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299 :ワイヤード 第十七話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2009/01/24(土) 23:51:27 ID:PqgTn3fx
第十七話『遥か久遠の彼方に・前編』

この山は久遠の家、九音寺家の持ち物である。
それだけではない。この山のふもとにある千歳たちの通う私立高校も、もとを辿れば九音時家が出資して作られたものだ。
今は経営者が変わっているが、この辺りの地域を切り開いて活気付けたのは、九音寺家の功績だった。
故に、彼らの権力は強く、商店街などはいまだ主導権を握っている。
ヤクザというとあまり聞こえがよろしくないが、彼らは進んで汚いことに手を染めたりはしないし、人道に外れた行いもしない。
彼らは、カタギの人々が思っている以上に暗黒に包まれているこの日本の裏社会の波から、街を守っているのである。
さて、今千歳と久遠が入ったこの小屋は『旧九音寺跡』と呼ばれる場所で、たいそうな名前だが単なる庵だ。
もともと、何代か前の九音寺家の党首が出家した際に引きこもったとされる場所で、寺と言っても一人分の質素な居住すスペースに過ぎない。
隠者とは本来そういうものであるとは言え、この山奥で一人どうやって過ごしたのか。千歳は想像すら出来なかった。
街に下りていたのだろうか。が、九音寺組の親分が一度話してくれた伝説によると、久遠聖人とよばれたその僧侶は、ずっと野山で山菜をとって生活し、冥想にふけり、そして悟りを開いたのだという。
千歳は仏教家ではないがどれがいいかと質問されると三大宗教の中では仏教を好んでいると答える性質だ。
故に、むしろ疑問だった。
シャカは確かに偉大だ。が、それ以外の人間に果たして悟りなど開けるのか。
人間が、それほどに『真実』を究めることが出来るのか。
どうも、千歳には信じられなかった。
だが、久遠とつきあううちに、変わった。
久遠は、どの人類よりも『真実』に近いだろう。千歳は、そう思っている。

二人の出会いは、7年前までさかのぼる。

 ♪ ♪ ♪



300 :ワイヤード 第十七話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2009/01/24(土) 23:52:04 ID:PqgTn3fx
「死んでやる……死んでやる……」
千歳がある『妄想』に取り付かれていた時期だった。
「俺は、何も救えない。俺は、神が見えた。だから、限界を知った。だから、救えない」
ちとせはある事件の影響で、ある種の真実に触れた。故に、無力感のあまり精神崩壊を起こしたのだ。
病院を抜け出した千歳は、ぶつぶつとネガティブな言葉を発しながら山の奥へと進んでいく。
この森で、誰にも見つからず死にたい。
「俺は、頑張っても神にはなれない……。だから、死んだほうがましだ」
虚ろな目からは、涙が絶え間なく流れていた。
秋。枯れ葉がつもり、足がとられる。苛立ちと悔しさと、枯れ葉とともに積もる無力感に打ちひしがれながらも、千歳は先を目指した。
本当は、どこで死のうなどどいう目的はない。
ただ、奥へ行きたかった。
真実に触れた今、ただ盲目的に前に進むことが何を招くか。それを知りながらも、進もうとしていた。
明確な終着点がなくても、ただ、立ち止まるのは嫌だった。
「しぬの?」
そのときだった。
上から、小さな声が落ちてきていた。
かほそく、森の沈黙の中にかき消されてしまいそうな、そんな声。
雛鳥の鳴き声にも似た。
「ああ、死ぬ」
千歳は、声の主を探り当てようともせず、応えた。
声の主が、人間であるとは、なぜか思えなかった。死後の世界からの迎えが来たのであろうと、千歳はなぜか思っていた。
妄想だったのだろうか。それとも。
その答えは、誰にもわからない。
「ころしてあげようか?」
「ああ、できるなら、そうしてくれ」
「そう……じゃあ、ここからおろして」
「はぁ?」
ここでやっと千歳は声の主のいるであろう方向を見た。
見ると、巨大な木があった。樹齢は相当なものだろう。その上に、小さな影。
千歳と、同い年くらいの少女だった。
「お、お前、そこにのぼったのか!?」
「そう」
「そんで、降りられないのか?」
「そう」
「のぼったんなら、降りられるだろ!?」
「ちがうよ、ぜんぜんちがうよ」
「なにが違うってんだよ!」
「まえにばっかりすすんでたら、いつのまにかうしろがみえてなかったの」
「お前なに言って……」
――いや。
千歳は気付いた。
それは、俺のことだ。


301 :ワイヤード 第十七話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2009/01/24(土) 23:52:34 ID:PqgTn3fx
前しか見えていなかった。だから、大切なものを見落としていた。
何かにこだわって進むのはいいことだが、たまには立ち止まって、周りをみていなければ。
隣にいて、手をつないでいたい人も、いつの間にかいなくなっているかもしれない。
そうだ、そうやって……。
(そうやって、俺は守りたいものを失っていったんだ……!)
守るために戦って、その結果、守りたいものを壊した。
退かないことも、媚びないことも、省みないことも、強くなるには必要なことだ。
しかし、逆もまた、然りだった。
時に、退かねば。時に、媚びねば。時に、省みねば。本当の強さは得られない。成長しない。
(そうか……俺は……!)
「わかったら、うけとめてね」
「はっ……? え……。ええっ!?」
少女は千歳がその事実を認識する前に、木の枝から飛び出していた。
軽いからだはふっと落下する。このままでは大怪我だ。
「蒼天院清水拳・柔水盾(やわみずのたて)!」
ギリギリで落下点に追いつき、清水拳による空気の壁をつくってやんわりと減速させる。
ゆっくりと地面に近づいた瞬間千歳が見事キャッチし、そのまま倒れた。
地面が枯れ葉で覆われていて、良いクッションになってくれた。幸い、二人とも無傷だ。
「お、お前……あぶねーぞ! いきなり飛ぶなんて!」
「でも、ちとせはつかまえてくれた」
「ああ、俺だからできたけど、他の奴は……。あれ? なんで俺の名前を……?」
「かおにかいてる」
「顔に……?」
顔を触ってみるが、何もついていないし、顔に落書きした記憶もなければ、された記憶もない。
「ありがと、ちとせ。だいすき!」
少女は魅力的な微笑みを浮かべて、千歳にだきついた。



302 :ワイヤード 第十七話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2009/01/24(土) 23:53:31 ID:PqgTn3fx
 ♪ ♪ ♪

現在。
小屋の中の机にすわろうとする千歳だったが、久遠に「ちとせちとせ」と呼ばれ、振り向く。
久遠はベッドの中にもぐり込んでおり、傍らをぽんぽんと叩いていた。
「ちとせ、おんなにして」
「お前、それどこで覚えた?」
「すいーつ!」
「まさに世も末だな」
あきれながらも、千歳はベッドに歩み寄り、腰をおろした。
「ちとせ、ひざまくら!」
「してくれる……わけねえよな。俺がするんだよな」
「ちとせのにおいー」
「さりげなく股間の匂いをかぐな。犬かお前は」
「わんわん♪」
「……ああ、ツッコミきれんわ」
膝に久遠を乗せながら、千歳はそろそろ本題に移ろうとしていた。
「それで、お前に聞きたいことなんだが」
「うん、なんでもきーて」
「お前は、『クオリア』を見たんだよな」
「くおりあ……?」
「真実ってことだ」
「ほんとうのこと……? それなら、たぶん、ちょっとだけ、みた」
「俺とお前以外にも『クオリア』を見たやつが出た。それで聞きたいんだが、クオリアによって崩壊した人格を直すには、どうすればいい?」
「……どうして、くおんにきくの?」
「俺は、お前がいないと立ち直れなかった……。思うに、自力で回復できたのはお前だけだ」
「……ううん、ちがうよ。ぜんぜんちがうよ」
久遠は悲しそうに首を振った。




303 :ワイヤード 第十七話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2009/01/24(土) 23:54:01 ID:PqgTn3fx
「くおんも、ちとせがいたから、いきられた。ちとせも、くおんがひつようだった。それと、おなじ」
「同じ……? 同じって、どういうことだ」
「ちとせとくおんとおなじ。そのひとにも、つがいがいる」
「つがい……。対になる存在がいるということか」
カナメにも対になる存在がいる。なるほど興味深い意見だ。
カナメはそれを千歳に感じ取ったから、千歳に救いを求めてきたらしいが、千歳はそうは思っていない。
久遠と千歳の例をとってみるなら、互いに救い会える関係こそ、『つがい』なのだろう。
「そう。ひとはみんな、ささえあっていきてる。だから、くおんはちとせがすき!」
「意味深なこと言っといて、結論がそれか。まあ、助かったよ。ありがとな、久遠」
「おれいはいい! ごほーび!」
「ああ、わかったわかった。今度はなんだ。ハーゲンダッツか?」
「くおんこどもじゃないもん! おやつより、あまいもの!」
「おやつより甘い……?」
千歳がその謎懸けに悩み始めた瞬間、久遠が千歳を押し倒し、強引に唇を重ねていた。
「ん――!?」
千歳は、拒絶しようと思ったが、できなかった。いや、しなかったのだ。
久遠は恩人だ。大切な人でもある。ここで無理に拒絶して、もし、久遠を失ってしまったら。
それを考えると、久遠の唇を受け入れざるをえなかった。
「……ぷは。……おいしい。ちとせ、おいしい」
「こういうことを強引にするのは良くないって教えたはずなんだがな」
「ちとせ、いやだったの?」
急に涙目になる久遠。千歳が受け入れていることを疑いもしていなかったかのようだ。
「いや……ただ、心の準備ってやつがな」
「なら、もうできた」
「お、おい!」
再び、久遠が千歳の唇をついばみ始める。
さっきよりねっとりと、過激に。
(くそ……まじでどこで覚えたんだ!?)
舌をねじ込み、絡ませ始める久遠に、千歳の心は揺さぶられていた。
(だめだ……。心を強くもて、俺。久遠は……!)
少しして、久遠は名残惜しそうに唇を離し、悲しそうな目で千歳を見つめた。
「きょうはもう、おしまい。でも、つぎは、ちとせからね」
「……ああ」

 ♪ ♪ ♪



304 :ワイヤード 第十七話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2009/01/24(土) 23:54:31 ID:PqgTn3fx
再び七年前。
久遠に連れられて小屋に入った千歳。
「お前、ここにすんでんの?」
「うん」
「どうしてだ?」
「ここが、おうちだから」
「答えになってねえよ……」
苦々しくツッコミをいれる。
「家族は? 両親は?」
「ときどき」
「会いにくるのか? じゃあ、家は?」
「まちに」
「街に家があるのに、なんでお前だけここに住んでんだよ」
「ここが、いばしょだから」
「答えになってねえよ……」
千歳は、久遠と名乗った少女の姿を見つめる。
浮き世離れした美しさをもつ少女だ。千歳も、百歌などその他多数の美女美少女をみてきた覚えがあるが、その誰をも遥かに超越していた。
むしろ、人というよりは天女のような風貌だ。いや、こんな暮らしをしているのだから、仙人か。
狐が化けたとでもいってくれるほうが、まだ説得力がある。魔性をひめた瞳。
黒いセミロングの髪は、髪形にこそ特徴はないが、よく似合っている。いや、どんな髪形をしても良く似合っているのだろうが。
千歳はこれほどの美しさの人間は始めてみたが、不思議と恐れや驚きは感じなかった。
であった状況が状況だからむしろあたりまえなのかもしれないが、不思議な縁を感じていた。
「でも、やっぱ変だ」
「へん? くおん、へん? それなら、よくいわれる……」
その時、そこまで表情豊かではないその顔が確かに悲しみに歪むのを、千歳は見逃さなかった。
「人と違うから、ここに閉じ込められたんだな」
「……うん」
「でも、お前は変じゃない」
「……?」
久遠は首をかしげる。
「間違ってるのはお前じゃない。お前の家族だ。ちょっとついて来い」
「どこ、いくの?」
「下山するぞ。お前の家に行く。案内しろ」
「でも……」
「でもじゃねえよ! 家族は一緒にいるのが一番なんだ! お前をこんなとこに閉じ込めるなんて、間違ってる!」
「……うん」



305 :ワイヤード 第十七話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2009/01/24(土) 23:55:12 ID:PqgTn3fx
「なんじゃぼうず。うちの組になんかようかいな。ああ?」
久遠に聞いた苗字、『久遠寺』。それを聞けば、久遠がどの家の人間であるかなど、すぐに分かった。
だから、今久遠寺組の親分の屋敷にきている。この街で、その場所を知らない人間はいない。
「ああ、用がある。久遠のことでだ」
千歳は、自分の陰に隠れさせていた久遠をひっぱりだす。
ヤクザ男の目の色が変わった。
「おどりゃ、このクソガキ! 親分の娘さんを!」
拳を振り上げ、襲い掛かる男。
「蒼天院清水拳・竜虎飛砕拳」
千歳が掌で拳を止めたと同時に、男の拳が砕けた。
「がっ! ぎゃあああああああああああ!!!」
手を押さえてのた打ち回る男を全く省みず、千歳は久遠の手を引いて、中に進入した。
門での騒動が聞こえていたのだろう。次々と手下が出てくる。
しかし、こちらは子供だ。見事にみな、油断してくれている。
拳を振り上げ、向かってくる男が数人。清水拳によるカウンターで、一瞬にして昏倒させる。
「ちとせ、つよいつよい!」
「そうじゃなきゃ、こんな無茶はしない!」
さすがに千歳の厄介さに気付いたものが、刃物を取り出し始めた。
「ちとせ……あれは、いたいよ」
「わかってる! つかまってろ!」
千歳は久遠を抱き抱え、そのまま蒼天院炎雷拳によって地面をけった。すさまじい衝撃に吹っ飛んだ千歳と久遠は、屋敷の屋根の上に着地する。
「こっから、お前の親父の部屋までいくぞ!」
「うん、いちばんおく」
「おう!」
縮地法により、高速で到着。そのまま炎雷拳で屋根をつきやぶり、真下に大穴を開け。久遠を抱えたまま中に飛びいった。
見事に着地。
しかし、そこには刀を持った多くの男が待ち構えており、千歳にそれを突きつけていた。
「ちっ……!」
「おうおう、とんだ大立ち回りをやらかしてくれたじゃねえか、小僧」
そして、部屋の最奥で断っている男。明らかにオーラが違う男が、千歳に声をかけた。
「あんたは……?」
「俺かい? 闇に生きる隻眼の虎、久遠寺轟三郎とは、俺のことよ!」
かっこうつけて自分を親指で指す轟三郎。なるほど、きどった態度は鼻につくが、それでもほかとは違う。
圧倒的な存在感がある。
「それで、小僧。俺の娘を連れて何しに来たって訊いてるんだ」
「そうだ。そのことだ……。久遠を山に閉じ込めるのは、何故だ!」
「小僧、それじゃ零点だ。俺は質問をしてるんだぜ。質問で答えちゃあ……」
轟三郎が一歩踏み出す。
どっ!
鈍い音が響きたる。轟三郎の踏み出した足が床の畳に大穴をあけたのだ。穴の中心からは衝撃が熱に転化された跡の、煙が上がっている。
「だめってことよ」
(あれは……炎雷拳か? どうにせよ、このおっさん、かなりの使い手だな)
臆する事無く、冷静に分析する千歳。
場合によっては実力行使もしなければならないのだ。今のうちに相手の戦力を分析すべきだろう。
実際、千歳は自分を囲む帯刀の男達を、あまり脅威には感じていない。自分に向ける殺気のていどが、たかが知れているからだ。
刃物を持っているが故に、逆に油断して負けるタイプ。武道家にとっては最もやりやすい。
だが、目の前のこの男、轟三郎は違う。千歳と同等か、それ以上の技術。
そして、千歳を大きく凌駕する闘気。
千歳は攻めを主体とする剛の拳になら、何があろうと絶対にかてる、と、清水拳に自信を持っている。
が、今、この男はそれすらも打ち破る可能性を秘めている。
どこまでも、千歳は慎重だった。



306 :ワイヤード 第十七話 ◆.DrVLAlxBI [sage] :2009/01/24(土) 23:55:42 ID:PqgTn3fx
「久遠を山に閉じ込めることは間違っている。そう思って俺はここへ来た」
「そうかそうか。そういうこと。……小僧、お前は立派だよ。ああ、俺の負けだ。久遠とは、仲良く……」
どっ!
もう一歩、踏み込んでくる。今度は先ほどより畳の損傷が大きい。
「とでも、言ってくれると思ったのかい? ええ、小僧」
「俺が間違っているというなら、久遠をあそこに閉じ込めた理由を教えろ」
「理由? はっ! 理由なんてねえよ! 世の中、皆がみんな理由があって生きてると、まさかほんとに思ってるわけじゃあるめえな? 腹が減ったから飯を食う。バナナの皮が落ちてたから転んだ。本当にそうだと思ってんのかい?」
「なにが……なにがおかしいんだ」
「俺はよぉ! 誰の指図もうけねぇぜ。俺がそうしたいからそうする! 俺がこうやって生きてんのも、誰のせいでもねえ、俺が選んだからだ! なあ、小僧、強いって、そういうことだと思わねぇか?」
「なに言ってんだよてめえ……。てめえの理屈でてめえは人を傷つけんのかよ……。てめえの理屈で娘を悲しませんのかよ……!」
「悲しい、だ? 俺が悲しませた? 小僧、あんたは俺のいうことを、何にも理解してねえな。久遠が悲しいって思ったなら、久遠が悪いんだろうよ。悪いが俺の家はそういう教育方針でね」
「うるせぇ!!」
千歳の闘気が爆発した。
衝撃で、千歳を取り囲んでいた男達が吹っ飛び、壁に激突する。
「ほう、ガキにしちゃ、やるな」
「俺は……あんたを倒してでも、久遠を救う」
「救う、ねえ。しょんべんくせぇガキの正義で、何を救うって?」
「しんべんくさくても、泥臭くても、青臭くても……。どんなにかっこ悪くてもな。俺は、前に進む。久遠の悲しい顔を見ちまったんだ。涙は流れていなくても、久遠は泣いていた……。だから、俺がその涙を止めてみせる」
「……なら、もう言葉はいらねえ。こいや、小僧」
「はああああああ……!」
闘気を溜め始める千歳。
「ちとせ……だめ……」
涙目になりながら、千歳の服を引っ張って止めようとする久遠。
「止めるな、久遠。俺は、お前の幸せをつかむ」
「しあわせ……? しあわせって、なに?」
「知らないなら、俺が掴んでやる。俺が教えてやる。……だから、信じろ!」
千歳が前にでる。
「おせえ!」
轟三郎がカウンターで拳を突き出す。
「うおおおおおおおお!!!」
こちらが完全に直線的な攻めを振ったのだ。相手もそうしなきゃ、打ち破ることはできない。
千歳はその読みを的中させた。
発声と共に闘気を解放し、轟三郎の拳を清水拳で受け止める。
――俺の勝ちだ!!
互いの闘気がぶつかり合い、強烈な発光。
家具、畳が吹き飛ぶ。
……。
そして。
「そんな……。ちとせ……」

立っていたのは、轟三郎だった。

第十八話『遥か久遠の彼方に・後編』に続く