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688 :刹那の想い 前編 ◆PLalu2rSa. [sage] :2009/03/30(月) 00:03:19 ID:8J0aeJId
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴る。
きっとあいつがようやく着いたのだろう。遅い。
ものすごく近所に住んでいるくせにどうして待ち合わせの時間に遅れることができるのだろう?
あいつは昔からそうだ。
私との約束時間を守ったためしがない。
ピンポーン。
再びチャイムが鳴る。
私は台所で調理していた手を止め、玄関へ向かう。
扉を開ける。相手を確認せずに扉を開けるなんて不用心極まりないが、私は扉の向こうがあいつだと確信していた。
「俺だよ、刹那。遅れてスマン」
案の定、扉を開けるとそいつがそこに立っていた。
名前は葉月 祐二。
中肉中背の体型。
芸能人みたいにハンサムでかっこいい訳じゃないけど、私から見れば十分にかっこいい顔立ち。
割ともてるくせに性格は最低最悪。今みたいに遅刻はするし、言葉使いは悪いし、私の事を女の子として全然扱わないし。
「遅いッ!!いま何時だと思ってんの!?約束した時間は18時でしょう!?・・・それがなんで時計の針が19時を指してるわけ!?」
私は目の前の時間の守れない馬鹿幼馴染に開口一番にどなりつける。
本当は、こいつが遅れている間、いつ来るのか、まだ来ないのかとドキドキしていたのは内緒だ。
しかし、私の罵声にもこいつはどこ吹く風といった様子で、表情を崩さない。
「悪かったよ刹那。ちょっと家出る前にいろいろあってさ」
いろいろってなんだ。
私よりそのいろいろの方が大事なのか。
せっかく幼馴染が健気にも晩御飯を振舞ってやろうというのにそれか。
「ご自宅に親御さんが留守だって聞いて、かわいい幼馴染が晩御飯作ってあげるってのに、あんたはそのいろいろの方が大事なわけ!?」
「だから、悪かったって。ほら、頼むから玄関先で喚かんでくれ。近所の人に迷惑だろ?」
だれのせいだ、誰の。
大体、ここは私の家なのだから恥ずかしいのは私の方だ。
・・・が、確かにいつまでも玄関先で喚いていても仕方がない。



689 :刹那の想い 前編 ◆PLalu2rSa. [sage] :2009/03/30(月) 00:06:01 ID:8J0aeJId
そもそも今日はこいつを説教する為に呼んだのではないのだ。
親御さんが海外旅行でろくに料理も作れなくて大変ひもじい思いをしているらしい哀れな幼馴染の為にこの私が博愛の精神で晩御飯を御馳走してやるのだ。
まったく、本来なら私に感謝して感動して泣きながらすがりついて、
「今日この日の糧を得られるのは刹那様のお陰です。この卑しいわたくしめにご飯を作ってくださってありがとうございます」って、言いながら土下座するべきよね。
「刹那、お前自分で言ってて恥ずかしくないか?・・・まぁ、一応感謝はしとくよ」
あ、やば。思ってたことが口に出てしまっていたらしい。
どの辺から出ていたんだろう。恥ずかしくて死にそうだ。
「と、とにかく上がりなさいよ!晩御飯はもうすぐ出来るんだから!」
私は顔を赤くしつつ、台所へと向かう。
あいつの方は勝手知ったる何とかで、私が案内しなくても一人で居間の方へ歩いて行く。
最近はめっきりだが、昔はよくうちに遊びに来ていただけあって、我が家の間取りは完璧に頭に入っているらしい。
私は台所に戻ると、先ほど作りかけだった料理を手早く仕上げ、皿に盛る。
いつまでたってもあいつが現れないものだから、やたら追加で作りすぎてしまった。
認めたくないが、久しぶりにあいつに手料理を振る舞えるとあって、張り切り過ぎてしまったかもしれない。
正直、一晩で食べきれないだろう。
「刹那。運ぶの、手伝おうか?・・・って、オイ。作りすぎだろ」
いきなり台所に現れて、驚きの表情を浮かべる、我が幼馴染。
自分でも作り過ぎたと思ったが、やはり他人の目から見ても作りすぎらしい。
「う、うっさいわね!あんたが遅いから、暇だしいろいろ作ってみたらこうなったのよ!」
我ながら苦しい言い訳だなと思いつつ、私は祐二を促して居間兼食卓へと移動する。
食卓に並べたたくさんの食事を前に、私と祐二はテーブルを挟んで向かい合って座る。
「「いただきます」」
二人一緒に手を合わせる。
こうして、二人で食事をするなんてどのくらい久しぶりだろうか。
少なくとも、アレがあってからというもの、私たちはろくに会っていなかった。
「うん。刹那の作る料理は相変わらずうまいなぁ。いい嫁さんになるよな」
バクバクと情緒の欠片もなく料理を平らげていた祐二がいきなりそんな事を言う。
よほどお腹がすいていたのか、呆れるほどの勢いで皿の料理を平らげていく祐二を見て、唖然となっていた私は、いきなりの言葉に思わず慌ててしまう。
「ちょ、何言ってんのよ。お、お嫁さんとか、この馬鹿っ。ほ、ほめたって何にも出ないわよ!?」
こいつはいきなり人を赤面させるような事を平気で言う。



690 :刹那の想い 前編 ◆PLalu2rSa. [sage] :2009/03/30(月) 00:08:26 ID:8J0aeJId
私の気も知らず、目の前の幼馴染は笑顔で食事にがっついている。
しかし、こいつはこの数日、まともな食事を食べてなかったのか?
「ねぇ、祐二。・・・その、姫宮さんはご飯とか・・・作ってくれないの?」
少なくとも私と数年来の付き合いの祐二は、別に大食漢というわけではない。
それなのにこれだけガツガツと私の出した料理をたいらげていくという事は、この数日まともに食事をしてなかった事になる。
「あー、うん。亜衣は・・・料理とか苦手なんだ」
食事にがっつく手を止めて、祐二は私の質問に歯切れ悪く答える。
亜衣というのは、本名姫宮 亜衣、祐二が名前で呼ぶ世界で唯二人の人間のうちの一人。
そして、私が名前で呼ばれる祐二の唯一無二の幼馴染ならば、姫宮さんは祐二の唯一無二の恋人。
祐二の両親が海外旅行に行っている間、あの姫宮さんが祐二の事を放っておくとは思えないんだけど。
「親父とお袋の奴、旅行に行く間、食事代置いていかなくてさ。餓死させる気かっつーの」
しかし、料理が出来ないとは意外だった。
才色兼備な感じだったし、掃除、洗濯、食事、と家庭的で優等生なイメージだったのに。
祐二の為に食事の用意も出来ないで、彼女だ、なんて笑わせるわね。
私だったら・・・私だったら・・・。
「それであんたはいままでろくに食事が出来なかった訳ね。・・・なんでもっと早く連絡をよこさないんだか」
そうなのだ。
私と祐二は幼馴染でありながら、ここの処疎遠になっていた。
それもこれも祐二に姫宮さんという恋人が出来た所為なのだが。
しかも、疎遠になっていたおかげで、私は今現在祐二の両親が海外旅行で長期に家を空けている事や、祐二がひもじい思いをしている事も知らなかった。
「いや、だってさ、最近顔合わせてなかったじゃん。亜衣と付き合いだしてからなんかお前、すっごい不機嫌だったし」
むぅ。
確かに祐二が姫宮さんと付き合いだしてから私は、祐二と距離を置くようになった。
だってそうじゃない・・・幼馴染の男の子に彼女が出来たのだ。
同性ならともかく、異性の幼馴染がずっと傍にいられるわけがない。
「あ、でも久しぶりに電話してみて正解だったよ。餓死しなくてすんだし」
「私はあんたの食事係かい!」
・・・と、突っ込みはしたものの、正直、今こうやって祐二の食事を作れて私は嬉しい。
ずっと昔から、近所に住んでいる幼馴染。
子供の頃はよく二人で遊んだし、ご飯だってお互いの家で一緒に食べる事も多かった。



691 :刹那の想い 前編 ◆PLalu2rSa. [sage] :2009/03/30(月) 00:10:53 ID:8J0aeJId
成長してからだって、私たちは一緒に同じ高校に通っていたし、一緒に登校した。
「なぁ、弁当また作ってくれない?やっぱさ、食堂のメシってまずいじゃん?レパートリーも少ないし。今日、久々に刹那の料理食べてそれ、実感したわ」
そうだ、私は祐二の昼食、すなわちお弁当を毎日作ってあげていた。
けれど、祐二が姫宮さんと付き合う段になって、私は祐二にお弁当を作るのを辞めた。
祐二は残念がったが、さすがに恋人がいる幼馴染の弁当を作る女なんて聞いた事がないし。
「なに言ってんの、そのおかげで姫宮さんと一緒にあんたは食堂でお昼食べられるんでしょ。あんたはまずいメシでも食べながら、姫宮さんといちゃついてりゃいいのよ」
本当はまた、祐二にお弁当を作ってあげたい。
祐二が望むならいくらでもお弁当ぐらい作ってあげたい。
けど・・・、私は祐二の彼女じゃないから。
「て、いうか私があんたの弁当作ったら姫宮さんいい気分しないでしょ!?」
「ああ・・・、うん、まぁ。それはなぁ・・・」
祐二が私の料理をおいしいとほめてくれるのはすごくうれしい。
けれど、私はただの幼馴染であって、彼女じゃない。
だから、祐二にお弁当を作ってあげることはできない。
「でもさぁ、刹那の作る弁当ってさ、旨いからさ。やっぱり、それに慣れちゃうと普通のメシは食べる気にならないんだよなぁ・・・たまに変な味のものが入ってたりするけど」
「変な味ってなによ、変な味って。ほめたんなら最後まで褒めなさい」
・・・気がついてたか。
そりゃあ毎回異物を混入してれば、いくら味の濃いもので誤魔化してもわかるわよね。
はじめは祐二のお弁当を作っていた時に指を切った事が原因だった。
卵焼きを切っていた時に血が付いてしまったのだ。
その日、どうしても時間が無かった私は、祐二に悪いとは思いながらもその卵焼きをお弁当の中に入れてしまった。
・・・お昼、祐二は卵焼きについた血に気がつかなかった。
さらに、「刹那、この卵焼き旨いな。なんか秘策とかあんの?」
そう言って、祐二は私の血のついた卵焼きを褒めた。
いや、たぶん祐二が褒めたのは、たまたま上手く出来た卵焼きが美味しかったからだと思うけれど。
それでも、祐二が私の血が美味しい。と言ってくれたことに興奮を抑えきれなかった。
それからというもの、私はいけない事だとは思いつつ、祐二のお弁当に異物を混入し続けた。
「でさ、刹那。これからしばらく・・・って、聞いてるか?」
「あ、ごめん。聞いてなかった」
祐二ががっくりと項垂れる。



692 :刹那の想い 前編 ◆PLalu2rSa. [sage] :2009/03/30(月) 00:13:16 ID:8J0aeJId
しまった、トリップしてた。
ていうか、今回の料理にもふんだんに色々と入れてあるから、それ思い出して興奮してた。
いけないいけない。
「ごめんってば。ちょっと考え事してたのよ・・・で、なんの話なの?」
「だから、俺ン家の両親が今、海外旅行中だろ?しかもかわいい一人息子を置いて。でだ、俺はこのままいくと餓死してしまう。・・・という訳で親が帰ってくるまで晩飯喰わせてくれない?」
「はぁっ!?」
祐二が私の目の前で手を合わせて頼み込む。
いやまあ確かに今日は私のご飯で凌げたけど、明日からはまた絶食生活な訳だろう祐二にとっては当然の願いだろうが。
「頼むッ!刹那だけが頼りなんだ。この数日間の何とひもじかった事か!これが後数日続くとか考えられん!だから頼む、明日以降も俺を餓死させない為に!一日一食でいいんだ」
「はぁ・・・」
私は祐二の目の前でワザとらしく溜息を吐く。
本当は内心小躍りしたいくらいなのだが、流石にそれを見せるのは癪だ。
「仕方ないわねぇ。じゃあ、晩御飯だけ用意してあげるから、しばらくうちに来なさい」
私は祐二の前で腕を組む。
本当に、しかたない、という風を装う。
私のキャラクターはあくまで素直になれない幼馴染なのだから。
・・・何やってんだ私。だから、姫宮さんにこいつを取られるんだ。
「マジで!?たすかるよ刹那。やっぱり持つべきものは幼馴染だよな!」
「あはは。ありがと」
私は乾いた笑みを浮かべる。
本当にコイツは私の事を食事係程度にしか考えてないのだろうか。
なんでこんな奴に惚れたんだ、私。
「・・・こうやって刹那と話すのって久しぶりだよな」
あらかた皿の上の料理を平らげてしまった祐二がしみじみとつぶやく。
結構な量があったはずなのに、もう跡形もない。
私は食後のお茶を祐二のコップに注いであげる。
「あ、悪い。・・・小学校の時初めて出会って、高校までずっと一緒で」
「初めて祐二と出会ったのは、曲がり角でお互い自転車でぶつかって、偶然同じ病室に入院した時ね。その時、近所に住んでる事を知って。・・・考えられる最悪の出会いよね」
「よく覚えてるな・・・」
忘れるわけがない。
出会いは最悪だったけど、一緒に入院した男の子が近くに住んでいると知った時、私はロマンチックにもこれは運命だと思った。



693 :刹那の想い 前編 ◆PLalu2rSa. [sage] :2009/03/30(月) 00:15:26 ID:8J0aeJId
現にそれから祐二とは仲良くなって、よく一緒に遊んだ。・・・喧嘩も多かったけど。
「ずっと一緒だったのにさ、なんか俺に彼女が出来たとたんに疎遠になっちゃってさ」
「だって、幼馴染って言ったって女なんだから、彼女さんだっていい気がしないでしょ」
私は昔から祐二が好きだった。
いつもお馬鹿で能天気な発言が売りの祐二に、私が毎回毎回、怒ったり叩いたりして、突っかかっていく。
恋する男女と言うよりは、ボケる祐二にツッコミを入れる私で、漫才コンビみたいな関係だったけど。
でも、私は祐二が大好きだった。
「俺さ、お前のこと全然そういう風に見てなくてさ。どっちかと言うと男友達みたいな感じだったし、いや、こんな事いうとまた怒るかもしれんけど。だから、亜衣と付き合いだしても刹那とはいままで通りな関係続けられると思ってたんだ」
祐二が私の事を男友達のごとく見ていたのなんて百も承知だ。
私はそれでも、祐二にお弁当を作ってあげたり、朝は起こしに行ってあげたり、おしゃれしてみたりして祐二にアピールをしていた。
が、やはり祐二の話を聞く限り私は、健気にお世話する幼馴染の女の子、ではなくやたらと世話を焼く小うるさい腐れ縁でしか無かったようだ。
確かにお弁当は「自分の分のお弁当を作る、つ、ついでなんだからね!ま、毎回毎回ひもじそうにしてるあんたが可哀そうなだけよ!」と言って投げつけていたし。
毎朝、起こしていたのだって、嫌がる祐二の布団を無理やり剥ぎ取って、それでも「後5分・・・」とかいうテンプレをやってのける祐二の耳元で怒鳴り散らして起こしていたのだ。
しかも、「毎回、誰のおかげで遅刻しないで済むと思ってんのよっ!」とか言っていた。
ちなみに祐二は私が起こしに行かなくなったいまでも、ちゃんと遅刻はしていない。
結局、私が祐二を起こしに行っていたのは、毎回眠っている祐二の唇を密かに奪う為だっただけな訳だ。
いまにして思えば、これで恋する幼馴染に見られる方が不思議だ。
「ま、まぁ、私もあんたとはボケとツッコミみたいな関係だったから、そういう風に見られてもしょうがないわよね」
「お。・・・怒るかと思ってたけど、案外殊勝な態度だな。しばらく会わないうちに丸くなった?」
「うっさい。怒るよ?」
私は祐二の頭を小突く。
確かに、私と祐二は長い時間をかけてお互いを想い続け、恋に発展させていくような幼馴染じゃなかった。



694 :刹那の想い 前編 ◆PLalu2rSa. [sage] :2009/03/30(月) 00:17:40 ID:8J0aeJId
どちらかと言うと、だらしなくて、いい加減で、生活能力皆無な祐二を私が呆れつつも世話を焼く、腐れ縁みたいな関係。
「あー、やっぱりいいなこういうの。刹那はからかったらちゃんと突っ込みが返ってくる感じが。弄ってて楽しいわ。」
「私はあんたの玩具か!?」
私は怒ってみせるけれども、祐二の言うとおり、確かにこの懐かしい雰囲気は私たちにとって心地良い。
こいつがあの日、姫宮さんの告白を了承して、二人が恋人同士になるまでは、私達はいつまでもこんな関係のままいられたのに。
「でも、ま、あんたが私の事を玩具に出来るのも今だけよ。明日からはまた姫宮さんといちゃいちゃしてなさい。まったく、彼女持ちの人間が別の女の子と過ごしてて楽しいとか言うなってーの」
本心とは裏腹に、私の口からは目の前の大好きな幼馴染を諌めるセリフ。
確かに、祐二は姫宮さんと絶賛恋愛中なので、幼馴染とはいえ異性である私とこいつが仲良くしていれば、姫宮さんだっていい気はしないだろう。
・・・でも、私は今日久しぶりに憧れの幼馴染と会って、二人の為に諦めようとしていた想いが再燃していくのを感じている。
「いやぁ、亜衣はほら、滅茶真面目だから冗談通じないんだよ。からかったりしたら本気で泣き始めるし。悪い子じゃあないんだけどさぁ・・・。その点、刹那はすっげーからかいやすいんだよな。だから楽しい」
「・・・あんた、私の事、本当になんだと思ってるの?」
こいつにとって私はやっぱり一緒にいると楽しい幼馴染にしか過ぎないらしい。
私が、こいつと距離を置くようになってから、毎日、こいつとのふざけ合いを思い出しては人知れず枕を濡らしていたというのに・・・コイツは。
あんたより、あんたからのからかいを誰よりも楽しく感じていた私の気持ちは無視ですか、ああそうですか。
「大切な幼馴染だと思ってるよ。・・・だから、また昔みたいに仲よくして欲しい」
いきなり。
本当にいきなりだ。
こいつは、いつもの何処かおちゃらけた雰囲気を捨てて、急にこんな真顔になる。
そして、私の方を真っ直ぐ見詰めてこんなセリフを吐く。
本当に卑怯だ。不意うちすぎる。
私は祐二が時たま見せるこの行動にいつも心を奪われてしまう。
「俺さ、お前に距離置かれて、亜衣と付き合いだしてから、なんかすごい・・・その、寂しい。今までずっと一緒に過ごしてきたのにさ、俺に彼女が出来たからって距離置かれて」
「だって、しょうがないじゃない。私だって彼氏が他の女の子と・・・いくらその子が幼馴染だからって、自分の彼氏なのに、他の子と仲良くされるなんて嫌だよ」



695 :刹那の想い 前編 ◆PLalu2rSa. [sage] :2009/03/30(月) 00:19:46 ID:8J0aeJId
私は自分に向けられる祐二の真っ直ぐな瞳に、顔を赤くしつつも震える声で反論する。
祐二が寂しいって言ってくれて本当はすごくうれしい。
私だって、寂しかったんだから。雄二と自分から距離を置いておいて寂しいだなんて、自分勝手かもしれないけれど・・・だって、祐二が姫宮さんと仲良くしてる所を目の前で見せ付けられるなんて、私の心が壊れてしまうから。
「俺、いままで刹那の事、異性だなんて意識した事なかったんだぜ?あ、怒るなよ。だってしょうがないじゃん、ずっと一緒にいてさ。意識しろって方が難しいよ」
私だって、祐二が私の事を一人の女として見ていないことなんて百も承知だった。
けれど、私の方は祐二の事を一人の男として見ていたのだ、出会った時からずっと。
「刹那はいまのままでいいのかよ?」
祐二のその言葉に私はハッ、とする。
このまま?それって、つまり私と祐二が、姫宮さんによって離れ離れになったままの事?
ずっと一緒だったのに、幼馴染を泥棒猫に取られて、泣き寝入りしたままでいいのかってこと?
・・・このままで、いいわけないじゃない。
誰にも渡したくなんて無かった。
祐二の恋人になりたかった。
あんな女に、祐二を渡したくなかった。
諦めたくなかった。ずっとずっと好きだったのに。
「子供の頃から一緒だったんだしさ、また仲良くしねえか?このまま疎遠になるなんてさ、俺、嫌だし」
祐二が言っているのは、ずっと一緒に過ごしてきた幼馴染と疎遠になるのが嫌、って事だろう。
決して、私を一人の女の子として見てくれてるわけじゃない。
祐二には姫宮さんがいる。
その彼女を置いて、私を選んだりはしない。
祐二が望んでいるのは、あくまで私との、いままでと同じ幼馴染の関係。
「うん。私も、祐二とはまた、昔みたいに過ごしたい・・・かな」
私の唇が言葉を噤む。これは私の本当の気持ち。
私だって、祐二とのいままでの幼馴染の関係は大好きだ。
出来る事なら、その関係をずっと続けていたい。
「そっか、良かった。亜衣と付き合ってる間もずっと気になってたんだ。・・・いや、でもよかった。もうこのまま刹那とは疎遠なままかと・・・」
「でも、ダメだよ」
自分の頬に冷たい雫が落ちるのがわかる。



696 :刹那の想い 前編 ◆PLalu2rSa. [sage] :2009/03/30(月) 00:22:43 ID:8J0aeJId
どうやら私は泣いてるらしい。
目の前の何故か歪んで見える祐二が息を飲むのがわかる。
「祐二、私ね。いままでの幼馴染のままの関係だけじゃ、もう駄目なんだ。・・・そりゃあね?あんたとのいまの関係だってすごく気に入ってるよ?・・・でもね、もうそれじゃあ我慢できないの。今まで通りの幼馴染の関係のままなんて嫌。・・・私は、私はね、祐二」
そう言って私は椅子から立ち上がる。
右手がテーブルの上のお皿をつかむ。
私は祐二と一緒に居たい。
祐二も私と一緒に居たい。
けれど、祐二には彼女がいる。
名前は姫宮 亜衣さん。
彼女は私には無いものを色々持ってる。
何かと口うるさくて、怒りっぽい私とは違い、お淑やかで、物静かで、優しくて。
祐二にとっては、そういう人が恋愛対象と見れる女の子。
対する私は、あくまで世話焼きな幼馴染。
女だとすら思われてない。
「もう嫌だよう・・・。我慢したよ?私は祐二の彼女にはなれないんだって。雄二は姫宮さんみたいな人が好きなんだって。だから、祐二の為に身を引こうって。雄二が幸せならそれでもいいかって。そう思って、ずっと避けてたのに・・・なのになんでそんな事言うの?」
「刹那、お前・・・」
掴んだお皿を持ち上げる。
私は身を乗り出してそれを祐二の頭上に掲げる。
祐二は驚きの為か、恐怖の為か、逃げようとせず、ただ茫然とこちらを見上げている。
「もう嫌だ・・・。祐二が悪いんだからね?せっかく姫宮さんと祐二の仲を裂かないように・・・自分の気持ちを殺してきたのに。祐二が近づいてくるのが悪いんだから。あはは」
あははははは!
そうだ、祐二が悪いんだ。
私はせっかく祐二と姫宮さんの中を邪魔しないように、二人の仲を裂かないように、自分を殺したのに。
大好きな祐二が選んだ姫宮さんだから、認めてあげようとしてたのに。
「ね、ずっと傍にいてあげるよ。祐二の望み通り。・・・けどごめんね?それは幼馴染としての私じゃない。祐二の・・・恋人として傍にいてあげる」
「刹那、ちょっと、まっ・・・!」
パリン。
私は祐二の頭にお皿を叩きつける。
祐二の頭に直撃して割れたお皿が、床に散らばり、そして祐二の体も椅子から転げ落ちた。
「ちゃんと気を失ったかな?ま、あんたの事だから、致命傷にはなってないと思うわよ?」
なんの根拠も無いけどね。