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421 :天使のような悪魔たち 第9話 織原 結意 ◆UDPETPayJA [sage] :2009/01/29(木) 16:21:10 ID:KYhmRPCi
「ふふっ…飛鳥くん、こんばんわ。」

声の主は、やはりというかなんというか……いつものストーカー少女、結意だった。
……後ろ手に何かを隠し持ってるみたいだな、なんだろう? 暗くてよく見えない。

「顔も見たくない、って言ったの忘れたのか?」
「ううん、覚えてるよ。飛鳥くんは優しいから……」
「………は? おれが優しいから、何だってんだ。」
「そう、優しいから、仕方なく言わされたんだよね?」

………相変わらずこいつの言動は支離滅裂つうか……全くもって意味のわからないものばっかりだ。
そういや、今まで結意とまともに会話が成立したことって、一回もなかったような気がするな……。
それにしても、こいつの適応力というか、自分に都合いいように事実を曲解するスキルはもはや尊敬に値するな。

―――だが、俺のそんな余裕も長くはもたなかった。

「でももう大丈夫だよ。飛鳥くんを縛り付けてた邪魔者はもういないから。」
「邪魔者? なんだそりゃ………え?」

隠れていた月が雲の谷間から顔を出し、暗い路地に一筋の光が落ちる。月明かりに照らされた結意は……真っ黒な血で汚れていた。
後ろにまわされていた手が前に出される。握られていたのは、同じく血で染まった木刀だった。

「お前……一体何したんだ!? 邪魔者ってなんだ!? ―――まさか、明日香に何かしたのか!?」
「あすか……ああ、あの雌猫のこと? 紛らわしい名前だね。安心してよ、そいつならもう殺しちゃったから。」
「……おい、嘘だろ!? 嘘だって言えよ!」
「あははっ……ほんと、飛鳥くんってば優しいんだね。あんな雌猫の心配なんかしちゃって。でも、ダメだよ。飛鳥君には私がいればいいじゃない。
これからはずっと、ずーっと一緒だよ? もう離さないから………ね? うふふふ……あはっ……」

けらけらと不気味な笑みを浮かべながらそう言った結意の目は、暗くよどんでいた。
俺に拒絶されて、ここまで歪んでしまったのだろうか……だが今の俺には、結意の心配なんぞしている暇はなかった。
頭の中にあったのは明日香の安否、それだけ。俺は自宅へと向けて足を動かした。

「おっと……行かせるわけにはいかないぜぇ。」

俺の行く先には、ついさっき別れたばっかりの隼がいた。いつものひょうひょうとした態度で通せん坊をしている。

「………隼? なんでお前がここにいるんだ?」
「言わなかったっけ? 俺は結意ちゃんの協力者だって―――ああそうか、亜朱架さんのせいで忘れてるんだったっけ。」
「忘れて……何の話だ!? お前ら、よってたかって何なんだよ! わけわかんねぇよ!」
「大丈夫、すぐに思い出させてやるよ。」

言い終わると隼は、俺の額に手をかざしてきた。奴の手のひらが触れた瞬間、光が瞬いた………様な気がした。
刹那、頭の中がごちゃごちゃと掻き混ぜられる感覚に苛まれ、そのまま俺は意識を手放した。


422 :天使のような悪魔たち 第9話 織原 結意 ◆UDPETPayJA [sage] :2009/01/29(木) 16:22:36 ID:KYhmRPCi
* * * * *


「これでもう大丈夫だよ、結意ちゃん。」

斎木君は、気を失った飛鳥くんを抱えて私にそう言った。

「……本当に? もう飛鳥くんいなくなったりしないんだよね!?」

思い出すだけでも体が震える。大好きなひとに完膚なきまでに拒絶されたときの恐怖で。……本当に、大丈夫なんだよね?

「―――ああ…やっぱり、結意ちゃんって俺の姉さんによく似てるよ。」
「…え、斎木君のお姉さん………?」
「そう…そうやって大好きな人に依存しきってるとこなんて、まるっきりそっくりだ。おまけに姿も……写真があれは見せてやりたいくらいだよ。」

依存。斎木君の言ったその一言が気になった。
たしかに私は、飛鳥くんに依存している。それは自分でもよくわかる。じゃあ、斎木君のお姉さんは誰に依存してたのかな? 私はそれを訊いてみた。

「いいぜ、結意ちゃんになら話しても。……同じ過ちを繰り返させないためにも、ね。」
「うん、お願い。」



私たちは、歩き始めた。行く先は斎木君に任せてる。彼曰く「誰も2人の邪魔をできないところ」だとか。
道中、彼の口から昔話を聞かされた。

彼のお姉さん……といっても義理の。斎木君は養子で、そのお義姉さんは、「優衣」って名前なんだって。―――私と同じ名前だね。
優衣さんは斎木君に依存してて、斎木君もまた優衣さんを一人の女性として愛していた。
そして、なるべくしてというか……いつしか二人は心身共に結ばれた。それから二人は毎晩のように互いの愛を確かめ合っていた。
優衣さんは斎木君の子供をひどく欲しがっていた。愛の結晶だと言って。それに応えて、お互いに避妊もしなかった。ちなみに当時の優衣さんは高校3年で、斎木君は中学生だとか。
でも、二人が結ばれて半年がたっても子供はできなかった。優衣さんは自分を責めた。子供ができないのは自分の体のせいだと。
斎木君はそんな優衣さんを見て、2人で検査を受けることにした。研究者であり、飛鳥くんのお父様の同僚でもある父親の手引きによって、内密に。
血がつながってはいないとはいえ、姉弟で愛し合っていたことに対しては、世間の目は冷たいからね。

そこで分かったのは、原因は優衣さんではなく…斎木君にあったということ。
斎木君の遺伝子構造は普通の人間とは異なっていて、優衣さんはおろか他のどんな異性とつながったとしても子孫を残せないという事実が知らされた。

3日後、優衣さんは死んだ。そのとき斎木君は初めて飛鳥くんのお姉さま……亜朱架さんと出会った。
彼女はこう言ったらしい。「優衣さんは自分を責めていた。死んで、今度こそ隼くんの子供を産める体になって生まれ変わりたいと言った。だから望むとおりにしてあげた」と。



423 :天使のような悪魔たち 第9話 織原 結意 ◆UDPETPayJA [sage] :2009/01/29(木) 16:23:27 ID:KYhmRPCi
そのとき、斎木君は亜朱架さんを恨んだだろうか……さっきも、私の手伝いをしてくれたし。
実際、斎木君が亜朱架さんの力を相殺してくれなければ私は逆に殺されていたと思う。


「さて…昔話はここまでだ。着いたぜ、結意ちゃん。」

私たちが足を止めたのは、暗い森の中にある大きな建物の前だった。もう何年も使われていないみたい。建物中に走っているつたを見るだけでそれが分かる。


「それと飛鳥ちゃん、寝たふりをしてるのはとっくにバレバレだぜ?」
「まったくもう…飛鳥くんもひとが悪いなぁ。斎木君しんどそうにしてたよ?」
「……悪りいな、まだ体に力が入らないんだ。でも、全部思い出したから。」

飛鳥くんはよろめきながら斎木君の背中から降り、地面に立った。私はとっさに肩を貸してあげる。
飛鳥くんの体温がすぐそばに感じられる。それだけのことなのに私は、嬉しくて……嬉しくて……

「ごめんな結意、今まで忘れてて。俺は今も、お前をちゃんと愛してるから。」
「……ぐす……ばか…ばかぁ……あぁぁぁぁあぁぁぁ……」

もう声にならない。涙が止まらない。やっと、やっと帰ってきてくれた。私の最愛のひと。
泣きじゃくる私を、飛鳥くんはただ黙って抱きしめてくれた。そこには、私が今までずっと待ち望んでいた温かさがあった。


もう絶対離さない。ずっと一緒だよ、飛鳥くん。


424 :天使のような悪魔たち 第9話 織原 結意 ◆UDPETPayJA [sage] :2009/01/29(木) 16:24:13 ID:KYhmRPCi


―エピローグ―



『次のニュースです。二ヶ月前より行方不明になっていた男女二人が、昨日○○市○○区の山中で死亡しているのが発見されました。
警察の発表によりますと、遺体の状態がひどく、所持品と思しきものからようやく身元を割り出すに至ったとのことです。
死亡していた男性は神坂 飛鳥さん、女性は織原 結意さん。神坂 飛鳥さんは二ヶ月前にあった女子中学生殺人事件の被害女性の家族とみなされています。
どちらも私立白曜学園高等部の制服を着用しており、織原 結意さんの制服からはさらに他の人物の血痕が検出されたそうです。
警察の見解では心中事件としており、女子中学生殺人事件との関連性を裏付ける方針で捜査を続ける模様です。

では次のニュースです。
今日未明、人気ロックバンド"フォース"のボーカル、柏木 冬真さんとマネージャーの赤城 羅刹さんが都内のマンションの一室で死亡しているのが発見され………』


俺こと斎木隼は、亜朱架さんとカフェテリアで落ち合っていた。天井に備え付けられたテレビからは、ちょうど今回の件の報道が流れている。
あれからもう二ヶ月になるのか……時が過ぎるのは本当に早いな。クリスマスがついこないだのように思える。今はもう、節分を通り越してチョコレートの季節だというのに。
といっても、13日の金曜日の次の日が某クローン羊の命日、などと言えばきっとそんな熱も冷めちまうだろう。
特に亜朱架さんは二ヶ月前に自分の分身を殺されたばかりだし、単なる皮肉とは聞こえないだろうけど。

「お客様、お待たせいたしました。」

ウェイトレスが注文の品を運んできた。俺は紅茶のホット、亜朱架さんはコーンスープだ。それぞれ口に運び、一息ついたところで亜朱架さんの方から口を開いた。

「これで満足なのかしら、あなたは?」
「ええ…欲を言えば、あなたにも消えていただきたかったんですけどね。」
「無理言わないで。私が死ねない身体だってこと、わかってて言ってるんでしょう? まあ、全身を木刀で殴られ続けたときはさすがに死ぬかと思ったけど。」
「俺もさすがに死んだと思いましたよ、あの時は。どうです? 二人で溶鉱炉にでも飛び込みますか?」
「素敵な提案だけど…辞退させていただくわ。これでも人並みの感情はあるの。きっと、直前で足がすくんでしまうわ。それに、弟と心中なんてあまり美しくないしね。」
「よく言いますよ。あれだけのことしておきながら……悪魔みたいなひとですね、姉さん。」
「悪魔のような…ね。知ってた? 悪魔って、元々は天使が堕天したものが始まりだって。」
「知ってますよ。神話において初の悪魔…堕天使ルシファーは少女漫画の世界では有名ですよ。無駄にビジュアル化されてはいますがね。まさか…かつて自分も"天使"だった、なんて言いたいんですか?」
「ふふ…違うってことは自分でも良く分かっているつもりよ?」
「そうですか……それじゃ、俺はこの辺で。」

財布の中から紅茶代の180円を取り出し、テーブルの上に置く。
亜朱架さんは「それくらい奢るわよ」と言ったが、俺はたとえどんな形でもこの人に借りを作りたくなかったので、やんわりと断って、カフェを後にした。

外は雪が降っていた。今年に入って初めての雪だ。カフェの前に飾られた季節はずれのクリスマスツリーが妙にしっくりくる。

ああ……そういえば今日は2月9日、飛鳥ちゃんの誕生日だった。花でも……いや、飛鳥ちゃんなら新発売のCDを供えた方が喜ぶだろう。
少し歩いた先に、飛鳥ちゃん行きつけのCDショップがあったはず……そこで買っていこう。

なあ、飛鳥ちゃんに結意ちゃん。向こうでも仲良くして…………愚問か。





―True end―