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401 :ビタースイーツ ◆CuqFVtYUo. [sage] :2009/03/05(木) 18:07:54 ID:rwmwPnZF
昨日夜更かしをしたせいか、いつもなら弁当を作るために
遅くとも6時半には起きるところを寝坊して8時に眼が覚めてしまった。
弁当どころか朝食を取る暇も無く、俺は学校へ走った。
テレビでやっていたチーズ入りパウンドケーキを作ろうと試していたところ
納得いく味が出せずに四苦八苦した結果、使うチーズの種類が違ったことに
気づいたのは明け方近くだった。
学校帰りにクリームチーズを買ってリベンジすることを誓いながら俺は走った。

俺の名前は遠野 翼(とおの つばさ)。パティシエを目指している以外はたぶん特徴の無い高校生2年生だ。
今日は高校の始業式、流石に初っ端から遅刻は印象が悪すぎるだろう。
それだけは避けたいと思い、俺は全力で走った。
教室に全力で滑り込むと同時にチャイムが鳴る。
先生の姿はまだ見えない。セーフだ!!と思って辺りを見渡すと、自分がとんでもないミスをしたことに気づいた。
「…ここ1年の教室じゃん…」


402 :ビタースイーツ ◆CuqFVtYUo. [sage] :2009/03/05(木) 18:09:17 ID:rwmwPnZF
「アハハ、それで遅刻したの?遠野君らしいね。」
楽しそうに笑っているこいつは野川 恵理(のがわ えり)。
小学校の頃からの腐れ縁で、去年は一緒にクラス委員をしていた。
「…そう笑うな、これでも結構傷ついてるんだ…」
「だって学年間違えるなんて私聞いたこと無いわよ。」
全く、抜けてるんだから、そう言うと野川はまた笑い出した。このまま笑われっぱなしというのも癪だな……
「そうか、新作ケーキの試食、野川に頼もうと思ってたけど残念だな……」
「わわ、ごめん、ごめんってば、遠野君、機嫌直して。」
「わたくしのようなうっかり者の作ったケーキ、きっと野川様のお口には合いませんよ。
あーあ、残念だなぁ。」
「そんなことないよ!!遠野君の作ってくれる料理は私には世界一美味しいよ!!」
お世辞でもそう言われると嬉しいな。意地悪はそろそろ終わりにするか。
「嘘だよ、明日持ってくるからその時試食頼むわ。…どうした、体調悪いのか?顔赤くなってるぞ?」
そう聞くと何故か野川は慌てて答えた。
「ううん、何でもない、ちょっと風邪気味なんだ。それよりケーキ絶対だよ!他の人に食べさせたりしないでよね!」
「はいはい、分かったよ。」
そう答えると俺はクラスを改めて見渡してみた。
知っている顔も居れば知らない奴も居る。まぁ当たり前かな。
おっ、あの子結構かわいい!眼福眼福。あとで声かけてみようかな。
「遠野君?どこみてるのかしら…?今は私と会話中でしょ?」
えっと、何だかとても怖いですよ?野川さん。
「いや、去年同じクラスだった奴、結構少ないなぁっと思ってね。ハハハ・・・」
やばい、怖すぎて乾いた笑いしかでない。
「ふーん。私には女の子を物色してたように見えたけど?」
まずい、この流れはまずい。これ以上騒ぎ出す前に話題を変えないと。
「それより野川は今年もクラス委員やるのか?」
……我ながらひどい話題転換だ。
「うーん、どうしようかな。遠野君は?」
よし!!何とか話をそらせた。
「俺は今年はパスかな。あんな面倒なこと1年やれば十分だよ。」
「ふーん、じゃあ私もパスかな。…やる意味無くなっちゃったし…」
「ん?どうした?」
「ううん、最近テニス部の方も忙しくてさ、ちょっとやる余裕無いかなって。」
なるほど。野川は運動神経が良く、小学生の頃からテニスをやっていて経験も長いため、
1年の頃からテニス部のエースだった。
短めに切った髪は活発で表情豊かな彼女の表情に良く似合っていて、
まぁ、なんというか、結構かわいい。
実際いろんな奴から告られているようだ。噂によると全員撃沈したようだが。
「それより、さっきは私を差し置いてどの子を見てたのかしら?」
くっ、話題をぶり返された。何か他にネタはないかと思って辺りを見渡す。
そして俺の視線はある1点で止まった。



403 :ビタースイーツ ◆CuqFVtYUo. [sage] :2009/03/05(木) 18:09:49 ID:rwmwPnZF
そこは俺の隣の席で、そこには女の子が座っていた。
髪はロングヘアで黒く、真っ直ぐ滑らかに伸びている。瞳も吸い込まれるような深い漆黒。
それとは対照的に肌の色は淡雪のように白く、まぁ何というか、美人だった。
ただ俺が注目したのはそういう外見のことではない。
他のクラスメイトは、前年度同じクラスだった奴と話したり、席が隣になった奴に声をかけたりしている。
しかし彼女はただ1人、ぽつんと席に座って本を読んでいた。
日本人形のようなその容姿もあって、その異質さが際立っていた。
「…あの子…」
「また余所見して。遠野君はもうちょっとデリカシーを身につけたほうがいいわよ。で、どの子見てたの?」
「いや、俺の席の隣にいる子なんだけど。」
「ふーん、遠野君はああいう子が好みなんだ。確かに美人だもんね。」
どんどん険悪な雰囲気になっていく。俺が何をしたって言うんだ……
「馬鹿、そんなんじゃねーよ。ただずっと1人でいるみたいだからちょっと気になって。
野川はあの子のこと知ってるか?」
「別にあんな子のこと知らないわよ。美人な女の子が隣の席で良かったわね!!」
そう俺に叩きつけるように言うと、野川は自分の席に戻ってしまった。

仕方なく自分の席に戻る。隣の席には未だに1人で佇んでいる彼女がいる。
ここは1つ声をかけてみようか……
「俺、遠野 翼って言うんだ。これから1年よろしくな。」
とりあえず自己紹介してみた。ちょっと唐突すぎるか?
すると彼女はゆっくりと顔を俺に向けて、こう言った。
「……あまり馴れ馴れしく話しかけないで……」
……なんだかものすごく嫌われたようです……
落ち込んでいると、彼女はポツリとつぶやくように言った。
「……雪野 桜……」
「えっ?」
「私の名前……」
そう言うと彼女は視線を本に戻した。
名前は教えてもらえたってことは嫌われてるわけじゃないのかな?
「ああ、よろしくな、雪野!!」
彼女からの返事は無かった。

さてと、今日は始業式だから、もうこれで帰宅していいはずだ。
さっさと帰ってケーキを作ろう。そう決心し、鞄を持って立ち上がった瞬間に
先生が入ってきた。
「ああ、言い忘れていた。去年と同じように男子と女子1人ずつクラス委員を決めるように。
今日中に決めること。」
それを決めたら今日は帰宅していいぞ、そう言うと先生はさっさと教室から出て行った。

教室はシーンとしている。
下手に発言したら自分がクラス委員にされてしまう、そんな危機感から誰一人として言葉を発する者がいなかった。
空気が痛いぜ・・・

「とりあえず立候補する人はいない?」
空気の重さに耐えかねたのだろう、前年度俺と一緒のクラスだった小暮 明人(こぐれ あきと)が言った。




404 :ビタースイーツ ◆CuqFVtYUo. [sage] :2009/03/05(木) 18:10:24 ID:rwmwPnZF
小暮と俺は仲がいい。俺が男子では珍しく料理好きでパティシエを目指している一方
小暮は裁縫が得意で、将来洋服のデザイナーを目指しているらしい。
そういう、男子としては特異な趣味をお互い持っていることもあってか、
性格はかなり違うものの、小暮と俺はすぐ仲良くなった。

小暮の発言の後も、クラスは静まりかえっている。
やはり皆、あんな面倒な奉仕活動やりたくないようだ。
「んーー、じゃあ推薦にする?」
小暮が困った顔をしてこう言うと、クラスが俄かにざわめき出した。
推薦って無責任な制度だよな。発言した本人は責を負わずに他者に厄介ごとを押し付けるんだから。
そんなことを考えていると1人の女子がこう言った。
「はーい、雪野さんが良いと思います。」
「どうしてかな?」小暮は理由を尋ねた。
「えー、だって他の子は部活とかで色々忙しいと思うけど、雪野さんは部活入ってないし、
いつも結構暇そうにしてるでしょ?余裕がある人がクラス委員をやるべきなんじゃない?」
その発言を機にクラスのほぼ全員が、そうだな、それで良いと思う、そうしましょう、
そんな類の声を上げた。

「うーん、雪野さん、引き受けてもらえるかな?」
嫌だったら別に断っていいよ、小暮はそう言った。
小暮は人がいいからな、こういう状況になったら断れるわけが無いってこと分かって無いんだろうな……
雪野は戸惑った顔をして、返答に困っている。
そんな雪野を見てか、やりなさいよ、どうせ暇なんでしょ、空気読みなさいよ、
そんな声が雪野に浴びせかけられた。
なんだ?何となくだが雪野に対する敵意のようなものが感じられる。
「……分かりました。クラス委員やらせてもらいます……」
しぶしぶそうな顔をして、雪野は承諾した。
「じゃあ男子のほうから後1人誰かやらない?」
またシーンとするクラス。
………
「やる奴が他にいないなら俺がやるよ」
気づくとこんなことを言っていた。
「遠野、いいの?」
「ああ、どうせ俺も暇だからな」
「じゃあ頼むよ。このクラスのクラス委員は雪野さんと遠野の2人でいいかな?」
賛成の声があがる。じゃあこれで解散にしよう、そう小暮が言い、授業は終わりとなった。




405 :ビタースイーツ ◆CuqFVtYUo. [sage] :2009/03/05(木) 18:10:48 ID:rwmwPnZF
さてと、早速スーパーに行ってクリームチーズを買わなければ。
いっそのことチーズケーキを作るのもいいかもしれない。
今日はNYチーズケーキでも作るかな。サワークリームが必要だからヨーグルト買わないとな。
そんな他愛もないことを考えていると、野川が近づいてきた。
あれ?怒ってる?もしかして、まださっき余所見してたこと怒ってるのか?
あいつ結構さっぱりしてるから大丈夫だと思ったんだが……
「どうして?」
え?何が?
「クラス委員やらないって言ってたじゃない!」
ああ、そういうことか。嘘をつかれたと思って怒ってるのか。
「いや、俺もやらないつもりだったんだけどさ、何となく。」
「何となくって何よ!!」
「んー、強いて言うならイライラしたからかな?」
「イライラ?」
「人に責任押し付けて自分は関係ないですよ、って顔するのは趣味に合わない、それだけだ。」
「遠野君……」
「言ったこと守らなかったのはすまないと思うけどさ、許してくれ」
そう言って頭を下げる。すると慌てて野川は言った。
「いいの、こっちこそごめんね。遠野君ってそういう人だもんね。ただ……」
「ん?」
「ううん、なんでもない。あ、私部活あるからもう行くね。」
また明日ね、そう言って野川は足早に教室を出て行った。
さてと、初日から何だか疲れたな。俺も家に帰るとするか。




406 :ビタースイーツ ◆CuqFVtYUo. [sage] :2009/03/05(木) 18:11:24 ID:rwmwPnZF
-Side 野川-

全く遠野君ったら、本当に鈍いし、デリカシーないわね。
こんなに態度に表してるのに、ちっとも私の気持ちに気づいてくれないんだから。
おまけに私との会話中に他の女を見るなんて、今思い出すだけでもイライラする。
しかも普段はちゃらんぽらんな癖に、正義感だけは強いんだから。
小学校の頃から遠野君は、自分が正しいと思ったことは貫いていた。

分かってる、それこそ遠野君の美点だ。
彼のその真っ直ぐさと不器用な優しさに、私は何度も救われた。

でもね、知ってる遠野君?野良猫にあまり餌をあげちゃいけないんだよ?
特にメス猫なんて、盛りがついたらうるさくてたまったものじゃないんだから。
遠野君はその気が無くても相手が付きまとってくるかもしれないんだよ?

そうなる前に、今からでもあのメス猫を処理しようかしら……?

いや、ダメだ、万が一遠野君にばれたら、絶対に彼は私のことを嫌いになる。
そうなるくらいなら世界が滅亡してしまったほうが数百倍マシだ。
遠野君に万が一にも嫌われないためにも、私は直接的に手を出してはいけない。
あくまで間接的に、あのメス猫を追い込む、あるいは遠野君がメス猫から離れるように仕向けなければ。
「そのためにはまず情報ね。雪野とかいったかしら、あのメス猫。」
そう1人言をつぶやき、私は部室へ急いだ。

-Side 野川 End-