんかを好きでいてくれる。
ちゃんと応えないといけない。

「大丈夫だよ。ちょっと目眩がしただけだからさ」
「そう、なんだ。よかった、話し声を聞いて駆け出さなかったら間に合ってなかったよ」
「ごめん。あと、ありがと。助けてくれて」
「ううん、いいの。当たり前のことだもの。でも、なんで……、ん?」
葉月さんの視線が俺の顔から、俺の背後へと進路変更。即座に無表情になる。
「妹さん?」
「……どうも」
妹はぞんざいな返事をする。葉月さんは失礼な態度を気にした様子はなかった。
だが、妹の顔を見続けているうちに怒りの表情を浮かべた。なぜ。
「あなた、お兄さんに何を言ったの?」
「別に。普段通りの会話よ。家族同士の会話なんだから――部外者は引っ込んでて」
失礼な態度なんて段階じゃない。あからさまに敵意を放っている。挑発している。
「ぶっ、部外者ですって?! 私は、彼の!」
「……何?」
「か、彼の…………クラスメイトよ。まだ」
「ふうん。まだ、彼女じゃないんだ。人の家で大胆なことはできるくせに、お兄さんには弱いのね」
「なっ……こ、このこ、この小娘…………」
「お兄さん、小娘って言われちゃった。どうしよう?」
どうしようじゃねえだろ。自分で種を蒔いておいて人を巻き込むな。
妹の態度にデレ成分を見つけようと思ってはいたさ。だが、俺はデレの演技が見たいわけじゃないんだ。
ホッチキスの針が切れていて困っているとき、黙って針を取り替えてくれるようなさりげないのがいいんだ。
いや、そりゃまあ、バレバレな演技も満更ではないけどね。


223 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/18(火) 06:59:49 ID:L0TLbg72
妹の台詞を反芻する。頼られるのも悪くないな、うむ。
今の気分を噛みしめていると、二時の方向にいる葉月さんの方面からうなり声が聞こえた。
葉月さんが、なんと――頬を膨らまして俺を見つめていた。なんだ、このデレ合戦。
「どうしてそんな優しい顔してるのよぅ……」
葉月さんがくしゃくしゃに顔を歪ませる。携帯電話のカメラ機能ってこういうときすぐ使えたら便利だよな。
プリントアウトして額に飾って目覚まし時計のそばに置いておきたい。毎日頑張れること、必至。
――さて、不埒な思考はここらで止めておくとしようか。

「ごめんごめん。いいことがあったから、ついね」
「……ふんだ。やっぱり妹さんがいいのね。だからいつまで経っても、してくれないんだ」
「それは……また別の話だよ」
妹に対して甘いのは認めよう。だけど、葉月さんに告白できないのは、別の理由があるからだ。
自分の気持ちに自信がないから告白できない、なんてのは告白じゃないもんな。
葉月さんが言っているのは、恋愛感情を伝える目的でされる告白のことだ。
「謝ってばかりだけど、ごめん。もうちょっとだけ、待ってて」
「…………わかった。でも、ちゃんと白黒はっきりさせてよね」
返事と、心に誓いを立てる目的を兼ねて、首肯する。
ふと葉月さんと目が合ったので、見つめ合う。しばらくして、妹の声が脇から割り込んできた。
「ふん……とっとと付き合えばいいのに。バカみたい」

放課後に着物姿でいる理由を葉月さんに問いただしたら、要領を得ない答えが返ってきた。
葉月さんは体育館に設置してあるシャワールームで汗を流してきたという。
それはいい。秋とはいえ動き回れば汗もかく。
理解しがたかったのは、なぜ着物を着直したのかという点だ。
今日は喫茶店の営業は終了した。ウェイトレスもお休みの時間である。
問い詰めているうちに、とうとうしどろもどろになってしまったので、追求をやめる。
俺に見せるために着直した、とかだったらとても嬉しい。もはや真相を知ることはできないが。

別の話題として、弟が行方不明になっているという話をしたら、気になることを言われた。
「さっき、って言っても三十分前だけど。変な格好の人がいたよ。
ちらっとしか見なかったんだけど、二人連れ。一人は頭にかぶり物してて。あ、かぶってるのは二人ともだった。
えーっとね……一人は、アニメに出てきそうな格好だった。もう一人は僧侶か忍者みたいだった。それがどうかしたの?」
確定した。葉月さんが目にしたのは間違いなく弟だ。
喫茶店が終了してから特撮ヒーロー気分を味わおうとでもしたのだろう。
自分一人では浮いているから、友人をもう一人連れて。

一年の教室は一階にある。二年の全クラスが並んでいるのは二階。
二階から校舎の外にある体育館へ向かう際、一年の教室前は通らない。
つまり、弟はあの格好で校舎の外に出たということになる。
仮面というのは恐ろしい。普段大胆なことができそうにない人さえはっちゃけさせてしまう。
弟は人気者だが、派手なことをして目立とうとするタイプではない。
フラストレーションが溜まっていたんだろうな。作ってやって良かった、コスプレ衣装。
葉月さんの目撃情報から時間が経っているが、校舎内に弟がいる可能性は低い。
立ち話していた踊り場から一階へ下り、一路体育館へ向かう。
妹と話し込んでいる時間は結構長かったらしい。時刻は五時二十分になっていた。
暗くなっても見えないことはないが、全身ほぼ黒の衣装を纏った弟は発見しにくい。
校舎へ引き返し、一階の全教室を見回し、二階へと向かう。
階段を上りきったときに廊下でばったり遭遇したのが、気絶して哀愁漂う姿になった即席ヒーローの弟と、
弟の脇の下に腕を回しずりずりと引きずっていく女忍者だったのである。

時間軸はここで巻き戻る。ここからは、如何にして事態を収拾すべきかが肝要である。


224 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/18(火) 07:01:04 ID:L0TLbg72
*****

校舎に染みこんだ夕方の冷たい空気の中、妹が表情を暗くして、喉から声を絞り出す。
「あいつ、あの黒ずくめ……許さない。よくも、お兄ちゃんを……」
「え、あれって弟くん? 仮面被ってるからわかんなかったよ」
無理もない。弟のクラスで出し物の準備をしていなかったら俺だってわからなかった。
しかし、こんなときに不謹慎かもしれないが、遠目に見ると弟の着ているボディスーツとマスク、良い出来だ。
若干暗闇補正がかかって、黒が映えて見える。空間に同化することなく存在を主張している。
動きを犠牲にした設計により、ボディスーツは弟の体型をぴったり包んでいる。
マスクは竹籤を編んで、その上から紙粘土で覆い、プラスチックを流し込んだうえで黒の塗装を施した。
プロテクターとブーツは自宅にあった玩具に少々手を加えて加工したから、それっぽく見えている。
正直、今日一日しか見られないのが惜しい。来年も弟のクラスがコスプレ喫茶を開いてくれると嬉しい。

女忍者は佇んだまま、一向に動く気配を見せない。
忍装束は職業柄、闇に紛れて行動することに適して作られている。
それに準じ、目前のくノ一の衣装も濃紺に染まっている。胴体は見えるが、手先足先は確認しづらい。
何を待っているのだ、この女忍者――いや、この子、というべきだな。俺は彼女の正体を知っているから。

気絶している方の覆面が弟だと知った妹が、その場から動いた。
「お兄ちゃん!」
叫び、見知らぬ人間の手から兄を救うべく、標的のもとへ向けて駆け出す。
しかし、妹の手が弟を掴むことはなかった。葉月さんが妹の腕を握ってその場に留めていた。
「離しなさいよ!」
「それはできないわ。みすみす見殺しにするわけにはいかない」
「あんたは関係ないでしょ! ほっといて!」
やはり妹は冷静さを欠いてしまっている。
以前葉月さんを相手に同じように突っ込み、投げ捨てられた結果から何も学んでいないらしい。
「関係なくなんか、ないわ。あなたはいずれ私の義妹になる人なんだから」
「……はぁぁっ?! あんたもしかして、まだお兄ちゃんのこと!」
「お兄ちゃんの方じゃないわ。私が言っているのは、あなたのお兄さんの方よ。
というわけで、ここは私に任せておきなさい。荒事なら、我が家では日常茶飯事だから、慣れっこよ」
「え、でも……あんた」
「気にする必要なんかないわ。戦う女がいたって、別にかまわないでしょう?」
ね? と言いながら葉月さんが俺を見た。
――いかん、惚れてしまいそうだ。格好良すぎ。
もしも俺が女だったとしても、今の葉月さんには一目惚れしたに違いない。

葉月さんが一歩、二歩、三歩、と前進した。
俺も、邪魔にならず、いざというとき手助けできそうな位置へ移動する。葉月さんの左斜め後ろだ。
左手を腰に当て、葉月さんが口を開く。女忍者は動かない。
「何から言ったらいいのかしらね……。とりあえず、こんばんは。私は葉月。あなた、名前は?」
視線を葉月さんからくノ一へ向ける。やはり動かない。
「答えるわけがないか。なら、態度で示してくれる? そこにいる、さっきまで引きずっていた男の子。
彼は私たちにとって大事な人なのよ。後ろにいる二人は彼の兄妹。私にとっては弟分なの。
あなたにもここまでする理由があるんだろうけど、この場は一旦引いてくれないかしら?」
ようやく、影同然の存在が動きを見せた。
スタンスを広げる。上体が床と平行になる。両手がだらりとぶらさがる。
ゆらゆらと体を揺らし始める。引く気配など一切感じ取れない。
「……そう。思ったとおりの反応ね。強引な手を使ってでも、彼が欲しいのね。
なら、教えてあげましょうか。意地を通したいなら、実力よりも――強固な意志を持たねばならないということを」


225 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/18(火) 07:03:20 ID:L0TLbg72
骨の鳴る軽い音がした。葉月さんの拳が握りしめられ、開かれる。
左足を半歩前へ踏み出す。左手が腿の上で、右手が胸の前で止まる。
武道の構えは剣道と空手と柔道ぐらいしか見たことがないけど、いずれとも似ていない構えだ。
これが葉月さんの身につけた武道の構え。落ち着いていて、構えっぽく見えない。
対面するくノ一が揺れる。両手と胴体を不規則に揺らしつつも、葉月さんから目を逸らさない。
止まる葉月さん。揺れるくノ一。見守る俺と妹。気絶したままの弟。

誰もが足を止まらせる中、最初に動いたのは葉月さんだった。
力の溜めもなく蹴る音もなく、前進する。一足飛びで瞬時に相手との距離を詰める。あと一メートル。
葉月さんは次の一歩を踏み出――すことなく、窓際へ向けて跳んだ。
かろうじて見えた。葉月さんが踏み出したその瞬間、『何か』をくノ一が投げた。腕が素早く一閃していた。
『何か』は二人の距離を結び、廊下の向こう側へ消えた。
軽い音が聞こえた。まるで、ボールペンと教室の床が衝突した音のようだった。
何を投げた? ナイフ――にしては音が軽すぎた。金属音なんかしていない。
「あなた、飛び道具なんか使うのね。いえ……あれは飛び道具とは言えない。本来、武器として使うものでもない」
え、葉月さんには見えていたのか? 見えたから避けられたんだろうけど、この暗さ、あの刹那で確認したのか?
でたらめだ。葉月さんも、弟の同級生の――あの子も。

葉月さんが再度構えをとる。またもや前進。呼応して、くノ一が『何か』を投げる。
だが、さっきの動きで距離を詰めていた葉月さんには通用しない。
やすやすとステップで回避し、接近戦に持ち込む。
くノ一の頭が揺れる。胴に打ち込まれる。足が吹き飛ぶ。……何をやっているかわからない。
葉月さんの動きが速すぎて見えないのだ。猛ラッシュだった、としか言い表せない。
ともあれ、連続で打たれたことにより女忍者は後ろへ下がり、床に尻をついた。勝負ありだ。
「葉月さん、もうこれで終わり……ん?」
構えを解かないまま、葉月さんはくノ一を見下ろしていた。警戒しているのか? 
「葉月さん?」
「静かにして。今、こいつは――」
くノ一が後ろに跳んだせいで、言葉が遮られた。
着地の音。続けて襲ってくるのは――殺意混じりの視線だった。

「だめ、逃げてっ!」
声がスイッチになってくれた。脳が危険を感知する。
もっとも速い動作として、足の力をまるごと抜いた。尻と床が激突する。
背後から破砕音。振りむくと、後ろにあったA組の窓ガラスが割れているのが目に入った。
床にはガラスの残骸と、ボールペンが一本、転がっていた。
ということは、さっき葉月さんを襲ったものも、俺に向けて飛来したものも、ボールペンだったのか?
――いや、甘く見たら駄目だ。
ボールペンの先で床を打ち付けても、ペン先は潰れない。
比較的重いボールペンを全力で投げれば、今やったように窓ガラスだって壊せる。
人間の目に向けて飛んできて、失明せずに済むなんて保証できるか?
ペンを投擲したのは、当然、女忍者だった。俺の方を向き、右腕を振り切っている。
このくノ一――この女の子、俺が失明するかもしれないとわかっていて、こんなことをしたのか。
弟を想っている女の子の中に、ここまで危険な人間が混じっていたなんて。
妹とこの子。現時点ではこの子の方がずっと危ないじゃないか!


226 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/18(火) 07:05:21 ID:L0TLbg72
どうする。俺にはこの子の狂気に立ち向かう術がない。一体どうすればいい?
「あ………………」
己の無力さに歯がみしたとき、つぶやき声を耳にした。
こんな掠れた声は、俺でも妹でも葉月さんでも持っていないはず。
でも、弟はまだ床に倒れたままだ。じゃあ、今のは誰の声だ?
「ああ、ぁああああああああああああ、おぁああああああああああっ!」
雄叫びが木霊した。肌が粟立つ。今の声、聞いたことがある。この声は――葉月さんだ。

「お前っ! お前っ! お前っ! お前っ! お前っ! お前っ! お前っ! おまえはあぁぁっ!」
鈍い音が聞こえ、間髪入れず黒い影がA組のドアに激突した。
衝撃で、割れた窓に残っていたガラスの破片が落下した。
くノ一が床に倒れる。激しく咳き込み、酸素を求めている。
葉月さんの腕が黒い影に向けて伸びた。頭を掴み、床に叩きつける。がつん、がづん、ごづん。
「よくも! こんな、こんな真似をっ! 壊してやる砕いてやる潰してやる、ねじ切ってやるっ!」
黒い固まりが空を舞う。いつぞや俺も味わった空中回転木馬だ。
だが俺のときと比べたら――慈悲なんか欠片も感じられない。
両手で首を掴み、対象を窓や壁や天井にぶつけながら大きく回転する。
何回、何十回と回転してから壁に放り投げ、叩きつける。
一度止まってもなお収まらない。このままだと、相手の命を奪うまで止まらないかも知れない。
「だめだ……止まってくれ、葉月さん!」
回転する嵐の中心へ向けて突っ込む。
目前を黒い塊が通過する。通り過ぎてから、もう一度挑む。
とにかく早く止めなければいけなかった。葉月さんを着地点にするつもりで飛びかかる。
背中から抱きつき、回転の勢いを殺すためシューズでブレーキをかける。
回転が収まっても、葉月さんは女忍者の首を離さなかった。
両手の指が強く食い込んでいる。これは――窒息させるつもりだ!
「駄目だ! やめてくれ! 俺なら大丈夫だから!」
「こんな奴がいるから! 私はずっと待たなきゃいけない! びくびくしなきゃいけない!
なんでここまでおびえなきゃいけないのよ! ただ、願いを叶えたいだけなのにっ!」
「おい、見てないで手伝え! 妹!」
呆然としていた妹を呼んで、くノ一の首を自由にする。
自由になった途端、くノ一はあれほど振り回されたダメージを感じさせることなく、立ち去ってしまった。
一度も振り向かず、どうして弟をさらおうとしたのかも弁解しないままに。

くノ一が立ち去ってからも、まだ葉月さんの慟哭は続いていた。
「いやだ、やだ、嫌だ! 消えないで! なんでもするから、ずっと守ってあげるから!
わがままなことはもう言わない! 家に籠もってずっと待っててなんて馬鹿なこと口にしない!
消えないで……もう、やだよお……う、ぅあ、うぁぁあああああああああああぁん……」
葉月さんが一体何をここまで恐れているのか、俺にはわからなかった。
俺が傷つけられそうになったことが、葉月さんのスイッチを入れてしまったのは間違いない。
消えないで。葉月さんの切実な願い。誰かに消えて欲しくないと望んでいる。
その誰かは――俺だったりするのだろうか。それとも、俺が知らない他の誰かなんだろうか。
俺には知らないことが多すぎる。忘れていることも多すぎる。
でも、今は全てを後回しにする。
今は、葉月さんの涙を胸で受け止めていればいい。

粉々に破壊された窓から吹き込んでくる風は、一足早い冬の匂いを一年ぶりに俺の肌に思い出させてくれた。


227 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/18(火) 07:08:02 ID:L0TLbg72
*****

文化祭二日目の日曜日、アタシは昨日と同じように学校に登校した。
昨晩受けた傷は、奇跡的に打撲とかすり傷のみだった。顔に傷はないから、皆に心配されることはない。
あれだけ振り回されたのに軽傷で済んだのは、彼の先輩が割り込んでくれたからだろう。
あと三回、いや二回床に叩きつけられていたら、今頃アタシは病院のベッドの上にいるはずだ。
計何回、床とコンバンハしただろう? ……数えるのも嫌になる。
あれだけやられてこの程度で済んだ私も頑丈だけど。
あの女――先輩は葉月さん、とか言っていたっけ。クラスの皆も噂している、評判の女性だ。
先輩の彼女なのかな? 先輩には悪いけど、容姿は釣り合っていない。でも性格は凶暴だから、トントンかも。

先輩を狙ったのは、葉月さんの動揺を誘うためだった。
先輩を怪我させて、一瞬の隙を逃さずに行動不能にする。
もう一人の女の子は軽く脅しておけば傷つけずに済んだはず。
でも、誤算があった。葉月さんはあまりにも強すぎた。
いきなり突っ込んでこられて、次の瞬間には体当たりでドアまではじき飛ばされていた。
頭を床に打ち付けられて、その後で首を大根でも引き抜くみたいに捕まれて、ブン回された。
葉月さんのスイッチは、どうやら先輩みたい。
先輩を傷つけるのは止めた方が賢明だね。

筋肉痛で痛む足を引きずって階段を上り、屋上の扉を開ける。
早朝からアタシの靴箱に手紙を入れて呼び出した人物は――だいたい予想通りの人物だった。
「や。おはよう。体の方は大丈夫?」
「おはようございます、先輩。アタシの体はいつだってどんな状況でも準備オーケーですよ」
先輩がどんな意味で体調を気にかけてきたのかは知ってる。でもあえてとぼけた振りをする。
「何か用事でもあるんですか? 先輩」
そしてアタシも、呼び出された理由をわかっているのに気づいていない振りをする。
「あ、もしかして先輩……アタシのこと」
「うん。俺にそういうつもりはないし、今日呼び出した用件も全然違うから」
「これから自分の立場を利用して、強引にしようだなんて……」
「悪いけど俺は他に好きな人が……いるから。君に何もするつもりはないよ。今日は君に」
「なるほど、つまり遊びの関係を結ぼうっていうんですね? うーん……いいですよ。
先輩は彼のお兄さんですから、遊んであげます」
「今日は君に、だ、な……」
「うふふ。この間みたいに、保健室でふたりきりになって、熱い言葉をぶつけあいましょうか?
ア・タ・シは……体の方でも、いいですよ?」
「……き、昨日のことを言おうと思って、だな……」
あははっ。照れてる照れてる。もう少し遊んであげよう。

先輩の体の正面に立つ。身長差があるから、アタシは自然に見上げる格好をとることになる。
男の人は上目遣いが好きだっていうのは、反応を見ていればわかるんですよ。
「せっかちですね、先輩は。ここ、屋上ですよ? でも、誰も見ていないから好都合ですね」
「ま、待ってくれ! 俺の話を聞いてくれ!」
「もう遅いですよ。アタシの右手も左手も、先輩が欲しい先輩が欲しいって言って、聞かないんですから。
ねえ、せんぱぁい……とっても早くイカせてくれる右手と、たっぷり楽しませてくれる左手、どっちが好きですか?」
「そうだな、できれば左、いや最初は右も……じゃないって! だから、俺は!」
「あはっ。じゃあ、両手でしてあげますよ。動かないでくださいね。動いたら――――怪我じゃ済まないですよ」


228 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/18(火) 07:10:05 ID:L0TLbg72
両の手首をひねって制服の袖から得物を取り出す。
右手を先輩のこめかみに、少し遅れて左手を首の付け根に当てる。
この動き、距離を詰めてさえいれば早ければ秒以下の速さで実行できる。
もっとも、あんまり役に立ったことがないんだけど。
「……やっぱり、君だったか」
両手に持ったペン先を先輩の皮膚に軽く当てる。
心配そうな顔をしなくても。当ててるだけじゃ皮膚は破けませんよ、先輩?
「はい。いつから気づいてました?」
「あの忍装束だよ。あれを着ているのは君だけだ。君と弟のクラスの衣装づくりを手伝った俺にはわかるんだよ。
木之内……名前はすみこ、だっけ?」
「違います。ちょうこです。木之内澄子、それがアタシのフルネームです」
初対面の人間は九十九パーセント間違うのよね。ちなみに一パーセントの例外は彼。

「木之内さん、そろそろ手をどけてくれない? 痛くないけどどうしてもむずがゆくなるんだよ」
「澄子ちゃん」
「え?」
「澄子ちゃんって呼んでくれたら解放してあげます」
「……どうしても言わなきゃだめ?」
「はい。言わないとアタシのペンが先輩の顔中を駆け回って面白落書きをしちゃいます。
安心してください。額には肉じゃなくてHって書いてあげますから」
「わかったよ。その手をどけてくれないかな、澄子ちゃん?」
「はい、よろしい」
役に立たない特技も脅しには使えるね。
今度、彼にもやってみよう。彼には澄子ちゃんって呼ばせているから、次は呼び捨てにしてもらおうかな。

先輩から離れて、ボールペンを袖口に戻す。
先輩は大仰な動きで飛び退いた。これで、アタシと先輩の距離は一メートル以上空いた。
アタシは半径五メートル以内なら十中八九ペンを命中させられるから、離れても無意味ですよ。
「それで、先輩。アタシを屋上に呼び出したからには、何か理由があるんじゃないですか?」
「まあね。単刀直入に言うよ」
「俺が作ったメイド服を着て、毎朝行ってらっしゃいと言ってくれ?」
「違う! 俺の理想のプロポーズは、君は俺の部屋に勝手に入らない、けど俺だけは君の心の部屋に勝手に入れさせてくれ、
……って、何を言わせるんだ!」
「うわあ……先輩、とっても寒いですよ。その台詞」
「わかってる! 適当に言っただけだよ!」
先輩が咳払いする。まじめな表情で口を開く。


229 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/18(火) 07:13:12 ID:L0TLbg72
「弟のことだ。木之――澄子ちゃんが弟に恋してることに関しては何も言わない。むしろ俺は推奨する」
「はい」
「だけど、昨日みたいに薬で無理矢理眠らせて連れ去ったりするのは、やめてくれ」
「無理ですよ」
「普通に告白してくれればいいんだ。そうすれば弟だってきっと――」

先輩は言葉を止めた。止めざるを得なかっただろう。 
アタシの投げた二本のボールペンが、左右の頸動脈を掠めていったから。
「先輩は知らないから、言えるんですよ。弟さんの心がとっくにある女に捕らわれているということに、気づいていましたか?」
「弟の……好きな女の子?」
「はい。アタシは弟さんの傍でずっと見ていたから知っています。どうしようもないほど、強く心を惹かれていますよ。
アタシが弟さんを想うぐらい――に強いかは知りませんけど」
「そうだったのか……」
本気で意外そうな反応だった。
兄弟であまりそういう話はしていないのだろうか。
「先輩だったら、どうします。自分の好きな女性が、自分以外の男を好きになっていたら」
「それは……俺の場合は……」
「今の先輩にはわかりませんよ。あそこまで強く想ってくれる女性がいたら、不安になることなんか無いでしょう?」
「そうでもないよ。こう見えて、わけのわからない理由で悩まされているんだ」
「ふうん……ま、いいですけど。アタシの場合は、絶対に諦めませんよ。
弟さんがいたから、アタシは今のアタシになれた。助けてくれたんですよ。とっても寒い、一人きりの世界から。
アタシは弟さん以外の男に幸せにしてほしくない、っていうか、絶対にできませんね。こっちから拒否しますし。
だからですね、先輩」

そこまで言って後ろを向く。屋上の出入り口まで歩いてから、振り返る。
他人に向けて初めて、決意を告げる。
退路を完全に断って、自分を追い詰めなければ、彼を手に入れることはできない。

「アタシは彼の全てを、根こそぎ奪ってみせます」

----- 

投下終了です。次回は文化祭二日目です。

230 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 07:19:37 ID:VMVxc6n5
朝からGJであります。
女性陣が強くて男どもが霞むぜww

231 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 07:23:07 ID:WvYrEz1M
>>229
GJ!
葉月かわいいよ葉月。
そしてあんな態度とられても妹想いの兄カッコヨス

232 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 08:15:48 ID:i7SAf7jT
兄の過去に謎深まる

それより兄は微妙にシスコン入ってるなw

233 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 12:25:51 ID:B95C69eM
真の傍観者は高橋じゃないかw

234 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 15:10:41 ID:hnH+JehT
グッジョブ
弟の好きな人は誰だろね

235 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 15:19:57 ID:/2A4+1OU
実はあの夢オチになっちゃったシチュが一番好きだったりする
耐えるヤンデレってのもいい

236 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 16:41:41 ID:UaWf9GoQ
真の傍観者は高橋でも、ひょっとしたら兄でもないかもしれないんだぜ。今は傍観してないあの人かもしれない。

237 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 18:29:43 ID:B95C69eM
兄のピンチに颯爽と登場する高橋を妄想してしまった…

238 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 19:32:17 ID:s8lqcnyL
葉月も謎のトラウマ持ってるみたいだな。
その内容いかんによっては、兄に対する恋愛感情も本物ではなく、かつて失ったモノへの代替品とかだったら…
兄が可哀想すぎるな。

239 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 20:43:08 ID:Zbf4BE+q
お兄さん、傍観者だからな
って言うか、本来そうあるべきなんだよな、タイトルから考えると

240 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 21:28:46 ID:7sqkkkHV
>>229
GJ!
兄が何と言おうと妹を応援する

>>239
誰の兄かまでは書いてないじゃないか

241 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 21:35:19 ID:dJJjpd3p
(´;ω;`)お兄ちゃんがかわいそうですって住人がいうから方針が変わったと記憶している


242 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 21:45:28 ID:YPu4wtuc
まぁ夢オチの話も住人のレスを再現された話だったしね

ここだけって話じゃないけど住人のレスで展開を変える職人さんって割と結構多いよ

243 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 23:43:00 ID:B95C69eM
後半は鬱展開の予感…
っていうかヤンデレなんだからそうかorz

244 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 23:54:00 ID:WvYrEz1M
てか最初の埋めネタの時は鬱どころか兄に死亡フラグ立ってたような。

当時は埋めネタだからかあまり注目されてなかったなあ……

245 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/19(水) 00:20:37 ID:pyN+pgWG
そんな鬱々だったのか…
新参だから知らんかった…

246 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/19(水) 00:53:14 ID:BUMjxNih
>>229
GJ

ていうか
まぁ非常にどうでもいいんだが
ヤンデレおねぇちゃんとガチレンジャーパンツの続きって需要ある?

247 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/19(水) 00:56:42 ID:c9PA0ANK
>>244
夢オチ、しかも弟とのからみが唯一のエロパートという不思議な事実w

248 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/12/19(水) 02:00:10 ID:lUt+bHho
お話中ですがSS投下します、例によって変化球ですが色々頑張ってみたのでよろしければ是非ご一読ください。
一応昭和特撮ネタ注意です。

炸裂超人アルティメットマン 第一話 見よ!炸裂の巨大変身

登場巨獣 超ゴム巨獣 マノーン

「ああ、寒い寒い・・・ったく、この季節はやってられないなあ本当に」
僕、東条 光一はそういって今の今まで寝ていたうすっぺらいせんべい布団を折りたたむと顔を洗い
三畳一間の部屋の隅に押し込められたちゃぶ台を引っ張り出して食事の用意を始めた。
冬のこの季節、暖房もない中で朝早起きするのはとても辛い事だと思う、しかしこうしなければいけ
ないのも事実だ、などと冷蔵庫から取り出した納豆と、炊飯器から取り出した温かいご飯を食べながら思う。
モルタル張りの三畳一間、狭くてぼろい上にアスベストも使っているようなアパートの中で僕が唯一安らげる
瞬間は食事時だけだった、だってまた今日もあの人たちがここに来るのだ…ほら、さんにい、いち…。
「後五分で食事を終わらせてください、それからすぐに現場に出発です!」 
ばあん、と鍵がついているようでついている意味のないドアを開けて、今日もガスマスクを装着した男だか
女だかわからない彼ら…対超常現象特務機関…通称JCMの隊員が僕の元に仕事を持って押しかけてくるからだ。
「はいはい、了解しました。それではまた七分後に…」 
「今日もよろしくお願いします、それから窓の落書きの方ですが、今しがた何とかなりましたので」
「それはどうもありがとうございました…それではまた」
もう一度ばたん、と大きな音を立ててドアを閉め、隊員は去っていった…僕は急いでご飯を書き込んで食べると
歯を磨き、お茶を急いで飲んで、アパート近くの貸しガレージに向かった。その際に一度アパートの窓を確認する。
「巨獣に暴力を振るう宇宙人はこの星から出て行け」
そんな風にかかれた赤い文字は綺麗に消えていた、夜のうちに隊員さんが消してくれたのだろう、ありがたいことだ。
でもどうせまた放っておけば同じように落書きは書かれる事になる、酷い日なら窓いっぱいに張り紙をされたり、石を
窓に投げつけられることもあるだろう。命がけで守ってあげた人々にそんな事をされるのは悲しい事だった、でもそんな
行為が日常的に行われている事がもっと悲しかった。
宇宙の銀河のはるかかなたにあるアルティメット星、そこから送り込まれてきた父は裏次元より現れる地球の侵略生物
通称 巨獣と戦い…僕が中学生のときにその大元である裏次元総帥を倒して、たった一人、苦しみながら死んでいった。
そして後釜である僕はその後すぐに巨獣の残党を狩るべく、二代目あるティメットマンに任命され…こうして日夜人々を
守るために、巨大ヒーローアルティメットマンとして戦っていた。 
でも、その生活はあまりにも寂しいものだった



249 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/12/19(水) 02:02:09 ID:lUt+bHho
炸裂超人アルティメットマン 第一話 見よ!炸裂の巨大変身

そんなことを考え始めても仕方ない、そう思い直していそいで貸しガレージに向かう、シャッターの
開けられたガレージ内部では僕の愛車…マイティワン号のエンジンが先ほどのガスマスクの隊員さんに
よって掛けられていた、僕は急いで運転席に乗り込む。
「それではさっそくですが今日の任務を…今回の巨獣の発生場所は吊下市東部の山林で…」
「はい、わかりました、それじゃあ…テイク!オフ!マイティーワン!!」
ゴオオオオ!!凄まじい音と共にエンジン部が火を噴く、それと同時にマイティワン号は空中めがけて
飛び出し、内部に搭載された自動ナビゲーションシステムで一直線に巨獣の発生した場所まで飛んでいく…
見た目は古臭い白黒のダッジだが、空を平然と飛んだりするあたりなかなか侮れない、父から譲られた宇宙製の強力な僕の相棒だ。
「後二十秒で現場に到着します、後は任せてください」
「はい、言われなくても解っていますよ…アルティメットマン」
隊員さんとはそれだけ会話をすると、僕はマイティイワン号のドアを開き、タイミングを計って空中からに地面めがけて一気に
飛び降りた。その目下には巨大な黒い烏賊に人間の足が生えたような生物…別名、巨獣が森林をなぎ倒しつつ、今か今かと僕の登場を待っていた。
「チェーンジ!!アルティメーットオーン!!」
僕は空中でポーズを決めながら変身の言葉を唱える、アルティメット星人特有の音声認識パスを認識した僕の体は一気に巨大化し。40メートル
の巨体、炸裂超人アルティメットマンへと変化した。
「二ョー!!」
「アーッ!!」
僕は巨獣と正対してファイティングポーズを決めた、じりじりと間合いを詰める僕に対して巨獣はすばやく手の部分に当たる触手を伸ばす、鉄鞭の
ごとく迫るそれを僕は振り払うと一気に間合いをつめ、腰部分にタックルをかました。凄まじい音と共にもんどりうつ二人、しかし僕はすぐさま立ち
上がると巨獣の頭をヘッドロックして強力な拳骨で殴りつける、二ョー!!という絶叫を上げて巨獣は触手で僕の腕を叩くが、攻撃を繰り返すほど
その抵抗は弱まっていく、巨獣の頭部から血が噴出し、力がだいぶ落ちてきたころあいを見計らって僕は一気にヘッドロックをはずして腹部にストレート
パンチを決めると、両手をクロスさせて、必殺技であるアルティメットレーザーを放った。
「アルティメーット!クロスファイアー!!!」
「二ョー!!」
アルティメットレーザーを真正面から食らった巨獣は、ボーン!!と凄まじい爆音を上げて吹き飛んだ、すかさず僕は両手から威力の低いアルティメット
ファイヤーを噴出してその肉片を焼き尽くす、こうして後片付けも終わり、僕の今日の仕事はひとまず終了となった。
「お疲れ様でした、それではまた」
人間の姿に戻ってしばらくたたずんでいると、マイティイワン号にのった隊員さんがやってきた、僕は彼を本部に送り届けるとガレージに戻り、そして
また呼び出しがあるまでひとまず休憩を取る事になる。
一日に最低一回は異次元生物の巨獣と命のやり取りをする、それが僕、アルティメットマンの主な仕事だった。


250 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/12/19(水) 02:03:53 ID:lUt+bHho
炸裂超人アルティメットマン 第一話 見よ!炸裂の巨大変身

マイティワン号をガレージに置くと、僕はその足で商店街へ夕食の買出しに走った。本当は
少ない給金を節約するためにスーパーで買い物をしたかったのだが、人が多いところに行けば畏敬
と恐怖の念をこめた人々の視線にさらされるのはどう考えても明らかだった。
「はいよ、今日も巨獣をやっつけてくれたお礼だよ!」
「すいませんね、いつもいつも…」
それにスーパーに比べれば少し値段は張るが、商店街の八百屋のおじさん達は僕を恐れずに接して
くれるし、たまにおまけをつけてくれたりもする、数少ない優しい人たちだった。 
「それじゃあな、また来いよ!!ヒーロー!!」
そんな言葉をかけてもらい、商店街を後にして僕はアパートへと向かった、自分自身でこういうの
もなんだが、人にヒーローと呼ばれる事はとても嬉しい事だった。
化け物、怪物…子供のころからそう呼ばれていじめられる事は当たり前だった、母さんもそれが嫌
で僕が小さい頃に家を出て行方知れずになった。
暴力を振るう異星人は脅威に過ぎない、そういわれて日夜監視され、今まで家族二人で住んでいた
小さな家も、脅威に予算を使う事はないと言われて取り上げられた。
気がつけばアパートと、怪獣退治と、商店街を往復して過ごす日々の繰り返しが…父さんの死んだ日からもう十年も続いていた。 
…人には言えないけど、もうしんどかった、ボスが死んだというのに毎日最低一体は現れる巨獣に対して、365日も戦い続けなくて
はならないのは苦痛だった。
せめて腹を割って放せる友人が欲しかった、信頼できる恋人が欲しかった…それでも、それはこんな生活を送る僕には到底かなわない夢だった。
ふう…と小さくため息をつく、その表紙に買い物袋からオレンジが転げ落ちた、ころころ転がるそれは…一人の女性の足にぶつかって運動を止めた。
「あ…あの、その…」
「はい?……あらあら、これですか?」
困った事に僕は女性と話すことに慣れていない、どうにも話をしようとすると緊張して言葉がどもってしまう…女性の手に握られたオレンジをひったくる
ようにとって、大きくお辞儀をして、できるだけ足早に通り過ぎようとした瞬間…。
「いえいえ、こちらこそです」
そういってお辞儀するその女性と目が会った…切れ長の瞳と長いお下げ、地味な服装と、それにマッチングするかのような優しく儚げな表情…一瞬で、彼女を
そこまで認識したくなるぐらいに彼女の事を…僕は好きになった。
いうなれば一目ぼれという奴だろう、しかしその感情を抑えて、僕は急いでアパートに向かって走り出した。
「あ…あ、ありがとうございましった!!」
一応お礼を叫んでみるが、声がどもり、上手く発音が出来なくなる…最悪だ、きっと変な人だと思われるだろう・・・でも、でもそれは状況から言えば仕方の無い
事だった。それに優しそうな人でも、きっと僕の正体を知れば逃げ出すだろう…そんなことは今までにごまんとあった、女性なら余計にだ、だって僕は実の母さん
にも逃げられたんだから…だから良かったんだ、こうして上手く放せずにあそこで別れれば、きっと辛い思いをしなくてもすむんだから…。
僕は必死にそう考えて、安住の地であるボロアパートに戻った、その目はうっすらと涙でぬれていた。



251 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/12/19(水) 02:05:53 ID:lUt+bHho
炸裂超人アルティメットマン 第一話 見よ!炸裂の巨大変身

夕暮れ時、僕は台所に立って夕食を作っていた、今日のメニューは奮発して買った豚コマで作った生姜焼きだ
きっとコレを食べれば元気が出て、今日のことも…。
どんどん!!と僕の思考をぶった切るようにドアがノックされた、一体こんな時間に誰だろうと僕は考える…
新聞の勧誘、なんてうちには来た事もないし、それに隊員さんだったらもっと一気にドアを開けるはずだ。
「はーい」
また変な団体の人とかだったら嫌だなあ…そう考えながらドアを開けた、その先には、昼間であった、あの可愛らしい
女性が笑顔で鍋を持ちながら立っていた。 
「こんにちは、隣に引っ越してきた亜佐巳というものです、よろしければこれ、食べてください」
「!!!へあ?あ。あの…あなたは…昼間の?」
「ああ!あのときのお兄さんでしたか、奇遇ですね」
言葉が出ない、そして気分が落ち着かない、そもそもなんでこんな安アパートにこんな人が引っ越してくるんだ?もう
わけがわからない?ああでもとりあえず、きちんと挨拶しなくちゃ…取りあえず混乱しながらも何とか声を出した。 
「あ、は、はい…自分は、自分は東条というものです、こちらこそ何かあったときはよろしくお願いします…それからひ、昼
間はどうもありがとうございました」
「いえいえ、ああそうそう、これ、特製の肉じゃがです、よかったら食べてください」
「は…はい、どうもありがとうございます…」
やっと上手く言えた、嬉しくて涙が出そうになる…ようやくその一言を話すと同時に僕は…ふと疑問に思ったことを聞いてみた。
「で、でもなんでこんな所に引っ越してきたんですか…僕が、僕が怖くないんですか?」
「いえ、全然。だって東条さんってヒーローなんでしょう?皆を守るために日夜戦ってるなんて凄いとは思うけど、怖いなんて
全然思えませんよぉ……あ、あれ?玉ねぎでも刻んでたんですか?ハンカチかしますか?」
「い…いえ…お気になさらずに…ぐず…う、うわあああああああん!!」
その一言に涙が出た、そういってくれる女性に会ったのは初めてだった…そして僕はそこで崩れ落ちて泣いた、彼女は終始心配そうに
僕を眺め、わざわざ自分の部屋からハンカチまでもって来てくれた…自分が凄くかっこ悪かったけど、それでもそばにいてくれる彼女に
何故か僕は、かすかにだが安息感を覚えた。
…こうして僕と彼女、阿佐巳 巴は出会った、この出会いが運命だったのか、それとも必然だったのかは、いまだに解らない。

第一話 END


252 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/12/19(水) 02:08:25 ID:lUt+bHho
炸裂超人アルティメットマン 第二話 気をつけろ!そのサンタは本物か?

登場巨獣 毒ガス巨獣ワッギア 変身巨獣ザヤッガー

「デアアアー!!!」
今日も今日とて僕は一人、アルティメットマンに変身して巨獣と戦っていた
今日の敵は大きな羽根を持った巨獣だ、羽にあいた無数の気孔から毒ガスを吹き
付けてくるが、空気より重い毒ガスは発射されれば下に流れてしまうのがオチだ
僕は出来るだけ距離をとると手を上空にかざした。
「アルティメット!ジャベリンー!!」
そう言うと同時に僕の武器であるジャベリンが手のひらの上に召喚された。僕は
それを力いっぱい巨獣めがけて投げつける、まともにそれを顔面に受けた巨獣は毒
ガスを噴出するのを止めて、血を撒き散らして暴れる。僕はお構いなしに跳躍、一気に
敵めがけてドロップキックをお見舞いした。 
「ウゴアアアー!!!」
ジャベリンごと頭部を打ちぬかれた巨獣はようやく絶命したのか動きを止める、僕は
振り返るとその死骸をアルティメットファイヤーで焼き尽くした。
今日もまた一日の仕事が終わる、でも今までの日とは…一日を生きる充実感というものが
ここ一週間で大きく変わっている気がした。

「おかえりなさい!光一さん!」
家に帰ってみると、そこにはエプロンをした巴ちゃんが昼食を作って待っていた。
「いつも悪いね巴ちゃん、でも本当によかったのかい?」
「構いませんよ、だって光一さんはさっきもあんなに怪獣退治を頑張ってたじゃない
ですか?そんな人のお昼を作ることなんて全然わるいことじゃあないですよ」
「ははは…それじゃあありがたくいただくとするよ…」
僕はそういって用意された食事を食べるべく、彼女からもらった座布団に座った、彼女が
引っ越してきてもう一週間になるが、ここまで彼女が僕に色々してくれるという事は、ある意味
妄想すら飛び越えていた。
彼女の前で泣いてしまったあの日から、彼女は僕の世話を焼いてくれた、大変なら…朝ごはん
…作ってあげますよ…その一言がきっかけで、彼女はやたらと僕の周りの世話を焼いてくれる事になり…
気がつけば家事はおろか、朝も早くから朝飯の用意すらしてくれるという始末だった。
そんな彼女には言い表せないくらい感謝していた、こうして彼女と話すようになってから、だいぶ女性と
話すときにどもる癖も治ってきたのが嬉しかった。
「でも毎日悪いねほんとに…その分今日の午後は暇だから、どこか買い物に連れて行ってあげるよ」
「ええ!本当ですか?」
「うん、で、でもあんまり高いものは勘弁してね」
いつも彼女はご飯を作ってくれた分の代金を受け取らなかったので、お礼に何かを買ってあげよう、僕は
前々から計画していた事をようやく打ち明けた。嬉しそうな彼女の顔を見るだけで僕は本当に幸せな気分になれた。


253 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/12/19(水) 02:09:57 ID:lUt+bHho
炸裂超人アルティメットマン 第二話 気をつけろ!そのサンタは本物か?

それから一時間後、変装した僕と巴ちゃんは大型ショッピングモールで買い物を楽しんだ
といっても予算の都合上あまり彼女が欲しがるものを買ってあげられなかったのが残念だった…
と言うか逆にセーターとコートを買ってもらってしまい、なんだか巴ちゃんに余計悪いような気がした。
「気にしないでくださいよ、私のわがままですから」
「ははは、どうもありがとう…」
その後も色々な店を巡りながら、僕らはくだらない雑談を続けた。彼女は普段在宅でデザイナーの仕事を
しているらしく、自家にこもりがちだったため、環境を変えるために一人暮らしをしようとしてアパートに引っ越してきたと語った。 
「私…昔から引きこもりがちだったから…憧れだったんです、世界を救う、子供達の誰もが一度はあこがれるヒーローに…」
「…ごめんね、その憧れが…本当はこんなにかっこ悪くて、貧乏なオジサンでさ…」
「そんな事有りませんよ!本当にかっこ悪い人間って…そんな風に身を粉にして人を助けたりしませんから!あんまりメソメソして
るとカビはえますよ!!そういうのはよくないです!!」
「…うん、それもそうだね…よし!!もうめそめそなんかはしないぞ!!僕は!きっと巨獣を全滅させて見せる!!」
「そうそう、そのイキですよ!!そうしてる方が凄くかっこいいです」
こうして彼女と話していると凄く自分が癒されていく事に気づいたのはいつからだろうか?…心のどこかではいまだに彼女を信用できない
までも、それでも、この幸せな時間が続いて欲しいと、彼女にそばにいて欲しいと願う自分の気持ちは…いままでの暗い日々とはまるで違う
光に満ちたものだった。
「はいはい押さないでね!はい!メリークリスマス!!」
そんなことを考えている目の前で、子供達にプレゼントを配って歩くサンタの衣装を着た老人が見えた、何かの宣伝か、それとも試供品の配布か?
プレゼントを配って歩くサンタの周りには子供達が集まっていた。
「サンタさんかあ…ある意味この時期じゃあ僕なんかよりも…?」
「…どうしたの?光一さん?」
おかしい、何かがおかしい…直感的にそう感じた光一は、急いでサンタからプレゼントをもらった子供に近づくと、その手に握られたプレゼントを奪い取った。
「うわあ!!何するのさ!お兄ちゃん!」
「あ、アンタ!うちの子に何するのよ!!」
ヒステリックに声を上げる母子の叫びを無視して光一はプレゼントを踏み潰す、グシャリと音を立ててつぶれる箱の中から這い出してきたのはミミズのような
生物だった。
「貴様…コレは何だ!!何をたくらんでいる!!」



254 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/12/19(水) 02:11:55 ID:lUt+bHho
炸裂超人アルティメットマン 第二話 気をつけろ!そのサンタは本物か?

老人に詰め寄る光一、老人はにやりと笑うとこう呟いた。
「やれやれ…せっかくの作戦が台無しだなあ…失礼だと思いますよ、そういうのは」
老人はそう言うと同時に服を脱ぎ捨てた、その下に隠れていたのは正方形に恐竜の手足が
生えたような姿…間違いない、こいつは巨獣、しかも上級タイプの知能の高い強敵クラスだ
ひい、というと同時に子供達はプレゼントを慌てて投げ捨てようとするが、箱から飛び出た触手が
絡んで手からはなれないらしく、子供達が次々に叫び声をあげた。
「うわああ!嫌だああ!!」 
子供達は次々に悲鳴を上げながらぎこちなく歩き出し、巨獣の前に一列に並ばされた。巨獣はにやつき
ながら手に持ったサーベルで子供を威嚇する…どうやらあのミミズ触手は触れた子供を操る力があるらしい。
「さあ降伏しなさいアルティメットマン!いや東条光一、コレは脅しではありませんよ。もしも下手に動こう
とすればこの子達全員の舌を噛み切らせる事も可能なんですよ!!」
「……わかった、降伏しよう…」
「はははは!ちょろいものですね!さあそのまま一気に―」 
ごん!!という鈍い音と共に巨獣の頭部に鈍痛が走る、一瞬にして回り込んだ巴が手に取った鈍器で思いっきり巨獣を
殴りつけたのだ。
「今です!!」
「うおおおおおお!!!チェーンジ!!アルティメットマイティ!!」
そう叫ぶと同時にマイティワン号がどこからともかく現れて巨獣を弾き飛ばした、轟音を上げて上空に舞い上がる
マイティワン号。頼もしい相棒である彼のことだ、きっと被害を少なくするために敵を山奥にまで運んでくれたのだろう。
「ごめん巴ちゃん!この埋め合わせは必ずするから…」
そう言うと同時に光一は変身、一気に空に向かって飛び立った。

「まったくもう!アルティメットマスクだかなんだかしらないけどいい迷惑よ」
「本当、巨獣の殺し方も残酷だし、早く星にでも帰ってもらいたいわ!!」
騒然としたショッピングモールの通路は、おばさん達によるアルティメットマンの悪口によって喧騒を取り戻した。
勝手に地球に来て暴れまわる、核より身近な脅威で迷惑なデカブツ…それがこのおばさん達の大好きな昼のニュースでの
人気キャスターの公式見解だった。
許せない…あんなにも彼は頑張っていると言うのに、お前ら汚い豚どもの子供を助けるために、本気で命を捨てようとしたと言うのに…。
巴は怒りで顔が真っ赤になる…のを通り越して、顔が真っ白になっていた。
巴は一週間近くずっと光一と接してきた…そしてそうしているうちに彼の性格もだいぶ把握してきていた。憧れのヒーロー、アルティメット
マンは酷く人間くさくて、とてもいい奴で…そして、冷たい人間達の仕打ちに対して酷く心を痛めていることもよく解ってきた。
最初はそんな彼の支えになれるという満足感と、淡い恋心が満たされていく感覚に喜び…そして次第に彼の受けた仕打ちに気づくにつれて
世間一般のアルティメットマンを嫌うものたちが許せなくなってきた。
…人類の全滅を世界に対して叫んだ異次元の化け物を、頼んだわけでもないのに毎日休みもせずに倒してくれる、謙虚で、やさしくて…
そして唯一の存在に対してここまで彼らは侮蔑の言葉を浴びせる…そんな人間達が許せなかった。 
「ねえ、おねえちゃん…お姉ちゃんはアルティメットマンの…友達なの」
怒りに肩を震わせる巴に対して、先ほど助けられた少年がそう聞いてきた。
「うん、そうだよお…お姉ちゃんはね…アルティメットマンの恋人なんだよ」
空ろな目で巴はそう答えた。


255 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/12/19(水) 02:13:08 ID:lUt+bHho
炸裂超人アルティメットマン 第二話 気をつけろ!そのサンタは本物か?

「…もしも次に会ったら、ありがとうって、皆言ってたって…言ってくれるかな?僕達…お母さん達は皆ああ
言ってるけど…すごく感謝してるって…アルティメットマンの事が大好きだから、頑張って欲しいって…」
「うん、でも大丈夫だよ…きっとアルティメットマンも、そういってくれる人がいるから、この戦いを頑張れるんだから…」
巴は笑顔で子供を安心させる、その言葉に安心したのか、子供達は喜ぶと手を振って母親の元に帰っていった。
「いい子達だな…でも、あの子達の親はどうしようもないんだよねぇ…だったらきっと、あの子達も将来ああなるよねえ…
だったら、処分しなきゃ…」
濁った眼で巴は笑う、そして近くでアルティメットマンの悪口を繰り返すおばさんを見つけると、そのおばさんの頬を思いっきり叩いた。
ヒステリックに対応して掴みかかるおばさんに対して、巴はそれを軽くいなすと呟いた。
「あんた、巨獣より性格悪いよねえ…どうせ今日も暇で暇でここに来て、自分より見下せる相手が欲しいから…あの人の悪口言うんでしょ
…今は許すけど、今意外はないよ」
そう言うと同時に、まるで獣のような目でおばさんをにらんだ、ひるんだおばさんが逃げ出すと、巴は空中をにらんだ…その瞳はまるでガラス
玉のように透明な色合いを放っていた。
「あと六匹か…意外にはやいなあ…それにしてもあの馬鹿…どうしてやろう?」
彼女には行わなければいけない使命があった、それは光一が戦う事と同じぐらい重要なものだと彼女には感じられた。
「やっぱり…邪魔者は、馬に蹴られて死ななきゃ、ね…うふふ、ははははは」
そんな言葉を呟きながら彼女の見上げる空は、気持ち悪いくらいに青かった。


256 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/12/19(水) 02:15:38 ID:lUt+bHho
炸裂超人アルティメットマン 第二話 気をつけろ!そのサンタは本物か?

「オアアアアー!!!アルティメット!!タイフーン!!」
「だから聞かないといっているでしょうがああ!!」
ところ変わって吊下市郊外の山林、適の巨獣に対してアルティメットマンは珍しく苦戦していた
敵の巨獣はこちらが風で攻撃すれば体から羽を生やして空に逃げ、炎で追い込めば水を出して攻撃をカウンターしてくる
いうなれば変身する巨獣…そのような戦法で徐々にこちらを追い詰めているのだ。
「ホアアア!!!」「デアア!!?アーッツ!!」
翼を生やした巨獣は風の力を生かして一気にアルティメットマスクに体当たりを食らわせた、衝撃で吹き飛ばされた上に
アバラがぎしぎしと傷むが、それでも構わずにジャベリンを召還すると、それを槍代わりにして敵に突進した。
「ウオアアア!!」「無駄アアア!!」
敵は一瞬で翼を巨大な十手のような武器に変化させる、ジャベリンを一気にへし折る気なのだろう。
それを狙ってか、アルティメットマン刺突するとみせかけてジャベリンを巨獣の腕めがけて投げつけた、そしてひるんだ隙に
顔面めがけて指二本での目潰しを放つ。
どしゅ!!という音と共に巨獣の目がつぶれ、巨獣が絶叫と共に倒れこんだその瞬間、突然アルティメットマンの頭の中に声が響いた。
(動くな)
少女のような、それでいて凛とした声を聞いた瞬間、アルティメットマスクの体は動かなくなる。
(まずい、何とかしなくては…)
そう考えたとき、足元の巨獣が叫びだした。
「ひいい!!お、お許しを!!総帥さまあ!!!」
目の前の脅威ではない何かにおびえたような声で、立方体のような巨獣は叫んだ、そしてひときわ叫ぶと同時に、どしゅ!!と血飛沫
を飛ばして巨獣の体はバラバラになった。
巨獣の体は、内側から無数に生えたウニの棘のような物体で全身を刺し貫かれていた。
(…なんだ一体?粛清か何かか?)
全く釈然としない光景、しかも敵は総帥と叫んで死んだと来ている…親父が死んだとき、一緒に倒した裏次元総帥が生きていたとか
そんな感じなのだろうか?しかしそうなるとここ数年のまるで目的の無いままに暴れまわる巨獣は一体なんだったのか…あるいは裏次元で
新たな権力が発生して、こいつのような上級クラスが送り込まれてきたのか…まるで釈然としないまま、アルティメットマスクは巨獣の死体を焼却した。

「あ、お帰りなさい光一さん、お風呂沸いてますよ?それともご飯がいいですか…」
「あ、じゃあ先にお風呂に入ろうかなあ…それから今日はごめんね」
「いいですって、あんまり細かい事を気にしてるとはげちゃいますよ?」
深夜、疲れ気味でアパートに帰ってきた光一を、巴はまるで本物の家族のように温かく迎えてくれた、母親がいるってこういうことなのかなあ…そんな
ことを考えながら光一は風呂に向かう、巴はそれを笑顔で見送り、バスタオルなどの用意をすると…部屋の隅に置かれたノートに眼をやった。
「…ふう、気づかれなかったみたいね…」
ノートに書かれたのは吊下市の略式地図だった、そしてその地図上には…いくつかの、小さな穴がコンパスであけられていた、
そして最も多く穴の開けられた部分は、吊下市の山間部…今日、巨獣が謎の死を遂げた場所だった。
(動くな)(彼を邪魔したものには、死を与える)その付近にはマジックでそんなことが書かれている、数分ほど
それを眺めた巴は、ポケットから赤いマジックを取り出すと、街の各所煮に次々と丸を書き込み、そして今度は黒い
マジックで文字を書き始めた。
「あと六体もいるんだから…少しは彼の住みやすい世界に出来るよね…ふふふ…」
何かを書き込んでいく巴の瞳は空ろで、それでいてとても楽しそうな表情をしていた。
第二話 END



257 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/12/19(水) 02:17:50 ID:lUt+bHho
炸裂超人アルティメットマン 第三話 始まった!吊下壊滅作戦

登場巨獣 爆泳巨獣マッカタン 空速巨獣ジオンゴ 電波怪獣ミルワー

ごろごろごろごろ…そんな感じの轟音が吊下市全体に響いていた、音の主は勿論巨獣だ
カジキマグロを太らせたようなその体躯を生かしてか、はたまた誰かに操られているのか…ごろごろと転がる
巨獣は、まるで粉砕ローラーのように建物を踏み潰して行く。
だって許せないじゃないか?コイツがあのやさしい彼を苦しめられるのが…そして、眼前に広がる街の住人が
彼を苦しめいているのが。
そう、彼を守るのは私ひとりでいい、そして…彼を愛するのも私ひとりでいいに決まってるんだから。

「どうもおかしいんだよな…そう思いますよね?隊員さん」
「ええ、でも一体コレとそれに何の関係が…」 
JCM基地本部作戦司令室、約一年ぶりという久々のブリーフィング会議で、光一とガスマスクの隊員たちは首を
ひねっていた。ここのところ急に強力になった怪獣軍団に対する迎撃のために集まったと言う名目だが…実際の
ところ、敵の行動に関する問題はかなり複雑なものだった。
第二話での巨獣の謎の爆死にしてもそうだが、それ以上に今回の事件は奇妙だった…さきほどの戦闘では海から
現れた魚型の巨獣がいきなり地面を丸太のように転がって移動し、シヨッピングモールや商店街、さらに住宅街を
転がりながら破壊したあげく、何故か空から現れたミサイル型の巨獣に激突されて死亡してしまったのだ。
異常だ…一体何が起こっているのかわからない、さらに先日のタンク型巨獣による議事堂襲撃も、時間稼ぎに出動
したJCMのフライングパンケーキのミサイルと隊員の乗ったフライングプラットホームから放たれたロケット砲で簡単に
弱って行動不能になり、あっけなくやられてしまったのだ…普段ならどんな弱い巨獣でもはじき返して時間稼ぎにしかならないような
ロケット弾で重量のありそうな巨獣を行動不能に追い込めると言うこの事態は…一体何が起こっているのか、戦々恐々…彼らの気持ち
を言葉で表すならまさしくそんな感じだった。
「…やはり、この前殺し損ねた子供達をもう一度殺すために…やったんだと僕は思います」
がっくりとうなだれる光一、彼の手に握られた死亡確認者のリストには…前回彼と巴が助けた子供達と、その母親達・・・さらに商店街
の面々の名前が書かれていた。
光一の目に涙は無かった、いや…もう出し尽くしていた、そう言った方が正しいのだろうか、彼の目は真っ赤にはれていた。
「だとして…敵側の新しい総帥は…いったい何を考えているのか…」
「それが解れば…っと、失礼」
そういうなり光一はトイレに向かって駆け出す、原因は彼が最近与えられた携帯電話だ…先の議事堂破壊で、幸か不幸かアルティメット
星人の排除、及びJCMとアルティメット星人に対する予算削減案を出していた政治家が大勢死んだので、その分予算が増えて、光一の生活は
テレビと携帯をもてるまでに豊かなものになっていた。
けっして最近巴がよく作ってくれる、おいしいけどなんか鉄っぽかったり、ナマっぽい味の弁当で腹を壊したわけではない。
「お疲れ様でした、今日はお仕事が終わったら大事なお話があるので早めに帰ってきてくださいね」 
そんな文章を見て、光一は少し緊張すると共に…巨獣が自滅してくれてかなりグッドタイミングだったなあ、とそう感じた。
「いましばらくお待ちを、もう少しで帰りますよ」
そんな返事を送ると…光一はそのメールに対して奇妙な違和感に襲われた、言葉では言い表せないが、それはどこか奇妙で…とても見たく
ないものを見せられているような気分だった。


258 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/12/19(水) 02:19:26 ID:lUt+bHho
炸裂超人アルティメットマン 第三話 始まった!吊下壊滅作戦

それから一時間後、今後の対策をある程度話し合ってまとめた後にアパートに帰ってみると…
そこには三つ指を突いて、指輪を差し出して頭を下げる巴の姿があった。
「私の家の、お婿さんになってください…」
光一はそういわれて、泣くほど嬉しかったが…まだ彼女とは性交どころかキスもしていない
事を思い出して、少し気恥ずかしい気分になった。

「…あ、あの、それじゃあ…不束者ですが…」
「よろしくお願いしますね、光一さん」

そんな雰囲気を読み取ったのかどうか、キスしてくれなきゃ嫌だと駄々をこねた巴と、自然に
キスをする雰囲気になった光一は…二人ともその肩に手をかけて、唇を近づけた瞬間。
ばりいん!!と凄まじい音を立てて窓ガラスが砕け散った。
投石だ、その石にくくりつけられた布には血文字でこう書かれてあった、私の息子と妻を帰せ、と。
「ふざけるな!!まるで光一さんが誰かを殺したようなこと言って!この人が誰かを苦しめたのか?この
人がお前の家族を殺したのか!言ってみろ!言ってみろ!!!この!化け物め!!」
凄いスピードで投石をした犯人を捕まえた巴は、犯人である…巨獣の被害者に猛烈な講義をした、光一は
必死にそれをなだめたが…自分がもっと早くにあの場所についていれば…という考えが頭をよぎってもいたので
心の中はやるせない気持ちでいっぱいだった。
犯人を、怖がってアパートの中に入ろうとしない警察に突き出して、もう一度二人きりになっても…気まずい
空気が部屋に残っているだけだった。
「あ、ゴメン…隊員さんから呼び出しだ…今日は遅くなるかもしれない」 
静寂は隊員さんのコールによって打ち砕かれた、なんでもテレビ局の近くに巨獣が現れたのだと言う…先ほどの
ことがあるため、心の重い状態だったが、それでも急いでマイティワン号目指して光一は走った。
「うん…あのね、私は―何があっても、貴方の味方だから!覚えておいてね!!貴方が、アルティメットマンでも
東条光一でも、私は貴方が、すっごく大好きだから!!」
そういって叫ぶ巴の姿が光一には唯一の救いだった。

光一を見送ると、巴は自分の部屋に戻り…机に置かれたノートに眼をやった。そこには赤い字と黒い字で…吊下
市のあらゆる方向に矢印と、支持が書き込まれていた。
…生活はよくなってきてけど、それでも、やっぱり彼を苦しめる要因は…豚は多いんだよね…頑張って、恐怖心を
打ち消した振りして偽善で彼に必要以上にべたべたする商店街の連中も、ショッピングモールのクソみたいな母子共も
…消したけど、まだたりないよね…やっぱり、元からそういうのは消さなきゃね…。
「あと残ってるのは二匹…ふふふ…」
空ろな目でそう呟きながら、巴は次々にノートに書き込みを繰り返した。
自分の行為を知ったら…彼はそれでも自分を好きでいてくれるかなあ?巴はそう思った。
でも…彼を苛める悪い存在は全部いなくなったほうがいいよね?あと偽善で彼に優しくする人間も要らないよね?
彼女はそうも思った。
理由?…それは決まっている、彼は私を愛していて、私も彼を愛していて…そして、私は彼一人を、世界で彼一人
をただ一人で独占的に愛したいからだ。
「光一…愛してるよ…だーいすき…」
巴の声が不気味にアパートに響き渡った。



259 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/12/19(水) 02:21:02 ID:lUt+bHho
炸裂超人アルティメットマン 第三話 始まった!吊下壊滅作戦

「くそ!!いったいどうすれば…」
「どうもこうも…敵に人質を取られた以上、君も僕達もどうすることも出来ませんよ…」
今回現れたハエトリ草型の巨獣は、よりにもよってテレビ局の建物自体に己を絡ませるという暴挙に
出ていた。しかもその状況を面白がってか、建物の内部ではそのまま臨時特番を組み、徹底したJCMと
アルティメットマンの批判を繰り広げていた。
「見えますかあの姿が、あれこそまさしくわれわれ人間を殺そうとする野蛮な宇宙人の姿です」
あきらかに私的な感情の発露だった、しかしこのニュースキャスターは、そんなことを公共の電波で嬉しそうにいっていた。

「…仕方ない、こうなったら僕がマイティワン号で後ろから怪獣の頭部に特攻をかけます…多分重量自体はそれほどないで
しょうから、きっとひるむはずです…その隙に」
「…わかりました、ご武運を祈っていますよ」
そういって光一を乗せたマイティワン号が飛び立った瞬間、怪獣は発光すると、叫び声を揚げる。なんともいいがたいその声は…
一瞬にしてテレビの電波に乗り…そして。
ぼん!!という音を立てて、キャスターとスタッフ、それにテレビを見ていた視聴者の頭までもが…まるで針をさした風船のように破裂した。
「う…うああああああああああ!!!!」
マイティワン号に搭載されたモニターに写った、JCMの作戦会議室の…その光景を見た、光一は叫ぶしかなかった。
隊員たちの首が吹き飛んだのだ…敵は電波に乗せて破壊音波を送り込む生物なのだろう、そんな冷静な思考が頭をよぎる…しかし、それを
受け入れられるほど光一は冷静でもなかった。
「…あ、アアアアアアアアー!!!」
絶叫を上げて光一はマイティワン号から飛び出し、そのままアルティメットマンに変身する。巨獣も負けじと口から消化液のようなものを吐き
つけるが、怒りのあまりに全身から炎を噴出すアルティメットマンの前にそのようなものが通じるわけが無かった。
アルティメットマンは怪獣の触手を掴みとり、手から噴出す炎でそれを焼ききる、絶叫を上げて逃げようとする怪獣だったがその行為はむなしく
終わった、その体をアルティメットマンが抱きしめたからだ。
凄まじい温度の抱擁で怪獣が燃やされていく、もがく事も出来ず、怪獣は生き地獄の苦しみを味わって、消し炭へと姿を変えた。
「ウアアアアアアアー!!!」
アルティメットマン…光一は、その姿で泣いた。自分が守れなかった命を悔やんで泣いた…自分の力不足が許せなかった、そして怖かった、大切な
人を失うのが怖かった…自分に協力してくれる隊員たちが死んだのも悲しかった…。

(神様…なんで僕は、僕はこんなにも辛い目にあうんですか?僕は一体なんで…存在するだけで目の前でこんなにも悲しい現実を見なくてはいけない
のですか…)
衝心の光一はそんなふうに己の運命を、人生で初めて呪って…公園のベンチでうなだれていた。アパートに帰れば彼女…巴に泣きつくのは決定していた
だからこそアパートには帰りたくなかった。
もう、誰かの負担にはなりたくなかった。
ブブブブブ…と、そんな静寂を打ち砕くようにポケットに入れた携帯電話が鳴った。
「はい…どうかしましたか…」
「お疲れ様でした、光一さん…その、気分は、大丈夫ですか…?」
そこから聞こえるのは可愛らしい、そしてよく聞きなれた巴の声だった…その声色は本気で光一の事を心配しているようだった。
「うん、大丈夫…でも、今日は…こうして一人で…」
そう言い掛けて、光一は直感的に…自分の感じていた、巴との違和感の正体に気づいた。

260 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/12/19(水) 02:23:04 ID:lUt+bHho
炸裂超人アルティメットマン 第三話 始まった!吊下壊滅作戦

「ねえ、巴ちゃん…どうして君は、僕が巨獣と戦い終わったっていうことを…しってるの?」
喋っていて声がかすむ、それにやたらのどが渇く…それでも聞かなければいけなかった。そもそも
僕が巨獣と戦ったことが報道されるのは、原則的に事後一時間と決まっていた。
さらに言うなれば、僕が戦いを終えて会議室で休んでいる時間は定まっていないし、今日戦い終わった
事が報道される事は…事件の性質上、皆無に等しかったのだ。
「え…それは、その…テレビで・・・」
「…そう、それじゃあ…ちょっとそこの公園まで来てくれるかな?」
怪しい、この子は何かを隠しているんじゃないのか…そう考えた光一は機転を利かせて巴を公園に呼び出すと
そのままアパートの、巴の部屋に向かった。
「…なんだ、コレは…」
ついている意味のない鍵をはずして巴の部屋の中に入ると、そこには大量のアルティメットマンと…光一の
写真が貼られていた、そしてその写真のどこかには必ず赤い字で愛、勝利、という書き込みがされていた…インク
のようなどす黒い赤色のそれは、明らかに彼女の血そのものだった。
しかし一般人から見れば気持ちの悪い行為であるそれも、光一にとっては喜びの対象でしかなかった…自分の事を
ここまで思っていてくれる人がいる、変質的なまでに愛してくれる人がいる…そのことがとても嬉しかった、だから
早く自分の中での彼女の疑いを晴らすためにも、そう考えてちゃぶ台の上のノートに手をかけて開き…そこに書き
込まれた言葉を見て、光一は絶句した。
(あのキャスターと、あんなクズ番組を見ている奴らの首を吹き飛ばせ!!)
(彼を馬鹿にする奴らを潰してしまえ)
そこに書かれた言葉と、稚拙な、そして明らかにしっかりしたデティールを持った怪獣のイラスト、さらにあの
時聞いた…動くな、その言葉が…彼の傷つきやすい心にダメージを与えるのは簡単に予想できた。
「…見ちゃったんだ」
「へ?」
彼の後ろには巴が立っていた、光一の背後、で巴は笑顔でこう呟いた。
「私は貴方がだいすきだよ?光一…でも、あなたは私のことが…それを見ても
大好きなのかな?教えて欲しいなあ?」
彼女の目はガラス玉のように空ろだった、光一はその目から視線がはずせなくなっていた。
窓からの風で、光一が読んでいたノートがめくれあがる、そのめくれたページにはある文字
がびっしりと書かれていた。
こういちだいすき、と。
第三話 END



261 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/12/19(水) 02:26:29 ID:lUt+bHho
炸裂超人アルティメットマン 第四話 与えられた選択権、選ぶのは君だ!!君がアルティメットマンだ

登場巨獣 ??? ???

「う…うわああああああああ!!!」
いきなり叫ぶなり、光一は背後の巴を突き飛ばして、自分の部屋に入って鍵をかけた、あっても無くても
意味のない安物の鍵だけど、それでもわずかながらの心の安心感は与えられた。
光一はそのまま毛布に包まって部屋の隅で震えた、怖かった、とても怖かった。
「巴ちゃんが敵?…嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ!!コレは夢だ…きっと酷く悪い夢なんだ!!!そうに決まってる!!」
光一は必死になって、自分の心を壊さないように今見た事実を否定して…それでも、がちゃがちゃと音を
立てる自分の部屋の扉の向こうにいる、巴の…いや、自分を騙して、篭絡しようとした巨獣の存在に恐怖していた。
がちゃり!音を立ててドアが開いた。
「もう、痛かったですよ!光一さん?」
「ひい!ひいい!来るな!!来るな!!化け物め!!」
光一は顔を伏せて丸くなった、そしてがたがた震える、その姿はまるで子供のそれだった。
「安心してください、酷い事もしませんし…光一さんを殺したりはしませんから」
「嘘だ!!寄るな…もう僕を、お願いだから騙さないでくれ!!頼むから!!!」
「いやですよ、だって私…光一さんの事を愛してますもの」
「うそだ!きっとそうやって、きみもぼくをだますんだ…くるなあああああ!!!うああああああ!!!」
光一は泣いた、その場で子供のように泣き崩れた…そのすぐ側には、彼らが倒すべき敵の、大ボス
が立っているというのに。
「・・・黙っててごめんなさい、でも、あなたが…真実を知って悲しむところを見たくなかったんです」
巴はそう言って光一を抱きしめた。
「…だって、あなたのことがだいすきだから…」
そういう彼女の顔は、寂しげに笑っていた。
その言葉を聞いた光一は、まるで母の胸で抱かれて安堵する子供のごとく、彼女にしがみついて泣いた。

「私の正体は、貴方が察しての通り…巨獣の親玉、異次元からやってきた、裏次元総帥というものです」
落ち着いた光一に、巴はコーヒーを入れて語り始めた。
「本来、私の任務は巨獣に対する操作と、異次元支配のあかつきの統制役でした…でも、あの日あなたの
お父さんによって殆どの巨獣を倒された私は出撃して…結果、敗れた私はわずかな記憶をもって近くに
いた人間の子供の精神に寄生して…こうして一人の人間、阿佐巳 巴として生きてきたんです」
「…僕を殺すために、人になって近づくためにかい?」
目を真っ赤にして光一はそう答える。
「そう思われても仕方ありませんよね…でも、本当のところを言うと、私の体からこの、総帥としての
記憶が起きあがったのはほんの少し前、貴方に出会ってからで…あの日、貴方とであった事は本当に偶然
だったんです…総帥の力が使えて、ノートで支持が出せても…人間としての記憶はそのまま残っている分
あなたが大好きなことには変わりなくて…だからあの、光一さんの事をけなす豚どもにも制裁を加えたんです
馬鹿なザヤッガ―も、他の巨獣も、できるだけ貴方に負担が掛からないように、ノートの力で弱らせていたん
です…だって…私は」
あなたが、こういちさんが、このせかいよりもだいすきだから…それくらいにあなたのことをあいしてたから。
巴はそう言い切った、その言葉に嘘とよどみは一切無かった。
チャンスだった、たぶんここで巨大化してこの子を踏み潰せば、全ては終わって世界は救われるはずだった。
でも、そんなことが…光一には出来るはずは無かった。



262 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/12/19(水) 02:27:49 ID:lUt+bHho
炸裂超人アルティメットマン 第三話 与えられた選択権、選ぶのは君だ!!君がアルティメットマンだ

自分自身が生きている意味なんて、自分が起こす行動では一生見いだせないものだと思ってた、そう
君に出会うまでは。
でもそれ以上に自分が生きていることに絶望する羽目になったんだ、そう、君を愛したから。
「…ノートには、あと2匹って書いてあったよね…残り分の巨獣を倒すと君はどうなるのかな?」
「…残り一匹は私の事です…勿論倒せれば世界は救えます」
重苦しい雰囲気の中で巴はそう告げた、コーヒーを飲む光一に対して巴は言葉を続ける。
「取りあえず一匹は私が倒します、そしてそいつの行動を、全力で私に重傷を負わせることにすれば
…きっと光一さんも、私のことを倒しやすい状況になるでしょうから…」
その言葉を聞いて光一はうなだれた、そして数分の後に、巴に話しかけた。
「…どうして、あのときに…もう死ぬことがわかっていて、僕に婚約を申し込んだのかな?」
「…私のこと、忘れて欲しくなかったからですよ、思い出も欲しかったし…本当はもっと、キレイ
な形で貴方の前から消える予定でしたから…」
「怖くはないのかい?よりにもよって自分の愛される人に殺されることになるんだよ?…」 
「それを貴方が望むのなら…受け入れられるのが愛ですよ」
「ごめんね、僕の事を騙して、殺そうとしたなんて疑って…」
「いいんですよ、私が悪かったんですから…ん…」
僕は彼女の肩に手をかけて、そのまま彼女にキスをした…そしてようやく、彼女と結ばれた。
嬉しいはずのその行為は楽しめるわけもなく、とても陰鬱な気分でしかなかった。
「あ…すきい、だいすきぃ…こういちさん…ああ!!ああああっ!!!」
それでもそう言って、自分にキスを繰り返す彼女を見ていると…わずかだが、喜ぶ彼女の顔が最後に
見れて嬉しかったと思えた。

事後…疲れていたのか、眠りこける彼女を横にして僕は悩んでいた、この逃れられない運命を断ち切る
方法は無いものか、せめて彼女の望むように出来ないものかと…。

そして僕は―

1. 彼女を、何があっても一人にしないと決めた。

2. せめて彼女の望む方法で決着を付けてやろう、そう思った。

第四話 END

263 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/12/19(水) 02:31:07 ID:lUt+bHho
と、今日はさすがに疲れたので残りは明日にします、選択肢はお好きな方を
お選びください、取りあえず一番最初に答えてくれた人の選択に従う予定ですので
…もしかしたら希望する巨獣イラストと並ぶヒロインを書いたりするかもしれません
それではおやすみなさい、選択は選んだものによって閲覧注意するものが変わります
のでご注意を…。


264 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/19(水) 02:49:14 ID:13h5Bprj
GJ!

1で。やっぱり幸せであって欲しいんだ……

265 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/19(水) 02:49:30 ID:KOOxVsG3
1. 彼女を、何があっても一人にしないと決めた。

でおながいします.

愛、あなたとふたり~

266 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/19(水) 08:04:44 ID:H7ms4s9C
1.で!

267 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/19(水) 08:56:37 ID:IlUIfoJO
>>246
私ガチレンジャーの話大好きアル

是非書いてたもう

268 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/19(水) 09:51:59 ID:pyN+pgWG
アルティメットマン対巨獣35+宇宙人15


忘れてください…orz

269 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/19(水) 12:24:56 ID:Qc/L5MtK
1の真っ赤な誓いエンドで!

270 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/12/20(木) 00:30:15 ID:7TzxPuM9
住人の皆さんこんばんは、そしてお待たせいたしました。たった今遂行を終えたばかりの最終回
ですが、なんとかできあがったので貼らせていただきます。
…しかし皆さんは意外にハッピーエンドがお好きなんですね…まあ二番目の選択に地雷を仕掛け
ていた分、正解と言えば正解だったのですが…前置きが長くなりましたが、それでは始めます。

炸裂超人アルティメットマン 第四話 選ばれた結末、さらば、尊き勇者よ

「グアアアアア!!!」
断末魔の叫び声をあげて、吊下市山間部の地面に倒れこんだのは金属巨獣 ズガーラだった。
あらゆる物の力を模倣できるズガーラを、持っていたスピアで一瞬にして葬ったのは、それまで散々
攻撃を受けていたはずの裏次元総帥だった。
強かったなあ、この子となら本当に世界を滅ぼせたかもなあ、と総帥…巴はそんなことを考えた。
ノートで行動を操っていたとはいえ、ズガーラはかなりの強敵だった…これだけダメージを受けておけば
きっと彼の必殺技…アルティメットクロスファイヤーを一発食らうだけで死ぬ事ができるだろう。
(もしこれで、今度生まれ変わることがあったら…また会えるよね、光一…)
気を抜けば薄れそうになる意識のなか、巴はそれでも光一の事を思っていた。
ブウン…と音を立ててその横をマイティワン号が通り過ぎる…それが戦いの合図だった。

目の前には巨大化した光一…アルティメットマンが現れる、日差しを背にするその姿は、巴にはどこか神々しく見えた。

手に持ったスピアを、傷だらけの体でどうにか構える総帥…それに相対するアルティメットマンは静かに両腕を交差させた
必殺技…アルティメットクロスファイヤーの構えだ。
(そうそう…それでいいんだよ、光一)
そんなことを考えながら、総帥が構えていたスピアを落とすと同時に、アルティメットマンは大声で叫んだ。
「アルティメーット!!ブラックホール!!!」
(え…それは!?…)
それにあわせるかのように、ブウン、と言う音を立てて二人の間に黒い円形の塊が発生した。 
…アルティメットブラックホールは、先代アルティメットマンが命と引き換えに使った、アルティメット星に
伝わる自爆技だ。巨大な円形の塊はアルティメットマンとその周囲に存在する巨獣を別空間に飛ばして…永久にその
空間に、巨獣とアルティメットマンの意識と肉体を固定するというものだった…先代の場合は総帥を飲み込む前に距離が
足りず、技の反動で命を使い切る寸前に何とかはなったアルティメットクロスファイヤーで総帥を追い詰めるという結果に終わった
のだが…ここまで近い距離では、先代の二の舞になる心配はなさそうだった。
ゴオオオオ…あたりにすさまじい突風、いや、強力な引力の嵐が吹き、周りにある全てのものを飲み込んで行く…そのなかで、二人
の体が円形の塊…異次元に飲み込まれる中…二人は手に手を取り合い…その体をしっかりと抱きしめて、異次元の底に消えていった。
(ありがとう…ありがとう…一緒に来てくれるんだね…うれしいよ…嬉しいよ光一…)
(ああ、だって巴は…そのくらいの覚悟で俺に殺されようとしたんだろう?だったら俺もそれを返すのが…愛ってこと、だろ?)
(そうだね…うれしいよ、本当に嬉しいよ…光一、大好きだよ…)
二人はそう言いあって、異次元に消えていった…。

その世界は真っ暗闇で何も見えず、さらに全く動くことも出来ない…そんな世界だった。このまま永久に死ねず、意識を保つらしい
…しかし、元帥こと…巴はその事を全く後悔していなかった。
(もう、これでずーっと一緒なんだね…うれしいよ、巴…)
(うん、もう離れないで、ずーっと二人で一緒にいようね…光一)
手に手を取り合って、異次元に飛ばされた二人は、その意識を共有したまま固定されていた。
そう、二人の中はもう運命すらも引き裂けないくらいに強力なものになったのだ。
…こうして永遠の愛を誓い合った二人の顔は、とても幸せそうなものだった…。 
FIN

271 名前:リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] 投稿日:2007/12/20(木) 00:34:32 ID:7TzxPuM9
これにて終わります、読んでくれた住人の皆様には本当に感謝しております。
>268
ごめんなさい、それはちょっと…取りあえずまた年始のイベントと新人賞の投稿で
忙しくなってしまった為、少しあとになるとは思いますが…そのうちにイラストと
選ばれなかった2エンドの内容を貼ってみようかと思います。
それでは、また。


272 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/20(木) 04:13:29 ID:mDxz/5sV
(´・ω・`)

(´・ω・`)つ旦〈完結おめ

| ・ω・`) 〈デモ モノタリナイカラ別スレ逝ッテクル

|ノシ

273 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/20(木) 14:02:42 ID:0GsiAZ0j
な、長い間来ていなかったらいつのまにか特撮SSスレにナットル・・・・

274 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/20(木) 20:20:33 ID:zg8Ny2am
同意&驚愕
まあ、面白ければ良し。
さあ読むぞー

275 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/20(木) 22:34:30 ID:KPsXGvS/
まあ、ちょっと前まで連載していた作者方が来られる頻度が低くなったからね……。
ここに投下したことはないとはいえ、一応自分もSS書きの端くれだからこんなこと言うと急かしているようで嫌なんだけど。

276 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/20(木) 23:14:32 ID:Mx6wMVIf
社会人は場合によって年末は忙しいからな

277 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/21(金) 13:47:16 ID:OE/puAyN
年末年始はニート学生を除き普通は忙しいもんだ

278 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/21(金) 18:46:21 ID:VBlxPd2V
コミケもあるし
参加する人は忙しいだろうねえ

279 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/22(土) 00:52:14 ID:UjnPzJ98
>>277
学生だがバイト納めと実家に帰る準備で忙しいぜ。

280 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/22(土) 01:43:25 ID:tgPq63Jj
>>278
落選した俺涙目。
まあ知り合いのサークルに同居させてもらうんだけどさ。

281 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/22(土) 19:17:17 ID:OYfzW4xJ
新人賞の投稿って、笑うとこですか?

282 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/22(土) 19:30:29 ID:Dpu7A0J3
投下します。第七回です。
16レス使用します。

283 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/12/22(土) 19:30:53 ID:kpp0MoUp
別に

284 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/22(土) 19:31:20 ID:Dpu7A0J3
*****

「葵? 葵じゃん。何しに来たんだよ、こんなとこに」
暇をつぶしにやってきた体育館裏には先客がいた。馴れ馴れしく私に呼びかけてくる。
相手は、二年の愛原とかいう軽薄な男だった。
入学して一ヶ月ぐらいしてから告白してきたから、かろうじて覚えている。当然、断ってやった。
この手の下半身男は、たいてい私の体を目当てにして近寄ってくる。
胸がでかければ誰でもいいんだろう。虫酸が走る。視界の隅に入り込むだけで不快になる。
今の愛原がやっていることに対してもそう。
人目につかない場所で一年の女子とじゃれ合っているなんて、変態の最たる行いだ。
見ると、女子は上の制服を喉元までめくりあげていた。緩んだブラと乳の隙間に愛原の右手が入り込んでいる。
左手は女子のスカートの中に入り込んでいた。ショーツは膝まで下がっている。
女子は内股になって膝を寄せ、震わせている。立つこともできないのか、背中を壁に預けている。
顔は紅潮していて、嫌がっているようにも、興奮しているようにも見える。
無理矢理連れ込んだのか、それとも恋人なのかは知らないが、こんな奴に捕まった女子は気の毒としか思えない。
気の毒には思うけど、私はめんどくさいから何も言わない。
馬鹿二人となるだけ離れ、体育館の壁を背にして座り込む。
好きにすればいい。愛を語らおうとセックスしようと、どうぞご自由に。

今日はたまたま用事があって学校にやってきただけだ。
そうじゃなきゃ、わざわざ日曜日に人がたくさん集まる文化祭になんかくるものか。
自慢じゃないが、私は学校にまじめに通っていない。
毎日学校に来ているけど、教室でやる授業なら出るけれど、ほとんど上の空で過ごしている。
授業なんか聞き流していてもテストで点は取れる。中間テストなんか教科書を読み直しただけで七八割取れた。
体育の時間は色々と面倒だから全て見学しているか、さぼっている。
女も男も私の姿を残念そうに見る。胸が揺れるところでも見たいんだろ、思春期まっさかり。
どだい、私には体育でやる運動なんて準備運動にもなりゃしない。
自分ちでストレッチでもしている方がずっとマシだ。ぬるすぎてあくびが出る。

あいつがこの学校に通わなければ、高校だって行くつもりはなかった。
あいつと一緒に居たかったから、面倒な受験まで受けたんだ。
なのに、受かってみたらこの通り。
私とあいつは別のクラスになってしまうし、複雑な相手が一つ上の学年にいるし。
それ以上に不愉快なのは、あいつが同学年の女子連中から人気があることだ。
一緒のクラスにいる女子が、あいつの名前の付いたファンクラブに入った、と騒いでいた。
――はん。馬鹿馬鹿しい。
好きならとっとと告っちまえばいいんだ。集まってワーキャー喚きたいだけならあいつに近づくな。
本当は告白もさせたくないけど、どうせ軒並み断られるんだ。特別に許してやる。

と、言っても。私も人のことは言えない。
あいつと学校の中で二人きりになる機会は多いのに、一度も好きだと言ったことがない。
向き合うと、緊張してどもってしまう。本来の自分とは違うしゃべり方になってしまう。
そんな感じで接しているのに、あいつが私に会いに来てくれるのは――たぶん、私のことが好きだからじゃないか、と思ってる。
あいつの方から告白してくれないか、ってのは都合のいい考えなのかな。


285 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/22(土) 19:32:05 ID:Dpu7A0J3
なんとなく見ていた目の前の地面に、足が四本乗っかった。
黒い制服に包まれた足が二本、白い素の肌をさらけ出した足が二本。
見上げると、愛原と名前の知らない女の顔があった。
愛原の目線は私の足下に向けられている。もう一人の女は、愛原の腕を抱いてすり寄っている。
なんだ、こいつら恋人同士か。でもこの男だったら他にも女はいるだろうな。そこな女、ご愁傷様。
だから私を睨むなよ。睨んだって私の機嫌を損ねるだけで、良いことなんか何一つ起こらないよ?
「おい、葵」
愛原が何か言っている。あー、聞きたくないけど耳をふさぐのも億劫だ。
「体育座りなんかしてっから、パンツが見えてるぞ。見せてんのか? 誘ってんのか?」
見せてるつもりはない。あいつが胡座をかくのはやめてくれって言うからこうしてるだけだよ。
見たければ見ればいい。お前らは頭の中で私を好きにしてるんだろ? オカズになっていいじゃねえか。
けど、私の体には一切触れさせない。あいつ以外の人間には、絶対に体を許さないと心に誓っている。

隣に愛原が座ってきた。ヤニくさい臭いが鼻につく。立ち上がり、その場を後にする。
体育館裏に来たのは、人に会わずに過ごせる場所だったからだ。
目的に添ってさえいればどこだって構わなかった。この場所にこだわる理由は特になし。
きっとあいつは、私がどこに行ってもなんのヒントもなしに見つけてくれる。
たぶん、行動パターンを見切っているんだろう。
いつも通りに行動してさえいれば、必ず見つけ出してくれる。今日だって、そうに違いない。

「おい、待てって。この間の話、考えてくれたか?」
何の話かわからない。ついてくる愛原を無視する。ひたすら歩む。
「悪いようにはしないし、後悔もさせねえって。どうせ、いつも暇なんだろ?」
こういう台詞を吐けば女が落ちるとでも思ってるんだろうか? ……思っているんだろうな。
悪いのはお前の性格、後悔するのは頭のねじが緩くて腰が軽い女。突っ込みたいけど、余計な手間だからやらない。
ま、暇っていうのは合ってるけどさ。あいつと一緒じゃない時の私はいつも暇を持て余している。
ハア、あいつに抱きつくのに一生懸命になりたいなあ。
しがみつきたい。甘えたい。くっつかれたい。抱かれたい――性的な意味で。

とっとと見つけてくれないかな、あいつ。


286 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/22(土) 19:32:49 ID:Dpu7A0J3
*****

純文学喫茶の仕組み、および営業方針、並びに店員の業務内容について触れてみよう。
まず、純文学喫茶とは、店内に大量の小説本を置き、客自らの手で本を手にとってもらい読んでもらうサービスを
売りにした喫茶店である。喫茶店であるため、軽食を注文することもできる。
利用料金は六百円で時間は無制限。コーヒーと日本茶を常備している。ジュースは置いていない。
利用料金とは別に、軽食にはお金を払わなければならない。
チョコレート、クッキー、ビスケットのいずれかを注文できる。もちろん全て注文してもらっても構わない。

喫茶店の営業方針は、お客様に快適な読書空間を提供し、一人でも多くの方に文学に興味をもってもらうこと。
決して、担任の夢を叶えるためであるとか、担任に堂々と一日中読書してもらうためだとかではない。
現在の客の入りを見ている限り、営業方針に添って喫茶店は稼働している。
教室内が静かなので、町立の図書館よりも読書することに適している。
時折ものを食べる音、陶器を机に置く音、ページをめくる音がするだけで、話し声は一切無い。
客の回転率はすさまじく悪い。一日目もだったが、開店してから閉店するまでずっと入り浸る客までいた。
中には十分と経たないうちに帰る人間もいる。葉月さんや担任やクラスメイトの袴姿を拝むだけの人間だ。
ウェイトレス達と、ひたすら読書するだけの責任者がいなければ、赤字になることは間違いなかった。
高橋と西田くんを始めとする男子が、給仕役は袴を着用してくれ、と頼み込んだおかげだ。
男子、特に高橋は担任と共に純文学喫茶を正式にオープンしてもやっていけると思う。
いっそのことそのまま二人でゴールインしてくれ。
また一つ学校の伝説が生まれる。二人を主人公にしたドラマができてもおかしくないぐらいのサクセスストーリーだ。
きっと、見晴らしのいい高台に建つ青山に永住しているような人生を送れるよ、高橋、篤子先生。

給仕役の業務内容は、来店した客を席に案内し、店の仕組みを説明し、たまに注文された菓子を運ぶだけである。
それ以外の業務はまったくと言っていいほどしない。むしろ、やる機会がないと言える。
なにせ、トラブルが一切起こらないのだ。気まずさを感じるほどに静かなのだ。
店内にいる客は誰もがじっと座り込んで本を読んでいる。
ウェイトレスを呼んで菓子を注文しようにも、空気を震わせることが憚られて言えない、息の詰まる空間。
控え室にいるクラスメイトも声を漏らさない。喫茶店の利益が黒字になっても、これでは楽しくない。
文化祭でやる喫茶店って、もっとこう、ワイワイガヤガヤしつつやるもんじゃないのか?
担任は指示を出さずに窓際の席に座り本で顔を隠しているし、高橋は時折ため息をつきながら担任の姿を
網膜に焼き付ける作業に没頭しているし、振袖姿のウェイトレスは半数以上が姿を消している。
まじめに喫茶店の営業活動に取り組んでいるのは葉月さんを含んでも五人しかいない。
かく言う俺は、クラスメイト全員から押しつけられた待機命令を律儀に守り、教室に残っている。
手伝おうにも、そもそも客からお呼びはかからない。手伝おうとしたらなぜか葉月さんに止められる。
昨日は皆の望んでいることだと聞かされて納得したが、もう限界である。

逃げてやる。目指すは弟のクラスだ。
俺のつくった衣装がいかに着こなされているか、この目で確かめに行かなければならない。
制作者の一人として、確認する権利も、義務もあるはずだ。


287 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/22(土) 19:34:05 ID:Dpu7A0J3
抜足でドアまでたどり着き、こっそりと教室から出ようとしたら、背後にいる男の声に止められた。
「どこに行くのかな、保護監察対象者」
いちいち気に障る代名詞で呼びかけてくるのは高橋しかいない。
振り向かずに返事する。もちろんドアに手をかけたまま。
「……トイレに行ってくる」
「それは許可できないな。君がトイレに行く時は私を呼びなさい、という葉月嬢のお達しを破ったら
一体どんな目に遭うかわからない。彼女が『二番』に行っている以上、君を止めるのは僕の役目なんだ。
よって、君の身勝手な行動を黙過することはできない。席に戻るんだ」
「我慢できないんだ。ここで間違いを犯すわけにはいかないだろう」
「確かにそうだ。ならば僕がついていこう。僕は男子だから、君がトイレの窓から飛び出さないか監視することもできるしな」
こいつ、読んでいやがったか。
変に気の合う友人の存在も考えものだ。裏をかくのが難しい。
葉月さんが『二番』――トイレに行っている隙に俺が脱走しようとすることまで予測されていた。

高橋の気を逸らすには、この男の恋愛対象である篤子女史をけしかけるしかない。
だが、耽読状態にシフトした担任を動かすのは容易ではない。
現に、ウェイトレスの一人が湯飲みを落っことして割った時も無反応だった。
高橋が昼飯に誘ったときだって視線を微動だにしなかった。
もしや、篤子女史は休日も今日のようにじっと本を読んで過ごしているのだろうか。
俺でさえ模型作りしている最中は腹が減るから食事はとっているというのに。
担任のエネルギーは無尽蔵か? 本から精気を吸い取って生きているのか?
世界が食糧不足の危機に陥っても、担任は水と本だけあればつやつやした肌を保っていそうだ。
なんという珍獣。道理で結婚できないわけだ。
いや、担任を皮肉っている場合じゃない。

「どうしたんだ? トイレに行くんじゃなかったのか?」
急がねば。葉月さんが戻ってくるまでもう時間がない。
「しょうがないやつだ。ほら、肩を貸してやる。だからここで、溜まっているものを爆発させるなよ?」
俺に構うのをやめろ、高橋。篤子先生と同じ机に座りながら一方的に愛を語っていろ。
――ふむ? 今、何か面白フレーズが浮かんだような。
高橋と、担任。二人の名字と名前がくっついたら。
もしそうなったら……俺は面白い。そんな名前になった担任を想像するだけでクスリと笑える。
高橋の意識を逸らすには弱いような気もするが、駄目もとで言ってみようか。
「なあ、高橋。意見を聞かせてくれないか?」
「うん? 別に構わないぞ。近々高騰するであろうオススメの先物から、君の子供の孫から見た祖父母の名前まで、
なんでも占ってやろう。」
「そこまで大層なことじゃない。あのさ、高橋篤子っていい名前だと思わないか?」
「…………………………な?」


288 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/22(土) 19:35:34 ID:Dpu7A0J3
高橋の顔が歪んだ。眼鏡の向こうにあるまぶたがいつもより大きく広がっている。
どうやら、不意打ちは成功だったらしい。
こいつだって、自分と担任が結婚したらどういう名前になるかを考えなかったわけでもあるまいに。
「な、に、を……言っているんだ。君ってやつは。はは。高橋……あつ、篤子先生。
僕の後輩達が呼んで、同僚の先生方が呼びかけて、退職の挨拶の時に呼び出される、名前……」
どこまで空想を飛ばしているのだろう。
プロポーズのステップをすっ飛ばして名前が変わっているようだ。
俺からすれば、高橋と担任が恋人同士になった画なんてまったく想像つかない。
どちらも変人――あえて言えば担任がレベルが上――だから、一般的な恋人のようにはならないのかも。
非凡な恋人関係ってどんなのだろう。
わからん。……あ、わからないから非凡と言えるのか。納得した。

「ねえ、ポストにはなんて書こうか? 名字だけ? 僕は二人の名前を入れたいんだけど……」
あと一分待っていれば子供の名前まで聞かせてくれそうだったが、今は聞いている余裕はない。
時間に追われている。葉月さんがいつトイレから戻ってきてもおかしくない。
「また本棚を買うのかい? そろそろ床が抜けそうだからやめてもらえると……ああ、ごめん!
謝るから怒らないでくれ! 出て行かないでくれ! 私にはニャーと鳴く猫がいればいいなんて言わないで!」
高橋を残し、教室から出て音をたてないようドアを閉める。
弟のクラスに顔を出すより妄想状態の高橋をからかっている方が面白いかも、と気づいたのは二階の階段を
降りている最中のことだった。



289 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/22(土) 19:36:56 ID:Dpu7A0J3
一階に降り立つ。弟のクラスへと向かうため、右へ折れる。
進行方向から、見慣れた人物像を確認した。弟を誰よりも愛していると態度で語る俺の妹である。
「あ、お兄さん。……こんにちは」
「おう。こんにちは」
兄妹なのに他人行儀な挨拶をする妹。反射的に同じ反応をとってしまった。
まるで道ばたでばったり会った親戚の従妹との会話みたいだ。喩えがぴったり嵌るのが嫌になる。
他人行儀な喋りをするな、と説いてやろうかと思ったが、妹の表情を見て改めた。
一見して不機嫌とわかる表情だった。しかし廊下で俺にばったり会ったことが原因ではなさそうだ。
向かい合っている最中も、脇を通り抜ける人へと目を泳がせる。
誰か探してるのか? って、妹が真剣になって探すような相手は一人しかいないな。

「弟と一緒じゃないのか? 向こうから来たってことは、あいつのクラスには行ったんだろ?」
「もちろん。だけどお兄ちゃんはいなかった」
「そういえばあいつ、今日はクラスの手伝いはしないって言ってたっけ」
「私だってそれは知ってる。だから、今日は朝からずっと歩いて探し回ってるのに、見つからない。
お兄さんも……知らないよね。お兄ちゃんがどこに行ったか」
「予想を裏切れなくて悪いが、イエスだ。知らない」
最初から期待していなかったのだろう。妹は表情を変えない。
つい、と顔を逸らし横をすり抜ける。
「お兄ちゃんを見つけたら、ケイタイに電話して。じゃ」
即座に言うべき台詞が浮かんだのだが、振り向いたときにはすでに妹の姿はなかった。
頭の中の妹へ向けて告げる。同時に口でも喋る。
「お前は俺にアドレスはおろか番号すら教えていないだろう……」
先に弟を見つけてしまったとして、また妹に鉢合わせしたら、どうして連絡しなかったのかと責められてしまうのか?
反論したら、どうして妹の番号も知らないのよ、とか言われそうだ。
そういや、なんで知ろうと思わなかったんだ。こんなんじゃ妹に冷たくされて当然だ。
弟を見つけたら、忘れないうちに妹の番号を聞いておかないと。

弟は今クラスにいない、と妹は言っていた。
今日一緒に登校した点、学校をエスケープする人間ではない、という要素から鑑みて、弟は校内にいると考えられる。
妹の弟探知能力を駆使しても見つからないということは、弟はよほど見つかりにくい場所にいるのだろう。
それか、普段の弟からは考えられない行動パターンをとっている、だ。
そもそも、今年の文化祭における弟の行動はおかしい。
一日目だけクラスを手伝い、二日目は自由行動するところから変なのだ。
何か隠しているのか? もしや、いつぞや口にしていた好きな女の子と逢い引きするつもりか?
だとすれば、邪魔するのは野暮だな。
兄として、弟にはノーマルでいてほしいのだ。
両親のように、ご近所には決して教えられない関係を兄妹間で結んで欲しくない。
そのためには、弟が妹以外の女の子と交際する必要があるのだ。最後には無事ゴールインまでしてほしい。
木之内澄子ちゃん。葉月さんの一方的な猛攻を受けても無事だった。しかも今日は学校を休んでいない。
タフなあの子なら妹を相手にできそうだ。しかも、弟に深く恋している。
条件のみを見るならば、澄子ちゃん以上の逸材はいない。
だけど――弟は選ばないだろう。澄子ちゃんはそれをわかっている。弟の真実を受け入れているから。


290 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/22(土) 19:37:56 ID:Dpu7A0J3
弟は一体誰に恋しているんだろう?
ヒントは、年上、同じ学校に通っている、俺の顔見知り、の三つ。
条件にあてはまる対象は葉月さんか、篤子先生に絞られる。だが、どっちも考えにくい。
葉月さんを好きだったら、俺と葉月さんの仲を応援しないはず。
担任に恋していたら、うちのクラスに顔を出すはずだ。
どちらでもないとすると、もう俺にはお手上げだ。
俺と弟に共通の知り合いは残りゼロ。弟の同級生は何人か知っているが、中には留年している者はいなかった。
俺が昔知り合っていて、今では忘れている人間、とかじゃないよな。
最近、弟妹に揃って自分の健忘ぶりを遠回しに、あるいは直接言われているから有り得る。
『妹をいじめないで』、という台詞を聞いて恐怖を思い出すこと。
昔の俺が妹をいじめていた、という妹からの告白。
でも弟が言うには、昔の俺は弟と妹をかばっていたらしい。
頭がこんがらがる。弟か妹、どちらかが嘘をついていなければ、つじつまが合わない。
――――弟かな。嘘をついているのは。
あいつは優しい。小さい頃の俺が犯した間違いを悟らせまいと、かばっているのではないか。
聞かないとわからない。けど、聞ける勇気は俺にはない。
情けない願いだけど、弟の方から教えてくれないもんかな。
本当に馬鹿なことをしでかしていたのなら、拳骨で教えてもらいたい……ってのも甘えだな。

弟のクラスを見るつもりだったが、気が変わった。弟探しに目的を変更する。
校内の地図を頭に広げ、弟になった気分で行動をトレースする。
今日は文化祭が開かれている。どこかの教室に入るだけでも身を隠せる。例、二年D組の純文学喫茶。
だが、ひとところに留まっているならば既に妹が見つけている。
午前中から探していたのなら全ての出し物を見て回ったはずだ。
電話をかけても繋がらない。ということはメールを送っても返信しないだろう。
お手上げじゃないか。校内のどこにもいないってどういうことだ。
世界的に有名なボーダーを来たおっさんだって本のどこかに隠れているんだぞ。
妹に見つけられないなら、俺に見つけられるはずがないじゃないか。
でも意外と、こうやって歩いていると見つかったりして。
ただ、兄妹が絶妙なニアミスを繰り返していて巡り会っていないだけ、だったりしてな。
「兄さん」
そうそう。ちょっとコースを変えてみれば、こんな感じに弟に声をかけられたりだって……へ?

歩きながら思考していたら、校舎と体育館を結ぶ渡り廊下にたどり着いていた。
正面には妹が血眼の目を剥いて(イメージ)、必死に探し回っている弟がいた。
「兄さんは出し物を見て回っているところ?」
「あー、うん。まあ、そんなところかな。ははは……」
いいのか、こんなに簡単に見つけてしまって。
妹の立つ瀬がないじゃないか。あいつ、あんなに弟を好きなのに、かすりもしないだなんて。
可哀想になってきた。慰めようがないから声もかけられない。
弟と妹の仲を認めないつもりではいたけど、兄妹で仲良くするのは構わなかったのに。
「お前、もしかして妹のこと嫌いじゃないよな?」
「ううん。全然。嫌いな相手なら一緒にお風呂に入ったりしないよ」
「そういや、そうだよな。いや、すまん。なんとなく聞いただけだったんだ。気にするな」
思春期を迎えた兄妹で風呂に入るのも変な話だが、仲が良いのは兄として嬉しい事実だ。
これからも二人でそうやって仲良くして――――欲しくはないな。


291 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/22(土) 19:39:08 ID:Dpu7A0J3
仲良く風呂に入るな、風呂に。
弟は妹を前にして全裸をさらけだしているのか?
俺には絶対無理だ。高橋と銭湯に行ったとしても局部だけは桶で死守する。
血の繋がった家族とはいえ、女に見せるなんて恥ずかしくてできん。
妹も弟と同じだ。ひょっとしたら弟を興奮させるためにやっているのかもしれないが、俺は許さんぞ。
お前ら二人が風呂に入っているとき、あえぎ声でも聞こえてきたら即飛んでいって止めてやる。
その後で妹の手によって半殺しの目に遭うかもしれないが、ともかく、駄目だ。
しかし、弟は何で妹と風呂に入っているんだろうな。強硬に断れば、妹のことだから諦めてくれそうだが。
あえて自分をさらけだすことで父性をアピールしているつもりか? 逆効果だぞ、弟。

話題を変える。風呂については別の機会に会議を設けるとしよう。
「どこに行ってたんだ? 妹がずっとお前のこと探してたみたいだぞ」
「ああ、実は人を探していたんだ」
「人、っていうと……」
「今日はその人と一緒に見て回るつもりだったからさ。
約束もしてたんだけど、会う場所を決めてなくてずっと探していたんだ」
「ははあ……例の、コレか?」
右手の小指を立てて弟に見せる。弟は平然と答える。
「うん、そうだよ。前に兄さんに聞かれて答えた、僕の好きなひと」
「へ、へえ。そりゃすごい。うん、すごいよ、お前……」
堂々と好きな人がいるって告白できるって、かっこいい。すごい。
葉月さんへの気持ちに自信が持てない俺とは大違いだ。
俺とは違って恋愛経験が豊富なのかも。だから、好きだっていう気持ちに自信が持てるのかもしれない。

咳払いを一回。声の調子を整え、呼吸を落ち着ける。
「それで、お前の想い人は見つけられたのか?」
「まだ。行きそうなところはあちこち探し回っているんだけどね。あっちこっち行き来してるみたいで見つかんない」
こういうところ、兄妹そっくりだ。好きな相手は見つからないのに、探すつもりのない俺とは簡単に遭遇する。
くじびきでハズレたときにもらえるティッシュみたいだな、俺。
「特徴を教えてくれないか? 俺で良ければ一緒に探すよ」
「えっ……兄さん、が?」
「ああ、別に困ったことなんかないだろ? 安心しろ。見つけたらすぐに立ち去るから」
「んー、うーん……」
弟が悩んでいる。俺の協力を拒むか受け入れるかという問題ごときで悩むのか?
ポイントがずれてるだろ。もっと別のところで悩め。妹の積極的なアタックをどうやって断ろうか、とか。

「それじゃあ、協力してもらおうかな。でも、見つけたらすぐに僕に教えて。そして脇目もふらずに逃げて。
絶対に振り向いちゃ駄目だよ。僕のことは置いていっていいから」
なに、この死亡フラグを立てるような台詞。
「そんな言い方をされるとものすごく気になるんだが。一体どんな化け物なんだ。
――あ、すまん。化け物って言い方は失礼だな」
「気にしないでもいいよ。でも、会いたくない相手という意味では同じことなのかもしれない」
「さっきからすっきりしない言い方だな。はっきり言ったらどうだ? 名前は? 髪型とか身長はどんな感じだ?」
「引かないでね、特徴を聞いても」
ああ、と返事する。弟は静かに口を開く。


292 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/22(土) 19:41:14 ID:Dpu7A0J3
「髪は金色。金髪だよ」
ほうほう、金髪ね――え、黄金色? 
「ああ、欧米からの留学生なのか。地毛で金色なら仕方ないよな」
「違うよ。染めてるんだ。誰がどうひいき目に見ても金色だから、わかりやすいと思うよ。
身長は兄さんと同じぐらい。あと、無口。話さないとわからないけど」
つまり、弟の好きな女性は、ふりょ――良くない人? 
ビッグリーグに所属し、アメリカはニューヨークに本拠地を置くかの有名なチームと同じ名前の属性?
待て待て、早とちりするな。
ただ髪を金色に染めることにひとかたならぬこだわりを持っているだけかもしれないじゃないか。
あれ、そんなタイプの人間を不良とか呼称するんだったっけ?
いや、弟が好きだというなら、あえて何も言うまい。
付き合ってみればどんな人間にもいいところが見えてくる、と言う人もいるし。

「それで、名前は?」
「名前、名前は………………やっぱり、言えないよ。ごめん、兄さん」
「なんで言わないんだ? 別に教えてくれてもいいだろ」
「でも、それは。せっかく兄さんは忘れているんだから、思い出さなくてもいいかもって……」
「なあ、いい加減に教えたらどうなんだ。俺が昔のことを忘れているとかなんとかってやつ。
大事なことならはっきり言え。そういうもやもやした感じ、苦手なんだよ」
「前も言ったとおりだよ。兄さんは忘れたままの方がいい。だから、やっぱり探すのは無しにして。
お願い。この通りだから」
弟が両手を合わせて謝った。そこまでして教えたくないのか、昔のことを。
くそ、謝られたら余計に気になったじゃないか。
やっぱり、弟が嘘をついているのか? 妹の言っていたことが真実なのか?
俺が妹をいじめていて、弟が妹をかばっていたのか。
弟の好きな女の子。彼女はそのとき現場にいて、俺が妹に乱暴するところを見ていたとしたら。
気を悪くさせないため、俺と彼女を会わせないよう、弟が苦心するのは当たり前だろう。

弟に問い詰めてまで過去の罪を思い出すべきか悩んでいた、その時だった。
「……見っけ」
背後から、短いつぶやき声が聞こえた。
振り向くと、眩しい金色の髪を伸ばした女子生徒が立っていた。
金髪、俺と同じぐらいの身長。この子が弟の好きな女子に間違いない。
ただ、弟はひとつだけ伝え忘れていることがあった。
女子生徒はやけに体の発育がよかった。特に胸部。
自己主張する胸の膨らみを制服で無理矢理押さえつけている。しかし押さえきれていない。
むしろ、しわが浮かんでいるせいで二つの円形をはっきりと意識してしまう。
失礼にならない速度で顔を背ける。見続けていたら下へと目線が移動してしまいそうだった。
だが、ちらっと見た限りでは胴は細かった。足にはニーソックスを履いていた。
きっと、未だに一度も目にしたことのない絶対領域がそこにある。
一歩下がり、弟と並ぶ。この子を相手にするのは俺の役目じゃない。
「どこ行ってた? ずっと」
女子生徒の台詞は弟には理解できるらしい。快活な声で答える。
「ずっと探してたよ。朝からずっと」
「……そか。なら良い」
見ていないからわからないが、声から察するに金髪の子は機嫌を直したようだった。


293 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/22(土) 19:43:22 ID:Dpu7A0J3
彼女は警戒していたほどの危険人物ではなさそうだ。
気とられぬうちに立ち去ろうとして、振り向く。
「花火はどこにいたんだ? どこにもいなかったじゃないか」
そして、弟の声を聞き固まった。
女子生徒がどんな返事をするか聞きたかったわけじゃない。
名前だ。花火、と弟は言った。
何の脈絡もなく夏の風物詩の行方が話題に上るわけがない。女子生徒の名前は花火だ。
――花火。
聞いたことがある、気がする。
昔、小学校からの帰り道が楽しくて仕方がなかった頃の光景が頭に浮かぶ。
俺と、弟と、妹と、あともう一人、誰かがいる。一緒に遊んでいる。
女の子の名前を聞いて、昔を思い出した。
ということは、この子が俺たち兄妹と遊んでいたもう一人なのか?

「おい、お前」
不意に、ぶしつけな声によって現実に引き戻された。
「そこの一年、お前の葵の何だ? 彼氏?」
弟の前に立って睨んでいる男がいる。名前は――愛原だったと拙く記憶している。
うちのクラスの西田君と並んで女子生徒の間で有名な男だ。
ただし、西田君は女子全般から好かれているが、愛原は違う。
悪い方面でよく噂される。愛原に振られたとか、愛原に触られたとか、他にもよくない噂を色々聞く。
葉月さんも愛原に告白されたことがあるらしい。すぐに振ってやったが、しつこく話しかけてくる、と言っていた。
まとめると、スケベなところが女子から嫌われている男、ということになる。
それでも顔が良いので、やはり愛原の周りに女子は集まっている。
不条理な。男は顔じゃない。どの部位が肝心なのかは知らないが。

弟は愛原に詰め寄られている。襟を掴まれ、弟が目を細める。
「僕は花火の彼氏じゃありません。花火に聞いたらわかるはずです」
「だったら、なんでこいつのこと呼び捨てにしてんのよ? 俺が言ったらニラんでくるのに」
「それは、僕が……花火と、昔から友達だったからです。小学校に入る前から」
弟と幼なじみだった。ということは俺、妹両方にとっても幼なじみになる。
さっきの回想に出てきたもう一人は、やっぱり花火という名の少女だ。
だが、さっきから愛原は彼女を葵、と呼んでいる。ニックネームか何かか?

「ちっ、面白くねえ。なあ、彼氏じゃないんなら、こいつに近づくのやめてくれねえ?」
「な……っにを」
愛原と弟の顔が近づく。鼻と鼻が触れそうな距離で、二人の双眸が正面からぶつかり合う。
「俺、こいつのこと狙ってるから、お前みたいなやつがいると邪魔なんだ。だから、諦めてくれよ。な?」
「そんなの……」
「いいから、言えよ。もう二度と近づきません。だから花火もボクに近づかないでくれ、って――――」
愛原の言葉が最後まで続くことはなかった。
喉を締め付けられていたのだ。横から割り込んだ手によって。


294 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/22(土) 19:44:45 ID:Dpu7A0J3
「名前を呼ぶな」
「お……ぇ、ぅ…………ぁ、ご、ぃ……」
「お前には、許可していない」
弟の制服が解放された。愛原は首を持って引きずられ、地面にはたき倒された。
続けて、無防備な腹が踏みつけられる。一回一回の音が重い。手加減無しだ。
「ご、ぐっ、がぁ! おい、や、めぇっ! う゛げ、……が」
「顔だちは普通だな」
踏みつぶす目的で行われていた蹴りが止んだ。愛原は既に声も出していない。
腹を両手で押さえ、空を仰いだまま口を開閉する。
女子生徒が、口を開く。足は愛原の頬を踏みつけている。
「こんな目に遭いたくないだろ。だから台無しにしてやる」
愛原の顔がまたたく間に焦燥に彩られる。だがもはや、強者の目には映らない。
何の言葉もなく、膝が上がる。愛原の目が閉じる。
足が振り下ろされる。踵が直撃する――直前に、動作が止まった。
弟が彼女を抱いて止めていたのだ。
「やめてくれ、花火! お願いだから、もう……こういうことをするのは」
「この男、お前を掴んだ。襟……」
「平気だって! 制服なんかどうでもいいから。だからやめてよ……ね?」
「わかった」
あっさりと少女が足を下ろした。腰に巻き付いている弟の手に自らの手を添える。
「…………ん」
微笑んでいた。ようやく得られた温もりを堪能するように、目を閉じる。

隙をついて愛原が逃げ出した。ただし、中腰の姿勢で、何度もつまずきながら。
姿が見えなくなったところで、ようやく俺は周りに意識を向けられた。
文化祭の最中に起こった暴力沙汰を教師や生徒を始め、来校者に見られてはまずいことになる。
しかし、幸いにも周りに人の姿はなかった。その場に残されたのは俺と、抱き合った二人の男女だけだった。

抱擁を解いたのは弟だった。二人揃って名残惜しそうな表情になる。
「もう落ち着いた? 花火」
「ああ。でも、もう少し」
「それは、ちょっと…………」
「遠慮なんか要らないぞ」
「いや、だって……人前じゃちょっと」
弟が俺を見た。言っているとおり、やはり俺の前で抱きついているのは恥ずかしいようだ。
揚げ足をとるようで悪いが、俺の前じゃなければまだあの状態でいたのだろうか。
どうなんだろう。女の子の方も満更ではなさそうな顔だったけど。

「……ああ、確かに」
金髪の女子が、樹木に向けるような目で俺を見た。本当に忘れていたらしい。
この子、最初からずっとぽつぽつとしか喋らないな。
これほど無口な少女を相手に弟は会話を成立させていたのか。
髪の毛の強い印象のせいで判別できないのかもしれないが、やはりこの子は見たことがない。
――あ、今気づいた。女の子の右頬に肌色の絆創膏が貼られている。
頬全体を覆い隠しているせいで、整った顔の形がどこか不格好に見える。


295 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/22(土) 19:46:00 ID:Dpu7A0J3
俺の視線が気になったのか、女子生徒は顔を顰めた。後ろにいる弟に振り返り、短く言う。 
「悪い。ちょっと話がある。二人で。だから」
「……やっぱり、こうなっちゃったのか」
弟の口からため息が漏れる。
「ごめんね、花火」
「謝るな。悪くなんかない」
「兄さん、ごめん」
また謝られた。今度は合掌していないが、表情が見える分、より謝罪の念が伝わった。
「なんで謝るんだ? お前にとって幼なじみだっていうなら、俺にとっても幼なじみだろ」
「そう、だけど。いろいろとごめん。これから何が起こるかわかるけど、僕には止めることはできないから。
花火。君がどうしたいか、僕は知ってる。でも……止めない。止めないから、あんまり」
「大丈夫。軽いから」
「うん。…………兄さん、また家で」
言い残すと弟はきびすを返した。校舎の方へと向かっていく。

弟の姿を見送って、俺は女子生徒と向き合った。
そしていきなり、左から殴られた。
体が傾く。倒れる寸前で膝に力を入れて持ち直す。
舌で鉄の味を味わわされた。頬の裏を舐めると鋭い痛みが走る。傷が長い線を描いていた。
「お前! 何をす、るんだ………………」
憎しみの籠もった目は、妹に向けられて慣れているつもりだった。
だが、俺は甘かったようだ。誰も、目の前の女の子のように、一心に強い負の感情を向けてくることはなかった。
怨まれている。俺の存在そのものを憎んでいる。彼女の目が俺に、消えろ、消えてしまえ、と叫んでいる。

ようやく思い出した。
目がそっくりそのままだ。俺が最後に見た彼女の瞳の色から、少しも翳っていない。
金髪の女の子の名前は花火。俺が知っている彼女は昔黒髪だった。
触り心地が良くて、何度もいじった。いじる度にはたかれた。
右の頬。本当は左頬と同じように、傷一つ無かった。今では絆創膏を貼っている。
絆創膏の下にあるものが何か、見せてもらわなくても想像がつく。


296 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/22(土) 19:46:52 ID:Dpu7A0J3
もう、疑う余地はない。
昔と違い、かなりイイ感じに体が成長しているが、間違いない。
――こいつの名前は、葵紋花火だ。
弟とは、半身を分けたように仲の良い幼なじみだった。
俺にとっては、妹以上に可愛く思っていた妹的存在だった。
すでに過去のことだ。取り返すことも、やり直すことも、修復することもできない。
過去の俺がやったことは、花火との仲に決定的な亀裂をいれた。
花火の体と人生を、最悪の形で台無しにしてしまっていた。

花火の右手が、右頬を完全に覆っていた絆創膏をおもむろに剥がしていく。
隠されていた肌が、顎から鼻へ向けて少しずつ露わになっていく。
花火の顔が自由になる。右手が下る。左手が頬に当たる。
左手の人差し指が、頬の傷痕を撫でた。右目の下から顎へ向けて一直線に伸びている。
それをやったのは俺だ。花火の頬に残された創は、俺がつけたものだ。

五寸釘を打ち込まれたように、脳が痛む。あふれだした膨大な情報量に耐えかね、頭が悲鳴をあげた。
両手に感触が甦る。包丁の柄の感触だ。俺が、――を傷つけるために、持ち出した包丁だ。

視界が脳裏に浮かんだ光景と切り替わる。
妹が自らの肩を抱いて震えている。弟が妹を包むように抱きしめている。
母が口元を両手で覆い床にへたり込んでいる。父はしゃがみ込み、何か叫んで、いや、呼びかけている。
父が呼びかけている相手は、――だ。小さい頃の俺がもっとも嫌悪していた相手だ。
――は倒れたままで、自ら起きる気配を見せない。小さい俺が、ざまあみろ、と呟いた。
ふと振り返る。視線の先に花火がいた。
横向きに倒れ、右の頬を両手で押さえている。流れ出す血が絵の具を薄めた水みたいだ。
花火が泣いている。痛みと、あと、俺が恐ろしかったからなんだろう。
血と涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、花火が呟いた。
小さな体に沸いた、堪えきれない憎悪を滲ませながら――この、ひとごろし、と。

包丁を取り落とした。床が急速に近づく。逃れられず、鼻をぶつけた。

回想から目が覚めた。俺は自分の膝に手をついて、どうにか立っている状態だった。
吐き気が脳を不安定にさせる。気を緩めたらそこで終わりそうだった。
たった今思い出した過去の情景。それを血で彩ったのは俺だ。
どうして包丁を持ち出したのか、なんで妹のように思っていた花火を傷つけたのか、いったい誰を憎んでいたのか、
細部は少しも思い出せない。だけど、俺がやったことだけは間違いない。
首を持ち上げて、花火の顔を見上げる。
不自然に浮いた傷痕は、すでに絆創膏によって覆い隠されていた。


297 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/22(土) 19:47:37 ID:Dpu7A0J3
*****

「久しぶり。アニキ」
アニキ――本名は口にもしたくない――は、今にも倒れそうなほどふらふらになっている。
私に殴られたダメージを引きずっているわけじゃなさそうだ。
昔自分のしでかしたことを思い出したらしい。私の傷を見た途端に体をぐらつかせたのが証拠だ。
「なんとか言いなよ。久しぶりとか、元気だったかとか。喋れないほど口の中、切れてないだろ?」
アニキは口を少しだけ開けた。けど、半開きのまま固まった。
何も言いたくないのか、言うべき言葉が無いのか、言うべきか躊躇っているのか。
じゃあ、こっちから一方的に言わせてもらおう。
「よくも私の前に顔を出せたね。しかも、今更。何年も経って、ようやく会う決心がついた?
赦されている頃だとでも思っていた? 無いよ。絶対に無い。アニキが赦されることなんか無い。
私の傷は消えないんだから、それぐらいの仕打ちは当然だろ。歯を根こそぎへし折られないだけマシだと思いなよ。
それより、まだ兄貴面してアニキの役を演じてるわけ? 気持ち悪いよ――なんで生きていられるの?
ああ、そういえばあいつ、言ってたっけ。アニキは昔のことを忘れているって。だからまだ生きてんだ」
「俺は――」
アニキがようやく口を開いた。ただし、顔は俯いたまま。
「お前に傷を負わせた。その、右頬に」
「ようやく思い出したね。じゃあ次は、言い訳してみる? なんで私に傷をつけたのか」
「わからない。俺は……誰かを嫌っていて、それで」
「そのとばっちりで、私の頬を切ったんだ。憎んでもいない女の顔にねえ。
アニキってさあ……汚いよね。私はあれがあったせいで一年も学校を休んだ。誰にも顔を見せたくなかったから。
なのに、普通に学校行って、あいつとちっさい妹の兄貴分をやってる。自分が恥ずかしくない?」

唐突にアニキが頭を下げた。続けて言われるだろう台詞が私の頭に浮かぶ。
「すまない! いや、ごめん!」
……ほら、予想通りだった。
アニキみたいに空っぽな人間の頭なんて、何回下げられても誠意を感じられないよ。
「赦さないって言っただろ。何の真似?」
「謝らせてくれ! 俺は、ひどいことして、ましてや自分でやったことを忘れていて!
今の今までずっと謝っていなかった。だから……ごめん!」
――遅いよ、アニキ。
なんで今更謝るんだよ? 全部手遅れだよ。
すぐに謝ってくれていれば、同じ気持ちを持ち続けていられたのに。
アニキとあいつとちっさい妹と私の四人、ずっと仲良しのままだったはず。

なんか、馬鹿馬鹿しくなってきた。
いつまでもアニキなんかにこだわってたら、あいつと遊ぶことができなくなる。
声をかけず、その場を後にすることにした。
「待ってくれ! 花火!」
呼び止められた。しかも名前まで呼ばれた。
ま、いっか。アニキと会うのはこれっきりだ。二度と会うこともないだろう。
足を止めて、振り向かずに言う。
「……なんか用? 私今から用事があるんだけど」
「俺がお前にできることは何か、ないのか? できることなら、なんでもやる」
「じゃあ、逆に聞くけど、アニキは何ができる? まだ高校生だろ。自立してもいないじゃん。
できることが限られている人間にそんなこと言われても、私が得することなんかないよ」
そういう意味では、私だって人のことは言えない立場だけど。
私があいつにできることは、ずっと傍にいてやること。
あと、あいつが求めてくることに精一杯応えること。それぐらいだ。
「そうだね、一つだけあるかな。アニキにできそうなこと」
「ホントか?!」
「ああ。――今日を最後に、二度と私の前に姿を見せないでくれ。それだけ。じゃね」
言い残して、立ち去る。アニキが追ってくるような足音はしない。
最後のアニキの顔、どんなんだっただろ。
傑作な泣き顔になっていたら嬉しい。でもむせび泣く声は聞こえなかった。
声を殺して、涙ぐらいは流してたかもしれない。


298 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/22(土) 19:48:20 ID:Dpu7A0J3
校舎の角を曲がったところで、あいつは待っていた。
私の姿を確認して、複雑な顔をしながら近づき、目の前で止まる。
「花火。…………もう話は終わった?」
「うん」
声で返事した。でも聞こえなかったかも。一応、頷きもしておく。
こいつと話すとき、私はどうしても声を張れなくなる。
だから今のように、言葉を短く切って喋らなければいけない。
アニキに対して普通に話していたのは、嫌われてもかまわない相手だからだ。
でも、こいつは違う。こいつに嫌われたら、私はもう生きていけない。
一年間のひきこもり状態から外に出た日。久しぶりに見たこいつの顔にどれほど癒されたことか。
あの笑顔を一年間も見ていなかったことは、私の人生にとって大きな損失だった。
こいつは、それからも事あるごとに世話を焼いてくれた。もはや一生尽くしても恩を返しきれない。
返しきれないけど、生きているうちはこいつのためだけに動こうと決めている。
アニキに近づくなと言ったのは、こいつのためでもある。
いつまでも兄弟だからって一緒にいたら、悪い影響を受けるに決まってる。
こいつの邪魔になる者や心を汚す者は、すべて排除する。
奪おうとする人間は消してやる。私は絶対にこいつを放さない。こいつから離れない。

肩を並べて歩く。こうやってゆっくり過ごすのは久しぶりだ。
文化祭の準備とかでずっと会えなかったから、もう二週間ぐらいになる。
だから、二週間分今日は甘えようと思う。と言っても、腕を組んでひたすら歩き続けるだけ。
「いいか? 腕」
「うん。もちろん」
許可をいただいた。腕をとって、両腕で抱き込む。胸に埋め込むつもりで強く、強く抱きしめる。
この時だけは、自分でも邪魔に思うくらい大きい胸に感謝したくなる。
こいつだって表情こそ平静だけど、しっかり反応している。顔は紅くなるし、歩き方もぎこちなくなる。
可愛いよなあ。私、こいつが好きだよなあ。
早く私をモノにしてくれないかな。いくらでも汚してくれて構わないからさ。覚悟はとっくに済ませているんだ。


299 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/22(土) 19:49:03 ID:Dpu7A0J3
「どこか行きたいところとかある?」
「いいや」
「なら、今から学校を出よう。妹がこんな姿を見たらものすごい剣幕で怒るに決まってる」
「…………わかった。いい」
ちっさい妹。まだお前はこいつを狙っているのか。
昔からそうだったな。ずっとこいつにくっついていた。そういや、あの頃はアニキにも懐いていたっけ。
もう諦めるんだな。私とこいつの間に割り込めるスペースは一切残されていない。
風呂にも一緒に入っているらしいな。話の最中に口を滑らせたとき、しっかり耳にしたよ。
何もされていないんだろう? 全裸を見せても、押し倒されたことはないだろう?
当然だ。所詮、妹。欲情の対象にはならない。
私の胸の柔らかさを知っているこいつにとっては、ちっさい妹の体など小学生にしか見えない。
ロリコンだったら話は別だが、これまた残念、こいつの性的嗜好は私の体にマッチしている。
大きい胸、くびれたウエスト、整った尻、なめらかな足。全てを私は併せ持っている。
年々成長しているから、まだまだ差はつくぞ。

誰にも声をかけられることなく、校門を出た。
これからずっと、制限時間までくっついていられる。
けれど、時間はあっという間に過ぎていく。こいつといると、いつもこうだ。
時間が止まってしまえばいいのに。時間制限なんか無視して、くっついていられればいいのに。
――制約を強いるやつらなんて、全員いなくなってしまえばいいんだ。

「花火」
「なんだ」
「こんなお願い、ずるいんだけど」
「ん?」
「僕のこと、嫌いにならないでいてくれるかな?」
「……もちろん」
何があったって、私はお前を嫌ったりしない。命の続く限り、お前を愛する。
お前が死にそうなときは私の命を分ける。もし死んでしまったときには、自らの命を絶って添い遂げる。
私はお前と一緒にいたい。いつだって願いは変わらない。
お前も、もし私を好いていてくれるのなら――ずっと、一緒にいてくれ。


300 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2007/12/22(土) 19:53:17 ID:Dpu7A0J3
投下終了です。文化祭編はこれで終了です。