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169 :Tomorrow Never Comes2話「捩れ」 ◆j1vYueMMw6 [sage] :2009/01/21(水) 22:22:18 ID:BKFgU1gH
大きな、壁のように圧倒的な何かを見たのを最後に、私の意識は一度途絶えた。

熱さと生臭さで目が覚めた私が最初に見たのは、赤。左頬が赤い何かにぐっちょりと浸かっていた。
鉄のような匂いと生暖かさから、血だと理解するのに、時間はかからなかった。

反射的に退いて、横になった体を起こそうとしたが、体はまったく持ち上がる気配が無い。頭だけでも、と思い動かすと、想像を絶する激痛が顔の右側を襲った。

今の私は、左半身を下にして横になっている。激痛と血を考慮すると、私は怪我をしているのかもしれない。
ただ、起き上がれないのは怪我のせいではないように思える。右側に何かが圧し掛かってきているのを感じているのだが、何故か視界が黒く、よく見えない。それで起きようとすれば激痛。八方塞とはこのことか。

私は今どこにいるのだろうか。確か、今日は学校が終業式だった。家に帰るや否や、父と母は満面の笑みを浮かべ、私を制服のまま車に押し込んだ。

今日はお出かけよ。

なんでも欲しいものを買ってあげるからな。

そう言った両親は本当に嬉しそうで、私はクリスマスが近いことを思い出した。普段は助手席に乗る母が、今日は後ろの私の右側に座り、私の頭を撫でてくれて、父は運転席で羨ましそうな声をあげている。

少し遠くのショッピングモールへ行くため、車は国道に乗った。

━━そして、壁を見た。
あの壁は黒かった。目のようなライトがあった。口のようなバンパーがあった。フロントガラスがあった。トラックだった。

血の気が引く、というのをリアルに体験する。体を恐怖が占領する。心臓が唸る。

ずるっ、という擦れる音がすると、右側の重さがなくなった。
同時に、何かが前のシートとの間に落ちる。
栗毛の髪、白い肌、ピンクのセーター、ベージュのロングスカート。
普段は助手席に乗る母が、今日は後ろの私の右側に座り、私の頭を撫でてくれた。

━━ハハガ、ワタシノミギガワニ。

運転席に目を向ける。
ヒビだらけフロントガラスの向こうには、ひしゃげたエンジン部分と、トラックの一部があった。というより、トラックはすでにこちら側まで入ってきており、運転席は完全に潰れている。
一本、血まみれで、所々ガラス片の刺さった血まみれの何かが間から伸びている。
父は運転席で羨ましそうな声をあげていた。

━━チチハ、ウンテンセキニ。

母と、目が合った。


170 :Tomorrow Never Comes2話「捩れ」 ◆j1vYueMMw6 [sage] :2009/01/21(水) 22:23:15 ID:BKFgU1gH
テレビを点けると、過剰なまでに脚色された再現VTRが流れていた。テレビを信じるな、と唯一教え込まれてきた俺は、すっかりアンチマスメディアとなってしまった。

庭ではマエダとルイスが、軽く引いてしまうぐらいの勢いでドッグフードを貪っており、ガラス戸越しでも、はっきりと聞こえている。まぁ、朝7時に食べて、今まで何も食べないというのは辛いだろう。

言っておくが、昼を食べさせないのは普通のことである。犬は一日二食、朝と晩だけだ。何故かは知らない。

何も手を加えない、生まれたままの姿の食パンを咥えながら、二階へ上がろうとした所でようやく、ソレに気付いた。

「なんだ、これ?」テーブルの真中に置かれた紙を持ち上げる。一枚は掌と同程度のサイズの横長で、『東京-岡山』と大きく書かれてあり、『サンライズ出雲』とも書かれてあった。

「切符、だよな」時刻的には、あと二時間もすれば出発する。「なんでこんなタイムリーなもんが・・・?」

次に、A4サイズの紙を手に取る。家にあるコピー用紙と同じ感触がしたので、それだろう。紙には腹が立つほどの丸文字で一言、『乗れ』とだけ、太いマジックで書いてあった。

「意味わかんねぇよ、母さん・・・」

丸文字が母のものなのはわかるが、意味がわからない。

突然、マエダが吠えた。

直後、チャイムが鳴った。


171 :Tomorrow Never Comes2話「捩れ」 ◆j1vYueMMw6 [sage] :2009/01/21(水) 22:24:05 ID:BKFgU1gH
「お待たせっ。ほら、時間ないから、早くっ」

訪問してきたのは股引姿に鉢巻を巻いた、どこかで見たようなおっさんで、いきなり俺の腕を掴むと軽トラックに引き込もうとした。当然、抵抗する。

「ちょっ、まっ・・・待て、よっ」

手を振り解こうとするも、おっさんはなかなか離れない。自称スポーツ少年の高校生が、股引鉢巻のおっさんに翻弄されている姿は、さぞかし茶の間の笑いを誘うことだろう。

「待てないって。電車が出ちゃうでしょうが」

「電車、って」俺が抵抗を止めたからか、おっさんも引っ張るのを止めた。俺は手に持ちっぱなしだった切符を見せる。「もしかして、コレ?」

おっさんは目を細め、顔を近づけたり離したりを何度か繰り返してから、これだよ、とだけ答えて俺を車に押し込んだ。

「のぉっ」頭からダイブした座席は、きんぴら煮の匂いがした。

「荷物は・・・これかな。ほいよっ」

ドサリ、という音と共に、車体が僅かに揺れた。すぐにおっさんが運転席に乗り込んできて、再び揺れた。

「ほらほら、シートベルトしないと。おじさんが罰金取られちゃうよ」

身の安全よりも金とは。どこか物悲しい気分で、シートベルトを締めた。・・・じゃない。流される所だった。

「っつうか、おっさん、」

「舌噛むよ~」おっさんがそういい終わるよりも早く、俺は強烈な衝撃を受けて、シートの背もたれに叩きつけられた。


172 :Tomorrow Never Comes2話「捩れ」 ◆j1vYueMMw6 [sage] :2009/01/21(水) 22:24:53 ID:BKFgU1gH
「っは・・・」

あまりに突然で、一瞬、呼吸すらあやふやになってしまった。

落ち着いてから窓の外を見ると、ありえないとしか言い様が無かった。景色が流れていく、というような甘っちょろい表現じゃない。景色が認識できない。

あ、街灯。あ、傘を差した人。そんなのが車だと思っていた。

あ、青っぽい何か。あ、赤っぽい何か。俺の目がおかしいのではないかと疑うが、背もたれからビクともしない体が、そうではないと告げている。軽トラがこんな速度出せるわけねぇだろ。

さらに信じられないのが、車線という、交通ルールの基本を完全に、全快バリバリにシカトしているということだ。

夜とはいえ、それなりに車は走っている。こんなバカみたいな速度で走っていれば追いつくのも当たり前なわけで、そのたびに反対車線に乗り上げ追い抜かしている。
まるで魔法のように、車の間を縫うように走っていく。魔法の軽トラに乗った、股引鉢巻の魔法使い。吐き気がする。

「おっと、俺のクリスチーナに吐くなよ」

「吐きませんよ」この速度なら、吐いたら顔面に戻ってきそうだ。「っつうか、クリスチーナって」

「おじさんの愛車よ。奥さんと同じ名前付けてんの」

「グローバルですね」

「ぐろー・・・?ちがうちがう、クリスチーナ」どうやら会話は出来そうにない。


状況を冷静に考えようにも、頭が回らない、回せない。マジでGがパネェ。

ヒントを得ようにも、相手は魔法の国出身なので会話が出来ない。

何なんだ、この状況は。今日は終業式で、昼飯を食べたらすぐに部活だった。レギュラーではない俺は、いつものようにサポートばかりの退屈な部活で、それで家に帰ったら謎の切符があって、魔法使いに拉致られた。

シュールだ。

右手に持ちっぱなしの切符を見る。『東京-岡山』『サンライズ出雲』の他に、『寝台券』『個室』と言ったワードも書かれていた。
切符、というからには何かに乗るための物で、『寝台』という言葉などから考えるに、電車だろう。つまり、岡山行きの夜行列車か。

岡山と言えば、降水量少なかったり、備中松山城、桃や葡萄、吉備津神社など、色々あるだろうが、我が家では黒崎家が一番最初に挙がる。

黒崎は母の妹、つまり俺にとっての叔母さんの家族だ。今となっては、母にとっての唯一の血縁になってしまった。そのせいか、昔から仲が良く、なかなか遠い距離でありながらも、黒崎の一家が我が家によく訪問してきた記憶がある。
斎藤の一家はというと、覚えている限り、一回しか行った記憶がない。

「あ・・・」唐突に思い出した。

「漏らしたか?」

「いや、大丈夫です」

「よかった~」

「わかりましたから、前を向いてください」クリスチーナが電柱と浮気しますよ、と小声で付け足して、俺は意識が途絶えた。


173 :Tomorrow Never Comes2話「捩れ」 ◆j1vYueMMw6 [sage] :2009/01/21(水) 22:25:39 ID:BKFgU1gH
「起きんしゃい、ほら、起きんしゃいって」

「んっ・・・」ゆさゆさと体を揺すられる度に、きんぴらの匂いが強くなる。

寝ぼけ眼が最初に捉えたのは古くなった明太子のような色の唇だった。吐き気がする。

「うぅっ」勢いよくドアを開けると、遠慮なく吐いた。昼から何も食べていないのに、驚くほど出た。

「いやぁ、車の中ではしっかり我慢するなんて、偉いねぇ」

愛車が汚れなかったのがそんなに嬉しいのか、おっさんはやたらと素敵な笑顔を浮かべ、フェンスの金網を掴みながら戻し続ける俺を見ていた。

「目的地についたら助手席の前に袋が出るシステムを投入したらいかがですか」

「おっ、それいいかもねぇ」

「冗談でしょ?」そのうち荷台にロケットエンジンでもつくのではなかろうか。

辺りを見渡すと、ここが駐車場だと言うことは理解できた。背の高いビルに挟まれているせいで薄暗く、スペースも4台分しかないという狭さ。
建物の隙間からは、止まない轟音とともに絶え間なく行き交う車が見えた。さらにその向こうには、目を疑うほどに高いビルが乱立してる。

「ここ、どこっスか?」

「ほら、急いで」おっさんは質問には答えずに、荷台に乗って、大きなスポーツバッグを投げてきた。
慌てて受け止めると、合宿の時に買ったものだと気付いた。「玄関にあるから持ってきたけど、それであってるよね?」

あってる、というのは俺の物、という意味だろうか。よくわからないまま中を見てみると、入れた覚えのない部屋着や歯ブラシなどがあった。
なんとなく、状況が理解できてきた。

「おっさ・・・オジサンは、もしかして父の知り合いですか?」

「そうだよ、さっきいきなり電話で頼まれてねぇ」

ようやくことの全貌が見えてきた。要するにこれは両親なりの気遣いで、独りで冬休みを過ごす寂しい俺に、せめて家族同然の黒崎家で楽しく過ごさせようとしているのだろう。
それならば、わざわざ寝台特急に乗せる理由もわかる。

もしかしたら、両親も後から駆けつけるかもしれないし、姉は既に行っているという事もありうる。ただ、俺に予定がないと決め付けられているのは寂しい。

父にはどういう繋がりか、変な友人が多い。このオジサンもそうだろう。類は友を呼ぶ、だ。こんな変人を呼び寄せるのは父しかいない。

「ほら、早く早く。電車出ちゃうよ」

そうとわかれば割り切ろう。部活には葬式がどうとか言えばいい。俺は冬休みを満喫させてもらう。

駅へと走りながら、いったいオジサンの奥さんはどれだけ恐い人なのかを想像していた。


174 :Tomorrow Never Comes2話「捩れ」 ◆j1vYueMMw6 [sage] :2009/01/21(水) 22:26:33 ID:BKFgU1gH
間一髪とはまさにこれで、俺が乗車してから、座席を見つける前に電車は出発した。

夜行列車、というと何故か物悲しいイメージがあるが、このサンライズ出雲は違う。いや、もしかしたら最近のは全部そうかもしれないが、俺はコレにしか乗ったことがないので比べ様がない。

内装は細部まで気が遣われており、そこら辺のしょぼいホテルよりは格段良い。シャワー室や、時間は限定されているが売店もある。談話室や喫煙室、なかにはツインベッドの二人用の部屋まである。

部屋を見つけるのに、大した時間はかからなかった。親切な案内図の存在もあるが、やはり二度目というのが強みだ。

昔、たった一度だけの家族旅行が、このサンライズ出雲に乗っての旅行だった。幼かったので記憶は曖昧だが、物凄くテンションが高かったのだけは覚えている。
そのせいか、まだ9時間以上もあるのに、高揚して眠れなかった。


なんとなく談話室に赴くと、一人の男性がいた。ハイになっている俺に、恐いものはない。「こんばんは」

男性は突然の訪問者に驚き、ビクついたものの、すぐに「こんばんは」と返事をしてくれた。ほんの少し、警戒しているよう見えるのは、俺が制服姿だからだろうか。

初見はどこか梅ちゃんを彷彿とさせたが、弱々しくも、全てを許容するような笑顔は、男の俺でさえドキリとするものだった。

目にかかるほどの黒髪に隠れがちだが、よくみると瞳はくすんだ色をしている。端整とまではいかずとも、どちらかと言えば美形に入る顔つきだろう。歳は二十歳ぐらいか。

テーブルを挟んで向かい合う形で座ると、彼は佐藤と名乗った。一瞬、佐藤登志男が浮かぶが、佐藤という苗字は五万といるので、関係はないだろう。
何より、登志男は美形ではない。
彼が苗字だけ名乗ったので、俺も斎藤とだけ名乗った。彼は、似てますね、と笑った。

夜行列車という場所がそうさせるのか、お互いに聞いてもいない身の上話を交互に語り、気付けば日付は変わっていた。
そろそろ退散し様かと思った所で、突然女性が現れた。

長い黒髪を頭の横で一本に束ねている彼女は、アマネと名乗った。
佐藤さんとの会話を聞く限り、二人は知り合い、もしくはそれ以上の仲らしい。パッチリとした瞳と笑顔が可愛らしい。
流石にお邪魔かとも思ったが、彼女が話したいと言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。


結局、一睡もできないまま、岡山駅のホームに下りた。閉まった扉を見ると、変わらぬ笑顔のアマネさんと、会ったときよりも若干やつれて見える佐藤さんが手を振ってくれていた。
二人を見送ると、俺は改札へ向かった。

あれから7時間ちょい。アマネさんのマイクパフォーマンスは素晴らしかった。話を途絶えさせない質問の嵐と、意欲をそそるような聞き方、そして退屈させない巧みな話術。
是非ともMCとして、最近の低迷気味のバラティ番組をを改革していただきたい


175 :Tomorrow Never Comes2話「捩れ」 ◆j1vYueMMw6 [sage] :2009/01/21(水) 22:27:24 ID:BKFgU1gH
半ば眠りながら改札を抜けると、明らかに異端な黒服が目に付いた。

黒い上下のスーツに、黒いサングラスをかけた角刈り。避けたほうがよさそうだが、さっきから写真を片手にチラチラこちらを見てくる。
挙句、人を押しのけながらこっちまで来る。「斎藤憲輔さんですね」

「ええ、まぁ、はい」

こちらへと言って、再び人の波をかき分けながら進む黒服についていくと、駅前のロータリーでタクシーを拾った。運転手に行き先を告げていたが、あとから乗り込んだ俺は、他の車の音でよく聞こえなかった。

走り出したタクシーの中、なんとなく気まずい空気に戸惑う。
身を細くしながら扉によりかかり、この人も父さんの知り合いだな、とぼんやりと、しかし、確かな自信を持って考えていた。

「この度は、残念でしたね」

黒服が突然言うが、意味がわからなかった。顔を合わせると、黒服が首を傾げた。「ご存知でない?」

「なんのことかさっぱり」先ほど、チラリと見た売店の朝刊に『米大統領、就任前の期待は何処へ』という一面があったが、まさかそんな話題を高校生には振るまい。

「お父上からご連絡は?」

「連絡・・・あ、昨日から携帯の電池が切れっぱなしで」

「なるほど、そうでしたか」口調は丁寧だが、目は明らかに俺に失望していた。仕方ないじゃないか。メールを2通受信したら電池が2になるようなオンボロだぞ。それに、終業式という退屈なイベントもあったのだ。

黒服が実は、と切り出した所で、タクシーは停車し、俺のほうだけ扉が開いた。

「・・・ご自身でご確認するべきでしょう」そう言って、紙切れを渡された。302、とだけ書いてある。「行って下さい」

タクシーは駐車場に止まっていた。最初に見えたのは、少し汚れた白い壁で、見上げて初めて病院だと理解した。
楽しい気分や、うきうきした気持ちで病院に来ることは少ない。僅かに、胸が苦しい。


176 :Tomorrow Never Comes2話「捩れ」 ◆j1vYueMMw6 [sage] :2009/01/21(水) 22:28:21 ID:BKFgU1gH
こんな時間から面会はしてないんですよねぇ、と言う白髪の医者を押し退けた。
エレベーターを待ちきれず、階段を駆け上がる。4階は大した高さではないが、息切れを起こすには充分だった。

息を整えようともせず、また走る。番号が若いわりに、302号室は遠く、たどり着いたときには過呼吸になりかねないほど酸素を求めていた。

扉に手を当て、息を整える。吸って、吐いて。顔を上げる。

表札には『黒崎くるみ』と書かれていた。

ヒュッ、という音が聞こえたかと思うと、呼吸が出来なくなり、膝を突いた。本当に過呼吸になりやがった、このアホ。

「憲輔さんっ」エレベーターの扉が開いた音の後、黒服が駆け寄ってくるのが分かった。どんだけ遠回りしてたんだよ、俺は。

彼は俺の手を取ると、両手で口を覆わせた。さらに、その上から黒服の手が覆い被さり、指と指の隙間が完全に隠れた。

1分せずに、俺の呼吸は落ち着きを取り戻した。今のは、ビニール袋を当てるのと同じ原理だろうか。

「ありがとうございます」

人より過呼吸になりやすい体質とはいえ、情けない。不安や衝撃もあったが、それにしたって・・・なぁ。

「いえ、それよりも」彼は表札に目をやる。

もう一度見ても、書いてある文字は変わらない。

『黒崎くるみ』


177 :Tomorrow Never Comes2話「捩れ」 ◆j1vYueMMw6 [sage] :2009/01/21(水) 22:29:00 ID:BKFgU1gH
私は外で待ちます。

そういった黒服を置いて、病室へと入った。意を決してスライドさせたドアは軽く、どこか空回りした気分だった。

真っ白な空間。壁も、天井も、ベッドも、備品も。ゆったりとした個室を見て、多分、俺の部屋より広いな、と場違いなことを考えた。

大きなベッドの枕もとには、小さな山が出来ていた。いわゆる体育座りをして膝に顔を埋めており、長い栗毛だけが見えた。

再び過呼吸になりかねないほどの締め付けを胸に感じ、それに堪えながら、口を開く。「くるみ」

栗毛が揺れ、顔が上がる。

中学3年生の割に、まだ幼い顔つき。細く、小さい体。一家全員がおそろいの亜麻色の髪。

━━そして

「・・・お兄ちゃん?」

久しぶりに見た従妹の顔には包帯が巻かれていた。