※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

707 :名無しさん@ピンキー [sage] :2009/03/30(月) 06:38:16 ID:dKqraO07
「じゃあ、出発するよ」
 素早く後片付けを済ませた僕は、二人に向かってそう言った。
 今朝の目覚めはこの旅始まって以来最悪だった。過去最低だった。そういえば、香草さん曰く僕はサイテーなんだよな。
 しかし、僕はなんとかその最初で最大の障害をクリアして起きることができた。
 僕は朝食もとらずに、桔梗町へ進路を向けて進もうとした。
「ゴールド? そっちは来た道ですよ?」
 ポポが怪訝に思うのも無理はない。ポポは昨日僕と香草さんとの間に何があったかを知らない。
 あの決定的な破局の後ポポの元に戻った僕と香草さんは、その後一言も会話を交わすことなく寝てしまった。
 ポポは僕の姿を認めるなりすぐに走ってきて抱きついてきたし一方的に話しかけてきたけど、僕は「ああ」とか「うん」とか適当な相槌を打つ以外のことをしなかったし、特に尋ねられもしなかったから答えなかった。
 そもそも、まともに会話できる心理状態じゃなかった。
 今は一晩たったお陰で少しは落ち着いていられるが、まだ気分は重い。もう逃げたい。一人になりたい。そういえば、ランがシルバーにさらわれたときも、一人で部屋に篭って、現実の一切から逃げていたっけ。はは、昔から進歩がないな、僕は。
「ポポには説明してなかったけど、昨日香草さんと話し合った結果、香草さんとはパートナー契約を解除することになったんだよ。だから、手続きのために町に戻らなきゃ行けないんだ」
 僕はできるだけ簡単にポポに説明した。あんまり詳しく説明すると、それだけでまた平静を保てそうになくなる。
「契約……解除です?」
 ポポがそう聞き返してきた。
 ああそうか。ポポには契約解除という言葉の意味がよく理解できないのか。
 もう何も言いたくなかった。これ以上言うことは、それだけでもう苦痛だ。
 でも、僕にはポポに説明する責任がある。何せ、僕の落ち度でパートナー解消することとなったのだから。
「つまり、もう香草さんとは、一緒にいられないって、ことだよ」
 一息に言うことができず、区切りながら言葉をなんとか発した。
 その言葉を聞いた瞬間、ポポの顔がぱあっと輝いた。
 なんて露骨な反応だろうか。
 ポポは香草さんに酷い目に合わされたりしたし、確かに正しいリアクションではあるんだろうけど、それを見る僕の気持ちは複雑だ。
「大丈夫ですかゴールド。顔色が悪いですよ?」
 キラキラと輝いていた顔が元に戻り、心配げに僕を覗き込む。
 まいったな。平静を装えているつもりだったのにな。僕はつくづく駄目な奴だなあ。
 ポポに心配かけまいと、無理に笑顔を作る。
「大丈夫さ、なんでもないよ」
「ゴールド、心配しなくてもいいですよ。誰もいなくなっても、ポポだけはずーっとゴールドと一緒にいるですよ」
 ポポは微笑みながらそう言った。
 心配をかけないどころか励まされる始末だ。まったく、僕って奴は。
 そう思うと同時に、不意にポポが可哀想に思えた。
 ポポは今までのことから分かっているとおり、優秀だ。
 だから、僕みたいな、こんな旅に出て早々にパートナーに見放されるようなダメトレーナーより、まともなトレーナーと出会っていれば、きっともっとその才能を生かせたはずなのに。
 若葉町で、あのとき旅を終わらせなかった過去の失敗が鮮明に思い出された。
 あのときの旅を終わらせるという僕の判断は、やっぱり間違ってなかったんだ。
 そもそも、僕みたいな人間がトレーナーをやっていていいのだろうか。
 仮にこのまま香草さんが新しいパートナーを見つけることができなかったら、彼女は僕のせいで夢を諦めたことになってしまう。
 それなのに僕だけがのうのうと旅を続けるのか。
 果たして、そんなことが許されるのか。
 急に、何もかもが嫌になってきた。
 いっそここで全部終わりにしてしまおうか。
 と、ここで僕は正気に返った。
 今考えてもしょうがないことだ。香草さんと別れて、それから考えればいい。このまま立ち止まっていたら、香草さんになおさら迷惑をかけることになってしまう。
 今は、ただ桔梗町へ……


708 :名無しさん@ピンキー [sage] :2009/03/30(月) 06:38:52 ID:dKqraO07
 ふと、香草さんを見るために振り返って気づいた。
 香草さんはいつのまにか出発していて、しかも桔梗町とは反対の方向へ――つまり正しい進路へ向かって歩いていた。
「こ、香草さん!?」
 驚いて大声で呼びかけるが返事も反応もない。
 仕方がないので走って追いかける。
 香草さんの歩く速度はそこまで速くはなかったので、すぐに追いつくことができた。
 彼女は僕が追いついても僕のほうを向くこともしない。ただ前だけを見据えていた。
 しかし視線は定まっているが、焦点は曖昧に見えた。
 顔はしっかりと前方を向いているものの、時折眼球がオロオロとさ迷う。
 まるで、酷く狼狽しているかのように見えた。 
「香草さん、こっちは桔梗町とは反対方向だよ?」
 僕の呼びかけにも反応しない。一体どうしたのだろう。僕の呼びかけにこたえないのは僕と口を利きたくないからだとしても、次の町を目指して進んでいることの説明にはならない。
 あ、もしかして前の町に戻る分のロスが嫌だったのかな。
 彼女が何も語らない以上、彼女の真意は分からない。しかし、それ以外に納得のいく説明を思いつかなかった。

 日が暮れたが、それでも香草さんは止まらない。
 ポポは空から降りてきて、香草さんの後ろを歩く僕の後ろを不安げについてくる。
 ポポの手を引いたほうがいいのだろうけど、そうすると香草さんが掻き分けた細い轍のあとをまっすぐ進めなくなり、とても歩きにくくなるため、香草さんに置いていかれそうなのでできなかった。
 食事も休憩も一切とらない行軍だ。僕はもうヘトヘトだった。
 よくよく考えてみたら、彼女は次の目的地――檜皮村で止まることになるんだから、無理して追いかけなくてもいいんじゃないか?
 今更、こんなことに気づいた。朝は失意のあまり頭が回っていなかったようだ。
 僕は歩くのを止め、その場に腰を下ろした。
 どのみち、体力的に限界だった。
「香草さん、今日はこの辺で野宿にしようよ。もうこれ以上歩けないよ」
 無駄だと分かっていつつ、一応香草さんに呼びかけてみる。
 すると意外なことに、香草さんは素直に進むのをやめた。
 本当に意外だった。僕は呆気にとられ、自分が何をしようとしていたのかすら分からなくなってしまったほどだ。
 彼女一人村についても、僕がいなければ契約は解除できない。
 だから僕と行動を共にすることが最善と判断したのだろうか。
「……香草さん?」
 呼びかけてみるが返事はない。本当に、彼女は一体何を考えているのだろうか。
 止まったってことは僕の声が聞こえてないってことはないと思うんだけど。
 怪訝に思いながらも、食事の支度と寝支度を整えた。
 食事の支度ができた際、再び香草さんに呼びかけたが、何の反応もなかった。
 草ポケモンは一般的に光合成をすることができるため、食事を行わなくてもエネルギーを供給できる。だから食事を行わなくても大丈夫なのかもしれない。
 しかし、それでも不安なので彼女のすぐそばに食事を置いておいた。
 僕はすぐまた彼女と離れたから、香草さんがそれを食べたのかは結局のところ分からない。
 相変わらず、彼女は僕達とは離れて眠った。
 ポポはもはや僕に抱きつくようにして眠っている。寝袋があるから、物理的には接触してないんだけれど。


709 :ぽけもん 黒  変異と成長 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/03/30(月) 06:43:33 ID:dKqraO07

 翌朝、僕は肉体的疲労からか心労からか寝坊してしまった。
 僕が目覚めた頃には完全に夜が明けていた。
 香草さんはもう先に進んでいってしまったかもしれない。
 慌てて草むらを見回すと、こちらを見ていた香草さんと目が合った。
 彼女は僕と目が合ったからか、それとも僕が起きるのを確認したからかは分からないが、フイと顔をそらしてしまった。
 僕達が片付けと簡単な朝食を終え、立ち上がるとそれを待っていたかのように香草さんは無言で歩き出した。
 僕達はまたそれについていくしかない。ポポは香草さんについていくというより、僕が香草さんについていっているから行動を共にしているにすぎない、といったほうが適切なのかもしれないけど。
 そして今日もまた黙々と歩き続ける。

 前日と同様に昼食も休憩も無しに歩き続け、そのお陰で夕暮れ頃にはポケモンセンターにたどり着いた。
 ここは町があるわけではないのだが、檜皮町へこちら側から行くには洞窟を通る必要がある。
 そのため、体力の回復と装備の整備のためにここにポケモンセンターが設けられているのだった。
 ようやく休める。
 ほとんどフラフラだった僕は安堵の溜息を漏らした。
「こ、香草さん、今日はポケモンセンターに泊まっていこうよ。このまま洞窟に入るのは危険だよ」
 香草さんが止まってくれるか不安だったけど、ポケモンセンターの前に来るとちゃんと止まってくれた。
 そのまま僕に続いてポケモンセンターに入る。
 やはりというか、以外というか。とにかく、彼女は一応僕と行動を共にする気はあるらしい。
 すぐに手続きを終え、あてがわれた部屋に入った。
 荷物を置くとそのままベッドに倒れこんだ。
 この二日、相当な強行軍だったため、僕のHPはもうほぼゼロだ。
 瀕死状態である。
 こんな過酷な旅にも関わらず、ほとんど疲労の色が見えないポポと香草さんが恐ろしい。
 部屋に入るとポポは僕の倒れこんだベッドに腰を下ろし、香草さんは向かい側のベッドに腰を下ろした。
 僕の横になっている場所は香草さんの向かい側だから、香草さんと正対する形になる。
 決別以来初めて香草さんの顔を正面からまじまじと見たけど、どこか違和感を感じる。
 やはり目の焦点が合っていないような、見ているのに見えていないように見える。
 どうも、何か考え事をしていて、目の前の光景が見えていないときのような、そんな感じだ。
 ……まあ彼女も僕のせいで色々余計な思案を巡らせなくてはならなくなったからね。
 しかし、それにしては彼女から感じられる脆さというか儚さのようなものは何なのだろうか。
 彼女の燃えるような赤い瞳が、今は酷く不安げに見えた。
 しばらく横目で見ていたが、疲労から僕の瞼はすぐに落ちた。

 目を覚ますと、部屋は真っ暗だった。
 そして、ポポと香草さんは僕が意識を失ったときと同じ姿勢でそこにいるのが、窓からさすわずかな明かりに浮かび上がって見えた。。
「ど、どうしたの二人とも!?」
 僕は驚いて二人に尋ねる。
 外はすっかり日が落ちているとなったら、少なくとも数時間は経過しているはずだ。
 それなのに電気も点けず、二人ともまったく同じ姿勢というのはただ事ではない。
「チコが睨んできて、怖くて動けなかったですー!」
 僕が起きたと分かった途端、ポポはそう言って僕に飛びついてきた。
 また何かあったのかと慌てて香草さんを見たが、香草さんは相変わらずの無表情だ。
 お世辞にも優しい表情だとは言えないが、睨むというのとも違う気がする。
「う、うーん、そんなこと無いと思うけどなー。大体、香草さんがポポを睨む理由がないよ」
 そうだ。どうして香草さんがポポを睨むことがある。


710 :名無しさん@ピンキー [sage] :2009/03/30(月) 06:44:08 ID:dKqraO07
「ご、ゴールド、ポポのこと信じてくれないですか!?」
 ポポは泣きそうな顔で僕を見てくる。
 そんな顔で見られると心苦しいけど、だからと言って香草さんを誹謗していい理由にはならない。
「違うよ。ポポを疑ってるわけじゃない。でも、僕には香草さんが睨んでいるようには見えないよ」
 しかしそこで思いもよらないことが起きた。
 ポポの顔が見る見る歪み――それはちょうど何かに怯えるような表情だった――、僕に泣きながら縋ってきたのだ。
「わ、わがままな子だって思わないでです! ポポ、そんなつもりで言ったんじゃないです! 本当に睨まれているように感じたんです! ポ、ポポいい子にするです! いい子にするですから!」
「ど、どうしたのポポ! 落ち着い……」
「捨てないで! 捨てないでです!」
 ポポは泣きじゃくるばかりで会話にならない。僕が言葉を挟む余地がないほど次々と言葉を発しているが、内容は大体、「いい子にするから捨てないで」といったようなものだった。
 ポポの突然の錯乱に僕もパニックに陥る一歩手前だ。
「ポポは悪い子なんかじゃない。捨てたりしない」という旨のことをひたすら言いながら頭と背中を撫でているが、果たしてこれでいいのだろうか。
 こんなときですらまともに対応できない自分が情けない。
「……によ、鳥の癖に!! 畜生の分際で!!」
 と、今度は突然香草さんが叫びながら立ち上がった。
 彼女の瞳が光を放っているがごとく爛と輝いた。
「こ、香草さん!?」
 明らかに正気とは思えない香草さんの様子に、僕はまた恐怖する。
 ようやく反応を示してくれたと思ったら、それがこれとは。
 香草さんの両袖からはすでに十数の蔦が顔を出している。
 泣きじゃくっている正気ではないポポ。
 すでに臨戦態勢なもっと正気とは思えない香草さん。
 正気ではあるもののこの室内で一番無力な僕。
 どうすれば、どうすればこの場を収めることが出来るんだ。
 ああ。
 あああああ。
 あああああああああああああああ。
 だ、誰か助けてー!!
 ……誰が助けてくれるんだよ。
 危うく僕まで正気を失いかけていた。
 そうだ、僕がなんとかしなきゃ。
 この状況を何とかできるのは僕だけなんだ。
 幸いにも様々な道具の入ったリュックは枕元。
 つまり使えない状況ではない。
 やれる。いや、やるしかない!
 とりあえずするべきことは暴走する香草さんの鎮圧だ。
 香草さんを止めねば!
「あ、アレは何だ!?」
 僕はそう言って窓の外を指差した。
 当然窓の外には何も無い。
 香草さんが窓の外に気を取られているうちに道具を当てる作戦だ。
 しかし香草さんは窓の外を見るどころか、視線を一ミリそらすことすらなかった。
 ……うん。僕が馬鹿だった。
 しかし落ち込んでいるような猶予はない。
 何か次の作戦を考えないと。
「……どきなさい」
「へあ?」
 予想外の言葉に僕は気の抜けた声を漏らしてしまった。
「どきなさい! そこは私がいるべき場所なのに! 私はこんな思いをしてるって言うのになんでアンタが……何も考えていないアンタみたいなのが!!」
 も、もしかして僕がこのベッドにいるのが気に食わなかったんですか?
 それでこんなに激昂して?
「ご、ごめんなさい! すぐどきますから!」
 僕は慌ててポポを抱き起こし、立ち上がる。
 香草さんがなんでそこまで怒っているのかは分からないけど、それでこの場が収まるのなら僕はどくさ。どくとも!
 そう、退くも勇気! だからこれは勇気なんだ!


711 :ぽけもん 黒  変異と成長 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/03/30(月) 06:44:41 ID:dKqraO07
 僕はベッドから飛びのくと、ポポと共に窓際に移動した。
 しかし香草さんはなおも僕をねめつける。
 そして怒鳴った。
「そこからどきなさいって言ってるのよ!!」
 ええええええええええ。
 僕、どきましたけれども!
 僕は一体どうすればいいんでしょうか。
 そ、そうか。部屋から出ればいいんだ!
「ぼ、僕、部屋からでるから。それならいいでしょ?」
 僕はそう言って、ポポをつれて入り口に向かう。
 それを聞いた香草さんははっとした表情を浮かべ、そしてなぜかおとなしく蔦を引っ込めた。
 一体どういうことだろう。
「……好きにすればいいじゃない」
 え?
 好きにすれば、とは一体どういうことだろうか。
 どうしてこの状況でその言葉を向けられたのか。
 さっぱり分からない。
 か、考えろ。考えるんだ。
 ポポが僕に泣きついた。
 そしたら突然香草さんが怒り出した。
 香草さんはどうやら僕がこの部屋にいること自体気に食わないらしい。
 だから僕は部屋から出て行くと言った。
 そしたら好きにすればいいと言われた。
 ……うーん。
 ……ううーん?
 や、やっぱり意味が分からないぞ?
 僕はどうするのが正解なのだろうか。
「す、好きにしていいならここにいるけど……」
 何が正解かは分からないけど、僕はそう言って再びベッドに腰を下ろした。
 その隣にすぐにポポも腰を下ろす。
 香草さんはそんな僕を見て何事かを言いかけたが、壁のほうを向いてベッドに潜り込んでしまった。
 ……僕も寝よう。起きたばかりだと言うのに、なんだかぐっと疲れた。
 僕がベッドにもぐりこむと、ポポも同じ毛布にもぐりこんできた。
 ポポは僕に間違いなく抱きついている。完全に0距離だ。
 今までも密着して寝ているとはいえ、隣に香草さんがいたり、寝袋があったりして、一対一での直接的接触はなかった。
 ポポはとても暖かくて柔らかい。
 特に邪な感情が湧くわけではないが、なんとなく決まりが悪い。
「あ、荷物整理しなきゃ」
 いくらなんでも近すぎる。
 僕は逃げるようにベッドから起きだす。
 するとポポも起きだした。僕の腰をがっちりと掴んでいる。
「……ポポ?」
 ポポは何も言わないが、目で僕に「行かないで」と訴えかけていた。
 今にも泣き出しそうな顔だった。
「荷物を整理するだけだから、さ」
 僕はポポに笑いかけながら言ったが、ポポの表情は変わらない。
 僕は諦めて、再び横になった。
 ポポはそれを見て、安心したように強く僕に抱きついてくる。
 このポポの異常な恐れと執着は一体何なんだろうか。
 彼女は僕の疑問など知る由もなく、穏やかな寝顔を見せている。
 僕はポポの無垢な寝顔に言い知れない不安を覚えながら眠りについた。


712 :ぽけもん 黒  変異と成長 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/03/30(月) 06:45:14 ID:dKqraO07

 僕はそうとう疲れていたらしい。
 目を覚ましたときにはもうすっかり日が高く昇っていた。
 うわっ、寝過ごした。
 僕は慌てて起き上がった。
 すると再びポポと香草さんが向き合っていた。
 ま、また昨晩の再来か!?
「ど、どうしたの二人とも!?」
 よくもまあこんな状況でのうのうと寝ていられたものだ。
 自分の鈍さに腹が立つ。
 しかし僕の問いに対するポポの返答は意外なものだった。
「別に、何もないですよ? さ、早く出発するです」
 ……何かが変だ。
 なんと言うか、普段のポポからすると落ち着きすぎているというか、口調が普通の人間とそう変わらないものになっているというか。
 その旨をポポに告げるとポポは、
「ポポ、成長したですよ。全部ゴールドのおかげです。ポポがいるのはゴールドのおかげですよ」
 そう言って僕に抱きついてきた。
 確かに、毎日少しずつポポは成長している。
 他の人間と接触を持つことが刺激になったのだろうか、会った当初から比べると最近のポポは随分大人っぽくなったと思う。
 しかしわずか一晩でこれほど変わるとは。
 僕は激烈とも言える、あまりにも早すぎる成長に少しひるんでいた。
 そんな僕を覗き込むポポの表情も、以前の天真爛漫な子供の表情より、少女といった感じの表情になっている……ような気さえする。
 ほんのりと色づいた頬に、色気すら感じた。
 何が成長のきっかけとなったのだろうか。
 僕に対する異常な執着。それは、まるで僕に対する愛情のような――
 ……僕は一体何を考えていたんだ。
 違う。それは僕の勘違いに他ならない。
 ポポの僕に向ける気持ちは恋愛ではなく親愛であるはずだ。
 仮に僕が告白したら、きっとポポは僕を拒みはしないだろう。
 しかしそれは僕を愛しているからではなく、僕と離れたくないからだ。
 ポポは目に見えるほど不安定だ。
 それはそんな彼女の依存心につけこんだ卑劣な行為だ。
 僕はこんな思考をしてしまった自分を嫌悪した。
 それに、もし、仮にポポが本当に僕を愛していたとしても、僕はその気持ちに答えることは出来ない。
 今の僕には、女の子と楽しく恋愛を行う資格なんて、ないんだ。
 過去をすべて清算しない限り。シルバーとけりをつけない限り。
 僕は、あの過去を忘れない。あの時の気持ちを過去のものにしてはいない。
 そして、過去を清算したとき、そのとき僕は……僕はきっと、犯罪者だ。
 だから、僕がポポの想いに答える時は、多分一生訪れることは無いだろう。
 だからせめて今だけは。今だけはポポに人の温かさというものを知って欲しい。
 その僕の答えは、いずれ彼女を破滅に導いてしまうのかもしれない。
 でも、僕に出来ることと言えばそれだけだった。
「そうか、よかったね」
 だから、僕は微笑みながらポポに答えた。

 遅めの朝食を終えた僕達は、いよいよ洞窟へと歩を進めた。
 結局、今朝の香草さんは何も言わなかった。
 それどころか、昨晩の激昂が嘘であるかのように、また寡黙になってしまった。
 ポポも困りものだが、違う意味で彼女も困りものだ。
 何せ行動の理由がさっぱり分からないのだから。
 ポポのような行動ならば困ることは困るけど、それでも何を考えているのか悩むことはない。
 そういう意味で、香草さんはポポとはまた違った種類の悩みの種だった。
 本心としてはやっぱりパートナー契約の解除なんてなかったことにしてもらいたい。
 都合のいい考えだと分かってはいても、これが僕の本心だ。
 しかしまともに話し合いをすることもできないのならどうしようもない。
 そもそも話し合いどころか、それを切り出すことも出来ないような雰囲気だ。
 しかし……


713 :ぽけもん 黒  変異と成長 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/03/30(月) 06:49:24 ID:dKqraO07
「この洞窟、思ったより暗いね」
 一応明かりが設けられているので、特に明かりなしでも通過できるとの説明だったのだが、それでもかなり薄暗く、足元すら覚束ない。
 そもそもこの暗さの上、天井の高さも分からないのでポポによる哨戒が行えない。
 そのため前方も不安である。
 こんなとき、明かりがあれば……
 そのとき、僕の脳裏にあるものがよぎった。
 香草さんだ。
 香草さんは一応フラッシュを覚えていたんだった。
 で、でもアレだしなあ。目からライトだしなあ。
 しかもこんな状況だ。頼みにくいことこの上ない。
 さらに、頼んだところで多分答えてはくれないだろう。
 まあ、歩くことも出来ないというほどでもないし、諦めようか。
 そう判断し、しばらく歩いていると、突然突き飛ばされた。
「うわあ!」
「荷物置いてけー」
 そう言いながら前方に表れたのはイシツブテの少女だった。
 何日ぶりの会敵だろうか。
 ポポと香草さんのコンビによって野生のポケモンはすべてまともな戦闘になる前に排除されていたので、野性のポケモンに出会うなんて極々当たり前のことがとても新鮮に感じられる。
 香草さんはすぐさま蔦を伸ばして迎撃したが、少女はすぐに下がって闇にまぎれてしまった。
 普段から闇の中で生活しているためか、それともここが彼女の住処のためか、地形を完全に把握しているらしい。
 一方の僕達といえば、足元すら満足に見えない。
 これはかなり不利かもしれない。
 バトルとは単純な戦力差や相性の問題だけで決まるものではないのだ。
 しかし僕の焦りなど香草さんには無用のものだったようだ。
「ふん、それがどうしたって言うのよ」
 彼女はそう言って蔦を伸ばすと、横薙ぎの一線を放った。
 するとすぐにくぐもった低いうめき声が聞こえてきた。
 見事ヒットしたらしい。
 確かに横一線の攻撃を放てば、たとえ見えなくても当たる。
 しかし分かっていても容易に出来るものではない。
 優れた威力と射程を併せ持っている彼女だからこそなせる技だ。
「ありがとう香草さん。助かったよ」
 僕が彼女にお礼を言った瞬間だった。
 上空から何かが飛来し、僕の頬を掠めた。
 先ほどまでの場所にいたなら、少なくとも怪我くらいは負っていたに違いない。
「な、何だ?」
「荷物を置いていきなさいー」
 今度は頭上から声が響いてきた。
 おそらくズバットだ。
 ズバットは聴覚が異常に発達しており、また、超音波を発することで無明の闇の中でも地理を正確に把握することが出来る。
 これも洞窟に多いポケモンだ。
 一難さってまた一難とはこのことか。
 この洞窟のポケモンはどうやら洞窟を通過するトレーナーや通行人に追いはぎをして生活しているらしい。
 毎年一定数の人通りが確保されているこの洞窟ならではの生活スタイルだ。
 そんなことが分かったからと言って、おとなしく荷物を持っていかれるわけにもいかない。
 しかし今度の敵は空を飛ぶ。
 地上にいる敵と違って、先ほどのような方法では倒すことが出来ない。
「このっ!」
 香草さんは宙に向かって闇雲に蔦を振り回すが、空しく空を切るのみだ。
「荷物を置いていけば命だけは助けてあげますー」
 そんなベタベタな盗賊のような台詞が降って来た。
 しかしそれは困る。
 大きな町へ行けば簡単に揃うようなものだけど、あいにく揃えるほどの資金がない。
 ライトの類も用意しておくんだったなあ。


714 :ぽけもん 黒  変異と成長 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/03/30(月) 06:53:37 ID:dKqraO07
 どうして僕のチョイスはこう微妙にずれていると言うか、痒いところに手が届かない仕様になっているのだろうか。
 ……ひとえに、逃げるための道具が多すぎることが原因だということは分かっている。
 しかし無いものはない。無い以上、すべきことは過去を後悔することではなく、あるものでどうにかするということだ。
 だから、僕は香草さんに頼む。
「香草さん、本当に悪いんだけど、フラッシュ、使ってくれないかな?」
 右手に眠り粉の入った袋、左手に煙玉を持ちながら。
 だって、こんなこと言ったら絶対香草さんは今宙に向けている蔦を僕に向けると思ったんだもん。
 咄嗟に相手を無力化するための装備だ。
 香草さんは僕の声が聞こえなかったかのように宙に蔦を振るっている。
 しかし表情がわずかに変化したから、聞こえてはいると思う。
 となるとこれは考えている間にズバットから攻撃されないための防御だ。
 しばらくの後、香草さんが口を開いた。
「それで、どうなるの?」
 どうなるの?
 その後どうするのか、なら分かるけど、どうなるのというのはどういう意味だろうか。
 よく分からないけど、香草さんがフラッシュを使った後の対応のことを聞いているのかな。
「大丈夫、後は僕に任せて」
 だから、そう返事した。
 香草さんは蔦を振り回すのをやめ、フラッシュを使った。
「ギャ!」
 光線に晒されると共にズバットが短い悲鳴を上げた。
 やっぱり僕に襲い掛かっていたのはズバットだったのか。
 ズバットは光に晒されると、戦うこともせずふらふらと逃げていった。
 光の当たらない洞窟でずっと生きてきたから、強い光というものに極端に弱いのかもしれない。
 本当は天井を照らし出し、ポポに飛んでもらって倒してもらう予定だったけど、まあ逃げてくれるならそれに越したことは無い。
「どうなったの?」
 香草さんが冷たい声で僕に問いかける。
「光にびっくりして逃げていったみたいだ」
「そう」
 香草さんの声は冷ややかだった。
 僕はそれに気おされたが、意を決して切り出した。
「あの、香草さん。フラッシュを止めないでもらえないかな?」
「……どうして?」
「今ので強い光がそれだけでポケモン避けになるって分かったし、やっぱり明るいほうが動きやすいしさ。……ダメかな」
 これはただのいい訳だ。
 こんなことを切り出した本当の理由は、彼女がどれくらい僕を嫌っているかが知りたかったからだ。
 もし本当に僕を嫌っているのならば、間違いなく断ることだろう。
 でも、もしも、契約解除なんて言ったのは一時的な感情だったとしたら。
 僕には、あの日以来香草さんがずっとおかしいようにみえる。
 だから、それにかけたかった。
 あれは本心からでた言葉ではなく、何か理由があってのことなのだと。
「私は何も見えないのよ。どうやって歩けっていうのよ」
 そういわれたから、僕は彼女の手をとった。
「これじゃ、ダメかな?」
 彼女の手は、ひんやりと冷たいのに、とても柔らかかった。
 僕の心臓が元気に跳ねている。
 少し大胆すぎるような気がする。事実は僕と彼女はほぼ絶交状態であるのに、それなのにこんなことをしてもいいものだろうか。
 彼女があまりにも眩しくて(物理的な意味で)、彼女の表情を伺えないのが怖い。
 しかし彼女は僕の不安に反して、僕の手を振りほどくことも、握りつぶすことも、蔦で僕をズタズタにすることもしなかった。
 ただ、穏やかに握り返してきた。
「しょうがないわね。特別に許可してあげるわ」
 その声が、思ったよりも冷たいものじゃなかったことに僕は安堵した。