1 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/12(日) 14:24:12 ID:n7sumb6h
ここは、ヤンデレの小説を書いて投稿するためのスレッドです。

○小説以外にも、ヤンデレ系のネタなら大歓迎。(プロット投下、ニュースネタなど)
○ぶつ切りでの作品投下もアリ。

■ヤンデレとは?
・主人公が好きだが(デレ)、愛するあまりに心を病んでしまった(ヤン)状態、またその状態のヒロインの事をさします。
→(別名:黒化、黒姫化など)
・転じて、病ん(ヤン)だ愛情表現(デレ)、またそれを行うヒロイン全般も含みます。

■関連サイト
ヤンデレの小説を書こう!SS保管庫 @ ウィキ
http://www42.atwiki.jp/i_am_a_yandere/

■前スレ
ヤンデレの小説を書こう!Part18
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1219546353/

■お約束
・sage進行でお願いします。
・荒らしはスルーしましょう。
削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。

■投稿のお約束
・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
・作品はできるだけ完結させるようにしてください。
・版権モノは専用スレでお願いします。
・男のヤンデレは基本的にNGです。

2 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/12(日) 14:42:29 ID:mbsV6Mjt
>>1乙!!

3 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/12(日) 14:52:29 ID:62nOQdRd
>>1乙

4 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/12(日) 15:32:50 ID:GTxNYF4h
1乙です

5 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/12(日) 16:36:28 ID:4ulifI0Q
>>1 乙

6 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/12(日) 16:49:36 ID:Vs+cRd0O
>>1乙です!

7 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2008/10/12(日) 17:02:23 ID:o/Ow3zsh
>>1さん乙です!

8 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2008/10/12(日) 17:40:22 ID:cr2eroyY


9 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/12(日) 17:42:00 ID:mbsV6Mjt
職人カモーン!!

10 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/12(日) 18:34:15 ID:kQ9U4+cG
>>1
おつ。そして期待!

11 名前:ワイヤード 第六話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 20:24:33 ID:4ulifI0Q
先ほどは、お騒がせして申し訳ありませんでした。>>前スレ
投下速度重視なので、書いたら考え無しに即投下してしまっていました。
ゲーパロさんごめんなさい。以後気をつけます。

では、新スレなので気を取り直してワイヤード6、投下します

12 名前:ワイヤード 第六話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 20:25:49 ID:4ulifI0Q
第六話『ダイヤモンド・発光』

お母さんは言っていた。泣いてる子を見たら元気付けてあげなさいって。
お母さんは言っていた。悪い子を見たら、迷わず戦って、勝ちなさいって。
お母さんは言っていた。輝けるものを見たら、一生大切にして、放してはいけないって。
お母さんは死んでしまったけど、息子はずっとその言葉を胸に秘めて生きていた。
――そして少年は、あのとき『輝けるもの』を見つけた。

「うっ……うぅ……」
「なぁー」
「うぅ……うっ……ぐすっ……」
「なんで泣いてんの?」
少年の目の前にうずくまり、泣いている少女。髪は燃えるように赤く、目は鋭い。誰も信じてはいないとでも言いたそうな、攻撃的な姿。
「……だまれ、話かけるな」
「泣いてたんじゃないのかよ……かわいくねー」
「お前に哀れがられるほど、不幸でもない」
「……なー、お前馬鹿?」
「なっ……なんだと!?」
「いや、質問に答えろよ。お前馬鹿かって聞いてんだよ」
赤い髪の少女は困惑しながらも、涙をぬぐい、強い意志のこもった目で答えた。
「馬鹿じゃない。私は……私は母さんの、娘だ。絶対に、馬鹿じゃない。誇りがあるんだ」
「……なら、その涙を止める努力をしろ。でなきゃ――死んでんのと同じだ」
「……」
少女は目を見開き、一瞬硬直した。
が、少ししてふっと表情を和らげ、少年に笑いかけた。

13 名前:ワイヤード 第六話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 20:26:39 ID:4ulifI0Q
「お前、名前は?」
「人に名前を聞く時は――」
「――ああ、そうだな。私は、ナギ。野々村ナギだ」
「俺は鷹野千歳。呼び方はどうでもいいから適当に考えろ」
「そうか。千歳」
「呼び捨てかよ。はええな」
「不満か?」
「いや、まどろっこしいよりはいいな。よろしくな、ナギ」
二人は顔を見合わせて笑った。どうしようもなく気が会うことを、見た時点で分かり合ってしまった。
これは、紛れもない『運命』だと。二人には無意識であれ意識的にでもあれ、理解されていた。


14 名前:ワイヤード 第六話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 20:27:11 ID:4ulifI0Q
「で、お前なんで泣いてたんだよ」
「聞くな。恥ずいだろうが」
「そういうわけにもいかんな。大方、その赤い髪にでも関係あんじゃねーの?」
「……勘がいいな、その通りだ。転校してきて、馬鹿どもが群がってきて、赤い髪気持ち悪いとか、何人だとか、宇宙人とか、わけのわからんことを言ってきた」
「よくある話だな。そういう特徴をあげつらって人を自分より下に見る馬鹿。そういう奴の脳こそどうにかしたほうがいい」
「ああ、そのとおりだな」
「でも、その口ぶりだとそのことに対して泣くほど悲しかったってこともないみたいだが」
「そうだな。実際は、『宇宙人の娘だ』とか言われたのがショックだったんだ」
「娘……」
「この赤い髪、母さんと同じなんだ。母さんにもらったこの髪を、私は好きなんだ。だから、馬鹿にされたくない。くやしかった……」
「……なぁ」
「なんだ」
「お前、だいたいどいつがお前を馬鹿にしたか覚えてないか?」
「……何をするつもりだ」
「いいから、質問に答えろよ、ナギ。別にお前に関係していることじゃない」
「……どうだか」
そうは思いつつも、ナギは千歳にだいたいの人数と人相と覚えていた限りの名前を教えた。
千歳は、後は大体聞き込みでなんとかするからと言ってどこかに走っていった。
「あいつ、証拠をあげて教師に密告でもする気か……」
余計なことを。とは思うが、なんだか嬉しくて、頬が緩む感覚があった。
それを自分でひっぱたいて引き締め、ナギは愛する母の待つ家に帰った。


15 名前:ワイヤード 第六話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 20:27:57 ID:4ulifI0Q
翌日。ナギが学校に行くと、ナギのクラスの教室で、隣のクラスであるはずの千歳が待っていた。
「よお、ナギ」
「何の用だ」
「何のようかって、別にたいした用じゃない。ってか、お前に用があるのはこいつらだ」
「ん……?」
千歳の指の先を見ると、何人かのクラスメイトが土下座をしていた。
「あれはなんだ。新手の我慢大会か?」
「いや、あいつら昨日のことをお前に謝りたいらしいぜ、なあ?」
千歳はリーダー格らしき少年に呼びかけた。
「は、はいぃ! ナギさん、すみませんでした!」
リーダー格らしきその少年は、千歳よりもずっと大柄で強面だ。なのに、今は何故か千歳に怯えているように見える。
それに、良く見ると土下座している連中はみんないたるところに青あざや擦り傷がある。
――そして、千歳の頬にも小さな擦り傷。昨日はなかったはずだが。
「お前、まさか……」
「こいつら、たたりに会ったらしいぜ。俺はなにがなんだか知らねーけど」
「千歳……」
「ん、なんだよ」
「お前、馬鹿なんだな」
ナギはそう言ってけらけらと笑った。


16 名前:ワイヤード 第六話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 20:28:28 ID:4ulifI0Q
「おい! てめぇ助けられた身分で!」
「見苦しいぞ今更自分の手柄を主張するとは。男らしくない」
「ぐっ……」
「だが――感謝するよ千歳。これはお礼だ」
ナギの笑顔が輝いた。千歳は目を奪われ、硬直する。
「(こいつ、笑うと可愛いんだな……)」
ちゅ。
そんなことを思っている間に、何か柔らかいものが頬に触れていた。
「へっ……?」
「特別だぞ。忘れるな」
恥ずかしそうに頬を赤らめ、ナギはそそくさとその場を立ち去った。
「お、おい! お前今……」
「だーまーれー! 二度目はないからついてくんなー!」
「逃げんな! 今のって……ちょ、お前足速いんだよこら!」


17 名前:ワイヤード 第六話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 20:29:14 ID:4ulifI0Q
「はぁ……はぁ……。どこいったんだよ、ナギのやつ……」
「ここだ。遅いんだよ軟弱者が。捕まえたい物は絶対に放すな」
見ると、木の上に立っていた。ナギの身体能力は同年代の人間とは比べることができないくらいに高いらしい。
息切れすらしていない。
「……俺の母さんみたいなこと言いやがって……降りて来い!」
「捕まえてみろ」
「んだとぉ……」
しかし、高いしとっかかりがない、上りにくそうな木だ。正直、普通じゃ上れない。
「(どうする……)」
「こないのか? ……まあ、その程度だな、馬鹿の力っていうのは」
「(くそ、この女、絶対殴ってやる……)」
千歳は、上ることをさっさと諦め、降ろす手段を考え始めた。
まずは弱点を探ることにする。基本は、相手を良く観察することだが……。
「ん……?」
「なんだ?」
「くまさんぱんつか」
「なっ!」
とっさに両手を離し、スカートを押さえた。バランスを崩し、ナギは落下する。
「危ない!」
千歳が飛び込み、ナギの地面への激突を防いだ。
「……くっそ、こんな手に引っ掛かるとは……。って、千歳、どこへ行った?」


18 名前:ワイヤード 第六話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 20:29:45 ID:4ulifI0Q
「ここだ……」
「下……」
気付いたら、千歳の顔の上にしりもちをついていた。
「お前尻柔らか……へヴぁ!!!」
「し……死ね馬鹿!!」
顔を髪と同じくらいに真っ赤にして、ナギはさっと千歳からどいた。
「いってー……危なかったな。これで貸し二つ」
「何が貸し二つだ。お前が勝手にやったことだろうが。それに、ひとつ目はもう返済している」
「それもそうか。じゃあ貸しひとつ」
「初めてだよ、お前みたいな奴……納得いかないが、礼くらいはしてやる」
ナギは魅力的な笑みを浮かべ、千歳に近づき、肩を掴む。
「おい、ナギ、お前何を……」
「わかるだろう。お前も馬鹿じゃないなら。目を閉じろ」
「……わかった」
二人の距離は少しずつ縮まっていく。
時が止まる。全ての音がなくなってしまった世界に放り込まれてしまったようだった。
とくん、とくん。
互いの心臓の音だけが、二人の間に流れていた。生きている証し。確認しあう。
嬉しくなる。
目を閉じる。
唇が近づく。
――どきどきしている。

19 名前:ワイヤード 第六話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 20:30:16 ID:4ulifI0Q
ナギは、どうしようもなく自分が女の子であるということを自覚した。
昨日今日会ったばかりの男に、心奪われた。
理由なんてない。時間経過など、理由にならないということを知った。
この心はなんなのだろうか。
幼い心には、まだ正確には理解できていなかった。
しかし、この感情は嘘じゃない。
こうして、互いに感じあっている。
二人の距離は、あと五センチ。
それだけ。
心の距離は――。もう、あるのかないのかも分からない。
ただ、通じ合って、交じり合って、心地よいさざなみの中にいるだけだ。
二人の距離はあと二センチ。

――小さな恋の炎は、確かに燃え上がっていた。それは確かな経験で、過去で、嘘ではなかった。


20 名前:ワイヤード 第六話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 20:30:54 ID:4ulifI0Q
「とまあ、こういう出会いがあったわけだ。ずいぶん脚色と単純化を加えてはいるがな」
「っておーい! 肝心のキッスの場面はどうなの!?」
「ああ、あれね。あと一センチほどで授業開始のチャイムがなって、お流れになった。それ以来は、あんな雰囲気になることもないな」
「……そんなぁ、ナギちゃん、そをさぁ、もっと強引にぐいぐいーっと」
「何がぐいぐいーっとだ。つまり、そこで私と千歳のフラグはもう進んでないんだよ。だから私はお前を阻害し得ない」
「……ナギちゃん、ずるい」
「何がだ」
「だって、その話聞いてたら、ナギちゃんもちーちゃんも、両思いだけど遠慮してるみたいじゃん。そんな二人の間に入るなんて、私が邪魔者すぎるよぉ」
「だから、今はそうでもないと何度言ったら……」
「それはナギちゃんがそう思い込もうとしているだけで、本当は違うんじゃないかな。少なくともちーちゃんは、私よりもナギちゃんのことが好きみたいだけど……」
「はぁ……ソースは?」
「女の勘!」
「アホくさい。やってられんな。もう寝るぞ」
「えー! もっとおしゃべりしようよー! これ、私がナギちゃんに勝つために必要なんだよ!?」
「知らん。後はお前の努力次第だろう。未来を信じるなら、自分を信じたいなら、努力しなければ死んでいるのと同じことだ」
「ずるーい。……ぷーん、もういいもんっ! 明日から、本気でナギちゃんに勝つため、たくさん勝負するから、覚悟しててね!」
「ああ、いつでもかかってこい。私はもう寝る……おやすみ、イロリ」
「うん、おやすみ、ナギちゃん……」
イロリは名残惜しそうにしていたが、やがて大人しくなって寝息を立て始めた。


21 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/12(日) 20:31:35 ID:4ulifI0Q
ナギはというと、横目でイロリの顔をちらりと見ながら、心の中で悪態をついていた。
「(くそっ、イロリのやつ、余計なことを思い出させたな……。千歳とのキス、か……結局、一回もできなかったな)」
そもそもチャンスが一回だけだったのに、それを逃がしたのだ。
あのときの胸のときめきを考えると、それだけで頬が熱くなる。
「(……私も、前に進むことができるのか……? この西又イロリのように)」
えらそうなことを散々言ったが、ナギは正直イロリのことを尊敬していた。
臆病な自分とは全く違う、ポジティブで純粋なその精神には、感服する。
「(いつか、私も……愛しているなんて言葉、口にできるのだろうか)」
自信がなかった。
愛されて良い自信。愛して良い自信。
成長できていないのは、ほかでもないナギ自信だ。それを彼女は自覚していた。
イロリのように、反省して、成長して、行動して、また反省する。そんな、それだけのことさえできれば、未来を掴むことができるのに。
自分には、できない。
「(イロリ――。お前なら、お前なら、できる。これは、嘘じゃない)」
――今はただ、自分が欲しかったものをイロリにたくしても良いかもしれない。
そんな気分になる。不思議なやつだ。西又イロリという女は。
「(だからこのキスは、私からお前への、お前から私への、『契約』だ。悪く思うな)」
ナギの唇が、イロリの唇に軽くふれた。
――千歳との、間接キスということになるな。
ナギはふっと自嘲気味の笑みを浮かべた。

22 名前:ワイヤード 第六話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 20:33:45 ID:4ulifI0Q
第六話終了です。あと、上のレス、トリップ抜けてますがあるということにしてください。気合で。
ではまた。

23 名前: ◆KG67S9WNlw [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 21:10:16 ID:5QB8COJA
前スレで大いなるミスをしました。
事前に基本知識を調べなかったせいです。
申し訳ありません。

>>22
GJです。

24 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/12(日) 21:53:10 ID:NJa4rFPD
>>22
最初からナギ派でした
ナギかわいいよナギ

>>23
前スレいいところで切れちゃっててきになるから続きカモーンw

25 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/12(日) 22:01:28 ID:aXCzjKqv
>>1
乙www

26 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2008/10/12(日) 22:19:49 ID:AxNX2M5t
>>23
続き頼むぜ。

27 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/12(日) 22:23:23 ID:4ulifI0Q
>>23
俺へのGJより、続きを……続きを……

28 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/12(日) 22:52:01 ID:muC9TzYz
>>23
早く続きを
500kb行くともうかけないんだぜ

29 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/12(日) 22:56:34 ID:AxNX2M5t
>>23
作品自体は出来ているんでしょう?前スレが容量いっぱいになった後の頼む。

30 名前:奏でる旋律は哀しみの音 ◆KG67S9WNlw [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 23:12:45 ID:5QB8COJA
>>24->>29
では…失礼します。


31 名前:奏でる旋律は哀しみの音 ◆KG67S9WNlw [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 23:13:25 ID:5QB8COJA
僕が音楽を始めたきっかけは、中学時代にとあるバンドとの衝撃的な出会いを果たしたことだった。
そのバンドは90年代でもっとも輝いたとされる有名なグループだった。友人から、余分にとったというチケットをもらい、彼らのライブに赴いた。
そこで初めて聞いた生の音に、力強いヴォーカルに僕は一瞬で魅了された。
それからは、必死に音楽を学んだ。が、当時金がなかった僕はギターなど買うことができず、軽音楽部ではヴォーカルに割り当てられたのもある意味必然だった。
結局、中学時代の僕のバンド活動は高校受験の前に日の目を見ることはなかった。しかし高校入学を果たしてからはひたすらバイトと部活に明け暮れた。
たびたび先輩にカラオケに連れていってもらったこともあった。その時歌ったのはもちろんあのバンドの曲。
先輩曰く、「カラオケの採点なんかあてになりゃしない。お前はいいものを持ってるから、自信を持て」だそうだ。

高校最後の文化祭でようやく僕たちは舞台に立った。コピーバンドとしての登場だったが、オリジナルもいくつか交えた。
観客の反応は僕の予想をはるかに上回り熱狂し、ホールは今までにない最高潮の盛り上がりをみせた。
あの時の感動が忘れられず、僕たちは同じ夢を追い続けてきた。


僕らは皆同じ大学に入り、同じようにバンドを続けていた。コピーバンドはとうに卒業し、オリジナルだけを手掛けた。
そんな中、大学最初の夏にとある無名のレコード会社と契約をした。それからはたびたびライブを行ってきた。
回数を重ねる度にファンも増えていき、初めての単独ライブのころには1万人もの観客を動員した。
その1ヶ月後には念願のメジャーデビューを果たし、シングルは初登場第1位に輝いた。

それから1年が経ったところからこの物語は始まる。
僕の名は、柏木 冬真。ロックバンド"fourth×force"通称「フォース」のヴォーカルだ.


32 名前:奏でる旋律は哀しみの音 ◆KG67S9WNlw [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 23:14:34 ID:5QB8COJA
最近僕はあることに悩まされていた。それは、一部の狂信的なファンのことだ。
デビューしてから、ファンレターの量はは何倍にも増えた。量だけじゃなく、質も重く、苦しいものが多々見られるようになった。

マネージャー兼ファーストギター担当で4人の中で紅一点の赤城 羅刹によると、髪の毛入りの手紙やら怪しさ満点の手作り菓子、果ては小瓶いっぱいにつまった
…な液体と、とても僕には理解できない物ばかりだそうた。そういったものはマネージャーである羅刹が処分しているので実際にお目にかかったことはあまりないが…。

「ほんっと、どうかしてるわ。いつもいつも懲りずにこんなもん送ってきて…そう思わない?冬真。」
「…そうだね、羅刹。応援してくれるのは嬉しいけど、さすがにこれはちょっと…」
「ええ。それにしても、あんたって本当にもてるわね…。ファンレターの半分以上が冬真宛てよ?
まあ、冬真は歌うまいし、かっこいいし。なんとなくわかる気もするわ…。」
「おだてたって何も出ないよ、羅刹。」

羅刹とは、中学の時以来の付き合いだ。僕が軽音部に入部したのと同時期に入ってきた子だ。
当時から何度かふたりで話をしたことがあった。彼女もまた、あのバンドのファンだというのだ。
お互いよく気が合い、息も合い、辛いときも支えあった。僕の歌…いや、夢は彼女に支えてもらったと言っても過言ではないくらいだ。
言っておくが、羅刹は恋人とかそういうんじゃない。一応フォースはグループ内の恋愛は禁止となっている。
まあ、ドラム担当のノリトもベーシストのソウジも外に恋人を作ってるからもしそうだとしても問題はないのだが…ちなみにこの事は超企業秘密だ。

「ところで冬真、クリスマスのライブだけどプログラムどうするの?」
「うーん…やっぱノリトたちと相談しないとな…ん?」

ふと僕は、テレビのニュースに気をとられてしまった。
内容は、最近多発している連続殺人。
その事件は半年前から起きている。ターゲットはみな女性だ。そして、もうひとつ共通項があった。
それは、被害者はみんなフォースのファンだということ。これに気付いているのは僕らと、おそらくファン達の同盟だけだろう。
なぜ気付いたかというと、彼女たちはいつも最前列を競っている常連だからだ。だから必然的に顔も覚える。
ニュースは、8人目の被害者が出た事を告げていた。被害者は全員、左耳から右耳に向けて鋭利な刃物で貫かれて殺されていた。今回も同じ手口だそうだ。

33 名前:奏でる旋律は哀しみの音 前編 ◆KG67S9WNlw [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 23:15:13 ID:5QB8COJA
「ひどいな…また被害者が出たのか。」
「…そうね。気分が悪いわ。」

そう言って羅刹はチャンネルを変えた。番組は、「人気ラーメン店特集!in東京」なるものだった。ん?このパターンは…

「あー!これおいしそー!ねえ冬真!今度一緒に食べに行こうよ!」
「う、うん…そだね。」 やっぱり。

羅刹は、極度のラーメン好きなのだ。今までも何度か連れてかれたことがある。
普段クールな彼女も、この時は子どものように無邪気にはしゃぐ。そして僕は、そんな羅刹が好き(父性愛に近い意味で)なのでいつも断れないのだ。


休日、僕らは例のラーメン屋に来ていた。"僕ら"とはフォース全員を指している。カウンター席の右から順に松田 創路、桜庭 祝詞、羅刹、僕だ。
あのあとプログラムについてノリトたちと電話したら、いつの間にか一緒にラーメン屋に行くことになったのだ。羅刹は「目立つ」とか言って機嫌を損ねていたが。

「ちぇっ…せっかく二人きりだったのに…ぶつぶつ…」
「ん、どうかした?羅刹。」
「…なんでもないもん!」
「ラセツは一途だからな。邪魔したかな?」
「ソウジ、どういう意味だ?」
「…ほんっと鈍いよなトーマは。クスクス…」
「ノリトまで…いったい?」

よく分かんない。僕は再び麺をすすり出した。あれ、チャーシューが一枚ないや。こういう時は大抵…

34 名前:奏でる旋律は哀しみの音 前編 ◆KG67S9WNlw [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 23:16:06 ID:5QB8COJA
「羅刹、おいしい?僕のチャーシュー。」

びくっ、と羅刹が震えた。顔が茹でたこのように真っ赤だ。

「欲しかったらあげるよ、ほら。」

僕はもう一枚のチャーシューを差し出した。

「…ありがと。」

羅刹はチャーシューにスープをよく絡め、食べた。さらに顔が赤くなっていく。
そんなにチャーシューが好きだったのか。ならチャーシュー麺にすればよかったのに。

「ほどほどにしとけよトーマ。ラセツが死んじゃうぞ?」とソウジが言った。
「チャーシューで人が死んだらなんにも食えなくなるよ。」
「トーマ…鈍感もそこまでいくと犯罪だぞ?」
「え、なにが?」
「…はぁぁ。まあがんばれ。」

みんなして、今日は変なことばかり。いったい、どうしたんだろうか?

35 名前:奏でる旋律は哀しみの音 前編 ◆KG67S9WNlw [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 23:17:51 ID:5QB8COJA
ラーメン屋をあとにした僕らはゲーセンに来ていた。みんなはサングラスや帽子をつけている。僕の場合は、染めた銀髪を隠すためのかつらだ。案外、ばれないものだな。

ノリトは早速太鼓のゲームに手をかけた。さすがドラマーだけあって、相変わらずすごい。

羅刹は、UFOキャッチャーに夢中だ。実は羅刹はこれが妙にうまい。僕の知る限り、ミスをしたことはない。

僕とソウジはアーケードゲームをすることにした。出た当時は青いロボットがタイトルだったのに、
最近は白いロボットが長いライフルを構えるものになってしまったのが残念だ。あの青いの、好きだったのになあ。

僕らが20戦目でようやく敗退したころ、切り上げることにした。ノリトとソウジは北側、僕と羅刹は南側に別れて解散した。

「じゃあ冬真、私はこの辺で。」
「うん。またね、羅刹。」

羅刹とも別れた。僕は1人で家路につく。今日は楽しかったな。羅刹も、あんな
一面があるなんて…かわいいやつ。

でも、この幸せは長くは続かなかった。



翌日、ソウジが死んだと連絡を受けた。

36 名前:奏でる旋律は哀しみの音 前編 ◆KG67S9WNlw [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 23:19:09 ID:5QB8COJA
前編終了です。
続いて中編に入ります。

37 名前:奏でる旋律は哀しみの音 中編 ◆KG67S9WNlw [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 23:20:38 ID:5QB8COJA
ソウジが死んだ。いや、殺された。耳を貫かれて。
連絡を受けた僕はすぐに警察に向かった。別れたあと、あるいはその前の詳しい状況を訊かれたが、それでも、いつもと変わらなかったとしか答えるほかなかった。
羅刹とノリトの事情聴取は先に済んでいたようだ。

僕らは、深く悲しんだ。高校時代からの大切な仲間を失ったことは、計り知れない無念さと、悲しさをもたらした。


クリスマスのライブは…中止にしようか。僕はそう切り出した。すると…

「だめよ!ソウジのためにも、ライブはやるわ…!」
「でも、そんなこと…」
「わたしからもお願いします。」

声のした方へ振り向いた先には、1人の女性がいた。たしか彼女はソウジの……
「創路くんと…この子のためにも、歌ってください!」
お腹に手をあててそういう彼女。ソウジ…そうだったのか。

「わかりました…ライブは、必ず成功させます。」

僕は、歌う決意をした。

38 名前:奏でる旋律は哀しみの音 中編 ◆KG67S9WNlw [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 23:22:11 ID:5QB8COJA
当日、観客はいつもの何倍もの動員数だった。前売り券はネット上では2秒で売り切れ、チケット売り場には2日前から列ができていた。
武道館というあまりに広い空間で立ち見が続出している。こんなことは今までなかった。

僕は精一杯歌った。いつも傍らで心地よく響いていた重低音は、今日は僕の手元から聞こえる。ソウジの愛用していたベースで、僕が弾いていたからだ。
ソウジのテクニックには遠く敵わないが、それでも力の限り弾き、歌った。

最後の曲は、ソウジが作詞作曲を手掛けたバラードにした。不思議と、今日はいつもより声が出た。ソウジが支えてくれているからかな。
ふと、羅刹の方をちらっと見る。羅刹は…涙を流しながらギターソロを弾いていた。

観客もみな、涙したようだ。僕らの歌をただ静かに聞き入っている。演奏が終わると凄まじいまでのスタンディングオベーションが沸いた。
その中には、ソウジの彼女もいた。

なあソウジ、これでよかったんだよな。僕は青のベースギターにそう問いかけた。


ステージを終え、僕らはミーティングをした。その席でノリトがこう言った。

「…解散しないか。」

言うまでもないが、僕もそう思っていた。ソウジがいない今、実質フォースをやっていくのは難しいし、なによりソウジの存在が大きかった。
この哀しみは消えないだろう。歌うたびに、僕の手の中でベースが踊るたびにそれを痛いほど実感した。でも…

「…いや。」

39 名前:奏でる旋律は哀しみの音 中編 ◆KG67S9WNlw [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 23:24:37 ID:5QB8COJA
羅刹は反対した。

「羅刹…悪いけど僕も同じ気持ちだ。…解散しよう。」
「いやよ!今までだってずっとやってこれたじゃない!冬真が弾かないなら私が弾いたっていい!だから…おねがい、解散だなんて…言わないで…!」
「ラセツ…ソウジの代わりなんて誰にもできないよ。」
ノリトは羅刹にそう言った。

「いや!私は…私にはフォースが全てなの!ねえ冬真…続けるよね…?なんとかいってよ…冬真……。」
「…ごめん。僕はもう、歌えないよ。次のライブで終わりにしよう。」


羅刹は、その場にへたりと崩れ落ち、泣いた。僕は、そんな羅刹を抱き締めてやった。

「ごめん…羅刹。」



あれから一週間。その間僕は部屋にこもりっきりで、フォースの最後を締めくくる楽曲を書いていた。そしてついさっきようやく書き終え、久しぶりに部屋を出て風呂に入ったところだ。
タオルで水滴を拭い、衣服を身に付け部屋に戻ったとき携帯が鳴った。―――会社からだ。

「はい、冬真ですけど…」

40 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/12(日) 23:24:42 ID:AxNX2M5t
支援♪

41 名前:奏でる旋律は哀しみの音 中編 ◆KG67S9WNlw [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 23:25:51 ID:5QB8COJA
「トーマくん、落ち着いて聞いてくれ…。ノリトが…殺された。」

―――その言葉の意味を理解するのに数秒かかった。
「例の殺人犯だろう…ノリトもまた耳を刃物で貫かれて死んでいたそうだ。それで……」
そこから先は聞き取れなかった。ただ僕は意味も分からないまま相槌をうち、電話を閉じた。

あれから何時間が経ったろう。僕はただ呆然としてベッドに腰かけていた。何も考えず、屍のように存在していた。

ふいに、ドアのチャイムが鳴った。誰だろう。…誰でもいいや。もし殺人犯ならむしろ歓迎したい。もう疲れた。殺すならさっさと殺してくれ。

そんな気持ちでドアを開く。が、客人は殺人犯ではなかった。それは、とても良く見知った顔。灰色をしたとても長い髪の、女の子。…羅刹だった。

「…電話、聞いたわね。心配だから来てあげたわ。」
「羅刹…っ!僕は…」
「いいから…ほら。」

そう言って羅刹は、僕を抱き締めてくれた。温かかった。そこでようやく僕は泣いた。羅刹の胸の中で、涙が枯れそうなほどに。


42 名前:奏でる旋律は哀しみの音 中編 ◆KG67S9WNlw [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 23:26:51 ID:5QB8COJA
「冬真…いま、楽にしてあげるから…。」

ふと、羅刹はいきなり服を脱ぎ出した。僕はそれを止めるでもなく、ただ見とれていた。
綺麗だった。白い肌に灰の髪、まるでこの世のものでないようだった。
―――この世のものでない。そう思ったとき、僕はある恐れを抱いた。
羅刹まで、いなくなるのだろうか?僕を独りぼっちにして。
思い始めたら止まらない。自分でも体の震えが増していくのがよくわかった。

「大丈夫よ、冬真。私はいなくならないから。だから…おいで?」

その言葉はまるで天使の囁きのようだった。僕は言われるままに羅刹のもとへ行き、その体を求めた。



羅刹は純潔だった。それを、下腹部から滲み出たかすかな鮮血が証明していた。
でも、今の僕は羅刹を気遣うことなんかできなかった。ただ自分の欲望のままに、乱暴に抱いた。羅刹は、目尻に涙を浮かべて歯を食い縛っている。それでも決して、痛みを訴えることはなかった。

43 名前:奏でる旋律は哀しみの音 中編 ◆KG67S9WNlw [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 23:28:05 ID:5QB8COJA
与えられる一方通行の快楽に、僕はついに限界を迎えた。その全てを、羅刹は受け止めてくれた。

「はぁ…はぁ…冬真…気持ちよかった…?」
「羅刹っ…ごめん…僕は…」
「いいのよ…私も、冬真とひとつになれて嬉しかったから…おあいこよ。」
「え…?それってどういう…んっ」

言葉は、途中で遮られた。唇を塞がれ、羅刹の舌がなかに入ってくる。僕も同じように返す。

「私、冬真が好きなの。だから…冬真の全てが欲しかった。冬真の歌声をずっと間近で聞いていたかったの。私には、冬真が全て。だから…」
「…わかってる。次のライブ、二人のためにも最高のものにしよう。」


葬式を終えた僕らは、その次の日から打ち込みの製作に入った。ドラムとベースの穴をふさぐためにどうしても必要だった。
不思議と、もう悲しくはなかった。今は羅刹がずっとそばにいる。それがこんなにも心強いなんて。
夜になれば僕らは互いに求めあった。傷を舐めあうような行為だが、僕らはそれで満足だった。

そして僕らはついに、fourth×force最後のライブの日を迎えた。

44 名前:奏でる旋律は哀しみの音 中編 ◆KG67S9WNlw [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 23:28:56 ID:5QB8COJA
中編終了です。
後編に入ります。

45 名前:奏でる旋律は哀しみの音 中編 ◆KG67S9WNlw [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 23:31:19 ID:5QB8COJA
中編終了です。
後編に入ります。後半は短いです。

46 名前:奏でる旋律は哀しみの音 中編 ◆KG67S9WNlw [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 23:31:59 ID:5QB8COJA
ステージには主を失ったドラムとベースが置かれている。今のfourth×forceは、僕と羅刹の二人だけだった。それでも、観客は前回のライブの倍はいた。
僕はそんな観客たちに応えるべく切り出した。

「こんばんは、フォースです。」

瞬間、歓声が沸いた。そのまま僕は舞台裏のスタッフに合図を送り、打ち込みの音を流した。この前まではシンセサイザーとセカンドギターのみ。
今日は、新たにドラムとベースの音が加わっているものだ。
やはり物足りない。が、その空虚さは羅刹のギターが埋めてくれた。そうして、順にプログラム通りに曲をこなしていく。
今日はあえて二人の作った曲を多めにプログラムに入れた。観客は、たびたび涙した。

最後は、僕が先日書き下ろした曲。観客は今だかつてないほどに歓喜し、感動していた。

「みんな、今までありがとう!」

僕は観客に向けてそう言った。凄まじい密度の拍手の海に僕らは見送られた。


ライブが終わったあと羅刹は、用事があるとかで外していた。なので僕は、1人で先に家に帰った。
あの日以来、羅刹と二人で過ごしている。ここは僕の家であり、羅刹の家でもあるのだ。

47 名前:奏でる旋律は哀しみの音 後編 ◆KG67S9WNlw [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 23:34:51 ID:5QB8COJA
ベッドに横たわり、今日のライブを思い返す。
羅刹…今日はすごく調子よかったみたいだ。やっぱり最後だからかな…?表情も心なしか上気したみたいだったし…そんなこと言ったら怒られるかな。


呼び鈴が鳴る。僕はベッドを降り、ドアのスコープを覗く。羅刹だ。
すぐに鍵を開けてやった。

「おかえり……え…?」
「ただいま、冬真。」

そう言った羅刹。しかし僕はその姿に言葉を失った。
羅刹は、全身血まみれだった。手には長いナイフが握られている。そう、ちょうど人間の顔を横から貫通させることができそうな…。

「ら…せつ…?いったい…なにが…?」
「なにって…ああ、心配しなくていいよ。発情期の雌猫を2、3匹駆逐しただけだから。」
「めす…ねこ…?」
「そう、雌猫。あんなやつらに冬真の歌を聴く資格なんてないわ。だから、何も聞こえなくしてやったの。あはははっ…」
それこそ歌うように嬉々として話す羅刹。

「まさか…連続殺人犯って…羅刹が?」
「人聞きが悪いわね。あくまで雌猫を駆除しただけよ?ふふ…」
「ノリトも…ソウジも何で殺した!?」
「だってノリトったら、私と冬真を引き裂こうとしたんだもん…当然よ。ソウジは、冬真の隣にずうずうしく座ってたのがいけないの。
冬真のそばにいていいのは私だけなんだよ?」

―――羅刹は、狂っていた。少なくとも、僕にはそう見えた。

48 名前:奏でる旋律は哀しみの音 後編 ◆KG67S9WNlw [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 23:36:04 ID:5QB8COJA
「ねえ…これからは私のためだけに歌ってね?ほら…今日だって、冬真の歌を聞いてたらここもこんなになっちゃったんだからぁ…。」

スカートをめくり、下着のなかに僕の手を導きながらそう言う羅刹。手には、ぬるぬるとした感触があった。
それも、半端な量じゃない。まるで粗相をしたかのようだった。

今度こそ何も考えられなくなった。そんな僕を羅刹はゆっくりと床に押し倒し、唇を奪ってきた。

「―――…。――――。――――………」

羅刹が何か言っている。でも、もう何も聞こえない。僕は少しずつ、しかし確実に羅刹に犯され、侵されていった。


無意識のうちに、僕は歌を口ずさんでいた。それは、僕がはじめて聞いた彼らの曲。

"僕はあなたを照らしたい、あの輝ける太陽のように。僕が貴方を守ろう、すべての暗闇から。それは心からの真実――――"





49 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/12(日) 23:37:46 ID:AxNX2M5t
>>48
ありがとう。良くまとまっているけど新人さんじゃないのかな?

50 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/12(日) 23:39:09 ID:9G/I4MkV
>>48
乙です  
締めがいいですね

51 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/12(日) 23:39:28 ID:DColb689
リアルタイムktkr!!
GJ!!
ゾクゾクきた

52 名前:奏でる旋律は哀しみの音 後編 ◆KG67S9WNlw [sage] 投稿日:2008/10/12(日) 23:40:36 ID:5QB8COJA
終了です。>>45はミスです。
熱狂的、狂信的なファンって病んでるかなぁと思って書きましたが、最後はこんなんになりました。
前作ではやたらセリフや擬音に頼ってしまったので今回はそういったことに
気を使いました。その分他ででかいミスをしましたが…。本当にすみませんorz

53 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/13(月) 01:15:33 ID:gd8+XaiE
その歌詞はラルクのSHINEか?
何にせよGJ!

54 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2008/10/13(月) 06:27:50 ID:Lx5+Jbty
ジミーマダー?

55 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/13(月) 09:28:36 ID:tp8G9sE1
毎回毎回催促まじでうざいよな
少しは作者の事も考えて大人しく全裸で待機してろよ
紳士だろ

56 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/13(月) 09:58:44 ID:QEW6pOWD
ようやくこのスレもしおらしくなってきたな

57 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/13(月) 11:03:36 ID:TaKpT79V
ひらがなばかりでよみづらいじゃないの

58 名前:ワイヤード 第七話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/13(月) 11:58:13 ID:M7IGTwYl
投下します

59 名前:ワイヤード 第七話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/13(月) 11:58:43 ID:M7IGTwYl
第七話『ファーストバトル・開催』

「なんか、今日は身体だるいんだよなぁ」
「ん、昨日なんかあったの? オナニー八回くらいしたとか?」
「いや、彦馬じゃあるまいし」
「失礼な! 僕は仮にも紳士、一日一回に全てを懸ける!」
学校に行くと、いつもの風景があった。ナギと千歳を出迎える彦馬、各々好き勝手している楽しいクラスメイト達。
だが、同時にいつもと違うものもあった。
「みんなおはよー! そこの君も、あなたも、おはよー!」
元気良く全員に挨拶している女、イロリ。
千歳がナギを迎えに行ったとき、一緒に寝ていたから驚きだった。いつの間に仲良くなったんだ。
ナギに聞くと、「知らん」といってそっぽをむいた。
イロリに聞くと、「へへー、ちーちゃんには、ひ・み・つ」といってにやにや笑いをされた。さっぱりだ。
「いやー、イロリちゃんもクラスに馴染んできたねー」
「二日目にしてあれだからな」
イロリはクラスのほとんどの名前を覚えたようで、ほぼ全員と親しそうに一言二言交わしていた。
陰気な窓際族の、いかにも社交性がなく、嫌われ者で通しているようなやつにすら、陽気に声をかけていた。
これまでの人生でモテた経験のない者にとっては、イロリはまさに天使に見えたろう。
「でも、あんな可愛い子が千歳のお嫁さんだなんて、世の中不公平だよね。僕にも分けてくれないかい」
彦馬はからかうように言った。
「ナギちゃんというものがありながらさ」
「ナギだぁ?」
「そうだよ。ナギちゃんみたいな可愛い子といつもべたべたくっついてるのに、その上嫁を自称する幼なじみ登場だよ。しかも妹さんは可愛いし、これなんてエロゲ?」
「……百歌が可愛いのは認めるが」
「出たよシスコン」


60 名前:ワイヤード 第七話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/13(月) 11:59:14 ID:M7IGTwYl
「出たよシスコン」
「ナギが、可愛い……だと」
机にだらりと身体を投げ出しているナギを見る。だらしなくボサボサの髪、だるそうにあけた口、半分しか開いていない目。貧相な身体。
美人だとかそういう系統の賛辞はとてもじゃないができない。
「見慣れてるからそういうことが言えるのさ」
「そうなのか……?」
「そうだって、ねぇ、ナギちゃん!」
彦馬は大きな声でナギに声をかける。
「なんだ……うるさいぞ彦馬」
だるそうにナギは顔を上げる。いかにも「うぜー」というような顔つきだ。イロリや百歌ならこんな表情死んでもしないだろう。
「ナギちゃん可愛いよナギちゃん!」
「……?」
ナギは働かない頭でしばしその彦馬の言葉をよーくかみしめた。
そして、理解した。
「眼科行け」
再び机につっぷして寝始める。
「ナギちゃん、そりゃないよぉ」
「見た目はどうあれ、ナギは中身があれだからな」
「でも、同じ言葉でも千歳がいうと違うんだよね。ほら千歳、言ってみてよ」
「はぁ?」
「ほらほらー」
「……わかったよ、ったく……。おい、ナギ」
再び声をかける。さっきよりさらに怒りをためながら、ナギが顔を上げた。


61 名前:ワイヤード 第七話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/13(月) 12:00:24 ID:M7IGTwYl
「……なんだ千歳。彦馬よりくだらないことを言ったら唇に瞬間接着剤をつけるぞ」
「ナギ可愛いよナギ」
「……?」
ナギは再びさっきと同じように言葉の意味を脳内でこねくり回して考えた。
そして。
ぼふん。
顔から蒸気があがる。
髪の色と同じ真っ赤に染まった、ゆでだこ状態の顔。鋭い目で千歳をにらむ。
「お……お前……今……今言うことか!!!」
同時に、素早く手を振る。
「(投擲!?)」
敏感に反応した千歳が投擲されたものをぱしりと掴む。常人では考えられない反応と対応だ。
見ると、千歳の手の中にはシャーペンが納まっていた。芯を出して殺傷性をあげている。
「あぶねーぞ!」
「うるさい、お前が悪いんだろうが!」
「可愛いって言っただけだろうが!」
「そういう冗談は性質が悪いから止めろ!」
ここまでナギが興奮するのは珍しい。いつもはもっとだるそうに無視するというのに。
「なになにー? ナギちゃんを『可愛い』っていう大会ー? ナギちゃん可愛いよナギちゃん」
横からイロリが急に首を突っ込んでくる。このクラスにいることがよほど楽しいらしい。さっきからずっとニコニコしている。
「ああっと、イロリちゃん。昨日は自己紹介できなかったけど、僕は千歳の一番の親友の彦馬! よろしくね!」
彦馬はイロリに近づき、手を差し出す。
にっこりと微笑み、イロリも握り返す。
「うん。こっちこそよろしくね。でも、ちーちゃんの一番の友達かぁ……つまり、彦にゃんは、私のライバルってことだね!」


62 名前:ワイヤード 第七話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/13(月) 12:00:54 ID:M7IGTwYl
「へっ……?」
彦馬はぽかんと口をあけた。
「彦にゃんって、なんだよ」
ナギはけらけらと笑いながら、彦馬を指差した。ツッコミどころはそこではない。
「おいイロリ、ライバルって何だよ」
千歳が冷静に聞く。
「ちーちゃんの一番になろうって、昨日決めたの! だから、まずはちーちゃんの一番の友達になって、そのあと一番の恋人になる! それでお嫁さんになるの!」
「……意味わからん」
千歳はあきれ果てる。目を輝かせて力説するイロリには悪いと思ったが、感情的すぎて説明になっていないのだ。
「つまりイロリは昨日こう考えたということだ」
「ナギ……」
「お前の一番になるために、今お前の心の中で高い地位を占めている人間全てに『勝つ』とな」
「どういうことだ」
「お前に認められるため、努力をするってことさ」
ナギは嬉しそうに語った。昨日イロリを応援するといったのは本当なのだろう。
「(でもまあ……)」
千歳も少し嬉しくなる。
好意をもたれてあいてをキライになる奴はいない。イロリは一途で努力家で、純粋だ。
いつか、いつかは、千歳の中でも大きな存在になるかもしれない。いや、きっとなるだろう。
「(って、なに他人事みたいに考えてんだ、俺……。決めるのは俺だろうに)」
そもそも、イロリのことを今自分はどう思っているのだろうか。千歳はそれすら良く分かってはいない。
もしかしたら、好きなのかもしれない。自覚がないだけで。
「(まあ、いずれ分かるか。……今は)」


63 名前:ワイヤード 第七話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/13(月) 12:01:25 ID:M7IGTwYl
「皆さん、おはようございます」
教室に入り、ペコリと頭を下げる大人しい少女。
「やあ委員長、おはよー」
「おはようございます、彦馬さん」
「おはよう。ミクちゃん」
「おはようございます、イロリさん」
「……よう」
「おはようございます、ナギさん」
――井上 深紅。
「……」
千歳は他の人間には気付かれない程度の視線を送り、威嚇する。
視線が帰ってくる。本当に、お互いにしか気付かれないほどに小さな視線の交錯。
「おはようございます、千歳君」
口元だけが、にやりといやらしく笑った。
「ああ……。委員長」


64 名前:ワイヤード 第七話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/13(月) 12:01:56 ID:M7IGTwYl
「今日の体育は男女混合だー」
女子の担当の教師が急な休みらしく、男子担当の筋肉質な教師が男女を全てまとめる。
種目はテニスになった。
「テニス経験者はいるかー?」
「はいはい、僕でーす!」
真っ先に手を挙げたのは彦馬だった。そう言えば、彦馬は中学の時テニス部だった。千歳は思い出し、人間には特技って一つぐらいあるもんだよなと思った。
「他には?」
「私も、少し」
イロリも手を挙げた。
「じゃあ、二人でてちょっくら1ゲームのシングルスて見本試合をしてくれ。ルール説明とか打ちかたとか動き方とか、そのときに説明するから」
男性教師はそう二人に頼むと、いやな顔一つせずに引きうけ、コートに上がった。
「さっそく直接対決だね。ちーちゃんの一番の友達の座、もらうから」
「じゃあ、僕にまけたら僕の恋人にとか……なんちて」
「いいよ」
「へっ……?」
「もし私に勝てたら、だけど」
自信満々で言い放つイロリに、少しむっとして彦馬も言い返す。
「そこまで言われたら、僕も男として引き下がることはできないね。良いよ、僕が勝ったら、千歳は諦めて僕のものになってよね」
「いいよ。サーブはどっちがする?」
「女の子だからね、君にやらせてあげるよ」
「いいの?」
「もちろん」
試合が始まった。


65 名前:ワイヤード 第七話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/13(月) 12:02:34 ID:M7IGTwYl
「おいおい、大丈夫かよ」
千歳が溜め息をついた。
「どっちが?」
「彦馬が」
「だろうな」
ナギも溜め息をついた。
「ふぅー……。この一球に、ちーちゃんを愛する気持ちの全てを懸ける……」
トスを上げる。
「ラブ・ラブ・サーブ!!!!」
きわめてダサい技名を叫びながらイロリはファーストサーブを放った。
が――
「――はやっ!?」
気付いたときには既にネットを越えていた。彦馬はとっさにラケットを突き出し、ボールに当てる。
「(当てるだけでいい、とにかく返して……なっ!?)」
全くボールが動かない。ラケットに吸い付いたように跳ね返らず、彦馬の腕を押し返していた。
「ぐ……おぁ!!」
彦馬が腕を振り切った。
「……」
沈黙。
からんっ。
乾いた音。
吹っ飛んだラケットが地面についた音。

66 名前:ワイヤード 第七話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/13(月) 12:03:06 ID:M7IGTwYl
「私の――サービスエースだね」
周囲がどっと沸いた。
「すげっ! みたか今の!」
「ああ見た、ありゃ波動球だぜ!」
「イロリさんぱねぇっすwwww マジリスペクトっすよwww」
「技名はダサいけど、かっこいい!!」
千歳とナギもあっけに取られる。いや、千歳は、予想通りの展開にあきれ返っていた。
「やっぱりな」
「どういうことだ。あの力は……?」
「あいつ、目的のためだとああいう風にわけわかんねぇパワーになるんだよ」
「目的……? お前のために何かをすることでパワーアップしているということか?」
「まぁ、言うなればそういう感じになる」
「……これは、とんだ大物に出会ってしまったな」
「おいナギ、どこ行くんだ!?」
「確かめる」
「確かめるって何を!?」
――西又イロリ。お前なら、全てを乗り越えることができるかもしれない。


67 名前:ワイヤード 第七話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/13(月) 12:03:37 ID:M7IGTwYl
「そんな……強すぎる……」
彦馬は膝をつき、放心していた。
仮にもテニス経験者だ。力の差は分かる。――いや、その底知れない力の一端に触れることができたのだ。
「あれは、テニスの技術なんかじゃない……もっと根本的な、生物のレベルで……」
――食われた。
完全な敗北。一球で、たった一球ですべてを理解してしまった。
「僕は……なんて思い上がりを……。あんなの、千歳じゃないと……千歳以外には……」
つりあうわけがない。
「そうか。諦めるにはまだ早いとは思うがな」
「!? ……ナギ、ちゃん」
「まあ、お前もまだ成長できる。今は私に変われ」
「……ナギちゃん、戦うのか!? あんなのと……!?」
「あんなのとは何だ。あいつは私の友達であり、千歳の嫁候補であり、お前が一瞬でも憧れた女だぞ」
「でも……」
「……つべこべ言っているひまはない。選手交代だ!」
ナギは大声で宣言した。落ちたラケットを拾い、手に馴染ませるようにぶんぶんと振り回す。
どうみても素人の手つきだった。
「ナギちゃん、テニス経験は……?」
「ないな、一秒たりとも」
「そんな! そんなんじゃイロリちゃんには……!」
「そんなもんで諦めているうちは、強くはなれない。お前が負けた原因がまだわからないか?」


68 名前:ワイヤード 第七話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/13(月) 12:04:08 ID:M7IGTwYl
「え……?」
「お前は精神でイロリに凌駕されていたんだよ。あいつ、『負けたら千歳を諦める』覚悟でお前と戦ったんだぞ。その覚悟につりあう『覚悟』はお前にあったのか?」
「僕は……」
「誰かを上回ろうとするときは、誰かに傷つけられる、誰かに踏みにじられるものだ。傷付かずに前に進む道はない。欲しいもののために前進して、綺麗なまま道を終える奴などいない」
ナギは太陽の光を浴びながら、その赤い髪を輝かせていた。
彦馬にはそれが、まぶしすぎた。
「強くなるということは、傷付いていくということだ。その『覚悟』がなければ、誰にも打ち勝つことなどできない」
ナギはラケットをイロリに向け、宣戦布告をする。
「イロリ、お前は私に勝つといったな。なら、私に負ける覚悟もあるわけだ」
「……うん」
イロリが頷く。いい顔をしていた。迷いのない、戦士の顔を。
「なら、私も母にもらったこの身体が持つ『力』と『誇り』の全てを懸け、お前と戦うことを約束する!」
「……いいよ、私も愛の全てをかけて、ナギちゃんと戦うよ」
イロリの返答は、口調こそ穏やかだったが、静かで、しかし熱い闘志に満ち溢れていた。
戦いが始まった。

69 名前:ワイヤード 第七話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/13(月) 12:04:39 ID:M7IGTwYl
第七話終了です。
展開が遅いのでもうちょい引き締めます。

70 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/13(月) 12:14:06 ID:M7IGTwYl
>>48 GJ いい病み具合でした。
俺もバンドやればヤンデレの子がくっついてきてくれるのでしょうか

71 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/13(月) 12:39:50 ID:DTEaU/xo
>>69
乙乙~
俺からもナギ可愛いよナギ
しかしイロリはどんどんとんでもないキャラになっていくなw

72 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/13(月) 12:43:00 ID:FZj7lzGb
>>69
GJ!
百歌が来るまで全裸待機!!

73 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/13(月) 13:27:48 ID:G6+mSpjE
>>69 GJ!!まだヤんでいるのを見せているのが妹だけなので、他の人がどんな感じでヤむのか楽しみです。
委員長?あれはただのキチガイです。委員長にどんな天罰が下るか楽しみです。

74 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/13(月) 17:04:45 ID:oNdwFhoZ
>>73
馬鹿!今の委員長に聞かれたらただじゃsま n い ぞ ・・・

75 名前: ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/13(月) 17:22:21 ID:M7IGTwYl
>>71 ttp://up2.viploader.net/pic/src/viploader813984.jpg

76 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/13(月) 18:29:33 ID:4H/Nwz8h
>>75
おお~

77 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/13(月) 20:05:31 ID:7NTvOnok
ナギかわええ…

78 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/13(月) 20:17:48 ID:fajBwt5A
あれ?胸が…あ…る……?

79 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/13(月) 20:21:46 ID:FZj7lzGb
>>75
GJ!この調子で百(ry

>>78
・・・・・・でもかわええ

80 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/13(月) 21:12:49 ID:LDwTkYaf
立ってたのかorz
>>1乙

81 名前: ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/13(月) 21:34:51 ID:M7IGTwYl
>>79 ttp://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_062016.jpg
絵ばっかり描いてないでそろそろ書くほうに戻ります。
暇があったら色塗りますんで。

82 名前:ワイヤード 第八話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/13(月) 23:43:28 ID:M7IGTwYl
投下します。
落書きは、ナギとイロリです。
ttp://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_062086.jpg

83 名前:ワイヤード 第八話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/13(月) 23:43:59 ID:M7IGTwYl
第八話『ロールアウト・鉄槌』

「ここが、トウキョウか……」
金髪の少女はきょろきょろと周囲を見渡す。
人、人、人。そして、人。
どこを見ても人ばかり。人口密度の高さは数値では知っていたが、これほどのものとは。頭ではなく感覚が悲鳴をあげそうだ。
「(これでは、誰が敵かもわからんな。急な発砲に対処しきれるか……)」
日本において発砲の可能性など無視してもかまわないほどに小さなものなのだが、彼女の育った環境ではその常識は通用しない。
銃の所持が許可されていた場所で育ったという意味もある、しかし、彼女の場合は大いに『使用する場面』で育った。
「(高いビルばかりだ。空が隠されている)」
こんな所で暮らす人々は、さぞ湿っぽいやつらなのだろうと思い、周囲の人間達を観察する。
思い通り。
どいつもこいつも、目に光が灯っていなかった。強い意志、未来への希望、そんなもん、ゴミほどにも思っていない連中ばかり。
一日一日を『戦場』などと嘯いて、本当の戦いも知らずにただ社会の波に飲まれていく。
金髪の少女に言わせれば、それらは人間というよりもむしろクラゲだった。骨がない。
もちろん、夢や希望をもつ若者たちの姿もいくつか見受けられる。楽しそうに今を生きている。
いつかかなえたい夢があるから、未来があるから。そのために努力し、今を生きている。前に進んでいる。
――だがそれは、夢という言葉そのものに呪われただけだ。
金髪の少女は落胆した。
この街の人間は、誰一人『覚悟』を決めていない。前に進むために傷付いていく覚悟を。
夢や希望や、未来や真実、正義。そんな口当たりや耳に心地がよい言葉の魔力に吸い込まれているだけだ。世界の本当の姿を見ていない。
綺麗な言葉で自分自身を飾っても、それはただのメッキだ。ちょっと雨が降れば、はがれていく。
本当に強くなる道は、自らのこころの中にしか眠っていない。誰かに与えられるものではない。
「(こんなに弱い人間ばかりの場所に、本当に『コントラクター』がいるのか……?)」
疑いすら持つ。
しかし、この情報は教団関係の確かな筋から手に入れたものであったし、それに――。
「(キョウトで会ったあの『ワイヤード』も、トウキョウに来ている……)」
そう。
――十年前、教団が始めて捕獲、分析に成功したワイヤード『西又 イロリ』が、この東京に。


84 名前:ワイヤード 第八話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/13(月) 23:44:30 ID:M7IGTwYl
「3ゲーム先取でいいよね、ナギちゃん」
「かまわん。こい、イロリ」
ナギとイロリ、二人の闘気がコート上でぶつかり、拮抗していた。どちらも引く様子はない。完全に互角だ。
千歳はこの状況に素直に驚かざるを得なかった。
昔知っていたイロリからなにも変わらないどころか、さらにパワーをあげていること。
そして――
「ラブ・ラブ・サーブ!!」
「ふん、ハエが止まるぞ」
――ナギが本気になっている所を初めて見た。
ナギは軽々と数回のステップで波動球に追いつき、ラケットをコンパクトに振り切った。
その細腕で返せるのかとみな疑問だったが、ナギは右腕を全く伸ばさずに左手で支えながら身体全体を半回転させることによって見事にレシーブした。
しかし、その珠のスピードはもちろん遅い。やまなりのチャンスボールとしてイロリのコートに返った。
イロリは目を光らせ、前進しつつジャンプする。
「いただきだよ!」
スマッシュ。
200キロを超えているのではないだろうかと思われる強力なボールがナギのコート、右奥のラインギリギリに向かって高速で飛来した。
ナギは逆側の前に出ている。間に合うわけがない。
――と、誰もが思った。
「ふっ!」
ナギが息を吐き、走り出す姿勢になる。
そして、その場にいる全員が目を疑った。
「(瞬間移動!?)」
ナギは走り出す姿勢をとったとほぼ同時にコートの真反対を襲っていた高速のボールを追い越し、逆に待ち構える体勢をとっていた。
イロリの目をもってしても、瞬間移動にしか思えなかった。
「がら空きだ」
イロリは前に出ていた。さらに、今しがたスマッシュから着地したところである。
その頭上を、悠々とナギが打ったボールが通過した。素人らしい、コントロールのために威力を捨てた軽い珠である。
「お前のスマッシュが速過ぎたな。それに、ジャンプも高すぎた。返球されるまでに着地できないとは」
「そんな……」


85 名前:ワイヤード 第八話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/13(月) 23:45:08 ID:M7IGTwYl
イロリの驚愕は大きい。
テニスの技術や経験では絶対に勝っている。それは断言できる。
今回のラリー、イロリは200キロ以上の珠を二球打ち込んだ。大して、ナギは軽い珠を二球打っただけ。
フォームや球種、コントロールは絶対にイロリが勝っていた。
「(……それなのに、ナギちゃんに、圧倒された……? 『ワイヤード』の私が……?)」
ナギの瞬間移動は正直予想外だが、身体能力自体が問題なのではない。
ナギの精神力と、『闘いの感性』の強さに、イロリは圧倒されたのだ。
「おい、イロリ。お前、やっぱりまだ弱すぎるぞ」
「うん、私は、私は……ナギちゃんに、勝てな――」
「イロリー!!!」
二人の会話に、大声で割り込むものがいた。
「ちーちゃん……?」
千歳である。
「お前、いつからそんなに諦め早くなった?」
「でも、ナギちゃんは……ちーちゃんも、ナギちゃんのこと……」
「はぁー? 馬鹿がいうことは聞こえんね。俺は強い女の方が好みだがな」
千歳はわざと意地悪く、軽軽しく言う。
「相手がちょっと強いとすぐ諦める。昔からのお前の癖だ。……信じろよ、お前自信を。俺はお前を信じるぜ」
「ちーちゃん……!」
イロリの顔がみるみる明るくなる。
「うんっ! 私も、ちーちゃんが信じる私を信じる!」
「その意気だ……いっちゃん」
千歳がぐっと親指をたてると、イロリもにっこりと微笑んで親指を立てた。
「……ちーとーせー」
「千歳君、君ねぇ」
「鷹野……てめぇ」
「千歳さん、あなたという人は……」
クラスメイト達の目が凶暴に光っていることに、千歳は気付いた。


86 名前:ワイヤード 第八話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/13(月) 23:45:38 ID:M7IGTwYl
「な、なんだよお前ら」
クラスメイト達(主に男子)が爆発した。
「なんだとはなんだ! くそっ、お前ばっかり、お前ばっかり!!」
「ナギちゃんという子がいながら、あれほどの逸材を……お前マジ死刑!」
「いつの間にあんないい雰囲気になったんだよ! くそっ、まさか昨日いきなり一夜をともに……」
「千歳さんマジでいつか刺されますよ!」
ぶーぶーとうるさくまくし立てる。千歳は思わず耳を塞いだ。
「あーあー、キコエナーイ」
「でも、今回でよく学んだよ」
いつの間にか隣に彦馬が戻ってきていた。
「彦馬、お前生きて……」
「勝手に殺さないでよ! 親友じゃん!?」
「お前その座は早くもイロリに奪われたろうが」
「え、マジ!?」
「いや、安心しろ。お前は俺専用のパシリとして活躍してもらう」
「そんな~」
「嘘だっつの。それで、何を学んだって?」
「いや、今までは君のこと、ラッキーなだけの男だと思ってたんだけどね、それ、僕の思い上がりだったよ」
「はぁ?」
「千歳はやっぱり、凄いやつだってことさ」
「……さっぱりわからん」


87 名前:ワイヤード 第八話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/13(月) 23:46:09 ID:M7IGTwYl
そうこうしているうちに、試合は進んでいた。
ゲームは、イロリが一ゲーム、ナギが二ゲームを取っていた。
「やっぱりナギちゃん、強いね。はじめて見たよ、本気なのは」
「俺もだ」
ナギの動きは明らかにイロリを圧倒していた。
瞬間移動かと思われたナギの動きは、何度か見て目が慣れてきてわかったが、素早いステップと重心の見事な移動による『縮地法』のようなものであると分かった。
これは武術の経験がある千歳にしかわからないことだったろうが、そろそろイロリにも見えていることだろう。
「そこっ!」
イロリの高速ショットがナギのコートを刺した。
イロリにさらに1ゲームカウントが追加される。並んだ。
「イロリも、ナギの動きに一球ごとに対応し始めてやがる。ナギの動きは速いが、テニスの地力の差が出始めたな」
「……千歳、なんか嬉しそうだね」
「そんなことねーよ」
「いや、嬉しそうだって。幼なじみとの距離が近まってくって感じてるみたいな」
「……そうかもな」
昔もこういうことが何度かあった。千歳は、少しずつだが確実に成長する力を持つイロリのバイタリティを尊敬していた。
今も、その力はイロリの中にある。千歳には嬉しいことだった。イロリがまたひとつ、近くに感じられる。
……そして、30-40。ナギのマッチポイントとなった。
「残念だったな。次で勝たせてもらう」
「そうはいかないよ……ちーちゃんが、見てるんだから。私の、一番大切な人が……見てくれてるんだから。『誇り』に懸けて、無様な姿は見せられない」
「ふん、いくら言葉を重ねようが、それは『できなくては』意味がないぞ」
「なら、見せてあげるよ。ナギちゃんが天地を砕く剛力を持っていても絶対に砕くことのできない、この『愛の心』を!!」
ボールを握り締め、イロリはナギに目を向けた。
「(……あいつ、なんという闘気だ)」
この闘いの中で、明らかにその力を増している。ナギともともと互角レベルのその精神の輝きは、もはやその域を越えようとしていた。
ナギという、現実の壁を、イロリの心が凌駕しようとしていた。
「この一球は、唯一無二の一球!!」
トスを上げる。
「いっけええええええええええ!!!!」
爆音。


88 名前:ワイヤード 第八話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/13(月) 23:46:47 ID:M7IGTwYl
空気が弾けとび、もはや摩擦で熱を持った空気の壁と衝撃波が観衆を襲う。
閃光の如く空間を切り裂くその一球は、ラケットから離れたとほぼ同時にナギのコートに突き刺さった。
「っ!?」
予想外のパワーに一瞬たじろぐが、縮地法により何とか追いつき、ラケットを当てる。
「(押し返される!? ならば……)」
完全な両手持ちに変え、強引に返した。ガットが破れなかったのはもはや奇跡である。
ロブ、だがイロリはスマッシュを打たず、地上で待ち構えた。
「まさか『ラブ・ラブ・サーブ・ダブルツインマークⅡセカンド』を返すとはね。さすがナギちゃん……」
落ちてきたボールをスライス回転をかけながらナギのコートに返球した。
「甘い!」
ここぞとばかりに、ナギが強打を放った。
かなりの強力なコースを通る。今までのイロリに対し打てば、必ず決まっていたコース。
――終わった。
ナギが、観衆が、彦馬が、そう確信した。
だが、
「いや、まだだ」
千歳は違った。
そして、イロリも。
「まだっ!!」
――イロリの姿が消えた。
ぱしゅ。
ナギの耳に、空気を切り裂く音がよぎる。
「……!?」
ボールはナギの後ろに転がっていた。


89 名前:ワイヤード 第八話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/13(月) 23:47:18 ID:M7IGTwYl
「これで……デュースだね」
「なっ……」
「ナギちゃんの瞬間移動、『欲しかった』からじっと見つめてたの。そしたらね……」
イロリは嬉しそうに話し出す。
「私にもできそうだったから、パクっちゃった。ごめんね」
ペロリと舌を出した。
誰もが、言葉を失った。千歳以外の、誰もが。
「技名は、考えたのかよ?」
昔、イロリはいろんなことに技名をつけて喜んでいたことを思い出し、のんきに質問した。
「うん、『ちーちゃんと追いかけっこして、おほほ、つかまえてみなさいー、とか言うときに使うステップ』略して、『オホーツク海ステップ』!」
「相変わらずだな、お前」
思わず千歳は笑ってしまった。
「まあ二人とも頑張れよ。別に勝とうが負けようが、俺は気にしないからさ。……楽しんでくれ」
「うん!」
「ああ、そのつもりだ」
イロリとナギが元気良く答え、デュースから試合を再開した。
二人とも、いい顔になっている。太陽の光に照らされて輝く、とても爽やかな表情だ。
生徒たちも触発され、無言状態から活気を取り戻しつつあった。
「おーし! あと一時間半は自由だ! この試合を見たい奴は残って、他は勝手に打ち合ってろ―!
男性教師は、『生徒の心に火がついた』という事実を敏感に感じ取り、そう宣言した。
生徒たちは歓声を上げ、ラケットとボールを持ち走り始めた。


90 名前:ワイヤード 第八話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/13(月) 23:47:48 ID:M7IGTwYl
「あの、すみません先生……」
そのとき、一人の少女が教師におずおずと話し掛けた。
「日差しが強くて、気分が悪くなったので、休んできます」
「ああ、気を付けろよ。水分をちゃんと補給しとけ」
「すみません……あっ」
少女はバランスを崩し、とっさに教師の出した腕にささえられた。
「おい、大丈夫か? 誰かに支えてもらったほうが良いんじゃないのか?」
「じゃあ……千歳君がいます。千歳君にたのみます」
少女は、さもたまたま千歳が目に入ったかのように振る舞う。
「そうか。おーい鷹野。ちょっと人助け頼む」
「え……俺ですか……?」
「俺は監督してないとだめだからな。頼む」
「わかりました……」
そして、千歳は少女に肩を貸す。
「……ふふっ、やっと、二人きりになれますね」
「委員長……!? お前仮病を……!?」
「人聞きの悪いこと言わないで下さい。運動が苦手なのは事実ですし、身体も本当に弱いんですよ」
「てめぇ……」
「では、その辺りの木の陰で、『休憩』しましょう。千歳君……」
井上ミクは、狡猾な微笑みを千歳に向けた。

91 名前:ワイヤード 第八話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/13(月) 23:48:32 ID:M7IGTwYl
第八話終了です。
この更新速度を保つのは無理なので、こっからはちょっと遅くなります。すみません。

92 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/14(火) 00:10:26 ID:9uh/am/S
>>91
無理に書いて詰まってしまっては元も子もないので自分なりのスピードで書いてくだされ

93 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/14(火) 00:10:45 ID:3CLtPa6i
ヤンデレは男が嫌ってる女も殺すのだろうか?



男「あのスイーツ(笑)ウゼぇ、俺見て指差して笑ってきやがった」
ヤン「無礼な連中だな。全く然り。
ともあれ、前頭葉は感情をつかさどる部分なのだが、彼女らにはいらないよな?
あなたを指差して笑うようなマネをするなら」
ヤンデレはスパイダルコ社製のハーピーナイフを身につけて忍び出た。

───アタシの名前はアイ。心に傷を負った女子高生。モテカワスリムで恋愛体質の愛されガール♪
アタシがつるんでる友達は援助交際をやってるミキ、学校にナイショで
キャバクラで働いてるユウカ。訳あって不良グループの一員になってるアキナ。
友達がいてもやっぱり学校はタイクツ。今日もミキとちょっとしたことで口喧嘩になった。
女のコ同士だとこんなこともあるからストレスが溜まるよね☆そんな時アタシは一人で繁華街を歩くことにしている。
がんばった自分へのご褒美ってやつ?自分らしさの演出とも言うかな!
「あームカツク」・・。そんなことをつぶやきながらしつこいキャッチを軽くあしらう。
「カノジョー、ちょっと話聞いてくれない?」どいつもこいつも同じようなセリフしか言わない。
キャッチの男はカッコイイけどなんか薄っぺらくてキライだ。もっと等身大のアタシを見て欲しい。
「待て。」・・・今度は女か、とセレブなアタシは思った。シカトするつもりだったけど、
チラっとキャッチの女の顔を見た。
「・・!!」
・・・チガウ・・・今までのネクラ女とはなにかが決定的に違う。デンジャラスな感覚がアタシのカラダを
後ろに歩かせた・・。「・・(コイツヤバイ・・!!・・これって乙女の危機・・?)」
女は頭オカシイコだった。連れていかれてボコられた。「キャーやめて!」おっきなナイフでお腹刺された
「ガスッ!内蔵デロンッ!」アタシは死んだ。スイーツ(笑)


ヤン「殺してきたよ」
男「ようやったwwwようやったwwww」

94 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2008/10/14(火) 00:53:24 ID:+dSWdC+f

男「あのスイーツ(笑)ウゼぇ、俺見て指差して笑ってきやがった」
ヤン「無礼な連中だな。全く然り。 (ry


男「あのスイーツ(笑)ウゼぇ、俺見て指差して笑ってきやがった」
ヤン「私以外の女なんてどうでもいいじゃない! どうして私以外の女を見てるのよ!」
そして目くるめく監禁の世界へ

95 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/14(火) 00:54:20 ID:+dSWdC+f
sage忘れスマソ

96 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/14(火) 03:50:33 ID:i8TWte4M
お腹すいたな

97 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/14(火) 06:57:30 ID:TUAYmpPv
GJー
あんまり無理なさらんようにな
俺達はいつまでも全裸で(ry


しかし波動球という文字が出るたびにあの御方がチラついてニヤケちまうww

98 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/14(火) 06:57:56 ID:EHDTb00n
>>91
テwwwwニwwwwヌwwww



無理しないでくださいね

99 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/14(火) 07:53:32 ID:v1RecHFq
>>91
GJ! イロリが無我りやがった…
つうか、ボーボボネタなんて誰がわかるんだw

100 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/14(火) 08:05:01 ID:nOT24jv5
>>91
GJ!!
ムリいくない。
俺たち変態紳士は決して急かしたりなどしない。
ゆっくりでもいい。自分のペースで書いてくだされ。

101 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/14(火) 20:56:14 ID:Px8kXQuT
ボクの考えたヤンデレ黄金比
献身:5
独占:2
依存:3

102 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/14(火) 20:58:30 ID:iSBkzA7D
病みが…無い…だと…!?

103 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/14(火) 21:16:02 ID:6U40opD3
>>102
独占と依存が病み比だろ。それに献身も行き過ぎれば病む。ヤンデレ黄金比というからには病んでるのが前提だし、実質病み比10割。100%。天然素材の混じり気ナシ。そう言いたいんだろ?>>101わかってるって

104 名前: ◆KG67S9WNlw [sage] 投稿日:2008/10/15(水) 00:19:32 ID:Oz0i9diC
投下します。

105 名前: ◆KG67S9WNlw [sage] 投稿日:2008/10/15(水) 00:20:25 ID:Oz0i9diC
俺の名は、神坂 飛鳥。成績は中の下、ルックスも普通。悪くもないが、飛びぬけていいわけではない。多分。そんな、ありふれたごく普通の高校生だ。
そして今俺は、ある女子に呼び出されていた。放課後に体育館裏という、あまりにベタなシチュエーションだ。

「好きです。付き合ってください!」
―――やはり。が、俺の返事は決まっていた。
「ごめん。」


そいつは、名を確か………なんだっけ?まあいいや。そいつは決してぶさいくとかそういうわけではない。むしろ、間違いなく美少女の類に入るだろう。そして俺はその美少

女に告白されているわけ。

「そんな……なんでよ!わたしはこんなにあなたが好きなのに……」
「……あのさあ、いい加減諦めてくれないかなあ?もう何度目だよ?」
「……87回目?飛鳥くんこそ、いい加減わたしのものになってよ!」
「だから、無理だって。」

そう、俺は今までこいつに幾度となく告白されている。そして、全て断っている。……は?美少女に告白されて振るやつがあるかって?なら、あんたならどうだ?

毎朝、モーニングコールが50回も来たり。
学校に来てみれば得体の知れない弁当箱が自分の下駄箱に入ってたり。
四六時中、俺が家に帰るまであとを付きまとったり。
家に帰れば寝るまでに着歴が30件。恐らく、表示しきれないくらい電話がキテる。
そしてこうして毎日のように、告白されたり。

俺なら、絶対ごめんだね。そもそもこいつと出会ったのが運の尽きだったのか…?さて、今回はどうやって断ろうか………よし。

「あのさ……みんなには言わないでくれるかな?」
「なによ……?」
「俺…………実はゲイなんだ。だから君とは付き合えない。」

これなら間違いなくドン引きだろう。我ながら完璧だな。はっはっはっはっは。………あれ?

106 名前:天使のような悪魔たち 第一話 ◆KG67S9WNlw [sage] 投稿日:2008/10/15(水) 00:21:27 ID:Oz0i9diC
「………飛鳥くん……だめだよ、男の子なんて。わたしの飛鳥くんが…汚されちゃうよ……。今なら間に合うよ……。わたしが、飛鳥くんをまっとうな道に戻してあげるから

……ね?」

そうつぶやきながら、この上なく素敵な笑顔でいきなり服を脱ぎだすバカ1名。

―――しまった。こいつにこの手は効かないんだった。
以前、「実はつるぺたロリっ娘が好き」となんちゃってカミングアウトしたときも、
「巨乳の方が絶対いいに決まってるんだから!」
とかいって胸を押し付けられたことがあったのを忘れてた。俺としたことが、戦いの中で、戦いを忘れたか……不覚!

「俺は、逃げる!」
「あっ、待ってよ―――!」
「頼むから上にブラ一枚だけで走るのはやめてくれぇぇぇぇ!」



結局、やつを撒くのに小1時間かけ、ようやく家へと帰った俺。疲れた。もう何も考えたくない。俺は力なく自宅の鍵を回し開け、中へと入った。

「はぁ……ただいま。」
「お帰り。兄貴……また、なのね……」
「ああ。」

こいつは、俺の妹の明日香。どういうわけか、兄妹そろって"あすか"だ。
別に、極度のブラコンとかそういうんじゃない。生まれつきの茶髪をツインテールにまとめた、身内であることを差し引いても余りあるくらい可愛らしい容姿をしている。
まあ年齢の割にはだいぶ、いやかなり幼い体つきをしているが。俺と一歳しか変わらないのに映画館に余裕で小学生料金で入ることができるくらいだと言えばお分かりだろう


それ以外はいたって普通の妹だ。料理も上手いし、家事もほとんどこなせる。成績も、常にトップクラスらしい。

「ごはん、できてるよ。先食べる?」
「そうするよ、悪いな。」

―――♪♪♪♪♪

俺の好きな、某神の集団の着うたが流れる。―――始まったか。
俺はすかさず、マナーモードに切り替え、充電器をさし、放置する。何で電源を切らないかって?そうしたら家の電話に着信が来るからさ。

「なんか、悪いな明日香。」
「いいって。でも、いい加減諦めればいいのにね?」
「ああ。今日なんか、実はゲイですって言ったのに効き目なかったからなぁ。…もう駄目なのか?」
「駄目だよ!兄貴が諦めちゃ!絶対ダメ!あんな雌猫に盗られるぐらいならいっそ………」
「……なあ、最後のくだりがとてつもなく気になるんだが……?」
「な、なんでもないよ!さ、ご飯にしよ!?」

極度のブラコンとかそういうんじゃない……よな?


こうして、ぶるぶると振動する携帯を傍らに夜は更けていった。明日も弁当箱が入ってるのかなぁ……憂鬱だ。
変なものさえ入ってなければ食ってもいいんだけど………絶対入ってるよな……。主に唾液とか髪の毛とか。うん。間違いない。

107 名前:天使のような悪魔たち 第一話 ◆KG67S9WNlw [sage] 投稿日:2008/10/15(水) 00:22:51 ID:Oz0i9diC
翌朝―――今日も下駄箱に弁当箱が入っていた。俺の一日は、この弁当箱の中身を捨てることから始まる。放っておいたら腐るからな。
どうせ、あいつが見ているだろう。構うもんか。そうだ、俺はひどい男なんだ。そんでもって、ゲイでロリコンで(無論嘘だが)。

そして俺は親しい友人の一人、斎木 隼(♂)に昨日の顛末を話す。

「っっ……ひゃはははははっ!は、腹いてぇ!くくく……あっはははははは!」
「……そこまで笑うか?ほんと、他人事だよな、お前。」
「だ、だってよぉ……ゲイですって言われて服脱ぐなんて……ぷっ、ははははは!」
「あやうく俺が変質者になるとこだったんだぞ……ったく。」
「はっはっはっは……ふぅ…なあ、飛鳥ちゃん?もう諦めたらどうなんだ?ぶさいくならまだしも、結意ちゃんは充分かわいいじゃないか。
きっと飛鳥ちゃんがいてやれば、こんな痛いことしないって。」

―――結意。そうだ、織原 結意(ゆい)だ。

「…やっと思い出したよ。」
「――ん、何を?」
「名前だよ。今まで忘れてた。」
「……飛鳥ちゃん…それはひどいって。」

思えば、織原 結意との出会いは突然だった。
彼女は、しょーもないチンピラ共に絡まれていた。そこを俺が通りかかったんだ。通りかかって………スルーした。すると、

「ちょっと、た、助けてよ!おねがいぃ!」

声かけんなよ。面倒くさいな。まあ、仕方ない――――
数秒後、チンピラ3人は地面にフレンチキスをする格好で突っ伏していた。

「ありがとうございます!あの、私、織原 結意って言いま―――ちょ、ちょっと!どこ行くの!」
「どこって…帰るんだが?」
「待って!お礼くらいさせてよ!」
「遠慮しとく。」
「そ、そんなぁ―――――!」

で、次の日学校に行ったら、結意と出くわしたわけだ。まさか、同じ学校だったとは……。

「おはよう、飛鳥くん――って、無視しないでよ!」
「ええと……あんた誰だっけ?」
「織原 結意です!昨日助けていただいた!」
「………ああ、あんたか。で、何の用だ?」
「んと……メルアド交換しましょう!って、待ってよぉぉ!置いてかないで――――!」
「………はぁ。」

結局、結意はメアドを交換するまで離れなかった。なぜかとても魅力的な笑顔で喜んでいたな。それからだ。今の悪夢が始まったのは。
でも、これから先さらなる悪夢が俺を襲うことになろうとは、このときはまだ思ってもいなかった。

108 名前:天使のような悪魔たち 第一話 ◆KG67S9WNlw [sage] 投稿日:2008/10/15(水) 00:23:46 ID:Oz0i9diC
教室のドアが開け放たれ、人が入ってくる。ん…?

げっ、結意だ。

「飛鳥くん!大事なお話があるの。ちょっとついて来てくれる?」
「いーやーだー」
「いいから!きてってば!」
「唾液入りの弁当ならいらんぞ。」
「そんなんじゃないってば!もう!」
「飛鳥ちゃん、ふぁいと!」
「おい隼!俺を見捨てるのか!…後で覚えてろ!」

情けないことにそのまま結意にずるずると引っ張ってかれた俺。連れて来られたのは、人気のない旧校舎の空き教室。

「で、話って何だ。」
「昨日のことだけど……飛鳥くんがゲイだって。」
「ああ、あれか。あれは―――」
「飛鳥くんはおしりが好きってことだよね!」

―――――(゚Д゚)ハァ? 何言っちゃってんのこいつ。

「いや、だからあれは」
「わたしのおしりでよかったら、好きにしていいから!ね!?ほら!」

そう言ってスカートをめくる結意。…白牌。―――――ぶはぁっ!なんてもん見せやがるこのバカ!思わず鼻血が出そうになったじゃねえか!

「飛鳥くん、顔赤いよ…?やっぱり前がいいの?もう…えっち♪」
「3回生まれ変わって来いこの真性バカ痴女めが!」
「あっ、ちょ、待ってよ!」
「ノーパンで走るな変態ぃぃ!」

全力で逃げる俺。不覚、実に不覚だ。
まさかあんな変態相手に――――反応するなんて。俺、クライマックス……!?

「ちがぁぁぁう!これはなにかのまちがいだぁぁぁ!!」

むなしい叫びが、空に消えた。

109 名前:天使のような悪魔たち 第一話 ◆KG67S9WNlw [sage] 投稿日:2008/10/15(水) 00:25:02 ID:Oz0i9diC
終了です。

110 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 00:28:23 ID:xA5U4R5x
GJ 乙です

111 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 00:40:39 ID:kwZLgj6g
シャイ ◆KG67S9WNlw

112 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 00:43:56 ID:/u32HVok
シャイ(1法)・・・自称イケメン。大学受験版の獨協スレで新入生オフ会を開いた。よくショタと間違えられる。 微妙に変態化してきてる

113 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 00:48:28 ID:Oz0i9diC
>>111-112
同じトリップ使ってる人がいたんですね…。 次回からなんか新しいのに変えます

114 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 00:52:55 ID:/u32HVok
そうしたほうがいいでしょうね
なんかイタイ人のようなので

115 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 02:19:20 ID:zToOKdHK
>>109
GJ!

116 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 12:18:02 ID:wFfiiVp+
>>109 GJ!!ヤんだ娘を助けたのが運の尽きですね。しかも、家の中にもヤんだ妹が……!?
ともかく、次の投下を楽しみに待っています。

117 名前: ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/15(水) 18:52:42 ID:IvAU8Buc
>>109
素直に萌えるなぁ……。なんというか、王道なヤンデレという感じで受け入れやすいですね。
元々ヤンデレはアウトローな萌え属性だと思うのですが、見事に毒気を抜いていていい感じです。
これから濃くなるかもしれない期待感も楽しめますしねw

では、俺も投下しますね。

118 名前:ワイヤード 第九話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/15(水) 18:54:46 ID:IvAU8Buc
第九話『獣のアギト・解放』

果てしないデュースの攻防が続く。
ナギがポイントを取り、イロリが取り返す。イロリがポイントを取ったと思えば、ナギが追いつく。
アドバンテージからの追い上げが互いに強い。
「スーパースライスサーブ!」
イロリのサービスは威力重視型から、バリエーションを増やしている。
このスーパースライスサーブは非常にゆっくりとナギのコートに入った。
甘い球。
「ランバック!」
と――突如進行方向とは逆にバウンドした。
「――っ」
反応したナギが前にでる。
妙に浅い球だったが、イロリのねらいは逆バウンドによってイロリの側のコートに戻すこと。
ひとたびネットを越えてしまえば、ナギがいくら手を出そうがオーバーネットとなりイロリのポイントとなる。
しかし、ねらいどおりにはいかない。ナギがギリギリで追いついてラケットでボールを拾った。
拾うだけ。振りはしない。
ナギは器用にもネットに沿って極限まで浅く低い球を繰り出した。
現在、イロリはサーブした位置とそう変わらない場所にいる。普通は取れない。
が、取れるのはもうナギにも予測できた。
オホーツク海ステップ――縮地法により、一気にネット前まで出る。
同じくネット前に張り付いたナギ、これを振り切る方法は、ギリギリのロブをあげること。
そう、ギリギリだ。
ナギの頭上を飛び越さなければ縮地法でボレーを取られるのは分かっていた。だから高さで取らせないようにしなければならない。
が、通常のロブならボールを追い越してナギが取ってしまう。これでは意味がない。
「ギリギリ限界・過剰ドライブボール!」


119 名前:ワイヤード 第九話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/15(水) 18:55:30 ID:IvAU8Buc
安直なネーミングを叫びながらイロリが繰り出した球は、ドライブ回転のロブ。通常のドライブ回転ではない、おそらくプロレベルの二倍の速度の回転。
自由落下に頼るのではナギのスピードを振り切ることはできない、ならば、ドライブ回転による強制落下でスタンピードをかける。
「技名も作戦も安直だ!」
後ろに走っても間に合わない。仮に追いついたとしても、このドライブ回転だとバウンド後のボールの加速に対応できないと予測したナギ。
そんな時取った行動は。
「(ムーンサルト!?)」
斜め後ろに向かって全く前振り無しにジャンプしたナギ。6メートルはあるだろうか、空中で頭をしたに、脚を上に向けて浮いていた。驚くべき身体能力だ。
だが、それだけではない。
「(……まさか、逆光!?)」
ナギの真の狙いは、そのジャンプによって太陽と重なること。
ネット際にまで出てきたイロリから今のナギを見ると、距離が近いために見上げる角度が高い。
この状態だと、ナギが太陽の光を背負ってどう動いているか分からない。
――イロリの後ろでボールがバウンドする音がした。
「(ナギちゃんは最初からこれをねらって……)」
「私の、勝ちだな」
互いに決め手がないことを悟ったナギの『懸け』は成功した。そして、イロリは敗北した。
「やっぱり、かなわないな」
ゲームは3-2で、ナギの勝利となった。
歓声。
誰もが両者をたたえる。全力で戦った二人を比較してどちらかだけを賞賛することなど、できなかった。
イロリは、嬉しいと思った。
こんなに暖かい仲間に囲まれて、ライバルがいて……。
そして、愛する人が……。
「いない……?」
「どうした、イロリ」
「ちーちゃんが、いない」


120 名前:ワイヤード 第九話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/15(水) 18:56:03 ID:IvAU8Buc
「ここなら、誰も見てませんね」
「委員長、お前は……!」
「しっ。お静かにお願いします。見えてないとはいえ、大声を出すと見つかります」
千歳はミクに連れられ、グラウンドの隅の草むらにある大きな木の反対側にきていた。
木陰で日射病を避けるという名目でだが、誰にもそこに行くとは伝えていないので実質サボりである。
「それと、二人きりのときはミクと呼んで下さい。命令です」
「……」
「いやですか?」
木にもたれかかり座る千歳の膝に、ミクがなまめかしく座る。千歳はそれに若干反応してしまう自分の男の本能に怒りを覚えた。
「……ミク」
「うん、上出来です」
ミクがにっこりと微笑みかけた。顔が妙に近い。
良く見ると、ミクの顔は整っていて、美女といっても差し支えない。地味な印象が今まで勝っていただけに、そのギャップは強い。
おそらく、その事実に気付いたのは、不本意ながらも急速に距離を縮めた千歳のみだろう。
「どうしました?」
首をかしげる。その動作も、整った顔とあいまって可愛らしいものだ。体格や美人度は百歌と同じくらいかと思われたが、性質は違う。
百歌のような無意識の色気と違い、こちらはおそらく意識的だ。千歳の精神に働きかけるための動作に過ぎない。
しかし、それが、それこそがミクの魅力なのだろう。作られた美しさ、生きていないものの魅力を持っている。過去の映像のような輝きというべきか。
甚だ不本意だが、千歳は理解してしまった。ミクは過去の情報のかたまりのような人間なのだろうと。
「また、だんまりですか。まあいいでしょう」
そんな千歳の思考など歯牙にもかけず、ミクはおもむろに上着をめくり上げた。
「その手のビデオとかマンガを見ていると、こういう体操服を着たタイプのものでは脱がないでめくりあげるのが主流みたいです」
下着が千歳の目のまん前にあった。昨日のように地味なものではない、大人っぽい、黒いブラジャーだった。
「当たり前ですよね、コスプレものなんですから、脱がしちゃったらただのポルノじゃないですか」
くっくっと笑い、黒の下着もめくりあげる。


121 名前:ワイヤード 第九話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/15(水) 18:56:47 ID:IvAU8Buc
白い胸が千歳の視界にいやでも飛び込む。脳を覆いつくし、無理に刻み込んでくる。
乳首は、昨日言っていたように、自分でもいじったことがないのだろう。綺麗なピンク色だった。絵や人形のようだ。
「こういうのは、シチュエーションが大切です。そうですね、まずは千歳君、私の胸、吸ってください」
目を背ける千歳の顔を両手で無理に前にむけさせ、胸を押し付ける。ミクは着痩せするタイプのようで、脱ぐと案外大きかった。
無論、イロリほどではなかったが、身長と比較すればそれなりにあるほうだと思われた。
「うっ……」
「どうしました? 汗の匂いがいやなんですか?」
言われてやっと気付く、ミクの汗の匂い。しかし、それは不快なものではない。
前回感じたミクの秘所の香りもそうだったが、ミクの体液や体臭は、何らかのテンプテーションの作用を持っているように思われた。
甘く、性的な匂い。千歳の鼻腔をくすぐり、徐々に判断力を奪っていく。
「んっ……千歳君、急に……あぁ……」
ミクが顔を赤らめて小さく喘いだ。千歳が乳首に急に歯を立てて軽く噛み付いたのだ。
千歳はまだミクを打開する策を見つけてはいない。それは前もって準備しなければおそらく得られないし、この段階では不可能だろう。
だから、この直接対面する時間は早く終わらせようと心に決めていた。動きが徐々に積極的になる。
ミクは感度が異様に高い。攻め立てれば、前回のようにすぐに終わるだろう。そう予測してのことだ。
「そんな……乳首ばっかり……はぁ、ん……」
こりこりと、わざと乳首だけを攻め立てる。わざとらしく舌で弄りまわし、歯で甘く噛む。それを繰り返す。
ミクの身体が徐々に熱を帯びてゆき、ぴくぴくと痙攣しはじめる。
「ふぁ……いいです……そこ……おっぱい、いい……」
しばらくしていると、ミクの目には涙が浮いていた。口もいつもと違い、頭が悪くなったかのようにぽかりとあいており、唾液が零れ落ちていた。
そんな乱れかたをしているというのに、ミクは演技かと見まがうほどに整って見えた。人としての根本にぶれがないように見える。
ミクは、おそらく完成された生物の性質を持っている。
人間とは違う、もっと洗練された理性とともに生きている。それは、獣の持つ合理的な狩りの本能。
欲しいものを手に入れる。子孫を残す。快楽を得る。そんなあらゆる欲求のために、利用するものを利用し、狡猾に実行する。
人間の主張する理性は、利益を否定するもの。ミクにはそんなものはない。本当の理性とは、欲求の実現にある。
そういう考えを形にしたのが、今の井上深紅という人間。
手段を選ばずに千歳を手に入れる、冷酷で知的な顔。千歳の与えた快楽に獣のように喘ぐ、性的で無知な顔。
一見相反する性質を統合する存在こそが、ミクなのだ。


122 名前:ワイヤード 第九話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/15(水) 19:00:41 ID:IvAU8Buc

千歳は、かわいそうだな、と思う。ミクには、本当は悪気がないのかもしれない。
ミクはどうしようもない犯罪者だが、ナギの写真を持って千歳に対し要求するのは普通の恋人達がする行為にすぎない。
他人の心を踏みにじるこの行動はゆるせるものではないが、本当は、ミクは……。
「ふぁ……あぁあん……はぁ……ぁ……はぁ……千歳、くん……」
「なんだ」
千歳はその呼びかけに乳首攻めを止め、ミクの顔に向き直った。
さっきまでとは違う意味の汗をかいていて、それがまた魅力的だった。誠に不本意だが、そう思ってしまう。
「余計なこと、考えてます」
「……そんなこと」
「あります。私に同情しようとしていたでしょう?」
「……悪いかよ」
千歳は考えを読まれ、顔を赤くする。何故か、ミクに対する嫌悪が少し減っていた。
もしかしたら、目的を果たせばナギのことを見逃してくれる人種ではないかと思ったからだ。
「悪いですよ。千歳君はなにもわかってないんですね」
「何をだ」
「私のことですよ。……まあ、これからわかってくることですけど」
ミクはそう言うと、千歳の唇に自らの唇を重ねた。
舌を強引にねじ込む。千歳は噛んだり、拒んだりしない。そんな確信があるからだ。
「ふ……ぁ」
吐息が漏れる。下をねっとりと絡み合わせ、ミクは唾液を千歳に流し込む。
びちゃびちゃといやらしい水音をたてながら、ミクは執拗に千歳の口内をむさぼった。
「ぅ……ふぅ……ぁ……ん……」
甘い声を漏らしながら、ミクは何度も、何度も、千歳を求めた。身体も接近する。腕を背中に回し、剥き出しの胸を千歳の胸に押し付ける。
脚も動き、千歳に絡ませ始めた。やはり見た目異常に肉感的なその身体を擦り付けられ、千歳の興奮も高められる。
ミクの体液は、媚薬だ。千歳はここで完全に確信した。甘い匂い、味、ねっとりといやらしい心地。
矮小な男という虫を引きつけるための、蜜。
そうか、ミクをあらわす言葉がもうひとつ見つかった。
食虫植物。甘い蜜で得物を引き寄せ、食らう。
獣というよりむしろ、生物としての『静の性質』と『合理性』の意味では、こちらが正しいかもしれない。
見た目は美しい花だというのに、完成された生き物だというのに。その生き方は、おぞましいのだ。
そして、花はその檻をひとたび閉じると、もう得物を逃がしはしない。
どろどろに溶けてしまうまで、その味を楽しむのだ。


123 名前:ワイヤード 第九話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/15(水) 19:01:18 ID:IvAU8Buc
「はぁ……ぅん……」
長い、長い、口付け。二人の口の間から、唾液が流れ出る。どろどろに溶け合った二人分の唾液が、ミクの胸に落ち、身体を伝って流れ落ちる。
こんな光景、絵にだって書けはしない。キスだけだというのに、ミクは限界まで性的興奮を刺激する。
これが、ミクの持つ力。『過去』と『完成』の力。
「ふぅ……千歳君も、舌、使ってください……」
「……命令か?」
「お願いです」
悪戯っぽくわらった。わざとらしいと思う。しかし、それゆえに美しかった。
仕方がない、と千歳は再び唇を重ねた。
今度は、互いに舌を動かす。ミクが一方的に攻めていたさっきまでとは違う。
「ぁ……ぃぃ……」
ぽそっとミクが声を漏らした。目の涙は既に溢れて流れていた。興奮がかなりきわまってきたのだろう。
千歳はミクにさっきまでされていた舌遣いを真似し、ミクの口内に舌を差し込んだ。
甘い世界。ミクの蜜を生み出す場所のひとつに、触れた。
脳が沸騰しそうになる。どんなものよりも、甘い。甘い。甘い。舌が溶けてなくなってしまいそうだ。
――耐えられない、かもしれない。
急に、そんな諦めが千歳の頭をよぎった。20回など少ないと当初は踏んでいた。
だが、このミクの『拘束力』は、予測を大幅に超えている。常人が耐えられるものではない。
例えば、近所でも有名な愛妻家がいたとしよう。彼はとても地位も高く有能で、良い男だとする。
当然、雌猫達はよってくる。不倫を持ちかけ、誘惑する。しかし彼はそれを拒み、いつも愛する妻の待つ家に帰っていくのだ。
そんな男が仮にいたとしても、ミクの誘惑を受けたら三日持てばよいほうだろう。いや、三十分で倫理観を壊されることもありうる。
そのレベルの力。愛などという人間の作った聞こえの良い言葉を簡単にぶち壊せる力がミクには備わっていた。
「ぷはぁ……。はぁ……はぁ……。千歳君、良かったです……♪」
千歳の身体にはもう力が残っていない。返事をすることすらままならない。
「では、お礼に昨日の続きをしてあげますね」
するすると千歳のズボンを脱がし、陰茎を露出させた。もうとっくの昔にそそり立っていた。
「約束どおり、自分で慰めてきてなんて、いませんよねぇ……?」
くんくんと顔を近づけて匂いをかぐ。
千歳は昨日なにもしていないという自信があったため、少し安心した。

124 名前:ワイヤード 第九話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/15(水) 19:01:48 ID:IvAU8Buc
「……あれー? なんだかイカ臭いですよ、千歳君?」
にやりと笑って、ミクが千歳の頬を撫でた。
「もしかして、我慢できなくなりました?」
「……!? そんなはずは……」
「別に隠さなくてもいいんですよ。怒ってませんから」
「いや、本当に俺は……」
「千歳君、昨日の私のおまんこ舐めていたことを思い出して、自分でしちゃったんでしょう? 私におしっこ飲まされたことを思い出して、興奮しちゃったんでしょう?」
「……違う」
「本当ですか……?」
ミクは千歳の顔をじっとみつめた。
あいも変わらず,何を考えているのかわからない。複雑すぎる感情を秘めた瞳だ。眼鏡で阻害されているのか。
千歳はその目でみつめられ、どうしようもなく不安になる。何らかの魔力があるようだった。
「……まあ、いいでしょう。しばらく続けていれば、本当に私でしかオナニーできなくなります」
そのことを全く疑わない口調で言った。
ミクは、自分の武器を自覚している。自分の魅力の源とその運用法を最大限に理解している。
千歳を手に入れるために行った脅迫と強姦。これは一見強引で早計な手段に見えたが、ミクだけは、違う。
ミクには、そのまま相手の心すら手に入れてしまう力がある。
恐ろしい力だ。人の意思まで捻じ曲げて、『自分の懐で止めてしまう』。
即ちそれは、過去が未来を縛ってしまうということ。過去の集合体そのものであり、『未来』を持たないミクという存在と、同じになる。
千歳には、それは何をも超える恐怖であるように思われた。
そして――同時に、何よりも甘く、魅力的なことであるようにも思えた。
千歳は未来を信じている。しかし、信じているが故に、その辛い『覚悟』を捨てたくなるのだ。
「許してあげます。でも、今日は気分が乗ってきたので、計画を早めようと思います」
ミクはにんまりと笑って千歳の唇をぺろぺろと舐めた。
「なにをする気だ……」
「簡単なお話です。もっとあとであげようと思っていたプレゼントを、今ここで千歳君にあげます」
「プレゼント……?」
「私の、処女です」
ミクの瞳が鈍く、しかし鋭く光った。


125 名前:ワイヤード 第九話  ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/15(水) 19:02:19 ID:IvAU8Buc
「――っ!?」
金髪の少女は、そのただならぬ気配に歩いていた人気のない道を振り返り、周囲の安全確認をした。
「……なんだ、今のは……」
西又イロリのワイヤード反応を追って歩き続け、少しずつ近づいてきたが、今感じた気配は、それとは全く別のものだった。
ねっとりとしていて、それでいて魅力的で。意識をもっていかれそうだった。
獣のアギト。
そんなイメージが金髪の少女の脳裏を過ぎる。噛みついたらもう話さない、狡猾で獰猛な獣の牙。
いや――
「――もっと甘い、蜜だ……花、か?」
これほどに強力な気配だというのに、その性質は『静』。動的ね表面上の性質と相反しているが、その根本には動くことのない、完成された世界がある。
金髪の少女は、生まれて初めての気持ちを抱いた。
恐怖と一体になった、憧れ。
いや、もともと愛と憎しみは同一の感情なのだ。恐怖と憧れも、表裏一体であろう。
しかし、これほどまでにはっきりとそれらが共存した気配は、感じたことはなかった。
「まさか、西又イロリの他に、この土地にワイヤードが……?」
それも、今までに感じたことがないほどに強力で、美しい力を感じる。
この気配を発したのは西又イロリではないだろう。西又イロリのワイヤード能力はほとんどが純化された『愛』に基づいている。
それは不完全で、不安定で、成長性に富んだ『可能性』と『未来』の力。
これは、違う。もはや完成されていて、強大な力。あらゆる欲望と本能をかなえるための合理性を生み出す、『理』のワイヤード能力。
それは完璧で、安定していて、もう成長しない『確定』と『過去』の力。
「……間違いない。ここに『コントラクター』がいる」
金髪の少女は確信した。
そして、確固たる決意とをもって歩き始める。
その背中には、ワイヤード達の力にもまったく負けていないほどに大きな、『殺気』の鎧をまとって。

126 名前: ◆.DrVLAlxBI [sage] 投稿日:2008/10/15(水) 19:05:09 ID:IvAU8Buc
第九話終了です。俺ももっと萌えるヤンデレが書けるように精進したいものです。
いちばん需要ないであろう委員長ばっかりプッシュしているのは、単にお気に入りだからです。こんな感性ですみません。
ではまた。皆さんに良いヤンデレとの出会いがあらんことを。

127 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 21:12:03 ID:HUn80dtD
>>126作者自らいらんことを言わなくても良いのです。GJ

128 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 21:33:15 ID:Y6nEc9gh
GJ!

129 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 22:01:00 ID:7A/FOtFW
GJ!

130 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 22:15:14 ID:Wpm4Zw/Z
じーじぇい!!

131 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 22:48:36 ID:GRhFhb4n
GJ!!





132 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 23:36:06 ID:n+U7BbsY
>>126
充分萌える
GJ!

133 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 01:18:19 ID:vejmx5du
>>109
GJ!
つーか飛鳥くん強ぇw
チンピラ秒殺!?w

>>126
GJっすよ!
うひょーっすよ!

134 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 01:43:10 ID:A7tZUHKM
死ね

135 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 02:24:58 ID:y4jNeCr2
投下します
「Rouge?Noir?」の続きに当たります

136 名前:Rouge?Blanc?[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 02:26:07 ID:y4jNeCr2
――今日は卒業式。中学校生活最後の日。私は今日この中学校を卒業する。
その式も終わり、卒業生達は最後の思い出を作ろうとそれぞれ世話になった担任、仲の良かった友達,思いを寄せていた人の元へ足を運ばせている。
私のそのうちの一人にはいるのかな。いろんな男子達から今更ながらの告白を受けたけど全て断り、今は人気のない校舎裏である人を待っている。

しかし、とうとう彼に言い出せないままこの日が来てしまった。今日が彼に会える最後の日だというのに。
私はここを卒業して彼らと違う高校に通うことになる。本当はすごく嫌だったけど、厳格な両親の言うことには逆らえない。
推薦で合格が決定した時は素直に喜べず、みんなが盛大に祝ってくれた時も上辺だけの笑いを浮かべていた。
逆に彼らはこのまま地元の同じ学校に進学すると聞いた時、胸がぎりぎりと締め付けられた。
嫌っ!!置いていかないで!!一人にしないで!!どうして私だけ?!ずっと一緒だって言ったじゃない!!傍にいてよっ!!
ベッドの中で理不尽な怒りと悲しみを強く感じ、幾度涙で枕を濡らしたことだろう。
だというのにどうしても彼に「好き」の一言が言えなかった。
もちろん彼に振られるのが恐いと言う理由もあるけど、最も大きな理由は彼女のことがあるからだ。
その彼女とは私の親友だ。私は彼女に謝らなければいけない。
何故なら私の発言によって今日ついに私達三人の関係が崩れることになるであろうから。

「ゴメンゴメン。なんかたくさん男子に絡まれてさ。今更告白してきてももう遅いってのにね?」
私の親友である『佳奈ちゃん』が息を切らせてやってきた。どうやら私と同じく男子に告白をされていたらしい。
「ふふっ、そうですねー」
いつもよりも声が硬い。うまく笑えない。やはり緊張は隠せないようだ。
「んで話って何?正義と一緒に写真を撮ってこいって親がうるさいから早く行かないといけないのよ。全く小学生じゃあるまいし、困ったもんよね」
いかにも迷惑そうに佳奈ちゃんは言う。でも彼女は気付いているだろうか。
その可愛らしい口の端がつり上がって微かな笑みを形作っていることに。
その表情を見ると言い様のない感情が胸の中で騒ぎ始める。
「あ、あのね。私、佳奈ちゃんにお願いがあるんですけど……」
声が震えてうまく喋れない。
「?」
彼女は不思議そうに私を見つめる。
「――私、よっくんのことがずっと好きだったんです!だ、だからよっくんに告白するのを手伝って欲しいの……」
か細い声をやっとの思いで喉の奥から絞り出す。恥ずかしすぎて彼女の顔を見ていられずに顔を俯けてしまう。
今彼女はどんな顔をしているのだろうか。
「――あ、あのさ」
佳奈ちゃんが口を開く。その声は少し震えている。
「私と正義、実は付き合ってるの。だからゴメン……」
「え……?」
理解できなかった。信じたくなかった。聞きたくなかった。
佳奈ちゃんは今何て言ったの?
「ほ、ほら、私って照れ屋でしょ?みんなに言い出すのが恥ずかしくて正義にも頼んで秘密にしてもらってたの」
佳奈ちゃんが慌てて言い訳をしているようだが私の耳にその声はあまり届いていない。まるで遠い世界の出来事のようだ。
気持ち悪い。足元がよろめく。体の中身全てを吐き出してしまいそう。
「そ、そうですか……ご、ごめんね。変なこと言っちゃって……………………よっくんと幸せにね!」
声は聞き取れないほどに震え、目からは涙が溢れそうになる。
それでもプライドだけで何とか彼女に祝福の言葉と精一杯の笑顔を贈ることはできた。
でもそれが限界だった。もうこれ以上ここにいられない。ましてや、よっくんと佳奈ちゃんが二人で仲良く写真に映る所なんて絶対に見たくない。
私は無言でその場から走り去る。彼女は私に悪いと思ったのか,一言も声をかけてこなかった。
でもそれが今の私にはありがたかった。
今彼女に引き止められたらきっと私は彼女に酷いことを言ってしまう。もしかしたら手を出してしまうかもしれない。
それは嫌だった。だって私と彼女は親友だから……
今は無理だけど時間が立てばちゃんと向き合えますよね?また三人で仲良く遊ぶことができるようになれますよね?

――その日私の初恋は想いを伝えることさえできずに粉々に砕け散った。



137 名前:Rouge?Blanc?[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 02:29:41 ID:y4jNeCr2
「ふふふ、ついに……ついにこの時がキターーーーーーーーッ!!」
おもちゃ屋の入り口を見るまでは我慢していたがもう堪え切れなかった。この喜びを表現するのにはどんなに叫んでも足りないくらいだ。
子供連れのお母さんが子供に向かって「しっ!見ちゃいけません」と言っているが全く気にならない。
『修羅場戦隊ヤンデレンジャー ヤンデレッド Ver.(1/8スケールPVC塗装済み完成品)限定スペシャル版』。
ヤンデレレンジャーファンなら垂涎物のこれを購入するときがついにやってきたからだ。
学生が五千円以上の物を買うというのはバイトをしているなど何らかの収入源を得ていない者にとって財布にかなりのダメージを与える。
実際俺はバイトも何もしていないので毎月の食費を切り詰めてやっと六千円を貯めたぐらいだ。
しかし、先日の佳奈美との一件で散々ケーキだの、アイスだのを奢らされているうちに虎の子の六千円があっという間になくなってしまった。
そこで泣く泣くこのフィギュアを買うことをしばらく断念していたのである。
しかし、財布の中が真冬のシベリアのごとく極寒地獄の俺を見かねたのか、なんと橙子さんが俺に大金を握らせたのだ。
もちろん俺は最初それを受け取ることを断った。しかし、橙子さんは
「いいから、いいから。どうせまた佳奈美が何か言ってマサ君を困らせたんでしょ?
これあげるから佳奈美とどっかに出かけてらっしゃい。あの子、マサ君と一緒に遊びたいばかりについ我侭を言っちゃうのよ」
と今まで見た中で最高の笑顔を浮かべて俺にお金をくれたのだ。
申し訳ない、と心の中でそう思ったが体は正直なもので気が付いたら俺の財布の中に諭吉様が幾人かすっぽり収まっていた。
さっきまでブリザードが吹き荒れていた俺の財布の中は花々が咲き乱れる春に早変わり。いやぁ、お金の力って恐いね。
しかし、だ。俺はこの後に佳奈美とのデート、正確に言うと強制市中引きずり回しの刑が待っているというのにフィギュアを買っていいのか?
いや、よく考えろ。本当ならこの前買えていたはずのフィギュアを今買う羽目になったのは他ならぬ佳奈美のせいである。
少しぐらい俺がいい目を見たっていいじゃないの。
しかし、フィギュアなんか買うと佳奈美に散々文句を言われることは今までの経験で嫌というほど分かっている。
なので「今日は一人で帰るよ」と強引に彼女の制止を振り切り、学校帰りから直行してこのおもちゃ屋に来たわけだ。
この辺りなら知り合いもいないので佳奈美の耳に入ることもあるまい。
だが購入すれば貴重なお金を一気に消費してしまうことになる。佳奈美とのデート?に渡された金だというのに。
嗚呼、なんと罪深いのだろうか、あの子の魅力は。購入することについては全く後悔してないけどな。
まぁ、飯なら一番安いものを頼んで、後は水でも呑んでいれば何とかしのげるだろう。
さすがの佳奈美も高い服を俺に突き出して「これ買ってくれるよね♪」などとは言うまい。
いや、もしかしたら根に持つあいつのことだ。まさか無理やり買わせるつもりじゃ……
普段からの佳奈美の傍若無人な態度を思い出し、さっきまでハイだった気分も少し憂鬱になる。

「いい加減にしてもらえませんか?何度も言われても答えは同じです!」
突然澄んだ張りのある女性の声が俺の耳に入ってきた。
この声、どこかで聞いたことがあるような……
思わず振り向くとそこには美人な女の子が見るからに軽薄そうな男に迫られていた。
この近くにある有名私立高校の制服に身を包んでいるところから見るとこの子は高校生なのだろう。
「そう言うなって。少し話すだけでもいいからさ?」
ナンパ男は拒否されているのにも関わらず、執拗に女の子に話しかけているようだ。
おいおい、顔がよくてもしつこい男はモテないと思うぞ。こういうのは引き際も肝心だぜ?
『彼女いない暦=年齢』の俺がいっても説得力はあまりないだろうけど。
「だから嫌だって言ってるじゃないですか!」
あらら、この子もずいぶんストレートに断っちゃうのね。少しこのナンパ男が哀れに見えてきた。
しかし、この女の子やっぱりどこかで見たことあるような……
「いいからちょっと付き合えって言ってんだろ!!」
「キャッ?!やめてください!!」
そのきつい断り方が気に障ったのだろう。逆上したナンパ男は女の子の腕を掴み、強引に連れて行こうとする。
女の子は必死に抵抗するが男は全く話を聞く様子もなく、為すがままにされている。
このままじゃ彼女が危ない!


138 名前:Rouge?Blanc?[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 02:30:22 ID:y4jNeCr2
そう判断した俺は
「おい!その子は嫌がってるじゃないか。やめろよ」
と二人の前に立ちふさがる。
確かにあそこまできっぱりと断られたことには同情するがお前の身勝手でこの子を傷つけていいわけがない。
俺の中の怒りと正義心が急速に燃え上がる。
「あ?!何だお前は?!」
ナンパ男は邪魔をされて気に障ったのか、ものすごい勢いでこちらに食いついてくる。
よし、いいぞ。こいつの注意は引き付けられた。
さぁ、今のうちに逃げるんだお嬢さんよ!
目配せをして女の子に「早く逃げるんだ!できれば警察かなんか呼んでくれ」と念を伝える。
しかし、彼女は突然の乱入者の驚いたのだろうか。俺をポカーンと見つめたまま固まっている。
おいおい、君が逃げてくれなきゃ俺が体張った意味があまりないんだけど。
仕方ない。ここは何とか得意の口八丁で時間を引き延ばそう。
進路相談で毎回水野ティーチャーに頭を抱えさせてるのは伊達じゃないところを見せてやるぜ!
「まぁまぁ、落ち着こうじゃないか。断られたのに見苦しい真似はするんじゃない」
俺としては紳士的に話がしたかったのだが、どうやら彼はそう思っていなかったらしく、
「うるせぇ!!」
と俺の頬をかなりの力で殴ってきたのだ。
おお、痛ぇ。尻餅をつき、無様に倒れる俺。
道路とキスしても全く嬉しくない。するならやはりピンクさんだろう。
いくら俺からナンパ野郎をいきなり殴るわけにはいかないとしても格好悪いなぁ俺。女の子は顔を真っ青にしてるし。
だがヒーローの方から殴るわけにはいかないのだよ。イメージダウンするから。
「お前には関係ないだろうが!!黙ってろ!!」
続いて腹に強烈な蹴りが入る。痛みと気持ち悪さで一瞬気が遠くなり、反撃する力も抜けていく。
やべぇ、昼食った弁当が逆流しそうだ。ヒーローたるもの公衆の面前で嘔吐するわけにはいかないってのに。
「さぁ、こんな馬鹿はほっといて俺と……」
俺を蹴り飛ばし、満足したであろうナンパ男が後ろで顔を青くさせていた女の子に話しかけようとしたとき、それは起こった。

『ゴッ』

突然嫌な感じの鈍い音がしたのだ。そう、例えば鈍器で人の頭を勢いよく叩いたような感じの。
驚いて見上げると女の子が持っていたバッグでナンパ野郎の頭を思い切り殴りつけていた。なんだこの展開?
どさりと俺の横に崩れ落ちる男。よう、地面の味はどうだい?
さっきと立場が逆になったようでポカーンと口を開けて固まる俺。
彼女はこちらに顔を向けると、ニコッと愛らしく微笑んだ。
やばい。状況が状況じゃなかったら俺は浮気していたかもしれない。
え?お前に彼女はいないだろうって?
馬鹿野郎。俺の心の中に住んでいる永遠の女神ことピンクさんのことに決まってんだろうが。
ボケーッとしている俺の手を突然掴むと無理やり立たせる女の子。
「早く逃げましょう!人が集まってきましたし……」
そう言われて慌てて周りを見渡すと確かに人だかりがこちらを興味津々な目で見ている。
まずいな。ここで騒ぎになると佳奈美にフィギュアを買おうとしていたことがバレるかもしれん。
とりあえずここはこの子の言うことに従っておいたほうがいいだろう。
警察沙汰になるのもゴメンだしな。ヒーローが前科者とか洒落にならん。
「ああ、わかった。でどこに……」
「こっちです!早く走って!」
「のわっ?!いきなり引っ張るなって!!」
突然駆け出す女の子。それにつられて引っ張られる俺。
痛い痛い!突然走るなって!腕が抜けるかと思っただろ。
黄昏時の金色の夕日に照らされながら街中を走り抜ける俺と女の子。
ふわふわとした栗色の髪が風に揺れ、そこから仄かに漂う甘い匂いが俺の鼻をくすぐる。
ふと彼女の横顔を覗き見る。何故か彼女は笑っていた。笑いながら走っている。
何故だろう。走るこの少女の背中を見るととても懐かしい感じがする。
一体この女の子は何者なのだろうか……?
疑問は解けないまま、俺は彼女に手を引かれて夕闇に包まれていく世界の中を駆けていった。


139 名前:Rouge?Blanc?[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 02:31:41 ID:y4jNeCr2
「ほら、これでも飲みなよ」
「あ……ありがとうございます」
ベンチに腰掛けている女の子に近くの自販機で買ったスポーツドリンクを渡し、俺もすぐ横に腰掛け、一息をつく。
プシュと小気味のいい音を立てて缶を開け、一気に飲み干す。冷たさが喉奥に広がり、火照った体には心地よい。
あれから結局かなり遠くまで俺達は来てしまい、近くにあったこの公園でとりあえず休もうということになったのだ。
すでに辺りは夕闇に包まれ、薄暗くなり始めている。この公園で遊んでいたであろう子供達の姿もすでに見えない。
彼らは愛する親に手を引かれながら、夕食のことを和気藹々と話しながら帰っていたのだろうか。ふとそんなことが頭によぎる。
「あの……ごめんなさい。前からああいうのにはよく絡まれていたんだけど今日みたいにしつこいのは初めてで……」
突然女の子が申し訳なさそうに俺に謝ってきた。
「別に君が気にすることはないさ。困っている人がいたら助けるのは当たり前だろ?」
そう、彼女は何も悪くはない。むしろあのナンパ野郎の被害者だろう。
俺が勝手に仲裁に入っただけで彼女は何も気に病むことはないのだ。
「それにさ、こういうときは謝るんじゃなくてありがとうっていうべきじゃないかな?」
「……そうですね。助けてくれてありがとう、よっくん」
女の子が柔らかく微笑む。うん、やっぱりこの子には笑顔がよく似合う。まるで華麗に咲く一輪の花のようだ。
……ん?よっくん?そんな変わったあだ名で俺を呼んでいたのは確か一人しかいなかったはず。
――そう、中学時代まで俺や佳奈美といつもつるんで一緒に遊んでいた彼女しか。
「えっと、もしかしてだけど君って……」
「ふふっ、やっと気付きました?ほら」
そう言って彼女は背中まで流れる豊かな髪の毛の一部を両手で二房に纏め、持ち上げた。
その瞬間、俺の中で昔一緒に遊んでいた親友と今目の前でツーサイドアップにしている彼女が記憶の中で強く結びつく。
何故今まで分からなかったんだろう。一緒の時間を共に過ごした人物など佳奈美以外には彼女ぐらいしかいないというのに。

「……全く気付かなかった。すまん、『鈴音』」
「もう!昔からそういうところは鈍いですよね、よっくんは」
俺が彼女を正しく認識できたことに安心したのか、昔と変わらぬ笑顔で屈託なく笑う鈴音。
彼女『白河 鈴音』は俺のもう一人の幼馴染だ。といっても中学校を卒業して以来もう一年以上会ってなかったが。
無難に近くのそこそこのレベルの公立校に進んだ俺と佳奈美たちとは違い、彼女は有名難関私立校に進学してしまったのだ。
非常に礼儀正しく、頭も良くて、その上可愛いときたもんだからまさにアイドルのような存在だった。
中学に上がって徐々に女らしさが出てくるとそれに拍車がかかり、学年の男子の人気を佳奈美と二分していたな。
家が金持ちなこともあって、まさに「深窓の令嬢」と呼ぶに相応しいような少女だった。
「久しぶりだなぁ!元気にしてたか?ってさっきの豪腕を見ればそうに決まってるか」
俺の記憶だと鈴音は頭はいいが運動はあまりできない少女だった。
よく一緒に泥だらけになるまで近所の公園や空き地を駆け回っていたはずなんだけどなぁ。
一年間会っていなかった間に肉体改造でもしていたのだろうか?
笑顔でリンゴを片手でぐしゃりと握りつぶす鈴音を想像する。
……嫌過ぎるな。
「ち、違います!あれは重たい教科書がいっぱい詰まってただけです!」
そう言うと慌てて持っていたバッグを開けて中身を見せる佳奈美。
中には一冊だけでも十分殺傷力が高そうな分厚く重たい参考書や教科書がぎっしり。
そのうち一冊を手に取って開いてみると、難しい数列やら何やらでページが埋め尽くされているではないか。
「うへぇ、見ただけでも難しそうな問題ばかりじゃないか。やっぱり鈴音は頭いいんだな」
「そんなことないです。全国で考えたらとてもとても」
全国って言ってるあたりで既にレベルが違うんですが。俺だってあの学校の中では結構頭はいい方なのに。


140 名前:Rouge?Blanc?[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 02:33:12 ID:y4jNeCr2
「そういえば昔から鈴音は俺達の参謀役だったよな。当然俺がリーダーで佳奈美がストッパー役」
「二人の意見が衝突してよく喧嘩してましたね。それで私が仲裁役になって結局適当に遊ぶのがいつものパターンでした」
呆れたように肩をすくめるその態度に少しムカッときた俺は鈴音に反論する。
「そういうお前達だってヒーローごっこやるときは、どっちがピンク役をやるかでよく揉めてたろ」
「そ、それは……女の子には譲れない戦いってものがあるんです」
「譲れない戦い?何だそれ?」
「……にぶちんなよっくんには教えてあげません」
急にぷいっと俺から顔を背ける鈴音。
あれ?何か鈴音を怒らせるようなこと言ったっけ?

「……懐かしいですね。昔は公園や空き地でよく一緒に遊びましたよね」
ふと鈴音が物憂げな声で話し始める。
「ああ。月日が流れるのはあっという間だな……」
そう、俺達は幼稚園から中学校を卒業するまで常に三人一組で行動していた。
ほとんど俺と佳奈美は同じクラスだったのに対し、鈴音と一緒のクラスになることは少なかったがそれでも一緒に遊び続けた。
戻れるのならばもう一度三人で泥だらけになりながら駆け回っていたあの頃に戻りたいものだ。
「そういえばよく俺だって気がついたな。俺なんか全然分からなかったのに」
「簡単です。よっくんは全然変わってませんから」
「そうか?背は伸びてるはずなんだが」
「そういうところじゃなくて相変わらず優しいところとかです。全然変わってなくて安心しました」
嬉しそうに微笑む鈴音。……なんだか背中がむず痒くなってきたんだが。
「それよりどういうことですか?全然私だって気が付かなかったって」
さっきまで笑っていたと思えばもう頬を膨らませている。どうして女って生き物はこうも感情の切り替えが早いんだろうね?
「だから悪いって言ってんだろ。仕方ないじゃないか。だって……」
「だって……何ですか?」
無邪気に俺の顔を覗きこんでくる鈴音。その顔は少女特有のあどけなさが抜け、大人の女性へと成長している様子が見て取れる。
昔から鈴音はとても可愛らしい少女だった。いや、今の彼女にその表現は相応しくないだろう。
――そう、彼女は綺麗になった。

「って言える訳ないだろ……綺麗になったねとか常識的に考えて……」
「!!や、やめてください!そんなこと言われたら……私……」
声に出したつもりはなかったのだがうっかり漏れてしまったらしい。誰かこの締まりの悪い口をチャックしてくれ。
昔からこの癖が出るたびに何かトラブルが起こる。気が付くと佳奈美にブン殴られてたりとか。
今だってそうだ。鈴音は顔を真っ赤に染めて俯いている。
まぁ、あんな吐き気を催すようなセリフを言われたら誰でもそうなるか。
二人の間に痛々しい沈黙が漂う。これは気まずい。実に気まずい空気だ。
「……ねぇ、よっくん。彼女がいるのに女の子にそんなこと言っちゃダメなんですよ?誰かが勘違いしちゃうかもしれないから……」
どうしたらいいか分からず、とりあえずスポーツドリンクを啜っていると突然鈴音が全く訳の分からないことを言ってきた。
驚いて彼女の顔を見るとその顔はどこか悲しげに見える。


141 名前:Rouge?Blanc?[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 02:34:02 ID:y4jNeCr2
「は?誰に彼女がいて、誰に勘違いするって?」
「え……?だからよっくんには佳奈ちゃんがいるから女の子にそういうことを言っちゃダメって……」
頭が痛い。まさかあれほど一緒に少年時代を過ごした親友まで俺と佳奈美が付き合っていると信じているとは。
確かにいつも一緒にいたのは事実だがそれは鈴音、お前もだろ。
俺と佳奈美のためにもここは一つ、きちんと説明して本当のことを分かってもらわねば。
「……あのなぁ。昔から何度も言ってるように俺と佳奈美は別に付き合ってなんかいないって」
こういうところでちゃんと否定しておかないといつの間にか既成事実になってそうで恐い。
佳奈美が俺なんかと付き合っているという噂がいつまでも流れていると俺はともかく、佳奈美に迷惑がかかる。
この前ずるずると付かず離れずなこの関係をどうにかするって決意したばかりだろ。
「え?だってよっくんと佳奈ちゃんは付き合ってるって……」
鈴音は心底驚いたような顔をしている。そこまで意外だったのか?
俺と佳奈美じゃお似合いとはあまり思えんのだが……もちろん俺が佳奈美に釣り合ってないって意味だぞ?
「だから何度も言わせるな。俺と佳奈美は付き合ってない。これは事実だ」
「……」
すると鈴音は顔を俯けて黙り込んでしまった。
しかし、ここまで俺と佳奈美が付き合っているという噂が広まっているとは。
状況は俺が思っていたよりもずっと深刻なようだ。これからどうやって他の連中の誤解を解いていけばいいのだろうか?

「か…………う………よ……と………だ……!!」
俺が悩んでいると、突然何かぶつぶつ言っていた鈴音が『バッ!』という効果音が出そうなほど勢いよく立ち上がった。
「うおっ?!どうした鈴音?」
「……」
驚いてその顔を見ると元々大きい目がこれ以上はないほどに大きく見開かれ、口元には何故か笑みが浮かべられている。
その目がぎょろりとこちらを向き、俺の目を捕らえる。鈴音の目の中に映った俺の顔は奇妙に歪んで見えた。
「うん。信じますよ、よっくん。だってよっくんは私に嘘をつきませんものね?」
そう言って彼女は笑った。口元はさらに歪められ三日月のごとく弧が描かれる。
彼女の目は大きく見開いたまま、深淵の闇を覗きこんだかのようにどろりと濁っている。
それを見た俺は何故か酷い寒気を感じた。
さっきまで咲いていた可憐に野に咲く一輪の花の笑顔はない。
代わりに毒々しく咲き誇っているのは甘い蜜を垂らしながら獲物を今か今かと待ち構えている食虫花。
「黄昏」という言葉はもともと「誰そ彼」という薄暗く顔がよく分からないので人の見分けが付かないことから来ている。
何故かこんな時に古文の授業でそんなことを習ったのを思い出した。
だからなのだろうか。今俺の目の前に立っている少女が誰だか分からない。少なくとも俺の知っている鈴音の姿じゃない。
一体誰なんだ、この少女は?
「ですよ、ね?」
「あ、ああ。嘘なんかつかないよ」
俺はその問いにただ間抜けな声を出して頷くことしかできなかった。


142 名前:Rouge?Blanc?[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 02:35:20 ID:y4jNeCr2
「そう……ならいいんです」
突然鈴音は急にこれ以上はないって程の明るい笑顔を咲かせる。
俺の動きを止めていたプレッシャーはたちどころに霧散し、消え去った。
「へ?」
「だってよっくんが私に嘘をつくかと思うと、この胸が張り裂けそうなほどに苦しくなってしまうんです……」
大げさに鈴音は両の手を胸に添える。今更気付いたけど鈴音って結構胸でかいな……
って何考えてるんだ俺は?!この浮気者め!!ピンクさん一筋じゃなかったのかお前は!!
「さて。もうずいぶん暗くなってきましたし、名残惜しいですけれどそろそろ帰りましょうか?」
俺の葛藤も知らずに鈴音は涼しい顔をしている。
実に楽しそうな表情である。一年空けただけで男を弄ぶ悪女のスキルを習得してしまったらしい。
「……ああ、そうだな。俺は歩いて帰るけど鈴音はどうするんだ?もし歩きなら送っていくけど?」
そもそもこの公園に俺達が来たのは鈴音がナンパ野郎に絡まれたのが原因である。
このまま一人で返してまた同じ目に遭ってもらっては困る。
「そうですね……では駅まで送っていただけますか?」
「わかった。鈴音がまたさっき見たいな目にあったら寝覚めが悪くなる」
「嬉しいです。よっくんが私のことちゃんと思ってくれて」
俺の言葉を聞いた鈴音は本当に嬉しそうに微笑んだ。ええい、そんな笑顔をされるとなんだか背中がむず痒くなるだろ。
「よし。じゃあ、行くぞ!」

駅に向かう途中、たくさんのことを話した。昔のこと、最近のこと、これからのこと。
久し振りに会った親友との話しは弾み、あっという間に駅に着いてしまった。
「……だからついに異世界から4人目の妹にあたる最後の戦士が登場してだなぁ……おっ、着いたぞ」
「えぇ~、その兄妹達は最後どうなるんですか?続きが気になります!」
知識欲が強い所は昔と変わらないな。こんなしょうもない話でも何でも知りたがる。
「続きはWebで。っていうのは冗談だが、もう電車が来る時間じゃないか。だからこの話はおしまい」
「そんなぁ……よっくんは意地悪です……」
うげっ、本気で落ち込んでやがる。そんなこと言われてもなぁ。
電車がもうすぐ着くだろうからこれ以上話している時間はないし。
……そうか!あれを使えばいいんじゃないか!
「おい、鈴音。携帯持ってるか?」
「はい。持ってますけど……?」
不思議そうに首を傾げながら可愛い白の携帯を取り出す鈴音。
「アドレス交換するぞ。これなら電話するなり、メールするなり、いつでも話せるだろ?」
「!!」
その言葉を聞いた瞬間、鈴音の顔に笑顔がぱぁっと咲いた。
「します、します!!早くしましょう!!今すぐしましょう!!」
「わかったから少し落ち着けって!はしゃぎすぎだろ!」
無邪気にはしゃぐ鈴音をなだめて、互いのアドレスを交換する。これで互いの電話帳に登録されたはずだ。
「うふふ、よっくんの電話番号とメールアドレスだぁ……嬉しいです……」
登録された俺のアドレスを見て何故かうっとりしている鈴音。
俺のメールアドレスなんて見ても別に面白くも何ともないと思うんだが。


143 名前:Rouge?Blanc?[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 02:35:52 ID:y4jNeCr2
「まぁ、これで何の心残りもなく帰れるだろ。じゃあな……」
そう言って俺は鈴音に別れを告げ、我が家に帰ろうとした。
しかし、がしっと腕を誰かに強く掴まれる。振り向くと俺の腕を掴んでいたのは鈴音だった。
俯いていてその表情はよく見えない。
「どうした?これ以上まだ何かあるのか?」
「……佳奈ちゃんに会ったら伝えて欲しいんです。必ず返してもらう、って」
「は?何だ、佳奈美のやつお前から何か借りたままだったのか?」
「はい。私に嘘をついてそれをずっと自分の物にしていたんです」
「本当か?ったく、佳奈美もしょうがない奴だな。今度会ったら俺からきつく言っておくよ」
「お願いします。『人の物を勝手に取ったら泥棒』って言いますもんね」
そう言って顔をあげた鈴音の表情はいやに爽やかだった。それが何故か俺に違和感を感じさせる。
そう。さっきまで俯いていたため、その表情はよく見えなかったが本当はもっと違う顔をしていたんじゃないかって。
「今日は色々ありましたけどこうやってまたよっくんに会えてとても嬉しかったです。ではそろそろ電車が来るので失礼します。」
「あ、ああ。気を付けて帰れよ。またこうやってたまには会えるといいな!」
背を向けて改札口に向かう鈴音に向かって俺は最後に声をかけたつもりだった。
すると鈴音は立ち止まり、ゆっくりと俺の方を振り向く。
「心配しなくても大丈夫ですよ。またすぐに会えます。すぐに、ね」
鈴音はクスクスと本当におかしそうに笑っていた。
今日彼女の傍でずっと彼女が笑う様子を見てきたが、その中でも最も美しく、そして妖艶に笑っていた。
「ではまた近いうちに」
こちらに一礼をして改札口を出る鈴音。その姿はすぐに混雑する人ごみの中に紛れて消えていった。
何故か鈴音が最後に浮かべた笑みが頭から離れず、俺はしばらくその場から離れることができなかった。
今日鈴音と一緒にいて時折感じたあの違和感について考えていたからだ。
あれは一体……
「――あ」
その時俺は気付いてしまった。何でこんな重要なことを忘れていたんだ。自分の頭の馬鹿さ加減にほとほと愛想が尽きた。
「結局フィギュア買い忘れた……!!」
思わず頭を抱える俺を周りの人たちが危険人物を見るような目で見てくるが、そんなことは最早気にもならない。
俺の哀愁の慟哭は騒がしい雑踏の音にかき消されていった……


144 名前:Rouge?Blanc?[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 02:37:46 ID:y4jNeCr2
私とよっくんと佳奈ちゃんはいつも三人一緒で行動していた。
とても行動的なよっくん。血気に逸る彼を抑える佳奈ちゃん。そして私が二人の後ろで笑っている。
私達三人は幼馴染にして最高の親友でした。
そして私は初めて会ったときからよっくんのことが好きでした。彼のことを思うだけで胸の奥がぽかぽかと温かくなる。
彼と初めて出会ったのは小学一年生の時。内向的で大人しい性格だった私はまだクラスの空気に馴染めず、友達は一人もいなかった。
どこの学校にも悪ガキはいるもので、彼らは下校中の道で私に目をつけると私が付けていた髪留めを面白がって無理矢理取り上げた。
「やめてっ!かえしてよぉ!」
泣きそうになりながらも必死に取り返そうとするが、いじめっ子達同士で私が取り返せないように髪留めを投げあう。
周りの子供達はそれをただ眺めているだけ。そうだ、私には助けてくれる友達はいないんだ。
そのことを理解すると急に涙が溢れてきた。誰も私を助けてくれない。
そう思っていました。

「おい!そのこないてるだろ!かえしてやれよ!」
幼くも力強い声が突然響き渡った。驚いて顔を上げると一人の男の子がいじめっ子のリーダーに詰め寄っていた。
「なんだよ。おまえにはかんけいないだろ!」
「いいからとにかくかえせ。じゃないとこのシュラレッドがおまえをたたきのめすぞ!」
彼はどうやら日曜日の朝にやっているヒーローになりきっているらしい。その時何故か私には彼の姿が輝きに満ち溢れて見えた。
結局いじめっ子達は私に髪留めを返そうとしなかったので、彼は実力行使に出た。
鼻血を流して、体中に痣を作り、ボロボロになりながらも私のために髪留めを取り返してくれた。
それがただただ嬉しかった。
「はい。とりかえしてきてやったぞ」
痣や鼻血で酷い顔になりながらも精一杯の笑顔で私に髪留めを渡す彼。
「ご、ごめんなさい……」
彼に申し訳なくてぼそぼそとした声で謝る私。
「こらこら。こういうときはありがとうでしょー?」
彼が笑いながら言う。私はそれを見た瞬間に顔が熱くなるのを感じた。
「あ、ありがとう……」
何故か彼の顔を見ながら言うことができずに俯きながら言ってしまった。
でも彼はそんなことは気にせずに私の頭を優しく撫でると
「じゃあ、かえろっか。えっと……なまえなんだっけ?」
彼は私に名前を尋ねてきた。今度こそちゃんと言わなきゃ。
「すずね。しらかわすずね」
「ボクはあかさかまさよし。よろしくね、すずちゃん!……あっ、そうだ!ボクこれからかなちゃんとあそぶんだけどいっしょにあそぶ?」
「……うんっ!」
「じゃあ、いくぞー!」
私の返事を聞いた彼は満面の笑みを浮かべると私の手を引いて駆け出した。
小さな手と手が触れ合う。また私の体が熱くなる。でもそれは不思議と心地よい温かさだった。

この時からだった。私『白河 鈴音』が彼『赤坂 正義』に恋焦がれるようになったのは。


145 名前:Rouge?Blanc?[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 02:38:32 ID:y4jNeCr2
気が付くと自然に彼を目で追い、それだけでは満足できず彼の傍に歩み寄ってしまう。
体育の授業中、走るのが遅かった私を慰めて嫌な顔一つせずに一緒に走ってくれたよっくん。
クラスの男子にテストを取り上げられて泣いていた私のために少々荒っぽい手段でだけどテストを取り返してくれたよっくん。
家庭科の授業中、一緒に作ったカレーライスを「これ美味いなー!お前いい嫁さんになれるぞ!」と笑顔で褒めてくれたよっくん。
両親と喧嘩して家出した私を「しょうがないな。今日は泊めてやるけど明日になったらちゃんと仲直りしろよ?」と言ってお家に泊めてくれたよっくん。
彼に会えるかと思うと毎日学校に行くのが楽しみだった。彼とお別れだと思うと帰り道の足取りが重くなった。
中学生になって自慰を覚えると妄想するのはいつもよっくんとの行為。
彼のことを想うだけでこの無駄に大きい胸の先端は硬くなり、秘所は熱く潤ってしまう。
彼と愛を囁きながら交わり合うことを考えるだけですぐに達してしまった。
よっくんに会う度に、よっくんと話す度に、よっくんと触れ合う度に私の心は彼に惹かれていく。
そして今、彼に対する思慕の情はもうどうしようもないほどに膨れ上がっている。
要するに私にとってよっくんはなくてはならない存在なのです。
全部全部私と彼との大切な思い出。大事に大事に胸の奥にある宝箱にしまってあるの。

でもその思い出の中には必ず彼女がいた。いや、正確に言えばよっくんの傍らには常に彼女の姿があった。
私と一緒に走るよっくんの後ろで不満げな顔をしていた佳奈ちゃん。
料理が全くできないので調理に携われなかったカレーライスを無言で食べていた佳奈ちゃん。
私がよっくんの家に泊まりに行ったら、何故かよっくんの家に来て「あ、あたしも泊まる!!」と言って聞かなかった佳奈ちゃん。
誰もが気付いている。佳奈ちゃんはよっくんのことが好きってことに。
佳奈ちゃんは明るくて可愛いし、運動も勉強もできる素晴らしい女の子だ。
彼女は初めて会ったときから私に優しくしてくれたし、口調こそきついものの、ちゃんと人のことを思いやれる人物である。
そしてよっくんとは私が初めて会った時よりもずっと昔から知り合いだったらしい。
そう、きっと佳奈ちゃんは私が知らないよっくんをたくさん知っている。
しかも彼女は家族ぐるみでよっくんとの仲を祝福されている。皆に愛されているのだ。
それに比べて私はどう?
私は誰からも愛されていない……そう、両親さえも私に愛情を注ぐことはなかった。
両親は会社経営のためいつも忙しく、私を構っている暇などなかった。物心ついた時から私は毎日一人でお人形遊びをしていた。
当然そんな子供が社交的に振舞うことができるはずもなく、私はいつも一人ぼっち。
それは小学校に上がっても同じだと思っていた。
でもよっくんという初めての友達ができて私の退屈な日常は劇的に変わった。
あれほど行くのが嫌だった学校も彼に会えるかと思うと行くのが楽しみになった。
よっくんと佳奈ちゃんと一緒に道草を食うのはとても楽しかった。時を忘れるほどに、泥だらけになるまで遊んだ。
しかし、私の両親は昔から毎日泥だらけになって帰ってくる私の行動を快く思っていなかった。
そしてその原因がよっくん達と遊んでいることだと知ると、一時はよっくんと縁を切れとまで言ってきた。
そう、彼らは私のことを会社の跡継ぎに宛がう嫁となる以外価値がない子供だと思っているのだ。
だからそれまでは私に一切男を近づけたくないらしい。私はそれについては特に何も思わなかった。
中学校に上がり、私の体が急激に女らしくなると、急に手の平を返して下卑た視線で私に媚びてくる馬鹿な男どもには興味すら湧かなかったから。
所詮男なんてそんなもの。ステータスの高い女を自分の物にしたいと言う支配欲に突き動かされているだけの獣なのだ。


146 名前:Rouge?Blanc?[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 02:39:28 ID:y4jNeCr2
でもよっくんは違う。
私が皆に根暗、鈍臭いと蔑まれ、体の起伏もなかった頃から数え切れないくらい大切な物をくれて温かく包み込んでくれた。
よっくんは私が生きる白と黒の空虚な世界の中で唯一輝く鮮やかな色。一度目にしたらもうモノクロの世界には耐えられない。
そして私にも勝機はあった。普段の二人の態度から察するに、佳奈ちゃんはまだよっくんに告白していないらしい。
もちろん後ろめたさはあった。私はこれから親友の好きな人に告白するためにその親友に手助けしてもらおうとしているのだから。
よっくんのことはもちろん大好きだけど佳奈ちゃんのことも大好きだ。彼女も私に優しくしてくれる唯一無二の大切な友人だから。
でも私にはもうこれきりしかチャンスはない。
このまま仲の良い友達のまま終わってしまうことが耐えられなかった。彼との関係を親友からもう一歩進めたかった。
だから今まで逃げてきた分のツケを今払わなくてはならない。結果次第では彼女ともう二度と親友には戻れないかもしれない。
それは私にとってこの上ない恐怖だ。想像するだけで足がガクガクと震え、呼吸が乱れるほどに恐ろしい。
それでも私は彼が欲しい。彼以外の人など考えられないのです。
だから……下さい。よっくんを私に下さい。
いいじゃないですか。あなたは皆に愛されることができるような人物なのだから。
佳奈ちゃんならきっとこの先彼以外にも良い人を見つけられますよ。
でもね、私には彼しかいないんです。
そう、誰にも愛されなかった私にも彼ならきっと愛を囁いてくれる。私を大事にしてくれる。

そう思い、私は一年前彼にこの想いを伝えようとした。でも告白すらできずに私の思いは砕け散った。

それからの私はまるで抜け殻のようだった。はっきり言ってこの一年間の記憶はぼんやりとしかない。
両親は反抗期を過ぎたのかと安心していたがそうではない。私が全てに対して無気力になってしまっただけだ。
彼という色を失い、再び白と黒しかない世界に放り込まれた私は最早生きる意味すら見失っていた。
勉強ばかりしているのは何かを頭に詰め込んでいる時だけは彼のことを考えずに済むから。
全てのテストにおいて学年一位を取り、学校始まって以来の天才が現れたと周りは喜んだが私自身は特に何も感じなかった。
ここまでしなければ忘れられないほどに彼の存在は私の心の奥深くにまで刻み付けられている。
こんなに辛い思いをするくらいならもうよっくんのことは忘れよう。何度そう思ったか分からない。
『手に入らないものをいつまでも思い続けて一体何になるっていうのかしら?そんな無駄なことはやめて、もっといい男を探すべきだと思わない?』
頭の奥で賢い私が呆れた口調で私を諭す。まさに正論。反論する余地もありません。
なのに頭では理解していても、心が身を引きちぎらんばかりにそれを拒絶する。
「やっぱり好きなんだからしょうがないよ……」
嗚咽が漏れ、涙が溢れてくる。こうなるともう自分を止めることができない。
ベッドの中で縮こまり、ひたすら涙が枯れ果てるまで咽び泣くことしかできない。
疲れ果てて眠りにつくと決まって夢を見る。私とよっくんが恋人になって幸せそうにしている夢。
いっそこの夢がずっと覚めずにいればいいのに。
朝目が覚めるたびに本気でそう思う。夢の中なら私とよっくんは誰に気兼ねすることなく幸せになることができるから。
あれから一度も佳奈ちゃんはもとより、よっくんや中学校の元同級生達とも連絡を取っていない。
彼らと話をしたらよっくんと佳奈ちゃんと仲がよかった私のことだ。二人の動向に付いて話が進むだろう。
彼らが今どう愛し合っているかなど知りたくなかった。それを告げられたら本当に私は立ち直れなくなる。
幸い彼らが通っている高校からは結構遠いので、ばったり出会う心配はしていなかった。

でもいつだって神様は残酷だ。かつてこれ程ほどまでに偶然を呪ったことがあるだろうか。
――だって出会ってしまったんだもの。


147 名前:Rouge?Blanc?[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 02:40:31 ID:y4jNeCr2
「おい!その子は嫌がってるじゃないか。やめろよ」

低脳なナンパ男に絡まれていた私の耳に力強く、それでいて温かみのある声が響く。
そんなまさか。でも私がこの声を聞き間違えるはずがない。
そこには私が未だに想いを捨て切れず、恋焦がれ続けている彼の姿があった。
一年以上経っているので少し背が伸びて、顔つきが男らしくなっているが間違いない。
よっくんだ!!いつも私を助けてくれる永遠に色褪せることのないヒーロー、よっくんだ!!
でも何でこんなところに?それに彼は私が誰だか分かっていないみたいだ。
困惑と動揺で頭の中が真っ白になる。
しかし私が理解する間もなく、この屑はあろうことか、よっくんを殴った上に痛みと吐き気で動けないであろう彼に蹴りまでくれた。
さっきとは違い、怒りで頭が真っ白になる。体中の血液が沸騰するような感覚。
この屑には私が直々に制裁を加えてやらないと。よっくんを傷つけるもの全てを許すわけにはいかないのだ。
だから私は無駄に重たい教科書がぎゅうぎゅうに詰まったバッグを屑の頭上に大きく振りかぶる。
そして、見るだけで吐き気のするにやけ顔を浮かべて振り返った間抜けな男の脳天に思い切り振り下ろした。
『ゴッ』っと嫌な感じの鈍い音がしたが特に気にならない。多分死んではいないから平気だろう。
流石に人を殺すのはまずいだろうし、何より彼が悲しむ。
ポカーンと口を開けて固まっているよっくんを安心させるために私は彼に微笑みかける。
大丈夫ですか、よっくん?別にあんな屑のことなんか心配しなくていいんですよ。だってよっくんは何も悪くないもの。そう、全部悪いのはこの屑。
よっくんのことを殴ったり、蹴ったりしたんだから殴られて当然です。でももう平気です。私がちゃんとお仕置きしてあげましたから。
だから私のこといっぱい褒めてくれますよね。ねぇ、よっくん?
しかし、私の願いは叶うことはなかった。
この馬鹿騒ぎに人だかりができてしまい、こちらを興味津々な目で見ている。その中には当然女性の姿が。
やめろ!!そんな好奇の目でよっくんを見るな!!綺麗なよっくんが汚されちゃう!!
その事を危惧した私はボケーッとしている彼の手を掴み、無理やり立たせる。
「早く逃げましょう!人が集まってきましたし」
彼も周りの様子を見て、状況を理解したらしい。
「ああ、わかった。でどこに」
「こっちです!早く走って!」
「のわっ?!いきなり引っ張るなって!!」
考えもなしに勢いだけでオレンジ色に染まった町を駆け出す私とよっくん。
それはまるで昔の私達のよう。でも一つだけ違うことがある。
昔はよっくんが私を連れまわしていたけど、今は私がよっくんを引っ張っている。
それだけのこと。それだけのことなのになぜか酷く嬉しい。
私は走っている間、ずっと顔に浮かぶ笑みを隠すことができなかった。

それから結局かなり遠くまで私達は来てしまい、たまたま近くにあったこの公園でとりあえず休もうということになった。
太陽が沈み、代わりに夜の闇が顔を出し始める。この公園で遊んでいたであろう子供達の姿もすでに見えない。
彼らは愛する友に別れを告げて帰っていたのだろうか。ふとそんなことが頭によぎった。
「あの……ごめんなさい。前からああいうのにはよく絡まれていたんだけど今日みたいにしつこいのは初めてで……」
とりあえずよっくんに謝る。彼は私のせいであの屑に殴られたり、蹴られる羽目になってしまったのだから。
「別に君が気にすることはないさ。困っている人がいたら助けるのは当たり前だろ?」
しかし、彼は全く気にした様子を見せなかった。
「それにさ、こういうときは謝るんじゃなくてありがとうっていうべきじゃないかな?」
そう言って微笑むよっくんの姿が私と彼が初めて出会ったその瞬間と重なった。
ああ、やっぱり彼は全く変わっていない。私が好きだった彼のままだ。
「……そうですね。助けてくれてありがとう、よっくん」
つい私も笑顔になり、彼の名を呼ぶ。
今日会ってから一度も彼のことをよっくんと呼んでいなかったからきっと鈍感な彼も私が誰だか気付くはず。
ほぉら、よっくんが首を傾げて考え始めた。そして、私の顔をもう一度じっくりと見る。
やだ、そんなにじっと見られたら恥ずかしいです……


148 名前:Rouge?Blanc?[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 02:41:10 ID:y4jNeCr2
「えっと、もしかしてだけど君って……」
やっと気付きましたか。とどめに私だという確証を見せるために髪の毛の一部を両手で二房に纏め、持ち上げる。
彼の中の私の姿は髪型をツーサイドアップにしている少女のはず。
高校生になってから私は伸ばした髪をそのまま背中に流しているので気付かなかったのでしょう。
「……全く気付かなかった。すまん、『鈴音』」
本当に申し訳なさそうに謝るよっくん。なんだか可愛い。
彼は私を正しく認識できたことに安心したのか、私をからかうほどの余裕も出てきたみたい。
私が持っている鞄の中身や、その教科書のないようについて顔をしかめるよっくん。
ああ、やっぱりよっくんと話すのは楽しいなぁ。それだけでなんだか幸せな気持ちになれる。
話しは昔に遡り、必然的に私達三人で遊んでいた頃の話になる。
「そういえば昔から鈴音は俺達の参謀役だったよな。当然俺がリーダーで佳奈美がストッパー役」
「二人の意見が衝突してよく喧嘩してましたね。それで私が仲裁役になって結局適当に遊ぶのがいつものパターンでした」
「そういうお前達だってヒーローごっこやるときは、どっちがピンク役をやるかでよく揉めてたろ」
「そ、それは……女の子には譲れない戦いってものがあるんです」
そう、ピンクは彼が心から愛する理想の女性像そのもの。だから私と佳奈ちゃんはいつもその座を取り合っていた。
「譲れない戦い?何だそれ?」
なのに心底わからなそうに首を傾げるよっくん。
そうだった。よっくんは昔から信じられないほど鈍いのだ。
目の前で自分に想いを寄せる女の子が頬を上気させながら目を潤ませても「風邪でも引いたのか?」と勘違いをするくらい鈍い。
「……にぶちんなよっくんには教えてあげません」
あまりにも鈍感な彼に呆れて少し不機嫌になる私。
彼が私の気持ちに気付いてくれるんじゃないかって少し期待していたのが恥ずかしい。
いくら昔と変わっていないといってもここだけは変わっていた方がよかった。
自然と二人の間に生まれる沈黙。
だがそれは重苦しく圧し掛かるものではない。むしろどこか安心する心地の良さがあった。

……なんだか久し振りだな。こうやって他愛もないことをよっくんと一緒に話すのって。
「……懐かしいですね。昔は公園や空き地でよく一緒に遊びましたよね」
「ああ。月日が流れるのはあっという間だな……」
よっくんも目を細めて懐かしそうに呟く。
そう、私達は幼稚園から中学校を卒業するまで常に三人一組で行動していた。
ほとんどよっくんと佳奈ちゃんは同じクラスだったのに対し、私は一緒のクラスになることは少なかったがそれでも一緒に遊び続けた。
もう一度三人で泥だらけになりながら駆け回っていたあの頃に戻りたい。そうすればきっと今も三人で一緒に……
「そういえばよく俺だって気が付いたな。俺なんか全然分からなかったのに」
突然よっくんが話題を変えてきた。そんな質問はするだけ無駄ですよ、よっくん。
「簡単です。よっくんは全然変わってませんから」
そう、良くも悪くも呆れるくらい彼は何一つ変わっていなかった。
「そうか?背は伸びてるはずなんだが」
「そういうところじゃなくて相変わらず優しいところとかです。全然変わってなくて安心しました」
私の答えに頓珍漢なことを大真面目に言うよっくん。でもそれが妙に嬉しくて、笑みを隠すことができない。
でもこのことははっきりさせておかないといけない。
「それよりどういうことですか?全然私だって気が付かなかったって」
私は声を聞いた瞬間に分かったのに、よっくんは私が「よっくん」と呼ぶまで気付かなかった。
仮にも親友なのにこれはひどいんじゃないか。だから私はわざと意地悪く彼を問い詰める。
「だから悪いって言ってんだろ。仕方ないじゃないか。だって……」
「だって……何ですか?」
罰の悪そうな顔をして、何故か顔を赤くさせるよっくん。やばい、なんだかすごく可愛いです。
私の心はまた愚かにも彼に釘付けになっていた。
だからでしょうか。

「って言える訳ないだろ……綺麗になったねとか常識的に考えて……」
彼がうっかり口を滑らせたその内容が私の心に深く鋭く穿たれてしまったのは。


149 名前:Rouge?Blanc?[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 02:42:09 ID:y4jNeCr2
すでに打ち込まれていた楔がさらに深く食い込む。燻っていた炎が再び勢いよく燃え上がる。
「!!や、やめてください!そんなこと言われたら……私……」
やめてやめてやめて!!そんな甘い囁きで私を惑わさないで!!これ以上私を惨めにさせないで!!
だってそんなことを言われたらまた彼のことを愛してしまう。身の程も知らずに手に届かないものを求めてしまう。
『親友をまた裏切るの?』
ふと頭の奥で冷たい声が鳴り響く。
そうです。私は振られて、よっくんは佳奈ちゃんと付き合っているんです。私の入る余地なんかどこにも残されていない。
私にできることは二人の幸せを願うことだけ。それだけなんです……
だから私は何とか震える声を搾り出して言葉にする。
そう、よっくんのために。そして何より自分に言い聞かせるために。
「……ねぇ、よっくん。彼女がいるのに女の子にそんなこと言っちゃダメなんですよ?誰かが勘違いしちゃうかもしれないから……」
よっくんの彼女は佳奈ちゃんで私じゃない。
そんなこと本当はわかっていた。わかっていたのにどうして私は今日よっくんに会ってから子供のようにはしゃいでいたのだろう。
情けない。みっともない。涙が溢れそうになる。
ああ、もう今度こそ本当に私の恋は終わりだ。
本当にそう思っていた。

「は?誰に彼女がいて、誰に勘違いするって?」

よっくんが寝耳に水と言いたげな表情で言った言葉を耳にするまでは。
「え……?だからよっくんには佳奈ちゃんがいるから女の子にそういうことを言っちゃダメって……」
「……あのなぁ。昔から何度も言ってるように俺と佳奈美は別に付き合ってなんかいないって」
よっくんは呆れたように、しかし、強い口調ではっきりと否定した。
彼は昔から嘘とか曲がったことが大嫌いだから冗談は言わないはず。
あれ?おかしいなぁ?だってそうだったら佳奈ちゃんは私に……
「え?だってよっくんと佳奈ちゃんは付き合ってるって……」
そうですよ。そうじゃなきゃおかしいですよ。だって私は佳奈ちゃんから直接聞いたもの。
これが嘘だって言うなら私は一体何のために一年前……
「だから何度も言わせるな。俺と佳奈美は付き合ってない。これは事実だ」
そんな私の願いも空しく、よっくんは気持ちがいいほどに本当だと言い切った。

私は声一つ立てずに考え込む。思考の海の中に散らばった記憶のピースを一つ一つ丁寧に集め、繋げていく。
必ずどこかにある矛盾を探すために。そして紛い物のピースを取り除き、新たに真実という名のピースをはめ込むために。
そうしなければこの苦痛に塗りたくられた一年は一体何だったのか理解することができない。
まず、みんなはよっくんと佳奈ちゃんが付き合っていると思ってる。
実際私もそう思っていました。だって佳奈ちゃんがそう言っていたのを私はこの目で見て、この耳で聞いたのだから。
でもよっくんは違うと言っている。
これはどういうことでしょうか?
もしよっくんが本当のことを言ってるのなら佳奈ちゃんは嘘をついているってことになる。
でもなんでそんな嘘を言う必要があるのでしょうか?
いや、よく考えるのよ。本当はわかっているんでしょ?でも理解したくないだけ。
そしてある一つのパーツがどうしても埋められなかった穴にカチリと音を立ててはまった。
でもそれははまるべきパーツではなかった。私の中で次々と記憶が塗り替えられていく。
そう、私は全てを理解してしまった。
彼女が一年前私に何をしたのかを。いや、それ以前にも彼女がずっと行い続けていたことまで。



150 名前:Rouge?Blanc?[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 02:42:51 ID:y4jNeCr2
――佳奈ちゃんは待っているのだ。
ただの噂が本当になるのを。でも自分から告白して振られるのは恐い。
だからよっくんの方から告白してきて事実として成立するように仕向けている。
それまでよっくんが他の女の子に目を向けないように、他の女の子がよっくんの方を向かないように皆に嘘をついていたってことか。

……ふふ、うふふふふ、ふふはははははははははっ!!!あはははははははははははははははははははははっ!!!!
そうか。そういうことなんだ。
私の中で怒りとも悲しみともつかない感情が爆発した。
気付きたくなかった。でも気付いてしまった。
私の親友だと思っていた女の子は私を騙し、私がずっと恋焦がれていた男の子を奪った。
そして私は愚かにもその真相を確かめずにそのまま逃げ出してしまったことに。
噛み締めた歯と歯が擦れ合い、ギリリと音を立てる。握り締めた拳に思い切り爪が食い込む。
しかし、こんな痛みなど全く気にならない。彼女へと抱くこのドロドロとした全てを焼き尽くす業火の如き暗い情念に比べたら。
可愛さ余って憎さ百倍どころではない。彼女のことを信頼し、慕っていただけにその反動は大きかった。
「佳奈ちゃんは嘘をついてよっくんを私から獲ったんだ……!!」
とても自分の口から出たとは思えないほどに低い声が漏れる。その声はまるで呪詛のように聞こえた。
『よっくんの恋愛対象になりそうな女の子達を排除して選択肢を自分だけにする』
ずいぶん姑息な手を使ってみんなを欺いてくれたじゃない。
でもしょうがないよねぇ?だって佳奈ちゃん本当は自分一人じゃ何もできない臆病者だもんね?
本当は昔からうすうす勘付いていた。
いつも自信満々にしているその瞳の奥に微かな恐怖心、不安感が内包されていたことに。
そしてそれを隠すためによっくんに依存していることも。
そりゃよっくんみたいに自信に満ち溢れた逞しい人の傍にいたいよね?
彼と一緒にいるだけで自分の醜い場所が消えて輝いていられる。きっと彼女は本気でそう思っている。
でもね……そう思ってるのは何もあなた一人じゃないのよ?
そう、私も佳奈ちゃんと同じ穴のムジナ。私の場合、佳奈ちゃんより少し理性とか常識が強かったみたいだけど。
だから一年前あなたの嘘にあっさりと騙され、愚かにもいらぬ遠慮をしてしまった。
でもこれからはそんな遠慮はしなくて済みそうだ。
私と佳奈ちゃんの本質は同じ。私も佳奈ちゃんもよっくんが欲しくて欲しくてたまらない。
一度彼と言う極上の甘い果実を口にしてしまったから。
その優しさがこの上ないほどの猛毒とも知らずに果実を貪り続けてしまった私達はどうしようもない愚か者。
しかもその毒入りの果実は食べれば食べるほどのどの渇きは増し、より多くの果実を求めてしまう。
よっくんがその全てを食らわせてくれなければ私達は禁断症状によって身も心も引きちぎれるような苦しみを味わわなければいけなくなるのだ。
自分でもビックリね。まさか自分がこんな人間として堕ちるところまで堕ちているような女だったなんて。
でも私はあなたとは違うわ、佳奈ちゃん。あなたは彼に依存しているだけ。
醜い自分の姿を覆い隠してくれる優しい優しいよっくんを手放したくないだけなんでしょう?
彼の優しさを食い物にして辛うじて生き延びている醜い怪物。
それがあなたの本当の姿よ。見ていて虫唾が走るわ。
よっくんだってこんな女の元に居たがるはずがない。いつかは必ず可憐な外見の裏に隠された醜い本性に気付くはず。
そして慌てふためき逃げ出してきた彼の震える体を私は優しく受け止めて、こう言うのだ。
「大丈夫。私はあんな女じゃありません。よっくんのことはちゃんと守ってあげますからね。だからあなたはこの胸の中に包まれているだけでいいんですよ?」



151 名前:Rouge?Blanc?[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 02:46:59 ID:y4jNeCr2
そう、もうすぐすれば彼は私の所に帰ってきてくれる。だから私はよっくんに問う。
「うん。信じますよ、よっくん。だってよっくんは私に嘘をつきませんものね?」
まさかよっくんまで私を裏切ったりしませんよね?もし私を裏切って、あの女のことを選ぼうだなんてしたら××しちゃいますから。
二度も彼が私以外の人のものになるなんて到底私には耐えられない。私だけの彼になってくれないのならいっそ……
まぁ、そうしようとする前に私が彼の心を捕らえてしまえばいいだけの話で、冷たく光る妄執と情念の鎖で彼を雁字搦めにしてしまうのだ。
そうすれば彼も無駄な抵抗をする気もなくなるでしょう。
あら、やだ。私ったらこんなことを考えてはしたない。
まるで何かに中てられたように残酷で狂気に満ちた傲慢そのものの考え。
ふと頭の中にある単語が浮かんでくる。
『逢魔時』。その言葉の通り、妖怪や幽霊といった異形の存在に出会いそうな時間という意味だ。
もしかしたら私は夜と共にこの世界を訪れた魑魅魍魎に遭遇してしまったのかもしれない。
でもこれは私が最も望んでいた彼との関係なのかもしれません。だって今私はこれ以上はないほどの笑みを浮かべているのだから。
「ですよ、ね?」
「あ、ああ。嘘なんかつかないよ」
よっくんはそんな私を見て怯えたのか、青ざめた顔で少し後ずさる。
うふふ、可愛い。こうやってずっと彼を愛でていたい。
でもこれ以上彼を怖がらせたら逆効果ですね。
彼の知っている『運動は少し苦手だけど、頭がよくておっとりしたお嬢様の白河鈴音』に戻るとしますか。
「そう……ならいいんです」
彼を安心させるために私はとびきりの笑顔を作る。そう、まるで先ほどのことなど何もなかったかのように。
「へ?」
口を大きく開けたまま固まるよっくん。ちょっと間抜けだけどやっぱりそんな顔も可愛い。
「だってよっくんが私に嘘をつくかと思うと、この胸が張り裂けそうなほどに苦しくなってしまうんです……」
冗談ぽく本音を言いながら大げさな動作で胸に手を押し当てる。彼のためなら道化を演じることだって苦にはならない。
だってよっくんが私の胸を食い入るように見ているんですもの。ねっとりと、じっくりと熱の篭った視線が私の胸を貫く。
周りの男どもが穢れた視線で見てくるただ重くて大きいだけの脂肪の固まりと今日までは思っていた。
けど彼がこうして情欲に濡れた目で見てくれるのならばこうして成長してくれてよかったとさえ思える。
よっくんが私のものになってくれるならこの体を好きにしてくれて構わないんですよ?
今まで守り通してきた純潔も彼に散らされるのならばそれはむしろ喜ばしいこと。
やだ、私も少し濡れてきちゃいました。もう,よっくんがあんないやらしい目で見てくるからですよ!
このまま彼とホテルに入ってもいいとさえ思えるけど今日の所は我慢。今まで築いてきた私のイメージが崩れちゃいますからね。
家に帰ってからたっぷりと自分を慰めることにしましょう。
「さて、もうずいぶん暗くなってしまいましたし、名残惜しいですけれどそろそろ帰りましょうか?」
「……ああ、そうだな。俺は歩いて帰るけど鈴音はどうするんだ?もし歩きなら送っていくけど?」
やっぱりよっくんは優しい。さっきのことを心配してくれている。
ならありがたくその好意に甘えるとしましょうか。
「そうですね……では駅まで送っていただけますか?」


152 名前:Rouge?Blanc?[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 02:47:51 ID:y4jNeCr2
駅に向かう途中、たくさんのことを話した。昔のこと、最近のこと、これからのこと。
もちろんその会話の中でさりげなく佳奈ちゃんのことや彼の女性関係について聞き出すのは忘れない。
引き出した情報によるとやはりよっくんは佳奈ちゃんやその他大勢の女どもの好意には気付いていないようです。
これは好都合です。なぜなら彼女達と違って私は彼に女を意識させることに成功したから。
きっと傍に居過ぎて佳奈ちゃんのことは異性として認識することができないのでしょう。
他の雌どものことは得意の鈍感で意識すらしていないようです。
どうやら私が過ごした一年は無駄どころか大きなアドバンテージをもたらしてくれたようです。
つい気分も浮かれ、よっくんと他愛もないことを話しているとあっという間に駅に着いてしまった。
楽しいと感じている時は時間の進みが速く感じられると言いますがどうやら本当のようです。
よっくんと話していた戦隊物の話がちょうどクライマックスに入ったところで「電車の時間が近づいているから」と途中で打ち切られてしまった。
そこで私は大げさに落ち込んだ振りをする。そうすればきっとよっくんは私の望む通りの行動を取ってくれるでしょう。
「おい、鈴音。携帯持ってるか?」
きた!!やはり私の読みどおりです。
「はい。持ってますけど……?」
声が上擦らないように細心の注意を払って、何もわかっていないように可愛く首を傾げながら携帯を取り出す。
「アドレス交換するぞ。これなら電話するなり、メールするなり、いつでも話せるだろ?」
「!!」
パーフェクト!!さすがは私のよっくん!!私の期待に見事応えてくれた。
「します、します!!早くしましょう!!今すぐしましょう!!」
「わかったから少し落ち着けって!はしゃぎすぎだろ!」
つい嬉しくてはしゃぎ回る私をなだめるよっくん。
胸の中で暴れ回る高揚感を必死に押さえつけて、お互いのアドレスを交換する。
これでお互いのアドレスがお互いの電話帳に登録された。
「うふふ、よっくんの電話番号とメールアドレスだぁ……嬉しいです……」
他人にとってはただのアルファベットの羅列に過ぎない物でも私に取っては魔法の呪文。
だってこれからはよっくんといつでも、どこでも話すことができるから。
よっくんの声は私の心を癒してくれる清涼剤。これほど嬉しいことはありません。
「まぁ、これで何の心残りもなく帰れるだろ。じゃあな……」
そう言ってよっくんは私に別れを告げ、帰ろうとする。

そうだ。大切なことを一つ言うのを忘れていた。
彼女のためにもちゃんと言っておかないといけませんよね?


153 名前:Rouge?Blanc?[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 02:48:33 ID:y4jNeCr2
私はよっくんの腕を掴み、引き止める。
「どうした?これ以上まだ何かあるのか?」
「……佳奈ちゃんに会ったら伝えて欲しいんです。必ず返してもらう、って」
そう、今目の前にいるあなたを、ね。
「は?何だ、佳奈美のやつお前から何か借りたままだったのか?」
怪訝な顔をするよっくん。
「はい。私に嘘をついてそれをずっと自分の物にしていたんです」
親友を騙してまで彼を手にいれようだなんてひどいと思いませんか?本当に浅ましい子。
「本当か?ったく、佳奈美もしょうがない奴だな。今度会ったら俺からきつく言っておくよ」
呆れたように肩をすくめる彼。
まったくだ。佳奈ちゃんなんかさっさとよっくんに愛想を尽かされちゃえばいいんです。
「お願いします。『人の物を勝手に取ったら泥棒』って言いますもんね」
そう。佳奈ちゃんが余計なことさえしなければ今頃は私は彼と結ばれて幸せな毎日を送っていたはずなのに。
この泥棒猫!!薄汚い雌猫の分際でよくも人のものに手を出して……!!
はっ、いけない。こんな憎悪に歪んだ顔を見られたらきっと彼は私から離れてしまう。平常心平常心。
「今日は色々ありましたけど、こうやってまたよっくんに会えてとても嬉しかったです。ではそろそろ電車が来るので失礼します。」
少し名残惜しいけどなに、焦ることはない。これからはいつでもよっくんと話すこともできるのだし。
家に帰ってゆっくりよっくんとこれからのことを考えましょう。
「あ、ああ。気を付けて帰れよ。またこうやってたまには会えるといいな!」
背を向けて改札口に向かう私に向かってよっくんは声を掛けた。
多分何気なく言ったのでしょう。
しかし、取り損ねて咀嚼してしまった魚の小骨のような不快感と共に些細な言葉が私の心に引っかかった。
“たまには”?
わかってませんねぇ、よっくんは。これは私がちゃんと教えて上げないといけませんね?
私は立ち止まって、ゆっくりと彼の方を振り向くとニッコリ笑って告げる。
「心配しなくても大丈夫ですよ。また“すぐ”に会えます。“すぐ”に、ね」
そう。私達はすぐに会えるんですよ。
誰にも私達の仲を邪魔する権限はありませんし、邪魔させる気もありません。
もし再び巡り合えた私達を引き裂こうとする輩がいたらそうですね……少し手荒な真似をしてしまうかもしれません。
まぁ、そんなことをする人なんて私には一人しか心当たりはありませんけどね。
「ではまた近いうちに」

それまではしばしのお別れですわ、正義。私の愛しい人。


154 名前:Rouge?Blanc?[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 02:49:07 ID:y4jNeCr2
「クス……クスクス……」
一人電車に揺られながら私は笑い続ける。
周りの人は少し気味悪そうに私を見ているが決して目をあわせようとはしてこない。そのほうが私にとっても都合がいい。
どうしようもなく喜悦に歪んだこの笑顔を人に見せるなんて耐えられませんから。
だってしょうがないじゃないですか?あまりにもおかしくて笑いを止めることができないのです。
そう、今日はとてもいいニュースと悪いニュースが一度に飛び込んできた。
そしてそれは私を狂気へ誘うのに十分過ぎる内容だった。

やってくれるじゃない、佳奈ちゃん?まさかこの私を出し抜いてくれるなんてね。この借りは高くつきますよ?
そうですね。あなたがもう二度と私達の前に姿を現さないって誓うのなら昔のことは水に流してあげてもいいです。
私もあなたのことはまだ大切な友人だと思っているもの。
でもね。身の程もわきまえずにもう一度私から彼を奪おうというのなら――

「クスクス……クスクスクスクスクスクス……」

――最高に惨めな思いをたっぷりと味わわせてから佳奈美、あなたを殺してあげるわ。


155 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 02:52:44 ID:y4jNeCr2
投下終了です
ところで前スレでヒーロー気取りの某主人公と書かれてありましたが元ネタが全く分かりません……
分かる方がいたら教えてください

156 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 03:24:49 ID:Pz1kDthH
>>155
GJ!!起きててよかった!!

157 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 04:20:04 ID:KzArWWHu
多分、衛宮士郎のことだろ

158 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 07:07:20 ID:lRzMMbQ8
GJ

159 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 07:43:30 ID:/cCGI8cU
なんだろチワワの皮をかぶった狼と猫の皮を被った虎の戦いっぽいなw

160 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 07:57:21 ID:Xv9lcDxu
GJ! みなぎってきたああああああぁぁぁぁあああ!

161 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 10:14:35 ID:Xuxc3+f8
こっちでは、濃いエロ描写はあまり好まれないんでしょうか?
ヤマヤミの18禁版みたいなことやったら引かれますかね…

162 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 10:33:27 ID:wn/O6aN7
GJ!!!!!!!
これはいいヤンデレ対決。これからどういう展開になるのか非常に楽しみです。

163 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 11:32:45 ID:RUz1biyG
>>155
GJ
車内でニヤニヤしながら読ませてもらいますたww


某主人公ってのは多分衛宮士郎の事かと

164 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 11:39:25 ID:NurRrHOB
>>161
問題ないと思いますよ
まぁスカとか入れるとアウトの人がいるので、前もって予告する必要があるでしょうけど

165 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 11:43:17 ID:z26cB5RF
>>155GJ!!これはとても濃いヤンデレ対決が見れそうですね。つづきを楽しみに待っています。

>>161 "こっちでは"ってどこと比較しているのかわからないけど、ここはエロパロ板にあるスレだから
エロは大歓迎だよ。それが濃いエロならなおさら。ただ、特殊な趣向が含まれる場合は、注意書きが必要だけどね。

166 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 11:47:01 ID:Xuxc3+f8
どもっす。そのうち何か考えてみます。
シャイニン●のごとく流血Hとかは…やばいかな…。

なお比較対象はキモウトキモ姉スレw

167 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 14:28:03 ID:e7YmMOwU
死ね

168 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 14:43:49 ID:b1cdnV+Y
つられないくま

169 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 15:43:13 ID:5r7+DMaA
>>155
( ゚∀゚)o彡°続編! 続編!

170 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 20:28:19 ID:naylCE9D
>>155
続き待ってます!!

171 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2008/10/16(木) 23:25:18 ID:qa4ZeZsz
>>155
新キャラナイス!!

172 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/17(金) 12:06:48 ID:DEjTAq9X
GJ

173 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/17(金) 19:27:51 ID:aYBbb0TM
フルメタの相良ソースケに見えなくもないと思ったのは俺だけ?

174 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/10/17(金) 21:16:03 ID:pmuyafy/
く~るぅ~、きっとくるぅ~、きっとくるぅ~

175 名前:天使のような悪魔たち 第2話 ◆UDPETPayJA [sage] 投稿日:2008/10/17(金) 23:20:43 ID:69OvmC0n
KG67S9WNlw改め↑です。
第2話投下します。

176 名前:天使のような悪魔たち 第2話 ◆UDPETPayJA [sage] 投稿日:2008/10/17(金) 23:21:17 ID:69OvmC0n
「はぁ…はぁ…ここなら…大丈夫だろ……ふぅ…」
あれから結意に終われること二時間。先生の「廊下を走るな」という怒鳴り声を何度聞いたことか。
それでも構わず追ってくるヤツから逃れるために俺はある場所に隠れていた。そこは…
女子禁制の聖地、男子トイレの個室。―――完璧だ!ここなら絶対来ない。あとはほとぼりが覚めるまでずっとここにいれば……そこで俺はあることに気づいた。

ほとぼりがさめるまでって……いつまで?
そのとき、かつーん、と足音がした。情けないとこにびくっとしてしまった。
おおお落ち着け俺。ここは男子トイレ。結意が来るはずがない。きっと個室を求めてここまで来た男子生徒だろう。
だが、譲るわけにはいかない。残念だが、扉の向こうの彼には泣いてもらおう。

「みぃーつけた。」

今度こそ俺は恐怖を感じた。その声の主は……結意だったからだ。
ばかな!?まさか結意がここまで来るなんて!?だがまだ俺だと気づいたわけではあるまい。扉一つへだててるんだからな。
ここで何も言わず、ただじっとしていればやり過ごせるだろう。多分。

「隠れてたって無駄だよ?だって、ここから飛鳥くんの匂いがするんだもん…。いい匂い……はぁはぁ。」

……とりあえず俺は結意に、「ここはトイレだからあんましいい匂いしないと思うぞ?」とつっこみたくなった。
…ガマンガマン。あいつが変なのは今に始まったことじゃない。
そうだ、今こそ隼に助けを求めればいいんだ。そう考えた俺は、早速携帯を取り出し、メールを打とうとした。そのときだ。
携帯が突然振動しだした。着信だ。なになに………

090-XXXX-XXXX

「ほぉら、やっぱり。飛鳥くん、お話しよ?」


177 名前:天使のような悪魔たち 第2話 ◆UDPETPayJA [sage] 投稿日:2008/10/17(金) 23:22:09 ID:69OvmC0n
―――しまった!完璧にやられた。着信は、結意からのものだったのだ。
携帯の振動音というのは結構音がするものだ。まして、この狭い空間ではそれを隠すことはできない。
……どうすればいい?きっと結意は俺が個室から出てくるまで動かないだろう。携帯で助けを呼べばいいかもしれないと思ったが、きっと結意の着信で妨害される。
くそっ、簡易留守録をかけておけばよかった!これじゃ八方塞がりだ。

ふいに、がちゃがちゃと何かをいじりだした結意。どうやらドアの鍵を壊そうとしてるようだ。だが、結構頑丈なはずだぞ?ちなみにこのドアは、「開」で白、「閉」で赤が

出る、小学校などによくあるタイプの鍵を備えている。
と突然、鍵の役割を果たしているレバーが勝手にスライドし、そのまま開いてしまった。え、何が起きたんだ?約2秒の間をおいてその意味を反芻する。―――絶対的な危機の

予感。そして、開け放たれるドア。

「やっぱり、飛鳥くんだ。うふふふ……」
「…ばかな!なんで鍵が外れて!?」
「このタイプの鍵ってね、鉄の覆いを外して赤と白のところをくるくるまわせば外からでも開くんだよ。知らなかった?」

と、後ろ手で内鍵をかけながら話す結意。言ってる意味がよく分からないが、今の俺はそれどころじゃなかった。この狭い個室で、結意に閉じ込められたも同然なのだから。

「もう逃がさないよ…飛鳥くん……。」
「ゆ…い…?」
「飛鳥くんは病気なんだよ?男の子が男の子を好きになるなんて、おかしいよ? でも大丈夫、病気なら治せばいいんだよ。私が治してあげる。……女の子のよさ、教えてあ

げる。」

ものすごく真剣な表情で俺を見つめながら、そんなことを言う。どうやら俺のなんちゃってカミングアウトをいまだに根に持ってるようだ。
普通に考えればわかるはずなんだけどなぁ……と、ポケットを探り、何かを取り出した結意。なんだ……?ああ、あれはたしか極限まで実用性を重視した以下略の……

178 名前:天使のような悪魔たち 第2話 ◆UDPETPayJA [sage] 投稿日:2008/10/17(金) 23:22:51 ID:69OvmC0n
がちゃり、と音をたててそれは装着された。片方は俺の手首、もう片方は結意の手首―――泣きたくなった。
そのまま俺の膝にまたがり、しきりに股間を俺の太ももにこすりつけ始めた結意。前後に動かれるたびに、その小柄な体つきにそぐわぬ豊満な胸が押し付けられる。……やわ

らかい。

「どう?男の子じゃ、こんなことできないでしょ?あれ、飛鳥くんったら、もうこんなに元気になっちゃったんだぁ。」
「くっ……」

当たり前だろうが。俺だって健全な男子だ。こんなことされて反応しないわけない。もし違うというなら、そいつこそゲイだ。……やばいな。
すでに俺の大腿部は分泌液がにじんでいる。そこから、甘い香りが鼻につく。結意の表情はとても上気していて、興奮しているのか、息も荒い。
美少女だとは認識していたが、今の結意はなぜだか言葉に表せないくらい綺麗…いや、艶やかだった。
このまま奪ってしまいたい衝動にかられ始めた俺は、歯をくいしばって煩悩と戦っていた。今も頭の中で必死に九九を唱えている。
なんで九九かって?数学の公式でも唱えれば冷静になるかなぁととっさに思いついたからさ。落ち込むから馬鹿とか消防とか突っ込まないでくれ、頼む。
―――――突然、結意に唇を塞がれた。口内を侵略せんとばかりに舌が入り込んでくる。俺は、そのまま数秒間、結意に捕食された。

「―――ぷは。飛鳥くん……大好きだよ!」

ぷちっ、と俺のなかで何かが弾ける音がした。おそらく、理性が。もう自分でも自分を止められなくなった。
結意の唇を逆に侵略し、その間に器用にファスナーを開く。瞬間、一気に結意を貫く。

「あ……ひっ…!」

苦痛に顔をしかめる結意。それに構わず立て続けに腰を突き上げた。

「いやぁ!痛い!痛いよぉ!あぁぁぁぁぁ!」
「…煩い」
「――ん!――!―――――!!」
再び唇を塞ぎ、無理やり黙らせる。必死にもがく結意を強引に押さえつけ、蹂躙する。結合部分からはぱちゃぱちゃと卑猥な音がし、粘液と血が織り交ざって下半身をべとべ

とにしていた。ここで唇を離した俺は、次に結意の胸を強く吸いだした。

「やだぁ!おなか裂けちゃうよ!飛鳥くぅん!すきぃ!だいすきぃ!」

いつの間にか悲鳴は嬌声に変わっていた。目の焦点が合っていない。結意もまた狂ったように腰を振っていた。個室のなかいっぱいに甘くすえた匂いが広がっている。
それがより一層俺の…俺たちの理性を奪っているようだった。
とうとう限界を迎えた俺は、その全てを結意のなかに放った。刹那、結意はびくんと背中を反らし、嗚咽を漏らして気絶した。
口をだらしなく弛緩させ、体はまだ痙攣している。接合部からはあふれ出る粘液とは別に、生暖かい液体が漏れ出ていた。そこで我に返った俺。

179 名前:天使のような悪魔たち 第2話 ◆UDPETPayJA [sage] 投稿日:2008/10/17(金) 23:24:04 ID:69OvmC0n
―――――やってしまった。
きっと結意は「赤ちゃんできた」とか「責任とって」とか「逃げたらレイプされたって言う」とか脅しをかけてくるんだろうか。つまり、俺はもう結意からは逃げられない。
………もうどうでもいいか。過程はどうあれ、俺は結意を求めた。結意に魅力を感じないのかと言われれば、素直にYESとは言えない。
それに、こいつがどれだけ俺を好きかもわかってしまった。隼の言うとおり、そろそろ折れてしまってもいいのかも……いや、もうとっくに折れてるか。

「あひゅかくん……しゅきぃ…」

うわごとのようにそう連呼している。そんな結意がたまらなく愛おしくなってしまった。
俺は結意を起こさないよう優しく、空いている左手で抱きしめ、キスをした。


数時間後―――――

俺たちは旧校舎の屋上にいた。現在時刻は午後7時。空は紫いろに染まり、星が見え始めている。
手錠はとっくに結意が外してくれたし、しみがついて汚れた制服のかわりに学校指定のジャージへの着替えも済んでいる。
俺は結意に大事なことを伝えるべく、切り出した。

「――――え、飛鳥くんいまなんて……?」
「だから……付き合おう、俺たち。」
「あ……あすか…くん……本当に…?」
「ああ、本当に。」
「うれしい……私…もう死んでもいい……飛鳥くん…。」

俺にしがみついて嗚咽をもらす結意。こんなふうに弱々しく泣く結意は初めて見た。俺はただ、抱きしめてやることしかできなかった。

「…帰るぞ。もう夜遅くだ。送ってってやるよ。」
「うん…」

最終更新:2009年03月14日 07:15