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555 :ドナドナドンナ! [sage] :2009/03/20(金) 22:26:30 ID:MjqnhYoR

文章の文字打ちはメモ帳、これは譲れない。
それでもって後からワードに移し替えれば十分。
ガチガチキーボードで音を鳴らすのは俺の指だ。
「ねぇおにいちゃん」
ゆっくり目だけ横にスライドさせる。
不躾にも机に乗っているのが音の発信源だ。
二つに結ばれたツヤツヤした黒い髪は日光に反射していつも以上に明るく輝いている。
ぶらぶらと足を行儀悪く振り子のようにさせているが、覆っているのは白のレース付きのオーバーニーだ。
「ねぇったら」
目はぱっちりと丸く、睫毛も生意気に長い。
マスカラ必死に付けてる世のギャルなんかになる将来性は感じさせなかった。
「ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ…ねえったらーッ!」
羨ましいか?
無視され続けて頭に来たらしく俺の腕にしがみついて来やがったそれは間違い無く美少女だ。
くそ、凄く打ち辛い。
「うるさい幼女」
「幼女じゃない」
「だが外見は確かにソレだ」
確かにこいつ、藤代ひたちは12歳の赤ランドセル所持者だ。
だがしかし外見は幼女に近いのだから仕方が無い。
ギリギリ二年生って感じで顔の作りも身体の大きさも幼いのだ。
残念ながらティーンエイジャーにも満たない奴なんて対象外だ、というか犯罪者になんかなりたくない。
お前んちの両親の信頼(という名の良く貰うお礼の図書カード)を失いたくもない。
「牛久おにぃちゃん」
「…何だよ」
「えへへー」
柔らかい。
胸がまな板なんだから、すり寄られてわかるのは必然的にひたちの血色の良い頬だ。
どうにもなる訳が無い。
「今日は打ち合わせがあるから、邪魔なんだよ」
とっとと帰れ。
形の良い頭を押してひたちを引き離した。


556 :ドナドナドンナ! [sage] :2009/03/20(金) 22:27:36 ID:MjqnhYoR
「打ち合わせ…?」
「小説書いてて小さい賞とっただろ、あれで担当…専属でちゃんと読んでくれる人が付いたんだよ」
青い鳥の縁取りがされたカバーの子供向け謎解き小説が小学校の頃から好きだった。
今じゃその大好きなシリーズは今月で終わってしまう。
高校の間は文芸部なんていう実質何もやらない所で一人書き続けた。
大学受験も終わって暇になった矢先にダメ元で出した出版社から連絡が来た。
「そんな…でも、ひたちが今まで最初におにぃちゃんのお話、読ませて貰ってたの、に」
「出来たらちゃんと読ませてやるよ」
「でもそれより先に読まれちゃうんでしょッ!」
何でこんなに取り乱しているのかわからない。
あくまでプロットだし、そんなネタバレを先に話しても後で完成品を読むひたちにはマイナスな筈だ。
「全部出来たら読ませてやるから、な?」
タイミングが良いのか悪いのか、携帯が鳴る。
「大仏さんですか?」
「はい、ダイブツじゃなくてオオラギ、ですけど」
まだ覚えて貰って無かったのか。
確かに大仏なんてややこしい苗字だけど有名な小説家だってこの苗字なんだ。
「…失礼しました、担当の荒川です…直ぐに伺って宜しいですか?」
「勿論です!」
通話ボタンを切ってついガッツポーズを取ってしまった。
何てったってクーデレの気がありそうな大人のオネーサン。
俺のストライクゾーンの荒川沖奈さん。
全ッ然発展しなさそう(さっきだって名前間違われたしな)だが俄然張り切ってプロットとトリックを練る訳だ、うん。


557 :ドナドナドンナ! [sage] :2009/03/20(金) 22:28:21 ID:MjqnhYoR

「…女だったんだ…」
「あ? ああ…」
絞り出すような低い声はひたちらしく無い。
「おい?」
「帰る」
バタンとドアを閉められた。
「一体何なんだよ…?」
今までこんなことが無かったから少しうろたえる。
ひたちと出会ってから今までは異常なまでに引っ付かれていたから余計にだ。
勿論兄妹じゃないし、血縁でもない。
ましてや隣とか向かいの子でもないのだ、ひたちは。
ひたちは見た目がああだから変質者に襲われることがちょくちょくあるようで、
それをただ下校帰りの俺が見つけてお巡りさーんと叫んだだけだったのが最初だ。
見るからにイケてない俺(彼女なんて生まれてこの方居ない)のどこをどう気に入ったのか引っ付いてきて二年経って今に至る。
「…ああ見えてあいつももうすぐ中学生だし、やっと兄離れって奴なのかもな」
実際の兄ではないが、兄貴分というか何というか。
誰にも見せなかった自分の書いた拙い話を一番最初に見せる分にはひたちが可愛いとは思っているんだ。
ペドフィリア宜しく性的に興奮するわけでは断じてないが。
「ま、次来たときに読ませてやれば機嫌が治るかな」
その後すぐに荒川さんが来て、話をして何も無く(本当に残念だ)終わった。
嵐の前は本当に静かだということを身を持って知ることになる数日前の話だ。



後編に続く。