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504 :似せ者 ◆Tfj.6osZJM [sage] :2009/02/01(日) 00:03:24 ID:BmLkeDkU
第三話 ~亡くし者~

別れの言葉を言う事は寂しい
別れの言葉を言えない事は苦しい



「おめでとう」
朝練に参加するや否や、杉下に言われた。
朝のあいさつは、おはよう、だろうとツッコミをいれようかとも思ったが、気分がいいので止めておこう。
「伝わるの、随分早いんだな」
告白した日の次の朝。まだ24時間も経っていないというのに…
「仁衣高校三大美女と付き合うっていうのはそういうことだ。今じゃお前はこの学校の大半の男子の敵だぜ。俺も含めてな」
「お前は姉さん狙いじゃなかったっけ?」
「お前さえよければ狙うけど?」
「俺の家に招待してやるって話、無しにしようか?」
「冗談だよ、未来の弟よ」
おどけて笑ってみせる杉下。こいつがそういう事を言うと本気に見えるから怖い。
「さて、のろけ話でも聞かせてもらおうか。昨日は一緒に下校して、その途中で喫茶店に寄って一時間近く談話で合っているか?」
「おいおい…。そこまで知れ渡っているのか?」
「いや、これは俺が個人的に尾行して知っただけだが」
「…」
昨日は部活がオフ。だから少しでも親交を深めようと優奈を誘って一緒に帰ったのだ。
しかしただ尾行するだけならまだしも、何故、喫茶店に居た時間まで把握しているんだ?
「あそこのカフェラテ美味いよな~。あ、お前はキャラメルラテを頼んでいたっけ?」
「…。全部見ていたのか?」
「もう何から何まで。会話の内容は聞き取れなかったけどな」
「…」
「おいおい、怒るなよ。結構近くで見ていたんだぜ。気付いておかしくない距離だった。んで、気付かれたらちょっと茶化して去ろうと思っていたんだが…。あまりにお前が気付かないから、引っ込みがつかなくなっちゃってな」
「緊張していて、周りなんて見えてねーよ」
「いやいや悪かった。素直に謝ろう。この通りだ」
頭を深く下げる杉下。まったく…、調子のいい奴だ。



505 :似せ者 ◆Tfj.6osZJM [sage] :2009/02/01(日) 00:04:17 ID:0UdZTbIV
「でも、お似合いのカップルに見えたぜ。お前も藤堂優奈も本当に楽しそうに笑っていた。幸せオーラばんばん振りまいていたな」
「お似合いに見えたか?」
「そりゃもう。お前と藤堂優奈ってどことなく雰囲気似ているしな」
「雰囲気が似ている…、か」
優奈の兄と俺が瓜二つなのだから当たり前と言ったら当たり前なのかもしれない。
「まぁお前の妹さんに少し似ているもんな、藤堂優奈って」
「え?」
「なんだよ、突拍子もないことを言われた~、みたいな顔して。自分で気付いてなかったのか?」
「いや、全然」
「お前が藤堂優奈が好きだと聞いた時に自然とそれに納得出来たのも、俺がお前の妹さんの顔を知っていたからだったんだが…」
優奈が唯に似ている。まったく気付かなかった。
確かに優奈の兄に俺が瓜二つなら俺の妹と優奈が似ているのも必然だ。
「俺が唯の面影を求めて藤堂優奈に惹かれたと?」
「俺はそう思っていた」
「俺が好きなのは藤堂優奈。唯の偽者ではないよ」
「さらに妹さんに瓜二つの女の子が居ても、藤堂優奈を選ぶと?」
「もちろんだ」
俺はきっぱり言い放った。
「そろそろ行こうぜ、俺はともかく、お前は昨日、たいした練習してないだろ?」
杉下との会話に終止符を打ち、ランニングに向かおうとした。
「あ、ちょっと待った」
「何だよ?」
「お前の家に行くって話、明日でもいいか?」
明日は土曜、学校はない。部活も午前中で終わる。姉さんは居るか知らんが…
「分かった、姉さんにそれとなく明日の予定聞いておくよ」
「感謝する、我が弟」
まったく、抜け目のない奴だ。
少し長話が過ぎたので俺らは急ぎめにそれぞれの練習を始めた。



506 :似せ者 ◆Tfj.6osZJM [sage] :2009/02/01(日) 00:06:29 ID:0UdZTbIV
昼休み、俺は屋上に向かい優奈と合流した。
「兄さんの弁当を作らせてください。私の料理の腕、さらに上達したんですよ?」
と昨日言われたのだ。
好きな子の弁当を食べる学生生活。絵に書いたような青春だ。
「悪い、優奈。待ったか?」
「いえ、今来たところです」
二人でベンチに腰を掛ける。
「さて、さっそく見てもらえますか?私の作った弁当を」
「おう、楽しみにしてたよ」
持っていた二つの弁当を順に開けていく。
一つは主食のサンドイッチとおかずのステーキ・マリネの3品をメインにして、人参やパセリで彩りを整えた洋風の弁当。
一つは梅干が乗ったご飯と、鮭・ほうれん草の御浸し・黒豆・漬物などの日本の昔ながらのおかずが入った和風の弁当。
「洋風と和風、兄さんがどちらを食べたいか分からなかったので二つ作ってきました。どちらがいいですか?」
「ちょっと待って。これ全部、優奈が作ったの?」
「すみません、こっちの弁当の黒豆は買ってきたものです」
「いや、そういうことじゃなくて…」
凄すぎる。その一言だ。これだけの品数を朝一日だけで作ったのだろうか。しかも一つ一つクオリティーが高い。
「本当に料理上手いんだなー」
「そういうことは食べてから言ってください」
「じゃこっちの和風の弁当を貰うよ」
俺は弁当と箸を受け取った。
「いただきます」
好物のほうれん草から口に運ぶ。
優奈は合格発表を待つ受験生のような顔で俺を見ていた。
「うん、美味い!物凄く美味い!」
「それは良かったです」
優奈の顔がパァーと輝く。やっぱり可愛い。
優奈も洋風の方の弁当を取り、食べ始めた。



507 :似せ者 ◆Tfj.6osZJM [sage] :2009/02/01(日) 00:07:39 ID:BmLkeDkU
「友達付き合いとか大丈夫でしたか?昨日の今日で昼休み呼び出してしまって」
「優奈のこの弁当を食べられない方が大丈夫じゃないよ」
俺は夢中になって食べていた。
「兄さん?」
「うん?」
「私の事、恨んでいませんか?」
「え?」
「いえ、何でもないです」
どういう意味だろうか?
「こっちの弁当も少し食べてくれませんか?」
「いいの?」
「私こんなに食べられないですよ。それにこのハンバーグ、自信作なんです」
言われるがままにハンバーグをとる。
「美味い!俺の姉さんの百倍は美味い!」
「姉さんの?」
「俺の姉さんな、料理にはまってるんだけど、これがもう下手で…。この前はハンバーグ食べさせられたんだけど、焦げているわ味付けおかしいわで…。もう勘弁してください、って感じだったよ」
「絵里さんがですか?」
「あ、知っているの?」
「知っているも何もこの学校で絵里さんのことを知らない女子は居ませんよ」
笑いながら言った。
「姉さん、そんなに凄かったのか…」
「でも絵里さんにそんな弱点があるなんて知りませんでした。あまりの完璧ぶりから女神様という通り名まで付いているんですよ」
「食関係はめっぽう駄目なんだよ。作るのは駄目だし、食べるのも瓜科のものは何も食べられない。だからサンドイッチもハンバーガーも食えないんだぜ」
「驚きです」
「瓜科のものは95パーセント以上が水分だからそんなもの食べる腹の空きがあるなら栄養豊富な緑黄色野菜でもとりなさい!なんていつも俺に言ってくるよ」
姉さんの口調を真似しながら言った。俺と優奈から笑い声がこぼれる。
「でも、不思議ですね」
「え?」
「私の兄さんの姉さんは、私の姉さんじゃないなんて…」
「あ…」
「私、頭では分かってるんです。兄さん、いや赤坂君が兄さんの生まれ変わりでもなければ、もちろん偽者でもないって。でも今はまだ…」
「分かってる、優奈の気持ちの整理がつくまで、俺は優奈の兄さんだ」
「ありがとう。兄さん」
ちょっと切なそうに、でも嬉しそうに笑う優奈。
この笑顔が見られるなら、俺はいつまでも偽者で構わない。
いや本心ではそんなことないのかもしれない。でも今の俺には優奈の彼女になることよりこっちの笑顔の方が大事だ。
「なぁ、もう一個ハンバーグくれないか?」
「はい、どうぞ、兄さん。また作ってきますね」
優しく笑う優奈。
うん、今はまだこれでいい…



508 :似せ者 ◆Tfj.6osZJM [sage] :2009/02/01(日) 00:08:59 ID:BmLkeDkU
その日の深夜、妹の墓参りに行った。
学校帰りに行く事もあれば、ランニングウェアでトレーニングついでに行く事もある。
かなり定期的に妹の墓には通っていた。
「唯。俺な、彼女が出来たんだ。まぁ正確には彼女ではないんだけど…」
墓石に向かって話しかける。もちろん返事はない。
「藤堂優奈って言うんだ。仁衣高校三大美女って呼ばれるほど可愛いんだぜ」
そう言って墓石に優奈の写真を向ける。
「杉下がお前に少し似ているって。お前も三大美女並みだってことだぜ。嬉しいだろ」
唯も姉さんに負けず劣らず相当モテた。兄として、誇らしくもあり、気に入らなくもありとそんな感じだった。
「高校生になったお前、見たかったな。きっと可愛かったよな」
もう涙は出てこない。でも依然、虚しさは湧き上がってくる。
「話、まだまだあるんだ。陸上部の話とか、姉さんの料理の愚痴とか」


映太だけには
「お兄ちゃん」
きっと、そんな声が聞こえている。
死んだ人間はこの世から居なくなる。
この世界に赤坂唯という人間は居ない。

墓石は確かに死者のものだ。
しかし墓参りは死者のためだけのものでない。
生者のためのものでもある。
映太の墓参りは週2・3回。
赤坂唯の死から一年少し。今もそのペースは落ちていない。

深夜の墓場の真ん中に、男が一人。
墓石達はいつもの来客を気にもせず、しんみりと眠っている。


今日も映太の墓参りは長い。